(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
テープ状の基材の一方の面上に中間層と酸化物超電導層と保護層をこの順に積層して酸化物超電導積層体が構成され、該酸化物超電導積層体の前記保護層上に導電材料からなる安定化材が配置された酸化物超電導線材であって、
前記安定化材が上板と下板を備え、該上板と下板が長手方向に渡って幅方向両端部で電気的かつ機械的に接続され、前記上板と下板との間に中空部が形成されるか、前記上板と下板とが重ね合わされたことを特徴とする酸化物超電導線材。
前記安定化材が1枚の金属板を2つ折りして重ね合わせ、前記金属板の重ね合わせ先端縁側を接合材で一体化してなることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
前記保護層上に配置された安定化材が、前記酸化物超電導積層体の外周を取り囲むように形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材。
前記保護層上に配置された安定化材が、前記酸化物超電導積層体の外周を取り囲むように延出形成され、前記保護層上に配置された安定化材の一部が下板とされ、該下板上に導電材料からなる上板が配置されたことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
前記保護層上に配置された安定化材が、前記酸化物超電導積層体の外周を取り囲むように形成され、前記保護層上の安定化材の外方まで延出形成されて前記保護層上の安定化材に重ねられ、前記保護層上の安定化材が下板とされ、該下板上に延出された安定化材の延出部が上板とされたことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化物超電導コイルは、液体窒素などの冷媒を用いるか、冷凍機などの冷却装置を用いて臨界温度以下に冷却して使用するので、多層巻きコイルなどのコイル形状に加工したとしても、酸化物超電導層を効率良く冷却する必要がある。ところが、上述の剥離材層を設けた構造では、含浸させたエポキシ樹脂と超電導コイルとの間に剥離材層が介在するので、熱的接触が悪くなり、酸化物超電導層の冷却効率が低下する問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような従来の背景に鑑みなされたもので、超電導コイルとして加工して含浸樹脂により固めた構造として超電導線材に応力が作用したとしても、該応力を緩和できる構造を導入した酸化物超電導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の超電導線材は、テープ状の基材の一方の面上に中間層と酸化物超電導層と保護層をこの順に積層して酸化物超電導積層体が構成され、該酸化物超電導積層体の前記保護層上に導電材料からなる安定化材が配置された酸化物超電導線材であって、前記安定化材が上板と下板を備え、該上板と下板が長手方向に渡って幅方向両端部で電気的かつ機械的に接続され、前記上板と下板との間に中空部が形成されるか、前記上板と下板とが重ね合わされたことを特徴とする。
安定化材が上板と下板とからなる2重構造であると、超電導線材をコイル化して含浸樹脂で固定した、冷却時の熱膨張差に起因する応力が作用した場合、上板と下板とが離間する方向に変形することで、これらの応力を吸収できる。このため、酸化物超電導積層体の酸化物超電導層の部分あるいはその周囲の層に作用する剥離応力を低減することが可能となり、応力負荷に起因して超電導特性が劣化する現象を抑制できる。
【0009】
本発明において、前記安定化材を偏平型の中空パイプとすることができる。
偏平型の中空パイプからなる安定化材であるならば、中空パイプを構成する上板と下板とが対向配置された安定化材であるので、酸化物超電導線材を構成する酸化物超電導積層体の面方向に垂直な剥離応力が作用しても、中空パイプの上板と下板が離間する方向に変形することで応力を吸収できる。また、中空パイプの安定化材は、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に転移しようとした場合の電流のバイパスとなり、上板と下板を有し、導体としての断面積も大きくできるので、酸化物超電導線材を安定化する場合に有利な特徴を有する。
【0010】
本発明において、前記安定化材が、上板と下板を重ね合わせ、それらの幅方向両端部を導電性の接合材で一体化した構成にできる。
この構造において酸化物超電導線材を構成する酸化物超電導積層体の面方向に垂直な剥離応力が作用しても、導電性の接合材で一体化した上板と下板が離間する方向に変形することで応力を吸収できる。
本発明において、前記安定化材が1枚の金属板を2つ折りして重ね合わせ、前記金属板の重ね合わせ先端縁側を接合材で一体化した構成でも良い。
この構造において酸化物超電導線材を構成する酸化物超電導積層体の面方向に垂直な剥離応力が作用しても、2つ折りして金属板を重ね合わせ構造とした上板と下板が離間する方向に変形することで応力を吸収できる。
【0011】
本発明において、前記保護層上に配置された安定化材が、前記酸化物超電導積層体の外周を取り囲むように形成されていても良い。
安定化材により酸化物超電導積層体の外周を取り囲む構成にしていると、酸化物超電導積層体の外部に水分が存在していても、内部の酸化物超電導層側にまで水分が浸入しないので、水分により酸化物超電導層に劣化を生じない構造を得ることができる。
【0012】
本発明において、前記保護層上に配置された安定化材が、前記酸化物超電導積層体の外周を取り囲むように延出形成され、前記保護層上に配置された安定化材の一部が下板とされ、該下板上に導電材料からなる上板が配置された構成でも良い。
この構造においても、酸化物超電導積層体を囲んだ安定化材の一部を下板として、更に上板を有しているので、酸化物超電導線材を構成する酸化物超電導積層体の面に垂直な方向へ剥離応力が作用しても、上板と下板が離間する方向に変形することで応力を吸収できる。更に、安定化材により酸化物超電導積層体の外周を取り囲む構成にしていると、酸化物超電導積層体の外部に水分が存在していても、酸化物超電導積層体に形成されている酸化物超電導層に水分が浸入しないので、水分により酸化物超電導層に劣化を生じない構造を得ることができる。
【0013】
本発明において、前記保護層上に配置された安定化材が、前記酸化物超電導積層体の外周を取り囲むように形成され、前記保護層上の安定化材の外方まで延出形成されて前記保護層上の安定化材に重ねられ、前記保護層上の安定化材が下板とされ、該下板上に延出された安定化材の延出部が上板とされた構成でも良い。
この構造においても、酸化物超電導積層体を囲んだ安定化材の一部を下板として更に上板を有しているので、酸化物超電導線材を構成する酸化物超電導積層体の面に垂直な方向に剥離応力が作用しても、上板と下板が離間する方向に変形することで応力を吸収できる。更に、酸化物超電導積層体の外部に水分が存在していても、酸化物超電導層側に水分が浸入しない構造になっているので、水分により酸化物超電導層に劣化を生じない構造を得ることができる。
本発明において、前記保護層の両側部に酸化物超電導積層体の両側部から基材裏面側まで延出する接合層が形成され、該接合層を介し基材裏面側に第2の安定化材が配置された構成でも良い。
基材裏面側にも第2の安定化材を設けることで保護層上に設けた安定化材と相俟って安定化材の断面積を大きくできるので、酸化物超電導線材を安定化する場合に有利な特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定化材が上板と下板とからなる2重構造であるので、超電導線材をコイル化して含浸樹脂で固定した場合などにおいて、冷却時の熱膨張差に起因する応力が酸化物超電導積層体の厚さ方向に剥離応力として作用しても、上板と下板とが離間する方向に変形することで、応力を吸収できる。このため、酸化物超電導積層体の酸化物超電導層の部分とその周囲の層に作用する剥離応力を低減することが可能となり、応力負荷に起因して超電導特性が劣化する現象を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る酸化物超電導線材の第1実施形態を模式的に示す横断面図である。
本実施形態の酸化物超電導線材1は、酸化物超電導積層体2の上面側に偏平の矩形パイプ状の安定化材3を半田などの低融点金属からなる接合層4により一体化してなる。
本実施形態の酸化物超電導積層体2は、詳細には、テープ状の基材5の一面上に(
図1では上面上に)、中間層6と酸化物超電導層7と保護層8とをこの順に積層してなる。
前記基材5は、可撓性を有する線材とするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。各種耐熱性金属の中でも、ニッケル合金からなることが好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適である。基材5の厚さは、通常は、10〜500μmである。また、基材5として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材等を適用することもできる。
【0017】
中間層6は、以下に説明する下地層と配向層とキャップ層からなる構造を一例として適用できる。
下地層を設ける場合は、以下に説明する拡散防止層とベッド層の複層構造あるいは、これらのうちどちらか1層からなる構造とすることができるが、下地層は必須ではなく、略しても差し支えない。
下地層として拡散防止層を設ける場合、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される単層構造あるいは複層構造の層が望ましく、厚さは例えば10〜400nmである。
下地層としてベッド層を設ける場合、ベッド層は、例えば、イットリア(Y
2O
3)などの希土類酸化物であり、より具体的には、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等を例示することができ、これらの材料からなる単層構造あるいは複層構造を採用できる。ベッド層の厚さは例えば10〜100nmである。
【0018】
配向層は、その上方に形成する酸化物超電導層7と格子整合性の良い金属酸化物からなることが好ましい。配向層の好ましい材質として具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示できる。配向層は、単層でも良いし、複層構造でも良い。
キャップ層は、好ましいものとして具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が例示できる。キャップ層の材質がCeO
2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。CeO
2のキャップ層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲とすることができる。
【0019】
酸化物超電導層7は通常知られている組成の希土類系高温酸化物超電導体からなる薄膜を広く適用することができ、REBa
2Cu
3O
7−X(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBa
2Cu
3O
7−X)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
7−X)を例示できる。酸化物超電導層7の厚みは0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
酸化物超電導層7の上面を覆うように形成されている保護層8は、AgまたはAg合金からなり、その厚さは1〜30μm程度とされている。
【0020】
安定化材3は、CuやCu合金あるいはAgやAg合金などの良導電性の金属材料からなる上板3Aおよび下板3Bと側板3C、3Cとからなる偏平の矩形パイプ形状とされ、その横幅は酸化物超電導積層体2と同程度に形成され、半田などの低融点合金の接合層4を介し保護層8の上面に接合されている。
安定化材3の肉厚は特に限定されず、適宜調整可能であるが、良導電性のCuやCu合金から構成される場合、上板3Aおよび下板3Bと側板3C、3Cの個々の厚さを10〜300μmとすることができ、酸化物超電導線材1としてのコイル加工時の取り扱い性を考慮すると、肉厚は20〜100μmの範囲が好ましい。なお、酸化物超電導線材1を超電導限流器に使用する場合は、安定化材3をCu−Ni等の高抵抗金属材料から構成することが好ましい。
安定化材3をCuやCu合金などの良導電性材料から構成した場合、酸化物超電導層7が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、安定化材3が保護層8とともに、酸化物超電導層7の電流を転流させるバイパスとして機能する。
【0021】
低融点金属からなる接合層4を介して安定化材3と保護層8を電気的および機械的に接続することにより、保護層8と安定化材3との接合が強固となり、接続抵抗が低下するため、酸化物超電導層7を安定化する効果を向上できる。接合層4として半田層を設ける場合にその厚さは、特に限定されず、適宜調整可能であるが、例えば、2〜20μm程度とすることができる。
【0022】
接合層4として半田層を用いる場合は従来公知の半田より構成することができ、例えば、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金などの鉛フリー半田、Pb−Sn系合金半田、共晶半田、低温半田などが挙げられ、これらの半田を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いることが好ましい。これにより、300℃以下の温度で安定化材3と酸化物超電導積層体2を半田付けすることが可能となるので、半田付けの熱によって酸化物超電導層7の特性劣化を抑止できる。
【0023】
矩形パイプ状の安定化材3は上板3Aと下板3Bとの間に中空部3Dが形成されているが、安定化材3の内部に形成されている中空部3Dの厚みは特に問わない。中空部3Dの厚みは、例えば、上板3Aと同程度、基材5と同程度でも良く、後述する実施形態のように上板と下板を接触させて中空部3Dを限りなく薄く形成しても良い。例えば、上板3Aと下板3Bが接触した状態で上下に配置されていても良い。また、矩形パイプ状の安定化材3の横断面において外周のコーナー部分は所定曲率のアール部3aが形成されている。
安定化材3が上板3Aと下板3Bと側板3C、3Cからなる構造である場合、
図1に示す断面構造のテープ状の酸化物超電導線材1の外周を絶縁テープなどの絶縁層で覆った上に巻き枠等に巻き付け、超電導コイルを構成する場合、酸化物超電導線材1を固定するためにエポキシ樹脂等を含浸させて酸化物超電導線材1を含浸樹脂層により固定する。
安定化材3の外周に形成されているアール部3aは、上述したように絶縁テープなどの巻き付けにより絶縁層を形成する場合に絶縁テープに張力をかけて巻き付けても絶縁テープを切ってしまうことがない。
【0024】
テープ状の酸化物超電導線材1を用いて超電導コイルを作製するには、基材5を巻き枠の外周面に沿って基材5を巻き枠の外周面に向くようにして必要層数巻き付けるか、反対に巻き枠の外周面に安定化材3を巻き枠の外周面に向くようにして必要層数巻き付けることで超電導コイルを作製できる。酸化物超電導線材1を巻き枠の外周に必要な巻き数で巻回した後、巻き付けた酸化物超電導線材1を覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて酸化物超電導線材1を固定する。このように酸化物超電導コイルは、含浸樹脂により周囲を覆われた状態で冷媒や冷却装置により冷却されるので、常温から低温に冷却される段階で熱膨張係数の大きい含浸樹脂により超電導線材1に応力が作用する。
【0025】
含浸樹脂による応力が作用すると、酸化物超電導積層体2に層間剥離を生じさせる方向に応力が作用するが、この応力に対し、安定化材3の内部に中空部3Dが形成され、上板3Aと下板3Bを離間させる方向に上板3Aが変形できるので、上板3Aが下板3Bと離間するように変形することで上述の応力を吸収できる。このため、酸化物超電導線材1に設けられている酸化物超電導層7に作用する応力は抑制されるか解消されるので、酸化物超電導層7の超電導特性が劣化することがない。
【0026】
図1に示す断面構造の酸化物超電導線材1にあっては、安定化材3が基材5と同等の幅であり、偏平であって、上板3Aの表面は基材5と平行に配置されているので、酸化物超電導線材1の全体として矩形断面形状を維持することができ、巻き枠などに多層巻きしてコイル化する場合に巻き乱れを生じ難い断面形状になっている。
【0027】
<第2実施形態>
図2は本発明に係る酸化物超電導線材の第2実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Aは、酸化物超電導積層体2の外周をめっき層からなる安定化層9で覆い、その上面側に偏平の矩形パイプ状の安定化材3を半田などの低融点金属からなる接合層4により一体化してなる。
第2実施形態の構造において先の第1実施形態の構造と同等の構成要素には同一の符号を付してそれら要素の説明は省略する。
第2実施形態の構造において酸化物超電導積層体2の外周にはCuあるいはCu合金などの良導電性の金属材料のめっきからなる安定化層9が被覆されている。めっきからなる安定化層9は、一例として酸化物超電導積層体2において銀からなる保護層8をスパッタ法などの成膜法により形成する場合、酸化物超電導層7の表面に加えて基材5の側面や裏面側にもスパッタ粒子を飛ばしてAgの薄い下地層を形成しておき、このAgの下地層を元にめっき処理することで基材5が難めっき材の場合であっても支障なくめっき層を形成できる。
例えば、酸化物超電導積層体2の全体を硫酸銅水溶液などのめっき浴に浸漬し、電気めっきによりAgの保護層上と基材1の側面側と裏面側に銅の安定化層を形成できる。このめっき処理により安定化層9を形成できる。ここで形成するめっき層からなる安定化層9は先の第1実施形態の安定化材3の上板3A、下板3Bと同等程度の厚さに形成できるが、例えば、10〜300μmの範囲、線材としての取り扱い性と可撓性などを考慮すると、より好ましくは20〜100μmの範囲を選択できる。なお、めっき層を厚く形成しすぎると線材の撓曲性が損なわれる可能性があることを考慮すると、安定化層9は安定化材3の肉厚よりも薄い層として構成することが好ましい。
【0028】
第2実施形態の酸化物超電導線材1Aは、上述のめっき層からなる安定化層9に加えて第1実施形態の安定化材3と同等の安定化材3を備えているので、超電導コイルを構成した場合の応力緩和効果については第1実施形態の酸化物超電導線材1と同等の作用効果を得ることができる。また、安定化材3に加えて良導電材料製の安定化層9を備えているので、酸化物超電導層7が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、安定化材3と安定化層9が保護層8とともに、酸化物超電導層7の電流を転流させるバイパスとして機能する。第2実施形態の場合、安定化材3に加えて安定化層9を設けているので、電流を分流するバイパスとしての導体断面積を大きくできるので、超電導線材1の安定化の面においては第1実施形態の構造よりも有利な構造となる。
【0029】
一方、第2実施形態の如く酸化物超電導積層体2の外周をめっき層からなる安定化層9で覆った構造とするならば、酸化物超電導積層体2の周囲に水分が存在していてもその水分が酸化物超電導線材1の内部の酸化物超電導層7側にまで到達することがない。
酸化物超電導層7を構成する希土類系の酸化物超電導体の中には水分の存在により劣化するものがあるので、酸化物超電導積層体2の外周を安定化層9で覆った構造の酸化物超電導線材1Aでは水分の浸入を抑制して水分の存在による超電導特性の劣化を生じることがない利点を有する。
【0030】
<第3実施形態>
図3は本発明に係る酸化物超電導線材の第3実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Bは、酸化物超電導積層体2の上面側に、偏平の矩形パイプを潰した形状の安定化材13を半田などの低融点金属からなる接合層4により一体化してなる。
安定化材13は、第1実施形態で用いた安定化材13と同等の材料と構成からなり、異なる点は、上板13Aと下板13Bが上下に接触するように重ねられ、それらの幅方向両端が側壁13Cで接続一体化されている点である。即ち、第1実施形態の構造において設けられていた中空部3Dが限りなく薄くなって上板13Aと下板13Bが接触された偏平型の安定化材13とした点に特徴を有する。その他の形状や大きさ、各部の厚さ等は第1実施形態の安定化材3と同等構造とされている。本実施形態の安定化材13を保護層8に一体化する接合層4についても第1実施形態と同等の接合層4を用いることができる。
【0031】
第3実施形態の安定化材13は、上板13Aと下板13Bとが重ねられてはいるが、これらが接着されているわけではなく、単に上下に重ねられている。このため、酸化物超電導線材1Bに対しその厚さ方向に応力が作用して上板13Aと下板13Bを引き剥がす方向に剥離応力が作用した場合、上板13Aが下板13Bと離間する方向に撓むことによって上板13Aが下板13Bから離間できるように構成されている。
この第3実施形態の酸化物超電導線材1Bを用いて超電導コイルを形成し、含浸樹脂により固めた場合、冷却に応じて酸化物超電導線材1Bの厚さ方向に応力が作用した場合、上板13Aと下板13Bとが離間し、相互に多少のずれを許容するので、前述の剥離応力を吸収し、酸化物超電導層7に剥離応力が直に作用することを抑制できる。
このため、酸化物超電導線材1Bは、超電導コイルを構成した後、冷却した場合において、酸化物超電導層7に直接作用する剥離応力を少なくすることで超電導特性の劣化を防止できる。
【0032】
<第4実施形態>
図4は本発明に係る酸化物超電導線材の第4実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Cは、安定化層9で外周を覆った酸化物超電導積層体2の上面側に、偏平の矩形パイプを潰した形状の安定化材13を半田などの低融点金属からなる接合層4により一体化してなる。
安定化材13は、上述の第3実施形態で用いた安定化材13と同等のものであり、酸化物超電導積層体2の外周を覆っている安定化層9は先の第2実施形態で用いた安定化層9と同等のものである。
この第4実施形態の酸化物超電導線材1Cを用いて超電導コイルを形成し、含浸樹脂により固めた場合、冷却に応じて酸化物超電導線材1Cの厚さ方向に剥離応力が作用した場合、先の第3実施形態と同等の作用効果を得ることができる。また、安定化層9を備えているので、酸化物超電導層7が常電導状態へ転移しようとした時に電流のバイパスとなる作用効果に加え、酸化物超電導線材1Bが水分による劣化を生じることがない特徴において先の第3実施形態の構造と同等の作用効果を得ることができる。
【0033】
<第5実施形態>
図5は本発明に係る酸化物超電導線材の第5実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Dは、酸化物超電導積層体2の上面側に、良電導材料製のテープ状の上板23Aと下板23Bとからなり、上板23Aと下板23Bの幅方向両端縁部分を半田などの接合材22で一体化した偏平の矩形パイプ状の安定化材23を半田などの低融点金属からなる接合層4により一体化してなる。上板23Aと下板23Bの間には中空部23Dが形成されている。また、この実施形態では上板23Aと下板23Bとを接合する接合材22の部分が安定化材23の側壁を兼ねる構成とされている。
第5実施形態の構造において先の第1実施形態の構造と同等の構成要素には同一の符号を付してそれら要素の説明は省略する。
【0034】
偏平な矩形パイプ状の安定化材23は上板23Aと下板23Bとの間に中空部23Dが形成されているが、安定化材23の内部に形成されている中空部23Dの厚みは特に問わない。中空部23Dの厚みは、例えば、上板23Aと同程度、基材5と同程度でも良く、上板と下板を接触させて中空部23Dを限りなく薄くしても良い。例えば、上板23Aと下板23Bが接触した状態で接合材22により接合されていても良い。
安定化材23が上板23Aと下板23Bからなる構造である場合、
図5に示す構造のテープ状の酸化物超電導線材1Dを絶縁層で覆った上に巻き枠等に巻き付け、超電導コイルを構成する場合、酸化物超電導線材1Dを固定するためにエポキシ樹脂等を含浸させて酸化物超電導線材1Dを固定する。
【0035】
テープ状の酸化物超電導線材1Dを用いて超電導コイルを作製するには、先の実施形態の場合と同様に、酸化物超電導線材1Dを必要層数巻き付けることで超電導コイルを作製できる。酸化物超電導線材1Dを巻き枠の外周に必要な巻き数で巻回した後、巻き付けた酸化物超電導線材1Dを覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて酸化物超電導線材1Dを固定する。このように酸化物超電導コイルは、含浸樹脂により周囲を覆われた状態で冷媒や冷却装置により冷却されるので、常温から低温に冷却される段階で熱膨張係数の大きい含浸樹脂により超電導線材1Dに応力が作用する。
含浸樹脂による応力が作用すると、酸化物超電導線材1Dの厚さ方向に剥離応力が作用するが、この剥離応力に対し、安定化材23の内部に中空部23Dが形成され、上板23Aと下板23Bを離間させる方向に上板23Aが変形できるので、上板23Aが下板23B側に離間するように変形することで上述の剥離応力を吸収できる。このため、酸化物超電導線材1Dに設けられている酸化物超電導層7に作用する応力は抑制されるか解消されるので、酸化物超電導層7の超電導特性が劣化することがない。また、樹脂を含浸させる場合に真空含浸を行うことが通常であり、含浸樹脂は酸化物超電導線材1Dを覆う絶縁層の隙間から染み込むおそれがあるが、上板23Aと下板23Bの幅方向両端側は接合材22により閉じられ、機械的にも充分な強度で接合されているので、中空部23D内に樹脂が浸入するおそれはない。
その他の作用効果についても第1実施形態の酸化物超電導線材1と同等の作用効果を得ることができる。
【0036】
<第6実施形態>
図6は本発明に係る酸化物超電導線材の第6実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Eは、酸化物超電導積層体2の上面側に、良電導材料製のテープを2つ折りに折り曲げて形成した上板33Aと下板33Bとからなり、上板33Aと下板33Bの重ね合わせ先端側の端縁部分を半田などの接合材32で一体化した偏平の矩形パイプ状の安定化材33を半田などの低融点金属からなる接合層4により一体化してなる。上板33Aと下板33Bの間には中空部33Dが形成されている。また、この実施形態ではテープを2つ折りに折り曲げた部分と、上板33Aおよび下板33Bとを接合する接合材32の部分が安定化材33の側壁を兼ねる構成とされている。
第6実施形態の構造において先の第1実施形態の構造と同等の構成要素には同一の符号を付してそれら要素の説明は省略する。
【0037】
偏平な矩形パイプ状の安定化材33は上板33Aと下板33Bとの間に中空部33Dが形成されているが、安定化材33の内部に形成されている中空部33Dの厚みは特に問わない。中空部33Dの厚みは、例えば、上板33Aと同程度、基材5と同程度でも良く、上板と下板を接触させて中空部33Dを限りなく薄くしても良い。例えば、上板33Aと下板33Bが接触した状態で接合材32により接合されていても良い。
安定化材33が上板33Aと下板33Bからなる構造である場合、
図6に示す構造のテープ状の酸化物超電導線材1Eを絶縁層で覆った上に巻き枠等に巻き付け、超電導コイルを構成する場合、酸化物超電導線材1Eを固定するためにエポキシ樹脂等を含浸させて酸化物超電導線材1Eを固定する。
【0038】
テープ状の酸化物超電導線材1Eを用いて超電導コイルを作製するには、先の実施形態の場合と同様に、酸化物超電導線材1Eを必要層数巻き付けることで超電導コイルを作製できる。酸化物超電導線材1Eを巻き枠の外周に必要な巻き数で巻回した後、巻き付けた酸化物超電導線材1Eを覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて酸化物超電導線材1Eを固定する。このように酸化物超電導コイルは、含浸樹脂により周囲を覆われた状態で冷媒や冷却装置により冷却されるので、常温から低温に冷却される段階で熱膨張係数の大きい含浸樹脂により超電導線材1Eに圧縮応力が作用する。
含浸樹脂による応力が作用すると、酸化物超電導線材1Eの厚さ方向に剥離応力が作用するが、この剥離応力に対し、安定化材33の内部に中空部33Dが形成され、上板33Aと下板33Bを離間させる方向に上板33Aが変形できるので、上板33Aが下板33Bから離間するように変形することで上述の応力を吸収できる。このため、酸化物超電導線材1Eに設けられている酸化物超電導層7に作用する応力は抑制されるか解消されるので、酸化物超電導層7の超電導特性が劣化することがない。また、樹脂を含浸させる場合に真空含浸を行うことが通常であり、含浸樹脂は酸化物超電導線材1Eを覆う絶縁層の隙間から染み込むおそれがあるが、上板33Aと下板33Bの幅方向一端側は接合材32により閉じられ、機械的にも充分な強度で接合されているので、中空部33D内に樹脂が浸入するおそれはない。
その他の作用効果についても第1実施形態の酸化物超電導線材1と同等の作用効果を得ることができる。
【0039】
<第7実施形態>
図7は本発明に係る酸化物超電導線材の第7実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Fは、酸化物超電導積層体2の外周をめっき層からなる安定化層9で覆い、その上面側に平板状の上板40Aの両端縁を半田などの低融点金属からなる接合材42により一体化してなる。
第7実施形態の構造において先の第2実施形態の構造と同等の構成要素には同一の符号を付してそれら要素の説明は省略する。
第7実施形態の構造において酸化物超電導積層体2の外周には安定化層9が被覆されている。安定化層9については先の第2実施形態の安定化層9と同等のものである。
第7実施形態の構造において、保護層8の上方に積層された安定化層9の上部側が下板40Bとされ、上板40Aと下板40Bとが上下に配置されることで安定化材40が構成されている。この実施形態の構造では安定化層9の上部側が下板40Bとされて安定化材40の一部を兼ねた構造とされている。
【0040】
テープ状の酸化物超電導線材1Fを用いて超電導コイルを作製するには、先の実施形態の場合と同様に、酸化物超電導線材1Fを必要層数巻き付けることで超電導コイルを作製できる。酸化物超電導線材1Fを巻き枠の外周に必要な巻き数で巻回した後、巻き付けた酸化物超電導線材1Fを覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて酸化物超電導線材1Fを固定する。このように酸化物超電導コイルは、含浸樹脂により周囲を覆われた状態で冷媒や冷却装置により冷却されるので、常温から低温に冷却される段階で熱膨張係数の大きい含浸樹脂により超電導線材1Fに応力が作用する。
含浸樹脂による応力が作用すると、酸化物超電導線材1Fの厚さ方向に剥離応力が作用するが、この剥離応力に対し、安定化材40の内部に中空部40Dが形成されていて、上板40Aと下板40Bを離間する方向に上板40Aが変形できるので、上述の応力を吸収できる。このため、酸化物超電導線材1Fに設けられている酸化物超電導層7に作用する応力は抑制されるか解消されるので、酸化物超電導層7の超電導特性が劣化することがない。また、上板40Aと下板40Bの幅方向両端部を側壁を兼ねる接合材42で閉じているので、中空部40への含浸樹脂の浸入を防止できる効果についても先の実施形態と同様である。
その他の作用効果についても先の実施形態の酸化物超電導線材と同等の作用効果を得ることができる。
【0041】
<第8実施形態>
図8は本発明に係る酸化物超電導線材の第8実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Gは、酸化物超電導積層体2の外周を1周、Cu、Cu合金などの良導電性金属材料からなる安定化材45で覆い、安定化材45の一部を延出させて折返し部からなる上板46として安定化材45の更に外側に1層延在させてなる。安定化材45は、酸化物超電導積層体2の外周を1周覆った折返し金属テープからなり、酸化物超電導積層体2の保護層8上に延在された安定化材45の表面部45Aは半田等の低融点金属の接合層47により保護層8上に接合されている。上板46は安定化材45の表面部45Aを覆うように安定化材45の端縁側から延在され、上板46の先端縁46aは半田などの低融点金属の導電材料からなる接合材48により安定化材45の端縁部45aに接合されている。
安定化材45は、一例として、酸化物超電導積層体2の上面側に一体化された表面部45Aと、酸化物超電導積層体2の一側面を覆う側面部45Bと、酸化物超電導積層体2の裏面側を覆う裏面部45Cと、酸化物超電導積層体2の他側面を覆う側面部45Dと、側面部45Dの上部から延出されて表面部45Aを覆う折返し部からなる上板46の全てを1枚の金属テープの折返し構造から得ることができる。この例の安定化材45において上板46と表面部45Aとが上下に中空部45Eをあけて配置されているので、安定化材45の一部である表面部45Aが下板とされている。
【0042】
第8実施形態の構造において先の実施形態の構造と同等の構成要素には同一の符号を付してそれら要素の説明は省略する。
第8実施形態の構造において酸化物超電導積層体2の外周に安定化材45が被覆されているが、安定化材45については先の第6実施形態の安定化材33と同等の材料から構成することができる。
【0043】
テープ状の酸化物超電導線材1Gを用いて超電導コイルを作製するには、先の実施形態の場合と同様に、酸化物超電導線材1Gを必要層数巻き付けることで超電導コイルを作製できる。酸化物超電導線材1Gを巻き枠の外周に必要な巻き数で巻回した後、巻き付けた酸化物超電導線材1Gを覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて酸化物超電導線材1Gを固定する。このように酸化物超電導コイルは、含浸樹脂により周囲を覆われた状態で冷媒や冷却装置により冷却されるので、常温から低温に冷却される段階で熱膨張係数の大きい含浸樹脂により超電導線材1Gに応力が作用する。
含浸樹脂による応力が作用すると、酸化物超電導線材1Gの厚さ方向に剥離応力が作用するが、この剥離応力に対し、安定化材45の上板46と表面部(下板)45Aが離間する方向に変形できるので、酸化物超電導コイルに作用しようとする上述の剥離応力を吸収できる。このため、酸化物超電導線材1Gに設けられている酸化物超電導層7に作用する応力は抑制されるか解消されるので、酸化物超電導層7の超電導特性が劣化することがない。また、上板46と下板45Aの幅方向一端部を接合材48で閉じているので、中空部45Eへの含浸樹脂の浸入を防止できる効果についても先の実施形態と同様である。
その他の作用効果についても先の実施形態の酸化物超電導線材と同等の作用効果を得ることができる。
【0044】
<第9実施形態>
図9は本発明に係る酸化物超電導線材の第9実施形態の断面構造を示すもので、本実施形態の酸化物超電導線材1Hは、酸化物超電導積層体2の上面側に、良電導材料製のテープ状の上板53Aと下板53Bとからなり、上板53Aと下板53Bの幅方向両端縁部分を半田などの低融点金属からなる接合材52で一体化した偏平の矩形パイプ状の安定化材53を半田などの低融点金属からなる接合層54により一体化してなる。上板53Aと下板53Bの間には中空部53Dが形成されている。また、本実施形態では上板53Aと下板53Bとを接合する接合材52の部分が安定化材53の側壁を兼ねる構成とされている。
第9実施形態の構造において先の第1実施形態の構造と同等の構成要素には同一の符号を付してそれら要素の説明は省略する。
本実施形態において特徴的な点は、酸化物超電導積層体2の両側面側に低融点金属からなる導電層57が形成され、上板53Aと下板53Bが酸化物超電導積層体2よりも若干幅広に形成され、下板53Bの幅方向両端下面側において接合層54と導電層57が接続され、酸化物超電導積層体2の裏面側に半田等の低融点金属からなる接合層58を介して導電材料からなる板状の第2安定化材59が接合された点である。
【0045】
偏平な矩形パイプ状の安定化材53は上板53Aと下板53Bとの間に中空部53Dが形成されているが、安定化材53の内部に形成されている中空部53Dの厚みは特に問わない。中空部53Dの厚みは、例えば、上板53Aと同程度、基材5と同程度でも良く、上板と下板を接触させて中空部53Dを限りなく小さくしても良い。例えば、上板53Aと下板53Bを接触させた状態で接合材52により上板53Aと下板53Bが接合されていても良い。
安定化材53が上板53Aと下板53Bからなる構造である場合、
図9に示す構造のテープ状の酸化物超電導線材1Hを絶縁層で覆った上に巻き枠等に巻き付け、超電導コイルを構成する場合、酸化物超電導線材1Hを固定するためにエポキシ樹脂等を含浸させて酸化物超電導線材1Hを固定する。
【0046】
酸化物超電導線材1Hを巻き枠の外周に必要な巻き数で巻回した後、巻き付けた酸化物超電導線材1Hを覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて酸化物超電導線材1Hを固定する。このように酸化物超電導コイルは、含浸樹脂により周囲を覆われた状態で冷媒や冷却装置により冷却されるので、常温から低温に冷却される段階で熱膨張係数の大きい含浸樹脂により超電導線材1Hに応力が作用する。
含浸樹脂による応力が作用すると、酸化物超電導線材1Hの厚さ方向に剥離応力が作用するが、これらの応力に対し、安定化材53の内部に中空部53Dが形成され、上板53Aと下板53Bを離間させる方向に上板53Aが変形できるので、上述の剥離応力を吸収できる。このため、酸化物超電導線材1Hに設けられている酸化物超電導層7に作用する応力は抑制されるか解消されるので、酸化物超電導層7の超電導特性が劣化することがない。また、上板53Aと下板53Bの幅方向両端部を接合材52で閉じているので、中空部53Dへの含浸樹脂の浸入を防止できる効果についても先の実施形態と同様である。
その他の作用効果についても先の実施形態の酸化物超電導線材と同等の作用効果を得ることができる。
【0047】
本実施形態の構造では、保護層8に対し下板53Bと上板53Aを電気的に接続した上に、接合層54と導電層57と接合層58を介し第2安定化材59も電気的に接続しているので、酸化物超電導層7が超電導状態から常電導状態に転移しようとした場合の電流のバイパスとなる導体の断面積を大きくし、酸化物超電導層7を安定化する上で有利としている。
【実施例】
【0048】
ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ10mのテープ状の基材上に、Al
2O
3の拡散防止層(a−Al
2O
3の厚さ80nm)と、Y
2O
3のベッド層(a−Y
2O
3の厚さ30nm)と、MgOの中間層(IBAD−MgOの厚さ10nm)と、CeO
2のキャップ層(厚さ300nm)とYBa
2Cu
3O
7−xなる組成の酸化物超電導層とAgの保護層(厚さ10μm)を積層した酸化物超電導積層体を用意した。
この酸化物超電導積層体に対し、幅10mm、肉厚100μm、上板と下板の間の中空部の厚み50μmの偏平管型のCuパイプを保護層上方に位置するように厚さ5μmの半田層を介し半田付けして
図2に示す断面形状の酸化物超電導線材を得た。
【0049】
この酸化物超電導線材を外径100mmの巻胴に巻回してコイルを構成した後、液体窒素に浸漬して室温から液体窒素温度(77K)まで冷却し、コイルの臨界電流、n値を測定した。
更に、エポキシ樹脂を含浸させて樹脂含浸型の超電導コイルを作製した。この超電導コイルを液体窒素に浸漬して室温から液体窒素温度(77K)まで冷却し、超電導コイルの臨界電流、n値を測定し、この超電導コイルを液体窒素から取り出して室温に戻す処理を10サイクル行う、熱サイクル試験を行った後、再度液体窒素に浸漬して冷却し、超電導コイルの臨界電流、n値を測定した。
【0050】
次に、先の酸化物超電導積層体に対し、Cuパイプの代わりに、厚さ100μmのCuのテープを厚さ5μmの半田層を介し半田付けして保護層に密着したCuテープからなる安定化材付きの酸化物超電導線材を作製し、この酸化物超電導線材を先の例と同様、外径100mmの巻胴に巻回してコイルを構成した後、液体窒素に浸漬して冷却し、コイルの臨界電流、n値を測定した。更に、このコイルにエポキシ樹脂を含浸して先の例と同様の樹脂含浸型超電導コイルを作製し、同等の条件で臨界電流、n値を測定し、熱サイクル試験後の各測定も同等条件で行った。
それらの結果を以下の表1に併記する。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すn値は、超電導体のIc近傍での電流−電圧特性をV∝I^nと近似した場合のnを示す。この例の場合、縦軸をlogV、横軸をlogIとして電流−電圧特性を計測し、Ic付近の領域での電圧の立ち上がり特性から傾きnを算出した。
表1に示す結果のようにIc値がそれほど変化しなくても、n値が下がることは、超電導特性が劣化したことを意味する。また、Cuテープを用いた試料の熱サイクル後はIcが大幅に低下しているので、熱サイクルの影響は極めて大きいが、Cuパイプを用いた試料のIcとn値はほとんど変化が見られなかった。
この結果から、Cuパイプ状の安定化材を用いることが応力緩和に寄与したと思われる。