(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透光性外管と、発光部と細管部を有する放電容器と、該放電容器の細管部に装着された電極システムと、を有し、前記電極システムは、タングステン電極、電流供給導体、及び、ニオブ製のリード線を有するように構成されたセラミックメタルハライドランプにおいて、
前記電流供給導体と前記リード線の接続部分は前記細管部の内部に配置され、前記リード線の一部は前記細管部内に配置され、前記リード線の残りの部分は前記細管部の先端より突出しており、該突出部分の前記細管部近傍の周囲には、前記細管部にシール部を形成するときに発生するガスを吸収するガス吸収部材が装着されており、
前記リード線には、前記ガス吸収部材と前記細管部の先端とを隔離するストッパが接続されていることを特徴とするセラミックメタルハライドランプ。
透光性外管と、発光部と細管部を有する放電容器と、前記細管部に設けられたタングステン電極、電流供給導体、及び、ニオブ製のリード線を有し、前記リード線には該リード線の軸線に対して直交するように配置された2本の金属線のストッパが接続されている電極システムと、を備えたセラミックメタルハライドランプの製造方法において、
発光部と細管部を有する放電容器と、ニオブ製のリード線を有し、前記リード線には該リード線の軸線に対して直交するように配置された2本の金属線のストッパが接続されている電極システムと、を用意するステップと、
前記電極システムのリード線に、ガス吸収部材を装着し、次に、フリット成形体を装着するステップと、
前記細管部に前記電極システムを挿入するステップと、
前記放電容器の中心軸線が垂直となるように、前記放電容器を支持することにより前記ストッパと前記細管部の端面とを当接させるとともに前記ストッパと前記ガス吸収部材とを当接させるステップと、
前記フリット成形体を加熱して溶融させる溶融ステップと、
前記溶融したフリットが前記ガス吸収部材と接触しながら前記ストッパの間から前記細管部内に流入し、前記細管部の内面と前記電極システムの間の隙間を充填したとき前記溶融したフリットを固化させて封止材を形成するステップと、
を有するセラミックメタルハライドランプの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された例では、電流供給導体が放電容器の細管部の内部に収納されており、電流供給導体とリード線の溶接部は放電容器の細管部の内部にある。リード線の一部は放電容器の細管部の内部に収納され、リード線の残部は放電容器の細管部より突出している。このような構造では、溶接部に補強部材を設けない。一方、リード線は、展性及び延性に優れた金属ニオブ棒によって形成される。
【0008】
しかしながら、リード線を金属ニオブによって形成しても、セラミックメタルハライドランプの組立工程では、折れる場合がある。また製品完成後であっても、ランプ輸送中の振動や衝撃、ランプ設置場所によっては継続的な振動や衝撃が加わることによってリード線が断線することも考えられる。
【0009】
本発明の目的は、放電容器の細管部から突出するニオブ製のリード線が、ランプの製造工程等において、容易に折れることを防止し、ランプの製造工程を効率化することができる、セラミックメタルハライドランプ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者は、先ず、ニオブ製のリード線が容易に折れる原因を究明した。ニオブNbは、常温では比較的安定であるが、高温では炭素、水素等を吸収して脆化することが知られている。特許文献3に記載されているように、放電容器の細管部にシール部を形成する過程で、フリット成形体が溶融するとき、一酸化炭素CO、二酸化炭素CO
2等のガスを発生することが知られている。本願の発明者は、金属ニオブがこれらのガスを吸収することによりリード線が脆化すると考えた。
【0011】
そこで、リード線の脆化を回避するには、これらのガスをリード線が吸収しないように予め除去すればよい。本願の発明者は、これらのガスを除去する方法を鋭意考察した。本願の発明者は、ガス吸収部材をリード線に設けることを着想した。即ち、フリット成形体の溶融によって発生したガスを、リード線が吸収する前に、リード線に設けたガス吸収部材によって吸収すればよい。尚、特許文献3には、シール部のガラスフリットに気泡が発生することを回避するために、ストッパをニオブ又はタンタルによって構成することが記載されている。
【0012】
ガス吸収部材は、フリット成形体の溶融によって発生するガスを吸収することができるならどのような材料によって構成してもよい。しかしながら、ガス吸収部材は、好ましくは金属ニオブによって構成される。リード線の脆化の原因は、フリット成形体の溶融によって発生したガスがニオブ製のリード線によって吸収されることにある。従って、同一材料であるニオブ製のガス吸収部材によって、そのようなガスを吸収し除去するのが効率的である。更に、フリット成形体の溶融によって発生したガスの種類を特定することができなくても、それを除去することができる。
【0013】
尚、ガス吸収部材は、リード線を構成する金属と同一の金属、即ち、金属ニオブによって構成することが好ましいが、金属ニオブと同等にガス吸収作用を有する他の金属、例えば、タンタル製であってもよい。ニオブとタンタルは、半金属と称される第5族元素に属し、類似した化学的性質を有する。
【0014】
本発明の実施形態によると、透光性外管と、発光部と細管部を有する放電容器と、該放電容器の細管部に装着された電極システムと、を有し、前記電極システムは、タングステン電極、電流供給導体、及び、ニオブ製のリード線を有するように構成されたセラミックメタルハライドランプにおいて、
前記電流供給導体と前記リード線の接続部分は前記細管部の内部に配置され、前記リード線の一部は前記細管部内に配置され、前記リード線の残りの部分は前記細管部の先端より突出しており、該突出部分の前記細管部近傍の周囲には、前記細管部にシール部を形成するときに発生するガスを吸収するガス吸収部材が装着されている。
【0015】
本実施形態によると前記セラミックメタルハライドランプにおいて、前記ガス吸収部材はニオブ製又はタンタル製のコイルによって構成されてよい。
【0016】
本実施形態によると前記セラミックメタルハライドランプにおいて、前記電流供給導体は、耐ハロゲン性中間材と導電性サーメット棒を含み、前記タングステン電極は前記耐ハロゲン性中間材に接続され、前記リード線は前記導電性サーメット棒に接続されてよい。
【0017】
本実施形態によると前記セラミックメタルハライドランプにおいて、前記細管部のうち封止材が形成されたシール部の長さは、前記細管部の先端から前記導電性サーメット棒の内端までの寸法に等しいか又はそれより大きくてよい。
【0018】
本実施形態によると前記セラミックメタルハライドランプにおいて、前記リード線には、前記ガス吸収部材と前記細管部の先端とを隔離するストッパが接続されてよい。
【0019】
本発明の実施形態によると、透光性外管と、発光部と細管部を有する放電容器と、前記細管部に設けられたタングステン電極、電流供給導体、及び、ニオブ製のリード線を有する電極システムと、を備えたセラミックメタルハライドランプの製造方法において、
発光部と細管部を有する放電容器と、ニオブ製のリード線を有する電極システムと、を用意するステップと、
前記電極システムのリード線に、ガス吸収部材を装着し、次に、フリット成形体を装着するステップと、
前記細管部に前記電極システムを挿入するステップと、
前記放電容器の中心軸線が垂直となるように、前記放電容器を支持するステップと、
前記フリット成形体を加熱して溶融させる溶融ステップと、
前記溶融したフリットが前記ガス吸収部材と接触しながら前記細管部内に流入し、前記細管部の内面と前記電極システムの間の隙間を充填したとき前記溶融したフリットを固化させて封止材を形成するステップと、
とを有する。
【0020】
本発明の実施形態によると、透光性外管と、発光部と細管部を有する放電容器と、前記細管部に設けられたタングステン電極、電流供給導体、及び、ニオブ製のリード線を有し、前記リード線には該リード線の軸線に対して直交するように配置された2本の金属線のストッパが接続されている電極システムと、を備えたセラミックメタルハライドランプの製造方法において、
発光部と細管部を有する放電容器と、ニオブ製のリード線を有し、前記リード線には該リード線の軸線に対して直交するように配置された2本の金属線のストッパが接続されている電極システムと、を用意するステップと、
前記電極システムのリード線に、ガス吸収部材を装着し、次に、フリット成形体を装着するステップと、
前記細管部に前記電極システムを挿入するステップと、
前記放電容器の中心軸線が垂直となるように、前記放電容器を支持することにより前記ストッパと前記細管部の端面とを当接させるとともに前記ストッパと前記ガス吸収部材とを当接させるステップと、
前記フリット成形体を加熱して溶融させる溶融ステップと、
前記溶融したフリットが前記ガス吸収部材と接触しながら前記ストッパの間から前記細管部内に流入し、前記細管部の内面と前記電極システムの間の隙間を充填したとき前記溶融したフリットを固化させて封止材を形成するステップと、
とを有する。
【0021】
本発明の実施形態によると、セラミックメタルハライドランプの製造方法において、
前記ガス吸収部材はニオブ製又はタンタル製のコイルによって構成されてよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、放電容器の細管部から突出するニオブ製のリード線が、ランプの製造工程等において、容易に折れることを防止し、ランプの製造工程を効率化することができる、セラミックメタルハライドランプ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るセラミックメタルハライドランプの実施形態に関して、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中、同一の要素に対しては同一の参照符号を付して、重複した説明を省略する。
【0025】
図1Aを参照して本実施形態に係るセラミックメタルハライドランプの一例の概略を説明する。セラミックメタルハライドランプ100は、透光性外管111と、端部の口金112と、透光性外管111の内部のほぼ中央に配置された放電容器130を有する。透光性外管111の内部は圧力10Pa以下の高真空に保持される。セラミックメタルハライドランプ100は、図示のように口金112を上にして垂直に装着される。
【0026】
放電容器130の周囲に透光性スリーブ108が設けられ、その外側に、金属製のフレーム109が設けられている。放電容器130の上側には、始動器110が設けられている。フレーム109の上端には、ゲッタ113が装着されている。
【0027】
フレーム109は、下端のマウント支持板114と上端のステム115の導入線と接続しており、それによって、位置固定される。フレーム109は位置固定用の部材であると同時に電気的接続用の部材を兼ねており、図示しない外部給電システムからの電力をステム115の導入線を介して放電容器130に供給する。
【0028】
図1Bを参照して放電容器130の構造を説明する。放電容器130は中央の発光部130Cとその両側の細管部130A、130Bを有する。本例の放電容器130は、略回転楕円体形状の発光部130Cとその両側の細管部130A、130Bが一体的に形成された、所謂一体型である。しかしながら、発光部130Cの両側に、別個に製造した細管部130A、130Bを接続することによって放電容器130を形成してもよい。
【0029】
細管部130A、130Bには、電極システム120a、120bがそれぞれ装着されている。電極システム120a、120bは、タングステン電極123、電流供給導体122、及び、リード線121を有する。リード線121は金属ニオブ(Nb)棒によって構成される。タングステン電極123の先端にはタングステンコイルが装着されている。タングステン電極123の先端は放電容器130の発光部130Cに配置されている。
【0030】
電流供給導体122は、耐ハロゲン性中間材122aと導電性サーメット棒122bを含む。タングステン電極123、電流供給導体122、及び、リード線121は突き合わせ溶接によって接続される。細管部130A、130Bより突出したリード線121には、ガス吸収部材131が装着されている。ガス吸収部材131は、例えば、コイル状の金属ニオブによって形成してよい。ガス吸収部材131の材料、形状、機能等は後に詳細に説明する。
【0031】
放電容器130の内部には、発光物質と、水銀および不活性ガスが封入されている。不活性ガスは例えば希ガスであるが本実施例ではアルゴンである。セラミックメタルハライドランプを点灯させると、放電容器130内における放電により、発光物質が加熱され、その一部が蒸発して放電により励起され、発光する。発光物質の残りの部分は、放電容器130の底部の最冷部に液相状態でプールされる。液相の発光物質の一部は蒸発し、放電容器130の内部を対流により循環し、底部の最冷部に戻る。ランプの点灯中はこのようなサイクルが繰り返される。
【0032】
図1Cを参照して、放電容器130の細管部130Aのシール部の構造の例を詳細に説明する。細管部130Aの内部に電流供給導体122が配置されている。電流供給導体122は耐ハロゲン性中間材122a及び導電性サーメット棒122bを有する。耐ハロゲン性中間材122aは、放電容器130内に封入された金属ハロゲン化物によって浸食されない耐ハロゲン性材料によって形成される。耐ハロゲン性材料として、例えば、モリブデンが用いられてよい。本実施形態では、耐ハロゲン性中間材122aは、モリブデン棒122cとその周囲に巻かれたモリブデンコイル122dによって形成されている。耐ハロゲン性中間材122aの構造として、様々な形状が知られている。例えば、耐ハロゲン性中間材122aを、単一のモリブデン棒によって形成してもよく、モリブデン棒とそれを囲むモリブデンパイプによって形成してもよい。更に、耐ハロゲン性中間材122aを省略して、タングステン電極123(
図1B)の一部を、モリブデンコイル、又は、モリブデンパイプによって覆ってもよい。
【0033】
導電性サーメット棒122bはアルミナとモリブデンを混合焼結することによって形成される。リード線121は導電性サーメット棒122bの先端に接続されている。リード線121と導電性サーメット棒122bの接続部は、細管部130Aの先端より内側に配置されている。リード線121は細管部130Aの先端より突出しており、突出部分の周囲にはガス吸収部材131が装着されている。リード線121にはストッパ121aが接続されている。ストッパ121aは細管部130Aの先端に当接している。ストッパ121aの材料、形状、機能等は後に詳細に説明する。
【0034】
ガス吸収部材131とリード線121の間の隙間に封止材135が充填されている。細管部130Aの内面とリード線121及び導電性サーメット棒122bの間の隙間に、それぞれ封止材135が充填されている。細管部130Aの内面と耐ハロゲン性中間材122aの間の隙間の一部にも封止材135が充填されている。
【0035】
図2Aを参照して放電容器130の細管部130Aの電極システム120aを挿入する工程を説明する。先ず、ガス吸収部材131、フリット成形体132及び電極システム120aを用意する。本実施形態では、ガス吸収部材131はコイル状に形成され、フリット成形体132はアルミナAl
2O
3、シリカSiO
2およびディスプロシアDy
2O
3を混合後成形したリング部材によって構成されている。電極システム120aは、タングステン電極123、電流供給導体122、及び、金属ニオブ製のリード線121を有する。電流供給導体122は、耐ハロゲン性中間材122a、及び、導電性サーメット棒122bを有する。リード線121にはストッパ121aが装着されている。ガス吸収部材131及びフリット成形体132を、この順に、リード線121に装着する。次に、電極システム120aを細管部130Aに挿入すると、ストッパ121aが細管部130Aの先端に当接する。
【0036】
ここでは、先ず、ガス吸収部材131及びフリット成形体132をリード線121に装着し、次に、電極システム120aを細管部130Aに挿入したが、この順番は便宜的である。例えば、先ず、電極システム120aを細管部130Aに挿入し、次に、ガス吸収部材131及びフリット成形体132をリード線121に装着してもよい。
【0037】
図2Bを参照して電極システム120aのリード線121に、ガス吸収部材131及びフリット成形体132を装着する方法を説明する。リード線121に1対のストッパ121aが接続されている。本実施形態では、ストッパ121aは2本の金属線によって構成されており、リード線121を挟むように、リード線121の軸線に対して直交するように、配置されている。ストッパ121aは抵抗溶接又はスポット溶接によって、リード線121に接続される。
【0038】
ガス吸収部材131をリード線121に装着すると、ガス吸収部材131はストッパ121aに当接し、その位置で停止する。次にフリット成形体132をリード線121に装着する。フリット成形体132はガス吸収部材131に当接し、その位置で停止する。
【0039】
放電容器130の細管部130Aに電極システム120aが装着されると、それをシール装置(図示なし)に装着する。シール装置は、典型的には、密閉空間を形成するチャンバとその内部に設けられたヒータを有し、ヒータは放電容器130の細管部130Aのシール部を局部的に加熱するように構成されている。シール装置の詳細な説明は省略する。
【0040】
図3はシール装置(図示なし)に保持された放電容器130の一部を示す。放電容器130は、その中心軸線が垂直になるように、シール装置によって保持される。上側の細管部130Aには、電極システム120aが装着されている。電極システム120aは、タングステン電極123、電流供給導体122、及び、リード線121を有する。リード線121の一部は、細管部130A内に配置され、残りの部分は細管部130Aより突出している。細管部130Aより突出したリード線に、ガス吸収部材131及びフリット成形体132が装着されている。図示のように、ガス吸収部材131が下側に配置され、フリット成形体132がガス吸収部材131の上に配置されている。
【0041】
リード線121に接続されたストッパ121aが、細管部130Aの先端の上に配置されている。ストッパ121aは、放電容器130内に挿入された電極システム120aの挿入長を規定する。即ち、ストッパ121aは、放電容器130の発光部130Cに配置された電極の位置を規定する。電極システム120a、ガス吸収部材131及びフリット成形体132の全重量は、ストッパ121aによって、支持されている。
【0042】
細管部130Aの内部に、耐ハロゲン性中間材122aと導電性サーメット棒122bが配置されている。導電性サーメット棒122bとリード線121の接続部は、細管部130Aの内部に配置されている。
【0043】
ガス吸収部材131とリード線121の間には僅かな隙間が形成されている。リード線121、導電性サーメット棒122b及び耐ハロゲン性中間材122aの外径は、細管部130Aの内径より小さい。従って、リード線121、導電性サーメット棒122b及び耐ハロゲン性中間材122aと細管部130Aの間に隙間が形成されている。
【0044】
導電性サーメット棒122bの外径は、耐ハロゲン性中間材122aの外径より僅かに小さい。従って、細管部130Aと導電性サーメット棒122bの間の隙間は、細管部130Aと耐ハロゲン性中間材122aの間の隙間より僅かに大きい。
【0045】
細管部130Aの周囲に配置されたヒータ(図示なし)を作動させる。ヒータによってフリット成形体132は、局所的に加熱され、溶融する。溶融フリットは、重力と毛管現象によって、ガス吸収部材131とリード線121の間の隙間、細管部130Aの内面とリード線121の間の隙間、細管部130Aの内面と導電性サーメット棒122bの間の隙間、に侵入し、更に、細管部130Aの内面と耐ハロゲン性中間材122aの間の隙間の一部に侵入する。溶融フリットが固化することによって封止材が形成される。ここで、細管部130Aのうち封止材が形成された部分をシール部(封止部)と称することとする。
【0046】
放電容器130の細管部130Aはシール部(封止部)と非シール部(非封止部)からなる。細管部130Aの全長をL、シール部の長さ、即ち、シール長をL1、非シール部の長さをL2とする。リード線121のうち、細管部130A内に挿入された部分の寸法をLnとする。導電性サーメット棒122bの軸線方向の寸法をLsとし、耐ハロゲン性中間材122aの軸線方向の寸法をLhとする。L=L1+L2=Ln+Ls+Lhである。
【0047】
シール部の長さL1が短いと、シール不足又はシール不良となる。更に、シール部の封止材はランプ点灯中、発光管に封入された金属ハロゲン化物により徐々に侵食される。ランプ長寿命化(2万時間以上)の要求に対応するためには、シール長L1は4mm以上であることが好ましい。
【0048】
本実施形態では、シール部の長さL1は、細管部130Aの先端から導電性サーメット棒122bの下端までの寸法に等しいか又はそれより大きい。即ち、L1≧Ln+Lsである。シール部のうち、耐ハロゲン性中間材122aの部分に形成された部分の長さをLmとする。L1=Ln+Ls+Lm、但し、Lm≧0である。
【0049】
この寸法Lmが長すぎると、耐ハロゲン性中間材122aと細管部130Aの熱膨張率の差により、細管部130Aにクラックが発生する可能性がある。そこで、この寸法Lmは精々1.5mm程度である。例えば、細管部130Aの外径を3mmとし、細管部130Aの先端から導電性サーメット棒122bの下端までの寸法をLn+Ls=4mmとする。この場合には、シール長L1はL1=4.0〜5.5mmである。
【0050】
ガス吸収部材131の上端から細管部130Aの先端までの寸法をLgとする。ガス吸収部材131の軸線方向の寸法をh、ストッパ121aの軸線方向の高さ、即ち、線径をdsとする。Lg=h+dsである。寸法LgはLg=2〜4mmである。
【0051】
図4を参照して本実施形態による放電容器130の細管部130Aにシール部(封止部)を形成する方法の例を説明する。ステップ101にて、ガス吸収部材131、フリット成形体132及び電極システム120aを用意する。
図2Aに示したように、電極システム120aは、タングステン電極123、耐ハロゲン性中間材122a、導電性サーメット棒122b、及び、金属ニオブ製のリード線121を有する。
【0052】
ステップ102にて、電極システム120aのリード線121に、ガス吸収部材131及びフリット成形体132を、この順に装着する。
図2Bに示したように、ガス吸収部材131はリード線121に設けられたストッパ121aに当接する。フリット成形体132はガス吸収部材131に当接するように配置される。
【0053】
ステップ103にて、電極システム120aを細管部130Aに挿入する。タングステン電極123は発光部130Cに配置される。このとき、ストッパ121aが細管部130Aの先端に当接する。それによって、電極システム120aの挿入長、即ち、電極システム120aのうち、放電容器130内に挿入された長さが規定される。
【0054】
ステップ104にて、シール装置(図示なし)に放電容器130を装着する。
図3に示したように放電容器130の中心軸線が垂直となるように、且つ、封止する細管部130Aが上側になるように、放電容器130を支持する。ストッパ121aによって、電極システム120a、ガス吸収部材131及びフリット成形体132の全重量が支持される。
【0055】
尚、ステップ102、ステップ103及びステップ104は必ずしもこの順番で実行する必要はない。例えば、ステップ103を実行し、次にステップ102を実行してもよく、更に、最初に、シール装置(図示なし)に放電容器130を装着してもよい。
【0056】
ステップ105にて、細管部130Aの周囲に配置されたヒータ(図示なし)を作動させる。ヒータによってフリット成形体132は、局所的に加熱され、溶融する。封止温度は通常1500〜1700℃であるが、シール部におけるシール不良又はシール不足を回避するために、フリットが十分な流動性を有する1600℃とする。溶融したフリットは、重力と毛管現象によって、ガス吸収部材131とリード線121の間の隙間を通って下降する。このとき、溶融したフリットはガス吸収部材131と接触する。溶融したフリットは、更に、ストッパ121aを通過し、細管部130A内に侵入する。
【0057】
溶融したフリットは、重力と毛管現象によって、細管部130Aの内面とリード線121の間の隙間に侵入し、更に、細管部130Aの内面と導電性サーメット棒122bの間の隙間に侵入する。溶融したフリットによって、細管部130Aとリード線121の間の隙間及び細管部130Aと導電性サーメット棒122bの間の隙間は完全に塞がれる。溶融したフリットは、細管部130Aの内面と耐ハロゲン性中間材122aの間の隙間の所定の位置まで侵入してよい。
【0058】
ステップ106にて、ヒータによる加熱を停止する。溶融したフリットは固化し、封止材が形成される。
【0059】
ここで、ガス吸収部材131の機能を説明する。フリット成形体132が溶融すると、水素、一酸化炭素、二酸化炭素等の不要なガスを放出する。これらのガスは金属ニオブによって吸収され、金属ニオブを脆化させることが知られている。即ち、金属ニオブ製のリード線121が、これらのガスを吸収すると脆化する。本実施形態によると、これらのガスは、ガス吸収部材131によって吸収される。より詳細には、少なくとも、金属ニオブ製のリード線121によって吸収されるガスの量よりもガス吸収部材131によって吸収されて除去されるガスの量のほうが十分に大きい。これについては後に説明する。上述のように、溶融したフリットは、ガス吸収部材131とリード線121の間の隙間を通って下降するとき、ガス吸収部材131に接触する。このとき、フリット成形体132の溶融によって発生するガスが、ガス吸収部材131によって吸収される。従って、本実施形態によると、フリット成形体132の溶融によって発生したガスのうち、金属ニオブ製のリード線121による吸収量が著しく減少するため、リード線121の脆化が回避される。
【0060】
次に、ガス吸収部材131の材料を説明する。本実施形態によると、ガス吸収部材131は、フリット成形体132の溶融によって発生するガスを吸収することができるならどのような材料によって構成してもよい。しかしながら、ガス吸収部材は、好ましくは金属ニオブによって構成される。リード線の脆化の原因は、フリット成形体の溶融によって発生したガスがニオブ製のリード線によって吸収されることにある。従って、同一材料であるニオブ製のガス吸収部材によって、そのようなガスを吸収し除去するのが効率的である。更に、フリット成形体の溶融によって発生したガスの種類を特定することができなくても、それを除去することができる。
【0061】
尚、ガス吸収部材131は、金属ニオブと同等にガス吸収作用を有する他の金属、例えば、タンタル製であってもよい。ニオブとタンタルは、半金属と称される第5族元素に属し、類似した化学的性質を有する。
【0062】
次に、ガス吸収部材131の形状を説明する。本実施形態では、ガス吸収部材131は、溶融したフリットとの接触面積が大きく、且つ、リード線121を円周方向に沿って囲むように構成される。更に、ガス吸収部材131は、リード線121の周囲に容易に装着することが可能であり、且つ、製造が容易であることが好ましい。本実施形態では、ガス吸収部材131は、好ましくは、コイル状に形成されるが、円筒部材によって構成してもよい。例えば、円筒部材に多数の溝、孔、折り曲げ状の凹凸を形成してもよい。それによって、ガス吸収部材131の表面積が大きくなり、溶融したフリットとの接触面積が大きくなる。
【0063】
ガス吸収部材131の表面積を大きくするには、コイル又は円筒部材の内径又は軸線方向の寸法(高さ)を大きくすることが考えられる。しかしながら、ガス吸収部材131の内径又は軸線方向の寸法(高さ)を大きくすると、ガス吸収部材131とリード線121の隙間を充填する封止材の量が多くなり、フリット成形体の溶融によって発生するガスが増加する。従って、ガス吸収部材131の表面積を増加させてガス吸収量を増加させても、溶融フリットが発生するガスがそれ以上増加すれば、ガス吸収部材131によって吸収されないガス量が増加することとなる。
【0064】
更に、ガス吸収部材131の内径を大きくすると、ガス吸収部材131とリード線121の隙間が大きくなり、この隙間に入り込んだ溶融フリットから発生したガスは、ガス吸収部材131に吸収される前にリード線121に吸収され易くなるので好ましくない。従って、ガス吸収部材131の内径及び軸線方向の寸法(高さ)を所定の値より大きくすることは得策ではない。
【0065】
上述のように、本実施形態では、フリット成形体の溶融によって発生するガスのうち、リード線121によって吸収されるガスの量よりもガス吸収部材131によって吸収されて除去されるガスの量の方が十分に大きい。これについて説明する。本実施形態では、ガス吸収部材131は、リード線121を囲むように構成されるため、溶融フリットとの接触面積は、リード線121よりガス吸収部材131の方が大きい。例えば、ガス吸収部材131をコイルによって構成する場合、溶融フリットとガス収集部材131との接触面積は溶融フリットとリード線121との接触面積の数倍以上となる。
【0066】
更に、シール装置(図示なし)において、ヒータはガス吸収部材131を囲むように配置される。従って、ガス吸収部材131とヒータの距離はリード線121とヒータの距離より小さい。更に、ヒータからの輻射熱は、ガス吸収部材131に直接到達するが、リード線121には、ガス吸収部材131の陰になり、ガス吸収部材131によって遮断されるため直接到達しない。そのため、ヒータによる加熱中にはリード線121よりガス吸収部材131の方が高温となる。金属ニオブとガスの反応速度は、温度が高いほど速い。この点からも、フリット成形体の溶融によって発生するガスの大部分はガス吸収部材によって吸収されると言える。
【0067】
ストッパ121aの形状、機能及び材料を説明する。ストッパ121aは、
図2Bに示すように、2本の棒材又は線材によって形成してよい。ストッパ121aの線径は、ガス吸収部材131を構成するコイルの線径と同程度であってよいが、それより大きくても小さくてもよい。
【0068】
上述のように、ストッパ121aは、電極システム120aの挿入長、即ち、放電容器130の発光部130Cにおける電極の位置を規定する。更に、ストッパ121aは、シール装置によって放電容器130を垂直に保持するとき、電極システム120a、ガス吸収部材131及びフリット成形体132を細管部130Aの先端に保持する。
【0069】
ストッパ121aを設けることによって、ガス吸収部材131と細管部130Aの先端の間に、ストッパ121aの寸法(線径)に相当する隙間が形成される。そのため、溶融フリットの一部がガス吸収部材131の外側を通って下方に流れたとしても、この隙間から細管部130Aと電極システム120aの隙間に侵入し、さらに細管部130Aの開口部を覆う。そのため、細管部130Aの先端におけるシールを確実化することができる。
【0070】
本実施形態によると、ガス吸収部材131はガス吸収部材131の材料と同一の材料によって形成してよく、例えば、金属ニオブ又は金属タンタル製であってよい。但し、本実施形態では、溶融フリットから発生したガスは、ガス吸収部材131に吸収されてからストッパ121aに到達するので、ストッパ121aにガス吸収機能を付与する必要はない。
【0071】
図5は、本実施形態によるフリット成形体132の形状の例を示す。本実施形態ではフリット成形体はリング状に形成される。フリット成形体132の内径をD1、外径をD2、厚さをt、重量をGとする。リード線121の外径をD0とする。フリット成形体132の内径D1は、リード線121の外径D0より大きい。例えば、D1=1.5mm、D2=3.5mm、又は、4.3mm、t=0.9mm、1.4mm、又は、2.1mm、G=23〜85mgであってよい。
【0072】
フリット成形体132は、原料にバインダ及び分散剤を混合し純水を加えてスラリーを形成し、造粒、加圧成形、及び、焼成により形成する。Dy
2O
3−Al
2O
3−SiO
2系封止材を用いる場合には、原料として、酸化ジスプロシウム(ディスプロシア)Dy
2O
3、酸化アルミニウム(アルミナ)Al
2O
3、及び、酸化ケイ素(シリカ)SiO
2を用いる。フリット成形体132を加熱し溶融させると、バインダ及び分散剤に含まれる炭素が酸化され、一酸化炭素及び二酸化炭素等を生成する。これらのガスは、上述のように金属ニオブを脆化させる。
【0073】
図6A、
図6B及び
図6Cを参照して、本願の発明者が試作したガス吸収部材131の形状の例を説明する。
図6Aに示す例では、ガス吸収部材131はコイル形状である。コイルの軸線方向の長さをh、内径をd1、外径をd2、コイルの線径をd0とする。d0=0.3〜0.5mmである。コイルの内径d1は、リード線121の外径D0より、0.1〜0.2mm大きい。リード線121の外径D0をD0=0.8〜0.9mmとすると、d1=2.1〜0.9mmである。コイルの巻き数は3〜5であってよい。
【0074】
図6Bに示す例では、ガス吸収部材131は円筒形状である。円筒の軸線方向の長さをh、内径をd1、外径をd2、厚さをt1とする。内径d1は、
図6Aに示すコイルの内径d1に等しくてよい。厚さt1は0.1mm以上とする。
【0075】
図6Cに示す例では、ガス吸収部材131は1枚又は複数枚の薄板状である。薄板状部材を、リード線121を挟むように、且つ、リード線の軸線に直交する方向に配置する。板状部材の長手方向の寸法をh1、幅方向の寸法をh2、厚さをt1とする。
【0076】
図7A及び
図7Bを参照して本願の発明者が実施した試験を説明する。本願の発明者は、放電容器130の細管部130Aのリード線121に
図6A、
図6B及び
図6Cに示したガス吸収部材131を装着し、シール装置(図示なし)によって細管部130Aにシール部を形成した。シール装置から放電容器130を取り出し、リード棒の折り曲げ試験を行った。
【0077】
図7Aを参照して、本願の発明者が行ったリード棒の折り曲げ試験の方法を説明する。放電容器130の細管部130Aをクランプ装置(図示なし)によって固定した。細管部130Aより突出したリード線121を左右に略垂直に折り曲げた。リード線121が破損したときの折り曲げ回数を記録した。数え方は、最初に折り曲げた時点で「1回」、次にまっすぐに戻した時点で「2回」とした。
【0078】
図7Bは、リード棒の折り曲げ試験の結果を示す。縦軸はリード線121が破損したときの折り曲げ回数である。図において、リード線121が破損したときの折り曲げ回数の平均値μを黒色の四角の点によって表し、バラツキを表すμ±3σ(σは標準偏差)を黒色の四角の点から延びる上下の線の端部によって表す。従来例は、ガス吸収部材131を用いない場合、実施例1は、
図6Aに示すコイル形状のガス吸収部材131を用いた場合、実施例2は、
図6Bの円筒形状のガス吸収部材131を用いた場合、比較例は、
図6Cの薄板状のガス吸収部材131を用いた場合、の結果である。
【0079】
図示のように従来例では、折り曲げ回数が1回でリード線121が破損した。比較例の場合、リード線121が破損したときの折り曲げ回数の平均値は3回以下であった。即ち、折り曲げ回数が1〜3回でリード線121が破損した。実施例1の場合、リード線121が破損したときの折り曲げ回数の平均値は7回であった。即ち、折り曲げ回数が5〜10回でリード線121が破損した。実施例2の場合、リード線121が破損したときの折り曲げ回数の平均値は5回以上であった。即ち、折り曲げ回数が4〜7回でリード線121が破損した。
【0080】
ランプの製造工程にて、溶接作業等によりリード線121を折り曲げることはあるが、繰り返し折り曲げることはない。従って、本願の発明者は、折り曲げ回数が2回を超えても破損しない場合は合格とした。即ち、破損した時の折り曲げ回数の平均値が3回以上であり、且つ、そのバラツキの下限μ−3σ(σは標準偏差)が2回となることを合格の条件とした。従って、従来例及び比較例は不合格であるが、実施例1、2は何れも合格である。本願の発明者が行った試験から、ガス吸収部材131を用いることによってリード線121が破損し難くなることが判る。更に、ガス吸収部材131の形状は任意であるが、コイル状が最も好ましいことが判る。コイル状のガス吸収部材131の場合、リード線121に対して最適な寸法のコイルを用意することが容易であり、且つ、溶融したフリットとの接触面積が比較的大きい。
【0081】
以上、本実施形態に係るセラミックメタルハライドランプについて説明したが、これらは例示であって、本発明の範囲を制限するものではない。当業者が、本実施形態に対して容易になしえる追加・削除・変更・改良等は、本発明の範囲内である。本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の記載によって定められる。