特許第5848435号(P5848435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5848435乳酸とイソソルバイドの共重合から得られるポリエステル樹脂およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5848435
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】乳酸とイソソルバイドの共重合から得られるポリエステル樹脂およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/66 20060101AFI20160107BHJP
【FI】
   C08G63/66
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-502456(P2014-502456)
(86)(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公表番号】特表2014-509676(P2014-509676A)
(43)【公表日】2014年4月21日
(86)【国際出願番号】KR2012002240
(87)【国際公開番号】WO2012134152
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年1月6日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0028366
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドン‐ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン‐リャン
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−506020(JP,A)
【文献】 特開2010−095696(JP,A)
【文献】 特開2009−242443(JP,A)
【文献】 特開2009−242444(JP,A)
【文献】 特表2013−504650(JP,A)
【文献】 特表2013−516536(JP,A)
【文献】 特表2008−537786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/66−63/672
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を含む二価酸成分;
全体ジオール成分に対して、1ないし60モル%のイソソルバイドおよび1ないし90モル%のエチレングリコールを含むジオール成分;および
全体樹脂重合反応物に対して、1ないし50重量%の乳酸またはそれを由来とする化合物、が共重合されて、
前記二価酸成分を由来とする二価酸部分、前記ジオール成分を由来とするジオール部分、および前記乳酸またはそれを由来とする化合物を由来とするヒドロキシ一価酸部分、が繰り返される構造を有することを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記全体樹脂重合反応物に対して、前記イソソルバイドと乳酸またはそれを由来とする化合物を含むバイオマス原料成分の含有量が、5ないし70重量%であり、前記二価酸成分およびジオール成分を含む石油資源由来化合物の含有量が、30ないし95重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記乳酸またはそれを由来とする化合物が、D−乳酸、L−乳酸、D−ラクチドおよびL−ラクチドを含む群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記二価酸成分が、全体二価酸成分に対して、80ないし100モル%のテレフタル酸、および、残りの成分として、炭素数8ないし14の芳香族ジカルボン酸成分、炭素数4ないし12の脂肪族ジカルボン酸成分を含む群から選択されたジカルボン酸成分を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記イソソルバイドの含有量が、全体ジオール成分に対して、5ないし50モル%であり、前記エチレングリコールの含有量が、50ないし80モル%であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂の固有粘度が、0.5dL/g以上であり、該固有粘度が、前記ポリエステル樹脂がオルトクロロフェノールに1.2g/dLの濃度に溶解されるとともに、35℃で測定されたことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
テレフタル酸を含む二価酸成分;
全体ジオール成分に対して、1ないし60モル%のイソソルバイドおよび1ないし90モル%のエチレングリコールを含むジオール成分;および
全体樹脂重合反応物に対して、1ないし50重量%の乳酸またはそれを由来とする化合物を、0.1ないし3.0kgf/cmの圧力および200ないし300℃の温度で100分ないし10時間の平均滞留時間の間、エステル化反応またはエステル交換反応させる段階;および
前記エステル化またはエステル交換反応生成物を、400ないし0.1mmHgの減圧条件および240ないし300℃の温度で1ないし10時間の平均滞留時間の間、重縮合反応させる段階、を含むことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂およびその製造方法に関し、より詳しくは、乳酸またはそれを由来とする化合物とイソソルバイドの共重合により、バイオマスを由来とする化合物の含有量が高いだけでなく、耐熱性および色相に優れたポリエステル樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンアクリル共重合体など一般的に使用される樹脂は、石油などの化石資源から得られる。最近、化石資源の枯渇、石油資源の大量消費による大気中の二酸化炭素の増加、それに伴い地球温暖化問題などに対応するために、化石資源の使用量を減少させようとする努力がなされている。例えば、大気中に二酸化炭素を排出しながら成長する植物を由来とする樹脂を用いると、二酸化炭素が環境中で循環するので、温暖化問題、石油資源枯渇問題などの解消に役に立つことになる。
【0003】
このような環境循環型樹脂(高分子)において、バイオマス(Bio mass)原料含有量(生物体総量)を増加させることが望ましい。バイオマスとは、太陽エネルギーを受ける植物、微生物、菌体、動物体などの生物有機体を意味する。バイオマス原料は、穀物、ジャガイモ類などのでんぷん系資源、草本、林木、稲わら、籾殻などのセルロース系資源、サトウキビ、サトウダイコンなどの糖質系資源などの植物を由来とする環境循環型資源と家畜糞尿、死体、微生物菌体などの動物を由来とする環境循環型資源のみならず、これらの資源を由来とする紙や生ごみなどの各種有機性廃棄物を含む。バイオマス原料は、再生可能であり、化石燃料とは異なり枯渇せず、燃焼を通して大気中に放出される二酸化炭素も自然状態で循環するので、環境親和的である。このようなバイオマス原料は、生物学的または化学的技術との結合によって、エネルギー源や各種合成素材の材料として活用することができ、従来の石油化学製品の代替として使用することもできる。
【0004】
ポリエステル樹脂は、包装材、成形品、フィルムなどの分野で広範囲に使用されており、環境ホルモンが存在しない親環境プラスチックの一つである。最近、耐熱食品容器として主に使用されてきたポリカーボネートにおいて、ビスフェノールAの有害性が明らかになってきた。そして、親環境透明耐熱ポリエステル樹脂の必要性が増大している。テレフタル酸とエチレングリコールから構成されたホモポリエステルの場合、その物性および耐熱性は、延伸結晶化と熱固定を通してある程度向上させることはできる。しかし、適用用途および耐熱性向上には、限界がある。従って、ポリエステル樹脂の成形性を向上させ結晶性を除去するために、二つ以上のグリコールまたはジカルボン酸成分が共重合されたポリエステル樹脂が、商業的に幅広く利用されている。しかし、このような共重合ポリエステルの場合、延伸や結晶化工程によって耐熱性を向上させることが難しい。
【0005】
従って、最近、でんぷんを由来とするバイオマス由来の化合物であり、下記化学式1で表示されるイソソルバイド(Isosorbide)をポリエステル樹脂の共単量体として使用して、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させる方法が開発された。
【0006】
【化1】
≪化学式1≫
【0007】
イソソルバイドは、二次アルコールとして反応性が低く、それゆえシートや瓶の製造に使用される高粘度のポリエステルを形成することが難しいことが知られている。しかし、例えば特許文献1には、テレフタル酸とイソソルバイドを含む多様なジオールを用いた溶融重合によって、0.35dL/g以上の固有粘度を有するポリエステルを製造する方法が開示されている。0.35dL/g以上の固有粘度を有するポリエステル樹脂は、光学製品とコーティング用に使われ、0.4dL/g以上の固有粘度を有するポリエステル樹脂は、CD用に用いられ、0.5dL/g以上の固有粘度を有するポリエステル樹脂は、瓶、フィルム、シート、および射出成型用に用いられる。また、例えば特許文献2には、イソソルバイドを含むグリコール成分を用いた溶融重合によって、0.15dL/g以上の固有粘度を有するポリエステルを製造する方法が開示されている。前記特許には、ポリエステルは、イソソルバイドを用いたポリエステル重合のための通常の原料、方法および触媒によって製造されるが、バイオマスを由来とする化合物の総含有量は、低いままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許5,959,066号公報
【特許文献2】米国特許6,063,464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、植物を由来とする環境循環型重合原料であるイソソルバイドと乳酸またはそれを由来とする化合物を使用して、バイオマス原料含有量が高い環境親和的なポリエステル樹脂およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、耐熱性および色相に優れたポリエステル樹脂およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、
テレフタル酸を含む二価酸成分;
全体ジオール成分に対して、1ないし60モル%のイソソルバイドおよび1ないし90モル%のエチレングリコールを含むジオール成分;および
全体樹脂重合反応物に対して、1ないし50重量%の乳酸またはそれを由来とする化合物、が共重合されて、
前記二価酸成分を由来とする二価酸部分、前記ジオール成分を由来とするジオール部分および前記乳酸またはそれを由来とする化合物を由来とするヒドロキシ一価酸部分が繰り返される構造を有するポリエステル樹脂を提供する。
【0012】
また、本発明は、
テレフタル酸を含む二価酸成分;
全体ジオール成分に対して、1ないし60モル%のイソソルバイドおよび1ないし90モル%のエチレングリコールを含むジオール成分;および
全体樹脂重合反応物に対して、1ないし50重量%の乳酸またはそれを由来とする化合物を、0.1ないし3.0kgf/cmの圧力および200ないし300℃の温度で100分ないし10時間の平均滞留時間の間、エステル化反応またはエステル交換反応させる段階;および
前記エステル化またはエステル交換反応生成物を、400ないし0.1mmHgの減圧条件および240ないし300℃の温度で1ないし10時間の平均滞留時間の間、重縮合反応させる段階、を含むポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるポリエステル樹脂は、バイオマスを由来とする化合物であるイソソルバイドと乳酸またはそれを由来とする化合物を同時に使用して製造するため、環境親和的であり、耐熱性および色相に優れるという長所がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のより完全な認識およびその付随する利点の多くは、以下の詳細な説明を参照することによって理解されるであろう。
【0015】
本発明によるポリエステル樹脂は、二価酸成分(Diacid component)、ジオール成分(Diol component)および乳酸またはそれを由来とする化合物が共重合されて、前記二価酸成分を由来とする二価酸部分(Diacid moiety)、前記ジオール成分を由来とするジオール部分(Diol moiety)および前記乳酸またはそれを由来とする化合物を由来とするヒドロキシ一価酸部分(Hydroxy−monoacid moiety)が繰り返される構造を有する。
【0016】
本発明による共重合ポリエステル樹脂の製造に使用される二価酸成分は、
(i)主成分としてテレフタル酸を含み、必要に応じて
(ii)ポリエステル樹脂の物性改善のための共重合モノマーとして、炭素数8ないし14の芳香族ジカルボン酸成分、炭素数4ないし12の脂肪族ジカルボン酸成分を含む群から選択されたジカルボン酸成分を含む。前記炭素数8ないし14の芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸成分を除くイソフタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、およびジフェニルジカルボン酸などポリエステル樹脂の製造に通常使用される芳香族ジカルボン酸成分を含み、前記炭素数4ないし12の脂肪族ジカルボン酸成分は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などのシクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、セバシン酸、琥珀酸、イソデシル琥珀酸、マレイン酸、マル酸、アジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸などポリエステル樹脂の製造に通常使用される線状、分枝状または環状の脂肪族ジカルボン酸成分を含む。前記ジカルボン酸成分は、単独または二つ以上配合された形態に用いることができる。全体二価酸成分に対して、前記テレフタル酸成分の含有量は、80ないし100モル%、好ましくは90ないし100モル%、さらに好ましくは95ないし100モル%であり、残りの成分は、テレフタル酸を除く他の芳香族または脂肪族ジカルボン酸成分である。ここで、前記テレフタル酸成分の含有量が少なすぎると、十分な耐熱性を有さないので成形用途に適用しにくくなるおそれがある。本明細書で用いられる「テレフタル酸またはテレフタル酸成分」との用語は、テレフタル酸、そのアルキルエステル(モノメチル、モノエチル、ジメチル、ジエチルまたはジブチルエステルなどの炭素数1ないし4の低級アルキルエステル)および/またはこれらの酸無水物(Acid anhydride)などのエステル形成性誘導体成分を含む意味で使用され、グリコール成分と反応して、テレフタロイル部分(Terephthaloyl moiety)を形成する。また、本明細書で用いられる二価酸部分(Diacid moiety)、ジオール部分(Diol moiety)およびヒドロキシ一価酸部分(Hydroxyl monoacid moiety)は、二価酸成分、ジオール成分およびヒドロキシ一価酸成分が通常の縮合(Condensation)反応によってポリエステルで重合されるとき、水素、ヒドロキシ基またはアルコキシ基が除去され、残った残基(Residue)をいう。従って、本発明によるポリエステル樹脂は、二価酸部分およびジオール部分が交互に繰り返される(Alternatingly repeating)通常のポリエステル構造に、ヒドロキシ一価酸部分が挿入された構造を有する。
【0017】
本発明に使用されるジオール成分は、全体ジオール成分に対して、
(i)1ないし60モル%、好ましくは5ないし50モル%、さらに好ましくは10ないし40モル%、最も好ましくは10ないし30モル%のイソソルバイド(ジアンヒドロヘキシトール)、
(ii)1ないし90モル%、好ましくは10ないし85モル%、さらに好ましくは50ないし80モル%、最も好ましくは70ないし80モル%のエチレングリコールおよび、必要に応じて、
(iii)ポリエステル樹脂の物性改善のための共重合モノマーとして、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールなど)、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオールなど)、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、テトラメチルシクロブタンジオール、およびこれらの混合物などを含む群から選択された、0ないし20モル%、好ましくは1ないし10モル%のグリコールを含む。
【0018】
本発明に使用される乳酸またはそれを由来とする化合物は、酸およびアルコールの特性をいずれも有する化合物であって、D−乳酸、L−乳酸、乳酸から生成されるDまたはL−ラクチド(Lactide)などを含む。乳酸またはそれを由来とする化合物の含有量は、全体樹脂重合反応物に対して1ないし50重量%、好ましくは10ないし40重量%、さらに好ましくは20ないし30重量%である。乳酸またはそれを由来とする化合物は、樹脂の耐熱性および色相(Color)に影響を与えない限り多量を使うのが望ましい。しかし、その使用量が多すぎると、ポリエステル樹脂の耐熱性が低下するおそれがある。本発明によるポリエステル樹脂において、全体ポリエステル樹脂重合原料に対して、イソソルバイドと乳酸またはそれを由来とする化合物を含むバイオマス原料成分の含有量は、好ましくは5ないし70重量%、さらに好ましくは20ないし60重量%、最も好ましくは30ないし50重量%であり、二価酸成分およびジオール成分を含む石油資源に由来する化合物の含有量は、30ないし95重量%、好ましくは40ないし80重量%である。バイオマス原料成分の含有量が5重量%未満であれば、バイオマス原料を使用する意味がないし、含有量が70重量%を超えれば、製造されたポリエステル樹脂の耐熱性および色相(Color)が不良になるおそれがある。
【0019】
次に、本発明によるポリエステル樹脂の製造方法について説明する。まず、
(a)(i)テレフタル酸および必要に応じて、芳香族または脂肪族のジカルボン酸成分を含む二価酸成分、(ii)1ないし60モル%のイソソルバイド、1ないし90モル%のエチレングリコールおよび必要に応じて、他のグリコール成分を含むジオール成分、および(iii)全体樹脂重合反応物に対して、1ないし50重量%の乳酸またはそれを由来とする化合物、を含む重合反応物を、0.1ないし3.0kgf/cmの圧力(例えば、加圧圧力)および200ないし300℃の温度で100分ないし10時間の平均滞留時間の間、エステル化反応またはエステル交換反応させる。次に、
(b)エステル化またはエステル交換反応生成物を、400ないし0.1mmHgの減圧条件および240ないし300℃の温度で、1ないし10時間の平均滞留時間の間、重縮合反応させて本発明によるポリエステル樹脂を製造する。好ましくは、重縮合反応の最終の到達真空度は、2.0mmHg未満であり、エステル化反応および重縮合反応は、不活性気体雰囲気下で行われる。
【0020】
本発明によるポリエステル樹脂の製造方法について、さらに詳細に説明する。テレフタル酸などの二価酸成分、イソソルバイドなどのジオール成分および乳酸などを利用して共重合ポリエステルを製造するにあたって、二価酸成分に対するジオール成分のモル比が1.05ないし3.0に調整され、二価酸成分とジオール成分が投入され、全体樹脂重合反応物に対して、1ないし50重量%の乳酸またはそれを由来とする化合物が追加的に投入された後、200ないし300℃、好ましくは240ないし260℃、さらに好ましくは245ないし255℃の温度および0.1ないし3.0kgf/cm、好ましくは0.2ないし2.0kgf/cmの加圧圧力条件でエステル化反応が実施される。ここで、前記ジオール成分/二価酸成分のモル比率が1.05未満であれば、重合反応後に未反応の酸成分が残留して樹脂の透明性が低下するおそれがあり、モル比率が3.0を超えれば、重合反応速度が低下して樹脂の生産性が不十分となるおそれがある。エステル化反応時間(平均滞留時間)は、通常100分ないし10時間、好ましくは2時間ないし500分程度であり、反応温度、反応圧力、そしてジオール成分に対する二価酸成分のモル比により変更される。ポリエステル樹脂の製造過程は、エステル化反応(第1段階)と重縮合反応(第2段階)に区分することができる。エステル化反応は、触媒を必要としないが、反応時間の短縮のために触媒を使用することもできる。エステル化反応(第1段階)は、バッチ(Batch)式または連続式で行うことができる。それぞれの反応物は、別々に反応器に投入できるが、グリコール成分とジカルボン酸成分を含むスラリーを反応器に投入するのが好ましい。
【0021】
エステル化反応後には、重縮合反応が実施される。重縮合反応開始前には、重縮合触媒、安定剤、呈色剤および他の添加剤をエステル化反応の生成物に添加することができる。重縮合触媒の例としては、通常のチタン系触媒、ゲルマニウム系触媒、アンチモン系触媒、アルミニウム系触媒、スズ系触媒およびこれらの混合物が含まれる。こうした触媒の内、ゲルマニウム系触媒を用いて作製されたポリエステル樹脂の色相(Color)は、アンチモン系およびチタン系触媒を用いたものよりも優れている。重縮合反応のための安定剤としては、一般に種々のリン系安定剤、例えばリン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェートなどを用いることができる。安定剤は、安定剤のリンの添加量が、最終ポリエステル樹脂の総重量に対して、10ないし100ppmとなるように、投入されることが好ましい。安定剤のリンの添加量が10ppm未満であれば、安定化効果が不十分なためポリマー(ポリエステル樹脂)の色相が黄色く変わるおそれがある。リンの量が100ppmを超えれば、ポリマーの重合度が不十分となるおそれがある。呈色剤が、ポリマーの色相を向上させるために添加される。呈色剤の例としては、例えばコバルトアセテートやコバルトプロピオン酸塩といった通常の呈色剤が含まれる。必要に応じて、有機系呈色剤が呈色剤として用いることができる。呈色剤の好ましい添加量は、最終のポリエステル樹脂の重量に対して、0ないし100ppmである。一般に、重縮合反応は、240ないし300℃、好ましくは250ないし290℃、さらに好ましくは260ないし280℃で、および400ないし0.1mmHgの減圧条件で行われる。400ないし0.1mmHgの減圧条件は、重縮合反応の副産物または過剰のグリコールを除去するために維持される。重縮合反応は、ポリエステル樹脂の所望の固有粘度が得られるまで行われ、例えば、平均滞留時間1ないし10時間実施することができる。本発明によるポリエステルの重合において、必要に応じて、二価酸成分、ジオール成分および乳酸またはそれを由来とする化合物に加え、少量(例えば、反応物全量の0.1ないし10モル%)の三価酸および/または三価アルコール成分をさらに追加することができる。本発明のポリエステル樹脂が、オルトクロロフェノール(OCP)に1.2g/dLの濃度に溶解された場合には、該ポリエステル樹脂は、温度35℃で、0.5dL/g以上、好ましくは0.6dL/g以上、さらに好ましくは0.7dL/gの固有粘度を有する。本発明のポリエステル樹脂は、耐熱性および色相が優れているので、該ポリエステル樹脂は、フィルム、シート、飲料水ビン、哺乳ビン、ファイバー、光学用製品などから選択されたポリエステル樹脂体の製造に適している。
【実施例】
【0022】
以下、本発明をより理解するために、好適な実施例を示す。ただし、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。下記の実施例および比較例において、特に言及しない限り、単位‘部’または‘%’は‘重量部(重量による部)’または‘重量%(重量による%)’を意味し、TPAはテレフタル酸(terephthalic acid)を示し、IPAはイソフタル酸(isophthalic acid)を示し、ISBはイソソルバイド(isosorbide、1、4:3、6−dianhydroglucitol)を示し、EGはエチレングリコール(ethylene glycol)を示し、1、3−PDOは1、3−プロピレングリコール(1、3−propylene glycol)を意味し、LactideはL−ラクチドを示す。ポリマーの性能評価方法は、次の通りである。
(1)固有粘度(IV):ポリマーが、150℃のオルトクロロフェノール中に0.12%濃度に溶解された後、ポリマーのIVが、35℃の恒温槽で、ウベローデ型粘度計を使用して測定された。
(2)耐熱性(ガラス転移温度(Glass−rubber transition temperature:Tg)):ポリエステル樹脂のTgが、10℃/minの昇温速度で、第2スキャン(Scan)時に測定された。
(3)色相(Color):ポリエステル樹脂の色相が、Pacific Scientific社製のColorgard Systemを使用して測定された。
(4)Bio content(%):樹脂内の各バイオマス重合原料成分の含有量が、600MHz核磁気共鳴(NMR)スペクトロメーターを使用して測定された。
【0023】
[比較例1〜5]ポリエステル樹脂の製造
表1に示す含有量により、反応物が7L容積の反応器に投入され、ゲルマニウム系触媒200ppm、ホスフェート系安定剤70ppm、コバルト系呈色剤50ppmが投入された後、240ないし300℃の熱が加えられ、エステル化反応を進行させた。副産物である水が系外に70ないし99%流出した時に重縮合反応が開始され、目標粘度に到達して終了した。触媒、安定剤および呈色剤が、それぞれ触媒、安定剤および呈色剤のうちの中心元素の原子基準に、総原料(反応物)投入量に比べて、それぞれppm単位で投入された。製造されたポリエステル樹脂のBio content(%)、固有粘度、耐熱性(Tg)、color L、color bが測定され、表1に示された。
【0024】
[実施例1〜6]ポリエステル樹脂の製造
表1による反応物の上記含有量を用いずに、比較例と同様な方法でポリエステル樹脂を製造し、製造されたポリエステル樹脂のBio contents(%)、固有粘度、耐熱性(Tg)、color L、color bが測定され、表1に示された。
【0025】
【表1】
【0026】
表1において、二価酸成分およびジオール成分の含有量は、いずれもポリエステル合成に使用された投入量である。表1に示すように、従来のポリエステル樹脂と比較して、乳酸またはそれを由来とする化合物を含む本発明のポリエステル樹脂は、高いBio contentsを有し、同等以上の耐熱性を有する。具体的に、比較例1ないし3のポリエステル樹脂は、イソソルバイドを用いて作製された高耐熱性ポリエステル樹脂であって、TgおよびBio contentが高く、Color L、Color bが既存ポリエステル樹脂よりも少し低く、IVは既存ポリエステル樹脂と類似する。しかし、バイオ系原料としてのイソソルバイドの投入量が、高いBio contentsのために増加されたので、生成されたポリエステルのTgが高いが、色相(Color)が低下する傾向がある。必要以上にTgが高ければ、高温での溶融粘度が増加して、高い分子量のポリエステルを合成することが困難となり、反応性が低下して色相も悪くなる。比較例4および5のポリエステル樹脂は、バイオ系原料である1、3−PDOを使って作製され、比較例1と類似したIVとTgを有し、相対的にBio contentsも高い。しかし、1、3−PDOは、Tgを低くする効果が大きいので、投入すべきイソソルバイドの量が増加する。イソソルバイド含有量が増加すれば、作製されたポリエステルの色相(Color)が悪くなり、1、3−PDOも、製造されたポリマーの色彩強度を増加させるという短所を有する。実施例1ないし6においては、ラクチドが、比較例と同一の原料により多く投入され、実施例のポリエステル樹脂は、相対的に高いBio contentsと類似したTgとIVでの優れた色相を有する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によるポリエステル樹脂は耐熱性および色相が優れているので、成形して、フィルム、シート、飲料水ビン、哺乳ビン、繊維、光学用製品などに有用に用いることができる。