特許第5848123号(P5848123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5848123
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】高分子化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/06 20060101AFI20160107BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20160107BHJP
【FI】
   C08F2/06
   C08F20/00 510
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-290090(P2011-290090)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-139502(P2013-139502A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100171022
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 玉乃
(72)【発明者】
【氏名】白坏 早苗
(72)【発明者】
【氏名】桑原 一夫
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−510099(JP,A)
【文献】 特開平06−211942(JP,A)
【文献】 特開昭63−280702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
C08F 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)〜工程(III)を有原料モノマーが、常圧における沸点が161℃以上の重合性二重結合を有するモノマーである高分子化合物の製造方法。
工程(I);ラジカル重合開始剤の存在下で、前記重合性二重結合を有するモノマーの全量を、転化率が50〜99%になるまで、該モノマー全量に対して0.5〜10質量倍の有機溶媒中で重合させて、重合反応溶液を得る工程
工程(II);工程(I)で得られた重合反応溶液から有機溶媒を留去して固形分濃度を70〜100%に調整する濃縮、及びラジカル重合開始剤の添加を行い、混合物を得る工程
工程(III);工程(II)で得られた混合物中に存在する前記重合性二重結合を有するモノマーを、工程(II)で添加したラジカル重合開始剤の存在下で重合させる工程
【請求項2】
重合性二重結合を有するモノマーが、常圧における沸点が200℃以上のモノマーを含む、請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
重合性二重結合を有するモノマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含む、請求項1又は2に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
重合性二重結合を有する親水性のモノマーが、メタアクリル酸、及び/又はメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、請求項3に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項5】
重合性二重結合を有する疎水性のモノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数4〜24)エステル、及び炭素数1〜22のアルキル基又はアルケニル基で置換されていてもよい(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる1種以上のモノマーである、請求項3に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項6】
工程(II)において、ラジカル重合開始剤の半減期が3時間を超え、20時間以下となる温度で該ラジカル重合開始剤を添加する、請求項1〜のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項7】
工程(III)において、工程(II)で添加したラジカル重合開始剤の半減期が5分〜6時間となる温度で重合させる、請求項1〜のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項8】
工程(II)の開始剤の添加と工程(III)とを2回以上繰り返して行う、請求項1〜7のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の、Tgが−150〜200℃の高分子化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物の製造方法に関し、特に、ラジカル重合法による、未反応モノマーの少ない高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分散剤、乳化剤、増粘剤、粘着剤、ゲル化剤などとして、種々の高分子化合物が幅広い分野で使用されている。高分子化合物の製造方法として、原料モノマーの溶解が可能な有機溶媒中で重合を行う溶液重合が知られており、特に極性差の大きいモノマーの共重合や、マクロモノマーのような高分子量モノマーを原料に用いる場合には、溶液重合は必須である。この溶液重合を含む一般の重合反応終了時には未反応のモノマーが残存するが、特に高分子化合物を化粧品や香粧品分野に応用する場合には、重合反応生成物から未反応モノマーを除去するか、該反応生成物中の未反応モノマーを低減する必要がある。
このような未反応のモノマー(以下、残存モノマーと称する場合がある。)を除去もしくは低減させる方法としては、重合反応生成物を高温に加熱し、減圧下で残存モノマーを蒸留分離して精製する方法(特許文献1)、高分子化合物溶液を貧溶媒中で再沈殿して精製する方法(特許文献2)、溶媒への溶解性の違いを利用した抽出精製法(特許文献3)、及び限外濾過膜を用いた膜精製法(特許文献4)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−130105号公報
【特許文献2】特開2006−193673号公報
【特許文献3】特開昭63−264491号公報
【特許文献4】特開2008−163152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蒸留分離による精製法は、高沸点の残存モノマーを除去することができない点、再沈殿による精製法や抽出精製法は、極性溶媒及び非極性溶媒のいずれにも可溶な両親媒性高分子化合物の精製には適用できない点、膜精製法は、大量の溶媒が必要となるため経済的に不利である点などが問題となっていた。特に、高沸点のモノマー、すなわち高分子量モノマーを含むモノマーを原料とする両親媒性高分子化合物などを製造する際には、溶液重合においては、安価かつ容易な方法で残存モノマーを除去ないし低減させることは困難であった。
本発明は、残存モノマーを効率よく低減させることが可能な、ラジカル重合による高分子化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、有機溶媒中で、重合性二重結合を有するモノマーを転化率が一定以上になるまでラジカル重合させた後に、重合反応溶液から有機溶剤を留去して固形分濃度を調整し、及び、ラジカル重合開始剤を更に添加して重合を行うことで、残存モノマーを効率よく低減できることを見出した。
すなわち本発明は、下記工程(I)〜工程(III)を有する、高分子化合物の製造方法を提供するものである。
工程(I);ラジカル重合開始剤の存在下で、重合性二重結合を有するモノマーを、転化率が50〜99%になるまで、該モノマー全量に対して0.5〜10質量倍の有機溶媒中で重合させて、重合反応溶液を得る工程
工程(II);工程(I)で得られた重合反応溶液から有機溶媒を留去して固形分濃度を70〜100%に調整する濃縮、及びラジカル重合開始剤の添加を行い、混合物を得る工程
工程(III);工程(II)で得られた混合物中に存在する重合性二重結合を有するモノマーを、工程(II)で添加したラジカル重合開始剤の存在下で重合させる工程
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、安価かつ容易な方法で、残存モノマーの少ない高分子化合物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の高分子化合物の製造方法は、下記工程(I)〜工程(III)を有する。
工程(I);ラジカル重合開始剤の存在下で、重合性二重結合を有するモノマーを、転化率が50〜99%になるまで、該モノマー全量に対して0.5〜10質量倍の有機溶媒中で重合させて、重合反応溶液を得る工程
工程(II);工程(I)で得られた重合反応溶液から有機溶媒を留去して固形分濃度を70〜100%に調整する濃縮、及びラジカル重合開始剤の添加を行い、混合物を得る工程
工程(III);工程(II)で得られた混合物中に存在する重合性二重結合を有するモノマーを、工程(II)で添加したラジカル重合開始剤の存在下で重合させる工程
以下、各工程について説明する。
【0008】
[工程(I)]
工程(I)は、ラジカル重合開始剤の存在下で、重合性二重結合を有するモノマーを、転化率が50〜99%になるまで、該モノマー全量に対して0.5〜10質量倍の有機溶媒中で重合させて、重合反応溶液を得る工程である。
【0009】
<ラジカル重合開始剤>
本発明の高分子化合物の製造方法に用いられるラジカル重合開始剤(以下単に「開始剤」ともいう)は、特に限定はなく、公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。具体的には、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系重合開始剤、ジラウロイルパーオキシドなどの過酸化ジアシル類、t−ブチルパーオキシピルベートなどのパーオキシエステル類、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、ケトンパーオキシド類などが挙げられる。
工程(I)において用いられる開始剤の量は、分子量制御の観点から、工程(I)で用いられる重合性二重結合を有するモノマー全量に対して0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.01〜1質量%が更に好ましい。
工程(I)において、開始剤の添加形態に限定はなく、開始剤のみを添加してもよいし、有機溶媒と混合するか、又は後述する有機溶媒に溶解して添加してもよい。
【0010】
<重合性二重結合を有するモノマー>
本発明の製造方法に用いられるモノマーは、重合性二重結合を有するモノマーであれば特に限定はないが、重合性二重結合を分子内に1つのみ有するモノマーであることが好ましい。
上記重合性二重結合を有するモノマー(以下、単に「モノマー」ともいう)としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビニルホスホン酸などの、重合性二重結合とカルボキシル基、スルホニル基、ホスホニル基などの酸性基を有するモノマー;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、エトキシポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの、末端が炭素数1〜3のアルキル基で置換されていてもよいポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル;ブチル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ラウリル(メタ)アクリルアミド、ステアリル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミドなどの、炭素数1〜22のアルキル基又はアルケニル基で置換されていてもよい(メタ)アクリルアミド;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜22)エステル;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN−置換(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、α−クロルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロルスチレン、o−クロルスチレン、2,5−ジクロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどの炭素数1〜22の脂肪酸ビニルエステルなどが挙げられる。
本発明においては、上記モノマーを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
本発明の高分子化合物の製造方法は、常圧における沸点が200℃以上のモノマーを原料モノマーとして用いる場合に好ましく適用される。常圧における沸点が200℃以上のモノマーを用いてラジカル重合させた場合、従来の蒸留分離法では残存モノマーの除去が困難であるため、本発明の効果が顕著となる。
また、溶媒への溶解性が異なる2種以上のモノマーを共重合させた高分子化合物は、従来の再沈殿法や抽出精製法では残存モノマーの除去が困難であるため、本発明の製造方法が好ましく適用できる。溶媒への溶解性が異なる2種以上のモノマーの組み合わせとしては、親水性モノマー及び疎水性モノマーの組み合わせが挙げられる。
親水性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
疎水性モノマーとしては、例えば、上記のステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数4〜24)エステル、ラウリル(メタ)アクリルアミド、ステアリル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸アクリルアミド(炭素数4〜24)などが挙げられる。
本発明の高分子化合物の製造方法に用いられる、溶媒への溶解性が異なる2種以上のモノマーの組み合わせとしては、例えば、(メタ)アクリル酸/ステアリル(メタ)アクリレート/メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸/ラウリル(メタ)アクリレート/メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0012】
<有機溶媒>
工程(I)においては、製造される高分子化合物の分子量制御を容易に行う観点から、有機溶媒中で上記モノマーの重合を行う。
本発明に用いられる有機溶媒は、モノマー、開始剤、及び生成する高分子化合物の溶解が可能であれば特に限定はなく、用いるモノマー及び開始剤の種類によって適宜選択すればよいが、重合反応温度以上の沸点を有し、かつ容易に留去可能であるという観点から、常圧において沸点が30〜150℃のものが好ましく、40〜100℃のものがより好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどの炭素数1〜4のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどの炭素数3〜5のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの総炭素数4〜6のエステル類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭素数5〜8の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル類などの有機溶媒を好ましく使用することができる。
本発明の製造方法に用いられる有機溶媒は、他の有機溶媒と分層しない程度に水を含有していてもよい。
工程(I)で用いられる有機溶媒の量は、モノマー全量に対して0.5〜10質量倍であるが、製造される高分子化合物の分子量を制御する観点から、0.7〜5質量倍であることが好ましく、0.8〜3質量倍であることがより好ましい。
【0013】
<高分子化合物>
本発明の製造方法により製造される高分子化合物は、後述する工程(II)において有機溶媒を留去する際、及び工程(III)の重合において、攪拌を行うのが好ましいという観点から、Tgが−150〜200℃であることが好ましく、−80〜100℃がより好ましく、−50〜60℃が更に好ましい。高分子化合物のTgが上記範囲であれば、工程(II)及び工程(III)における攪拌が容易である。
製造される高分子化合物のTgは、モノマーの種類及び混合比を適宜選択することによって制御することができる。
製造される高分子化合物の重量平均分子量は、特に制限はないが、例えば1万〜100万の範囲である。
【0014】
<モノマーの重合>
工程(I)では、上記開始剤の存在下で、モノマーを、該モノマー全量に対して0.5〜10質量倍の有機溶媒中で重合させて、重合反応溶液を得る。
開始剤、有機溶媒、モノマーの仕込み順序には特に限定はない。開始剤、有機溶媒及びモノマーを混合した後、上記重合温度まで昇温して重合を行ってもよく、有機溶媒とモノマーとを混合した後、上記重合温度まで昇温してから開始剤を添加してもよい。また、有機溶媒を上記重合温度まで昇温した後、モノマー及び開始剤を添加してもよく、これらの方法を組み合わせてもよい。
モノマー及び/又は開始剤を添加する方法にも特に限定はなく、一括で又は複数回に分割して添加してもよく、滴下法により連続的に添加してもよい。
重合は不活性ガス雰囲気下で撹拌しながら行うことが好ましい。重合温度は、重合速度の観点から、開始剤の半減期が5分〜6時間となるような温度が好ましく、半減期が0.5〜3時間となる温度がより好ましい。具体的な温度は、使用する開始剤の種類によって異なるが、40〜150℃の範囲が好ましく、50〜100℃の範囲がより好ましい。
【0015】
上記重合は、モノマーの転化率が50〜99%になるまで行い、70〜99%になるまで行うことが好ましく、85〜99%になるまで行うことがより好ましい。
工程(I)では、高分子化合物の分子量制御の観点から、モノマーの転化率が50%以上になるまで重合させる。一方、重合終期においてはモノマーの重合速度が極端に低下するため、生産性の観点から、モノマー転化率が99%以下で次の工程(II)へと進む。なお、モノマーを2種以上組み合わせて用いる場合、前記モノマーの転化率とは用いたすべてのモノマーの転化率のことを示し、工程(I)においては、用いたモノマーの各々の転化率がすべて前記のモノマー転化率の範囲の値になるまで重合させる。
本発明において、モノマーの転化率はモノマーの反応率と同語であり、下記式(1)で表される。
モノマーの転化率(%)=([モノマー仕込み量(モル)]−[残存モノマー量(モル)])/モノマー仕込み量(モル)×100 (1)
【0016】
[工程(II)]
工程(II)は、工程(I)で得られた重合反応溶液から有機溶媒を留去して固形分濃度を70〜100%に調整する濃縮、及びラジカル重合開始剤の添加を行い、混合物を得る工程である。なお、以下の記述において、重合反応溶液から有機溶媒を留去して固形分濃度を70〜100%に調整することを単に「濃縮」ともいい、該濃縮を行う操作を単に「濃縮操作」ともいう。
前記濃縮、及び開始剤の添加の順序に特に限定はなく、どちらを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。あるいは、濃縮操作を複数回に分割し、開始剤の添加の前及び後で濃縮操作を行ってもよい。
添加した開始剤を均一に分散させる観点、及び濃縮操作終了前の開始剤の分解を抑制する観点から、工程(II)における濃縮操作を複数回に分割し、開始剤の添加の前及び後で濃縮操作を行うことが好ましい。
【0017】
<濃縮>
前記濃縮において、有機溶媒の留去方法に特に限定はなく、加熱及び/又は減圧下で行うことができるが、生産性の観点から、少なくとも減圧下で行うことが好ましい。重合反応溶液の温度分布、及び重合反応溶液中の高分子化合物の濃度分布を均一にするため、重合反応溶液を撹拌しながら有機溶媒を留去することが好ましい。
【0018】
重合反応溶液に対して濃縮操作を行って得られる濃縮物の固形分濃度が高いほど、後述する工程(III)における残存モノマーの重合が効率よく進行する。以上の観点から、有機溶媒の留去は、工程(II)終了時の混合物中の固形分濃度が70〜100%になるまで行い、90〜100%になるまで行うことが好ましく、95〜100%になるまで行うことがより好ましく、99.5〜100%になるまで行うことが更に好ましい。
なお、本明細書において「固形分濃度」とは、実施例に記載した方法を用いて測定した固形分濃度(%)を意味する。
【0019】
<開始剤の添加>
工程(II)で添加する開始剤の種類、添加量及びその好ましい様態は、工程(I)と同様である。工程(II)で添加する開始剤の種類は、工程(I)で添加した開始剤と同じものであることが好ましい。
工程(I)で得られた重合反応溶液、又は工程(I)で得られた重合反応溶液に対して濃縮操作を行って得られる濃縮物(以下、単に「濃縮物」ともいう)中に開始剤を均一に溶解又は分散させる観点から、開始剤は、工程(I)で得られた重合反応溶液、又は濃縮物を撹拌しながら添加することが好ましい。
開始剤の添加形態及び添加方法は、特に限定はなく、開始剤のみを添加してもよいし、有機溶媒と混合するか、又は有機溶媒に溶解させて添加してもよい。また、一括で又は複数回に分割して添加してもよく、滴下法により連続的に添加してもよい。
【0020】
上記開始剤は、工程(I)で得られた重合反応溶液、又は濃縮物中に開始剤を均一に溶解又は分散する前に重合が開始するのを抑制する観点、及び該濃縮物の攪拌容易性の観点から、開始剤の半減期が3時間を超え20時間以下となるような温度で添加するのが好ましく、7〜17時間となる温度がより好ましく、10〜15時間となる温度が更に好ましい。具体的な温度は、開始剤の種類によって異なるため一概には言えないが、40〜100℃の温度範囲が好ましく、50〜90℃がより好ましい。
【0021】
工程(II)における開始剤添加を工程(I)における重合温度よりも低い温度で行う場合には、両工程の間で冷却操作を行う。上記冷却操作は、工程(I)の終了後、工程(II)の前に行ってもよいし、工程(II)において行ってもよい。工程(II)における有機溶媒の留去と同時に、有機溶媒の潜熱を利用して冷却することも可能である。
【0022】
[工程(III)]
工程(III)は、工程(II)で得られた混合物中に存在するモノマー、すなわち残存モノマーを、工程(II)で添加した開始剤の存在下で重合させる工程である。重合は、不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行うことが好ましい。工程(III)における重合温度の好ましい様態は、前記工程(I)の好ましい様態と同様であり、開始剤を添加した後に、該開始剤の半減期が5分〜6時間となるような温度で重合させることが好ましく、半減期が0.5〜3時間となる温度で重合させることがより好ましい。具体的な温度は、使用する開始剤の種類によって異なるが、40〜150℃の範囲が好ましく、50〜100℃の範囲がより好ましい。
【0023】
工程(III)では、混合物中の固形分濃度が70〜100%で重合を行い、90〜100%で行うことが好ましく、95〜100%で行うことがより好ましく、99.5〜100%で行うことが更に好ましい。
なお、上記の好ましい固形分濃度範囲で重合を行うために、工程(III)においては、重合を行いながら、更に有機溶媒の留去を行ってもよい。
【0024】
上記工程(III)における重合は、残存モノマー量が所望の値になるまで行えばよい。重合時間は残存モノマー量、開始剤量、及び重合温度により異なるため一概には決められないが、生産性の観点から、通常30分〜24時間が好ましく、より好ましくは1〜15時間である。
【0025】
本発明においては、より少ない開始剤量で効率的に残存モノマーの低減を行うことができることから、工程(II)の開始剤の添加と工程(III)とを2回以上繰り返して行うことが好ましい。2回目以降の開始剤の添加は、開始剤の分散性を向上させる観点から、必要に応じて有機溶媒を添加して、混合物中の固形分濃度が70〜95%で行うことが好ましい。2回目以降の工程(III)の重合条件、及びその好ましい様態は、前記工程(III)の重合条件、及びその好ましい様態と同じである。また2回目以降の開始剤添加時の混合物の温度の好ましい様態も、前記開始剤添加時の混合物の温度の好ましい様態と同様であり、必要に応じて冷却操作を行ってから2回目以降の開始剤添加を行うことが好ましい。
さらに、工程(II)の開始剤の添加と工程(III)とを2回以上繰り返して行う場合には、開始剤の添加効率の観点から、2回目以降の開始剤の添加は、混合物中に存在する開始剤量が、添加初期の開始剤量の20%以下に減少した段階で行うことが好ましい。
【0026】
以上の工程(I)〜工程(III)を行うことにより、残存モノマーの極めて少ない高分子化合物を製造することができる。
なお、工程(III)の後に、必要に応じて後処理を行ってもよい。例えば、通常の方法で有機溶媒を留去してもよく、溶媒抽出、限外濾過などの方法で精製を行ってもよい。
【0027】
上述した実施の形態に関し、本発明は以下の製造方法を開示する。
<1> 下記工程(I)〜工程(III)を有する、高分子化合物の製造方法。
工程(I);ラジカル重合開始剤の存在下で、重合性二重結合を有するモノマーを、転化率が50〜99%になるまで、該モノマー全量に対して0.5〜10質量倍の有機溶媒中で重合させて、重合反応溶液を得る工程
工程(II);工程(I)で得られた重合反応溶液から有機溶媒を留去して固形分濃度を70〜100%に調整する濃縮、及びラジカル重合開始剤の添加を行い、混合物を得る工程
工程(III);工程(II)で得られた混合物中に存在する重合性二重結合を有するモノマーを、工程(II)で添加したラジカル重合開始剤の存在下で重合させる工程
<2> 重合性二重結合を有するモノマーが、常圧における沸点が200℃以上のモノマーを含む、前記<1>に記載の高分子化合物の製造方法。
<3> 重合性二重結合を有するモノマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含む、前記<1>又は<2>に記載の高分子化合物の製造方法。
<4> 工程(II)において、ラジカル重合開始剤の半減期が3時間を超え、20時間以下となる温度で該ラジカル重合開始剤を添加する、前記<1>〜<3>のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
<5> 工程(III)において、工程(II)で添加したラジカル重合開始剤の半減期が5分〜6時間となる温度で重合させる、前記<1>〜<4>のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
<6> 前記<1>〜<5>のいずれかに記載の、Tgが−150〜200℃の高分子化合物の製造方法。
<7> 工程(I)において、重合性二重結合を有するモノマーを、転化率が70〜99%、好ましくは85〜99%になるまで重合させて重合反応溶液を得る、前記<1>〜<6>のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
<8> 工程(II)において、重合反応溶液から有機溶媒を留去して、固形分濃度を90〜100%、好ましくは95〜100%、より好ましくは99.5〜100%に調整する、前記<1>〜<7>のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
<9> 工程(I)で用いられる有機溶媒の量が、重合性二重結合を有するモノマー全量に対し、0.7〜5質量倍、好ましくは0.8〜3質量倍である、前記<1>〜<8>のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
<10> 重合性二重結合を有する親水性のモノマーが、(メタ)アクリル酸、及び/又はメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、前記<3>に記載の高分子化合物の製造方法。
<11> 重合性二重結合を有する疎水性のモノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数4〜24)エステル、及び(メタ)アクリル酸アクリルアミド(炭素数4〜24)からなる群から選ばれる1種以上のモノマーである、前記<3>に記載の高分子化合物の製造方法。
<12> 工程(II)におけるラジカル重合開始剤の添加と、工程(III)とを2回以上繰り返して行う、前記<1>〜<11>のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
<13> 工程(II)における有機溶媒の留去を、ラジカル重合開始剤を添加する前及び後に行って、固形分濃度を70〜100%に調整する、前記<1>〜<12>のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【実施例】
【0028】
[実施例1〜7及び比較例1〜3]
以下の合成例、実施例及び比較例において、「SMA」は「ステアリルメタクリレート」を、「PEGMA」は「メトキシポリエチレングリコール(9モル)メタクリレート」を、「MAA」は「メタクリル酸」を意味する。また%は特に断りのない限り、質量%を意味する。
以下の実施例及び比較例において、得られた高分子化合物中の残存モノマー量、モノマー転化率、及び固形分濃度の測定方法を以下に示す。
【0029】
<残存モノマー量の測定>
(1)残存SMA量の測定
残存SMA量は、エタノール/蒸留水=90/10(体積/体積)組成の混合溶媒を用いて高分子化合物の0.4質量%の試料溶液を調製し、液体クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製「CCPS」)を用いて下記の条件で測定した。
〔測定条件〕
カラム:L−columnODS(商品名、化学物質評価研究機構製、150mm×4.6mm)
カラム温度:40℃
検出器:UV分光光度計(東ソー株式会社製「UV8020」)
検出波長:210nm
溶離液組成:エタノール/蒸留水=90/10(体積/体積)
流量:1.0mL/min.
注入量:20μL
【0030】
(2)残存PEGMA量の測定
残存PEGMA量は、エタノール/蒸留水=35/65(体積/体積)組成の混合溶媒を用いて高分子化合物の0.4質量%の試料溶液を調製し、液体クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製「CCPS」)を用いて測定した。測定条件は、溶離液組成をエタノール/蒸留水=35/65(体積/体積)としたこと以外は、前記(1)残存SMA量の測定と同じ条件を用いた。
【0031】
(3)残存MAA量の測定
残存MAA量は、エタノール/蒸留水=5/95(体積/体積)組成の混合溶媒を用いて高分子化合物の0.4質量%の試料溶液を調製し、液体クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製「CCPS」)を用いて測定した。測定条件は、溶離液組成を0.1%リン酸−エタノール/蒸留水=5/95(体積/体積)としたこと以外は、前記(1)残存SMA量の測定と同じ条件を用いた。
【0032】
<モノマー転化率の測定>
モノマーの転化率は下記式(1)から求めた。なお、残存モノマー量は、前記残存モノマー量の測定で得られた残存モノマー量と同一である。
モノマーの転化率(%)=[[モノマー仕込み量(モル)]−[残存モノマー量(モル)])/モノマー仕込み量(モル)×100 (1)
【0033】
<固形分濃度の測定>
シャーレに乾燥無水硫酸ナトリウム10gを量り取り、ここに試料2gを入れ、ガラス棒で混合した。これを150℃の減圧乾燥機(圧力8kPa)で2時間乾燥し、乾燥後の重量(乾燥後の試料+シャーレ+ガラス棒+無水硫酸ナトリウム)を測定した。ここからシャーレ、ガラス棒、及び無水硫酸ナトリウムの重量を差し引いて乾燥後の試料重量(g)を求め、次式より得られた値を固形分濃度とした。
固形分濃度(%)=[{試料量(g)−乾燥後の試料重量(g)}/試料量(g)]×100
【0034】
実施例1
〔工程(I)〕
攪拌機、還流冷却器、温度計、及び窒素導入管を有する反応器に、窒素雰囲気下で、重合性二重結合を有するモノマーとしてSMA(モノマー沸点:195℃)640g、PEGMA(モノマー沸点:200℃以上)880g、MAA(モノマー沸点:161℃)80g、及び有機溶媒としてアセトン1584.0gを仕込み、60℃まで昇温した。アセトンの還流を確認した後、開始剤2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(和光純薬株式会社製、商品名「V−65」)16.0g(仕込みモノマー全量に対して1質量%)とアセトン16.0gとを混合した溶液を加えて、60℃(V−65の半減期:2.6時間)にて6時間重合を行い、重合反応溶液を得た。6時間後のモノマー転化率は、SMAが93%、PEGMAが92%、MAAが89%であった。
〔工程(II)〕
<濃縮操作(1)>
工程(I)で得られた重合反応溶液の一部(400g)から、減圧下(55kPa)、槽内温度50℃を維持して、固形分濃度90%となるまでアセトンを留去した。
<開始剤の添加(1)>
槽内温度を50℃(V−65の半減期:12時間)に保ち、常圧、窒素雰囲気下で、開始剤V−65 1.4g(工程(I)の仕込みモノマー(相当量)に対して0.7質量%)と、アセトン14.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌した。
<濃縮操作(2)>
攪拌終了後、減圧下(2kPa)で、固形分濃度が99.9%以上になるまで再度アセトンを留去して、混合物(1)を得た。
〔工程(III)〕
減圧(2kPa)を維持したまま、工程(II)で得られた混合物(1)を、60℃(V−65の半減期:2.6時間)まで昇温して、15時間重合を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物中の残存SMA量は764mg/kg、残存PEGMA量は819mg/kg、残存MAA量は49mg/kgであった。
【0035】
実施例2
〔工程(I)〕
実施例1の工程(I)と同様の方法で行い、重合反応溶液を得た。
〔工程(II)〕
<濃縮操作(1)>
工程(I)で得られた重合反応溶液の一部(400g)から、減圧下(55kPa)、槽内温度50℃を維持して、固形分濃度90%となるまでアセトンを留去した。
<開始剤の添加(1)>
槽内温度を50℃に保ち、常圧、窒素雰囲気下で、開始剤V−65 0.6g(工程(I)の仕込みモノマー(相当量)に対して0.3質量%)と、アセトン12.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌した。
<濃縮操作(2)>
攪拌終了後、減圧下(2kPa)で、固形分濃度99.9%以上になるまで再度アセトンを留去して、混合物(2−1)を得た。
〔工程(III)〕
減圧(2kPa)を維持したまま、工程(II)で得られた混合物(2−1)を、60℃(V−65の半減期:2.6時間)まで昇温して4時間重合を行った。
〔工程(II)−2〕
<開始剤の添加(2)>
4時間後、窒素ガスによって反応槽内を常圧に戻し、アセトンを22g加えて固形分濃度を90%とし、槽内温度を50℃まで冷却した。槽内温度を50℃に保ち、常圧、窒素雰囲気下で開始剤V−65 0.8g(工程(I)の仕込みモノマー(相当量)に対して0.4質量%)と、アセトン16.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌した。
<濃縮操作(3)>
攪拌終了後、減圧下(2kPa)で、固形分濃度99.9%以上になるまで再度アセトンを留去して、混合物(2−2)を得た。
〔工程(III)−2〕
混合物(2−2)を60℃まで昇温して更に11時間重合を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物中の残存SMA量は743mg/kg、残存PEGMA量は767mg/kg、残存MAA量は34mg/kgであった。
【0036】
実施例3
〔工程(I)〕
攪拌機、還流冷却器、温度計、及び窒素導入管を有する反応器に、重合性二重結合を有するモノマーとしてSMA120g、PEGMA165g、MAA15g、及び有機溶媒としてアセトン294gを仕込み、60℃まで昇温した。アセトンの還流を確認した後、開始剤V−65 3.0g(工程(I)の仕込みモノマーに対して1質量%)と、アセトン3.0gとを混合した溶液を加えて、60℃にて6時間重合を行い、重合反応溶液を得た。6時間後のモノマー転化率は、SMAが91%、PEGMAが90%、MAAが87%であった。
〔工程(II)〕
<濃縮操作(1)>
工程(I)で得られた重合反応溶液から、減圧下(55kPa)、槽内温度50℃で、固形分濃度90%となるまでアセトンを留去した。
<開始剤の添加(1)>
槽内温度を50℃に保ち、常圧、窒素雰囲気下で開始剤V−65 3.0g(工程(I)の仕込みモノマーに対して1質量%)と、アセトン6.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌した。
<濃縮操作(2)>
攪拌終了後、減圧下(2kPa)で、固形分濃度が99.9%以上となるまで再度アセトンを留去し、混合物(3)を得た。
〔工程(III)〕
減圧(2kPa)を維持したまま、工程(II)で得られた混合物(3)を、60℃(V−65の半減期:2.6時間)まで昇温して7時間重合を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物中の残存SMA量は1000mg/kgであった。
【0037】
実施例4
〔工程(I)〕
実施例3の工程(I)と同様の方法で行い、重合反応溶液を得た。
〔工程(II)〕
<濃縮操作(1)>
工程(I)で得られた重合反応溶液から、減圧下(55kPa)、槽内温度50℃で、固形分濃度80%となるまでアセトンを留去した。
<開始剤の添加(1)>
槽内温度を50℃に保ち、常圧、窒素雰囲気下で、開始剤V−65 3.0g(工程(I)の仕込みモノマーに対して1質量%)と、アセトン6.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌し、混合物(4)を得た。
〔工程(III)〕
工程(II)で得られた混合物(4)を、60℃(V−65の半減期:2.6時間)まで昇温し、固形分濃度80%のまま7時間重合を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物中の残存SMA量は2770mg/kgであった。
【0038】
実施例5
〔工程(I)〕
実施例3の工程(I)と同様の方法で行い、重合反応溶液を得た。
〔工程(II)〕
<濃縮操作(1)>
工程(I)で得られた重合反応溶液から、減圧下(55kPa)、槽内温度50℃で、固形分濃度90%となるまでアセトンを留去した。
<開始剤の添加(1)>
槽内温度を50℃に保ち、常圧、窒素雰囲気下で、開始剤V−65 3.0g(工程(I)の仕込みモノマーに対して1質量%)と、アセトン6.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌し、混合物(5)を得た。
〔工程(III)〕
工程(II)で得られた混合物(5)を、60℃(V−65の半減期:2.6時間)まで昇温し、固形分濃度90%のまま7時間重合を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物中の残存SMA量は1500mg/kgであった。
【0039】
実施例6
〔工程(I)〕
攪拌機、還流冷却器、温度計、及び窒素導入管を有する反応器に、重合性二重結合を有するモノマーとしてSMA120g、PEGMA165g、MAA15g、及び有機溶媒として2−プロパノール694gを仕込み、80℃まで昇温した。昇温後、開始剤としてジラウロイルパーオキシド(日油株式会社製、商品名「パーロイルL」)3.0gと、2−プロパノール3.0gとを混合した溶液を加えて、80℃(パーロイルLの半減期:1.1時間)にて6時間重合を行い、重合反応溶液を得た。6時間後のモノマー転化率は、SMAが93%、PEGMAが92%、MAAが89%であった。
〔工程(II)〕
<濃縮操作(1)>
工程(I)で得られた重合反応溶液から、減圧下(55kPa)、槽内温度60℃で、固形分濃度90%となるまで2−プロパノールを留去した。
<開始剤の添加(1)>
槽内温度を60℃(パーロイルLの半減期:13.2時間)に保ち、常圧、窒素雰囲気下で開始剤パーロイルL 1.4g(工程(I)の仕込みモノマー(相当量)に対して0.7質量%)と、2−プロパノール14gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌した。
<濃縮操作(2)>
攪拌終了後、減圧下(2kPa)、固形分濃度99.9%以上になるまで再度2−プロパノールを留去し、混合物(6)を得た。
〔工程(III)〕
工程(II)で得られた混合物(6)を、減圧(2kPa)を維持したまま、75℃(パーロイルLの半減期:1.7時間)まで昇温して10時間重合を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物中の残存SMA量は1280mg/kg、残存PEGMA量は1680mg/kgであった。
【0040】
実施例7
〔工程(I)〕
実施例6の工程(I)と同様の方法で行い、重合反応溶液を得た。
〔工程(II)〕
<濃縮操作(1)>
工程(I)で得られた重合反応溶液から、減圧下(55kPa)、槽内温度60℃で、固形分濃度90%となるまで2−プロパノールを留去した。
<開始剤の添加(1)>
槽内温度を60℃(パーロイルLの半減期:13.2時間)に保ち、常圧、窒素雰囲気下で開始剤パーロイルL 0.6g(工程(I)の仕込みモノマー(相当量)に対して0.3質量%)と、2−プロパノール14.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌した。
<濃縮操作(2)>
攪拌終了後、減圧下(2kPa)、固形分濃度99.9%以上になるまで再度2−プロパノールを留去し、混合物(7−1)を得た。
〔工程(III)〕
減圧(2kPa)を維持したまま、混合物(7−1)を75℃まで昇温して4時間重合を行った。
〔工程(II)−2〕
<開始剤の添加(2)>
4時間後、窒素ガスによって反応槽内を常圧に戻し、2−プロパノールを22g加えて固形分濃度を90%とし、槽内温度を60℃まで冷却した。槽内温度を60℃(パーロイルLの半減期:半減期13.2時間)に保ち、常圧、窒素雰囲気下で開始剤パーロイルL 0.8g(工程(I)の仕込みモノマー(相当量)に対して0.4質量%)と、2−プロパノール16.0gとを混合した溶液を加えて、30分間攪拌した。
<濃縮操作(3)>
攪拌終了後、減圧下(2kPa)、固形分濃度99.9%以上になるまで再度2−プロパノールを留去し、混合物(7−2)を得た。
〔工程(III)−2〕
混合物(7−2)を75℃まで昇温して更に6時間重合を行い、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物中の残存SMA量は1220mg/kg、残存PEGMA量は1580mg/kgであった。
【0041】
比較例1
工程(II)の濃縮操作を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で高分子化合物を製造した。得られた高分子化合物中の残存SMA量は10101mg/kg、残存PEGMA量は11809mg/kg、残存MAA量は1485mg/kgであった。
【0042】
比較例2
工程(II)及び工程(II)−2の濃縮操作を行わなかったこと以外は、実施例2と同様の方法で高分子化合物を製造した。得られた高分子化合物中の残存SMA量は9091mg/kg、残存PEGMA量は11334mg/kg、残存MAA量は1430mg/kgであった。
【0043】
比較例3
〔工程(I)〕
攪拌機、還流冷却器、温度計、及び窒素導入管を有する反応器に、重合性二重結合を有するモノマーとしてSMA120g、PEGMA165g、MAA15g、及び有機溶媒としてアセトン194gを仕込み、60℃まで昇温した。アセトンの還流を確認した後、開始剤V−65 3.0g(工程(I)の仕込みモノマーに対して1質量%)と、アセトン6.0gとを混合した溶液を加えて、60℃にて6時間重合を行い、重合反応溶液を得た。6時間後のモノマー転化率は、SMAが91%、PEGMAが90%、MAAが87%であった。
〔工程(II)及び工程(III)〕
工程(II)の濃縮操作を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の方法で高分子化合物を製造した。得られた高分子化合物中の残存SMA量は28000mg/kgであった。
【0044】
実施例及び比較例の結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1〜7に記載の製造方法は、比較例1〜3に記載の製造方法と比較して、高分子化合物中の残存モノマー量を大幅に低減させることができる。
【0045】
【表1】
【0046】
また、実施例1及び比較例1の工程(III)、ならびに実施例2及び比較例2の工程(III)−2における残存モノマー量(mg/kg)の経時変化を表2に示す。表2より、実施例1及び2に記載の製造方法は、比較例1及び2よりも効率よく残存モノマーを低減できることがわかる。
【0047】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の高分子化合物の製造方法によれば、安価かつ容易な方法で、残存モノマーの少ない高分子化合物を効率よく製造することができる。本発明の製造方法により得られた高分子化合物は、化粧品、香粧品等に有用である。