(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847184
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】浸漬低インダクタンスRFコイル及びマルチカスプ磁気配列を用いた誘導結合型プラズマフラッドガン
(51)【国際特許分類】
H01J 37/077 20060101AFI20151224BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20151224BHJP
H01J 27/16 20060101ALI20151224BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20151224BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
H01J37/077
H01J37/317 Z
H01J27/16
H05H1/46 L
H01L21/265 603Z
【請求項の数】22
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-532983(P2013-532983)
(86)(22)【出願日】2011年10月7日
(65)【公表番号】特表2013-546122(P2013-546122A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】US2011055425
(87)【国際公開番号】WO2012048256
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年6月13日
(31)【優先権主張番号】12/901,198
(32)【優先日】2010年10月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500239188
【氏名又は名称】ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100134577
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エフ クルンクジ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクター エム バンヴェニスト
(72)【発明者】
【氏名】オリバー ヴィ ナウモヴスキー
【審査官】
桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−521207(JP,A)
【文献】
特表2009−520324(JP,A)
【文献】
特許第4001185(JP,B2)
【文献】
特開平11−329266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/077
H01J 27/16
H01J 37/317
H01L 21/265
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン注入システム用のプラズマフラッドガンであって、
出口開口を有するプラズマチャンバと;
前記プラズマチャンバにガス状物質を供給することのできるガス源と;
前記プラズマチャンバ内に配置されたシングルターンの無線周波数(RF)コイルと;
前記シングルターンのRFコイルに結合された電源であって、無線周波数電力を、前記シングルターンのRFコイルを介して前記プラズマチャンバ内に結合させて、前記ガス状物質を励起してプラズマを発生させるための電源と、
前記出口開口と整列し、かつ前記出口開口の対向する側のそれぞれに配置された一対の磁石とを具え、
前記シングルターンのRFコイルの屈曲部分が、前記プラズマチャンバ外に配置され、
前記一対の磁石の各々が、同じ磁極を有し、
前記出口開口が、前記プラズマの荷電粒子が流れ通ることができるのに十分な幅を有することを特徴とするプラズマフラッドガン。
【請求項2】
前記プラズマチャンバの内面の一部分が、グラファイト及び炭化ケイ素から成るグループから選択した1つ以上の材料を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項3】
前記シングルターンのRFコイルが、当該シングルターンのRFコイルを前記プラズマにさらされることから保護するためのケーシングを有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項4】
前記ケーシングが石英材料を含むことを特徴とする請求項3に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項5】
前記プラズマチャンバの周りに配置された複数の磁石をさらに具えていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項6】
前記複数の磁石が、磁極が交互して並ぶように配置されて、前記プラズマチャンバ内に1つ以上の磁気双極子を生成して、前記プラズマを前記プラズマチャンバ内に閉じ込めることを特徴とする請求項5に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項7】
前記一対の磁石が、異なる強度を有して、前記出口開口の周りに不平衡なカスプ磁界を与えることを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項8】
前記一対の磁石が、等しい強度を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項9】
前記一対の磁石が、等しい強度を有し、かつ前記出口開口から異なる距離に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項10】
前記一対の磁石のうち第1の磁石がN極を有し、前記一対の磁石のうち第2の磁石がN極を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項11】
前記一対の磁石のうち第1の磁石がS極を有し、前記一対の磁石のうち第2の磁石がS極を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマフラッドガン。
【請求項12】
イオン注入システム内のプラズマフラッドガンを提供する方法であって、
1つ以上の出口開口を有するプラズマチャンバを用意するステップであって、このプラズマチャンバの内面全体に、金属または金属化合物が存在しないステップと;
前記プラズマチャンバに、少なくとも1つのガス状物質を供給するステップと;
無線周波数(RF)電力を、前記プラズマチャンバ内に配置されたシングルターンのコイルを介して前記プラズマチャンバ内に結合させて、前記少なくとも1つのガス状物質を励起することによって、プラズマを発生させるステップと;
前記プラズマからの荷電粒子の少なくとも一部を、前記1つ以上の出口開口を通して前記プラズマチャンバから出すステップと
を含み、
一対の磁石が、前記出口開口の対向する側のそれぞれに設けられ、前記一対の磁石の各々が、同じ磁極を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
複数の磁石を用いて、前記プラズマを前記内面から離して維持するステップをさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
多極の形態に配置された複数の磁石を用いて、前記プラズマのプラズマ密度及び均一性を調整するステップをさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記一対の磁石が、異なる強度を有して、前記出口開口の周りに不平衡なカスプ磁界を与えることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記一対の磁石が、等しい強度を有することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記一対の磁石が、等しい強度を有し、かつ前記出口開口から異なる距離に配置されていることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項18】
高エネルギーの電子が、あるラーモア半径で曲がって前記出口開口を出る軌跡から離れるように、前記一対の磁石の、配置、極性、及び強度の少なくとも1つを選択することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記プラズマチャンバの内面の一部分が、グラファイト及び炭化ケイ素から成るグループから選択した1つ以上の材料を含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記シングルターンのコイルが、当該シングルターンのコイルをプラズマにさらされることから保護するためのケーシングを有することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記ケーシングが石英材料を含むことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
イオン注入システム用のプラズマフラッドガンであって、
出口開口を有するプラズマチャンバと;
前記プラズマチャンバにガス状物質を供給することのできるガス源と;
前記プラズマチャンバ内に配置されたシングルターンの無線周波数(RF)コイルと;
前記シングルターンのRFコイルに結合された電源であって、無線周波数電力を、前記シングルターンのRFコイルを介して前記プラズマチャンバ内に結合させて、前記ガス状物質を励起してプラズマを発生させるための電源と、
前記出口開口と整列し、かつ前記出口開口の対向する側のそれぞれに配置された一対の磁石とを具え、
前記シングルターンのRFコイルの屈曲部分が、前記プラズマチャンバ外に配置され、
前記一対の磁石の各々が、同じ磁極を有し、
前記出口開口が、前記プラズマの荷電粒子が流れ通ることができるのに十分な幅を有することを特徴とするプラズマフラッドガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明の実施形態は、半導体構造のイオン注入の分野に関するものである。特に、本発明は、低エネルギープラズマを発生し指向させてイオンビームと接触させるための、浸漬RFコイル及びオフセットしたマルチカスプ開口を有するプラズマフラッドガンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
イオン注入は、不純物イオンを、例えば半導体ウェハーのような基板内にドーピングするために用いるプロセスである。一般に、イオンビームはイオン源チャンバから基板に向けて指向される。異なる供給ガスをイオン源チャンバに供給して、特定のドーパント特性を有するイオンビームを形成するために用いるプラズマを得る。例えば、供給ガスPH
3、BF
3、またはAsH
3から、種々の原子及び分子イオンがイオン源内に生成され、その後に加速されて質量選別される。発生するイオンの基板内への注入の深さは、イオン注入エネルギー及びイオンの質量に基づく。1種類以上のイオン種をターゲット(対象)ウェハーまたは基板に、異なるドーズ量及び異なるエネルギーレベルで注入して、所望のデバイス特性を得る、基板内の的確なドーピング・プロファイルが、適切なデバイス動作にとって非常に重要である。
【0003】
注入プロセス中には、正電荷イオンがターゲット基板に衝突することによって、ウェハー表面の絶縁部分上に正電荷蓄積を生じさせて、正電位をもたらすことができる。エネルギーのあるイオンは、ウェハーからの二次電子放出により、さらなるウェハー帯電に寄与することもできる。結果的な正電位は、一部の微小構造中に強電界を生じさせて、永久的な損傷を生じさせ得る。プラズマフラッドガン(PFG:plasma flood gun)を用いて、こうした電荷蓄積を軽減することができる。特に、PFGは一般に、入射するイオンビームがウェハーまたはターゲット基板に衝突する直前の、このイオンビームに近接したプラテン付近に配置することができる。FPGはプラズマチャンバを具えていることが多く、このプラズマチャンバ内に、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)またはクリプトン(Kr)のような不活性ガスの原子のイオン化によってプラズマが発生する。プラズマからの低エネルギー電子がイオンビーム中に導入され、ターゲットウェハーに向かって引き寄せられて、過度に正帯電したウェハーを中和する。
【0004】
既存のPFGは、多数の欠点を抱えている。1つの重大な欠点は、金属汚染の欠点である。特に、従来の特定のPFGは、高熱のタングステンフィラメントをプラズマ発生に使用する。動作中に、タングステンフィラメントは一般に消耗して、タングステン原子がイオン注入システム並びにプロセスウェハーを汚染し得る。他の一般的な金属汚染源は、プラズマチャンバ自体である。プラズマチャンバの内面は、1つ以上の金属または金属化合物を含むことが多い。この内面を絶えずプラズマ放電にさらすことによって、金属原子をイオン注入システム内に遊離させ得る。プラズマチャンバの内部に配置された金属電極または他の金属構成要素も、同様の汚染を生じさせ得る。
【0005】
この汚染問題は、プラズマチャンバを全面的に誘電材料で構成することによって軽減することはできるが、こうした解決法は、非導電性の内面がプラズマ電位を増加させて、結果的に放出電子のエネルギーに悪影響を与えるので、望ましくないことがある。イオン注入システム内の電荷中和のためには、比較的低い電子エネルギーが一般に好ましい。低エネルギー電子は、イオンビームの正電位内に容易に捕捉されて、このビーム中を正帯電したウェハーに向かって進む。これに比べて、過剰なエネルギーのある電子は、ビームから抜け出すことができ、ウェハーには到達し得ない。また、過剰なエネルギーのある電子は、ウェハーに到達するならば、純然たる負
電荷をウェハー表面上にもたらす。このことは、過剰な負電荷のウェハー表面上への蓄積を生じさせ得る。このように負電荷がウェハー表面上に蓄積し得る度合いは、ウェハーに到達する電子のエネルギーに関係する。
【0006】
PFGを設計するに当たってのさらなる挑戦は、既存のイオン注入システムの大幅な変更を必要とせずに、既存のPFG用に確保された所定空間内に十分収まるほど小型に作製することにある。成熟したイオン注入システムを、新たなPFGを収容するだけのために変更することは、経済的に実現不可能であることが多い。従って、他の点では動作可能なイオン注入機用にPFGを改善することは、現在のシステム内に容易に組み込むことのできるFPG設計を必要とする。従って、上述した不足及び短所を克服するPGGを提供する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明の好適例は、低エネルギー電子を発生し指向させてイオンビームと接触させるための、浸漬RFコイル及びオフセットしたマルチカスプ開口を有するプラズマフラッドガンに指向したものである。好適例では、イオン注入システム用のプラズマフラッドガンが、出口開口を有するプラズマチャンバ、ガス源、シングルターン(1回巻き)の無線周波数(RF:radio frequency)コイル、及び電源を具えている。ガス源は、ガス状物質をプラズマチャンバに供給することができる。シングルターンのRFコイルはプラズマチャンバ内に配置され、電源はこのRFコイルに結合されて、ガス状物質を励起するRFコイルを介して、RF電力をプラズマチャンバ内に誘導結合させて、プラズマを発生させる。プラズマチャンバの出口開口は、プラズマの荷電粒子が流れ通ることができるのに十分な幅を有する。
【0008】
イオン注入システム内のプラズマフラッドガンを提供する好適な方法では、出口開口を有するプラズマチャンバを用意し、プラズマチャンバの内面全体が、金属及び金属化合物を含まない。少なくとも1つのガス状物質をプラズマチャンバに供給し、プラズマチャンバ内に配置され、上記少なくとも1つのガス状物質を励起するシングルターンのコイルを介して、RF電力をチャンバ内に結合させることによって、荷電粒子を有するプラズマが発生する。プラズマからの荷電粒子の少なくとも一部が、1つ以上の上記開口を経由してプラズマチャンバから出る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】開示する本発明の実施形態によるプラズマフラッドガンを内蔵するイオン注入システムを示す図である。
【
図2】開示する本発明の実施形態によるプラズマフラッドガンの透視図である。
【
図3】開示する本発明の実施形態によるプラズマフラッドガンの、
図2の線3−3に沿って切断した断面図である。
【
図4】開示する本発明の実施形態によるプラズマフラッドガンの、
図2の線4−4に沿って切断した断面図である。
【
図5】
図4に開示するプラズマフラッドガンの詳細図であり、本発明の実施形態による磁石の好適な配列を示す。
【
図6】
図4に開示するプラズマフラッドガンの詳細図であり、本発明の実施形態による磁石の配列の代案を示す。
【
図7】開示する本発明の実施形態によるプラズマフラッドガンを提供して使用する方法を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
イオン注入機は、半導体製造において、材料の導電率を選択的に変更するために広く用いられている。代表的なイオン注入機では、イオン源から発生するイオンを、一連のビームライン構成要素を通して指向させ、これらの構成要素は、1つ以上の分析磁石及び複数の電極を含むことができる。ビームライン構成要素は、所望のイオン種を選択し、汚染種、及び不所望なエネルギーを有するイオンを選別除去して、ターゲットウェハーにおけるイオンビーム品質を調整する。適切に整形した電極が、イオンビームのエネルギー及び形状を修正することができる。
【0011】
図1に、好適な高電流イオン注入ツール100を概略的に示し、これは、イオン源チャンバ102、及びイオンビームをウェハーまたは基板に指向させる一連のビームライン構成要素を含む。これらの構成要素は、真空環境内に収容され、所望の注入プロファイルに基づく高エネルギー注入または低エネルギー注入でのイオンドーズ量レベルを与えるように構成されている。特に、注入機100は、所望種のイオンを発生させるためのイオン源チャンバ102を含む。このチャンバは、電源101によって給電される関連するホットカソード(熱陰極)を有して、チャンバ102内に導入される供給ガスをイオン化して、荷電イオン及び電子(プラズマ)を形成する。この熱陰極は、例えば、加熱したフィラメント、あるいは誘導加熱したカソードとすることができる。
【0012】
異なる供給ガスをソースチャンバに供給して、特定のドーパント特性を有するイオンを発生させる。これらのイオンは、標準的な三抽出電極構成(3つの抽出電極から成る構成)を介してソースチャンバ102から抽出することができ、この三抽出電極構成は、ソースチャンバ102から抽出したイオンビーム95をフォーカスさせるための所望電界を生成するために使用される。ビーム95は、磁石(マグネット)を有する質量分析チャンバ106を通過し、この磁石は、所望の電荷対質量比を有するイオンのみを分解開口に通すように機能する。特に、この分析磁石は曲線経路を含むことができ、ビーム95は、この経路上に加わる磁界にさらされ、この磁界は、不所望な電荷対質量比を有するイオンを、ビーム経路外に偏向させる。減速段108(減速レンズとも称する)は、所定の開口を有する複数(例えば3つ)の電極を含むことができ、イオンビーム95を出力するように構成されている。磁石分析器110は、減速段108の下流に配置され、イオンビーム95を偏向させて、平行な軌跡を有するリボンビームにするように構成されている。磁界を用いて、磁気コイルによるイオンの偏向を調整することができる。
【0013】
イオンビーム95は、支持体またはプラテン114に取り付けられたワークピース(加工片)をターゲット(標的)として向けられる。マグネットチャンバ110と支持体114との間に配置された、追加的な減速段112を利用することもできる。減速段112(減速レンズとも称する)は、プラテン114上のターゲット基板に近接して配置され、イオンを所望のエネルギーレベルでターゲット基板に注入するための複数(例えば3つ)の電極を含む。イオンは、基板中の電子及び原子核に衝突する際にエネルギーを失うので、基板内で、加速エネルギーに基づく所望の深さで停止する。イオンビームは、ビーム走査によって、プラテン114を用いた基板の移動によって、あるいは、ビーム走査と基板移動との組合せによって、ターゲット基板全体上に分布させることができる。プラズマフラッドガン(PFG)116をプラテン114のすぐ上流に配置して、イオンビームが基板に当たる直前に、ビームにプラズマを加えることができる。
【0014】
図2〜4を参照し、これらの図は好適なPFG116を示し、PFGは一般に、ほぼ無金属の内面を有する。無線周波数(RF)コイル120をプラズマチャンバ118内に配置して、このチャンバ内に封入されたガスを励起し、これにより所望のプラズマを生成して維持することができる。RFコイルは金属であるので、コイル120をケーシング122内に封入し、ケーシング122は、コイルをチャンバ内のプラズマにさらされることから保護し、こうして、コイルの劣化を防止して、金属イオンによるプラズマの汚染を制限する。プラズマチャンバ118は、一方の側に細長い開口124を有することができ、この開口を通って、プラズマがチャンバから流出して、イオンビーム95のイオンと相互作用することができる。一連の永久磁石126をプラズマチャンバ118の周りに配置して、チャンバ内に生成されたプラズマを封じ込めて制御する。特に、永久磁石をプラズマチャンバ118の壁面外に配置して、それぞれの磁石の磁界が、チャンバの壁面を通って広がる。以下でより詳細に説明するように、これらの磁石の特性を制御して、プラズマが開口124を通って出る際に、プラズマの所望特性を得ることができる。PFG116は、RFコイルに供給される電力の働きを制御するための適切な制御システム128も含む。
【0015】
プラズマチャンバ118の内部、例えば側壁130は、グラファイト(黒鉛)または炭化ケイ素(SiC)のような非金属の導電材料製とすることができる。その代わりに、内面の内側部分が、非金属導電材料(例えばグラファイトまたはSiC)のコーティングを有することができる。このコーティングは、金属面にも非金属面にも、その全体にわたって塗布することができる。その代わりに、プラズマチャンバ118の内面は、露出したアルミニウム(Al)またはアルミニウム含有材料(例えば酸化アルミニウムまたはAl
2O
3)で構成することができる。その代わりに、内面の一部分は非金属導電材料でコーティングしつつ、他の部分は露出したアルミニウムで構成することができる。
【0016】
コイル120及び/または側壁130は、水または他の冷媒で冷却することができる。例えば、コイル120及び側壁130を中空にして、中空内の冷媒の循環を可能にする。貫通ガス管(図示せず)をプラズマチャンバ118の側壁内に設け、この貫通ガス管を通して1つ以上のガス状物質をプラズマチャンバに供給することができる。これらのガス状物質は、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)またはクリプトン(Kr)を含むことができる。そのガス圧は一般に、1〜50mTorr(0.1333〜6.666Pa)の範囲内に維持する。
【0017】
図に示すように、コイル120は、プラズマチャンバ118の概ね中心を通って延びる細長い形状を有する。コイル120の一端はRF電源に接続することができ、RF電源は、制御システム128の一部分として設けられ、RF電力をプラズマチャンバ118内に誘導結合することができる。このRF電力は、例えば2MHz、13.56MHz及び27.12MHzのような、工業、科学、及び医療(ISM:industrial, science and medical)機器に割り当てられた一般的周波数で機能することができる。
【0018】
図に示すように、コイル120はシングルターン(1回巻き)で構成され、石英管122によって周囲のプラズマから隔離されている。コイル120は、プラズマチャンバ118内に完全に密封するか、あるいは、プラズマチャンバの壁面に接続されるか壁面を通って延びる部分を有することができる。
図2及び3は、制御システム128の反対側の方のコイル端部が、プラズマチャンバ壁を通って延びる構成を示す。こうした構成は、コイル120用の強化された支持体を提供すると共に、石英管の包囲を維持することに関連した問題を生じさせずに、コイルが屈曲することを可能にする。
【0019】
コイル120をシングルターン形状で提供することにより、システムが低インダクタンスかつ低インピーダンスで動作することができ、これにより、より大きい電流が、より低い駆動電圧で、コイルを通って流れることができる。より低い駆動電圧は、プラズマ電極の容量性加熱を低減し、これにより、低い電子温度のプラズマが生成される。より大きいコイル電流は、所定の入力電力に対して、より強い誘導結合及びより高いプラズマ密度も提供する。例えば、シングルターン形状のコイル120を用いれば、2マイクロヘンリー未満のインダクタンスを、1000ボルトピーク未満のコイル電圧、及び3エレクトロンボルト(eV)未満のプラズマ電子温度で用いることができる。これに加えて、開示する浸漬コイルの設計は、コイルがプラズマチャンバの一方の側にしか存在しない従来設計とは対照的に、全方向のエネルギーをプラズマ内に結合するので、より高効率の誘導結合を提供する。開示する設計の効率は、リボンビーム95の全長にわたる出力を可能にし、従来設計に比べて、より均一な電荷中和を提供し、これにより、ビーム全体及びウェハーの均一性を増大させる。
【0020】
図3Bに、開示するPFG116の一部分として使用される好適なコイル120を示す。上述のように、コイル120は、単一ターンで曲げ半径Rを持つ細長い形状を有することができ、曲げ半径Rは1/2〜2インチの範囲内にすることができる。コイル120の全長は、8〜24インチの範囲内にすることができる。
図3Cに、コイルが中空である実施形態における、コイル120の線B−Bに沿って切断した断面を示す。コイル120は、1/4〜1/2インチの範囲内の外径”OD”、及び1/16〜3/8インチの範囲内の内径を有することができる。コイル120は、アルミニウムまたは銅製とすることができ、ケーシング122は、石英、セラミック、または類似の材料製とすることができる。
【0021】
コイル120を介してプラズマチャンバ118内に結合されるRF電力は、その内部の不活性ガスを励起して、プラズマを発生させることができる。プラズマチャンバ118内部のプラズマの形状及び位置は、少なくとも部分的に、コイル120の形状及び位置に影響される。一部の実施形態によれば、コイル120は、プラズマチャンバ118のほぼ全長にわたって延びることができる。無金属の内面により、プラズマチャンバ118は、金属汚染物を何ら導入することなしに、絶えずプラズマにさらすことができる。
【0022】
イオン注入システムでは、PFG116は一般に、イオンビーム95(
図1)に近接して配置され、かつプラテン114上に配置されたターゲット基板にイオンビーム95が到達する直前に配置される。プラズマチャンバ118の側壁内に出口開口144が配置されて、発生したプラズマが流出しイオンビーム95と接触することを可能にする。図示する実施形態では、単一の出口開口124を示す。しかし、複数の離散したより小さい出口開口を、イオンビーム95の全幅にわたるアレイの形に設けることができることは明らかである。リボン形イオンビームについては、出口開口124が、リボンの幅をほぼカバーすることができる。走査イオンビームの場合は、出口開口124が走査幅をカバーすることができる。本発明の一実施形態によれば、出口開口124が4〜18インチの幅をカバーすることができる。通常の当業者に明らかであるように、種々の幅のいずれも実現可能である。
【0023】
プラズマからの荷電粒子(即ち、電子及びイオン)が出口開口124を通過できるようにするために、出口開口124の幅”W”は一般に、
プラズマのシース幅の2倍より大きくする。一実施形態によれば、プラズマが、プラズマチャンバ118のすぐ外を通過するイオンビームとのプラズマブリッジを形成することが望ましい。従って、出口開口124の幅”W”をシース幅の2倍より大きくして、この開口がプラズマブリッジを収容するのに十分広いことが望ましい。本発明の実施形態によれば、PFG116の単純な設計によって、PFG116が、旧型のPFG用に確保された所定空間内に収まるように適応可能になる。従って、機能向上のために既存のPFG筐体を変更する必要性をなくすことができる。
【0024】
PFG116は、イオンビーム95に直面(即ち直交)する出口開口124を有するものとして説明してきたが、他の配向も考えられる。従って、一実施形態では、PFG116または出口開口124を傾斜させて、プラズマブリッジがイオンビーム95と角度をなして結び付くようにすることができる。例えば、出口開口124から出て来る電子(またはプラズマブリッジ)が概ねウェハーの向きに指向されて、45度の角度でイオンビーム95と結び付くように、PFG
116を適応させることができる、他の角度も考えられる。
【0025】
前述したように、プラズマチャンバ118は、チャンバ内に生成されたプラズマを包含して制御するように配置された一連の磁石(永久磁石でも電磁石でもよい)を含むことができる。これらの磁石の特性も、プラズマがチャンバ118から開口124を通って出る際にプラズマの特性を制御するように整えることができる。本発明の他の実施形態によれば、磁石126のフレキシブル(自由自在)な配置を、出口開口124に隣接して設けてプラズマチャンバ内へのプラズマの有効な閉じ込めを実現することができる。
【0026】
図4に、PFG116の断面図を示し、ここでは磁石126(例えば永久磁石または電磁石コイル)が、チャンバ118の周りに配置されている。一実施形態では、磁石126がチャンバの長さ方向に平行に整列されて、隣接する磁石の極どうしは、N極とS極とが交互して成る。この構成は、プラズマをプラズマチャンバ内に閉じ込める働きをする。磁石126の強度は、相当量(例えば、少なくとも50ガウス)の磁界がチャンバ壁の内面に沿って存在するようにする。
【0027】
図5に、プラズマチャンバ118の出口開口124における不平衡なカスプ磁界の使用を例示する。一般に、プラズマチャンバ周囲のマルチカスプ磁石の配置は、プラズマをプラズマチャンバの壁面から離して閉じ込めることによって、プラズマ密度を増強する。この配置は、電子/中性子の非弾性衝突の比率を増加させることによって、電子温度を低減する手助けもする。大量のプラズマを出口開口に向けて集中させつつ、このプラズマをプラズマチャンバの壁面から離して閉じ込めることが望ましい。従って、図に示すように、磁石をプラズマチャンバ周囲の大部分に、前述したN極−S極が交互する形態に配置して、反発性の双極子(ダイポール)磁場(即ち、プラズマをチャンバの表面からはね返す)を生成する。しかし、出口開口124は、プラズマを出口開口124に向けて指向させるカスプ磁界を生成すべく配置されたN極−N極間に位置する。
【0028】
開口を出る電子のエネルギーを調整する能力を維持するために、わずかにオフセットしたカスプ磁界を用意し、ここでは磁石N’の強度が磁石Nの強度より弱い。このようにして、(開口を出る電子の向きに直交する)双極子成分も存在し、この成分は、出口開口124の領域で、(開口を出る電子の向きに平行に配向された)カスプ成分に重畳される。これらの双極子成分は、より高エネルギーの電子用のエネルギーフィルタとして作用する、というのは、最低エネルギーの電子は磁界全体にわたって衝突するように拡散するのに対し、より高エネルギーの電子は、特定のラーモア半径で曲がって開口を出る軌跡から離れるからである。等しい極性及び等しい強度の磁石を使用し、これらの磁石を出口開口から異なる距離に配置することによって、不平衡なカスプ磁界を出口開口124の所に生成させることも可能である。
【0029】
さらに、ずっと小さいN−S双極子を、出口開口を横切るように用いて、一部のプラズマが出口開口付近に集中すると同時に、双極子のフィルタリング(選別)を行うこともできる。出口開口を横切るより弱いN−S双極子磁場の大きさは、プラズマを壁面から離して閉じ込めるために使用する双極子磁場よりずっと小さくすべきである。これにより、十分な量のプラズマが出口開口に到達することができる。
【0030】
図6Aに、出口開口124に隣接した領域内に対称なカスプ磁界を有する(即ち、等しい強度の磁石N−Nを用いる)構成を示す。この構成は、全ての電子を、そのエネルギーにかかわらず、出口開口を通るように指向させる。その代わりに、
図6Bに、等しい極性及び等しい強度の磁石を用いるが、これらの磁石間の中心から出口開口124をずらすことによって、不平衡なカスプ磁界を出口開口124の所に形成する実施形態を示す。この縦線が、縦に配向したカスプ磁界が最大となり、水平に向いた双極子磁場が最小となる位置を示す。
【0031】
明らかなように、磁石126を自由自在に配置及び再配置して、プラズマチャンバ118の内部に所望の磁界を生成して、プラズマチャンバ118内にプラズマを閉じ込めることができる。磁界の強度及び形状を変更することによって、プラズマの均一性及び密度を調整することができる。その結果、プラズマチャンバの側壁に至る電子損失を低減することができる。適切なプラズマ閉じ込めによって、プラズマ電位及びシース幅を低減し、これにより電子出力を増強することもできる。
図6Cに、一対の磁石が出口開口124と整列し、かつ出口開口124の対向する側のそれぞれに配置されている実施形態を例示する。これら一対の磁石の各々は、異なる極配置を有し、出口開口124は、磁石間の中心からずれている。双極子磁場は、出口開口124の対向する側のそれぞれにある磁石間に並べた線によって示す。
【0032】
図7は、本発明の実施形態による、PFG116を用意して動作させる好適な方法を例示するフローチャートである。ステップ702では、シングルターンのRFコイル120を内部に配置したプラズマチャンバ118を用意することができる。プラズマチャンバの内壁を、グラファイトまたは他の非金属導電材料でコーティングして、汚染を防止することができる。RFコイル120を保護材料中に包み込んで、このコイルをプラズマにさらされることから保護することができる。ステップ704では、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)またはクリプトン(Kr)ガスを、10〜20mTorr(1.333〜2.666Pa)の低圧でプラズマチャンバに供給することができる。キセノンは、不活性ガスのうちで比較的低いイオン化ポテンシャル、及び重い質量により、PFG目的用に好適なガスであり得る。ステップ706では、RF電力を、浸漬コイル120を介してプラズマチャンバ内に結合させることができる。
【0033】
ステップ708では、RF電力を調整して、キセノンプラズマに点火して、プラズマを持続させることができる。ガス原子を崩壊させるためには、比較的高いガス圧及び/または高いRF電力設定で始動させることが望ましい。一旦、プラズマが点火されると、プラズマは、より低いガス圧及び/またはRF電力設定で持続させることができる。ステップ710では、プラズマを磁気で閉じ込めて、プラズマからの電子を、プラズマチャンバ118の周りの離散した位置に配置した磁石(永久磁石または電磁石)でフィルタリングする。これらの磁石は、多極の形態に配置して、プラズマの密度及び均一性を改善し、従って電子発生を増強させることができる。これらの磁石は、出口開口の周りに、N極−N極の並びに配置して、プラズマを出口開口124に向けて指向させるカスプ磁界を生成することができる。
【0034】
ステップ712では、プラズマから発生する電子を、プラズマチャンバ内の(1つまたは複数の)出口開口を通して、イオンビームが基板に当たる直前に、イオンビームに供給することができる。このイオンビームは、プラズマの低エネルギー電子をドリフトさせるためのキャリア(搬送手段)として働くことができる。基板がわずかに正電位に帯電し次第、これらの電子が基板に向けて引き寄せられて、過剰な正電荷を中和する。
【0035】
本明細書に説明する方法は、例えば、命令のプログラムを、これらの命令を実行することのできるマシンが読み取ることのできるコンピュータ可読の記憶媒体上に明確に具体化することによって、自動化することができる。汎用コンピュータが、こうしたマシンの一例である。現在技術において周知である適切な記憶媒体の好適なリストは、これらに限定されないが、読取り可能または書込み可能なCD、フラッシュメモリチップ(例えば、サムドライブ(登録商標))、種々の磁気記憶媒体、等を含む。
【0036】
本発明は、特定の実施形態を参照して開示してきたが、特許請求の範囲に規定する本発明の範囲を逸脱することなしに、説明した実施形態に対する種々の変形、代案、及び変更が可能である。従って、本発明は、説明した実施形態に限定されず、以下の特許請求の範囲の文言、及びその等価物によって規定される範囲全体を有することを意図している。