(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の発明は、十分なSN比でラマン散乱光を計測することができない。そのため、計測時間に数十秒要する可能性があった。より詳細には、一般に励起光は計測窓を通して燃料ガスに入射する。この計測窓は燃料ガスに含まれる煤等の異物によって汚されることが多い。この場合、計測窓に付着した異物に励起光が照射されることでノイズ光が発生する。そして、このノイズ光が検出器へと入射することによって、微弱なラマン散乱光を高SN比で測定することができなくなり、計測に長時間を要する。原理的には、入射する励起光強度を上げれば、信号強度も上昇するが、装置コストが高額となるほか、ノイズも増えることが多く、実用上現実的ではない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、燃焼器に供給される燃料ガスの発熱量を迅速に計測して、ガス焚き発電プラントの運転の信頼性や運転コストの低減が可能な流体組成分析機構、発熱量計測装置およびこれを備えたガス焚き発電プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る流体組成分析機構、発熱量計測装置およびこれを備えたガス焚き発電プラントは、以下の手段を採用する。
本発明の第一の態様に係る流体組成分析機構は、測定位置の試料流体に励起光を照射する光源と、励起光が照射された試料流体から生じたラマン散乱光を受光して分光する受光部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記受光部へと集光して入射させるラマン散乱光集光光学系と、前記受光部の出力に基づいて前記試料流体の組成を算出する算出部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置された遮光部材と、
前記励起光の光路上に配置され、前記励起光を前記試料流体が流れる領域へ導く第1計測窓と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記試料流体が流れる領域の外に配置された前記ラマン散乱光集光光学系へ導く第2計測窓と、を備え、前記遮光部材は、前記第2計測窓の前記試料流体に曝される面よりも前記受光部側に配置された第1遮光部材と、前記第1遮光部材よりも受光部側に配置され、かつ前記測定位置から見て前記第1遮光部材と一致した輪郭を有する第2遮光部材と、を含む。
また、本発明の第二の態様に係る流体組成分析機構は、測定位置の試料流体に励起光を照射する光源と、前記励起光が照射された試料流体から生じたラマン散乱光を受光して分光する受光部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記受光部へと集光して入射させるラマン散乱光集光光学系と、前記受光部の出力に基づいて前記試料流体の組成を算出する算出部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置された遮光部材と、前記励起光の光路上に配置され、前記励起光を前記試料流体が流れる領域へ導く第1計測窓と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記試料流体が流れる領域の外に配置された前記ラマン散乱光集光光学系へ導く第2計測窓と、を備え、前記遮光部材は、前記第2計測窓の前記試料流体に曝される面よりも前記受光部側に配置された第1遮光部材と、前記第1計測窓と前記第2計測窓の間に配置され、前記励起光の光路以外の部分を遮光する第2遮光部材と、を含む。
【0008】
また、本発明の
第三の態様に係る流体組成分析機構は、測定位置の試料流体に励起光を照射する光源と
、前記励起光が照射された試料流体から生じたラマン散乱光を受光して分光する受光部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記受光部へと集光して入射させるラマン散乱光集光光学系と、前記受光部の出力に基づいて前記試料流体の組成を算出する算出部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置された遮光部材と、
前記励起光の光路上に配置され、前記励起光を前記試料流体が流れる領域へ導く第1計測窓と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記試料流体が流れる領域の外に配置された前記ラマン散乱光集光光学系へ導く第2計測窓と、前記第1計測窓と前記第2計測窓との間で前記測定位置を含んでポテンシャルコア部を有するようにして、前記試料流体を噴射させる供給手段と、を備え、前記光路上における前記ポテンシャルコア部の幅は、前記測定位置を含む前記励起光の光路上の範囲であって、その範囲から発せられた光のうち前記ラマン散乱光集光光学系を通ったものの全てが幾何光学的に前記受光部に入射する範囲である被写界深度を含む。
【0009】
これらの構成によれば、試料流体に励起光を入射させると、試料流体中の成分によって異なる波長のラマン散乱光が生じる。試料流体中の成分は、ラマン散乱光から分光した波長によって知ることができる。そして、分光した波長により試料流体の組成を求めることができ、試料流体の組成から発熱量を算出することができる。
【0010】
本発明の
以上の各流体組成分析機構においては、励起光の光路上またはその延長線上にラマン散乱光集光光学系が配置されている。このラマン散乱光集光光学系が、測定位置において生じたラマン散乱光を受光部へと集光して入射させる。ラマン散乱光は、励起光の進行方向と平行な方向で強く、直角な方向で弱いという強度分布をもっている。このため、ラマン散乱光の強度が強い方向にラマン散乱光集光光学系を設けたことにより、受光部に導かれるラマン散乱光の強度を高めることができる。
また、本発明の
以上の各流体組成分析機構においては、励起光の光路上またはその延長線上に遮光部材が配置されている。ラマン散乱光の計測の障害となるノイズ光は主に励起光が照射された物質から発生する。そこで、励起光の光路上またはその延長線上に遮光部材を配置することで、励起光の光路において発生するノイズ光がラマン散乱光集光光学系を通って受光部に到達するのを効果的に防ぐことができる。その結果、高いSN比でラマン散乱光を計測することができ、試料流体の組成及び発熱量を高応答で算出することができる。
【0012】
前記第一の態様に係る流体組成分析機構によれば、第1計測窓及び第2計測窓の試料流体に曝される面であり、且つ励起光が照射される位置から、ノイズ光が発生する。そして、これらのノイズ光は第2計測窓の近傍に設けられた第1遮光部材によって効果的にカットされるため、ラマン散乱光を高いSN比で計測することができる。さらに、測定位置から見て第1遮光部材と一致した輪郭を有する第2遮光部材が設けられているから、ラマン散乱光をより高いSN比で計測することができる。より詳しくは、測定位置から見て第2遮光部材は第1遮光部材と一致した輪郭を有する。このため、測定位置から生じたラマン散乱光を第1遮光部材が遮蔽する以上に、第2遮光部材が測定位置から生じたラマン散乱光を遮蔽することがない。その結果、ラマン散乱光の信号強度を低下させることがなく、より多くのノイズ光をカットすることができるから、ラマン散乱光をより高いSN比で計測できる。
【0014】
前記第二の態様に係る流体組成分析機構によれば、第1計測窓及び第2計測窓の、試料流体に曝される面であり、且つ励起光が照射される位置から、ノイズ光が発生する。これらのノイズ光は第2計測窓の近傍に設けられた第1遮光部材によって効果的にカットされるため、ラマン散乱光を高いSN比で計測することができる。さらに、第1計測窓と第2計測窓の間に配置され、励起光の光路以外の部分を遮光する第2遮光部材が設けられているから、ラマン散乱光をより高いSN比で計測することができる。より詳しくは、第2遮光部材は、励起光の光路を遮蔽しないからラマン散乱光の発生を妨げることがない。かつ、第2遮光部材は、第1計測窓の試料流体に曝される面であって励起光が照射される位置から発生したノイズ光が受光部へ入射することを効果的に妨げることができる。そのため、ラマン散乱光の信号強度を低下させることなくノイズ光をカットできるから、ラマン散乱光をより高いSN比で計測できる。
【0016】
受光部に入射するラマン散乱光の大部分は被写界深度で発せられたものであるところ、
前記第三の態様に係る流体組成分析機構によれば、被写界深度の範囲は噴流のポテンシャルコア部内に含まれているので、せん断層における混合によって変動した流体の組成を計測することを回避することができる。したがって、ガスタービンに供給する燃料ガスの発熱量を高応答で計測及び算出することができる。また、小型で安価な計測装置とすることができる。さらに、ノイズ光の影響をより低減させることができるので、ラマン散乱光の計測精度をより向上させることができる。
【0017】
本発明の
第四の態様は、以上の各態様に係る流体組成分析機構であって、励起光の焦点が、
前記第2計測窓の表面であって前記試料流体と接触す
る表面上に位置する。
【0018】
この構成によれば、試料流体と接触する部材の表面であって励起光により照射される部分の面積を最小とすることができる。ノイズ光は主に励起光により照射された部分から発生する。しかし、この構成によればノイズ光が発生する面積を小さくすることができる。そのため遮光部材によって効果的にノイズ光をより容易に除去することができ、ラマン散乱光をより高いSN比で計測できる。
【0019】
本発明の第五の態様に係る流体組成分析機構は、測定位置の試料流体に励起光を照射する光源と、前記励起光が照射された試料流体から生じたラマン散乱光を受光して分光する受光部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記受光部へと集光して入射させるラマン散乱光集光光学系と、前記受光部の出力に基づいて前記試料流体の組成を算出する算出部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置された遮光部材と、
前記励起光の光路上に配置され、前記励起光を前記試料流体が流れる領域へ導く第1計測窓と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記光路と垂直に設けられ、前記励起光を反射する
一方で、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記試料流体が流れる領域の外に配置された前記ラマン散乱光集光光学系へ導く第2計測窓と、を備える。
【0020】
この構成によれば、測定領域の試料流体に対して、光源から入射する励起光と、反射鏡により反射された励起光が照射される。このため、受光部に入射するラマン散乱光のラマン散乱光の強度を向上させることができる。したがって、高応答、高精度で組成及び発熱量を算出することができる。
【0021】
さらに、本発明の
第七の態様に係る発熱量計測装置は、本発明の第一の態様から
第六の態様に係る流体組成分析機構と、前記流体組成分析機構が出力する前記試料流体の組成の情報に基づいて前記試料流体の発熱量を算出する発熱量算出機構と、を備える。
【0022】
本発明の第一の態様から
第六の態様に係る流体組成分析機構は短時間で流体の組成を分析することができる。このため、これを用いた発熱量計測装置は、試料流体の発熱量を高速に算出することができる。
【0023】
さらに、本発明の
第八の態様に係る発電プラントは、燃料ガスを燃料として動作する発電プラントであって、本発明の
第七の態様に係る発熱量計測装置と、前記発熱量計測装置が出力する前記燃料ガスの発熱量の情報に基づいて前記発電プラントの動作を制御する制御装置と、を備え、前記発熱量計測装置に、前記燃料ガスの少なくとも一部が前記試料流体として導かれる。
【0024】
本発明の
第七の態様に係る発熱量計測装置は発電プラントに供給される燃料ガスの発熱量を迅速に計測することができる。そのため、この構成によれば、発電プラントに供給される燃料ガスの発熱量制御を迅速に行うことができ、高発熱量な燃料ガスの過剰な供給を抑制することができる。また、高発熱量の燃料ガスを使用せずに低発熱量の燃料ガスのみを使用して発電プラントを運転することもできる。したがって、発電プラントの運転コストを低減させることができる。
【0025】
本発明の
第九の態様に係る流体組成分析方法は、測定位置の試料流体に励起光を照射する光源と、励起光が照射された試料流体から生じたラマン散乱光を受光して分光する受光部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置され、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記受光部へと集光して入射させるラマン散乱光集光光学系と、前記受光部の出力に基づいて前記試料流体の組成を算出する算出部と、前記励起光の光路上またはその延長線上に配置された遮光部材と、を備える流体組成分析機構を用いた流体組成分析方法であって、前記測定位置を含む前記励起光の光路上の範囲であって、その範囲から発せられた光のうち前記ラマン散乱光集光光学系を通ったものの全てが幾何光学的に前記受光部に入射する範囲である被写界深度を含む、ポテンシャルコア部を有するように前記試料流体を噴射させる工程と、前記光源から前記試料流体が流れる領域へ前記励起光を照射して、前記測定位置において生じた前記ラマン散乱光を前記受光部へ入射させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0026】
上記した流体組成分析機構及び流体組成分析方法においては、ラマン散乱光の強度が強い方向にラマン散乱光集光光学系を設けたことにより、受光部に導かれるラマン散乱光の強度を高めることができる。さらに、励起光の光路上またはその延長線上に遮光部材を配置することで、励起光の光路において発生するノイズ光がラマン散乱光集光光学系を通って受光部に到達するのを効果的に防ぐことができる。これにより、分光手段に受光させるラマン散乱光の強度を高め、かつ、ノイズを低減できる。そのため、試料流体の発熱量を高応答で算出することができる。したがって、この流体組成分析機構を備える発熱量計測装置の応答性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の第一実施形態に係る発熱量計測装置を備えたガス焚き発電プラントの例を示す概略構成図である。
図1に示されているように、BFG焚き複合発電プラント(ガス焚き発電プラント)1は、燃料ガスを燃焼して回転駆動するガスタービン2と、燃料ガスを圧縮するガス圧縮機4と、蒸気によって回転駆動される蒸気タービン5と、電気を発生する発電機(図示せず)と、燃料ガスの発熱量を計測する発熱量計測装置6とを有している。
【0029】
本実施形態では一軸式のBFG焚き複合発電プラントを用いて説明する。しかし、本発明の実施の形態は一軸式複合発電プラントに限定されるものではなく、ガスタービン単独の発電プラント、或いは二軸式、多軸式の発電プラントにも適用可能である。
【0030】
発熱量計測装置6は、ラマン散乱光を用いて燃料ガス(試料流体)の発熱量を計測する装置である。発熱量計測装置6により得られた発熱量の情報は、制御装置7へと入力される。制御装置7は、この情報に基づいてBFG焚き複合発電プラント1の動作を制御する。一方、発熱量計測装置6によって発熱量が計測された燃料ガスは、ガス圧縮機4へと導かれる。
【0031】
ガス圧縮機4は、燃料ガスを圧縮する装置である。ガス圧縮機4には、回転軸3が接続されている。回転軸3は、図示しない歯車装置を介してガスタービン2および蒸気タービン5に接続されている。
【0032】
ガス圧縮機4によって圧縮された燃料ガスは、ガスタービン2へと導かれる。
ガスタービン2は、図示しない、空気圧縮機と、燃焼器と、タービンとを備える。空気圧縮機は、燃焼器へと高圧空気を送り出す。燃焼器は、高圧空気と燃料ガスの混合気を燃焼させて燃焼ガスを生成する。タービンは、空気圧縮機と同軸に設けられており、燃焼器から排出された燃焼ガスのエネルギーを回転エネルギーに変換する。この回転エネルギーの一部は空気圧縮機が高圧空気を生み出すために使われ、残りのエネルギーは回転軸3を回転させて駆動させるために用いられる。
【0033】
回転軸3の端部には、発電機が接続されている。そのため、タービンが回転軸3を回転させることにより、発電機が発電する。また、回転軸3の回転によって、前述したように歯車装置を介してガス圧縮機4が回転駆動される。
【0034】
タービンを通った燃焼ガスは、排ガス回収ボイラ(図示せず)へと導かれる。排ガス回収ボイラは、ガスタービン2から導かれた燃焼ガスの熱によって蒸気を発生する装置である。排ガス回収ボイラにおいて蒸気を発生させた燃焼ガスは、煙突(図示せず)から複合発電プラント1の外へと排出される。
【0035】
排ガス回収ボイラにおいて、ガスタービン2から導かれた高温の燃焼ガスにより発生した蒸気は、蒸気タービン5へと供給される。蒸気タービン5は、ガスタービン2と同じ回転軸3に接続されており、いわゆる一軸式のコンバインドシステムを構成している。なお、一軸式のコンバインドシステムに限らず、別軸式のコンバインドシステムであっても構わない。
【0036】
タービンによって回転駆動される回転軸3は、蒸気タービン5によって駆動力が増加する。そのため、回転軸3が接続されている発電機の発電量が増加する。また、回転軸3に接続されている歯車装置を介して、ガス圧縮機4が回転駆動される。
【0037】
蒸気タービン5を回転駆動した蒸気は、復水器(図示せず)へと導かれる。蒸気タービン5を回転駆動した蒸気は、復水器によって冷却されて水に戻される。復水器によって戻された水は、排ガス回収ボイラへと導かれる。
【0038】
次に、本発明の第一実施形態に係る発熱量計測装置について説明する。
図2に計測ユニットの概略構成図の例を示す。計測ユニットは、ラマン散乱光を用いて燃料ガスの組成及び発熱量を計測する装置である。
【0039】
計測ユニットは、測定ガス(燃料ガス)を導入するケーシング11を備える。ケーシング11には、燃料ガスが導入される導入口と、計測領域内を通過した燃料ガスをケーシング11から導出する導出口とが開口している。また、計測ユニットは一定波長の励起光をケーシング11内の計測領域内の燃料ガスに入射する送光用光ファイバー12(光源)を備える。
送光用光ファイバー12が設けられている側のケーシング11の側壁11aには、励起光を通過させる第1計測窓14が、励起光と同軸に設けられている。また、送光用光ファイバー12と第1計測窓14との間には、励起光を通過させる絞り13が励起光と同軸に設けられている。
【0040】
一方、送光用光ファイバー12が設けられている側のケーシング11の側壁11aの反対側の側壁11bには、第2計測窓15が、励起光と同軸かつ垂直に設けられている。この第2計測窓15は、励起光を反射しラマン散乱光を透過させる特性を有する。また、第2計測窓15は、送光用光ファイバー12によってケーシング11内に入射された励起光を垂直に反射する一方で、ラマン散乱光を透過する。また、励起光の延長線上には、ラマン散乱光を受光する受光用光ファイバー17(受光部)が、励起光の延長線と同軸に設けられている。
また、第2計測窓15と受光用光ファイバー17との間には、2枚の平凸レンズからなる集光レンズ16(ラマン散乱光集光光学系)が励起光の延長線と同軸に設けられている。そして、二つの計測窓14,15で挟まれた空間であって、励起光の照射を受ける位置である測定点A(測定位置;励起光の光路上の点であって、受光用光ファイバー17の受光面を物点とした場合の集光レンズ16の像点)からのラマン散乱光を受光用光ファイバー17に集光する。(後述するが、正確には集光レンズ16は測定点Aからのラマン散乱光のみを受光用光ファイバー17に集光するわけではない。励起光の光路上であって測定点Aの近傍で発生したラマン散乱光も、一定の割合で受光用光ファイバー17に集光される。しかし、説明の都合上、まずは測定点Aからのラマン散乱光に着目する。)この集光レンズ16は、ラマン散乱光の波長のみを透過させるフィルタ20を備えている。
【0041】
受光用光ファイバー17には、分光算出手段21(算出部)が接続されている。分光算出手段21は、受光用光ファイバー17によって検出されたラマン散乱光を分光し、各成分のラマン散乱光強度から燃料ガスの組成及び発熱量を算出する。
【0042】
第2計測窓15の外側には第1遮光部材18(遮光部材)が設けられている。また、集光レンズ16の内部には第2遮光部材19が設けられている。第1遮光部材18及び第2遮光部材19は、円形状を有しており、励起光または励起光の延長線と同軸に配置されるとともに、各遮光部材が設置されている領域の光は透過しない機能を有する。また、第1遮光部材18と第2遮光部材19とは、測定点Aから見て同一の輪郭を有するように配置される。より詳しくは、第1遮光部材18の半径をR18、第2遮光部材19の半径をR19とする。さらに、
図2に示すように、入射方向における測定点Aと第1遮光部材18との距離をaとし、入射方向における測定点Aと第2遮光部材19との距離をbとすると、R18/R19=a/bの関係を有する。すなわち、第2遮光部材19は第1遮光部材18より大きな半径を有する。例えば、第1遮光部材18の半径が5mm、距離aが50mm、距離bが100mmの場合には、第2遮光部材19の半径は10mmとなる。
【0043】
次に、本発明の第一実施形態に係る発熱量計測装置の作用について説明する。
本発明の第一実施形態に係る発熱量計測装置において燃料ガスの発熱量を計測する工程を説明する。まず、ケーシング11に設けられた導入口と導出口を開き、ケーシング11の計測領域内に試料流体となる燃料ガスを導入する。
次いで、送光用光ファイバー12により一定の波長を有する励起光を送出する。送光用光ファイバー12から送出された励起光は、絞り13と計測窓14を透過し、ケーシング11内の計測領域内に導入された燃料ガス、特に測定点Aを流れる燃料ガスを照射する。また、計測窓15に達した励起光は、入射してきた方向と同じ方向へ垂直に反射され、再び測定点Aを流れる燃料ガスを照射する。この構成により、測定点Aを流れる燃料ガスを照射する励起光の強度を増加させることができる。そのため、測定点Aにおいて生じるラマン散乱光の強度を増加させ、計測に要する時間を短縮することができる。その結果、高応答にて試料流体の組成及び発熱量を算出することができる。
【0044】
送光用光ファイバー12から計測領域内の燃料ガスに入射された励起光は、様々な波長のラマン散乱光を生じる。ラマン散乱光は、燃料ガス中の各成分に特有な振動エネルギーによって異なる波長を生じる散乱光である。また、ラマン散乱光の強度は、励起光の入射軸方向の前方方向(以下、「前方側ラマン散乱光」という。)および後方方向(以下、「後方側ラマン散乱光」という。)が大きいことが知られている。
測定点Aにおける燃料ガスが送光用光ファイバー12からの励起光に照射されて前方側ラマン散乱光が生じる。また、測定点Aにおける燃料ガスが計測窓15に反射された励起光に照射されて後方側ラマン散乱光が生じる。前方側ラマン散乱光と後方側ラマン散乱光とは、計測窓15を透過してケーシング11の外側に導かれる。測定点Aから生じたラマン散乱光は、フィルタ20にてラマン散乱光以外の光が除去された後、集光レンズ16によって受光用光ファイバー17に集光されて入射する。
【0045】
集光レンズ16によって集光されたラマン散乱光は、受光用光ファイバー17によって分光算出手段21に導かれ、燃料ガスの成分に応じた波長のラマン散乱光に分光される。さらに、分光算出手段21は分光された各波長のラマン散乱光の強度から、燃料ガスの組成及び発熱量を算出する。燃料ガスの組成及び発熱量を算出する機構については後に詳述する。
【0046】
次に、第1計測窓14及び第2計測窓15から発生するノイズ光を除去する機構を、
図3を参照して説明する。第1計測窓14及び第2計測窓15が燃料ガスなどにより汚れると、第1計測窓14及び第2計測窓15における励起光照射部分(中央部分)でノイズ光が発生する。ラマン散乱光は微弱であり、ノイズ光を計測すると計測精度が低下する。そのため、計測に際してノイズ光を除去する機構は重要である。
【0047】
第1計測窓14は集光レンズ16から測定点Aより遠方に配置されている。一方、第2計測窓15は集光レンズ16から測定点Aより近傍に配置されている。そのため、集光レンズ16から見た場合、第1計測窓14のノイズ発生部と第2計測窓15のノイズ発生部の視野角は異なり、第1計測窓14のノイズ発生部からの視野角θは小さく、第2計測窓15のノイズ発生部からの視野角φは大きい。本実施形態では、第1遮光部材18及び第2遮光部材19の2種類を備えているため、第1計測窓14からのノイズ光は第2遮光部材19により効率よく除去される。一方、第2計測窓15からのノイズ光は第1遮光部材18により効率よく除去される。
【0048】
これを、
図4A〜
図4Cを参照して、さらに説明する。
図4Aに示すように、第1遮光部材18及び第2遮光部材19が設けられていない場合、第2計測窓15の測定ガス側の表面であって励起光に照射される位置(以下、「ノイズ発生点Y」という。)から発生するノイズ光は、遮光部材によって遮られることなく集光レンズ16に入射する。ここで、集光レンズ16は、測定点Aからの光を受光用光ファイバー17に集光するように構成されている。そのため、測定点Aよりも集光レンズ16に近い位置であるノイズ発生点Yから生じたノイズ光は、受光用光ファイバー17へと集められることはない。しかし、ノイズ発生点Yから発生したノイズ光のうち、励起光と平行に近い角度を持つノイズ光については、集光レンズ16の光軸近傍を通過するため、屈折による転向量が小さく、受光用光ファイバー17へと入射する。
また、第1計測窓14の測定ガス側の表面であって、励起光に照射される位置(以下、「ノイズ発生点X」という。)から発生するノイズ光は、遮光部材によって遮られることなく集光レンズ16に入射する。ここで、集光レンズ16は、測定点Aからの光を受光用光ファイバー17に集光するように構成されている。これにより、集光レンズ16からみて測定点Aよりも遠い位置であるノイズ発生点Xから生じたノイズ光は、集光レンズ16と受光用光ファイバー17との間の位置に集光され、受光用光ファイバー17へと集められることはない。しかし、ノイズ発生点Xから発生したノイズ光のうち、励起光と平行に近い角度を持つノイズ光については、集光レンズ16の光軸近傍を通過するため、屈折による転向量が小さく、受光用光ファイバー17へと入射する。
【0049】
次に、
図4Bに遮光部材18のみを設けた場合を示す。ノイズ光を効率よく遮光するためには、ノイズ光が発生する位置の近傍に遮光部材を設ければよい。このように構成することで、小さな遮光部材を用いても広い角度の範囲に照射されるノイズ光を除去することができる。
図4Bに示すように、第1遮光部材18は、励起光の延長線上であって第2計測窓15の近傍に設けられているから、第2計測窓15の測定ガス側表面に位置するノイズ発生点Yからのノイズ光を、小さな面積で効率よく遮光することができる。特に、ノイズ発生点Yから発生したノイズ光のうち、励起光と平行に近い角度を持ち、受光用光ファイバー17へと入射するノイズ光について、第1遮光部材18は、このノイズ光を確実に遮光し、受光用光ファイバー17へと入射することを妨げることができる。小さな面積の第1遮光部材18でノイズ光を遮光できるので、計測対象であるラマン散乱光が第1遮光部材によって大きく遮光されてしまうこともない。
一方で、ノイズ発生点Xからのノイズ光についても、第1遮光部材18はこのノイズ光を効果的に遮光することができる。すなわち、第1遮光部材18はノイズ発生点Xから離れているため、ノイズ発生点Xからのノイズ光を広い角度範囲で遮ることはできない。しかし、ノイズ発生点Xから発生するノイズ光のうち、実際に集光レンズ16を通って受光用光ファイバー17に到達するノイズ光は、励起光と平行に近い角度を持つノイズ光のみである。第1遮光部材18は、励起光の延長線上に設けられているから、ラマン散乱光の計測にあたって実際に障害となるノイズ光を効率よく遮光することができる。小さな面積の第1遮光部材18でノイズ光を遮光できるので、計測対象であるラマン散乱光が第1遮光部材によって大きく遮光されてしまうこともない。
このように、本実施形態においては、強いノイズ光が発生するのは第1計測窓14及び第2計測窓15の燃料ガス側表面における励起光が照射された部分であるという新たな知見に基づき、励起光の延長線上に第1遮光部材18を配置することでノイズ光を効率よく遮光できる。第1遮光部材18の配置によって、強い強度を持つ前方側ラマン散乱光と後方側ラマン散乱光を集光して分光算出手段21へと導き、かつこれらラマン散乱光を大きく遮光することなくノイズ光を遮光できる。そのため、高いSN比でラマン散乱光を計測することができ、計測に要する時間を短縮することができる。その結果、試料流体の組成及び発熱量を高応答にて算出することができる。
【0050】
次に、
図4Cに、第1遮光部材18に加えて第2遮光部材19も設けた場合を示す。
図4Cに示すように、第2遮光部材19は、励起光の延長線上であって第1遮光部材18よりも受光用光ファイバー17側に設けられている。また、前述したとおり、第2遮光部材19は、測定点Aから見て第1遮光部材18と同一の輪郭を有するように配置される。そのため第2遮光部材19は、測定点Aにおいて発生し集光レンズ16に向かうラマン散乱光を、第1遮光部材18が遮光するよりも広い範囲で遮光することがない。
そして、第2遮光部材19は、ノイズ発生点Xからのノイズ光をより低減させることができる。前述のとおり、ノイズ発生点Xからのノイズ光のうち実際に集光レンズ16を通って受光用光ファイバー17へと入射するノイズ光は、第1遮光部材18で遮光される。しかし、それらのノイズ光よりも僅かに大きな角度を持つノイズ光は受光用光ファイバー17の近傍に到達し、計測に悪影響を与える可能性がある。第2遮光部材19は、計測対象であるラマン散乱光を新たに遮ることなく、このノイズ光を遮り、より確実にノイズ発生点Xからのノイズ光が受光用光ファイバー17へと入射することを防ぐことができる。そのため、より高いSN比でラマン散乱光を計測することができ、計測に要する時間を短縮することができる。その結果、試料流体の組成及び発熱量を高応答にて算出することができる。
【0051】
また、第1計測窓14及び第2計測窓15から生じるノイズ光の領域を小さくすることもノイズ除去を行う上で重要である。励起光が第1計測窓14及び第2計測窓15に照射される部分を最小限とするよう、励起光は第2計測窓15表面で焦点を結ぶように入射される。これにより、第1遮光部材18及び第2遮光部材19によって、さらに効率よくノイズ光を遮光することができる。この結果、高いSN比でラマン散乱光を計測することができる。
【0052】
次に、燃料ガスの組成及び発熱量を算出する機構について詳述する。
図5は、燃料ガスの各成分に一定の波長の励起光を入射させた場合におけるラマンシフト量と、ラマン散乱光波長を示した図である。
図5が示すようにラマンシフト量によって燃料ガスに含まれている成分を知ることができ、各波長のラマン散乱光強度より、成分の濃度を求めることができる。
【0053】
図6は、ケーシング11内に空気を導入した場合において、405nmの励起光を照射し、第1遮光部材18及び第2遮光部材19が設けられている場合と、第1遮光部材18及び第2遮光部材19が設けられていない場合にラマン散乱光を計測した結果の比較を示した図である。空気内の成分である窒素(N
2:447.2nm)、酸素(O
2:432.7nm)、水蒸気(H
2O:475.5nm)のラマン散乱光が確認できる。第1遮光部材18及び第2遮光部材19が設けられていない場合には、各ラマン散乱光の波長以外にノイズ光が検知されている。すなわち、第1遮光部材18及び第2遮光部材19を設けることによりノイズ光を低減し、精度の良い計測が可能となることが確認できる。
【0054】
次に、燃料ガスの発熱量の検出方法と算出方法について説明する。
燃料ガスに励起光を入射することによってラマン散乱光が生じる。ラマン散乱光は、燃料ガス中の各成分に特有な振動エネルギーによって異なる波長を生じる散乱光である。そのため、励起光の波長とラマン散乱光の波長との差であるラマンシフト量は、成分毎に特有であることが知られている。
【0055】
第1計測窓14及び第2計測窓15が汚れると、受光用光ファイバー17により伝送された各波長のラマン散乱光の強度は低下する。この影響を補正するため、混合ガスの主成分、例えば窒素(N
2)のラマン散乱光強度であるIN
2を基準として、他の成分のラマン散乱光の強度との比をとった相対値ICO/IN
2、ICO
2/IN
2、IH
2O/IN
2、IH
2/IN
2、ICH
4/IN
2を用いることがよく知られている。これにより、ラマン散乱光用の第2計測窓15の汚れの影響を減らすことができる。
【0056】
図7は、例として、入射光として405nmの波長の励起光を、二酸化炭素(CO
2)、窒素(N
2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH
4)、水蒸気(H
2O)、水素(H
2)を含む燃料ガスに入射させた場合における計測結果を示している。
図7において、横軸は各成分のラマン散乱光の波長を示し、縦軸は各成分を窒素成分のラマン散乱光の強度IN
2によって正規化した相対信号強度を示している。
【0057】
燃料ガスの発熱量は、各成分のラマン散乱光の波長の相対信号強度と、各成分のモル分率と、を用いることによって算出することが知られている。
数1に示す式(1)は、燃料ガスが前項の成分であった場合の燃料ガスの高位発熱量(HHV)を求める式の例である。また、数2に示す式(2)は、燃料ガスの低位発熱量(LHV)を求める式の例である。
【0060】
なお、HHVは、燃料ガス中の水分及び燃焼によって生成された水分の凝縮熱を発熱量として含む発熱量(kcal/m
3N)である。LHVは、凝縮熱を含まない燃料ガス中の発熱量(kcal/m
3N)である。また、CN
2、CCO、CCO
2、CH
2O、CH
2、CCH
4は、それぞれ以下に示す式(3)から式(8)によって求められる各成分N
2、CO、CO
2、H
2O、H
2、CH
4のモル分率である。なお、以下の数3から数8に示す式(3)から式(8)のαは各成分の校正定数である。
【0067】
分光算出手段21によって、分光された燃料ガス中の各成分N
2、CO、CO
2、H
2O、H
2、CH
4に由来するラマン散乱光の強度から、窒素成分IN
2に対する相対強度値ICO/IN
2、ICO
2/IN
2、IH
2O/IN
2、IH
2/IN
2、ICH
4/IN
2が算出される。さらに分光算出手段21は、算出された各成分の相対強度値ICO/IN
2、ICO
2/IN
2、IH
2O/IN
2、IH
2/IN
2、ICH
4/IN
2と、前述した式(1)から式(8)を用いて燃料ガスの発熱量HHV(又はLHV)を算出する。このようにして、ガスタービン2(
図1参照)に導かれる燃料ガスの発熱量HHV(又はLHV)が算出される。
本実施形態に係る発熱量計測装置を用いて燃料ガスの発熱量を計測することによって、燃料ガスの発熱量を短時間で知ることができる。
【0068】
得られた燃料ガスの発熱量の情報は、発電プラントの動作を制御する制御装置7へと送られる。制御装置7は、例えば、燃料ガスの発熱量が所定の値を下回る場合には、燃料ガスに適宜COGを混合させて燃料ガスを増熱したり、低発熱量の燃料ガスでの運転に適した値へとガスタービン2の制御設定値を変更したりする。そのため、燃焼器に供給される燃料ガス中において、高発熱量の燃料ガスの過剰な供給を制御することができる。或いは、高発熱量の燃料ガスを使用せずに低発熱量の燃料ガスのみを使用して発熱量を制御することもできる。したがって、BFG焚き複合発電プラント(ガス焚き発電プラント)1の運転コストを低減させることができる。
【0069】
以上、本発明の一態様の技術思想について第一実施形態に則して説明したが、当該技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、第一実施形態では第2遮光部材19を設けた例を示した。しかし、第2遮光部材19を設けなくても十分なノイズ光除去効果は得られるうえ、装置をより簡便な構成とすることもできる。
【0070】
また、本実施形態では受光用光ファイバー17を励起光の延長線と同軸に設けた例を示した。しかし、これに限定されず、受光用光ファイバー17に入射するラマン散乱光の焦点が受光用光ファイバー17の受光面上に位置するように設置されていればよい。具体的には、例えば
図8Aに示すように、励起光の延長線上で集光レンズ16と受光用光ファイバー17との間に、鏡やプリズムなどの光転向部材22を設置してもよい。こうすることで、ラマン散乱光の入射する方向を転向させて、受光用光ファイバー17を励起光の延長線上で同軸に設けない構成とすることもできる。さらに、
図8Bに示すように、ラマン散乱光を光転向部材22で転向させた後に、例えば、凹レンズ23や凸レンズなどを設けて、これにより集光レンズ16から、受光用光ファイバー17が設けられる焦点位置までの距離を変更させる構成としてもよい。これらの構成とすることで、受光用光ファイバー17を設置する位置の自由度を高めることができる。
【0071】
次に、本発明の第二実施形態に係る発熱量計測装置について、
図9を参照しながら説明する。なお、第一実施形態と共通する部分については説明を省略する。
本発明の第二実施形態に係る発熱量計測装置は、
図9に示すように、第1遮光部材18及び第2遮光部材19を、励起光の光路上またはその延長線上に配置、即ち、第2計測窓15の後方(第1遮光部材18)と、第1計測窓14と第2計測窓15の間(第2遮光部材19)に設置した例である。第2遮光部材19は励起光の光路と同軸の遮光領域を有し、これにより励起光の光路以外の部分を遮光し、第1計測窓14からのノイズ光を除去する。一方、第1遮光部材18は励起光の光路と同軸の遮光領域を有し、第2計測窓15からのノイズ光を除去する部材であり、この構成により
図3に示した第一実施形態の計測ユニット構成と同様なノイズ光除去効果を得ることができる。
【0072】
以上、本発明の一態様の技術思想について第二実施形態に則して説明したが、当該技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、第二実施形態では二つの遮光部材を設けているが、さらにこれに加えて第一実施形態における第2遮光部材19を追加して設置し、三つの遮光部材を設ける構成としてもよい。
【0073】
次に、本発明の第三実施形態に係る発熱量計測装置について、
図10を参照しながら説明する。なお、第一実施形態と共通する部分については説明を省略する。
本発明の第三実施形態に係る発熱量計測装置は、
図10に示すように、ケーシング11内へ試料流体としての燃料ガスG1が導入される導入口に、燃料ガスGG1を供給する供給手段を備えた例である。供給手段は、導入口から燃料ガスG1を噴射させる噴射孔11cと、噴射孔11cをケーシング11に接続させる側壁11dと、噴射孔11cに所望の流量及び圧力で燃料ガスG1を供給する図示しない供給部とを有する。噴射孔11cは、燃料ガスG1の流れ方向から見てケーシング11の中央部に一つ設けられた所定の流路断面積を有する断面視円形状の直管である。側壁11dは、噴射孔11cの下流端と側壁11a,11bの上流端との間で平板状に設けられ、かつ、噴射孔11c及び側壁11a,11bに対してそれぞれ垂直となるように接続されている。
【0074】
また、噴射孔11c及び側壁11dの下流側近傍に測定点Aが位置するように、送光用光ファイバー12、絞り13、第1計測窓14、第2計測窓15、集光レンズ16、受光用光ファイバー17、第1遮光部材18、第2遮光部材19、及びフィルタ20が設けられている。この際、第1計測窓14と第2計測窓15との間(距離Wの範囲内)で測定点Aを含んで、後述するポテンシャルコア部Gpを有するように、燃料ガスG1を噴射させる噴射孔11c、側壁11d及び図示しない供給部を含む供給手段を構成する。具体的には、供給部により燃料ガスG1の供給する流量や圧力を調整し、また、噴射孔11c及び側壁11dの配置や形状を設定することにより、供給手段から噴射される燃料ガスG1のポテンシャルコア部Gpが測定点Aを含むように供給手段が構成される。
【0075】
次に、本発明の第三実施形態に係る発熱量計測装置の作用について説明する。
ケーシング11の導入口に新たな燃料ガスG1が供給されると、噴射孔11cからケーシング11内へ燃料ガスG1が噴射される。噴射された燃料ガスG1は、ある流速をもった噴流となってケーシング11の導出口に向けて下流側へと流れていく。一方、ケーシング11内には既にケーシング11内に噴射された燃料ガスの一部であって下流側へ流れることなく滞留している燃料ガスG2が残存している。
【0076】
よって、燃料ガスG2よりも大きな流速を有する燃料ガスG1が噴射されると、燃料ガスG1と燃料ガスG2との流速差によりせん断力が発生する。これにより、燃料ガスG1と燃料ガスG2との境界面には、流体が不安定な状態であるせん断層Gsが形成される。このせん断層Gsにおいては、燃料ガスG1と燃料ガスG2とが互いに渦を形成しながら下流側に向かって徐々に混合されていく非定常な状態となっている。したがって、せん断層Gsでの燃料ガスの流速は噴射直後の燃料ガスG1の流速とは異なり、通常は徐々に遅くなっていく。また、せん断層Gsは燃料ガスG1と燃料ガスG2とが混合しながら、下流側へ流れるにしたがって徐々にその領域を拡大していく末広がり形状となる。
【0077】
一方、この流速差によるせん断力は燃料ガスG1と燃料ガスG2との境界面において発生するが、噴射孔11cの出口に近いほどせん断力の影響は小さくなる。よって、噴射されてからある一定の距離までは、燃料ガスG1の噴流はせん断力の影響を受けずに安定した状態で、噴射直後の流速が一様に保存された定常状態の領域、所謂、ポテンシャルコア部Gpが形成されることとなる。また、下流側へ流れるにしたがってせん断層Gsが徐々にその領域を拡大するのに対して、ポテンシャルコア部Gpの領域は徐々に縮小されていく。即ち、ポテンシャルコア部Gpは下流に向けて先細り形状となり、本実施形態では略円錐形状となっている。なお、噴流の流れ方向においてポテンシャルコア部Gpが形成される距離は、燃料ガスG1及び燃料ガスG2の流速や密度などによって変動する。
【0078】
また、供給される燃料ガスは常にその発熱量が一定であるとは限らないため、燃料ガスG1及び燃料ガスG2の発熱量も常に同じとは限らない。よって、せん断層Gsはせん断力により形成された渦によって燃料ガスG1と燃料ガスG2が混合されることで発熱量が徐々に変動する燃料ガスが流れる非定常な状態の領域となる。さらには、せん断層Gsの燃料ガスはガスタービン2に供給しようとしている燃料ガスG1とは異なる発熱量となっている。したがって、ガスタービン2の出力変動を抑制する観点から、このせん断層Gsにおいて燃料ガスの発熱量を計測するよりも、ポテンシャルコア部Gpにおいて燃料ガスの発熱量を計測することが好ましい。本実施形態ではポテンシャルコア部Gpにおいて燃料ガスの発熱量を計測可能に構成されている。
【0079】
ここで、前述したとおり受光用光ファイバー17に集光されるラマン散乱光は測定点Aから生じたものだけではなく、励起光の光路上で測定点Aの近傍の位置で発生したラマン散乱光も一定の割合で受光用光ファイバー17に集光される。これについて、励起光の光路上の位置と、その位置で生じたラマン散乱光の集光率との関係を、
図10および
図11を参照して説明する。
【0080】
図10に示すように、励起光の光路上(入射方向)における測定点Aと集光レンズ16との距離をL、集光レンズ16の口径をDとすると、集光レンズ16で集光されて受光用光ファイバー17によって検知されるラマン散乱光の集光率(
図11の縦軸)と、口径Dで無次元化した距離L(
図11の横軸)との関係は、
図11に示すような関係となる。ここで、ラマン散乱光の集光率は、ある位置で発生したラマン散乱光であって集光レンズ16に入射するもののうち、幾何光学的に受光用光ファイバー17に到達するものの割合である。
【0081】
図11から、測定点Aを含むある特定の範囲(
図11の場合は、L/Dが約1.93から約2.07の範囲)内では集光率が100%となる。この、励起光の光路上の測定点Aを含む範囲であって、そこから発せられた光で集光レンズ16を通ったもの全てが幾何光学的に受光用光ファイバー17に集光される範囲を、本明細書において「被写界深度R」と称する。
一方で、被写界深度Rの範囲外で生じたラマン散乱光は、集光レンズ16を通っても全てが受光用光ファイバー17に集光されるわけではなく、そのため被写界深度Rから離れた位置では急激に集光率が低下してしまうことが確認できる。
集光率がこのような分布を持つため、受光用光ファイバー17で検出される光の大部分は、この被写界深度Rから発せられるラマン散乱光で占められる。
【0082】
ここで、被写界深度Rの範囲と受光用光ファイバー17におけるラマン散乱光の集光率との関係について
図12を参照して説明する。
被写界深度Rの範囲に含まれ、励起光の光路上における測定点Aから発せられたラマン散乱光30の光路を実線で示す。この測定点Aからのラマン散乱光30は、集光レンズ16により集光されて受光用光ファイバー17の受光面上で焦点を結ぶため、その全てが受光用光ファイバー17に集光される。即ち、集光率は100%となる。なお、
図12では、2枚の平凸レンズからなる集光レンズ16を1枚のレンズに簡略化して図示するとともに、それ以外の計測窓14,15や遮光部材18,19、フィルタ20などは便宜上、その図示を省略している。
【0083】
次に、励起光の光路上における測定点Aよりも送光用光ファイバー12側(
図12における左側)で、被写界深度Rの範囲のうちの下限点R
1から発せられたラマン散乱光31の光路を一点鎖線で示す。この下限点R
1からのラマン散乱光31は、集光レンズ16により集光されて受光用光ファイバー17の受光面よりも少し手前側(
図12における左側)で焦点を結ぶこととなる。しかしながら、受光用光ファイバー17の受光面の位置における、励起光の光路と直交する方向でのラマン散乱光31の広がり程度は比較的小さく、その幅は受光用光ファイバー17の受光面の幅とほぼ同じとなる。よって、この下限点R
1は、そこからのラマン散乱光31の全てが受光用光ファイバー17に集光される、即ち、集光率が100%となる下限位置となる。
【0084】
同様に、励起光の光路上における測定点Aよりも受光用光ファイバー17側(
図12における右側)で、被写界深度Rの範囲のうちの上限点R
2から発せられたラマン散乱光32の光路を一点鎖線で示す。この上限点R
2からのラマン散乱光32は、集光レンズ16により集光されて受光用光ファイバー17の受光面よりも少し奥側(
図12における右側)で焦点を結ぶこととなる。しかしながら、受光用光ファイバー17の受光面の位置における、励起光の光路と直交する方向でのラマン散乱光32の広がり程度は比較的小さく、その幅は受光用光ファイバー17の受光面の幅とほぼ同じとなる。よって、この上限点R
2は、そこからのラマン散乱光32の全てが受光用光ファイバー17に集光される、即ち、集光率が100%となる上限位置となる。
【0085】
また、被写界深度Rの範囲に含まれ、励起光の光路上における測定点Aと下限点R
1との間、及び、測定点Aと上限点R
2との間から発せられたラマン散乱光(光路は不図示)も、ラマン散乱光31及び32と同様に、集光レンズ16により集光される。この際、ラマン散乱光31及び32に比較して受光用光ファイバー17の受光面により近い位置で焦点を結ぶこととなる。よって、受光用光ファイバー17の受光面の位置における、励起光の光路と直交する方向でのラマン散乱光の広がり程度がラマン散乱光31及び32よりも小さくなり、その幅は受光用光ファイバー17の受光面の幅よりも小さくなる。したがって、測定点Aと下限点R
1との間、及び、測定点Aと上限点R
2との間からのラマン散乱光においても、その全てが受光用光ファイバー17に集光される、即ち、集光率が100%となる。
【0086】
一方で、励起光の光路上における下限点R
1よりも送光用光ファイバー12側(
図12における左側)、及び、上限点R
2よりも受光用光ファイバー17側(
図12における右側)となる被写界深度Rの範囲外から発せられたラマン散乱光も、同様に集光レンズ16により集光される。例えば、被写界深度Rの範囲外に位置する点R
3及びR
4から発せられたラマン散乱光33及び34の光路を点線で示す。しかしながら、この場合のラマン散乱光33及び34は、ラマン散乱光31及び32よりも更に手前側及び奥側、即ち、受光用光ファイバー17の受光面から更に遠い位置で焦点を結ぶこととなる。よって、受光用光ファイバー17の受光面の位置における、励起光の光路と直交する方向でのラマン散乱光33及び34の広がり程度が、ラマン散乱光31及び32に比較して大きくなり、その幅は受光用光ファイバー17の受光面の幅よりも大きくなる。したがって、ラマン散乱光33及び34が広がりすぎることで、受光用光ファイバー17の受光面にはラマン散乱光33及び34の一部しか集光されない。即ち、集光率が100%よりも低下してしまう。また、
図12のグラフにも示すように、被写界深度Rの範囲の下限点R
1及び上限点R
2から、送光用光ファイバー12側(
図12における左側)及び受光用光ファイバー17側(
図12における右側)に遠ざかるにしたがって、集光率がより低下してしまうことは前述の通りである。
【0087】
以上のとおり、被写界深度Rは、励起光の光路上において、集光レンズ16(ラマン散乱光集光光学系)及び受光用光ファイバー17の幾何光学的関係に基づいて定まる範囲である。よって、これらの幾何光学的関係を保てば被写界深度Rは不変であり、これはケーシング11の形状及び寸法や、燃焼ガスの流れの様相などに依存しない。
【0088】
したがって、
図10に示すように、励起光の光路上におけるポテンシャルコア部Gpの幅Pを、被写界深度Rよりも大きく設定すれば、受光部に入射するラマン散乱光の大部分がポテンシャルコア部Gp内から生じたものであるように計測装置を構成できる。これにより、せん断層Gsにおける混合によって変動してしまった燃料ガスの組成を計測することを回避することができる。よって、ガスタービン2に供給しようとしている燃料ガスG1の発熱量そのものを高応答で計測及び算出することができる。したがって、ガスタービン2の出力変動の抑制における応答性の向上を図ることができる。
【0089】
また、本実施形態においては、噴射孔11c及び側壁11dの下流側近傍に測定点Aが位置するように、送光用光ファイバー12、絞り13、第1計測窓14、第2計測窓15、集光レンズ16、受光用光ファイバー17、第1遮光部材18、第2遮光部材19、及びフィルタ20を設けている。しかしながら、測定点Aよりも下流側におけるケーシング11は、上流側の流れに影響を及ぼさない範囲内であれば、さらに詳述すれば、励起光の光路上におけるポテンシャルコア部Gpの幅Pに影響を及ぼさない限りは、その形状や寸法を自由に変更することができる。また、ケーシング11の流路断面積が拡大または縮小する形状としても構わない。よって、小型で安価な計測装置とすることができる。
【0090】
また、本実施形態においては、第1計測窓14と第2計測窓15との間で測定点Aを含んでポテンシャルコア部Gpを有するようにして、燃料ガスG1を噴射させる噴射孔11cを備えている。これにより、計測領域内を通過した燃料ガスなどで汚れた第1計測窓14及び第2計測窓15に励起光が照射されたことにより発生するノイズ光の影響をより低減させることができる。よって、ラマン散乱光の計測精度をより向上させることができる。
【0091】
これを、
図13を参照して、さらに説明する。
図13は、第1計測窓14と第2計測窓15との距離Wとノイズ光の相対強度との関係を示すグラフである。
図13において、横軸は第1計測窓14と第2計測窓15との距離Wを集光レンズ16の口径Dで無次元化した値を示し、縦軸は460nmから470nmのノイズ光を窒素成分のラマン散乱光の強度IN
2によって正規化した相対強度を示している。
【0092】
図13から、集光レンズ16の口径Dが同じであれば、第1計測窓14と第2計測窓15との距離Wが小さいほど、ノイズ光の相対強度が高くなる。逆に、距離W=1.5D付近でノイズ光の相対強度が急激に減少し、さらに距離Wが大きくなるほど、ノイズ光の相対強度が低くなることが確認できる。即ち、励起光の光路上における第1計測窓14と第2計測窓15との距離Wを大きくするにしたがって、ノイズ光を発生する第1計測窓14及び第2計測窓15が測定点Aから遠ざかることとなるので、微弱なラマン散乱光に対するノイズ光の影響をより低減させることができる。よって、ラマン散乱光の計測精度をより向上させることができる。
【0093】
したがって、本実施形態のように、励起光の光路上における、第1計測窓14と第2計測窓15との距離W、燃料ガスG1の噴流のポテンシャルコア部Gpの幅P、及び、被写界深度Rの関係を、W>P>Rとなるように、ケーシング11の側壁11a,11b,11dと噴射孔11c、第1計測窓14、第2計測窓15、集光レンズ16、及び受光用光ファイバー17をそれぞれ配置することにより、燃料ガスなどで汚れた第1計測窓14及び第2計測窓15に励起光が照射されたことにより発生するノイズ光のラマン散乱光に対する影響をより低減させることができる。よって、ラマン散乱光の計測精度をより向上させることができる。
【0094】
以上、本発明の一態様の技術思想について第三実施形態に則して説明したが、当該技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、第三実施形態では噴射孔11cを、燃料ガスG1の流れ方向から見てケーシング11の中央部に一つ設けたが、これに限定されず、被写界深度Rを含むようにポテンシャルコア部Gpの幅Pを設定できれば、中央部以外に設けてもよいし、二つ以上としてもよい。
また、本実施形態では噴射孔11cを断面視円形状の直管としたが、これに限定されず、断面視円形状以外の断面形状でもよい。また、直管以外でもよく、例えば、曲率を有する形状としてもよいし、流れ方向に沿って流路断面積が拡大または縮小する形状でもよい。
【0095】
また、本実施形態では側壁11dを、噴射孔11cの下流端と側壁11a,11bの上流端との間に設けたが、これに限定されず、被写界深度Rを含むようにポテンシャルコア部Gpの幅Pを設定できれば、側壁11dを設けなくてもよい。また、側壁11dを平板状としたが、これに限定されず、平板以外の形状でもよい。
また、本実施形態では側壁11dを、噴射孔11c及び側壁11a,11bに対してそれぞれ垂直となるように接続したが、これに限定されず、少なくとも一方に対して傾斜していてもよい。換言すれば、噴射孔11cが側壁11dに対して傾斜していてもよい。
【0096】
また、本実施形態では噴射孔11c及び側壁11dの下流側近傍に測定点Aが位置するように設けたが、これに限定されず、被写界深度Rを含むようにポテンシャルコア部Gpの幅Pを設定できれば、噴射孔11c及び側壁11dの下流側近傍でなくてもよい。