特許第5847352号(P5847352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5847352-リチウム金属複合酸化物粉体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847352
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】リチウム金属複合酸化物粉体
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20151224BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20151224BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20151224BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/485
   H01M4/505
   H01M4/36 C
   H01M4/36 B
【請求項の数】10
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2015-504324(P2015-504324)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055435
(87)【国際公開番号】WO2014136760
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-42282(P2013-42282)
(32)【優先日】2013年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-93816(P2013-93816)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光本 徹也
(72)【発明者】
【氏名】井手 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】蔭井 慎也
(72)【発明者】
【氏名】畑 祥巳
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/091028(WO,A1)
【文献】 特開2010−064907(JP,A)
【文献】 特開2007−214118(JP,A)
【文献】 特開2011−238416(JP,A)
【文献】 特開2011−228292(JP,A)
【文献】 特開2012−221855(JP,A)
【文献】 特開2011−119092(JP,A)
【文献】 特開2002−222648(JP,A)
【文献】 特開2005−029424(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161619(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):Li1+x1-x2で表わされる層構造を有するリチウム金属複合酸化物を含有するリチウム金属複合酸化物粉体であって、
上記式(1)中の「1+x」は1.00〜1.15であり、「M」はMn、Co及びNiの3元素であるか、又は、これら3元素と、Al、Ti及びMgのうちの少なくとも一種以上とを含む4元素以上であり、且つ、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50(「D50」と称する)が4μmより大きく、20μmより小さく、且つ、
BET法によって求められる比表面積が0.3m/gより大きく、且つ3.0m/gより小さく、且つ、
比表面積当たりのカーボン量(カーボン量/比表面積)が3000(ppm/(m/g))以下であり、且つ
原子吸光分光分析装置で測定して得られるNa量が300ppm以下であり、且つ、
比表面積当たりの表面残存アルカリ値(表面残存アルカリ値/比表面積)が0.55(%/(m/g))未満であり、且つ、
磁着物量が200ppb未満であり、且つ、
ICP発光分析装置で測定して得られるS量が、前記リチウム金属複合酸化物粉体(100質量%)の0.10質量%未満であり、且つ、
CuKα線を使用したX線回折によって得られるX線回折パターンを使って、シェラーの式から計算される、前記リチウム金属複合酸化物の(110)面の結晶子サイズに対する、(003)面の結晶子サイズの比率が1.0以上かつ2.5より小さく、且つ、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50(「D50」と称する)に相当する大きさの二次粒子から下記測定方法によって求められる二次粒子面積に対する、下記測定方法によって求められる一次粒子面積の比率(「一次粒子面積/二次粒子面積」と称する)が0.004〜0.035であることを特徴とするリチウム金属複合酸化物粉体。
(二次粒子面積の測定方法)
リチウム金属複合酸化物粉体を電子顕微鏡で観察し、D50に相当する大きさの二次粒子をランダムに5個選択し、該二次粒子が球状の場合はその粒子の長さを直径(μm)として面積を計算し、該二次粒子が不定形の場合には球形に近似をして面積を計算し、該5個の面積の平均値を二次粒子面積(μm)として求める。
(一次粒子面積の測定方法)
リチウム金属複合酸化物粉体を電子顕微鏡で観察し、1視野あたり5個の二次粒子をランダムに選択し、選ばれた二次粒子5個から一次粒子をそれぞれ10個ランダムに選択し、該一次粒子が棒状の場合はその粒界間隔の最も長い部分を長径(μm)、その粒界間隔の最も短い部分を短径(μm)として面積を計算し、該一次粒子が球状の場合はその粒界間隔の長さを直径(μm)として面積を計算し、該50個の面積の平均値を一次粒子面積(μm)として求める。
【請求項2】
CuKα線を使用したX線回折によって得られるX線回折パターンにおいて、前記リチウム金属複合酸化物の(104)面の積分強度に対する、(003)面の積分強度の比率が1.15より大きいことを特徴とする、請求項1記載のリチウム金属複合酸化物粉体。
【請求項3】
下記測定方法で求められる一次粒子面積が0.002μm〜13.0μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物粉体。
(一次粒子面積の測定方法)
リチウム金属複合酸化物粉体を電子顕微鏡で観察し、1視野あたり5個の二次粒子をランダムに選択し、選ばれた二次粒子5個から一次粒子をそれぞれ10個ランダムに選択し、該一次粒子が棒状の場合はその粒界間隔の最も長い部分を長径(μm)、粒界間隔のもっとも短い部分を短径(μm)として面積を計算し、該一次粒子が球状の場合はその粒界間隔の長さを直径(μm)として面積を計算し、該50個の面積の平均値を一次粒子面積(μm)として求める。
【請求項4】
CuKα線を使用したX線回折によって得られるX線回折パターンを使ってリートベルト解析して得られる、前記リチウム金属複合酸化物の3aサイトのLiの席占有率が0.97以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体。
【請求項5】
リチウム金属複合酸化物粒子表面の全面または一部に、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びジルコニウム(Zr)からなる群のうちの一種又は二種以上を含有する表面層を備えた請求項1〜4の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体。
【請求項6】
表面層の厚さが0.01nm〜200nmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体の製造方法であって、
リチウム金属複合酸化物原料の焼成、洗浄又は磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって得られるリチウム金属複合酸化物原料を使用して製造することを特徴とするリチウム金属複合酸化物粉体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体の製造方法であって、
リチウム金属複合酸化物原料の焼成、洗浄又は磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって得られるリチウム金属複合酸化物原料として、S量が0.24%未満、磁着物量が750ppb未満の四三酸化マンガンを使用して製造することを特徴とするリチウム金属複合酸化物粉体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体を正極活物質として備えたリチウム二次電池。
【請求項10】
請求項1〜の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体を正極活物質として備えたハイブリッド電気自動車用または電気自動車用のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の正極活物質として用いることができ、特に電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に搭載する電池の正極活物質として優れた性能を発揮し得る、層構造を有するリチウム金属複合酸化物を含有するリチウム金属複合酸化物粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池、中でもリチウム二次電池は、エネルギー密度が大きく、寿命が長いなどの特徴を有しているため、ビデオカメラ等の家電製品や、ノート型パソコン、携帯電話機等の携帯型電子機器などの電源として用いられている。最近では、該リチウム二次電池は、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などに搭載される大型電池にも応用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして溶け出して負極へ移動して吸蔵され、放電時には逆に負極から正極へリチウムイオンが戻る構造の二次電池であり、その高いエネルギー密度は正極材料の電位に起因することが知られている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、スピネル構造をもつリチウムマンガン酸化物(LiMn24)のほか、層構造をもつLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2などのリチウム金属複合酸化物が知られている。例えばLiCoO2は、リチウム原子層とコバルト原子層が酸素原子層を介して交互に積み重なった層構造を有しており、充放電容量が大きく、リチウムイオン吸蔵脱蔵の拡散性に優れているため、現在、市販されているリチウム二次電池の多くがLiCoO2などの層構造を有するリチウム金属複合酸化物である。
【0005】
LiCoO2やLiNiO2など、層構造を有するリチウム金属複合酸化物は、一般式LiMeO2(Me:遷移金属)で示される。これら層構造を有するリチウム金属複合酸化物の結晶構造は、空間群R−3m(「−」は通常「3」の上部に付され、回反を示す。以下、同様。)に帰属し、そのLiイオン、Meイオン及び酸化物イオンは、それぞれ3aサイト、3bサイト及び6cサイトを占有する。そして、Liイオンからなる層(Li層)とMeイオンからなる層(Me層)とが、酸化物イオンからなるO層を介して交互に積み重なった層構造を呈することが知られている。
【0006】
従来、層構造を有するリチウム金属複合酸化物(LiMx2)に関しては、例えば特許文献1において、マンガンとニッケルの混合水溶液中にアルカリ溶液を加えてマンガンとニッケルを共沈させ、水酸化リチウムを加え、ついで焼成することによって得られる、式:LiNixMn1-x2(式中、0.7≦x≦0.95)で示される活物質が開示されている。
【0007】
特許文献2には、3種の遷移金属を含む酸化物の結晶粒子からなり、前記結晶粒子の結晶構造が層構造であり、前記酸化物を構成する酸素原子の配列が立方最密充填である、Li[Lix(APQR1-x]O2(式中、A、BおよびCはそれぞれ異なる3種の遷移金属元素、−0.1≦x≦0.3、0.2≦P≦0.4、0.2≦Q≦0.4、0.2≦R≦0.4)で表される正極活物質が開示されている。
【0008】
特許文献3には、高嵩密度を有する層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物粉体を提供するべく、粉砕及び混合された少なくともリチウム源化合物とニッケル源化合物とマンガン源化合物とを、ニッケル原子〔Ni〕とマンガン原子〔Mn〕とのモル比〔Ni/Mn〕として0.7〜9.0の範囲で含有するスラリーを、噴霧乾燥により乾燥させ、焼成することにより層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物粉体となした後、該複合酸化物粉体を粉砕する層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物粉体の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、バナジウム(V)及び/又はボロン(B)を混合することにより、結晶子径を大きくしてなるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、一般式LiZ−δ(式中、Mは遷移金属元素であるCo又はNiを示し、(X/Y)=0.98〜1.02、(δ/Z)≦0.03の関係を満たす)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むとともに、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素(M)に対して、((V+B)/M)=0.001〜0.05(モル比)のバナジウム(V)及び/又はボロン(B)を含有し、その一次粒子径が1μm以上、結晶子径が450Å以上、かつ格子歪が0.05%以下である物質が開示されている。
【0010】
特許文献5においては、高い嵩密度や電池特性を維持し、割れが起きる心配のない一次粒子からなる非水系二次電池用正極活物質を提供することを目的として、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種の元素とリチウムとを主成分とする単分散の一次粒子の粉体状のリチウム複合酸化物であって、D50:が3〜12μm、比表面積が0.2〜1.0m/g、嵩密度が2.1g/cm以上であり、かつ、クーパープロット法による体積減少率の変曲点が3ton/cmまで現れないことを特徴とする非水系二次電池用正極活物質が提案されている。
【0011】
特許文献6は、LizNi1-ww2(但し、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cu、Zn、Gaからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の金属元素であり、0<w≦0.25、1.0≦z≦1.1を満たす。)で表されるリチウム金属複合酸化物の粉末に関し、該リチウム金属複合酸化物の粉末の一次粒子と該一次粒子が複数集合して形成された二次粒子とから構成され、該二次粒子の形状が球状または楕円球状であり、該二次粒子の95%以上が20μm以下の粒子径を有し、該二次粒子の平均粒子径が7〜13μmであり、該粉末のタップ密度が2.2g/cm3以上であり、窒素吸着法による細孔分布測定において平均40nm以下の径を持つ細孔の平均容積が0.001〜0.008cm3/gであり、該二次粒子の平均圧壊強度が15〜100MPaであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質を提案している。
【0012】
特許文献7においては、例えば湿式粉砕機等でD50:が2μm以下となるまで粉砕した後、熱噴霧乾燥機等を用いて造粒乾燥させ、焼成するようにして、レーザー回折散乱式粒度分布測定法で求められる平均粉体粒子径(D50)に対する結晶子径の比率が0.05〜0.20であることを特徴とする層構造を有するリチウム金属複合酸化物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−171910号公報
【特許文献2】特開2003−17052号公報
【特許文献3】特開2003−34536号公報
【特許文献4】特開2004−253169号公報
【特許文献5】特開2004−355824号公報
【特許文献6】特開2007−257985号公報
【特許文献7】特許第4213768号公報(WO2008/091028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
層構造を有するリチウム金属複合酸化物に関しては、寿命特性と初回充放電効率のいずれも優れた特性を発揮するリチウム金属複合酸化物粉末を開発することは困難であるとされていた。
また、層構造を有するリチウム金属複合酸化物を、リチウム二次電池の正極活物質として使用する場合、特に車載用リチウム二次電池の正極活物質として使用する場合には、初期抵抗を低減する必要があった。
【0015】
そこで本発明は、層構造を有するリチウム金属複合酸化物(粉体)に関し、リチウム電池の正極に用いた場合に、寿命特性と初回充放電効率のいずれも優れた特性を発揮させることができ、且つ、初期抵抗を効果的に低減することができる、新たなリチウム金属複合酸化物粉体を提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、層構造を有するリチウム金属複合酸化物を含有するリチウム金属複合酸化物粉体であって、
ICP発光分析装置で測定して得られるS量が、前記リチウム金属複合酸化物粉体(100質量%)の0.10質量%未満であり、
CuKα線を使用したX線回折によって得られるX線回折パターンを使って、シェラーの式から計算される、前記リチウム金属複合酸化物の(110)面の結晶子サイズに対する、(003)面の結晶子サイズの比率が1.0以上かつ2.5より小さく、且つ、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50(「D50」と称する)に相当する大きさの二次粒子から下記測定方法によって求められる二次粒子面積に対する、下記測定方法によって求められる一次粒子面積の比率(「一次粒子面積/二次粒子面積」と称する)が0.004〜0.035であることを特徴とするリチウム金属複合酸化物粉体を提案する。
【0017】
(二次粒子面積の測定方法)
リチウム金属複合酸化物粉体を電子顕微鏡で観察し、D50に相当する大きさの二次粒子をランダムに5個選択し、該二次粒子が球状の場合はその粒子の長さを直径(μm)として面積を計算し、該二次粒子が不定形の場合には球形に近似をして面積を計算し、該5個の面積の平均値を二次粒子面積(μm)として求める。
【0018】
(一次粒子面積の測定方法)
リチウム金属複合酸化物粉体を電子顕微鏡で観察し、1視野あたり5個の二次粒子をランダムに選択し、選ばれた二次粒子5個から一次粒子をそれぞれ10個ランダムに選択し、該一次粒子が棒状の場合はその粒界間隔の最も長い部分を長径(μm)、その粒界間隔の最も短い部分を短径(μm)として面積を計算し、該一次粒子が球状の場合はその粒界間隔の長さを直径(μm)として面積を計算し、該50個の面積の平均値を一次粒子面積(μm)として求める。
【発明の効果】
【0019】
本発明が提案するリチウム金属複合酸化物粉体を、リチウム電池の正極材料として用いれば、寿命特性と初回充放電効率のいずれも優れた特性を発揮させることができるばかりか、初期抵抗を効果的に低減することができる。よって、本発明が提案するリチウム金属複合酸化物は、特に車載用の電池、特に電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に搭載する電池の正極活物質として特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例の電池特性評価で作製した電気化学評価用セルの構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明が下記実施形態に限定されるものではない。
【0022】
<本リチウム金属複合酸化物粉体>
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉体(以下「本リチウム金属複合酸化物粉体」という)は、層構造を有するリチウム金属複合酸化物粒子を、主成分とする粉体である。
【0023】
ここで、「層構造を有するリチウム金属複合酸化物」とは、リチウム原子層と金属原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層構造を有するリチウム金属複合酸化物である。
また、「主成分とする」とは、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない限りにおいて他の成分を含有することを許容する意を包含するものである。当該主成分の含有割合は、本リチウム金属複合酸化物の少なくとも50質量%以上、特に70質量%以上、中でも90質量%以上、中でも95質量%以上(100%含む)を占める場合を包含する。
【0024】
(本リチウム金属複合酸化物)
本リチウム金属複合酸化物粉体の主成分をなすリチウム金属複合酸化物(以下「本リチウム金属複合酸化物」と称する)は、一般式(1):Li1+x1-x2で表わされる層構造を有するリチウム金属複合酸化物である。
【0025】
上記式(1)中の「1+x」は、1.00〜1.15、中でも1.01以上或いは1.10以下、その中でも1.02以上1.07以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
上記式(1)中の「M」は、Mn、Co及びNiの3元素であるか、又は、これら3元素と、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素及び周期律表の第3周期までの典型元素のうちの少なくとも一種以上とを含む4元素以上であればよい。
ここで、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素又は周期律表の第3周期までの典型元素としては、例えばAl、V、Fe、Ti、Mg,Cr、Ga、In、Cu、Zn、Nb、Zr、Mo、W、Ta、Reなどを挙げることができる。
よって、「M」としては、例えばMn、Co、Ni、Al、V、Fe、Ti、Mg,Cr、Ga、In、Cu、Zn、Nb、Zr、Mo、W、Ta及びReのうちの何れか1種以上であればよく、Mn、Co及びNiの3元素のみから構成されていてもよいし、当該3元素に前記その他の元素の一種以上を含んでいてもよいし、その他の構成でもよい。例示すると、Mn、Co、Ni、Alを含む場合や、Mn、Co、Ni、Al、Mgを含む場合などがある。
なお、式(1)の「1-x」は、LiとMの合計組成比である「2」を基準にした組成比であって、Mを構成する元素の組成比の合計の意味である。例えばM元素が2種類の元素からなる場合であれば、当該2種類の元素の組成比の合計を示している。
【0027】
上記式(1)中の「M」が、Mn、Co及びNiの3元素を含有する場合、Mn、Co及びNiの含有モル比率は、Mn:Co:Ni=0.10〜0.45:0.03〜0.40:0.30〜0.75であるのが好ましく、中でもMn:Co:Ni=0.10〜0.40:0.03〜0.40:0.30〜0.75であるのがさらに好ましい。
例えば一般式(2):Li1+x(MnαCoβNiγ1-xで表される場合、次の比率であるのが好ましい。
式(2)において、αの値は0.10〜0.45、中でも0.15以上或いは0.40以下、その中でも0.20以上或いは0.35以下であるのが好ましい。
βの値は0.03〜0.40、中でも0.04以上或いは0.30以下、その中でも0.05以上或いは0.25以下であるのがさらに好ましい。
γの値は0.30〜0.75、中でも0.40以上或いは0.65以下、その中でも0.45以上或いは0.55であるのが好ましい。
【0028】
なお、上記一般式(1)(2)において、酸素量の原子比は、便宜上「2」と記載しているが、多少の不定比性を有してもよい。
【0029】
((003)面ピーク/(104)面ピークの積分強度比)
本リチウム金属複合酸化物に関しては、CuKα線を使用したX線回折して得られるX線回折パターンにおいて、(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きいことが好ましい。
【0030】
(104)面の積分強度に対する(003)面の積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きいということは、本リチウム金属複合酸化物粉体を構成する結晶構造内に、岩塩構造をとっている部分の量が少ないことを示している。
層構造を有するリチウム金属複合酸化物の粒子を調べてみると、粒子表面に岩塩構造の層が形成されると、この岩塩構造の層が抵抗となって初期抵抗を高めていることが分かった。そこで、後述する製法によって、岩塩構造の層の形成を抑制して、(104)面の積分強度に対する(003)面の積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きくしたところ、初期抵抗を効果的に低減することができることが分かった。
かかる観点から、本リチウム金属複合酸化物粉体に関しては、当該(104)面の積分強度に対する(003)面の積分強度の比率(003)/(104)は1.15より大きいことが好ましく、中でも1.17以上或いは1.55以下であるのが特に好ましく、中でも1.20以上或いは1.45以下、その中でも、1.24以上或いは1.35以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
(104)面の積分強度に対する(003)面の積分強度の比率(003)/(104)を1.15より大きくするためには、後述するように、650〜730℃未満の温度で仮焼成した後、水で洗浄し、その後、830〜950℃で本焼成するのが好ましい。または、少なくとも湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、Ni原料についてはS量を0.17%未満とし、Mn原料についてはS量を0.24%未満とし、Co原料についてはS量を0.12%未満とすると共に、Li化合物以外のすべての原料について磁着物量を750ppb未満に調整した後、650〜730℃未満で仮焼成した後、830〜950℃で本焼成するのが好ましい。但し、このような方法に限定するものではない。
【0032】
((003)面/(110)面の結晶子サイズ比)
本リチウム金属複合酸化物は、CuKα線を使用したX線回折して得られるX線回折パターンにおいて、(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率(003)/(110)が1.0以上かつ2.5より小さいことが特徴の一つである。
【0033】
(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率が1.0に近づくほど、Liの出し入れ時の膨張収縮が等方的になるものと推察される。(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率が2.5以上の場合、膨張収縮の異方性が大きくなり、サイクル後の容量維持率が低下する可能性がある。その一方、(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率が1.0に近づくほど、層状構造から岩塩構造に近づくことから、充電時に取り出せるLiが減少し、充電容量が小さくなる可能性がある。
かかる観点から、110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率(003)/(110)が1.0以上かつ2.5より小さいことが好ましく、中でも、1.3より大きく、2.5より小さいことがより好ましく、その中で1.5以上或いは2.4以下であることがさらに好ましい。
【0034】
(D50)
本リチウム金属複合酸化物粉体においては、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50が20μmより小さいことが好ましい。D50が20μmより小さければ、スラリー保存時に粒子が沈降して不均一になることを防ぐことができる。また、本リチウム金属複合酸化物のD50が4μmより大きければ、粒子が凝集してスラリー粘度が上昇するのを防ぐことができる。
かかる観点から、本リチウム金属複合酸化物のD50は、20μmより小さく、中でも17μm未満、その中でも15μm未満、その中でもさらに4μmより大きく13μm以下であるのがより一層好ましい。
【0035】
なお、レーザー回折散乱式粒度分布測定法は、凝集した粉粒を一個の粒子(凝集粒子)として捉えて粒径を算出する測定方法である。その測定方法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50とは、50%体積累積粒径、すなわち体積基準粒度分布のチャートにおいて体積換算した粒径測定値の累積百分率表記の細かい方から累積50%の径を意味する。
【0036】
本リチウム金属複合酸化物のD50を上記範囲に調整するには、出発原料のD50の調整、焼成温度或いは焼成時間の調整、或いは、焼成後の解砕によるD50調整をするのが好ましい。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0037】
(一次粒子面積/二次粒子面積)
本リチウム金属複合酸化物においては、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50に相当する大きさの二次粒子から下記測定方法によって求められる二次粒子面積に対する、下記測定方法によって求められる一次粒子面積の比率(「一次粒子面積/二次粒子面積」と称する)が0.004〜0.035であるのが好ましい。
一次粒子面積/二次粒子面積が0.035以下であれば、電解液と接触する二次粒子表面の面積が大きく、リチウムイオンの出し入れを円滑に行うことができ、1サイクル目の充放電効率を高くすることができる。その一方、一次粒子面積/二次粒子面積が0.004以上であれば、二次粒子内の一次粒子同士の界面を少なくすることができ、その結果、二次粒子内部の抵抗を低くすることができ、1サイクル目の充放電効率を高くすることができる。よって、かかる範囲であれば、初期充放電効率を向上させることができる。但し、D50が4μm以下の場合には、このような傾向が異なることが確認されている。
このような観点から、一次粒子面積/二次粒子面積は、前記範囲の中でも0.004以上或いは0.026以下、その中でも0.006以上或いは0.017以下であるのがより一層好ましい。
【0038】
本リチウム金属複合酸化物の一次粒子面積/二次粒子面積を上記範囲に調整するには、例えば後述するスプレードライ法による製法においてであれば、従来技術に比べて、焼成或いは熱処理後の解砕における粉砕強度を高くすることにより、D50を小さくして「一次粒子面積/二次粒子面積」を大きくすることで、調整することができる。
他方、後述する共沈法による製法においてであれば、従来技術に比べて、例えば焼成温度を下げたり、共沈粉の一次粒子サイズを小さくしたり、或いは、二酸化炭素ガス含有雰囲気で焼成するなど、一次粒子の平均粒径を小さくして「一次粒子面積/二次粒子面積」を小さくすることで、調整することができる。
但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0039】
上記「一次粒子面積」とは、電子顕微鏡写真上での一次粒子の表面の面積を意味するものである。リチウム金属複合酸化物粉体を、電子顕微鏡を用いて観察し(例えば1000倍)、1視野あたり5個のD50に相当する大きさの二次粒子をランダムに選択し、必要に応じて倍率を5000倍に変更し、選ばれた二次粒子5個から一次粒子をそれぞれ10個ランダムに選択し、該一次粒子が棒状の場合はその粒界間隔の最も長い部分を長径(μm)、その粒界間隔の最も短い部分を短径(μm)として面積を計算し、該一次粒子が球状の場合はその粒界間隔の長さを直径(μm)として面積を計算し、該50個の面積の平均値を一次粒子面積(μm)として求めることができる。
この際、電子顕微鏡写真の一次粒子像を、画像解析ソフトを用いて一次粒子の面積を算出することもできる。
【0040】
また、上記「二次粒子面積」とは、電子顕微鏡写真上での平面上の二次粒子の面積を意味する。例えばリチウム金属複合酸化物粉体を、電子顕微鏡を用いて観察し(例えば1000倍)、D50に相当する大きさの二次粒子をランダムに5個選択し、該二次粒子が球状の場合はその粒界間隔の長さを直径(μm)として面積を計算し、該二次粒子が不定形の場合には球形に近似をして面積を計算し、該5個の面積の平均値を二次粒子面積(μm)として求めることができる。
【0041】
なお、本発明において「一次粒子」とは、複数の結晶子によって構成され、SEM(走査電子顕微鏡、例えば1000〜5000倍)で観察した際、粒界によって囲まれた最も小さな単位の粒子を意味する。よって、一次粒子には単結晶及び多結晶が含まれる。
その際、「結晶子」とは、単結晶とみなせる最大の集まりを意味し、XRD測定を行い、リートベルト解析により求めることができる。
他方、本発明において「二次粒子」又は「凝集粒子」とは、数の一次粒子がそれぞれの外周(粒界)の一部を共有するようにして凝集し、他の粒子と孤立した粒子を意味するものである。
【0042】
(一次粒子面積)
本リチウム金属複合酸化物粉体の一次粒子面積は、一次粒子面積/二次粒子面積が上記範囲であれば特に限定するものではない。本リチウム金属複合酸化物粉体の一次粒子面積の目安としては、0.002μm〜13.0μmであるのが好ましく、中でも0.007μm以上或いは13.0μm以下、その中でも特に0.01μm〜4.0μmであるのがより一層好ましい。
本リチウム金属複合酸化物粉体の一次粒子面積は、原料結晶状態からの選択、焼成条件などによって調整可能である。但し、このような調整方法に限定されるものではない。
【0043】
本リチウム金属複合酸化物粉体の一次粒子面積を0.002μm〜13.0μmでに調整するには、後述するように、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス含有雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において650〜730℃未満で仮焼成すると共に、830〜950℃で本焼成するのが好ましい。
【0044】
(比表面積)
本リチウム金属複合酸化物粉体のBET法によって求められる比表面積は、0.3m/gより大きく、且つ、3.0m/gより小さいことが好ましく、中でも0.4m2/g以上或いは2.0m2/g以下、その中でも特に0.7m2/g以上或いは1.5m2/g以下であるのがより一層好ましい。
【0045】
本リチウム金属複合酸化物粉体の比表面積が0.3m/gより大きく且つ3.0m/g以下の範囲内であれば、比表面積が低過ぎるために出力特性が低下するようなこともなく、また、高過ぎるために電解液が枯渇してサイクル特性が低下するようなことがないから、好ましい。
【0046】
比表面積は、窒素吸着法を利用した公知のBET比表面積の測定法により測定することができる。
本リチウム金属複合酸化物粉体の比表面積は、焼成条件、粉砕条件などによって調整可能である。
【0047】
(S量)
本リチウム金属複合酸化物粉体のS量、すなわち誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置で測定して得られるS量は、前記リチウム金属複合酸化物粉体(100質量%)の0.10質量%未満であるのが好ましく、その中でも0.07質量%以下、その中でも0.03質量%以下であるのがさらに好ましい。
本リチウム金属複合酸化物粉体のS量を0.10質量%未満とすることにより、初期抵抗をさらに効果的に低減することができる。
【0048】
本リチウム金属複合酸化物粉体中のS量は、主として、リチウム金属複合酸化物粉体を作製する際の原料、例えばリチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物及びコバルト化合物などの原料中に不純物として含まれるSに由来する量であると考えられる。よって、当該S量を0.10質量%未満とするには、後述するように仮焼成後に水洗するのが好ましい。但し、この方法に限定するものではない。
【0049】
(Na量)
本リチウム金属複合酸化物粉体のNa量は300ppm以下、中でも200ppm以下であるのが好ましい。
本リチウム金属複合酸化物粉体のNa量を300ppm以下とすることにより、初期抵抗をさらに効果的に低減することができる。
当該Na量は、原子吸光分析により測定することが可能である。
【0050】
本リチウム金属複合酸化物粉体のNa量は、主としてリチウム金属複合酸化物粉体を作製する際の原料、例えばリチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物及びコバルト化合物などの原料中に不純物として含まれるNaに由来する量であると考えられる。よって、本リチウム金属複合酸化物粉体のNa量を300ppm以下とするには、後述するように仮焼成後に水洗したり、或いは、少なくとも湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、Ni原料についてはS量を0.17%未満とし、Mn原料についてはS量を0.24%未満とし、Co原料についてはS量を0.12%未満とすると共に、Li化合物以外のすべての原料について磁着物量を750ppb未満に調整するのが好ましい。但し、この方法に限定するものではない。
【0051】
(表面残存アルカリ値/比表面積)
本リチウム金属複合酸化物粉体の比表面積当たりの表面残存アルカリ値、すなわち表面残存アルカリ値/比表面積(%/(m/g))は0.55未満であるのが好ましく、中でも0.35以下、その中でも0.20以下、その中でもさらに0.15以下であることが好ましい。
「比表面積当たりの表面残存アルカリ値」は、本リチウム金属複合酸化物粉体粒子の表面に存在するアルカリ成分の量を示しており、この数値が0.55未満となることで初期抵抗を低減することができる。
【0052】
表面残存アルカリ値の測定は、Winkler法を参考にして次の手順で求めることができる。試料10.0gをイオン交換水50mlに分散させ、ろ過し、上澄み液を塩酸で滴定する。その際の指示薬をフェノールフタレインとブロモフェノールブルーを用いて水酸化リチウムと炭酸リチウムを定量し、それらから計算されるLiの量を表面残存アルカリ値(%)として算出することができる。
【0053】
本リチウム金属複合酸化物粉体粒子の表面に残存するアルカリ成分は、主として、未反応や余剰のリチウム原料からなる炭酸塩や水酸化物などから形成されているものと考えられる。ただし一部、Naなどのアルカリ成分も含まれていると推察される。
よって、本リチウム金属複合酸化物粉体の表面残存アルカリ値/比表面積を0.55未満とするには、後述するように仮焼成後に水洗するのが好ましい。但し、この方法に限定するものではない。
【0054】
(カーボン量/比表面積)
本リチウム金属複合酸化物粉体の比表面積当たりのカーボン(炭素)量、すなわち、カーボン(炭素)量/比表面積(ppm/(m/g))は3000以下であるのが好ましい。上限値としては、中でも1500以下、その中でも1000以下が好ましく、特に810以下であるのが好ましい。下限値としては、50以上であるのが好ましい。
【0055】
本リチウム金属複合酸化物粉体のカーボン量は、粒子を燃焼させて発生したCO量を測定して求められるカーボン量であり、表面に付着している炭素の量と一次粒子間の結合に関与している炭素の量であるとも言える。
このカーボン量は、主として、未反応のカーボンや、余剰の炭酸リチウムに含まれるカーボン、或いは湿式粉砕時に使用する分散剤などに含まれるカーボンに由来するものと考えられる。
よって、本リチウム金属複合酸化物粉体のカーボン量を3000以下にする方法としては、後述するように、仮焼後に水洗を実施する方法を挙げることができる。例えば、(003)面方向への結晶子サイズの増大を抑制するために、リチウム原料として炭酸リチウムを使用した場合であっても、仮焼後に水洗を実施して余剰の炭酸分を除去することで、比表面積当たりのカーボン(炭素)量を3000以下にすることができる。但し、この方法に限定するものではない。
ちなみに、湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、該原料のS量及び磁着物量を調整したとしても、カーボン(炭素)量/比表面積(ppm/(m/g))を3000以下にすることは可能である。ただし、カーボン(炭素)量/比表面積(ppm/(m/g))をさらに低減するためには、仮焼後に水洗することがより好ましいと考えらえる。
【0056】
(3aサイトのLi席占有率)
本リチウム金属複合酸化物粉体における3aサイトのLi席占有率、すなわち、CuKα線を使用したX線回折によって得られるX線回折パターンを使ってリートベルト解析して得られる、前記リチウム金属複合酸化物の3aサイトのLiの席占有率は0.97以上、中でも0.98以上或いは1.00以下であることが好ましい。3aサイトのLiの席占有率が高くなると、充電時に取り出せるLi量が増えるため、充電容量を高くすることができる。
【0057】
このように、3aサイトのLiの席占有率を0.97以上とするためには、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス含有雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において、650〜730℃未満で仮焼成した後、水で洗浄し、その後、830〜950℃で本焼成するか、若しくは、少なくとも湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、Ni原料についてはS量を0.17%未満とし、Mn原料についてはS量を0.24%未満とし、Co原料についてはS量を0.12%未満とすると共に、Li化合物以外のすべての原料について磁着物量を750ppb未満に調整した後、650〜730℃未満で仮焼成した後、830〜950℃で本焼成するのが好ましい。但し、このような方法に限定するものではない。
【0058】
<磁着物量>
磁着物とは、鉄やステンレス鋼などのように、磁力によって磁石に付着する物質の意味である。具体的には、鉄、クロム、亜鉛、及びそれらの元素を含有する化合物である。
本リチウム金属複合酸化物においては、例えば高温充電時保存時の電圧低下が生じ難いという点などから、所定の方法で測定される磁着物量が0ppbより大きく且つ200ppb未満であるのが好ましい。磁着物量の下限値はゼロであるのが好ましいが、現実的には0ppbとすることは極めて難しいため、実現性を考慮すると0<磁着物量<200ppb、より現実的には2ppb〜200ppbであるのが好ましい。但し、除去するためのコストを考慮すると、さらに5ppb〜200ppb或いは10ppb以上或いは100ppbの範囲に調整するのが好ましい。
なお、当該磁着物量を測定することで、設備の異常発生有無の判断にもなる。
【0059】
上記の磁着物量は、次のような方法で測定される値である。
すなわち、上記の磁着物量は、500cc蓋付き樹脂性容器を用いて、正極活物質材料(粉体)100gに、イオン交換水500ccと、テトラフルオロエチレンで被覆された円筒型攪拌子型磁石(KANETEC社製TESLA METER 型式TM−601を用いて磁力を測定した場合に、磁力範囲が100mT〜150mTに入る磁石)1個を加えて、ボールミル回転架台にのせ、回転させてスラリー化する。次に、磁石を取り出し、イオン交換水に浸して超音波洗浄機にて、磁石に付着した余分な粉を除去する。次に、磁石を取り出し、王水に浸して王水中で80℃、30分間加温して磁着物を溶解させ、磁着物が溶解している王水をICP発光分析装置にて鉄、クロム及び亜鉛の量を分析し、これらの合計量を磁着物量として正極活物質材料重量当りの磁着物量を算出することにより求めることができる。
【0060】
上記の測定方法は、JIS G 1258:1999を参酌して、磁石に付着した磁着物量を酸溶解して磁着物量を定量する方法である。
磁石に付着した磁着物は微量であるため、磁石ごと酸性溶液に浸漬させて磁着物を酸溶解させる必要がある。そこで、磁石には、テトラフルオロエチレンで被覆された磁石を用い、測定前に各磁石の強度を測定するのが好ましい。
なお、磁石の磁力は、例えば130mTの磁力を有する磁石として市販されている同じ種類の磁石であっても、KANETEC社製TESLA METER 型式TM−601を用いて磁力を測定してみると、100mT〜150mT程度の範囲で測定値がズレることが分かっている。その一方、このように測定した磁力が100mT〜150mT程度の範囲内にある磁石であれば、本発明が規定する磁着物量は同様になることを確認しているため、本発明では、磁着物量の測定方法における磁石の磁力を100mT〜150mTという範囲をもって規定するものである。
【0061】
本リチウム金属複合酸化物において、上記磁着物量を0ppbより大きく且つ200ppb未満とするには、原料洗浄工程又は仮焼粉の洗浄工程又はこれら両工程において湿式磁選したり、或いは、解砕・分級工程後において乾式磁選したり、或いは、これら二種以上を組み合わせて行えばよい。
なお、仮焼粉とは、リチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物及びコバルト化合物などの原料を秤量して混合し、650〜730℃未満の温度で仮焼成して得られたものである。
【0062】
<表面層>
本リチウム金属複合酸化物は、上記リチウム金属複合酸化物(コア粒子)の表面の全面又は一部に、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びジルコニウム(Zr)からなる群から選ばれる一種又は二種以上を含有する表面層を備えていてもよい。
このような表面層を備えていることにより、DSCの発熱ピーク温度を高温側にシフトさせることができているので電池の安全性を高めることができる。これはリチウム金属複合酸化物粒子と電解液との反応を抑制する結果と考えられる。
【0063】
上記表面層は、少なくともチタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びジルコニウム(Zr)のいずれかを含有していればよい。これらのうちの二種類以上を含有していてもよい。
【0064】
上記表面層は、コア粒子表面の全面を被覆するように存在してもよいし、又、コア粒子表面に部分的に存在し、当該層が存在しない部分があってもよい。
コア粒子の表面の全面又は一部に、このような層を設けることにより、コア粒子と電解液との反応を抑制することができ、DSCの発熱ピーク温度を高温側にシフトさせることができ、電池の安全性を高めることができると考えられる。また、このような層は、リチウムイオンの移動に実質的に影響を及ぼさないという特性も備えている。
【0065】
なお、コア粒子表面と上記表面層との間に、他の層が介在していてもよい。例えば、チタンの酸化物、アルミの酸化物、ジルコニウムの酸化物、又はこれら2種類以上を含有する層が介在していてもよい。
また、上記表面層の表面側に他の層が存在していてもよい。
【0066】
上記表面層の厚さは、DSCの発熱ピーク温度を高温側にシフトさせることができ、電池の安全性を高めるという観点から、0.01nm〜200nmであるのが好ましく、中でも0.02nm以上或いは190nm以下、その中でも0.03nm以上或いは180nm以下、さらにその中でも0.1nm以上或いは170nm以下であるのが好ましい。上記表面層の厚さはEDS(エネルギー分散型X線分光分析)などを用いて測定することができる。
【0067】
このような上記表面層は、後述するように本リチウム金属複合酸化物粉体(コア粒子粉体)を製造した後、当該リチウム金属複合酸化物に対して、チタンカップリング剤又はアルミカップリング剤又はチタン・アルミカップリング剤又はジルコニウムカップリング剤などの表面処理剤を、有機溶媒と混合して表面処理を行い、乾燥させて有機溶媒を揮発させ、その後300℃以上の加熱処理することで上記表面層を形成することができる。
その際、有機溶媒を揮発させるために、例えば40〜120℃に加熱して乾燥させた後、300℃以上の加熱処理するのが好ましい。
当該加熱処理としては、300℃以上、好ましくは400〜650℃、中でも460℃以上或いは600℃以下で加熱するのが好ましい。このように300℃以上で加熱することで、上記表面層の炭素量を低減できると共に上記表面層を酸化させることができ、カップリング剤の種類によっては、DSCの発熱ピーク温度を高温側にシフトさせることができ、電池の安全性をさらに高めることができる場合がある。
【0068】
<本リチウム金属複合酸化物粉体の製造方法>
次に、本リチウム金属複合酸化物粉体の製造方法について説明する。
【0069】
本リチウム金属複合酸化物粉体は、例えばリチウム化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物及びコバルト化合物などの原料を秤量して混合し、湿式粉砕機等で湿式粉砕した後、造粒し、650〜730℃未満の温度で仮焼成した後、水で洗浄し、その後、830〜950℃で本焼成し、必要に応じて熱処理し、好ましい条件で解砕し、さらに必要に応じて分級して得ることができる。
650〜730℃未満の温度で仮焼成した後、5〜70℃の水で洗浄し、その後、830〜950℃で本焼成することで、岩塩構造の層の形成を抑制して、(104)面の積分強度に対する(003)面の積分強度の比率(003)/(104)を1.15より大きくすることができる。
【0070】
但し、上記製造方法において、少なくとも湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、Ni原料についてはS量を0.17%未満とし、Mn原料についてはS量を0.24%未満とし、Co原料についてはS量を0.12%未満とすると共に、Li化合物以外のすべての原料について磁着物量を750ppb未満に調整すれば、仮焼成後に水洗しなくても、本リチウム金属複合酸化物粉体を製造することが可能である。
また、少なくとも湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、Ni原料についてはS量を0.17%未満とし、Mn原料についてはS量を0.24%未満とし、Co原料についてはS量を0.12%未満とすると共に、Li化合物以外のすべての原料について磁着物量を750ppb未満に調整した後、上記のように仮焼成した後、水で洗浄し、その後本焼成するようにすれば、さらなる不純物低減の効果を得ることができる。
【0071】
原料であるリチウム化合物としては、例えば水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硝酸リチウム(LiNO3)、LiOH・H2O、酸化リチウム(Li2O)、その他脂肪酸リチウムやリチウムハロゲン化物等が挙げられる。中でもリチウムの水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩が好ましい。
その中でも、(003)面方向への結晶子サイズの増大を抑制するためには、リチウム原料として炭酸リチウムを使用するのが好ましい。また、その場合でも、仮焼後に水洗を実施して余剰の炭酸分を除去することで、比表面積当たりのカーボン(炭素)量を3000以下にすることができる。
【0072】
マンガン化合物の種類は、特に限定するものではない。例えば炭酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、二酸化マンガンなどを用いることができ、中でも炭酸マンガン、二酸化マンガンが好ましい。その中でも、電解法によって得られる電解二酸化マンガンが特に好ましい。また、酸化マンガン(iii)、四三酸化マンガンも使用可能である。
マンガン化合物としては、焼成や水洗や磁選などが行われてS量や磁着物量が低減されたマンガン化合物を原料として使用することが、不純物量の観点からより一層好ましい。
ニッケル化合物の種類も特に制限はなく、例えば炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケルなどを用いることができ、中でも炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケルが好ましい。
コバルト化合物の種類も特に制限はなく、例えば塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルトなどを用いることができ、中でも、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト、オキシ水酸化コバルトが好ましい。
【0073】
また、少なくとも湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、Ni原料についてはそのS量を0.17%未満、中でも0.12%未満、その中でも0.07%未満、さらにその中でも0.03%未満に調整することが好ましい。Mn原料については、そのS量を0.24%未満、中でも0.17%未満、その中でも0.10%未満、さらにその中でも0.05%未満に調整することが好ましい。Co原料については、そのS量を0.12%未満、中でも0.06%未満、そのなかでも0.01%未満に調整することが好ましい。そして、Li化合物以外の原料の磁着物量を、各原料ともに、750ppb未満、中でも350ppb未満、その中でも150ppb未満、さらにその中でも50ppb未満に調整することが好ましい。
【0074】
原料の混合は、水や分散剤などの液媒体を加えて湿式混合してスラリー化させるのが好ましい。そして、後述するスプレードライ法を採用する場合には、得られたスラリーを湿式粉砕機で粉砕するのが好ましい。但し、乾式粉砕してもよい。
【0075】
造粒方法は、前工程で粉砕された各種原料が分離せずに造粒粒子内で分散していれば湿式でも乾式でもよく、押し出し造粒法、転動造粒法、流動造粒法、混合造粒法、噴霧乾燥造粒法、加圧成型造粒法、或いはロール等を用いたフレーク造粒法でもよい。但し、湿式造粒した場合には、焼成前に充分に乾燥させることが必要である。乾燥方法としては、噴霧熱乾燥法、熱風乾燥法、真空乾燥法、フリーズドライ法などの公知の乾燥方法によって乾燥させればよく、中でも噴霧熱乾燥法が好ましい。噴霧熱乾燥法は、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いて行なうのが好ましい(本明細書では「スプレードライ法」と称する)。
ただし、例えば所謂共沈法によって焼成に供する共沈粉を作製することも可能である(本明細書では「共沈法」と称する)。共沈法では、原料を溶液に溶解した後、pHなどの条件を調整して沈殿させることにより、共沈粉を得ることができる。
【0076】
なお、スプレードライ法では、粉体強度が相対的に低く、粒子間に空隙(ボイド)が生じる傾向がある。そこで、スプレードライ法を採用する場合には、従来の粉砕方法、例えば回転数1000rpm程度の粗粉砕機による解砕方法に比べて解砕強度を高める。例えば高速回転粉砕機などによる解砕によって解砕強度を高めることにより、従来の一般的なスプレードライ法により得られるリチウム金属複合酸化物粉体に比べて、本リチウム金属複合酸化物粉体の一次粒子面積/二次粒子面積を高めて、本発明が規定する範囲に調整するのが好ましい。
他方、共沈法においては、一次粒子が大きくなって、一次粒子面積/二次粒子面積が高くなる傾向がある。そこで、共沈法を採用する場合には、従来の一般的な共沈法の場合に比べて、焼成温度を下げたり、焼成時間を短くしたり、共沈粉の一次粒子サイズを小さくしたり、或いは、二酸化炭素ガス含有雰囲気で焼成したりして、一次粒子の平均粒径を小さくして一次粒子面積/二次粒子面積を低下させて、本発明が規定する範囲に調整するのが好ましい。
【0077】
上記のように造粒した後、650〜730℃未満の温度で仮焼成し、水で洗浄し、830〜950℃で本焼成するのが好ましい。
水で洗浄する段階で、既にしっかりとした層構造が出来上がっていると、水で洗浄した際に粒子表面のLiサイトに混入したH+が原因となって乾燥時に形成される岩塩構造がそのまま表面に残ってしまうことがわかった。その一方、水で洗浄する段階で、ある程度の層構造が出来上がっていないと、水で洗浄した際に、粒子内部からのLiイオンの溶出や原料の溶け出しが起こってしまう。そのため、水で洗浄する前の段階である程度層構造を形成するために、650〜730℃未満の温度で仮焼成することが大切である。
【0078】
かかる観点から、仮焼成は、焼成炉にて、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス含有雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において、650〜730℃未満の温度(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)、中でも670℃以上或いは720℃以下、その中でも690℃以上或いは710℃以下で、0.5時間〜30時間保持するように焼成するのが好ましい。
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0079】
水洗に用いる水は、市水でもよいが、フィルターまたは湿式磁選機を通過させたイオン交換水や純水を用いるのが好ましい。
水のpHは5〜9であるのが好ましい。
水洗時の液温に関しては、水洗時の液温が高いとLiイオンが溶出してしまうため、かかる観点から、5〜70℃であるのが好ましく、中でも60℃以下であるのがより一層好ましく、その中でも特に45℃以下であるのがより一層好ましい。さらには特に30℃以下であるのがより一層好ましい。
本リチウム金属複合酸化物と接触させる水の量については、水に対する本リチウム金属複合酸化物粉末の質量比(「スラリー濃度」とも称する)が10〜70wt%となるように調整するのが好ましく、中でも20wt%以上或いは60wt%以下、その中でも30wt%以上或いは50wt%以下となるように調整するのがより一層好ましい。水の量が10wt%以上であれば、Sなどの不純物を溶出させることが容易であり、逆に70wt%以下であれば、水の量に見合った洗浄効果を得ることができる。
【0080】
本焼成は、焼成炉にて、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス含有雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において、830〜950℃未満の温度(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)、好ましくは850〜910℃、より好ましくは850〜900℃で0.5時間〜30時間保持するように焼成するのが好ましい。この際、遷移金属や典型元素が原子レベルで固溶し単一相を示す焼成条件を選択するのが好ましい。
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0081】
本焼成後の熱処理は、結晶構造の調整が必要な場合に行うのが好ましく、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整して雰囲気下などの酸化雰囲気の条件で熱処理を行ってもよい。
【0082】
本焼成後若しくは熱処理後の解砕は、上述のように高速回転粉砕機などを用いて解砕するのが好ましい。高速回転粉砕機によって解砕すれば、粒子どうしが凝集していたり、焼結が弱かったりする部分を解砕することができ、しかも粒子に歪みが入るのを抑えることができる。但し、高速回転粉砕機に限定する訳ではない。
高速回転粉砕機の一例としてピンミルを挙げることができる。ピンミルは、円盤回転型粉砕機として知られており、ピンの付いた回転盤が回転することで、内部を負圧にして原料供給口より粉を吸い込む方式の解砕機である。そのため、微細粒子は、重量が軽いため気流に乗りやすく、ピンミル内のクリアランスを通過する一方、粗大粒子は確実に解砕される。そのため、ピンミルで解砕すれば、粒子間の凝集や、弱い焼結部分を確実に解すことができると共に、粒子内に歪みが入るのを防止することができる。
高速回転粉砕機の回転数は4000rpm以上、特に5000〜12000rpm、さらに好ましくは7000〜10000rpmにするのが好ましい。
【0083】
本焼成後の分級は、凝集粉の粒度分布調整とともに異物除去という技術的意義があるため、好ましい大きさの目開きの篩を選択して分級するのが好ましい。
【0084】
(磁選)
なお、必要に応じて、磁選すなわち磁石に磁着する不純物を本リチウム金属複合酸化物粉末から除去する処理を行ってもよい。磁選を行うことによって短絡の原因となる不純物を除去することができる。
このような磁選は、本製造方法のいずれのタイミングで行ってもよい。例えば洗浄工程後や、最後に行う解砕或いは粉砕のその後に磁選を行うのが好ましい。最後の解砕或いは粉砕後に行うことで、解砕機や粉砕機が破損して混入する鉄なども最終的に除去することができる。
【0085】
磁選方法としては、乾燥した状態の本リチウム金属複合酸化物粉末を磁石と接触させる乾式磁選法、Li化合物以外の原料または、仮焼粉のスラリーを磁石と接触させる湿式磁選法のいずれでもよい。
磁選効率の観点からは、より分散した状態、言い換えれば凝集してない状態のLi化合物以外の原料または、仮焼粉を磁石と接触させることができる点で、湿式磁選法の方が好ましい。
なお、洗浄後に磁選を行う場合は、洗浄工程と組み合わせることができる点で、湿式磁選法を選択するのが好ましい。逆に、最後に行う解砕或いは粉砕のその後に磁選を行う場合は、その後に乾燥させる必要がない点で、乾式磁選法を採用するのが好ましい。
【0086】
洗浄工程と組み合わせて湿式磁選法を行う場合、洗浄工程において原料または仮焼粉と極性溶媒とを混合攪拌してスラリーとし、磁選工程で得られたスラリーを湿式磁選器に投入して磁選し、その後にろ過することにより、洗浄工程で分離した不純物と磁選工程で分離した不純物をそれぞれ効果的に原料または仮焼粉から分離除去することができる。
【0087】
湿式磁選器の構造は任意である。例えばパイプ内にフィルター或いはフィン状の磁石を配設してなる構成を備えたような磁選器を例示することができる。
【0088】
磁選に用いる磁石の磁力(:本リチウム金属複合酸化物粉末と接触する場所の磁力)は、5000G〜20000G(ガウス)であるのが好ましく、特に10000G以上或いは20000G以下であるのがさらに好ましく、中でも特に12000G以上或いは20000G以下であるのがさらに好ましい。
磁石の磁力が5000G以上であれば、所望の磁選効果を得ることができる一方、磁石の磁力が20000G以下であれば、必要な物までも除去されてしまうことを防ぐことができる。
【0089】
<本リチウム金属複合酸化物粉体の特性・用途>
本リチウム金属複合酸化物粉体は、必要に応じて解砕・分級した後、リチウム電池の正極活物質として有効に利用することができる。
例えば、本リチウム金属複合酸化物粉体と、カーボンブラック等からなる導電材と、テフロン(テフロンは、米国DUPONT社の登録商標です。)バインダー等からなる結着剤と、を混合して正極合剤を製造することができる。そしてそのような正極合剤を正極に用い、例えば負極にはリチウムまたはカーボン等のリチウムを吸蔵・脱蔵できる材料を用い、非水系電解質には六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等のリチウム塩をエチレンカーボネート−ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したものを用いてリチウム二次電池を構成することができる。但し、このような構成の電池に限定する意味ではない。
【0090】
本リチウム金属複合酸化物粉体を正極活物質として備えたリチウム電池は、充放電を繰り返して使用した場合に優れた寿命特性(サイクル特性)を発揮することから、特に電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に搭載するモータ駆動用電源として用いるリチウム電池の正極活物質の用途に特に優れている。
【0091】
なお、「ハイブリッド自動車」とは、電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車である。
また、「リチウム電池」とは、リチウム一次電池、リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池を含む)、リチウムポリマー電池など、電池内にリチウム又はリチウムイオンを含有する電池を全て包含する意である。
【0092】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0093】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明について更に説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0094】
<実施例1>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)をスラリー中固形分の6wt%となるように添加し、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0095】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.07:0.25:0.50:0.18となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、上記順番通りに混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。得られた仮焼粉とイオン交換水(pH5.8、水温25℃)を混合し、10分間攪拌して洗浄を行い、スラリーとした(スラリー濃度33質量%)。次いで濾別した仮焼粉を170℃で乾燥させた後、静置式電気炉を用いて、860℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した後(解砕条件:回転数10000rpm)、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.04Ni0.52Co0.19Mn0.25であった。
【0096】
<実施例2>
水洗後の仮焼粉を880℃で焼成した以外の点は実施例1と同様にリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を製造した。
【0097】
<実施例3>
水洗後の仮焼粉を900℃で焼成した以外の点は実施例1と同様にリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を製造した。
【0098】
<実施例4>
D50:8μmの炭酸リチウムと、D50:23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.06:0.26:0.50:0.18となるように秤量し、実施例1と同様に、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、上記順番通りに混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。得られた仮焼粉とイオン交換水(pH5.8、水温25℃)を混合し、10分間攪拌して洗浄を行い、スラリーとした(スラリー濃度33質量%)。次いで濾別した仮焼粉を170℃で乾燥させた後、静置式電気炉を用いて、900℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下の複合酸化物粉末(サンプル)を回収した。
回収したサンプルを、分級機構付衝突式粉砕機(ホソカワミクロン製カウンタージェットミル「100AFG/50ATP」)を用いて、分級ローター回転数:7500rpm、粉砕空気圧力:0.6MPa、粉砕ノズルφ:2.5×3本使用、粉体供給量:4.5kg/hの条件で粉砕を行い、リチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を得た。回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.03Ni0.52Co0.19Mn0.26であった。
【0099】
<実施例5>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)をスラリー中固形分の6wt%となるように添加し、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0100】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.04:0.19:0.58:0.19となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、上記順番通りに混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。得られた仮焼粉とイオン交換水(pH5.8、水温25℃)を混合し、10分間攪拌して洗浄を行い、スラリーとした(スラリー濃度33質量%)。次いで濾別した仮焼粉を170℃で乾燥させた後、静置式電気炉を用いて、酸素雰囲気中900℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した後(解砕条件:回転数8000rpm)、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.01Ni0.59Co0.20Mn0.20であった。
【0101】
<実施例6>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)をスラリー中固形分の6wt%となるように添加し、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0102】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:2μmの水酸化アルミニウムとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co:Al=1.06:0.25:0.50:0.18:0.01となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、上記順番通りに混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。得られた仮焼粉とイオン交換水(pH5.8、水温25℃)を混合し、10分間攪拌して洗浄を行い、スラリーとした(スラリー濃度33質量%)。次いで濾別した仮焼粉を170℃で乾燥させた後、静置式電気炉を用いて、900℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した後(解砕条件:回転数10000rpm)、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.03Ni0.52Co0.19Mn0.25Al0.01であった。
【0103】
<実施例7>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)をスラリー中固形分の6wt%となるように添加し、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0104】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:3μmの酸化マグネシウムとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co:Mg=1.06:0.25:0.50:0.18:0.01となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、上記順番通りに混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。得られた仮焼粉とイオン交換水(pH5.8、水温25℃)を混合し、10分間攪拌して洗浄を行い、スラリーとした(スラリー濃度33質量%)。次いで濾別した仮焼粉を170℃で乾燥させた後、静置式電気炉を用いて、900℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した後(解砕条件:回転数10000rpm)、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.03Ni0.52Co0.19Mn0.25Mg0.01であった。
【0105】
<実施例8>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)をスラリー中固形分の6wt%となるように添加し、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0106】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:2μmの酸化チタンとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co:Ti=1.06:0.25:0.50:0.18:0.01となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、上記順番通りに混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。得られた仮焼粉とイオン交換水(pH5.8、水温25℃)を混合し、10分間攪拌して洗浄を行い、スラリーとした(スラリー濃度33質量%)。次いで濾別した仮焼粉を170℃で乾燥させた後、静置式電気炉を用いて、900℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した後(解砕条件:回転数10000rpm)、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.03Ni0.52Co0.19Mn0.25Ti0.01であった。
【0107】
<実施例9>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は後述するNi原料、Mn原料、Co原料、Li原料などの合計量に対して、6wt%となるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0108】
原料となる水酸化ニッケルを60℃に温めたイオン交換水中で撹拌し、スラリーとして、NaOH水溶液を滴下することで、S量を低減した。このスラリーを湿式磁選器に通過させてから、ろ過、洗浄後、乾燥させた水酸化ニッケルのS量は0.07%であった。次にNa中和電解二酸化マンガンを950℃で焼成し、四三酸化マンガンを得た。得られた四三酸化マンガンをイオン交換水と混合し、10分撹拌して洗浄を行い、スラリーとした。このスラリーを湿式磁選器内に流通させた後、減圧ろ過した。次に、濾別した四三酸化マンガンを、大気中で350℃(品温)を5時間維持するように加熱して乾燥させた。得られた四三酸化マンガンのS量を測定したところ、0.10%であった。
続いて、オキシ水酸化コバルトを25℃のイオン交換水中で撹拌し、スラリーとした。このスラリーを湿式磁選器に通過させてから、ろ過、洗浄後、乾燥させた。このときのオキシ水酸化コバルトのS量は0.01%であった。 D50:7μmの炭酸リチウムと、前述の四三酸化マンガンと水酸化ニッケルと、オキシ水酸化コバルトとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.04:0.26:0.52:0.18となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。次いで仮焼粉を静置式電気炉を用いて、900℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした。得られた篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した後(解砕条件:回転数10000rpm)、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.04Ni0.52Co0.19Mn0.25であった。
【0109】
<実施例10>
先ず、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンを溶解した水溶液に、水酸化ナトリウムとアンモニアを供給し、共沈法により、ニッケルとコバルトとマンガンのモル比が0.54:0.19:0.27 である金属複合水酸化物を作製した。得られた金属複合水酸化物を60℃に温めたイオン交換水中で撹拌し、スラリーとして、NaOH水溶液を滴下することで、S量を低減した。このスラリーを湿式磁選器に通過させてから、ろ過、洗浄後、乾燥させた金属複合水酸化物のS量は0.09%であった。
このようにして作製した金属複合水酸化物は、1μm以下の一次粒子が複数集合した球状の二次粒子からなり、得られた金属複合水酸化物のD50は10μm、タップ密度は2.3g/cm3 であった。
【0110】
次に、イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は前述の金属複合水酸化物と後述するLi原料の合計量に対して、6wt%となるように添加し、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0111】
D50:10μmの金属複合水酸化物とD50:7umの炭酸リチウムとモル比でLi:Mn:Ni:Co=1.03:0.27:0.52:0.18となるように秤量し、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、60分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。次いで仮焼粉を静置式電気炉を用いて、900℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした。得られた篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した後(解砕条件:回転数10000rpm)、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.04Ni0.52Co0.19Mn0.25であった。
【0112】
<実施例11>
実施例3と同様にリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を製造した。
こうして得られたリチウム金属複合酸化物粉体98質量部と、表面処理剤としてアルミカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社「プレンアクト(登録商標) AL−M」)を1質量部と、溶媒としてイソプロピルアルコール1質量部とをカッターミル(岩谷産業株式会社製「ミルサー720G」)を用いて混合し、大気中500℃、5時間の熱処理を行うことで、表面処理リチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を得た。
このように作製したリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)について、粒子表面付近の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−ARM200F」)で観察したところ、リチウム金属複合酸化物からなるコア部の表面に部分的に表面層が存在していた。また、該表面層をEDSで分析したところ、アルミニウム(Al)を含有することが分かった。また、該表面層の厚さは、場所によって異なっており、薄い部分は0.03nm、厚い部分は10nmであった。
【0113】
<実施例12>
実施例3と同様にリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を製造した。
こうして得られたリチウム金属複合酸化物粉体98質量部と、表面処理剤としてチタンカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社「プレンアクト(登録商標) KR−46B」)を1質量部と、溶媒としてイソプロピルアルコール1質量部とをカッターミル(岩谷産業株式会社製「ミルサー720G」)を用いて混合し、大気中500℃、5時間の熱処理を行うことで、表面処理リチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を得た。
このように作製したリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)について、粒子表面付近の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−ARM200F」)で観察したところ、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなるコア部の表面に部分的に表面層が存在していた。また、該表面層をEDSで分析したところ、チタン(Ti)を含有することが分かった。また、該表面層の厚さは、場所によって異なっており、薄い部分は0.03nm、厚い部分は14nmであった。
【0114】
<実施例13>
実施例3と同様にリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を製造した。
こうして得られた、リチウム金属複合酸化物粉体98質量部と、表面処理剤としてアルミカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社「プレンアクト(登録商標) AL−M」)を0.5質量部、チタンカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社「プレンアクト(登録商標) KR−46B」)を0.5質量部と、溶媒としてイソプロピルアルコール1質量部とをカッターミル(岩谷産業株式会社製「ミルサー720G」)を用いて混合し、大気中500℃、5時間の熱処理を行うことで、表面処理リチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を得た。
このように作製したリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)について、粒子表面付近の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−ARM200F」)で観察したところ、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなるコア部の表面に部分的に表面層が存在していた。また、該表面層をEDSで分析したところ、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)を含有することが分かった。また、該表面層の厚さは、場所によって異なっており、薄い部分は0.03nm、厚い部分は12nmであった。
【0115】
<比較例1>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)をスラリー中固形分の6wt%となるように添加し、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0116】
D50:8μmの炭酸リチウムと、D50:23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:22μmの水酸化ニッケルとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.04:0.26:0.51:0.19となるように秤量し、あらかじめ分散剤を溶解させたイオン交換水中へ上記順番通りに混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
【0117】
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中450℃で仮焼を行った。続いて、仮焼粉を、静置式電気炉を用いて、910℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.04Ni0.52Co0.19Mn0.25であった。
【0118】
<比較例2>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は後述するNi原料、Mn原料、Co原料、Li原料などの合計量に対して、6wt%となるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0119】
炭酸リチウムと、電解二酸化マンガンと、オキシ水酸化コバルトと、水酸化ニッケルとを、モル比でLi:Mn:Ni:Co=1.05:0.25:0.51:0.19となるように秤量した。使用したMn原料、Co原料、Ni原料のS量はそれぞれ、0.41%、0.03%、0.21%であった。これらの原料を、あらかじめ分散剤を溶解させたイオン交換水中へ加えて、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50:を0.55μmとした。
【0120】
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC-16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量3kg/hr、乾燥塔の出口温度100℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中450℃で仮焼を行った。続いて、仮焼粉を、静置式電気炉を用いて、910℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を回収した。
回収したリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の化学分析を行った結果、Li1.05Ni0.52Co0.19Mn0.24であった。
【0121】
<比較例3>
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンを溶解した水溶液に、水酸化ナトリウムとアンモニアを供給し、共沈法により、ニッケルとコバルトとマンガンのモル比が0.54:0.19:0.27 である金属複合水酸化物を作製した。
このようにして作製した金属複合水酸化物は、1μm以下の一次粒子が複数集合した球状の二次粒子からなり、得られた金属複合水酸化物のD50は11μm、タップ密度は2.2g/cm3 であった。
この金属複合水酸化物にLi/(Ni+Co+Mn)モル比が3.32になるように水酸化リチウム1水和物を加えて、ボールミルを使って乾式混合した。
【0122】
得られた金属複合水酸化物と水酸化リチウム1水和物の混合物を酸素雰囲気中、730℃で24時間焼成した。得られた焼成物を取り出そうとしたところ、混合物を入れていたセラミックス容器と反応してしまい、取り外すことはできなかった。
【0123】
<XRD測定>
実施例及び比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)について、3aサイトのLi席占有率を、次に説明するファンダメンタル法を用いたリートベルト法により測定した。
ファンダメンタル法を用いたリートベルト法は、粉末X線回折等により得られた回折強度から、結晶の構造パラメータを精密化する方法である。結晶構造モデルを仮定し、その構造から計算により導かれるX線回折パターンと、実測されたX線回折パターンとができるだけ一致するように、その結晶構造の各種パラメータを精密化する手法である。
【0124】
X線回折パターンの測定には、Cu‐Kα線を用いたX線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製D8 ADVANCE)を使用した。回折角2θ=10〜120°の範囲より得られたX線回折パターンのピークについて解析用ソフトウエア(製品名「Topas Version3」)を用いて解析することにより3aサイトのLiの席占有率を求めた。なお、結晶構造は、空間群R−3mの六方晶に帰属され、その3aサイトにLiが存在し、3bサイトにNi、Co、Mnなどの遷移元素と、置換元素(例えば、Mg、Al及びTi)を含む場合には置換元素と、さらには過剰なLi分xとが存在し、6cサイトをOが占有していると仮定し、パラメータBeq.を1と固定し、酸素の分率座標を変数として、表に示す通り観測強度と計算強度の一致の程度を表す指標Rwp<10.0、GOF<2.5を目安に収束するまで繰り返し計算を行った。なお、解析にはガウス関数を用いた。
【0125】
=XRD測定条件=
線源:CuKα、操作軸:2θ/θ、測定方法:連続、計数単位:cps
開始角度:10°、終了角度:120°、
Detector:PSD
Detector Type:VANTEC−1
High Voltage:5585V
Discr. Lower Level:0.25V
Discr. Window Width:0.15V
Grid Lower Level:0.075V
Grid Window Width:0.524V
Flood Field Correction:Disabled
Primary radius:250mm
Secondary radius:250mm
Receiving slit width:0.1436626mm
Divergence angle:0.3°
Filament Length:12mm
Sample Length:25mm
Recieving Slit Length:12mm
Primary Sollers:2.623°
Secondary Sollers:2.623°
Lorentzian,1/Cos:0.004933548Th
【0126】
上記のようにして、実施例及び比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)についてXRDパターンを得、これに基づいてCuKα2線によるピークを除去し、(104)面の積分強度に対する(003)面の積分強度の比率(003)/(104)を求めた。さらに、シェラーの式から前記リチウム金属複合酸化物の(003)面及び (110)面の結晶子サイズを求め、(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率を算出した。
【0127】
<一次粒子面積の測定>
実施例及び比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の一次粒子面積を次のようにして測定した。SEM(走査電子顕微鏡)を用いて、サンプル(粉体)を1000倍で観察し、1視野あたり5個のD50に相当する大きさの二次粒子をランダムに選択し、倍率を5000倍に変更し、選ばれた二次粒子5個から一次粒子をそれぞれ10個ランダムに選択し、該一次粒子が棒状の場合はその粒界間隔の最も長い部分を長径(μm)、粒界間隔の最も短い部分を短径(μm)として面積を計算し、該一次粒子が球状の場合はその粒界間隔の長さを直径(μm)として面積を計算し、該50個の面積の平均値を一次粒子面積(μm)として求めた。
なお、このようして求めた一次粒子面積を、表及びグラフでは「一次粒子面積」と示した。
【0128】
<D50の測定>
実施例及び比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)について、レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(日機装株式会社製「Microtorac SDC」)を用い、サンプル(粉体)を水溶性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間照射した後、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからD50を求めた。
なお、測定の際の水溶性溶媒は60μmのフィルターを通し、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性条件を透過、粒子屈折率2.46、形状を非球形とし、測定レンジを0.133〜704.0μm、測定時間を30秒とし、2回測定した平均値をD50とした。
【0129】
<二次粒子面積の測定>
SEM(走査電子顕微鏡)を用いて、リチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)を1000倍で観察し、上記の如く測定して得られたD50に相当する大きさの二次粒子をランダムに5個選択し、該二次粒子が球状の場合はその粒界間隔の長さを直径(μm)として面積を計算し、該二次粒子が不定形の場合には球形に近似をして面積を計算し、該5個の面積の平均値を二次粒子面積(μm)として求めた。
【0130】
<カーボン量の測定>
リチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)のカーボン量は、炭素、硫黄測定装置EMIA−520[(株)ホリバ製作所製]を用いて試料を燃焼炉で酸素気流中にて燃焼させて測定した。
【0131】
<S量の測定>
実施例・比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)のS量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定した。
【0132】
<Na量の測定>
実施例・比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)のNa量は、原子吸光分光分析により測定した。
【0133】
<表面残存アルカリ値の測定>
実施例・比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)の表面残存アルカリ値を次のようにして測定した。
実施例・比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)10.0gをイオン交換水50mlに分散させ、ろ過し、上澄み液を塩酸で滴定する。その際の指示薬をフェノールフタレインとブロモフェノールブルーを用いて水酸化リチウムと炭酸リチウムを定量し、それらから計算されるLiの量を表面残存アルカリ値(%)とした。
【0134】
<電池特性評価>
実施例及び比較例で得たリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)8.0gと、アセチレンブラック(電気化学工業製)1.0gと、NMP(N-メチルピロリドン)中にPVDF(キシダ化学製)12wt%溶解した液8.3gとを正確に計り取り、そこにNMPを5ml加え十分に混合し、ペーストを作製した。このペーストを集電体であるアルミ箔上にのせ、100μm〜280μmのギャップに調整したアプリケーターで塗膜化し、140℃一昼夜真空乾燥した後、φ16mmで打ち抜き、4t/cmでプレス厚密し、正極とした。
電池作製直前に200℃で300min以上真空乾燥し、付着水分を除去し電池に組み込んだ。また、予めφ16mmのアルミ箔の重さの平均値を求めておき、正極の重さからアルミ箔の重さを差し引き正極合材の重さを求めた。また、リチウム金属複合酸化物粉体(正極活物質)とアセチレンブラック、PVDFの混合割合から正極活物質の含有量を求めた。
負極はφ19mm×厚み0.5mmの金属Liとし、電解液は、ECとDMCを3:7体積混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiPF6を1mol/L溶解させたものを用い、図1に示す電気化学評価用セルTOMCEL(登録商標)を作製した。
【0135】
(1サイクル目の充放電効率)
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて次に記述する方法で1サイクルの充放電効率を求めた。すなわち、正極中の正極活物質の含有量から、25℃にて0.1Cで15時間、4.3Vまで定電流定電位充電したときの容量を充電容量(mAh/g)とし、0.1Cで3.0Vまで定電流放電した時の容量を放電容量(mAh/g)とした。そして、充電容量に対する放電容量の比率を1サイクルの充放電効率(%)とした。
【0136】
(SOC50%の抵抗値)
上記のようにして求められた放電容量を元にし、SOC50%になるように0.1Cで定電流充電を行った。SOC50%にしたセルを電気化学測定機で1.0C10秒間定電流で放電し、放電前後の電位差と電流値から初期の抵抗値を求めた。
表1には、各実施例及び比較例の初期の抵抗値を、比較例1の初期の抵抗値を100.0%とした場合の相対値として示した。
【0137】
(高温サイクル寿命評価:60℃高温サイクル特性)
上記のようにして初期充放電効率を評価した後の電気化学用セルを用いて下記に記述する方法で充放電試験し、高温サイクル寿命特性を評価した。
電池充放電する環境温度を60℃となるようにセットした環境試験機内にセルを入れ、充放電できるように準備し、セル温度が環境温度になるように4時間静置後、充放電範囲を3.0V〜4.3Vとし、充電は0.1C定電流定電位、放電は0.1C定電流で1サイクル充放電行った後、1Cにて充放電サイクルを50回行った。
51サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り算して求めた数値の百分率(%)を高温サイクル寿命特性値として求めた。
表1には、各実施例及び比較例の高温サイクル寿命特性値を、比較例1の高温サイクル寿命特性値を100%とした場合の相対値として示した。
【0138】
<熱安定性評価>
実施例3及び実施例11−実施例13で得たリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)10.0gと、アセチレンブラック(電気化学工業製)0.29gと、NMP (N-メチルピロリドン)中にPVDF(クレハ化学製)12wt%溶解した液2.90gとを正確に計り取り、そこにNMP3.29gを加えて遊星式撹拌・脱泡装置(クラボウ製 マゼルスターKK‐50S)を用いて混練しペースト状とした。このペーストを集電体であるアルミ箔上にのせ、250μmのギャップに調整したアプリケーターで塗膜化し、140℃一昼夜真空乾燥した後、線圧が3tになるようにロールプレスし、φ16mmで打ち抜き、正極とした。
電池作製直前に200℃で300min以上真空乾燥し、付着水分を除去し電池に組み込んだ。また、予めφ16mmのアルミ箔の重さの平均値を求めておき、正極の重さからアルミ箔の重さを差し引き正極合材の重さを求めた。また、リチウム金属複合酸化物粉体(正極活物質)とアセチレンブラック、PVDFの混合割合から正極活物質の含有量を求めた。
負極はφ19mm×厚み0.5mmの金属Liとし、電解液は、ECとDMCを3:7体積混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiPF6を1mol/L溶解させたものを用い、図1に示す電気化学評価用セルTOMCEL(登録商標)を作製した。
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて次に記述する充電状態とした。
正極中の正極活物質の含有量を用いてCレートを算出した。25℃にて、0.1Cで4.3Vまで定電流定電位充電(電流値0.001Cで充電終了)したのち、0.1Cで3.0Vまで定電流放電した。これを2サイクル行ってから、3サイクル目に25℃にて0.1Cで4.3Vまで定電流定電位充電(電流値0.001Cで充電終了)した。
充電状態にした電気化学評価用セルをグローブボックス内にて解体をして、正極を取り出し、4φで6枚打ち抜きを行った。打ち抜いた4φ×6枚を高圧容器内に入れたのち、前述の電解液を10μL滴下した。高圧容器を密閉後、正極に電解液をしみ込ませるように一晩静置させた。
正極を入れた高圧容器をDSC測定装置(株式会社マック・サイエンス製DSC3300S)にセットし、Ar雰囲気下になるよう、Arガスを100ml/minフローにした。Arフロー下で、5℃/minで350℃まで昇温し、熱量の測定を行った。このとき、最大熱量が発生した温度を発熱ピーク温度(℃)とした。
【0139】
<磁着物量の測定>
500cc蓋付き樹脂性容器を用いて、実施例9及び比較例1で得たリチウム金属複合酸化物粉体(サンプル)100gに、イオン交換水500ccと、テトラフルオロエチレンで被覆された円筒型攪拌子型磁石(KANETEC社製TESLA METER 型式TM−601を用いて磁力を測定した場合に、磁力132mTの磁石)1個を加えて、ボールミル回転架台にのせ、回転させてスラリー化した。次に、磁石を取り出し、イオン交換水に浸して超音波洗浄機にて、磁石に付着した余分な粉を除去する。次に、磁石を取り出し、王水に浸して王水中で80℃、30分間加温して磁着物を溶解させ、磁着物が溶解している王水をICP発光分析装置にて鉄、クロム及び亜鉛の量を分析し、これらの合計量を磁着物量として正極活物質材料重量当りの磁着物量を算出した。
【0140】
【表1】
【0141】
(考察)
表1の結果などから、本リチウム金属複合酸化物においては、一次粒子面積/二次粒子面積が0.035以下であれば、1サイクル目の充放電効率を高くすることができることが分かった。これは、一次粒子面積/二次粒子面積が0.035以下であると、電解液と接触する二次粒子表面の面積が大きくなるため、リチウムイオンの出し入れを円滑に行うことができるようになり、1サイクル目の充放電効率を高くすることができるためであると考えることができる。その一方、一次粒子面積/二次粒子面積が0.004以上であれば、1サイクル目の充放電効率を高くすることができることが分かった。これは、一次粒子面積/二次粒子面積が0.004以上であれば、二次粒子内の一次粒子同士の界面が少なくなるため、その結果として二次粒子内部の抵抗を低くすることができ、1サイクル目の充放電効率を高くすることができるものと考えることができる。
【0142】
また、(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率を1.0以上かつ2.5より小さくしたところ、サイクル特性が向上することが分かった。
【0143】
また、表1の結果などから、650〜730℃未満の温度で仮焼成した後、水で洗浄し、その後、830〜950℃で本焼成することにより、岩塩構造の層の形成を抑制して、S量、Na量、表面残存アルカリ値/比表面積を小さくすることにより、初期抵抗を効果的に低減することができることが分かった。
【0144】
また、湿式粉砕前に、Li化合物以外の原料を、焼成、水洗及び磁選の何れか一種或いは二種以上の組み合わせからなる処理によって、Ni原料についてはS量を0.17%未満とし、Mn原料についてはS量を0.24%未満とし、Co原料についてはS量を0.12%未満に調整すると共に、Li化合物以外のすべての原料について磁着物量を750ppb未満に調整した後、前記のように仮焼成して本焼成することにより、岩塩構造の層の形成を抑制して、S量を低減でき、初期抵抗を効果的に低減することができることが分かった。
【0145】
DSC測定では、電解液が燃焼により発生される熱量を観測した。温度の上昇に伴い、正極材料から酸素が放出されることで、電解液が激しく燃焼し、発熱ピークが観測されることになる。実施例11−13では、表面処理することにより、発熱ピーク温度が実施例3よりも高温側にシフトしていた。これは、表面処理を行うことで、リチウム金属複合酸化物粒子表面の全面または一部に少なくともチタン(Ti)又はアルミニウム(Al)又はこれら両方を含有する表面層が形成されるため、電解液との反応を抑えることができたと考えらえる。なお、表面層の存在については、X線光電子分光分析装置(XPS)でも確認されている。
図1