(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基地局と通信する広域移動通信インタフェース手段と、衛星からの測位電波を捕捉し且つ位置情報を導出する測位手段とを有する携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記広域移動通信インタフェース手段における前記基地局からの電波の通信品質値を測定する通信品質測定手段と、
当該通信品質値を記憶する通信品質記憶手段と、
移動量を含む移動情報を取得する移動情報取得手段と、
取得された移動情報を記憶する移動情報記憶手段と、
前記測位手段が当該測位電波を捕捉できず且つ当該通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、前記通信品質記憶手段に当該通信品質値を記憶させ、且つ前記移動情報取得手段を機能させて、取得される当該移動情報を前記移動情報記憶手段に継続して記憶させる記憶制御手段と、
前記測位手段が当該測位電波を捕捉できた際、前記測位手段によって導出された位置情報と、当該位置情報に係る位置からその分遡ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動情報とを、前記通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶する劣化位置情報記憶手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする携帯端末用のプログラム。
基地局と通信する広域移動通信インタフェース手段と、衛星からの測位電波を捕捉し且つ位置情報を導出する測位手段とを有する携帯端末における通信品質の劣化位置情報の導出方法であって、
前記広域移動通信インタフェース手段における前記基地局からの電波の通信品質値を測定する第1のステップと、
前記測位手段が当該測位電波を捕捉できず且つ当該通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、通信品質記憶手段に当該通信品質値を記憶させ、且つ移動量を含む移動情報を取得する移動情報取得手段を機能させて、取得される当該移動情報を移動情報記憶手段に継続して記憶させる第2のステップと、
前記測位手段が当該測位電波を捕捉できた際、前記測位手段によって導出された位置情報と、当該位置情報に係る位置からその分遡ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動情報とを、前記通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶する第3のステップと
を有することを特徴とする通信品質の劣化位置情報の導出方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、屋内での通信品質状況を把握する場合、屋内における通信品質値の特に劣化している位置を特定することが非常に重要となる。実際、屋内での通信品質値は、壁や鉄筋柱、更には金属製書棚等の配置に影響を受けることから、同一の建物内においても一定ではない。従って、通信品質の劣化した位置を特定することによって、通信品質改善のための対策を有効に施すことが可能となる。
【0007】
しかしながら、上述したような従来技術では、室内における通信品質劣化位置を特定することができない。例えば、特許文献1の技術は、GPSによる位置情報の取得を前提としているので、衛星からの測位電波を捕捉できない屋内での通信品質情報収集には適用され得ない。
【0008】
さらに、特許文献2の技術は、屋内での通信品質値を収集可能とするが、屋内から屋外へ出た際に測位電波を捕捉して位置情報を取得するので、屋内における通信品質値の劣化している位置までを特定できるものではない。
【0009】
そこで、本発明は、広域移動通信エリア内での建物の屋内等における通信品質の劣化位置を特定可能な情報を導出することができる携帯端末、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、基地局と通信する広域移動通信インタフェース手段と、衛星からの測位電波を捕捉し且つ位置情報を導出する測位手段とを有する携帯端末において、
広域移動通信インタフェース手段における基地局からの電波の通信品質値を測定する通信品質測定手段と、
通信品質値を記憶する通信品質記憶手段と、
移動量を含む移動情報を取得する移動情報取得手段と、
取得された移動情報を記憶する移動情報記憶手段と、
測位手段が測位電波を捕捉できず且つ通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、通信品質記憶手段に通信品質値を記憶させ、且つ移動情報取得手段を機能させて、取得される移動情報を移動情報記憶手段に継続して記憶させる記憶制御手段と、
測位手段が測位電波を捕捉できた際、測位手段によって導出された位置情報と、この位置情報に係る位置からその分遡ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動情報とを、通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶する劣化位置情報記憶手段と
を有する携帯端末が提供される。
【0011】
この本発明による携帯端末の一実施形態として、本携帯端末は、
通信品質値が、最下位閾値以上の値をとる下位閾値以下に減衰したか否かを判定する通信品質判定手段と、
通信品質値が下位閾値以下に減衰した際、測位手段を起動する測位起動制御手段と
を更に有することも好ましい。
【0012】
また、本発明の携帯端末における移動情報に係る他の実施形態として、
本携帯端末は、加速度を測定する加速度測定部を更に備えており、
移動情報取得手段は、加速度測定部によって検出された加速度の周期的変動から算出される歩数を用いて導出される移動量を含む移動情報を取得することも好ましい。
【0013】
さらに、上述した移動情報に係る実施形態において、
本携帯端末が、方位を測定する方位測定部を更に備えており、
移動情報取得手段は、移動量と、方位測定部によって検出された進行の向きの方位とを含む移動情報を取得し、
劣化位置情報記憶手段は、測位手段によって導出された位置情報と、位置情報に係る位置からその分逆に辿ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動量及び進行の向きの方位とを、通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶することも好ましい。
【0014】
また、上述した移動情報に係る実施形態において、
本携帯端末が、向きの転換を測定する向き転換測定部を更に備えており、
移動情報取得手段は、移動量と、向き転換測定部によって検出された進行の向きの転換とを含む移動情報を取得し、
劣化位置情報記憶手段は、測位手段によって導出された位置情報と、位置情報に係る位置からその分逆に辿ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動量及び進行の向きの転換とを、通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶することも好ましい。
【0015】
さらに、上述した移動情報に係る実施形態において、
所定区域の経路情報を記憶する区域情報記憶手段を更に備えており、
劣化位置情報記憶手段は、測位手段によって導出された位置情報に係る位置から、記憶された経路情報に係る経路を辿りつつ、移動情報記憶手段によって既に継続して記憶された移動量だけ遡ることによって通信品質劣化位置を特定し、通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に、特定された通信品質劣化位置を対応付けて記憶することも好ましい。
【0016】
また、本発明による携帯端末において、最下位閾値は、基地局との通信が最低限可能な程度の通信品質値であることも好ましい。また、下位閾値は、携帯端末が屋内に位置する際に検出される程度の通信品質値であることも好ましい。
【0017】
さらに、本発明による携帯端末の他の実施形態として、本携帯端末は、
移動情報に基づいて移動誤差を算出する移動誤差算出手段と、
算出された移動誤差が所定誤差閾値以上であるか否かを判定する移動誤差判定手段と
を更に有しており、
移動情報記憶手段は、移動誤差判定手段が真の判定を行った際、記憶した移動情報を破棄する又は使用不可とすることも好ましい。
【0018】
また、本発明による携帯端末の更なる他の実施形態として、
通信品質判定手段は、通信品質値が上位閾値以上に向上したか否かを更に判定し、
測位起動制御手段は、通信品質値が上位閾値以上に向上した際、測位手段を再起動し又は起動状態に維持し、
上位閾値は、携帯端末が屋外に位置する際に検出される程度の通信品質値であることも好ましい。
【0019】
さらに、本発明による携帯端末の更なる他の実施形態として、劣化位置情報記憶手段は、測位手段が測位電波を捕捉できた際、測位手段によって導出された位置情報に係る位置から、移動情報記憶手段によって既に継続して記憶された移動情報分だけ遡ることによって通信品質劣化位置を特定し、通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に、特定された通信品質劣化位置を対応付けて記憶することも好ましい。
【0020】
また、本発明による携帯端末の更なる他の実施形態として、
本携帯端末は、広域移動通信インタフェース手段を介してデータを送受信するデータ送受信手段を更に有しており、
データ送受信手段は、劣化位置情報記憶手段によって記憶された通信品質値及び通信品質値に対応付けられた情報を、無線リンクを介して所定の管理サーバへ送信することも好ましい。
【0021】
本発明によれば、さらに、基地局と通信する広域移動通信インタフェース手段と、衛星からの測位電波を捕捉し且つ位置情報を導出する測位手段とを有する携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
広域移動通信インタフェース手段における基地局からの電波の通信品質値を測定する通信品質測定手段と、
通信品質値を記憶する通信品質記憶手段と、
移動量を含む移動情報を取得する移動情報取得手段と、
取得された移動情報を記憶する移動情報記憶手段と、
測位手段が測位電波を捕捉できず且つ通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、通信品質記憶手段に通信品質値を記憶させ、且つ移動情報取得手段を機能させて、取得される移動情報を移動情報記憶手段に継続して記憶させる記憶制御手段と、
測位手段が測位電波を捕捉できた際、測位手段によって導出された位置情報と、位置情報に係る位置からその分遡ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動情報とを、通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶する劣化位置情報記憶手段と
してコンピュータを機能させる携帯端末用のプログラムが提供される。
【0022】
本発明によれば、さらにまた、基地局と通信する広域移動通信インタフェース手段と、衛星からの測位電波を捕捉し且つ位置情報を導出する測位手段とを有する携帯端末における通信品質の劣化位置情報の導出方法であって、
広域移動通信インタフェース手段における基地局からの電波の通信品質値を測定する第1のステップと、
測位手段が測位電波を捕捉できず且つ通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、通信品質記憶手段に通信品質値を記憶させ、且つ移動量を含む移動情報を取得する移動情報取得手段を機能させて、取得される移動情報を移動情報記憶手段に継続して記憶させる第2のステップと、
測位手段が測位電波を捕捉できた際、測位手段によって導出された位置情報と、位置情報に係る位置からその分遡ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動情報とを、通信品質記憶手段に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶する第3のステップと
を有する通信品質の劣化位置情報の導出方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の携帯端末、プログラム及び通信品質情報収集方法によれば、広域移動通信エリア内での建物の屋内等における通信品質劣化位置を特定可能な情報を導出することができる。これにより、建物の屋内等における通信品質劣化位置の分布を把握し、例えば通信品質改善のための対策を有効に施すことも容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明による携帯端末を含むシステムの構成図である。
【0027】
図1によれば、ユーザが所持する携帯端末1は、携帯電話網8に接続された基地局3と無線リンクを介して通信する広域移動通信インタフェース部を備えている。携帯端末1は、携帯電話網8及びインターネット7を介して、相手方通信装置5と通信することができる。広域移動通信インタフェース部は、例えばCDMA方式のセルラ通信用のものである。携帯端末1は、見通しのきく屋外では、当然、基地局3と通信することができる。また、屋内であっても、電波浸透率は低下するものの、基地局3と通信可能な場合も多い。
【0028】
さらに、携帯端末1は、GPS(Global Positioning System)衛星4からの測位電波を捕捉する測位部も備えている。測位電波には、GPS衛星4の時刻及び軌道の情報が含まれている。3つ以上の衛星4から到来する測位電波を用いることによって各衛星までの距離を算出し、結果的に地球上における携帯端末1の位置を特定することができる。携帯端末1は、見通しのきく屋外では、当然、衛星4からの有効な測位電波を捕捉することができる。しかしながら、屋内では、基地局からの電波とは異なり、測位電波を捕捉することはほとんどの場合不可能である。
【0029】
同じく
図1によれば、携帯端末1を所持するユーザは、屋外から建物2の屋内へ移動し、更に屋外へ移動する。携帯端末1は、屋外に位置する際には、衛星4からの測位電波を捕捉できるが、屋内に位置する際には、測位電波を捕捉することができない。例えば、いずれの測位電波も受信できなかったり、受信した測位電波の強度が測位データを得るのに必要となる閾値強度を下回っていたりする(これも「測位電波を捕捉できない」場合とする)。このことから、測位電波を捕捉できなかった際、携帯端末1は屋内に位置する、と判定することができる。このように、本発明の測位部は、従来技術のように位置情報を導出するためだけではなく、屋内/屋外の判定にも利用される。
【0030】
また、本発明によれば、このような測位不可能な屋内について、基地局3からの電波の通信品質値が劣化した通信品質劣化位置を特定可能な情報を導出することが可能となる。
【0031】
このような通信品質劣化位置情報を導出するため、携帯端末1は、自身の移動量を含む移動情報を取得する移動情報取得部を有している。例えば、携帯端末1が加速度測定部としての加速度センサを備えていて後に詳述するように所持するユーザの歩数をカウントすることができ、移動情報取得部は、この歩数から算出される移動量を取得する。
【0032】
本発明では、この移動情報取得部を利用して、
(a)携帯端末1が測位電波を捕捉できず(即ち屋内に入ったと判定され)且つ通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、「通信品質値」を記憶させ、且つ取得される「移動情報」を継続して記憶させ、
(b)測位電波を捕捉できた際(即ち屋外に出たと判定された際)、測位部によって導出された「位置情報」と、既に継続して記憶された「移動情報」とを、既に記憶された「通信品質値」に対応付けて記憶する。
【0033】
ここで、上記(a)において、通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、「通信品質値」の記憶を開始し、また、「移動情報」の測定・取得を開始して「移動情報」の記憶を開始することも好ましい。この場合、屋内であって通信品質値が最下位閾値以下に減衰したとの判定が、「移動情報」の記憶開始のトリガとなる。
【0034】
さらに、上記(b)においては、「位置情報」に係る位置から「移動情報」分遡ることによって、屋内における「通信品質劣化位置」を特定することができる。実際、携帯端末1において「通信品質劣化位置」が特定されることも好ましい。
【0035】
同じく
図1によれば、携帯電話網8に、管理サーバ6が更に接続されている。管理サーバ6は、携帯端末1から、通信品質劣化位置情報として、「位置情報」及び「移動情報」を「通信品質値」に対応付けた情報を収集する。この場合、管理サーバ6は、このような情報から「通信品質劣化位置」を特定することができる。
【0036】
変更態様として、管理サーバ6は、携帯端末1から、通信品質劣化位置情報として、携帯端末1によって特定された「通信品質劣化位置」を「通信品質値」に対応付けた情報を収集してもよい。いずれにしても、管理サーバ6を運用する通信事業者は、携帯端末1から通信品質劣化位置情報を収集することによって、建物の屋内等における通信品質劣化位置の分布を把握し、例えば通信品質改善のための対策を有効に施すことができる。
【0037】
図2は、携帯端末1が屋外から屋内に、さらに屋内から屋外に移動する場合における通信品質値の変化を示したグラフである。
【0038】
図2におけるセルラ通信の通信品質値のグラフは、具体的には、携帯端末1を保持したユーザが、徒歩でドアから屋内に入り、屋内を同じく徒歩で横断して、更に別のドアから徒歩で屋外に出る状況下で生じた、携帯端末1にとっての通信環境の時間変化を表示したものである。
【0039】
(S201)携帯端末1は、屋外に位置しており、屋内に入るためのドアに向かって徒歩で移動している。この際、セルラ通信の通信品質値は、所定の上位閾値THhigh以上である。上位閾値THhighとしては、通常、携帯端末が屋外に位置する際に検出される程度の通信品質値とすることができる。
【0040】
ここで、セルラ通信の通信品質値として、例えば、搬送波対干渉波比C/I(carrier-to-interference ratio)を採用することができる。
図2のグラフでは、縦軸がC/Iであって、横軸が経過時間(秒)である。セルラ通信の通信品質値としては、C/I以外に、以下の値を用いることもできる。勿論、これら値を組み合わせたものであってもよい。
(a)受信電力RxPower
(b)受信信号強度RSS(Received Signal Strength)
(c)信号対干渉信号比SINR(Signal to Interference Ratio)
(d)Ec/Io(パイロット受信電力/全受信電力(RSSI))
(e)パケット損失率PER(Packet Error Rate)
(f)フレーム損失率FER(Frame Error Rate)
【0041】
その後、携帯端末1がドアから屋内に入ると、セルラ通信の通信品質値が急激に低下する。携帯端末1が屋内に入ると、基地局3からの電波は、屋根、壁、鉄筋柱、更には金属製書棚等、建物2に係る障害物による電磁波遮蔽の影響を受けて減衰する。即ち、携帯端末1によって受信される基地局3からの電波の屋内における浸透率は、大幅に低下している。その結果、携帯端末1は、基地局3からの電波における通信品質の劣化を検出する。
【0042】
(S202)携帯端末1は、通信品質値が下位閾値THlow以下に減衰した際、自身が室内に入ったか否かを判断するため、測位部を起動し、GPS衛星4からの測位電波の捕捉を試みる。
(S203)測位部が測位電波を捕捉したか否かを判定し、捕捉できないとの判定がなされた際、携帯端末1は、自身が室内に入ったと判断する。ここで、測位部を一先ず停止させることも好ましい。一方、測位電波を捕捉できた際、携帯端末1は自身が屋外に位置すると判断して、通信品質値の監視を継続する。ここでも、測位部を一先ず停止させることも好ましく、又は所定時間経過後、通信品質値が尚下位閾値THlow以下である際、再度、測位部が測位電波を捕捉したか否かを判定することも好ましい。
【0043】
尚、既存のGPS受信部は、現在位置を測位するためのものであって、少なくとも3つのGPS衛星4からの測位電波を捕捉することを必要とする。即ち、3つの測位電波を捕捉することによって初めて、自らの位置(例えば緯度・経度)を特定することができる。これに対し、S203における携帯端末1の測位部は、現在位置を測位することまでは要しない。あくまで測位電波を捕捉できなかったか否かを判断する。1つ又はそれ以上の有効な測位電波を受信できた時点で、測位電波を捕捉できたとする。ここで、有効な測位電波とは、強度が測位データを得るのに必要となる閾値強度以上である測位電波を指す。
【0044】
(S204)測位電波が捕捉できず、携帯端末1が屋内に位置すると判断した場合、広域移動通信インタフェース部における通信品質値を更に監視し、通信品質値が、最下位閾値THbottom以下に減衰した際、通信品質値の記憶を開始する。ここで、最下位閾値THbottomは、基地局3との通信が最低限可能な程度の通信品質値とすることができる。尚、通信品質値の監視は、消費電力を大幅に増大させるものではなく、データ通信の有無にかかわらず常時実行されてもよい。
【0045】
さらに、通信品質値が最下位閾値THbottom以下に減衰した際、移動情報取得部を機能させて、取得される移動情報の記憶を開始する(S204)。尚、通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際には既に、移動情報取得部が起動されていて、取得された移動情報の記憶が継続中であってもよい。例えば、携帯端末1が加速度測定部としての加速度センサを備えていて常時歩数をカウントしており、通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際の移動量も識別できるように、例えば時刻と結び付けて又は通信品質値と対応付けて、記録されていてもよい。
【0046】
(S204’)通信品質値が最下位閾値以下に減衰した後に、最下位閾値を上回り、再び最下位閾値以下に減衰した際、ステップS204と同様に、通信品質値を記憶させ、且つ移動情報取得部を機能させて、取得される移動情報の記憶を開始する。ここで、移動情報は、少なくとも(通信品質値が最初に最下位閾値以下に減衰した)ステップS204以降、継続して記憶されていることが好ましい。このように継続して記憶された移動情報を用いることによって、後に測位して得られる位置から遡って、室内の通信品質劣化位置を特定することができる。
【0047】
一方、通信品質値は、継続して記憶されていてもよいが、例えば、最下位閾値以下の値のみ記憶されていてもよい。携帯端末1を用いることによって、最低限、通信品質が最下位閾値以下に劣化している通信品質劣化位置を特定することが求められる。従って、少なくとも最下位閾値以下の通信品質値が記憶されていて、この通信品質値に、既に継続して記憶された移動情報を対応付けて記憶すれば、そのような通信品質劣化位置が特定可能となる。
【0048】
(S205)その後、携帯端末1が、屋外に出るためのドア近傍に移動し、セルラ通信の通信品質値が上位閾値THhigh以上に向上した際、測位部が停止している場合には測位部を再起動し、測位部が起動している場合にはこの起動状態を維持する。ここで、上位閾値THhighは、携帯端末1が屋外に位置する際に検出される程度の通信品質値とすることができる。
(S206)測位部が測位電波を捕捉したか否かを判定し、捕捉できたと判定した際、携帯端末1は、自身が室外に出たと判断する。ここで、測位部を、例えば所定時間経過後、停止させてもよい。一方、測位電波を捕捉できないと判断した際、携帯端末1は自身が尚屋内に位置すると判定して、通信品質値の監視を継続する。通信品質値が所定時間経過後に尚、上位閾値THhigh以上であれば、再度、測位電波が捕捉できるか否かを判定することも好ましい。
【0049】
(S207)測位電波が捕捉できたと判断された際、測位部によって現時点での位置情報(例えば緯度、経度)を測定・導出する。ここで、位置情報の導出を可能にする程度の測位電波が捕捉できない場合、携帯端末1は自身がまだ屋外には(十分に)出ていないと判定して、通信品質値の監視を継続することも好ましい。この場合、通信品質値が所定時間経過後に尚、上位閾値THhigh以上であれば、再度、測位電波が捕捉できるか否か、更には位置情報が導出可能か否かを判定することも好ましい。
【0050】
次いで、測位部によって導出された位置情報と、この位置情報に係る位置からその分遡ることによって通信品質劣化位置を特定可能である既に継続して記憶された移動情報とを、既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶する。
【0051】
尚、このステップ207で、導出された位置情報と、既に継続して記憶された移動情報とから、当該位置情報に係る位置から当該移動情報分だけ遡ることによって、通信品質劣化位置を算出・特定することも好ましい。また、測位部によって位置情報が導出された際、移動情報の記憶、及び通信品質値の記憶を終了することも好ましい。さらに、この段階で、測位部を停止させることも可能である。
【0052】
(S208)携帯端末1は、位置情報及び移動情報を通信品質値に対応付けた情報を、通信品質劣化位置情報として、管理サーバ6に送信する。この場合、管理サーバ6は、受信したこの情報から通信品質劣化位置を特定する。変更態様として、携帯端末1は、自ら算出・特定した通信品質劣化位置を通信品質値に対応付けた情報を、通信品質劣化位置情報として管理サーバ6に送信してもよい。いずれにしても、管理サーバ6を運用する通信事業者は、携帯端末1から通信品質劣化位置情報を収集することによって、建物の屋内等における通信品質劣化位置の所在を、さらにはその分布を把握することができる。
【0053】
一般に、屋内での通信品質値は、屋根、壁、又は鉄筋柱の分布、更には金属製書棚等の配置に影響を受けることから、同一の建物内においても一定ではない。従って、通信品質改善のための効果的な対策を実施するためには、屋内における通信品質値の劣化している位置を特定することが非常に重要となる。本発明によれば、室内等、測位電波が捕捉不可である区域内における(通信品質値が最下位閾値以下の)通信品質劣化位置を特定することができる。その結果、このような通信品質改善のための対策を有効に実施することができる。さらに、本発明によれば、屋内における通信品質劣化位置と、屋外における通信品質劣化位置とを区別して把握・管理することができる。その結果、状況に応じた通信品質改善のための処方をとることが可能となる。
【0054】
図3、
図4及び
図5は、位置情報に係る位置から遡って通信品質劣化位置を特定可能とする移動情報についての、種々の実施形態を説明するための概略図である。
【0055】
[実施形態:移動量]
図3(A)の実施形態では、携帯端末1(を所持したユーザ)は、建物2の室内を移動しつつ、通信品質値が最下位閾値以下に低下する(最下位閾値を横切って低落する)位置である通信品質の劣化位置を2つ通過して、右側の出入口に向かう。携帯端末1は、少なくとも第1の通信品質の劣化位置にいた時点から、移動量を継続して取得し、記憶する。ここで、携帯端末1は、加速度測定部としての加速度センサを備えていて、自身の加速度を検出し、検出された加速度の周期的変動から算出される歩数Pを用いて移動量Mを導出する。具体的に、移動量Mは、次式、
(1) M=P×w
を用いて算出される。wは、予め携帯端末1に登録されたユーザの歩幅である。
【0056】
ここで、第1の通信品質の劣化位置から移動量Mを記憶し始めて、この第1の劣化位置での移動量Mをゼロ(M=0)とすることも好ましい。この場合、第2の通信品質の劣化位置を通過する時点での移動量M
1は、この第2の劣化位置に対応付けて記憶される。例えばこの時点で記憶される移動量M
1にフラグを立ててもよく、又は記録時刻を紐付けておくことも可能である。
【0057】
次いで、携帯端末1は、建物2の室内から右側の出入口を介して室外へ出た際、測位部によって、室外に出た現在位置の位置情報(例えば緯度、経度)を取得する。また、この時点で、移動量M
tを記憶して、これまで継続してきた移動量Mの記憶を完了する。次いで、携帯端末1は、これら取得した位置情報に係る位置から、これまで継続して記憶された移動量分を遡って通信品質劣化位置を特定する。
【0058】
例えば、第1の通信品質劣化位置は、取得した位置情報に係る位置から、移動量M
tだけ遡って室内を進んだ地点である、と特定される。また、第2の通信品質劣化位置は、取得した位置情報に係る位置から、移動量(M
t−M
1)だけ遡って室内を進んだ地点である、と特定される。
【0059】
尚、携帯端末1では通信品質劣化位置を特定せずに、
(a)移動量M
tを、第1の通信品質の劣化位置での通信品質値に対応付け、
(b)移動量(M
t−M
1)を、第2の通信品質の劣化位置での通信品質値に対応付けて、
これらの情報を記憶し、更に、管理サーバ6に送信してもよい。
【0060】
本実施形態においては、
図3(A)の建物2や、トンネル又は地下通路のように、ユーザが内部を一次元的に移動する構造となっている場合に、通信品質劣化位置が一意で特定され得る。
【0061】
[実施形態:移動量+進行向き方位]
次いで、
図3(B)の実施形態においても、携帯端末1は、建物2の室内を移動しつつ、通信品質値が最下位閾値以下に低下する位置である通信品質の劣化位置を2つ通過して、右側の出入口に向かう。但し、本実施形態では、携帯端末1(を所持したユーザ)は、最初、東向きに進行しつつ第1の通信品質の劣化位置を通り過ぎた後、ある時点で進行の向きを南に変更して進行を続け、その後、さらにある時点で進行の向きを東に変更する。次いで、進行の向きを東に維持したまま、第2の通信品質の劣化位置を通り過ぎ、室外に出るための出入口に向かう。
【0062】
本実施形態においても、携帯端末1は、少なくとも第1の通信品質の劣化位置に位置する時点から、移動量を継続して取得し、記憶する。ここで、携帯端末1は、加速度測定部としての加速度センサを備えていて、自身の加速度を検出し、検出された加速度の周期的変動から算出される歩数Pを用いて移動量Mを上式(1)を用いて導出する。ここで、第1の通信品質の劣化位置から移動量Mを記憶し始めて、この最初の劣化位置での移動量Mをゼロ(M=0)とすることも好ましい。この場合、第2の通信品質の劣化位置を通過する時点での移動量M
1は、
図3(A)の実施形態と同様、この第2の劣化位置に対応付けて記憶される。
【0063】
携帯端末1は、さらに、方位を測定する方位測定部を備えており、自身の進行向きの方位を測定する。ここで、方位測定部としては、3軸タイプの加速度センサ及び3軸タイプの地磁気センサの組合せを使用することができる。尚、上述した加速度測定部としての加速度センサを、方位測定部の加速度センサとしても機能させることができる。
図3(B)の場合、方位測定部は、最初、進行の向きが東であることを検知し、第1の通信品質の劣化位置を通過した後であって第2の通信品質の劣化位置に達する前に、進行の向きが東から南に変更されたのを検知し、さらに、進行の向きが南から東に変更されたのを検知する。その後、方位測定部は、室外に出るまでの間、進行の向きが東であることを検知する。
【0064】
携帯端末1は、加速度センサによって測定された移動量と、方位測定部によって検出された進行の向きの方位とを含む移動情報を取得し、継続して記憶する。ここで、進行の向きの方位は、所定時間間隔を有する時点毎に測定されてもよく、加速度センサによって計測される1歩毎に測定されてもよい。
【0065】
次いで、携帯端末1は、建物2の室内から右側の出入口を介して室外へ出た際、測位部によって、室外に出た現在位置の位置情報(例えば緯度、経度)を取得する。また、この時点で、移動量M
tを記憶して、これまで継続してきた移動量M及び進行向きの方位の記憶を完了する。次いで、携帯端末1は、取得した位置情報に係る位置から、これまで継続して記憶された移動情報(移動量、進行向きの方位)分を遡って通信品質劣化位置を特定する。
【0066】
例えば、第2の通信品質劣化位置は、
(1a)取得された位置情報に係る位置から(東向きの反対である)西向きに移動量(M
t−M
1)だけ遡って室内を進んだ地点である
と特定される。
【0067】
さらに、第1の通信品質劣化位置は、方位測定部によって、進行の向きにおける南から東への変更が検出された時点での移動量をM
bとし、東からから南への変更が検出された時点での移動量をM
aとすると、
(1b)取得された位置情報に係る位置から(東向きの反対である)西向きに移動量(M
t−M
b)だけ遡って室内を進み、
(1c)その位置において遡る向きを(南向きの反対である)北向きとして、移動量(M
b−M
a)だけ遡って室内を進み、
(1d)次いで、その位置において遡る向きを(東向きの反対である)西向きとして、移動量M
aだけ遡って室内を進んだ地点である
と特定される。
【0068】
ここで、進行向きの方位は、当然に、東西南北の1つに限定されるものではない。進行向きの(北方位を0度とし時計回りを正とした)方位角がθであるとの移動情報が記憶されていた場合、これを逆に辿る際には、方位角が(θ±180°)である向きをとることになる。
【0069】
尚、携帯端末1では通信品質劣化位置を特定することなく、遡ることによって第2の通信品質劣化位置に至る移動情報(上記(1a)に相当)を、第2の通信品質劣化位置での通信品質値に対応付け、遡ることによって第1の通信品質劣化位置に至る移動情報(上記(1b)〜(1d)に相当)を、第1の通信品質劣化位置での通信品質値に対応付けて、これらの情報を記憶し、更に、管理サーバ6に送信してもよい。
【0070】
本実施形態においては、進行向きの方位及びその転換の履歴を利用するので、建物2の2次元的に広がった室内における通信品質劣化位置を、2次元分布内の1点として把握することが可能となる。
【0071】
[実施形態:移動量+進行向き転換]
次いで、
図4(A)の実施形態においても、携帯端末1は、建物2の室内を移動しつつ、通信品質値が最下位閾値以下に低下する位置である通信品質の劣化位置を2つ通過して、右側の出入口に向かう。但し、本実施形態では、携帯端末1(を所持したユーザ)は、最初、東向きに進行しつつ第1の通信品質の劣化位置を通り過ぎた後、ある時点で進行の向きを南に変更して進行を続け、その後、さらにある時点で進行の向きを東に変更する。次いで、進行の向きを東に維持したまま、第2の通信品質の劣化位置を通り過ぎ、室外に出るための出入口に向かう。
【0072】
本実施形態においても、携帯端末1は、少なくとも第1の通信品質の劣化位置に位置する時点から、移動量を継続して取得し、記憶する。ここで、携帯端末1は、加速度測定部としての加速度センサを備えていて、自身の加速度を検出し、検出された加速度の周期的変動から算出される歩数Pを用いて移動量Mを上式(1)を用いて導出する。ここで、第1の通信品質の劣化位置から移動量Mを記憶し始めて、この最初の劣化位置での移動量Mをゼロ(M=0)とすることも好ましい。この場合、第2の通信品質の劣化位置を通過する時点での移動量M
1は、
図3(A)の実施形態と同様、この第2の劣化位置に対応付けて記憶される。
【0073】
携帯端末1は、さらに、向きの転換を検知・測定する向き転換測定部としての角速度センサを備えており、自身の進行向きの転換を測定する。
図4(A)の場合、角速度センサは、第1の通信品質の劣化位置を通過した後であって第2の通信品質の劣化位置に達する前に、進行向きが時計回りに90°(度)転換されたのを検知し、さらに、進行の向きが反時計回りに90°(度)転換されたのを検知する。
【0074】
携帯端末1は、加速度センサによって測定された移動量と、角速度センサによって検出された進行向きの転換とを含む移動情報を取得し、継続して記憶する。ここで、進行の向きの転換量は、常時監視され、例えば所定下限閾値以上の転換量が検出された際、その時刻とともに記録されてもよい。
【0075】
次いで、携帯端末1は、建物2の室内から右側の出入口を介して室外へ出た際、測位部によって、室外に出た現在位置の位置情報(例えば緯度、経度)を取得する。また、この時点で、移動量M
tを記憶して、これまで継続してきた移動量M及び進行向き転換の記憶を完了する。次いで、携帯端末1は、取得した位置情報に係る位置から、これまで継続して記憶された移動情報(移動量、進行向きの転換)分を遡って通信品質劣化位置を特定する。
【0076】
例えば、第2の通信品質劣化位置は、
(2a)取得した位置情報に係る位置から移動量(M
t−M
1)だけ遡って室内を進んだ地点である
と特定される。
【0077】
さらに、第1の通信品質劣化位置は、角速度センサによって進行向きにおける反時計回りに90°の転換が検出された時点での移動量をM
bとし、進行向きにおける時計回りに90°の転換が検出された時点での移動量をM
aとすると、
(2b)取得した位置情報に係る位置から移動量(M
t−M
b)だけ遡って室内を進み、
(2c)その位置において遡る向きを(反時計回りに90°の反対である)時計回りに90°だけ転換して、移動量(M
b−M
a)だけ遡って室内を進み、
(2d)次いで、その位置において遡る向きを(時計回りに90°の反対である)反時計回りに90°だけ転換して、移動量M
aだけ遡って室内を進んだ地点である
と特定される。
【0078】
ここで、進行の向きの転換量は、当然に、90°に限定されるものではない。進行の向きが時計回り(反時計回り)に角度θ
Rだけ転換された移動情報が記憶されていた場合、この転換を逆に辿る際には、反時計回り(時計回り)に角度θ
Rだけ向きを転換させることになる。
【0079】
尚、携帯端末1では通信品質劣化位置を特定することなく、遡ることによって第2の通信品質劣化位置に至る移動情報(上記(2a)に相当)を、第2の通信品質劣化位置での通信品質値に対応付け、遡ることによって第1の通信品質劣化位置に至る移動情報(上記(2b)〜(2d)に相当)を、第1の通信品質劣化位置での通信品質値に対応付けて、これらの情報を記憶し、更に、管理サーバ6に送信してもよい。
【0080】
本実施形態においては、進行向きにおける転換の履歴を利用するので、
図3(B)の実施形態と同様、建物2の2次元的に広がった室内における通信品質劣化位置を、2次元分布内の1点として把握することが可能となる。また、本実施形態は、進行向きの転換を利用するので、進行向きの方位を継続して測定・記憶して利用する
図3(B)の実施形態と比較すると、通信品質劣化位置を特定する際の演算量がより少なくて済む。
【0081】
さらに、本実施形態においては、
図4(B)に示すように、携帯端末1が室外に出た際の位置情報を2回取得することによって、通信品質劣化位置までの方位及び距離の精度をより高めることができる。
【0082】
図4(B)に示すように、室外に出た際に実施された1回目及び2回目の測位による2つの位置情報から、これら位置情報に係る位置間の距離及び進行向きの方位が算出される。ここで、2つの位置情報は、GPSによる測位によって十分有意である距離だけ離隔した位置であって、且つ、ユーザ(携帯端末1)が室外に出てまだ進行の向きを変えない程度の時間間隔に対応していることが好ましい。
【0083】
これら算出された2つの位置情報に係る距離及び進行向きの方位に基づいて、携帯端末1が室内で取得・記憶した移動情報によって構築された室内進行経路全体の縮尺及び方位を補正することができる。
図4(B)では、移動情報によって構築された経路全体が、回転させられ縮小されられて、補正された室内進行経路が確定されている。
【0084】
尚、以上に説明した進行向きの転換を検知・測定する向き転換測定部は、例えば特開2009−264917号公報に開示されているように、3軸タイプの加速度センサ及び3軸タイプの地磁気センサから構成されていてもよい。尚、上述した加速度測定部としての加速度センサを、向き転換測定部の加速度センサとしても機能させることができる。また、例えば特開2012−123702号公報に開示された技術を用い、進行方位角の差分をとって室内での移動の軌跡を判定することも可能である。
【0085】
[実施形態:移動量+区域経路情報]
図5(A)及び(B)に示す実施形態では、携帯端末1は、建物2の室内(所定区域)における廊下や通路等の経路の配置図である屋内経路図(区域経路情報)20を記憶している。
【0086】
また、携帯端末1は、建物2の室内を移動しつつ、通信品質値が最下位閾値以下に低下する位置である通信品質の劣化位置を通過して、室外への出口となる出入口に向かう。ここで、携帯端末1は、加速度測定部としての加速度センサを備えていて、自身の加速度を検出し、検出された加速度の周期的変動から算出される歩数Pを用いて移動量Mを上式(1)を用いて導出する。ここで、第1の通信品質の劣化位置から移動量Mを記憶し始めて、この最初の劣化位置での移動量Mをゼロ(M=0)とすることも好ましい。
【0087】
携帯端末1は、加速度センサによって測定された移動量を取得し、継続して記憶する。次いで、建物2の室内から右側の出入口を介して室外へ出た際、測位部によって、室外に出た現在位置の位置情報(例えば緯度、経度)を取得する。また、この時点で、移動量M
tを記憶して、これまで継続してきた移動量Mの記憶を完了する。
【0088】
ここで、携帯端末1は、取得した位置情報に係る位置から、記憶された屋内経路
図20に係る経路を辿りつつ、既に継続して記憶された移動量M
tだけ遡ることによって通信品質劣化位置を特定し、通信品質の劣化位置における通信品質値に、特定された通信品質劣化位置を対応付けて記憶する。
【0089】
即ち、
図5(B)に示すように、通信品質劣化位置は、
取得した位置情報に係る位置から、屋内経路
図20における可能な全ての経路を辿って、移動量M
tだけ遡って室内を進んだ際に到達し得る4つの地点のいずれかである
と特定される。即ち、通信品質劣化位置の1つ以上の候補が特定される。
【0090】
以上、
図3、
図4及び
図5を用いて、位置情報に係る位置から遡って通信品質劣化位置を特定可能とする移動情報についての、種々の実施形態を説明したが、このような移動情報は、当然に、以上に説明した形態に限定されるものではない。例えば、
図5(A)及び(B)の実施形態では、携帯端末1が屋内経路
図20を保有しているが、例えば、
図3(A)の実施形態において、移動量Mを通信品質の劣化位置における通信品質値に対応付けた情報を受信した管理サーバ6が、屋内経路
図20を保有していてもよい。この場合、管理サーバ6は、自ら記憶した屋内経路
図20に基づいて、受信した情報から、通信品質劣化位置を特定することができる。
【0091】
また、
図4(A)の実施形態において、携帯端末1又は管理サーバ6が、屋内経路図(区域経路情報)20(
図5(A))を保有することも好ましい。この場合、取得した位置情報に係る位置から、記憶された移動量及び進行向きの転換分だけ遡って室内を進む際、実際に移動可能であるのかを屋内経路
図20を用いて確認することができる。また、屋内経路
図20での経路配置と比較することによって、記憶された移動量及び進行向きの転換における測定誤差分を補正することも可能となる。
【0092】
さらに、移動情報に係る変更態様として、建物2内における上下方向、例えば一階フロアと三階フロアとの間の移動や、エレベータを用いた建物内での移動に係る移動情報を取得することもできる。例えば、加速度センサを用いて、重力加速度の方向、即ち鉛直方向の移動を認識し、鉛直方向又は鉛直成分を有する方向の移動情報を取得することができる。この場合、加速度データの周期的パターンから階段を上る又は下る際の一歩一歩を認識し、階段ステップの高さを用いて、上方移動量又は下方移動量を計測・記憶することも可能である。また、標高差数十cmに相当する微小な気圧変化を検出可能な気圧センサを用いて、エレベータ、エスカレータ又は階段による上下移動の移動量を計測・記憶することも可能である。これらの移動情報を用いた場合、建物2内における通信品質劣化位置の3次元的分布を把握することが可能となる。
【0093】
図6は、記憶された移動情報における誤差の取り扱いを概略的に説明するグラフである。
【0094】
図6によれば、携帯端末1(を所持するユーザ)は、室内において、徒歩で直進した後、ある時点で進行向きを転換し、その後徒歩で直進した後、再び進行向きを転換して、そのまま徒歩で直進する。この間、携帯端末1は、加速度測定部(加速度センサ)を用いて、通信品質の劣化位置からの歩数(移動量)を測定、記憶し、さらに、方位測定部又は向き転換測定部を用いて、進行向きの方位、又は進行向きの転換を検出、記憶する。
【0095】
図6のグラフは、このような移動を行う携帯端末1において記憶される移動情報が内包する移動誤差量の、時間経過に伴う累積を表している。
図6のグラフでは、移動誤差の種類として、移動量に係る誤差と、進行向きの転換に係る誤差とを考慮している。
【0096】
ここで、移動量(歩数×歩幅)の誤差は、ユーザが一歩を踏み出す毎に、所定量発生するとしている。この所定量は、設定された歩幅と実際の歩幅との差異分を、一歩を計測する毎に計上した上で、加速度データの解析における歩行パターンの取り違い等によって発生する歩数のカウント誤差分を、一歩当たりに割り振ったものである。
【0097】
一方、進行向きの転換に係る誤差は、進行向き(の方位)を転換する度に、所定量発生するとしている。この所定量は、計測された向き(方位)の転換と実際の向き(方位)の転換との差異分を、進行向きの転換毎に計上した上で、進行向きの転換に関係しない携帯端末1自身の向きの変動分等によって発生する誤差分を、進行向きの1つの転換当たりに割り振ったものである。
【0098】
図6のグラフによれば、このようにして算出される移動情報の誤差量は、一歩に要する時間経過の度に、さらには進行向きの転換の度に累積されていく。ここで、
図6の実施形態では、所定の誤差閾値が設定されていて、携帯端末1の移動とともに記憶される移動情報の誤差量の累積が、誤差閾値以上となった際、これまで記憶されてきた移動情報を破棄する。これにより、携帯端末1は、所定の信頼性を有する移動情報に基づいた通信品質劣化位置情報のみを管理サーバ6に提供することができ、管理サーバ6は、より信頼性の高い通信品質劣化位置の分布情報を取得することが可能となる。
【0099】
図7は、本発明による携帯端末1の一実施形態を示す機能構成図である。
【0100】
図7によれば、携帯端末1は、広域移動通信インタフェース部100と、測位部101と、加速度センサ102と、プロセッサ・メモリとを有する。さらに加速度センサ102に合わせて、地磁気センサ103、角速度センサ104、又は区域情報記憶部105を有することも好ましい。ここで、プロセッサ・メモリは、プログラムを実行することによってその機能を実現させる。
【0101】
また、プロセッサ・メモリは、機能構成部として、通信品質測定部110と、通信品質判定部111と、通信品質記憶部112と、測位起動制御部113と、移動情報取得部114と、移動情報記憶部115と、記憶制御部116と、劣化位置情報記憶部117と、移動誤差算出・判定部118と、データ送受信部119とを有する。
【0102】
広域移動通信インタフェース部100は、携帯電話網8に接続されたセルラ通信用の基地局3と通信する。測位部101は、GPS衛星4からの測位電波を捕捉し、さらにGPS測位方式によって携帯端末1の所在位置(緯度、経度)を測定する。
【0103】
加速度センサ102は、加速度測定部であり、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて形成された、例えば静電容量方式又はピエゾ抵抗方式による、3軸タイプの加速度計測計とすることができる。加速度センサ102として、重力加速度を計測し、携帯端末1を所持したユーザの歩数をカウントすることが可能な加速度センサを用いることも好ましい。
【0104】
地磁気センサ103は、例えば、磁気抵抗(AMR、GMR又はTMR)効果、磁気インピーダンス(MI)効果、フラックスゲート(FG)方式又はホール効果を利用して地磁気を測定する3軸タイプの地磁気計測計とすることができる。ここで、この地磁気センサ103と加速度センサ102とを組み合わせて、携帯端末1の方位を測定する方位測定部とすることができる。
【0105】
角速度センサ104は、向きの転換(変化)を検知・測定する向き転換測定部であり、例えば、振動したアームに作用するコリオリ力による構造体の変形から角速度を検出する振動ジャイロセンサとすることができる。また、区域情報記憶部105は、所定区域における区域経路情報、例えば建物2の室内経路図、を記憶する。
【0106】
通信品質測定部110は、広域移動通信インタフェース部100における基地局3からの電波の通信品質値を測定する。ここで測定された通信品質値は、通信品質判定部111に出力される。通信品質判定部111は、入力した通信品質値が、下位閾値THlow以下に減衰したか否か、最下位閾値THbottom以下に減衰したか否か、さらには上位閾値THhigh以上に向上したか否かを判定する。通信品質判定部111で判定された結果は、通信品質記憶部112と、測位起動制御部113と、記憶制御部116とに出力される。
【0107】
ここで、下位閾値THlowは、携帯端末1が屋内に位置する際に検出される程度の通信品質値であり、例えば−4.0dB(SINR:信号対干渉雑音比、以下同じ)である。また、最下位閾値THbottomは、基地局3との通信が最低限可能な程度の通信品質値であり、例えば−12.0dBである。また、上位閾値THhighは、携帯端末1が屋外に位置する際に検出される程度の通信品質値であり、例えば1.0dBである。これら数値例は、例えばY. Choi, et al., “A Channel-based Scheduling Algorithm for cdma2000 1xEV-DO system,” PIMRC2002 に記載されたSINRとデータレートとの関係表を参照して得ることができる。尚、屋外におけるペネトレーション損失は、Tang, R., “Indoor propagation in cellular/PCS System design,”Wireless Communications and Systems, 1999 Emerging Technologies Symposium, Apr. 1999”によれば、5−25dB程度になることが教示されている。
【0108】
通信品質記憶部112は、記憶制御部116からの指示によって、通信品質測定部110で測定された通信品質値を記憶する。さらに、劣化位置情報記憶部117からの要求に従って、記憶した通信品質値を劣化位置情報記憶部117に出力する。
【0109】
測位起動制御部113は、通信品質値が下位閾値THlow以下に減衰した際、測位部101を起動する。起動した測位部101が測位電波を捕捉できなかった際、測位起動制御部113は、測位部101を停止することも好ましい。また、測位起動制御部113は、通信品質値が上位閾値THhigh以上に向上した際、測位部101を再起動し又は起動状態に維持する。
【0110】
移動情報取得部114は、移動量と、進行向きの方位、又は進行向きの転換(変化)を含む移動情報を、加速度センサ102等から取得する。さらに、区域情報記憶部105から区域経路情報を取得してもよい。ここで、移動量は、例えば、加速度センサ102によって検出された加速度の周期的変動から算出される歩数に基づいて算出される。
【0111】
移動情報記憶部115は、記憶制御部116の指示によって、取得された移動情報を記憶する。また、取得された区域経路情報を併せて記憶することも好ましい。さらに、劣化位置情報記憶部117からの要求に従って、記憶した移動情報を劣化位置情報記憶部117に出力する。
【0112】
記憶制御部116は、測位部101が測位電波を捕捉できず且つ通信品質値が最下位閾値以下に減衰した際、通信品質記憶部112に通信品質値を記憶させ、且つ移動情報取得部114を機能させて、取得される移動情報を移動情報記憶部115に継続して記憶させる。また、測位部101が測位電波を捕捉できた際、通信品質記憶部112及び移動情報記憶部115の記憶動作を停止することも好ましい。ここで、通信品質記憶部112の記憶動作は、通信品質値が最下位閾値THbottom以下の値をとっている間のみ発動させられてもよい。
【0113】
劣化位置情報記憶部117は、測位部101が測位電波を捕捉できた際、通信品質記憶部112と移動情報記憶部115とから、継続して記憶されてきた通信品質値及び移動情報とを入力する。次いで、劣化位置情報記憶部117は、
(a)測位部101によって導出された位置情報と、
(b)位置情報に係る位置からその分遡ることによって通信品質劣化位置を特定可能である、移動情報記憶部115に既に継続して記憶された移動情報とを、
(c)通信品質記憶部112に既に記憶された通信品質値に対応付けて記憶する。
【0114】
また、劣化位置情報記憶部117は、劣化位置特定部を有していて、測位部101が測位電波を捕捉できた際、測位部101によって導出された位置情報に係る位置から、移動情報記憶部115によって既に継続して記憶された移動情報分だけ遡ることによって通信品質劣化位置を特定し、通信品質記憶部112に既に記憶された通信品質値に、特定された通信品質劣化位置を対応付けて記憶することも好ましい。
【0115】
さらに、劣化位置情報記憶部117は、劣化位置特定部を有していて、測位部101によって導出された位置情報に係る位置から、移動情報記憶部115に記憶された区域経路情報に係る経路を辿りつつ、移動情報記憶部115によって既に継続して記憶された移動量だけ遡ることによって通信品質劣化位置を特定し、通信品質記憶部112に既に記憶された通信品質値に、特定された通信品質劣化位置を対応付けて記憶することも好ましい。
【0116】
移動誤差算出・判定部118は、移動情報記憶部115に継続して記憶された移動情報に基づいて移動誤差を算出し、算出された移動誤差が所定誤差閾値以上であるか否かを判定する。さらに、ここで真の判定を行った際、即ち移動誤差が所定誤差閾値以上となった際、移動情報記憶部115に、記憶した移動情報を破棄させる又は使用不可にさせる。
【0117】
データ送受信部119は、広域移動通信インタフェース手段を介してデータを送受信する。特に、劣化位置情報記憶部117によって記憶された通信品質値及び通信品質値に対応付けられた情報(位置情報及び移動情報、又は通信品質劣化位置)を、無線リンクを介して管理サーバ6に送信する。尚、これらの情報は、管理サーバ6へ、逐次送信されてもよいし、所定量蓄積されてから送信されてもよい。また、ユーザによってデータ通信が実行された際に、管理サーバ6へ送信されてもよい。さらに、携帯端末1が充電中である場合に送信されるものであってもよい。
【0118】
他の実施形態として、記憶制御部116は、通信品質値と共に、通信の隣接セル又はセクタの識別情報及びその強度情報を、通信品質記憶部112に記憶させる。測位起動制御部113は、測位部101の起動の前に、通信品質記憶部112に記憶された識別情報及び強度情報と、次に記憶すべき現在の識別情報及び強度情報とを比較し、これらが所定範囲で一致する場合、所定回数だけ記憶した後は、測位部101を起動しないように制御することも好ましい。
【0119】
例えば自宅や会社など、頻繁に出入りを繰り返す屋内では、通信品質劣化位置の情報が重複して取得される。これを回避するために、通信品質値を取得する際に、隣接セクタ又は隣接セルにおけるチャネル番号や基地局番号等、更に各チャネルにおける電波強度も、通信品質記憶部112に記憶する。記憶済みのチャネル番号及び電波強度の組を、現在取得した通信品質値のチャネル番号及び電波強度と比較し、チャネル番号の組が一致し、且つ、電波強度が所定範囲での差である場合、同一地点と見なす。これら同一地点とみなして記憶した回数が所定回数以上となった場合であって、識別情報及び強度情報が所定範囲で一致する場合、その後、又は、その後の所定期間、測位部102を起動しないとする。これにより、携帯端末の低消費電力化に寄与すると共に、ネットワークや無線リソースへの負荷を軽減できる。
【0120】
[歩数のカウント]
図8は、加速度センサ102から出力される加速度データに基づいて歩数をカウントする方法を説明するための、加速度の時間変化を示すグラフである。
【0121】
図8(B)及び(C)にそれぞれ、ユーザが携帯端末1をズボンのポケットに収納して徒歩で移動した際の、及びユーザが携帯端末1を手に保持して徒歩で移動した際の、加速度センサ102からの出力の実測例を示す。これらの図には、加速度のx軸方向成分:ACC
x、加速度のy軸方向成分:ACC
y、及び加速度のz軸方向成分:ACC
zの各々の時間変化が、グラフとして表されている。尚、x、y及びz軸は、
図8(A)に示された方向に付与された座標軸である。また、グラフの縦軸は加速度であり、単位は[G](1G=9.8m/s
2)である。
【0122】
図8(B)によれば、ACC
x、ACC
y及びACC
zはいずれも、周期的に変動する値を示す。この周期(T=約1.1秒)は、踵の接地から同じ足の踵の接地までの2歩分に相当する歩行周期に相当し、これら周期的な変動は、ユーザが徒歩で移動していることを示す。一方、
図8(C)においても、ACC
x、ACC
y及びACC
zはいずれも、周期的に変動する値を示す。この周期(T=約0.54秒)は歩行周期の半分(1歩毎の周期)に相当し、これら周期的な変動も、ユーザが徒歩で移動していることを示す。
【0123】
ここで、これらの加速度データから歩行運動に相当する周期的な変動を抽出し、歩数をカウントする一方法を説明する。本方法(a)〜(c)は、特開2012−21870号公報に開示された技術を用いている。
(a)最初に、加速度データ(ACC
x、ACC
y及びACC
z)から鉛直方向加速度を算出する。
(b)次いで、鉛直方向加速度の極大点(又は極小点)を歩行タイミングとして検出する。ここで、極大点(極小点)は、身体が下がって足が接地した(身体とともに足が上がった)時点に対応しており、鉛直方向加速度のグラフに極大点(極小点)が現れる毎に、1歩だけ歩行が進んだことになる。
(c)検出された歩行タイミングとしての極大点(又は極小点)の数を、歩数としてカウントする。
【0124】
また、上記以外の実施形態として、従来歩数計で使用されている歩数カウントの方法を利用することも可能である。または、加速度各軸方向成分の測定値のフーリエ変換処理(スペクトル解析)パターンを利用して、歩行運動の周期的変動を抽出し、この周期的変動をカウントすることで歩数を算出することも可能である。
【0125】
[進行向き方位角の算出]
図9は、「歩行基準ベクトル」導出の前提となる加速度面の前方・後方を説明するための、ユーザの歩行態様と加速度との関係を示す概略図である。
【0126】
尚、以下
図9及び
図10を用いて説明する「歩行基準ベクトル」及び「方位基準ベクトル」は、携帯端末1の進行向きの方位を決定するのに使用される量であるが、これらベクトルの算出方法は、特開2010−271167号公報に開示された技術を用いている。
【0127】
図9(A)〜(C)によれば、ユーザ(歩行者)は、携帯端末1を保持した手を前後に振りながら歩行している。このような一般的な歩行態様を横方向から見れば、携帯端末1の位置は、
図9(A)及び(B)に示すように円弧を描きながら振り子状に前後に変動する。また、進行方向から見れば、携帯端末1の位置は、
図9(C)に示すように上下に変動する。このような携帯端末1の振り子運動は、携帯端末1を保持した腕の付け根である肩部分を回転中心とする。
【0128】
この際、携帯端末1に搭載された加速度センサ102によって検出される、振り子運動の各時点での加速度ベクトルの群は、
図9(D)に示すように、携帯端末1に付与されたxyz座標系(
図8(A))において加速度面をなす。ここで、加速度ベクトルは、携帯端末1に付与されたxyz座標系における各軸成分として、加速度データACC
x、ACC
y及びACC
zを有するベクトルである。この加速度面は、肩部分の回転中心と振り子運動の軌跡(円弧)とを含む面に対応する面となる。携帯端末1が手持ちで振られる限り、この加速度面は、進行方向と平行である。
【0129】
携帯端末1を保持した腕が後方(進行の向きとは反対の向き:例えば位置ウ)にある際、加速度ベクトルは、
図9(D)に示すように、加速度面における前方に傾く向きを有し、この腕が前方(例えば位置ア)にある際、加速度ベクトルは、同じく
図9(D)に示すように、加速度面における後方に傾く向きを有する。ここで、
図9(D)においては、加速度面の前方が、進行(歩行)の向きの側となるように決められている。
【0130】
従って、このような加速度ベクトル群がなす加速度面における前方又は後方を、以下に示す手法により決定することによって、ユーザの進行(歩行)向きに対応した「歩行基準ベクトル」を導出することができる。
【0131】
ここで、加速度センサ102から出力された加速度成分ACC
x、ACC
y及びACC
zのそれぞれを二乗して和をとり、さらにこの和の平方根をとることによって合成加速度(加速度絶対値)を算出する。
図9(A)及び(B)によれば、ユーザに手持ちにされた携帯端末1の位置として、
位置ア、位置イ、及び位置ウ
が表されている。位置イは、ユーザの手が真下にある位置であり、手持ちされた携帯端末1の合成加速度は、極大となる。一方、位置ア及び位置ウは、ユーザの手が極大的に高く振られた位置であり、その合成加速度は、極小となる。
【0132】
ユーザが歩行しながら携帯端末1を保持した腕を振り上げる場合、携帯端末1は位置ウ→位置アに移動する一方、加速度ベクトルは加速度面の前方から後方に移動し、合成加速度は、極小値から極大値を経て極小値に至る。これに対して、携帯端末1を保持した腕を振り下ろす場合、携帯端末1は位置ア→位置ウに移動する一方、加速度ベクトルは加速度面の後方から前方に移動し、合成加速度は同じく、極小値から極大値を経て極小値に至る。
【0133】
ここで、実際の歩行においては、腕を振り上げる場合の合成加速度における極小値から極小値への経過時間は、腕を振り下ろす場合の極小値から極小値への経過時間よりも長くなる。従って、合成加速度データにおいて、1つの極小点と、直前の極小点との時間間隔が、この1つ前の時間間隔よりも長ければ、この1つの極小点は、加速度面の後方に向く加速度ベクトル(の絶対値)に相当すると判断される。逆に、1つの極小点と、直前の極小点との時間間隔が、この1つ前の時間間隔よりも短ければ、この1つの極小点は、加速度面の前方に向く加速度ベクトル(の絶対値)に相当すると判断される。
【0134】
このようにして、
図9(D)に示した加速度面の前方及び後方が、加速度データから決定される。
【0135】
さらに、
図9(C)に示すように、ユーザ及び携帯端末1に対しては、地磁気が到来している。ユーザが、端末を一定の姿勢で保持し、一方向に真っ直ぐ進行しているならば、携帯端末1に付与されたxyz座標系における地磁気の到来方向は一定である。しかしながら、ユーザは、手持ちにした携帯端末1を前後に振るために、その腕振りに応じて、地磁気の到来方向が、xyz座標系内で曲線を描いて周期的に変動する。
【0136】
このような周期的変動下において、携帯端末1に搭載された地磁気センサ103によって検出される地磁気ベクトルを用いて、東向きを表す「方位基準ベクトル」を、以下に説明する方法によって導出する。この「方位基準ベクトル」と、同じく以下に説明する方法によって導出される「歩行基準ベクトル」とを用いて、進行(歩行)向きの方位が算出される。
【0137】
図10は、歩行基準ベクトル及び方位基準ベクトルを導出し、進行向きの方位を算出する方法を示す説明図である。
【0138】
図10(A)によれば、加速度センサ103から得られた加速度ベクトルの群と、地磁気センサ103から得られた地磁気ベクトルの群とが、携帯端末1に付与されたxyz座標系に示されている。
【0139】
最初に、加速度面から、歩行基準ベクトルを算出する。歩行基準ベクトルは、進行(歩行)の向きに対応するものであって、加速度面の法線ベクトルで表現される。xyz座標系の原点から伸びる法線ベクトルは、加速度面に対して2つの向きにとることができる。加速度面は、進行方向に平行であるので、この2つの法線ベクトルは、ユーザの進行向きに向かって右方と左方にあたる。ここでは、歩行基準ベクトルは、2つの法線ベクトルのうちユーザの右方である、と定義する(勿論、左方でもよい)。この右方となる歩行基準ベクトルは、加速度面の前方及び後方を示す2つの極小点における加速度ベクトルの外積を計算することによって算出される。
【0140】
以下の式(2)によって、歩行基準ベクトルを算出する。
図10(B)に示すように、
加速度面前方を示す極小点での加速度ベクトル:F=(x
F,y
F,z
F)
加速度面後方を示す極小点での加速度ベクトル:B=(x
B,y
B,z
B)
とすると、歩行基準ベクトルR=(x
R,y
R,z
R)は、
(2) R=B×F
=(y
Bz
F−z
By
F,z
Bx
F−x
Bz
F,x
By
F−y
Bx
F)
として算出される。
【0141】
次に、方位基準ベクトルを算出する。方位基準ベクトルは、重力ベクトルと地磁気ベクトルとが成す方位基準面に対する法線ベクトルで示すことができる。この法線ベクトルは、歩行基準ベクトルと同様、xyz座標系の原点から2つの向きにとることができるが、歩行基準ベクトルで定めた向きに合わせて決める必要がある。即ち、歩行基準ベクトルを歩行者の右方と定めた場合は、同じく右方(東方)、左方と定めた場合は左方(西方)に決める。
【0142】
合成加速度の極大点における加速度ベクトルは、鉛直真下を向く重力ベクトルと見なすことができる。または、歩行基準ベクトルを求める際に算出した2つの極小点における加速度ベクトルの平均を重力ベクトルG=(B+F)/2としてもよい。一方、地磁気ベクトルは、重力ベクトルと同様に極大点で選択するか、または、2つの極小点のタイミングの間で検出された複数の地磁気ベクトルの平均を用いてもよい。
【0143】
ここで、以下の式(3)によって、方位基準ベクトルを算出する。
図10(B)に示すように、
重力ベクトル :G=(x
G,y
G,z
G)
地磁気ベクトル :M=(x
M,y
M,z
M)
とすると、方位基準ベクトルE=(x
E,y
E,z
E)は、
(3) E=G×M
=(y
Gz
M−z
Gy
M,z
Gx
M−x
Gz
M,x
Gy
M−y
Gx
M)
として算出される。
【0144】
次いで、式(2)及び(3)を用いて導出された歩行基準ベクトルR及び方位基準ベクトルEから、進行(歩行)向きの方位角θを算出する。歩行基準ベクトルと方位基準ベクトルとのなす角度αは、以下の式(4)で表される。
(4) α=arccos((E・R)/(|E||R|))
【0145】
ここで、角度αは、0〜180°(度)の値をとる。これに対し、求める方位角θは、北方位を0°とし時計回りを正とした角度であって、0〜360°の値をとる。そのため、次式(5)を用いて、角度αを方位角θに変換する。即ち、E×Rと重力ベクトルGとのなす角をβとすると、
(5) cosβ≧0のとき、θ=α
cosβ<0のとき、θ=360−α
として、方位角θが算出される。
【0146】
図10(C)は、
図10(B)を鉛直上方向から見た図となっている。
図10(C)によれば、歩行基準ベクトルは、加速度面に対して垂直であって進行向きに対して右側に伸長している。一方、方位基準ベクトルは、方位基準面に対して垂直であって東に向く。これら歩行基準ベクトル及び方位基準ベクトルが成す角度θは、まさに、進行の向きが北向きに対して成す角、即ち北を基準とした方位角となる。
【0147】
このようにして、加速度センサ102の出力である加速度ベクトル群と、地磁気センサの出力である地磁気ベクトル群とから、ユーザの進行(歩行)向きの方位を導出することができる。
【0148】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、広域移動通信エリアにおける通信品質劣化位置を特定可能な情報を導出することができる。特に、加速度測定部と、方位測定部又は向き転換測定部とを利用し、建物の室内等における移動情報として移動量と進行向きの方位又は転換とを採用することによって、通信品質劣化位置を2次元分布内の1点として把握することが可能となる。これにより、建物の屋内等における通信品質劣化位置の分布を把握し、例えば通信品質改善のための対策を有効に施すことも容易となる。
【0149】
前述した本発明の種々の実施形態において、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。