【実施例】
【0065】
以下の実施例は、本開示のある特定の代表的実施形態および態様を実証およびさらに例示するために提供され、本開示の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
材料および方法
アルファ−4インテグリン阻害剤
【0066】
例示的アルファ−4インテグリン阻害剤(化合物A〜D)を、
図1に示す。
化合物Aの血漿濃度の定量
【0067】
LC/MS/MS法を使用して、化合物Aを測定した。内標準物質の添加後、タンパク質沈殿(0.1%ギ酸を含むアセトニトリル)を使用して血漿試料(抗凝固剤:リチウムヘパリン)を抽出した。濾過上澄みを乾燥するまで蒸発させ、戻した後、抽出物をLC−API/MS/MSにより分析した。化合物AのMRM(多重反応モニタリング)遷移およびISは、それぞれ、m/z 257/114および270/91であった。定量の下限は、20ng/mLであった。
血中リンパ球数
【0068】
リンパ球は、Cell−Dyn 3700血液分析器(Abbott Diagnostics)により、抗凝固剤EDTAを含有する管内に採取された全血試料から定量した。
アルファ−4インテグリン発現の検出/定量
【0069】
抗凝固剤リチウムヘパリンを含有する管内に全血を採取した。試料をAlexaFluor647標識化抗マウスCD49d(アルファ−4インテグリン)抗体(Biolegend、San Diego、CA)で30分間染色した。赤血球細胞を溶解させ(FACS溶解液、BD Biosciences、San Jose、CA)、5%ウシ胎仔血清を含有するPBS中で試料を2回洗浄した。BD FACScanフローサイトメーターを使用して、幾何平均蛍光強度のシフトに関して染色された細胞を分析した。
実施例1−sVCAMは、様々なラット疾患モデルにおいて、アルファ−4インテグリン阻害中に下方制御される(小分子阻害剤により)
【0070】
アルファ−4インテグリン阻害は、ラットにおける3つの炎症性疾患モデルにおいて、sVCAMの下方制御をもたらした。化合物AおよびCは、アルファ−4インテグリンのペグ化小分子阻害剤である。化合物Bは、アルファ−4インテグリンの非ペグ化小分子阻害剤である。全ての血清試料は、ラット血清中のsVCAMの量を測定するために、Rules Based Medicine, Inc(Austin、TX)により、Luminex機器(Luminex Corporation、Austin、TX)での多重化ビーズベース免疫測定法であるRodentMAP分析法により分析された。統計は、一元配置ANOVAで行った。
【0071】
結果を
図2に示す。
図2Aに示されるように、Lewisラットに、完全フロイントアジュバント中のモルモットの脊髄および脳白質ホモジネートを皮内注射し、シクロスポリンA(2mg/kg 、一日おき)で20日間皮下処置して、慢性実験的自己免疫性脳脊髄炎を惹起した。惹起後30日目に、ラットをビヒクル(リン酸緩衝生理食塩水、PBS)または10mg/kgの化合物Cで3日毎に処置した。惹起後40日目に、血清試料を採取し、sVCAM含量について分析した。
【0072】
図2Bに示されるように、Sprague−Dawleyラットに、大腸炎を惹起するために2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を、または対照としてエタノールのみを直腸内注入した。TNBS注入後1日目および4日目に、ラットに10mg/kgの化合物Cを皮下投与した。5日目に、血清試料を採取し、sVCAM含量について分析した。
【0073】
図2Cおよび2Dに示されるように、ヒトHLA.B27導入遺伝子を有するラットは、加齢と共に炎症性腸疾患の症状を自発的に発症した。HLA.B27形質転換ラットを、16〜20週齢で、化合物C(10mg/kg、3日毎)、化合物A(10mg/kg、5日毎)、化合物B(100mg/kg、1日2回)、またはビヒクル(PBS)で皮下処置した。処置から20日後(
図2C)または5日後(
図2D)に血清を採取し、sVCAMレベルを評価した。試験した各炎症性疾患モデルにおけるアルファ−4インテグリン阻害は、sVCAMの血清レベルにおける統計的に有意な低下をもたらした(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
実施例2−アルファ−4インテグリン阻害は、正常ラットにおけるsVCAMの低減をもたらす(小分子阻害剤により)
【0074】
疾患を有さない場合にアルファ−4インテグリン阻害がsVCAMレベルを調節するかどうかを試験するために、正常(すなわち、非疾患)ラットに、アルファ−4阻害剤を注射し、sVCAMレベルを測定した。Sprague Dawleyラットに、単回10mg/kg用量の化合物A(
図3A)、単回10mg/kg用量の化合物C(
図3B)、または100mg/kg用量の化合物Bを1日2回4日間(
図3C)皮下注射した。
図3Aおよび3Bに示されるように、注射から2日後および11日後に血清試料を採取した。
図3Cに示されるように、最後の注射から2時間後、12時間後、および11日後に血清試料を採取した。全ての血清試料は、Luminex機器における多重ビーズベースRodentMAP免疫測定法により分析し、ラット血清中のsVCAMの量を測定した。統計は、一元配置ANOVAで行った。3つのアルファ−4インテグリン阻害剤は全て、正常ラットにおけるsVCAMを下方制御した(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
実施例3−アルファ−4インテグリン阻害は、正常マウスにおけるsVCAMを特異的に低減する(小分子阻害剤により)
【0075】
アルファ−4インテグリン阻害が、アルファ−4インテグリンリガンドではない接着分子の可溶性形態(すなわち、ICAM−1)ではなく、そのリガンドの可溶性形態(すなわち、sVCAM)の特異的な下方制御をもたらすかどうかを決定するために、アルファ−4インテグリン阻害剤による処置後の両方の接着分子の調節について、正常マウスを試験した。Balb/cマウスに、化合物A(1mg/kgもしくは10mg/kg)またはビヒクル(PBS)を単回皮下注射した。投与から8時間後、2日後、4日後、および8日後に、血漿試料を採取した。市販のキット(R&D Systems、Minneapolis、MN)を使用して、可溶性VCAM−1および可溶性ICAM−1についてELISAにより血漿試料を分析した(n=4マウス/群/時点)。
図4に示されるように、アルファ−4インテグリン阻害の効果は、アルファ−4インテグリンのリガンドではない接着分子の可溶性形態(sICAM)ではなく、そのリガンドの可溶性形態(sVCAM)に特異的であるようであった。
実施例4−アルファ−4インテグリン阻害剤のsVCAM下方制御に対する効果は用量依存性であり、アルファ−4インテグリン阻害の他のマーカーと相関する
【0076】
アルファ−4インテグリン阻害は、循環リンパ球の数の増加および循環白血球の表面上のアルファ−4インテグリンの下方制御の両方をもたらす。アルファ−4インテグリン阻害剤の後のsVCAMレベルとアルファ−4インテグリン発現および血中リンパ球数との相関、ならびに各パラメータの用量依存性を試験した。
図5A〜Cに示されるように、Balb/cマウスに、0.1、1もしくは10mg/kgの化合物Aまたはビヒクル(PBS)を皮下投与した。投与から2日後、動物を安楽死させ、sVCAMレベル、白血球の表面上のアルファ−4インテグリン発現、および血中リンパ球の数を分析するために、血液を採取した。ELISA(R&D Systems、Minneapolis、MN)を使用して、sVCAMについて血漿試料を分析した(
図5A)。同じ動物から、全血の一定量をAlexaFluor647標識化抗マウスCD49d(アルファ−4インテグリン)抗体(Biolegend、San Diego、CA)で染色し、赤血球細胞を溶解させ(FACS溶解液、BD Biosciences、San Jose、CA)、BD FACScanフローサイトメーターを使用して平均蛍光強度のシフトについて分析した(
図5B)。同じ動物から、Cell Dyn血液分析器(Abbott Diagnostics、Illinois)を使用して、リンパ球の数について全血試料を分析した(
図5C)。一元配置ANOVAを使用して、統計的有意性を決定した。
図5D〜Fに示されるように、C57BL/6マウスに、0.5、1、もしくは3mg/kgの化合物Cまたはビヒクルを皮下投与した。投与から4時間後、ならびに1、2、3、4、7、10、14、および21日後に、血液を採取した。血漿可溶性VCAMレベル(
図5D)および血液白血球上のアルファ−4インテグリン発現(
図5E)を、上述のように分析した。投与後2日目にサンプリングされたビヒクル(PBS)処置動物におけるレベルはそれぞれ、点線で示されている。
図5Fは、1日目〜21日目の時点からの動物毎ベースのsVCAMとアルファ−4インテグリン発現との間の相関を示す(n=4マウス/群/時点)。アルファ−4インテグリン阻害剤によるsVCAM下方制御は用量依存性であり、白血球の表面上のアルファ−4インテグリン発現および血中白血球数の両方によく相関することが証明された(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
実施例5−可溶性VCAMはまた、アルファ−4インテグリンの抗体阻害剤を使用しても低減される
【0077】
sVCAMレベルに対するアルファ−4インテグリン阻害の効果が、アルファ−4インテグリンの小分子阻害剤に固有ではないことを実証するために、sVCAMレベルを調節する能力についてアルファ−4インテグリンの抗体阻害剤を試験した。
図6Aに示されるように、Balb/cマウスに、単回10mg/kg腹腔内用量のラット抗マウスアルファ−4インテグリン抗体(クローンPS/2)またはラットIgG2bイソタイプ対照抗体を与えた。投与前(ナイーブ)、ならびに投与後2日目、4日目、および7日目に血液をサンプリングし、可溶性VCAMについてELISAにより分析した。10mg/kg用量のPS/2(ただしイソタイプ対照ではない)は、血漿中のsVCAMの持続的な下方制御を誘発した。
図6Bに示されるように、アルファ−4インテグリンの抗体阻害剤によるsVCAM下方制御の用量および時間依存性を評価するために、追跡試験を行った。C57BL/6マウスを、0.5、1、3、もしくは10mg/kg用量のPS/2または10mg/kg用量のラットIgG2bイソタイプ対照抗体で腹腔内処置した。投与から4時間後、ならびに1、2、4、7、10、14、および21日後に血漿試料を採取し、sVCAMレベルについて分析した。
図6に示されるデータは、sVCAM下方制御が、PS/2の用量に依存性であること、およびsVCAMレベルが経時的に回復することを示している。点線は、イソタイプ対照抗体で処置されたマウスにおける2日目のsVCAMの個々のレベルを示す(n=4マウス/群/時点)。
実施例6−sVCAMレベルは、アルファ−4インテグリンの非ペグ化小分子阻害剤により下方制御される。sVCAMレベルは、PEG単体には影響されない
【0078】
sVCAMレベルに対するアルファ−4インテグリン阻害の影響がペグ化小分子阻害剤に限定されず、またPEG自体によって誘発されないことを実証するために、正常マウスに、化合物D(非ペグ化アルファ−4インテグリン阻害剤)、および化合物Aの足場となるPEG骨格を投与した。Balb/cマウスに、単回皮下用量のビヒクル(PBS)、単回皮下用量の化合物A(10mg/kg)、単回皮下用量の化合物Aの足場となるPEG骨格(10mg/kg)、または5回皮下用量の化合物D(50mg/kg)を12時間毎に与えた。化合物AおよびPEGの注射から2日後、ならびに最後の化合物Dの注射から4時間後に、血液をサンプリングした。ELISA(R&D Systems)によりsVCAMを測定し(
図7A)、Cell−Dyn血液分析器(Abbott Diagnostics)を使用して血中リンパ球を定量した(
図7B)。一元配置ANOVAを使用して統計を行うと、ビヒクルで処理した動物と比較した統計的に有意な差が示される。化合物Aおよび化合物Dは、血中リンパ球の増加を誘発し、血漿中のsVCAMを下方制御することができた(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)が、PEGはできなかった。
実施例7−可溶性VCAMレベルに対するアルファ−4インテグリン阻害の効果は用量依存性であり、アルファ−4インテグリン阻害剤の血漿レベルが減退するにつれて消失する。
【0079】
アルファ−4インテグリン阻害剤によるsVCAMの調節が循環薬物レベルに関連するかどうか、およびsVCAMに対する効果が可逆的であるかどうかを決定するために、正常マウスへの投与後3週間にわたりこれらのパラメータを測定した。C57BL/6マウスに、単回0.5、1、もしくは3mg/kg用量の化合物Aまたはビヒクル(PBS)を皮下投与した。投与から4時間後、ならびに1、2、3、4、10、14、および21日後に血液をサンプリングし、血漿中のsVCAMレベルについてELISAにより分析し(点線は、2日目におけるビヒクル対照レベルを示す)(
図8A)、血漿中の化合物AレベルについてLC/MS/MS法を使用して分析した(
図8B)。この方法を使用した化合物Aの検出の限界は、10ng/mlである。1日目〜21日目からのsVCAMおよび化合物Aレベルをマウス毎ベースでプロットし、相関を示した(
図8C)。化合物Aが検出不可能であった試料においては、10ng/mlの値を割り当てた(n=4マウス/群/時点)。sVCAMレベルは、循環薬物レベルによく相関し、血漿中において薬物レベルが検出不可能となるとベースラインに戻った(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
実施例8−大腸炎のマウスモデルにおいてアルファ−4インテグリンが阻害されると、sMAdCAMは下方制御される
【0080】
化合物Cは、アルファ−4ベータ−1インテグリンおよびアルファ−4ベータ−7インテグリンの両方のペグ化小分子阻害剤である。PS/2は、抗体を阻止するラット抗マウスアルファ−4インテグリンである。これらのアルファ−4インテグリン阻害剤を両方とも、誘導された形態の大腸炎に罹患したマウスに投与した。血清試料を、sMAdCAMレベルについてELISA(R&D Systems、Minneapolis、MN)により試験した。大腸炎の第1のマウスモデルにおいて、CD4+細胞の電磁ビーズ活性化細胞選別(未使用CD4+細胞単離キット、Miltenyi Biotec)に続くCD45RBhi細胞の蛍光活性化細胞選別により、CD45RBhi CD4+細胞をBalb/c脾臓から単離した。CD4+ CD45RBhi細胞を、SCIDマウスに腹腔内投与した。大腸炎の症状は、細胞移入後1週間で現れ始めた。移入から8週間後、動物をビヒクル(PBS)または化合物C(10mg/kg)で3日毎に15日間処置した。この時に、動物を致死させ、血清試料をsMAdCAMについて分析した。結果を
図9Aに示す。示される統計は、CD45RBhi移入+ビヒクル群と比較したものである。細胞の移入は、循環sMAdCAMの量を有意に増加させた。
図9Aに示されるデータは、化合物Cによる処置が、sMAdCAMレベルを統計的に有意に低減することを示している。
【0081】
第2のマウスモデルでは、飲用水中4%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を7日間、続いて水道水を7日間投与することにより、Balb/cマウスにおいて慢性大腸炎を誘導した。このサイクルを4回繰り返した。マウスは、各DSSサイクル中に大腸炎の症状を示した。56日目に、マウスは慢性疾患状態に移行し、3日毎15日間のビヒクル(PBS)または化合物C(10mg/kg)による処置を開始した。この時に、動物を致死させ、血清試料をsMAdCAMについて分析した。結果を
図9Bに示す。示された統計は、ナイーブマウスにおけるsMAdCAMレベルと比較したものである。
図9Bに示されたデータは、(1)DSSが、血清中のsMAdCAMの量の統計的に有意な増加を誘導したこと、および(2)化合物Cによる処置が、sMAdCAMレベルを統計的に有意に低減したことを示している。
【0082】
第3のマウスモデルでは、Balb/cマウスに飲用水中3%DSSを5日間投与し、急性大腸炎を誘導した。6日目に、水を水道水に変え、動物に化合物C(10mg/kg、3日毎)またはPS/2(10mg/kg、5日毎)を投与した。14日目に血清を採取し、試料をsMAdCAMについて分析した。結果を
図9Cに示す。両方の処置群において、sMAdCAMのレベルは、分析の定量限界(BQL)を下回っていた(
図9C)。これらの実験は、大腸炎のマウスモデルにおけるアルファ−4インテグリン阻害が、sMAdCAMレベルの統計的に有意な下方制御をもたらすことを実証している(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
実施例9−正常マウスにおいて小分子阻害剤によりアルファ−4インテグリンが阻害されると、sMAdCAMは下方制御される
【0083】
化合物Dは、アルファ−4インテグリンの小分子阻害剤であり、正常マウスの血漿中のsMAdCAMを下方制御するその能力について試験した。Balb/cマウスに、50mg/kgの化合物Dまたはビヒクル(PBS)を12時間毎に皮下注射した。5回目の投与から4時間後に、血漿をサンプリングし、sMAdCAMについてELISAにより分析した。
図10に示されるような結果は、化合物Dの処置が、血漿中のsMAdCAMの統計的に有意な下方制御をもたらすことを示している(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
実施例10−アルファ−4インテグリンの抗体阻害剤もまた、正常マウスにおけるsMAdCAMの下方制御をもたらす
【0084】
アルファ−4インテグリンの抗体阻害剤がsMAdCAMレベルを調節することができるかどうかを試験するため、用量依存性を試験するため、およびアルファ−4インテグリン阻害後にsMAdCAMが回復する能力を測定するために、PS/2をC57BL/6マウスに0.5、1、3、および10mg/kgで腹腔内投与し、投与から4時間後、ならびに1、2、4、7、10、14、および21日後に血漿をサンプリングした。対照として、ラットIgG2bイソタイプ対照抗体を、10mg/kgで腹腔内投与し、2日目に血漿をサンプリングした。血漿試料中のsMAdCAMレベルをELISAにより測定した(
図11)。点線は、4匹のイソタイプ対照処置マウスに存在する2日目のsMAdCAMレベルを示す(n=4マウス/群/時点;LLOQ=ELISAアッセイの定量の下限)。
図4に示されるようなデータは、アルファ−4インテグリンの抗体阻害剤が、sMAdCAMレベルを用量依存的に調節することを示している。
実施例11−アルファ−4インテグリン阻害剤によるsMAdCAMの下方制御は用量依存性であり、可逆的であり、a4b7インテグリンへテロ二量体に対するアルファ−4インテグリン阻害剤のインビトロ選択性と相関する
【0085】
アルファ−4インテグリンは、ベータ−1またはベータ−7インテグリンとヘテロ二量体を形成する。MAdCAMは、アルファ−4ベータ−7(α4β7)に対するリガンドであり、一方VCAMは、アルファ−4ベータ−1(α4β1)に対するリガンドである。アルファ−4インテグリン阻害剤は、α4β7およびα4β1に対する異なる選択性を示し得る。α4β7に対するアルファ−4阻害剤のインビトロ選択性がsMAdCAMのインビボ下方制御と相関するかどうかを試験するために、α4β7に対し異なる選択性を示す2つのアルファ−4インテグリン阻害剤を使用して、実験を行った。化合物Cおよび化合物Aは共に、アルファ−4インテグリンのペグ化小分子阻害剤である。
【0086】
図12Aは、α4β1およびα4β7に対するこれらの化合物のインビトロ選択性を示す。化合物によるα4β1およびα4β7特異的エピトープの誘導を、以下の分析法を使用して測定した。Ficoll勾配によりヒト血液から単離されたリンパ球を、5%FBSを含むPBS中の滴定量の化合物Aまたは化合物C、および10mg/mlの2G3(リガンド誘導抗ベータ−7抗体)または15/7(リガンド誘導抗ベータ−1抗体)と共にインキュベートした。PE複合化抗マウスIgG二次抗体とのインキュベーション後、フローサイトメトリーによりエピトープ誘導を測定した。データは、%結合として表現される。
図12Aに示されるようなデータは、(1)化合物Cが、α4β1およびα4β7インテグリンの両方に等しい効力で結合すること、ならびに(2)化合物Aが、α4β7よりもα4β1に対する結合性において100倍高い選択性を有することを示す。
【0087】
インビトロ選択性が差別的なインビボのsMAdCAM下方制御につながるかどうかを調査するために、化合物Aおよび化合物Cを、C57BL/6に0.1、0.3、0.5、1、および3mg/kgに皮下投与した。投与から48時間後、血漿を採取し、sMAdCAMを定量した。結果を
図12Bに示す。化合物Cは、sMAdCAMの下方制御において、化合物Aよりも効力が高いと思われ、これは、α4β7に対する選択性が、そのリガンドの可溶性形態に対する効果を媒介していることを示唆している。一元配置ANOVAにより有意性を計算し、ビヒクル対照と比較した(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001、n=4マウス/群、ND=実行せず)。
【0088】
α4β7阻害によるsMAdCAM下方制御の用量/時間関係を測定するために、化合物A(
図12C)および化合物C(
図12D)を、C57BL/6マウスに、0.5、1、および3mg/kgで皮下投与し、投与から4時間後、ならびに1、2、3、4、7、10、14、および21日後に血漿を採取した。点線は、ビヒクル処置動物における2日目のsMAdCAMレベルを示す(n=4マウス/群/時点)。
図12Dに示されるように、化合物C、pan−アルファ−4インテグリン阻害剤が、選択的α4β1阻害剤である化合物Aよりも高い程度までsMAdCAMを下方制御した。これは、sMAdCAM下方制御を誘起するにはα4β7阻害が必要であることを示唆している。さらに、MAdCAMレベルは、経時的にベースラインレベルまで回復する。
【0089】
図12Eおよび12Fに示されるように、ELISA(R&D Systems)により、上記のように同じ動物から採取された試料においてsVCAMを測定した。点線は、ビヒクル処置動物における2日目のsVCAMレベルを示す(n=4マウス/群/時点)。化合物Aおよび化合物Cは、共に、血漿試料中のsVCAMの下方制御において同様の効力を有し、α4β1、VCAMリガンドに対するこれらの化合物の同様の選択性を誘起した。全体的に、これらのデータは、α4β7またはα4β1に対するインビトロ選択性が、それぞれ、インビボにおけるsMAdCAMまたはsVCAMの下方制御に反映されることを示している。
【0090】
上述のような化合物Aの選択性を、ヒト対象においてさらに検証した。このために、41の個体に、化合物Aを0.5mg/kgで経口投与した。投与後様々な時点で、全血を採取した(投与から28日後まで)。sVCAMおよびsMAdCAMレベルを、上述のようにELISAにより定量した。化合物Aは、アルファ−4インテグリンに対する9F10の結合を阻止することが知られていた。α4β1およびα4β7の発現レベルを、蛍光標識化9F10(マウス抗ヒトアルファ−4インテグリン抗体)と共にインキュベートされた白血球細胞の平均蛍光強度(MFI)を測定することにより決定した。また、化合物Aは、そのインテグリン受容体への結合後、β1およびβ7サブユニット上の特異的リガンド誘導結合部位の発現を誘導し、これは、マウスモノクローナル抗体15/7および2G3により認識される(上述の通り)。α4β1およびα4β7の飽和レベルを、蛍光標識化15/7および2G3抗体を使用して決定し、以下のように計算した。
【数1】
データを
図13に示す。
図13Aは、ヒト対象への化合物Aの投与が、投与から1日後という早期から少なくとも投与から14日後まで、α4β1発現レベルの顕著な低下をもたらすことを示している。α4β1レベルは、投与から約7日後に基準レベルまで戻る。
図13Bは、化合物Aの投与から約2日後にα4β1が飽和し、その飽和が少なくともさらに13日間(投与から15日後まで)持続することを示している。しかしながら、α4β7の飽和レベルは、投与から8日後に有意に降下する。
図13Cに示されるように、sVCAMレベルは投与から1日後に有意に低下し、投与から14日後に基準ライン(投与前)に戻り始める。しかしながら、sMAdCAMレベルは、投与から28日後でも、基準レベルに近いままである。これらのデータは、化合物Aがα4β7よりもα4β1に対する結合においてより選択的であるという上記のインビトロ観察と一致している。
実施例12−マウスにおけるアルファ−4インテグリン阻害剤レベルとsVCAM/sMAdCAMレベルとの相関
【0091】
三十八(38)匹のマウス(C57BL/6)に、様々な量のPS/2(抗アルファ−4インテグリン抗体)を腹腔内投与した。投与後様々な時点で血漿試料を採取した。血漿試料中のsVCAMレベル、sMAdCAMレベル、およびPS/2レベルを、上述の実施例に記載のようにELISA法により分析した。
図14に示すように、sVCAMおよびsMAdCAMレベル(%平均ビヒクル)をPS/2濃度に対してプロットする。結果は、sVCAM(r=−0.61;p<0.0001)およびsMAdCAM(r=−0.42;p<0.0041)の両方において、強い負の直線的相関を示し、すなわち、抗アルファ−4インテグリン抗体の濃度が高いほど(アルファ−4インテグリンのより高い阻害レベルに対応する)、sVCAMまたはsMAdCAMのレベルがより低いことを示している。
【0092】
説明された本開示の方法およびシステムの様々な修正および変形は、本開示の範囲および精神から逸脱せずに、当業者に明らかとなる。本開示は、特定の代表的実施形態に関連して説明されたが、請求されるような主題は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、当業者には明白である、本開示を実施するための説明された形態の様々な修正は、以下の特許請求の範囲内であることが意図される。
【0093】
本開示の実施形態は、可溶性血管細胞接着分子(sVCAM)および/または可溶性粘膜アドレシン細胞接着分子(sMAdCAM)レベルと関連付けることにより、個体におけるアルファ−4インテグリン活性の変化を監視する方法を提供する。
【0094】
例えば、本開示の実施形態は、(1)個体におけるアルファ−4インテグリン活性の差を決定するインビトロ法であって、a)アルファ−4インテグリン阻害剤の投与直前に、個体から得られた第1の生体試料における可溶性分子を測定することと、b)第2の生体試料であって、アルファ−4インテグリン阻害剤の投与後三十一日以内に個体から得られた第2の生体試料における、可溶性分子を測定することと、c)第1および第2の生体試料の間の、可溶性分子のレベルの低下であって、個体におけるアルファ−4インテグリン活性の低下に関連する低下があるかどうかを決定し、それにより、アルファ−4インテグリン阻害剤の投与前と比較して、アルファ−4インテグリン阻害剤の投与後に、個体におけるアルファ−4インテグリン活性の差があるかどうかを決定することと、を含み、可溶性分子は、sVCAMおよび/またはsMAdCAMである方法を提供する。
【0095】
(2)本開示の実施形態はまた、第1の生体試料と比較して、第2の生体試料における可溶性分子のレベルの低下を検出することと、低下を、アルファ−4インテグリン阻害剤の投与前と比較したアルファ−4インテグリン阻害剤の投与後の個体におけるアルファ−4インテグリン活性の低下に帰することとをさらに含む、上記(1)に記載の方法を提供する。
【0096】
(3)本開示の実施形態はまた、アルファ−4インテグリン活性が、アルファ−4ベータ−1インテグリン活性であり、可溶性分子が、sVCAMである、上記(1)または(2)に記載の方法を提供する。
【0097】
(4)本開示の実施形態はまた、アルファ−4インテグリン活性が、アルファ−4ベータ−7インテグリン活性であり、可溶性分子が、sMAdCAMである、上記(1)または(2)に記載の方法を提供する。
【0098】
(5)本開示の実施形態はまた、個体が、病的または慢性炎症に関連した疾患または障害を有する、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0099】
(6)本開示の実施形態はまた、疾患または障害が、多発性硬化症(MS)、髄膜炎、脳炎、炎症性腸疾患、関節リウマチ(RA)、喘息、急性若年発症糖尿病、AIDS認知症、アテローム性動脈硬化、腎炎、網膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血、慢性前立腺炎、鎌状赤血球貧血からの合併症、紅斑性狼瘡、および急性白血球媒介肺障害からなる群から選択される、上記(5)に記載の方法を提供する。
【0100】
(7)本開示の実施形態はまた、アルファ−4インテグリン阻害剤が、抗体である、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0101】
(8)本開示の実施形態はまた、第1および/または第2の生体試料が、組織、細胞、および体液からなる群から選択される、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0102】
(9)本開示の実施形態はまた、第1および/または第2の生体試料が、血液、リンパ液、血清、血漿、尿、精液、滑液、唾液、涙液、気管支肺胞洗浄液、および脳脊髄液からなる群から選択される体液である、上記(8)に記載の方法を提供する。
【0103】
(10)本開示の実施形態はまた、第1および/または第2の生体試料が、凍結血漿または血清の形態である、上記(8)に記載の方法を提供する。
【0104】
(11)本開示の実施形態はまた、第2の生体試料が、アルファ−4インテグリン阻害剤の投与から1日後に個体から得られる、上記(1)〜(10)のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0105】
(12)本開示の実施形態はまた、可溶性分子が、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、ウェスタンブロッティング、およびマイクロビーズベースタンパク質検出分析法からなる群から選択される方法により測定される、上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0106】
(13)本開示の実施形態はまた、個体の処置における調整が必要であるかどうかを決定することをさらに含み、第1および第2の生体試料の間の可溶性分子のレベルの低下がないこと、または低下が統計的に有意でない(p>0.05)ことは、個体の処置の調整を必要とするアルファ−4インテグリン阻害剤に対する非効果的な反応を示す、上記(1)〜(12)のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0107】
(14)本開示の実施形態はまた、第1の生体試料と比較して、第2の生体試料における可溶性分子のレベルの低下を検出しない、または統計的に有意でない低下(p>0.05)を検出することと、個体の処置の調整が必要であると結論付けることとをさらに含む、上記(13)に記載の方法を提供する。
【0108】
(15)本開示の実施形態はまた、処置の調整が、異なるアルファ−4インテグリン阻害剤に変更すること、またはアルファ−4インテグリン阻害剤の用量を増加させることを含む、上記(13)または(14)に記載の方法を提供する。
【0109】
(16)本開示の実施形態はまた、(i)アルファ−4インテグリンまたは(ii)アルファ−4インテグリン活性の調節剤の活性の薬力学的バイオマーカーとしての、sVCAMおよび/またはsMAdCAMのインビトロの使用を提供する。
【0110】
(17)本開示の実施形態はまた、アルファ−4インテグリン活性の調節剤による処置を受けている個体における活性の薬力学的バイオマーカーとしての、sVCAMおよび/またはMAdCAMのインビトロの使用を含む、上記(16)に記載の使用を提供する。
【0111】
(18)本開示の実施形態はまた、調節剤が、アルファ−4インテグリン阻害剤である、上記(17)に記載の使用を提供する。
【0112】
(19)本開示の実施形態はまた、個体が、多発性硬化症(MS)、髄膜炎、脳炎、炎症性腸疾患、関節リウマチ(RA)、喘息、急性若年発症糖尿病、AIDS認知症、アテローム性動脈硬化、腎炎、網膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血、慢性前立腺炎、鎌状赤血球貧血からの合併症、紅斑性狼瘡、および急性白血球媒介肺障害からなる群から随意に選択される、病的または慢性炎症に関連した疾患または障害を有する、上記(17)に記載の方法を提供する。
【0113】
(20)本開示の実施形態はまた、アルファ−4インテグリン活性が、アルファ−4ベータ−1インテグリン活性であり、薬力学的バイオマーカーが、sVCAMである、上記(16)〜(19)のいずれか1つに記載の使用を提供する。
【0114】
(21)本開示の実施形態はまた、アルファ−4インテグリン活性が、アルファ−4ベータ−7インテグリン活性であり、薬力学的バイオマーカーが、sMAdCAMである、上記(16)〜(19)のいずれか1つに記載の使用を提供する。