特許第5846272号(P5846272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5846272医療用粘着剤、経皮吸収性粘着剤および経皮吸収性粘着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5846272
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】医療用粘着剤、経皮吸収性粘着剤および経皮吸収性粘着シート
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/34 20060101AFI20151224BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20151224BHJP
   A61L 15/00 20060101ALI20151224BHJP
   A61K 31/618 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   A61K47/34
   A61K9/70 401
   A61L15/00
   A61K31/618
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-187927(P2014-187927)
(22)【出願日】2014年9月16日
【審査請求日】2015年6月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直人
(72)【発明者】
【氏名】柏村 岳
(72)【発明者】
【氏名】石川 崇
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−298067(JP,A)
【文献】 特開平10−234840(JP,A)
【文献】 特開2008−143925(JP,A)
【文献】 特開2002−012844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多塩基酸単量体とポリアミン単量体とを重合してなるポリアミド(A)を含有する医療用粘着剤であって、
前記多塩基酸単量体ないしポリアミン単量体の少なくともいずれか一方が、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含有し、
前記単量体が、
(1)C10〜24の二重結合あるいは三重結合を1個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸からディールス−アルダー反応により誘導された化合物であり、
(2)カルボキシル基ないしアミノ基と炭素数5〜10の環状構造とが炭素数2〜25の脂肪族鎖を介して結合しており、
(3)炭素数5〜10の前記環状構造1つに対し、炭素数2〜25の鎖状のアルキル基を2つ以上有する、単量体である、
医療用粘着剤。
【請求項2】
ポリアミド(A)を構成する全単量体100mol%中に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を10〜100mol%含む請求項1記載の医療用粘着剤。
【請求項3】
前記炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体が、炭素数10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導されるダイマーを残基として含む単量体である、請求項1または2記載の医療用粘着剤。
【請求項4】
ポリアミド(A)のガラス転移温度が−50〜50℃である、請求項1〜3いずれか1項に記載の医療用粘着剤。
【請求項5】
ポリアミド(A)の重量平均分子量が3,000〜1,000,000である、請求項1〜4いずれか1項に記載の医療用粘着剤。
【請求項6】
経皮吸収性薬剤または経皮吸収促進剤の少なくともいずれか一方と、請求項1〜5いずれか1項に記載の医療用粘着剤とを含有する経皮吸収性粘着剤。
【請求項7】
シート状支持体と、請求項6記載の経皮吸収性粘着剤から形成される経皮吸収性粘着剤層とを有する、経皮吸収性粘着シート。
【請求項8】
下記(1)〜(3)の条件を満たす炭素数20〜60の多塩基酸およびその他の多塩基酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の多塩基酸単量体と、
下記(4)〜(6)の条件を満たす炭素数20〜60のポリアミンおよびその他のポリアミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリアミン単量体とを、
前記多塩基酸単量体ないしポリアミン単量体の少なくともいずれか一方が、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含有する条件下に重合することを特徴とする、
炭素数20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)を含有する医療用粘着剤の製造方法。
(1)C10〜24の二重結合あるいは三重結合を1個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸からディールス−アルダー反応により誘導された多塩基酸であって
(2)カルボキシル基と炭素数5〜10の環状構造とが炭素数2〜25の脂肪族鎖を介して結合しており、
(3)炭素数5〜10の前記環状構造1つに対し、炭素数2〜25の鎖状のアルキル基を2つ以上有する
(4)C10〜24の二重結合あるいは三重結合を1個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸からディールス−アルダー反応により誘導された多塩基酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したポリアミンあって、
(5)アミノ基と炭素数5〜10の環状構造とが炭素数2〜25の脂肪族鎖を介して結合しており、
(6)炭素数5〜10の前記環状構造1つに対し、炭素数2〜25の鎖状のアルキル基を2つ以上有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用粘着剤、および該医療用粘着剤を用いた経皮吸収性粘着剤、ならびに該経皮吸収性粘着剤を用いた経皮吸収性粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、皮膚を通して経皮吸収性薬剤を皮膚から生体内に投与するための経皮吸収性製剤として、膏体や、粘着剤を用いたパップ剤やテープ製剤などの経皮吸収型の外用貼付剤が開発されている。そのなかでも、投与作業が比較的容易で投与量を制御できることから、粘着剤中に経皮吸収性薬剤を含有させた経皮吸収性粘着シートが注目されている。
【0003】
このような経皮吸収性粘着シートは、経皮吸収性薬剤を含有する粘着剤層を皮膚面に貼付して使用されるため、皮膚面への接着性(密着性)、皮膚面への追従性(柔軟性)、粘着剤層中の薬剤安定性、粘着剤層中からの薬剤放出性、貼付時の蒸れがなく、かぶれにくく、経皮吸収性粘着シートを剥離する際、皮膚へ粘着剤層が残らず、角質を剥離しないことなど、様々な特性が要求されている。
【0004】
このような要求に応えるため、医療用粘着剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリアミド系粘着剤の利用が提案されている。
例えば、ゴム系粘着剤として、特許文献1にはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の利用が、特許文献2にはABA型ブロック共重合体の利用が、特許文献3には流動性の異なる2種の合成ゴムの利用が、それぞれ開示されている。
また、アクリル系粘着剤としては、特許文献4〜8に開示されるように種々のものが提案されている。
さらにシリコーン系粘着剤としては、シリコーン樹脂やオルガノシロキサン系ポリマーの利用が特許文献9〜11に開示されている。
また、特許文献12、13は、ポリエーテルエステルアミド系粘着剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−17346号公報
【特許文献2】特開2004−115774号公報
【特許文献3】特開平5−140517号公報
【特許文献4】特開平3−220120号公報
【特許文献5】特開平6−319793号公報
【特許文献6】特開2011−182847号公報
【特許文献7】特開平11−269439号公報
【特許文献8】特開2006−213603号公報
【特許文献9】特開平5−194201号公報
【特許文献10】特開2005−314618号公報
【特許文献11】特開2009−273674号公報
【特許文献12】特開平10−234840号公報
【特許文献13】特開平10−298067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に開示されるようなゴム系粘着剤は、配合許容範囲が広いため物性制御がしやすくなる一方で、多くの化合物の配合を必要とするため、これら成分による皮膚刺激が現れる危険性があった。
特許文献4〜8に開示されるような連鎖重合によって得られるアクリル系粘着剤は、未反応モノマーや重合禁止剤が残存する恐れがあり、皮膚刺激性や薬物の粘着剤層における含有量を低下させたり、着色等の安定性に影響を与えたりする問題があった。重合時間を長くし未反応モノマーを減少させたり、未反応モノマーを除去して残存モノマーの量を減少したりするとコストが高くなったりするという課題もあった。
特許文献9〜11に開示されるようなシリコーン系粘着剤は、皮膚に対する剥離時の刺激や不快感が少ないものの、シート状支持体との密着性に欠ける。そのため、皮膚から経皮吸収性粘着シートを剥離する際に、粘着剤層とシート状支持体との界面で剥離が生じ、皮膚に粘着剤層が残るという問題があった。また、薬剤の溶解性が低く、薬剤組成の選択幅が狭いという欠点があった。
特許文献12、13に開示される粘着剤は、骨格中に、柔軟なポリオキシアルキレンセグメント、疎水性で結晶性のポリエステルセグメント、水素結合による架橋点として働くアミド結合及び粘着性付与部位としてのアルキル基グラフト鎖を導入したポリエーテルエステルアミド共重合体を含む。前記共重合体を含むことにより、動きの激しい部位に対しても十分な粘着性を発現できる旨、特許文献12、13に開示される。
しかしながら、特許文献12、13に開示される粘着剤は、経皮吸収促進剤の保持力が十分でないという欠点があった。
【0007】
本発明は、経皮吸収促進剤を保持する性能、皮膚への粘着性および経皮吸収性薬剤の放出性能に優れると共に、皮膚に対し低刺激性で、皮膚から剥がす際粘着剤が皮膚に残らない、経皮吸収性粘着シートを形成し得る医療用粘着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意検討の結果、特定の炭素数20〜60の炭化水素基を有するポリアミドが前記問題を解決するものであることを見出し、本発明を完成されるに至った。
すなわち本発明は、多塩基酸単量体とポリアミン単量体とを重合してなるポリアミド(A)であって、前記多塩基酸単量体ないしポリアミン単量体の少なくともいずれか一方が、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含有する、ポリアミド(A)を含有する医療用粘着剤に関する。
前記ポリアミド(A)は、全単量体100mol%中に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を10〜100mol%含む単量体から重合されることが好ましい。
前記炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体は、炭素数10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導されるダイマーを残基として含む単量体であることが好ましい。
前記ポリアミド(A)は、のガラス転移温度が−50〜50℃であることが好ましく、重量平均分子量が3,000〜1,000,000であることが好ましい。
【0009】
本発明は、経皮吸収性薬剤または経皮吸収促進剤の少なくともいずれか一方と、前記の医療用粘着剤とを含有する経皮吸収性粘着剤に関する。
【0010】
さらに本発明は、シート状支持体と、前記の経皮吸収性粘着剤から形成される経皮吸収性粘着剤層とを有する、経皮吸収性粘着シートに関する。
【0011】
また、本発明は、炭素数20〜60の多塩基酸およびその他の多塩基酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の多塩基酸単量体と、
炭素数20〜60のポリアミンおよびその他のポリアミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリアミン単量体とを重合することを特徴とする、
炭素数20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)を含有する医療用粘着剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、皮膚に貼り付ける前の状態において経皮吸収促進剤を保持する性能に優れ、皮膚に対し低刺激性で、皮膚への粘着性におよび経皮吸収性薬剤の放出性能に優れ、皮膚から剥がす際粘着剤が皮膚に残らない、経皮吸収性粘着シートを提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<炭素数20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)>>
本発明のポリアミド(A)は、多塩基酸単量体とポリアミン単量体とを重合してなるものであり、炭素数20〜60の炭化水素基を含有する。
なお、以降の説明において、「炭素数20〜60の炭化水素基」を「C20〜60の炭化水素基」とも表記する。また、炭素数20〜60の炭化水素基とは、単量体の重合に寄与する官能基以外の残基の全部または一部に含まれる炭素数20〜60の炭化水素基をいい、炭素・水素以外の元素が含まれない連続した構造の炭素数をカウントする。より好ましくは、単量体の重合に寄与する官能基以外の残基の全部が炭素数20〜60の炭化水素基であることが好ましい。すなわち、得られるポリアミドに対して主鎖および当該主鎖に直結する側鎖を含めた連続する炭化水素基の炭素の総数をいい、脂肪族(脂環式を含む)の他、芳香族もカウント対象とする
【0014】
本発明のポリアミド(A)を用いて経皮吸収性粘着シートを形成することにより、経皮吸収性粘着シートにおいて非常に重要となる物性、例えば、経皮吸収促進剤を保持する性能、皮膚に対する低刺激性、皮膚への粘着性および経皮吸収性薬剤の放出性能、剥離性をバランスよく改善することができる。これらを実現できる理由を以下に説明する。
【0015】
まず、C20〜60の炭化水素基特有の柔軟性により、ポリアミドのガラス転移温度を下げることができるため、皮膚面への粘着性を向上できる。
第二に、C20〜60の炭化水素基の導入により、凝集力の高いアミド結合の濃度を相対的に低くできるため、粘着剤を剥離する際の皮膚への糊残りを抑えることができる。
そして第三に、C20〜60の導入により、ポリアミド中のアミド結合が密に存在する部分と疎に存在する部分とに分かれて存在するため、経皮吸収促進剤を安定して保持することができ、その結果、粘着剤層中からの経皮吸収性薬剤放出性を著しく改善することができるのである。
【0016】
仮に、C20〜60の炭化水素基を含まないポリアミドを用いた場合、アミド結合濃度が高くなりすぎてしまうので、シート状支持体に塗布するためには、粘着付与剤や経皮吸収促進剤等の添加物を多く加え、アミド結合濃度を希釈し、塗工性を改良する必要がある。しかし、その結果、多量に加えたこれら成分が粘着剤層からブリードアウトする懸念が生じる。
【0017】
同様に、ポリアミドの原料として、C20〜60の炭化水素基を用いずに、特許文献12、13に記載されたポリオキシアルキレングリコールを有する多塩基酸化合物やポリアミン化合物を用いた場合、ポリオキシアルキレン鎖が有する柔軟性が粘着剤の接着力を良好に発現するものの、親水性が強くなりすぎるため、溶解する粘着付与剤や薬剤、経皮吸収促進剤の種類を限定してしまい、医療用粘着剤として用いた場合の配合許容範囲が狭くなり、物性制御が難しくなる。
【0018】
これに対し、C20〜60の炭化水素基を含有する本発明のポリアミドは、疎水性のソフトセグメントをポリアミドに導入することで極性の高いアミド結合とのバランスを制御することが可能となり、皮膚面への接着性と各種添加剤への溶解力という二律背反になりやすい物性を両立することができるのである。
【0019】
本発明のポリアミド(A)には以下のような態様を含む。
(i)炭素数20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)
(ii)前記ポリアミド(A−1)と、炭素数20〜60の炭化水素基を有しないポリアミド(a-2)とを混合したポリアミド(A-2)。
(iii)前記ポリアミド(A−1)のうち末端にカルボン酸を有するものに、さらにポリオール化合物を反応させてなる、C20〜60の炭化水素基とエステル結合とを有するポリアミドエステル(A−3)。
(iv)前記ポリアミド(A−1)のうち末端にカルボン酸を有するものに、さらにポリエポキシ化合物を反応させてなるポリアミドエステル(A−4)。
(v)前記ポリアミドエステル(A−4)の側鎖二級水酸基に、多塩基酸無水物を反応させてなるポリアミドエステル(A−5)。
汎用性溶剤への溶解性及び生産性の観点からは、ポリアミド(A−1)が好ましい。
【0020】
<<炭素数20〜60の炭化水素基を含むポリアミド(A−1)>>
まず、本発明のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)を得るための必須成分である、C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸およびポリアミンについて説明する。
【0021】
[C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸]
本発明で用いられるC20〜60の炭化水素基を含む多塩基酸としては、好適な例として、C10〜24の二重結合あるいは三重結合を1個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸から誘導された、C5〜10の環状構造を有する多塩基酸化合物を挙げることができる。誘導の一例としては、ディールス−アルダー反応が挙げられる。例えば、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸およびこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス−アルダー反応させて得た二量体化脂肪酸(ダイマー酸)を含む多塩基酸が好適に用いられる。
環状構造は1つでも2つでもよく、2つの場合、2つの環が独立していてもよいし、連続していてもよい。環状構造としては、飽和の脂環構造、不飽和の脂環構造、芳香環が挙げられる。カルボキシル基は環状構造に直接結合することもできるが、溶解性向上、柔軟性向上の観点から、カルボキシル基は脂肪族鎖を介して環状構造と結合していることが好ましい。カルボキシル基と環状構造との間の炭素数は2〜25であることが好ましい。
また、C20〜60の炭化水素基を含む多塩基酸は、溶解性向上、柔軟性向上の観点から、環状構造以外の部分として自由度および疎水性の高い鎖状のアルキル基を有することが好ましい。アルキル基は1つの環状構造に対し2つ以上であることが好ましい。アルキル基の炭素数は2〜25であることが好ましい。
【0022】
C20〜60の炭化水素基を含む多塩基酸は、通常前記のダイマー酸(二量体化脂肪酸)を主成分として含み、ダイマー酸の他に、原料の脂肪酸や三量体化以上の脂肪酸の組成物として得られるものである。中でも、C20〜60の炭化水素基を含む単量体100質量%中に、一塩基性不飽和脂肪酸から誘導されるダイマーを残基として含む単量体の含有量が70質量%以上、好ましくは95質量%以上とすることが好ましい。また、ダイマーに対して水素添加(水添反応)して不飽和度を下げたものが、耐酸化性(特に高温域における着色)や合成時のゲル化抑制の観点から特に好適に用いられる。C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸としては、C10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導されるダイマーを残基として含む単量体(多塩基酸)を用いることが好ましい。
さらにC20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸の一部として、C10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導される、トリカルボン酸であるトリマーを残基として含む単量体を用いることが好ましい。
【0023】
前記C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸は公知の反応によって得ることができるが、市販品を用いることもできる。市販品の例としては例えば、クローダジャパン社製の「プリポール1004」、「プリポール1006」、「プリポール1009」、「プリポール1013」、「プリポール1015」、「プリポール1017」、「プリポール1022」、「プリポール1025」、「プリポール1040」や、BASFジャパン社製の「エンポール1008」、「エンポール1012」、「エンポール1016」、「エンポール1026」、「エンポール1028」、「エンポール1043」、「エンポール1061」、「エンポール1062」などが挙げられる。これらの多塩基酸は単独若しくは併用して用いることができる。なかでもC36の「プリポール1009」やC44の「プリポール1004」は、皮膚への接着性に優れるポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。また、三量体であるトリカルボン酸成分を約75質量%含有する「プリポール1040」を用いるとポリアミドの凝集力を向上することができ、粘着剤を剥離する際の皮膚への糊残りを改善できる点から好適に用いることができる。
なお、後述の「その他の多塩基酸化合物」の1つとして例示する3官能以上の単量体を3官能の多塩基酸化合物として利用することによっても凝集力を向上できる。しかし、後述の3官能以上の単量体は比較的低分子量であるのに対し、前記の三量体であるトリカルボン酸成分は相対的に大きな分子量なので、アミド結合の濃度を効率的に低下できる点でより好ましい。
【0024】
[C20〜60の炭化水素基を有するポリアミン]
C20〜60の炭化水素基を含むポリアミンとしては、前述のC20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸のカルボシキル基をアミノ基に転化したものが挙げられ、市販品の例としては例えば、クローダジャパン社製の「プリアミン1071」、「プリアミン1073」、「プリアミン1074」、「プリアミン1075」や、BASFジャパン社製の「バーサミン551」などが挙げられる。これらのポリアミン化合物は単独または併用して用いることができる。なかでも三量体であるトリアミン成分を約20〜25質量%含有する「プリアミン1071」を用いるとポリアミドの凝集力を向上することができ、粘着剤を剥離する際の皮膚への糊残りを改善できる点から好適に用いることができる。
なお、ポリアミドの生産安定性の点から、ポリアミドの形成に供する全単量体100質量%中、三量体であるトリアミンおよび前述の三量体であるトリカルボン酸は合計で0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドは、共重合成分として、C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸またはポリアミン以外の多塩基酸化合物またはポリアミン化合物を適宜使用しても良い。これらの化合物は、皮膚面への接着力、経皮吸収促進剤の保持力を目的に応じて調整させたい場合に、適宜用いることができる。
【0026】
具体的には、C1〜19の炭化水素基を有する多塩基酸化合物及びポリアミン化合物を使用した場合、ハードセグメントに相当するアミド結合濃度が高い部位を導入することができ、その結果、C20〜60の炭化水素基に由来する皮膚への高い粘着力に悪影響を与えずに、温度変化が大きい環境に長時間放置した後の粘着力や経皮吸収促進剤に対する溶解性を向上することができる。
【0027】
[その他の多塩基酸化合物]
C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸以外の多塩基酸化合物のうち、
二塩基酸化合物としては、
フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’-ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸などの芳香族多塩基酸、
シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジオン酸、ジグリコール酸などの脂肪族多塩基酸、
1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族多塩基酸、などが挙げられる。
三官能以上の多塩基酸化合物としては、トリメシン酸、トリメリット酸、水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0028】
上記で記載した、多塩基酸化合物は、遊離多塩基酸であっても、エステル誘導体であっても、酸クロライド誘導体であってもよい。合成の際に、遊離多塩基酸の場合は脱水反応、エステル誘導体の場合は対応する脱アルコール反応、酸クロライド誘導体の場合は対応する脱塩酸反応となるという違いが生じるだけである。
【0029】
[その他のアミン化合物]
C20〜60の炭化水素基を有するポリアミン以外のポリアミン化合物のうち、
二官能のアミン化合物としては、
1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、3,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノー1,2−ジフェニルエタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4, 4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノー3,3’―ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ポリアミン、
エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、
イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’―ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジンなどの脂環族ポリアミン、
などが挙げられる。
三官能以上のポリアミン化合物としては、
1,2,4−トリアミノベンゼン、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、などが挙げられる。
【0030】
これらの[その他の多塩基酸化合物]や[その他のアミン化合物]は、単独で併用してもよいし、複数を併用して用いてもよい。なかでも、アジピン酸やセバシン酸、1,4−ブタンジアミンや1,6−ヘキサンジアミンは、柔軟性を保持したまま、ポリアミド中に結晶部位を導入することが可能となり、温度変化が大きい環境に長時間放置した後の接着力や経皮吸収促進剤に対する溶解性に優れるポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。
さらに、三官能以上のものを使用することにより、ポリアミドに分岐構造を導入することが可能となり、凝集力を向上することができる。
【0031】
また、一官能のものを使用することにより、ポリアミドの末端官能基となりうるカルボキシル基やアミノ基を減らすことができ、得られるポリアミドの分子量を制御したり、後で添加する化合物との反応を制御することができる。
一塩基酸化合物としては、安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2-エチルヘキサン酸などが挙げられる。
一官能のアミン化合物としては、アニリン、4−アミノフェノール、2−エチルヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0032】
なお、共重合成分として、[その他の多塩基酸化合物]や[その他のアミン化合物]を使用して得られるポリアミド(A−1)は、C20〜60の炭化水素基を有する成分と有さない成分とがランダムに重合してなるものであってもよいし、ブロック重合体であってもよい。
即ち、複数種の多塩基酸化合物の混合物と1種のポリアミン化合物を重合しても良いし、複数種の多塩基酸化合物の混合物と複数種のポリアミン化合物の混合物と重合しても良いし、1種の多塩基酸化合物と複数種のポリアミン化合物の混合物とを重合しても良いし、1種の多塩基酸化合物と1種のポリアミン化合物とを重合した後、末端に残る官能基に応じ、さらに他の多塩基酸化合物や他のポリアミン化合物を重合してもよい。
【0033】
<<ポリアミド(A−2)>>
ポリアミド(A−2)は、前記C20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)と、C20〜60の炭化水素基を有しないポリアミド(a-2)とを混合してなるポリアミドであり、C20〜60の炭化水素基を有しないポリアミド(a-2)は、前記、[その他の多塩基酸化合物]と[その他のアミン化合物]を反応して得ることができる。
なお、本発明において、「混合」「混合物」、とは、以下の場合を含む意である。即ち、炭素数20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)と炭素数20〜60の炭化水素基を全く有さないポリアミド(a−2)から予め混合物を得た後、後述する経皮吸収性薬剤を配合する場合や、前記ポリアミド(A−1)と前記ポリアミド(a−2)と経皮吸収性薬剤とを配合する場合や、前記ポリアミド(A−1)と経皮吸収性薬剤とを配合した後、前記ポリアミド(a−2)を配合する場合や、その逆を含む意である。
【0034】
<<ポリアミドエステル(A−3)>>
本発明ではC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)の一種として、前記ポリアミド(A−1)のうち末端にカルボン酸を有するものに、さらに下記ポリオール化合物を反応させてなる、C20〜60の炭化水素基とエステル結合とを有するポリアミドエステル(A−3)を用いることができる。
【0035】
[ポリオール化合物]
本発明で用いるポリオール化合物としては、2個以上の水酸基を有した化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、水素添加ビスフェノールA、スピログリコール等の脂肪族あるいは脂環族ジオール類、
1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−,およびp−ジヒドロキシベンゼン、1,2−インダンジオール、1,3−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,7−ナフタレンジオール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9’−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等の芳香族ジオール類等を挙げることができる。
その他、リン原子含有ジオール、硫黄原子含有ジオール、臭素原子含有ジオールなどが挙げられる。
【0036】
また、その構造中に重合度2以上の繰り返し単位を有するものも使用することができ、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、およびポリシロキサンポリオール類などが挙げられる。
【0037】
<<ポリアミドエステル(A−4)>>
さらに、本発明ではC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)の一種として、前記ポリアミド(A−1)のうち末端にカルボン酸を有するものに、さらにポリエポキシ化合物を反応させてなるポリアミドエステル(A−4)を用いることができる。
【0038】
[ポリエポキシ化合物]
本発明で用いるポリエポキシ化合物としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有した化合物であればよく、特に限定されるものではない。
具体的には、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン等の芳香族エポキシ化合物
上記記載の芳香族エポキシ化合物の水素添加物、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。
【0039】
<<ポリアミドエステル(A−5)>>
さらに、本発明ではC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)の一種として、前記ポリアミドエステル(A−4)の側鎖二級水酸基に、多塩基酸無水物を反応させてなるポリアミドエステル(A−5)を用いることができる。
【0040】
<多塩基酸無水物>
本発明で用いる多塩基酸無水物は、酸無水物基を分子内に1個以上含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。例えば、
テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸等の脂環式二塩基酸無水物、
水添トリメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物等の三塩基酸以上の脂環式多塩基酸無水物、
無水フタル酸等の芳香族二塩基酸無水物、
無水トリメリット酸等の三塩基酸以上の芳香族多塩基酸無水物、
無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、等の脂肪族二塩基酸無水物等を挙げることができる。
【0041】
本発明において、ポリアミドエステル(A−3)、(A−4)および(A−5)は、エステル結合の導入により、エステル結合を有しない場合よりも汎用溶剤への溶解性を向上することができるという利点がある。前記ポリアミドエステル(A−3)、(A−4)および(A−5)中のアミド結合とエステル結合の比率は、アミド結合/エステル結合=0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、1以上であることがさらに好ましい。
アミド結合/エステル結合を0.5以上とすることにより、アミド結合の優れた凝集力を活かしつつ、汎用性溶剤への溶解性を向上することができる。汎用性溶剤への溶解性よりも、アミド結合の特徴である高い極性及び凝集力が重用しされる場合は、アミド結合を多くすることが好ましい。
ポリアミドエステル(A−3)、(A−4)および(A−5)における理論上のアミド結合/エステル結合は以下のようにして求めることができる。
ポリアミド重合に供した多塩基酸化合物中のカルボキシル基のモル数とポリアミン化合物中のアミノ基のモル数の内、少ない方の官能基(即ち、アミノ基)のモル数をアミド結合のモル数とする。一方、ポリエステル重合に供したポリアミド中のカルボキシル基のモル数とポリオール化合物中のアルコール性水酸基のモル数あるいはポリエポキシ化合物中のエポキシ基のモル数の内、少ない方の官能基をエステル結合のモル数とする。そして、アミド結合のモル数をエステル結合のモル数を除することで、アミド結合/エステル結合のモル比が計算できる。
なお、カルボキシル基、アミノ基、アルコール性水酸基の各官能基のモル数は、それぞれが含まれる各単量体のモル数にそれぞれ単量体中に含まれる官能基数を掛けることで得られる。また、各単量体のモル数は、重合に供した単量体の質量と、その単量体の分子量とから求めることができる。
【0042】
本発明のポリアミド(A)は、形成に用いられる全化合物、即ち、多塩基酸単量体(m1)、ポリアミン単量体(m2)、および必要に応じて用いられる一塩基酸や一官能のアミン化合物、ポリオール化合物、ポリエポキシ化合物、多塩基酸無水物の合計100mol中に、C20〜60の炭化水素基を含む化合物を10〜100mol%含むことが好ましく、40〜100mol%含むことがより好ましい。
【0043】
C20〜60の炭化水素基を含む化合物のモル数の計算方法について説明する。まず、C20〜60の炭化水素基を含む化合物の分子量(M)を下記式により求める。
M=(56.11×F×1000)/E
F:C20〜60炭化水素基を含む化合物の官能基数
E:C20〜60炭化水素基を含む化合物の酸価あるいはアミン価(mgKOH/g)
次いで、重合に供したC20〜60の炭化水素基を含む化合物の質量を、前記分子量(M)で除することによって、重合に供したC20〜60炭化水素基を含む化合物のモル数を求める。
同様にして重合に供した各単量体のモル数を求め、それらを合計し重合に供した全単量体のモル数を求める。そして、C20〜60炭化水素基を含む化合物のモル数を全単量体のモル数で除することによって、C20〜60炭化水素基を含む化合物の占める割合(mol%)を求めることができる。
すなわち、C20〜60の炭化水素基を有する二塩基酸化合物と、C20〜60の炭化水素基を有する二官能のアミン化合物のみを使用した場合、ポリアミド(A)中のC20〜60の炭化水素基を含む化合物は100mol%となる。
【0044】
続いて、本発明のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドのスペック(重量平均分子量、ガラス転移温度)について説明する。
【0045】
<重量平均分子量>
本発明のC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)のうち、ポリアミド(A−1)、(A−3)、(A−4)、(A−5)の重量平均分子量は、取り扱い性および皮膚への粘着性の点から、3,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは、5,000〜500,000である。
C20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)のうち、ポリアミド(a−2)の重量平均分子量は、汎用性溶媒への溶解性の点から500〜300,000であることが好ましく、より好ましくは、1,000〜200,000であることが好ましい。
【0046】
重量平均分子量の調整は、例えばポリアミド(A−1)、(a―2)の場合は、多塩基酸化合物の総モル数とポリアミン化合物の総モル数の比率を適宜変更することによって可能となる。たとえば、多塩基酸化合物の総モル数とポリアミン化合物の総モル数の比率を1に近くなるように設計することで、ポリアミドの高分子量化が可能となり、樹脂の絡み合いによる高い凝集力を付与することができる。
【0047】
同様に、ポリアミドエステル(A−3)の場合は、多塩基酸化合物とポリアミン化合物との反応で得られる末端カルボン酸ポリアミドの総モル数と、ポリオール化合物の総モル数の比率を1に近くなるように設計することで高分子量化が可能となる。
また、ポリアミドエステル(A−4)および(A−5)の場合は、多塩基酸化合物とポリアミン化合物との反応で得られる末端カルボン酸ポリアミドの総モル数と、ポリエポキシ化合物の総モル数の比率を1に近くなるように設計することで高分子量化が可能となる。
【0048】
<ポリアミド(A)のガラス転移温度>
本発明のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドのガラス転移温度は、−50℃〜50℃であることが好ましく、より好ましくは、−40℃〜40℃である。炭素数20〜60の炭化水素基を有するポリアミドのガラス転移温度を−50℃〜50℃の範囲に調整することで、皮膚への接着力を付与することができ、さらには基材に対する良好な埋め込み性が可能となり、医療用粘着剤としての加工性を向上することができる。
【0049】
ガラス転移温度の調整は、C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸化合物またはポリアミン化合物の比率を適宜設定することによって可能となる。例えば、C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸化合物またはポリアミン化合物の配合比率を高くすることにより、C20〜60の炭化水素基特有の柔軟性を付与することができるため、ガラス転移温度は−50℃に近い範囲で調整することができる。
【0050】
なお、C20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A)のうち、混合物の場合は、混合物のガラス転移温度をC20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A)のガラス転移温度とする。
【0051】
続いて、本発明のC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミドの合成方法について説明する。
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)の合成>
本発明に用いるC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドの重合条件は特に限定されるものではなく、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、およびこれらの方法を組み合わせた公知の条件を利用することができる。一般に工業的には、触媒存在下あるいは非存在下において150〜300℃で1〜24時間程度の反応を行う。脱水あるいは脱アルコール反応を促進し、高温による着色、分解反応を避けるために、180〜270℃で大気圧以下の減圧下で反応を行うのが好ましい。
【0052】
C20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)を合成する場合には、例えば、窒素充填したフラスコに、C20〜60の炭化水素基を有する多塩基酸化合物またはC20〜60の炭化水素基を有するポリアミン化合物、イオン交換水を所定量仕込み、20〜100℃で加熱・撹拌することで均一溶解ないし分散する。その後、前記イオン交換水および反応により生ずる水を除去しながら230℃まで徐々に昇温し、230℃に達したら15mmHg程度まで減圧し、1時間程度保持することで炭素数20〜48の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)を得ることができる。
なお、多塩基酸化合物とポリアミン化合物とを混合すると塩を形成し固まり易くなる。イオン交換水の存在下に両者を混合すると形成された塩が、イオン交換水に溶解ないし分散するので、安全性等の点からイオン交換水を利用することが好ましい。
【0053】
<C20〜60の炭化水素基を含まないポリアミド(a−2)の合成>
本発明に用いるC20〜60の炭化水素基を有しないポリアミド(a−2)の重合条件は、使用する原料が異なることを除いて、前記C20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)の重合条件と同じである。
【0054】
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−3)の合成>
C20〜48の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−3)を合成する場合には、例えば、多塩基酸化合物の総モル比をポリアミン化合物の総モル数より多い割合で反応させて得られる末端カルボン酸のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)を合成した後、ポリオール化合物及び触媒を添加し、再び230℃まで徐々に昇温し、その後、1〜2mmHgまで減圧し3時間保持することでC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−3)を得ることができる。
【0055】
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−4)の合成>
C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−4)を合成する場合には、例えば、多塩基酸化合物の総モル比をポリアミン化合物の総モル数より多い割合で反応させて得られる末端カルボン酸のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)を合成した後、ポリエポキシ化合物及び触媒を添加し、再び120℃まで徐々に昇温し、8時間保持することでC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−4)を得ることができる。
【0056】
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−5)の合成>
C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−5)を合成する場合には、前述の方法でポリアミドエステル(A−4)を合成した後、多塩基酸無水物を添加し、再び80℃まで徐々に昇温し、8時間保持することでC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−5)を得ることができる。
【0057】
使用され得る触媒の具体例としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物や亜リン酸エステル、チタン系触媒、スズ系触媒、ジルコニウム系触媒などが挙げられる。これらの触媒がC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)中に含有されていても本発明を実施する上で差し支えない。
また、副生成物は、使用した触媒の分解物や変性物、環状オリゴマー等であるが、C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドに含有されていても差し支えない。
【0058】
<C20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)の有機溶剤可溶性>
本発明のC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)は、汎用性の有機溶剤に可溶である。可溶であるとは、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤等の汎用の溶剤の混合溶剤95質量部に対して、25℃において、5質量部以上溶解することをいう。特にトルエン/イソプロパノール=50/50(質量比)の混合溶剤95質量部に25℃で5質量部以上溶解することが好ましい。
炭化水素系溶剤としてはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン等が挙げられる。アルコール系溶剤としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等が挙げられる。ケトン系溶剤としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶剤としては酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
本発明において、これらの溶剤は、1種または2種以上を併用して用いることができる。又、反応過程で脱溶剤を行ったり、脱溶剤後、新たに別の溶剤を添加したりしても良い。
【0059】
例えば、医療用粘着剤などの塗加工製品を最終用途とする場合、ドライフィルム作製工程において、溶剤をすばやく乾燥させる必要があるため、低沸点の溶剤を用いることが好ましい。これら溶剤に溶解させたのち、基板または離型剤の片面に塗布し、その後、乾燥処理により溶媒を除去して、貼付剤用粘着剤からなる粘着剤層とすることができる。粘着剤層の厚みは、水蒸気透過性や皮膚追従性に影響しない範囲で適宜選択することができる。たとえば、用いる経皮吸収性薬剤にもよるが、通常20μm〜100μm、好ましくは30μm〜80μm程度とすることができる。
【0060】
本発明の医療用粘着剤は、目的を損なわない範囲でさらに、硬化剤、粘着付与剤、経皮吸収促進剤、経皮吸収性薬剤を添加することができる。本発明の医療用粘着剤は、上記のC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)および上記成分を混合することにより得ることができる。
【0061】
<硬化剤>
本発明において添加することができる硬化剤としては、例えば、アジリジン化合物、金属キレート化合物、エポキシ基含有化合物、イソシアネート化合物、ブロック化イソシアネート化合物、カルボジイミド基含有化合物等が挙げられる。
これらの硬化剤を配合させた場合、ポリアミド(A−1)、(A−2)の場合は末端のカルボキシル基あるいはアミノ基が硬化剤と反応し、ポリアミドエステル(A−3)の場合は末端のカルボキシル基あるいは水酸基が硬化剤と反応し、ポリアミドエステル(A−4)(A−5)の場合は末端のカルボキシル基あるいはエポキシ基、そして側鎖の水酸基またはカルボキシル基が硬化剤と反応する。
これらの硬化剤を配合することで、粘着剤組成物の弾性率や接着力の調整が可能となる。
特にアジリジン化合物や金属キレート化合物はカルボキシル基との反応性が高く、硬化後の残留化合物が少なく皮膚刺激性が少なくなるという点で好ましい。硬化剤の配合量は、その種類および極性、ポリアミドの官能基数等により異なるが、通常は医療用粘着剤の総重量に対して0.1重量%〜10重量%の範囲で用いられる。ポリアミドの官能基数よりも少ない範囲で配合することで、未反応の硬化剤が経皮的に体内に吸収される懸念をなくすことができる。
【0062】
<粘着付与剤>
本発明において添加することができる粘着付与剤としては、例えば、ロジン、水素添加ロジン、ロジンエステル、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂等が挙げられる。
これらの粘着付与剤を配合させた場合、タック、接着剤及び保持力の調整が容易となる。なかでも、ロジン系樹脂、水素添加石油樹脂は、本発明のC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)との相溶性の観点で好ましい。
また、これらは1種または2種以上を併用して用いることもできる。粘着付与剤の配合量は、その種類および極性等により異なるが、通常は医療用粘着剤の総重量に対して1重量%〜50重量%の範囲で用いられる。
【0063】
<経皮吸収促進剤>
本発明において添加することができる経皮吸収促進剤としては、皮膚透過性を向上させる化合物であればよく、さらに粘着剤層内での薬剤の溶解性や拡散性をよくする機能を有する化合物であればなおよい。具体的には、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン類、オリーブ油などの動植物油、流動パラフィン、ワックス等の炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル等の一価アルコール脂肪酸エステル、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルデカノール、グリセリンなどのアルコール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、脂肪酸グリセリンエステル、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、ポリブテン、ポリイソプレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の液状樹脂、レチノール、パルミチン酸レチノール、トコフェノール、酢酸トコフェノール等の油性ビタミンが挙げられる。
これらの経皮吸収促進剤を配合させた場合、医療用粘着剤層の粘度を調節することができる。経皮吸収促進剤の配合量は、その種類および極性、粘着剤の種類、極性および分子量などにより異なるが、通常は医療用粘着剤の総重量に対して1重量%〜50重量%の範囲で用いられる。
【0064】
<経皮吸収性薬剤>
本発明において添加することができる経皮吸収性薬剤としては、特に限定はなく、創傷治療用、局所投与用、または全身投与用等いずれの薬剤を添加しても良い。具体的には、消炎鎮痛剤、ステロイド系抗炎症剤、血管拡張剤、降圧利尿剤、麻酔剤、抗ヒスタミン剤、抗腫瘍剤、抗高血圧・不整脈用剤、抗うつ・抗不安剤、局所麻酔剤、ホルモン剤、喘息・鼻アレルギー治療剤、抗凝血剤、鎮痙剤、脂溶性ビタミンなどがあげられる。
薬剤の配合量は、薬剤の種類、貼付剤の使用目的により異なるが、医療用粘着剤の総重量に対して0.1重量%〜30重量%の範囲で通常は用いられる。
【0065】
さらに本発明の医療用粘着剤は、目的を損なわない範囲で任意成分としてさらに、増粘剤、酸化防止剤、保湿剤、pH調整剤等の添加剤も適宜使用することができる。特に、保湿剤を併用するのが好ましい。
【0066】
本発明の経皮吸収性粘着シートは、経皮吸収性薬剤または経皮吸収促進剤の少なくともいずれか一方と、上記のようにして得られた本発明のC20〜60の炭化水素基を含有するポリアミド(A)とを含有する経皮吸収性粘着剤から形成される粘着剤層を、シート状支持体上に設けたものである。
即ち、経皮吸収性粘着剤からなる粘着剤層を、シート状支持体上に直接あるいは間接に積層して得ることができる。たとえば、シート状支持体上に経皮吸収性粘着剤を塗布・乾燥する、あるいは、剥離性シート(ライナーともいう)上に経皮吸収性粘着剤を塗布・乾燥して形成した粘着剤層上に、シート状支持体をラミネートすることにより得ることができる。
【0067】
本発明に用いられるシート状支持体としては、通常医療用貼付剤に用いられる柔軟な基材を使用することができ、特に限定されない。具体的にはポリマーフィルム、織物・編物・不織布、または紙などを使用することができる。ポリマーフィルムとしては、ポリエステル、ポリオレフィン、またはセルロースエステル等のポリマーフィルムが挙げられる。織物・編物・不織布としては、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロースエステル、ポリウレタン、またはポリアミド等の織物・編物・不織布などを挙げることができる。これらのシート状支持体の厚みは、経皮吸収性粘着シートの種類にもよるが、通常50μm〜300μm、好ましくは、70μm〜200μmに設定され、離型材の場合、3μm 〜100μm 、好ましくは5μm〜50μmに設定される。
【0068】
シート状支持体のうち、不織布のように目が粗く多孔なものは、前述した有機溶媒に溶解したものを支持体に塗布する方法では、溶解物が抜け落ちる恐れがあり、また、抜け落ちないまでも内部にまで浸透することから溶解物を余分に消費することにもなり、前述したあらかじめ別の基材上に医療用粘着剤組成物を塗布・乾燥して形成した粘着剤層をラミネートする製造方法が好ましい。
【0069】
また、経皮吸収性粘着シートは、シート状支持体、粘着剤層のほかに、例えばライナーや表面保護層等、通常用いられる他の機能層を積層することができる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における、「部」および「%」は、「重量部」および「重量%」をそれぞれ表し、Mwは重量平均分子量、Tgはガラス転移温度を意味する。
【0071】
<酸価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。酸価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0072】
<アミン価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。これに、別途0.20gのMethyl Orangeを蒸溜水50mLに溶解した液と、0.28gのXylene Cyanol FFをメタノール50mLに溶解した液とを混合して調製した指示薬を2、3滴加え、30秒間保持する。その後、溶液が青灰色を呈するまで0.1Nアルコール性塩酸溶液で滴定する。アミン価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
アミン価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
但し、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性塩酸溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性塩酸溶液の力価
【0073】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「GPC-101」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「KF−805L」(昭和電工社製:GPCカラム:8mmID×300mmサイズ)を直列に2本接続して用い、試料濃度1wt%、流量1.0ml/min、圧力3.8MPa、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。データ解析はメーカー内蔵ソフトを使用して検量線および分子量、ピーク面積を算出し、保持時間17.9〜30.0分の範囲を分析対象として質量平均分子量を求めた。
【0074】
<ポリアミドのガラス転移温度の測定方法>
溶剤を乾燥除去したポリアミド(A)について、メトラー・トレド社製「DSC−1」を使用し、サンプル量約5mgをアルミニウム製標準容器に秤量し、温度変調振幅±1℃、温度変調周期60秒、昇温速度2℃/分の条件にて、−80〜200℃まで測定し、可逆成分の示差熱曲線からガラス転移温度を求めた。
【0075】
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)の合成>
[合成例1]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸としてプリポール1009を202.5g、ポリアミンとしてプリアミン1074を125.3g、イオン交換水を50g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分毎に10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させ、Mw5200、酸価38mgKOH/g、アミン価0.6mgKOH/g、Tg−35℃、のポリアミド(A−1)を得た。なお、反応に供した化合物中、C20〜60の炭化水素基を有する化合物は、100.0mol%であった。
【0076】
[合成例2〜10]
合成例1と同様の方法で、表1の組成および仕込み重量部に従って合成を行い、C20〜60の炭化水素基を有するポリアミド(A−1)を得た。その特性値を表1に示す。
【0077】
[合成例11]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸としてプリポール1009を115.69g、ポリアミンとしてプリアミン1074を114.04g、イオン交換水を50g仕込み、合成例1と同様の方法で反応させ、アミン価30.4mgKOH/gのポリアミド−aを得た。
別途、フラスコに、多塩基酸としてプリポール1009を173.54g、ポリアミン化合物としてブタンジアミンを22.46g、イオン交換水を50g仕込み、合成例1と同様の方法で反応させ、酸価26.0mgKOH/gのポリアミド−bを得た。
さらに、別途用意したフラスコに、ポリアミド−aを155.82g、ポリアミド−bを157.20g仕込み、合成例1と同様の方法で反応させ、Mw45000、酸価1.1mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、Tg−20℃、のポリアミド(A−1)を得た。なお、反応に供した化合物中、C20〜60の炭化水素基を有する化合物は、94.2mol%であった。
【0078】
[合成例12]
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−3)の合成>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸としてプリポール1009を95.4g、ドデカン二酸を38.0g、ポリアミンとしてプリアミン1074を136.3g、イオン交換水を50g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分毎に10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させた。内温が150℃まで低下したところに、さらにポリオール化合物としてPTMG650を49.4g、触媒としてテトラブチルオルソチタネートを0.08g添加し、再度230℃まで昇温し、約2kPaの真空下で、1時間保持し、さらに約1kPaの真空下で、2〜3時間反応させ、Mw28000、酸価1.9mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、Tg−31℃のC20〜48の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−3)を得た。なお、反応に供した化合物中、C20〜60の炭化水素基を有する化合物は、72.6mol%であった。
【0079】
[合成例13〜15]
合成例12と同様の方法で、表2の組成および仕込み重量部に従って合成を行い、C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−3)を得た。その特性値を表2に示す。
【0080】
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−4)の合成>
[合成例16]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸としてプリポール1009を179.3g、ポリアミンとしてプリアミン1074を111.0g、イオン交換水を50g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分毎に10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させた。内温が100℃まで低下したところに、さらにジエポキシ化合物としてjER825を33.1g、触媒としてトリフェニルホスフィンを3.2g添加し、120℃まで昇温し、8時間反応させ、Mw542000、酸価3.1mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、Tg−20℃のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−4)を得た。なお、反応に供した化合物中、C20〜60の炭化水素基を有する化合物は、89.8mol%であった。
【0081】
<C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−5)の合成>
[合成例17]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸としてプリポール1009を243.0g、ポリアミン化合物としてブタンジアミンを33.7g、イオン交換水を50g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分毎に10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させた。内温が100℃まで低下したところに、さらにジエポキシ化合物としてEX861を42.3g、触媒としてトリフェニルホスフィンを3.2g添加し、120℃まで昇温し、8時間反応させた。さらに内温が80℃まで低下したところに、多塩基酸無水物としてTHを5.7g添加し、再度80℃まで昇温し、8時間反応させ、Mw62200、酸価6.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、Tg−18℃のC20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−5)を得た。なお、反応に供した化合物中、C20〜60の炭化水素基を有する化合物は、74.8mol%であった。
【0082】
[合成例18〜19]
合成例17と同様の方法で、表2の組成および仕込み重量部に従って合成を行い、C20〜60の炭化水素基を有するポリアミドエステル(A−5)を得た。その特性値を表2に示す。
【0083】
[合成例20〜21]
多塩基酸およびポリアミンがC20〜60の炭化水素基を有しないこと以外は合成例1と同様の方法で、表3の組成および仕込み重量部に従って合成を行い、C20〜60の炭化水素基を有しないポリアミド(a−2)を得た。その特性値を表3に示す。
【0084】
[合成例22〜23]
合成例12と同様の方法で、表3の組成および仕込み重量部に従って合成を行った。合成例22、23は、C20〜60の炭化水素基を有しないポリアミドエステルである。その特性値を表3に示す。
【0085】
[合成例24]
合成例16と同様の方法で、表3の組成および仕込み重量部に従って合成を行った。合成例24は、C20〜60の炭化水素基を有しないポリアミドエステルである。その特性値を表3に示す。
【0086】
[合成例25]
合成例17と同様の方法で、表3の組成および仕込み重量部に従って合成を行った。合成例25は、C20〜60の炭化水素基を有しないポリアミドエステルである。その特性値を表3に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
表1〜表3中、記号は以下の通り。
プリポール1009:クローダジャパン社製、C36ダイマー酸、C6の環状構造を1つ有する化合物を含む(酸価:195mgKOH/g)
プリポール1004:クローダジャパン社製、C44ダイマー酸、C6の環状構造を1つ有する化合物を含む(酸価:164mgKOH/g)
プリアミン1074:クローダジャパン社製、C36ダイマージアミン、C6の環状構造を1つ有する化合物を含む(アミン価:210mgKOH/g)
プリアミン1071:クローダジャパン社製、C36ダイマージアミン(C6の環状構造を1つ有す)とC54トリマートリアミン(C6の環状構造を1つ有す)との80:20(質量比)の混合物を含む(アミン価:198mgKOH/g)
NBDA:ノルボルナンジアミン
D230:三井化学ファイン株式会社製、ポリオキシアルキレンジアミン、アミン価461.7[KOHmg/g]
D2000:三井化学ファイン株式会社製、ポリオキシアルキレンジアミン、アミン価56.7[KOHmg/g]
PTMG650:保土ヶ谷化学株式会社製、ポリテトラメチレングリコール、水酸基価169.6[KOHmg/g]
PEG1000:日油株式会社製、ポリエチレングリコール、水酸基価111.0[KOHmg/g]
プリポール2033:クローダジャパン株式会社製、ダイマージオール、水酸基価207.0[KOHmg/g]
jER825:三菱化学株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量176[g/mol]
EX861:ナガセケムテックス株式会社製、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量565[g/mol]
R−45EPT:ナガセケムテックス株式会社製、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、エポキシ当量1532[g/mol]
SA:新日本理化株式会社製、無水コハク酸
TH:新日本理化株式会社製、テトラヒドロ無水フタル酸
【0091】
[実施例1〜37]、[比較例1〜10]
表4〜6に示した組成で、ポリアミド、硬化剤、粘着付与剤を配合し、トルエン/IPA=1/1(重量比)の混合溶媒で固形分濃度が30%になるように溶解し、医療用粘着剤を調整し、後述する方法で粘着力、糊残り、皮膚刺激性、経皮吸収促進剤の保持力、薬剤放出性を評価した。
【0092】
[実施例38]
合成例2のポリアミド:70質量部と合成例20のポリアミド:30質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、医療用粘着剤を調整し、同様に評価した。
【0093】
[実施例39〜40]
合成例2のポリアミドと合成例20のポリアミド、合成例3のポリアミドと合成例21のポリアミドを表6に示す組成にて併用した以外は実施例38と同様にして、医療用粘着剤を調整し、同様に評価した。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
表4〜6において記号は以下の通り。
ケミタイトPZ:株式会社日本触媒製、多官能アジリジン化合物
ALCH:川研ファインケミカル株式会社製、Alキレート化合物
エステルガムH:荒川化学工業株式会社製、水素化ロジンエステル化合物
【0098】
<評価>
(1)粘着力
実施例及び比較例で作製した医療用粘着剤をポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターで乾燥塗膜30μになるように塗工し、100℃で2分乾燥した。次に剥離処理された別のポリエチレンテレフタレートフィルムを粘着剤層側に重ね、1kgのゴムローラーを一往復し、医療用粘着シートを作製した。
この粘着シートを幅25mm、長さ75mmに切断後、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを除去し、23℃、65%RHの環境下、5kgのゴムローラーを一往復し、ベークライト板に貼付し、20分静置させた後、同環境下、300mm/minの速度で180度方向に剥離し、その時の剥離力を測定した。
aa:15[N/25mm]<粘着強度
a :12[N/25mm]<粘着強度≦15[N/25mm]
b :8[N/25mm]<粘着強度≦12[N/25mm]
c :粘着強度≦8[N/25mm]
【0099】
(2)糊残り
上記(1)と同様にして各医療用粘着剤をポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターで乾燥塗膜30μになるように塗工し、100℃で2分乾燥し、粘着剤層表面を指で軽く押さえ、指を離した後に、押さえた部分の粘着剤がどの程度指に付着するかについて目視で評価した。
aa:指への糊の付着の全くない
a :粘着剤が最大で約1/3程度指に付着する
b :粘着剤が最大で約3/4程度指に付着する
c :粘着剤の付着が約3/4を越え、ほぼ全面的に付着する
【0100】
(3)皮膚刺激性
上記(1)と同様にしてポリエチレンテレフタレートフィルム/粘着剤層/剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムからなる積層構成の医療用粘着シートを作製した。30cm2の試験片を用意し、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がし、粘着剤層を全面的に露出した状態とした後、試験片を被験者の上腕部に貼付して12時間経過した時点において、皮膚表面の状態を目視観察した。
a:紅斑なし
b:ごく弱い紅斑あり
c:紅斑あり
【0101】
(4)経皮吸収促進剤の保持性
実施例及び比較例で作製した医療用粘着剤の固形分100質量部に対し、経皮吸収促進剤としてミリスチン酸イソプロピルを30重量部配合した後、上記(1)と同様にしてポリエチレンテレフタレートフィルム/粘着剤層/剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムからなる積層構成の医療用粘着シートを作製した。作製後、医療用粘着シートを23℃、65%RHの環境下で1か月静置後、表面剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がし、前記フィルム表面にミリスチン酸イソプロピルの液滴が現れているか否かを目視で評価した。
aa:液滴が全く存在しない
a:ごくわずかに液滴が現れている
b:フィルムの一部表面に液滴が現れている
c:フィルムの全面に液滴が現れている
【0102】
(5)薬剤の皮膚透過性
実施例及び比較例で作製した医療用粘着剤の固形分100質量部に対し、経皮吸収性薬剤としてサリチル酸メチルを1質量部配合した後、上記(1)と同様にしてポリエチレンテレフタレート/粘着剤層/剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムからなる積層構成の貼付剤を作製し、直径2cmの円形(=3.14cm2)の大きさに切り出した。ヌードマウスの背部剥離皮膚をフランツ型拡散セルにセットし、この皮膚に、上記貼付剤から剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がし、露出した粘着剤層を貼り付け、皮膚透過性を調べた。レセプター液としては、リン酸緩衝液(pH7.2)を用い、貼付剤から皮膚を通じてレセプター液に移行したサリチル酸メチルの量を24時間後にHPLCで測定した。サリチル酸メチルの皮膚透過率は、24時間後のレセプター液中のサリチル酸メチルの量を、貼付剤中のサリチル酸メチルの量で除算した後、100倍して求めた。
aa:80[%]≦皮膚透過率
a :60[%]≦皮膚透過率<80[%]
b :40[%]≦皮膚透過率<60[%]
c :皮膚透過率<40[%]
【0103】
表4〜6に示す実施例と比較例を見て分かる通り、比較例1〜10に用いたポリアミドは、ポリアミド中にC20〜60の炭化水素基を含有していないため、経皮吸収促進剤の保持性と薬剤放出性が著しく劣る。また、粘着力と糊残りを共に満足する物性を得ることができなかった。
一方、実施例に用いたポリアミドは、C20〜60の炭化水素基を含有しているため、すべての物性においてバランスよく良好な結果が得られ、特に比較例で二律背反の関係にあった粘着力と糊残りを両立することができた。さらには、医療用粘着剤として必須物性である経皮吸収促進剤の保持性と薬剤放出性を満足することもできた。これは、本発明のポリアミド(A)が、C20〜60の炭化水素基を有することにより、極性の高いアミド結合濃度が高い部分と低い部分のコントラストが発現し、ポリアミド本来の特徴である高い極性及び凝集力を適度に保持したまま、柔軟性や汎用の有機溶剤への溶解性などの物性を新たに付与できたことが大きく影響しているためだと考えられる。そして、これにより、粘着力の向上に繋がる柔軟性や、経皮吸収促進剤の保持性と薬剤放出性につながる親水疎水バランスを制御することが可能となったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の医療用粘着剤は、経皮吸収性粘着シートの形成に好適に用いられる他、皮膚の創傷被覆や医療用具を皮膚に固定するための各種医療用粘着シートの形成にも用いられる可能性がある。
【要約】
【課題】 本発明は、経皮吸収促進剤を保持する性能、皮膚への粘着性および経皮吸収性薬剤の放出性能に優れると共に、皮膚に対し低刺激性で、皮膚から剥がす際粘着剤が皮膚に残らない、経皮吸収性粘着シートを形成し得る医療用粘着剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 多塩基酸単量体とポリアミン単量体とを重合してなるポリアミド(A)であって、前記多塩基酸単量体ないしポリアミン単量体の少なくともいずれか一方が、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含有する、ポリアミド(A)を含有する医療用粘着剤。
【選択図】 なし