特許第5847692号(P5847692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847692
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】車両用フロントサイドメンバ
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20160107BHJP
【FI】
   B62D25/20 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-261595(P2012-261595)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-104952(P2014-104952A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2014年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加納 光寿
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−231483(JP,A)
【文献】 特開2005−254883(JP,A)
【文献】 特開2000−219163(JP,A)
【文献】 特開平11−235985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の縦壁部とそれらの下側縁間を連結する底壁部とを有し、長手方向の一部を曲げて設けられたキックアップ部が、前記一対の縦壁部間に形成された溝の開口内に部分的に嵌め入れられた状態で固着された長手状の補強材により補強された形式の車両用フロントサイドメンバであって、
前記補強材は、前記キックアップ部の溝の開口の幅寸法よりも大きい最大間隔と該開口の幅寸法よりも小さい最小間隔とを相互間に有するように相互に傾斜し、該キックアップ部の前記溝の開口縁に当接する一対の側壁と、それら一対の側壁の幅方向の両端部をそれぞれ連結する一対の連結壁とを有する管状部材であることを特徴とする車両用フロントサイドメンバ。
【請求項2】
前記キックアップ部の底壁部に垂直な線に対する前記補強材の一対の側壁の角度は、該キックアップ部の底壁部に垂直な線に対する前記一対の縦壁部の角度よりも大きいことを特徴とする請求項1の車両用フロントサイドメンバ。
【請求項3】
前記補強材は、前記開口の幅寸法よりも大きい外側底辺と、該外側底辺に平行で該開口の幅寸法よりも小さい内側底辺とを有する逆台形形状の断面を備える管状部材であり、
前記補強材の一対の連結壁は、前記逆台形形状の外側底辺と該内側底辺とにそれぞれ対応し、
前記補強材の一対の側壁は、前記逆台形形状の脚にそれぞれ対応するものであることを特徴とする請求項1または2の車両用フロントサイドメンバ。
【請求項4】
前記補強材の一対の側壁の前記底壁部に垂直な線に対する角度は、該一対の側壁の前記開口縁に当接する部位よりも前記底壁部側の位置を境にして前記開口縁側が大きくされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用フロントサイドメンバ。
【請求項5】
前記補強材の一対の連結壁のうち前記外側底辺に対応する連結壁には、該連結壁の幅方向に対して変形可能な易変形部が設けられていることを特徴とする請求項3の車両用フロントサイドメンバ。
【請求項6】
前記補強材と前記キックアップ部とが、該キックアップ部の溝の開口縁に沿った断続的な溶接により固着されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用フロントサイドメンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フロントサイドメンバに関し、特にそのキックアップ部が補強材により補強された形式の車両用フロントサイドメンバにおいて、その補強材のキックアップ部における装着位置を位置決めする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用フロントサイドメンバは、車体の前部に設けられた長手状の骨格部材である。この車両用フロントサイドメンバには、例えば、一対の縦壁部とそれらの下側縁部を連結する底壁部とを有し、長手方向の一部を曲げて設けられたキックアップ部が、前記一対の縦壁部間に形成された溝の開口内に部分的に嵌め入れられた状態で固着された長手状の補強材により補強された形式のものがある。例えば、特許文献1乃至3に示す車両用フロントサイドメンバがそれである。
【0003】
上記のような車両用フロントサイドメンバにおいて、前記補強材は、前記キックアップ部の一対の縦壁部と平行にそれぞれ向かい合う一対の側壁を有している。また、前記キックアップ部と前記補強材とが例えば溶接等によって固着される前において、前記補強材の一対の側壁を前記キックアップ部の一対の縦壁部に面接触させることによって、前記キックアップ部に対する前記補強材の装着位置が位置決めされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−231483号公報
【特許文献2】特開2007−118875号公報
【特許文献3】特開2008−290681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような車両用フロントサイドメンバでは、前記補強材の一対の側壁を前記キックアップ部の一対の縦壁部に当接させて前記キックアップ部に対する前記補強材の位置決めをするために、その補強材の一対の側壁を前記キックアップ部の一対の縦壁部と平行に精度良く成形する必要があるので、所定の位置に前記補強材を前記キックアップ部にその溝の深さ方向に正確に位置決めすることが難しいという問題があった。特に、前記補強材の一部を前記キックアップ部の溝の開口縁から突き出すような位置に位置決めする場合にその問題が顕著であった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、補強材の一部をキックアップ部の溝の開口縁から突き出すような所定の位置に容易に位置決めすることができる車両用フロントサイドメンバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、(a) 一対の縦壁部とそれらの下側縁間を連結する底壁部とを有し、長手方向の一部を曲げて設けられたキックアップ部が、前記一対の縦壁部間に形成された溝の開口内に部分的に嵌め入れられた状態で固着された長手状の補強材により補強された形式の車両用フロントサイドメンバであって、(b) 前記補強材は、前記キックアップ部の溝の開口の幅寸法よりも大きい最大間隔とその開口の幅寸法よりも小さい最小間隔とを相互間に有するように相互に傾斜し、そのキックアップ部の前記溝の開口縁に当接する一対の側壁と、それら一対の側壁の幅方向の両端部をそれぞれ連結する一対の連結壁とを有する管状部材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用フロントサイドメンバによれば、前記補強材は、前記キックアップ部の溝の開口の幅寸法よりも大きい最大間隔とその開口の幅寸法よりも小さい最小間隔とを相互間に有するように相互に傾斜し、そのキックアップ部の前記溝の開口縁に当接する一対の側壁と、それら一対の側壁の幅方向の両端部をそれぞれ連結する一対の連結壁とを有する管状部材である。このため、前記補強材の一対の側壁を前記キックアップ部の前記溝の開口縁に当接させることで、前記補強材の一部を前記キックアップ部の溝の開口縁から所定高さだけ突き出す位置に正確に位置決めすることができる。これによって、従来のように前記キックアップ部の一対の縦壁部と平行になるように前記補強材の一対の側壁を精度良く成形させる必要がないので、所定の位置に前記補強材を前記キックアップ部にその溝の深さ方向において正確且つ容易に位置決めすることができる。
【0009】
ここで、好適には、前記キックアップ部の底壁部に垂直な線に対する前記補強材の一対の側壁の角度は、そのキックアップ部の底壁部に垂直な線に対する前記一対の縦壁部の角度よりも大きい。このため、前記補強材を前記キックアップ部の溝の開口内に嵌め入れた際に、前記補強材の一対の側壁が前記キックアップ部の溝の開口縁に当接し、前記補強材の装着位置を正確に位置決めできる。
【0010】
また、好適には、(a) 前記補強材は、前記開口の幅寸法よりも大きい外側底辺と、その外側底辺に平行でその開口の幅寸法よりも小さい内側底辺とを有する逆台形形状の断面を備える管状部材であり、(b) 前記補強材の一対の連結壁は、前記逆台形形状の外側底辺とその内側底辺とにそれぞれ対応し、(c) 前記補強材の一対の側壁は、前記逆台形形状の脚にそれぞれ対応するものである。このため、前記補強材を前記キックアップ部の溝の開口内に嵌め入れた際に、前記補強材の一対の側壁が前記キックアップ部の溝の開口縁に当接し、前記補強材の装着位置を正確に位置決めできる。
【0011】
また、好適には、前記補強材の一対の側壁の前記底壁部に垂直な線に対する角度は、その一対の側壁の前記開口縁に当接する部位よりも前記底壁部側の位置を境にして前記開口縁側が大きくされている。このため、前記キックアップ部の溝の開口縁から突き出す前記補強材の高さを大きくすることなく前記キックアップ部の溝の開口縁から突き出す前記補強材の幅寸法を大きくすることができるので、前記補強材の剛性を向上させることができる。これによって、その補強材により補強された前記キックアップ部に曲げ荷重が作用した際における中立軸が圧縮変形側に位置させられる。
【0012】
また、好適には、前記補強材の一対の連結壁のうち前記外側底辺に対応する連結壁には、その連結壁の幅方向に対して変形可能な易変形部が設けられている。このため、車両衝突時の荷重入力によって前記補強材の一対の側壁が前記キックアップ部の溝の開口縁に押圧されると、前記易変形部により前記補強材の一対の連結壁のうち前記外側底辺に対応する連結壁の幅寸法が減少して、前記補強材が前記キックアップ部の溝内に押し込むことができる。これによって、フロントサイドメンバに衝撃荷重が加えられたときに前記キックアップ部の溝の開口縁からの前記補強材の突き出しを好適に抑制することができる。
【0013】
また、好適には、前記補強材と前記キックアップ部とが、そのキックアップ部の溝の開口縁に沿った断続的な溶接により固着されている。このため、前記補強材と前記キックアップ部との溶接がされていない箇所と、前記補強材の一対の側壁および前記キックアップ部の一対の縦壁部が成す隙間とが、後の塗装工程における塗料の流入路・排出路として機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明が適用された一対のフロントサイドメンバが備えられた車体を示す斜視図である。
図2図1のフロントサイドメンバに備えられたキックアップ部を示す斜視図である。
図3図2のIII-III視断面図である。
図4】本発明の他の実施例のフロントサイドメンバを示す断面図であり、図3に対応する図である。
図5図4のフロントサイドメンバにおける補強材の一対の側壁とキックアップ部の溝の開口縁との当接部分を拡大して示す拡大図である。
図6】本発明の他の実施例のフロントサイドメンバを示す断面図であり、図3図4に対応する図である。
図7図6のフロントサイドメンバにおいて、車両衝突時の荷重入力によって補強材の一部がキックアップ部内に押し込められた状態を示す図であり、その補強材とキックアップ部とが固着されていない部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は理解を容易とするために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明が適用されたフロントサイドメンバ(車両用フロントサイドメンバ)10が一体的に備えられた車体12を示す斜視図である。図1に示すように、フロントサイドメンバ10は、車体12の前部12aにおける車幅方向Aの両側に車体12の前後方向Bに長手状に延長された骨格部材である。また、フロントサイドメンバ10の中間部には、図1および図2に示すように、そのフロントサイドメンバ10の車体12の前方側の端部から車体12の後方側の端部に向かうに連れて車両の下側すなわち路面側に接近するように曲げて設けられたキックアップ部10aが一体に備えられている。なお、キックアップ部10aには、たとえば、エンジンルームと車室との間を仕切る図示しないダッシュパネルが取り付けられる。
【0017】
図2および図3に示すように、キックアップ部10aには、互いに対向する一対の縦壁部10bおよび10cと、それら一対の縦壁部10bおよび10cの下側縁間を連結する底壁部10dと、縦壁部10bおよび10cの先端部が底壁部10dに対して略平行に折り曲げられた鍔部10eとが一体に備えられており、そのキックアップ部10aの断面が上方に開口する溝14を有する左右対称のU字状或いは逆ハット形状に形成されている。なお、キックアップ部10aに一体に備えられた上記一対の縦壁部10bおよび10c、底壁部10d、鍔部10eは、それぞれ、図2に示すように湾曲した状態で長手平板状に形成されている。
【0018】
図2に示すように、例えば車両の前突等によってフロントサイドメンバ10に矢印方向の力F1が作用すると、そのフロントサイドメンバ10のキックアップ部10aには曲げ荷重Mが作用する。このため、キックアップ部10aには、一対の縦壁部10bおよび10c間に形成された溝14の開口内に溝14の深さ方向において部分的に嵌め入れられた状態で例えば溶接等により固着され、キックアップ部10aの長手方向と略同方向の長手状の補強材16が一体的に備えられている。この補強材16によって、上記曲げ荷重Mに対して十分な曲げ応力が発生できるようにキックアップ部10aが補強される。なお、図3に示すように、補強材16は、その補強材16が固定されたキックアップ部10aに曲げ荷重Mが作用した時における中立軸Cよりもキックアップ部10aの溝14の開口側すなわち圧縮変形側に配設されている。
【0019】
図2および図3に示すように、補強材16は、キックアップ部10aの溝14の開口の幅寸法Dよりも大きい最大間隔W1MAXとその幅寸法Dよりも小さい最小間隔W1MINとを相互間に有するように相互に傾斜し、キックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接する一対の側壁16aおよび16bと、それら一対の側壁16aおよび16bの幅方向の両端部をそれぞれ連結する一対の連結壁16cおよび16dとを一体に有する管状部材である。なお、補強材16に一体に備えられた上記一対の側壁16aおよび16b、一対の連結壁16cおよび16dは、それぞれ、図2に示すように湾曲した状態でキックアップ部10aの長手方向と略同方向に延長された長手平板状に形成されている。
【0020】
図3に示すように、管状部材である補強材16は、キックアップ部10aの溝14の開口の幅寸法Dよりも大きい外側底辺と、その外側底辺に平行でその溝14の開口の幅寸法Dよりも小さい内側底辺とを有する左右対称の逆台形形状の断面を備えている。なお、前記逆台形形状の断面において、補強材16の連結壁16cがその逆台形形状の外側底辺に対応し、補強材16の連結壁16dがその逆台形形状の内側底辺に対応し、補強材16の一対の側壁16aおよび16bがその逆台形形状の一対の脚にそれぞれ対応している。
【0021】
図3に示すように、キックアップ部10aおよび補強材16の断面において、キックアップ部10aの底壁部10dに垂直な線Eに対する補強材16の一対の側壁16aおよび16bの角度αは、キックアップ部10aの底壁部10dに垂直な線Eに対するキックアップ部10aの一対の縦壁部10bおよび10cの角度βよりも大きくなっている。なお、キックアップ部10aの断面における底壁部10dが水平となるようにフロントサイドメンバ10が車体12に設けられる場合には、上記底壁部10dに垂直な線Eは鉛直線に相当する。また、補強材16は、その一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接された際に、キックアップ部10aの溝14の開口縁14aすなわち鍔部10eの上面からの所定高さHだけ突き出すように一対の側壁16aおよび16bとの間の寸法が設計されている。
【0022】
図2および図3に示すように、補強材16とキックアップ部10aとは、その補強材16の一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接された状態で、例えばアーク溶接等によってキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに沿って断続的に連続する溶接により固着されている。なお、図2および図3には、上記キックアップ部10aの溝14の開口縁14aに沿った断続的に連続する溶接により形成された溶接部18が示されている。
【0023】
ここで、フロントサイドメンバ10のキックアップ部10aに補強材16を装着させる方法を示す。先ず、キックアップ部10aの溝14の開口内に補強材16を嵌め入れ、その補強材16の一対の側壁16aおよび16bをキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接させて、補強材16の一部をキックアップ部10aの溝14の開口縁14aから所定の高さHだけ突き出す装着位置に位置決めする。次いで、補強材16の一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接させられた状態で、補強材16とキックアップ部10aとが、そのキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに沿った断続的に連続する溶接により固着され、キックアップ部10aに補強材16が装着される。なお、この後の塗装工程において、補強材16が装着されたフロントサイドメンバ10に開口縁14aと側壁16a、16bとの間の溶接されていない部分を通して塗料が塗布される。
【0024】
上述のように、本実施例のフロントサイドメンバ10によれば、補強材16は、キックアップ部10aの溝14の開口の幅寸法Dよりも大きい最大間隔W1MAXとその幅寸法Dよりも小さい最小間隔W1MINとを相互間に有するように相互に傾斜し、そのキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接する一対の側壁16aおよび16bと、それら一対の側壁16aおよび16bの幅方向の両端部をそれぞれ連結する一対の連結壁16cおよび16dとを有する管状部材である。このため、補強材16の一対の側壁16aおよび16bをキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接させることで、補強材16の一部をキックアップ部10aの溝14の開口縁14aから所定高さHだけ突き出す位置に正確に位置決めすることができる。これによって、従来のようにキックアップ部10aの一対の縦壁部10bおよび10cと平行になるように補強材16の一対の側壁16aおよび16bを精度良く成形させる必要がないので、所定の位置に補強材16をキックアップ部10aにその溝14の深さ方向において正確且つ容易に位置決めすることができる。
【0025】
また、本実施例のフロントサイドメンバ10によれば、キックアップ部10aの底壁部10dに垂直な線Eに対する補強材16の一対の側壁16aおよび16bの角度αは、そのキックアップ部10aの底壁部10dに垂直な線Eに対する一対の縦壁部10bおよび10cの角度βよりも大きい。このため、補強材16をキックアップ部10aの溝14の開口内に嵌め入れた際に、補強材16の一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接し、補強材16の装着位置を正確に位置決めできる。
【0026】
また、本実施例のフロントサイドメンバ10によれば、補強材16は、キックアップ部10aの溝14の開口の幅寸法Dよりも大きい外側底辺と、その外側底辺に平行でその開口の幅寸法Dよりも小さい内側底辺とを有する逆台形形状の断面を備える管状部材であり、その逆台形形状の断面において、補強材16の一対の連結壁16cおよび16dは、前記逆台形形状の外側底辺とその内側底辺とにそれぞれ対応し、補強材16の一対の側壁16aおよび16bは、前記逆台形形状の脚にそれぞれ対応するものである。このため、補強材16をキックアップ部10aの溝14の開口内に嵌め入れた際に、補強材16の一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接し、補強材16の装着位置を正確に位置決めできる。
【0027】
また、本実施例のフロントサイドメンバ10によれば、補強材16とキックアップ部10aとが、そのキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに沿った断続的に連続する溶接により固着されている。このため、補強材16とキックアップ部10aとの溶接がされていない箇所と、補強材16の一対の側壁16a、16bおよびキックアップ部10aの一対の縦壁部10b、10cが成す隙間とが、後の塗装工程における塗料の流入路・排出路として機能させることができる。
【0028】
続いて、本発明の他の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【実施例2】
【0029】
本実施例のフロントサイドメンバ (車両用フロントサイドメンバ)20は、図4および図5に示すように、前述の実施例1のフロントサイドメンバ10に比べて補強材22の形状が実施例1の補強材16の形状と異なる点で相違しており、その他は実施例1のフロントサイドメンバ10と略同様である。以下の説明において、実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
図4に示すように、補強材22は、キックアップ部10aの溝14の開口の幅寸法Dよりも大きい最大間隔W2MAXとその幅寸法Dよりも小さい最小間隔W2MINとを相互間に有するように相互に傾斜し、キックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接する一対の側壁22aおよび22bと、それら一対の側壁22aおよび22bの幅方向の両端部をそれぞれ連結する一対の連結壁22cおよび22dとを一体に有する管状部材である。なお、補強材22に一体に備えられた上記一対の側壁22aおよび22b、一対の連結壁22cおよび22dは、それぞれ、実施例1と同様に湾曲した状態でキックアップ部10aの長手方向と略同方向に延長された長手平板状に形成されている。
【0031】
図5は、図4において補強材22の側壁22bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接している部分を拡大する拡大図である。その図5に示すように、補強材22の側壁22bにおけるキックアップ部10aの底壁部10dに垂直な線Eに対する角度は、その側壁22bのキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接する部位よりも底壁部10d側の位置を境にしてその溝14の開口縁14a側が大きくされている。また、補強材22の側壁部22aも側壁部22bと同様に、その補強材22の側壁22aにおけるキックアップ部10aの底壁部10dに垂直な線Eに対する角度は、その側壁22aのキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接する部位よりも底壁部10d側の位置を境にしてその溝14の開口縁14a側が大きくされている。すなわち、補強材22の一対の側壁22aおよび22bにおいて、上記境における連結壁22c側の部分の上記線Eに対する角度α’が、上記境における連結壁22d側の部分の上記線Eに対する角度αよりも大きくなっている。このため、キックアップ部10aの溝14の開口縁14aから突き出す補強材22の高さHを実施例1の補強材16の高さHに比較して大きくすることなく、キックアップ部10aの溝14の開口縁14aから突き出す補強材22の一対の側壁22aおよび22bの最大間隔W2MAXすなわち補強材22の幅寸法を実施例1の最大間隔W1MAXすなわち実施例1の補強材16の幅寸法に比較して大きくすることができる。
【0032】
上述のように、本実施例のフロントサイドメンバ20によれば、補強材22の一対の側壁22aおよび22bのキックアップ部10aの底壁部10dに垂直な線Eに対する角度は、その一対の側壁22aおよび22bのキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接する部位よりも底壁部10d側の位置を境にしてその溝14の開口縁14a側が大きくされている。このため、キックアップ部10aの溝14の開口縁14aから突き出す補強材22の高さHを大きくすることなくキックアップ部10aの溝14の開口縁14aから突き出す補強材22の一対の側壁22aおよび22bの最大間隔W2MAXすなわち補強材22の幅寸法を大きくすることができるので、補強材22の剛性を向上させることができる。これによって、その補強材22により補強されたキックアップ部10aに曲げ荷重Mが作用した際における中立軸Cが一層圧縮変形側に位置させられる。
【実施例3】
【0033】
本実施例のフロントサイドメンバ (車両用フロントサイドメンバ)24は、図6および図7に示すように、前述の実施例1のフロントサイドメンバ10に比べて補強材16の上側の連結壁16cの形状が異なる点で相違しており、その他は実施例1のフロントサイドメンバ10と略同様である。
【0034】
補強材16とキックアップ部10aとの断面を示す図6に示すように、補強材16の連結壁16cには、その連結壁16cの幅方向の中間部において先端部が連結壁16dに接近する方向に突き出すように曲げられた断面がVの字形状の曲げ部(易変形部)16eが形成されている。この曲げ部16eは、連結壁16cの面方向の圧縮応力が加えられると、その曲げ部16eの幅寸法が小さくなるように局所的に変形させられるので、易変形部に対応している。なお、補強材16の連結壁16cの曲げ部16eは、補強材16の長手方向に沿って連結壁16cに連続して形成されている。また、図6において、補強材16とキックアップ部10aとは、たとえば補強材16の長手方向両端部において、その補強材16の一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに当接された状態で、例えばアーク溶接等によってキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに沿って断続的に連続する溶接すなわち溶接部18により固着されている。
【0035】
図7は、補強材16とキックアップ部10aとが上記断続的に連続する溶接によって固着されていない部分を示す断面図である。図7に示すように、例えば車両の衝突に関連して、キックアップ部10aではフロントサイドメンバ24内へ向かう矢印方向の力F2の荷重入力が補強材16に加えられる。このとき、その補強材16の一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに押圧され、補強材16の連結壁16cの幅方向の両端部に矢印方向の力F3が作用する。これによって、曲げ部16eが曲げられて連結壁16cの幅寸法すなわち補強材16の一対の側壁16aおよび16bの最大間隔W1MAXが減少して、補強材16がキックアップ部10aの溝14内に押し込められ、キックアップ部10aの溝14の開口縁14aから突き出す補強材22の高さhに低くなる。すなわち、連結壁16cに形成された曲げ部16eは、上記のような連結壁16cに作用する力F3によって、連結壁16cの幅方向に対して比較的容易に変形可能である。
【0036】
本実施例のフロントサイドメンバ24によれば、車両衝突時の荷重入力によって補強材16の一対の側壁16aおよび16bがキックアップ部10aの溝14の開口縁14aに押圧されると、曲げ部16eにより連結壁16cの幅寸法すなわち補強材16の一対の側壁16aおよび16bの最大間隔W1MAXが減少して、補強材16をキックアップ部10aの溝14内に押し込むことができる。このため、車両衝突時の荷重入力によりキックアップ部10aが曲げられることによって、そのキックアップ部10aの溝14の開口縁14aからのすなわち車室側への補強材16の突き出しを好適に抑制することができる。
【0037】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0038】
たとえば、本実施例において、補強材16、22は、フロントサイドメンバ10のキックアップ部10aに局所的に設けられていたが、フロントサイドメンバ10の長手方向のいずれの場所に設けても良い。
【0039】
また、本実施例において、補強材16の連結壁16cには、先端部が連結壁16dに接近する方向に突き出すように曲げられた断面がVの字形状の曲げ部16eが形成されていたが、たとえば、その曲げ部16eにかえて長穴が形成されて面方向の圧縮力に対して局所変形するようにしても良い。すなわち、連結壁16cの幅方向に対して変形可能なものであればどのような形状のものが連結壁16cに形成されても良い。
【0040】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
10、20、24:フロントサイドメンバ(車両用フロントサイドメンバ)
10a:キックアップ部
10b、10c:一対の縦壁部
10d:底壁部
14:溝
14a:開口縁
16、22:補強材
16a、16b、22a、22b:一対の側壁
16c、16d、22c、22d:一対の連結壁
16e:曲げ部(易変形部)
D:幅寸法
E:垂直な線
W1MAX:最大間隔
W1MIN:最小間隔
α、β:角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7