特許第5847750号(P5847750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847750
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】燃料油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/16 20060101AFI20160107BHJP
   C10L 1/04 20060101ALI20160107BHJP
   C10L 10/14 20060101ALI20160107BHJP
【FI】
   C10L1/16
   C10L1/04
   C10L10/14
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-65699(P2013-65699)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189619(P2014-189619A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093388
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 喜三郎
(72)【発明者】
【氏名】濱野 純也
(72)【発明者】
【氏名】小澤 悠起
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聡史
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−120972(JP,A)
【文献】 特開平04−353597(JP,A)
【文献】 特開平06−116573(JP,A)
【文献】 特開2010−121084(JP,A)
【文献】 特開2006−321960(JP,A)
【文献】 Energy & Fuels,Vol.27, No.2,p.883-888 (2013).,Published: December 4, 2012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
C10L 5/00− 7/04
C10L 9/00− 11/08
C10M 101/00−177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%残留炭素分が0.2〜1.0質量%である燃料油組成物であって、硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油を燃料油基油に基づいて10〜70容量%含む燃料油基油75〜99容量%と、常圧残油、減圧残油、脱硫残油、スラリーオイル及びエキストラクトからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素油からなる残炭調整材0.1〜1.0容量%と、スクアレン0.8〜25容量%と、流動性向上剤1.0〜1000容量ppmとをそれぞれ前記燃料油組成物に基づいて含有することを特徴とする、前記燃料油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温下で優れた流動性を有する燃料油組成物に関し、詳しくは低温下で優れた流動性を有するA重油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
A重油は一般的にハウス加温栽培用暖房機、ビル等の建築物の暖房機及び漁船等の船を
運転するための燃料等に用いられるが、ここで問題となるのが低温時の流動性である。従来、このA重油には、冬季における低温下あるいは寒冷地においてA重油中のワックス分の析出、さらには流動性の悪化という重大な問題がある。例えば、A重油中に含まれるワックス析出により、油の中の微少な夾雑物を除くためのろ過器中のフィルターを閉塞させたり、また低温下で、A重油が流動性を失い、燃料ラインそのものを閉塞させるといったような例が多くみられる。このような低温下または寒冷地で起こる問題から、A重油の低温流動性を改善することが大きな課題となっていた。
【0003】
従来、低温下におけるA重油の流動性を改善する方法として、残油を添加する方法があり、アスファルテン含有量が6.0質量%以上あるいは残留炭素分が9.5質量%以上である残油を添加物として、A重油基油に対して0.5〜2.0容量%添加することにより低温流動性が改善されることが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、残油を多量に添加する特許文献1の方法は、スラッジの発生という点から好ましくなく、また、低温流動性の改善効果も十分でないので、A重油の基材の変更を行いにくく、A重油の生産に支障をきたすという問題があった。
【0004】
また、A重油の低温流動性を改善する他の方法として、A重油中の10%残留炭素分、−10℃におけるワックス含有量、アスファルテン分及び流動性向上剤の量が低温流動性に関する重要な因子であるとの知見に基づいて、これらの量を特定の範囲に定めることによって、A重油の低温流動性を改善する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この従来方法で使用されていたA重油の基油としては、当時に適用されていた硫黄分規制値から見て500〜2000質量ppm程度の硫黄分を含有した軽油が使用されていた。この軽油に対する硫黄分の規制は、環境への影響が考慮されて次第に厳しくなっており、現在では10質量ppm以下のいわゆるサルファーフリーの軽油が製造されている。しかし、このサルファーフリーの軽油は脱硫率の向上に伴って低アロマ化が進行し、それによって軽油の溶解性能が低下すると同時に軽油の中に含まれるワックス量が相対的に増加することから、この軽油をA重油の基油として用いる場合には、低温流動性の悪化が懸念されるので、一層の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−5438号公報
【特許文献2】特許第2640311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みてなされたものであり、セタン指数を下げることなく低温流動性に優れる燃料油組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上述した課題を解決するために本発明者らはある特定の炭化水素化合物を特定量配合させることにより、セタン指数を下げることなく低温流動性に優れる燃料油組成物を得る事が出来た。
【0008】
すなわち、本発明は、硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油を燃料油基油に基づいて10〜70容量%含む燃料油基油75〜99容量%と、常圧残油、減圧残油、脱硫残油、スラリーオイル及びエキストラクトからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素油からなる残炭調整材0.1〜1.0容量%と、側鎖を有する15〜40個の炭素数を有する不飽和炭化水素0.8〜25容量%と、流動性向上剤1.0〜1000容量ppmとをそれぞれ燃料油組成物に基づいて含有させた、10%残留炭素分が0.2〜1.0質量%である前記燃料油組成物を提供することによって解決された。
したがって、本発明は、10%残留炭素分が0.2〜1.0質量%である燃料油組成物であって、硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油を燃料油基油に基づいて10〜70容量%含む燃料油基油75〜99容量%と、常圧残油、減圧残油、脱硫残油、スラリーオイル及びエキストラクトからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素油からなる残炭調整材0.1〜1.0容量%と、側鎖を有する15〜40個の炭素数を有する不飽和炭化水素0.8〜25容量%と、流動性向上剤1.0〜1000容量ppmとをそれぞれ前記燃料油組成物に基づいて含有することを特徴とする、前記燃料油組成物に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セタン指数を低下させることなく、硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油を燃料油基油とする、低温流動性に優れた燃料油組成物を提供することができ、そしてこの燃料油組成物は、各成分を添加することで製造できる。この各成分の添加方法には、特に制限はなく、残炭調整材を先に燃料油基油に添加した後に不飽和炭化水素化合物を添加してもよく、逆に不飽和炭化水素化合物を先に燃料油基油に添加した後に残炭調整材を添加してもよく、さらに残炭調整材と不飽和炭化水素化合物とを予め混合した後に燃料油基油に添加してもよい。この石油留分燃料油に添加する流動性向上剤は、上記の各成分の添加後又は各成分の添加の途中で添加する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の燃料油組成物では、側鎖を有する15〜40個の炭素数を有する不飽和炭化水素をこの燃料油組成物に基づいて0.8〜25容量%含有するために、硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油を燃料油基油基準に基づいて10〜70容量%含む燃料油基油を、燃料油組成物に基づいて75〜99容量%含有していても、従来の硫黄分500〜2000質量%程度の比較的硫黄分の多い従来の軽油を燃料油基油として用いた場合と同程度の低温流動性を確保することができる。本発明において燃料油基油中に含まれる脱硫軽油の含有量が70容量%以下であればこの燃料油基油の過剰な低アロマ化が防止されて、その低アロマ化によるパラフィンの溶解性の過度の低下に起因する低温流動性の悪化が防止されるので、本発明では、燃料油基油に基づく硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油の含有量を70容量%以下に定めた。
【0011】
本発明で用いられる燃料油基油としては、この脱硫軽油以外に、常圧蒸留装置で原油を常圧において蒸留することによって得られる直留灯油や直留軽油、減圧蒸留装置で常圧残油を減圧下に蒸留して得られる減圧軽油や、この減圧軽油よりも軽質な軽質減圧軽油、灯油脱硫装置で直留灯油を脱硫して得られる脱硫灯油、間接脱硫装置で減圧軽油を脱硫して得られる脱硫減圧軽油や、その場合に副生成物として得られる軽質間脱硫軽油や、重質間脱硫軽油、直接脱硫装置で常圧残油や減圧残油を脱硫した場合に副生成物として得られる直脱軽質軽油や直脱重質軽油、軽質減圧軽油を脱硫して得られる脱硫軽質減圧軽油、接触分解装置から得られるライトサイクルオイル(Light Cycle Oil:LCO)等から選ばれる1種または2種以上のものを用いることができ、これらは燃料油基油の中に30〜90容量%配合され、燃料油基油中に含まれる上記脱硫軽油の含有量が10容量%未満になると、燃料油基油の硫黄分が高くアロマ分が多くなることから、硫黄分やアロマ分の規制が厳しくなる中、環境への影響を考慮し、本発明では、燃料油基油に基づく硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油の含有量を10容量%以上に定めた。
【0012】
燃料油組成物中に含まれる燃料油基油の含有量が75容量%未満になると、不飽和炭化水素の含有量が多くなり、スラッジ発生等により燃料フィルターが閉塞する懸念がある。
また、その含有量が99容量%を超えると、冬季における低温下あるいは寒冷地において燃料油基油のワックス分の析出、流動性の悪化という問題が生じることから、本発明では、燃料油組成物中に含まれる燃料油基油の含有量を75〜99容量%と定めた。この燃料油基油の含有量は、好ましくは78〜97容量%である。
【0013】
本発明の燃料油組成物は、前記の燃料油基油に加え、常圧残油、減圧残油、脱硫残油、スラリーオイル及びエキストラクトからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素油からなる残炭調整材を含んでいる。
前記の残炭調整材として用いられる常圧残油とは、常圧蒸留装置で原油を常圧で蒸留することによって得られる残油であり、減圧残油とは、減圧蒸留装置で常圧残油を減圧下に蒸留することによって得られる残油であり、脱硫残油とは、直接脱硫装置で常圧残油または減圧残油を脱硫することによって得られる残油である。
スラリーオイルとは、流動接触分解装置から得られる、350℃以上の沸点を有する残油であり、エキストラクトとは、潤滑油原料製造用の減圧蒸留装置から得られる留分を溶剤抽出法によって抽出分離した成分のうち、潤滑油に適さない芳香族成分を指している。残炭調整材として用いられるこれらの炭化水素油は、1種単独で添加してもよいが、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明の燃料油組成物は、常圧残油、減圧残油、脱硫残油、スラリーオイル、及びエキストラクトから選ばれた少なくとも1種の炭化水素油からなる残炭調整材を0.1〜1.0容量%、好ましくは0.1〜0.7容量%、さらに好ましくは0.2〜0.7容量%を含む。前記残炭調整材の配合量が0.1〜1.0容量%であれば、スラッジの発生を抑制し、燃料フィルタの閉塞を回避することができる。
本発明の燃料油組成物において、それの10%残留炭素分が0.2質量%未満になると、「10%残油の残留炭素分0.2質量%以上」というA重油の免税条件を満たすことができなくなり、また、10%残留炭素分が1.0%を超えると、スラッジの発生を抑制しにくくなるところから、本発明では、燃料油組成物中の10%残留炭素分を0.2〜1.0質量%と定めた。この10%残留炭素分は、好ましくは0.2〜0.9質量%、より好ましくは0.2〜0.6質量%である。
10%残留炭素分の値はJIS K 2270「原油及び石油製品−残留炭素分試験方法」に準じて測定される値を意味する。
【0015】
本発明において燃料油組成物の低温流動性を改善するために添加される、側鎖を有する15〜40個の炭素数を有する不飽和炭化水素の含有量がこの燃料油組成物に基づいて0.8容量%未満になると、低温流動性において所望の低温流動性改善効果が得られなくなり、また、その含有量が25容量%を超えると、10%残留炭素分が増加しスラッジの発生を抑制しにくくなる。このことから本発明では、燃料油組成物中に含有させる前記不飽和炭化水素の含有量を0.8〜25容量%と定めた。側鎖を有する15〜40個の炭素数を有する不飽和炭化水素の含有量は、好ましくは3〜22容量%である。
【0016】
前記不飽和炭化水素の炭素数は、15〜40個、好ましくは 20〜40個、より好ましくは25〜35個である。
前記不飽和炭化水素の骨格構造は鎖状構造または環状構造であり、好ましくは鎖状構造である。
【0017】
前記不飽和炭化水素の側鎖は、好ましくは1〜3個の炭素数を有する炭化水素基であり、この炭化水素基の炭素数は好ましくは1個または2個であり、より好ましくは1個であり、側鎖の数は好ましくは1〜12個、より好ましくは2〜10個、更に好ましくは4〜8個である。
前記不飽和炭化水素の骨格構造の中の不飽和結合の数は好ましくは1〜12個であり、
より好ましくは2〜10個、更に好ましくは4〜8個である。
前記不飽和炭化水素化合物の構造が上記範囲であれば、低温流動性を向上することができる。
前記不飽和炭化水素は、上記範囲を満足する不飽和炭化水素を1種単独で添加してもよいが、2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0018】
前記不飽和炭化水素化合物としては、例えば、オレフィン類、テルペン類、及びそれらの誘導体などが挙げられる。そのうち、オレフィン類としては、2,6,10,13,17,21−ヘキサメチル−10−ビニルドコサ−2,6,11,16,20−ヘキサエン、2,3,6,10,13,17,21−ヘプタメチル−10−ビニルドコサ−1,6,11,16,20−ヘキサエン、2,3,6,10,13,17,20,21−オクタメチル−10−ビニルドコサ−1,6,11,16,21−ヘキサエン等が挙げられ、また、テルペン類の例はセスキテルペン、ジテルペン、セスタテルペン、トリテルペン、テトラテルペンが挙げられ、好ましくはトリテルペンであり、より好ましくはスクアレンである。
また、前記不飽和炭化水素化合物を含むのであれば、天然品を用いても良い。例えば、スクワレンを含むサメの肝油や、ボトリオコッカス、オーランチオキトリウムなどの微細藻類から得られる前記不飽和炭化水素化合物を含む油分を用いても良い。
【0019】
本発明の燃料油組成物の流動点は、−20℃以下、好ましくは−22.5℃以下である。
流動点が−20℃以下であることにより、低温下において燃料の固化によるディーゼル車の低温作動性の問題が起きる可能性が小さくなるため好ましい。
この流動点は、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に準じて測定される流動点を意味する。
【0020】
本発明の燃料油組成物に添加する流動性向上剤は特に制限されることなく、市販のものをはじめ各種流動性向上剤を使用することができ、特に制限はないが、エチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体に代表されるポリマータイプ、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、あるいは長鎖ジカルボン酸アミドに代表される油溶性分散剤タイプが好ましい。
流動性向上剤の添加量が燃料油組成物に基づいて1.0容量ppm以上であれば、前記不飽和炭化水素による低温流動性向上効果が一層顕著になり、また、その添加量が燃料油組成物に基づいて1000容量ppmを超えても、この流動性向上剤の併用による低温流動性の向上効果は、その添加量の増加に見合うほどの改善をもたらすことがないところから、流動性向上剤の添加量は1.0容量ppm〜1000容量ppmであるのが好ましい。
【0021】
本発明の燃料油組成物の15℃における密度は一般に0.83〜0.89g/cm 、好ましくは0.85〜0.87g/cmである。
この15℃における密度はJIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」に準じて測定される密度を意味する。
【0022】
本発明の燃料油組成物の引火点は一般に安全性の観点から、60℃以上、好ましくは62℃以上である。
この引火点はJIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準じて測定される引火点を意味する。
【0023】
本発明の燃料油組成物の50℃における動粘度は1.7〜5.0mm/sであることが好ましく、より好ましくは2.0〜3.5mm/sである。この範囲であれば、冬季に燃料をタンクから燃焼機器へ問題なく供給し、バーナー燃焼において良好な噴霧、気化を行うことができる。
この50℃における動粘度はJIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法」に準じて測定される動粘度を意味する。
【0024】
本発明の燃料油組成物において、硫黄分は2.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。硫黄分が2.0質量%以下であることにより、工業炉やボイラーなどで燃焼した際に排出されるSOx量を低減するとともに、煙道腐食を抑制することが出来る。
硫黄分の含有量は少ない方が好ましいが、通常、0.01質量%含有する。
なお、硫黄分は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0025】
本発明の燃料油組成物のセタン指数は一般に40〜70であり、好ましくは、40〜60である。この範囲であれば、良好な着火性を有する燃料油組成物となる。
なお、このセタン指数はJIS K 2204に準じて算出される値を意味する。
【0026】
本発明の燃料油組成物の曇り点は一般に5℃以下であり、好ましくは3℃以下である。
本発明の燃料油組成物において、曇り点が5℃以下であることにより、タンク内のワックス析出を抑制し、フィルターや配管の閉塞を防止し、燃料を問題なく供給する事が出来る。
この曇り点はJIS K 2269「石油製品−曇り点試験方法」に準じて測定される温度を意味する。
【0027】
本発明の燃料油組成物の目詰まり点(CFPP)は一般に0℃以下であり、好ましくは−3℃以下であり、より好ましくは−10℃以下である。
本発明の燃料油組成物は、このように0℃以下という低い目詰まり点を有するため、冬季または寒冷地において夾雑物を除去するための濾過装置におけるフィルターの目詰まりを防止することができる。
この目詰まり点はJIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」に準じて測定される目詰まり点を意味する。
【0028】
本発明の燃料油組成物の総発熱量は一般に42〜46MJ/kgであることが好ましく、44〜46MJ/kgであることがより好ましい。
本発明の燃料油組成物において、総発熱量が上記範囲にあることで効率的な燃焼が可能となる。この総発熱量はJIS K 2279「原油及び石油製品軽油−発熱量試験方法及び計算による推定方法」に準じて測定される総発熱量を意味する。
【0029】
本発明の燃料油組成物の10容量%留出温度(T10)は一般に170〜260℃、好ましくは180〜260℃、より好ましくは190〜260℃である。
引火点低下による安全性への影響から170℃以上が好ましく、低温性能の点から、260℃以下であることが好ましい。
50容量%留出温度(T50)は一般に230〜320℃、好ましくは240〜310℃、より好ましくは250〜310℃である。
230℃未満の場合は発熱量が悪化する傾向にあり、一方、燃焼性の観点から、320℃以下であることが好ましい。
そして90容量%留出温度(T90)は一般に280〜380℃、好ましくは290〜380℃、より好ましくは300〜380℃である。
発熱量の点から、280℃以上であることが好ましい。一方、380℃を超える場合、気化が進みにくく、完全燃焼し難い傾向にあり、ワックス含有量が多すぎて低温流動性向上剤などの添加剤の効果が現れにくい。
なお、10容量%留出温度(T10)、50容量%留出温度(T50)および90容量%留出温度(T90)はJIS K 2254「石油製品軽油−蒸留試験方法」に準じて測定される留出温度を意味する。
【0030】
燃料油組成物の飽和分含有割合は、40.0〜56.0容量%、好ましくは45.0〜55.0容量%である。また、燃料油組成物のナフテン分含有割合は、20.0〜27.0容量%、好ましくは22.0〜27.0容量%である。飽和分とナフテン分の含有割合がこの範囲内となることにより、低温流動性に影響を与えるワックスの主成分であるn−パラフィンが希釈される効果が大きくなり好ましい。
【0031】
なお、ここでの飽和分含有割合は、JPI−5S−49−2007「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に基づいて求められる。
また、ナフテン分含有割合は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)により燃料油組成物を芳香族分と飽和分に分画採取した後、飽和分をガスクロマトグラフ法−質量分析法(GC−MS)で分析し、ASTM D 2786に従って解析を行い、ナフテン類割合を算出し、ここで得られた割合を、JPI−5S−49−2007「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」により求めた飽和分割合に乗ずることで求められる。
【0032】
本発明の燃料油組成物を製造する場合に、どのような順序で残炭調整材および不飽和炭化水素を燃料油基油に添加してもよい。本発明の燃料油組成物の各成分の添加方法には、特に制限はなく、残炭調整材を先に燃料油基油に添加した後に不飽和炭化水素化合物を添加してもよく、逆に不飽和炭化水素化合物を先に燃料油基油に添加した後に残炭調整材を添加してもよく、さらに残炭調整材と不飽和炭化水素化合物とを予め混合した後に燃料油基油に添加してもよい。また、残炭調整材や不飽和炭化水素化合物は適当な溶剤の溶液として添加してもよい。また、本発明の燃料油組成物は、石油留分燃料油に通常添加される、防錆剤、酸化防止剤、防食剤、静電気防止剤、セタン価向上剤、金属不活性化剤などの添加剤を添加してもよい。
また、この石油留分燃料油に添加する流動性向上剤は、上記の各成分の添加後又は各成分の添加の途中で添加する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を実施した場合の代表的な例を示すもので、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
【0034】
以下の実施例および比較例において用いられた燃料油基油の構成成分として採用した脱硫軽油、直留軽油、間脱軽油、LCO、脱硫軽質減圧軽油、軽質減圧軽油のそれぞれに関する特性、すなわち、15℃における密度、引火点、50℃における動粘度、流動点、硫黄分、残留炭素分、セタン指数、曇り点、目詰まり点、総発熱量および蒸留性状は、それぞれ、JIS K 2249、JIS K 2265、JIS K 2283、JIS K 2269、JIS K 2541、JIS K 2270、JIS K2204、JIS K 2269、JIS K 2288、JIS K 2279およびJIS K 2254に定められている方法に準拠して測定し、その結果を表1に示した。
【0035】
飽和分含有割合は、JPI−5S−49−2007に定められている方法に準拠して測定した。HPLCの装置構成及び分析条件を以下に示す。
装置:Agilent 1100 Series(ALS:G1329A,Bin
Pump:G1312A,Degasser:G1379A,Rid:G1362A,C
olcom:G1316A)
移動相:n−ヘキサン
流量:1.0ml/min
カラム:硝酸銀含浸シリカカラム(4.6mml.D.*70mmL.センシュー科
学製 AgNO3−1071−Y)
アミン修飾カラム(4.0mml.D.*250mmL.2本 センシュー科学製
LICHROSORB−NH2)
カラム温度:35℃
試料濃度:10vol%
注入量:5μl
【0036】
ナフテン分含有割合は下記方法で測定した。
まず試料をHPLCにより飽和分と芳香族分により分画後、飽和分についてGC−MSによりタイプ分析を行った。ここで得られた分析結果を基に、ASTMD2786に従って解析を行い、飽和分中のパラフィン分と、ナフテン分の含有割合を求めた。ここで得られた飽和分中のナフテン分の割合を、上記のように求めた飽和分割合に乗ずることで、ナフテン分含有割合を求めた。
【0037】
GC−MSの分析条件を下記に示す。
装置:HP−6890 HP5975四重極質量分析計
カラム:DB−1:30m×0.25mmI.D.×0.25μm
オーブン温度:40℃(1min)→10℃/min→280℃(5min)
注入口温度:43℃ Oven track mode ON
インターフェース温度:300℃
キャリアガス:He:55KPa Constant flow mode ON
Solvent Delay:5.3min
質量範囲:50〜500 Threshold=100 Sampling♯3
イオン化電圧:70eV
注入方法:オンカラム注入 1.0μl
【0038】
【表1】
【0039】
また、減圧残渣油およびエキストラクトの15℃における密度、硫黄分および残留炭素分について測定した結果を表2に示した。
【0040】
【表2】
実施例および比較例で用いた不飽和炭化水素は次の通りであった。
スクアレン:C3050、融点-75℃
スクアラン:C3062、融点-38℃
ミルセン:C1016、融点50℃
(R)-(+)-リモネン:C1016、融点-96.6℃
【0041】
以下表3に記載した実施例1〜4及び比較例1〜5について説明する。
実施例1
燃料油基油に基づいて、それぞれ表1に示した性状を有するサルファーフリーの脱硫軽油23.7容量%(燃料油基油中の前記脱硫軽油の割合:25容量%)、直留軽油4.8容量%、間脱軽油17.1容量%、LCO21.8容量%、脱硫軽質減圧軽油27.3容量%、残炭調整材としてそれぞれ表2に示した性状を有する減圧残渣油0.3容量%およびスクアレン5.0容量%を混合した後、市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体系流動性向上剤を燃料油組成物に基づく含有量が200容量ppmとなるように、この流動性向上剤を前記混合物に添加、混合して、燃料油組成物を調製した。
*請求項に流動性向上剤を含める場合。
【0042】
実施例2
前記脱硫軽油を22.5容量%(燃料油基油中の前記脱硫軽油の割合:25容量%)、直留軽油を4.5容量%、間脱軽油を16.2容量%、LCOを20.7容量%、脱硫軽質減圧軽油を25.8容量%、スクアレン10.0容量%を用いる以外は、実施例1と同様にして燃料油組成物を調製した。
【0043】
実施例3
前記脱硫軽油を20.0容量%(燃料油基油中の前記脱硫軽油の割合:25容量%)、直留軽油を4.0容量%、間脱軽油を14.4容量%、LCOを18.4容量%、脱硫軽質減圧軽油を22.9容量%、スクアレン20.0容量%を用いる以外は、実施例1と同様にして燃料油組成物を調製した。
【0044】
実施例4
前記脱硫軽油を24.0容量%(燃料油基油中の前記脱硫軽油の割合:25容量%)、直留軽油を21.9容量%、LCOを22.8容量%、軽質減圧軽油を25.7容量%、残炭調整材として表2に性状を示したエキストラクト0.6容量%、スクアレン5.0容量%を混合した後、流動性向上剤を燃料油組成物基準で500容量ppmとなるように添加し混合した。
【0045】
比較例1
前記脱硫軽油を25.0容量%(燃料油基油中の前記脱硫軽油の割合:25容量%)、直留軽油を5.0容量%、間脱軽油を18.0容量%、LCOを23.0容量%、脱硫軽質減圧軽油を28.7容量%、残炭調整材として表2に性状を示した減圧残渣油0.3容量%を混合した後、流動性向上剤を燃料油組成物基準で200容量ppmとなるように添加し混合した。
【0046】
比較例2
前記脱硫軽油を17.5容量%(燃料油基油中の前記脱硫軽油の割合:25容量%)、直留軽油を3.5容量%、間脱軽油を12.6容量%、LCOを16.1容量%、脱硫軽質減圧軽油を20.0容量%、スクアレン30.0容量%を用いる以外は、実施例1と同様にして燃料油組成物を調製した。
【0047】
比較例3
スクアレンの代わりにスクアランを5.0容量%用いる以外は、実施例1と同様にして燃料油組成物を調製した。
【0048】
比較例4
スクアレンの代わりにミルセンを5.0容量%用いる以外は、実施例1と同様にして燃料油組成物を調製した。
【0049】
比較例5
スクアレンの代わりに(R)-(+)-リモネンを5.0容量%用いる以外は、実施例1と同様にして燃料油組成物を調製した。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
表4より、実施例1〜4で得られた本発明の燃料油組成物は、硫黄分10質量ppm以下の脱硫軽油を10〜70容量%含有する燃料油基油を75〜99容量%と、常圧残油、減圧残油、脱硫残油、スラリーオイル及びエキストラクトから選ばれた少なくとも1種の炭化水素油からなる残炭調整材を0.1〜1.0容量%と、側鎖を有する炭素数が15〜40の不飽和炭化水素化合物を0.8〜25容量%と、流動性向上剤とを含有してなる燃料油組成物であって、前記流動性向上剤の含有量が燃料油組成物基準で1.0〜1000容量ppmを含有してなる燃料油組成物であることにより、前記不飽和炭化水素化合物を含有していない比較例1と比較して、セタン指数を下げることなく低温流動性に優れている事が分かる。
【0053】
表4より、比較例2〜比較例5で得られた燃料油組成物は、炭素数が15〜40の不飽和炭化水素含有量の上限を超えた場合(比較例2)、低温流動性は改善されているが、10%残留炭素分が本発明の範囲外である。
また、炭素数が15〜40の不飽和炭化水素の構造と異なる炭化水素を用いた場合(比較例3〜比較例5)、低温流動性が改善できていない事が分かる。