特許第5848616号(P5848616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5848616
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】油圧緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/348 20060101AFI20160107BHJP
【FI】
   F16F9/348
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-4538(P2012-4538)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-142467(P2013-142467A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】君嶋 和之
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−166573(JP,A)
【文献】 特開平11−294515(JP,A)
【文献】 特開2005−048912(JP,A)
【文献】 特開2008−309214(JP,A)
【文献】 実開昭63−178646(JP,U)
【文献】 特開2011−149447(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0092565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方室と他方室とを区画する隔壁体と、
上記隔壁体に周方向に交互に形成されて上記一方室と上記他方室とを連通させる複数の一方のポートおよび複数の他方のポートと、
上記隔壁体の一方室側端に積層されて上記一方のポートの下流側端を開放可能に閉塞する環状に形成の積層リーフバルブとを有し、
上記隔壁体が一方室側端に上記積層リーフバルブの内側部を定着させる内側ボス部と、
上記内側ボス部の外周に連結されて、上記積層リーフバルブに対向すると共に上記他方のポートの上流側端がそれぞれ開口する複数の凹部と
上記内側ボス部の外周に連結されて上記一方のポートの上記積層リーフバルブに対向する下流側端のそれぞれが内側に開口する複数の開口窓とを有してなる油圧緩衝器において、
上記開口窓の内周側縁部が上記凹部の内周側縁部より上記隔壁体の中心寄りに位置決めされ、
上記積層リーフバルブが上記隔壁体の一方室側端に積層されて上記一方のポートの下流側端に連通する切欠孔を有する第一の環状リーフバルブと、上記第一の環状リーフバルブの背面に積層されて上記切欠孔に連通すると共に上記一方室に連通する切欠通路を有する第二の環状リーフバルブとを有し、
上記切欠孔の外周側縁部が上記凹部の内周側縁部と上記開口窓の内周側縁部との間に位置決めされてなることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
上記切欠通路の内周側端に上記切欠孔に連通する円弧状の連通路が接続されてなる請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
上記切欠孔および上記連通路が円弧状に形成の孔からなる請求項1または請求項2に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
上記切欠通路がチョーク特性の減衰作用をなす請求項1,請求項2または請求項3に記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
上記一方のポートが上記隔壁体に周方向に等間隔に複数設けられ、
上記切欠孔が円弧状に形成されて上記第一の環状リーフバルブの周方向に等間隔に複数設けられ、
上記一方のポートを設けた個数と上記切欠孔を設けた個数とが互いに素の関係にある請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載の油圧緩衝器。
【請求項6】
上記切欠孔が上記第一の環状リーフバルブの軸芯部を中心部にするC字状に形成されて単一とされてなる請求項1,請求項2または請求項4に記載の油圧緩衝器。
【請求項7】
上記切欠孔が円弧状に形成されて上記第一の環状リーフバルブの周方向に等間隔に複数設けられ、
上記切欠通路が上記第二の環状リーフバルブの周方向に等間隔に複数設けられ、
上記切欠孔を設けた個数と上記切欠通路とを設けた個数とが互いに素の関係にある請求項1,請求項2,請求項3,請求項4または請求項5に記載の油圧緩衝器。
【請求項8】
上記切欠通路の内周側端および外周側端が周方向にずれてなる請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,請求項5,請求項6または請求項7に記載の油圧緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧緩衝器に関し、特に、車両のサスペンションに組み込まれる油圧緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンションに組み込まれる油圧緩衝器にあっては、たとえば、車両が走行を開始するなどで大きい振幅でゆっくりと伸縮する際、すなわち、作動速度が極低速の状態にある場合には、積極的に減衰力を立ち上がらせるのが好ましい。
【0003】
そのため、油圧緩衝器の減衰部には、作動速度が極低速の状態にあるときに積極的に減衰力を立ち上がらせることを可能にするバルブ構造が具現化されるが、この種のバルブ構造として、たとえば、特許文献1に開示の提案にあっては、ロッドに保持される環状に形成のピストンと、このピストンに積層される環状に形成の積層リーフバルブとを有してなる。
【0004】
ピストンは、作動油を収容するシリンダ内に摺動自在に挿入されて一方室と他方室とを区画すると共にこの一方室と他方室との連通を可能にするポートを有し、積層リーフバルブは、内周端固定で外周端自由に設けられて、外周側部で上記ポートの下流側端を開放可能に閉塞し、外周側部に上記ポートを一方室に連通させる切欠通路を有する。
【0005】
それゆえ、この特許文献1に開示のバルブ構造にあっては、積層リーフバルブが有する切欠通路をオリフィスあるいはチョークとして機能させることで、油圧緩衝器が大きい振幅でゆっくりと伸縮する際に、積極的に減衰力を立ち上がらせることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−196798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のバルブ構造にあっては、油圧緩衝器の作動速度が極低速の状態にあるときに積極的に減衰力を立ち上がらせることが可能になる点で、基本的に問題がある訳ではないが、実施に際して、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0008】
すなわち、上記従来のバルブ構造にあって、ピストンの一端には、積層リーフバルブに対向する伸側のポートの下流側端が設けられると共に、同じく積層リーフバルブに対向する圧側のポートの上流側端が設けられるが、伸側のポートの下流側端と圧側のポートの上流側端は、間隔を有して周方向に交互に設けられる。
【0009】
それゆえ、伸側ポートの下流側端と圧側ポートの上流側端とがいわゆる同一円周上に位置決めされる場合には、ピストンに積層される積層リーフバルブに設けられた切欠通路を伸側ポートの下流側端には連通させるが圧側ポートの上流側端には連通させないことが要請される。
【0010】
そこで、ピストンと積層リーフバルブとの間における相対回転を阻止するための位置決めが実践されるとし、この位置決めがロッドの横断面形状をD形にすると共にピストンと積層リーフバルブに形成されるそれぞれの孔の横断面形状をD形にする嵌合構造で具現化されるとしている。
【0011】
したがって、たとえば、バルブ構造の針山への組込に際して、また、針山から外したバルブ構造のロッドの先端部への組込、つまり、油圧緩衝器の組立に際して、各部品を位置決めしながら作業をしなければならず、手間を要することになる不具合がある。
【0012】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、バルブ構造の組立作業に要する手間を省いて、その組立作業に手間を要しない油圧緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を解決するために、この発明の構成を、一方室と他方室とを区画する隔壁体と、上記隔壁体に周方向に交互に形成されて上記一方室と上記他方室とを連通させる複数の一方のポートおよび複数の他方のポートと、上記隔壁体の一方室側端に積層されて上記一方のポートの下流側端を開放可能に閉塞する環状に形成の積層リーフバルブとを有し、上記隔壁体が一方室側端に上記積層リーフバルブの内側部を定着させる内側ボス部と、上記内側ボス部の外周に連結されて、上記積層リーフバルブに対向すると共に上記他方のポートの上流側端がそれぞれ開口する複数の凹部と、上記内側ボス部の外周に連結されて上記一方のポートの上記積層リーフバルブに対向する下流側端のそれぞれが内側に開口する複数の開口窓とを有してなる油圧緩衝器において、上記開口窓の内周側縁部が上記凹部の内周側縁部より上記隔壁体の中心寄りに位置決めされ、上記積層リーフバルブが上記隔壁体の一方室側端に積層されて上記一方のポートの下流側端に連通する切欠孔を有する第一の環状リーフバルブと、上記第一の環状リーフバルブの背面に積層されて上記切欠孔に連通すると共に上記一方室に連通する切欠通路を有する第二の環状リーフバルブとを有し、上記切欠孔の外周側縁部が上記凹部の内周側縁部と上記開口窓の内周側縁部との間に位置決めされてなるとする。
【0014】
第一の環状リーフバルブの切欠孔が他方のポートの上流側端を開口させる凹部の内周側縁部と一方のポートの下流側端を内側に開口させる開口窓の内周側縁部との間に重ねられることで、この切欠孔を通じて一方のポートの下流側端と第二の環状リーフバルブに形成の切欠通路との連通が可能とされると共に、上記の凹部の内周側縁部と上記の開口窓の内周側縁部との間の周方向に連続する環状の領域には、他方のポートの上流側端が位置決めされないから、隔壁体に第一の環状リーフバルブおよび第二の環状リーフバルブを積層するとき、切欠孔が他方のポートの上流側端に重なることがなく、この切欠孔を通じての他方のポートの上流側端と第二の環状リーフバルブに形成の切欠通路との連通が阻止される。
【0015】
このことから、隔壁体に第一の環状リーフバルブを積層する際に、隔壁体との間に周方向の変位があっても、一方のポートの下流側端の切欠通路への連通が可能とされると共に、他方のポートの上流側端の切欠通路への連通阻止が可能とされ、隔壁体に対する積層リーフバルブの位置合わせが不要になる。
【発明の効果】
【0016】
その結果、この発明によれば、バルブ構造の組立作業に要する手間を省けて、油圧緩衝器の組立作業に手間を要しないようにすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明による油圧緩衝器の一実施形態を示す部分縦断面図である。
図2図1の油圧緩衝器におけるピストンの概略平面図である。
図3図1の油圧緩衝器における積層リーフバルブを分解して示す縮尺平面図で、(A)は、切欠孔を有する第一の環状リーフバルブを示し、(B)は、切欠通路を有する第二の環状リーフバルブを示し、(C)は、積層用の第三の環状リーフバルブを示す。
図4】他の実施形態の環状リーフバルブを縮尺して示す平面図で、(A)は、他の実施形態の切欠孔を有する環状リーフバルブを示し、(B)は、他の実施形態の切欠通路を有する環状リーフバルブを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による油圧緩衝器は、たとえば、車両のサスペンションに組み込まれるとし、この油圧緩衝器の減衰部に具現化されるバルブ構造は、ピストン部分の圧側のバルブ部分に具現化される。
【0019】
そこで、この発明におけるバルブ構造について、図1に基づいて説明すると、バルブ構造は、隔壁体たるピストン3と、このピストン3の図1中で上端となる一端に積層される圧側のバルブたる積層リーフバルブ5とを有してなる。
【0020】
ちなみに、図1のピストン3の縦断面は、図2中のX−X線位置で示した状態であり、また、図2では、ピストン3の上面たる一方室側面を示すが、ポート3a,3bおよび内側ボス部11,凹部12,開口窓13を表す線のみを描いて、その他を省略している。なお、図2に示すピストン3の平面にあって、中央部は、ロッド2の先端部2a(図1参照)が貫通する孔(符示せず)になる。
【0021】
ピストン3は、作動油を収容するシリンダ1内に出入自在に挿通されるロッド2の先端部2aに保持される環状に形成されてシリンダ1内に摺動自在に挿入され一方室R1と他方室R2とを区画する。
【0022】
そして、ピストン3は、図2にも示すが、周方向に交互に形成されて一方室R1と他方室R2との連通を許容する一方のポートとなる圧側のポート3bおよび他方のポートとなる伸側のポート3aを有する。
【0023】
圧側のポート3bは、図1中で下端となる上流側端がピストン3の図1中での下端となる他方室R2側端に形成されて他方室R2に連通する凹部3cの底部(符示せず)に開口し、図1中で上端となる下流側端がピストン3の一方室R1側端に形成の開口窓13の底部(符示せず)に開口し、この開口窓13が積層リーフバルブ5に対向している。
【0024】
伸側のポート3aは、図1中で下端となる下流側端がピストン3の他方室R2側端に形成の開口窓3dの底部(符示せず)に開口し、図1中で上端となる上流側端がピストン3の一端に形成されて一方室R1に連通する凹部12の底部(符示せず)に開口し、この凹部12が積層リーフバルブ5に対向している。
【0025】
それゆえ、油圧緩衝器にあって、ピストン3がシリンダ1内を移動して一方室R1および他方室R2が広狭されるときには、作動油が伸側のポート3aおよび圧側のポート3bを通じて一方室R1と他方室R2とを往復し得ることになる。
【0026】
ところで、この発明におけるバルブ構造にあっては、圧側のポート3bの下流側端を開口させる開口窓13の内周側縁部b(図2参照)が伸側のポート3aの上流側端を開口させる凹部12の内周側縁部a(図2参照)よりピストン3の中心寄りに位置決めされてなる。
【0027】
これによって、図2中に一点鎖線b1で示す開口窓13の内周側縁部bの周方向の延長線である円は、図2中に破線a1で示す凹部12の内周側縁部aの周方向の延長線である円より、ピストン3の中心寄りに位置決めされる。
【0028】
このことから、ピストン3の一端にあって、一点鎖線b1で示す円と破線a1で示す円とによって区画される環状の領域(符示せず)は、圧側のポート3bには連通するが、伸側のポート3aには連通し得ないことになる。
【0029】
積層リーフバルブ5は、環状に形成されて内周端固定で外周端自由の態勢に設けられ、外周側端部(符示せず)の撓み時に減衰作用をなすもので、図示するところでは、同径の環状に形成される第一の環状リーフバルブ51,第二の環状リーフバルブ52および第三の環状リーフバルブ53を有し、さらに、図示するところでは、異径となる複数枚の環状リーフバルブ54を有してなる。
【0030】
なお、環状リーフバルブ54は、バックアップ用とされて第三の環状リーフバルブ53の背面に積層されるが、この発明が意図するところからすると、この環状リーフバルブ54の積層が省略されても良い。
【0031】
ちなみに、積層リーフバルブ5にあっては、内側部(符示せず)がピストン3の内周側固定部3eと、ロッド2の先端部2aと軸部(符示せず)との間に設けられる段差部2bとの間に挟まれてなる。
【0032】
積層リーフバルブ5にあって、第一の環状リーフバルブ51は、ピストン3の一方室R1側端に形成のバルブシート部(符示せず)に積層され、このバルブシート部は、図2に示すように、積層リーフバルブ5の内側部を定着させる内側ボス部11と、この内側ボス部11の外に設けられて伸側のポート3aの積層リーフバルブ5に対向する上流側端を開口させる凹部12と、内側ボス部11の外周に連結されて圧側のポート3bの積層リーフバルブ5に対向する下流側端を内側に開口させる開口窓13とを有してなる。
【0033】
そして、バルブシート部に積層された第一の環状リーフバルブ51には、第二の環状リーフバルブ52が密接状態に積層され、この第二の環状リーフバルブ52に第三の環状リーフバルブ53が密接状態に積層される。
【0034】
なお、開口窓13は、図示するところでは、内側ボス部11に連続する花びら状に形成され、圧側のポート3bが四本とされることから、四個とされ、したがって、この開口窓13を形成する外側シート部13aは、つまり、この外側シート部13aの上端からなる弁座(符示せず)は、ピストン3の軸芯部を中心部にする十字状に形成されてなる。
【0035】
ところで、この発明におけるバルブ構造は、このバルブ構造を減衰部に具現化する油圧緩衝器をサスペンションに組み込んだ車両が、たとえば、走行を開始するなどで、油圧緩衝器が大きい振幅でゆっくりと伸縮する際に、積極的に減衰力を立ち上がらせる。
【0036】
そのため、この発明におけるバルブ構造にあっては、図3にも示すように、積層リーフバルブ5(図1参照)を構成する第一の環状リーフバルブ51が切欠孔51aを有し、第二の環状リーフバルブ52が切欠通路52aを有する。
【0037】
そして、第三の環状リーフバルブ53は、第二の環状リーフバルブ52の背面に積層されることで、この第二の環状リーフバルブ52が有する切欠通路52aを一方室R1に連通するオリフィスまたはチョークとして成立させる。以下に、説明するが、図3に示すところにあって、各環状リーフバルブ51,52,53の中央部は、ロッド2の先端部2aが貫通する孔(符示せず)になる。
【0038】
第一の環状リーフバルブ51に設けられる切欠孔51aは、圧側のポート3bを第二の環状リーフバルブ52に形成の切欠通路52aに連通させるもので、図示するところでは、円弧状に形成されて周方向に等間隔の三個に設けられて、ピストン3に周方向の等間隔に形成の圧側のポート3bの設置数である4に対して互いに素の関係になっている。
【0039】
また、この三個となる切欠孔51aの径方向の配設位置は、図2中に破線a1で示す外側の円と、一点鎖線b1で示す内側の円との間の環状の領域になり、したがって、この三個の切欠孔51aは、圧側のポート3bには連通するが、伸側のポート3aには連通し得ないことになる。
【0040】
このことから、この三個となる切欠孔51aにおける径方向の幅寸法は、上記の一点鎖線b1で示す円と外側の破線a1で示す円との間に出現する環状の領域の幅寸法内に収まるのが良いが、切欠孔51aの外周側縁部c(図3(A)および図4(A)参照)が上記の領域に位置決めされる限りには、切欠孔51aの内周側縁部(符示せず)が上記の領域を食み出してピストン3の中心寄りに位置決めされるとしても良く、この場合には、切欠孔51aの形成に際しての寸法管理が容易となる。
【0041】
以上のように、第一の環状リーフバルブ51において、切欠孔51aは、前記した凹部12の内周側縁部aと開口窓13の内周側縁部bとの間に位置決めされる。
【0042】
これによって、圧側のポート3bの下流側端を開口させる開口窓13のピストン3の中心寄りに言わば拡張されるように位置決めされた部位に切欠孔51aを重ねることが可能になり、この切欠孔51aを通じての圧側のポート3bの下流側端と第二の環状リーフバルブ52に形成の切欠通路52aとの連通が可能とされることになる。
【0043】
そして、三個となる切欠孔51aの周方向の長さ寸法は、切欠孔51a相互間の連結部51bの長さ寸法より大きくなり、一方、連結部51bの長さ寸法は、たとえば、凹部12の内周側縁部aよりピストン3の中心寄りに位置決めされる開口窓13の相応部分の周方向の長さ寸法より短くなるとするのが良い。
【0044】
これによって、連結部51bが開口窓13の内周側縁部bよりピストン3の中心寄りに位置決めされる部分に対向する状況になっても、この部分が連結部51bで完全に閉塞される事態になることを回避でき、切欠孔51aと圧側のポート3bの下流側端との連通を保障し得ることになる。
【0045】
ところで、連結部51bは、第一の環状リーフバルブ51をピストン3に積層した際に、開口窓13の内周側縁部bのピストン3の中心寄りに位置決めされる部分を遮蔽する可能性があるので、この連結部51bで遮蔽される部分をできるだけ小さくする長さ寸法に設定されるのが好ましい。
【0046】
言い換えると、前記した図2中に一点鎖線b1で示す内側の円と破線a1で示す外側の円との間の環状の領域には、伸側のポート3aの上流側端が位置決めされないから、理論的には、円形となる切欠孔51aが形成されても良いことになる。
【0047】
ただ、実際に、第一の環状リーフバルブ51に切欠孔51aを形成するについては、切欠孔51aを挟む内周側部と外周側部とが連結されなければならないので、図示するところでは、三つの連結部51bを有して三つの切欠孔51aが形成されるとしている。
【0048】
以上からすると、第一の環状リーフバルブ51に形成される切欠孔51aについては、上記したところに代えて、図4(A)に示すように、C字状に形成されてなるとしても良く、この実施形態による場合には、連結部51bが一箇所とされるから、この連結部51bが必要最小限度の大きさに形成されることで、圧側のポート3bにおける下流側端にほぼ全周で連通可能とされる点で有利となる。
【0049】
ちなみに、切欠孔51aがC字状に形成されるときにも、連結部51bの周方向の長さについては、たとえば、記した圧側のポート3bの下流側端のピストン3の中心寄りに位置決めされる部分における周方向の長さ寸法より短くなるとするのが良い。
【0050】
第二の環状リーフバルブ52に設けられる切欠通路52aは、圧側のポート3bに連通する上記の切欠孔51aを一方室R1に連通させるもので、図示するところでは、外周側端が一方室R1に開口する切欠通路52aの内周側端に上記の切欠孔51aの曲率と同じ曲率からなる円弧状に形成の連通路52bを接続させ、この連通路52bが上記の切欠孔51aに重なることで、この切欠孔51aが切欠通路52aに連通し得るとしている。
【0051】
つまり、連通路52bは、上記した切欠孔51aと同様に、図2に示すところの内側の一点鎖線b1で示す円と、外側の破線a1で示す円との間に出現する環状の領域の幅寸法内に収まるように設定される。
【0052】
もっとも、この連通路52bにあっては、切欠通路52aに連通されるように形成される限りには、図2中の一点鎖線b1で示す内側の円よりピストン3の中心に向かっていわゆる食み出すように形成されるとしても良い。
【0053】
そして、切欠通路52aは、ここを作動油が通過するときに、大きな圧力損失がなされるように流路面積が設定されるとし、流路面積に対して長さを大きくすることで、チョークとして機能するように配慮されている。なお、切欠通路52aは、これがオリフィスとして機能するように設定されても良い。
【0054】
上記の切欠通路52aをチョークとして機能させるについて、この発明にあっては、前記した従来のバルブ構造における場合に比較して、流路面積に対して長さを大きくすることが容易になる利点がある。
【0055】
すなわち、この発明では、圧側のポート3bの下流側端を開口させる開口窓13の内周側縁部bは、伸側のポート3aの上流側端を開口させる凹部12の内周側縁部aよりもピストン3の中心寄りに位置決めされるが、前記した従来のバルブ構造にあっては、その配慮をしていない。
【0056】
それゆえ、この従来のバルブ構造における場合と比較すれば、第二の環状リーフバルブ52に形成される切欠通路52aの内周側端の位置は、よりピストン3の中心寄りに位置決めされていることになる。
【0057】
したがって、第二の環状リーフバルブ52の外径寸法が同じであるとすると、切欠通路52aの内周側端がよりピストン3の中心寄りに位置決めされる分、切欠通路52aの外周側端までの長さが大きくなり、このことから、この切欠通路52aをチョークとして機能させるについて流路面積に対して長さを大きくすることが容易となる利点があると言い得る。
【0058】
ところで、切欠通路52aの個数、つまり、連通路52bの個数についてであるが、図示するところでは、五個とされて、上記した三個とされる切欠孔51aの設置数に対して互いに素の関係となっている。
【0059】
これによって、第一の環状リーフバルブ51に第二の環状リーフバルブ52を積層するとき、切欠孔51aと連通路52bとが重なり合わなくなる部分の発生を極力小さく抑えることが可能になる、すなわち、切欠孔51aと連通路52bの位置関係によるバラツキを抑えることが可能になり、したがって、このことからすれば、連通路52b、つまり、切欠通路52aの個数については、これが四個とされても良いと言い得る。
【0060】
ところで、この発明において、互いに素の関係となることについてだが、要は、圧側のポート3b、切欠孔51aおよび連通路52b(切欠通路52a)のルートが途切れる状態、つまり、位置関係のバラツキを可能な限りに抑えることを意図している。
【0061】
このことからすると、上記の切欠孔51aと連通路52bとが互いに素の関係になるときには、圧側のポート3bの個数についても、互いに素の関係になる、つまり、切欠孔51a,連通路52bおよび圧側のポート3bの三つが互いに素の関係になるのが好ましいことはもちろんである。
【0062】
また、この第二の環状リーフバルブ52において、連通路52b間となる連結部52cの周方向長さについては、可能な限りに短く設定されるのが良いことはもちろんであり、たとえば、第一の環状リーフバルブ51の連結部51bの周方向の長さ寸法より短くなるのが好ましい。
【0063】
これによって、切欠通路52aの間の連結部52cが、切欠孔51aに対向する状況になっても、切欠孔51aが連結部52cで完全に閉塞される事態になることを回避でき、切欠通路52aと切欠孔51a端との連通を保障し得ることになる。
【0064】
上記した切欠通路52aは、図3(B)に示すところでは、環状リーフバルブ52の径方向に直線状に形成されてなる、つまり、内周側端(符示せず)と外周側端(符示せず)が同一の径方向にあるが、これに代えて、内周側端と外周側端が同一の径方向になく、周方向にずれてなるとしても良く、この場合には、切欠通路52aの長さを、図3(B)に示すところに比較して、長くすることが可能になり、この切欠通路52aをチョークとして機能させる場合に有利となる。
【0065】
具体的には、図示しないが、切欠通路52aが径方向に傾斜する方向に形成されてなるとし、あるいは、図4(B)に示すように、内周側端部(符示せず)および外周側端部(符示せず)が第二の環状リーフバルブ52の径方向に形成され、この内周側端部および外周側端部に連続する中間部(符示せず)が第二の環状リーフバルブ52の周方向に沿って形成されてなるとしても良い。
【0066】
ちなみに、この図4(B)に示す実施形態の連通路52b間の連結部52cの周方向の長さ寸法については、前記した図4(B)に示す実施形態の場合と同様に、可能な限りに短く、たとえば、第一の環状リーフバルブ51の連結部51bの長さ寸法より短くなるのが好ましい。
【0067】
第三の環状リーフバルブ53は、第二の環状リーフバルブ52の背面に密着状態に積層されるもので、これにより、第二の環状リーフバルブ52に形成の連通路52bをいわゆる通路として成立させると共に、切欠通路52aを上記したチョークとして成立させる。
【0068】
積層リーフバルブ5、つまり、圧側のバルブが以上のように形成されるのに対して、伸側のバルブは、内周端固定で外周端自由の態勢に設けられて外周側端部(符示せず)の撓み時に減衰作用をなす環状に形成の積層リーフバルブ4からなり、この積層リーフバルブ4は、異径となる複数枚の環状リーフバルブ41,42,43を有してなる。ちなみに、伸側のバルブについては、図示する積層リーフバルブ4からなるのに代えて、図示しないが、一枚の環状リーフバルブからなるとしても良い。
【0069】
また、この積層リーフバルブ4にあっては、内側部(符示せず)がピストン3の他方室R2側端に形成の内側ボス部3eとロッド2の先端ネジ部2cに捻じ込まれたピストンナット6との間に挟持されてなる。
【0070】
そして、この積層リーフバルブ4にあっては、径を最大にする環状リーフバルブ41がピストン3の他端に積層されて、外側端部(符示せず)が弁座を形成する外周シート部3fに着座して伸側ポート3aの下流側端を開放可能に閉塞し、環状リーフバルブ42は、環状リーフバルブ41より径を小さくしながらこの環状リーフバルブ41の背面に密接状態に設けられ、さらに、この環状リーフバルブ42の背面にさらに径を小さくする環状リーフバルブ43が密接状態に設けられ、二枚の環状リーフバルブ42,43は、環状リーフバルブ41をバックアップする。
【0071】
以上のように形成されたこの発明におけるバルブ構造にあっては、ピストン3がシリンダ1内を極低速で下降する油圧緩衝器の収縮作動時には、以下のように作動する。
【0072】
すなわち、シリンダ1内をピストン3が下降すると、他方室R2の圧力が高まるが、積層リーフバルブ5の外側端部を撓ませて弁座から離座させるほどの圧力にないこともあって、他方室R2からの作動油が積層リーフバルブ5を構成する第一の環状リーフバルブ51の切欠孔51aおよび第二の環状リーフバルブ52の連通路52bおよび切欠通路52aを通過して、一方室R1に流出する。
【0073】
作動油が切欠通路52a通過して一方室R1に流出するから、この切欠通路52aがチョークとして機能するときには、作動油がチョークを通過することによる圧力損失がなされ、チョーク特性の減衰作用がなされて、油圧緩衝器が急激に収縮作動しない。
【0074】
このことから、この油圧緩衝器をサスペンションに組み込込んだ車両にあっては、たとえば、走行を開始するなどの際に、油圧緩衝器の作動速度が極低速の状態にあり、したがって、大きい振幅でゆっくりと収縮作動する状況になるとしても、その際に、積極的に圧側の減衰力を立ち上がらせることが可能になり、たとえば、車両の姿勢制御を保障し易くなる。
【0075】
ちなみに、ピストン3がシリンダ1内を極低速で上昇する油圧緩衝器の伸長作動については、たとえば、積層リーフバルブ4が環状リーフバルブ41の外周側端部に切欠からなるオリフィスを有する場合には、このオリフィスを作動油が通過することによるオリフィス特性の減衰作用を期待でき、たとえば、上記した車両の姿勢制御を保障し易くする。
【0076】
一方、上記の油圧緩衝器にあって、ピストン3がシリンダ1内を高速で下降する収縮作動時には、高圧側になる他方室R2からの作動油が積層リーフバルブ5の外側端部を撓ませ、弁座との間に出現する隙間を通過して一方室R1に流出することになり、このときの圧力損失でバルブ特性の減衰作用がなされる。
【0077】
上記と逆に、ピストン3がシリンダ1内を高速で上昇する伸長作動時には、高圧側になる一方室R1からの作動油が積層リーフバルブ4の外周側端部を撓ませて他方室R2に流出することになり、このときの圧力損失でバルブ特性の減衰作用がなされる。
【0078】
前記したところでは、この発明による油圧緩衝器が単筒型の正立型とされ、シリンダ1が下端側部材とされて車両の車軸側に連結され、ロッド2が上端側部材とされて車両の車体側に連結されるとしたが、これに代えて、図示しないが、油圧緩衝器が倒立型に設定されても良く、また、単筒型に形成されるのに代えて、複筒型に形成されても良い。
【0079】
そして、前記したところでは、この発明におけるバルブ構造が油圧緩衝器の減衰部を構成するシリンダ1内のピストン3部分に具現化された場合を例にして説明したが、これに代えて、図示しないが、シリンダ1内のベースバルブ部分に具現化されても良い。
【0080】
また、前記したところでは、圧側のポート3bは、伸側のポート3aに比較して、流路面積を大きくしており、したがって、積層リーフバルブ5がチェック弁として機能するときの背圧作用で、この積層リーフバルブ5が金属疲労によって破断することが危惧される場合には、ピストン3の内側ボス部11および開口窓13を形成する外側シート部13aに一体に連設されて圧側のポート3b内に突出する支え部を有するとし、この支え部で積層リーフバルブ5を圧側のポート3b内側から支持して、背圧作用による積層リーフバルブ5の金属疲労を回避するとしても良い。
【符号の説明】
【0081】
1 シリンダ
2 ロッド
2a 先端部
2b 段差部
2c 先端ネジ部
3 隔壁体たるピストン
3a 他方のポートたる伸側のポート
3b 一方のポートたる圧側のポート
3c,12 凹部
3d,13 開口窓
3e,11 内側ボス部
3f,13a 外側シート部
4,5 バルブたる積層リーフバルブ
41,42,43,51,52,53,54 環状リーフバルブ
51a 切欠孔
51b,52c 連結部
52a 切欠通路
52b 連通路
6 ピストンナット
a,b 内周側縁部
a1,b1 延長線
c 外周側縁部
R1 一方室
R2 他方室
図1
図2
図3
図4