(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847197
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】減衰を用いる注入装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/20 20060101AFI20151224BHJP
【FI】
A61M5/20 550
A61M5/20 510
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-548886(P2013-548886)
(86)(22)【出願日】2012年1月6日
(65)【公表番号】特表2014-505539(P2014-505539A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】GB2012050016
(87)【国際公開番号】WO2012098371
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2013年10月1日
(31)【優先権主張番号】1100678.0
(32)【優先日】2011年1月17日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505333414
【氏名又は名称】オーウェン マンフォード リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OWEN MUMFORD LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】カウエ,トビー
【審査官】
小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−347123(JP,A)
【文献】
特表2008−500860(JP,A)
【文献】
実開昭63−066634(JP,U)
【文献】
特開昭59−095054(JP,A)
【文献】
特表2009−533124(JP,A)
【文献】
国際公開第1994/021316(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00− 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位の端部から放射状に伸びる羽根を有するシリンジ本体と、シリンジ本体の近位末端につながれた針と、針を通して薬物を放出するためにシリンジ本体を通って移動可能なプランジャーとを有するシリンジを用いて使用するための注入装置であって、
前記注入装置は、
シリンジを保持するための内部空間を定義するとともに、針がハウジング内に完全に収容される第1の位置と針がハウジングから突出する第2の位置からのシリンジの移動を容易にするハウジングと、
使用時にハウジング内で保持されるシリンジのプランジャーと係合可能となるように、前記内部空間内に配された駆動部材と、
ハウジング内でシリンジを支持する、支持チューブと
支持チューブの遠位末端の周りに設けられている環部と、
前記環部とハウジングの間に支持され、シリンジ本体に形成された羽根が前記環部に作用することで圧縮されるコイルバネとを有し、
前記コイルバネの完全な圧縮により前記第2の位置が定義され、
前記第1の位置から前記第2の位置へとシリンジを移動させ、その後、シリンジ本体を通ってプランジャーを移動させるために、プランジャーに作用する駆動部材に力を加えるための前記内部空間にある力付与装置と、
力付与装置と駆動部材をコックした構造で保持し、作動時に力付与装置と駆動部材を解放するためのばね止め機構と、
前記第1の位置から前記第2の位置までのシリンジの移動の間ずっと、または、その特定の間に、駆動部材によってシリンジプランジャーに与えられる運動エネルギーを減衰するための、前記駆動部材と係合したヘッドを有するピストンと、ピストンが内部に取り付けられたシリンダとを有する、空圧ダンパーを備え、
前記ピストンと前記シリンダはチャンバーを定義し、ピストンとシリンダの1つは、前記チャンバーへの、および、前記チャンバーからの第1の流体の流れを制限するための通路を定義し、該通路を通って前記チャンバーに吸収される流体の流れが制限されることによって前記駆動部材から前記プランジャーに与えられる運動エネルギーが減衰され、
前記ピストンと前記シリンダは、ピストンが前記第2の位置として定義された地点を超えてシリンダに対して外側に移動することによって、前記チャンバーへの第2の流体の流路が形成され、シリンジから針を通して薬物を放出する間の前記駆動部材から前記プランジャーに与えられる運動エネルギーの減衰を減少または除去するように、構成される、
ことを特徴とする注入装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記シリンジを保持し、シリンジの前記移動を容易にするための第1のハウジング部分と、第2のハウジング部分を有し、第2のハウジング部分は、第1と第2のハウジング部分を一緒に固定するために、第1の連結器と係合するための第2の連結器を有し、前記駆動部材は、使用時、第1のハウジング部分内で保持されたシリンジのプランジャーと係合できるように、第2のハウジング部分内にある、ことを特徴とする請求項1に記載の注入装置。
【請求項3】
前記ハウジングは、他のハウジング部分に調節可能につながれた針シールドをさらに含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の注入装置。
【請求項4】
前記力付与装置は、
圧縮ばね、
ねじりばね、および、
電動式の付与装置、の1つである、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の注入装置。
【請求項5】
前記空圧ダンパーは、シリンジが前記第2の位置にほぼ達するまで、駆動部材によってプランジャーのコックした位置からシリンジプランジャーに与えられる運動エネルギーを減衰する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の注入装置。
【請求項6】
前記ピストンと前記シリンダは、シリンダの端部の内部表面が前記ピストンの端部に対して放射状に外側に傾斜しており、それによって、あらかじめ定められた点を超えてシリンダ内のピストンの外側への移動後に前記チャンバーへの前記第2の流体の流路を確立するように、構成される、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の注入装置。
【請求項7】
前記ピストンの外部表面または前記シリンダの内部表面に取り付けられた、および、前記あらかじめ定められた点までピストンとシリンダの間で実質的に気密した密封状態を形成する、Oリングを含む、ことを特徴とする請求項6に記載の注入装置。
【請求項8】
前記力付与装置はばねを含み、前記シリンダは、前記第2のハウジング部分に固定してつながれたスピンドルによって設けられ、前記ばねはスピンドルの外側の周りに同軸上に取り付けられる、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の注入装置。
【請求項9】
前記ピストンは、前記ばねの内部で同軸上に伸張する、ことを特徴とする請求項8に記載の注入装置。
【請求項10】
前記ピストンのヘッドは駆動部材に固定される、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1つに記載の注入装置。
【請求項11】
前記ピストンは、前記駆動部材と一体的に形成される、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1つに記載の注入装置。
【請求項12】
前記力付与装置はばねを含み、前記駆動部材は、円筒状であり、前記ばねが内部に配される内側空間を定義する、ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1つに記載の注入装置。
【請求項13】
前記ばね止め機構は前記駆動部材と係合するように構成される、ことを特徴とする請求項12に記載の注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に薬物を注入するために使用されるタイプの注入装置に関する。本発明はとりわけ、そのような注入装置内部における減衰機構の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
ばね駆動式注入装置は知られており、従来のプランジャー駆動式シリンジに入れられた薬物の注射によって、患者や医療専門家を支援するために用いられる。そのような注入装置は一般的に、針が固定されるシリンジを含むためのハウジングと、針を通って患者へと薬物を放出するために、プランジャーをシリンジ本体に入れるための比較的強い圧縮ばねに取り付けられた駆動部材を含む。
【0003】
一例として、特許文献1は、実質的に
図1に例証されるように、注入装置を記載している。この装置は、シリンジからすべての薬物を完全に放出するように意図されている。すなわち、該装置は放出された容量を調節するための機構を有していない。注入装置は、近位のハウジング部分(2)にねじで留められた遠位のハウジング部分(1)を含む(「遠位」や「近位」という用語は、該装置が使用されている際に、患者の皮膚から離れた位置と近くの位置をそれぞれ特定するために、ここで、および、以下のテキストで用いられている)。調整可能な針シールド(3)は、近位のハウジング部分(2)の近位端にさらにねじで留められる。ハウジングスリーブ(4)は、遠位のハウジング部分(1)の上部に摺動可能に取り付けられる。
図1に示されるように、注入装置は、スリーブ(4)内に設けられた窓部(6)を通って突出するばね止め(trigger)(5)を含む。
【0004】
図2は、
図1の先行技術装置を断面図で示す。装置は、ハウジング内にあるシリンジ(7)とともに示されており、シリンジは一方の端部で放射状に伸びる1組の「羽根」(9)を有しているシリンジ本体(8)と、もう一方の端部に形成された針連結器(10)を含む。針(11)は、針連結器(10)を用いてシリンジ本体に取り付けられて示されている。シリンジは、一方の端部に取り付けられたゴム栓(13)と、シリンジ本体を押してプランジャー(12)に通しやくするするために、もう一方の端部に形成された拡大された端面またはプレート(14)とを有するプランジャー(12)も含む。シリンジは、近位のハウジング部分(2)内で同軸上に位置する短い支持チューブ(19)によって近位のハウジング部分(2)内で支持される。環部(23)は、支持チューブ(19)の遠位端のまわりに設けられ、比較的軽いコイルばね(24)のための端部停止部を提供する。コイルばね(24)のもう一方の端部は、近位のハウジング部分(1)の内面にねじで留められたロックチューブ(25)によって止められる。ロックチューブ(25)は同様に、近位のハウジング部分(2)へと支持チューブ(19)を固定するため、この支持チューブは近位のハウジング部分に対して固定される。
【0005】
図2に示されるように、駆動部材(15)は、遠位のハウジング部分(1)内に摺動可能に位置している。駆動部材は一般に、正方形の断面を一般的に有する円筒状である。駆動部材(15)の内部空間内には、比較的強力な圧縮式駆動ばね(16)がある。駆動ばねは、細長いピン(18)によって遠位のハウジング部分(1)に順に固定可能に取り付けられた円筒状の支持シャフト(17)上で支持される。
【0006】
図2は、プライムした位置(primed position)またはコックした位置(cocked position)にある該装置を示しており、ここで、駆動部材(15)は遠位方向に遠位のハウジング部分(1)に押し込まれており、それによって、支持シャフト(17)に沿って駆動ばね(16)を圧縮している。
図2は、遠位のハウジング部分(1)に枢動可能につながれた、および、スリーブ(4)内に形成された窓部(6)から部分的に突出する、ばね止め(5)を示す。ばね止めは、その外部の遠位端にボタン部分(20)を、内部の近位部分に留め金(21)を含む。
図2に例証された位置では、留め金(21)は、駆動部材(15)がプライム状態でばね止めによって保持されるように、駆動部材(15)に形成された対応する凹部(22)と係合している。図では示されていないが、ばね止め(5)は、留め金が、任意の外部の力がないときに駆動部材(15)に対して押圧されるように、その枢軸軸の周りで付勢される。
【0007】
プライムした状態から駆動部材(15)を放し、それによって、患者の皮膚に針(11)を押し込み、シリンジ(7)から薬物を注入するために、ユーザーは、拳のようなグリップのスリーブ(4)をつかみ、針シールド(3)を皮膚へと押しつける。これによって、スリーブ(4)は、遠位のハウジング部分(1)上を滑り、Aを用いて
図2で特定された空隙を埋める。スリーブと遠位のハウジング部分のこの相対運動により、窓部(6)は、ばね止め(5)全体にわたって移動するため、ユーザーが親指でばね止めのボタン部分(20)に圧力をかけると、ばね止めは枢動して、凹部(22)から留め金(21)を外す。いったん駆動部材(15)が解放されると、拡大する駆動ばね(16)によってかけられた力は、駆動部材(15)を前へと押しやり、シリンジプランジャー(12)のエンドプレート(14)と係合させる。
【0008】
装置の動作におけるこの段階では、シリンジ本体(8)が比較的自由に近位のハウジング部分(2)を通って移動することができるため、駆動部材(15)によりプランジャーのエンドプレート(14)にかけられる力によって、シリンジ(7)全体は注入装置の遠位端に近づく。シリンジ本体(8)の端部上に形成された羽根(9)は、支持チューブ環(tube collar)(23)に作用し、同様に支持チューブ(19)を装置の近位端に近づけ、比較的軽いコイルばね(24)を圧縮する。いったんこのばねが完全に圧縮すると、支持チューブ(19)のさらなる移動と、したがって、シリンジ本体(8)の移動は妨げられる。もちろん、この予備的段階の間に、針は、針シールドの端部を越えて患者の皮膚へと突出する。針が針シールド(3)の端部を超えて突出する程度は、近位のハウジング部分(2)の近位端に該シールドをねじで留めること、および、該近位端から該シールドを外すことによって、調節され得る。
【0009】
支持チューブ(19)とシリンジ本体(8)のさらなる移動が妨げられた後、駆動部材(15)がプランジャー(12)に大きな力を働かせ続けることから、プランジャー(12)はシリンジ本体(8)を通って移動し始め、それによって、針(11)を通って薬物を放出する。
【0010】
図1と2で例証された装置は、遠位のハウジング部分(1)とスリーブ(4)の間で接続される、さらなる比較的軽い圧縮ばね(26)を含むことに着目する。このばね(26)は比較的軽く、一旦注入が終わると、スリーブ(4)をその元の位置に戻すことが可能であり、ユーザーは、皮膚との接触から針シールド(3)を解放するとともに、ばね止めのボタン(20)に対する圧力を解放した。
【0011】
図1および2の装置を組み立てるために、近位と遠位のハウジング部分は分離され、薬物を含む完全なシリンジは、その大きな方の開放端を通って近位のハウジング部分に入れられ、その結果、支持チューブ(19)内部で支持されるようになる。ハウジング部分が依然として分離した状態で、駆動部材(15)は、ばね止め(5)上の留め金(21)が駆動部材の凹部(22)に係合して、駆動部材をコックした位置に固定するまで、(例えば、コッキングツール(cocking tool)を用いて)遠位のハウジング部分(1)に押し付けられる。その後、装置は、近位と遠位のハウジング部分を一緒にねじで留めることによって組み立てることができる。
【0012】
注入装置とシリンジの内部の異なる耐性を考慮に入れるために、注入装置は、完全に組み立てられた際に、プランジャー(12)のエンドプレート(14)と駆動部材(15)の反対側の端部との間に小さな空隙ができるように、構成される。この空隙はBを用いて
図2で特定される。このような空隙がないとき、駆動部材はハウジング部分の接続の間にプランジャーのエンドプレートと接触し、下方ハウジングを通って装置の遠位端へとシリンジを動かすこともある。シリンジ本体の当初の突出が起こり、その結果、シリンジからの少量の薬物の放出をもたらすこともあり得る。
【0013】
図1および2に例証されたような先行技術の装置内で観察される潜在的な問題は、シリンジのプランジャー(12)上に駆動部材(15)によってかけられる比較的強い力から生じることである。針を通って患者へと薬物を放出するために、強い力は当然必要とされる。しかしながら、シリンジプランジャー(12)のエンドプレート(14)に達する、駆動部材(15)によって引き起こされた最初の衝撃は、プランジャーまたは駆動部材を破損することもある。例えば、プランジャーの端部が砕けることもあり得る。支持チューブ(19)および/またはシリンジ羽根(9)の上に形成された環部(23)は、ばね(24)が十分な程度まで圧縮されるとき、すなわち、シリンジからの薬物の注入の直前に、破損することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際特許出願公開公報WO94/21316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上に議論された問題を含む既知の注入装置を用いて、特定された問題を克服するか、少なくとも緩和することを目的とする。この目的は、駆動部材によってシリンジプランジャーに与えられる運動エネルギーが最初の動作段階の間に少なくなるように、減衰機構を装置に組み込むことによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、シリンジ本体と、シリンジ本体につながれた針と、針を通って薬物を放出するためにシリンジ本体を通って移動可能なプランジャーとを有するシリンジを用いて使用するための注入装置が提供される。注入装置は、シリンジを保持するための内部空間を定義するとともに、針がハウジング内に完全に収容される第1の位置と針がハウジングから突出する第2の位置からのシリンジの移動を容易にするハウジングと、使用時にハウジング内で保持されるシリンジのプランジャーと係合可能となるように前記内部空間内に配された駆動部材とを含む。該装置は、前記第1の位置から前記第2の位置へとシリンジを移動させ、その後、シリンジ本体を通ってプランジャーを移動させるために、駆動部材に力を与えるための前記内部空間にある力付与装置(force applicator)、ばねと駆動部材をコックした構造で保持し、作動時にばねと駆動部材を解放するためのばね止め機構、および、前記第1の位置から前記第2の位置までのシリンジの移動の間ずっと、または、その特定の間に、駆動部材によってシリンジプランジャーに与えられた運動エネルギーを減衰するためのダンパーをさらに含む。
【0017】
駆動部材の減衰により、シリンジ上の衝撃力は減少し、それによって、使用の間にシリンジと装置に対する破損のリスクが減る。
【0018】
ハウジングは、前記シリンジを保持し、シリンジの前記移動を容易にするための第1のハウジング部分と、第2のハウジング部分を有し、該第2のハウジング部分は、第1と第2のハウジング部分を一緒に固定するために、第1の連結器と係合するための第2の連結器を有し、前記駆動部材は、使用時、第1のハウジング部分内で保持されたシリンジのプランジャーと係合できるように、第2のハウジング部分内にある。あるいは、ハウジングは、1つの主本体部分を含んでもよい。ハウジングは、他のハウジング部分に調節可能につながれた針シールドをさらに含む。
【0019】
力付与装置は、
圧縮ばね、
ねじりばね、
および、電動式の付与装置、の1つであってもよい。
【0020】
ダンパーは、シリンジが前記第2の位置にほぼ達するまで、駆動部材によってプランジャーのコックした位置からシリンジプランジャーに与えられる運動エネルギーを減衰するように構成されてもよい。
【0021】
ダンパーは、
空圧ダンパー、
流体力学ダンパー(hydrodynamic damper)、
および、摩擦ダンパー、の1つであってもよい。
【0022】
ダンパーは、前記駆動部材と係合したヘッドを有するピストンと、ピストンが内部に取り付けられたシリンダを有する空圧ダンパーであってもよく、前記ピストンとシリンダはチャンバーを定義し、ピストンとシリンダの1つは、流体が前記チャンバーに、および、前記チャンバーから流れることを可能にするための通路を定義する。前記ピストンとシリンダは、ピストンが特定の地点を超えてシリンダに対して外側に移動することによって、前記チャンバーへの追加の空気流路が形成され、駆動部材の減衰を減少または除去するように、構成されてもよい。シリンダの端部の内部表面が前記ピストンの端部に対して放射状に外側に先細りになっており、それによって、あらかじめ定められた点を超えてシリンダ内のピストンの外側への移動後に前記チャンバーへの前記追加の空気流路を確立するように、ピストンとシリンダはさらに構成されてもよい。
【0023】
装置は、前記ピストンの外部表面または前記シリンダの内部表面に取り付けられた、および、前記あらかじめ定められた点までピストンとシリンダの間で実質的に気密した密封状態を形成する、Oリングを含んでもよい。
【0024】
前記の力付与装置がばねを含む場合、前記シリンダは、前記第2のハウジング部分に固定してつながれたスピンドルによって設けられてもよく、前記ばねはスピンドルの外側の周りに同軸上に取り付けられる。ピストンは、前記ばねの内部で同軸上に伸張してもよい。
【0025】
ピストンヘッドは駆動部材に固定されている。あるいは、ピストンは、前記駆動部材と一体的に形成されてもよい。
【0026】
力付与装置はばねを含んでもよく、前記駆動部材は、一般的に円筒状で、前記ばねが内部に配される内側空間を定義する。ばね止め機構は前記駆動部材と係合するように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】標準的なシリンジを用いて使用するための先行技術の注入装置を概略的に例証する。
【
図3】駆動部材の減衰機構を含む注入装置の遠位部分の分解図を示す。
【
図4】組み立てられてコックしていない状態(an uncocked state)の、
図3の遠位部分の断面図を示す。
【
図5】コック状態の
図4の組み立てられた遠位部分の断面図を示す。
【
図6】中間発射状態(intermediate firing state)の
図4の組み立てられた遠位部分の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付図面の
図3〜6を参照して、既に
図1および2に関して記載された標準的なシリンジ(7)を用いて使用するのに適した改良型注入装置がここで記載されている。そのようなシリンジは、その近位端に針を取り付けるための連結器を設けた、一般に円筒状のシリンジ本体(8)を含む。シリンジ本体は、手動での使用の間にシリンジを保持するのを補助するように意図された、対の放射状に伸びる羽根(9)がその遠位端に設けられる。シリンジ(7)は針連結器に取り付けられた針(11)を有し、その一方で、プランジャー(12)はシリンジ本体(8)の遠位端に挿入され、該遠位端から突出する。当該技術において周知のように、プランジャー(12)は、シリンジ本体(8)に入れられる薬物を密閉するために、シリンジ本体(8)に挿入される、端部に取り付けられた栓(13)を有する。
【0029】
改良型注入装置は、既知の装置の特定の部品を再利用することができる。とりわけ、ここで記載される実施形態において、近位のハウジング部分(1)、針シールド(3)、支持チューブ(19)、ロックチューブ(25)、および、コイルばね(24)を含む近位の装置部分は、
図1および2に関して記載された部分とほぼ等しい。既知の装置に対する改良は、主として遠位の装置部分に関係する。以下の議論では、
図3〜6で例証された遠位の装置部品が、それぞれのねじ山を用いて、
図1と2の注入装置の近位の装置部分に単に接続されているにすぎないと仮定している。
【0030】
まず
図3および4を参照すると、遠位の装置部分(30)は、一般に長方形の断面を備えた筒状形状を有する遠位のハウジング部分(31)を含む。遠位のハウジング部分(31)の
近位端(図で例証されるような左端の端部)において、断面図は、近位の装置部分の内部表面に形成されたねじ山との係合に適した、外側表面付近に形成されたねじ山を有する連結器を提供するように、円形に変化する。ばね止め(33)は、遠位のハウジング部分(31)と一体的に形成され、一方の端部にはばね止めボタン(34)が、もう一方の端部には留め金(35)が設けられている。ばね止めは中央の回転アクセス(pivot access)の周りを枢動することができる。圧力が放射状に内側方向にばね止めボタン(34)に加えられると留め金(35)が放射状に外側方向に動き、この圧力がその後解放されるとばね止め(33)がもとの位置に戻るように、ばね止め(33)は形成される。したがって、ばね止め(33)の動作は、
図1および2に関して記載された動作におおむね従う。
【0031】
遠位のハウジング部分(31)はスリーブ(36)の内部に容れられ、軽量のコイルばね(37)は、遠位のハウジング部分(31)の端面とスリーブ(36)の内部端面の間に置かれる。スリーブ(36)には、ばね止めボタン(34)を含むばね止め(33)の一部が突出する窓部(38)が作られている。一般に円筒状の支持シャフト(39)は、遠位のハウジング部分(31)内に、装置の軸に沿って中心に取り付けられる。支持シャフト(39)は、細長いロックピン(40)によって適所で保持され、ロックピン(40)上の隆起部(41)は、支持シャフト(39)の内部表面に形成された凹部(42)と係合する(
図4を参照)。主駆動ばね(43)は、支持シャフト(39)の上に同軸上に位置し、任意のさらなる制限なく、支持シャフトの上を自由に移動することができる。支持シャフト(39)は、スピンドル内の中央の円筒状の空間が近位のチャンバー(44)と遠位のチャンバー(45)に分離されるように、形成される。チャンバー(44)および(45)は、互いに流体連通するように、比較的小さな直径のチャネル(46)によって接続されている。遠位の装置部分(30)の様々な部品は、装置の外部から遠位のチャンバー(45)に空気が入り得るようなものである。
【0032】
一般に円筒状の断面を有するピストン(47)は、駆動ばね(43)の1つの端部に挿入される。ピストン(47)は、その近位端に、一般に環状のヘッド(48)を有し、ヘッド(48)の外径は、駆動ばね(43)の外径よりもわずかに大きい。駆動ばね(43)が圧縮されると、ピストン(47)の本体が支持シャフトの近位のチャンバー内で中心に位置するため、該チャンバーはピストンが内部で移動可能なシリンダを提供する。「O」リング(49)は、ピストン(47)の1つの端部の周辺に位置し、ピストンの表面の近くで形成された、周辺に伸張した溝(50)によって適所に保持される。Oリング(49)は、近位のチャンバー(44)内のピストン(47)に適した実質的な密封を保証し、その一方で、ピストンがチャンバー内を軸方向に移動することを可能にする。ピストンをシリンダに密閉するための他の手段は、当業者には容易に明白になるであろう。
【0033】
一般に円形の断面を有する一般に円筒状の駆動部材(51)は、駆動ばね(43)とピストン(47)を囲んでいる。駆動部材(51)は、ピストンヘッド(48)に当たり、かつ、ピストンヘッド(48)に固定される、閉じた遠位端面(52)を有する。駆動部材(51)が内部に形成された凹部(53)を有しているため、駆動部材(51)が遠位のハウジング部分(31)に押し込まれ、それによって、駆動ばね(43)を圧縮する場合に、ばね止めの留め金(35)は、凹部(53)に係合して、駆動部材(51)をコック位置に固定する。既に以前に記載したように、いったん凹部(53)と係合すると、ばね止めの留め金(35)は、スリーブ(36)の係合により適所に保持される。
【0034】
図4は、当初のコックしていない状態の遠位の装置部分(30)を示している。この状態では、遠位の装置部分(30)は、(
図1および2の)近位の装置部分には取り付けられない。遠位の装置部分をプライムするために、ユーザーは、例えば、適切なコックキングツールを用いて、遠位のハウジング部分(31)に駆動部材(51)を押し込む。駆動部材(51)は、ばね止めの留め金(35)が所定の位置にカチンとかかって、部品を一緒に固定するまで、遠位のハウジング部分に押し込まれる。装置のこのコック状態は
図5に例証されており、この図から、駆動ばね(43)はほぼ完全に圧縮した状態であることがわかる。この段階で、および、上に議論されているように、装置は、薬物を入れたシリンジ(7)を、まず近位の装置部分に入れることによって組み立てられる。その後、近位および遠位の装置部分は、それぞれのねじ山と係合し、かつ、ねじ山を閉じることによって、一緒に接続される。
【0035】
図1および2の装置と同様に、ひとたび装置が完全に組み立てられると、駆動部材(51)の端面(52)とシリンジプランジャー(12)(簡略化のため、シリンジは
図3〜6には示されていない)の反対側の端部との間に、小さな空隙Bができる。この状態で、ピストン(47)は、支持シャフト(39)の近位のチャンバー(44)内に大部分が入れられる。一旦組み立てられると、装置は患者が使える状態にある。
【0036】
既に議論されてきたように、患者は、拳のようなグリップのスリーブをつかみ、皮膚に針シールドの端部を押しつけることによって、装置を使用する。これによって、スリーブ(36)が患者の皮膚の方向に遠位のハウジング部分(31)上を滑ると、窓部(38)はばね止めの留め金(35)にわたって開く。その後、ユーザーは、親指でばね止めボタン(34)を押し、ばね止め(33)を枢動させ、駆動部材の凹部(53)からばね止めの留め金(35)を上げる。駆動ばね(43)は、軸方向に、かつ、近位方向に伸張し始め、まずピストン(47)を、次に駆動部材(51)を、装置の
近位端に向かって軸方向に押す。当初の駆動段階では、ピストンが近位のチャンバー(44)を通って移動するため、空気は、近位のチャンバーと遠位のチャンバーを接続する小さなチャネル(46)を通ってそのチャンバーに吸収される。この通路(47)の直径が比較的小さいことから、チャンバーの間の空気の流れは制限され、近位のチャンバーを通るピストン(47)の移動の減衰と、ゆえに、駆動部材(51)の移動の減衰をもたらす。事実、これは、ピストン(47)によってプランジャー(12)に加えられた運動エネルギーを減衰する。したがって、プランジャーのエンドプレート(14)へのピストンヘッド(48)の衝撃は、減衰されない駆動部材(
図1および2)からの衝撃と比較して、著しく減少する。
【0037】
ピストン(47)の移動は、プランジャーエンドプレート(14)への衝撃の後、すなわち、近位の装置部分を通るシリンジ(7)の移動の間、減衰され続ける。その結果、シリンジ針(11)は、それ以外の場合に考えられ得るよりも遅い速度で患者の皮膚に挿入される。ピストンの移動は、支持チューブ(19)の環部(23)がロックチューブ(25)と接触するようになる点に至るまで減衰されるため、ロックチューブ(25)への環部(23)の衝撃、および、環部(23)へのシリンジ羽根(9)の衝撃は、大幅に減少する。したがって、既知の装置と比較して、これらの衝撃の結果として、装置への損傷の危険は減る。
【0038】
ピストン(47)と近位のチャンバー(44)の寸法は、動作段階のこの時点で、または、この時点あたりで、近位のチャンバー内のピストンの端部が、近位のチャンバーの先細りになった、または、溝の付いた端部領域(54)に入るようなものである。空気がOリング(49)の表面付近を流れ、近位のチャンバー(44)に入ることが可能となるように、ピストンとチャンバー壁の間に壁が現われる。この空気の流れは、相互に連結したチャネル(46)を通る空気の流れと比較して非常に重要であるため、近位のチャンバー(44)内でのピストン(47)の移動は、(プランジャー(12)によって示された抵抗性による以外は)もはや有意な程度には減衰されない。したがって、駆動ばね(43)の完全な膨脹力が駆動部材(51)にかかるため、駆動部材(51)はシリンジ本体(8)の中へのプランジャー(12)の移動を加速するようになる。増加した力は所望の速度で針(11)を通って薬物を注入するのに十分である。
【0039】
図6は、針が針シールドから突出し始める点と(図では示されず)、近位の装置部分を通るシリンジ本体の移動が止まる点における、遠位の装置部分(30)の形態を示している。記載されたように、この点において、ピストン(47)に取り付けられたOリング(49)は、近位のチャンバーの溝の付いた端部領域(54)に入ったばかりである。近位のハウジング部分への駆動部材(51)の前進は、ピストン(47)全体が支持シャフト(39)の近位のチャンバー(44)の外側にくる地点まで続き、または、該地点を超えて続く。結局、上に記載されたように、駆動部材(51)はそのストロークの終わりに達し、シリンジからの薬物の送達は完了する。この時点で、遠位の装置部分(30)は、
図4に示される形態である。ユーザーはここで、皮膚から針を取り除き、近位の装置部分と遠位の装置部分とを切り離し、用いられたシリンジと針を取り除くことができる。必要に応じて、新しいシリンジが近位の装置部分に入れられ、遠位の装置部分はコックされ、および、装置は再度組み立てられて使えるようにすることができる。
【0040】
様々な改良が本発明の範囲から逸脱することなく上記の実施形態になされてもよいことは、当業者には分かるであろう。とりわけ、当業者は、当初の動作段階の間の駆動部材の移動を減衰する他の手法が使用されてもよいことを理解しているであろう。例えば、近位のチャンバーまたはピストンシリンダへの空気の流れを制限することにより、ピストンの移動を減衰するよりもむしろ、減衰は、ピストンの外部表面とチャンバーの内部表面の間の適切な虚構の係合を提供することにより達成されてもよく、その虚構の係合は プランジャーがシリンジを通って移動し始める点で、または、その点のあたりで、取り除かれる。他の改良は、空気が通路(47)を通って近位のチャンバー(44)から容易に流れることができるように(ただし、逆方向ではなく)―これによって、ピストンとシリンダは空気ばねのように動作する―通路(47)への一方向バルブを含むこと、減衰機構において空気以外の流体を用いること、駆動部材を押すために、圧縮ばね以外の力付与装置、例えば、ねじりばね、または、電動式の付与装置を使用すること、および、単一の部分装置(調整可能な針シールドを含む)としてハウジングを形成すること、を含んでいる。