【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明者等は、先ず、オリフィスを用いた圧力式流量制御装置FCSを用いて
図1に示す如き試験装置を構成し、圧力式流量制御装置FCSと一次側開閉切換弁(上流側弁)AV間の圧力降下の傾きとから、流量算出を行うビルドダウン方式による流量測定に関する基礎的な各種試験を行った。
【0020】
即ち、
図1に於いて、N
2はガス供給源、RGは圧力調整器、ECVは電磁駆動部、AVは一次側開閉切換弁(上流側弁)、FCSは圧力式流量制御装置、VPは真空ポンプ、BCはビルドダウン容量、Tは温度センサ、Pは圧力式流量制御装置FCS内のコントロール弁の1次側に設けた圧力センサ、P
0は圧力センサ出力、Eは電源部、E
1は圧力式流量制御装置用電源、E
2は演算制御部用電源、E
3は一次側開閉切換弁(上流側弁)用電源、Sは信号発生器、CPは演算制御部、CPaは圧力式流量演算制御部、CPbはビルドダウンモニタ流量演算制御部、PCは演算表示部、NRはデータロガである。
【0021】
前記ビルドダウン容量BCは、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVの出口側と圧力式流量制御装置FCSのコントロール弁(図示省略)の入口側との間の管路空間容積に相当するものであり、配管路の長さや内径等の調整、或いは当該配管路に介設したビルドダウン用チャンバ(図示省略)の内容積の調整により、当該ビルドダウン容量BCの内容積Vは1.78ccと9.91cc、4.6〜11.6cc及び1.58cc〜15.31ccの各容積に切換え調整できるように構成されている。
尚、ビルドダウン用チャンバを用いた場合には、後述の実施例で説明するように、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVの出口とコントロール弁CVの入口間の流路内径を1.8mmとし、且つビルドダウン容量BCの内
容積Vを1.58cc〜15.31ccに選定している。
【0022】
前記演算制御部CP内のビルドダウンモニタ流量演算制御
部CPbでは、後述するようにビルドダウン容量BCに於ける圧力降下率を用いてモニタ流量の演算が行われ、更に、圧力式流量演算制御部CPaでは、従前の圧力式流量制御装置FCSの
流量演算制御部と同様に、オリフィス(図示省略)を流通する流量の演算及びコントロール弁(図示省略)の開閉制御等が行われる。
【0023】
尚、圧力式流量制御装置FCS、一次側開閉切換弁(上流側弁)AV、圧力調整器RG及びその他の機器類は全て公知のものであるため、ここではその説明を省略する。
また、前記一次側開閉切換弁(上流側弁)AVは、開閉を短時間内で行う必要があるため、ピエゾ駆動式メタルダイヤフラム弁や直動型電磁弁が使用されるが、パイロット電磁弁を設けたエアー作動弁であっても良い。
【0024】
ビルドダウン式の流量測定部が圧力式流量制御装置FCSの上流側に配置できるのは、前述の通りオリフィスを用いた圧力式流量制御装置FCSがガス供給圧変動の影響を受け難いからである。また、ビルドダウン方式により、高精度な流量測定が可能なことは公知のことである。
【0025】
即ち、ビルドダウン方式に於いては、内容積V(l)のビルドダウン容量BC内を流通する流量Qは、下記の(1)式により算出することができる。
【数1】
ただし、ここでVはビルドダウン容量BCの内容積(l)、ΔP/Δtはビルドダウン容量Vに於ける圧力降下率、Tはガス温度(℃)である。
【0026】
先ず、
図1の試験装置を用いて、圧力式流量制御装置FCSの上流側圧力を400kPa abs、降下圧力(圧力差ΔP)を50kPa abs以上とすると共に、ビルドダウン容量BCの内容積Vを4.6〜11.6ccとし、ビルドダウン方式による流量測定を行った。
図2は、この時の圧力降下状態を示すものであり、流量そのものは比較的精度よく測定できるものの、圧力回復時間(a)が必要なために測定流量の出力が不連続となり、且つ1サイクルに要する時間が数秒以上となることが判った。
【0027】
即ち、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVを開とし、圧力が規定値以上の圧力になるまでの時間を圧力回復時間(a)とし、また、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVを閉として圧力が規定値以下にまで下降する時間を流量出力可能時間(b)とすると、上記(a)と(b)の割合によって、流量出力ができる時間の割合が決まることになる。また、この流量出力可能時間(b)は、FCSの制御流量、ビルドダウン容量の内容積V、圧力下降範囲ΔPによって決まるため、FCSの制御流量、ビルドダウン容量の内容積V及び圧力下降範囲ΔPをより厳密に検討して、夫々を適宜な値にしなければ、ビルドダウン方式による流量測定をリアルタイム流量モニタに近づけることができないことが判明した。
【0028】
一方、リアルタイム流量モニタであるためには、理想的には連続的な流量出力が必須となるが、現実の半導体製造装置等の運転に於いては、1秒間に少なくとも1回以上の流量出力を得ることが出来れば、ほぼリアルタイムに近い流量モニタが可能となる。
そこで、本願発明者等は、ビルドダウン式による流量測定に於いて、1秒間に少なくとも1回以上の流量出力を得てリアルタイムに近い流量モニタを可能とするために、前記圧力差ΔP及びビルドダウン容量の内容積Vをより小さくしてガス再充填に必要な時間(圧力回復時間(a))を短くすることを着想し、また、当該着想に基づいて、ビルドダウン容量BCの内容積V及び流量測定時の圧力差ΔPの減少によってリアルタイム性の確保が可能か否かを検討すると共に、流量モニタ精度やその再現性等について各種の試験を行った。
【0029】
[試験1]
先ず、
図1の試験装置に於いて、圧力式流量制御装置FCSとして定格流量がF20、F200及びF600(sccm)の三種類のFCSを準備した。
また、ビルドダウン容量BCの内容積Vを約1.78ccと、約9.91ccの二種類に設定した。尚、9.91ccのビルドダウン容量BCは、配管長さ及び配管内径を調整することにより容量の調整を行った。
更に、流量出力の検出可能時間(b)は0.5sec(0.25ms×2000点)を目標とし、且つ試験環境温度は23℃±1℃とした。
【0030】
次に、FCS上流側圧力を370kPa abs.とし、圧力差ΔP=20kPa abs、流量N
2=100sccmに設定(FCS側で設定)し、ビルドダウン流量測定の際の圧力回復特性(圧力回復時間(a))を測定した。
【0031】
図3は圧力回復特性の測定結果を示すものであり、また、
図4はその拡大図である。
更に、
図5は、その時の圧力降下特性を示すものである。
図3は及び
図4からも明らかなように、ビルドダウン容量BCの内容積Vを1.78cc及び圧力下降範囲ΔPを20kPa absと小さくすることにより、N
2流量100sccmに於いても再充填時間(圧力回復時間(a))を大幅に短くすることができ、
図5に示すように、少なくとも1秒以内の間隔で測定流量出力を行えることが確認できた。
【0032】
試験1に関連して、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVの開閉速度が、圧力回復時間(a)を流量出力可能時間(b)に対して小さくする点で大きな影響を持つことが判明した。そのため、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVとしては、ピエゾ駆動式メタルダイヤフラム弁や電磁直付型弁が望ましいことが判明した。
また、圧力下降範囲ΔP及びビルドダウン容量BCの内容積Vの減少による圧力回復時間(a)の短縮化は、圧力降下時間(流量出力可能時間(b))の短縮化を招くことになるため、測定流量とビルドダウン容量BCの内容積Vと圧力降下時間(b)の関係が、特に重要となることが判明した。
【0033】
【表1】
表1は、ビルドダウン容量BCの
内容積Vを1.78ccとした場合の測定流量(sccm)と圧力降下時間(sec)との関係を示すものであり、ビルドダウン容量BCの内容積Vが1.78ccの場合には、50sccm以下の流量でないと1秒間以内に1回以上の流量出力を行うことが困難となり、リアルタイムに相当する流量モニタを行うことが困難となることが判る。
【0034】
一方、流量出力可能時間(b)に於ける圧力降下特性は、直線性を有することが測定誤差の点から必要であり、流量算出が可能な範囲は、圧力降下率が一定(即ち、直線性を有する部分)の範囲に限定されることになる。
【0035】
図6乃至
図8は、試験1に於いて、測定流量が100,50及び10sccmに於ける圧力降下特性の形態を調査した結果を示すものであり、何れの場合に於いても、ビルドダウン直後には圧力降下特性が直線性を喪失したものとなる。尚、この場合のビルドダウン容量BCは1.78ccであり、流体はN
2ガスである。
【0036】
上記
図6乃至
図8に示されているビルドダウン直後に於ける直線性からのずれは、圧力変化に伴うガスの断熱膨張によるガス内部温度変化に起因して生ずるものと想定される。そして、測定流量が小さいほど、この直線性からのずれは大きくなる傾向にあり、これにより流量算出の可能な時間幅が狭められることが判る。
【0037】
次に、圧力降下特性曲線の直線性からのずれによる流量測定誤差を、流量測定可能時間(b)が1秒以内の場合について、0.25秒毎に5点測定することにより計測した。
即ち、ビルドダウン容量BCの内容積Vを1.78cc及び9.91ccとし、圧力下降範囲ΔPを20kPa abs、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVの閉からの流量安定までの時間を1秒として、0.25sec毎に流量を算出し、制御流量に対する算出流量の誤差を検討した。
【0038】
図9及び
図10は、その結果を示すものであり、何れの場合も一次側開閉切換弁(上流側弁)AVの閉鎖より0.25sec以上経過することにより、誤差が大幅に減少することが判った。即ち、圧力降下特性曲線が直線に近づくに従って、誤差が減少することが確認された。
【0039】
尚、表2は、ビルドダウン容量BCの内容積Vと、測定流量と、圧力降下時間(b)の関係を示すものであり、ビルドダウン容量BCの内容積V=1.78ccの場合には、流量20〜50sccmの時に、約1秒以内の間隔で流量出力が行えることになる。
また、ビルドダウン容量BCの内容積V=9.91ccの場合には、流量100〜200sccmの時に約1秒以内の間隔で流量出力が可能であることが判る。
【表2】
【0040】
更に、再現性の確認のため、
図9に対応する測定を繰り返し行った場合の流量精度を調査した。
即ち、一次側開閉切換弁(上流側弁)AVを閉にしてから0.5〜1sec間で流量算出(3点)を行った。尚、降下時間が1sec未満の場合は最終点より0.5secまでのデータを、また、前記表2の50sccm(V=1.79cc)及び200sccm(V=9.91cc)については、0.25秒間のデータ(2点)を用いて流量演算を行っている。
【0041】
図11は、繰り返し測定(10回)を行った場合の流量精度の測定データを示すものであり、圧力降下時間(b)が0.5秒以下の場合には、
図7に示す如く圧力降下特性曲線の非直線領域内で流量演算が行われるため、流量誤差が
図11の如くプラス方向に出現する傾向のあることが判る。
【0042】
尚、ビルトダウン方式による流量Qは、前記(1)式からも明らかなように、Q=K×(ビルドダウン容量×圧力降下率×1/温度)の関係にある。その結果、圧力変化による断熱膨張により温度降下が生じても、圧力降下率が大になって演算流量Qは一定になると想定されるが、現実には演算流量が上昇することになる。その理由は、ガス温度の測定を圧力式流量制御装置FCSのボディ外表面で行っているため、温度計測値が室温に支配され易いうえ、ガス自体の熱容量が小さいにも拘わらず温度センサの熱容量が大であるため、ガス温度が正確に測定されていないからであると想定される。
【0043】
本願発明は、上記各試験の結果を基礎にして創作されたものであり、請求項1の発明は、上流側に設けた入口側切換弁とビルドダウン容量と出口側切換弁と
ビルドダウンモニタ流量演算制御部(CPb)とを備えたビルドダウン式流量モニタ部
(BDM)と,前記ビルドダウン式流量モニタ部の下流側に設けたコントロール弁と圧力センサと
温度センサとオリフィス
又は臨界ノズルと流量設定値調整機構
(QsR)を設けた
圧力式流量演算制御部(CPa)とからる耐圧力変動性を備えた圧力式流量制御部(FCS)と,前記ビルドダウン式流量モニタ部のモニタ流量を前記圧力式流量制御部へ伝送する信号伝送回路
(CT)と,から構成したことを
発明の基本構成とするものである。
【0044】
請求項2の発明は、上流側に設けた入口側切換弁とビルドダウン容量と出口側切換弁とビルドダウンモニタ流量演算制御部(CPb)とを備えたビルドダウン式流量モニタ部(BDM)と,前記ビルドダウン式流量モニタ部の下流側に設けたコントロール弁と圧力センサとオリフィスと流量設定値調整機構(QsR)を設けた圧力式流量演算制御部(CPa)とから成る耐圧力変動性を備えた圧力式流量制御部(FCS)と,前記ビルドダウン式流量モニタ部のモニタ流量を前記圧力式流量制御部へ伝送する信号伝送回路(CT)と,から成る流量モニタ付圧力式流量制御装置において、前記ビルドダウン式流量モニタ部のビルドダウン容量を、内筒と外筒を同心状に配設固定して成るチャンバとし、当該チャンバの内筒と外筒間の間隙をガス流通路とすると共に当該チャンバに圧力センサを設けた構成としたことを発明の基本構成とするものである。
【0045】
請求項3の発明は、請求項1
又は請求項2の発明に於いて、
圧力式流量制御部
FCSを、前記コントロール弁の上流側と下流側に圧力センサを設けた圧力式流量制御部としたものである。
【0046】
請求項
4の発明は、請求項1
又は請求項2の発明に於いて、流量設定値調整機構
QsRを、モニタ流量と設定流量との比較器を備え、モニタ流量と設定流量との差異が設定値を超えると、設定流量をモニタ流量に自動修正する構成の流量設定値調整機構としたものである。
【0047】
請求項
5の発明は、請求項1
又は請求項2の発明に於いて、ビルドダウン式流量モニタ部BDMを、ガス供給源からのガスの流通を開閉する一次側開閉切換弁PV
1と、一次側開閉切換弁PV
1の出口側に接続した所定の内容積Vを有するビルドダウン容量BCと、当該ビルドダウン容量BCを流通するガスの温度を検出する温度センサと、前記ビルドダウン容量BCを流通するガスの圧力を検出する圧力センサP
3と、前記一次側開閉切換弁PV
1の開閉制御を行うと共に、一次側開閉切換弁PV
1の開放によりビルドダウン容量BC内のガス圧力を設定上限圧力値にしたあと、一次側開閉切換弁PV
1の閉鎖により所定時間t秒後にガス圧力を設定下限圧力値まで下降させることにより、ビルドダウン式によりモニタ流量Qを演算して出力するモニタ流量演算制御部CPbとを備え、前記モニタ流量Qを
【数2】
(但し、Tはガス温度(℃)、Vはビルドダウン容量BCの内容積(l)、ΔPは圧力降下範囲(設定上限圧力値−設定下限圧力値)(Torr)、Δtは一次側開閉切換弁AVの閉鎖から開放までの時間(sec)である。)として演算する構成としたものである。
【0048】
請求項
6の発明は、請求項1又は請求項2の発明に於いて、
圧力式流量制御部を、
コントロール弁と圧力計とオリフィス切換弁とその下流側に並列に接続した二つのオリフィスと圧力式流量演算制御部とから成る圧力式流量制御部としたものである。
【0049】
請求項
7の発明は、
請求項5の発明に於いて、ビルドダウン容量BCの内容積Vを0.5〜20ccとすると共に、設定上限圧力値を400~100kPa abs及び設定下限圧力値を350kPa abs〜50kPa absに、また、所定時間tを0.5〜5秒以内とするようにしたものである。
【0050】
請求項
8の発明は、請求項
5の発明に於いて、一次側開閉切換弁をピエゾ駆動式メタルダイヤフラム弁又は電磁直動型電動弁とすると共
に、一次側開閉切換弁の開による設定下限圧力値から設定上限圧力値へのガス圧力の回復時間を、
一次側開閉切換弁の閉による設定上限圧力値から設定下限圧力値までのガス圧力下降時間の1/5よりも短くするようにしたものである。
【0051】
請求項
9の発明は、請求項1
又は請求項2の発明に於いて、圧力式流量制御部の流量演算制御部CPaとビルドダウン式流量モニタ部のビルドダウンモニタ流量演算制御部CPbとを一体に形成する構成としたものである。