特許第5846446号(P5846446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5846446リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用電極、リチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5846446
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用電極、リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20151224BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20151224BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】4
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-189979(P2012-189979)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-49239(P2014-49239A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】村上 元信
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/091015(WO,A1)
【文献】 特開2011−146392(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040383(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/111614(WO,A1)
【文献】 特開2012−142157(JP,A)
【文献】 特表2012−511809(JP,A)
【文献】 特開2012−059527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505、4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Li1+αMe1−α(MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、1.2≦(1+α)/(1−α)≦1.45)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、六方晶の結晶構造を有し、CuKαをターゲットとしたX線回折測定での44.5±1°回折ピークに対する18.3±1°回折ピークの面積強度比が1.61以上2.11以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記面積強度比が1.75以上であり、かつ前記過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、六方晶の単一の結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウム二次電池用電極を備えたリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、その電極を備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池、特にリチウム二次電池は、携帯用端末等に広く搭載されている。これらの非水電解質二次電池には、正極活物質として主にLiCoOが用いられている。しかし、LiCoOの放電容量は120〜130mAh/g程度である。
【0003】
また、リチウム二次電池用正極活物質材料として、LiCoOと他の化合物との固溶体が知られている。α−NaFeO型結晶構造を有し、LiCoO、LiNiO及びLiMnOの3つの成分の固溶体であるLi[Co1−2xNiMn]O(0<x≦1/2)」が、2001年に発表された。前記固溶体の一例である、LiNi1/2Mn1/2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3は、150〜180mAh/gの放電容量を有しており、充放電サイクル性能の点でも優れる。
【0004】
上記のようないわゆる「LiMeO型」活物質に対し、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きく、例えばLi/Meが1.25〜1.6であるいわゆる「リチウム過剰型」活物質が知られている(たとえば、特許文献1〜4参照)。このような材料は、Li1+αMe1−α(α>0)と表記することができる。ここで、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meをβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0005】
特許文献1及び2には、一般式xLiMO・(1−x)LiM′O(0<x<1)のリチウム二次電池用活物質が記載され、MをMn、Co及びNiから選択された一種以上とすること、M′をMnとすることも記載され、このLiを富化した活物質は、結晶構造が安定化し、これを使用することにより放電容量が大きいリチウム二次電池が得られることが示されている。
【0006】
特許文献3には、「α−NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体を含むリチウム二次電池用活物質であって、前記固溶体が含有するLi,Co,Ni及びMnの組成比が、Li1+1/3xCo1−x−yNiy/2Mn2x/3+y/2(x+y≦1、0≦y、1−x−y=z)を満たし、Li[Li1/3Mn2/3]O(x)−LiNi1/2Mn1/2(y)−LiCoO(z)系三角相図において、(x,y,z)が、点A(0.45,0.55,0)、点B(0.63,0.37,0)、点C(0.7,0.25,0.05)、点D(0.67,0.18,0.15)、点E(0.75,0,0.25)、点F(0.55,0,0.45)、及び点G(0.45,0.2,0.35)を頂点とする七角形ABCDEFGの線上又は内部に存在する範囲の値で表され、かつ、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、充放電前においてI(003)/I(104)≧1.56であり、放電末においてI(003)/I(104)>1であることを特徴とするリチウム二次電池用活物質。」(請求項1)の発明が記載され、このLiを富化した活物質を使用することにより、放電容量が大きく、特に4.3V以下の電位領域における放電容量が大きいリチウム二次電池が得られることが示されている。
【0007】
そして、特許文献3には、「さらに、活物質作製後の充放電前における回折ピークの強度比I(003)/I(104)と、充放電後における上記強度比の変化については、以下のようなことが推定される。充放電前における回折ピークの強度比がI(003)/I(104)≧1.56であったとしても、充放電中にLi層に対する遷移金属の混入があると、(003)面の回折ピークがブロードになると共に、強度比I(003)/I(104)が顕著に小さくなり、従来の活物質においては、・・・(004)面の回折ピークとその強度が逆転する場合もある。これに対して、本発明の活物質においては、表1、図11及び図12に示されるように、充放電前においてI(003)/I(104)≧1.56であると共に、放電末においてI(003)/I(104)>1(実施例においては、I(003)/I(104)>1.3)であり、(003)面の回折ピークが(104)面の回折ピークとその強度が逆転することはないから、充放電中におけるLi層に対する遷移金属の混入はないことが示唆され、これにより安定した大きな可逆容量が得られるものと考えられる。放電末に、充放電前よりも強度比I(003)/I(104)が大きくなっても良い。放電末に、充放電前よりも強度比I(003)/I(104)が小さくなる場合には、その強度比の変化は、少ないことが好ましく、充放電前の30%以内であることがより好ましく、実施例においては26%以内である。」(段落[0068])と記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、「好ましい焼成温度は、活物質の酸素放出温度により異なるから、一概に焼成温度の好ましい範囲を設定することは難しいが、好ましくは900から1100℃、より好ましくは950から1050℃であれば高い特性を発揮することができる。」(段落[0078])と記載され、実施例として、共沈水酸化物前駆体を原料として1000℃で12h焼成した活物質が示されている。上記のようにして作製された活物質について、電流0.1ItA、電圧4.5Vの定電流定電圧充電を行い、電流値が1/6に減衰した時点を充電末とし、その後、4.3V(vs.Li/Li)まで充電して、電流0.1ItAの定電流放電を行い、終止電圧が2.0Vとなった時点を放電末としたこと(段落[0117])が記載され、そのうち、組成がLi1.2Co0.1Ni0.15Mn0.55(Li/Me比=1.5)である実施例7(AT18)の活物質、組成がLi1.23Co0.3Mn0.47(Li/Me比=1.6)である実施例16(AT33)の活物質の充放電前(合成試料)、充電末及び放電末のX線回折図(CuKαをターゲット)が、それぞれ、図11図12に示され、4.5V(vs.Li/Li)の充電状態(充電末)において、(104)面(44±1°)回折ピークに対する(003)面(18±1°)回折ピークの面積強度比が、図11によれば、約1.90であること、図12によれば、約1.85であることが示されている。
【0009】
特許文献4には、「α−NaFeO型結晶構造を有し、組成式Li1+αMe1−α(MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、α>0)で表され、前記遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1.2〜1.6であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記遷移金属元素Me中のCoのモル比Co/Meが0.02〜0.23であり、前記遷移金属元素Me中のMnのモル比Mn/Meが0.62〜0.72であり、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上空間群R3−mに帰属される単一相として観察されるものであることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。」(請求項1)、「X線回折測定による(003)面と(114)面の回折ピークの強度比が、充放電前においてI(003)/I(114)≧1.20であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。」(請求項7)の発明が記載され、この正極活物質を使用することにより、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池、さらには、これらの効果に加えて、初期効率、高率放電性能が優れた非水電解質二次電池を提供できることが示されている。
【0010】
そして、特許文献4には、「前記遷移金属元素の分布の均一性が高いものは、X線回折測定結果を空間群R3−mに帰属した場合の(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が大きいものとなる傾向がある。本発明において、前記X線回折測定による(003)面と(104)面(充放電前においては、空間群P312に帰属し(114)面)の回折ピークの強度比は、I(003)/I(114)≧1.20であることが好ましい。」(段落[0082])と記載されている。
また、特許文献4には、実施例として、炭酸ナトリウムを用いてpH8.6〜11.0で中和し、100℃で乾燥して得た共沈炭酸塩前駆体を原料として850〜1000℃で10h焼成したリチウム遷移金属複合酸化物(活物質)が示されている。さらに、「このようにして得られた全てのリチウム遷移金属複合酸化物は、CuKα線源を用いたエックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を行いてエックス線回折測定を行った結果、表2〜3に示されるように、実施例1−1〜1−61及び比較例1−4〜1−16のリチウム遷移金属複合酸化物は、いずれも、(003)面と(114)面の回折ピークの強度比I(003)/I(114)は1.58以上であった。」(段落[0110])と記載されている。
【0011】
上記以外にも、リチウム遷移金属複合酸化物の回折ピーク強度比に特徴を有するリチウム二次電池用正極活物質についての発明が公知である(特許文献5及び6参照)。
【0012】
特許文献5には、「Li1+x1−x(Mはニッケル、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、クロム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の遷移金属、0≦x≦0.15)で表される層状岩塩型リチウム・遷移金属複合酸化物であって、酸性根の含有量が総量で多くとも1500ppm、アルカリ金属の含有量が総量で多くとも2000ppmであり、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度比(I(003)/I(104))が少なくとも1.4であることを特徴とするリチウム・遷移金属複合酸化物。」(請求項1)、「遷移金属MがNi(1−y+z)/2Mn(1−y−z)/2Co(0<y≦0.35、−0.05≦z≦0.05)であることを特徴とする請求項1記載のリチウム・遷移金属複合酸化物。」(請求項2)の発明が記載され、このリチウム・遷移金属複合酸化物は、放電容量が高く、レート特性が優れていることが示されている。
【0013】
また、特許文献5には、「第三の工程では、第二の工程で得られた前駆体組成物を加熱焼成してリチウム・遷移金属複合酸化物を得る。加熱焼成温度は、概ね700〜1100℃の範囲が好ましい。粒子の焼結を防ぐためには、1000℃以下とするのが好ましいので、より好ましい加熱焼成温度は700〜1000℃の範囲である。また加熱時間は1〜20時間であればよく、3〜10時間であれば更に好ましい。加熱焼成で複合酸化物への転化が均質に進み、非常に結晶性が高く層状構造の発達したリチウム・遷移金属複合酸化物が得られ易くなる。例えば、層状岩塩型結晶構造を有するものであれば、六方晶に帰属されるX線回折の(003)及び(104)のピーク強度をそれぞれI(003)、I(104)とすると、ピーク強度比(I(003)/I(104))が少なくとも1.4、好ましくは1.5以上の値を示す。」(段落[0023])と記載され、実施例1〜12として、充放電前(合成試料)のI(003)/I(104)が1.56〜2.17であるLi1+x(Ni,Co,Mn)1−xのリチウム・遷移金属複合酸化物が示されている(表1)。
【0014】
特許文献6には、「組成式Li1+x1-x-yAly2-zz(MはCo、Ni、Mnから選ばれる1種以上;0≦x≦0.2;0.05≦y≦0.2;0.01≦z≦0.3)で表され、結晶構造が層状岩塩構造をなし、CuKα線を用いたX線回折分析による(003)面の回折ピークの強度I003と(104)面の回折ピークの強度I104との強度比I003/I104が1.7以上となるリチウム二次電池正極活物質用リチウム遷移金属複合酸化物。」(請求項1)の発明が記載され、また、「層状岩塩構造リチウム遷移金属複合酸化物の結晶性を示すパラメータとして、本技術では、CuKα線を用いたX線回折分析による(003)面の回折ピークの強度I003と(104)面の回折ピークの強度I104との強度比I003/I104を採用する。(003)面の回折ピークは、層状岩塩構造固有のものであるのに対し、(104)面の回折ピークは層状岩塩構造のみならず立方岩塩構造からも選られる。したがって、その強度比I003/I104が大きい程、岩塩ドメインが少なく、層状岩塩構造の単一相に近づく。つまり結晶性が良好となる。本発明のリチウム遷移金属複合酸化物の場合、このパラメータを用いれば、I003/I104が1.7以上となることを必要とする。1.7未満の場合は、結晶性が低く、正極活物質として用いたリチウム二次電池のサイクル特性等の電池性能を悪化させることとなる。」(段落[0027])と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,677,082号明細書
【特許文献2】米国特許第7,135,252号明細書
【特許文献3】特開2010−86690号公報
【特許文献4】WO2012/091015
【特許文献5】特開2010−282982号公報
【特許文献6】特開2002−128526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記したいわゆる「リチウム過剰型」活物質の放電容量は、概して、いわゆる「LiMeO型」活物質よりも大きい。しかしながら、近年、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車といった自動車分野に使用されるリチウム二次電池には、放電容量が大きいだけではなく、充放電サイクル性能が優れた正極活物質が求められている。本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、放電容量が大きく、かつ充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池用正極活物質、及びその正極活物質を用いたリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)組成式Li1+αMe1−α(MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、1.2≦(1+α)/(1−α)≦1.45)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、六方晶の結晶構造を有し、CuKαをターゲットとしたX線回折測定での44.5±1°回折ピークに対する18.3±1°回折ピークの面積強度比が1.61以上2.11以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
(2)前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記面積強度比が1.75以上であり、かつ前記過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、六方晶の単一の結晶構造を有することを特徴とする前記(1)のリチウム二次電池用正極活物質。
(3)前記(1)又は(2)のリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極。
(4)前記(3)のリチウム二次電池用電極を備えたリチウム二次電池。
ここで、「過充電化成直の4.3V(vs.Li/Li)での充電状態」とは、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)以上に至る充電、例えば4.6V(vs.Li/Li)に至る充電と放電とからなる化成を行った後(過充電化成直後)、さらに4.3V(vs.Li/Li)での充電を行った状態」を意味する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、新規なリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を備えた放電容量が大きく、かつ充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係るリチウム二次電池用活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、高い放電容量が得られる点から、Co、Ni及びMnを含む遷移金属元素Me、並びに、Liを含有し、Li1+αMe1−α(α>0)と表記することができる、いわゆる「リチウム過剰型」のものである。
【0020】
本発明においては、組成式Li1+αMe1−αにおいて(1+α)/(1−α)で表される遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは、1.2以上又は1.45以下とすることで、放電容量が大きいリチウム二次電池を得ることができるので、1.2≦(1+α)/(1−α)≦1.45とする。なかでも、放電容量が特に大きく、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を得ることができるという観点から、1.25≦(1+α)/(1−α)≦1.45とすることが好ましく、1.25<(1+α)/(1−α)≦1.4とすることがより好ましい。
【0021】
リチウム遷移金属複合酸化物は、1100℃以上の高温合成において単斜晶系の結晶構造をとり(1100℃以上の環境下を経た活物質は室温に戻しても単斜晶のまま)、六方晶系と比較して電極特性が大きく低下することが分かっている。
また、母相であるLiMnOは単斜晶であることから、初期は六方晶であっても、充放電過程において構造変化する可能性も考えられるので、本発明者等は結晶構造推移に着目して検討を進めてきた。その結果、初期は六方晶であっても、製造条件によっては充電過程において単斜晶構造に変化し、ピーク強度も変化することがわかった。それによって、電極特性に影響をおよぼすものであった。
【0022】
本発明においては、リチウム二次電池の放電容量、充放電サイクル性能を向上させるために、リチウム遷移金属複合酸化物は、過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、CuKαをターゲットとしたX線回折測定での44.5±1°回折ピークに対する18.3±1°回折ピークの面積強度比を1.61以上2.11以下とする。前記面積強度比が1.61未満では、放電容量が小さくなると共に、充放電サイクル性能が低下し、前記面積強度比が2.11を超えると、放電容量が小さくなるので、前記面積強度比を1.61以上2.11以下とする。
【0023】
本発明において、リチウム遷移金属複合酸化物は、六方晶の単一の結晶構造を有することが好ましい。過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、CuKαをターゲットとしたX線回折測定での44.5±1°回折ピークに対する18.3±1°回折ピークの面積強度比が1.75以上2.11以下であると共に、六方晶の単一の結晶構造を有することにより、充放電サイクル性能が顕著に向上する。
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、過充電中に構造変化しないことが好ましい。これは、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上空間群R3−mに帰属される単一相として観察されることにより確認できる。これにより、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0024】
上記リチウム遷移金属複合酸化物の合成後(充放電を行う前)のものは、空間群P312あるいはR3−mに帰属される。このうち、空間群P312に帰属されるものには、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=21°付近に超格子ピーク(Li[Li1/3Mn2/3]O型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、一度でも充電を行い、結晶中のLiが脱離すると結晶の対称性が変化することにより、上記超格子ピークが消滅して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3−mに帰属されるようになる。ここで、P312は、R3−mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3−mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P312モデルが採用される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0025】
さらに、リチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折パターンを基にリートベルト法による結晶構造解析から求められる酸素位置パラメータが、過充電化成後の2V(vs.Li/Li)の放電末において0.262以下、4.3V(vs.Li/Li)の充電末において0.267以上であることが好ましい。これにより、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。なお、酸素位置パラメータとは、空間群R3−mに帰属されるリチウム遷移金属複合酸化物のα―NaFeO型結晶構造について、Me(遷移金属)の空間座標を(0,0,0)、Li(リチウム)の空間座標を(0,0,1/2)、O(酸素)の空間座標を(0,0,z)と定義したときの、zの値をいう。即ち、酸素位置パラメータは、O(酸素)位置がMe(遷移金属)位置からどれだけ離れているかを示す相対的な指標となる(特許文献4参照)。
【0026】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、試料合成後のエックス線回折パターンを元に空間群R3−mを結晶構造モデルに用いたときに(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.204°〜0.303°の範囲であるか、又は、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.266°〜0.424°の範囲であることが好ましい。こうすることにより、正極活物質の放電容量を大きくし、高率放電性能を向上させることが可能となる。なお、CuKα管球を用いたときに現れる2θ=18.6°±1°の回折ピークは、空間群P312及びR3−mではミラー指数hklにおける(003)面に、2θ=44.1°±1°の回折ピークは、空間群P312では(114)面、空間群R3−mでは(104)面にそれぞれ指数付けされる。
【0027】
また、本発明においては、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.05〜0.40とすることが好ましく、0.10〜0.30とすることがより好ましい。
【0028】
同様に、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.44〜0.85が好ましく、0.48〜0.75がより好ましい。
【0029】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Li1+α(CoNiMn1−α、但し、1.2≦(1+α)/(1−α)≦1.45、a+b+c=1、a>0、b>0、c>0で表わされるものであり、本質的に、Li、Co、Ni及びMnからなる複合酸化物であるが、放電容量を向上させるために、Naを1000ppm以上含ませることが好ましい。Naの含有量は、2000〜10000ppmがより好ましい。
【0030】
Naを含有させるために、後述する水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体を作製する工程において、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を中和剤として使用し、洗浄工程でNaを残存させるか、及び、その後の焼成工程において炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を添加する方法を採用することができる。
【0031】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、Na以外のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe,Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0032】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、放電容量を向上させるために、2次粒子の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径であるD50を、水酸化物前駆体から作製する場合、1〜8μmとすることが好ましく、炭酸塩前駆体から作製する場合、5〜18μmとすることが好ましい。
【0033】
本発明に係る正極活物質のBET比表面積は、初期効率、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、1m/g以上が好ましく、2〜5m/gがより好ましい。
また、タップ密度は、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、1.25g/cc以上が好ましく、1.7g/cc以上がより好ましい。
【0034】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、炭酸塩前駆体から作製する場合、窒素ガス吸着法を用いた吸着等温線からBJH法で求めた微分細孔容積が最大値を示す細孔径が30〜40nmの範囲であり、ピーク微分細孔容積が0.85mm/(g・nm)以上であることが好ましい。ピーク微分細孔容積が0.85mm/(g・nm)以上であることにより、初期効率が優れたリチウム二次電池を得ることができる。また、ピーク微分細孔容積を1.75mm/(g・nm)以下とすることにより、初期効率に加え、放電容量が特に優れたリチウム二次電池を得ることができるから、ピーク微分細孔容積は0.85〜1.75mm/(g・nm)であることが好ましい。
【0035】
次に、本発明のリチウム二次電池用活物質を製造する方法について説明する。
本発明のリチウム二次電池用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を目的とする活物質(酸化物)の組成通りに含有する原料を調整し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1−xMnなど)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
【0036】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが特に重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。なかでも、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0037】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製しようとする場合には、10〜14とすることができ、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0038】
前記共沈前駆体は、MnとNiとCoとが均一に混合された化合物であることが好ましい。本発明においては、放電容量が大きいリチウム二次電池用活物質を得るために、共沈前駆体を炭酸塩とすることが好ましい。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0039】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0040】
本発明においては、アルカリ性を保った反応槽に前記共沈前駆体の原料水溶液を連続的に滴下供給して共沈前駆体を得る反応晶析法を採用する。ここで、中和剤として、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物等を使用することができるが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムと水酸化リチウム、又は、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物を使用することが好ましく、また、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製する場合には、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムと炭酸リチウム、又は、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物を使用することが好ましい。Naを1000ppm以上残存させるために、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸リチウム(水酸化リチウム)のモル比であるNa/Li、又は、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸カリウム(水酸化カリウム)のモル比であるNa/Kは、1/1[M]以上とすることが好ましい。Na/Li又はNa/Kを1/1[M]以上とすることにより、引き続く洗浄工程でNaが除去されすぎて1000ppm未満となってしまう虞を低減できる。
【0041】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30ml/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10ml/min以下がより好ましく、5ml/min以下が最も好ましい。
【0042】
また、反応槽内に錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0043】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30h以下が好ましく、25h以下がより好ましく、20h以下が最も好ましい。
【0044】
また、共沈水酸化物前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を1〜8μmとするための好ましい攪拌継続時間、共沈炭酸塩前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を5〜18μmとするための好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えば、共沈水酸化物前駆体については、pHを10〜12に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜10hが好ましく、pHを12〜14に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜20hが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを7.5〜8.2に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜15hが好ましく、pHを8.3〜9.4に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜20hが好ましい。
【0045】
共沈前駆体の粒子を、中和剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を使用して作製した場合、その後の洗浄工程において粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去するが、本発明においては、Naが1000ppm以上残存するような条件で洗浄除去することが好ましい。例えば、作製した共沈前駆体を吸引ろ過して取り出す際に、イオン交換水200mlによる洗浄回数を5回とするような条件を採用することができる。
【0046】
炭酸塩前駆体は、80℃〜100℃未満で、空気雰囲気中、常圧下で乾燥させることが好ましい。100℃以上にて乾燥を行うことで短時間でより多くの水分を除去できるが、80℃にて長時間かけて乾燥させることで、より優れた電極特性を示す活物質とすることができる。その理由は必ずしも明らかではないが、炭酸塩前駆体は比表面積が50〜100m/gの多孔体であるため、水分を吸着しやすい構造となっている。そこで、低い温度で乾燥させることによって、前駆体の状態において細孔にある程度の吸着水が残っている状態とした方が、Li塩と混合して焼成する焼成工程において、細孔から除去される吸着水と入れ替わるように、その細孔に溶融したLiが入り込むことができ、これによって、100℃で乾燥を行った場合と比べて、より均一な組成の活物質が得られるためではないかと発明者は推察している。なお、100℃にて乾燥を行って得られた炭酸塩前駆体は黒茶色を呈するが、80℃にて乾燥を行って得られた炭酸塩前駆体は肌色を呈するので、前駆体の色によって区別ができる。
【0047】
そこで、上記知見された前駆体の差異を定量的に評価するため、それぞれの前駆体の色相を測定し、JIS Z 8721に準拠した日本塗料工業会が発行する塗料用標準色(JPMA Standard Paint Colors)2011年度F版と比較した。色相の測定には、コニカミノルタ社製カラーリーダーCR10を用いた。この測定方法によれば、明度を表すdL*の値は、白い方が大きくなり、黒い方が小さくなる。また、色相を表すda*の値は、赤色が強い方が大きくなり、緑色が強い方(赤色が弱い方)が小さくなる。また、色相を表すdb*の値は、黄色が強い方が大きくなり、青色が強い方(黄色が弱い方)が大きくなる。
100℃乾燥品の色相は、標準色F05−20Bと比べて、赤色方向に標準色F05−40Dに至る範囲内にあり、また、標準色FN−10と比べて、白色方向に標準色FN−25に至る範囲内にあることがわかった。中でも、標準色F05−20Bが呈する色相との色差が最も小さいものと認められた。
一方、80℃乾燥品の色相は、標準色F19−50Fと比べて、白色方向に標準色F19−70Fに至る範囲内にあり、また、標準色F09−80Dと比べて、黒色方向に標準色F09−60Hに至る範囲内にあることがわかった。中でも、標準色F19−50Fが呈する色相との色差が最も小さいものと認められた。
以上の知見から、炭酸塩前駆体の色相は、標準色F05−20Bに比べて、dL,da及びdbの全てにおいて+方向であるものが好ましく、dLが+5以上、daが+2以上、dbが+5以上であることがより好ましいといえる。
【0048】
本発明のリチウム二次電池用活物質は、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。但し、Li化合物の量については、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0049】
本発明においては、リチウム遷移金属複合酸化物中のNaの含有量を1000ppm以上とするために、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体に含まれるNaが1000ppm以下であっても、焼成工程においてLi化合物と共にNa化合物を、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体と混合することで活物質中に含まれるNa量を1000ppm以上とすることができる。Na化合物としては炭酸ナトリウムが好ましい。
【0050】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を導くので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、本発明に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0051】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明においては、前駆体が共沈水酸化物である場合、焼成温度は少なくとも700℃以上とすることが好ましく、前駆体が共沈炭酸塩である場合、焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが好ましい。特に、前駆体が共沈炭酸塩である場合の最適な焼成温度は、前駆体に含まれるCo量が多いほど、より低い温度となる傾向がある。このように1次粒子を構成する結晶子を十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
本発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することにより、前駆体が共沈水酸化物である場合においては、焼成温度が650℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、650℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができること、及び、前駆体が共沈炭酸塩である場合においては、焼成温度が750℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、750℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。
【0052】
上記のように、焼成温度は、活物質の酸素放出温度に関係するが、活物質から酸素が放出される焼成温度に至らずとも、900℃以上において1次粒子が大きく成長することによる結晶化現象が見られる。これは、焼成後の活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。900℃を超えた合成温度を経て合成した活物質は1次粒子が0.5μm以上に成長しており、充放電反応中における活物質中のLi移動に不利な状態となり、高率放電性能が低下する。1次粒子の大きさは0.5μm未満であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
したがって、放電容量、充放電サイクル性能を向上させるために、1<モル比Li/Me≦1.5の本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とする場合、焼成温度は700〜1000℃とすることが好ましい。共沈水酸化物前駆体から得られたリチウム遷移金属複合酸化物の場合は、700〜900℃で焼成することがより好ましく、共沈炭酸塩前駆体から得られたリチウム遷移金属複合酸化物の場合は、800〜900℃で焼成することがより好ましい。
【0053】
本発明に係る正極活物質が、高い放電容量を備えたものとするためには、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素が層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分に存在する割合が小さいものであることが好ましい。これは、焼成工程に供する前駆体において、前駆体コア粒子のCo,Ni,Mnといった遷移金属元素が十分に均一に分布していること、及び、活物質試料の結晶化を促すための適切な焼成工程の条件を選択することによって達成できる。焼成工程に供する前駆体コア粒子中の遷移金属の分布が均一でない場合、十分な放電容量が得られないものとなる。この理由については必ずしも明らかではないが、焼成工程に供する前駆体コア粒子中の遷移金属の分布が均一でない場合、得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分、即ちリチウムサイトに遷移金属元素の一部が存在するものとなる、いわゆるカチオンミキシングが起こることに由来するものと本発明者らは推察している。同様の推察は焼成工程における結晶化過程においても適用でき、活物質試料の結晶化が不十分であると層状岩塩型結晶構造におけるカチオンミキシングが起こりやすくなる。前記遷移金属元素の分布の均一性が高いものは、X線回折測定結果を空間群R3−mに帰属した場合の(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が大きいものとなる傾向がある。本発明において、X線回折測定による前記(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、上記のように、充電末において1.61以上であるが、放電末において1.0以上であることが好ましい。前駆体の合成条件や合成手順が不適切である場合、前記ピーク強度比はより小さい値となり、しばしば1未満の値となる。
ところで、充電末状態におけるピーク強度比と放電末状態におけるピーク強度比とを比較した場合、本発明の実施例における両者の差は、比較例に比べて非常に小さい。これは実施例においては充放電過程においてわずかながらLi層とMe層の間でのカチオンミキシングが生じているためであると考えられる。
【0054】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを析出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0055】
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0056】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0057】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0058】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0059】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0060】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0061】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明に係るリチウム二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li210Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23,(CH34NBF4,(CH34NBr,(C254NClO4,(C254NI,(C374NBr,(n−C494NClO4,(n−C494NI,(C254N−maleate,(C254N−benzoate,(C254N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0064】
さらに、LiPF6又はLiBF4と、LiN(C25SO22のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0065】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0066】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0067】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0068】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0069】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0070】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0071】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0072】
本発明のリチウム二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0073】
従来の正極活物質も、本発明の活物質も、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。したがって、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られるリチウム二次電池が求められる場合がある。本発明の活物質を用いると、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)より低くなるような、例えば、4.4V(vs.Li/Li)以下や4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、約200mAh/g以上という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
本願明細書に記載した合成条件及び合成手順を採用することにより、上記のような高性能の正極活物質を得ることができる。
【実施例】
【0074】
(実施例1)
硫酸コバルト7水和物14.08g、硫酸ニッケル6水和物21.00g及び硫酸マンガン5水和物65.27gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co:Ni:Mnのモル比が12.50:19.94:67.56となる2.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2Lの反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、Arガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中の溶存酸素を脱気した。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、1.0Mの水酸化ナトリウム、1.0Mの水酸化カリウム、0.5Mのアンモニアおよび0.05Mのヒドラジン水溶液を含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に11.0(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。
次に、ブフナー漏斗(130mmφ)と吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈水酸化物の粒子を分離し、さらにブフナー漏斗にイオン交換水を200ml注ぎ、ガラス棒で撹拌することで共沈化合物を洗浄した。この洗浄作業を5回行うことにより、粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄・除去した。つぎに、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、100℃にて乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈水酸化物前駆体を作製した。
【0075】
前記共沈水酸化物前駆体1.768gに、水酸化リチウム一水和物1.102gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li/Me(Co,Ni,Mn)のモル比(前記共沈水酸化物前駆体に対して混合した水酸化リチウムのモル比)が1.3である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から700℃まで10時間かけて昇温し、700℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、このようにして、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物Li1.13Co0.11Ni0.17Mn0.59を作製した。Naの含有量は2000ppmであった。
【0076】
(実施例2〜6)
Li/Me(Co,Ni,Mn)のモル比を、1.325、1.35、1.375、1.4、又は1.45に変更(それぞれ、前記共沈水酸化物前駆体1.758gに対して水酸化リチウム一水和物を1.116g、前記共沈水酸化物前駆体1.749gに対して水酸化リチウム一水和物を1.131g、前記共沈水酸化物前駆体1.739gに対して水酸化リチウム一水和物を1.146g、前記共沈水酸化物前駆体1.729gに対して水酸化リチウム一水和物を1.160g、又は前記共沈水酸化物前駆体1.711gに対して水酸化リチウム一水和物を1.189g混合)した他は、実施例1と同様にして、実施例2〜6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0077】
(実施例7〜9)
焼成温度を、700℃から800℃、900℃又は1000℃に変更した他は、実施例5と同様にして、それぞれ、実施例7〜9に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0078】
(実施例10)
前記共沈水酸化物前駆体を500℃で熱処理した後、水酸化リチウム一水和物を混合して焼成した他は、実施例5と同様にして、実施例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0079】
(実施例11、12)
Li/Me(Co,Ni,Mn)のモル比を、1.20(前記共沈水酸化物前駆体1.809gに対して水酸化リチウム一水和物を1.040g混合)又は1.25に変更(前記共沈水酸化物前駆体1.788gに対して水酸化リチウム一水和物を1.071g混合)した他は、実施例1と同様にして、実施例11又は12に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0080】
(実施例13、14)
焼成温度を700℃から800℃に変更した他は、実施例11又は12と同様にして、実施例13又は14に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0081】
(実施例15、16)
焼成温度を700℃から900℃に変更した他は、実施例11又は12と同様にして、実施例15又は16に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0082】
(実施例17)
焼成温度を700℃から1000℃に変更した他は、実施例12と同様にして、実施例17に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0083】
(実施例18)
前記共沈水酸化物前駆体の乾燥温度を100℃から150℃に変更した他は、実施例5と同様にして、実施例18に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0084】
(比較例1)
前記共沈水酸化物前駆体を作製する際に還元剤(ヒドラジン水溶液)を含有させない他は、実施例5と同様にして、比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0085】
(比較例2)
前記共沈水酸化物前駆体を500℃で熱処理した後、水酸化リチウム一水和物を混合して焼成した他は、比較例1と同様にして、比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0086】
(比較例3)
前記共沈水酸化物前駆体を作製する際のCo/Me:Ni/Me:Mn/Meのモル比を33:33:33に変更して共沈水酸化物前駆体を作製したこと、共沈水酸化物前駆体に水酸化リチウムを加え、Li/Me(Co,Ni,Mn)のモル比が1:1である混合粉体を調製した他は、実施例1と同様にして、比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oを作製した。
【0087】
(比較例4)
組成をLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oの代わりに、Li(Co1/5Ni2/5Mn2/5)Oに変更した他は、比較例3と同様にして、比較例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0088】
(比較例5)
組成をLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oの代わりに、Li(Co1/10Ni9/20Mn9/20)Oに変更した他は、比較例3と同様にして、比較例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0089】
(実施例19)
硫酸コバルト7水和物14.06g、硫酸ニッケル6水和物20.97g及び硫酸マンガン5水和物65.15gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co;Ni:Mnのモル比が0.125:0.199:0.676となる2Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2dmの反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、COガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中にCOを溶解させた。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、1.00Mの炭酸ナトリウム、1.00Mの炭酸カリウム及び0.40Mのアンモニアを含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に7.9(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。静置することにより、反応槽内に生成する共沈炭酸塩の粒子を十分に成長させることができる。 次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈炭酸塩の粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて200mlによる洗浄を1回としたときに、5回の洗浄を行う条件で粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20時間乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈炭酸塩前駆体を作製した。
得られた共沈炭酸前駆体について、コニカミノルタ社製カラーリーダーCR10を用いて色相の測定を行ったところ、JIS Z 8721に準拠した日本塗料工業会が発行する塗料用標準色(JPMA Standard Paint Colors)2011年度F版の標準色F05−20Bに対してdL=+8、da=+4、db=+8であった。
【0090】
前記共沈炭酸塩前駆体2.278gに、炭酸リチウム0.970gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が1.30:1.00である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、900℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物Li1.13Co0.11Ni0.17Mn0.59を作製した。Naの含有量は1000ppmであった。
【0091】
(実施例20〜25)
Li/Me(Co,Ni,Mn)のモル比を、1.25、1.275、1.35、1.40、1.45、又は1.20に変更(それぞれ、前記共沈炭酸塩前駆体2.304gに対して炭酸リチウムを0.943g、前記共沈炭酸塩前駆体2.291gに対して炭酸リチウムを0.957g、前記共沈炭酸塩前駆体2.253gに対して炭酸リチウムを0.996g、前記共沈炭酸塩前駆体2.228gに対して炭酸リチウムを1.022g、前記共沈炭酸塩前駆体2.204gに対して炭酸リチウムを1.047g、又は前記共沈炭酸塩前駆体2.330gに対して炭酸リチウムを0.916g混合)した他は、実施例19と同様にして、実施例20〜25に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0092】
(半値幅の測定)
実施例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物について、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて粉末エックス線回折測定を行った。線源はCuKα、加速電圧及び電流はそれぞれ30kV及び15mAとした。得られたエックス線回折データについて、前記エックス線回折装置の付属ソフトである「PDXL」を用いて、エックス線回折図上2θ=18.6°±1°及び2θ=44.1°±1°に存在する回折ピークについて半値幅を決定した。その結果、2θ=18.6°±1°における回折ピークについては0.224°、2θ=44.1°±1°における回折ピークについては0.278°であった。
【0093】
(粒子径の測定)
上記実施例及び比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、次の条件及び手順に沿って粒度分布の測定を行った。測定装置には日機装社製Microtrac(型番:MT3000)を用いた。前記測定装置は、光学台、試料供給部及び制御ソフトを搭載したコンピューターを備えており、光学台にはレーザー光透過窓を有する湿式セルが設置される。測定原理は、測定対象試料が分散溶媒中に分散している分散液が循環している湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料からの散乱光分布を粒度分布に変換する方式である。前記分散液は試料供給部に蓄えられ、ポンプによって湿式セルに循環供給される。前記試料供給部は、常に超音波振動が加えられている。今回の測定では、分散溶媒として水を用いた。又、測定制御ソフトにはMicrotrac DHS for Win98(MT3000)を使用した。前記測定装置に設定入力する「物質情報」については、溶媒の「屈折率」として1.33を設定し、「透明度」として「透過(TRANSPARENT)」を選択し、「球形粒子」として「非球形」を選択した。試料の測定に先立ち、「Set Zero」操作を行う。「Set zero」操作は、粒子からの散乱光以外の外乱要素(ガラス、ガラス壁面の汚れ、ガラス凹凸など)が後の測定に与える影響を差し引くための操作であり、試料供給部に分散溶媒である水のみを入れ、湿式セルに分散溶媒である水のみが循環している状態でバックグラウンド操作を行い、バックグラウンドデータをコンピューターに記憶させる。続いて「Sample LD (Sample Loading)」操作を行う。Sample LD操作は、測定時に湿式セルに循環供給される分散液中の試料濃度を最適化するための操作であり、測定制御ソフトの指示に従って試料供給部に測定対象試料を手動で最適量に達するまで投入する操作である。続いて、「測定」ボタンを押すことで測定操作が行われる。前記測定操作を2回繰り返し、その平均値として測定結果がコンピューターから出力される。測定結果は、粒度分布ヒストグラム、並びに、D10、D50及びD90の各値(D10、D50及びD90は、二次粒子の粒度分布における累積体積がそれぞれ10%、50%及び90%となる粒度)として取得される。
実施例1〜18及び比較例1、2に係るリチウム遷移金属複合酸化物の測定されたD50の値は4μmであった。
実施例19〜25に係るリチウム遷移金属複合酸化物の測定されたD50の値は8μmであった。
【0094】
また、上記実施例19の原料水溶液滴下終了後の攪拌継続時間を3hから1hに変更することにより、D50の値が5μmのリチウム遷移金属複合酸化物が得られた。また、原料水溶液滴下終了後の攪拌継続時間を3hから10hに変更することにより、D50の値が13μmのリチウム遷移金属複合酸化物が得られた。さらに、原料水溶液滴下終了後の攪拌継続時間を3hから15hに変更することにより、D50の値が18μmのリチウム遷移金属複合酸化物が得られた。
【0095】
(比表面積の測定)
実施例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、ユアサアイオニクス社製比表面積測定装置(商品名:MONOSORB)を用いて、一点法により、活物質に対する窒素吸着量[m]を求めた。得られた吸着量(m)を活物質質量(g)で除した値をBET比表面積とした。測定に当たって、液体窒素を用いた冷却によるガス吸着を行った。また、冷却前に120℃15minの予備加熱を行った。また、測定試料の投入量は、0.5g±0.01gとした。
測定された比表面積の値は、4.2m/gであった。
【0096】
(タップ密度の測定)
実施例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、REI ELECTRIC CO.LTD.社製のタッピング装置(1968年製)を用いて、300回カウント後の活物質の体積を質量で除した値をタップ密度とした。測定においては、10−2dmのメスシリンダーに活物質を2g±0.2g投入することで行った。
測定されたタップ密度の値は、1.82g/ccであった。
【0097】
(細孔容積分布の測定)
実施例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、次の条件及び手順に沿って細孔容積分布測定を行った。細孔容積分布の測定には、Quantachrome社製の「autosorb iQ」及び制御・解析ソフト「ASiQwin」を用いた。測定対象の試料であるリチウム遷移金属複合酸化物1.00gを測定用のサンプル管に入れ、120℃にて12h真空乾燥することで、測定試料中の水分を十分に除去した。次に、液体窒素を用いた窒素ガス吸着法により、相対圧力P/P0(P0=約770mmHg)が0から1の範囲内で吸着側および脱離側の等温線を測定した。そして、脱離側の等温線を用いてBJH法により計算することにより細孔分布を評価した。
測定された細孔容積分布の結果は、30〜40nmの細孔径におけるピーク微分細孔容積が1.39mm/(g・nm)であった。
【0098】
(リチウム二次電池の作製及び評価)
実施例1〜25及び比較例1〜5に係るリチウム遷移金属複合酸化物をそれぞれリチウム二次電池用正極活物質として用いて、以下の手順でリチウム二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0099】
N−メチルピロリドンを分散媒とし、活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、正極板を作製した。なお、全ての実施例及び比較例に係るリチウム二次電池同士で試験条件が同一になるように、一定面積当たりに塗布されている活物質の質量及び塗布厚みを統一した。
【0100】
正極の単独挙動を正確に観察する目的のため、対極、即ち負極には金属リチウムをニッケル箔集電体に密着させて用いた。ここで、リチウム二次電池の容量が負極によって制限されないよう、負極には十分な量の金属リチウムを配置した。
【0101】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/lとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記電解液を注液後、注液孔を封止した。
【0102】
以上の手順にて作製されたリチウム二次電池は、25℃の下、初期充放電工程(過充電化成)に供した。充電は、電流0.1CmA、電圧4.6V(vs.Li/Li)の定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。この充放電を2サイクル行った。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ30分の休止過程を設けた。
【0103】
(酸素位置パラメータの測定)
前記初期充放電工程を行った後(過充電化成直後)の電池は、さらに電流0.1CmA、電圧4.3Vの定電流定電圧充電を行った後、ドライルーム内で電池外装体から正極板を取り出した。取り出した正極板は、ジメチルカーボネートを用いて十分に洗浄を行い、室温乾燥後にAl箔から合剤を取り出し、瑪瑙乳鉢を用いて合剤を粉末状にほぐした。その後、ガラス製のサンプルホルダーに合剤粉末をセットし、粉末エックス線回折測定をおこなった。得られた回折図形に対してリートベルト法による結晶構造解析を実施した。リートベルト解析に使うプログラムはRIETAN-2000(Izumi et al.,Mat.Sci.Forum,321-324,198(2000))を用いた。解析に使用したプロファイル関数は、TCHの擬フォークト関数とした。ピーク位置シフトパラメータは格子定数既知のシリコン標準試料(Nist 640c)を用いてあらかじめ精密化を行ったものを用いた。正極活物質の結晶構造モデルを空間群R3−mとし、酸素位置パラメータz(O)を含めた次の結晶パラメータについて精密化した。
・バックグラウンドパラメータ
・格子定数
・ガウス関数の半値幅パラメータ
・ローレンツ関数の半値幅パラメータ
・非対称パラメータ
・選択配向パラメータ
・等方性原子変位パラメータ(但し、Li原子は0.75に固定)
実データは15〜85°(CuKα)の間の回折データを使用して、結晶構造モデルと
の差を示すS値が1.3を切る程度にまで精密化を行った。
前述した結晶子サイズや格子のひずみ量はそれぞれ、ガウス関数の半値幅パラメータとローレンツ関数の半値幅パラメータから算出することができる。
また、この解析を通して得た、実施例19における充電末での酸素位置パラメータは0.268であった。
【0104】
(回折ピークの面積強度比の算出)
上記エックス線回折図形に対して、前記付属ソフト「PDXL」を用いて、2θ=18.3±1°及び2θ=44.5±1°に存在する回折ピークについて面積強度を割出し、その強度比を算出した。
【0105】
(六方晶の単一の結晶構造の確認)
上記エックス線回折図形において、全ての回折線において空間群R3−mに帰属することが可能であれば、六方晶の単一の結晶構造と確認することができる。一方、2θ=36.9±1°に現れる(101)面に相当する回折ピークの低角側に(101)面がスプリットするように他のピークが出現することがある。これは六方晶よりも対称性が低下した単斜晶に帰属されるものである。このような場合には、六方晶の単一の結晶構造を有するとは判定しないものとする。六方晶の単一の結晶構造を有するものを○、六方晶の結晶構造を有するが、一部単斜晶に帰属される結晶構造が存在するものを×として記録した。
【0106】
(充放電試験)
また、同じ電極を用いてもう一つ作製したリチウム二次電池を用いて、充電電圧を変更して、1サイクルの充放電試験を行った。電圧制御は全て正極電位に対して行った。この充放電試験の条件は、前述した過充電化成の後に、充電電圧を4.3V(vs.Li/Li)に変更したことを除いては、前記初期充放電工程の条件と同一である。このときに得られた放電電気量を「放電容量(0.1C)mAh/g」として記録した。
【0107】
(充放電サイクル試験)
続いて、充放電サイクル試験を行った。電圧制御は、全て、正極電位に対して行った。充放電サイクル試験の条件は、前述した過充電化成の後に、充電電圧を4.3V(vs.Li/Li)に変更したことを除いては、前記初期充放電工程の条件と同一である。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。この充放電サイクル試験における1サイクル目の放電電気量及び30サイクル目の放電電気量を「放電容量(mAh/g)」として、1サイクル目の放電電気量に対する30サイクル目の放電電気量の比率を「サイクル容量維持率(%)」として記録した。
【0108】
実施例1〜25及び比較例1〜5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を、それぞれ正極活物質として用いたリチウム二次電池の試験結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1より、組成式Li1+αMe1−α(MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、1.2≦(1+α)/(1−α)≦1.45)で表され、過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、CuKαをターゲットとしたX線回折測定での44.5±1°回折ピークに対する18.3±1°回折ピークの面積強度比が1.61以上2.11以下である実施例1〜25のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いることにより、リチウム二次電池は放電容量が200mAh/g以上、サイクル容量維持率が74%以上となるから、放電容量が大きく、かつ充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池が得られることがわかる。また、その中でも、前記面積強度比が1.75以上であり、かつ過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、六方晶の単一の結晶構造を有する正極活物質(実施例1〜10、実施例19〜24)は、サイクル容量維持率が93%以上となり、充放電サイクル性能が顕著に向上する。
【0111】
これに対して、過充電化成後の4.3 V(vs.Li/Li)の充電状態において、CuKαをターゲットとしたX線回折測定での44.5±1°回折ピークに対する18.3±1°回折ピークの面積強度比が1.61未満である比較例1及び2のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池は、放電容量が小さくなり、六方晶の単一の結晶構造を有するものであるが、サイクル容量維持率は向上しない。
また、同様の共沈水酸化物前駆体から得られたリチウム遷移金属複合酸化物であっても、いわゆる「リチウム過剰型」ではない、いわゆる「LiMeO型」のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池では、比較例3〜5に示されるように、いずれも前記面積強度比が2.11を超え、サイクル容量維持率は高いものの、放電容量が極めて小さくなる。
【0112】
以上のとおり、本発明においては、組成式Li1+αMe1−α(MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、1.2≦(1+α)/(1−α)≦1.45)で表され、過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電状態において、CuKαをターゲットとしたX線回折測定での44.5±1°回折ピークに対する18.3±1°回折ピークの面積強度比が1.61以上2.11以下であるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いることにより、放電容量が大きくなり、かつ充放電サイクル性能が向上するという効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の新規なリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いることにより、放電容量が大きく、かつ充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を提供することができるので、このリチウム二次電池は、ハイブリッド自動車用、電気自動車用のリチウム二次電池として有用である。