特許第5848713号(P5848713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5848713磁気共鳴イメージング装置及びコントラスト強調画像取得方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5848713
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及びコントラスト強調画像取得方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20160107BHJP
   A61B 5/05 20060101ALI20160107BHJP
【FI】
   A61B5/05 311
   A61B5/05 380
   A61B5/05ZDM
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-547797(P2012-547797)
(86)(22)【出願日】2011年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2011077598
(87)【国際公開番号】WO2012077543
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年10月31日
(31)【優先権主張番号】特願2010-272250(P2010-272250)
(32)【優先日】2010年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153498
【氏名又は名称】株式会社日立メディコ
(72)【発明者】
【氏名】平井 甲亮
【審査官】 島田 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−254905(JP,A)
【文献】 特開2010−162096(JP,A)
【文献】 特開2009−101133(JP,A)
【文献】 特開平05−084225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Wiley Online Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の共鳴周波数を有する第1の組織と、第2の共鳴周波数を有する第2の組織と、を含んで成る被検体から、所定のパルスシーケンスに基づいてエコー信号の計測を制御する計測制御部と、
前記エコー信号を用いて、前記被検体の画像を再構成する演算処理部と、
を有する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、前記第1の共鳴周波数を有して前記第1の組織の縦磁化を負に励起するRFプリパルスを備えたRFプリパルス部と、該RFプリパルスによって励起された縦磁化がゼロ以上に回復する前に前記エコー信号を計測する計測シーケンス部とを有して成り、
前記演算処理部は、前記計測シーケンス部で計測されたエコー信号を用いて再構成された画像に対して、該画像の位相情報に基づいて、いずれか一方の組織を他方の組織に対して重み付けするコントラスト強調処理を施してコントラスト強調画像を取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記RFプリパルスは、前記第1の組織の縦磁化のみを90°より大きく180°以下に励起することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測シーケンス部は、90°RFパルスを有して、前記第1の組織と前記第2の組織の縦磁化を共に90°励起することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測シーケンス部は、スライス方向と読み出し方向の少なくとも一方向に、GMN法に基づくリフェーズ傾斜磁場パルスを含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測シーケンス部は、前記第1の組織の横磁化の位相と前記第2の組織の横磁化の位相とが異なる状態で、前記エコー信号の計測を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記RFプリパルス部は、前記RFプリパルスの後に、少なくとも1軸方向に、スポイル傾斜磁場パルスを印加することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記計測シーケンス部で計測されたエコー信号を用いて再構成された画像の位相画像に基づいて、前記コントラスト強調処理を施すための画素毎の重み係数を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記RFプリパルス部の無い計測シーケンス部で計測されたエコー信号を用いて再構成された画像の位相画像と、前記RFプリパルス部の有る計測シーケンス部で計測されたエコー信号を用いて再構成された画像の位相画像と、の位相差画像に基づいて前記画素毎の重み係数を決定し、該重み係数の分布を表す前記コントラスト強調処理を施すためのコントラスト強調用マスク画像を作成し、該コントラスト強調用マスク画像を前記再構成された画像の絶対値画像に画素毎に掛け合わせて前記コントラスト強調画像を取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記位相差画像において、前記第1の組織の位相を[0〜1]の値に、第2の組織の位相を[1]に変換して前記重み係数とすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記再構成した画像の絶対値画像の各画素値が所定の閾値より大きい領域を抽出するマスクを作成し、該マスクを前記位相差画像に掛け合わせて、該位相差画像における背景ノイズ領域の位相差を除去することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記位相差画像の各画素値に対して位相アンラップ処理を施すことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
第1の共鳴周波数を有する第1の組織と、第2の共鳴周波数を有する第2の組織と、を含んで成る被検体の画像を、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調して、取得するコントラスト強調画像取得方法であって、
前記第1の共鳴周波数を有して、前記第1の組織の縦磁化を負に励起するRFプリパルスを前記被検体に印加するRFプリパルスステップと、
前記RFプリパルスによって励起された前記第1の組織の縦磁化がゼロ以上となる前に前記被検体からエコー信号を計測する計測ステップと、
前記エコー信号を用いて、前記被検体の画像を再構成する画像再構成ステップと、
前記再構成された画像から位相画像を求める位相画像算出ステップと、
前記位相画像に基づいて、前記再構成された画像に対して、いずれか一方の組織を他方の組織に対して重み付けするコントラスト強調処理を施すコントラスト強調処理ステップと、
を有してなることを特徴とするコントラスト強調画像取得方法。
【請求項13】
請求項12記載のコントラスト強調画像取得方法において、
前記コントラスト強調処理ステップは、前記再構成した画像の位相画像に基づいて、前記コントラスト強調処理を施すことを特徴とするコントラスト強調画像取得方法。
【請求項14】
請求項13記載のコントラスト強調画像取得方法において、
前記コントラスト強調処理ステップは、前記RFプリパルスの無い計測シーケンス部のみを用いたプリスキャンで取得した位相画像と、前記再構成した画像の位相画像と、の位相差画像に基づいて、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調するためのコントラスト強調用マスクを作成し、該コントラスト強調用マスクを前記再構成した画像の絶対値画像に掛け合わせて前記コントラスト強調画像を取得することを特徴とすることを特徴とするコントラスト強調画像取得方法。
【請求項15】
請求項14記載のコントラスト強調画像取得方法において、
前記コントラスト強調処理ステップは、前記位相差画像において、前記第1の組織の位相を[0〜1]の値に、第2の組織の位相を[1]に変換して、前記コントラスト強調用マスクを作成することを特徴とするコントラスト強調画像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(以下「NMR」と言う)現象を利用して断層像撮影(以下「MRI」と言う)を行なう際に、所望の組織とその他の組織との間でコントラストを強調した画像を取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR現象を利用して断層像撮影を行なうMRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
上記MRI装置を用いた異なる組織間でコントラストを強調した画像を取得する撮像法の一つとして、先行パルス(RFプリパルス)を用いて、異なる組織間の、位置、T1/T2、或いはケミカルシフト(Chemical Shift)の違いを基に、所望の組織の磁化を選択的に抑制する方法が利用されてきた(例えば、特許文献1)。特にケミカルシフトの違いを基に、所望の組織の磁化を選択的に抑制するRFプリパルスの一つとして、SPEC-IR(SPECtrally selected Inversion Recovery)パルスが知られている(例えば非特許文献1)。このSPEC-IR パルスを用いる方法は、所望の組織の共鳴周波数を有するSPEC-IR パルスを用いて、該所望の組織の縦磁化を180°フリップ(励起)した後、T1緩和によって180°フリップした縦磁化がnullに回復した時点でエコー信号の計測を行なう。これにより、所望の組織からのエコー信号を抑制し、所望の組織と他の組織との間のコントラストを強調した画像を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-10113号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lauenstein TC et al; Evaluation of optimized inversion-recovery fat-suppression techniques for T2-weighted abdominal MR Imaging : J Magn Reson Imaging 2008:27:1448-1454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、RFプリパルスとしてSPEC-IRパルスを用いて、エコー信号の計測前に所望の組織の縦磁化をnullにするため、SPEC-IRパルスを用いて取得される画像においては、コントラスト強調が充分ではないという課題が残っていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を鑑みてなされたものであり、RFプリパルスとしてSPEC-IRパルスを用いても、異なる組織間のコントラストを強調した画像を取得することが可能なMRI装置及びコントラスト強調画像取得方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、第1の共鳴周波数を有する第1の組織と、第2の共鳴周波数を有する第2の組織と、を含んで成る被検体に、第1の共鳴周波数を有して第1の組織の縦磁化を負に励起するRFプリパルスを備えたRFプリパルス部と、該RFプリパルスによって励起された縦磁化がゼロ以上に回復する前にエコー信号を計測する計測シーケンス部とを有して成るパルスシーケンスを用いて、被検体からエコー信号を計測し、エコー信号を用いて再構成した被検体の画像に対して、該画像の位相情報に基づいて、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調するコントラスト強調処理を施してコントラスト強調画像を取得する。
【0009】
具体的には、本発明のMRI装置は、第1の共鳴周波数を有する第1の組織と、第2の共鳴周波数を有する第2の組織と、を含んで成る被検体から、所定のパルスシーケンスに基づいてエコー信号の計測を制御する計測制御部と、エコー信号を用いて、被検体の画像を再構成する演算処理部と、を有し、パルスシーケンスは、第1の共鳴周波数を有して第1の組織の縦磁化を負に励起するRFプリパルスを備えたRFプリパルス部と、該RFプリパルスによって励起された縦磁化がゼロ以上に回復する前にエコー信号を計測する計測シーケンス部とを有して成り、演算処理部は、計測シーケンス部で計測されたエコー信号を用いて再構成された画像に対して、該画像の位相情報に基づいて、いずれか一方の組織を他方の組織に対して重み付けするコントラスト強調処理を施してコントラスト強調画像を取得することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のコントラスト強調画像取得方法は、第1の共鳴周波数を有して、第1の組織の縦磁化を負に励起するRFプリパルスを被検体に印加するRFプリパルスステップと、RFプリパルスによって励起された第1の組織の縦磁化がゼロ以上となる前に被検体からエコー信号を計測する計測ステップと、エコー信号を用いて、被検体の画像を再構成する画像再構成ステップと、該再構成された画像から位相画像を求める位相画像算出ステップと、位相画像に基づいて、再構成された画像に対して、いずれか一方の組織を他方の組織に対して重み付けするコントラスト強調処理を施すコントラスト強調処理ステップと、を有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のMRI装置及び画像コントラスト強調法によれば、RFプリパルスとしてSPEC-IRパルスを用いても、撮像時間を短縮しつつ、異なる組織間のコントラストを強調した画像を取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図
図2図2(a)は、RFプリパルスとしてSPEC-IRパルス(201)を用いたパルスシーケンスの内で、RFパルス(RF)の印加タイミングとエコー信号(signal)の発生タイミングとを示し、このパルスシーケンスの各タイミングに合わせて水と脂肪の磁化の挙動とをそれぞれ示す図。そして、図2(b)に、図2(a)のパルスシーケンスで得られる絶対値画像と位相画像を示す
図3図3(a)は、RFプリパルスとしてSPEC-IRパルス(201)を用いたパルスシーケンスの内で、RFパルス(RF)の印加タイミングとエコー信号(signal)の発生タイミングとを示し、このパルスシーケンスの各タイミングに合わせて水と脂肪の磁化の挙動とをそれぞれ示す図。そして、図3(b)に、図3(a)のパルスシーケンスで得られる絶対値画像と位相画像を示す
図4】リフェーズ傾斜磁場パルスの一例を示す図。図4(a)は1次のリフェーズ傾斜磁場波形の一例を、図4(b)は2次のリフェーズ傾斜磁場波形の一例をそれぞれ示す
図5】本発明のパルスシーケンスの一例を表すシーケンスチャート。図5(a)は、メインスキャン(Main-Scan)シーケンスの一例を示す。図5(b)は、プリスキャンシーケンスの一例を示す
図6】本発明の演算処理部114が有する各機能の機能ブロック図を示す
図7】発明の処理フローを表すフローチャートを示す
図8】被検体として中心に水、その周りに脂肪層を配置した2層の球ファントムとした場合に、図7に示す処理フローの各ステップの実施により得られる結果の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施例について詳説する。なお、発明の実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
最初に、本発明に係るMRI装置を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。
【0015】
このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、RF送信コイル104及びRF送信部110と、RF受信コイル105及び信号検出部106と、信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載する天板を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0016】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0017】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzが発生する。
2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(リードアウト)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、NMR信号(エコー信号)にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0018】
RF送信コイル104は、被検体101にRFパルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子のスピンにNMR現象が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスが振幅変調され、増幅された後に被検体101に近接して配置されたRF送信コイル104に供給されることにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0019】
RF受信コイル105は、被検体101の生体組織を構成するスピンのNMR現象により放出されるエコー信号を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号が信号検出部106に送られる。
【0020】
信号検出部106は、RF受信コイル105で受信されたエコー信号の検出処理を行う。具体的には、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信されたエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128、256、512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の信号処理部107に送る。 従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。
【0021】
信号処理部107は、エコーデータに対して各種処理を行い、処理したエコーデータを計測制御部111に送る。
【0022】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なエコーデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスの照射及び傾斜磁場パルスの印加と、被検体101からのエコー信号の検出と、を繰り返し実行し、被検体101の撮像領域についての画像の再構成に必要なエコーデータの収集を制御する。繰り返しの際には、2次元撮像の場合には位相エンコード傾斜磁場の印加量を、3次元撮像の場合には更にスライスエンコード傾斜磁場の印加量も、変えて行なう。位相エンコードの数は通常1枚の画像あたり128、256、512等の値が選ばれ、スライスエンコードの数は、通常16、32、64等の値が選ばれる。これらの制御により信号処理部107からのエコーデータを全体制御部108に出力する。
【0023】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであって、CPU及びメモリを内部に有する演算処理部114と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部115とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、計測制御部111からのエコーデータが入力されると、演算処理部114がそのエコーデータに印加されたエンコード情報に基づいて、メモリ内のk空間に相当する領域に記憶させる。以下、エコーデータをk空間に配置する旨の記載は、エコーデータをメモリ内のk空間に相当する領域に記憶させることを意味する。また、メモリ内のk空間に相当する領域に記憶されたエコーデータ群をk空間データともいう。そして演算処理部114は、このk空間データに対して信号処理やフーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の画像を、後述の表示・操作部113に表示させると共に記憶部115に記録させる。
【0024】
表示・操作部113は、再構成された被検体101の画像を表示する表示部と、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部は表示部に近接して配置され、操作者が表示部を見ながら操作部を介してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0025】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0026】
(本発明に係る磁化とその位相の説明)
次に、本発明の基礎となる、RFプリパルスを用いて、異なる組織の横磁化に位相差を設定する原理について説明する。なお、以降の説明では、縦磁化の方向に関して、フリップ(励起)される前の縦磁化方向を正方向としその反対方向を負方向とする。この方向設定では、フリップされる前の縦磁化は正の方向を向く最大状態であり、90°より大きくフリップされた後は、負の方向を向く状態となる。そして、縦磁化がフリップされて生成される横磁化の方向は、この縦磁化方向に垂直な方向となる。
【0027】
本発明は、第1の共鳴周波数を有する第1の組織と、第2の共鳴周波数を有する第2の組織と、を含んで成る被検体に、第1の共鳴周波数を有して第1の組織の縦磁化を負にフリップ(励起)するRFプリパルスを備えたRFプリパルス部と、該RFプリパルスによって励起された縦磁化がゼロ以上に回復する前にエコー信号を計測する計測シーケンス部とを有して成るパルスシーケンスを用いて、被検体からエコー信号を計測する。縦磁化を負に励起するためには、縦磁化を90°より大きく180°以下にフリップすればよいので、RFプリパルスは、第1の組織の縦磁化を90°より大きく180°以下に励起する。好ましくは、RFプリパルスは、第1の組織の縦磁化のみを90°より大きく180°以下に励起する。一方、計測シーケンス部は、第1の組織と第2の組織の磁化を共に励起するRFパルスを有する。
【0028】
以降の本発明の説明では、
−第1の組織を脂肪組織とし、第2の組織を脂肪組織以外の水を豊富に含む組織(以下、水組織という)として、
−RFプリパルスとして脂肪組織(第1の組織)の磁化のみをフリップするように周波数(第1の共鳴周波数)を設定されたSPEC-IRパルスを用いて、
−脂肪組織の信号を抑制し、水組織(第2の組織)の信号を脂肪組織に対して強調したコントラスト強調画像を得る、場合を説明する。ただし、逆に、
−第1の組織を水組織とし、第2の組織を脂肪組織として、
−RFプリパルスとして水組織(第1の組織)の磁化のみをフリップするように周波数(第1の共鳴周波数)を設定されたSPEC-IRパルスを用いて、
−水組織の信号を抑制し、脂肪組織(第2の組織)の信号を水組織に対して強調したコントラスト強調画像を得る、としてもよい。
【0029】
脂肪の共鳴周波数(第1の共鳴周波数)は水の共鳴周波数(第2の共鳴周波数)と3.4ppm異なることが知られており、一方の組織の共鳴周波数のみを有するRFパルスは、他方の組織の縦磁化をフリップしない。つまり、脂肪の共鳴周波数のみを有するSPEC-IRパルスは、脂肪組織の磁化のみをフリップする。
【0030】
なお本発明は、共鳴周波数の異なる任意の組織間に対して適用可能であり、水と脂肪に限定されない。つまり、本発明は、共鳴周波数の異なる任意の組織の内で、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調したコントラスト強調画像を取得する。また、所望の組織の縦磁化を負(つまり90°より大きく180°以下)に励起するRFパルスであれば何れをRFプリパルスとして用いても良い。
【0031】
最初に、比較のために、プリパルス部におけるSPEC-IRパルスから画像用エコー信号の計測のための(つまり計測シーケンス部における)RFパルスまでの待ち時間(TI)を長く設定して、SPEC-IRパルスによりフリップされた脂肪の縦磁化が負の状態から正の状態にT1回復する場合の磁化の挙動を、図2を用いて説明する。図2(a)は、RFプリパルスとしてSPEC-IRパルス(201)を用いたパルスシーケンスの内で、RFパルス(RF)の印加タイミングとエコー信号(signal)の発生タイミングとを示し、このパルスシーケンスの各タイミングに合わせて水と脂肪の磁化の挙動とをそれぞれ示す図である。そして、図2(b)に、図2(a)のパルスシーケンスで得られる絶対値画像と位相画像を示す。図2(b)の画像は、被検体として中心に水、その周りに脂肪層を配置した2層の球ファントムとした場合の例である。
【0032】
水の磁化は、SPEC-IRパルス(201)の周波数と共鳴しないので、SPEC-IRパルス(201)の印加によってもフリップされず、SPEC-IRパルス(201)の印加から90°RFパルス(202)の印加まで、縦磁化が正(静磁場方向)の最大状態を維持する。一方、脂肪の磁化は、SPEC-IRパルス(201)の周波数と共鳴するので、SPEC-IRパルス(201)の印加によって180°フリップされ、負(反静磁場方向)の最大縦磁化状態となる。その後、180°フリップされた脂肪の縦磁化は、時間の経過と共に脂肪のT1値で定まる指数関数な回復過程を経て負の最大縦磁化状態から元の正の最大縦磁化状態に戻っていく。図2に示す様に、待ち時間(TI)が十分に長ければ、90°RFパルス(202)の印加時点で縦磁化は正の状態となる。つまり、90°RFパルス(202)の印加直前で、水と脂肪の縦磁化は共に正の状態となっているが、水の縦磁化が最大状態であり、脂肪の縦磁化が正の状態ではあるが最大より小さい状態となっている。
【0033】
このような水と脂肪の縦磁化状態で、90°RFパルス(202)の印加で始まる計測シーケンス部により、画像再構成に用いるエコー信号が計測される。90°RFパルス(202)の印加直前で、水の縦磁化が正の最大状態であり脂肪の縦磁化が正の最大状態より小さい状態であることから、90°RFパルス(202)によって生成された水と脂肪の横磁化は共に同じ方向を向き、その位相差はゼロとなる。しかし、水の横磁化が大きく脂肪の横磁化が小さいことから、水からのエコー信号強度が大きく脂肪からのエコー信号強度が小さくなる。従って、SPEC-IRパルスによりフリップされて負の状態となった脂肪の縦磁化が正の状態に回復する程度に長い待ち時間(TI)の場合には、再構成画像において、水と脂肪の画素値に関して絶対値の差は生じるが位相の差は生じない。そのため、画素値の絶対値のみで水組織と脂肪組織間のコントラストをつけざるを得ず、コントラスト強調が十分とならない場合もありえる。図2(b)に示す絶対値画像においては、水組織の縦磁化が正の最大状態であり脂肪組織の縦磁化が正の最大状態より小さい状態であることから、水組織と脂肪組織間の信号強度は異なっているがコントラストが十分でないことが理解される。一方、位相画像においては、水組織と脂肪組織の位相差がゼロであることから同じ位相値となっていることが理解される。
【0034】
そこで、本発明では、プリパルス部の後に続く計測シーケンス部がプリパルス部のRFプリパルスによってフリップ(励起)された縦磁化がゼロ以上に回復する前にエコー信号を計測する。つまり、プリパルス部のRFプリパルスの印加後、水と脂肪の横磁化間に位相差が生じるように待ち時間(TI)を短くして、計測シーケンス部を実行する。従って、計測シーケンス部は、第1の組織の横磁化の位相と第2の組織の横磁化の位相とが異なる状態でエコー信号の計測を行うことになる。そして、該生じた位相差を利用して絶対値画像を重み付けして、水組織と脂肪組織間のコントラストを強調する。ここで、短い待ち時間(TI)とは、SPEC-IRパルスにより励起されて負の状態となった脂肪の縦磁化が負の状態を維持する程度に短い時間を意味し、好ましくは、プリパルス部におけるSPEC-IRパルス印加後に直ぐに計測シーケンス部におけるRFパルス印加を開始する。このように、SPEC-IRパルスから画像用エコー信号を計測するためのRFパルスまでの待ち時間(TI)をなるべく短く設定した場合の、SPEC-IRパルスによりフリップされた脂肪の縦磁化の挙動を、図3を用いて説明する。
【0035】
図3(a)は、RFプリパルスとしてSPEC-IRパルス(201)を用いたパルスシーケンスの内で、RFパルス(RF)の印加タイミングとエコー信号(signal)の発生タイミングとを示し、このパルスシーケンスの各タイミングに合わせて水と脂肪の磁化の挙動とをそれぞれ示す図である。そして、図3(b)に、図3(a)のパルスシーケンスで得られる絶対値画像と位相画像を示す。図3(b)の画像は、図2(b)と同様に、被検体として中心に水、その周りに脂肪層を配置した2層の球ファントムとした場合の例である。
【0036】
SPEC-IRパルス(201)の印加によって、脂肪の縦磁化のみが180°フリップされて、負の最大縦磁化状態となる。その後、十分に短い待ち時間(TI)を空けて画像用エコー信号の計測のための(つまり計測シーケンス部における)90°RFパルス(202)が印加される。脂肪の縦磁化は、待ち時間(TI)が十分に短いので、殆どT1回復する間もなく、待ち時間(TI)の間負の状態を維持する。そのような状態で、画像用エコー信号の計測のための90°RFパルス(202)が印加されると、水と脂肪の縦磁化はそれぞれ90°フリップされるが、水の縦磁化は、90°RFパルス(202)の直前では正の最大状態であることから、90°RFパルス(202)により正の横磁化(ここでは、水の横磁化方向を正方向とする)へと変化する。
【0037】
他方、脂肪の縦磁化は、90°RFパルス(202)の直前では負の状態であることから、90°RFパルス(202)により負の横磁化(つまり、水の横磁化に対して反対方向を向く横磁化)へと変化する。その結果、水と脂肪の横磁化の位相はπ(180°)異なる(或いは、位相の極性が異なる)ことになり、計測された画像用エコー信号から再構成された複素画像においては、水組織の画素値の位相と脂肪組織の画素値の位相がπ異なる(或いは位相の極性が異なる)ことになる。図3(b)に示す絶対値画像においては、水組織の縦磁化が正の最大状態であり脂肪組織の縦磁化が負の略最大状態であることから、絶対値が略同じ最大信号強度となっていることが理解される。一方、位相画像においては、水組織と脂肪組織の位相差がπとなっていることが理解される。
【0038】
そこで、本発明は、このようにして計測されたエコー信号を用いて再構成した被検体の画像に対して、該画像の位相情報に基づいて、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調するコントラスト強調処理を施してコントラスト強調画像を取得する。具体的には、このようにして得られた複素画像における水組織と脂肪組織間の位相差を利用して、複素画像の絶対値をとった絶対値画像を重み付ける。これにより、前述の画素値の絶対値のみによるコントラスト強調の場合よりも、水組織と脂肪組織との間のコントラストをさらに強調することができる。つまり、待ち時間(TI)を長くする場合と比較して、待ち時間を短く(好ましくは最短に)しつつ、水組織と脂肪組織間のコントラストをさらに強調した画像を得ることが可能になる。図3(b)に示す例においては、水組織と脂肪組織間の位相差がπの位相画像に基づいて絶対値画像の各画素値を重み付けて、絶対値画像における水組織と脂肪組織間のコントラストを強調する。これにより、図2(b)に示す絶対値画像における水組織と脂肪組織間のコントラストよりも、さらにコントラストを強調した画像を得る。
【0039】
(他の要因の位相誤差の除去について)
一般的に、複素画像には、RFプリパルスによって付与したπ位相差(反対位相極性)以外に撮像によって発生する位相誤差が混入するので、この位相誤差を除去する必要がある。
【0040】
この位相誤差には、静磁場不均一やケミカルシフトなどの共鳴周波数ズレによって、画像用エコー信号の計測中に蓄積される位相誤差、A/Dに対する傾斜磁場印加タイミングの遅れ等のハードウェアの不完全性に起因した位相誤差、更には、被検体の動きに起因した位相誤差、が含まれる。
【0041】
共鳴周波数のズレに起因して時間的に蓄積する位相誤差は、90°RFパルスによる励起とエコー時間(TE)までの間に180°再収束RFパルスを用いるスピンエコー系のシーケンスでは、位相誤差がキャンセルされることが一般に知られるため、時間的に蓄積する位相誤差を無視できるが、グラジエントエコー系のシーケンスでは、180°再収束RFパルスが無いために、時間的に蓄積する位相誤差を無視できない。そのため、RFプリパルスを加えない場合の位相画像(リファレンス位相画像)を予め事前計測(プリスキャン;Pre-Scan)にて撮像して求めておき、RFプリパルスを用いた場合の位相画像からリファレンス位相画像を差分処理することで、時間的に蓄積する位相誤差を除去することができる。また、プリスキャンにより得られるリファレンス位相画像にはハードウェアの不完全性に起因した位相誤差も含まれることになる。即ち、リファレンス位相画像には、共鳴周波数のズレに起因して時間的に蓄積する位相誤差とハードウェアの不完全性に起因した位相誤差とが含まれる。これら二種の位相誤差は、空間的な位相変化が緩やかであるため、リファレンス位相画像は低空間分解能であっても十分な精度でこられ二種の位相誤差を表すことになる。そのため、リファレンス位相画像取得のためのプリスキャンは、計測時間の短い低空間分解能(例えば32*32マトリクス程度)撮像で十分である。
【0042】
また、エコー時間(TE)の異なる2つ以上のエコー信号を連続的に取得するマルチエコーシーケンスを用いることで、エコー信号間の時間差と位相差とから周波数ズレを算出し、その周波数ズレから目的のエコー時間(TE)における位相誤差を算出して除去することも可能である。
【0043】
また、血流など被検体自身の動き又はその内部の動き(等速運動や加速度運動)に起因した位相誤差に関しては、公知のGMN(Gradient Moment Nulling)法に基づく1次以上のリフェーズ傾斜磁場パルスをパルスシーケンスに加えることで、動きの影響を除去することが可能である。リフェーズ傾斜磁場パルスの一例を図4に示す。等速度運動(1次)による位相誤差を抑制するためには、図4(a)のような3つの傾斜磁場パルスの構成で、強度(絶対値)一定で面積比が1:-2:1の比率になるような傾斜磁場パルス波形を等速度運動方向に印加する。また、加速度運動(2次)による位相誤差を抑制するためには、図4(b)のような4つの傾斜磁場パルスの構成で、強度一定で面積比が1:-3:3:-1の比率になるような傾斜磁場パルス波形を加速度運動方向に印加する。
【0044】
上記のようにプリスキャンによる位相計測、マルチエコー計測、1次以上のリフェーズ傾斜磁場パルスを組み合わせることで各種位相誤差を除去することができるので、RFプリパルスによって生じた、共鳴周波数の異なる組織間の共鳴周波数の違いに基づく、位相差のみを抽出することができる。そして、その位相差を用いて画像コントラストを強調することが可能となる。
【0045】
(本発明のパルスシーケンス)
次に、図5を用いて本発明のパルスシーケンスを説明する。図5は、本発明のパルスシーケンスの一例を表すシーケンスチャートであり、図5(a)は、画像用エコー信号を計測するためのファーストスピンエコー(Fast-Spin Echo)シーケンスを用いる計測シーケンス部 (101)の前に、RFプリパルスとしてのSPEC-IRパルスを印加するプリパルス部(100)を加えたメインスキャン(Main-Scan)シーケンスの一例を示す。図5(b)は、図5(a)からプリパルス部(100)を除き、計測シーケンス部 (101)におけるスライス・位相エンコード傾斜磁場パルスの変化量を大きくすることで、低空間分解能撮像に対応したプリスキャンシーケンスの一例を示す。なお、本発明の計測シーケンス部に用いるパルスシーケンスは、ファーストスピンエコーシーケンスに限定されるものではなく、他のパルスシーケンスでもよい。また、本発明のRFプリパルスもSPEC-IRパルスに限定されず、RFプリパルスによって所望の磁化を90°より大きく180°以下にフリップできる全てのRFパルスが可能である。
【0046】
最初に、プリパルス部(100)と計測シーケンス部(101)とを有して成るメインスキャンシーケンスの一例を図5(a)に基づいて説明する。
【0047】
プリパルス部(100)は、SPEC-IRパルス(501)とスポイル傾斜磁場パルス(503-1〜503-3)とを有して成る。SPEC-IRパルス(501)は、RFプリパルスの一例であり、ケミカルシフト(Chemical Shift)差を利用して、脂肪の共鳴周波数(第1の共鳴周波数)を有する脂肪組織の縦磁化だけを選択的に180°反転する。このSPEC-IRパルス(501)の後に、スライス方向(Gs)、位相エンコード方向(Gp)、読み出し方向(Gr)の少なくとも1軸方向に、好ましくは3軸方向にスポイル傾斜磁場パルス(503-1〜503-3)を印加して、該SPEC-IRパルス(501)で180°未満に励起されることで生じた横磁化を消失させる。
【0048】
計測シーケンス部(101)は、ファーストスピンエコーシーケンスに基づいてエコー信号の計測を行なう。水組織と脂肪組織の縦磁化を共に90°フリップする90°パルス(504)と同時にスライス選択傾斜磁場パルス(505)を印加した後、動きによる影響を補正するために、傾斜磁場強度の比率が1:-1:1、印加時間の比率が1:2:1とすることで、面積の比率が1:-2:1となるような1次のリフェーズ傾斜磁場パルス(506、507)をスライス方向に印加する。次に180°リフォーカスパルス(511-1)と同時にスライス選択傾斜磁場パルス(512-1)を印加し、その前後にも印加時間がスライス選択傾斜磁場パルス(512-1)の1/6になるようなスライス方向のリフェーズ傾斜磁場パルス(509-1、513-1)を加える。2次のリフェーズは、180°リフォーカスパルス(511-1)の中心前後で、横磁化が感じる傾斜磁場極性は反転するため、傾斜磁場パルスの印加面積の比率が1:-3:3:-1となるリフェーズ傾斜磁場パルスを印加する。読み出し方向(Gr)にも2次のリフェーズ傾斜磁場パルス(508、510、516-1)と読み出し傾斜磁場パルス(517-1)を印加する。読み出し傾斜磁場パルス(517-1)の中心で、エコー信号のピークを検出するため、508,510,516-1と517-1の中心までの傾斜磁場パルスを1つの傾斜磁場パルスのユニットとすると、印加時間を同一、傾斜磁場強度比を1:-3:-3:1とする。このようにすることで、180°リフォーカスパルス(511-1)の中心前後で、横磁化が感じる磁場が反転するため、面積比率が1:-3:3:-1となるような2次のリフェーズ傾斜磁場パルスとすることができる。
【0049】
また、読み出し方向(Gr)のリフェーズ傾斜磁場パルス516-1のタイミングで、スライス方向(Gs)にスライスエンコード傾斜磁場パルス(514)と、位相エンコード方向(Gp)に位相エンコード傾斜磁場パルス(515)を、それぞれ印加する。そして、読み出し傾斜磁場パルス(517)印加後は、スライス方向(Gs)と位相エンコード方向(Gp)にリワインド傾斜磁場パルス(520、521)を印加する。514、515、520、521の傾斜磁場パルスは180 °リフォーカスパルス毎に変化するように制御することで各種エンコードが実施される。
【0050】
また、読み出し傾斜磁場パルス(517-1)印加時には、A/D(518-1)することでエコー信号(519-1)を計測する。読み出し方向(Gr)は、読み出し傾斜磁場パルス印加後に516-1と同じ形のリフェーズ傾斜磁場パルス(522-1)を印加し、次の180°リフォーカスパルス(511-2)前の517-1の右半分と522-1、後に再度繰り返される516-2と517-2の左半分の傾斜磁場を1つの傾斜磁場パルスのユニットとすると、1:-3:3:-1の傾斜磁場面積比が成立するため、2次のリフェーズが繰り返されることになる。
【0051】
次に、計測シーケンス部(101)のみを有するプリスキャンシーケンスを図5(b)に基づいて説明する。図5(b)は、図5(a)からプリパルス部(100)を除き、計測シーケンス部(101)におけるスライス・位相エンコード傾斜磁場パルス(531,532,533,534)の変化量を大きくすることで、低空間分解能撮像に対応したプリスキャンシーケンスの一例である。他は、図5(a)のメインスキャンシーケンスと同じなので、詳細な説明を省略する。このプリスキャンシーケンスにより計測されたエコー信号を用いて位相画像を取得することにより、前述したように、RFプリパルスとしてのSPEC-IRパルス(501)によって生じた、共鳴周波数の異なる組織間の共鳴周波数の違いに基づく、位相差以外の色々な位相誤差を纏めて取得することが可能となる。
【0052】
(本発明の機能処理部の説明)
次に、本発明の演算処理部114が有する、本発明に係る各演算処理機能を図6に基づいて説明する。図6は、本発明の演算処理部114が有する各機能の機能ブロック図である。本発明に係る各演算処理機能は、シーケンス実行部601と、画像再構成部602と、位相画像演算部603と、位相差画像演算部604と、マスク処理部605と、位相アンラップ処理部606と、コントラスト強調処理部607と、を有してなる。
【0053】
シーケンス実行部601は、プリスキャンシーケンスとメインスキャンシーケンスを計測制御部111に実行させる。
【0054】
画像再構成部602は、プリスキャンシーケンスとメインスキャンシーケンスとでそれぞれ計測されたエコー信号のデータ(エコーデータ)に対してフーリエ変換を施して、複素画像をそれぞれ再構成する。また、複素画像の各画素の絶対値を演算して絶対値画像を得る。
【0055】
位相画像演算部603は、複素画像の画素毎にその画素値である複素数の位相を演算し、位相画像を得る。
【0056】
位相差画像演算部604は、2つの位相画像を画素毎に差分演算して、位相差画像を得る。
【0057】
マスク処理部605は、入力画像の画素毎にその画素値と所定閾値とを比較演算し、画素値を所定範囲の値(例えば、0〜1の値)に変換して、マスク画像を作成する。また、作成したマスク画像を他の画像に施して、つまり、画素毎に掛け合わせるマスク処理を行い、マスク処理後の画像を得る。
【0058】
位相アンラップ処理部606は、入力された位相画像の各画素値において主値周りを除去する位相アンラップ処理を行い、アンラップ処理後の位相画像を得る。
【0059】
コントラスト強調処理部607は、位相差画像(位相情報)に基づいて絶対値画像を重み付けしてコントラスト強調処理を行う。具体的には、位相差画像の各画素の画素値(位相差)に基づいてその画素の重み係数を決定し、決定した重み係数を絶対値画像の対応する画素の画素値に掛け合わせてその画素値を重み付ける。この位相差画像に基づいた重み付け処理がコントラスト強調処理であり、コントラスト強調処理後の画像がコントラスト強調画像となる。
【0060】
以下、上記各機能部が連携して行なう本発明の処理フローの具体的な説明を通して、これらの各機能部の具体的処理を説明する。
【0061】
(本発明の処理フロー)
次に、図7を用いて本発明の処理フローを説明する。図7は、本発明の処理フローを表すフローチャートである。本処理フローは、予めプログラムとして記憶部に記憶されており、演算処理部114が記憶部からそのプログラムを読み込んで実行することにより実施される。また、図8に、被検体として中心に水、その周りに脂肪層を配置した2層の球ファントムとした場合に、図7に示す処理フローの各ステップの実施により得られる結果の一例を示す。以下、各ステップの処理の詳細を説明する。
【0062】
ステップ701で、シーケンス実行部601は、図5(b)に示したプリスキャンシーケンスを計測制御部111に実行させる。計測制御部111は、その指示を受けて、図5(b)に示したプリスキャンシーケンスを実行してエコー信号の計測を制御し、計測したエコー信号のデータ(エコーデータ)を演算処理部114に通知する。画像再構成部602は、エコーデータをフーリエ変換して低空間分解能の複素画像を得る。そして、位相画像演算部603は、得られた複素画像からその低空間分解能の位相画像(第1の位相画像)(801)を求める。この第1の位相画像は、前述したように、SPEC-IRパルス(501)によって生じる位相差以外の色々な位相誤差を纏めて含む。
【0063】
ステップ702で、シーケンス実行部601は図5(a)に示したメインスキャンシーケンスを計測制御部111に実行させる。計測制御部111は、その指示を受けて、図5(a)に示したメインスキャンシーケンスを実行してエコー信号の計測を制御し、計測したエコー信号のデータ(エコーデータ)を演算処理部114に通知する。画像再構成部602は、そのエコーデータをフーリエ変換して複素画像及びその絶対値画像(806)を得る。そして、位相画像演算部603は、得られた複素画像からその位相画像(第2の位相画像)(802)を求める。
【0064】
ステップ703で、位相差画像演算部604は、ステップ701で得られた第1の位相画像を第2の位相画像と同じ空間分解能の位相画像に変換した後に、ステップ702で得られた第2の位相画像との差分処理(821)を行い、位相差画像(803)を得る。この位相差画像(803)は、共鳴周波数のずれに起因した位相誤差とハードウェアの不完全性に起因した位相誤差とが除去されて、SPEC-IRパルス(501)によって生じた位相差のみが反映された位相画像となる。
【0065】
ステップ704で、マスク処理部605は、ステップ702で得られた絶対値画像(806)の各画素の画素値(絶対値)に対して閾値(例えば、各画素値の絶対値の内の最大値の20%)を設定して、その閾値より小さい画素値を持つ画素を背景として除外することで、絶対値画像(806)における被検体領域のみを抽出するための第1のマスク画像(808)を作成する。具体的には、閾値より小さい画素値を持つ画素には0を、閾値より大きい画素値を持つ画素には1を、それぞれ割り当てて第1のマスク画像(808)を作成する。
【0066】
ステップ705で、マスク処理部605はステップ703で得られた位相差画像(803)に、ステップ704で作成した第1のマスク画像(808)を施して、つまり、位相差画像(803)に第1のマスク画像(808)を画素毎に掛け合わせるマスク処理(822)を行い、位相差画像(803)から背景領域を除外し被検体領域のみを抽出した位相差画像(804)とする。除外した背景領域の画素値(位相値)には、所定の一定値(例えば0)を割り当てる。なお、第1のマスク画像(808)の背景領域の値は0なので、画素毎に掛け合わせれば必然的に0になる。
【0067】
ステップ706で、位相アンラップ処理部606は、ステップ705でマスク処理された位相差画像(804)に対して、主値周りを除去する位相アンラップ処理を行う。さらに、水の位相値を基準位相θrefとして、全画素の位相値θから基準位相θrefとの差分(θ-θref)をとることで、つまり位相差画像の各画素値から基準位相を一様に引いた修正位相差画像を作成する。修正位相差画像は、水の位相値からの差分位相を表す画像であり、水組織の位相はゼロ、脂肪組織の位相はπとなる。
【0068】
ステップ707で、コントラスト強調処理部607は、ステップ706で得られた修正位相差画像の各画素の画素値(位相差)に基づいてその画素の重み係数を決定し、決定した重み係数の分布を表す第2のマスク画像(805)を作成する。具体的には、ステップ706で得られた修正位相差画像の各画素の画素値に対して、所定の閾値(例えば±π/2)を設定して、画素値である位相値θの絶対値がその閾値未満の場合(つまり、-π/2<θ<+π/2)に1、それ以外の場合(つまり、[θ<= -π/2] or [+π/2 <=θ])に[0〜1]の値に変換してその画素の重み係数とする。例えば、大きく信号を抑制する場合には、0に近い値とする。この変換により、脂肪組織(第1の組織)の位相が[0〜1]の重み係数に、水組織(第2の組織)の位相が[1]の重み係数に、それぞれ変換されることになる。修正位相差画像の全画素に対して同様に重み係数を決定し、各画素の重み係数分布を表す第2のマスク画像(805)を作成する。この第2のマスク画像(805)がコントラスト強調用マスク画像となる。
【0069】
ステップ708で、コントラスト強調処理部607は、ステップ707で得た第2のマスク画像(805)をステップ702で得られた絶対値画像(806)に施す(823)。具体的には、絶対値画像(806)と第2のマスク画像(805)とを同一画素毎に画素値同士を掛け合わせる(823)ことで、絶対値画像(806)の各画素の画素値を、第2のマスク画像(805)の画素値で重み付け処理を行う。この第2のマスク画像(805)を用いた、即ち位相差画像(803)に基づいた、重み付け処理(823)がコントラスト強調処理であり、このコントラスト強調処理によりコントラスト強調画像(810)を得る。コントラスト強調画像(810)においては、絶対値画像(806)における脂肪領域が抑制された画像となる。即ち、絶対値画像(806)において、水組織と脂肪組織との間のコントラストが強調された画像となる。図8に示すコントラスト強調画像(810)の例では、脂肪組織の信号が抑制されて、水組織のみの輝度が強調された画像となっていることが理解される。
【0070】
以上までが、本発明のコントラスト強調画像取得方法の処理フローの説明である。
【0071】
以上、本発明の実施例を述べたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
前述の説明では、プリスキャンにより位相誤差を抽出する例を説明したが、高度に調整されたMRI装置においては、位相誤差が少ないので、プリスキャンの必要が無い場合もあり得るので、プリスキャンを省略して、メインスキャンのみの実施でも本発明は成立する。即ち、高度に調整されたMRI装置においては、位相画像802に直接第1のマスク画像808を施して得た位相画像804に基づいて第2のマスク画像805を得ても良い。
【0073】
また、前述のステップ707では、脂肪組織の信号を水組織の信号に対して抑制するように重み係数を決定したが、逆に、水組織の信号を脂肪組織の信号に対して抑制するように重み係数を決定してもよい。具体的には、修正位相差画像の各画素の画素値(位相値)θの絶対値が閾値未満の場合(つまり、-π/2<θ<+π/2)に[0〜1]、それ以外の場合(つまり、[θ<= -π/2] or [+π/2 <=θ])に1の値に変換してその画素の重み係数としてもよい。
【0074】
以上説明したように、本発明は、第1の共鳴周波数を有する第1の組織と、第2の共鳴周波数を有する第2の組織と、を含んで成る被検体に、第1の共鳴周波数を有して第1の組織の縦磁化を負に励起するRFプリパルスを備えたRFプリパルス部と、該RFプリパルスによって励起された縦磁化がゼロ以上に回復する前にエコー信号を計測する計測シーケンス部とを有して成るパルスシーケンスを用いて、被検体からエコー信号を計測し、エコー信号を用いて再構成した被検体の画像に対して、該画像の位相情報に基づいて、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調するコントラスト強調処理を施してコントラスト強調画像を取得する。具体的には、本発明のMRI装置は、計測シーケンス部で計測されたエコー信号を用いて再構成された画像に対して、該画像の位相情報に基づいて、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調するコントラスト強調処理を施してコントラスト強調画像を取得するコントラスト強調処理部を備える。また、本発明のコントラスト強調画像取得方法は、被検体の再構成画像から位相画像を求め、該位相画像に基づいて、再構成画像に対して、いずれか一方の組織を他方の組織に対して強調したコントラスト強調処理を施すコントラスト強調処理を行うステップを有する。
【0075】
以上の構成により、本発明のMRI装置及びコントラスト強調画像取得方法は、第1の組織と第2の組織とでπの位相差を設定して位相差画像を得て、該位相差画像に基づいて、絶対値画像を重み付けすることで、待ち時間(TI)を長くして信号強度差のみでコントラストをつける手法と比較して、第1の組織と第2の組織間のコントラストが更に強調されたコントラスト強調画像を取得することができる。さらに、RFプリパルスの印加から計測シーケンス部実行までの待ち時間(TI)を短く設定できるので、撮像時間を短縮できる。
【符号の説明】
【0076】
101 被検体、102 静磁場発生磁石、103 傾斜磁場コイル、104 送信RFコイル、105 RF受信コイル、106 信号検出部、107 信号処理部、108 全体制御部、109 傾斜磁場電源、110 RF送信部、111 計測制御部、112 ベッド、113 表示・操作部、114 演算処理部、115 記憶部
図1
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図8