(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
図1〜
図4を参照して、本発明の第1実施形態の光散乱素子を用いたレーザ光を二次元で走査してスクリーン上に画像を形成するための光偏向器の構成を説明する。第1実施形態では、光散乱素子1を光偏向器10の光学窓として用いる。
【0020】
光散乱素子1は、透明且つ薄膜状に形成された光学素子2と、透明且つ薄膜状に形成された2つの電極3a,3bと、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて透明且つ薄膜状に形成された圧電素子4とを備える。
【0021】
光学素子2は、射出成型又はインプリント加工によって光散乱面2aの表面加工された透明樹脂(例えば、アクリル又はポリカーボネート)又はガラスシートで形成されている。光学素子2に、透明な樹脂シートを用いた場合には、光散乱素子1を軽量且つ任意の形状に形成することができる。
【0022】
光学素子2は、レーザ光が出射する面である出射面(
図2(b)の上側の面)の表面に光を散乱する加工が施された領域である光散乱面2aと、表面が平坦に形成されており光を散乱しない領域である非光散乱面2bとを有する。
【0023】
光学素子2のレーザ光が入射する面である入射面(
図2(b)の下側の面)には、2つの電極3a,3bのうち一方の電極3aが接合されている。また、2つの電極3a,3bは、圧電素子4を挟むように接合されている。詳細には、電極3aの光学素子2に接合されていない面(
図2(b)の下側の面)に圧電素子4の一方の面(
図2(b)の上側の面)が接合されており、圧電素子4の他方の面(
図2(b)の下側の面)には電極3bが接合されている。
【0024】
このように、光散乱素子1は、光学素子2、電極3a、圧電素子4及び電極3bが積層して一体に形成されている。光散乱素子1の製造工程については後述する。
【0025】
2つの電極3a,3bは、例えば、インジウム−スズ酸化物(ITO)を用いている。インジウム−スズ酸化物(ITO)は、例えば、スパッタ法や電子ビーム蒸着法により形成される。なお、2つの電極3a,3bは、インジウム−スズ酸化物(ITO)ではなく、酸化スズや酸化亜鉛を使用してもよい。また、光散乱素子1の表面、すなわち、光学素子2の入射面及び電極3bの、圧電素子4と接合されている面とは反対側の面(
図2(b)の下側の面)には、可視光の反射を防止する反射防止膜が表裏の両面にコーティングされている(図示省略)。
【0026】
光偏向器10は、上記の光散乱素子1と、光を偏光する光偏向部材11と、外郭となるパッケージ12とを備える。光偏向器10は、光散乱素子1を光偏向部材11の偏向した光を出射する光学窓として用いる。
【0027】
光偏向器10は、光散乱素子1の2つの電極3a,3bのそれぞれに対応する給電用の2つの電極パッド(図示省略)をハンダ又は導電性ペーストで2つの電極3a,3bに電気的に接続する。そして電極パッドに交番電圧を印加することで、圧電素子4を振動させる。このとき、圧電素子4ひいては光散乱素子1を高速に微小振動させるような交番電圧を印加する。更に交番電圧は、圧電素子4ひいては光散乱素子1の共振周波数で振動させるように印加する。これによって、同じ電気エネルギーに対して変換される機械エネルギーが大きくなり、光散乱素子1の振幅を効果的に大きくできる。
【0028】
光偏向部材11は、光を反射するための揺動ミラー11aを備え、揺動ミラー11aを任意に回転駆動可能に構成されている。これによって、揺動ミラー11aが反射する光を任意の方向に出射することができ、レーザ光を二次元で走査してスクリーン上に画像を形成することができる。
【0029】
パッケージ12は開口部12aを有し、この開口部12aに光偏向部材11全体が格納される。このとき、光偏向部材11の揺動ミラー11aの光を反射する面(
図1の上側の面)が、パッケージ12の開口側の面(
図1の上側の面)と同じ方向になるように格納される。そして、パッケージ12の開口部12aに光散乱素子1が嵌め込まれる。光散乱素子1は、光偏向部材11との距離等の光学的なアライメントを考慮せずにパッケージ12の開口部12aに嵌め込まれる。
【0030】
次に、上記のように構成された光散乱素子1によるスペックルパターンの平均化の原理について説明する。
図3は、光散乱素子1によるスペックルパターンの平均化の原理の説明図である。
図3(a)は
図2(a)のII−II線断面図で示される光散乱素子1と圧電素子4を振動させる駆動回路101とを示す。
図3(b)は光散乱素子1を光偏向器10の光学窓として用いた場合の説明図であり、光散乱素子1を
図2(a)のI−I線断面図で示している。
【0031】
光散乱素子1は、
図3(a)に示されるように、2つの電極3a,3bと駆動回路101とが閉回路になるように接続されている。また、光散乱素子1は、光学素子2の入射面(
図2(a)の右側の面)が入射するコヒーレントな光(以下、「コヒーレント光」という)111の光軸(
図2(a)の水平方向の破線)112に対して直交するように配置されている。
【0032】
圧電素子4は、駆動回路101から2つの電極3a,3bの間に交番電圧を印加されるとコヒーレント光111の光軸112に対して略直交方向に振動する。これに伴い、圧電素子4と一体に形成されている光学素子2の光散乱面2aも同じ方向に振動する。光散乱面2aが振動することで、光学素子2の光散乱面2aに反射して散乱する光である散乱光113に振動成分が重畳される。上述したように、交番電圧は、光散乱素子1が高速且つ微小に振動するように印加されるため、この振動成分も高速且つ微小に振動するような成分となる。散乱光113の振動成分によって、光散乱面2aによって散乱される光が様々な方向に変化し、結像されるスクリーンにおいて光の位相差が変動する。これによって、目の応答時間内に観察者の網膜上にて重ね合わせられ時間軸で平均(時間平均)される光の状態を数多く作り出せる。この結果、スペックルパターンを平均化させて、スペックルノイズを効果的に低減させることができる。
【0033】
このように、光散乱面2aを高速に振動させることで、光散乱素子1に入射したコヒーレント光111を散乱し、スペックルパターンを混合及び平均化することで、スクリーン上に見えるスペックルノイズを効果的に低減できる。
【0034】
また、
図3(b)は、入射した光110が光偏向器10の揺動ミラー11aの反射及び揺動によって偏向されて光散乱素子1から出射する場合の説明図である。レーザ光源から光散乱素子1に入射する光110は、光学素子2の非光散乱面(平坦に形成されている面)2bを介して光偏向部材11の揺動ミラー11aに入射する。入射する光110が散乱されないため、投影画像を形成するコヒーレント光(
図3(b)では揺動ミラー11aからの反射走査光)111の解像度を落とすことはない。
【0035】
そして、揺動ミラー11aによって偏向された光が光学素子2の光散乱面2aを介して光散乱素子1の外部、すなわち光偏向器10の外部に出射する。光散乱面2aは、コヒーレント光111のコヒーレント性によって発生するスペックルパターンを平均化する目的を達する上で必要最低限の散乱となるように形成される。このため、コヒーレント光(反射走査光)111の解像度に与える影響は極めて少ない。
【0036】
このように、光散乱素子1は、揺動ミラー11aが偏向した光111のみに作用してスペックルパターンを平均化するため、スクリーンに投影される画像の解像度を低減させることなくスペックルパターンを平均化し、スクリーン上でのスペックルノイズを低減することができる。
【0037】
次に、光散乱素子1の製造工程について説明する。
【0038】
従来、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に代表される鉛系ペロブスカイト型化合物(酸化物)は、高い圧電性を有する材料として知られている。圧電ポリマーの代表例であるPVDFは、電気エネルギーから機械エネルギーに変換する性能指標である圧電定数d31が20pm/V、電気機械結合係数kが0.1である。一方、PZTでは圧電定数d31が110pm/V、電気機械結合係数kが0.6〜0.8とPVDFに比べて高く、アクチュエータとしての応用については、圧電ポリマーよりも鉛系ペロブスカイト型化合物の方が格段に有利である。しかしながら、従来、鉛系ペロブスカイト型化合物はバルクセラミックスとしての応用が主体であり、シート形状や透明性を要求される応用は殆ど検討されて来なかった。
【0039】
近年になって、溶液塗布法、スパッタ法及びイオンプレーティング法等により、バルクセラミックスとして応用したときと同等の圧電性能を持った薄膜が形状できるようになってきた。10〜50μm程度の膜厚では、PZTでも可視光領域で80%以上の透過率を示す。これによって、PZTを用いた場合であっても透明な膜として扱える。但し、PZT等の鉛系ペロブスカイト型化合物を薄膜として成長させる温度は500度以上と高く、耐熱性のある基板上にしか成長できない。基板材料としては、シリコンウエハが最も一般的であり、この他、ステンレス、酸化マグネシウム単結晶、石英等が用いられている。このように耐熱性が必要であり、光散乱面2aを形成する樹脂やガラス上には直接成長させることができない。
【0040】
しかしながら、後述の
図4(i)以下の工程で示されるように、PZT等の鉛系ペロブスカイト型化合物を成長基板から所望のパターンとして光散乱素子1の光学素子(樹脂及びガラスシート)2上に剥離転写することができるため、圧電素子4の材料として、PZT等の鉛系ペロブスカイト型化合物を用いることができる。これによって、透明性が高く且つ圧電性能が高い圧電振動源として圧電素子4を光散乱面2aを有する光学素子2と一体に形成することができる。このため、圧電素子4の材料として、圧電性能が低いチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような透明な部材を選択する必要がない。
【0041】
更に、光散乱素子1の圧電素子4として、圧電性能の高いPZT等の鉛系ペロブスカイト型化合物を用いることで、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する効率が高くなり、2つの電極3a,3bに印加する電圧を低下できる。
【0042】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜(以下、「PZT膜」という)の下部電極構造及び基板との密着層については多くの研究開発事例が報告されている。その中でも密着層としてチタン(Ti)を白金(Pt)の下部電極の下に形成することが最も一般的である。基板表面のシリコン熱酸化膜(SiO
2)との界面に酸化物(TiOx)を形成するとともに、Ptの電極層に固相拡散してその一部がPtの表面に露出し、PZTの成膜時の初期核の形成や密着性に寄与するからである。一方、Tiの酸化物であるTiO
2をPtの下部電極の下に形成する例も多い。これはTiの表面拡散層がPZTの成膜の再現性を低下させたり、(111)優先配向を誘導することを回避するための選択である。
【0043】
Pt/TiO
2の下部電極構造においても結晶性の良いPZT膜が形成されるが、Pt/Tiの下部電極構造に比べて、PZT膜との密着性が低いという欠点がある。このため、上記2つの構造の良いとこ取りを狙ったPt/Ti/TiO
2という3層構造からなる下部電極構造が提案されている。中間のTi層の厚さをTi単独の場合に比べて薄くすることにより、密着性と表面拡散の度合いのバランスを取ることができる。
【0044】
本実施形態の光散乱素子1を製造するときには、このPt/Ti/TiO
2という3層下部電極構造の中間Ti層をレーザ照射によるアブレーションで部分的に除去した後、Pt電極層をその上に成膜することにより、PZT成膜前に潜像として剥離転写パターンを形成している。PZT成膜時の基板の最表面は全面がPtの電極で覆われているため、ペロブスカイト結晶構造をもったPZT膜の成長には何ら影響を与えることなく、潜像として形成したTi密着層のパターンによりPZT膜と下部電極との密着性の高い領域についてのみ、パターン形成することができる。
【0045】
パターンを処理する際には、下地との密着力が低下している未処理部に対して、超音波処理又はヒートショック等の処理を施すことによって、パターン処理がされている部分がPt/TiO
2界面できれいに選択的に剥離する。すなわちセルフリフトオフ効果によって効率的にPZT薄膜パターンアレイの剥離転写を実現できる。
【0046】
光散乱素子1の製造方法としては、PZT薄膜パターンを剥離させる前に散乱面2aの加工が施された透明樹脂又はガラスシートを接着させておくことにより、PZT膜のみを同シートに剥離転写することができる。その後、転写されたPZT薄膜のシート側でない表面上にインジウム−スズ酸化物(ITO)等の透明導電膜をスパッタ法又は電子ビーム蒸着法等で形成することにより、PZT薄膜に対して電圧を印加可能になる。光散乱素子の大きさは数mm角、PZT膜の厚みは圧電出力と透明性とのバランスを考慮して10〜50μm程度が好ましい。
【0047】
図4は、本発明の実施形態の光散乱素子1の製造工程の一例を示している。
図4(a)に示されるように、まずSiウエハ21の表面に熱酸化膜22を形成して基板21,22を設けた後、その上部に酸化チタン(TiO
2)薄膜23をRFバイアス励起のマグネトロンスパッタ法により形成する。基板21,22の具体的種類に制限はないが、好ましくはSiウエハ及びSOIウエハのいずれかが望ましい。TiO
2薄膜23を形成後、
図4(b)のように、チタン(Ti)薄膜24を上記と同様にマグネトロンスパッタ法により形成する。次いで、
図4(c)に示すようにTi薄膜24の一部の領域にのみ、集光した高出力のレーザビームを照射する。するとレーザ照射された領域のTi薄膜24がアブレーション効果によって蒸発して消失する。その結果、
図4(d)のようにTiO
2薄膜23上にTi薄膜24のパターン24a,24bが形成される。
【0048】
このとき使用するレーザとしては、例えば、エキシマレーザ、Nd:YAGレーザの3倍高調波(355nm)、又は4倍高調波(266nm)であって、光出力が数100mJ/cm2と高出力のものが必要となる。ここで、代表的なエキシマレーザの各発振波長は、XeFでは351nm,XeClでは308nm,KrFでは248nm,KrClでは222nm,ArFでは193nmである。また、使用されるレーザビームの形状と大きさは、素子デザインに対応して円形、矩形、線形などの様々なビームプロファイルに変更可能であることが好ましい。一般的に、ビームサイズが大きい場合にはエキシマレーザが、小さい場合にはNd:YAGレーザが適しているが、集光光学系によってビームプロファイルを変更可能であるので、上記2種のレーザのどちらを用いても本質的な差はない。
【0049】
続いて、
図4(e)のように、Pt薄膜25をマグネトロンスパッタ法により形成すると、Ti薄膜24のパターン24a,24bは潜像となり、最表面にはPt薄膜25が基板11上全面を覆う形となる。この後、
図4(f)のように、反応性アーク放電イオンプレーティング(ADRIP)法によってPZT薄膜4を成長させる。この成膜時にはPt電極が基板21,22の全面に渡って露出しているため、結晶性の良いPZT薄膜4が成長する。
【0050】
この後、
図4(g)のように、2つの電極3a,3bのうちの一方の電極である透明電極パターン3aが形成され、且つ光散乱面2aの加工が行なわれ光学素子2としての役目も果たす樹脂シート2,3aに接着する。この後、基板21,22ごとPZT薄膜4を含む薄膜層に超音波処理又はヒートショック処理を施す(
図4(h))と、密着層であるTiが除去された領域(24a,24b及び25a,25b以外の領域)において、Pt/TiO
2界面(24と25の界面)からPt薄膜25ごとPZT薄膜4が剥離し、
図4(i)のように、樹脂シート2,3a上にPZT薄膜4のセルフリフトオフによる剥離転写パターン4a,4bが形成される。
【0051】
続いて、
図4(j)のように、PZT薄膜4のパターン4a,4b上のPt電極25をエッチング除去して、透明な圧電PZT薄膜パターン4a,4bが樹脂シート2,3a上に形成される。最後に
図4(k)のように、転写されたPZT薄膜パターン4a,4bの樹脂シート2,3a側でない表面上に、2つの電極3a,3bのうち他方の電極3bであるITO等による透明導電膜3ba,3bbをスパッタ又は電子ビーム蒸着で形成することにより、光散乱素子1が完成する。
【0052】
以上のように、第1実施形態では、上述のように素子のみで振動するように光学素子2と圧電素子4とを薄膜状に一体に形成した光散乱素子1を光偏向器10の光学窓として用いる。光散乱素子1は、交番電圧の印加によって振動する圧電素子4と光を散乱する光散乱面2aを有する光学素子2とが薄膜状に積層されて一体に形成されているため、光散乱素子1のみでスペックルノイズを低減できる。
【0053】
また、第1実施形態の光偏向器10は、上記の光散乱素子1を光学窓として備えているため、スペックルノイズを低減できると共に、加振手段のような駆動機構を更に付加する必要がないため、簡単な構成にでき、且つプロジェクタ筺体のデザインと独立する形でサイズを小さく維持できる。
【0054】
また、第1実施形態の光偏向器10に用いられる光散乱素子1は、光を散乱して出射する光散乱面2aと光を散乱させずに入射する非光散乱面2bとを有しているため、スクリーンに投影される画像の解像度を低減させることなくスペックルパターンを平均化し、スクリーン上でのスペックルノイズを低減することができる。
【0055】
また、第1実施形態では、光散乱素子1を高速且つ微小振動させて、光散乱面2aによって散乱する散乱光113に振動成分を重畳し、スペックルノイズを低減している。このため、振動する光散乱素子1を介してレーザ光を出射すればよく、光散乱素子1と光偏向器10との位置関係等の光学的なアライメントを考慮する必要はなく、パッケージ12の開口部12aに嵌め込むだけでよい。これによって、光偏向器10のサイズやデザイン等に与える影響を抑えることができる。
【0056】
[第2実施形態]
次に、
図5及び
図6を参照して、本発明の第2実施形態の光散乱素子を用いたレーザ光によってスクリーン上に画像を形成するための画像投影装置の構成を説明する。第2実施形態では、光散乱素子6を画像投影装置30の光学窓として用いる。
【0057】
画像投影装置30は、レーザ光源31と、光偏向器32と、制御回路33と、光散乱素子6とを備える。
【0058】
レーザ光源31は、レーザ光を光偏向器32に対して出射する光源である。光偏向器32は、レーザ光源31からのレーザ光を内部に有する揺動ミラー(図示省略)によって偏向し、画像投影装置30の外部に出射する。制御回路33は、レーザ光源31及び光偏向器32の作動を制御する。第2実施形態の光偏向器32は、第1実施形態の光偏向器10とは異なり、光偏向器10の光学窓を光散乱素子6で構成していない。
【0059】
第2実施形態の光散乱素子6は、第1実施形態と同様に、透明且つ薄膜状に形成された光学素子7と、透明且つ薄膜状に形成された2つの電極3a,3bと、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて透明且つ薄膜状に形成された圧電素子4とを薄膜状に積層して一体に形成している。第2実施形態の光学素子7は、入射した光を出射する面(
図6(b)の上側の面)の全面に光散乱面7aが形成されており、第1実施形態の光学素子2の非光散乱面2aのように光を散乱しない面は形成されていない点のみが第1実施形態の光学素子2と異なる。
【0060】
第2実施形態の光散乱素子6は、画像投影装置30の外郭34の開口部34aに光学窓として嵌め込まれている。光散乱素子1は、第1実施形態と同様に、光偏向部材11との距離等の光学的なアライメントを考慮する必要はなく、外郭34の開口部34aに嵌め込むだけでよい。そして、光散乱素子6の2つの電極3a,3bのそれぞれに対応する給電用の2つの電極パッド(図示省略)をハンダ又は導電性ペーストで2つの電極3a,3bに電気的に接続する。そして電極パッドに交番電圧を印加することで、圧電素子4を振動させる。画像投影装置30は、レーザ光源31の出射したレーザ光が光偏向器32によって偏向され、この偏向された光が光散乱素子6を介して外部に出射する。
【0061】
このように、第2実施形態では、光学窓としての光散乱素子6は、光偏向器32の揺動ミラーによって偏向された光を出射するだけであるため、第1実施形態の光学素子2の非光散乱面2aのような面を形成しなくてよく、簡単な構成にすることができる。
【0062】
以上のように、第2実施形態では、上述のように素子のみで振動するように光学素子7と圧電素子4とを薄膜状に一体に形成した光散乱素子6を画像投影装置30の光学窓として用いる。光散乱素子6は、交番電圧の印加によって振動する圧電素子4と光を散乱する光散乱面7aを有する光学素子7とが薄膜状に積層されて一体に形成されているため、第1実施形態と同様に、光散乱素子6のみでスペックルノイズを低減できる。
【0063】
また、第2実施形態の画像投影装置30は、上記の光散乱素子7を光学窓として備えているため、スペックルノイズを低減できると共に、加振手段のような駆動機構を更に付加する必要がないため、簡単な構成にでき、且つプロジェクタ筺体のデザインと独立する形でサイズを小さく維持できる。
【0064】
また、第2実施形態の画像投影装置30の光学窓として用いられる光散乱素子6は、第1実施形態の偏向器10の光学窓として用いた場合とは異なり、光偏向器32の揺動ミラーによって偏向された光を出射するだけであるため、第1実施形態の光学素子2の非光散乱面2aのような面を形成しなくてよく、簡単な構成にすることができる。
【0065】
また、第2実施形態では、光散乱素子6を高速且つ微小振動させて、光散乱面7aによって散乱する散乱光113に振動成分を重畳し、スペックルノイズを低減している。このため、第1実施形態と同様に、振動する光散乱素子6を介してレーザ光を出射すればよく、光散乱素子6と光偏向器32との位置関係等の光学的なアライメントを考慮する必要はなく、外郭34の開口部34aに嵌め込むだけでよい。これによって、画像投影装置30のサイズやデザイン等に与える影響を抑えることができる。
【0066】
また、第1実施形態及び第2実施形態では、圧電素子4と共に振動する光散乱素子1の振動方向が入射したレーザ光の光軸と直交する方向となるように配置している。これによって、光散乱面2aによって散乱する散乱光113に振動成分を効率よく重畳でき、効果的にスペックルノイズを低減できる。
【0067】
また、第1実施形態及び第2実施形態では、圧電素子4と共に振動する光散乱素子1の共振周波数で振動するように、2つの電極3a,3bに交番電圧を印加している。これによって、交番電圧の電気エネルギーを効率良く機械エネルギーに変換でき、光散乱素子1を大きく振動できる。
【0068】
なお、第1及び第2実施形態では圧電素子の材料としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を使用したが、これに限らず、圧電性能に優れた材料であればよい。例えば、鉛系ペロブスカイト型化合物のいずれかの材料であってもよい。圧電素子4に、圧電性能に優れた材料を用いることで、2つの電極3a,3bに印加する電圧を低下でき、エネルギー消費量を抑えることができる。
【0069】
また、第1及び第2発明の光散乱素子を光偏向器又は画像投影装置の光学窓として使用した場合について説明したが、光散乱素子を利用する光学機器はこれに限らない。例えば、モバイル機器に搭載される小型のレーザプロジェクタ、車載用のヘッドアップディスプレイ、車両のインストルメントパネル用のプロジェクションディスプレイ、車両のAピラー(フロントピラー)用のプロジェクションディスプレイなど様々な応用が考えられる。