特許第5847658号(P5847658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847658
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20160107BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20160107BHJP
【FI】
   B29C45/16
   B29C45/26
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-147747(P2012-147747)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-8707(P2014-8707A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜幾
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 健司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂樹
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−049883(JP,A)
【文献】 特開平06−039874(JP,A)
【文献】 特開昭63−166634(JP,A)
【文献】 特開昭64−064818(JP,A)
【文献】 特開平08−290749(JP,A)
【文献】 特開2013−086369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に擬似的なステッチ模様が形成される樹脂成形品の製造方法であって、
共通型部および一次型部の間に画成された第1のキャビティに樹脂原料を注入し、該第1のキャビティにおいて、表側に並べて突出形成された複数の糸目部および該糸目部に合わせて形成された孔部を有する第1部材を成形し、
前記共通型部において前記孔部を成形した凸状部を該孔部に嵌め合わせて該共通型部に前記第1部材を残したまま一次型部を二次型部に入れ替えて、糸目部の突出端部をシールした二次型部および共通型部の間に画成された第2のキャビティに樹脂原料を注入し、該第2のキャビティで第1部材の表側に第2部材を成形し、
前記第2部材の表面から突出して露出する複数の糸目部によって、前記ステッチ模様の縫い目を表面に形成するようにした
ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記孔部を、前記糸目部の形成位置の裏側に対応して該裏側へ開口する凹状に形成した請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記孔部を、複数の糸目部の並びラインに沿って該糸目部に隣接させて形成した請求項1または2記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記孔部を、前記第1部材を表裏方向に貫通するよう形成した請求項3記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステッチ模様が設けられる樹脂成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色や硬さ等の物性が異なる合成樹脂を積層して構成される複層部材が、例えばテープレコーダーの操作ボタンなどに用いられている(例えば、特許文献1参照)。図10(d)に示すように、操作ボタン100は、上面に突起102aが設けられた第1の樹脂成形体102と、第1の樹脂成形体102の突起102a以外の上面を被覆する第2の樹脂成形体104とから構成され、第2の樹脂成形体104の上面が突起102aの上端面と揃うようになっている。そして、操作ボタン100では、第2の樹脂成形体104に囲われて上面に露出する突起102aの上端面が、例えば巻き戻しモード表示マーク等の所定の意匠形状に形成されている。このような、複層部材は、所謂二色成形法によって成形される。
【0003】
二色成形による操作ボタン100の製造方法を説明すると、第1の金型110と突起102aに合わせた凹部を有する第2の金型112とにより画成される第1のキャビティ114に第1の樹脂原料を注入して、第1の樹脂成形体102を形成する(図10(a)参照)。第2の金型112を取り外し、第1の樹脂成形体102を保持した第1の金型110に対して、第3の金型116を第1の樹脂成形体102の突起102aの上端面に突き当てて型閉めする(図10(b)参照)。第1の樹脂成形体102の上面と第3の金型116との間に画成される第2のキャビティ118に対して第2の樹脂原料を注入して、第2の樹脂成形体104を突起102aの上端面が露出するように第1の樹脂成形体102の上面に形成する(図10(c)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−184819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した製造方法では、突起102aの上端面を第2の樹脂成形体104で覆わないようするために、先に成形した樹脂成形体102の突起102aの上端面に、第3の金型116を突き当てて該上端面をシールしている。樹脂成形に際しては、第1の樹脂成形体102の収縮に起因して、突起102aの位置が僅かにずれてしまうことがある。そのため、第1の樹脂成形体102の突起102aを第2の樹脂成形体104の表面よりも突出するようにした場合、突起102aが位置ズレすると、第3の金型116を型閉めした際に該第3の金型116の対応する凹部の角で突起102aを傷付けたり、第3の金型116のシール不良により突起102aに第2の樹脂成形体104が被ってしまう等、突起102aの形成不良に繋がる。
【0006】
すなわち本発明は、従来の技術に係る樹脂成形品の製造方法に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、擬似的なステッチ模様をきれいに形成し得る樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の樹脂成形品の製造方法は、
表面に擬似的なステッチ模様が形成される樹脂成形品の製造方法であって、
共通型部および一次型部の間に画成された第1のキャビティに樹脂原料を注入し、該第1のキャビティにおいて、表側に並べて突出形成された複数の糸目部および該糸目部に合わせて形成された孔部を有する第1部材を成形し、
前記共通型部において前記孔部を成形した凸状部を該孔部に嵌め合わせて該共通型部に前記第1部材を残したまま一次型部を二次型部に入れ替えて、糸目部の突出端部をシールした二次型部および共通型部の間に画成された第2のキャビティに樹脂原料を注入し、該第2のキャビティで第1部材の表側に第2部材を成形し、
前記第2部材の表面から突出して露出する複数の糸目部によって、前記ステッチ模様の縫い目を表面に形成するようにしたことを要旨とする。
請求項1に係る発明によれば、共通型部と一次型部との間の第1のキャビティで成形した第1部材を共通型部から取り外すことなく、一次型部から二次型部に入れ替え、共通型部と二次型部との間の第2のキャビティで第2部材を成形して、第1部材と第2部材とを有する樹脂成形品を得ている。ここで、第1部材および第2部材の成形に際して共通して用いられる共通型部において、孔部を成形した凸状部を該孔部に嵌め合わせたまま、一次型部を外したり、二次型部を合わせたり、第2部材を成形している。すなわち、糸目部に合わせて形成される孔部に嵌った共通型部の凸状部がアンカーとして作用するので、第1部材の収縮を抑制し得る。従って、第1部材に形成される糸目部が第1部材の収縮に伴って位置ズレするのを防止することができ、二次型部が糸目部に干渉したり、二次型部での糸目部のシール不良を回避でき、第2部材の表面から突出する糸目部によって表される擬似的なステッチ模様をきれいに形成することができる。
【0008】
請求項2に係る発明では、前記孔部を、前記糸目部の形成位置の裏側に対応して該裏側へ開口する凹状に形成したことを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、孔部に嵌った共通型部の凸状部によって表側に位置する糸目部の位置ズレを防止することができる。
【0009】
請求項3に係る発明では、前記孔部を、複数の糸目部の並びラインに沿って該糸目部に隣接させて形成したことを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、孔部に嵌った共通型部の凸状部によって隣接する糸目部の位置ズレを防止することができる。
【0010】
請求項4に係る発明では、前記孔部を、前記第1部材を表裏方向に貫通するよう形成したことを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、孔部と凸状部との嵌め合い代を大きくすることができ、孔部に嵌った共通型部の凸状部によって隣接する糸目部の位置ズレを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る樹脂成形品の製造方法によれば、擬似的なステッチ模様をきれいに形成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の好適な実施例に係るインストルメントパネルを示す概略斜視図である。
図2】実施例のインストルメントパネルを拡大して示す概略斜視図である。
図3】実施例の第1部材を示す概略斜視図である。
図4】実施例のインストルメントパネルの要部を示す概略平面図である。
図5】(a)は図4のA−A線断面図であり、(b)は図4のB−B線断面図である。
図6】二色成形によるインストルメントパネルの製造過程を図4のA−A線に対応する位置で破断して示す説明図であって、(a)は第1部材の成形工程を示し、(b)は一次型部を外した状態を示し、(c)は二次型部を型閉めする前を示し、(d)は第2部材の成形工程を示す。
図7】二色成形によるインストルメントパネルの製造過程を図4のB−B線に対応する位置で破断して示す説明図であって、(a)は第1部材の成形工程を示し、(b)は一次型部を外した状態を示し、(c)は二次型部を型閉めする前を示し、(d)は第2部材の成形工程を示す。
図8】ステッチ模様の変更例を示す概略平面図である。
図9図8のC−C線断面図である。
図10】従来の複層部材の製造工程を示す説明断面図であって、(a)は第1の金型と第2の金型とによって第1の樹脂成形体を成形する状況を示し、(b)は第2金型を取り外して第3の金型をセットする状況を示し、(c)は第1の金型と第3の金型とによって第2の樹脂成形体を成形する状況を示し、(d)は得られた複層部材を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る樹脂成形品の製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、実施例では、樹脂成形品として車両内装部材の一つである図1および図2に示すようなインストルメントパネル30を製造する例を挙げて説明する。ここで、インストルメントパネル(樹脂成形品)30において、意匠面31となる面が向く側を表側といい、他の部材への取り付け面が向く側を裏側と指称する。例えば、インストルメントパネル30のような車両内装部材であれば、意匠面31が向く乗員室側が表側となり、該車両内装部材が取り付けられる車体側が裏側となる。
【実施例】
【0014】
実施例に係る製造方法で得られるインストルメントパネル30は、図4または図5に示すように、第1部材32と、この第1部材32の表側に設けられる第2部材42とを備え、革等の表皮材で覆われた状態を模して意匠面31が形成されている。また、インストルメントパネル30の意匠面31には、表皮材同士を繋いだ部分を模した継ぎ目が設けられると共に、この継ぎ目に沿って延在する擬似的なアウトステッチが設けられている(図2参照)。ここで、継ぎ目は、第2部材42の表面に形成された継ぎ目部46によって形成される。更に、インストルメントパネル30の意匠面31には、継ぎ目に露出する擬似的なインステッチが設けられ、実施例ではアウトステッチおよびインステッチによってシングルステッチを模したステッチ模様が構成されている。
【0015】
前記インストルメントパネル30では、第2部材42の表面によって意匠面31の大部分が構成され、第1部材32に形成されて第2部材42の表面から僅かに突出して露出する第1糸目部(糸目部)34によって、アウトステッチをなす縫い目が構成される(図4および図5参照)。なお、実施例では、継ぎ目に臨むインステッチの縫い目をなす第2糸目部(別の糸目部)44が、第2部材42の表面に一体形成される。そして、インストルメントパネル30では、第2部材42から表側に露出する第1糸目部34の突出端部と第2部材42の表面とが互いに異なる色で形成されている。すなわち、インストルメントパネル30は、表皮材を縫合する糸を模した第1糸目部34が該糸に合わせて色が設定される一方、表皮材を模した第2部材42の表面が該表皮材に合わせて色が設定される。
【0016】
前記第1部材32および第2部材42をなす素材としては、種々のものを採用し得る。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、TPO(オレフィン系エラストマー)等のエラストマー、ポリウレタン等の発泡体など、第1部材32と第2部材42とで同じ素材にしたり、異なる素材を組み合わせたりすることができる。なお、実施例では、第1部材32がポリプロピレンからなり、第2部材42がTPOから形成される。また、インストルメントパネル30は、第2部材42をなす素材が硬化する際に第1部材32と接合されて、第1部材32と第2部材42とが成形時に一体化される。そして、インストルメントパネル30は、第1部材32および第2部材42が調色された素材で成形され、成形後に着色する手間を省いている。
【0017】
前記第1部材32は、ステッチ模様の形成部位に少なくとも対応して設けられ、実施例ではインストルメントパネル30の裏側全体を構成している。第1部材32は、表側が第2部材42によって被覆される平板状のベース部32aと、このベース部32aの表側に一体形成された複数の第1糸目部34とを備えている(図3および図5参照)。各第1糸目部34は、ベース部32aの表面から表側に向けて突出し、インストルメントパネル30の表側に臨む突出端部が、平面視において縫い目の1つを模した短尺棒状に形成される。複数の第1糸目部34は、継ぎ目(継ぎ目部46)に沿ったライン上に並べられ、各第1糸目部34の長手辺が該ラインに沿っている(図4参照)。なお、実施例では、第1糸目部34が基本的に同じ長さで形成されると共に、隣り合う第1糸目部34,34同士の間隔が基本的に一定になっている。そして、第1糸目部34の突出端部には、糸の撚り目を模した細かい筋状の凹凸が形成されている。
【0018】
図4および5に示すように、第1部材32のベース部32aには、第1糸目部34の形成位置裏側に対応して該第1糸目部34の並び方向に沿って第1孔部(孔部)38が形成されると共に、第1糸目部34に隣接して第2孔部(孔部)40が形成されている。第1孔部38は、ベース部32aにおいて裏側に開口する凹状に形成され、表側に貫通しないように設定される。すなわち、第1孔部38の深さは、ベース部32aの板厚の範囲または裏側から第1糸目部34の内側まで凹むように形成することができる。また、第1孔部38は、複数の第1糸目部34の並び方向に連続して延在するように形成しても(実施例)、所定数の第1糸目部34毎または適宜のピッチで複数形成してもよい。更に、第1孔部38の開口形状は、矩形や円形等の所定形状、あるいは第1糸目部34の平面形状と同一形状や相似形状にすることができる。なお、第1孔部38は、ベース部32aの板厚の50%以上の深さで形成するのが望ましい。第1孔部38は、板状のベース部32aの厚さを薄くするように形成されるものであり、ベース部32aを折り曲げて凹状に形成されるものではない。
【0019】
前記第2孔部40は、複数の第1糸目部34の並び方向と直交する横側に、第1糸目部34(第1糸目部34の並びライン)からずらして設けられ、ベース部32aにおいて裏側に開口する凹状またはベース部32aを表裏方向に貫通(実施例)するように形成される(図4および図5参照)。また、ベース部32aを貫通する第2孔部40は、所定数の第1糸目部34毎または適宜のピッチで複数形成され、ベース部32aを該第2孔部40で分断しないようになっている。なお、第2孔部40は、ベース部32aを貫通しないのであれば、複数の第1糸目部34の並び方向に沿って連続的に延在するように形成してもよい。更に、第2孔部40の開口形状は、矩形や円形等の適宜形状に形成することができ、実施例では、前記並び方向に長手が延在する長方形に形成されている。そして、実施例の第2孔部40は、対応する第1糸目部34の並びラインの片側に隣接して設けたが、該並びラインの両側に沿って設けてもよい。実施例では、第1および第2孔部38,40を、表裏方向に開口縁が直線的に延在する形状としているが、裏側から表側に向かうにつれて先細りになるように形成してもよい。第2孔部40は、第1糸目部34から15mmの範囲にあるのが望ましい。なお、図2および図3に示す符号33は、エアアウトレット用の開口である。
【0020】
前記第2部材42は、インストルメントパネル30の意匠形状に合わせて適宜形状で形成されている。第2部材42の表面には、段状に形成された継ぎ目部46が設けられ(図5参照)、継ぎ目部46が所要長さに亘って連続的に延在している。また、第2部材42には、継ぎ目部46に位置させて、複数の第2糸目部44が一体形成されている(図5参照)。複数の第2糸目部44は、継ぎ目部46の延在ライン上に並べて配置される。各第2糸目部44は、段状の継ぎ目部46の角部から表側へ向けて突出する突起であって、各第2糸目部44は、第1糸目部34よりも該継ぎ目部46の延在ラインに沿う長さ寸法が小さく形成されている。また、第2部材42には、1つの第1糸目部34の隣りに1つの第2糸目部44が配置され、実施例では、対応する第1糸目部34の長手方向略中央に相当する位置に配置されている。また、第2部材42の表面には、該第2部材42の表側に露出する第1糸目部34の周辺部位に、該第1糸目部34に向かうにつれて凹む陥凹部48が形成されている。インストルメントパネル30において、陥凹部48により第1糸目部34がなす縫い目によって第2部材42が圧縮された形状が表現される。更に、第2部材42の表面には、必要に応じてシボ加工などの模様が形成される。
【0021】
次に、実施例に係るインストルメントパネル30の製造方法について説明する。実施例では、第1部材32および第2部材42を有するインストルメントパネル30が二色成形によって製造される。例えば実施例で用いられる成形装置は、第1位置と第2位置との間で移動可能に設けられた共通型部50と、第1位置にある共通型部50に相対するように配置され、該共通型部50に対して進退移動する一次型部52と、第2位置にある共通型部50に相対するように配置され、該共通型部50に対して進退移動する二次型部54とを備えている(図6および7参照)。共通型部50と一次型部52とを型閉めすることで、共通型部50と一次型部52との間に前記第1部材32に合わせた第1キャビティ(第1のキャビティ)56が画成される(図6(a)および図7(a)参照)。この際、第1部材32の裏側が共通型部50の成形面で規定される一方、第1部材32の表側が一次型部52で規定される。すなわち、共通型部50の成形面には、第1孔部38に合わせて第1凸状部50aが設けられると共に、第2孔部40に合わせて第2凸状部50bが設けられている。また、一次型部52の成形面には、第1糸目部34に合わせて凹状部52aが設けられている。なお、凹状部52aの閉塞端には、細かい筋状の凹凸(図示せず)が設けられて、第1部材32の成形と同時に第1糸目部34に撚り目を模した凹凸を付すようになっている。第1キャビティ56に第1部材32の素になる第1樹脂原料を注入する。そして、第1樹脂原料を第1キャビティ56内で硬化させることで、前述した形状の第1部材32が成形される(図6(b)および図7(b)参照)。具体的には、インストルメントパネル30の意匠面31となる側に突出する複数の第1糸目部34が表側に形成されると共に孔部38,40が形成された第1部材32が得られる。ここで、第1樹脂原料に所定の色材を混合することで、得られた第1部材32は第1糸目部34を含めた全体がステッチ模様の縫い目に合わせた色になっている。実施例では、射出成形法によって第1部材32が成形される。
【0022】
前記共通型部50において孔部38,40を成形した凸状部50a,50bを対応の孔部38,40に嵌め合わせて、共通型部50に第1部材32が残った状態になるように一次型部52を外す(図6(b)および図7(b)参照)。共通型部50を移動して、二次型部54に対向配置し(図6(c)および図7(c)参照)、共通型部50と二次型部54とを型閉めすることで、共通型部50と二次型部54との間に前記第2部材42に合わせた第2キャビティ(第2のキャビティ)58が画成される(図6(d)および図7(d)参照)。この際、第1部材32が凸状部50a,50bと孔部38,40とが嵌合したもとで共通型部50の成形面に保持されたままであって、第2部材42の表側が二次型部54で規定されると共に、第1糸目部34の突出端部が二次型部54の成形面でシールされる(図6(d)参照)。すなわち、二次型部54の成形面には、第1糸目部34に合わせて該第1糸目部34の突出端部をシールするシール面54aが設けられると共に、このシール面54aの周りに陥凹部48をなす突出部54bが設けられている。なお、シール面54aには、細かい筋状の凹凸(図示せず)が設けられて、第1部材32の成形と同時に形成された第1糸目部34の撚り目を模した凹凸に噛み合うようになっている。また、二次型部54の成形面には、第2糸目部44および継ぎ目部46を規定する凹凸部54cが設けられている。
【0023】
前記第2キャビティ58に第2部材42の素になる第2樹脂原料を注入する。このとき、隣り合う第1糸目部34,34の間を介して該第1糸目部34を挟んだ第2キャビティ58間で第2樹脂原料を流動させることができ(図6(d)および図7(d)参照)、第2樹脂原料を第2キャビティ58内に迅速かつ隙間なく充填させることができる。そして、第2樹脂原料を第2キャビティ58内で硬化させることで、第2糸目部44、継ぎ目部46および陥凹部48を備えた第2部材42が成形される。具体的には、二次型部54の成形面で第1糸目部34の突出端部がシールされることで、第1糸目部34の突出端部が第2部材42の表側に露出すると共に、第1部材32の表側が第2部材42で覆われる。ここで、第2樹脂原料に所定の色材を混合することで、得られた第2部材42はインストルメントパネル30の意匠面31に合わせた色になっている。実施例では、射出成形法によって第2部材42が成形される。
【0024】
(実施例の作用)
次に、実施例に係る製造方法の作用について説明する。前記インストルメントパネル30は、アウトステッチの縫い目をなす第1糸目部34を有する第1部材32を成形し、第1糸目部34を意匠面31側に露出させると共に僅かに突出するように第2部材42を成形することで製造される。すなわち、第1部材32と第2部材42とを別の成形工程で成形するので、第1糸目部34および該第1糸目部34と相まって擬似的なステッチ模様を構成する第2部材42の表面について、夫々の色の設定や形状の規定など自由度が高い。例えば、実施例の製造方法によれば、第1糸目部34(第1部材32)の成形に際して、第2部材42の色や成形条件や樹脂原料などの制約を受けず、同様に第2部材42の成形に際して、第1部材32の色や成形条件や樹脂原料などの制約を受けない。従って、簡単な製造方法で本物に近いステッチ模様を有するインストルメントパネル30を得られる。また、二色成形を採用することで、第1部材32および第2部材42の接着や組み付け工程をなくすことができるので、製造コストを低減し得る。
【0025】
前述の如く実施例の製造方法では、共通型部50と一次型部52との間の第1キャビティ56で成形した第1部材32を共通型部50から取り外すことなく、一次型部52から二次型部54に入れ替え、共通型部50と二次型部54との間の第2キャビティ58で第2部材42を成形して、第1部材32と第2部材42とを有するインストルメントパネル30を得ている。ここで、第1部材32および第2部材42の成形に際して共通して用いられる共通型部50において、孔部38,40を成形した凸状部50a,50bを該孔部38,40に嵌め合わせたまま、一次型部52を共通型部50から外したり、二次型部54と共通型部50とを型閉めしたり、第2部材42を成形している。この際、第1糸目部34に合わせて形成される孔部38,40に嵌った共通型部50の凸状部50a,50bがアンカーとして作用するので、第1部材32の収縮を抑制し得る。すなわち、第1部材32に形成される第1糸目部34が該第1部材32の収縮に伴って位置ズレするのを、第1糸目部34に合わせて設けられた孔部38,40と凸状部50a,50bとの嵌合により防止することができる。従って、第1糸目部34がずれて二次型部54のシール面54aに干渉したり、二次型部54での第1糸目部34のシール不良を回避でき、第1糸目部34によって表される擬似的なステッチ模様をきれいに形成することができる。また、前述した製造方法によれば第1部材32の収縮の影響を抑えることができるので、1つ1つの第1糸目部34を小さくすると共にピッチを細かくすることができ、ステッチ模様をより本物らしく見せることができる。より具体的には、第1孔部38に嵌った共通型部50の第1凸状部50aによって、該第1孔部38の表側に位置する第1糸目部34の位置ズレを防止することができる。また、第2孔部40に嵌った共通型部50の第2凸状部50bによって隣接する第1糸目部34の位置ズレを防止することができる。しかも、第2孔部40を貫通形成することで、第2孔部40と第2凸状部50bとの嵌め合い代を大きくすることができ、第2孔部40に嵌った第2凸状部50bによって隣接する第1糸目部34の位置ズレをより好適に防止することができる。
【0026】
実施例のインストルメントパネル30は、ステッチ模様の縫い目をなす第1糸目部34が形成された第1部材32を、該インストルメントパネル30の意匠面31をなす第2部材42と別部材としている。そして、第1糸目部34の突出端部を表側に露出させた状態で第1部材32の表側を第2部材42で覆って、意匠面31側に露出する第1糸目部34の突出端部とこの第1糸目部34の周辺部をなす第2部材42の表面形状(陥凹部48、継ぎ目部46や第2糸目部44)とが相まって擬似的なステッチ模様を構成している。例えばインストルメントパネル30の意匠面31をなす部材に縫い目を一体成形すると、意匠面31と縫い目との色を変えることができず、また意匠面31を柔らかくする一方、縫い目を硬くするなど、縫い目と意匠面31とで風合いを変えることはできない。実施例のインストルメントパネル30によれば、第1部材32と第2部材42とが別部材であるので、夫々の部材32,44(第1糸目部34と第2部材42の表面)の色の設定や、糸目部34あるいは継ぎ目部46等の糸目部34の周辺部形状などのステッチ模様に関係する形状や、素材の材質の選択などについての自由度が高い。すなわち、実施例のように、第1部材32と第2部材42とを異なる色の樹脂素材で形成すれば、両部材32,44の異なる成形色によって、糸目部34,36と第2部材42の表面とを異なる色に簡単にすることができる。同様に、第1部材32と第2部材42とを例えば硬さが異なる樹脂素材で形成すれば、第1糸目部34と第2部材42とが異なる風合いになるように簡単に設定できる。従って、実施例のインストルメントパネル30によれば、ステッチ模様をより本物らしくすることができる。しかも、インストルメントパネル30には、実際に革等を縫い合わせた際に形成される継ぎ目および縫い目に合わせて、意匠面31に段差形状の継ぎ目をなす段状の継ぎ目部46、アウトステッチをなす複数の第1糸目部34およびインステッチをなす複数の第2糸目部36が形成されているので、ステッチ模様をより本物らしくすることができる。
【0027】
(変更例)
前述した実施例の構成に限定されず、例えば以下のようにも変更可能である。
(1)実施例では、シングルステッチを模したステッチ模様を例示したが、図8および図9に示すダブルステッチを模したステッチ模様やその他のステッチ模様であってもよい。また、ステッチ模様は、アウトステッチだけであってもよく、継ぎ目を設けてもインステッチ(第2糸目部)を設けなくてもよい。
(2)図8および図9に示す変更例では、第2部材42の表面に溝状に形成された継ぎ目部46を挟む両側に第1部材32の表側に突出形成された2列の第1糸目部34,34が該第2部材42の表側に露出している。変更例では、複数の第1糸目部34が、継ぎ目部46に沿うラインLで配列されると共に、該ラインLに対して斜めに揃えて形成される。なお、継ぎ目部46は、深さ方向に先細り形状に形成される。また、継ぎ目部46に第1部材32の表側に突出形成された1列の第2糸目部36が露出するようなっている。そして、継ぎ目部46が継ぎ目をなし、継ぎ目部46を挟む2列の第1糸目部34,34がアウトステッチをなし、継ぎ目部46に露出する第2糸目部36が継ぎ目に現れるインステッチをなし、意匠面31にダブルステッチを模したステッチ模様が構成される。すなわち、第2糸目部36を、第1部材32に意匠面31側に突出するよう形成し、該第2糸目部36の突出端部を意匠面31側に露出させた状態で第2部材42を形成する構成であってもよい。このように、第2糸目部36を第1部材32に形成することで、第2糸目部36を第2部材42とは別に色等を設定し得るから、第1糸目部34と同様に、第2糸目部36についての設定の自由度を向上させることができる。変更例の構成において、実施例の製造方法と同様に第2糸目部36に合わせて孔部38,40を設けることで、第2糸目部36の位置ズレを防止できる。
【0028】
(3)実施例では、樹脂成形品としてインストルメントパネルを例示したが、ドアトリム、ピラー、グローブボックスのリッドなどの車両内装部材や、家具その他のステッチ模様が形成されるものに適用可能である。
(4)樹脂成形品は、第1部材がステッチ模様に対応する部位周辺だけにある構成でもよく、また第1部材が第2部材の裏側全体に亘ってあってもよい。例えば、第1部材を樹脂成形品の剛性を担保する基材とし、第1部材を覆う第2部材を柔軟な表皮材としてもよい。
(5)1つの第1部材に第1糸目部の全部または第2糸目部を形成するのではなく、第1糸目部の一部が形成された第1部材と第1糸目部の残りが形成された第1部材とに、縫い目などに応じて分けてもよい。このように、第1部材は、縫い目の並び方向全体を1つで構成しても、分割してもよい。
(6)樹脂成形品の製造方法において、第1孔部および第2孔部の何れか一方だけを設けてもよい。
【符号の説明】
【0029】
32 第1部材,34 第1糸目部(糸目部),36 第2糸目部(糸目部),
38 第1孔部(孔部),40 第2孔部(孔部),42 第2部材,50 共通型部,
50a 第1凸状部(凸状部),50b 第2凸状部(凸状部),52 一次型部,
54 二次型部,56 第1キャビティ(第1のキャビティ),
58 第2キャビティ(第2のキャビティ)
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