(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<自動車用変速機油組成物>
本発明の自動車用変速機油組成物(以下、単に潤滑油組成物という場合がある。)は、尿素アダクト値が4質量%以下であり、40℃における動粘度が25mm
2/s以下であり、粘度指数が100以上である潤滑油基油を備えて構成される。
【0015】
(潤滑油基油)
潤滑油基油は、上記の性能を満たすものであれば、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油および/または合成系基油を使用することができる。例えば、二種以上の鉱油系基油を混合して使用しても良いし、二種以上の合成系基油を混合して使用しても良いし、鉱油系基油と合成系基油とを混合して使用してもよい。
【0016】
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいは、ワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が、挙げられる。中でも、特にノルマルパラフィンを含有する原料油を、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が25mm
2/s以下、粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化することにより得られる鉱油系基油が好ましい。
【0017】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテンまたはその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油またはこれらの混合物等が挙げられる。中でも、ポリブテンまたはその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはその水素化物が好ましく用いられる。
【0018】
ノルマルパラフィンを含有する原料油を、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が25mm
2/s以下、粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化することにより得られる鉱油系基油、または、上記した合成系基油、あるいはこれらの混合物は、粘度−温度特性、低温粘度特性および熱伝導性の要求を高水準で両立させることが可能である。
【0019】
(尿素アダクト値)
潤滑油基油の尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200mg、トルエン360mlおよびメタノール40mlを加えて室温で6時間撹拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300mlおよびトルエン300mlを加えて80℃で1時間撹拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義した。
【0020】
尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分または熱伝導性を悪化させる成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンが、精度よくかつ確実に捕集される。このため、尿素アダクト値は、潤滑油基油の低温粘度特性および熱伝導性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GCおよびNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィンおよび主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認した。
【0021】
潤滑油基油の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善し、かつ高い熱伝導性を得る観点から、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下である。また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上である。
【0022】
(動粘度)
本発明に用いられる潤滑油基油の40℃における動粘度は、25mm
2/s以下であり、好ましくは20mm
2/s以下、より好ましくは18mm
2/s以下、さらに好ましくは14mm
2/s以下、特に好ましくは12mm
2/s以下である。また、40℃における動粘度は5mm
2/s以上であることが好ましく、6mm
2/s以上であることがより好ましく、8mm
2/s以上であることがさらに好ましい。潤滑油基油の40℃における動粘度が高すぎると、低温粘度特性が悪化し、十分な冷却性能が得られない虞がある。逆に、潤滑油基油の40℃における動粘度が低すぎると、潤滑箇所での油膜形成が不十分となるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0023】
(粘度指数)
本発明に用いられる潤滑油基油の粘度指数は、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるよう、また低粘度であっても蒸発しにくいものとするために、100以上であり、好ましくは120以上、より好ましくは125以上、さらに好ましくは135以上、特に好ましくは140以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような粘度指数が135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI−PAO系基油のような粘度指数が150〜250程度のものも使用することができる。
【0024】
(ヨウ素価)
本発明に用いられる潤滑油基油のヨウ素価は、好ましくは1以下であり、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.15以下である。また、下限は特に限定されず、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点および経済性との関係から、潤滑油基油のヨウ素価は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.05以上である。潤滑油基油のヨウ素価を1以下とすることで、熱・酸化安定性が飛躍的に向上し、さらに冷却性能や絶縁性能を向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0025】
(潤滑油基油の製造方法)
本発明の潤滑油組成物に好適な潤滑油基油を製造するための原料としては、ノルマルパラフィンを含有する原料油を用いることができる。原料油は、鉱物油または合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの2種以上の混合物であってもよい。また、原料油中のノルマルパラフィンの含有量は、原料油全量を基準(100質量%)として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは97質量%以上である。
【0026】
ノルマルパラフィンを含有する原料油としては、例えば、溶剤抽出ラフィネート、部分溶剤脱ロウ油、脱れき油、留出物、減圧ガスオイル、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油、フィッシャー−トロプシュ・ワックス等が挙げられる。中でも、スラックワックスおよびフィッシャー−トロプシュ・ワックスが好ましい。
【0027】
スラックワックスは、典型的には溶剤抽出またはプロパン脱れきにより得られる、ノルマルパラフィンを含有する炭化水素原料である。スラックワックスは残留油を含有する場合があるが、この残留油は脱油により除去できる。フーツ油は、この脱油されたスラックワックスに相当するものである。また、フィッシャー−トロプシュ・ワックスは、いわゆるフィッシャー−トロプシュ合成法により製造される。
【0028】
また、溶剤抽出に由来する原料油は、常圧蒸留からの高沸点石油留分を減圧蒸留装置に送り、この装置からの蒸留留分を溶剤抽出することによって得られるものである。減圧蒸留からの残渣は、脱れきされてもよい。溶剤抽出法においては、よりパラフィニックな成分をラフィネート相に残したまま抽出相に芳香族成分を溶解させる。ナフテンは、抽出相とラフィネート相とに分配される。溶剤抽出用の溶剤としては、フェノール、フルフラールおよびN−メチルピロリドン等が好ましく使用される。溶剤/油比、抽出温度、抽出されるべき留出物と溶剤との接触方法等を制御することによって、抽出相とラフィネート相との分離の程度を制御することができる。さらに、より高い水素化分解能を有する燃料油水素化分解装置を使用して、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を、原料として用いてもよい。
【0029】
上記した原料油に対して、得られる潤滑油基油の尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が25mm
2/s以下、粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化を行うことによって、本発明の潤滑油基油が得られる。水素化分解/水素化異性化工程は、得られる潤滑油基油が上記条件を満たすものであれば特に制限されないが、以下の水素化分解/水素化異性化工程を行うことが好ましい。
【0030】
好ましい水素化分解/水素化異性化工程は、ノルマルパラフィンを含有する原料油に対して水素化処理触媒を用いて水素化処理する第1工程、該第1工程により得られる被処理物に対して水素化脱ロウ触媒を用いて水素化脱ロウする第2工程、および、該第2工程により得られる被処理物に対して水素化精製触媒を用いて水素化精製する第3工程を備える。なお、第3工程後に得られる被処理物対して、必要に応じて蒸留等を行い、所定の成分を分離除去してもよい。
【0031】
(潤滑油基油の具体的特性)
上記の製造方法により得られる本発明の潤滑油基油は、上記した尿素アダクト値、40℃における動粘度および粘度指数を備えるものであれば、その他の性状は特に制限されないが、以下の条件を満たすものであることが好ましい。
【0032】
潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準(100質量%)として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分(飽和分基準のナフテン分)の割合は、飽和分全量を基準(100質量%)として、その下限値は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、その上限値は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。
【0033】
飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、優れた粘度−温度特性、熱・酸化安定性、低温粘度特性、冷却特性を達成することができ、また、コストと性能のバランスに優れた組成物とすることができる。また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持することができ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。さらに、潤滑油基油自体の摩擦特性が改善され、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上が達成できる。
【0034】
潤滑油基油中の飽和分の含有量が少なすぎると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が不十分となる虞がある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が少なすぎると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される添加剤の有効量が低下するため、添加剤の機能が有効に得られない虞がある。逆に、飽和分に占める環状飽和分の割合が多すぎると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する虞がある。また、低温粘度特性、冷却特性が悪化するおそれがある。上記したように、潤滑油基油には、所定量の飽和分が含まれており該飽和分中には、所定量の環状飽和分(飽和分基準のナフテン分)と、非環状飽和分(飽和分基準のパラフィン分)が含まれている。この非環状飽和分としては、ノルマルパラフィンおよびイソパラフィンが挙げられる。
【0035】
本発明の潤滑油基油における、イソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、潤滑油基油における飽和分全量を基準(100質量%)として、好ましくは50質量%以上99質量%以下、より好ましくは70質量%以上97質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上95質量%以下である、特に好ましくは90質量%以上93質量%以下である。このような割合でイソパラフィンを含む潤滑油基油を用いることで、粘度−温度特性および熱・酸化安定性をより向上させることができ、低温粘度特性、冷却特性を高いレベルで両立させることが可能となる。また、この潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、添加剤を十分に安定して溶解保持することができ、添加剤の機能を好適に発現させることができる。
【0036】
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値(単位:質量%)を意味する。また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分および非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されたナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)およびパラフィン分(単位:質量%)を意味する。
【0037】
潤滑油基油における芳香族分の含有量は、特に制限はないが、潤滑油基油全量を基準(100質量%)として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下であり、特に好ましくは1質量%であり、最も好ましくは0.5質量%以下である。また、芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点から0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。基油の芳香族分が多すぎる場合は、酸化安定性が劣る。
【0038】
上記芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、およびピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0039】
また、潤滑油基油における硫黄分は、特に制限はないが、潤滑油基油全量を基準(100質量%)として、0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下、特に好ましくは0.0005質量%以下である。
【0040】
本発明に用いられる潤滑油基油の100℃における動粘度は、特に制限はないが、好ましくは6.5mm
2/s以下、より好ましくは4.5mm
2/s以下、さらに好ましくは4.0mm
2/s以下、特に好ましくは3.0mm
2/s以下、最もこのましくは2.9mm
2/s以下である。また、本発明に用いられる潤滑油基油の100℃における動粘度は1mm
2/s以上であることが好ましく、2mm
2/s以上であることがより好ましく、2.5mm
2/s以上であることがさらに好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度が高すぎると、低温粘度特性が悪化し、十分な冷却性能が得られない虞がある。逆に、潤滑油基油の100℃における動粘度が低すぎると、潤滑箇所での油膜形成が不十分となるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0041】
本発明に用いられる潤滑油基油のアニリン点は、特に制限はないが、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下、特に好ましくは115℃以下である。また、本発明に用いられる潤滑油基油のアニリン点は80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましい。潤滑油基油のアニリン点が高すぎると、添加剤の溶解性が低下し、また、ゴム剤への膨潤性が低下するため、油漏れの原因となる。アニリン点が低すぎると、粘度温度特性が悪化すると共に十分な冷却性能が得られない虞がある。
【0042】
また、潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、好ましくは−15℃以下、より好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−25℃以下、特に好ましくは−30℃以下である。流動点が高すぎると、その潤滑油基油を用いた潤滑油組成物の低温流動性が低下する虞がある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0043】
また、潤滑油基油の15℃における密度(ρ
15)は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ
15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm
2/s)を示す。]
【0044】
なお、ρ
15>ρとなる場合、冷却性能、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、さらには揮発防止性および低温粘度特性・低温流動性が低下する傾向にある。また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する虞がある。
【0045】
具体的には、潤滑油基油の15℃における密度(ρ
15)は、好ましくは0.840以下、より好ましくは0.830以下、さらに好ましくは0.825以下、特に好ましくは0.815以下である。
【0046】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0047】
(添加剤)
また、本発明の潤滑油組成物は、熱伝導性を損なわない限りにおいて、必要に応じて各種添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、特に制限されず、潤滑油の分野で従来使用される任意の添加剤を配合することができる。具体的な添加剤としては、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
金属系清浄剤としては、スルホネート系清浄剤、サリチレート系清浄剤およびフェネート系清浄剤から選ばれる1種以上を配合することができる。これら金属系清浄剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との正塩、塩基正塩、過塩基性塩のいずれをも配合することができる。
【0049】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0050】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
【0051】
摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
【0052】
極圧剤、摩耗防止剤としては、潤滑油に用いられる任意の極圧剤、摩耗防止剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0053】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤またはポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000である。また、分散型の粘度指数向上剤であっても良いし、非分散型の粘度指数向上剤であっても良い。
【0054】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0055】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0056】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0057】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0058】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が0.1〜100mm
2/s未満のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0059】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量を基準(100質量%)として、0.01質量%以上20質量%以下である。
【0060】
(潤滑油組成物の動粘度)
なお、本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度に特に制限はないが、上限値としては、好ましくは30mm
2/s以下、より好ましくは25mm
2/s以下、さらに好ましくは20mm
2/s以下、特に好ましくは15mm
2/s以下である。また、下限値としては、好ましくは5mm
2/s以上、より好ましくは8mm
2/s以上、特に好ましくは10mm
2/s以上である。本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度が小さすぎる場合は、潤滑部位の油膜保持性および蒸発性に問題を生ずるおそれがあり、逆に大きすぎる場合は、冷却性の不足をもたらすおそれがある。
【0061】
なお、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度に特に制限はないが、上限値としては、好ましくは7.0mm
2/s以下、より好ましくは5.0mm
2/s以下、さらに好ましくは4.0mm
2/s以下、特に好ましくは3.5mm
2/s以下、最も好ましくは3.1mm
2/s以下である。また、下限値としては、好ましくは1.5mm
2/s以上、より好ましくは2.0mm
2/s以上、特に好ましくは2.5mm
2/s以上である。100℃における動粘度が小さすぎる場合は、潤滑部位の油膜保持性および蒸発性に問題を生ずるおそれがあり、逆に大きすぎる場合は、冷却性の不足をもたらすおそれがある。
【0062】
(潤滑油組成物の熱伝達係数)
なお、本発明の潤滑油組成物の熱伝達係数の下限値は720W/m
2・℃以上であるが、より好ましくは740W/m
2・℃以上、さらに好ましくは750W/m
2・℃以上、特に好ましくは760W/m
2・℃以上である。熱伝達係数の上限値に特に制限はないが、好ましくは1000W/m
2・℃以下、より好ましくは900W/m
2・℃以下、特に好ましくは800W/m
2・℃以下である。熱伝達係数が小さすぎる場合は、変速機用潤滑油組成物として冷却性が不十分となり、熱伝達係数が大きすぎる場合は、潤滑部位の油膜保持性および潤滑性に問題を生ずるおそれがある。