特許第5847402号(P5847402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5847402-高移動度輸送混合物を含む単層感光体 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847402
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】高移動度輸送混合物を含む単層感光体
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/06 20060101AFI20151224BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   G03G5/06 312
   G03G5/06 314
   G03G5/06 373
   G03G5/06 372
   G03G5/05 101
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-26853(P2011-26853)
(22)【出願日】2011年2月10日
(65)【公開番号】特開2011-164616(P2011-164616A)
(43)【公開日】2011年8月25日
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】12/703,675
(32)【優先日】2010年2月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ナンシー エル. ベルナップ
(72)【発明者】
【氏名】カトリン マロリー
(72)【発明者】
【氏名】ヘレン アール. シャニアック
(72)【発明者】
【氏名】エドワード エフ. グラバウスキ
【審査官】 石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−250242(JP,A)
【文献】 特開2002−244313(JP,A)
【文献】 特開2002−196517(JP,A)
【文献】 特開2007−011073(JP,A)
【文献】 特開2009−128544(JP,A)
【文献】 特開2004−310089(JP,A)
【文献】 特開2005−215677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/00−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体;および
前記基体上に設けられた単層
を備えた画像形成部材であって、
前記単層が、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料と、バインダーと、高移動度電荷輸送分子および電子輸送分子の組合せと、を含み、
前記高移動度電荷輸送分子が、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(n−ブチル)フェニル]−[p−ターフェニル]−4,4’’−ジアミン(p−MeTer)、N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TM−TPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ−p−トリル−ビフェニル−4,4’−ジアミン(p−TPD)、およびその混合物からなる群から選択され、
前記電子輸送分子が、エチルヘキシルカルボニルフルオレニリデンマロノニトリルであり、
前記高移動度電荷輸送分子の前記電子輸送分子に対する重量比が、前記単層の全重量に基づいて40:10〜30:20である、画像形成部材。
【請求項2】
前記単層の厚さが10μm〜35μmである、請求項1に記載の画像形成部材。
【請求項3】
前記バインダーが、重量平均分子量が40,000のビスフェノールZポリカーボナート(PCZ)、重量平均分子量が51,000のビスフェノールZポリカーボナート(PCZ)、重量平均分子量が80,000のビスフェノールZポリカーボナート(PCZ)、およびこれらの混合物からなる群から選択される、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)型ポリカーボナートである、請求項1又は請求項2に記載の画像形成部材。
【請求項4】
前記高移動度電荷輸送分子が、前記単層の全重量の25重量パーセント〜45重量パーセントの量で前記単層中に存在し、
前記電子輸送分子が、前記単層の全重量の10重量パーセント〜25重量パーセントの量で前記単層中に存在する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の画像形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、デジタル等の電子写真装置で使用する画像形成装置の部材および構成要素に有用な層に関する。より具体的には、本発明は、単層を有する改良された電子写真画像形成部材に関し、ここで、上記単層は更に、1つまたは複数の正孔(電荷)輸送分子および電子輸送分子の組合せを含む。ある実施形態では、単層は、ターフェニル系輸送分子またはアリールアミン系輸送分子と、電子輸送材料と、の組み合わせを含み、単層画像形成部材のほぼ全体(bulk)にわたって電荷の高移動性が実現される。
【背景技術】
【0002】
典型的な多層感光体または多層画像形成部材は、少なくとも2つの層を有し、また、基体、導電層、所望に応じて用いる下引き層(「電荷ブロック層」または「正孔ブロック層」ともいう)、所望に応じて用いる接着層、光発生層(「電荷発生層」ともいう)、電荷輸送層、および所望に応じて用いるオーバーコート層を、可撓性ベルトの形状または剛性ドラムの形態で有し得る。多層形態では、感光体の活性層は電荷発生層(Charge Generation Layer:CGL)および電荷輸送層(Charge Transport Layer:CTL)である。これらの層を通る電荷の輸送が向上すると、感光体性能が改善される。多層可撓性感光体部材は、感光体に所望の平坦性を付与するために、電気的活性層の反対側である基体裏側にカール防止層を備えてもよい。
【0003】
多層感光体の欠点の1つとして、このような感光体の製造および保全はコストが高く、かつ煩雑なことがある。理想的には、設計が簡潔でかつ費用効率の良い単層感光体を用いることが望ましい。このような感光体としては、特許文献1〜4に開示されているものが挙げられる。
【0004】
しかし、所望の通りに作動する単層感光体を得るには障害がある。使用可能な単層感光体の設計における困難は、互いに適合する正孔輸送材料および電子輸送材料の選択にあり、そのような材料は選択された顔料およびバインダーとの適合性も有していなければならない。正孔および/または電子輸送材料が光電活性顔料から電荷を受容すること等の多くの問題点を克服する必要がある。電気的適合性(electrical compatibility)および性能に加えて、単層感光体を形成するための材料混合物は、容認できるコーティングを可能にするために、適切なレオロジーおよび凝集抵抗性を有するべきである。
【0005】
上記の条件全てを満たす組合せを見出すことは非常に困難であるので、一般的には多層デバイスが使用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,070,892号
【特許文献2】米国特許第7,223,507号
【特許文献3】米国特許公開公報第2004/0197685号
【特許文献4】米国特許公開公報第2005/0164106号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、上記のような問題を回避する、単層デバイスを初めとする改良された感光体設計に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書において説明する一態様は、基体と、該基体上に設けられた単層と、を備える画像形成部材を含む画像形成部材であって、さらに、上記単層が顔料、バインダー、ならびに高移動度電荷輸送分子および電子輸送分子の組合せを含み、上記高移動度電荷輸送分子が、アリールアミン系輸送分子、ターフェニル系輸送分子、およびその混合物からなる群から選択される、画像形成部材に関する。
【0009】
更に別の実施形態は、記録メディア上に画像を形成するための画像形成装置を構成する画像形成部材であって、(a)静電潜像を受容するための電荷保持表面を有する画像形成部材であって、画像形成部材が、基体および該基体上に設けられた単層を備え、該単層が更に、顔料、バインダー、ならびに高移動度電荷輸送分子および電子輸送分子の組合せを含み、高移動度電荷輸送分子が、ターフェニル系輸送分子、アリールアミン系輸送分子、およびその混合物からなる群から選択される、画像形成部材、(b)電荷保持表面に現像剤材料を塗布し、静電潜像を現像して電荷保持表面上に現像像を形成するための現像要素、(c)電荷保持面からコピー基材に現像像を転写するための転写要素、ならびに(d)現像像をコピー基材に定着させるための定着要素、を備えた画像形成部材に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る単層形態を有する画像形成部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、広義には、単層を含む電子写真画像形成部材であって、上記単層が、1つまたは複数の正孔(電荷)輸送分子および電子輸送分子の組合せを含む、電子写真画像形成部材に関する。実施形態によっては、上記単層は、電子輸送材料と、ターフェニル系輸送分子またはアリールアミン系輸送分子と、の組み合わせを含み、単層画像形成部材のほぼ全体にわたる電荷高移動性が実現される。正孔輸送材料は通常、零電界電荷輸送移動度が10−6〜10−4cm−1−1であり、これは、分子的にドープされた高分子輸送層で決定される典型的な移動度が10−8〜10−7cm−1−1である電子輸送材料より約2桁大きい。正帯電単層感光体デバイスは、電荷の移動距離がより短い最上面において負の電荷輸送が必要となるようにすることにより、移動度の差に対処している。本発明の実施形態における正孔輸送移動度は比較例の2倍〜4倍である。そのような「高移動度」正孔輸送化合物は、バインダーと良好な適合性を示し、正孔輸送分子を結晶化させることが少ないか、または結晶化を生じず、デバイス中へのこの材料の添加量を少なくすることができ、それによって、電子輸送分子の添加を増やすことができる。上記単層画像形成部材は、画像解像のための非常に効率的な構造を提供し、製造を簡潔にし、画像形成部材を長寿命化する。
【0012】
感光体を用いる典型的な電子写真複製装置またはデジタル印刷装置では、感光性部材上に静電潜像の形態で光画像が記録され、その後、現像剤混合物を付与することで潜像が可視化される。トナー粒子を含有する現像剤を静電潜像と接触させ、電荷保持表面を有する電子写真画像形成部材上に画像を現像する。現像されたトナー画像はその後、転写部材を介して、画像を受容する紙等のコピー基材に転写することができる。
【0013】
典型的な感光体または画像形成部材は多層形態に基づく。しかし、背景技術部に記載したように、多層感光体の製造および保全はコストが高く複雑であるため、理想的には、設計が簡潔で費用効率が良いので、単層感光体を使用することがより望ましい。また、背景技術部に記載したように、単層形態では、選択された顔料とも適合性でなくてはならない、互いに適合性を有する正孔輸送材料および電子輸送材料を選択する必要があるため、所望通りに作動する単層感光体を得ることは困難である。更に、選択された材料のそれぞれが、同じ溶媒及び/又はバインダー系に可溶性でなくてはならず、光発生電荷の良好な輸送を提供しつつ、良好な容量荷電(capacitive charging)を可能にしなければならない。
【0014】
本発明の一実施形態では、上記の問題が解消された単層画像形成部材が達成される。上記単層は、1つまたは複数の高移動度正孔輸送分子と、1つまたは複数の電子輸送材料と、の組合せを含み、残留電圧をより低く維持しながら、より速い処理速度での作動を実現する、性能の向上した正帯電単層デバイスのほぼ全体における電荷の移動を容易化する。本発明の一実施形態は、高移動度輸送分子および電子輸送分子の適合性の組合せを提供し、これらは実施形態において選択された顔料とも適合性であり、記載した実施形態の溶媒および/またはバインダー系に可溶性である。
【0015】
更に、これらの輸送分子が必要とする正孔輸送分子の負荷レベルはより低いため、より高濃度の電子輸送分子の導入を容易にし、それにより、電子輸送分子の低移動性を補う助けとなる。単層感光体用のポリマーバインダー(「輸送マトリックス」)中の正孔輸送分子および電子輸送分子の新規な組合せは、よりシャープな光放電曲線(photoinduced discharge curve:PIDC)およびより低い残留電圧(V)に見られるように、電気的性能の向上を示した。
【0016】
図面を参照して、本発明の実施形態を以下に記載する。以下の説明では、明瞭性のために特殊な用語を使用するが、これらは図面での説明のために選択されたものであり、本発明の範囲を定義または限定するものではない。図中の構造は、それらの相対的な比率に応じて描かれてはおらず、図面は本発明のサイズ、相対的なサイズ、または位置を限定するものと解釈されるべきではない。更に、負に帯電されたシステムを一例として説明するが、本発明の画像形成部材は正に帯電されたシステムにも使用され得る。
【0017】
図1は、単層電子写真画像形成部材5の一実施形態を示す。図1に示すように、本実施形態の画像形成部材は、剛性支持基体10、および該基体10上に設けられた単層15を備える。上記剛性基体は、金属、合金、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ハフニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、タングステン、モリブデン、およびこれらの混合物からなる群から選択される材料から成り得る。単層15は、ポリマーバインダー(「輸送マトリックス」)中に、高移動度正孔輸送分子20および電子輸送分子25の新規な組合せを含む。
【0018】
基体
感光体支持基体10は、不透明であってもよく、実質的に透明であってもよく、要求される機械的特性を有する任意の好適な有機または無機材料を含み得る。基体全体が電気導電性表面中の材料と同じ材料を含んでもよく、または、単に電気導電性表面を基体上のコーティングとしてもよい。例えば金属または金属合金等の任意の好適な電気導電性材料を用いることができる。典型的な電気導電性材料としては、銅、黄銅、ニッケル、亜鉛、クロム、ステンレス鋼、導電性のプラスチック類およびゴム類、アルミニウム、半透明アルミニウム(semitransparent aluminum)、鋼、カドミウム、銀、金、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ハフニウム、チタン、ニッケル、ニオブ、ステンレス鋼、クロム、タングステン、モリブデン;好適な材料を添加することにより、または材料に導電性を付与するのに十分な水分量が確実に存在するように湿った大気中で調整することで導電性を付与された紙;インジウム、スズ;酸化スズおよび酸化インジウムスズ等の金属酸化物等が挙げられる。単一の金属化合物であってもよく、異なる金属および/または酸化物の二重層であってもよい。
【0019】
また、基体10は完全に電気導電性材料から作製されてもよく;あるいは、基体は、デュポン社から市販されている二軸延伸ポリエチレンテレフタラートであるMYLARまたはKALEDEX2000として入手可能なポリエチレンナフタラート等の無機または有機ポリマー材料を含む絶縁性材料であって、導電性のチタンもしくはチタン/ジルコニウムコーティングを含む接地プレーン層12または酸化インジウムスズ、アルミニウム、チタン等の半導電性表面層を有する有機もしくは無機材料の層を有してもよく;またはアルミニウム、クロム、ニッケル、黄銅、その他の金属等の導電性材料だけからなってもよい。支持基体の厚さは、機械的性能および経済的検討事項等の多くの要因に依存する。
【0020】
基体10は、例えばプレート状、シリンダー状、ドラム状、スクロール状、可撓性エンドレスベルト状等の多くの異なる形態を取り得る。基体がベルト形状である場合、ベルトは継目のあるベルトであってもよく、継目なしベルト(シームレスベルト)であってもよい。実施形態によっては、本発明の感光体はドラム形態である。
【0021】
基体10の厚さは、可撓性、機械的性能、及び経済的検討事項等の多くの要因に応じて変えられる。本発明の実施形態によっては、支持基体10の厚さは、約500μm〜約3,000μmであり、または約750μm〜約2500μmであり得る。
【0022】
一実施形態の基体支持体10は、各コーティング層溶液に使用される溶媒のいずれにも可溶性でなく、光透過性または光半透過性であり、約150℃の高温まで熱安定性である。画像形成部材の作製に用いられる典型的な基体支持体10は、熱収縮係数が約1×10−5/℃〜約3×10−5/℃であり、ヤング率が約5×10−5psi(3.5×10−4Kg/cm)〜約7×10−5psi(4.9×10−4Kg/cm)である。
【0023】
単層
単層15は基体10の上に設けられる。単層15は、1つまたは複数の高移動度正孔輸送分子および電子輸送分子の組合せを少なくとも含む。ある実施形態では、高移動度正孔輸送分子としては、ターフェニル系アリールアミン輸送分子および非ターフェニル系アリールアミン輸送分子の両方を含むアリールアミン系輸送分子、ならびにその混合物が挙げられる。本発明の一実施形態では、上記非ターフェニル系アリールアミン輸送分子は、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミン(mTBD)、テトラメチル−TBD(TM−TBD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ−p−トリル−ビフェニル−4,4’−ジアミン(p−TPD)、N,N’−ビス−(4−メトキシ−フェニル)−N,N’−ジフェニル−ビフェニル−4,4’’−ジアミン(p−MeOTPD)、N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TM−TPD)、トリトリルアミン(TTA)、N,N’−ビス−(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−1,1’−3,3’−ジメチルビフェニル)−4,4’−ジアミン、およびこれらの混合物からなる群から選択される。別の実施形態によれば、上記ターフェニル系アリールアミン輸送分子は、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(n−ブチル)フェニル]−[p−ターフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(n−ブチル)フェニル]−[p−ターフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(n−ブチル)フェニル]−[p−ターフェニル]−4,4’’−ジアミン(4−tBuTer)、N,N’−ビス(3,4−ジメチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(n−ブチル)フェニル]−[p−ターフェニル]−4,4’’−ジアミン、およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
本発明の実施形態では、正孔輸送分子を適合する電子輸送分子と組み合わせて単層を形成する。実施形態では、電子輸送分子としては、N,N’−ビス(1,2−ジメチルプロピル)−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(NTDI)および置換NTDI(より高い溶解度を得るために使用される)(ある特定の実施形態では、置換基はビス(2−ヘプチルイミド)ペリノンである)、ブトキシカルボニルフルオレニリデンマロノニトリル(BCFM)、エチルヘキシルカルボニルフルオレニリデンマロノニトリル(2−EHCFM)(BCFMより高い溶解度を有する);ならびに、これらに限定されるものではないが、ジ(n−ブチル)ベンゾフェノンビスイミド、ビス(イソブチル)ベンゾフェノンビスイミド、およびビス(sec−ブチル)ベンゾフェノンビスイミドを含む「BIB−CN類」;2−[(4−メチルフェニル)−6−フェニル−4H−チオピラン−4−イリデン]−プロパンジニトリル−1,1−ジオキシド(CAS#135215−38−2、センシェント・テクノロジーズ社(Sensient Technologies Corp.;ウィスコンシン州、ミルウォーキー)から市販されているST−749)、ならびにこれらの混合物が挙げられる。希釈されていない純粋な形態で電子輸送能を有することが知られる外来性の電荷発生顔料であるペリレンを電子輸送の向上のために使用してもよい。特定の実施形態では、高移動度輸送分子は、乾燥後の単層の全重量の約25〜約45重量パーセントの量で単層中に存在する。特定の実施形態では、電子輸送分子は、乾燥後の単層の全重量の約10〜約25重量パーセントの量で単層中に存在する。別の実施形態では、単層中の高移動度輸送分子と電子輸送分子の比率(すなわち、高移動度輸送分子:電子輸送分子)は、約45:5〜約25:25、または約40:10〜約30:20である。
【0025】
単層は更に、上記正孔輸送分子および電子輸送分子と適合性の顔料およびバインダーを含み得る。ある実施形態では、顔料としては、無金属フタロシアニン類、クロロガリウムフタロシアニン(ClGaPc)等の三価金属フタロシアニン類、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(OHGaPc)およびチタニルフタロシアニン(OTiPc)等の金属フタロシアニン類、ベンジルイミダゾペリレン(BZP)、535+ダイマー(Vision pigment)、ならびにこれらの混合物が挙げられる。特定の実施形態では、単層中の顔料の量は、単層の全重量の約1〜約3重量パーセントである。ある実施形態では、バインダーとしては、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)型ポリカーボナート、ビスフェノール−Zポリカーボナート(PCZ);PCZ−500(三菱ガス化学株式会社製、重量平均分子量が51,000のポリカーボナート)、PCZ−400(三菱ガス化学株式会社製、重量平均分子量が40,000のポリカーボナート)、PCZ−800(三菱ガス化学株式会社製、重量平均分子量が80,000のポリカーボナート)、およびこれらの混合物が含まれ得る。特定の実施形態では、単層中のバインダーの量は、単層の全重量の約40〜約60重量パーセントである。
【0026】
本発明の一実施形態では、単層は、溶媒に顔料、バインダー、ならびに高移動度電荷輸送分子および電子輸送分子の組合せを溶解させて得られた溶液から形成される。実施形態によって、コーティング溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)、モノクロロベンゼン(MCB)、シクロヘキサノン、塩化メチレン、トルエン、およびこれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、溶媒の量は、単層コーティング溶液全重量の約60〜約80重量パーセントである。実施形態によっては、顔料の量は、単層コーティング溶液全重量の約8〜約23重量パーセントであり、バインダーの量は、単層コーティング溶液全重量の約8〜約12重量パーセントであり、高移動度輸送分子および電子輸送分子の組合せの量は、単層コーティング溶液全重量の約8〜約12重量パーセントであり得る。
【0027】
例えば側方電荷輸送(lateral charge migration;LCM)抵抗の改善を可能にするために、必要に応じて画像形成部材の単層中に導入される成分または材料の例としては、テトラキスメチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナマート)メタン(イルガノックス(登録商標)1010、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から入手可能)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、ならびにスミライザー(商標)BHT−R、MDP−S、BBM−S、WX−R、NW、BP−76、BP−101、GA−80、GM、およびGS(住友化学株式会社から入手可能)、イルガノックス(登録商標)1035、1076、1098、1135、1141、1222、1330、1425WL、1520L、245、259、3114、3790、5057、および565(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から入手可能)、ならびにアデカスタブ(商標)AO−20、AO−30、AO−40、AO−50、AO−60、AO−70、AO−80、およびAO−330(旭電化工業株式会社から入手可能)等のその他のヒンダードフェノール系酸化防止剤;サノール(商標)LS−2626、LS−765、LS−770、およびLS−744(三共株式会社から入手可能)、チヌビン(登録商標)144および622LD(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から入手可能)、マーク(登録商標)LA57、LA67、LA62、LA68、およびLA63(旭電化工業株式会社から入手可能)、ならびにスミライザー(登録商標)TPS(住友化学株式会社から入手可能)等のヒンダードアミン酸化防止剤;スミライザー(登録商標)TP−D(住友化学株式会社から入手可能)等のチオエーテル酸化防止剤;マーク(商標)2112、PEP−8、PEP−24G、PEP−36、329K、およびHP−10(旭電化工業株式会社から入手可能)等の亜リン酸系酸化防止剤;ビス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン(BDETPM)、ビス−[2−メチル−4−(N−2−ヒドロキシエチル−N−エチル−アミノフェニル)]−フェニルメタン(DHTPM)等のその他の分子等が挙げられる。単層中の酸化防止剤の含有量は、約0〜約20重量パーセント、約1〜約10重量パーセント、または約3〜約8重量パーセントである。
【0028】
支持基体層10に単層15を形成し、塗布するためには、任意の好適な従来技術が用いられ得る。単層は、単一の塗布工程により形成されてもよく、または、複数の塗布工程により形成されてもよい。ディップコーティング、リングコーティング、スプレー、グラビア、または任意のその他のドラムコーティング法が用いられ得る。
【0029】
堆積したコーティングの乾燥は、オーブン乾燥、赤外線乾燥、風乾等の任意の好適な従来技術でなされ得る。単層の乾燥後の厚さは、実施形態によって、約10μm〜約35μm、約12μm〜約28μm、または約14μm〜約21μmである。提示するように、単層の厚さは従来の感光体層より厚くてもよい。本発明のある実施形態ではそのような厚い単層が提供されるので、画像形成部材の耐摩耗性が顕著にに大きくなり、耐用年数の長期化に役立つ。
【実施例】
【0030】
実施例1
ターフェニル系単層感光体
【0031】
6.3グラムのV型ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料粒子および6.3グラムのポリ(4,4’−ジフェニル−1,1’−シクロヘキサンカーボナート)バインダー(PcZ200、帝人化成株式会社から入手可能)を107.4グラムのテトラヒドロフラン(THF)中で、数百グラム(例えば約700グラム〜800グラム)の直径3ミリメートルの鋼球またはイットリウムジルコニウム球を用いて、約24時間〜72時間ロールミリングすることにより、顔料分散液を調製した。
【0032】
別途、1.2グラムのN,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(n−ブチル)フェニル]−[p−ターフェニル]−4,4’’−ジアミン(p−MeTer)、0.80グラムのエチルヘキシルカルボニルフルオレニリデンマロノニトリル(EHCFM)、12.8グラムのTHF、および2.03グラムのトルエンと共に1.86グラムのバインダー(PcZ500(平均分子量51,000)、帝人化成株式会社から入手可能)を計量添加した。この混合物を、固形分が溶解するまでガラスボトル中でロールし、その後、分取した上記顔料分散液を添加して、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、PcZバインダー、pMeTer、EHCFMの固形分重量比(V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン:PcZバインダー:pMeTer:EHCFM)が1.8:48.2:30:20であり、かつ全固形分含有量が20重量パーセントとなるようにV型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、PcZバインダー、pMeTer、EHCFMを含む最終分散液を形成し、(ミリングビーズを使用せずに)ロールして更に混合した。長さが24cm〜36cm、直径が30mmのアルミニウムドラムにリングコーティング法で上記分散液を塗布した。このデバイスを120℃で40分間乾燥させた。得られた感光層の厚さは約16μmであった。また、正孔輸送分子と電子輸送分子の重量比(正孔輸送分子:電子輸送分子)を40:10にして同様に更にサンプルを作製した。
【0033】
実施例2
実施例1において使用した正孔輸送分子をN,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TM−TPD)に置き換えて、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、PcZバインダー、トリフェニルアミン、TM−TPD、EHCFMを固体重量比(V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン:PcZバインダー:トリフェニルアミン:TM−TPD:EHCFM)=1.8:48.2:30:20で含む最終単層デバイスを形成したこと以外は実施例1と同様にして実施例2のデバイスを作製した。また、正孔輸送分子と電子輸送分子の重量比(正孔輸送分子:電子輸送分子)を40:10にして同様に更にサンプルを作製した。
【0034】
実施例3
実施例1において使用した正孔輸送分子をN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ−p−トリル−ビフェニル−4,4’−ジアミン(p−TPD)に置き換えて、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、PcZバインダー、トリフェニルアミン、p−TPD、EHCFMを固体重量比(V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン:PcZバインダー:トリフェニルアミン:p−TPD:EHCFM)=1.8:48.2:30:20で含む最終単層デバイスを形成したこと以外は実施例1と同様にして実施例3のデバイスを作製した。また、正孔輸送分子と電子輸送分子の重量比(正孔輸送分子:電子輸送分子)を40:10にして同様に更にサンプルを作製した。
【0035】
実施例4
実施例1において使用した電子輸送材料を2−(4−メチルフェニル)−6−フェニル−4H−チオピラン−4−イリデン]−プロパンジニトリル−1,1−ジオキシド(CAS#135215−38−2、ST−749、センシェント・テクノロジーズ社(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)から市販)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例4のデバイスを作製した。
【0036】
実施例5
実施例3において使用した電子輸送材料を2−(4−メチルフェニル)−6−フェニル−4H−チオピラン−4−イリデン]−プロパンジニトリル−1,1−ジオキシド(CAS#135215−38−2、ST−749、センシェント・テクノロジーズ社(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)から市販)に置き換えた以外は、実施例3と同様にして実施例5のデバイスを作製した。
【0037】
比較例
実施例1において使用した正孔輸送分子をビフェニル−4−イル−ビス−(3,4−ジメチル−フェニル)−アミン(bp−アミン)に置き換えて、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、PcZバインダー、bp−アミン、EHCFMを固体重量比(V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン:PcZバインダー:bp−アミン:EHCFM)=1.8:48.2:30:20で含む最終単層デバイスを形成したこと以外は実施例1と同様に比較例のデバイスを作製した。また、正孔輸送分子と電子輸送分子の重量比(正孔輸送分子:電子輸送分子)を40:10にして同様に更にサンプルを作製した。
【0038】
電気的特性試験
2回の荷電−除電サイクルに続けて1回の荷電−露光−除電サイクルの順で行う光放電サイクルが得られるように設定したスキャナを用いて、得られた感光体デバイスを試験した。ここで、サイクルと共に光強度を漸増させて一連の光放電特性曲線を得、この曲線から、種々の露光強度における表面電位を測定した。また、表面電位を漸増させながら一連の荷電−除電サイクルを行い、電圧に対する電荷密度の曲線を複数描き、更なる電気的特性を得た。スキャナは、種々の表面電位で帯電する定電流を印加するコロトロンセットを備えている。初期表面電位400ボルトにデバイスを正に帯電させ、一連のニュートラルフィルター(neutral density filter)を調節することで露光強度を漸増させた。露光波長は、780±5ナノメートルのバンドフィルターで調節した。露光光源には1,000ワットのキセノン白色光源を用いた。
【0039】
ゼログラフィーのシミュレーションは、環境を周囲条件(相対湿度30パーセント、22℃)に調節した遮光チャンバー内で行った。上記で作製した光導電体のそれぞれについて、188mm/sの処理速度で光放電特性(photoinduced discharge characteristic:PIDC)曲線を作製した。表1に結果をまとめる。表1中、放電電位(V)は2エルグ(2×10−7J)の露光エネルギーで測定し、感光性は低強度露光の放電曲線の初期傾斜から計算し、「Vr」は残留電圧である。表1において、「HTM」は正孔輸送分子を示し、「ETM」は電子輸送分子を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
上記の表から、デバイスの配合において材料および比率の両方が重要な因子であることは明らかである。デバイスの感光性の劇的増加が示すように、EHCFM電子輸送材料はヒドロキシガリウム顔料と組み合わせるのに非常に適している。高移動度正孔輸送分子は、以前の研究である比較例と比べて低い残留電圧および感光性を維持しつつ、V(2エルグ)の低下が示すように、より効果的に電荷をデバイスの外部に移動させる。高移動度輸送分子は、より高濃度の電子輸送材料の使用を可能にし、正孔輸送分子と電子輸送分子の最適な材料比(正孔輸送分子:電子輸送分子)は重量比で約30:20である。重量比30:20のpMeTer:EHCFMは放電特性が優れており、残留電圧、暗減衰率、および放電電位がより低く、且つデバイスの感光性を維持している。
【0042】
デバイスを電気的に行使するために種々の処理速度で50,000回の荷電−除電サイクルを行うように設定されたサイクル設備を用いて、感光体デバイスを試験した。設備は、一定の電圧を印加する単線帯電スコロトロンセットおよび660nmのLED除電光を備える。デバイスを初期表面電位400ボルトに正に帯電させ、最小限の放電電位が達成されるように除電光強度を固定した。サイクル試験は、周囲条件(相対湿度30パーセント、22℃)に環境を調節した遮光チャンバー内で、処理速度785mm/sにて行った。サイクル試験の間、電荷電位の変化ΔVoおよび残留電位の変化ΔVrをモニターした。その結果を表2にまとめる。表2において、「HTM」は正孔輸送分子を示し、「ETM」は電子輸送分子を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
デバイスは、サイクル中にVoまたはVrがほとんどサイクル変化しない安定な電気的サイクル挙動を示す。高移動度分子の残留電位は比較例より低く保たれており、このことは、デバイスのほぼ全体における優れた輸送を実証している。
【符号の説明】
【0045】
5 単層電子写真画像形成部材
10 支持基体
15 単層
20 高移動度正孔輸送分子
25 電子輸送分子
図1