特許第5847330号(P5847330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847330
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】靭性及び溶接性に優れた耐摩耗鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20151224BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   C22C38/00 301H
   C22C38/14
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-550007(P2014-550007)
(86)(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公表番号】特表2015-503676(P2015-503676A)
(43)【公表日】2015年2月2日
(86)【国際出願番号】KR2012011559
(87)【国際公開番号】WO2013100625
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2014年8月25日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0145204
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ジョン−キョ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、 ウ−キル
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ヨン−ファン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ホン−ジュ
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−143027(JP,A)
【文献】 特開2001−234242(JP,A)
【文献】 特開昭50−140316(JP,A)
【文献】 特開昭51−006812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 〜 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、マンガン(Mn):2.6〜4.5%、炭素(C):(6−Mn)/50≦C≦(10−Mn)/50、シリコン(Si):0.05〜1.0%と、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%は含まない)、バナジウム(V):0.1%以下(0%は含まない)、チタン(Ti):0.1%以下(0%は含まない)及びボロン(B):0.02%以下(0%は含まない)からなる群より選択される1種または2種以上の成分と、残部の鉄(Fe)及びその他不可避な不純物とからなり、表層部でのブリネル硬さが360〜440であることを特徴とする、耐摩耗鋼。
【請求項2】
前記耐摩耗鋼の微細組織はマルテンサイトを90%以上含むことを特徴とする、請求項1に記載の耐摩耗鋼。
【請求項3】
前記マルテンサイトの平均パケットサイズは20μm以下であることを特徴とする、請求項に記載の耐摩耗鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリネル硬さ360以上が求められる建設重機、ダンプトラック、鉱山用機械装置、コンベアなどに適用される鋼に関し、より詳細には、靭性及び溶接性に優れた耐摩耗鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
現在では、建設、運送、鉱山、鉄道などの産業分野で使用される耐摩耗特性が必要な装置または部品に耐摩耗鋼が用いられている。
【0003】
耐摩耗鋼は、オーステナイト系加工硬化鋼とマルテンサイト系高硬度鋼に大別される。
【0004】
オーステナイト系耐摩耗鋼の代表的なものとして挙げられるのは、過去100年余り使用されたハドフィールド鋼(Hadfield)である。ハドフィールド鋼は、マンガン(Mn)約12%及び炭素(C)約1%を含み、その微細組織はオーステナイトを有し、鉱山産業分野、鉄道分野、軍需分野などの様々な分野で使用されている。しかし、初期降伏強度が400MPa前後と極めて低く、一般的な耐摩耗鋼または構造鋼として適用するには制限がある。
【0005】
一方、マルテンサイト系高硬度鋼は、高い降伏強度及び引張強度を有するため、構造材及び運送/建設機械などに広く用いられている。通常、高硬度鋼は高炭素、高合金元素を含み、十分な強度を得ることができるマルテンサイト組織を確保するために焼き入れ(Quenching)工程が必須である。代表的なマルテンサイト系耐摩耗鋼は、SSAB社のハルドックス(HARDOX)シリーズであり、優れた強度及び硬度を有する。
【0006】
一方、耐摩耗鋼は、その使用環境に応じて、アブレシブ摩耗(Abrasive wear)に対する抵抗性の大きいことが求められる場合が多く、アブレシブ摩耗に対する抵抗性を確保するためには、表層部の硬度が極めて重要である。通常、表層部を高硬度化するために、合金元素を多く添加し、このような耐アブレシブ摩耗用耐摩耗鋼は、表層部の硬度に効果の大きい炭素を多量に含有する。しかし、炭素を多量に含有すると、溶接時、溶接部などに割れが発生しやすくなるという問題が生じる。また、製品が厚くなると、中心部まで高い硬度を得ることが困難であり、これを補うために、クロム(Cr)やモリブデン(Mo)などの硬化元素を多量に添加するが、このような高価な硬化元素の添加により、製造費用が高くなるという問題がある。さらに、製品の衝撃特性を向上させるために、高価なニッケル(Ni)を添加することもあるが、製品が厚くなると、必要なNi含量が増加するため、経済的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面は、上述した問題点を解決するためのものであり、製造費用を増加させる高価な元素であるニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)などの合金成分の含量を相対的に低減させ、溶接部の特性にも優れた低価の耐アブレシブ摩耗鋼に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、重量%で、マンガン(Mn):2.6〜4.5%、炭素(C):(6−Mn)/50≦C≦(10−Mn)/50、シリコン(Si):0.05〜1.0%、残部の鉄(Fe)及びその他不可避な不純物を含み、表層部でのブリネル硬さが360〜440であることを特徴とする耐摩耗鋼を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、耐摩耗性、溶接性及び靭性に優れた耐摩耗鋼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マンガン含量に応じて、Y形溶接割れ(Y−groove)試験時、低温割れの発生を防止するための最小予熱温度を測定して示したものである。
図2】本発明で限定するマンガンと炭素の含量範囲を示したものである。
図3】本発明で導出された炭素含量による表層部のブリネル硬さの変化を示したものである。
図4】本発明による高マンガン耐摩耗鋼と従来の耐摩耗鋼のPc値による溶接性を示したものである。
図5】本発明による高マンガン耐摩耗鋼と従来の耐摩耗鋼の厚さ方向のブリネル硬さの変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、従来の耐アブレシブ摩耗用耐摩耗鋼の問題点を解決すべく研究を重ねた結果、適正量のマンガンを添加し、炭素含量をマンガン含量に応じて精密制御することにより、高価なニッケル、モリブデン、クロムなどの合金成分の含量を相対的に低減させながら、耐摩耗性、靭性、溶接性などの性能を向上させた耐アブレシブ摩耗用耐摩耗鋼を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明は、成分系を制御してマルテンサイトが主相として含まれるようにすることで、耐摩耗性、溶接性、靭性などの性能を向上させた低炭素高マンガン耐摩耗鋼に関するものである。
【0013】
通常、高マンガン鋼は、2.6重量%以上のマンガン含量を有する鋼のことであり、該高マンガン鋼の微細組織的特徴を利用して多様な物性組合せを構成することができ、上述した既存の高炭素高合金マルテンサイト系耐摩耗鋼が有する技術的な問題点を解決することができる。
【0014】
高マンガン鋼におけるマンガン含量が2.6重量%以上では、連続冷却変態曲線(Continuous Cooling Transformation Diagram)上において、ベイナイトまたはフェライトの生成曲線が後方に急激に移動するため、熱間圧延または溶体化処理後に既存の高炭素耐摩耗鋼に比べて低い冷却速度でもマルテンサイトが安定的に生成される。また、マンガン含量が高いと、一般的な高炭素マルテンサイト鋼に比べて相対的に低い炭素含量でも高い硬度を得ることができるという長所がある。
【0015】
このような高マンガン鋼の相変態特性を用いて耐摩耗鋼を製造すると、表層から内部までの硬度のバラツキが少ないという利点が得られる。マルテンサイトを得るためには、水冷などを介して鋼材を急冷するが、このとき、鋼材の表層から中心部に向かうほど冷却速度が次第に減少する。従って、鋼材が厚くなるほど、中心部の硬度が著しく低下する。既存の耐摩耗鋼の成分系を利用して製造する場合、冷却速度が遅いと、微細組織にベイナイトやフェライトなどの硬度の低い相が多く形成される。しかし、本発明のように、マンガン含量が高いと、冷却速度が遅くなっても十分にマルテンサイトが得られるため、厚い鋼材の中心部まで高い硬度を保持することができる。このような内容は下記実施例をもってより具体的に説明する。
【0016】
しかし、比較的少量の炭素を添加しても硬度は急激に上昇するが、過度に添加すると、衝撃靭性が著しく低下する。従って、高マンガン鋼が高硬度耐摩耗鋼の要求物性を有するためには、マンガンだけでなく、炭素含量を最適化しなければならない。また、ニオブ、バナジウム、チタン、ボロンなどの合金元素をさらに添加することができ、その含量を制御して硬度、溶接性、靭性などが向上した鋼材を提供することができる。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る耐摩耗鋼は、重量%で、マンガン(Mn):2.6〜4.5%、炭素(C):(6−Mn)/50≦C≦(10−Mn)/50、シリコン(Si):0.05〜1.0%、残部の鉄(Fe)及びその他不可避な不純物を含み、表層部でのブリネル硬さ(HB)が360〜440である。
【0018】
以下では、本発明の耐摩耗鋼において、上記のように成分を制限する理由について詳細に説明する。
【0019】
ここで、成分元素の含量はすべて重量%を意味する。
【0020】
Mn:2.6〜4.5%
マンガン(Mn)は、本発明に添加される最も重要な元素の一つである。マンガンは、適正範囲内でマルテンサイトを安定化させる役割をすることができる。下記炭素含量の範囲内でマルテンサイトを安定化させるためには、マンガンが2.6%以上含まれることが好ましい。2.6%未満では、硬化能があまりにも足りなくてフェライトまたはベイナイトが容易に形成されるため、所望する表層部の硬度が得られない。一方、過度に添加すると、溶接時に溶接が困難となる問題点があり、特に、その含量が4.5%を超えると、マルテンサイトが形成される温度が低くなり過ぎて、溶接部で割れが容易に発生して溶接性を著しく低減させる恐れがあり、また、鋼材の製造原価が上昇する。従って、本発明は、上記のように、マンガンを2.6〜4.5%含ませることで、熱間圧延または溶体化処理後の冷却段階で安定したマルテンサイト組織を容易に確保することができる。
【0021】
溶接性を確保することができるマンガン含量の上限値を具体的に限定するために、炭素含量を0.1%、シリコン含量を0.3%に固定した上で、マンガン含量を1.5〜6.5%の範囲で変化させながらY形溶接割れ試験を行った。ここで、板材の厚さは20mmに設定し、予熱温度を変化させることで、予熱温度が低温割れの発生に及ぼす影響を確認し、マンガン含量による溶接部の割れが発生しない最小予熱温度を求めて、その結果を図1に示した。
【0022】
図1に示されたように、予熱温度を実際の製品製造工程で容易に適用できる100℃以下に下げるためには、マンガンが4.5%以下含有されなければならないことが分かった。上記実験結果を踏まえて、溶接性を確保するためのマンガン含量の上限値は4.5%に制限する必要がある。
【0023】
C:(6−Mn)/50≦炭素(C)≦(10−Mn)/50
炭素(C)は、鋼材の表層部の硬度の確保を容易にしたり、靭性及び溶接性を低下させる側面においてマンガンと類似する効果を発揮するため、炭素含量の最適な範囲はマンガン含量に依存するようになる。そのため、本特許では、その効能が最大化される成分範囲を限定する。
【0024】
本発明が求める表層部の硬度を十分に確保するためには、炭素を(6−Mn)/50以上添加することが好ましい。但し、過度に添加すると、靭性及び溶接性を著しく低下させて、使用上に大きな制約が生じるため、表層部のブリネル硬さが360〜440の範囲を有するように、その上限を(10−Mn)/50に限定する必要がである。
【0025】
上述したように、本発明は、表層部のブリネル硬さを360〜440の範囲に限定する耐アブレシブ摩耗用鋼材に関するもので、図2には、本発明で限定するマンガンと炭素の範囲を示した。
【0026】
マンガン含量に応じた炭素含量の範囲を数値的に限定すべく、マンガン含量を約4%に固定し、炭素含量を0.03〜0.14%の範囲に変化させながら、熱間圧延及び急冷してマルテンサイト組織を得て、炭素含量の変化に応じた表層部のブリネル硬さの変化を調べた。こうして得られた結果を図3に示した。当該結果から、マンガン含量が4%程度である場合、ブリネル硬さが360〜440の範囲となるためには、炭素含量が約0.04〜0.12%の範囲でなければならないことが分かった。該実験結果に基づき、目標とする表層部のブリネル硬さの範囲(360〜440)を得るためには、マンガン含量に応じた炭素含量の範囲が大体(6−Mn)/50から(10−Mn)/50の間の値でなければならないという結論を得ることができた。
【0027】
Si:0.05〜1.0%
シリコン(Si)は脱酸剤としての役割を果たし、固溶強化による強度を向上させる元素であるが、製造工程上、その下限は0.05%であり、その含量が高いと、溶接部及び母材の靭性を低下させるため、シリコン含量の上限は1.0%に限定することが好ましい。
【0028】
本発明による耐摩耗鋼において、残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の鉄鋼製造過程で原料または周囲環境から意図しない不純物がやむを得ずに混入されることがあるため、これは排除できない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造過程の技術者であれば、誰にでも知り得るものであるため、本明細書ではそれに対して具体的に言及しない。
【0029】
本発明の鋼材は、上記成分に下記のニオブ、バナジウム、チタン、ボロンのうち1種以上をさらに添加すると、本発明の効果をさらに向上させることができる。
【0030】
Nb:0.1%以下(0%は含まない)
ニオブ(Nb)は固溶及び析出強化効果により強度を増加させ、低温圧延時に結晶粒を微細化させて、衝撃靭性を向上させる元素である。その含量が0.1%を超えると、粗大な析出物が生成されて却って硬度及び衝撃靭性を劣化させるため、0.1%以下に限定することが好ましい。
【0031】
V:0.1%以下(0%は含まない)
バナジウム(V)は、鉄鋼に固溶されてフェライト及びベイナイトの相変態速度を遅延させて、マルテンサイトの形成を容易にし、また、固溶強化効果により強度を増加させる。しかし、その含量が0.1%を超えると、効果が飽和し、靭性及び溶接性の劣化を引き起こし、鋼材の製造原価を著しく増大させるため、0.1%以下に限定することが好ましい。
【0032】
Ti:0.1%以下(0%は含まない)
チタン(Ti)は、焼入れ性の向上に重要な元素であるBの効果を極大化する元素である。即ち、チタンはTiNを形成してBNの形成を抑制することで固溶Bの含量を増加させて焼入れ性を向上させ、析出されたTiNはオーステナイト結晶粒を固定(pinning)させて結晶粒の粗大化を抑制する。しかし、過度に添加すると、チタン析出物の粗大化により靭性が低下するなどの問題が生じるため、0.1%以下に限定することが好ましい。
【0033】
B:0.02%以下(0%は含まない)
ボロン(B)は、少量の添加でも材料の焼入れ性を効果的に増加させる元素であり、結晶粒界の強化による粒界破壊の抑制効果があるものの、過度に添加すると、粗大な析出物の形成などにより、靭性及び溶接性を低下させるため、0.02%以下に限定することが好ましい。
【0034】
上述した成分系を満たす本発明の鋼材は、熱間圧延及び冷却工程を通じて製造されてもよく、熱間圧延後の再加熱及び冷却工程を通じて製造されてもよい。上記のように製造された鋼材の微細組織の主相はマルテンサイトで、上記マルテンサイトが90%以上含まれることが好ましい。マルテンサイトの分率が90%未満では、本発明が意図する硬度を確保することができない。従って、マルテンサイトを90%以上得るためには、熱間圧延または再加熱後オーステナイト状態で急冷する必要があり、そのための冷却速度は合金成分の添加量によって異なるため、一律に定義することは難しいが、本発明の成分範囲では、秒当り15℃以上に冷却すると、90%以上の組織がマルテンサイトになるようにすることができるため、好ましい。
【0035】
さらに、上記マルテンサイトの平均パケットサイズは20μm以下であることがより好ましい。上記パケットサイズが20μm以下では、マルテンサイトの組織が微細化されて衝撃靭性がさらに向上する。パケットサイズは小さければ小さいほどよいため、その下限は特に制限しない(即ち、0μmのみを含まない概念である)。但し、現在の技術的限界上、上記パケットサイズは通常3μm以上である。パケットサイズは、熱間圧延及び冷却工程を適用する場合には、仕上げ圧延温度が低いほど小さくなり、再加熱及び冷却工程を適用する場合には、再加熱温度が低いほど小さくなる。本発明の成分範囲でパケットサイズが20μm以下になるようにするためには、仕上げ圧延温度は900℃以下、加熱温度は950℃以下を保持することが好ましい。
【0036】
本発明による成分範囲の鋼材に熱間圧延及び冷却または再加熱及び冷却の製造方法を適用すると、表層部のブリネル硬さが360〜440範囲となるようにすることができるとともに、シャルピー衝撃エネルギー(−40℃)25J以上の特性を得ることができる。
【0037】
<実施例>
下表1に記載された合金成分を含有するスラブを再加熱及び熱間圧延し、高圧水で冷却するなどの一連の工程により製造された鋼種1〜18の微細組織及びマルテンサイトのパケットサイズ、表層部のブリネル硬さ、衝撃靭性、耐摩耗性、溶接性などを測定して表2に示した。本発明により製造された耐摩耗鋼と比較するために、鋼種19は、従来の方法により製造されたブリネル硬さ400級の耐アブレシブ摩耗用耐摩耗鋼の合金成分を有する。
【0038】
鋼種1〜11は、本発明で限定する成分範囲に含まれる鋼種である。しかし、鋼種12はマンガン含量が本発明で限定する範囲を超える鋼種であり、鋼種13はマンガン含量が本発明で限定する範囲に達していない鋼種である。鋼種14及び15は炭素含量が本発明で限定する範囲を超える鋼種であり、鋼種16及び17は炭素含量が本発明で限定する範囲に達していない鋼種である。また、鋼種18は、炭素及びマンガンは本発明で限定する範囲に含まれるが、シリコン含量が本発明で限定する範囲を超える鋼種である。一方、鋼種6〜9には、ニオブ、バナジウム、チタン、ボロンなどの微量合金元素がさらに含有されている。
【0039】
表1に記載された鋼種の成分を有するインゴットを、実験室で真空誘導溶解炉で製造し、熱間圧延により70mm厚のスラブを得た。このスラブを利用して、粗圧延及び仕上げ圧延を経て13mm厚の板材を製造した。熱間圧延された材料を直ぐに高圧水を噴射する加速冷却装置に通過させて急冷した。試験用途に応じて、仕上げ圧延温度を調整し、微細組織を変化させるために冷却水の圧力を調整した。
【0040】
【表1】
【0041】
こうして得られた板材の微細組織、表層部の硬度、衝撃靭性、耐摩耗性、溶接性などを評価するために、試験に適した形の試片を製造した。微細組織は光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、表層部の硬度は表面から2mm程度の深さに研削した後、ブリネル硬さ試験機を用いて測定した。耐摩耗性は、ASTMG65に記載された方法で実験し、減量した重さを測定して比較した。溶接性の評価には、Y形溶接割れ試験法を用い、予熱はしなかった。Yグルーブ溶接をした後、溶接部の割れ有無を顕微鏡で観察した。
【0042】
本実施例で用いられた試片は、熱間圧延後直ぐに急速冷却してマルテンサイトを得る工程で製造されたが、設備によっては、熱間圧延後に一般冷却をし、別途の熱処理設備を用いて再加熱してから、急速冷却してマルテンサイトを得る場合もある。従来、後者が耐アブレシブ摩耗用耐摩耗鋼の製造方法に用いられたが、最近では、納期を短縮し、製造原価を低減させるために、前者の方法、即ち、直接焼入れ法(Direct Quenching)で製造する場合もある。本発明は、上記二つの製造方法の両方に適用することができる。
【0043】
【表2】
【0044】
上記表2に示されたように、鋼種1〜9は発明材であり、鋼材の成分が本発明の成分範囲を満たしており、ブリネル硬さが360〜440の範囲内であることが分かる。このうち、ニオブやバナジウムを添加した場合(鋼種6、7、9)は硬度がさらに上昇し、特に、ニオブを添加した場合(鋼種6、9)にはパケットサイズも小さく、その結果、相対的に高い衝撃靭性を示した。チタンとボロンを複合添加した場合(鋼種8、9)にも高い衝撃靭性を示し、特に、ニオブ、バナジウム、チタン、ボロンを全て添加した鋼種9は、最も高い衝撃靭性を示した。
【0045】
耐摩耗性試験の結果は、耐摩耗性は、大体ブリネル硬さに依存しており、微細組織におけるベイナイトの分率が高い場合には、耐摩耗性が著しく低下した。
【0046】
鋼種10〜18は比較材で、成分や微細組織が本発明の範囲から外れており、ブリネル硬さ、衝撃靭性、溶接性などの性能が低下した。
【0047】
鋼種10は、成分は本発明の範囲を満たすが、圧延後の冷却速度が遅い場合であって、最終微細組織のマルテンサイトの分率が75%と低く、残りはベイナイトであった。この場合、ブリネル硬さが本発明で限定する範囲より低く、特に耐摩耗性が著しく劣化した。
【0048】
鋼種11は、微細組織が100%マルテンサイトであるが、パケットサイズが28μmと粗大であり、衝撃靭性が低かった。
【0049】
一方、鋼種12は、マンガン含量が本発明で限定する範囲より多く添加されたものであって、硬度及び衝撃靭性はよいが、Y形溶接割れ試験時に割れが発生した。
【0050】
鋼種13は、逆に、マンガン含量が本発明で限定する範囲より少なく添加されたものであって、硬化能が低くて、高圧水で加速冷却しても30%程度のベイナイトが形成された。その結果、表層部の硬度が本発明の範囲より低く、これにより、耐摩耗性も著しく低下するという問題が生じた。
【0051】
鋼種14及び15は、炭素含量が本発明で限定する範囲を超えるものであって、硬度値も範囲を超えており、特に、衝撃靭性が低くて、Y形溶接割れ試験時に割れが発生した。
【0052】
鋼種16は、炭素含量が本発明で限定する範囲より低いものであって、マルテンサイトの分率が90%と低くて、硬度が低くなった。
【0053】
鋼種17も炭素含量が本発明で限定する範囲より低いものであって、マルテンサイトの分率は本発明で限定する範囲に含まれるが、炭素含量が低くて、硬度が低くなった。
【0054】
鋼種18は、シリコンが本発明で限定する範囲より多く添加されて表層部の硬度が範囲から外れて高く、Y形溶接割れ試験時に割れが発生した。
【0055】
これまで、耐アブレシブ摩耗用耐摩耗鋼に必要な微細組織を得るために、通常、ニッケル、モリブデン、クロムなどを多く使用してきたが、本発明では製造原価を低減させるために、これらの合金元素と類似する性能を発揮するが、値段の安いマンガンを主な成分として選択した。
【0056】
また、図4に示されたように、マンガンが耐摩耗鋼の溶接性を向上させる優れた効果を同時に有するため、本発明では、マンガンを最も重要な硬化能要素として採択した。
【0057】
図4は、一般耐摩耗鋼と本発明で考案された高マンガン耐摩耗鋼の溶接性を比較したものである。一般耐摩耗鋼とは、現在市販されている耐摩耗鋼のことで、高マンガン耐摩耗鋼とは、本発明による成分範囲及び製造方法を満たす耐摩耗鋼のことである。数多い種類の合金組成と製品の厚さで、Y形溶接割れ試験を行い、溶接部の割れの発生有無を観察した。また、溶接時の予熱の影響度を評価するために、広い範囲で予熱して試験を行った。
【0058】
図4において、横軸であるPc値は、合金成分、溶接棒の水素含量、及び板材の厚さによって決まり、以下の数式で表される。
【0059】
[数1]
=PCM+H/60+t/600
【0060】
ここで、PCMは合金成分により決まる値で、以下の数式で表され、Hはグリセリン法で測定された拡散性水素量(ml/100g)、tは板材の厚さである。
【0061】
[数2]
CM(%)=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Ni/60+Mo/15+V/10+5B
【0062】
図4に示したデータにおいて、実線で示したのは、本発明における高マンガン耐摩耗鋼のY形溶接割れ試験結果であり、点線で示したのは、一般耐摩耗鋼のY形溶接割れ試験の結果である。当該図面から、本発明による高マンガン鋼は、一般耐摩耗鋼に比べて、割れ未発生領域が右側に偏っていることが明確に分かる。これは、同じP値の場合、高マンガン鋼が一般耐摩耗鋼に比べてY形溶接割れ試験時に割れが発生し難いことを意味する。
【0063】
また、図5は、本発明による成分系で製造した耐摩耗鋼(鋼種3)と通常の技術で製造した耐摩耗鋼(鋼種19)の厚さ方向の硬度分布を測定した結果を示したものである。このとき、製品の厚さはともに50mmに設定した。
【0064】
図5に示されたように、本発明による耐摩耗鋼は、厚さ方向の硬度分布が一定であるが、通常の技術で製造された比較材は、中心部で硬度が著しく低下することが分かる。中心部に向かうほど、硬度が低下すると、耐摩耗鋼の全体的な使用寿命が短縮される結果をもたらすことになる。
図1
図2
図3
図4
図5