特許第5847803号(P5847803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847803
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】圧電体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20160107BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20160107BHJP
【FI】
   H01L41/187
   H01L41/43
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-507672(P2013-507672)
(86)(22)【出願日】2012年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2012058129
(87)【国際公開番号】WO2012133529
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-76265(P2011-76265)
(32)【優先日】2011年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老ヶ瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】日比野 朝彦
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−093598(JP,A)
【文献】 特開2006−193415(JP,A)
【文献】 特開2011−009269(JP,A)
【文献】 特開2011−011923(JP,A)
【文献】 特開2011−057550(JP,A)
【文献】 特開平08−178549(JP,A)
【文献】 特開2010−037121(JP,A)
【文献】 特開2001−272178(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/148969(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H01L 41/43
C04B 35/491
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体基板の製造方法であって、
1−y/2+x(N1−yNb)O3+x(但し、0≦y≦0.045であり、MはPb1ーpSrを表し、0≦p≦0.03であり、NはTi1−qZrを表し、0.45≦q≦0.60である)の組成を有する材料をシート形状に成形する工程と、
シート形状に成形した材料をセッター上に載置した状態で焼成することで、厚みが30μm以下であり、面積/厚み比が1×10μm以上となる圧電体基板を得る工程を有しており、
変数xが、以下の(化1)に示す斜線領域R内及び斜線領域Rの境界線上の値であ
前記セッターが、安定化ジルコニアにより構成されている、
ことを特徴とする方法。
【化1】
【請求項2】
前記セッターが、純度が99.9mol%以上の安定化ジルコニアにより構成されており、
前記セッター中におけるNaの重量濃度が50ppm以下であり、前記セッター中におけるSiの重量濃度が5ppm以上、かつ、50ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2011年3月30日に出願された日本国特許出願第2011−076265号に基づく優先権を主張する。その出願の全ての内容はこの明細書中に参照により援用されている。
【0002】
本明細書が開示する技術は、圧電体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
圧電体基板の製造方法として、種々の製造方法が提案されている。例えば、日本国公開特許公報2007−084357には、Caを添加したZrOからなるセッターを用いて圧電体基板を焼成する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から薄い圧電体基板に対するニーズが高まっており、近年では厚みが30μm以下の圧電体基板が求められるようになってきている。しかしながら、厚みが30μm以下の圧電体基板の製造方法は、未だ確立されていなかった。したがって、本明細書では、厚みが30μm以下の圧電体基板を好適に製造することができる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、厚みが30μm以下の圧電体基板をセッター上で焼成しようとすると、以下の2つの問題が生じることを発見した。1つは、圧電体基板がセッターに固着してしまうことである。固着が生じると、セッター上から圧電体基板を移動させる際に、圧電体基板が割れてしまう。もう1つは、圧電体基板とセッターとの接触面において圧電体基板からセッターへの原子の拡散が生じ、圧電体の特性が不均一化する(圧電体基板の表面と裏面とで特性が異なってしまう)ことである。何れも現象も、圧電体の特性に大きな影響を及ぼすため、問題となる。30μmよりも厚い圧電体基板を焼成する際にはこれら2つの問題が生じない場合でも、同じ条件で30μm以下の圧電体基板を焼成するとこれら2つの問題が生じる。例えば、図6〜8は、Pb1−y/2+x(N1−yNb)O3+x(但し、NはTi0.48Zr0.52)の組成を有するグリーンシートを焼成することによって、圧電体基板を種々の厚みで製造し、固着率とc/a表裏差(c/a表裏差が高いことは、圧電体基板からセッターへの原子の拡散が生じていることを意味する)を評価した結果を示している。図6〜8のグラフAは固着率を表しており、グラフBはc/a表裏差を表している。図6はx=0.0045、y=0.020のときの評価結果を示しており、図7はx=−0.003、y=0.020のときの評価結果を示しており、図8はx=0.000、y=0.000のときの評価結果を示している。図6図8の何れにおいても、圧電体基板の厚みが30μmより大きい場合には固着率とc/a表裏差は共に低い値となる。しかしながら、圧電体基板の厚みが30μm以下となると、図6、8ではc/a表裏差が上昇し、図7では固着率が上昇する。このように、固着及び拡散の問題は、厚みが30μm以下の圧電体基板を焼成する際に初めて明らかになった問題である。本発明者らは、これらの問題の支配因子が圧電体材料の組成にあることを見出し、以下に開示する製造方法を想到するに至った。
【0006】
本明細書が開示する圧電体基板の製造方法は、M1−y/2+x(N1−yby)O3+x(但し、0≦y≦0.045であり、MはPb1−pSrを表し、0≦p≦0.03であり、NはTi1−qZrを表し、0.45≦q≦0.60である)の組成を有する材料をシート形状に成形する工程と、シート形状に成形した材料をセッター上に載置した状態で焼成することで、厚みが30μm以下であり、面積/厚み比が1×10μm以上となる圧電体基板を得る工程を有している。変数xは、以下の図に示す斜線領域R内及び斜線領域Rの境界線上の値である。
【化1】
【0007】
なお、面積/厚み比は、圧電体基板を平面視したときの圧電体基板の面積(μm)を圧電体基板の厚み(μm)で除算した値である。
【0008】
図1は、上記の図に、本願発明者が実施した実験結果を重ねて示している。図1において、△(上向き三角)は圧電体基板のセッターへの固着が発生したことを示しており、▽(下向き三角)は圧電体基板からセッターへの原子の拡散が発生したことを示しており、●(黒ドット)はこれらの何れもが発生しなかったこと(すなわち、圧電体基板を好適に製造することができたこと)を意味する。図示するように、変数x及びyが、斜線領域R内及び斜線領域Rの境界線上の値であれば、固着の問題及び拡散の問題が生じることなく、厚みが30μm以下の圧電体基板を好適に製造することができる。なお、0≦p≦0.03であり、0.45≦q≦0.60であれば、変数p及びqが何れの場合でも、変数x及びyが斜線領域R内及び斜線領域Rの境界線上の値であれば30μm以下の圧電体基板を好適に製造することができることが確認できた。上記の発明によれば、30μm以下の圧電体基板を製造することができる。
【0009】
上述した製造方法は、セッターが、純度が99.9mol%以上の安定化ジルコニアにより構成されており、セッター中におけるNaの重量濃度が50ppm以下であり、セッター中におけるSiの重量濃度が5ppm以上、かつ、50ppm以下であることが好ましい。なお、安定化ジルコニアとは、ZrOに5〜10mol%のYを添加した組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例の製造方法により製造した圧電体基板の評価結果を示す図。
図2】本発明の一実施形態に係る製造方法を示すフローチャート。
図3】鞘40の内部に配置したセッター20及びグリーンシート10の縦断面図。
図4】セッター20上の各部材の配置を示す平面図。
図5】実施例の評価結果を示す図。
図6】Pb1−y/2+x(N1−yNb)O3+x(x=0.0045、y=0.020)の評価結果を示す図。
図7】Pb1−y/2+x(N1−yNb)O3+x(x=−0.003、y=0.020)の評価結果を示す図。
図8】Pb1−y/2+x(N1−yNb)O3+x(x=0.000、y=0.000)の評価結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図2は、本発明の一実施形態に係る製造方法を示している。この製造方法では、厚みが30μm以下の圧電体基板を製造することができる。製造する圧電体基板の厚みT(μm)と圧電体基板の面積S(μm)の比S/Tは、1×10(μm)以上とすることができる。なお、圧電体基板の面積Sは、圧電体基板の厚み方向に沿って圧電体基板を平面視したときの圧電体基板の面積である。図2に示す製造方法では、このようなPZTの圧電体基板を好適に製造することができる。
【0012】
ステップS2では、圧電体粉末(すなわち、焼結させると圧電体となる組成を有する粉末)を合成する。例えば、種々の材料粉末を混合し、その混合した材料粉末を加熱することで圧電体粉末を合成することができる。具体的な実施形態としては、例えば、最初に、PbO、SrCO、TiO、ZrO、Nbにより構成される材料粉末のそれぞれをボールミル、ビーズミル等によってより細かく湿式粉砕し、各材料粉末の粒径を均一化、分散させる。次に、各材料粉末を乾燥させ、その後、アトマイザ等の乾式解砕機を用いて各材料粉末を混合する。次に、混合した材料粉末を約950℃で仮焼(合成)する。このような手順によって、圧電体粉末を合成することができる。ステップS2は、合成した圧電体粉末が、M1−y/2+x(N1−yNb)O3+xの組成となるように、各材料粉末の配合比を調整して行う。なお、MはPb1−pSrを表し、NはTi1−qZrを表す。変数pは、0≦p≦0.03の範囲内の値に調節する。変数pを0≦p≦0.03の範囲内に調整するのは、変数pが0.03を超えると圧電体中の酸素欠陥が増加し、粒径の粗大化及び特性の低下を引き起こすためである。また、変数qは、0.45≦q≦0.60の範囲内の値に調節する。変数qを0.45以上の値にに調整するのは、圧電体の粒径が粗大化することを防ぐためである。また、変数qを0.60以下の値に調整するのは、焼成時におけるPbOの分解を防いで、ペロブスカイト構造の圧電体を形成するためである。なお、変数qは、0.51≦q≦0.55であることが好ましい。このような構成によれば、焼成後の圧電体がMPB(モルフォロトピック相)近傍の組成となるので、高い圧電定数を有する圧電体基板を製造することができる。より好ましくは、0.51≦q≦0.53であることが好ましい。このような構成によれば、焼成後の圧電体が正方晶となり、高電界印加時に圧電体基板の電界誘起歪量がより大きくなる。30μm以下の薄い圧電体基板では高電界を容易に印加することができるので、このように高電界印加時に電界誘起歪量が大きいことが望ましい。但し、これらの変数qの値は、高電界を印加した際の電界誘起歪量に着目したときに好適な値である。製造時におけるセッターへの固着、及び、セッターと圧電体基板との間の原子の拡散に着目した場合には、変数qについては、少なくとも0.45≦q≦0.60の条件が満たされていればよい。
【0013】
ここで、変数x、yについて説明する。M1−y/2+x(N1−yNb)O3+x(但し、MはPb1−pSrを表し、NはTi1−qZrを表す。)の組成を有する圧電体は、ペロブスカイト構造を有する。この組成は、一般的なPZTの組成であるPb(Ti1−qZr)Oに対して、Srと、Nbと、PbOを添加したものである。変数xはPbOの添加量を表し、変数yはNbの添加量を表している。なお、Mに−y/2の添え字が付いているのは、Nbが5価であるために、2価であるMのサイトに−y/2の欠陥が形成されるためである。欠陥をαで表すと、上記組成式中のMは、(Pb1−pSr1−y/2+xαy/2と表すこともできる。変数x、yは、後述するように、図1に示す斜線領域R内及び斜線領域Rの境界線上の値となるように調整される。
【0014】
ステップS4では、ステップS2で合成した圧電体粉末を用いてグリーンシートを成形する。例えば、次の手順でグリーンシートを成形することができる。すなわち、合成した圧電体粉末に、溶剤、分散材、バインダー、及び、可塑剤を加え、ボールミル、ビーズミル等を用いて湿式混合する。次に、混合した材料をドクターブレード法によってPETフィルム上に塗布することで、グリーンシートを成形する。このとき、グリーンシートの厚みを38μm以下とする。このように、グリーンシートの厚みを38μm以下とすると、焼成後に得られる圧電体基板の厚みが30μm以下となる。
【0015】
ステップS6では、ステップS4で成形したグリーンシートをカットする。例えば、一辺が約40mmの正方形にグリーンシートをカットすることができる。グリーンシートのカットには、公知の方法を用いることができる。なお、グリーンシート成形時に、上記のようにPETフィルム上に混合した材料を塗布していた場合は、PETフィルムと共にグリーンシートをカットすればよい。そして、カット後に、グリーンシートをPETフィルムから剥離すればよい。
【0016】
ステップS8では、グリーンシートを脱脂する。グリーンシートの脱脂は、例えば、次の手順で行うことができる。すなわち、最初に、99.9%以上の純度の安定化ジルコニアにより構成されたセッター上にグリーンシートを載せる。次に、グリーンシート上に多孔質のセッターを載せる。すなわち、グリーンシートを2つのセッターで挟み込む。この状態で、大気通風雰囲気中で、グリーンシートを500℃に加熱する。これによって、グリーンシートを脱脂することができる。このように、多孔質セッターを載せた状態でグリーンシートを脱脂すると、脱脂時にグリーンシートに反りが発生することを防止することができる。また、グリーンシートに載せるセッターが多孔質であるので、脱脂時にグリーンシートから生じるガスは、多孔質セッターの内部の空孔を通って外部に放出される。したがって、好適に脱脂することができる。なお、多孔質セッターが重すぎるとグリーンシートが割れることがあるので、適切な重さの多孔質セッターを用いることが好ましい。なお、多孔質セッターを載せた状態で脱脂した場合は、脱脂後にグリーンシートに載せた多孔質セッターを取り外せばよい。以上に説明したステップS2〜S8の工程は、M1−y/2+x(N1−yNb)O3+xの組成を有する材料をシート形状に成形する工程に相当する。
【0017】
ステップS10では、脱脂したグリーンシートを加熱することで、圧電体基板を焼成する。すなわち、グリーンシート中の圧電体粉末を焼結させてセラミックス化することで、板状の圧電体基板を得る。圧電体基板の焼成は、例えば、次の手順で行うことができる。すなわち、まず、図3に示すように、MgO製の鞘40の内部に、脱脂工程を終えた複数の安定化ジルコニアのセッター20を、グリーンシート10を載せたままの状態で鞘40内に積層する。なお、セッター20上には図4に示すように4つのスペーサ30を配置して、図3に示すようにグリーンシート10とその上方のセッター20の間に空間を確保する。また、図4に示すように、セッター20上には、グリーンシート10に加えて、グリーンシート10と同様の工程により作成されたダミーシート22をグリーンシート10の周囲に配置することができる。ダミーシート22は、グリーンシート10と同じ組成を有することが好ましい。次に、鞘の内部に、雰囲気粉(焼成時における鞘の内部の雰囲気を調節するための粉)をMgO製の皿に入れた状態で配置する(図示省略)。この状態で、鞘を密閉し、鞘の内部を加熱する。これによって、グリーンシート中の圧電体粉末が焼結し、板状の圧電体基板が完成する。なお、焼成時にグリーンシートの厚みが減少する。焼成前のグリーンシートの厚みが38μm以下であるので、焼成後の圧電体基板の厚みは30μm以下となる。また、焼成前のグリーンシートは一辺が約40mmの正方形であるが、焼成時にこのサイズも縮小する。焼成後の圧電体基板は、一辺が約32mmの正方形となる。したがって、焼成後の圧電体基板の面積/厚み比は、約3×10μm(すなわち、1×10μm以上)となる。なお、焼成温度は、特に限定されないが、圧電体粉末の組成と粒子径や焼成後の圧電体基板に求める緻密性等によって適宜設定することができる。例えば、上記の組成で理論密度の95%以上である緻密な圧電体基板を製造するのであれば、1175℃〜1250℃の範囲で焼成することができる。1175℃を下回ると緻密性が劣り、1250℃以上で焼成すると粒子が異常成長したり、Pbの分解を抑えることができず、異相が析出することがある。
【0018】
なお、上記のようにグリーンシート10の周囲にグリーンシート10と同じ組成のダミーシート22を配置すると、焼成時にグリーンシート10の周囲のPbOガスの濃度を高めることができる。これによって、グリーンシート10からPbOが抜けることが抑制され、グリーンシート10の反りを抑制することができる。
【0019】
また、図3に示すセッター20の間の間隔H1が狭すぎると、焼成時にセッター20に反りが生じたときに、グリーンシート10が上部のセッター20に接触し、グリーンシート10が変形する。また、間隔H1が広すぎると、グリーンシート10上の空間が広くなり、グリーンシート10の周囲のPbOガス濃度が安定しなくなるので、グリーンシート10に反りが発生する。したがって、2つのセッター20の間の間隔H1は、30μm以上であり200μm以下であることが好ましく、50μm以上であり150μm以下であることがより好ましい。
【0020】
また、図3に示すように、最上部のセッター20aの厚みD1と最下部のセッター20bの厚みD2は、これら以外のセッター20の厚みD3の2倍以上であることが好ましい。最上部に厚く重いセッター20aを配置しておくと、セッター20aの荷重によってその下部のセッター20を押さえつけることができる。これによって、焼成時における各セッター20の反りを防止することができる。また、最下部のセッター20bを厚くすることで、セッター20bが変形することなく上部の各セッター20の荷重を受けることができる。これらのように各セッター20の反りを抑制することで、グリーンシート10の反りを抑制することができる。
【0021】
また、上記の製造方法においては、セッター20の上面の表面粗さを示す中心線平均粗さRaが0.02μm〜5μmであり、最大高さRmaxが10μm以下であることが好ましい。このためには、粒径が0.5μm〜1.5μmのZrOの材料粉末を用いてシートを形成し、そのシートを焼成することでセッター20を形成することが好ましい。このようにセッター20を形成することで、セッター20の表面粗さを適切な値とすることができる。セッター20の上面を研磨やブラスト加工で成形する場合には、最大高さRmaxを小さくすることが困難であり、好ましくない。また、セッター20に含まれる不純物量は、Naが50ppm以下であり、Siが50ppm以下であることが好ましい。NaやSiが多すぎると、セッター20とグリーンシート10との間で相互拡散が置き易いためである。また、セッター20に含まれるSiは5ppm以上であることが好ましい。Siが少なすぎると、セッター20の緻密性が低くなり、セッター20中にPbOが入り込んで雰囲気中のPbOガス濃度が変化し易いためである。
【0022】
上記の製造方法によれば、M1−y/2+x(N1−yNb)O3+x(但し、MはPb1−pSrを表し、NはTi1−qZrを表す。)の組成を有する圧電体基板を好適に製造することができる。すなわち、この製造方法によれば、圧電体基板とセッターとの固着を防止しつつ、かつ、焼成時に圧電体基板(すなわち、グリーンシート)からセッターに原子が拡散することを防止することができる。これによって、圧電体基板中における組成の均一性を確保することができる。また、このように原子の拡散を防止できるので、表側面と裏側面との間で粒子径に差がない圧電体基板を製造することができる。なお、圧電体基板の表面は、焼成時にセッターと接触していなかった面(すなわち、上面)を意味し、圧電体基板の裏面は、焼成時にセッターと接触していた面(すなわち、下面)を意味する。より具体的には、この製造方法によれば、表側面と裏側面との間における粒子径の平均値の差が表側面の平均値の10%以内であり、表側面と裏側面との間における粒子径の標準偏差の差が表側面の標準偏差の10%以内である圧電体基板)を製造することができる。本方法を用いて製造された圧電体基板は、その後、両面に電極を形成し、所定の形状に切断することで、圧電素子として用いることができる。さらに、両面に形成した電極間に電圧を印加できるよう、回路基板と接合することで、圧電素子を圧電アクチュエータ、センサ、超音波モータ等として用いることができる。特に、このように薄い圧電体基板には高電界を印加可能であることから、この圧電体基板から製造される圧電素子は、小型化、及び、大きな変位量が要求される分野で好適に用いることができる。また、この製造方法によれば大きな圧電体基板を製造することが可能であるので、圧電素子の多数個取りが可能であり、圧電素子を低コストで製造することが可能となる。
【0023】
また、上記の方法によれば、焼成により厚みが30μm以下の圧電体基板を製造することができる。すなわち、焼成後に、圧電体基板の表面研磨等(すなわち、薄型化)を行うことなく、薄い圧電体基板を得ることができる。したがって、この製造方法は、優れた生産効率で薄い圧電体基板を製造することができる。また、このように製造された圧電体基板においては、その表側面と裏側面の両方が焼成面(焼成時に圧電体基板の表面に露出している面)である。焼成面には、圧電体基板を構成している圧電体の粒子径に起因する微小な凹凸が存在している。このため、圧電体基板の表面に電極を形成する際に、圧電体基板に対する電極の密着性が高い。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を具現化した実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するための具体例であって、本発明を限定するものではない。
【0025】
変数x、yとして種々の値を採用して圧電体粉末を合成し、その合成した圧電体粉末を1200℃で3時間焼成して圧電体基板を製造した。製造方法には、上述した製造方法を用いた。製造された圧電体基板は、約40mmの正方形状を有し、その厚みは約15μmであった。製造した全ての圧電体基板において、q=0.525とし、p=0.02とした。なお、q=0.525である場合には、圧電体の結晶格子は正方晶となる。
【0026】
製造した圧電体基板のそれぞれについて、固着とc/a表裏差を評価した。図5は、各圧電体基板について固着とc/a表裏差を評価した結果を示している。図5における固着とは、ステップS10の焼成時に圧電体基板がセッターに固着することを意味している。固着の有無は、ステップS10の焼成後に、圧電体基板を押して動くかどうかを確認することで判断した。固着の評価結果のOは試験数10シートに対し、全てにおいて固着が生じなかったことを表し、Xは1シートでも固着が生じたことを表す。
【0027】
また、c/a表裏差とは、圧電体基板の表側面と裏側面との間におけるc/aの差を意味している。c/aは、圧電体の結晶格子である正方晶の軸比(正方形を構成する軸の長さaで正方形を構成しない軸の長さcを除算した値)である。図5の評価では、c/a表裏差が0.001より大きいか否か(すなわち、圧電体基板の表側面と裏側面の間でc/aに差があるか否か)を判断した。c/a表裏差の評価結果のOはc/a表裏差が0.001以下であったことを意味し、Xはc/a表裏差が0.001より大きかったことを意味する。なお、c/aの測定誤差は約0.001であるため、c/a表裏差が0.001以下であることは、測定可能な差が存在しないことを意味する。焼成時に圧電体基板からセッターにTiが拡散すると、圧電体基板の裏側部のc/aが変化する。したがって、この場合には、c/a表裏差が大きくなる。c/a表裏差が大きいと、表側面と裏側面の間で圧電定数が異なってしまい、電圧印加時に圧電体が反るように変形するため好ましくない。なお、c/aは、X線回折における(200)面の検出強度と(002)面の検出強度の比から算出した。X線回折装置は、スペクトリス社製X‘part MPD Proを用い、X線源はCuKα、加速電圧45kV、θ/2θ法で40°〜50°の範囲を測定し、精度が高くなるように、メインピークが100000counts以上となるように測定時間を設定した。
【0028】
図1は、図5の評価結果をグラフとして表したものである。図1において、△(上向き三角)は固着が発生したことを示しており、▽(下向き三角)はc/a表裏差が大きかったことを示し、●(黒ドット)はこれらの問題が生じなかったこと(すなわち、圧電体基板を好適に製造することができたこと)を意味する。図示するように、変数xが小さいほど固着が発生し易く、変数xが大きいほどc/a表裏差が大きくなり易い傾向があるが、変数xを適切な値とすることで、これらの問題が生じないことが分かる。変数xの適切な範囲は、変数yの値によって変化する。すなわち、変数yを0≦y≦0.045の値に調節し、変数xを図1の斜線領域Rに示す範囲内及びその境界線上の値に調節することで、固着やTiの拡散の問題が生じることなく好適に圧電体基板を製造できることが分かった。
【0029】
なお、図1は、p=0.02とし、q=0.525としたときの結果を表しているが、変数pが0≦p≦0.03の範囲内にあり、変数qが0.45≦q≦0.60の範囲内にあれば、変数p及びqが何れの値であっても、変数xとyが斜線領域Rの範囲内にあれば好適に厚みが30μm以下の圧電体基板を製造することが可能であること(すなわち、固着の問題が生じず、かつ、結晶格子の軸比の変動が生じないこと)が分かった。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8