特許第5847987号(P5847987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847987
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】銀を含む銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20160107BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20160107BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20160107BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20160107BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/00 602
   C22F1/00 604
   C22F1/00 623
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 661A
   C22F1/08 B
   H01B1/02 A
【請求項の数】29
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2007-268003(P2007-268003)
(22)【出願日】2007年10月15日
(62)【分割の表示】特願2001-275764(P2001-275764)の分割
【原出願日】2001年8月8日
(65)【公開番号】特開2008-57046(P2008-57046A)
(43)【公開日】2008年3月13日
【審査請求日】2008年7月16日
【審判番号】不服2012-24446(P2012-24446/J1)
【審判請求日】2012年12月10日
(31)【優先権主張番号】224054
(32)【優先日】2000年8月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506071210
【氏名又は名称】オリン コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】501357647
【氏名又は名称】ヴィーラント − ヴェルケ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ボーゲル
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク ゼーガー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス − アヒム クーン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン エフ ブリーディス
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド エヌ、キャロン
(72)【発明者】
【氏名】デリク イー、タイラー
【合議体】
【審判長】 木村 孔一
【審判官】 大橋 賢一
【審判官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−316569(JP,A)
【文献】 特開昭63−103041(JP,A)
【文献】 特開平7−258775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/10
C22F 1/00-3/02
H01B 1/02
H01L 23/50
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.15〜0.7質量%のクロムと、
0.005〜0.3質量%の銀と、
0.01〜0.15質量%のチタンと、
0.01〜0.10質量%のケイ素と、
0.2質量%以下の鉄と、
0.5質量%以下の錫と、
残部の銅および不可避不純物と
からなる、
少なくとも75%IACSの導電率、少なくとも483MPaの降伏強度ならびに銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成を有する合金と比較した時に、温度150℃および200℃における改善された耐応力緩和性を有することを特徴とする、銅合金。
【請求項2】
0.25〜0.6質量%のクロムと、
0.015〜0.2質量%の銀と、
0.01〜0.08質量%のチタンと、
0.01〜0.10質量%のケイ素と、
0.1質量%未満の鉄と、
0.25質量%までの錫と、
残部の銅および不可避不純物とからなることを特徴とする、請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
最大限0.065質量%のチタンを有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
最小限0.05質量%のチタンを有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の銅合金。
【請求項5】
0.3〜0.55質量%のクロムと、
0.08〜0.13質量%の銀と、
0.02〜0.065質量%のチタンと、
0.02〜0.05質量%のケイ素と、
0.03〜0.09質量%の鉄と、
0.05質量%未満の錫と、
残部の銅および不可避不純物とからなることを特徴とする、請求項2に記載の銅合金。
【請求項6】
鉄とチタンの質量比Fe:Tiが0.7:1〜2.5:1であることを特徴とする、請求項1、請求項2または請求項5に記載の銅合金。
【請求項7】
質量比Fe:Tiが0.9:1〜1.7:1であることを特徴とする、請求項6に記載の銅合金。
【請求項8】
電気コネクタに成形されたことを特徴とする、請求項1、請求項2または請求項5に記載の銅合金。
【請求項9】
リードフレームに成形されたことを特徴とする、請求項1、請求項2または請求項5に記載の銅合金。
【請求項10】
少なくとも75%IACSの導電率、銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成を有する合金と比較した時に、温度150℃および200℃における改善された耐応力緩和性および等方向曲げ特性を有する銅合金を形成する方法であって、
0.15〜0.7質量%のクロムと、0.005〜0.3質量%の銀と、0.01〜0.15質量%のチタンと、0.01〜0.10質量%のケイ素と、0.2質量%までの鉄と、0.5質量%までの錫と、残部としての銅および不可避不純物からなる銅合金を鋳造する鋳造段階と、
前記鋳造した銅合金を750〜1030℃の温度で熱間加工する熱間加工段階と、
前記熱間加工した銅合金を厚さが40〜99%減少するまで冷間加工する冷間加工段階と、
前記冷間加工した銅合金に、第1時効焼鈍で350〜550℃の温度で1〜10時間焼鈍を施す段階と
で特徴づけられる方法。
【請求項11】
前記熱間加工段階における熱間加工が、ストリップを形成するための750〜1030℃の温度での熱間圧延加工であり、850〜1030℃の温度で10秒〜15分間の溶体化焼鈍およびその後の850℃を超える温度から500℃未満の温度までの急冷が、前記熱間加工段階と前記冷間加工段階の間で実行されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記熱間圧延加工が900〜1020℃の温度で行なわれ、その後に水冷することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶体化焼鈍が、900〜1000℃の温度での、15秒〜10分間のストリップ焼鈍であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第1時効焼鈍の後の第2時効焼鈍を含み、該第2時効焼鈍の条件が、温度300〜450℃、1〜20時間であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2時効焼鈍の後に、向上した耐応力緩和性を有する電気コネクタを成形する段階を含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1時効焼鈍の後の、冷間圧延段階および応力除去焼鈍段階を含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第1時効焼鈍の後の前記冷間圧延段階が厚さを10〜50%減少させるために実行され、前記応力除去焼鈍段階の条件が温度200〜500℃、10秒〜10時間であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2時効焼鈍の後の、冷間圧延段階および応力除去焼鈍段階を含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記第2時効焼鈍の後の前記冷間圧延段階が厚さを10〜50%減少させるために実行され、前記応力除去焼鈍段階の条件が温度200〜500℃、10秒〜10時間であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記応力除去焼鈍段階の後の、前記銅合金から電気コネクタを成形する段階を含むことを特徴とする、請求項17または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも75%IACSの導電性、銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成を有する合金と比較した時に、温度150℃および200℃における改善された耐応力緩和性および等方向曲げ特性を有する銅合金を形成する方法であって、
0.15〜0.7質量%のクロムと、0.005〜0.3質量%の銀と、0.01〜0.15質量%のチタンと、0.01〜0.10質量%のケイ素と、0.2質量%以下の鉄と、0.5質量%以下の錫と、残部としての銅および不可避不純物とを含む銅合金を、銅合金が10.2〜25.4mmの厚さを有するストリップとして鋳造される連続プロセスにより鋳造する鋳造段階と、
前記ストリップを公称厚さ1.14mmの水準に冷間圧延する冷間圧延段階と、
前記ストリップを850〜1030℃の温度で10秒〜15分間溶体化焼鈍する段階と、
該溶体化焼鈍を施されたストリップを850℃を超える温度から500℃未満の温度まで急冷する段階と、
前記銅合金を厚さが40〜80%減少するまで冷間加工する冷間加工段階と、
前記銅合金を、350〜550℃の温度で1〜10時間の焼鈍を施す第1時効焼鈍とで特徴づけられる、方法。
【請求項22】
前記鋳造段階で、熱間圧延およびその後の冷間加工を生じさせる冷間圧延によりストリップに変形されるべき長方形インゴットが形成されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記冷間加工を生じさせる冷間圧延で、前記ストリップの厚さが25〜90%減少することを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記冷間加工を生じさせる冷間圧延の後の応力除去焼鈍段階を含み、前記応力焼鈍段階が200〜500℃の温度で10秒〜10時間行なわれることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記応力除去焼鈍段階の後に、改善された強度と導電率を有する電気コネクタを成形する段階を含むことを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記熱間加工段階における熱間加工が、ストリップを形成するための750〜1030℃の温度での熱間圧延であり、850〜1030℃の温度で10秒〜15分の溶体化焼鈍およびその後の850℃を超える温度から500℃未満の温度までの急冷が、前記熱間圧延と前記冷間加工段階における冷間加工の間で行なわれることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項27】
前記第1時効焼鈍が400〜500℃の温度で実行され、第2時効焼鈍が350〜420℃の温度で行なわれることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1時効焼鈍の後の冷間圧延段階および応力除去焼鈍段階を含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記第1時効焼鈍の後の前記冷間圧延段階が厚さを10〜50%減少させる段階であり、前記応力除去焼鈍段階が温度200〜500℃で10秒〜10時間実行されることを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を含む銅合金に係わり、具体的に言えば、クロム、チタンおよびケイ素を更に含む銅合金に制御された量の銀を混入させると、降伏強さにも導電率にも有害な作用を与えることなく、耐応力緩和性および等方向曲げ特性が改善される。
【背景技術】
【0002】
銅合金は、その高導電性および/または高熱伝導性を利用する多くの製品に成形される。そのような製品の一部リストには、電気コネクタ、リードフレーム、ワイヤ、チューブ、フォイルおよび製品中に圧縮し得る粉末が含まれる。1つのタイプの電気コネクタは、コネクタを形成するために銅合金ストリップから予決定された形状を型抜きし、次いで型抜きした部分を曲げて成形したボックス状構造である。電気コネクタは高強度および高導電性を有する必要がある。さらに、電気コネクタは、一般に耐応力緩和性と称される、時間および温度暴露の関数として垂直力での最小減少量を有していなければならない。
【0003】
電気コネクタに関する重要な特性には、降伏強さ、曲げ成形性、耐応力緩和性、弾性率、極限引張強さおよび導電性が含まれる。
【0004】
これらの特性の目標値およびこれらの特性の相対的重要性は、当該銅合金から製造される製品の目的用途に依存する。特性に関する以下の説明は多くの目的用途に当てはまるが、目標値は、ボンネット付き自動車(the hood automotive)用に特にあてはまる。
【0005】
降伏強さは、ある材料が、応力とひずみの比例関係からの特定の偏差、通常0.2%のオフセットを示す応力である。これは、弾性変形に関して塑性変形が支配的になる応力を示している。コネクタとして利用される銅合金は、80ksi、すなわち約550MPaの程度の降伏強さを有するのが望ましい。
【0006】
応力緩和は、使用中の金属ストリップに外部応力を加えたとき、例えば、金属ストリップを曲げてコネクタにした後で装入するときに明らかになる。金属は、等しくかつ対向する内部応力を発生させて反応する。金属をひずみ位置に保持すると、内部応力は時間および温度の関数として減少するであろう。この現象は、金属中の弾性ひずみが微塑性流動によって塑性または永久ひずみに転換されるために起こる。
【0007】
銅を基材とする電気コネクタは、長時間良好に電気接続させるためには、はめ合い部材上で閾値(しきい値)を超える接触力を維持しなければならない。応力緩和により、接触力が閾値以下に減少すると回路が開放されてしまう。コネクタ用途用の銅合金の目標は、150℃の温度に1000時間暴露したときに初期応力の少なくとも90%を維持し、かつ、200℃の温度に1000時間暴露したときに初期応力の85%を維持することである。
【0008】
ヤング率としても知られている弾性率は、金属の剛性または硬度の測度であり、弾性領域における「応力」対「対応するひずみ」比である。弾性率は材料硬度の測度であるから、150GPaの程度の高率が望ましい。
【0009】
曲げ性によって、破壊無しに曲げ外径に沿って金属ストリップに曲げを成形することがいかに難しいかを確認する最小曲げ半径(MBR)が決まる。MBRは、種々の角度の曲げによって異なる形状を成形するコネクタに関して重要な特性である。
【0010】
曲げ成形性は、MBR/t(ここで、tは金属ストリップの厚さ)で表し得る。MBR/tは、破損無しにその周りに金属ストリップを曲げることができるマンドレルの最小曲率半径の比である。「マンドレル」試験は、Standard Test Method for Semi−Guided Bend Test for Ductility of Metaliic Materialsと題する米国材料試験協会〔ASTM(American Society for Testing and Materials)〕呼称E290−92に明記されている。
【0011】
MBR/tは、曲げ軸線が金属ストリップの圧延方向に垂直である「長手方向」においても、曲げ軸線が金属ストリップの圧延方向に平行である「直角方向」においても類似の値である、実質的に等方性であるのが望ましい。MBR/tは、90°の曲げに対しては約0.5以下、180°の曲げに対して約1以下であるのが望ましい。
【0012】
あるいは、90°の曲げに対する曲げ成形性は、V型凹みを有するブロックと、所望の半径を有する加工表面を備えたパンチとを利用して評価し得る。「Vブロック」法では、試験すべきテンパー即ち調質度(temper)の銅合金ストリップをブロックとパンチの間に配置し、パンチを凹みに打ち込むと、ストリップに所望の曲げが成形される。
【0013】
Vブロック法に関連するのは、円筒形加工表面を備えたパンチを用いて銅合金ストリップに180°曲げを成形する180°「成形パンチ」(form punch)法である。
【0014】
Vブロック法も成形パンチ法も、Standard Test Method for Bend Test for Formability of Copper Alloy Spring Materialと題するASTM呼称B820−98に明記されている。
【0015】
所与の金属サンプルに対し、どちらの方法でも定量可能な曲げ性結果が得られ、したがって、相対曲げ性の決定にはいずれの方法を利用してもよい。
極限引張強さは、最大荷重:ストリップ断面積比として表される引張試験においてストリップが破断するまで耐える最大荷重率である。極限引張強さは約85〜90ksi、すなわち約585〜620MPaであるのが望ましい。
【0016】
導電率は、%IACS(International Annealed Copper Standard)で表され、合金でない銅は、20℃で100%IACSの導電率を有するとみなされている。高性能電気コネクタ用の銅合金は、少なくとも75%IACSの導電率を有しているのが望ましい。導電率が80%IACS以上であればなお好ましい。
【0017】
所望の特性に近い銅合金の1種は、ニューヨーク州ニューヨーク所在の銅開発協会〔Copper Development Associatio(CDA)〕により、C18600と称されている。C18600は、鉄を含む銅−クロム−ジルコニウム合金であり、米国特許第5,370,840号に開示されている。C18600は、0.3重量%のクロムと、0.2重量%のジルコニウムと、0.5重量%の鉄と、0.2重量%のチタンと、残部の銅および不可避不純物とからなる公称組成を有する。
【0018】
本特許明細書では、特に断りのない限り、すべての百分率は重量パーセントを表わす。
【0019】
銅合金の機械的性質および電気的性質は加工に大きく依存する。C18600に時効焼鈍、33%冷間圧延および応力除去焼鈍をかけると、この銅合金は、公称特性として:73%IACSの導電率;620MPa(90ksi)の降伏強さ;マンドレル法(「ローラー曲げ」法)を利用する長手方向では1.2および直角方向では3.5の90°MBR/t;ならびに1000時間200℃に暴露したときに20%応力減少を達成する。
【0020】
米国特許第4,678,637号は、クロム、チタンおよびケイ素の添加を含む銅合金を開示している。CDAによりC18070と称されるこの合金は、0.28%のクロムと、0.06%のチタンと、0.04%のケイ素と、残部の銅および不可避不純物とからなる公称組成を有する。1回または2回の中間ベル焼鈍(bell anneal)を挟んだ、熱間圧延、急冷および冷間圧延により加工すると、この合金は、公称特性:86%IACSの導電率;72ksi(496MPa)の降伏強さ;長手方向では1.6t、直角方向では2.6tの90%MBR;ならびに1000時間200℃に暴露したときに32%の応力減少を達成する。
【0021】
DE 19600864 C2は、0.1〜0.5%のクロムと、0.01〜0.25%のチタンと、0.01〜0.1%のケイ素と、0.02〜0.8%のマグネシウムとを含み、残部が銅および不可避不純物である合金を開示している。マグネシウムを添加すると、この合金の耐応力緩和性が改善されると開示されている。
【0022】
FinlayによるSilver−Bearing Copper,1968に開示されているように、1トン当たり25トロイオンス(0.085重量%)までの程度で銀を微量添加すると、冷間加工した銅は約400℃までの温度下にその強度を維持し得る。銀を含む銅合金の1種は、CDAにより銅合金C15500と称されている。C15500は、0.027〜0.10%の銀と、0.04〜0.08%のリンと、0.08〜0.13%のマグネシウムとを含み、残部は銅および不可避不純物である。この合金は、ASM Handbookに、焼きなまされた状態で90%IACSの導電率と、スプリング調質度(spring temper)では72ksi(496MPa)の降伏強さを有すると報告されている。曲げ成形性および耐応力緩和性は報告されていない。
【0023】
上述の銅合金はコネクタに関する所望特性の一部を達成しているが、目標要件にもっと近い改良型銅合金が未だ必要とされており、さらに、顧客側からの多様な所望特性を1つの性能指標に統合する全体論的システムを利用した銅合金の特性決定が未だに必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、電気コネクタ用途に特に適した銅基合金を提供することが本発明の目的である。この銅基合金が、クロム、チタンおよび銀を含んでいることが本発明の特徴である。本発明の別の特徴は、結晶粒の微細化を促進しかつ強度を高めるために鉄および錫を添加し得ることである。本発明のさらに別の特徴は、固溶化焼鈍段階、急冷段階、冷間圧延段階および時効段階を含めた合金加工により、所望の電気的性質および機械的性質を最大限にすることである。本発明のさらなる特徴は、特定のコネクタ用途に対する顧客由来の順位付けにより評価された要素を通した多様な合金特性を統合するために合金特性に対する全体論的アプローチを利用することである。
【0025】
本発明の合金を、自動車およびマルチメディア用途に適した電気コネクタに成形するのに特に有用にする80ksi(=550MPa)を超える降伏強さと80%IACSを超える導電率とを有するように処理し得ることは本発明の利点である。本発明の合金の有利な特性には、200℃までの高温下での高い耐応力緩和性が含まれる。さらなる利点は、本発明の合金から成形された金属ストリップが、このストリップをボックス型コネクタに成形するのに特に有用にする実質的に等方性の曲げ成形性と優れた型抜き性とを有することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、以下の銅合金が提供される。
改善された組合せの降伏強度、導電性および応力緩和性を有する銅合金であって、
0.15〜0.7質量%のクロムと、
0.005〜0.3質量%の銀と、
0.01〜0.15質量%のチタンと、
0.01〜0.10質量%のケイ素と、
0.2質量%以下の鉄と、
0.5質量%以下の錫と、
残部の銅および不可避不純物とから成り、
少なくとも75%IACSの導電率と、少なくとも550MPaの降伏強度と、銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成を有する合金と比較した時に、温度150℃および200℃における改善された耐応力緩和性を有する銅合金。
また、本発明によれば、以下の銅合金の形成方法が提供される。
(A)改善された導電率、改善された耐応力緩和性および等方向曲げ特性を有する銅合金を形成する方法であって、
0.15〜0.7質量%のクロムと、0.005〜0.3質量%の銀と、0.01〜0.15質量%のチタンと、0.01〜0.10質量%のケイ素と、0.2質量%までの鉄と、0.5質量%までの錫と、残部としての銅および不可避不純物を含む銅合金を鋳造する鋳造段階と、
前記銅合金を700〜1030℃の温度で熱間加工する熱間加工段階と、
前記銅合金を厚さが40〜99%減少するまで冷間加工する冷間加工段階と、
前記銅合金に、350〜900℃の温度で1分〜10時間の焼鈍を施す第1時効焼鈍段階とで特徴づけられる方法。
(B)改善された導電性、耐応力緩和性および等方向曲げ特性を有する銅合金を形成する方法であって、
0.15〜0.7質量%のクロムと、0.005〜0.3質量%の銀と、0.01〜0.15質量%のチタンと、0.01〜0.10質量%のケイ素と、0.2質量%以下の鉄と、0.5質量%以下の錫と、残部としての銅および不可避不純物とを含む銅合金を、銅合金が10.2〜25.4mmの厚さを有するストリップとして鋳造される連続プロセスにより鋳造する鋳造段階と、
前記ストリップを公称厚さ1.14mmの水準に冷間圧延する冷間圧延段階と、
前記ストリップを850〜1030℃の温度で10秒〜15分間溶体化焼鈍する段階と、
該溶体化焼鈍を施されたストリップを850℃を超える温度から500℃未満の温度まで急冷する段階と、
前記銅合金を厚さが40〜80%減少するまで冷間加工する冷間加工段階と、
前記銅合金を、350〜900℃の温度で1分〜10時間の焼鈍を施す第1時効焼鈍段階とで特徴づけられる方法。
【0027】
本発明の銅合金は、850〜1030℃の温度で5秒〜10分間のストリップ焼鈍プロセスにより溶体化焼鈍即ち固溶化焼鈍されるストリップに成形される。好ましいストリップ焼鈍時間は10秒〜5分である。次いで、ストリップを長くても10秒間で少なくとも850℃の温度から500℃未満の温度まで急冷する。次いで、急冷したストリップを厚さが40〜99%減少するまで冷間圧延し、次いで、350〜550℃の温度で1〜10時間焼鈍する。
【0028】
上述の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面からさらに明らかになるであろう。
【0029】
本発明の合金は、高い周囲温度および比較的高い電流を発生するIR加熱に曝されるボンネット付き自動車用に特に適している。さらに、本発明の合金は、使用温度が低く、通常、最大100℃の程度であり、比較的低電流の信号が搬送されるコンピュータまたは電話などのマルチメディア用として有用である。
【0030】
本発明の合金は、本質的に、
0.15〜0.7%のクロムと、
0.005〜0.3%の銀と、
0.01〜0.15%のチタンと、
0.01〜0.10%のケイ素と、
0.2%までの鉄と、
0.5%までの錫と、
残部の銅および不可避不純物からなる。
【0031】
より好ましい合金範囲は、
0.25〜0.60%のクロム、
0.015〜0.2%の銀、
0.01〜0.10%のチタン、
0.01〜0.10%のケイ素、
0.1%未満の鉄、
0.25%までの錫、並びに
残部の銅および不可避不純物である。
【0032】
最も好ましい合金組成は、
0.3〜0.55%のクロムと、
0.08〜0.13%の銀と、
0.02〜0.065%のチタンと、
0.02〜0.08%のケイ素と、
0.03〜0.09%の鉄と、
0.05%未満の錫と、
残部の銅および不可避不純物である。
【0033】
高強度が特に高い相対的重要性を有する場合、チタン含有量は0.05%以上でなければならない。高導電率が特に高い相対的重要性を有する場合、チタン含有量は0.065%以下でなければならない。
【0034】
クロム − クロム粒子は時効焼鈍時に析出し、それによって時効硬化と同時に導電率の増大をもたらす。また、クロム析出物は、結晶粒境界の第2相ピン止めによって結晶粒の成長を遅らせて合金ミクロ構造を安定化すると考えられる。これらの有益な結果を達成するためには、最低0.15重量%のクロムが必要である。
【0035】
クロム含有量が0.7%を超えると、銅合金中のクロムの最大固溶度限界に近づき、粗粒第2相析出物が生成する。粗粒析出物は、銅合金の強度をそれ以上増大させることなく、銅合金の表面品質にもめっき特性にも有害な作用を及ぼす。さらに、過剰なクロムは再結晶に有害な強い影響を与えると考えられる。
【0036】
銀 − 銀は、等方向曲げ特性を増進し、それによって合金の電気コネクタ用途に対する実用性を向上させる。さらに、銀は、特にクロム含有量が指定範囲内の最低値、0.3%以下である場合には、強度を増大させる。合金が時効状態にあるとき、銀を添加すると、耐高温応力緩和性が増進する。
【0037】
銀含有量が0.005%未満だと、有益な効果は完全には実現されない。銀含有量が0.3%を超えると、銀の存在によるコストの増大が銀を含有することの利点を上回る。
【0038】
チタン − チタンは、耐応力緩和性を強化し、かつ合金強度を増大させる。チタンが0.01%以下だと、これらの有利な効果は達成されない。過剰なチタンは合金の導電率に有害な作用を及ぼすが、これは、恐らく他のいずれの合金成分の場合よりもその度合いが高い。少なくとも80%IACSの導電率を達成するためには、チタン含有量を0.065%以下に維持しなければならない。高強度を達成するためには、チタン含有量を0.05%以上に維持する必要がある。
【0039】
ケイ素 − ケイ素は耐応力緩和性および合金強度を高める。ケイ素含有量が0.01%未満だと、その有益な効果は達成されない。ケイ素含有量が0.1%を超えると、導電率の低下が耐応力緩和性の利得を上回る。
【0040】
− 鉄は、合金の強度を増大させると共に、鋳造されたままの状態においても加工されたままの状態においても、結晶粒の微細化を促進する任意添加材である。結晶粒の微細化により曲げ成形性が向上する。しかし、過剰な鉄は導電率を過度に低下させる。80%IACSの導電率が望ましい判断であり、したがって、鉄は、最も好ましい合金組成にしたがって0.1%以下に制限すべきである。
【0041】
鉄とチタンが存在する場合、その重量比は、好ましくは0.7:1〜2.5:1、より好ましくは0.9:1〜1.7:1、最も好ましくは約1.3:1である。いくつかの実施態様では、鉄と錫の重量比は、好ましくは0.9:1〜1.1:1、より好ましくは約1:1である。
【0042】
− 錫は、合金強度を増大させる任意添加物であるが、過剰量で存在すると、導電率を低下させると共に、応力緩和を促進するようである。したがって、合金中で、錫は、0.5重量%未満で存在すべきであり、80%IACSの導電率が要求される場合には、合金中の錫は0.05%未満で存在するのが好ましい。
【0043】
他の添加材 − 曲げ成形性、耐応力緩和性または導電性などの所望特性を有意に低下させることなく所望特性を強化するために、本発明の合金中に他の成分が存在してもよい。これら他の成分の合計含有量は、殆どの場合、1%未満、好ましくは0.5%未満である。この一般原理に対する例外を以下に述べる。
【0044】
鉄の代わりにコバルトを1:1重量で添加し得る。
【0045】
はんだ付け適性およびはんだ接着性を増強するためにマグネシウムを添加し得る。マグネシウムは、加工時の合金表面の清浄化を促進させる上で有効である。好ましいマグネシウム含有量は、約0.05〜約0.2%である。また、マグネシウムは、合金の応力緩和特性を改善し得る。
【0046】
硫黄、セレン、テルル、鉛またはビスマスを添加して、導電率を有意に低下させることなく機械加工性を強化することができる。これらの機械加工性強化添加材は、合金中で1つの分離相を形成し、したがって、導電率を低下させない。好ましい含有量は、鉛が3%まで、硫黄が約0.2〜約0.5%、テルルが約0.4〜0.7%である。
【0047】
脱酸素材は、約0.001〜約0.1%の好ましい量で添加し得る。適当な脱酸素材には、ホウ素、リチウム、ベリリウム、カルシウムおよび個々またはミッシュメタルとしての希土類金属が含まれる。ホウ化物を形成するホウ素は、これも合金強度を増大させるので有益である。上記マグネシウムも脱酸素剤として有効である。
【0048】
強度は増大させるが導電率を低下させるアルミニウムやニッケルを含めた添加材は、0.1%未満の量で存在しなければならない。
【0049】
ジルコニウムは、ケイ素と結合して、ケイ酸ジルコニウムという粗粒を形成する傾向を有する。したがって、合金は、本質的にジルコニウムを含まない、ほんの不純物量にすぎないジルコニウムであるのが好ましい。
【0050】
本発明の合金の加工は、完成ゲージ合金即ち完成時の寸法の合金の特性に有意な影響を与える。図1は、当該銅合金に関して望まれる降伏強さ、曲げ成形性、耐応力緩和性、弾性率、極限引張強さおよび導電率を達成する連続加工段階をブロック図で示している。これらの加工段階は、いずれのクロム含有銅合金にも有益であると考えられる。
【0051】
先ず、任意の適当な方法で合金を鋳造する10。例えば、陰極銅をるつぼまたは木炭カバーの付いた溶融炉中約1200℃の温度で溶融し得る。次いで、所望組成物の鋳造に適した親合金形態の溶融体に、クロムと、所望なら、チタン、ケイ素、銀および鉄などの他の合金成分を添加する。鋳造は、ストリップ鋳造またはベルト鋳造などの連続プロセスを経由してよく、これらの連続プロセスにおいて、鋳造により、ストリップまたはベルトは固溶化焼鈍14の前の冷間圧延12に適した厚さになる。この鋳造厚さは、約10.2〜25.4mm(0.4〜1インチ)であるのが好ましく、次いで、ストリップまたはベルトは、約1.14mm(0.045インチ)の公称厚さに冷間圧延される。
【0052】
あるいは、本発明の合金は、細長いインゴットとして鋳造し10′、熱間圧延16によりストリップに押しつぶし得る。通常、熱間圧延は、750〜1030℃の温度であり、インゴットの厚さを溶体化焼鈍即ち固溶化焼鈍の厚さよりいくらか大きい厚さまで薄くするのに用いられる。熱間圧延は数回通過させてよく、一般に、固溶化焼鈍に望ましい厚さより大きい厚さを有するストリップに成形するのに用いられる。
【0053】
加工は、熱間および冷間圧延によって加工する銅合金ストリップに関して説明されているが、本発明の銅合金は、ロッド、ワイヤまたはチューブに成形することもでき、その場合、加工は、引抜きまたは押出の形態でよい。
【0054】
熱間圧延16の後、ストリップを水冷し、次いで、酸化物被覆を除去するためにばり取りおよびフライス削りを行う。次いで、ストリップを冷間圧延し12、固溶化焼鈍14された寸法とする。冷間圧延12は、1回通すだけでもよいし、必要なら中間焼鈍を挟んで数回通してもよい。約400〜550℃の温度で約4〜8時間の中間焼鈍により、このプロセスの最後に、10ミクロンの程度の微結晶粒および均質構造を有する高強度合金ができる。この中間焼鈍温度が完全均質化に近いと、このプロセス後の合金は、低強度および粗結晶粒薄層(stringer)を有する。中間焼鈍を省くと、処理後に、結晶粒度が25〜30ミクロンの範囲の合金ができる。再結晶粒構造を強化するために、冷間圧延段階がストリップに25〜90%の厚さ減少などのある程度の冷間加工を与えるのが好ましい。
【0055】
合金は、結晶粒を過剰成長させずに完全な再結晶を達成するのに有効な時間および温度で固溶化焼鈍14をする。最大結晶粒度は20ミクロン以下に維持するのが好ましい。最大結晶粒度が15ミクロン以下であればなお好ましい。さらに、焼鈍の時間および温度は、ミクロ構造の均質性を達成するのに有効なように選択する必要がある。したがって、焼鈍時間が短かすぎたりまたは焼鈍温度が低すぎたりすると、ストリップのある部分と他の部分とに、非等方向曲げ特性を引き起こす硬度およびミクロ構造の偏差が生じる。過剰な焼鈍時間または温度は、結晶粒過剰成長および曲げ成形性不良を引き起こす。固溶化焼鈍14は、範囲は広範であるが、850〜1030℃で10秒〜15分間のストリップ焼鈍でなければならない。固溶化焼鈍14は、より好ましくは900〜1000℃の温度で約15秒〜10分、最も好ましくは930〜980℃の温度で20秒〜5分である。
【0056】
図3は、0.40%のクロムを有する銅合金の再結晶および結晶粒成長に与える固溶化焼鈍(SA)の時間および温度の効果をグラフで示している。記載されている10〜15μmなどの値は結晶粒度である。950℃の温度では、約17〜約35秒の焼鈍時間で、過剰な結晶粒成長のない再結晶が達成される。17秒未満では、再結晶が限定される。35秒を超えると、合金は完全に再結晶するが、20〜25ミクロンの結晶粒度が生じ、焼鈍時間が約40秒を超えると、結晶粒が急速成長して、30〜100ミクロンの範囲の結晶粒が得られる。
【0057】
図4は、合金が0.54%のクロムを含有する場合の温度に対する固溶化焼鈍温度の効果をグラフで示しており、クロム含有量を増やすと焼鈍の時間および温度の許容範囲がどのように拡大するかを示している。この場合、10〜15ミクロンの結晶粒度での再結晶は、950℃で約7〜約45秒の時間で達成可能である。しかし、結晶粒度は極めて良好に制御されるが、溶解していないクロム粒子が合金特性を大きく劣化させる。
【0058】
再び図1を参照すると、固溶化焼鈍14を行った合金を今度は急冷してミクロ構造の均質性を保持する。急冷により、20秒以下で、最低850℃、好ましくは900℃を超える固溶化焼鈍温度から500℃以下まで合金温度を下げなければならない。急冷温度が10秒以下で900℃から500℃未満までであればなお好ましい。
【0059】
再結晶に有効な多重固溶化焼鈍(multiple solutionalization anneals)14を利用し得る場合、再結晶に有効な固溶化焼鈍が1回存在するのが好ましい。
【0060】
急冷18の後、ストリップまたはシートを得るために合金を冷間圧延20して、その厚さを40〜80%まで減少させる。箔の場合、厚さを、90%を超えるかまたは好ましくは99%まで冷間圧延減少させるのが好ましい。ストリップまたはシートの冷間圧延による厚さの減少は50〜70%であり、圧延機に1回以上通して重度に冷間加工されたストリップを生産するのが好ましい。
【0061】
次いで、合金を時効熱処理22する。時効熱処理22は、1段階であってもよいし、または好ましくは2段階である。段階的時効により、より高い強度および導電率が得られることが判明したが、段階的時効によって曲げ成形性も改善され得ると考えられる。第1段時効、および1段階で実施される場合には単一時効段階は、約350〜約550℃の温度で1〜10時間である。この第1段時効22は400〜500℃の温度で1〜3時間が好ましい。
【0062】
時効焼鈍を多段階で行う場合、第2段焼鈍24は、約300〜約450℃の温度で1〜12時間であり、それによって、強度を低下させることなく導電率が増大する。第2段時効24は約350〜約420℃の温度で5〜7時間である。
【0063】
合金は、高い耐応力緩和性が要求される場合(例えば、自動車用では)、時効焼鈍状態で用いることができる。時効焼鈍後に、合金は約68ksi(470MPa)の降伏強さおよび約80%IACSの導電率を有している。さらに高い強度が要求される場合、時効焼鈍段階22または24の後に追加の加工段階を実施し得る。
【0064】
時効焼鈍した合金ストリップを冷間圧延26して、通常、0.25〜0.35mmの程度の最終ゲージ厚さにするが、将来のコネクタの目標は、0.15mm(0.006インチ)以下の程度の厚さを有することである。約0.15mm(0.006インチ)以下の薄いストリップ材料も、銅合金箔製品として有用である。一般に、冷間圧延26は、圧延機に1回以上通して厚さを10〜50%減少させる。
【0065】
冷間圧延26の後、200〜500℃の温度で10秒〜10時間の応力除去焼鈍28が存在する。応力除去焼鈍28は、250〜350℃の温度で1〜3時間が好ましい。
【0066】
図2は、ワイヤおよびロッドの製造に特に適した工程の流れをブロック図で示している。本発明の銅合金を任意の適当な方法で鋳造30し、押出32して、所望の断面形状、好ましく形断面形状が円形であるロッドを作る。熱間押出は、700〜1030℃の温度、好ましくは930〜1020℃の温度下である。
【0067】
押し出したロッドを急冷34し、次いで、冷間引抜き(または冷間押出)36して直径を98%まで減少させる。次いで、引き抜いたロッドを350〜900℃の温度で1分〜6時間焼鈍38する。冷間引抜き36および焼鈍38の順序を1回以上繰返し、次いで、冷間引抜き(または冷間押出)40して最終ゲージ即ち最終寸法にする。
【0068】
降伏強さ、耐応力緩和性および導電率などの個々の特性はそれぞれ電気コネクタとして使用するのに適した銅合金の特性決定に重要であるが、多重関連特性を統合する全体論的値はさらに有用である。この全体論的アプローチは品質機能展開(Quality Function Deployment略してQFD)を利用し得る。QFDは、顧客を満足させることを目的とする設計品質を開発し、次いで、顧客の要求を生産期全体に用いられる設計目標にする方法である。顧客を調査して、顧客の用途に最も重要な特性を確認し、それらの特性それぞれの相対的重要性を順位付けする。顧客も、それぞれの所望特性について、範囲許容し得る最低の値である「失望」から、「望ましい」、「過大」までの範囲の値を確認する。QFDは、Edwin B.Deanによる2つの論文、Quality Function Deployment from the Perspective of Competitive Advantage,1994およびComprehensive QFD from the Perspective of Competitive Advantage,1995にさらに詳細に記載されている。どちらの論文もhttp://mijuno.larc.nasa.gov/dfc/qfd/cqfd.htmlでダウンロード可能である。
【0069】
表1は、自動車用を意図とする銅合金の特性、等級および範囲のリストを列挙しており、表2は、マルチメディア用途において使用するための銅合金の同様な特性、等級および範囲を列挙している。「等級」は、からまでのスケールであり、は特性値が最高値であることを意味し、は特性値が最低値であることを意味している。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
本発明の銅合金は、自動車用、工業用、およびマルチメディア用としても、50(望ましい)を超えるQFD値を達成することができ、これは、顧客が、本発明の銅合金をいずれの用途でも許容し得るものと確認したことを示している。
【0073】
電気コネクタに成形した銅合金ストリップに関して上述したが、本発明の合金および加工は、リードフレームに成形するのにも適している。リードフレームは、外リードをプリント回路基板中に挿入するために90°の角度に曲げるので、良好な曲げ特性を必要とする。微細結晶粒構造でありかつ粗粒が不在であることは、本発明の合金をリードフレームの成形に用いられるプロセスである均一化学エッチングに利用し易くする。
【0074】
ストリップに成形される銅合金に関して上述したが、本発明の合金および加工は、ロッド、ワイヤおよび電気製品部品の成形にも適している。前以て必要な高硬度は、合金の140GPaあたりの高ヤング率によってもたらされる。高導電率および高強度は、曲げ性を犠牲にして、中間圧延または引抜きで98%まで伸ばし、350〜900℃の温度で1分〜6時間の1回以上の中間焼鈍を加えることにより達成し得る。
【0075】
本発明の銅合金の利点は以下の実施例からより明らかになるであろう。
【実施例】
【0076】
実施例1
0.55%のクロムと、0.10%の銀と、0.09%の鉄と、0.06%のチタンと、0.03%のケイ素と、0.03%の錫と、残部の銅および不可避不純物とからなる公称組成を有する銅合金を溶融し、鋳造してインゴットを造った。インゴットを機械加工し、980℃で熱間圧延し、急冷して、厚さ1.1mmのストリップに加工した。ストリップを長さ約300mmの断片に切断し、950℃で20秒間溶融塩浴中に浸漬し、次いで、室温(公称20℃)まで水冷した。切断されたストリップの表面をフライス削りして表面の酸化物を除去し、ついで、冷間圧延して0.45mmの中間ゲージ即ち中間厚さとし、470℃で1時間、次いで390℃で6時間熱処理した。その後、ストリップ材料を圧延して、0.3mmの最終ゲージ即ち最終厚さとし、280℃で2時間の応力除去焼鈍にかけた。
【0077】
最終製品は以下の特性を示した:
降伏強さ=84ksi(580MPa);
弾性率=145GPa;
90°曲げ半径0×t(Vブロック法、顕微鏡写真で調べても亀裂は見られなかった);
180°曲げ半径0.8×t(成形パンチ法、顕微鏡写真で調べても亀裂は見られなかった)
応力緩和 −
100℃に1000時間暴露後に6%の応力減少、
150℃に1000時間暴露後に13%の応力減少、
200℃に1000時間暴露後に22%の応力減少;
極限引張強さ 86ksi(593MPa);および
導電率 79%IACS。
この合金は、54という自動車用および工業用として適するQFD等級を有していた(表12参照、マルチメディア用途については表11参照)。
【0078】
実施例2
表3に示されている組成を有する7種の銅合金を溶融し、4.5Kg(10ポンド)のインゴットとして鋼押型に鋳造した。型から抜き出した後、インゴットは10mm×102mm×44.5mm(4″×4″×1.75″)のサイズを有していた。鋳造インゴットを950℃で2時間均熱し、次いで、6回熱間圧延して厚さを1.27mm(0.50″)とし、水冷した。酸化物被覆を除去するためにばり取りおよびフライス削りした後、合金を冷間圧延して1.14mm(0.045″)の公称厚さとし、流動床炉中950℃で20秒間溶体化処理した後、水冷した。
【0079】
次いで、合金を連続的に数回通して冷間圧延し、厚さを60%減少させて0.46mm(0.018″)の厚さとし、次いで、470℃で1時間の第1静的焼鈍と、その後の390℃で6時間の2回目の静的焼鈍とからなる2重時効焼鈍にかけた。この熱処理により、合金が硬化すると同時に、そのミクロ構造を再結晶させることなく導電率が冷間圧延値を超えて増大した。次いで、合金を冷間圧延して厚さを33%減少させて0.30mm(0.012″)とし、280℃で2時間の応力除去焼鈍熱処理にかけた。表4に示されているように、本発明の合金によって、550MPa(すなわち、80ksi)の降伏強さと導電率80%IACSの商業用に好ましい公称組合せに近づいた。
【0080】
【表3】
【0081】

【表4】
【0082】
合金OおよびEは、合金J308およびJ310と本質的に同じ方法で加工したが、但し、熱間圧延は、1000℃で12時間の均質化焼鈍の後で開始し、固溶化熱処理は塩浴中900℃で90秒であり、その後水冷し、時効処理は500℃で1時間であった。引張特性および導電率は、時効されたままの状態で0.2mmゲージ即ち厚さ(プロセスA)および0.3mmゲージ即ち厚さ(プロセスB)で得られたが、これは、0.3%クロムレベルでの銀添加によりもたらされた強度の増大を示している(表5)。
【0083】
【表5】
【0084】
合金BTおよびBUは、合金OおよびEと本質的に同じ方法で加工したが、但し、時効処理は、第1段が470℃で1時間、第2段が390℃で6時間の2段階焼鈍からなっていた。引張強さおよび導電率特性は、時効されたままの状態で測定し、表6に示されているように、0.5%クロムレベルでの銀添加による応力緩和の減少(耐応力緩和性の増大)を示した。
【0085】
【表6】
【0086】
実施例3
表7Aおよび7Bは、本発明の組成物と加工とがどのように曲げの改善をもたらすかを示している。表7Aに示されているように、溶体化処理(SHT)で加工すると、本発明の合金J310は等方向曲げを有していたが、銀を含まない対照合金J306はいくらか非等方向曲げ特性を有していた。冷間圧延を挟んでベル焼鈍(BA)加工した場合、対照合金K005は、非等方向性および不良曲げ特性を有していた。表7Aの合金J306、J310およびK005の曲げ評価は、Vブロック法によるよりも少なくとも0.5高い曲げ値をもたらすことが判明しているマンドレル法にしたがった。
【0087】
合金K007およびK005の場合は、850〜1030℃で1〜24時間の均質化段階と、600〜1000℃の温度での熱間圧延段階と、その後の毎分50〜1000℃の冷却測度での急冷段階で加工した。これらの段階の後に、350〜500℃の温度で10時間までのベル焼鈍(慣用のBAプロセス)を1回または2回挟んで99%までの冷間圧延を行った。表7Bは、慣用BAプロセスにより、銀含有合金K007がより良好な曲げを有していたことを示している。表7Bに示されている合金の曲げ評価はVブロック法にしたがった。
【0088】
表7Bは、本発明の合金、K007およびK008の場合、両合金を慣用ベル焼鈍(BA)プロセスまたは溶体化処理(SHT)プロセスによって加工すると、市販合金K005に比べて良好な曲げが得られたことを示している。新規なプロセス(SHT)によって慣用BAプロセスに比べて良好な曲げ成形性および等方性値が得られる。
【0089】
【表7A】
【0090】
【表7B】
【0091】
測定した値の関数として等級を支持する計算値は、異なる合金またはテンパー即ち調質度による要件の達成が予測可能でなければならないことを示している。
【0092】
このためには、s字形数学的関数を用いることができる。達成等級は、失望限界においては低い、例えば、5%であろう。望ましい特性近くでは、達成等級は約50%に到達するであろうし、測定された特性の小さな変動に応じて急激な増大または減少が現れるであろう。過大限界では、要件は目標以上に達成される。この等級は95%に達するであろう。それ以上改善しても顧客の満足感はあまり高められない。特性の変動は等級をわずかに変化させるに過ぎないであろう。
本発明者らは、このためにスケールドアークタンジェント関数(w(f(x))を用いる。この関数は、目的の特性の最低値(Xmin)および最高値(Xmax)に設定される。ここで、等級w(f(x))は、それぞれ0%または100%に設定される。等級f(x)に関するこれらの値の間で、与えられた2つの点がs字形関数を形成する。
【0093】
f(x)=50+(100/B)・アークタンジェント(c1・(x+c2))
定数c1およびc2は、(x1,f(x1))および(x2,f(x2))によって設定された2つの等級から計算される。これらの設定は、適当な等級特性に関する決定によって行われる。
w(f(x))=w(f(xmin))+(w(f(xmax))−w(f(xmin))・(f(x)−f(xmin))/(f(xmax)−f(xmin))
(ここで、xは吟味中の特性の実際値であり、w(f(x))はこの特性の等級を与える)。
【0094】
全特性の全体論的等級は、目的とする各特性の等級に、その相対的重要性のQFDによって与えられる指定値をかけることにより達成される。これらの結果を合計し、すべての相対的重要性値の和で割る。
【0095】
これによって、性能の全体的等級が完全に過大な100%解に関して百分率で与えられる。理想的な解(焦点)は、約50%の結果を示すであろう。全体的等級は、合金および調質度を最も客観的な基準で比較するのに有用なツールである。マルチメディア用途に利用される値は表8に示され、自動車用途のものは表9に示されている。
【0096】
【表8】
【0097】
【表9】
【0098】
表10は、表2に示されているような公称所望特性を有する銅合金がQFD等級51を有していることを示している。表11は、実施例1の銅合金が、マルチメディア用としてはQFD値64を有していることを示しており、表12は、実施例1の銅合金が、自動車用および工業用としてQFD値54を有していることを示している。
【0099】
本発明により、上述のような目的、手段および利点を完全に満足する、電気コネクタ用途に特に適した高強度および高導電率を特徴とする銅合金が提供されたことは明らかである。本発明を特定の実施態様およびその実施例と組み合わせて説明したが、上記説明を考慮すれば、当業者には、多くの代替、改良および変更が自明であることは明らかである。したがって、そのような代替、改良および変更はすべて添付特許請求の範囲の精神および広範な範囲内に包含されるものとする。
【0100】
【表10】
【0101】
【表11】
【0102】
【表12】
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】本発明の銅合金からストリップを製造するための加工段階の流れ図。
図2】本発明の銅合金からワイヤまたはロッドを製造するための加工段階の流れ図。
図3】固溶化焼鈍温度および固溶化焼鈍時間の関数としての本発明の2種の関連合金の再結晶粒度を示すグラフ。
図4】固溶化焼鈍温度および固溶化焼鈍時間の関数としての本発明の2種の関連合金の再結晶粒度を示すグラフ。
図1
図2
図3
図4