特許第5847196号(P5847196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847196
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】タングステン焼結合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 27/04 20060101AFI20151224BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20151224BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   C22C27/04 101
   C22C1/04 D
   B22F5/00 F
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-548184(P2013-548184)
(86)(22)【出願日】2012年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2012080564
(87)【国際公開番号】WO2013084748
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2014年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-267845(P2011-267845)
(32)【優先日】2011年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 剛平
(72)【発明者】
【氏名】上西 昇
(72)【発明者】
【氏名】胡間 紀人
(72)【発明者】
【氏名】角倉 孝典
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 朋広
(72)【発明者】
【氏名】榊原 一永
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04749410(US,A)
【文献】 米国特許第04768365(US,A)
【文献】 特開2002−030372(JP,A)
【文献】 特開2005−163112(JP,A)
【文献】 特開平05−179378(JP,A)
【文献】 特公昭46−000929(JP,B1)
【文献】 特表2002−517614(JP,A)
【文献】 特開昭52−037503(JP,A)
【文献】 特開平10−219414(JP,A)
【文献】 特開平01−142048(JP,A)
【文献】 特開平02−259053(JP,A)
【文献】 特開平03−226541(JP,A)
【文献】 特開平06−316706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04,27/04
B22F 3/24
C22F 1/00,1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを85質量%以上98質量%以下、ニッケルを1.4質量%以上11質量%以下、鉄、銅およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.6質量%以上6質量%以下、含む平板状のタングステン焼結合金(1)であって、
当該平板状のタングステン焼結合金(1)の平面(100)が延在する方向に沿って延びる扁平な複数のタングステン結晶粒が積層された構造を有し、
当該平板状のタングステン焼結合金の平面(100)が延在する方向と直交する厚み方向に沿った第1の断面(101)と、当該平板状のタングステン焼結合金の平面が延在する方向と直交する厚み方向に沿った断面であって前記第1の断面(101)に直交する第2の断面(102)とにおいて、前記第1の断面(101)から任意に選択された一定の幅(W)500μmと一定の厚み(T)70μmとからなる第1の断面部分(101a)と、前記第2の断面(102)から任意に選択された前記一定の幅(W)と前記一定の厚み(T)とからなる第2の断面部分(102a)とで観察された、前記一定の幅(W)の中心を通りかつ前記一定の厚み(T)方向に延びる中心線(200)に交差する複数の前記タングステン結晶粒(G1〜G4)の平均厚み(t)に対する平均長さ(s)の比率が9以上125以下であり、前記タングステン結晶粒(G1〜G4)の平均厚み(t)が2μm以上10μm以下であり、
1000℃の温度での引張強度が670MPa以上820MPa以下である、タングステン焼結合金(1)。
【請求項2】
当該平板状のタングステン焼結合金(1)の厚み(T0)が1.5mm以下である、請求項1に記載のタングステン焼結合金(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはタングステン焼結合金に関し、特定的には、アルミニウムダイキャスト用金型、ガラス射出成型用金型等の金型材料に用いられるタングステン焼結合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線遮蔽用材料として、タングステンを主成分とするタングステン基合金材料を用いることは従来から知られている。
【0003】
たとえば、特開平9−71828号公報(以下、特許文献1という)には、タングステン85重量%以上を主成分とし、残部がニッケルと鉄もしくは銅よりなる焼結体に塑性加工を施して、タングステン粒子とニッケルを含むバインダ層とを扁平化するとともに、これら扁平な層が重なり合った層状構造とした放射線遮蔽用タングステン基合金材料が開示されている。このタングステン基合金材料は、成形体を1470℃で焼結することによって得られた焼結体を、合計の加工率が約60%になるように1300℃の加熱温度で圧延加工して、タングステン粒子とバインダ層とを扁平化することによって得られる。
【0004】
また、特開平9−235641号公報には、重量比でタングステンを80〜97%と、ニッケルを2〜15%と、鉄、銅、コバルトのうちの1種または2種以上を総量で1〜10%含有し、厚みが0.3mm以下で、両辺が厚みの200倍以上の寸法をもつタングステン重合金板が開示されている。この重合金板は、原料粉末を混合し、粉末圧延プレスで厚みが0.35mm以下の薄板状に成形した後、非酸化雰囲気中で焼結し、必要に応じて熱間圧延および/または冷間圧延を行い、その後、平坦、平滑化のための仕上げ圧延を行うことによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−71828号公報
【特許文献2】特開平9−235641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、タングステンを85質量%以上含むタングステン焼結合金は、ステンレス鋼等よりも高い高温強度と高い熱伝導率を有するため、アルミニウムダイキャスト用金型、ガラス射出成型用金型等の金型材料として用いられている。このような用途にタングステン焼結合金を用いる場合、ある程度以上の広い面積を有する平板状のタングステン焼結合金を作製する必要がある。
【0007】
しかしながら、従来のタングステン焼結合金に、たとえば、特許文献1に記載されているように、700〜1400℃の範囲内の温度で熱間圧延加工を施しても、圧延加工率が60%以上になると、得られる平板状のタングステン焼結合金に割れが生じるという問題がある。この割れは、次のようにして生じるものと考えられる。タングステン焼結合金が1400℃程度の高い温度で成形体を焼結することによって得られるため、タングステン結晶粒が30〜50μmの大きな粒径に成長する。このような大きなタングステン結晶粒が圧延加工により扁平化されると、過大な歪みが生じてしまうために平板状のタングステン焼結合金に割れが生じるものと考えられる。
【0008】
一般に圧延加工率を高めると、材料の強度が増大することが知られている。しかし、上記の問題から、圧延加工率が60%程度になれば、それ以上の圧延加工を従来のタングステン焼結合金に施すことができないため、圧延加工によってタングステン焼結合金の強度を十分に高めることが困難である。一方、上記の用途の金型材料では、金型の寿命を長くするために高温度における強度の向上が要求されている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高温度においてより高い強度を有する平板状のタングステン焼結合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従ったタングステン焼結合金は、タングステンを85質量%以上98質量%以下、ニッケルを1.4質量%以上11質量%以下、鉄、銅およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.6質量%以上6質量%以下、含む平板状のタングステン焼結合金である。このタングステン焼結合金は、当該平板状のタングステン焼結合金の平面が延在する方向に沿って延びる扁平な複数のタングステン結晶粒が積層された構造を有する。当該平板状のタングステン焼結合金の平面が延在する方向と直交する厚み方向に沿った第1の断面と、当該平板状のタングステン焼結合金の平面が延在する方向と直交する厚み方向に沿った断面であって第1の断面に直交する第2の断面とにおいて、第1の断面から任意に選択された一定の幅500μmと一定の厚み70μmとからなる第1の断面部分と、第2の断面から任意に選択された一定の幅と一定の厚みとからなる第2の断面部分とで観察された、一定の幅の中心を通りかつ一定の厚み方向に延びる中心線に交差する複数のタングステン結晶粒の平均厚みに対する平均長さの比率が9以上125以下である。タングステン結晶粒(G1〜G4)の平均厚み(t)が2μm以上10μm以下である。1000℃の温度での引張強度は、670MPa以上820MPa以下である。
【0011】
本発明に従ったタングステン焼結合金において、当該平板状のタングステン焼結合金の厚みが1.5mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温度においてより高い強度を有する平板状のタングステン焼結合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1の作製途中において焼結工程が行われた後の平板状のタングステン焼結合金の断面を示す光学顕微鏡写真である。
図2】本発明の実施例1の作製途中において歪導入工程と熱処理工程が行われた後の平板状のタングステン焼結合金の断面を示す光学顕微鏡写真である。
図3】本発明の比較例2で作製された平板状のタングステン焼結合金の断面を示す光学顕微鏡写真である。
図4】本発明の実施例と比較例で作製された平板状のタングステン焼結合金において観察された二つの断面を示す模式的な斜視図である。
図5】本発明の実施例1で作製された平板状のタングステン焼結合金において観察された断面部分を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6】本発明の実施例と比較例で作製された平板状のタングステン焼結合金において観察された断面部分にて、測定されるタングステン結晶粒の厚みと長さを模式的に示す図である。
図7】本発明の実施例と比較例で作製された平板状のタングステン焼結合金から作製された引張試験片の寸法を示す平面図(A)と側面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に従った平板状のタングステン焼結合金は、タングステン(W)を85質量%以上98質量%以下、ニッケル(Ni)を1.4質量%以上11質量%以下、鉄(Fe)、銅(Cu)およびコバルト(Co)からなる群より選ばれた少なくとも1種を0.6質量%以上6質量%以下、含む。このタングステン焼結合金は、当該平板状のタングステン焼結合金の平面が延在する方向に沿って延びる扁平な複数のタングステン結晶粒が積層された構造を有する。当該平板状のタングステン焼結合金の平面が延在する方向と直交する厚み方向に沿った第1の断面と、当該平板状のタングステン焼結合金の平面が延在する方向と直交する厚み方向に沿った断面であって第1の断面に直交する第2の断面とにおいて、第1の断面から選択された一定の幅と一定の厚みとからなる第1の断面部分と、第2の断面から選択された一定の幅と一定の厚みとからなる第2の断面部分とで観察された、一定の幅の中心を通りかつ一定の厚み方向に延びる中心線に交差する複数のタングステン結晶粒の平均厚みに対する平均長さの比率が、9以上125以下である。
【0015】
以上のように構成された平板状のタングステン焼結合金において、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みに対する平均長さの比率が9以上125以下であることにより、高温度において従来に比べて高い強度を得ることができる。上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みに対する平均長さの比率が9未満であれば、高温度において十分に高い強度を得ることができない恐れがある。上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みに対する平均長さの比率が125を超えると、割れが生じる恐れがある。
【0016】
上記の比率を実現するためには、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みが2μm以上10μm以下であり、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均長さが30μm以上250μm以下であることが好ましい。タングステン結晶粒の平均厚みを2μm未満にすること、または、平均長さが250μmを超えるようにすることは、困難である。
【0017】
上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みが2μm以上3μm以下の場合には、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均長さが30μm以上250μm以下の範囲内になることが好ましく、平均厚みに対する平均長さの比率が10以上125以下であることが好ましい。
【0018】
また、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みが3μmを超え6μm以下の場合には、高温度において十分に高い強度を得るために、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均長さが54μm以上250μm以下の範囲内になることが好ましく、平均厚みに対する平均長さの比率が9以上84以下であることが好ましい。
【0019】
さらに、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みが6μmを超え10μm以下の場合には、高温度において十分に高い強度を得るために、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均長さが90μm以上250μm以下の範囲内になることが好ましく、平均厚みに対する平均長さの比率が9以上42以下であることが好ましい。
【0020】
なお、当該平板状のタングステン焼結合金の平面方向におけるタングステン結晶粒の形状は、ほぼ円形状、ほぼ楕円形状、ほぼ正方形状、ほぼ長方形状、不定形状等、種々の形状である。
【0021】
本発明に従った平板状のタングステン焼結合金は、後述される(1)原料準備工程、(2)混合工程、(3)成形工程、(4)焼結工程、(5)歪導入工程、(6)熱処理工程、および、(7)熱間圧延工程を経て製造される。
【0022】
要約すれば、本発明に従った平板形状のタングステン焼結合金の製造方法は、タングステンを85質量%以上98質量%以下、ニッケルを1.4質量%以上11質量%以下、鉄、銅およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.6質量%以上6質量%以下、含むタングステン焼結合金の製造方法であって、歪みを焼結体に導入し、歪みが導入された焼結体を熱処理した後に、60%以上の圧延加工率で焼結体を熱間圧延することを特徴とする。
【0023】
このようにして製造された平板状のタングステン焼結合金は、上述のように観察されたタングステン結晶粒の平均厚みに対する平均長さの比率が9以上125以下である組織を備えることができ、高温度において従来に比べて高い強度を得ることができる。
【0024】
特に、従来から公知の製造方法(原料粉末の混合工程、成形工程および焼結工程)によって作製された粒径が30〜50μmのタングステン結晶粒を有するタングステン焼結合金(焼結体)に対して、一定の歪みを付与した後に一定の熱処理を施すことにより、タングステン焼結合金中のタングステン結晶粒の粒径をある値以下(5〜20μm)に小さくすることができる。その後、60%以上の圧延加工率で焼結体を熱間圧延することにより、タングステン結晶粒の厚みをある値以下に小さくし、かつ、タングステン結晶粒の長さをある値以上に大きくすることができ、当該平板状のタングステン焼結合金の平面方向に延びる扁平な複数のタングステン結晶粒が積層された構造からなるタングステン焼結合金を得ることができる。これにより、高温度において従来に比べて高い強度を得ることができる。
【0025】
なお、本発明に従った平板状のタングステン焼結合金の厚みが1.5mm以下であることが好ましい。また、本発明に従ったタングステン焼結合金において、1000℃の温度での引張強度は670MPa以上820MPa以下であることが好ましい。
【0026】
従来のタングステン焼結合金では、反りや歪みが生じるため、焼結直後に薄い平板を形成することは困難である。また、従来のタングステン焼結合金に圧延加工率が60%以上の圧延加工を施すと、割れ等が生じるため、薄い平板を得るためには最終的に研削や研磨を施す必要がある。これにより、製造コストが高くなるという問題がある。
【0027】
これに対して、本発明に従ったタングステン焼結合金の製造方法では、歪みを焼結体に導入し、歪みが導入された焼結体を熱処理した後に熱間圧延加工が行われるので、60%以上の圧延加工率で焼結体を熱間圧延することができる。これにより、厚みが1.5mm以下の平板状のタングステン焼結合金を形成することができる。したがって、本発明の製造方法では、薄い平板を得るのに特に有利であり、製造コストを低くすることができる。
【0028】
また、本発明に従ったタングステン焼結合金は、本発明の作用効果を損なわない限度において、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)以外の他の元素を含んでいてもよく、たとえば、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、レニウム(Re)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等の元素を0質量%以上2質量%以下含んでいてもよい。
【0029】
以下、本発明の平板状のタングステン焼結合金の製造方法について説明する。
【0030】
(1)原料準備工程
タングステン粉末と、ニッケル粉末と、鉄、銅およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属粉末とを準備する。原料は、タングステン粉末を85質量%以上98質量%以下、ニッケル粉末を1.4質量%以上11質量%以下、鉄、銅およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属粉末を0.6質量%以上6質量%以下の配合割合で含むように原料を準備する。
【0031】
タングステン粉末の配合割合が85質量%未満であると、得られるタングステン焼結合金の強度が十分でない恐れがある。タングステン粉末の配合割合が98質量%を超えると、バインダ成分が不足し、得られるタングステン焼結合金が圧延工程で割れてしまう恐れがある。
【0032】
ニッケル粉末の配合割合が1.4質量%未満であると、得られるタングステン焼結合金が圧延工程で割れてしまう恐れがある。ニッケル粉末の配合割合が11質量%を超えると、得られるタングステン焼結合金の強度が十分でない恐れがある。
【0033】
鉄、銅およびコバルトは焼結助剤としての働きをする。鉄、銅およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属粉末の配合割合が0.6質量%未満であると、緻密な焼結体が得られないため、得られるタングステン焼結合金が圧延工程で割れてしまう恐れがある。上記の金属粉末の配合割合が6質量%を超えると、バインダ成分を過度に硬化させるため、得られるタングステン焼結合金自体の靭性を低下させる恐れがある。
【0034】
タングステン粉末、ニッケル粉末および上記の金属粉末のそれぞれの平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。これらの粉末のそれぞれの平均粒径が1μm未満であると、製造コストが増大する恐れがある。これらの粉末のそれぞれの平均粒径が10μmを超えると、得られるタングステン焼結合金に空隙ができやすくなるため、タングステン焼結合金が圧延工程で割れてしまう恐れがある。
【0035】
(2)混合工程
上記で準備したタングステン粉末と、ニッケル粉末と、鉄、銅およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属粉末とを混合して混合物を得る。混合は、レディゲミキサー、アトライター、ボールミル等を用いて行うことができる。混合時に溶媒とバインダを原料粉末に添加してもよい。バインダとしては、カンファ、メルボール、ステアリン酸、パラフィン等を用いることができる。溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトン等を用いることができる。
【0036】
(3)成形工程
上記で得られた混合物に圧力を加えて成形して成形体を得る。冷間等方圧プレス(CIP)、ドライCIP、機械プレス等を用いて混合物に圧力を加える。成形時に加えられる圧力は、49MPa以上294MPa未満であることが好ましい。圧力が49MPa未満であると、成形体を得ることができない恐れがあり、成形体を得ることができても成形体のハンドリングや後工程で成形体が破損する恐れがある。圧力を294MPa以上に高くしても問題がないが、成形体を得るための作用を増大させることはない。
【0037】
(4)焼結工程
上記で得られた成形体を焼結して焼結体を得る。成形体を焼結するための雰囲気としては、水素ガス、真空、または、不活性ガスの雰囲気を用いることができる。成形体を収容する焼結炉としては、バッチ炉、連続プッシャー炉等を用いることができる。
【0038】
焼結温度は1200℃以上1550℃以下であることが好ましい。焼結温度が1200℃未満であると、緻密な焼結体が得られないため、得られるタングステン焼結合金が圧延工程で割れる恐れがある。焼結温度が1550℃を超えると、焼結体が溶融してしまう恐れがある。
【0039】
焼結の時間は、最高の焼結温度のときに10分間以上300分間以下であることが好ましい。焼結の時間が10分間未満であると、緻密な焼結体が得られないため、得られるタングステン焼結合金が圧延工程で割れる恐れがある。焼結の時間が300分間を超えると、タングステン結晶粒が粗大化しすぎるため、後工程でタングステン結晶粒が十分に微細化され得ない恐れがある。
【0040】
なお、熱間等方圧プレス(HIP)を用いて、成形工程と焼結工程とを同時に行ってもよい。その場合、雰囲気としては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0041】
圧力は、500MPa以上1500MPa以下であることが好ましい。圧力が500MPa未満であると、緻密な焼結体が得られないため、得られるタングステン焼結合金が圧延工程で割れる恐れがある。圧力が1500MPaを超えても問題がないが、焼結体を得るための作用を増大させることはない。
【0042】
温度は1200℃以上1550℃以下であることが好ましい。温度が1200℃未満であると、緻密な焼結体が得られないため、得られるタングステン焼結合金が圧延工程で割れる恐れがある。温度が1550℃を超えると、焼結体が溶融してしまう恐れがある。
【0043】
(5)歪導入工程
上記で得られた焼結体(タングステン焼結合金)に歪みを導入する。たとえば、平板状の焼結体を厚み方向に20%以上50%以下の変形率で変形させることによって、焼結体に歪みを導入することが好ましい。変形率が20%未満であると、焼結体に導入される歪みの量が不十分であるため、後工程で熱処理を行っても微細な結晶粒を形成することができない恐れがある。変形率が50%を超えると、焼結体が割れてしまう恐れがある。
【0044】
歪導入時の焼結体の温度は、0℃以上600℃以下であることが好ましい。温度が0℃未満であると、焼結体が硬くなるため、割れる恐れがある。温度が600℃を超えると、導入された歪みが解放されるため、後工程で熱処理を施しても微細な結晶粒を形成できない恐れがある。
【0045】
なお、焼結体に歪みを導入させる方法としては、鍛造加工、機械プレス加工、冷間圧延加工等で焼結体を変形させることによって行うことができる。
【0046】
(6)熱処理工程
上記で歪みが導入された焼結体(タングステン焼結合金)を熱処理する。この熱処理により、焼結体に導入された歪みを適度に回復させて、タングステン結晶粒を微細化する。
【0047】
焼結体を熱処理するための雰囲気としては、真空、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、または、一酸化炭素ガスの雰囲気を用いることができる。
【0048】
熱処理の温度は、900℃以上1400℃以下であることが好ましい。熱処理の温度が900℃未満であると、歪みの回復が不十分でタングステン結晶粒が微細化されないため、その後の熱間圧延工程で焼結体が割れる恐れがある。熱処理の温度が1400℃を超えると、歪みが完全に回復されてタングステン結晶粒が粗大化するため、その後の熱間圧延工程で焼結体が割れる恐れがある。
【0049】
熱処理の時間は、20分間以上5時間以下であることが好ましい。熱処理の時間が20分間未満であると、歪みの回復が不十分でタングステン結晶粒が微細化されないため、その後の熱間圧延工程で焼結体が割れる恐れがある。熱処理の時間が5時間を超えると、歪みが完全に回復されてタングステン結晶粒が粗大化するため、その後の熱間圧延工程で焼結体が割れる恐れがある。
【0050】
なお、熱処理後のタングステン焼結合金におけるタングステン結晶粒の平均粒径は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。タングステン結晶粒の平均粒径を5μm未満にすることは困難である。タングステン結晶粒の平均粒径が20μmを超えると、その後の熱間圧延工程で焼結体が割れる恐れがある。
【0051】
(7)熱間圧延工程
上記で熱処理された焼結体(タングステン焼結合金)を加熱した状態で、60%以上の圧延加工率で圧延加工する。焼結体を加熱するための雰囲気としては、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス等の雰囲気を用いることができる。
【0052】
圧延加工の温度は、800℃以上1400℃以下であることが好ましい。圧延加工の温度が800℃未満であると、圧延機に加えられる負荷が大きくなり、圧延加工することができない、または、焼結体が割れる恐れがある。圧延加工の温度が1400℃を超えると、タングステン結晶粒が粗大化するため、圧延加工すると焼結体が割れる恐れがある。
【0053】
一回の圧延加工率は、5%以上30%以下であることが好ましい。一回の圧延加工率が5%未満では、合計で60%以上の圧延加工率にするための圧延回数が増大し、製造コストが高くなる。一回の圧延加工率が30%を超えると、圧延機に加えられる負荷が大きくなり、圧延加工することができない、または、焼結体が割れる恐れがある。
【0054】
合計の圧延加工率は、60%以上95%以下であることが好ましい。合計の圧延加工率が60%未満であると、タングステン結晶粒が扁平な粒子にならないため、高温度におけるタングステン焼結合金の強度が十分に高くならない恐れがある。合計の圧延加工率が95%を超えると、圧延加工により焼結体が割れる恐れがある。
【0055】
なお、従来のタングステン焼結合金に対して(5)歪導入工程と(6)熱処理工程とを行わずに、焼結直後のタングステン焼結合金に対して(7)熱間圧延工程を行っても、60%程度の圧延加工率で圧延することが限界である。たとえば、100mm×100mm程度以上の平面を有する平板状のタングステン焼結合金に対して熱間圧延工程を行っても、厚みが2mm程度のタングステン焼結合金しか得られない。
【0056】
これに対して、本発明では、(4)焼結工程で得られた焼結体(タングステン焼結合金)に対して、(5)歪導入工程と(6)熱処理工程とを行った後に(7)熱間圧延工程を行うことにより、60%以上95%以下の圧延加工率で圧延することができ、厚みが1.5mm以下の平板状のタングステン焼結合金を製造することができる。なお、本発明のタングステン焼結合金の厚みの下限値は0.5mmである。厚みが0.5mm未満のタングステン焼結合金を得ることは、(5)歪導入工程と(6)熱処理工程とを行った後に(7)熱間圧延工程を行っても困難である。
【実施例】
【0057】
以下、上述の実施形態の効果を確認するために平板状のタングステン焼結合金を作製した本発明の実施例1〜28と比較例1〜11について以下に説明する。
【0058】
(実施例1)
本実施例では、上述の本発明に従った平板状のタングステン焼結合金を作製した。すなわち、上記の(1)〜(7)の工程を行うことによって平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0059】
まず、平均粒径が3μmのタングステン粉末を95質量%、平均粒径が4μmのニッケル粉末を3.5質量%、平均粒径が3μmの鉄粉末を1.5質量%の配合割合で含むように準備した((1)原料準備工程)。
【0060】
次に、上記で準備されたタングステン粉末とニッケル粉末と鉄粉末とを、レディゲミキサーを用いて混合して混合物を得た((2)混合工程)。
【0061】
そして、上記で得られた混合物に、冷間等方圧プレス(CIP)を用いて196MPaの圧力を加えて成形して成形体を得た((3)成形工程)。得られた成形体の寸法は、176mm×176mm×8.2mmであった。
【0062】
さらに、上記で得られた成形体を、水素ガス雰囲気炉内にて1460℃の温度で80分間焼結して焼結体を得た((4)焼結工程)。得られた焼結体の寸法は、150mm×150mm×7mmであった。
【0063】
以上のようにして得られた平板状のタングステン焼結合金の断面を観察した光学顕微鏡写真を図1に示す。
【0064】
その後、得られた平板状のタングステン焼結合金を、25℃の温度にて鍛造機を用いて、厚み方向に30%の変形率で変形させることによって、タングステン焼結合金に歪みを導入した((5)歪導入工程)。歪導入後の平板状のタングステン焼結合金の寸法は、177mm×177mm×5mmであった。
【0065】
歪みが導入された平板状のタングステン焼結合金を、真空炉内にて1200℃の温度で3時間熱処理した((6)熱処理工程)。
【0066】
以上のようにして得られた平板状のタングステン焼結合金の断面を観察した光学顕微鏡写真を図2に示す。図2に示すようにタングステン結晶粒が微細化されて、平均粒径が10μm程度であることがわかる。
【0067】
最後に、熱処理された平板状のタングステン焼結合金の試料を、水素ガス雰囲気炉にて1100℃の温度に加熱した後、試料を炉から取り出して即座に10%程度の圧延加工率で圧延加工し、その圧延加工を繰り返して、合計の圧延加工率が80%になるまで圧延加工を行った((7)熱間圧延工程)。熱間圧延加工後の平板状のタングステン焼結合金の寸法は、100mm×1070mm×1mmであった。
【0068】
このようにして平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0069】
(実施例2)
歪導入工程において厚み方向に20%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.1mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は19μm程度であった。
【0070】
(実施例3)
歪導入工程において厚み方向に40%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.9mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は10μm程度であった。
【0071】
(実施例4)
歪導入工程において厚み方向に50%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.7mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は5μm程度であった。
【0072】
(実施例5)
熱処理工程において熱処理温度を900℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は17μm程度であった。
【0073】
(実施例6)
熱処理工程において熱処理温度を1300℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は12μm程度であった。
【0074】
(実施例7)
熱処理工程において熱処理温度を1400℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は19μm程度であった。
【0075】
(実施例8)
熱処理工程において熱処理時間を20分間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は19μm程度であった。
【0076】
(実施例9)
熱処理工程において熱処理時間を1時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は13μm程度であった。
【0077】
(実施例10)
熱処理工程において熱処理時間を5時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は16μm程度であった。
【0078】
(実施例11)
熱間圧延工程において合計の圧延加工率が60%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが2.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0079】
(実施例12)
熱間圧延工程において合計の圧延加工率が70%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0080】
(実施例13)
熱間圧延工程において、合計の圧延加工率が85%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.7mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0081】
(実施例14)
熱間圧延工程において合計の圧延加工率が90%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0082】
(実施例15)
焼結工程で得られた焼結体の厚みを14mmにしたことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が95%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0083】
(実施例16)
焼結工程で得られた焼結体の厚みを20mmにしたことと、歪導入工程において厚み方向に50%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が95%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は5μm程度であった。
【0084】
(実施例17)
原料準備工程において平均粒径が1μmのタングステン粉末を用い、鉄粉末の代わりに銅粉末を用いたことと、歪導入工程において厚み方向に20%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が60%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが2.2mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は19μm程度であった。
【0085】
(実施例18)
原料準備工程において平均粒径が5μmのタングステン粉末を用い、鉄粉末の代わりに銅粉末を用いたことと、歪導入工程において厚み方向に20%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が70%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.7mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は19μm程度であった。
【0086】
(実施例19)
原料準備工程において平均粒径が10μmのタングステン粉末を用い、鉄粉末の代わりに銅粉末を用いたことと、歪導入工程において厚み方向に20%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が90%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.7mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は19μm程度であった。
【0087】
(実施例20)
原料準備工程においてタングステン粉末を85質量%、ニッケル粉末を10.5質量%、鉄粉末を4.5質量%の配合割合で含むように準備したこと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が90%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は9μm程度であった。
【0088】
(実施例21)
原料準備工程においてタングステン粉末を90質量%、ニッケル粉末を7質量%、鉄粉末を3質量%の配合割合で含むように準備したこと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が90%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は10μm程度であった。
【0089】
(実施例22)
原料準備工程においてタングステン粉末を98質量%、ニッケル粉末を1.4質量%、鉄粉末を0.6質量%の配合割合で含むように準備したこと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が90%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は10μm程度であった。
【0090】
(実施例23)
原料準備工程において平均粒径が1μmのニッケル粉末を用い、鉄粉末の代わりにコバルト粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は11μm程度であった。
【0091】
(実施例24)
原料準備工程において平均粒径が5μmのニッケル粉末を用い、鉄粉末の代わりにコバルト粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は10μm程度であった。
【0092】
(実施例25)
原料準備工程において平均粒径が10μmのニッケル粉末を用い、鉄粉末の代わりにコバルト粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は10μm程度であった。
【0093】
(実施例26)
原料準備工程において平均粒径が1μmの鉄粉末を用いたことと、歪導入工程において厚み方向に50%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が60%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は5μm程度であった。
【0094】
(実施例27)
原料準備工程において平均粒径が5μmの鉄粉末を用いたことと、歪導入工程において厚み方向に50%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が60%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は5μm程度であった。
【0095】
(実施例28)
原料準備工程において平均粒径が10μmの鉄粉末を用いたことと、歪導入工程において厚み方向に50%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したことと、熱間圧延工程において合計の圧延加工率が60%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.0mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は5μm程度であった。
【0096】
(比較例1)
上記の(1)〜(4)の工程を行うことによって作製された従来のタングステン焼結合金を、研削と研磨により、厚みが1mmになるまで加工した。
【0097】
(比較例2)
上記の(1)〜(4)の工程を行うことによって作製された従来のタングステン焼結合金に対して、(5)(6)の工程を行わずに、焼結直後に圧延加工率が60%になるまで(厚みが2mmになるまで)(7)の熱間圧延工程を行った。その後、圧延加工されたタングステン焼結合金を、研削と研磨により、厚みが1mmになるまで加工した。
【0098】
以上のようにして得られた平板状のタングステン焼結合金の断面を観察した光学顕微鏡写真を図3に示す。
【0099】
(比較例3)
歪導入工程において厚み方向に17%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したこと以外は、実施例1と同様にして、平板状のタングステン焼結合金を作製することを試みたが、得られた平板状のタングステン焼結合金において割れが発生した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は24.3μm程度であった。
【0100】
(比較例4)
歪導入工程において厚み方向に60%の変形率で変形させることによってタングステン焼結合金に歪みを導入したこと以外は、実施例1と同様にして、平板状のタングステン焼結合金を作製することを試みたが、歪導入工程において割れが発生した。
【0101】
(比較例5)
熱処理工程において熱処理温度を850℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、平板状のタングステン焼結合金を作製することを試みたが、得られた平板状のタングステン焼結合金において割れが発生した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は26μm程度であった。
【0102】
(比較例6)
熱処理工程において熱処理温度を1450℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、平板状のタングステン焼結合金を作製することを試みたが、得られた平板状のタングステン焼結合金において割れが発生した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は37μm程度であった。
【0103】
(比較例7)
熱処理工程において熱処理時間を15分間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、平板状のタングステン焼結合金を作製することを試みたが、得られた平板状のタングステン焼結合金において割れが発生した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は24μm程度であった。
【0104】
(比較例8)
熱処理工程において熱処理時間を6時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、平板状のタングステン焼結合金を作製することを試みたが、得られた平板状のタングステン焼結合金において割れが発生した。なお、実施例1と同様にして、熱処理後の平板状のタングステン焼結合金の断面を光学顕微鏡で観察したところ、タングステン結晶粒の平均粒径は22μm程度であった。
【0105】
(比較例9)
熱間圧延工程において合計の圧延加工率が50%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、厚みが2.5mmの平板状のタングステン焼結合金を作製した。
【0106】
(比較例10)
熱間圧延工程において合計の圧延加工率が97%になるまで圧延加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、平板状のタングステン焼結合金を作製することを試みたが、得られた平板状のタングステン焼結合金において割れが発生した。
【0107】
(比較例11)
上記の実施例1における(1)〜(4)の工程を行うことによって作製された従来のタングステン焼結合金に対して、焼結直後に圧延加工率が65%になるまで(7)の熱間圧延工程を行った場合には、タングステン焼結合金に割れが発生した。
【0108】
(タングステン結晶粒の平均厚みと平均長さの測定)
図4に示すように、実施例1〜28と比較例2、9で得られた平板状のタングステン焼結合金1の平面100が延在する方向と直交する厚みT0(1mm)の方向に沿った第1の断面101と、平板状のタングステン焼結合金1の平面100が延在する方向と直交する厚みT0の方向に沿った断面であって第1の断面と直交する第2の断面102とを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0109】
具体的には、第1の断面101と第2の断面102のそれぞれにおいて、1000倍で任意の箇所(視野)の写真を撮影し、その箇所から平面100が延在する方向に沿って当該断面内で位置をずらした箇所(視野)の写真を撮影し、順次ずらして得られた7つの視野の写真を平面100が延在する方向に連結して、厚みTが70μm、幅Wが500μmの断面部分の写真を得た。このようにして、第1の断面101から選択された一定の幅W(500μm)と一定の厚みT(70μm)とからなる第1の断面部分と、第2の断面102から選択された一定の幅W(500μm)と一定の厚みT(70μm)とからなる第2の断面部分との写真を得た。その断面部分の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例(実施例1)を図5に示す。
【0110】
上記の断面部分を模式的に図6に示す。図6に示すように、上記で得られた第1の断面部分101aと第2の断面部分102aの写真において、一定の幅W(500μm)の中心を通り、かつ、一定の厚みT(70μm)の方向に延びる中心線200と交差する複数のタングステン結晶粒G1〜G4の厚みtと長さsとを測定した。これらの測定値の平均値を求めて、タングステン結晶粒の平均厚みと平均長さとした。また、タングステン結晶粒の平均厚みに対する平均長さの比率を算出した。
【0111】
以上のようにして算出されたタングステン結晶粒の平均厚みと平均長さ、平均厚みに対する平均長さの比率を表1に示す。
【0112】
(タングステン焼結合金の引張強度の測定)
実施例1〜28と比較例1、2、9で得られた平板状のタングステン焼結合金から、図7に示すように厚みTの引張試験片10を作製した。標点間距離は、中心線20を中心にして8mmとした。
【0113】
実施例1と比較例1、2で作製された引張試験片10を、INSTRON社製、型番5867の引張試験機にセットして、真空雰囲気中にて20℃、500℃、800℃、1000℃、1200℃の各試験温度に加熱して(試験温度20℃の場合は加熱しない)、300mm/min.の引張速度で破断するまで引張試験を行った。また、実施例2〜28と比較例9で作製された引張試験片10については、INSTRON社製、型番5867の引張試験機にセットして、真空雰囲気中にて1000℃の試験温度に加熱して、300mm/min.の引張速度で破断するまで引張試験を行った。試験中に示された最大応力の値を引張強度とした。
【0114】
以上のようにして得られた引張強度の測定結果を表1と表2に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
表1から、本発明の実施例1〜28の試料は、1000℃の温度において高い引張強度を示すことがわかる。
【0118】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のタングステン焼結合金は、アルミニウムダイキャスト用金型、ガラス射出成型用金型等の金型材料に用いられる。
【符号の説明】
【0120】
1:タングステン焼結合金、100:平面、101:第1の断面、101a:第1の断面部分、102:第2の断面、102a:第2の断面部分、200:中心線、G1〜G4:タングステン結晶粒、T,T0:厚み、W:幅、t:厚み、s:長さ。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7