(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0045】
〔1.本発明に係る判定方法〕
本発明に係るDravet症候群の発症の可能性を判定する方法(「本発明に係る判定方法」ともいう。)は、被験体から分離した試料を用いて、当該被験体がDravet症候群の発症の可能性を判定する方法である。尚、本明細書において、上記「Dravet症候群の発症の可能性」とは、Dravet症候群をすでに発症している可能性と、Dravet症候群を将来的に発症する可能性との両方の意味を包含するものである。
【0046】
尚、上記被験体は、特に限定されるものではなく、Dravet症候群を発症している者(発症する可能性のある者)であってもよいし、Dravet症候群を発症していない者(発症する可能性がない者)であってもよい。中でも、乳幼児、または小児に適用することが好ましい。
【0047】
本発明に係る判定方法は、具体的には、被験体から分離した試料を用いて、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出する工程と、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出する工程とを含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されない。
【0048】
ここで、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1は、αサブユニット1型、β
1サブユニット、およびβ
2サブユニットから構成されている。β
1サブユニットおよびβ
2サブユニットは、補助的なサブユニットである。
【0049】
電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型(以下、「ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット」と称する)としては、GenBankアクセション番号AB093548に登録されるポリペプチド(すなわち、配列番号1に示されるアミノ酸配列)を挙げることができる。また、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型をコードする遺伝子(以下、「ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子」と称する)としては、SCN1A遺伝子として、GenBankアクセション番号AB093548に登録されている塩基配列(すなわち、配列番号2に示される塩基配列)からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0050】
電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1は、αサブユニット1型、βサブユニット、γサブユニット、およびα2δサブユニットから構成されている。
【0051】
電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型(以下、「カルシウムイオンチャネルα1サブユニット」と称する)としては、GenBankアクセション番号NM 023035に登録されるポリペプチド(すなわち、配列番号3に示されるアミノ酸配列)を挙げることができる。また、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型をコードする遺伝子(以下、「カルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子」と称する)としては、CACNA1A遺伝子として、GenBankアクセション番号NM 023035に登録されている塩基配列(すなわち、配列番号4に示される塩基配列)からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0052】
尚、本明細書においては、例えば、「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型」と記載した場合、「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型タンパク質」を指す。つまり、本明細書においては、「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型をコードする遺伝子」または「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型遺伝子」のように、遺伝子を意図していることを明記しない限り、タンパク質を意図している。この表記方法は、「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型」に限られたものではなく、「電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型」についても同様に表記するものとする。
【0053】
本発明に係る判定方法では、上述した変異の有無を検出する工程に加えて、上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が変化していることを確認する工程と、上記電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化していることを確認する工程とをさらに含むことが好ましい。
【0054】
本発明に係る判定方法は、上記変異を検出するために、上記生体から分離した試料を前処理する工程等を含んでいてもよい。当該「前処理」とは、例えば、上記生体から分離した試料からDNAを抽出する処理、上記生体から分離した試料からRNAを抽出する処理、上記生体から分離した試料からタンパク質を抽出する処理等を指す。これらの前処理については、従来公知の方法を用いて行うことができる。
【0055】
尚、本発明に係る判定方法は、Dravet症候群の発症の可能性を判定するためのデータを取得する方法であり得る。この場合、本発明は医師による判断工程を含まない。
【0056】
(1−1.変異の有無を検出する工程)
本明細書において、上記「変異の有無を検出する工程」とは、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出する工程と、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出する工程とを指している。
【0057】
本発明に係る判定方法では、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出する工程と、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出する工程との、どちらの工程を先に行ってもよく、これら2つの工程を同時に行ってもよい。
【0058】
上記ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、および上記カルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方における、変異の有無を検出することによって、Dravet症候群の発症の可能性を、精度よく判定することを可能にするデータを取得することができる。
【0059】
本発明に係る判定方法によって検出する変異は、遺伝子における塩基配列の変異であってもよく、タンパク質におけるアミノ酸の変異であってもよい。上記「遺伝子における塩基配列の変異」は、野生型の遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列と比較して、塩基配列の変異を有する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列が変化する変異であればよく、その具体的な変異の種類は特に限定されるものではない。このような、塩基配列の変異としては、例えば、ミスセンス変異(アミノ酸が置換する)、ナンセンス変異(アミノ酸合成が途中で止まる)、フレームシフト(塩基の挿入、欠失によりアミノ酸コドンのフレームがずれ、変異位置より下流のアミノ酸配列が変化し、本来の機能を有しない)、スプライシング異常(当該当エキソン領域の欠失等)、少数塩基挿入または欠失(一部のアミノ酸が新生、脱落するが下流は正常アミノ酸のまま合成)、エキソン領域微小欠失(エキソンが1つもしくは複数欠損)等が意図される。このような塩基配列の変異としては、突然変異のみに限定されず、遺伝子多型も含まれる。
【0060】
また、本発明に係る判定方法においては、これらの遺伝子から生じるmRNA、cDNA、およびタンパク質を、変異の有無を検出する対象としてもよい。
【0061】
本明細書において、「遺伝子」とは、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用されるものである。
【0062】
「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの重合体を意味する。したがって、本明細書での用語「遺伝子」には、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNA(mRNA等)が包含される。
【0063】
「DNA」には、例えばクローニングや化学合成技術、またはそれらの組合せで得られるようなcDNAやゲノムDNA等が含まれる。すなわち、DNAとは、動物のゲノム中に含まれる形態であるイントロン等の非コード配列を含む、「ゲノム」形DNAであってもよいし、また逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、すなわちイントロン等の非コード配列を含まない、「転写」形DNAであってもよい。
【0064】
ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異としては、具体的には、例えば、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1417位のアスパラギン(N)の変異、好ましくは第1417位のアスパラギン(N)のヒスチジン(H)への変異(表1における「N1417H」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4249位のアデニン(A)の変異、好ましくは第4249位のアデニン(A)のシトシン(C)への置換(A4249C)によってもたらされる。
【0065】
また、別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1027位のリジン(K)の変異、好ましくは第1027位のリジン(K)のストップコドンへの変異(表1における「K1027X」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3079位のアデニン(A)の変異、好ましくは第3079位のアデニン(A)のチミン(T)への置換(A3079T)によってもたらされる。
【0066】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1450位のグルタミン(Q)の変異、好ましくは第1450位のグルタミン(Q)のアルギニン(R)への変異(表1における「Q1450R」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4349位のアデニン(A)の変異、好ましくは第4349位のアデニン(A)のグアニン(G)への置換(A4349G)によってもたらされる。
【0067】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1082位のスレオニン(T)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1086位に終止コドンを生じる変異(表1における「T1082fsX1086」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3245位のシトシン(C)の変異、好ましくは第3245位のシトシン(C)の欠失(C3245del)によってもたらされる。
【0068】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第547位のリジン(K)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第570位に終止コドンを生じる変異(表1における「K547fsX570」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第1641位の変異、好ましくは第1641位へのアデニン(A)の挿入(1641insA)によってもたらされる。
【0069】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第707位のプロリン(P)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第714位に終止コドンを生じる変異(表1における「P707fsX714」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2120位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2120位のシトシン(C)の欠失(C2120del)によってもたらされる。
【0070】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第712位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第712位のアルギニン(R)のストップコドンへの変異(表1における「R712X」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2134位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2134位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C2134T)によってもたらされる。
【0071】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1265位のロイシン(L)の変異、好ましくは第1265位のロイシン(L)のプロリン(P)への変異(表1における「L1265P」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3794位のチミン(T)の変異、好ましくは第3794位のチミン(T)のシトシン(C)への置換(T3794C)によってもたらされる。
【0072】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第460位〜第554位のアミノ酸の欠失(表1における「Exon10」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第1378位〜第1662位のヌクレオチド(エキソン10)の欠失によってもたらされる。
【0073】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第865位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第865位のアルギニン(R)のストップコドンへの変異(表1における「R865X」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2593位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2593位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C2593T)によってもたらされる。
【0074】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1648位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第1648位のアルギニン(R)のシステイン(C)への置換(表1における「R1648C」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4942位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4942位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C4942T)によってもたらされる。
【0075】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第931位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第931位のアルギニン(R)のシステイン(C)への置換(表1における「R931C」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2791位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2791位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C2791T)によってもたらされる。
【0076】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第501位のアルギニン(R)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第543位に終止コドンを生じる変異(表1における「R501fsX543」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第1502位のグアニン(G)の変異、好ましくは第1502位のグアニン(G)の欠失(G1502del)によってもたらされる。
【0077】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1002位のアラニン(A)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1009位に終止コドンを生じる変異(表1における「A1002fsX1009」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3006位のシトシン(C)の変異、好ましくは第3006位のシトシン(C)の欠失によってもたらされる。
【0078】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第902位のフェニルアラニン(F)の変異、好ましくは第902位のフェニルアラニン(F)のシステイン(C)への変異(表1における「F902C」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2705位のチミン(T)の変異、好ましくは第2705位のチミン(T)のグアニン(G)への置換(T2705G)によってもたらされる。
【0079】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1674位のグリシン(G)の変異、好ましくは第1674位のグリシン(G)のアルギニン(R)への置換(表1における「G1674R」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第5020位のグアニン(G)の変異、好ましくは第5020位のグアニン(G)のシトシン(C)への置換(G5020C)によってもたらされる。
【0080】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1390位のバリン(V)の変異、好ましくは第1390位のバリン(V)のメチオニン(M)への変異(表1における「V1390M」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4168位のグアニン(G)の変異、好ましくは第4168位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G4168A)によってもたらされる。
【0081】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第607位のセリン(S)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第622位に終止コドンを生じる変異(表1における「S607fsX622」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第1820位のシトシン(C)の変異、好ましくは第1820位のシトシン(C)の欠失(C1820del)によってもたらされる。
【0082】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1434位のトリプトファン(W)の変異、好ましくは第1434位のトリプトファン(W)のアルギニン(R)への置換(表1における「W1434R」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4300位のチミン(T)の変異、好ましくは第4300位のチミン(T)のシトシン(C)への置換(T4300C)によってもたらされる。
【0083】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1909位のスレオニン(T)の変異、好ましくは第1909位のスレオニン(T)のイソロイシン(I)への置換(表1における「T1909I」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第5726位のシトシン(C)の変異、好ましくは第5726位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C5726T)によってもたらされる。
【0084】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1289位のフェニルアラニン(F)の変異、好ましくは第1289位のフェニルアラニン(F)欠失(表1における「F1289del」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3867位のシトシン(C)、第3868位のチミン(T)および第3869位のチミン(T)の変異、好ましくは第3867位のシトシン(C)、第3868位のチミン(T)および第3869位のチミン(T)の欠失によってもたらされる。
【0085】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1271位のトリプトファン(W)の変異、好ましくは第1271位のトリプトファン(W)のストップコドンへの変異(表1における「W1271X」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3812位のグアニン(G)の変異、好ましくは第3812位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G3812A)によってもたらされる。
【0086】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1429位のアラニン(A)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1443位に終止コドンを生じる変異(表1における「A1429fsX1443」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4286位から第4290位間の5塩基CCACAの変異、好ましくは第4286位から第4290位間のCCACAのATGTCCへの置換によってもたらされる。
【0087】
また、別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1880位のグリシン(G)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1881位に終止コドンを生じる変異(表1における「G1880fsX1881」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第5640位から第5645位間の6塩基AGAGATの変異、好ましくは第5640位から第5645位間の6塩基AGAGATのCTAGAGTAへの置換によってもたらされる。
【0088】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1685位のアラニン(A)の変異、好ましくは第1685位のアラニン(A)のアスパラギン酸(D)への置換(表1における「A1685D」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第5054位のシトシン(C)の変異、好ましくは第5054位のシトシン(C)のアデニン(A)への置換(C5054A)によってもたらされる。
【0089】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第377位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第377位のアルギニン(R)のロイシン(L)への置換(表1における「R377L」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第1130位のグアニン(G)の変異、好ましくは第1130位のグアニン(G)のチミン(T)への置換(G1130T)によってもたらされる。
【0090】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1574位のセリン(S)の変異、好ましくは第1574位のセリン(S)のストップコドンへの変異(表1における「S1574X」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4721位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4721位のシトシン(C)のグアニン(G)への置換(C4721G)によってもたらされる。
【0091】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1277位のグルタミン(Q)の変異、好ましくは第1277位のグルタミン(Q)のストップコドンへの変異(表1における「Q1277X」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3829位のシトシン(C)の変異、好ましくは第3829位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C3829T)によってもたらされる。
【0092】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第177位のグリシン(G)の変異、好ましくは第177位のグリシン(G)のアルギニン(R)への変異(表1における「G177R」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第529位のグアニン(G)の変異、好ましくは529位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G529A)によってもたらされる。
【0093】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第788位のグルタミン酸(E)の変異、好ましくは第788位のグルタミン酸(E)のリシン(K)への置換(表1における「E788K」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2362位のグアニン(G)の変異、好ましくは第2362位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G2362A)によってもたらされる。
【0094】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1429位以降のスプライシング異常、好ましくは第1429位以降の欠失(表1における「intron 21」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4284位と4285位との間のゲノムDNAに存在するイントロン21のうち、最後から2つ目の位置(−2位)のアデニン(A)の変異、好ましくはイントロン21の最後から2つ目の位置(−2位)のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異(イントロン21 ag(−2)gg)によってもたらされる。つまり、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4284(エキソン21)と4285位(エキソン22)の間のゲノムDNAに存在するイントロン21の最後から2つの塩基配列はagであり、エキソン22の始めにつながる。一般的に、イントロン21の上記agはスプライシングを受ける認識配列であるため、ここに異常があると、イントロンがまだ続いているとみなされ、その直後のエキソン(もしくはその下流)は異常なスプライシングを生じてしまい、全長のタンパク質ができなくなってしまう。
【0095】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1574位のセリン(S)の変異、好ましくは第1574位のセリン(S)のストップコドンへの変異(表1における「S1574X」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4721位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4721位のシトシン(C)のグアニン(G)への置換によってもたらされる。
【0096】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第212位のバリン(V)の変異、好ましくは第212位のバリン(V)のアラニン(A)への置換(表1における「V212A」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第635位のチミン(T)の変異、好ましくは第635位のチミン(T)のシトシン(C)への置換(T635C)によってもたらされる。
【0097】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1539位のスレオニン(T)の変異、好ましくは第1539位のスレオニン(T)のプロリン(P)への変異(表1における「T1539P」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4615位のアデニン(A)の変異、好ましくは第4615位のアデニン(A)のシトシン(C)への置換(A4615C)によってもたらされる。
【0098】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第738位のトリプトファン(W)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第746位に終止コドンを生じる変異(表1における「W738fsX746」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2213位のグアニン(G)の変異、好ましくは第2213位のグアニン(G)の欠失(G2213del)によってもたらされる。
【0099】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第990位のロイシン(L)の変異、好ましくは第990位のロイシン(L)のフェニルアラニン(F)への変異(表1における「L990F」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2970位のグアニン(G)の変異、好ましくは第2970位のグアニン(G)のチミン(T)への置換(G2970T)によってもたらされる。
【0100】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第163位のグリシン(G)の変異、好ましくは第163位のグリシン(G)のグルタミン酸(E)への変異(表1における「G163E」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第488位のグアニン(G)の変異、好ましくは第488位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G488A)によってもたらされる。
【0101】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1662位のアラニン(A)の変異、好ましくは第1662位のアラニン(A)のバリン(V)への変異(表1における「A1662V」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第4985位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4985位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C4985T)によってもたらされる。
【0102】
さらに別の実施形態として、配列番号1に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1057位のリジン(K)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1073位に終止コドンを生じる変異(表1における「K1057fsX1073」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号2に示されるナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3170位から第3183位の間の14塩基(AGAAAGACAGTTGT)の変異、好ましくは第3170位から第3183位の間の14塩基のTCATTCTGTATGへの置換によってもたらされる。
【0103】
電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型の変異は、上記例示的に示した変異に限定されないことはいうまでもない。
【0104】
カルシウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異としては、具体的には、例えば、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第249位のメチオニン(M)の変異、好ましくは第249位のメチオニン(M)のリジン(K)への変異(表2における「M249K」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第746位のチミジン(T)の変異、好ましくは第746位のチミジン(T)のアデニン(A)に置換された変異(T746A)によってもたらされる。
【0105】
また、別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第921位のグルタミン酸(E)の変異、好ましくは第921位のグルタミン酸(E)のアスパラギン酸(D)への変異(表2における「E921D」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2762位のアデニン(A)の変異、好ましくは第2762位のアデニン(A)のシトシン(C)への置換(A2762C)によってもたらされる。
【0106】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第996位のグルタミン酸(E)の変異、好ましくは第996位のグルタミン酸(E)のバリン(V)への変異(表2における「E996V」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2987位のアデニン(A)の変異、好ましくは第2987位のアデニン(A)のチミン(T)への置換(A2987T)によってもたらされる。
【0107】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1126位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第1126位のアルギニン(R)のヒスチジン(H)への変異(表2における「R1126H」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3377位のグアニン(G)の変異、好ましくは第3377位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G3377A)によってもたらされる。
【0108】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第2201位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第2201位のアルギニン(R)のグルタミン(Q)への変異(表2における「R2201Q」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第6602位のグアニン(G)の変異、好ましくは第6602位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G6602A)によってもたらされる。
【0109】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第1108位のグリシン(G)の変異、好ましくは第1108位のグリシン(G)のセリン(S)への変異(表2における「G1108S」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第3322位のグアニン(G)の変異、好ましくは第3322位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G3322A)によってもたらされる。
【0110】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第924位のアラニン(A)の変異、好ましくは第924位のアラニン(A)のグリシン(G)への変異(表2における「A924G」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第2771位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2771位のシトシン(C)のグアニン(G)への置換(C2771G)によってもたらされる。
【0111】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第266位のグリシン(G)の変異、好ましくは第266位のグリシン(G)のセリン(S)への変異(表2における「G266S」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第796位のグアニン(G)の変異、好ましくは第796位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G796A)によってもたらされる。
【0112】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第472位のリジン(K)の変異、好ましくは第472位のリジン(K)のアルギニン(R)への変異(表2における「K472R」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第1415位のアデニン(A)の変異、好ましくは第1415位のアデニン(A)のグアニン(G)への置換(A1415G)によってもたらされる。
【0113】
さらに別の実施形態として、配列番号3に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニットのアミノ酸配列における第2202位から第2205位のアミノ酸の欠失(表2における「del2202−2205」)を挙げることができる。この変異は、例えば、配列番号4に示されるカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の塩基配列における第6605位から第6616位のACCAGGAGCGGGの変異、好ましくは第6605位から第6616位のACCAGGAGCGGGの欠失(del6605−6616)によってもたらされる。
【0114】
電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の機能異常に関与する変異は、上記例示的に示した変異に限定されないことはいうまでもない。
【0115】
上述したナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異を、それぞれ表1および表2にまとめた。
【0118】
本発明に係る判定方法では、上記ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異は、具体的には、表1に記載の変異の1つ以上であり、上記カルシウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異は、具体的には、表2に記載の変異の1つ以上であることが好ましい。
【0119】
本発明に係る判定方法において、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0120】
ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の両方における変異の有無を検出する場合は、例えば、PCRを利用したDNAシークエンス法、SSCP(Single strand conformation polymorphism)、DHPLC法(denaturing high performance liquid chromatography)等の変異検出法;リアルタイムPCRやDNAチップを用いた多型検出方法;遺伝子の各エキソンのmicro−deletionを検出する方法;mRNAの増減を検出する、Northern blot法、RT−PCR法、Real-time PCR法、およびcDNAアレイ法等を挙げることができる。また、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質の両方における変異の有無を検出する場合は、例えば、ウエスタンブロット法、免疫染色法、タンパクアレイ法等を挙げることができる。
【0121】
以下に、(A)被験体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて遺伝子の変異を検出する実施形態、(B)被験体から分離された試料に含有されるmRNA(cDNA)を用いて遺伝子の変異を検出する実施形態、および(C)被験体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いてタンパク質の変異を検出する実施形態に分けて、より具体的に説明する。
【0122】
(A)ゲノムDNAを用いる実施形態
被験体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて遺伝子の変異を検出する実施形態では、まず、被験体から分離された試料から、従来公知の方法を用いて、ゲノムDNAを抽出する。
【0123】
上記「被験体から分離された試料」としては、特に限定されるものではなく、ゲノムDNAを抽出可能なものを用いることができる。具体的には、例えば、血液、口腔粘膜細胞、骨髄液、毛髪、各臓器、末梢リンパ球、滑膜細胞等を挙げることができる。また、被験体から分離した細胞を培養し、増殖させた細胞からゲノムDNAを抽出してもよい。
【0124】
また、抽出したゲノムDNAは、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、およびICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法等の通常行われる遺伝子増幅法により増幅して用いてもよい。
【0125】
こうして調製されたゲノムDNAを含有する試料を用いて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の両方における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、アリル特異的オリゴヌクレオチドプローブ法、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(Oligonucleotide Ligation Assay)法、PCR−SSCP法、PCR−CFLP法、PCR−PHFA法、インベーダー法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、プライマーオリゴベースエクステンション(Primer Oligo Base Extension)法等を挙げることができる。
【0126】
より具体的には、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異を検出するためのポリヌクレオチド、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異を検出するためのポリヌクレオチドを用いて、ゲノムDNAから、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の両方における変異の有無を検出する。
【0127】
上記「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異を検出するためのポリヌクレオチド」とは、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子における特定の領域(例えば、エキソンを含む領域、またはエキソンとイントロンとの境界領域等)と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドを意図している。上記「電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異を検出するためのポリヌクレオチド」とは、カルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子における特定の領域(例えば、エキソンを含む領域、またはエキソンとイントロンとの境界領域等)と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドを意図している。
【0128】
上記「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異を検出するためのポリヌクレオチド」としては、具体的には、例えば、配列番号5,6,9〜62に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。また、上記「電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異を検出するためのポリヌクレオチド」としては、具体的には、例えば、配列番号7,8,63〜143に示す塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0129】
かかるポリヌクレオチドは、2種類を組み合わせてプライマー対として用いてもよく、1種類をプローブとして用いてもよい。2種類を組み合わせてプライマー対として用いる場合は、後述する実施例に示す組合せにて用いることができる。
【0130】
これらのポリヌクレオチドを2種類組み合わせてプライマー対として用いる場合は、例えば、上記遺伝子における特定の領域を、対応するプライマー対を用いて、PCR法を用いて増幅し、その後、得られたPCR産物をダイレクトシークエンスすることによって上記遺伝子における変異の有無を検出することができる。
【0131】
また、蛍光標識したポリヌクレオチドを2種類組み合わせてプライマー対として用いて、上記遺伝子の特定の領域を、PCR法を用いて増幅し、その後、得られたPCR産物をゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動を行い、各シグナルの強さを検討する方法により、上記遺伝子における変異の有無を検出することも可能である。
【0132】
また、これらのポリヌクレオチドの1種類を単独でプローブとして用いる場合は、例えば、ゲノムDNAを適当な制限酵素で消化し、切断されたゲノムDNA断片のサイズの違いをサザンブロッティング等で検出することによっても、遺伝子における変異の有無を検出することができる。
【0133】
このように、被験体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子と、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子との両方における変異の有無を検出することにより、被験体がDravet症候群の発症の可能性を判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の両方において変異が見出された場合には、この被験体はDravet症候群の発症の可能性が高いと判定することができる。
【0134】
尚、変異の検出方法において使用されるプライマー対およびプローブは、常法により、DNAシンセサイザー等により作製することができる。
【0135】
(B)mRNA(cDNA)を用いる実施形態
被験体から分離された試料に含有されるmRNAを用いて変異を検出する実施形態では、まず、被験体から分離された試料から、従来公知の方法を用いて、mRNAを抽出する。
【0136】
上記「被験体から分離された試料」としては、特に限定されるものではなく、mRNAを抽出可能であり、変異を検出する対象となる遺伝子を発現している、または発現している可能性があるものを用いることができる。上記「被験体から分離された試料」は、例えば、患者の末梢血白血球細胞、皮膚線維芽細胞、口腔粘膜細胞、神経細胞または筋細胞であることが好ましい。
【0137】
続いて、その抽出したmRNAから逆転写反応によってcDNAを作製する。さらに、得られたcDNAを必要に応じて、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、およびICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法等の通常行われる遺伝子増幅法により増幅してもよい。
【0138】
こうして調製されたcDNAを含有する試料を用いて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の両方における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記「(A)ゲノムDNAを用いる実施形態」で説明した、ゲノムDNAを用いて遺伝子の変異を検出する場合と同様の方法を用いて、変異を検出する対象となる遺伝子の変異の有無を検出することができる。
【0139】
このように、被験体から分離された試料に含有されるmRNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の両方における変異の有無を検出することにより、被験体がDravet症候群の発症の可能性を判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子の両方において変異が見出された場合には、この被験体はDravet症候群の発症の可能性が高いと判定することができる。
【0140】
(C)タンパク質を用いる実施形態
被験体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて変異を検出する実施形態では、まず、被験体から分離された試料から、従来公知の方法を用いて、タンパク質を抽出する。
【0141】
上記被験体から分離された試料は、特に限定されるものではなく、タンパク質を抽出可能であり、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質の両方を発現している、または発現している可能性があるものであればよい。
【0142】
こうして調製されたタンパク質を含有する試料を用いて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質の両方における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、特定の変異を有するタンパク質のみを特異的に認識する抗体を作製し、当該抗体を用いたELISA法やウエスタンブロット法により変異を検出することができる。尚、本明細書において、用語「タンパク質」は、「ポリペプチド」または「ペプチド」と交換可能に使用される。
【0143】
また、上記タンパク質を含有する試料から、変異を検出する対象となるタンパク質を単離し、単離したタンパク質を、直接または必要に応じて、酵素等で消化し、プロテインシークエンサーや、質量分析装置を利用して変異を検出することができる。または、単離したタンパク質の等電点に基づいて、変異を検出することもできる。
【0144】
このように、被験体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質の両方における変異の有無を検出することにより、被験体がDravet症候群の発症の可能性を判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットタンパク質の両方における変異が見出された場合には、この被験体はDravet症候群の発症の可能性が高いと判定することができる。
【0145】
(1−2.活性の変化を確認する工程)
本明細書において、上記「活性の変化を確認する工程」とは、上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が変化していることを確認する工程と、上記電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化していることを確認する工程とを指している。
【0146】
後述する実施例に示すように、上記ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、および上記カルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方における変異によって、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の両方の活性が変化することが、Dravet症候群の発症と関連していると考えられる。このため、上記ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異の位置は特に限定されるものではないが、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性を変化させる位置における変異であることが好ましい。また、上記カルシウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異の位置は特に限定されるものではないが、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性を変化させる位置における変異であることが好ましい。
【0147】
ここで、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性とは、具体的には、膜電位依存性に細胞内へのナトリウムイオン(Na
+)を透過させる活性である。上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性の変化は、特に限定されるものではなく、活性の亢進であってもよいし、活性の低下であってもよい。すなわち、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性の異常を示す変化であればよい。
【0148】
尚、本明細書において、「電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が変化している」とは、野生型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性と比較して、変異を有するナトリウムイオンチャネルα1サブユニットを含む変異型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が、有意差検定により統計的に有意差を示す値であることを指し、好ましくは、Student’s t検定によりp≦0.05であることを指す。
【0149】
また、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性とは、具体的には、膜電位依存性に細胞内へのカルシウムイオン(Ca
2+)を透過させる活性である。上記電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の機能の変化は、特に限定されるものではなく、活性の亢進であってもよいし、活性の低下であってもよい。すなわち、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性の異常を示す変化であればよい。
【0150】
尚、本明細書において、「電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化している」とは、野生型の電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性と比較して、変異を有するカルシウムイオンチャネルα1サブユニットを含む変異型の電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が、有意差検定により統計的に有意差を示す値であることを指し、好ましくは、Student’s t検定によりp≦0.05であることを指す。
【0151】
変異によって上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が変化していることを確認する方法としては、例えば、変異を有するナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子と、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1を構成する、上記α1サブユニット以外のサブユニット(β
1サブユニットおよびβ
2サブユニット)をコードする遺伝子(β
1サブユニット遺伝子およびβ
2サブユニット遺伝子)の野生型とを、発現ベクター等を用いて、培養細胞内において共発現させ、得られた培養細胞を用いて、変異を有する電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性を測定し、野生型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性と比較することによって、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が変化していることを確認することができる。電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば、従来公知のパッチクランプ法、蛍光プローブ等を用いたイメージング法等を用いることができる。
【0152】
変異によって上記電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化していることを確認する方法としては、変異を有するカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子と、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1を構成する、上記α1サブユニット以外のサブユニット(βサブユニット、γサブユニット、およびα2δサブユニット)をコードする遺伝子(βサブユニット遺伝子、γサブユニット遺伝子、およびα2δサブユニット遺伝子)の野生型とを、発現ベクター等を用いて、培養細胞内において共発現させ、得られた培養細胞を用いて、変異を有する電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性を測定し、野生型の電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性と比較することによって、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化していることを確認することができる。電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば、従来公知のパッチクランプ法、および、光プローブやカルシウムインジケーター、ケージド化合物を用いたイメージング法等を用いることができる。
【0153】
本発明に係る判定方法は、上述した構成を備えているため、被験体がDravet症候群を発症する可能性を判定するためのデータを取得することができる。そのため、本発明に係る判定方法によれば、予後不良のDravet症候群を、高精度に、且つ早期に発見することが可能となり、Dravet症候群の患者に対して、早期から、てんかん専門医による治療管理体制を整えることができる。この結果、患者の治療成績の向上、家族の精神的負担の軽減、および経済的負担の軽減が可能となる。さらには、Dravet症候群の患者に対して適切な治療を施すことができるので、医療費を削減することができる。
【0154】
〔2.本発明に係るキット〕
本発明には、本発明に係る判定方法を用いて、Dravet症候群の発症の可能性を判定するためのキット(以下、単に「本発明に係るキット」ともいう)も含まれる。
【0155】
本発明に係るキットは、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出するための試薬と、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異の有無を検出するための試薬とを少なくとも含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0156】
上記「1.本発明に係る判定方法」の項で述べたように、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型の両方における変異の有無を検出するためには、(A)被験体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて変異を検出する、(B)被験体から分離された試料に含有されるmRNA(cDNA)を用いて変異を検出することが考えられる。
【0157】
従って、本発明に係るキットとしては、被験体から分離された試料に含有されるゲノムDNAまたは被験体から分離された試料に含有されるmRNA(cDNA)を用いて変異を検出するために、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異を検出するための、ポリヌクレオチドと、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異を検出するための、ポリヌクレオチドとを備えている。このようなポリヌクレオチドは、例えば、プライマー対、プローブとして用いることができる。これらのポリヌクレオチドは、単独で含まれてもよく、また、複数の組合せで含まれていてもよい。
【0158】
本発明に係るキットとしては、(A)被験体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて変異を検出するキット、および(B)被験体から分離された試料に含有されるmRNA(cDNA)を用いて変異を検出するキットが含まれる。上記(A)または(B)のそれぞれのキットの形態に含まれる試薬について、以下に具体的に説明する。
【0159】
(A)被験体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて変異を検出するキット
例えば、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットおよびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットについて、それぞれの遺伝子のゲノムDNAまたはその一部の領域を増幅できるように設計されたプライマー対や、変異型または野生型の一方のゲノムDNAのみを特異的に検出できるように設計されたプローブを含む構成を挙げることができる。これらのポリヌクレオチドは、上記「1.本発明に係る判定方法」の「(A)ゲノムDNAを用いる実施形態」の項で説明したとおりであるので、ここでは説明は省略する。
【0160】
さらに、このようなキットでは、上記プライマー対やプローブに加えて、PCR法やサザンブロット法、核酸シークエンシングに用いられる試薬等、上記遺伝子における変異の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
【0161】
尚、上記試薬は、本発明の検出方法に応じて適宜選択採用されるが、例えば、dATP、dCTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素等を挙げることができる。さらに、本発明に係るキットには、PCR法やサザンブロット法、核酸シークエンシングに用いることが可能な適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
【0162】
(B)被験体から分離された試料に含有されるmRNA(cDNA)を用いて変異を検出するキット
例えば、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットおよびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットについて、それぞれの遺伝子のcDNAまたはその一部の領域を増幅できるように設計されたプライマー対や、変異型または野生型の一方のmRNAのみを特異的に検出できるように設計されたプローブを含む構成を挙げることができる。このようなポリヌクレオチドは、上記「1.本発明に係る判定方法」の「((B)mRNA(cDNA)を用いる実施形態」の項で説明したとおりであるので、ここでは説明は省略する。
【0163】
さらに、このようなキットでは、上記プライマー対やプローブに加えて、RT−PCR法やノザンブロット法、核酸シークエンシングに用いられる試薬等、上記遺伝子における変異の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
【0164】
尚、上記試薬は、本発明の検出方法に応じて適宜選択採用されるが、例えば、dATP、dCTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素等を挙げることができる。さらに、本発明に係るキットには、RT−PCR法やノザンブロット法、核酸シークエンシングに用いることが可能な適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
【0165】
本発明に係るキットは、上記例示した構成物をどのように組み合わせて含んでいてもよい。さらに、上記キットは、上記例示する試薬以外のその他の試薬を含んでいてもよい。
【0166】
上記「1.本発明に係る判定方法」の項で述べたように、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方における変異の有無を検出するためには、(C)被験体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて変異を検出することも考えられる。
【0167】
従って、本発明に係るキットには、例えば、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットおよびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットについて、それぞれのタンパク質のうち、野生型または変異型のタンパク質のみに特異的に結合する抗体が含まれていてもよい。さらに、上記抗体に加えて、ELISA法や、ウエスタンブロット法に用いられる試薬等を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
【0168】
さらに、本発明に係るキットは、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性測定に用いられる試薬、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性測定に用いられる試薬等を含んでいてもよい。
【0169】
上説したような本発明に係るキットを用いることにより、被験体がDravet症候群の発症の可能性を判定するためのデータを容易に取得することができる。本発明に係るキットが適用される被験体は、特に限定されるものではないが、乳幼児、または小児に適用することが好ましい。
【0170】
〔3.本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物およびその作製方法〕
本発明には、Dravet症候群の発症モデル動物、およびその作製方法も含まれる。
【0171】
(3−1.本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物)
本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物は、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方において変異を有する。ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異については、上記「1.本発明に係る判定方法」の項で説明したとおりであるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0172】
上記Dravet症候群の発症モデル動物では、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性の両方が、野生型の動物と比較して変化していることが好ましい。この活性の変化は特に限定されるものではなく、活性の亢進であってもよいし、活性の低下であってもよい。本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物が有する電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が、野生型と比較して変化しているかどうかを確認する方法、および本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物が有する電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の両方における活性が、野生型と比較して変化しているかどうかを確認する方法は、特に限定されない。例えば、本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物の個体または、本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物から採取した細胞において、従来公知のパッチクランプ法、スライスパッチ法、蛍光プローブ等を用いたイメージング法等を用いて活性を測定することによって確認することができる。
【0173】
本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物は、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方に変異が導入されているため、Dravet症候群を発症する。このようなDravet症候群の発症モデル動物は、難治性のDravet症候群の発症メカニズムの解明や、Dravet症候群の治療薬の開発等に有用に使用され得る。
【0174】
本明細書において、「モデル動物」とは、ヒトの疾患に対する予防法または治療法を開発するために用いられる実験動物をいい、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、サル、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、イヌ等の非ヒト哺乳動物、およびその他の脊椎動物が挙げられる。
【0175】
(3−2.本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物の製造方法)
本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物の作製方法としては、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットに変異を導入する工程と、カルシウムイオンチャネルα1サブユニットに変異を導入する工程とを含んでいる。
【0176】
具体的には、モデル動物が有する遺伝子を操作することによって、それぞれの遺伝子に変異を導入することができる。ここで、上記「モデル動物が有する遺伝子を操作する」とは、従来公知の遺伝子操作技術を用いて、モデル動物の遺伝子を操作することが意図される。具体的には、モデル動物の遺伝子を破壊したり、当該遺伝子に変異を導入したり、当該遺伝子を変異型遺伝子で置換したり、さらには、当該モデル動物に外来遺伝子を導入したり、モデル動物を交雑したりすることをすべて包含する意味である。
【0177】
本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物の作製方法では、上述した工程以外の工程を含んでいてもよい。具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については、特に限定されるものではない。
【0178】
本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物の製造方法によれば、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方において、変異が導入されるように、モデル動物が有するこれらの遺伝子を操作することにより、Dravet症候群を発症したモデル動物を製造することができる。
【0179】
〔4.本発明に係る細胞およびその製造方法〕
本発明には、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方において変異を有する細胞、およびその製造方法も含まれる。
【0180】
(4−1.本発明に係る細胞)
本発明に係る細胞は、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方において変異を有する細胞である。ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットにおける変異については、上記「1.本発明に係る判定方法」の項で説明したとおりであるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0181】
本発明に係る細胞としては、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方において変異を有する実験用の培養細胞が意図される。具体的には、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル等の哺乳動物、およびその他の脊椎動物に由来する実験用の培養細胞が挙げられる。
【0182】
このような細胞では、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性の両方が変化していることが好ましい。この活性の変化は特に限定されるものではなく、活性の亢進であってもよいし、活性の低下であってもよい。本発明に係る細胞が有する電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が、野生型と比較して変化しているかどうかを確認する方法、および本発明に係る細胞が有する電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の両方における活性が、野生型と比較して変化しているかどうかを確認する方法は、上記「1.本発明に係る判定方法」の項で説明したとおりであるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0183】
このような細胞は、難治性のDravet症候群の発症メカニズムの解明や、Dravet症候群の治療薬の開発等に有用に使用され得る。例えば、Dravet症候群の治療薬剤のスクリーニングに好適に用いることができる。つまり、このような細胞は、Dravet症候群の治療薬剤のスクリーニング細胞ともいうことができる。従って、本発明には、Dravet症候群の治療薬剤のスクリーニング細胞(以下、単に「スクリーニング細胞」ともいう)およびその製造方法も含まれる。
【0184】
(4−2.本発明に係る細胞の製造方法)
本発明に係る細胞の製造方法は、上記の特性を有する細胞を製造する方法であり、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットに変異を導入する工程と、カルシウムイオンチャネルα1サブユニットに変異を導入する工程とを含んでいる。より具体的には、以下の3つの実施形態を挙げることができる。ここでは、以下の3つの実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0185】
(1)発現ベクター等を用いる方法
この方法では、変異型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1および変異型の電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1を発現する細胞を、発現ベクター等を用いて作製する。具体的に説明すると、変異型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1を細胞に発現させるために、例えば、アミノ酸変化を伴う変異を有するナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子と、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1を構成する、上記α1サブユニット以外のサブユニット(β
1サブユニットおよびβ
2サブユニット)をコードする遺伝子(β
1サブユニット遺伝子およびβ
2サブユニット遺伝子)の野生型とを、発現ベクター等を用いて、宿主となる培養細胞内において共発現させる。これにより、変異型のナトリウムイオンチャネルα1サブユニットを含む変異型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1を、細胞に発現させることができる。
【0186】
同様に、変異型の電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1を細胞に発現させるために、例えば、アミノ酸変化を伴う変異を有するカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子と、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1を構成する、上記α1サブユニット以外のサブユニット(βサブユニット、γサブユニット、およびα2δサブユニット)をコードする遺伝子(βサブユニット遺伝子、γサブユニット遺伝子、およびα2δサブユニット遺伝子)の野生型とを、発現ベクター等を用いて、宿主となる培養細胞内において共発現させる。これにより、変異型のカルシウムイオンチャネルα1サブユニットを含む変異型の電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1を、細胞に発現させることができる。
【0187】
このとき、宿主となる培養細胞は、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1が発現していない細胞であることが好ましい。このような細胞を用いれば、内在の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1、および内在の電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の影響を受けることがない。
【0188】
(2)人為的な変異導入を用いる方法
この方法では、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の両方を発現している培養細胞において、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方に変異を導入する。これにより、本発明に係る細胞を製造することができる。
【0189】
上記培養細胞に変異を導入する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の遺伝子操作技術を適宜組み合わせて用いればよい。
【0190】
(3)本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物を用いる方法
この方法では、上述した本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物から組織を摘出し、その組織から培養細胞を作製する。本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物については、上記「3.本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物およびその作製方法」の項で説明したとおりであるので、ここでは、詳細な説明は省略する。当然のことながら、摘出される上記「組織」とは、変異が導入されたナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、および変異が導入されたカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方が発現している組織を意図している。
【0191】
これにより、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット、およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方において変異を有する細胞を容易に製造することができる。Dravet症候群の発症モデル動物から摘出する組織の種類は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0192】
本発明に係る細胞の製造方法では、上述した工程以外の工程を含んでいてもよい。具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については、特に限定されるものではない。
【0193】
〔5.Dravet症候群の治療薬剤のスクリーニング方法〕
本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物および本発明に係る細胞は、新たなDravet症候群の治療方法や治療薬剤の開発に用いることができる。したがって、本発明には、Dravet症候群の治療薬の治療薬剤をスクリーニングするDravet症候群の治療薬剤のスクリーニング方法(以下、「本発明に係るスクリーニング方法」ともいう)が含まれる。
【0194】
ここでは、本発明に係るスクリーニング方法の一実施形態として、本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物を用いる実施形態と、本発明に係るスクリーニング細胞を用いる実施形態とについて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0195】
すなわち、例えば、本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物に代えて、他のDravet症候群の発症モデル動物を用いる実施形態とすることもできる。
【0196】
(1)本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物を用いる場合
本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物に候補薬剤を投与する工程と、当該候補薬剤が投与されたDravet症候群の発症モデル動物における、Dravet症候群が改善または治癒されたか否かを判定する工程とを含んでいればよい。
【0197】
つまり、本発明に係るDravet症候群の治療薬剤のスクリーニング方法によれば、Dravet症候群の発症モデル動物に候補薬剤を投与し、当該候補薬剤を投与されたDravet症候群の発症モデル動物において、Dravet症候群が改善または治癒していることを指標として、上記候補薬剤がDravet症候群の治療薬剤となりうるかを判定することができる。
【0198】
尚、候補薬剤が投与されたDravet症候群の発症モデル動物における、Dravet症候群が改善または治癒されたか否かを判定する方法は特に限定されるものではなく、Dravet症候群に特徴的な症状を指標に判定すればよい。例えば、後述する実施例に示した「けいれん発症時の体温(けいれん閾値)」、「重症度スコア」、「けいれんの持続時間」等について、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子およびカルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を有さない対照動物(つまり、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型の両方において変異を有さない動物)と、本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物とを比較することによって、Dravet症候群が改善または治癒していることを確認することができる。
【0199】
上記候補薬剤は、特に限定されるものではないが、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の発現および/または電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の発現に影響を及ぼすことが期待される化合物、または電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性および/または電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性に影響を及ぼすことが期待される化合物(例えば、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の両方に効果を有する阻害剤や阻害剤の候補物質、または作動薬や作動薬の候補物質)であることが好ましい。
【0200】
また、上記候補薬剤は、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子もしくはその核酸配列の一部からなるポリヌクレオチドを含む発現プラスミドベクターもしくはウイルスベクターであってもよい。また、カルシウムイオンチャネルα1サブユニット遺伝子もしくはその核酸配列の一部からなるポリヌクレオチドを含む発現プラスミドベクターもしくはウイルスベクターであってもよい。
【0201】
このような候補薬剤を、本発明に係るDravet症候群発症モデル動物に投与する方法は、特に限定されるものではなく、その候補薬剤の物性等に応じて、それに適した方法を従来公知のものから選択して用いればよい。
【0202】
(2)本発明に係るスクリーニング細胞を用いる場合
本発明に係るスクリーニング細胞に候補薬剤を投与する工程と、当該候補薬剤が投与されたDravet症候群の治療薬剤のスクリーニング細胞において、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性および/または電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化したかを判定する工程とを少なくとも含む。
【0203】
つまり、本実施形態に係るスクリーニング方法によれば、本発明に係るスクリーニング細胞に候補薬剤を投与し、当該候補薬剤を投与されたスクリーニング細胞における電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性および/または電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化していることを指標として、上記候補薬剤がDravet症候群の治療薬剤となりうるかを判定することができる。
【0204】
また、当該候補薬剤が投与されたスクリーニング細胞における電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が変化したか否かを判定する方法、および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化したか否かを判定する方法は特に限定されるものではなく、電気生理学的測定機器や蛍光色素観察機器等を用いて判定すればよい。
【0205】
上記候補薬剤は、特に限定されるものではなく、上記「(1)本発明に係るDravet症候群の発症モデル動物を用いる場合」の項で説明したものと同様の物質を挙げることができる。
【0206】
このような候補薬剤を本発明に係る細胞に投与する方法は、特に限定されるものではなく、その候補薬剤の物性等に応じて、それに適した方法を従来公知のものから選択して用いればよい。
【0207】
本発明に係る判定方法では、上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型における変異は、表1に記載の変異の1つ以上であり、
上記電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型における変異は、表2に記載の変異の1つ以上であることが好ましい。
【0208】
本発明に係る判定方法では、上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の活性が変化していることを確認する工程と、
上記電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の活性が変化していることを確認する工程とをさらに含むことが好ましい。
【0209】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0210】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0211】
〔実施例1:Dravet症候群の発症を予測する危険因子の同定〕
岡山大学医学部・歯学部附属病院および関連病院に来院したDravet症候群患者の47例の末梢血よりDNAを抽出し、各種遺伝子の変異について解析した。本研究は岡山大学「ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会」の承認を得て行われた。
【0212】
具体的には、DNA抽出キット(WB kit;Nippon gene, Tokyo, Japan)を用いて患者の末梢血からゲノムDNAを抽出し、全エキソンをPCRで増幅した。PCRは、50ng ヒトゲノムDNA、20pmol 各プライマー、0.8mM dNTPs、1×reaction buffer、1.5mM MgCl
2、0.7ユニット AmpliTaq Gold DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を含む25μlの反応液を用いた。用いたプライマー対の塩基配列(配列番号9〜62)は、後述する「プライマーの配列」の項を参照のこと。
【0213】
得られたPCR産物を、PCR products pre-sequencing kit(Amersham Biosciences, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)を用いて精製した。続いて、Big Dye Terminator FS ready-reaction kit(Applied Biosystems)を用いて、シークエンス反応を行い、蛍光シークエンサー(ABI PRISM3100 sequencer ;Applied Biosystems)を用いて、得られたPCR産物の塩基配列を決定した。
【0214】
まず、Dravet症候群患者47名について電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1を構成するαサブユニット1型(「α1サブユニット」とも称する)をコードするSCN1A遺伝子の遺伝子変異解析を行った。その結果、Dravet症候群患者47名のうち38名において、SCN1A遺伝子の変異を見出した。変異を検出できなかった9名の患者について、さらにMultiplex Ligation-dependent Probe Amplification法(MLPA;MRC-Holland社;SALSA MLPA kit P137)を用いてSCN1A遺伝子の遺伝子コピー数を解析した。その結果、患者1名において、エキソン10の欠失を検出した。SCN1A遺伝子の変異が検出されなかった患者は8名であった。SCN1A遺伝子に検出された変異は、表1に示したとおりである。
【0215】
次に、47名の患者のDNAを用いて、GABRG2遺伝子、CACNA1A遺伝子、CACNB4遺伝子、SCN1B遺伝子およびSCN3A遺伝子について遺伝子解析を行った。それぞれの遺伝子は、以下のタンパク質をコードしている。
【0216】
GABRG2:GABA
A受容体γ2サブユニット遺伝子
CACNA1A:電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のα1サブユニット
CACNB4:電位依存性カルシウムイオンチャネルのβ4サブユニット
SCN1B:電位依存性ナトリウムイオンチャネルのβ1サブユニット
SCN3A:電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.3のα3サブユニット
CACNA1A遺伝子の遺伝子解析に用いたプライマー対の塩基配列(配列番号63〜143)については、後述する「プライマーの配列」の項に示した。
【0217】
その結果、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1を構成するαサブユニット1型(「α1サブユニット」とも称する)をコードするCACNA1A遺伝子において、多種類の遺伝子変異を見出した(表2および
図12を参照)。
【0218】
表3にDravet症候群患者で検出されたSCN1AとCACNA1Aの遺伝子変異を示す。
【0219】
【表3】
【0220】
以下に記載の変異は、今回検出されたCACNA1A遺伝子の変異である。これらの変異は、アミノ酸置換を伴う変異、アミノ酸置換を伴わない変異、イントロンの変異であった。
(1)ミスセンス変異
G266S 1例
K472R 1例
E921D 11例
A924G 1例
E996V 11例
G1108S 3例
R1126H 4例
R2201Q 4例
(2)アミノ酸の欠失
4アミノ酸の欠失(deletion 2202−2205) 1例。
(3)エキソン中のアミノ酸変化を伴わない遺伝子変異
E292E(rs16006)、E394E(rs2248069)、I525I(rs16010)、T698T(rs16016)、R1023R(rs16025)、F1291F(rs16030)、T1458T(新規SNPまたは突然変異)、S1472S(新規SNPまたは突然変異)、V1890V(rs17846921)、H2225H(rs16051)
(4)イントロン中の遺伝子変異
エキソン1上流(rs16000)、イントロン1(rs16003)、イントロン3(rs17846942)、イントロン8(rs2306348)、イントロン11(rs10407951)、イントロン17(rs16018)、イントロン39(rs3816027)、イントロン40(rs17846925)、イントロン42(新規SNPまたは突然変異)。
【0221】
上記(1)、(2)で示された、CACNA1A遺伝子のコーディング領域で検出されたミスセンス変異、欠失変異型を表4に示す。
【0222】
【表4】
【0223】
これらの変異をNCBI(National Center for Biotechnology Information)の遺伝子多型(Single Nucleotide Polymorphism; SNP)データベースと比較検討したところ、9種類の変異型のうち3種類の変異型は、遺伝子多型(Single Nucleotide Polymorphism;SNP)としてSNPデータベースに登録されていることが明らかになった。
【0224】
上記(3)、(4)で示された遺伝子変異に関しては、SNPデータベースに登録されている遺伝子多型、または新規遺伝子多型または突然変異であった。括弧内にSNPデータベースの登録番号を記載している。
【0225】
既に報告のある上記のSNPのうち、アミノ酸変化を伴う変異に関しては、おそらく、その個例がCACNA1A遺伝子のSNPを有するだけでは発作は起こらないが、同時にSCN1A遺伝子の異常が存在する場合は、症状の悪性化に何らかの形で関わっていると考えられた。
【0226】
Dravet症候群患者47名のうち、SCN1A遺伝子とCACNA1A遺伝子の遺伝子変異を有している患者数を比較すると以下の通りであった。
【0227】
SCN1AおよびCACNA1Aの両方に変異を有している患者;19例
SCN1Aのみに変異を有している患者;20例
CACNA1Aのみに変異を有している患者;2例
SCN1AおよびCACNA1Aの両方に変異を有していない患者;6例
これまでDravet症候群の患者におけるCACNA1A遺伝子の異常については全く報告されていない。本研究結果は、Dravet症候群患者は、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のα1サブユニット遺伝子であるSCN1Aおよび電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のα1サブユニット遺伝子であるCACNA1Aにおいて、高頻度の変異を有することを示している。
【0228】
尚、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のβ4サブユニット(単に「カルシウムイオンチャネルβ4サブユニット」と称する)における変異がDravet症候群に関与することを開示した文献(Iori Ohmori et. Al., Neurobiology of Disease 32 (2008) 349-354)には、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットおよびカルシウムイオンチャネルβ4サブユニットの両方において変異を有するDravet症候群の患者は、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおいて変異が検出された患者38例中、1例であることが記載されている。
【0229】
これに対して、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットおよびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方において変異を有するDravet症候群の患者は、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットにおいて変異が検出された患者39例中、19例(エキソン中のアミノ酸変化を伴う登録済みSNPを有する患者を除くと6例)であった。この結果は、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットおよびカルシウムイオンチャネルα1サブユニットの両方における変異を検出することによって、ナトリウムイオンチャネルα1サブユニットおよびカルシウムイオンチャネルβ4サブユニットの両方における変異を検出するよりも、Dravet症候群の患者の検出感度が飛躍的に上昇することを示している。
【0230】
尚、本明細書において、SCN1A遺伝子のmRNAにおけるヌクレオチドの番号、およびSCN1Aのタンパク質におけるアミノ酸の番号に関してはGenBankアクセション番号AB093548に従い、開始コドン(ATG)がコードするメチオニンを第1位のアミノ酸として番号を付け、開始コドンの最初のAを第1位のヌクレオチドとして番号を付けている。
【0231】
またCACNA1A遺伝子のゲノム配列に関しては、GenBankアクセッション番号NC_000019に従った。CACNA1A遺伝子のmRNAにおけるヌクレオチドの番号、およびCACNA1Aタンパク質におけるアミノ酸の番号に関しては、GenBankアクセッション番号NM 023035に従い、開始コドン(ATG)がコードするメチオニンを第1位のアミノ酸として番号を付け、開始コドンの最初のAを第1位のヌクレオチドとして番号を付けている。
【0232】
〔実施例2:良性の熱性けいれん患者における遺伝子変異の検討〕
良性の熱性けいれん患者におけるSCN1A遺伝子およびCACNA1A遺伝子の異常の検討を行った。岡山大学病院および関連病院に来院した良性の全般てんかん熱性けいれんプラス(generalized epilepsy with febrile seizure plus: GEFS+)患者の50例の末梢血よりDNAを抽出し、各種遺伝子の変異について解析した。DNA抽出、遺伝子のPCR増幅、シークエンス反応は上記記載の方法で行った。
【0233】
まず、電位依存性ナトリウムイオンチャネルSCN1A遺伝子の遺伝子変異解析を行ったところ、6例にアミノ酸変化を伴う遺伝子変異を検出した。次に、CACNA1A遺伝子のコーディング領域で検出されたミスセンス変異、欠失変異の9種類について変異解析を行ったところ、16例に変異を検出した。それぞれの変異を表5に示す。
【0234】
【表5】
【0235】
良性てんかん患者50例のうち、SCN1A遺伝子とCACNA1A遺伝子の両方に同時に変異を有している患者は存在しないことが確認された。
【0236】
悪性のDravet症候群47例と、良性の熱性けいれん患者50例とをあわせて、合計97例の患者の遺伝子変異の解析結果を以下に示す。
【0237】
(1)97例の患者から、SCN1A遺伝子に変異を有している患者をスクリーニングした結果、39例のDravet症候群患者(47例のうち39例)と、6例の良性てんかん患者(50例のうち6例)が検出された。
【0238】
(2)97例の患者から、SCN1A遺伝子およびCACNA1A遺伝子の両方に変異を有している患者をスクリーニングした結果、19例のDravet症候群患者(47例のうち19例)が検出され、良性てんかん患者では0例であった。
【0239】
このことは、SCN1A遺伝子変異およびCACNA1A遺伝子変異の両方を検査することによって、SCN1A遺伝子変異のみを検査するよりも、擬陽性(良性の熱性けいれん患者)を排除することができ、Dravet症候群患者を高精度で検出することができる可能性を示唆している。
【0240】
〔実施例3:健常人における遺伝子変異の検討〕
CACNA1A遺伝子のコーディング領域で検出されたミスセンス変異、欠失変異の9種類のうち、登録済みの3種類を除く、残りの6種類の遺伝子変異が遺伝子多型(SNP)かどうかを調べるために、健常人190例の血液から採取したDNAについて、同様にCACNA1A遺伝子の遺伝子変異の解析を行った。CACNA1A遺伝子のコーディング領域で検出されたミスセンス変異、欠失変異の9種類についての結果を表6に示す。その結果、1種類のCACNA1A遺伝子の変異(G266S)は健常人からは検出されなかった。この結果より、G266SのCACNA1A遺伝子の変異は、SNPではなく、健常人190例、およびNCBIのSNPデータベースにも無い、新規遺伝子変異(遺伝子異常)であることが判明した。
【0241】
【表6】
【0242】
健常人とDravet症候群患者とにおける変異頻度の比較検討を行ったところ、CACNA1A遺伝子変異R1126Hは、Dravet症候群に統計的有意に多い(p=0.0061)ことが示され、CACNA1A遺伝子変異R2201Qも、Dravet症候群に多い傾向があることが明らかになった(p=0.052)。CACNA1A遺伝子においてR1126HおよびR2201Qの両方の変異を同時に有している患者は、Dravet症候群にのみ有意に検出され(47例中4例)、健常人には検出されなかった(p=0.0014)。この4例の患者の両親のDNAを検査することにより、R1126HおよびR2201Qの両方の変異は1つの染色体上、すなわち同じCACNA1Aタンパク質分子内に、2つの変異を同時に有していること、およびその2重変異は親から遺伝したことが明らかになった。
【0243】
〔実施例4:遺伝子型と症状の関連についての検討〕
CACNA1A遺伝子のコーディング領域で検出されたミスセンス変異、欠失変異の9種類が、疾患の症状悪化にどのように影響を与えているか検討を行った。発作症状データが詳細に整っているDravet症候群患者において、SCN1A遺伝子変異のみを有している患者20例と、SCN1A遺伝子およびCACNA1A遺伝子の両方に変異を有している19例の患者に関して、1歳未満での発作症状を比較検討した。その結果を表7に示す。尚、表7に記載の「GTC」は、全身性強直・間代発作(generalized tonic-clonc seizure)の略語であり、「CPS」は、複雑部分発作(complex partial seizure)の略語である。
【0244】
【表7】
【0245】
CACNA1A遺伝子変異を有している患者では、CACNA1A遺伝子変異を有していない患者と比較して、(i)発作の開始時期(Seizure onset)が有意に早くなること(p=0.049)、(ii)けいれん発作が10分以上続く遷延発作(prolonged seizure)の回数が有意に多くなること(p=0.019)、および(iii)半身けいれん(Hemiconvulsion)の頻度が有意に高くなること(p=0.041)が明らかになった。このことは、SCN1A遺伝子の異常に加えて、多型を含むCACNA1A遺伝子の変異を有している場合に、何らかの形で症状の悪性化につながる可能性があることを示している。
【0246】
〔実施例5:変異型電位依存性カルシウムイオンチャネルの機能解析〕
変異型カルシウムイオンチャネルおよび正常型(野生型)カルシウムイオンチャネルについて、培養細胞を用いた機能解析を行った。まず、ヒトのCACNA1A遺伝子(配列番号4)のcDNAを用いて、変異型CACNA1A(G266S;R1126H;R2201Q;deletion 2202−2205;R1126HおよびR2201Qの2重変異)遺伝子を有する発現ベクターを作製した。各変異箇所を含むDNA断片をPCRにて作製した後、その断片を正常型cDNAの対応する断片と置換することにより変異型cDNAを作製した。コントロールとして、正常型(野生型)のCACNA1A遺伝子を有する発現ベクター(pMO14X2-CACNA1A)を使用した。
【0247】
変異型カルシウムイオンチャネルおよび正常型カルシウムイオンチャネルについて、培養細胞を用いて機能解析を行った。CACNA1A遺伝子産物である電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のαサブユニット1型は、同じく電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1を構成する、α2δサブユニットおよびβ4サブユニットによる機能調節を受けている。このため、αサブユニット1型をコードするCACNA1A遺伝子有する発現ベクターと、β4サブユニットをコードするヒトCACNB4遺伝子(GenBankアクセション番号 U95020)(配列番号151)およびα2δサブユニットをコードするウサギα2δ遺伝子(GenBankアクセション番号 NM_001082276)(配列番号152)を有する発現ベクターとを、トランスフェクション試薬を用いてヒト腎細胞HEK293に共発現させた。全細胞記録によるパッチクランプ法で電気生理学的特性を検討した。
【0248】
具体的には、カルシウムイオンチャネル電流の記録は、22℃〜24℃の室温において、トランスフェクション後72時間に行った。multistage P-97 Flaming-Brown micropipette pullerを用いて、ホウケイ酸ガラス(borosilicate glass)からパッチ電極を作製した。
【0249】
細胞内液の組成は、110mM CsOH,20mM CsCl,5mM MgCl
2,10mM EGTA,5mM MgATP,5mM creatine-phosphate,10mM HEPESとした。一方、細胞外液の組成は、5mM BaCl,150mM TEA−Cl,10mM グルコース,10mM HEPESとした。増幅器はAxopatch200B(Axon Instruments)を用いた。
【0250】
変異チャネルの電気生理学的特性は、電位依存性チャネル活性化、不活性化、不活性化からの回復、および持続性電流を調べ、正常型と比較検討した。活性化曲線および不活性化曲線はBoltzmann functionで解析させ、half-maximal activation/inactivation(V
1/2)とslope factor(k)とを求めた。不活性からの回復曲線は、two exponential functionで解析させた。統計はunpaired Student’s t testを用いた。データ解析にはClampfit 8.2ソフトウエアおよびOriginPro 7.0 (OriginLab)ソフトウエアを用いた。
【0251】
図13および
図14は、パッチクランプ法を用いて、カルシウムイオンチャネルの機能解析を行った結果を示す図である。
図13および
図14のグラフでは、正常型カルシウムイオンチャネルを「WT」と表記し、変異型カルシウムイオンチャネルを「R266S」、「R1126H」、「R2201Q」、「Del2202」、「RH+RQ」と表記している。上記変異「Del2202」は、変異「Deletion2202−2205」を意味し、上記変異「RH+RQ」は、変異「R1126H+R2201Q」を意味している。
【0252】
図13の(a)は、正常型カルシウムイオンチャネルおよび変異型カルシウムイオンチャネルにおける電位の変化に伴うバリウム電流記録を示している。(b)は電流−電圧関連、(c)はピーク時の電流値(pA)、電荷の総和(pF)およびピーク電流密度(pA/pF)を示している。
【0253】
具体的には、
図13の(a)は、脱分極刺激を−40mVから+60mVまで10mVずつ変化させることにより脱分極させ、流入するバリウム電流の計測を行った電流記録を示している。
図13の(b)に示した電流−電圧関連は、静止膜電位よりも深い−100mVを保持電位として、脱分極刺激を−40mVから+60mVまで10mVずつ変化させ、各膜電位ごとに流れるバリウム電流を測定し、横軸に膜電位、縦軸に電流値をプロットしたものである。尚、
図13の(b)のグラフの右下に示した図は、この実験では「静止膜電位よりも深い−100mVを保持電位として、脱分極刺激を−40mVから+60mVまで10mVずつ、30ms(ミリ秒)変化させた」ことを表している。
【0254】
その結果、正常型カルシウムイオンチャネルと比べて、変異型カルシウムイオンチャネル「Deletion2202−2205」および「R1126H+R2201Q」は、流れる電流量、ピーク時の電流値、およびピーク電流密度が有意に増加していることが明らかになった。
【0255】
次に、カルシウムイオンチャネルの電気生理学的特性を詳細に検討するために、カルシウムイオンチャネルの電位依存的活性化(
図14の(a))、活性化の時定数(τ)(
図14の(b)、(c))、カルシウムイオンチャネルの不活性化(
図14の(d))、および不活性化の時定数(τ)(
図14の(e))を測定した。
【0256】
図14の(a)に示した活性化曲線は、上記
図13の(b)のグラフから得られた最大ナトリウム電流値を1として、各膜電位ごとに流れるバリウム電流値を相対値で表し、得られた曲線をBoltzmann functionで解析することによって、half-maximal activation(V
1/2)とslope factor(k)とを求めた。尚、
図14の(a)のグラフの右下に示した図は、この実験では「静止膜電位よりも深い−100mVを保持電位として、脱分極刺激を−40mVから+60mVまで10mVずつ、30ms(ミリ秒)変化させた」ことを表している。
【0257】
カルシウムイオンチャネルの電位依存的活性化の解析の結果、(i)変異型カルシウムイオンチャネル「G266S」および「R1126H」は、正常型に比べて有意に過分極シフトを示していること、(ii)slope factor(k)値の比較から、変異型カルシウムイオンチャネル「R1126H」および「Deletion2202−2205」は、正常型に比べて有意に電位依存性が増加していることが明らかになった(
図14の(a)および表8を参照)。このことは、変異型カルシウムイオンチャネル「G266S」、「R1126H」および「Deletion2202−2205」は、低い膜電位でも容易にチャネルが活性化してしまい、神経細胞の過剰興奮を引き起こす傾向にあることを意味している。
【0258】
カルシウムイオンチャネルの電気生理学的特性を表8にまとめた。正常型CACNA1Aと変異型CACNA1Aとの統計的な比較は、Student's t testによって行った。表8中に記載される「*」は、危険率5%未満において、正常型CACNA1Aと変異型CACNA1Aとの間に有意差があることを表し、「**」は、危険率1%未満において、正常型CACNA1Aと変異型CACNA1Aとの間に有意差があることを表す。
【0259】
【表8】
【0260】
図14の(b)は、チャネルの電位依存的活性化の時定数、すなわち、各電流での66.7%に達するまでの時間を表している。また、
図14の(c)は、20mVでの電位依存的活性化の時定数を表している。
図14の(b)および(c)から、変異型カルシウムイオンチャネル「G266S」は、正常型に比べて20mVでの電位依存的活性化の時定数が有意に小さいことが示された。このことは、変異型カルシウムイオンチャネル「G266S」は、短い脱分極の間に、多くの電流を流すと考えられる為、神経細胞の過剰興奮を引き起こす傾向にあることを意味している。
【0261】
図14の(d)は、カルシウムイオンチャネルの電位依存的な不活性化曲線を表し、膜電位を変化させてカルシウムイオンチャネルを活性化させたのち、引き続いて脱分極刺激を与えてどのくらいのバリウム電流が流れるかを計測したものである。尚、
図14の(d)のグラフの左下に示した図は、この実験では「−100mVを保持電位として、脱分極刺激を−120mVから+60mVまで20mVずつ、2s(秒)変化させ、続けて20mVに変化させた」ことを表している。
【0262】
カルシウムイオンチャネルの電位依存的な不活性化曲線に関しては、変異型も正常型も有為な差は認められなかった。
【0263】
図14の(e)は、不活性化の時定数(τ)を検討した結果を示している。不活性化には、早い成分の不活性化と遅い成分の不活性化との二相性がある。
図14の(e)中の左図「τ
fast」は、早い成分の不活性化が33.3%に達するまでの時間を表した定数であり、右図「τ
slow」は、遅い成分の不活性化が33.3%に達するまでの時間を表した定数である。これらの不活性化の時定数は、具体的には、不活性化曲線をClampfit 8.2ソフトウエアを用いて解析することにより算出した。
【0264】
その結果、正常型カルシウムイオンチャネルおよび変異型カルシウムイオンチャネルにおける不活性化の時定数に有意差はなかった。以上の変異型カルシウムイオンチャネルの生理学的特性を表9に示す。表9中に記載される上向きの矢印(↑)は、チャネル活性の増加が認められたことを表し、「−」は、チャネル活性に変化が認められなかったことを表す。
【0265】
【表9】
【0266】
カルシウムイオンチャネルにおける「R2201Q」以外の変異は、gain of function型の変異であり、神経細胞が興奮しやすくなる傾向にあることが明らかになった。
【0267】
〔実施例6:Dravet症候群の発症モデルラットの作製〕
上記知見より、SCN1AおよびCACNA1Aの両方に何らかの変異を有していることが、Dravet症候群の発症に重要であると考えられた。そこで、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のα1サブユニット遺伝子Scn1aの変異と、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のα1サブユニット遺伝子Cacna1aの変異の両方を有するラットを作製し、症状の悪性化について検討を行った(ヒトの遺伝子はSCN1AおよびCACNA1Aと表記し、ラットの遺伝子はScn1aおよびCacna1aと表記した)。
【0268】
具体的には、Scn1a遺伝子の変異を有するラット(F344-Scn1a
Kyo811)と、Cacna1a遺伝子の変異とを有するラット(GRY(groggy rat, Cacna1a
gry))を親ラットとして用いた。それぞれのマウスを以下に説明する。
【0269】
<F344-Scn1a
Kyo811>
ENUミュータジェネシスにより作製された、電位依存性ナトリウムチャンネルNa
V1.1のα1サブユニット遺伝子(Scn1a)にミスセンス変異を有するラット。第1417位のアミノ酸であるアスパラギン(N)がヒスチジン(H)に変異している(「N1417H」と表す)。ヒト全般性てんかん熱性けいれんプラス(GEFS+)のモデル動物。背景系統はF344/NSlcラット。京都大学医学研究科附属動物実験施設より分与された。
【0270】
<GRY(groggy rat, Cacna1a
gry)>
Scl:Wistarにメチルニトロソウレアを投与して作製された、運動失調および欠神様発作を主症状とするミュータントラット。常染色体劣性遺伝様式をとり、電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のα1サブユニットにミスセンス変異を有する。第251位のアミノ酸であるメチオニン(M)がリジン(K)に変異している(M251K)。京都大学医学研究科附属動物実験施設より分与された。
【0271】
図11は、ヒトのCACNA1A遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列およびラットのCacna1a遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を表す図である。
図11に示すアミノ酸配列の上段は、ラットのCacna1a遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセション番号NM_012918)(配列番号147)を表し、下段は、ヒトのCACNA1A遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセション番号NM_023035)(配列番号3)を表す。また、
図11中、四角で囲ったアミノ酸「M」は、ヒトの変異型CACNA1A(M249K)タンパク質(配列番号148)、およびラットの変異型Cacna1a(M251K)タンパク質(配列番号149)において、アミノ酸「M」からアミノ酸「K」に変異を生じるアミノ酸を表している。
【0272】
図11示すようにラットの電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のα1サブユニットにおける上記変異(M251K)は、ヒトの電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のα1サブユニットにおける変異(M249K)に相当する。
【0273】
このようなF344-Scn1a
Kyo811と、GRY(groggy rat, Cacna1a
gry)とを交配させて、それぞれの遺伝子変異を有するラットを作製した。
【0274】
(1.変異型電位依存的ナトリウムイオンチャネルの機能解析)
ラットを用いた検証を行う前に、変異型ナトリウムイオンチャネルおよび正常型ナトリウムイオンチャネルについての、培養細胞を用いた機能解析を行った。Scn1a遺伝子に変異を有するラット(F344-Scn1a
Kyo811)では、Scn1a遺伝子がコードするタンパク質の第1417位のアミノ酸であるアスパラギン(AAT)がヒスチジン(CAT)に変化している(N1417H)。第1417位のアスパラギンはナトリウムイオンチャネル第3ドメインのイオン透過に関わるポア形成領域に位置する。そこで、まず、F344-Scn1a
Kyo811が有する変異型電位依存的ナトリウムイオンチャネルの機能解析を行った。
【0275】
具体的には、ヒトのSCN1A遺伝子のcDNAを用いて、ミスセンス変異を有する変異型SCN1A(N1417H)遺伝子(配列番号150)を有する発現ベクターを作製した。コントロールとして、正常型(野生型)のSCN1A遺伝子(配列番号2)を有する発現ベクターを作製した。
【0276】
図1は、ヒトのSCN1A遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列およびラットのScn1a遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を表す図である。
図1に示すアミノ酸配列の上段は、ヒトのSCN1A遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)を表し、下段は、ラットのScn1a遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号144)を表す。また、
図1中、四角で囲ったアミノ酸「N」は、ヒトの変異型SCN1A(N1417H)タンパク質(配列番号145)、およびラットの変異型SCN1A(N1417H)タンパク質(配列番号146)において、アミノ酸「N」からアミノ酸「H」に変異を生じるアミノ酸を表している。
【0277】
変異型ナトリウムイオンチャネルおよび正常型ナトリウムイオンチャネルについて、培養細胞を用いて機能解析を行った。SCN1A遺伝子産物である電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1のαサブユニット1型は、同じく電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1を構成する、β
1サブユニットおよびβ
2サブユニットによる機能調節を受けている。このため、αサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子有する発現ベクターと、β
1サブユニットをコードするSCN1B遺伝子およびβ
2サブユニットをコードするSCN2B遺伝子を有する発現ベクターとを、トランスフェクション試薬を用いてヒト腎細胞HEK293に共発現させた。全細胞記録によるパッチクランプ法で電気生理学的特性を検討した。
【0278】
具体的には、ナトリウムイオンチャネル電流の記録は、22℃〜24℃の室温において、トランスフェクション後24時間〜48時間に行った。multistage P-97 Flaming-Brown micropipette pullerを用いて、ホウケイ酸ガラス(borosilicate glass)からパッチ電極を作製した。
【0279】
細胞内液の組成は、110mM CsF,10mM NaF,20mM CsCl,2mM EGTA,10mM HEPESとした。一方、細胞外液の組成は、145mM NaCl,4mM KCl,1.8mM CaCl
2,1mM MgCl
2,10mM HEPESとした。増幅器はAxopatch200B(Axon Instruments)を用いた。
【0280】
変異チャネルの電気生理学的特性は、電位依存性チャネル活性化、不活性化、不活性化からの回復、および持続性電流を調べ、正常型と比較検討した。活性化曲線および不活性化曲線はBoltzmann functionで解析させ、half-maximal activation/inactivation(V
1/2)とslope factor(k)とを求めた。不活性からの回復曲線は、two exponential functionで解析させた。持続性Na電流は、10μM テトロドトキシン(TTX)の添加の前後で、−10mV、100msで脱分極させたときの持続電流の差から求めた。統計はunpaired Student’s t testを用いた。データ解析にはClampfit 8.2ソフトウエアおよびOriginPro 7.0 (OriginLab)ソフトウエアを用いた。
【0281】
図2〜
図4は、パッチクランプ法を用いて、ナトリウムイオンチャネルの機能解析を行った結果を示す図である。
図2〜
図4のグラフでは、正常型ナトリウムイオンチャネルを「WT」または「WT−SCN1A」と表記し、変異型ナトリウムイオンチャネルを「N1417H」と表記している。
【0282】
図2の(a)は、正常型ナトリウムイオンチャネルおよび変異型ナトリウムイオンチャネルにおける電位の変化に伴うナトリウム電流の代表例を示している。具体的には、脱分極刺激を−80mVから+60mVまで10mVずつ変化させることにより脱分極させ、流入するナトリウム電流の計測を行った。その結果、正常型ナトリウムイオンチャネルおよび変異型ナトリウムイオンチャネルはいずれも、チャネルとしての機能を有しており、両者に有意差はなかった。
【0283】
図2の(b)は、不活性化の時定数(τ)を検討した結果を示している。不活性化には、早い成分の不活性化と遅い成分の不活性化との二相性がある。
図2の(b)中の「τ
1」は、早い成分の不活性化が33.3%に達するまでの時間を表した定数であり、「τ
2」は、遅い成分の不活性化が33.3%に達するまでの時間を表した定数である。これらの不活性化の時定数は、具体的には、不活性化曲線をClampfit 8.2ソフトウエアを用いて解析することにより算出した。その結果、正常型ナトリウムイオンチャネルおよび変異型ナトリウムイオンチャネルにおける不活性化の時定数に有意差はなかった。
【0284】
次に、ナトリウムイオンチャネルの電気生理学的特性を詳細に検討するために、電流−電圧関連(
図3の(a))、ナトリウムイオンチャネルの活性化(
図3の(b))、ナトリウムイオンチャネルの不活性化(
図3の(c))、およびナトリウムイオンチャネルの不活性化からの回復(
図3の(d))を測定した。
【0285】
具体的には、
図3の(a)に示した電流−電圧関連は、静止膜電位よりも深い−120mVを保持電位として、脱分極刺激を−80mVから+60mVまで10mVずつ変化させ、各膜電位ごとに流れるナトリウム電流を測定し、横軸に膜電位、縦軸に電流値をプロットしたものである。尚、
図3の(a)のグラフの左下に示した図は、この実験では「静止膜電位よりも深い−120mVを保持電位として、脱分極刺激を−80mVから+60mVまで10mVずつ、20ms(ミリ秒)変化させた」ことを表している。
【0286】
図3の(b)に示した活性化曲線は、上記
図3の(a)のグラフから得られた最大ナトリウム電流値を1として、各膜電位ごとに流れるナトリウム電流値を相対値で表し、得られた曲線をBoltzmann functionで解析することによって、half-maximal activation(V
1/2)とslope factor(k)とを求めた。尚、
図3の(b)のグラフの右下に示した図は、この実験では「静止膜電位よりも深い−120mVを保持電位として、脱分極刺激を−80mVから+60mVまで10mVずつ、20ms(ミリ秒)変化させた」ことを表している。
【0287】
図3の(c)に示した不活性化曲線に関しては、同様に膜電位を変化させてチャネルを活性化させたのち、引き続いて脱分極刺激を与えてどのくらいのナトリウム電流が流れるかを計測し、half-maximal inactivation(V
1/2)とslope factor(k)とを求めた。尚、
図3の(c)のグラフの左下に示した図は、この実験では「−120mVを保持電位として、脱分極刺激を−140mVから+0mVまで10mVずつ、100ms(ミリ秒)変化させ、続けて−10mVに変化させた」ことを表している。
【0288】
図3の(d)に示す不活性からの回復曲線に関しては、以下のように行った。パルス1(P1)で脱分極刺激を与えるとチャネルは開いた後、不活性化する。もとの−120mVに戻すとナトリウムイオンチャネルは休止(resting)の状態に戻り、パルス2(P2)の刺激で再びチャネルが開く。このパルス1とパルス2の回復時間を変化させることによって、不活性化からの回復曲線を求めた。この曲線をtwo exponential functionで解析させた。正常型と比較して回復が早いか、または遅いかで、チャネルの機能がより興奮性にしやすくなったのか、反対に興奮しにくくなったのかを判定した。尚、
図3の(d)のグラフの右下に示した図は、この実験では「−120mVを保持電位とし、脱分極刺激として−10mVを100ms(ミリ秒)与えたのち、−120mVに戻し、x軸に示した各時間(ミリ秒)後に、−10mVを20ms(ミリ秒)与えた」ことを表している。
【0289】
その結果、電流−電圧関連、チャネルの活性化は、正常型ナトリウムイオンチャネルおよび変異型ナトリウムイオンチャネルで有意差は認められなかった(
図3の(a)および(b))。これに対して、チャネルの不活性化については、正常型ナトリウムイオンチャネルと変異型ナトリウムイオンチャネルとが50%不活化する点について有意差検定をおこなったところ、変異型ナトリウムイオンチャネルでは脱分極側に有意にシフトしていた(p<0.05)(
図3の(c))。
【0290】
チャネルの不活性化からの回復に関しては、変異型ナトリウムイオンチャネルでは回復が有意に遅いことが明らかになった(
図3の(d))。尚、
図3の(d)において、不活性化からの回復の期間(Recovery period (ms))が1〜8msの部分が、「速い成分」に相当し、不活性化からの回復の期間が10〜100msの部分が、「遅い成分」に相当する。
【0291】
具体的には、不活性化からの回復における速い成分が不活性化から33.3%回復するまでの時間を正常型ナトリウムイオンチャネルと異常型ナトリウムイオンチャネルとで比較すると、変異型ナトリウムイオンチャネルでは回復が有意に遅いことが明らかになった(正常型:τ
f=1.7±0.1ms,n=14;変異型:τ
f=2.5±0.2ms(P<0.01),n=12)。
【0292】
同様に、不活性化からの回復における遅い成分が不活性化から33.3%回復するまでの時間を正常型ナトリウムイオンチャネルと異常型ナトリウムイオンチャネルとで比較すると、変異型ナトリウムイオンチャネルでは回復が有意に遅いことが明らかになった(正常型:τ
s=40.3±5.3ms,n=14;変異型:τ
s=60.9±7.9ms(P<0.05),n=12)。
【0293】
図4の(a)は、電位を変化させてナトリウムイオンチャネルを活性化させた後に、不活性化させても、全細胞記録では変異型ナトリウムチャネルは基線が元に戻っていないことより、変異型ナトリウムイオンチャネルにナトリウム電流が持続して流れていることが見て取れる。持続性ナトリウム電流は不活性化ゲートの障害と考えられている。
図4の(a)の図から、正常型ナトリウムイオンチャネルに比べて変異型ナトリウムイオンチャネルでは時間が経過しても不活性化が不十分であることが確認された。
【0294】
図4の(a)に示される持続性ナトリウム電流を求める目的のために、100ミリ秒の脱分極刺激を与えたときに、80ミリ秒から100ミリ秒の間で流れる最終の電流量を、最大電流量で除した相対値(%)を求めた。結果を
図4の(b)に示す。これらの結果から、変異型ナトリウムイオンチャネルは、持続性ナトリウム電流が増大する特性を有することが明らかになった。
【0295】
これらのデータは、上記変異によって、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1の機能が異常になっていることを示している。つまり、上記変異を有すると、神経細胞が過剰に興奮しやすい、すなわち、けいれんを起こしやすいことを意味している。
【0296】
尚、ラットの電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1のα1サブユニットにおける変異(M251K)によって、ラットの電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の機能が異常になることは、文献(Satoko Tokuda et.al., BRAINRESEARCH 1133 (2007) 168-177; Kenta Tanaka et.al., Neuroscience Letters 426 (2007) 75-80)に示されている。
【0297】
従って、後述するScn1a遺伝子およびCacna1a遺伝子の両方に上記の変異を有するラットにおいては、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNa
V1.1および電位依存性カルシウムイオンチャネルCa
V2.1の両方の機能が異常になっていると考えられる。
【0298】
(2.Dravet症候群の発症モデルラットにおける遺伝子変異の確認)
上述した親ラット(P)としてのF344-Scn1a
Kyo811と、GRY(groggy rat, Cacna1a
gryとの掛け合わせを行い、F1(雑種第一世代)ラットを作製し、F1ラット同士を掛け合わせてF2(雑種第二世代)ラットを作製した。
図5は、親ラット(P)、F1ラットおよびF2ラットの遺伝子型を表す図である。
図5の(a)に示すように、F1ラットは、Scn1a遺伝子の変異およびCacna1a遺伝子の変異のいずれもヘテロ接合型に有している(「Scn1a変異型ヘテロ+Cacna1a変異型ヘテロ」と表記する)。また、
図5の(b)に示すように、F2ラットには9種類の遺伝子型を示すラットが生まれる。各種ラットの遺伝子型は、ラットの尾の先端組織を採取し、DNAを抽出した後に、抽出したDNAを用いて、DNAシークエンス法による遺伝子変異を確認するか、または制限酵素による切断パターンを確認することによって特定した。
【0299】
(DNAシークエンス法による遺伝子変異確認方法)
DNAシークエンス法による遺伝子変異確認は、以下のようにして行った。まず、変異点を挟むプライマー対(Scn1a増幅用プライマー対の塩基配列は配列番号5および配列番号6に示し、Cacna1a増幅用プライマー対の塩基配列は配列番号7および配列番号8に示す)を用いてゲノムDNAを増幅した後、得られたPCR産物を、PCR products pre-sequencing kit(Amersham Biosciences, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)を用いて精製した。用いたプライマー対の塩基配列は、後述する「プライマーの配列」の項を参照のこと。
【0300】
続いて、Big Dye Terminator FS ready-reaction kit(Applied Biosystems)を用いて、シークエンス反応を行い、蛍光シークエンサー(ABI PRISM3100 sequencer ;Applied Biosystems)により塩基配列を決定した。
【0301】
図6は、F2ラットにおけるScn1a遺伝子およびCacna1a遺伝子の遺伝子型を、シークエンス法によって特定する方法を示す図である。
図6に示すように、野生型Scn1a遺伝子では、第4249位のヌクレオチドは「A」である。これに対して、変異型Scn1a遺伝子(N1417H)では、第4249位のヌクレオチドが「A」から「C」に変異している。この結果、野生型Scn1a遺伝子では、第1417位のアミノ酸であるアスパラギン(N)を指定するコドン「AAT」が、変異型Scn1a遺伝子(N1417H)では、ヒスチジン(H)を指定するコドン「CAT」に変異している。
【0302】
また、野生型Cacna1a遺伝子では、第752位のヌクレオチドは「T」である。これに対して、変異型Cacna1a遺伝子(M251K)では、第752位のヌクレオチドが「T」から「A」に変異している。その結果、第251位のアミノ酸であるメチオニンを指定するコドン「ATG」が、リジンを指定するコドン「AAG」に変異している。
【0303】
(制限酵素消化による遺伝子変異確認方法)
制限酵素消化による遺伝子変異確認は、以下のようにして行った。Scn1a遺伝子における変異を検出する場合は、Scn1a遺伝子における変異点を挟むプライマー対(配列番号5および6)を用いてゲノムDNAを増幅した後、得られたPCR産物を、制限酵素BclIを用いて50℃、3時間反応させた。その後、4%アガロースゲルを用いて制限酵素反応液を電気泳動し、バンドのサイズを確認した。
図7は、F2ラットにおけるScn1a遺伝子の遺伝子型を、制限酵素消化によって特定する方法を示す図である。
【0304】
図7の(a)および(b)に示すように、野生型Scn1a遺伝子はBclIで切断されないので、バンドのサイズは、PCR産物のサイズ(380bpのヌクレオチド)のままであった。一方、変異型Scn1a遺伝子(N1417H)はBclIで切断されるので、2本の断片(276bpおよび104bpのヌクレオチド)が確認された。野生型Scn1a遺伝子と変異型Scn1a遺伝子(N1417H)とのヘテロ接合型ラットの場合は、3本の断片(380bp、276bp、および104bpのヌクレオチド)が確認された。
図7の(c)には、電気泳動の結果を示す。
【0305】
Cacna1a遺伝子における変異を検出する場合は、Cacna1a遺伝子における変異点を挟むプライマー対(配列番号7および8)を用いてゲノムDNAを増幅した後、得られたPCR産物を、制限酵素PciIを用いて37℃、1時間反応させた。その後、4%アガロースゲルを用いて制限酵素反応液を電気泳動し、バンドのサイズを確認した。
【0306】
図8は、F2ラットにおけるCacna1a遺伝子の遺伝子型を、制限酵素消化によって特定する方法を示す図である。
図8の(a)および(b)に示すように、野生型Cacna1a遺伝子はPciIで切断されないので、バンドのサイズは、PCR産物のサイズ(352bpのヌクレオチド)のままであった。一方、変異型Cacna1a遺伝子(M251K)は、PciIで切断されるので、2本の断片(219bpおよび133bpのヌクレオチド)が確認された。野生型Cacna1a遺伝子と異常型Cacna1a遺伝子(M251K)とのヘテロ接合型ラットの場合は、3本の断片(352bp、219bp、および133bpのヌクレオチド)が確認された。
図8の(c)には、電気泳動の結果を示す。
【0307】
〔実施例7:Dravet症候群の発症モデルラットの解析〕
Dravet症候群の発症モデルラットを用いて、Scn1a遺伝子の変異にCacna1a遺伝子の変異が加わると、発作にどのような影響(悪性化)を及ぼすかについて検討した。具体的には、温熱負荷によってけいれん発作を誘発したときの症状について、Scn1a遺伝子の変異のみをホモ接合型に有するラット(「Scn1a変異ホモ+Cacna1a野生型ホモ」と表記する)と、Scn1a遺伝子の変異はホモ接合型で且つCacna1a遺伝子の変異をヘテロ接合型に有するラット(「Scn1a変異ホモ+Cacna1a変異ヘテロ」と表記する)とを比較した。
【0308】
Scn1a変異型ホモ+Cacna1a野生型ホモと、Scn1a変異型ホモ+Cacna1a変異型ヘテロとは、いずれもScn1a遺伝子の変異(N1417H)がホモ接合型である。このため、ホモ接合型のScn1a遺伝子の変異の条件下において、野生型Cacna1a遺伝子と変異型Cacna1a遺伝子(M251K)とを比較することになる。
【0309】
また、コントロールとして、Scn1a遺伝子もCacna1a遺伝子も野生型であるラット(「Scn1a野生型ホモ+Cacna1a野生型ホモ」と表記する)、およびScn1a遺伝子の変異は野生型ホモでCacna1a遺伝子の変異はヘテロ接合型であるラット(「Scn1a野生型ホモ+Cacna1a変異型ヘテロ」と表記する)を用いた。実験に用いたラットの遺伝型を以下にまとめた。以下の(1)〜(4)の番号は、
図5の(b)に示した番号と対応している.
(1)Scn1a
wt/wtCacna1a
wt/wt(Scn1a野生型ホモ+Cacna1a野生型ホモ) 雄14匹
(2)Scn1a
mut/mutCacna1a
wt/wt(Scn1a変異型ホモ+Cacna1a野生型ホモ) 雄7匹
(3)Scn1a
mut/mutCacna1a
wt/mut(Scn1a変異型ホモ+Cacna1a変異型ヘテロ) 雄17匹
(4)Scn1a
wt/wtCacna1a
wt/mut(Scn1a野生型ホモ+Cacna1a変異型ヘテロ) 雄12匹。
【0310】
上記グループ(1)〜(4)の5週齢の雄ラットに温浴負荷(45℃)をかけ、けいれんが誘発されるときの体温、けいれんの持続時間、およびけいれんの重症度スコアを比較した。尚、けいれんが誘発されるときの体温は、発作開始時の直腸温度を測定した。けいれんの発作重症度のスコアは、0=発作なし、1=顔面のけいれん、2=姿勢を保って両上肢の間体けいれん、3=疾走またはジャンプ、4=姿勢が保てなくなって全身のけいれん、5=けいれんが持続して死亡、として評価した。
【0311】
結果を
図9に示す。
図9は、Scn1a遺伝子の変異ラットにおよぼすCacna1a遺伝子の変異の影響を調べた結果を示す図である。尚、
図9の(a)〜(c)のグラフでは、Scn1a
mut/mutCacna1a
wt/wt(上記ラット(2))は「Scn1a変異ホモ」と表記した。Scn1a
mut/mutCacna1a
wt/mut(上記ラット(3))は「Scn1a変異ホモ+Cacna1a変異ヘテロ」と表記した。また、コントロールのScn1a
wt/wtCacna1a
wt/wt(上記ラット(1))は「WT」と表記し、コントロールのScn1a
wt/wtCacna1a
wt/mut(上記ラット(4))は「Cacna1a変異ヘテロ」と表記した。
【0312】
解析の結果、グループ(3)のラット(Scn1a変異型ホモ+Cacna1a変異型ヘテロ)は、グループ(2)のラット(Scn1a変異型ホモ+Cacna1a野生型ホモ)と比較して、けいれん発症時の体温(けいれん閾値)(
図9の(a))、および重症度スコア(
図9の(b))に大きな差はなかった。しかし、けいれんの持続時間(
図9の(c))が有意に長くなることが明らかになった。この結果は、Cacna1a遺伝子の変異が、けいれんの症状の悪性化に関わっていることを示している。
【0313】
さらに、グループ(3)のラット(Scn1a変異型ホモ+Cacna1a変異型ヘテロ)の発作時の脳波の一部を
図10に示す。このことから、Scn1a遺伝子とCacna1a遺伝子とに変異を有するラットは、難治性のDravet症候群のモデルラットになり得ると考えられた。当該モデルラットは、今後、難治性のDravet症候群の発症メカニズムの解明や、Dravet症候群の治療薬の開発等に有用に使用され得ると期待される。
【0314】
また、これらの結果は、難治性のてんかんであるDravet症候群の患者においてSCN1A遺伝子の変異に加えてCACNA1A遺伝子の変異が検出された、実施例1の遺伝子解析データを裏付けるものであると考えられる。つまり、本発明に係るDravet症候群の発症の可能性を判定するためのデータを取得する方法は、実施例の遺伝子解析結果、変異型チャネル機能解析結果、および動物実験の結果に裏付けられた技術であると言える。
【0315】
〔まとめ〕
本発明は、難治性のDravet症候群の発症の分子基盤に基づいて開発されたものであり、本発明に係る判定方法は、Dravet症候群患者の早期発見方法として有用であるといえる。本発明に係る判定方法を用いることによって、予後不良のDravet症候群を、高精度に、且つ早期に発見することが可能となり、Dravet症候群の患者に対して、早期から、てんかん専門医による治療管理体制を整えることができる。この結果、患者の治療成績の向上、家族の精神的負担の軽減、および経済的負担の軽減が可能となる。また、Dravet症候群の患者に対して適切な治療を施すことができるので、医療費の削減に貢献し得ると考える。
【0316】
さらに、本発明に係るキットを用いれば、SCN1A遺伝子およびCACNA1A遺伝子の両方における変異を容易に検出することができる。このため、本発明に係るキットは、一般小児科医が、1歳未満の病初期に良性の熱性てんかんのなかから、専門医の治療が必要なDravet症候群の患者を選別するために有用である。
【0317】
本発明に係る判定方法およびキットを用いることにより、これまで検出が困難であった1歳未満の時点で、Dravet症候群の患者を高精度に検出することができる。また、採血された血液を検査センターに輸送後、遺伝子異常を検査することによって、遠隔地の個人病院等であっても、Dravet症候群の患者を高精度に検出することが可能となる。
【0318】
また、本発明に係るモデル動物および細胞は、難治性のDravet症候群の発症メカニズムの解明や、Dravet症候群の治療薬の開発等に有用に使用され得る。
【0319】
<プライマーの配列>
Scn1a遺伝子の増幅、およびCacna1a遺伝子の増幅に用いたプライマー対の塩基配列を表10に示す。
【0320】
【表10】
【0321】
SCN1A遺伝子ゲノムの検出に用いたプライマー対の塩基配列を表11および表12に示す。
【0322】
【表11】
【0323】
【表12】
【0324】
CACNA1A遺伝子ゲノムの検出に用いたプライマー対の塩基配列を表13および表14に示す。表13および表14中、例えば、E1Fはエキソン1増幅用Sense primerを指し、E1Rvはエキソン1増幅用Antisense primerを指す。
【0325】
【表13】
【0326】
【表14】