特許第5846331号(P5846331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5846331タイヤ用ゴム組成物及びこれを用いる空気入りタイヤ
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  • 特許5846331-タイヤ用ゴム組成物及びこれを用いる空気入りタイヤ 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5846331
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及びこれを用いる空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20151224BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20151224BHJP
   C08K 5/40 20060101ALI20151224BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20151224BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20151224BHJP
   C08L 83/14 20060101ALI20151224BHJP
   C08G 77/48 20060101ALI20151224BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20151224BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08K3/36
   C08K5/40
   C08K5/548
   C08L83/08
   C08L83/14
   C08G77/48
   C08L45/00
   B60C1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-501544(P2015-501544)
(86)(22)【出願日】2014年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2014054584
(87)【国際公開番号】WO2014129662
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2014年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-35014(P2013-35014)
(32)【優先日】2013年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】三原 諭
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−252124(JP,A)
【文献】 特開平10−273559(JP,A)
【文献】 特開2002−201278(JP,A)
【文献】 特開2003−113243(JP,A)
【文献】 特表2008−537740(JP,A)
【文献】 特開2001−192454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00−9/10
45/00−45/02
83/00−83/16
B60C 1/00
C08G 77/00−77/62
C08K 3/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを60〜200質量部、硫黄含有シランカップリング剤として下記式(1)で表されるポリシロキサンを前記シリカの含有量の1〜20質量%、及び下記式(I)で表されるチウラムジスルフィド系加硫促進剤を0.05〜3.0質量部含む、タイヤ用ゴム組成物。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
[式(1)は平均組成式であり、式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表し、Bはヘキシル基、オクチル基及びデシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Cは加水分解性基を表し、Dはメルカプト基を含有する有機基を表し、R1は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、a〜eは、0≦a<1、0b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。]
【化1】
(I)
[式(I)中、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して、2〜18個の炭素原子を有する炭化水素基である。]
【請求項2】
前記チウラムジスルフィド系加硫促進剤の量が前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.05〜2.0質量部であり、さらにグアニジン系加硫促進剤を前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜3.0質量部含む、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
さらに、テルペン系樹脂を含む、請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記テルペン系樹脂の量が前記ジエン系ゴム100質量部に対し1〜30質量部であり、前記テルペン系樹脂は軟化点が60〜150℃の芳香族変性テルペン樹脂である、請求項3に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッドに用いた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ用ゴム組成物及びこれを用いる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に使用されるタイヤには、走行時の安全性の面からウェット性能(ウェットグリップ性能)を向上させることや、低燃費性の面からタイヤの転がり抵抗を低減することが求められている。このような問題に対し、タイヤのトレッド部を構成するゴム成分にシリカを配合することが知られているが、シリカはゴム成分との親和性が低く、また、シリカ同士の凝集性が高いため、ゴム成分に単にシリカを配合してもシリカが分散せず、転がり抵抗を低減する効果やウェット性能を向上する効果が十分に得られないという問題があった。
このような問題に対して、シリカを含むゴム組成物にシリカと反応可能なメルカプトシラン(メルカプト基を有するシランカップリング剤)を配合すること等が知られている。
【0003】
本願出願人はこれまでにシリカの分散性や耐摩耗性等に優れる技術として、シリカを含むゴム組成物に対して、メルカプト基又はスルフィドを有するシランカップリング剤及びチウラムジスルフィド系加硫促進剤を使用することを提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−190450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のメルカプトシランを含むゴム組成物は、貯蔵段階や加硫工程前段階の架橋(ゴム焼け)等が生じる場合があり、ゴムの加工性面(例えば、耐スコーチ性に優れること、耐スコーチ性と加硫が完了するまでの時間(加硫促進)とのバランスに優れること。以下同様。)に改善の余地があった。
また、近年、ウェット性能及びタイヤの低転がり抵抗性について、さらなる向上が求められている。ウェット性能等をより向上させるため、本願発明者はシリカを含有するゴム組成物については、シリカと反応可能なメルカプトシランに関し検討の余地があると考えた。
【0006】
また、本願発明者は、特許文献1に記載のゴム組成物に使用されるチウラムジスルフィド系加硫促進剤と従来のメルカプトシランとを含有するゴム組成物ついて検討したところ、このようなゴム組成物は、ウェット性能及び加工性は昨今求められているレベルを満たさず、耐摩耗性について改善の余地があることが明らかとなった。
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、タイヤにしたときにウェット性能および耐摩耗性に優れ、かつ、加工性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを60〜200質量部、硫黄含有シランカップリング剤として下記式(1)で表されるポリシロキサンを前記シリカの含有量の1〜20質量%、及び下記式(I)で表されるチウラムジスルフィド系加硫促進剤を0.05〜3.0質量部含む、タイヤ用ゴム組成物が、タイヤにしたときにウェット性能および耐摩耗性に優れ、かつ、加工性に優れることを見引だし、本発明を完成させた。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
[式(1)は平均組成式であり、式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表し、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、Cは加水分解性基を表し、Dはメルカプト基を含有する有機基を表し、R1は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、a〜eは、0≦a<1、0≦b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。ただしa、bのいずれか一方は0ではない。]
【化1】

(I)
[式(I)中、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して、2〜18個の炭素原子を有する炭化水素基である。]
【0008】
すなわち、本発明は下記のタイヤ用ゴム組成物及びこれを用いる空気入りタイヤを提供する。
1. ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを60〜200質量部、硫黄含有シランカップリング剤として下記式(1)で表されるポリシロキサンを前記シリカの含有量の1〜20質量%、及び下記式(I)で表されるチウラムジスルフィド系加硫促進剤を0.05〜3.0質量部含む、タイヤ用ゴム組成物。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
[式(1)は平均組成式であり、式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表し、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、Cは加水分解性基を表し、Dはメルカプト基を含有する有機基を表し、R1は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、a〜eは、0≦a<1、0≦b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。ただしa、bのいずれか一方は0ではない。]
【化2】

(I)
[式(I)中、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して、2〜18個の炭素原子を有する炭化水素基である。]
2. 前記チウラムジスルフィド系加硫促進剤の量が前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.05〜2.0質量部であり、さらにグアニジン系加硫促進剤を前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜3.0質量部含む、上記1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
3. さらに、テルペン系樹脂を含む、上記1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
4. 前記テルペン系樹脂の量が前記ジエン系ゴム100質量部に対し1〜30質量部であり、前記テルペン系樹脂は軟化点が60〜150℃の芳香族変性テルペン樹脂である、上記3に記載のタイヤ用ゴム組成物。
5. 前記式(1)中、bが0より大きい、上記1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
6. 上記1〜5のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッドに用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ウェット性能および耐摩耗性に優れ、かつ、加工性に優れる。
本発明の空気入りタイヤは、ウェット性能および耐摩耗性に優れ、かつ、加工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、
ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを60〜200質量部、硫黄含有シランカップリング剤として下記式(1)で表されるポリシロキサンを前記シリカの含有量の1〜20質量%、及び下記式(I)で表されるチウラムジスルフィド系加硫促進剤を0.05〜3.0質量部含むタイヤ用ゴム組成物である。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
[式(1)は平均組成式であり、式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表し、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、Cは加水分解性基を表し、Dはメルカプト基を含有する有機基を表し、R1は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、a〜eは、0≦a<1、0≦b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。ただしa、bのいずれか一方は0ではない。]
【化3】

(I)
[式(I)中、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して、2〜18個の炭素原子を有する炭化水素基である。]
本発明のタイヤ用ゴム組成物を以下「本発明の組成物」ということがある。また、式(1)で表されるポリシロキサンを「式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン」ということがある。
【0012】
本発明の組成物は、ジエン系ゴム及びシリカを含むゴム組成物に対して、式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン、及び、式(I)で表されるチウラムジスルフィド系加硫促進剤を併用することによって、ウェット性能および耐摩耗性に優れ、かつ、加工性に優れる。
本発明において、式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンは、シリカをゴム組成物中に多量に配合させることができ、かつ、多量のシリカをゴム組成物中に十分に分散させることができる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物が上記のような効果を達成することについて本願発明者は以下のように考える。
本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる硫黄含有シランカップリング剤[式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン]は、その骨格がシロキサン構造である。また、当該硫黄含有シランカップリング剤がBで表される炭素数5〜10の1価の炭化水素基を有する場合、当該Bがメルカプト基に対する有効な保護基として機能できると考えられる。よって、骨格のシロキサン構造によって、Bを有する場合にはさらに当該Bの存在によって、硫黄含有シランカップリング剤が有するメルカプト基の周辺は従来のメルカプトシランよりさらに嵩高いと考えられる。
このような嵩高い(バルキーな)構造によって、硫黄含有シランカップリング剤が有するメルカプト基は加硫前においてはチウラムジスルフィド系加硫促進剤から保護され、本発明のタイヤ用ゴム組成物のムーニースコーチ時間が長く加工安定性が確保される。
しかし、本発明において、硫黄含有シランカップリング剤が有するこのような嵩高い構造は、加硫時における加硫速度の促進(加硫促進)を阻害しないということができる。加硫時の加熱等によって、硫黄含有シランカップリング剤が有するメルカプト基は、ジエン系ゴムと相互作用及び/又は反応することができるようになると考えられる。よって、本発明の組成物は、加工安定性と加硫時の加硫速度が速いこととを両立させることができる。
また、当該硫黄含有シランカップリング剤は、Cで表される加水分解性基、シロキサン構造を有するので、従来のメルカプトシランよりシリカとの親和性、反応性が優れると考えられる。さらに当該硫黄含有シランカップリング剤の分子量が適切な範囲である場合、シリカとの親和性、反応性がより優れることが予想される。これらのことによって、本発明のタイヤ用ゴム組成物は優れたウェット性能、耐摩耗性を達成すると考えられる。
このように、本発明の組成物は、ウェット性能、耐摩耗性、加工性に優れ、これらのバランスに優れるものである。
なお上記メカニズムは本願発明者の推定であり、上記以外のメカニズムであっても本願発明の範囲内である。
【0013】
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴムは特に制限されない。例えば、スチレンブタジエン共重合ゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、スチレン−イソプレン共重合ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム等が挙げられる。
ジエン系ゴムはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なかでもジエン系ゴムは、ウェット性能および耐摩耗性により優れたタイヤを作製することができ、低転がり抵抗性に優れるという理由から、SBR及び/又はBRであるのが好ましい。
【0014】
SBRは特に制限されない。SBRは、末端がヒドロキシ基、ポリオルガノシロキサン基、カルボニル基、アミノ基等で変性されていてもよい。
SBRの重量平均分子量は、グリップ性能と加工性を両立可能であるという観点から、50万〜200万であるのが好ましく、70万〜150万であるのがより好ましい。本発明において、SBRの重量平均分子量は、トルエンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算によって求められた。
SBRは、ウェット性能により優れ、低転がり抵抗性に優れたタイヤを作製することができる理由から、芳香族ビニル(以下、「スチレン量」という。)を30〜50質量%含み、共役ジエンのビニル結合を20〜70質量%含むことが好ましい。
SBRの含有量(割合)は、ウェット性能により優れ、低転がり抵抗性に優れたタイヤを作製することができる理由から、ジエン系ゴムの50〜90質量%であるのが好ましく、60〜80質量%であるのがより好ましい。SBRとBRとを併用する場合のSBRの含有量は上記と同様である。
【0015】
BRは特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
BRの含有量(割合)は、ウェット性能により優れ、低転がり抵抗性に優れたタイヤを作製することができる理由から、ジエン系ゴムの50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましい。
SBRとBRとを併用する場合、BRの含有量(割合)は、ウェット性能により優れ、低転がり抵抗性に優れたタイヤを作製することができる理由から、ジエン系ゴムの10〜50質量%であるのが好ましく、20〜40質量%であるのがより好ましい。
【0016】
本発明の組成物に含有されるシリカは特に限定されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
シリカとしては、具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。シリカはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
シリカのCTAB吸着比表面積は、ウェット性能と耐摩耗性により優れるという観点から、150m2/g以上が好ましく、160m2/gより大きいのがより好ましく、170〜230m2/gであるのが更に好ましい。ここで、CTAB吸着比表面積は、JIS K6217−3:2001に記載されたCTAB吸着法に従って測定したものである。
【0018】
本発明において、シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、60〜200質量部であり、得られるタイヤのウェット性能および耐摩耗性がより良好となり、低転がり抵抗性および強度も向上する理由から、60〜150質量部が好ましく、70〜140質量部であるのがより好ましい。
【0019】
本発明の組成物に含有される硫黄含有シランカップリング剤について以下に説明する。
本発明の組成物に含まれる硫黄含有シランカップリング剤は、下記式(1)で表されるポリシロキサンである。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
[式(1)は平均組成式であり、式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基を表し、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、Cは加水分解性基を表し、Dはメルカプト基を含有する有機基を表し、R1は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、a〜eは、0≦a<1、0≦b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。ただしa、bのいずれか一方は0ではない。]
本発明において、硫黄含有シランカップリング剤はCを有することによって、シリカとの親和性及び/又は反応性に優れる。
硫黄含有シランカップリング剤はDを有することによって、ジエン系ゴムと相互作用及び/又は反応することができ、ウェット性能、耐摩耗性に優れる。
硫黄含有シランカップリング剤がAを有する場合、ウェット性能、耐摩耗性、加工性(特にムーニースコーチ時間の維持・長期化)により優れる。
硫黄含有シランカップリング剤がBを有する場合、メルカプト基を保護しムーニースコーチ時間が長くなると同時に、ゴムとの親和性に優れることで加工性により優れる。
【0020】
本発明の組成物に含有される硫黄含有シランカップリング剤は、その骨格として、シロキサン骨格を有する。シロキサン骨格は直鎖状、分岐状、3次元構造のいずれか又はこれらの組合わせとすることができる。
【0021】
上記式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基(以下、スルフィド基含有有機基ともいう)を表す。有機基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい炭化水素基とすることができる。
なかでも、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
−(CH2n−Sx−(CH2n (2)
上記式(2)中、nは1〜10の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、xは1〜6の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、*は、結合位置を示す。
上記式(2)で表される基の具体例としては、例えば、−CH2−S2−CH2−C24−S2−C24−C36−S2−C36−C48−S2−C48−CH2−S4−CH2−C24−S4−C24−C36−S4−C36−C48−S4−C48などが挙げられる。
【0022】
上記式(1)中、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、その具体例としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。なかでも、Bはメルカプト基を保護しムーニースコーチ時間が長く加工性により優れ、ウェット特性、耐摩耗性がより優れ、低転がり抵抗性に優れることから、炭素数8〜10の1価の炭化水素基であるのが好ましい。
【0023】
上記式(1)中、Cは加水分解性基を表し、その具体例としては、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、下記式(3)で表される基であることが好ましい。
−OR2 (3)
上記式(3)中、R2は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアラルキル基(アリールアルキル基)または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられる。上記炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロぺニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(3)中、*は、結合位置を示す。
【0024】
上記式(1)中、Dはメルカプト基を含有する有機基を表す。なかでも、下記式(4)で表される基であることが好ましい。
−(CH2m−SH (4)
上記式(4)中、mは1〜10の整数を表し、なかでも、1〜5の整数であることが好ましい。
上記式(4)中、*は、結合位置を示す。
上記式(4)で表される基の具体例としては、−CH2SH、−C24SH、−C36SH、−C48SH、−C510SH、−C612SH、−C714SH、−C816SH、−C918SH、−C1020SHが挙げられる。
【0025】
上記式(1)中、R1は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表す。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0026】
上記式(1)中、a〜eは、0≦a<1、0≦b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす。ただしa、bのいずれか一方は0ではない。
【0027】
式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンは、ムーニースコーチ時間が長く加工性がより優れる理由から、aが0よりも大きい(0<a)ことが好ましい。すなわち、スルフィド基含有有機基を有する場合が好ましい態様の1つとして挙げられる。なかでも、加工性がさらに優れ、ウェット性能により優れ、低転がり抵抗性にも優れるという理由から、0<a≦0.50であることが好ましい。
また、式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンは、ウェット性能、耐摩耗性により優れ、低転がり抵抗性に優れる理由から、aが0であることが好ましい。すなわち、スルフィド基含有有機基を有さない場合が好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0028】
上記式(1)中、bは、ウェット特性、加工性がより優れ、低転がり抵抗性に優れるというる理由から、bは0より大きいことが好ましく、0.10≦b≦0.89であることがより好ましい。
上記式(1)中、cは、ウェット特性、加工性がより優れ、シリカの分散性がより優れ、低転がり抵抗性に優れるというる理由から、1.2≦c≦2.0であることが好ましい。
上記式(1)中、dは、ウェット特性、加工性がより優れ、低転がり抵抗性に優れるというる理由から、0.1≦d≦0.8であることが好ましい。
【0029】
上記式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンは、シリカの分散性が良好であり、加工性がより優れる理由から、上記式(1)中、Aが上記式(2)で表される基であり、Cが上記式(3)で表される基であり、Dが上記式(4)で表される基であるのが好ましく、上記理由に加えてさらに、メルカプト基を保護しムーニースコーチ時間が長く加工性により優れ、ウェット特性、耐摩耗性がより優れ、低転がり抵抗性に優れることから、Aが上記式(2)で表される基であり、Cが上記式(3)で表される基であり、Dが上記式(4)で表される基であり、Bが炭素数8〜10の1価の炭化水素基であるのがより好ましい。
【0030】
式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンの重量平均分子量は、ウェット性能、加工性により優れ、低転がり抵抗性に優れるという観点から、500〜2300であるのが好ましく、600〜1500であるのがより好ましい。ポリシロキサンの分子量は、トルエンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で求められた重量平均分子量である。
【0031】
式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンの酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によるメルカプト当量は、加硫反応性に優れるという観点から、550〜1900g/molであるのが好ましく、600〜1800g/molであるのがより好ましい。
【0032】
ポリシロキサンを製造する方法は特に限定されない。例えば、原料として、メルカプト基を含有する有機基[式(1)中のDに相当する。]及び加水分解性基[式(1)中のCに相当することができる。以下同様。]を有するシランカップリング剤(メルカプト基を有するシランカップリング剤)を少なくとも含む有機ケイ素化合物の組成物を加水分解縮合させることによって製造することができる。
【0033】
具体的には例えば、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物(例えばp=5〜10)と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。さらに、下記式(5)で表される有機ケイ素化合物を使用してもよい。さらに、式(8)で表される有機ケイ素化合物(q=1〜4)を使用してもよい。
なかでも、耐スコーチ性がより優れる理由から、少なくとも式(6)で表される有機ケイ素化合物(例えばp=5〜10)、式(7)、式(5)で表される有機ケイ素化合物を使用するのが好ましい。
また、ウェット性能、耐摩耗性により優れ、低転がり抵抗性に優れる理由から、少なくとも式(6)で表される有機ケイ素化合物(例えばp=5〜10)と、式(7)で表される有機ケイ素化合物を使用するのが好ましい。
【0034】
【化4】
【0035】
上記式(5)中、R51は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(5)中、R52は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。上記炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例は上記R51と同じである。
上記式(5)中、nの定義および好適な態様は、上記式(2)中のnと同じである。
上記式(5)中、xの定義および好適な態様は、上記式(2)中のxと同じである。
上記式(5)中、yは1〜3の整数を表す。
【0036】
上記式(5)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。
【0037】
【化5】
【0038】
上記式(6)中、R61の定義、具体例および好適な態様は、上記R51と同じである。
上記式(6)中、R62の定義、具体例および好適な態様は、上記R52と同じである。
上記式(6)中、zの定義は、上記yと同じである。
上記式(6)中、pは5〜10の整数を表す。pはウェット性能、低転がり抵抗性、加工性により優れ、ジエン系ゴムとの親和性に優れるという観点から、5〜10の整数であるのが好ましい。
【0039】
上記式(6)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルメチルジメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルメチルジメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0040】
【化6】
【0041】
上記式(7)中、R71の定義、具体例および好適な態様は、上記R51と同じである。
上記式(7)中、R72の定義、具体例および好適な態様は、上記R52と同じである。
上記式(7)中、mの定義および好適な態様は、上記式(4)のmと同じである。
上記式(7)中、wの定義は、上記yと同じである。
【0042】
上記式(7)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、α−メルカプトメチルトリメトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、α−メルカプトメチルトリエトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【化7】
【0043】
上記式(8)中、R81の定義、具体例および好適な態様は、上記R51と同じである。
上記式(8)中、R82の定義、具体例および好適な態様は、上記R52と同じである。
上記式(8)中、vの定義は、上記yと同じである。
上記式(8)中、qは1〜4の整数を表す。
【0044】
上記式(8)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0045】
ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、例えば、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]と、炭化数5〜10の炭化水素基を有するシランカップリング剤[例えば、式(6)で表される有機ケイ素化合物]及び/又は炭化数1〜4の炭化水素基を有するシランカップリング剤[例えば、式(8)で表される有機ケイ素化合物]とを併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤と炭化数5〜10の炭化水素基を有するシランカップリング剤及び/又は炭化数1〜4の炭化水素基を有するシランカップリング剤との混合比(モル比)[メルカプト基を有するシランカップリング剤/(炭化数5〜10の炭化水素基を有するシランカップリング剤及び/又は炭化数1〜4の炭化水素基を有するシランカップリング剤)]は、ウェット性能、耐摩耗性、加工性により優れ、低転がり抵抗性に優れるという観点から、1.1/8.9〜6.7/3.3であるのが好ましく、1.4/8.6〜5.0/5.0であるのがより好ましい。
【0046】
ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、例えば、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]及びスルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤とスルフィド基を有するシランカップリング剤との混合比(モル比)(メルカプト基を有するシランカップリング剤/スルフィド基を有するシランカップリング剤)は、ウェット性能、耐摩耗性、加工性により優れ、低転がり抵抗性に優れるという観点から、2.0/8.0〜8.9/1.1であるのが好ましく、2.5/7.5〜8.0/2.0であるのがより好ましい。
【0047】
ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、例えば、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]と、スルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)で表される有機ケイ素化合物]と、炭化数5〜10の炭化水素基を有するシランカップリング剤[例えば、式(6)で表される有機ケイ素化合物]及び/又は炭化数1〜4の炭化水素基を有するシランカップリング剤[例えば、式(8)で表される有機ケイ素化合物]とを併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤の量は、前に挙げた3つ(又は4つ)のシランカップリング剤の合計量(モル)中の10.0〜73.0%であるのが好ましい。スルフィド基を有するシランカップリング剤の量は、前に挙げた3つ(又は4つ)の合計量中の5.0〜67.0%であるのが好ましい。スルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤の量は、前に挙げた3つ(又は4つ)の合計量中の16.0〜85.0%であるのが好ましい。
【0048】
ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては特に限定されないが、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。
【0049】
また、上記ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて触媒を用いてもよい。
本発明において、使用することができる触媒としては例えば、塩酸、酢酸などの酸性触媒;アンモニウムフルオリドなどのルイス酸触媒;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどのアミン化合物などが挙げられる。
上記触媒は、金属としてSn、TiまたはAlを含有する有機金属化合物でないことが好ましい。このような有機金属化合物を使用した場合、ポリシロキサン骨格に当該金属が導入されて、上記特定ポリシロキサン(骨格には、ケイ素原子以外の金属(例えば、Sn、Ti、Al)は存在しない)が得られないことがある。
触媒としてSn、TiまたはAlを含有する有機金属化合物を使用しない場合、ポリシロキサンには触媒由来の金属が分子内に導入される(例えば、ポリシロキサン骨格に金属が導入される。)ことはなく、本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物を通常雰囲気又は高湿環境下においても空気中の湿気で硬化やゲル化が生じることはなく、保存安定性に優れる。
触媒の量は、ウェット性能、加工性により優れ、低転がり抵抗性、保存安定性に優れるという観点から、原料として使用される有機ケイ素化合物100質量部に対して、0.01〜10質量部であるのが好ましく、0.05〜1質量部であるのがより好ましい。
【0050】
硫黄含有シランカップリング剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、硫黄含有シランカップリング剤の含有量は、上記シリカの含有量の1〜20質量%であり、ウェット性能、耐摩耗性および加工性がより優れ、低転がり抵抗性に優れる理由から、2〜20質量%が好ましく、3〜18質量%であることがより好ましく、4〜16質量%であることがさらに好ましく、5〜14質量%であることが特に好ましい。
硫黄含有シランカップリング剤の含有量が、シリカの含有量の20質量%を超える場合、スコートタイムが短く加工性が悪い。
【0051】
本発明の組成物に含まれるチウラムジスルフィド系加硫促進剤について以下に説明する。本発明の組成物に含まれるチウラムジスルフィド系加硫促進剤は、下記式(I)で表される化合物である。
【化8】

(I)
式(I)中、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して、2〜18個の炭素原子を有する炭化水素基である。炭化水素基は、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基のうちのいずれか又はこれらの組み合わせであればよく、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよく、不飽和結合を有してもよい。炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基のような脂肪族炭化水素基、シクロヘキシル基のような脂環式炭化水素基、フェニル基のような芳香族炭化水素基、ベンジル基のようなアラルキル基が挙げられる。
【0052】
チウラムジスルフィド系加硫促進剤としては、例えばテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムエチルジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。
【0053】
なかでも、チウラムジスルフィド系加硫促進剤は、ウェット性能、耐摩耗性、加工性(特にムーニースコーチ時間の維持・長期化、加硫時の加硫速度の促進)により優れるという観点から、R5〜R8がアラルキル基であるのが好ましく、ベンジル基であるもの(市販品としては例えば、Flexsys社製のTBzTD)がより好ましい。
【0054】
本発明において、チウラムジスルフィド系加硫促進剤の量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.05〜3.0質量部である。このような範囲の場合、ウェット性能、耐摩耗性、加工性(特にムーニースコーチ時間の維持・長期化、加硫時の加硫速度の促進)に優れる。この量が少ないと加硫促進効果が十分でなく、逆に多過ぎると架橋密度が高くなりすぎてゴムが硬くなるので好ましくない。
当該理由により優れるという理由から、チウラムジスルフィド系加硫促進剤の量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.05〜2.5質量部であるのが好ましく、0.05〜2.0質量部であるのがより好ましい。
【0055】
本発明の組成物は、チウラムジスルフィド系加硫促進剤以外の加硫促進剤として、さらにグアニジン系加硫促進剤及び/又はスルフェンアミド系加硫促進剤を含むことができる。
本発明の組成物がさらにグアニジン系加硫促進剤及び/又はスルフェンアミド系加硫促進剤を含む場合、加硫時の加硫速度が速くなり、耐摩耗性、ウェット性能により優れる。グアニジン系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤は例えばゴム組成物に使用することができるものであれば特に制限されず、上記と同様の理由からジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
本発明の組成物がさらにグアニジン系加硫促進剤及び/又はスルフェンアミド系加硫促進剤を含む場合、加硫時の加硫速度が速くなり、耐摩耗性、ウェット性能により優れるという理由から、グアニジン系加硫促進剤及び/又はスルフェンアミド系加硫促進剤の量(両者を併用する場合はその合計量。以下同様。)は、ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜3.0質量部であるのが好ましく、0.1〜2.5質量部であるのがより好ましい。
また、本発明の組成物がさらにグアニジン系加硫促進剤及び/又はスルフェンアミド系加硫促進剤を含む場合、加硫時の加硫速度が速くなり、耐摩耗性、ウェット性能により優れるという理由から、チウラムジスルフィド系加硫促進剤の量はジエン系ゴム100質量部に対し0.05〜2.0質量部であるのが好ましく、0.05〜1.5質量部であるのがより好ましい。
【0056】
本発明の組成物はさらにテルペン系樹脂を含むことができる。このような場合ウェット性能、低転がり抵抗性のバランスがより優れる。テルペン系樹脂は、モノマーとして少なくともテルペン系単量体を使用する重合体であればよく、単独重合体、共重合体のいずれでもよい。また例えば芳香族化合物によって変性されていてもよい。
テルペン系単量体としては、例えばα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、これらの誘導体が挙げられる。
芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、フェノール類が挙げられる。
テルペン系樹脂としては、芳香族変性テルペン樹脂が挙げられる。ジエン系ゴムとの相溶性が良好であるためゴム組成物の0℃のtanδを高くし、ウェット性能、耐摩耗性により優れ、低転がり抵抗性とのバランスに優れるという理由から、芳香族変性テルペン樹脂が好ましい。
テルペン系樹脂(特に芳香族変性テルペン樹脂)の軟化点は、ウェット性能、耐摩耗性に優れるという観点から、60〜150℃であるのが好ましく、70〜130℃であるのがより好ましい。
テルペン系樹脂はその製造について特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。テルペン系樹脂はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
テルペン系樹脂の量は、ウェット性能、耐摩耗性により優れるという観点から、ジエン系ゴム成分100質量部に対して1〜30質量部であるのが好ましく、3〜20質量部であるのがより好ましい。
【0058】
本発明の組成物には、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、ジエン系ゴム以外のゴム、式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン以外のシランカップリング剤、シリカ以外の充填剤(例えば、カーボンブラック、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン)、チウラムジスルフィド系加硫促進剤以外の加硫促進剤のほか、テルペン系樹脂以外の樹脂、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤、アロマオイル、プロセスオイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用されるものが挙げられる。
【0059】
本発明の組成物がさらに式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン以外のシランカップリング剤を含む場合、このようなシランカップリング剤としては、具体的には例えば、ケイ素原子を1個有するメルカプトシラン、スルフィドシランが挙げられる。
メルカプトシランとしては、例えば、C1327O−(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH22SH、:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
スルフィドシランとしては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィドが挙げられる。
式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン以外のシランカップリング剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
本発明の組成物の用途としてはタイヤが挙げられる。
【0061】
次に、本発明の空気入りタイヤについて以下に説明する。
本発明の空気入りタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッドに用いた空気入りタイヤである。
タイヤ用ゴム組成物は少なくともタイヤトレッドに用いられていればよく、タイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッド以外、例えば、ビード部、サイドウォール部に使用することができる。
以下添付の図面を用いて本発明の空気入りタイヤを説明する。なお本発明の空気入りタイヤは添付の図面に限定されない。
図1は、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【0062】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッドを表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0063】
本発明の空気入りタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物を空気入りタイヤのタイヤトレッドに用いる以外は特に制限はなく、例えば従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0065】
<ポリシロキサン1の製造方法>
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業製 KBE−846)107.8g(0.2mol)、γ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール190.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸37.8g(2.1mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液17.0gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで褐色透明液体のポリシロキサン480.1gを得た。GPCにより測定した結果、得られたポリシロキサンの平均分子量は840であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法により、得られたポリシロキサンのメルカプト当量を測定した結果、当該メルカプト当量は730g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、得られたポリシロキサンは下記平均組成式で示される。
(−C36−S4−C36−)0.071(−C8170.571(−OC251.50(−C36SH)0.286SiO0.75
得られたポリシロキサンをポリシロキサン1とする。
【0066】
<ポリシロキサン2の製造方法>
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにγ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール162.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸32.4g(1.8mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液14.6gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで無色透明液体のポリシロキサン412.3gを得た。GPCにより測定した結果、得られたポリシロキサンの平均分子量は850であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によって測定された、上記ポリシロキサンのメルカプト当量は650g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、得られたポリシロキサンは下記平均組成式で示される。
(−C8170.667(−OC251.50(−C36SH)0.333SiO0.75
得られたポリシロキサンをポリシロキサン2とする。
【0067】
<ポリシロキサン3の製造方法>
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業製 KBE−846)107.8g(0.2mol)、γ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール190.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸42.0g(2.33mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液18.9gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで褐色透明液体のポリシロキサン560.9gを得た。GPCにより測定した結果、得られたポリシロキサンの平均分子量は1220であり、平均重合度は6.0(設定重合度6.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によって測定された、上記ポリシロキサンのメルカプト当量は710g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、得られたポリシロキサンは下記平均組成式で示される。
(−C36−S4−C36−)0.071(−C8170.571(−OC251.334(−C36SH)0.286SiO0.833
得られたポリシロキサンをポリシロキサン3とする。
【0068】
(比較ポリシロキサン1)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(0.1mol)を水および濃塩酸水溶液で加水分解し、その後、エトキシメチルポリシロキサン(100g)を添加し、縮合することでポリシロキサンを得た。得られたポリシロキサンを比較ポリシロキサン1とする。
上記比較ポリシロキサン1は、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランのメトキシ基とエトキシメチルポリシロキサンのエトキシ基とが縮合した構造を有する。すなわち、上記比較ポリシロキサン1が有する1価の炭化水素基はメチル基のみである。また、上記比較ポリシロキサン1はスルフィド基を含有する2価の有機基を有さない。
【0069】
(比較ポリシロキサン2)
ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド(0.1mol)を水および濃塩酸水溶液で加水分解し、その後、エトキシメチルポリシロキサン(100g)を添加し、縮合することでポリシロキサンを得た。得られたポリシロキサンを比較ポリシロキサン2とする。
上記比較ポリシロキサン2は、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドのエトキシ基とエトキシメチルポリシロキサンのエトキシ基とが縮合した構造を有する。すなわち、上記比較ポリシロキサン2が有する1価の炭化水素基はメチル基のみである。また、上記比較ポリシロキサン2はメルカプト基を含有する有機基を有さない。
【0070】
<タイヤ用ゴム組成物の製造>
下記表に示す成分を同表に示す割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて10分間混合してから放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤を混合し、タイヤ用ゴム組成物を得た。
表中、各比較シランカップリング剤、各シランカップリング剤の欄のかっこ内の数値は、その実施例、比較例で使用されたシリカの量に対する各成分の質量%である。
【0071】
<加硫ゴムの製造>
上記のとおり製造したタイヤ用ゴム組成物(未加硫)を金型(15cm×15cm×0.2cm)中で、160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴムを作製した。
【0072】
上記のとおり製造したタイヤ用ゴム組成物、加硫ゴムを用いて以下の評価を行った。結果を下記表に示す。
<tanδ(0℃)>(ウェット性能の指標)
上記のとおり作製した加硫ゴムについて、JIS K6394:2007に準じて、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件で、tanδ(0℃)を測定した。
結果は標準例のtanδ(0℃)を100とする指数で表した。指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きく、タイヤにしたときにウェット性能に優れる。
【0073】
<耐摩耗性>
上記のとおり作製した加硫ゴムの耐摩耗性を、JIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、温度20℃、荷重15N、スリップ率50%、時間10分の条件で摩耗量を測定した。
結果は標準例の値の逆数を100とする指数で表した。指数が大きいほど耐摩耗性が優れることを意味する。
【0074】
<ムーニースコーチ>(耐スコーチ性の指標)
上記のとおり製造したタイヤ用ゴム組成物(未加硫)について、JIS K6300−1:2001に準じて、L形ロータを使用し、試験温度125℃の条件で、ムーニースコーチ時間(t5)を測定した。
結果は標準例のムーニースコーチ時間を100とする指数で表した。指数が大きいほどムーニースコーチ時間が長く、耐スコーチ性(加工性)が優れることを示す。
【0075】
<t95>(加硫時の加硫速度の指標)
上記のとおり製造したタイヤ用ゴム組成物を用いて、JIS K6300の準じて、振動式ディスク加硫試験機を用いて、振幅1度、160℃の条件下でt95時間(分)を測定した。
結果は標準例のt95(表中これをT95と示す。)を100とする指数で表した。指数が小さいほど加硫速度が速く、加硫特性に優れることを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
第1表に示す各成分の詳細は以下のとおりである。
・SBR(E581):スチレン−ブタジエンゴム、E581〔ゴム分100質量部に対する油展量:37.5質量部(96.3質量部中のゴム分は70質量部)、重量平均分子量:1,200,000、スチレン量:37質量%、ビニル結合量:43%、旭化成社製〕
・BR:ブタジエンゴム、Nippol BR 1220(日本ゼオン社製)
・シリカ:Rhodia社製Zeosil 1165MP、窒素吸着比表面積が160m2/g、CTAB比表面積が159m2/g、DBP吸収量が200ml/100gであり、N2SA/CTABが1.0であるシリカ
・カーボンブラック:ショウブラックN339(CTAB吸着比表面積=90m2/g、キャボットジャパン社製)
・比較シランカップリング剤1:Si363(エボニックデグッサ社製)、[C1327O−(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH22SH
・比較シランカップリング剤2:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM−803、信越化学工業社製)
・シランカップリング剤1:上記のとおり製造したポリシロキサン1
・シランカップリング剤2:上記のとおり製造したポリシロキサン2
・シランカップリング剤3:Si69(エボニックデグッサ社製)
・比較シランカップリング剤3:上述のとおり合成された比較ポリシロキサン1
・比較シランカップリング剤4:上述のとおり合成された比較ポリシロキサン2
【0079】
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸(日本油脂社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3種(正同化学工業社製)
・老化防止剤:N−フェニル−N′−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(サントフレックス6PPD、フレキシス社製)
・テルペン系樹脂:スチレン変性テルペン樹脂、YSレジンTO125、ヤスハラケミカル株式会社製、軟化点:125℃
・プロセスオイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・加硫促進剤1(CZ):N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(ノクセラーCZ−G、大内新興化学工業社製)
・加硫促進剤2(TBzTD):テトラベンジルチウラムジスルフィド、フレキシス社製
・加硫促進剤3(DPG):1,3−ジフェニルグアニジン(ソクシノールD−G、住友化学工業社製)
・硫黄:金華印油入微粉硫黄(鶴見化学工業社製)
【0080】
第1表に示す結果から明らかなように、比較シランカップリング剤1、2を含む比較例1〜4は標準例よりムーニースコーチ時間が短く加工性が悪い。チウラムジスルフィド系加硫促進剤を含まない比較例5は標準例より加硫時の加硫速度(t95)が遅く生産性が悪い。チウラムジスルフィド系加硫促進剤を含まずグアニジン系加硫促進剤を含む比較例6は、ムーニースコーチ時間に対してt95が遅いためムーニースコーチ時間と加硫促進とのバランスが良好であるとは言えない。式(1)の平均組成式で表される硫黄含有シランカップリング剤の量がシリカの量の20質量%を超える比較例7は標準例よりムーニースコーチ時間が短く加工性が悪い。シリカの量がジエン系ゴム100質量部に対し60質量部未満である比較例8は、ウェット性能が悪い。比較例1〜7は標準例より耐摩耗性が改善されるもののその性能は現在の要求性能を満足させるものではない。
これに対して、実施例1〜7はウェット性能および耐摩耗性に優れ、かつ、加工性に優れる。つまり本発明のタイヤ用ゴム組成物はウェット性能、耐摩耗性、加工性のバランスに優れる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物がさらにテルペン系樹脂を含む場合、ウェット性能性により優れる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物がさらにグアニジン系加硫促進剤を含む場合、グアニジン系加硫促進剤によって加硫時の加硫速度が速くなり、耐摩耗性、ウェット性能により優れる。
【0081】
上述のとおり、標準例と比較例5、6とを比較すると、メルカプト系のシランカップリング剤を従来のものから単に本願発明において使用される硫黄含有シランカップリング剤に代えてもチウラムジスルフィド系加硫促進剤を含まない場合は、比較例5、6のように標準例より加硫時の加硫速度t95が遅いため生産性が悪く、ムーニースコーチ時間と加硫促進とのバランスが取れない。
また、比較例1〜4と実施例1〜7とを比較すると、比較例1〜4と実施例1〜7とはチウラムジスルフィド系加硫促進剤を含むためいずれもt95が標準例より速く生産性は良好であり、ムーニースコーチ時間と加硫促進とのバランスに優れ、加工性が優れる。
しかし、この場合、ムーニースコーチ時間については、実施例1〜7は標準例と同等またはこれより長くなり、比較例1〜4は標準例より短い。つまり、実施例1〜7はムーニースコーチ時間について比較例1〜4と反対の挙動を示す。
このように、シランを含むゴム組成物に対して、式(1)の平均組成式で表される硫黄含有シランカップリング剤及び式(I)で表されるチウラムジスルフィド系加硫促進剤を所定の量で併用することは、従来の硫黄含有シランカップリング剤及びチウラムジスルフィド系加硫促進剤の併用より、加硫時の加硫速度t95が速く短い加硫時間で高い架橋密度を達成し、かつ、ムーニースコーチ時間が長く加工安定性に優れ、よって加工性に優れる。
よって、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、加硫時の加硫速度t95が速く短い加硫時間で高い架橋密度を達成することができ、かつ、ムーニースコーチ時間が長く加工安定性に優れ、よって加工性に優れる。
【0082】
本発明のタイヤ用ゴム組成物が上記のような効果を達成することについて本願発明者は以下のように考える。
従来の比較シランカップリング剤1のようなメルカプトシランは[C1327O−(CH2CH2O)5]のような基を有するので比較シランカップリング剤2よりメルカプト基周辺の立体障害が比較的大きく、その結果上記のような基はメルカプト基の保護基として機能すると考えられる。しかし、比較例1〜4の結果から明らかなように、チウラムジスルフィド系加硫促進剤の促進能力に対して、従来のメルカプトシランのメルカプト基の保護効果は低いため、スコーチを促進する。
これに対して、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる式(1)の平均組成式で表される硫黄含有シランカップリング剤は、その骨格がシロキサン構造である。また当該硫黄含有シランカップリング剤がBで表される炭素数5〜10の1価の炭化水素基を有する場合、当該Bがメルカプト基の有効な保護基として機能できると考えられる。よって、当該硫黄含有シランカップリング剤は、その骨格のシロキサン構造によって、Bを有する場合にはさらにBの存在によって、メルカプト基の周辺は従来のメルカプトシランよりさらに嵩高いと考えられる。このような嵩高い(バルキーな)構造によって、本発明のタイヤ用ゴム組成物のムーニースコーチ時間が長く加工安定性が確保される。しかし、このような嵩高い構造は加硫時の加硫速度を阻害しないということができる。
また、当該硫黄含有シランカップリング剤は、Cで表される加水分解性基、シロキサン構造、及び適切な分子量を有するので、従来のメルカプトシランよりシリカとの親和性、反応性が優れると考えられる。このことによって、本発明のタイヤ用ゴム組成物は優れたウェット性能、耐摩耗性を達成すると考えられる。
なお上記メカニズムは本願発明者の推定であり、上記以外のメカニズムであっても本願発明の範囲内である。
【符号の説明】
【0083】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 タイヤトレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション
図1