(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847797
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】リチウムバッテリー用のセパレーターとして使用できる、ポリフッ化ビニリデン型のフルオロポリマーから製造されたフィルムの形成方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20160107BHJP
H01M 2/16 20060101ALI20160107BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28CEW
H01M2/16 P
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-501884(P2013-501884)
(86)(22)【出願日】2011年3月22日
(65)【公表番号】特表2013-523936(P2013-523936A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】FR2011000161
(87)【国際公開番号】WO2011121190
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2014年3月12日
(31)【優先権主張番号】1001366
(32)【優先日】2010年4月1日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510225292
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(73)【特許権者】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン、パトゥ
(72)【発明者】
【氏名】ファニ、アロワン
(72)【発明者】
【氏名】リーズ、ダニエル
【審査官】
大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−239041(JP,A)
【文献】
特表2003−518537(JP,A)
【文献】
特開2007−257904(JP,A)
【文献】
特開2007−004146(JP,A)
【文献】
特表2008−501218(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0165707(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0151511(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/041376(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/038061(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
H01M 2/14− 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン型のフッ素化ポリマーフィルムを形成する方法であって、
− 前記フッ素化ポリマーが溶解している溶媒を含む溶液を支持体上に堆積させる工程、および
− 水での転相によって前記フッ素化ポリマーを沈殿させる工程
を含んでなる方法であり、
前記ポリマーの沈殿が、前記溶液を、水蒸気を含む雰囲気の存在下に置くこと、および前記方法が液体非溶媒中への浸漬工程を含まないことを特徴とし、
前記溶媒が、アセトン、ブタノン、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、およびそれらの混合物の中から選択され、
前記フッ素化ポリマーの前記沈殿工程が、前記溶液を堆積させた前記支持体を、水蒸気を含む前記雰囲気を含む容器の中に入れることにより行われる、方法。
【請求項2】
前記フッ素化ポリマーの前記沈殿工程が、温度30℃〜70℃で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液中のフッ素化ポリマーの質量比が11%〜20%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液中のフッ素化ポリマーの質量比が13%〜17%であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フッ素化ポリマーの沈殿中、前記容器が、温度30℃〜70℃にサーモスタット制御されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フッ素化ポリマーの沈殿中、相対湿度が60%〜98%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フッ素化ポリマーの沈殿中、相対湿度が85%〜98%であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フッ素化ポリマーの前記沈殿工程に続いて、温度40℃〜80℃における真空乾燥工程を行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フッ素化ポリマーの前記沈殿工程に続いて、温度60℃±5℃における真空乾燥工程を行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記フッ素化ポリマーの前記沈殿工程の持続時間が1分間〜60分間であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フッ素化ポリマーの前記沈殿工程の持続時間が10分間〜60分間であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶液が、スロット高さを調節できるフィルムアプリケーターにより、前記支持体上に堆積されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記フィルムの厚さが10μm〜100μmであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記フィルムの多孔度が35%〜95%であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記フィルムの細孔が、0.5μm〜10μmの平均サイズを有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記フィルムの細孔が、0.5μm〜4μmの平均サイズを有することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフッ化ビニリデン型のフルオロポリマーから製造されたフィルムの形成方法であって、
− フッ素化ポリマーが溶解している溶媒を含む溶液を支持体上に堆積させる工程、および
− 水での転相によってフッ素化ポリマーを沈殿させる工程
を含んでなる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
増大するエネルギー貯蔵の必要性に対処するために、リチウム蓄電池、例えばLi−イオン蓄電池、が不可欠になっている。この技術は、実際、特に正極および負極用の活物質および電解質の選択の幅が大きいので、様々な用途に良く適している。
【0003】
液体電解質(塩および溶媒)の場合、正極および負極を分離し、液体電解質で浸されるように設計されたセパレーター素子の選択も決定的な要素である。例えばSheng Shui Zhangによる論文「液体電解質Li-イオンバッテリーのセパレーターに関するレヴュー(A review on the separators of liquid electrolyte Li-Ion batteries)」(Journal of Power Sources 164 (2007) 351-364)は、液体電解質を含むこれらのLi−イオンバッテリーで使用されるセパレーターの様々な種類、並びに必要な品質を概観している。
【0004】
これらの様々な種類の中で、最も一般的なのは、有利には非水性液体電解質を受け容れるように設計された多孔質ポリマーメンブランから形成されたものである。
【0005】
これらのメンブランは、一般的に、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)またはこれら2種類の混合物(PE−PP)を包含する、ポリオレフィン族から製造された材料から形成されている。最も一般的に使用されるセパレーター素子は、Celgard社により市販されている製品、例えば単層PPセパレーターCelgard(登録商標)の群、単層PEセパレーターCelgard(登録商標)の群、および三層PP/PE/PPセパレーターCelgard(登録商標)の群である。そのようなセパレーター素子は、特に、小さな厚さを特徴としており、正極および負極間の間隔を制限し、それによってLi
+イオンの比較的乏しい伝導率、または水性電解質と比較して、液体電解質に使用する有機溶媒の比較的乏しい伝導率を補償することができる。これらのセパレーター素子は、十分な屈曲度および多孔度をさらに有し、負極がグラファイト炭素から製造されている場合に、負極にデンドライトが形成されることによる電極同士の短絡を防止する。
【0006】
これに代わるものとして、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)型のフッ素化ポリマーを使用し、リチウム蓄電池のセパレーターを形成する多孔質ポリマーメンブランを製造することも提案されている。
【0007】
特許US5296318では、例えばフッ化ビニリデン(VdF)を約8%〜25%の六フッ化プロピレン(HFP)と共重合させることにより得られるポリマーから形成されたセパレーターフィルムの利点が強調されている。
【0008】
特許出願WO−A−2005/119816では、ポリフッ化ビニリデン型の、より詳しくはPVdF/HFP共重合体の、リチウム蓄電池用セパレーターも提案されている。特に、セパレーター素子として、厚さ60〜120μmを有し、気孔率が50%〜90%であるPVdF/HFPメンブランを有するリチウム蓄電池は、良好な出力動作、すなわち急速な充電および放電、が得られることを可能にするであろうことが分かっている。PVdFは、事実、リチウム蓄電池に一般的に使用されている液体電解質との親和力、特にリチウム塩の溶解に使用されるアルキルカーボネート型の溶媒との親和力が良好である。この良好な親和力により、PVdFを基材とするメンブランを蓄電池中に挿入した場合に、ポリオレフィン型マトリックスを有するセパレーターで観察される場合と比較して、導電率の低下がより低くなる。そのようなメンブランの構造は、ゲルの形態では、ポリオレフィン型のセパレーターと比較して、電極間の凝集性をさらに確実に高くし、電解質の漏れの危険性を制限する傾向もあり、蓄電池の構造を柔軟性のあるものにすることができる。
【0009】
特許出願WO−A−2005/119816では、PVdF/HFPメンブランが浸漬による転相技術により製造することができる。この技術は、溶媒、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、中にポリマーを可溶化させ、続いて溶液を堅い支持体上に堆積させ、支持体を非溶媒、すなわち溶媒とは混和するが、ポリマーは溶解しない溶液、例えばエタノール、に浸漬することを含む。そのような浸漬が転相によるポリマーの沈殿を引き起こし、次いで支持体を加熱炉中に入れ、乾燥させる。そのような製造方法は、リチウム蓄電池用途に好適な特徴を有するメンブランが得ることを可能にするが、非常に大量の有機溶媒が必要になる。ポリマーを急速に沈殿させるには、事実、ポリマー溶液に対して非溶媒が大過剰に必要になる。従って、この方法には大量の溶媒混合物が関与し、続いてこの溶媒混合物を処理しなければならず、高いコストがかかり、リサイクルの問題が生じる。
【0010】
D-J Linらによる論文「水/N-メチル-2-ピロリドン/ポリ(フッ化ビニリデン)系から転相により製造されたポリ(フッ化ビニリデン)メンブランの微細構造(Fine structure of Poly(vinylidene fluoride) membranes prepared by phase inversion from a water/N-Methyl-2-pyrillidone/Poly(vinilydene fluoride) system」 (J. Power Sci., Part B, Polym. Phys., 42 (2004) 830-842)では、浸漬による転相により、純水または水とNMPの混合物から形成された非溶媒中にPVdFが溶解されている、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液からPVdFメンブランの製造が提案されている。しかし、非溶媒として水を使用すると、リチウム蓄電池用のセパレーターとして有用なメンブランを得ることはできない。実際、ポリマーの沈殿が急速すぎる。得られるメンブランは、スキンおよび、平均サイズがリチウム蓄電池用のセパレーターとして使用するには大きすぎる細孔を有する。
【0011】
本発明の目的は、安価で、汚染性のないポリフッ化ビニリデン型のフッ素化ポリマーから製造されたフィルムの形成方法を提案することであり、より詳しくは、本発明の目的は、リチウムバッテリー用のセパレーター素子として使用できるフィルムを得ることである。
【0012】
本発明により、この目的は添付の請求項により達成される。より詳しくは、この目的は、ポリフッ化ビニリデン型のフッ素化ポリマーフィルムが、
− フッ素化ポリマーが溶解している溶媒を含む溶液を支持体上に堆積させること、および
− 水での転相によってフッ素化ポリマーを沈殿させること
により形成され、該ポリマーの該沈殿が、該溶液を、液体非溶媒中、特に液体の水中に浸漬させることなく、水蒸気を含む雰囲気の存在下に置くことにより行われる。
【0013】
好ましい態様において、フッ素化ポリマーの沈殿工程は、温度30℃〜70℃で、アセトンおよび/またはブタノンから選択された溶媒を用い、溶液中のフッ素化ポリマーの質量比が、有利には11%〜20%、さらに有利には13%〜17%であり、フッ素化ポリマーを沈殿させる際の相対湿度が60%〜98%、さらに有利には85%〜98%で行われる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
他の利点および特徴は、本発明を制限しない例として記載され、添付の図面中に示される特別な態様に関する下記の説明からより明らかとなる。
【
図1】本発明の方法により形成されたPVdFフィルムの、正面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図2】本発明の方法により形成されたPVdFフィルムの、背面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図3】本発明の方法により形成されたPVdFフィルムの、断面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図4】様々なセパレーター素子を含んでなるリチウム蓄電池における、放電に対する回復容量の百分率対レートの変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(特別な態様の説明)
驚くべきことで、予期せぬことに、形成方法として水による転相技術を使用して、ポリフッ化ビニリデン型のフッ素化ポリマーから製造されたフィルム(「メンブラン」と呼ぶこともできる)が、リチウム蓄電池のセパレーターとして使用するのに好適な特性を発揮することができると分かった。本発明の範囲内で、溶媒を含む溶液中に最初に溶解させたフッ素化ポリマーの沈殿は、該溶液を、液体非溶媒、例えば水、中に浸漬せずに、水蒸気を含む雰囲気の存在下に置くことにより得られる。従って、水は、それが、少なくとも最初は、該溶液の存在下に持ち込まれる時は、気体形態にある。従って、先行技術と反対に、本発明の範囲内で、水蒸気を含む雰囲気の存在下に溶液が置かれる前または後であろうと、非液体溶媒中で浸漬による転相は無い。
【0016】
従って、第一工程で、多孔質自己支持型フィルムの形態で、リチウム蓄電池用のセパレーターを形成するように選択されたフッ素化ポリマーを溶媒に溶解させる。溶媒は、より詳しくは、アセトン、ブタノン、テトラヒドロフラン、シクロペンタノン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドおよびN−メチルピロリドン、およびそれらの混合物から選択する。溶媒は、好ましくはアセトン、ブタノンおよびアセトンとブタノンの混合物から選択する。これらの溶媒を選択することは、事実、これらの溶媒が揮発性であり、沈殿操作の後で除去し易く、小さな細孔径(0.5〜4ミクロンが有利である)を与えるフィルムの形成を増進するので好ましい。これは、リチウム蓄電池の用途分野で特に重要である。
【0017】
溶液中のフッ素化ポリマーの質量比は、11%〜20%が有利であり、好ましくは13%〜17%であり、13%〜15%が非常に好ましい。さらに、ほとんどの場合、溶液中のフッ素化ポリマーの質量比が小さいほど、フィルムにおける多孔度が高い。
【0018】
さらに、フッ素化ポリマーは、PVdF単独重合体またはその誘導体の一種、例えばフッ化ビニリデンと一種以上の他のモノマーとの共重合により得られる共重合体、例えばPVdF/HFP、PVdF/CTFE、PVdF/TrFE、PVdF/TFE、PVdF/PTFE、PVdF/PCTFE、PVdF/ECTFE、等でよい。
【0019】
フッ素化ポリマーを溶媒中に完全に溶解させた後、その溶液を支持体上に、任意の種類の堆積技術により堆積させる。支持体は、どのような種類のものでもよい。例えば支持体は、金属基材、例えばアルミニウムフィルム、または不活性ポリマーフィルムにより、ガラスプレートにより、もしくはリチウム蓄電池の電極の一種によっても形成することができる。
【0020】
堆積物を備える支持体は、次いで水蒸気を含む雰囲気の存在下に置き、転相によりフッ素化ポリマーを沈殿させる。転相によるフッ素化ポリマーの沈殿は、本発明の範囲内で、水蒸気を含む雰囲気の存在下に、堆積させた支持体を置くという操作だけで得られ、液体非溶媒浴(例えば水)中への浸漬工程は全く行わない。水蒸気を含む雰囲気とは、堆積物を取り囲む気体状媒体が水蒸気を含む、すなわちゼロでない相対湿度、有利には60%〜98%の相対湿度、さらに有利には85%〜98%の相対湿度、を有する雰囲気である。さらに、該沈殿工程を行うときの温度、より詳しくは周囲を取り囲む気体状媒体の温度は、有利には30℃〜70℃に含まれる。
【0021】
例えば、このフッ素化ポリマーの沈殿工程は、堆積物を備える支持体を、予め設定した温度にサーモスタット制御した、雰囲気が水蒸気を含む容器の中に入れることにより行い、フッ素化ポリマーを支持体上に制御された方法で沈殿させることができる。そのような容器は、より詳しくは、湿分含有量を調整した加熱炉でよい。
【0022】
沈殿操作の際に容器をサーモスタット制御する温度は、30℃〜70℃が有利であり、約40℃がより有利である。
【0023】
沈殿操作中の、特にサーモスタット制御している容器中の相対湿度は、60%〜98%がより有利であり、85%〜98%がさらに有利である。より詳しくは、相対湿度は、水蒸気を水槽から連続的に該容器内に入れることにより、沈殿操作の際に制御し、より詳しくはほぼ設定値に制御する。
【0024】
この工程の持続時間は、1時間以内であるのが有利である。例えば、この持続時間は、1分間〜60分間、好ましくは10分間〜60分間である。
【0025】
従って、溶媒中に溶解したフッ素化ポリマーを含む溶液を調製し、相対湿度を制御するように水蒸気を含む雰囲気と接触させることにより、液体非溶媒に浸漬することなく、有利なことに転相により、ポリマーを完全に、調整しながら沈殿させることができ、それによって得られるフィルム中の多孔度を制御することができる。ポリマーの沈殿は、事実、溶媒およびフッ素化ポリマーを含む溶液中に水を漸進的に、調整しながら配合することにより、制御することができる。さらに、この該溶液中に水を漸進的に配合することは、それ自体、フッ素化ポリマーおよび溶媒を含む溶液と平衡状態にある雰囲気中に含まれる水蒸気の分圧により制御される。従って、大量の液体の水への浸漬に対して、溶液中に導入する水の量を制限することができ、ポリマーをよりゆっくりと沈殿させることができ、それによって、スキン(メンブランの表面における非多孔質領域)の形成を阻止することができる。
【0026】
次いで、フッ素化ポリマーフィルムは、該フィルム中に残留する痕跡量の溶媒および水を完全に除去する工程にかけることができる。これは、真空乾燥により行うのが有利である。真空乾燥工程は、温度約40℃〜約80℃で行うのが有利であり、好ましくは約60℃で行う。そのような除去工程は、本発明の範囲内で、液体浴、例えば水、中に浸漬することによっては行うことができないが、これは、フィルムをその後にリチウム蓄電池用のセパレーターとして使用するのに有害となり得るからである。
【0027】
従って、フィルムの製造は、それが、水蒸気を含む雰囲気の存在下でフッ素化ポリマーが溶解している溶媒を含む溶液を調製する前または後でも、液体非溶媒、より詳しくは液体の水、中への浸漬工程は排除する。
【0028】
さらに、そのようなフィルムの製造方法は安価であり、実施が容易であり、汚染性がない。何よりも、リチウム蓄電池用のセパレーターとして使用するのに好適な特性を発揮する均質なフィルムを得ることができる。
【0029】
そのような製造方法により得られるフィルムは、特にD-J Linによる論文「水/N−メチル−2−ピロリドン/ポリ(フッ化ビニリデン)系から転相により製造されたポリ(フッ化ビニリデン)メンブランの微細構造」に記載されているような、液体非溶媒として使用される水での浸漬による転相により得られるフィルムと異なり、実際に、対称性がある。
【0030】
対称性フィルム(またはメンブラン)とは、フィルムの厚さ全体にわたって実質的に一定した細孔密度および細孔径を有するフィルムを意味する。特に、フィルムの対向する表面は、同等の、または実質的に等しい細孔密度および細孔径を有する。フィルムの非対称性は、実際、ほとんどの場合、スキン(非多孔質表面)またはマクロ細孔生じさせる。これら二つの現象は、前者が高い内部抵抗を生じ、後者が短絡を引き起こすことがあるので、リチウム蓄電池の正しい操作にとって有害である。
【0031】
本フィルムは、さらに自己支持型であり、マクロ多孔質である。該フィルムの細孔の平均サイズは、好ましくは約0.5μm〜約10μm、さらに好ましくは0.5μm〜4μmである。
【0032】
最後に、該フィルムの厚さは、10μm〜100μmが有利であり、20μm〜50μmが好ましい。このフィルムの厚さは、スロット高さを調節できるフィルムアプリケーターを使用して、溶液を支持体上に堆積させることにより、さらに調節することができる。
【0033】
フィルムの多孔性比率は、より詳しくは35%〜95%であり、60%〜80%が有利である。さらに、フィルムの厚さ全体にわたって実質的に一定であるのが有利である。多孔度(ε
ρ)とも呼ばれる多孔性の比率は、特にフッ素化ポリマーの理論的密度(ρ
理論的と記載され、PVdFに対しては約1.8g.cm
−3である)とフィルムの見掛け密度(ρ
見掛け)の差と、フッ素化ポリマーの理論的密度との比率:ε
ρ=(ρ
理論的−ρ
見掛け)/ ρ
理論的として定義される。さらに、フィルムの見掛け密度は、フィルムの質量およびその体積(表面x厚さ)の比率により単に定義される。
【実施例】
【0034】
第一例(以下、例番号1とする)により、Arkema CorporationによりKynar(登録商標)741の名称で市販のPVdF単独重合体フィルムを、該単独重合体をアセトン溶液中にいれることによって調製した。溶液中のポリマーの質量比は15%である。さらに、溶液の調製を有利には温度60℃で行い、溶媒中にポリマーを溶解させ易くする。次いで、得られた溶液をアルミニウムホイル上に流し込み、サーモスタット制御により温度を40℃に維持し、相対湿度を85%に維持した加熱炉中に60分間入れる。次いで、得られたフィルムを温度60℃で12時間真空乾燥させ、痕跡量の溶媒または水を全て除去する。
【0035】
図1〜3は、例番号1により得たフィルムの走査電子顕微鏡により得た、それぞれ正面、背面および断面の写真である。そのフィルムは、厚さが75μm、細孔径が2μm〜4μmおよび多孔度が80%である。
【0036】
他の3種類のPVdF単独重合体フィルム(Kynar(登録商標)741)を、下記の表(例番号2〜4)に示すように第一例と同様の条件下で製造したが、サーモスタット制御した容器中の相対湿度および/またはPVdFの溶解に使用した溶媒は変化させた。
【0037】
第二例(以下、例番号5とする)により、Arkema CorporationによりKynar(登録商標)741の名称で市販のPVdF単独重合体フィルムを、該単独重合体をブタノン溶液中に入れることによって調製した。溶液中のポリマーの質量比は15%である。さらに、溶液の調製を有利には温度70℃で行い、溶媒中にポリマーを溶解させ易くする。次いで、得られた溶液をアルミニウムホイル上に流し込み、サーモスタット制御により温度を40℃に維持し、相対湿度を85%に維持した加熱炉中に40分間入れる。次いで、得られたフィルムを温度60℃で12時間真空乾燥させ、痕跡量の溶媒を全て除去する。そのフィルムは、厚さが60μmであり、下記の表に示すように、細孔径が2μm〜3μmおよび多孔度が60%である。
【0038】
他の2種類のPVdF単独重合体フィルム(Kynar(登録商標)741)を、下記の表(例番号6および7)に示すように第二例と同様の条件下で製造したが、サーモスタット制御した容器中の相対湿度は変化させた。
【0039】
第三例(以下、例番号8とする)により、Arkema CorporationによりKynar(登録商標)741の名称で市販のPVdF単独重合体フィルムを、該単独重合体をシクロペンタノン溶液中に入れることによって調製した。溶液中のポリマーの質量比は15%である。さらに、溶液の調製を好ましくは温度70℃で行い、溶媒中にポリマーを溶解させ易くする。次いで、得られた溶液をアルミニウムホイル上に流し込み、サーモスタット制御により温度を40℃に維持し、相対湿度を95%に維持した加熱炉中に40分間入れる。次いで、得られたフィルムを温度60℃で12時間真空乾燥させ、痕跡量の溶媒を全て除去する。そのフィルムは、厚さが65μmであり、下記の表に示すように、細孔径が0.7〜1μmおよび多孔度が65%である。
【0040】
【表1】
【0041】
さらに、例1〜8により製造した全てのフィルムは、対称性フィルムの特性を有している。
【0042】
これらのフィルムは、リチウム蓄電池用のセパレーターとして使用し、負極および正極間に配置し、有利なことに非水性液体電解質で浸されることができる。リチウム蓄電池の正極および負極並びに電解質を形成する材料は、既知のどのような種類のものでもよい。
【0043】
例えば、ボタン電池型のリチウム蓄電池を、例1〜4により製造したフィルムのそれぞれと、2枚の、CelgardによりC480(登録商標)(PP/PE/PPの3層、厚さ21.5μm)およびC2400(登録商標)(PP単層、厚さ25μm)の商品名で市販されているセパレーターで製造した。
【0044】
各リチウム蓄電池は、
− Li
4Ti
5O
12(82質量%)、炭素(12質量%)および結合剤としてPVdF(6質量%)の混合物により形成される厚さ25μm(約1.5mAh.cm
−2)の複合材料フィルムから得た直径16mmのディスクから形成し、ディスクを厚さ20μmのアルミニウムホイルから形成された集電体上に堆積させた負極、
− LiFePO
4(82質量%)、炭素(12質量%)および結合剤としてPVdF(6質量%)の混合物により形成される厚さ25μmの複合材料フィルムから得た直径14mmのディスクから形成し、ディスクを厚さ20μmのアルミニウムホイルから形成された集電体上に堆積させた正極、
− エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの混合物中にLiPF
6塩ベース(1mol.L
−1)を溶液中に有する液体電解質で浸した、例1〜4によるセパレーター、C480またはC2400
を含んでなる。
【0045】
これらの様々な蓄電池を、ガルバノスタットモード、周囲温度で、0.05V〜2.8Vで、下記の条件で試験した。
− C/5レートでの充電および放電
− C/5レートで充電し、続いて360Cレートで放電
− C/5レートで充電し、続いて120Cレートで放電
− C/5レートで充電し、続いて60Cレートで放電
− C/5レートで充電し、続いて12Cレートで放電
− C/5レートで充電し、続いて6Cレートで放電
− C/5レートで充電し、続いて2Cレートで放電
− C/5レートで充電し、続いてCレートで放電
− C/5レートで充電し、続いてC/5レートで放電
【0046】
図4は、本発明の方法により得た例1〜4のメンブランおよびCelgardにより市販のメンブランC2400(登録商標)およびC480(登録商標)で試験した様々な蓄電池に対する、放電により回復する充電の百分率対レートの関係を示す。