特許第5846972号(P5846972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5846972生体吸収性インプラント及びその製造方法
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  • 特許5846972-生体吸収性インプラント及びその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5846972
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】生体吸収性インプラント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20151224BHJP
   C04B 38/06 20060101ALI20151224BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20151224BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20151224BHJP
   A61K 6/027 20060101ALN20151224BHJP
   A61K 6/033 20060101ALN20151224BHJP
   A61L 27/00 20060101ALN20151224BHJP
【FI】
   C04B38/00 303Z
   C04B38/06 D
   C04B35/00 S
   A61F2/28
   !A61K6/027
   !A61K6/033
   !A61L27/00 J
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-53618(P2012-53618)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-184878(P2013-184878A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大庭 秀介
(72)【発明者】
【氏名】山口 将吾
(72)【発明者】
【氏名】澤村 武憲
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−158175(JP,A)
【文献】 特開平07−194688(JP,A)
【文献】 特開2001−046490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/447,38/00−38/10
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムで形成され、下記条件(1)〜(3)を満足する多孔質構造を有することを特徴とする生体吸収性インプラント。
条件(1):水銀ポロシメータで測定した細孔分布において全気孔に対する3μm以上の細孔径を有する気孔の体積率が25%以上80%未満
条件(2):気孔率が30%以上40%未満
条件(3):直径10mm×高さ10mmの円柱体を試験片としたときの圧縮強度が20MPa以上
【請求項2】
請求項に記載の生体吸収性インプラントの製造方法であって、
生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムの顆粒を調製する顆粒調製工程と、
前記顆粒調製工程で得られた顆粒及び可燃性有機粒子を混合して顆粒混合物を得る顆粒混合工程と、
前記顆粒混合工程で得られた顆粒混合物をプレス成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を焼成する焼成工程と、
を有し、
前記顆粒混合工程で混合される前記顆粒及び前記可燃性有機粒子は50%積算粒子径が共に100μm以上300μm未満であり、
前記顆粒混合工程における前記可燃性有機粒子の前記顆粒混合物に対する体積割合が20%以上40%未満であり、
前記成形工程におけるプレス成形の圧力が200kg/cm以上であることを特徴とする生体吸収性インプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体吸収性インプラント及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、優れた骨結合能力を保持しつつも補填作業時はもちろん補填作業が完了するまで形状を保持する有用性の高い生体吸収性インプラント、及び、このような有用性の高い生体吸収性インプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨又は歯等が欠損した欠損部に新たな骨又は歯等を再生させる治療方法として欠損部に生体インプラントを補填又は配置する方法が開発されている。このような生体インプラントの材料としては、例えば、金属材料、セラミックス、ポリマーとセラミックスとの複合体等が用いられるが、その中でもリン酸カルシウム化合物は生体親和性に優れており、その焼成体は骨組織と化学的に結合され、又は骨組織に置換されることが知られている。
【0003】
このような生体インプラントの一例として、特許文献1には、「微細な連続した空孔が全体に亙って均一に分布し、かつ実用上に充分に高い強度を有するリン酸カルシウム多孔体の製造方法を提供」(2頁右欄2行目〜5行目参照。)することを課題として、「結晶質のリン酸カルシウム微粉末に解膠剤を水溶液にして添加し混合する工程と、この混合溶液に起泡剤を添加して連続した微細な空孔を有する多孔性流動体を調整する工程と、この多孔性流動体を乾燥処理してリン酸カルシウムの骨格を有する多孔形成体を作製する工程と、この多孔形成体を加熱して前記解膠剤および起泡剤を分解消失させると共に前記リン酸カルシウム多孔体を焼結する工程とを具備したことを特徴とするリン酸カルシウム多孔体の製造方法」(請求項1等)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2597355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、β−リン酸三カルシウム等の生体吸収性セラミックスで形成された多孔質構造を有する生体吸収性インプラントは、欠損部に補填又は配置されると、多孔質構造中の気孔内部に骨芽細胞等の生体組織及び体液が進入して外側からの分解・吸収に加えて内部からも分解・吸収されるから、生体吸収性インプラントが残存することなく自家骨に欠損部が早期に置換されて緻密な生体吸収性インプラントよりも高い骨結合能力を発揮する。しかし、多孔質構造を有する生体吸収性インプラントは気孔が存在するから緻密な生体吸収性インプラントよりも強度が低くなる。このように生体吸収性インプラントの骨結合能力と強度とは多孔質構造であっても緻密であっても互いに相反する特性であることが知られている。
【0006】
このことは特許文献1の「リン酸カルシウム多孔体の製造方法」で製造された「リン酸カルシウム多孔体」にも当てはまる。すなわち、特許文献1の「リン酸カルシウム多孔体の製造方法」では発泡した多孔性流動体がそのままリン酸カルシウム多孔体の骨格になるから、気孔同士の連通状態は多孔性流動体の発泡倍率すなわち気孔率に支配されることになる。そうすると、この製造方法で製造される「リン酸カルシウム多孔体」において、その気孔同士の連通状態を向上させるために気孔率を高くすると強度が低下し、一方、リン酸カルシウム多孔体の強度を向上させるために気孔率を低くすると気孔同士の連通状態が悪化する。ここで、気孔同士の連通状態が悪化するとリン酸カルシウム多孔体はその内部に体液等が進入しにくくなるから、緻密な生体吸収性インプラントのように内部からの分解・吸収が見込めずに自家骨での置換に長時間を要し、又はリン酸カルシウム多孔体が欠損部に残存することが容易に推測される。
【0007】
このような状況の下、相反する特性である骨結合能力及び強度が要求される生体吸収性インプラントは骨結合能力と強度とを比較考量のうえ使用部位及び使用方法に十分な配慮が必要となるのが一般的である。例えば、大きな荷重がかからない部位に生じた欠損部で開口が大きな穴形状の欠損部等(この発明において通常欠損部と称することがある。)に補填又は配置される生体吸収性インプラントは強度をある程度犠牲にしても骨結合能力が優先される。その一方で、このような生体吸収性インプラントであっても、欠損部に補填又は配置されるまでに損壊してしまうと生体内に意図しない骨細胞との結合を生じてしまうことがあり、また予め所定の形状に成形された生体吸収性インプラントが損壊してしまうと欠損部に補填又は配置されても骨結合能力を十分に発揮できないことがあるので、欠損部に補填又は配置されるまでの補填作業時に損壊しない程度の強度を保持している必要がある。
【0008】
一方、形状が複雑な欠損部、小さな開口を有する欠損部、又は、複雑骨折部に配置された固定プレートと生体骨との隙間等(この発明において特異欠損部と称することがある。また、通常欠損部と特異欠損部とを併せて患部と称することがある。)に補填又は配置される生体吸収性インプラントは、補填後に特異欠損部又はその近傍の組織を支持するため等によって、特異欠損部に単に補填又は配置されるのではなく、特異欠損部の奥深くまで密に補填若しくは配置、又は、硬質の器具等を用いて圧入若しくは充填配置されることが多い。したがって、このような特異欠損部に補填又は配置される生体吸収性インプラントには補填作業が完了するまで損壊しないようなより一層高い強度を発揮することが優先される。もっとも、特異欠損部に補填又は配置される生体吸収性インプラントであっても、その強度を優先するあまり骨結合能力を大幅に低下させてしまっては生体吸収性インプラントの材料として生体吸収性セラミックスを用いた意義が没却されてしまう。
【0009】
このように、生体吸収性インプラントは、骨結合能力及び強度によって使用部位すなわち患部及び使用方法すなわち補填方法に十分な配慮が必要であるが、骨結合能力と強度とを高い水準で両立できれば、その有用性が高くなる。
【0010】
したがって、この発明の課題は、優れた骨結合能力を保持しつつも補填作業時はもちろん補填作業が完了するまで形状を保持する有用性の高い生体吸収性インプラント、及び、このような有用性の高い生体吸収性インプラントの製造方法を提供することに、ある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するためのこの発明に係る生体吸収性インプラントは、生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムで形成され、下記条件(1)〜(3)を満足する多孔質構造を有することを特徴とする。
条件(1):水銀ポロシメータで測定した細孔分布において全気孔に対する3μm以上の細孔径を有する気孔の体積率が25%以上80%未満
条件(2):気孔率が30%以上40%未満
条件(3):直径10mm×高さ10mmの円柱体を試験片としたときの圧縮強度が20MPa以上
【0012】
また、前記課題を解決するためのこの発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法は、前記条件(1)〜(3)を満足する多孔質構造を有する生体吸収性インプラントの製造方法であって、生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムの顆粒を調製する顆粒調製工程と、前記顆粒調製工程で得られた顆粒及び可燃性有機粒子を混合して顆粒混合物を得る顆粒混合工程と、前記顆粒混合工程で得られた顆粒混合物をプレス成形して成形体を得る成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を焼成する焼成工程とを有し、前記顆粒混合工程で混合される前記顆粒及び前記可燃性有機粒子は50%積算粒子径が共に100μm以上300μm未満であり、前記顆粒混合工程における前記可燃性有機粒子の前記顆粒混合物に対する体積割合が20%以上40%未満であり、前記成形工程におけるプレス成形の圧力が200kg/cm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る生体吸収性インプラントは、生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムで形成され、前記条件(1)〜(3)を満足する多孔質構造を有することを特徴とするから、多孔質構造内で連通する3μm以上の細孔径を有する気孔内に体液等が進入することで表面に加えて内部からも分解・吸収が進行して自家骨に早期に置換され、骨組織の速やかな再生が可能となる。それにもかかわらず、前記多孔質構造を有することを特徴とするこの発明に係る生体吸収性インプラントは、特異欠損部の奥深くまで密に補填又は圧入等されても補填作業が完了するまでその形状を保持するに十分な強度を有している。したがって、この発明に係る生体吸収性インプラントは優れた骨結合能力を保持しつつも補填作業時はもちろん補填作業が完了するまで形状を保持し、高い有用性を有している。
【0014】
この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法は、前記顆粒調製工程と前記顆粒混合工程と前記成形工程と前記焼成工程とを有し、顆粒混合工程で混合される前記顆粒及び前記可燃性有機粒子は50%積算粒子径が共に100μm以上300μm未満であり、顆粒混合工程における前記可燃性有機粒子の前記顆粒混合物に対する体積割合が20%以上40%未満であり、前記成形工程におけるプレス成形の圧力が200kg/cm以上であることを特徴とするから、前記条件(1)〜(3)を満たす多孔質構造を生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムで形成することができる。したがって、この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法は、この発明に係る生体吸収性インプラントを製造するのに好適であり、優れた骨結合能力を保持しつつも補填作業時はもちろん補填作業が完了するまで形状を保持する有用性の高い生体吸収性インプラントを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、この発明に係る生体吸収性インプラントの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る生体吸収性インプラントは、生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウム(以下において、β−リン酸三カルシウムを生体吸収性セラミックスと称することもある)で形成され、下記条件(1)〜(3)を満足する多孔質構造を有することを特徴とする。この発明に係る生体吸収性インプラントを、図面を参照して、具体的に説明する。
条件(1):水銀ポロシメータで測定した細孔分布において全気孔に対する3μm以上の細孔径を有する気孔の体積率が25%以上80%未満
条件(2):気孔率が30%以上40%未満
条件(3):直径10mm×高さ10mmの円柱体を試験片としたときの圧縮強度が20MPa以上
【0017】
この発明に係る生体吸収性インプラントの一例である生体吸収性インプラント1は、図1に示されるように、前記条件(1)〜(3)を満足する多孔質構造を有しており、この生体吸収性インプラント1はその全体が前記多孔質構造となっている。この多孔質構造は3次元網目構造とも称され、生体吸収性インプラント1の骨格を形成する骨格部2としての固体部2と、この固体部2中又は固体部2内に存在する空隙部とで構成されている。この空隙部は、3次元的に分布して骨格部2と共に多孔質構造を形成する大径気孔3と、骨格部2に形成された小径気孔4(図1の断面模式図においては気孔径が小さすぎて明確に図示されない。)とを有している。すなわち、生体吸収性インプラント1は、複数の大径気孔3が3次元的に分布して大径気孔3同士の間に形成された骨格部2を有する多孔体であって骨格部2は複数の小径気孔4を有している。
【0018】
骨格部2は、生体吸収性セラミックスにより形成され、大径気孔3及び小径気孔4以外の空間を占めている。この骨格部2は多孔質構造の基礎を形成するものであり、その間に大径気孔3が存在し、その内部に小径気孔4が存在している。
【0019】
大径気孔3は、図1に示されるように、3次元的に分散して多孔質構造を形成し、そのうちの一部が他の大径気孔3に連通せずに単独で存在する独立気孔11として存在し、他の一部が近接する他の大径気孔3に連通すると共に生体吸収性インプラント1の表面に開口する開気孔12にも連通している連通開気孔13として存在しており、図1には図示しないが、大径気孔3の残部が近接する他の大径気孔3に連通しているものの開気孔12には連通していない連通閉気孔として存在していてもよい。この発明において、大径気孔3は少なくとも連通開気孔13として存在していればよく、連通開気孔13に加えて適宜の割合で独立気孔11及び連通閉気孔として存在していてもよい。
【0020】
この大径気孔3は、100μm以上の平均気孔径を有している。このように大径気孔3が100μm以上の平均気孔径を有していると、生体吸収性インプラント1が患部に補填されたときに、大径気孔3が体液等を自身の内部まで進入させ、また侵入した体液等を内部に存在する小径気孔4中にも案内することができ、その結果、生体吸収性インプラント1が表面に加えて内部からも分解・吸収して自家骨に早期に置換され、骨組織の速やかな再生が可能となる。一方、大径気孔3は、生体吸収性インプラント1の強度を確保できる点で、300μm以下の平均気孔径を有しているのが好ましい。前記条件(1)〜(3)を満足するこの生体吸収性インプラント1において、大径気孔3は、100μm以上300μm以下の平均気孔径を有しているのが好ましく、この範囲においてほぼ同一の気孔径を有していてもよく、気孔径が分布していてもよい。
【0021】
このような気孔径の分散状態を有する大径気孔3は、特に骨組織の速やかな再生が可能な優れた骨結合能力を発揮できる点で、100μm以上200μm以下の平均気孔径を有しているのが特に好ましい。
【0022】
大径気孔3の気孔径及び平均気孔径は、通常、後述する可燃性有機粒子の気孔径及び平均粒径より小さい値となる。後述するように可燃性有機粒子は焼成工程において焼失してしまい、焼失した部分が大径気孔3となる。焼成工程において可燃性有機粒子と生体吸収性セラミックスの粒子とにより形成される成形体を焼成すると体積収縮が生じる。したがって、可燃性有機粒子が焼失した後に形成された大径気孔3の体積は可燃性有機粒子の体積より通常小さくなる。また後述する可燃性有機粒子の形状が球状である場合には球状の大径気孔3が形成されやすくなる。したがって、大径気孔3の気孔径及び平均気孔径は、可燃性有機粒子の50%積算粒子径によって調整でき、また、顆粒混合物に対する体積割合、プレス成形の圧力等によっても調整できる。
【0023】
大径気孔3の気孔径及び平均気孔径は、例えば、生体吸収性インプラント1を樹脂に埋包した後、研磨して断面を出し、この断面を走査型電子顕微鏡等で観察し、視野内に観察されたすべての気孔それぞれについて円相当直径を測定し、測定された円相当直径を「大径気孔3の気孔径」とし、この「大径気孔3の気孔径」の算術平均を「大径気孔3の平均気孔径」として、求めることができる。
【0024】
連通開気孔13及び連通閉気孔を形成する大径気孔3は、生体吸収性インプラント1が相反する特性である優れた骨結合能力と高い強度とを両立できる点で、隣接する大径気孔3同士が連通する連通部14の細孔径が3μm以上100μm以下であるのが好ましく、5μm以上70μm以下であるのが特に好ましい。この細孔径は隣接する大径気孔3同士を接続する連通部14の幅(開口径)であり、水銀ポロシメータを用いて測定することができる。この生体吸収性インプラント1の細孔径を水銀ポロシメータで測定すると、通常、細孔分布において「細孔径3μm」を境界にして「3μm未満の領域」と「3μm以上の領域」とのそれぞれに少なくとも1つのピークが現れる。連通部14の細孔径は、このようにして測定された細孔分布において3μm以上の領域に現れる。大径気孔3の細孔径は後述する可燃性有機粒子の50%積算粒子径及び顆粒混合物に対する体積割合、特にプレス成形の圧力等によって調整できる。
【0025】
小径気孔4は、骨格部2に存在しており、他の小径気孔4に連通せずに単独で存在していてもよく、また他の小径気孔4に連通して存在していてもよい。この小径気孔4は、大径気孔3内を進入してきた体液等が小径気孔4の内部にまでさらに進入することによって、生体吸収性インプラント1の内部からの分解・吸収を促進して骨組織の速やかな再生を可能とすることに貢献する。したがって、小径気孔4は、骨格部2の表面に開口している開気孔に連通しているのが好ましい。この小径気孔4同士が連通する連通部(図示せず)の細孔径(この発明において「小孔細孔径」と称する。図示せず。)は、生体吸収性インプラント1の内部からの分解・吸収を効率よく促進できる点で、3μm未満であるのが好ましく、0.1μm以上3μm未満であるのが特に好ましい。小径気孔4の小孔細孔径は大径気孔3の連通部14の細孔径と基本的に同様にして測定できる。なお、小径気孔4の気孔径及び小孔細孔径は、後述する顆粒混合物の成形圧力、生体吸収性セラミックスの顆粒のタップ充填密度、生体吸収性セラミックスの顆粒に含まれる水分量、焼成温度等によって調整できる。
【0026】
小径気孔4を有する骨格部2と大径気孔3とで形成された多孔質構造は、水銀ポロシメータで測定した細孔分布において全気孔に対する細孔径が3μm以上の気孔すなわち連通部14が3μm以上の大径気孔3の体積率が25%以上80%未満になっている(条件(1))。多孔質構造における連通部14が3μm以上の大径気孔3の体積率が25%未満であると、大きな連通部14で連通された大径気孔3の相対的な存在割合が小さくなって機械的強度は高くなるものの、体液等が多孔質構造の内部まで、また多孔質構造の内部に存在する小径気孔4まで侵入しにくくなり、優れた骨結合能力を発揮できないことがある。このように生体吸収性インプラント1は、小径気孔4に加えて大きな連通部14で連通された大径気孔3を複数有することで骨芽細胞等の生体組織が侵入し易く、速やかに生体組織が形成される。一方、大径気孔3の体積率が80%を超えると、体液等が多孔質構造の内部に進入しやすくなって優れた骨結合能力を発揮できるものの、多孔質構造の機械的強度が低下して特異欠損部への補填作業が完了するまで形状を保持しうる高い機械的強度を発揮できないことがある。生体吸収性インプラント1が相反する特性である優れた骨結合能力と高い強度とを両立して高い有用性を発揮できる点で、好ましくは後述する条件(2)及び条件(3)を満たすことに加えて、連通部14が3μm以上の大径気孔3の体積率は28%以上70%以下であるのが好ましい。なお、大径気孔3の体積率は小径気孔4の全気孔に対する体積率に連動して変化する。
【0027】
ところで、従来の生体インプラント、例えば特許文献1の「リン酸カルシウム多孔体」において気孔率を40%以下に調整しようとすると、多孔性流動体に生じた微細な空孔同士が連続又連接しにくく、「水銀ポロシメータで測定した細孔分布において全気孔に対する3μm以上の細孔径を有する気孔の体積率」を25%まで高めることができない。ところが、この発明に係る生体吸収性インプラントは、前記条件(1)〜(3)を満足するから、特にこの発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法で製造され、前記条件(1)〜(3)を満足するから、気孔率を40%以下にしても「水銀ポロシメータで測定した細孔分布において全気孔に対する3μm以上の細孔径を有する気孔の体積率」を25%以上という高い値に調整できる。この大径気孔3の体積率は、後述する生体吸収性セラミックスの顆粒及び可燃性有機粒子それぞれの50%積算粒子径、及び、可燃性有機粒子の顆粒混合物に対する体積割合等によって調整できる。
【0028】
連通部14が3μm以上である大径気孔3の全気孔に対する体積率は水銀ポロシメータを用いて測定することができる。この生体吸収性インプラント1の細孔径を水銀ポロシメータで測定すると、前記の通り、通常、細孔分布において「細孔径3μm」を境界にして「3μm未満の領域」と「3μm以上の領域」とのそれぞれに少なくとも1つのピークが現れる。連通部14が3μm以上である大径気孔3の全気孔体積に対する体積率(百分率)は、細孔分布における細孔径3μm以上である大径気孔3の体積を積算して得られる積算体積量を全気孔の体積を積算して得られる全積算体積量で除して算出される。
【0029】
多孔質構造は、気孔率が30%以上40%未満になっている(条件(2))。多孔質構造における気孔率が30%未満であると、大径気孔3及び小径気孔4の割合が小さくなって特に連通開気孔13及び連通部14の存在割合も小さくなるから機械的強度は高くなるものの優れた骨結合能力を発揮できないことがある。一方、気孔率が40%を超えると、大径気孔3及び小径気孔4の割合が大きくなるから優れた骨結合能力を発揮できるものの特異欠損部への補填作業が完了するまで形状を保持しうる高い機械的強度を発揮できないことがある。生体吸収性インプラント1が優れた骨結合能力と高い強度とを両立して高い有用性を発揮できる点で、好ましくは条件(1)及び後述する条件(3)を満たすことに加えて、気孔率は31%以上39%以下であるのが好ましい。気孔率は、後述する生体吸収性セラミックスの顆粒及び可燃性有機粒子それぞれの50%積算粒子径、及び、可燃性有機粒子の顆粒混合物に対する体積割合、並びに、プレス成形の圧力等によって調整できる。
【0030】
多孔質構造の気孔率は、生体吸収性インプラント1の質量及び体積から算出される見掛け密度と生体吸収性セラミックスの組成から求められる理論密度とから、式:(1−見掛け密度/理論密度)×100%により、算出される。
【0031】
多孔質構造は、直径10mm×高さ10mmの円柱体の試験片に成形されたときの圧縮強度が20MPa以上である(条件(3))。この多孔質構造は条件(1)及び(2)を満たすから生体吸収性インプラント1は通常欠損部に補填又は配置されるまでの補填作業時等には損壊しない程度の強度を保持しているものの、多孔質構造の圧縮強度が20MPa未満であると特異欠損部への補填作業が完了するまで形状を保持しうる高い機械的強度を発揮できないことがある。生体吸収性インプラント1が特異欠損部への補填作業が完了するまで形状を保持して高い有用性を発揮できる点で、好ましくは条件(1)及び条件(2)を満たすことに加えて、圧縮強度は22MPa以上であるのが好ましい。圧縮強度の上限は特に限定されないが、生体吸収性セラミックスで形成されるこの発明に係る生体吸収性インプラントにおいては現実的には70MPaである。この圧縮強度は、後述する可燃性有機粒子の顆粒混合物に対する体積割合、及び、プレス成形の圧力等によって調整できる。
【0032】
圧縮強度は、多孔質構造を有する生体吸収性インプラント1と同様に生体吸収性セラミックスで形成された直径10mm×高さ10mmの多孔質構造の円柱体としての試験体を作製し、この試験体にロードセルを用いて0.5mm/minの速さで圧縮応力を負荷して応力−ひずみ曲線を作成し、応力−ひずみ曲線において応力が最大となった点から算出される。
【0033】
このような多孔質構造を有する生体吸収性インプラント1は、生体吸収性セラミックスで形成されている。生体吸収性セラミックスは生体内で分解及び吸収され、生体に害を及ぼさないセラミックスである。生体吸収性インプラント1を形成する生体吸収性セラミックスは、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)である
【0034】
生体吸収性インプラント1の形状は特に限定されず、使用部位及び使用方法に応じて適宜の形状に製造される。例えば、生体吸収性インプラント1は、補填される使用部位の形状と同様の形状、又は、この形状に相当する形状例えば相似形等に成形され、また顆粒状若しくは粒状、粉末状、繊維状、ブロック状若しくはフィルム状等に成形される。生体吸収性インプラント1が優れた骨結合能力と強度とを両立するためには、多孔質構造が前記条件(1)〜(3)を満たすのに十分な寸法又は体積を有するように成形されることが重要であり、例えば、顆粒状、粒状及び粉末状等においては少なくとも0.5mm程度の体積を有しているのが好ましい。
【0035】
このように、生体吸収性インプラント1は大径気孔3の連通状態を確保しつつも気孔率を低下させて強度を向上させているから、優れた骨結合能力と強度とを両立でき、高い有用性を有している。例えば、生体吸収性インプラント1は、優れた骨結合能力を発揮する多孔質構造を有していても、製造時及び取り扱い時並びに患部への補填作業時等、例えば搬送時、ピックアップ時に損壊しにくいからハンドリング性に優れるうえ、特異欠損部の奥深くまで密に補填若しくは配置又は硬質の器具等を用いて圧入又は充填配置されることもできる。したがって、この発明に係る生体吸収性インプラントは特異補填部に補填させる生体吸収性インプラントとして特に好適に用いられる。
【0036】
ここで、生体吸収性インプラントの通常補填部への補填は、通常補填部に生体吸収性インプラントを装入補填、配置補填し、必要によって手で押圧して、実施される。このとき、通常補填部に生体吸収性インプラントを補填する方法として、例えば、ピンセット等で通常補填部内に生体吸収性インプラントを隙間なく並べる方法、漏斗等を用いて生体吸収性インプラントを重力等で通常補填部に流入させる方法等が挙げられる。一方、生体吸収性インプラントの特異補填部への補填は、生体吸収性インプラントを特異補填部の奥深くまで密に補填若しくは配置又は硬質の器具等を用いて圧入又は充填配置して、実施される。このとき用いられる硬質の器具としては、例えば、金属棒、鎚、ピンセット等が挙げられる。
【0037】
この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法を説明する。この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法は、生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムの顆粒を調製する顆粒調製工程と、前記顆粒調製工程で得られた顆粒及び可燃性有機粒子を混合して顆粒混合物を得る顆粒混合工程と、前記顆粒混合工程で得られた顆粒混合物をプレス成形して成形体を得る成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を焼成する焼成工程とを有している。そして、この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法において、顆粒混合工程で混合される顆粒及び可燃性有機粒子は50%積算粒子径が共に100μm以上300μm未満であり、顆粒混合工程における可燃性有機粒子の顆粒混合物に対する体積割合が20%以上40%未満であり、さらに成形工程におけるプレス成形の圧力が200kg/cm以上である。このようなこの発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法によれば、前記条件(1)〜(3)を満たす多孔質構造を生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウムで形成することができる。したがって、この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法は、前記条件(1)〜(3)を満たす多孔質構造を有するこの発明に係る生体吸収性インプラントを製造するのに好適である。
【0038】
この発明に係る生体吸収性インプラントの製造方法の一例(以下、この発明に係る一製造方法と称する。)として生体吸収性インプラント1を製造する方法を具体的に説明する。
【0039】
この発明に係る一製造方法においては、まず、生体吸収性セラミックスの顆粒を調製する顆粒調製工程を実施する。生体吸収性セラミックスの顆粒を調製するための原料としては、吸収速度の観点から生体吸収性セラミックスであるβ−TCPを使用する。この原料の比表面積は3.5m/g以上であるのが好ましい。原料の比表面積が3.5m/g以上であると、原料粉末の焼結性が良好となり、製造された生体吸収性インプラント1における骨格部2の表面に生体吸収性セラミックスの粒子が互いに接して配列された表面層が形成され易くなる。その結果、患部への補填作業時等に損壊し難い生体吸収性インプラント1を製造することができる。なお、原料の比表面積は比表面積測定装置により測定することができる。
【0040】
生体吸収性セラミックスから顆粒を調製する方法は、顆粒が調製される限り特に限定されず、下方から熱風を送り原料粉体を流動状態に保持しつつバインダ溶液を噴霧することにより原料粉体を凝集造粒させる流動層造粒、原料粉体を撹拌混合しつつバインダ溶液を添加することにより造粒させる撹拌造粒、原料粉体を圧縮成形して顆粒を得る圧縮造粒等を挙げることができる。これらの中でも流動層造粒は平均粒径が数百μmの球状の顆粒を増産できる点で好ましい。流動層造粒及び撹拌造粒において使用されるバインダ溶液は、顆粒を調製することができる限り特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、ポリエリレングリコール、及びアクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド等のポリマーを水に溶解した水溶液を挙げることができる。
【0041】
この顆粒調製工程において調製される顆粒は、略球状であり、通常顆粒と称される程度の大きさであればよく、例えば粒径が0.05〜1mmの範囲内、好ましくは50〜900μmの範囲内にあって、後述する顆粒混合工程で要求される50%積算粒子径(メジアン径)が100μm以上300μm未満であるのが好ましい。すなわち、好ましい顆粒調製工程は生体吸収性セラミックスの顆粒をその50%積算粒子径が100μm以上300μm未満となるように調製する工程である。なお、この顆粒調製工程において調製される顆粒の50%積算粒子径が300μm以上である場合には調製された顆粒の粒径を調整する粉砕処理又は解砕処理等を実施することもできる。
【0042】
顆粒調製工程で調製される顆粒のタップ充填密度は、生体吸収性セラミックスの組成から求められる理論密度の20%以上30%未満であるのが好ましい。顆粒のタップ充填密度が理論密度の20%より小さいと顆粒混合工程や成形工程において顆粒が潰れ易くなって骨格部2内の小径気孔4が減少し、3μm以上の細孔径を有する大径気孔3の体積率が80%以上になるため、生体内において速やかに分解及び吸収され難くなる。また顆粒のタップ充填密度が理論密度の30%以上であると骨格部2が緻密に焼結し、やはり、3μm以上の細孔径を有する大径気孔3の体積率が80%以上になるため、生体内において速やかに分解及び吸収され難くなる。なお、この顆粒調製工程において調製される顆粒のタップ充填密度が理論密度の20%以上30%未満の範囲を逸脱する場合には調製された顆粒の粉砕処理又は解砕処理等を実施して調整することもできる。このタップ充填密度はメスシリンダーに所定量の顆粒を入れ、体積が変化しなくなるまで機械的にタッピングし、メスシリンダーに充填された顆粒の体積を測定し、この体積で顆粒重量を割ることにより算出することができる。なお、生体吸収性セラミックスの顆粒の粒径及びタップ充填密度は造粒条件を調整することにより調整できる。
【0043】
この発明に係る一製造方法においては、次いで、顆粒調製工程で得られた顆粒と可燃性有機粒子とを混合して顆粒混合物を得る顆粒混合工程を実施する。
【0044】
この顆粒混合工程で用いる生体吸収性セラミックスの顆粒は50%積算粒子径が100μm以上300μm未満である。生体吸収性セラミックスの顆粒が100μm以上300μm未満の50%積算粒子径を有していると、可燃性有機粒子と共同して大径気孔3の連通状態を高めると共に機械的強度も保持できるため好適である。顆粒の50%積算粒子径が100μm未満であると可燃性有機粒子同士の隙間に顆粒が入り込み、気孔が分断され易くなるから大径気孔3同士が連通し難くなるおそれがある。また生体吸収性セラミックスの顆粒の50%積算粒子径が300μm以上であると骨格部2が脆くなって機械的強度が低下するおそれがある。
【0045】
この工程で用いる可燃性有機粒子は、略球状で、50%積算粒子径が100μm以上300μm未満であり、粒子径が生体吸収性セラミックスの顆粒と同程度であるのが好ましい。この可燃性有機粒子は、焼成工程を経て消失し、生体吸収性インプラント1における大径気孔3を形成する。したがって可燃性有機粒子の粒子径を変化させることにより、大径気孔3の平均気孔径及び大径気孔3同士が連通する連通部14の細孔径を調整することができる。そして、可燃性有機粒子の50%積算粒子径が100μm以上300μm未満であると、生体吸収性セラミックスの顆粒と共同して大径気孔3の連通状態を高めると共に機械的強度も保持できる。このような可燃性有機粒子は後述する焼成工程において焼成残渣のない有機物により形成される粒子である限り特に限定されず、例えばアクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂等により形成される略球状のビーズを挙げることができる。
【0046】
ここで、生体吸収性セラミックスの顆粒及び可燃性有機粒子の50%積算粒子径は、9段重ねの篩を用いて篩に残った顆粒の質量を測定し、粒径の小さい方から質量を積算して全質量の50%になる粒子径を、予め作成した検量線により求めた値とする。
【0047】
顆粒混合工程において、生体吸収性セラミックスの顆粒と可燃性有機粒子とは、これらが混合されてなる顆粒混合物に対する可燃性有機粒子の体積割合が20%以上40%未満となるように、混合される。このような体積割合で生体吸収性セラミックスの顆粒と可燃性有機粒子とが混合されると、焼成工程で顆粒混合物が体積収縮しても、前記範囲の気孔径及び細孔径を有する大径気孔3を形成でき、条件(1)及び条件(2)を満たすと共に条件(3)をも満たす多孔質構造すなわち生体吸収性インプラント1を製造できる。このように優れた骨結合能力と高い強度とを高い水準で両立した生体吸収性インプラント1を製造できる点で可燃性有機粒子の体積割合は31%以上38%以下であるのが好ましい。
【0048】
顆粒混合工程において、生体吸収性セラミックスの顆粒と可燃性有機粒子との混合方法は均一な顆粒混合物が得られる限り特に限定されず、乾式混合及び湿式混合のいずれで行ってもよく、生体吸収性セラミックスの顆粒の形態維持の観点から乾式混合が好ましい。
【0049】
このように、この発明に係る一製造方法における好ましい顆粒混合工程は、50%積算粒子径が100μm以上300μm未満の顆粒と50%積算粒子径が100μm以上300μm未満の可燃性有機粒子とを、顆粒の体積に対する可燃性有機粒子の体積の割合が20%以上40%未満となる混合割合で、混合して顆粒混合物を得る工程である。
【0050】
この発明に係る一製造方法においては、次いで、顆粒混合工程で得られた顆粒混合物をプレス成形して成形体を得る成形工程を実施する。プレス成形としては、所望の形状に成形することができる限り特に限定されず、例えば金型プレス、ラバープレス、水中プレス等を挙げることができる。プレス成形は200kg/cm以上の圧力で行う。プレス成形の圧力が200kg/cm未満であると、充填密度が不充分となって所望の機械的強度及び/又は気孔率を有する生体吸収性インプラント1が得られないことがある。したがって、この発明に係る一製造方法においては、顆粒混合物のプレス成形は200kg/cm以上で行う。そうすると、適度に潰れた生体吸収性セラミックスの顆粒と可燃性有機粒子とが密に充填された成形体が得られるから所望の気孔率及び機械的強度を有する生体吸収性インプラント1が得られる。このとき、小径気孔4の気孔径は顆粒混合物の成形圧力、生体吸収性セラミックスの粒径等を調整することによって3μm未満に調整できる。
【0051】
ところで、成形工程におけるプレス成形の圧力の上限値は、生体吸収性セラミックスの顆粒が完全に潰れない程度の圧力に設定される。生体吸収性セラミックスの顆粒が完全に圧潰してしまうと骨格部2が緻密になって小径気孔4が減少し、又は可燃性粒子に基づく隙間が小さくなって大径気孔3同士が連通せず、大径気孔3の体積率及び/又は気孔率が前記所望の範囲から逸脱して速やかに分解および吸収がされ難くなり、骨結合能力が低下することがある。例えば、生体吸収性セラミックスの顆粒としてβ−TCPを用い、また可燃性有機粒子としてアクリル樹脂粒子、メタクリル樹脂粒子又はポリスチレン樹脂粒子を用いる場合には、プレス成形の圧力の上限値は現実的には1000kg/cmとすることができる。
【0052】
この発明に係る一製造方法においては、次いで、成形工程で得られた成形体を焼成する焼成工程を実施する。成形体の焼成方法は特に限定されないが、前記成形体をまず200〜500℃に加熱して可燃性有機粒子を焼成除去し、脱脂した後に、生体吸収性セラミックスが相転移又は分解する温度未満、かつ相転移又は分解する温度より100℃低い温度以上で30分〜5時間の間焼成する方法が好ましい。例えば、生体吸収性セラミックスとしてβ−TCPを用いる場合には焼成温度は1080〜1150℃に設定されるのが好ましい。成形体の焼成温度が前記範囲内であると大径気孔3の体積率を前記範囲に調整しやすい。一方、生体吸収性セラミックスが相転移又は分解する温度以上の温度で成形体を焼成すると、成形体を構成する生体吸収性セラミックスが相転移又は分解することにより、体積膨張が生じ、そのため骨格部2に形成される気孔の気孔径の拡大、気孔率の上昇及びクラックが発生し、生体吸収性インプラント1の機械的強度が低下するおそれがある。また生体吸収性セラミックスが相転移又は分解する温度より100℃低い温度未満の温度で成形体を焼成すると、顆粒同士及び顆粒内の原料粒子同士の結合が充分に行われず、原料粒子が脱落して生体吸収性インプラント1の機械的強度が低下するおそれがある。
【0053】
この焼成工程において成形体が焼成されることにより、成形体における可燃性有機粒子が消失して大径気孔3を有する生体吸収性セラミックスの多孔質構造が形成される。そして、多孔質構造の骨格部2には多数の小径気孔4が形成される。
【0054】
このようにして前記条件(1)〜(3)を満たす多孔質構造の生体吸収性インプラント1が製造される。
【0055】
この発明に係る生体吸収性インプラント及び生体吸収性インプラントの製造方法は、前記した例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、生体吸収性インプラント1はその全体が前記多孔質構造を有しているが、この発明に係る生体吸収性インプラントはその一部が前記多孔質構造を有していてもよい。
【実施例】
【0056】
(実施例1〜10及び比較例1〜3)
<生体吸収性インプラントの製造>
1.顆粒調製工程
生体吸収性セラミックスであるβ−リン酸三カルシウム(β−TCP)の粉末を原料として流動層造粒により略球状の顆粒を調製した。このとき、バインダ水溶液として8質量%ポリビニルアルコール水溶液を使用し、造粒の条件を変化させることにより、粒径が0.05〜1mmの範囲内にあって第1表及び第2表に示されるように、生体吸収性セラミックスの顆粒の50%積算粒子径(μm)、及び、生体吸収性セラミックスの顆粒の理論密度に対するタップ充填密度の比率が異なる種々の生体吸収性セラミックスの顆粒を調製した。なお、生体吸収性セラミックスの顆粒の50%積算粒子径は9段重ねの篩を用いて篩に残った顆粒の質量を測定し、粒径の小さい方から質量を積算して全質量の50%になる粒子径を求めた。生体吸収性セラミックスの顆粒のタップ充填密度は容積20ccのメスシリンダーに10g前後の顆粒を入れ、5cmの高さから垂直に落とすタッピング操作を500回行い、顆粒の体積の変化が認められないことを確認した後に体積を読み取り、生体吸収性セラミックスの顆粒の質量を生体吸収性セラミックスの顆粒の体積で除することにより算出した。このとき、生体吸収性セラミックスの顆粒の理論密度を3.07g/cmとして生体吸収性セラミックスの顆粒の理論密度に対するタップ充填密度の比率を算出した。β−TCPの粉末の比表面積は比表面積測定装置(Mountech社製MacSorb HM)により測定したところ、いずれも3.5m/g以上であった。
【0057】
2.顆粒混合工程
可燃性有機粒子として50%積算粒子径が246μmである球状のブチルメタクリレート粒子を準備し、これらのブチルメタクリレート粒子と得られた生体吸収性セラミックスの顆粒とを均一になるように混合して顆粒混合物を得た。このとき、第1表及び第2表に示されるようにブチルメタクリレート粒子の顆粒混合物に対する体積割合を変化させた。なお、ブチルメタクリレート粒子の50%積算粒子径は生体吸収性セラミックスの顆粒と同様にして求めた。
【0058】
3.成形工程
得られた顆粒混合物を金型に充填し、第1表及び第2表に示される成形圧でプレス成形して円柱状の成形体を得た。
【0059】
4.焼成工程
得られた成形体を220℃で3時間加熱してブチルメタクリレート粒子を焼成除去し、次いで450℃で2時間加熱して脱脂した。この脱脂処理の後に昇温速度100℃/時間で1100℃まで昇温し、この温度に維持したまま3時間焼成して生体吸収性インプラントを製造した。
【0060】
<評価>
1.3μm以上の細孔径を有する気孔の体積率(条件(1))
製造した各生体吸収性インプラントを水銀ポロシメータ(マイクロメリティックス社製オートポアIV9510)を用いて細孔分布を測定した。いずれの生体吸収性インプラントについても、細孔分布において細孔径が3μm未満の領域に1つのピークと3μm以上の領域に少なくとも1つのピークとが観測された。この細孔分分布において前記のようにして3μm以上の細孔径を有する気孔の全気孔に対する体積率(百分率)を算出し、また3μm未満の細孔径を有する気孔の全気孔に対する体積率(百分率)を算出した。その結果を第1表及び第2表に示した。
【0061】
2.気孔率(条件(2))
各生体吸収性インプラントの質量及び寸法により算出される体積から見掛け密度を算出した。この見掛け密度とβ−TCPの理論密度3.07g/cmとから気孔率を算出して第1表及び第2表に示した。
【0062】
3.圧縮強度(条件(3))
前記「生体吸収性インプラントの製造」と基本的に同様にして直径10mm×高さ10mmの円柱体を成す生体吸収性インプラントの試験体を作製し、この試験体にロードセルを用いて0.5mm/minの速さで圧縮応力を負荷して応力−ひずみ曲線を作成し、この応力−ひずみ曲線において応力が最大となった点を生体吸収性インプラントの圧縮強度とした。その結果を第1表及び第2表に示した。
【0063】
4.大径気孔3の平均気孔径
得られた生体吸収性インプラントを樹脂に埋包した後、研磨して断面を出し、この断面を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−6460LA)で観察し(50倍)、視野にあるすべての気孔についてそれぞれ円を想定して直径を測定した。大径気孔3の平均気孔径として大径気孔3に相当する気孔の測定値を算術平均して求めたところ、すべての生体吸収性インプラントにおいて、その平均気孔径は100μm以上200μm以下であった。
【0064】
5.骨結合能力
生体吸収性インプラントにおいて、気孔率が例えば30%以上であると多孔質構造中に大径気孔3及び小径気孔4からなる空隙部が比較的多くなるから、患部に補填されたときにこれら空隙部に骨芽細胞等の生体組織及び体液が進入しやすくなることをこの発明の発明者らは見出している。したがって、気孔率が30%以上の実施例1〜10並びに比較例1及び3の生体吸収性インプラントは優れた骨結合能力を発揮することが容易に推測される。さらに、大径気孔3が100μm以上200μm以下の平均気孔径を有していると、患部に補填されたときに多孔質構造中の大径気孔内部に生体組織及び体液が進入して生体吸収性インプラントの外側からの分解・吸収に加えて内部からも分解・吸収されて生体吸収性インプラントが残存することなく自家骨に患部が早期に置換されて高い骨結合能力を発揮することが容易に推測される。
【0065】
6.生体吸収性インプラントの観察
実施例1〜10の生体吸収性インプラントを倍率1000倍で走査型顕微鏡で観察したところ、骨格部2の断面には複数の小径気孔4が存在していたことが確認できた。
【0066】
7.生体吸収性インプラントの損壊評価
生体吸収性インプラントを特異補填部に金属製器具等を用いて圧入又は充填配置する際に生体吸収性インプラントが損壊することなく特異欠損部の奥深くまで密に圧入補填するためには生体吸収性インプラントには少なくとも20MPaの圧縮強度が必要であること、またピックアップ等の補填作業時等に形状を保持するためには生体吸収性インプラントには少なくとも5Mpa以上の圧縮強度が必要であることを、この発明の発明者らは確認している。したがって、製造した生体吸収性インプラントの圧縮強度が20MPa以上である実施例1〜10並びに比較例2の生体吸収性インプラントは、補填作業時はもちろん、特異補填部への補填作業が完了するまで形状を保持できる。
【0067】
8.総合評価
製造した生体吸収性インプラントについて、骨結合能力の優越、及び、特異補填部への補填作業が完了するまで形状を保持できるか否かを基準にして、総合的に評価した。具体的には、優れた骨結合能力を発揮すると共に特異補填部への補填作業が完了するまで形状を保持できることが明らかに推測できる場合を「◎」、優れた骨結合能力を発揮する一方で、補填作業時等に形状を保持できるものの特異補填部への補填作業が完了するまで形状を保持できそうにないことが容易に推測される場合を「×」とし、特異補填部への補填作業が完了するまで形状を保持ものの、骨結合能力が明らかに劣る場合を「××」とした。その結果を第1表及び第2表に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
第1表及び第2表に示されるように、条件(1)〜(3)をすべて満足する実施例1〜10の生体吸収性インプラントは、いずれも、優れた骨結合能力を発揮するにもかかわらず補填作業が完了するまで形状を保持することができ、有用性が高いことがわかった。
【符号の説明】
【0071】
1 生体吸収性インプラント
2 骨格部(固体部)
3 大径気孔
4 小径気孔
11 独立気孔
12 開気孔
13 連通開気孔
14 連通部
図1