【実施例】
【0049】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0050】
実施例1 可溶型CDH3抗原の作製
抗CDH3抗体作製の免疫原とするため、C末端膜貫通領域以降を欠損させた可溶型CDH3(sCDH3)タンパク質を作製した。
(1)可溶型CDH3抗原発現ベクターの作製
CDH3全長cDNAをテンプレートとして、CDH3細胞外領域に相当する部分(配列番号2の1−654に相当、以下sCDH3cDNA)を増幅するように設計されたフォワードプライマー (配列番号3:CGCGGTACCATGGGGCTCCCTCGT、(hCDH3FullFW))とリバースプライマー(配列番号4:CCGTCTAGATAACCTCCCTTCCAGGGTCC、(hCDH3SolbRV))を用いてPCR反応を行った。反応にはKOD−Plus(東洋紡社)を用い、94℃−15秒、55℃−30秒、68℃−90秒、30サイクルの反応条件で行った。
その後、アガロースゲル電気泳動で目的サイズである約2.0kbpのバンドを含むゲル断片を切り出し、キアクイックゲル抽出キット(キアゲン社)を用いて、目的のsCDH3cDNAを得た。
このsCDH3cDNAを発現用ベクターpEF4/myc−HisBへ挿入するために、2種類の制限酵素KpnIおよびXbaIで処理した後、同じくKpnIおよびXbaIで処理したpEF4/myc−HisBにT4 DNAリガーゼを用いて常法に従い挿入し、発現ベクターpEF4−sCDH3−myc−Hisを得た。
【0051】
(2)可溶型CDH3タンパク質の発現
FuGENE6トランスフェクション試薬のプロトコールに準じ、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×10
5個のCHO細胞を播種し一晩培養後、8μgの発現ベクターpEF4−sCDH3−myc−Hisと16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清RPMI1640培地に混合、15分間室温放置後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌々日に選択試薬(Zeocin)を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。
可溶型CDH3発現CHO細胞の選抜は、抗c−Mycモノクローナル抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOY社))を用いたウエスタンブロット法で行った。培養上清中への分泌量が多く増殖が良好な細胞株を選択した結果、可溶型CDH3発現CHO細胞株(EXZ1702)が得られた。選択された可溶型CDH3発現CHO細胞株(EXZ1702)は、培養面積1,500cm
2のローラーボトル3本を用い、ローラーボトル1本あたり無血清培地CHO−S−SFM−II(インビトロジェン社)333mLにて72時間培養を行い、培養上清を回収した。得られた培養上清からHisTrap(登録商標)HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)によるアフィニティークロマトグラフィーとSuperdex(登録商標)200pgカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)によるゲル濾過クロマトグラフィーにより可溶型CDH3タンパク質を得た。
【0052】
実施例2 CDH3発現CHO細胞株の樹立
抗CDH3抗体スクリーニング用細胞株を得るため、全長CDH3を発現するCHO細胞の樹立を行った。
(1)CDH3遺伝子発現ベクターの作製
配列番号1に示す全長ヒトCDH3DNAを哺乳類発現ベクターpEF4/myc−HisB(インビトロジェン社)へ挿入するため、2種類の制限酵素KpnI(タカラバイオ社)およびXbaI(タカラバイオ社)で37℃、1時間処理した後、同じくKpnIおよびXbaIで処理したpEF4/myc−HisBへT4 DNAリガーゼ(プロメガ社)により常法に従って挿入し、発現ベクターpEF4―CDH3―myc−Hisを得た。
【0053】
(2)CDH3安定発現株の取得
FuGENE(登録商標)6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社)のプロトコールに準じ、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×10
5細胞のCHO細胞を播種し一晩培養後、8μgの発現ベクターpEF4−CDH3−myc−Hisと16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清RPMI1640培地(SIGMA−ALDRICH社)に混合し15分間室温放置後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌々日に選択試薬(Zeocin(登録商標))を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。
CDH3全長発現CHOのクローン選抜は、抗c−Mycモノクローナル抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOY社)を用いたウエスタンブロット法により行い、その結果、発現量が高く、かつ増殖が良好なCDH3全長発現CHO細胞株(EXZ1501)を得た。EXZ1501の市販抗CDH3抗体(R&D SYSTEMS社)との反応をフローサイトメーターにより確認し、EXZ1501の細胞膜上にCDH3タンパク質が発現していることを確認した。
【0054】
実施例3 抗CDH3モノクローナル抗体の作製
(1)可溶型CDH3タンパク質を免疫原としたモノクローナル抗体の作製
生理食塩水に溶解した50μgの可溶型CDH3タンパク質とTiter−MAX Gold(登録商標)(タイターマックス社)を等量混合し、MRL/lprマウス(日本エスエルシー株式会社)の腹腔内および皮下に注射する事により初回免疫を行った。2回目以降の免疫は同様に調製した25μgタンパク質量相当の可溶型CDH3タンパク質とTiter−MAX Goldを混合して腹腔内および皮下に注射することにより実施した。最終免疫から3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、常法に従って、ポリエチレングリコール法によりマウスミエローマ細胞SP2/O−Ag14あるいはP3−X63−Ag8.653との細胞融合を行った。
【0055】
(2)抗CDH3抗体産生ハイブリドーマの選抜
抗CDH3抗体の選抜は、全長CDH3を発現するCHO細胞株(EXZ1501)を用いたフローサイトメトリで行った。
すなわち、全長CDH3を発現するCHO細胞株(EXZ1501)を2mM EDTA−PBSで処理することで培養プレートから剥離後、1×10
6個/mLとなるようにFACS溶液に懸濁した。この細胞懸濁液を50μL/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種し、ハイブリドーマ培養上清を加えて4℃で60分間反応させ、FACS溶液(200μL/ウェル)で2回洗浄した後、AlexaFluor488標識抗マウスIgG・ヤギF(ab’)2(インビトロジェン社)を加えて、4℃で30分間反応させた。その後FACS溶液で2回洗浄した後、フローサイトメトリを実施し、CDH3発現CHO細胞と結合する抗体を産生するハイブリドーマを選抜しPPMX2016〜PPAT−052−28の40クローンを得た。選抜したハイブリドーマの全ては、CDH3発現CHO細胞(EXZ1501)およびNCI−H358と反応し、CHO細胞とは反応しないことをフローサイトメトリにより確認した。抗体は、ハイブリドーマの培養上清よりプロテインGカラムを用いて精製し以後の実験に用いた。選抜したハイブリドーマのうち、PPMX2016(NITE BP−897)、PPMX2025(NITE BP−898)、PPMX2029(NITE BP−899)、PPAT−052−02(NITE BP−1034)、PPAT−052−03(NITE BP−1035)、PPAT−052−09(NITE BP−1036)、PPAT−052−24(NITE BP−1037)、PPAT−052−25(NITE BP−1038)、PPAT−052−26(NITE BP−1039)及びPPAT−052−28(NITE BP−1040)を、2010年2月10日及び2011年1月18日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託した。
【0056】
実施例4 抗体遺伝子のクローニング
(1)ヒトCDH3に対するマウスモノクローナル抗体のV領域をコードするDNAを次のようにクローン化した。マウスハイブリドーマ細胞から、細胞質に存在するRNAをGough,Rapid and quantitative preparation of cytoplasmic RNA from small numbers of cells,Analytical Biochemisty,173,p93−95(1988)に記載されている方法(ただし、この論文に記されている溶解緩衝液のかわりに別のTNE緩衝液25mM Tris−HCl,pH7.5;1%NP−40;150mM NaCl;1 mM EDTA,pH8.0を用いた)に従って単離した。具体的な操作方法としては、5×10
6個のハイブリドーマ細胞を200μLのTNE緩衝液に懸濁して細胞膜を溶解後、遠心により細胞核を除去した。得られた約200μL細胞質上清に200μLの抽出緩衝液(10mM Tris−HCl,pH7.5;0.35M NaCl;1%(w/v)SDS;10mM EDTA,pH8.0;7M 尿素)を加えた。この混合物をフェノールおよびクロロホルムで抽出し、得られたRNA溶液にキャリアとしてグリコーゲン(ロッシュ、Cat No.901393)を加えてから、エタノールで沈澱させた。次にRNA沈殿物を、細胞質RNA濃度が0.5〜2μg/μLになるように10〜50μLの滅菌蒸留水を加えて溶解した。
【0057】
(2)ハイブリドーマから調製したRNAからのcDNAライブラリーの作製
一本鎖cDNAを合成するため、前記のように調製した細胞質RNAの0.5〜3μgを50mM Tris−HCl,pH8.3(室温);75mM KCl;3mM MgCl
2;10mM DTT、100ngランダムプライマー、0.5mM dNTP、200ユニットのSuperscript II(逆転写酵素、インビトロジェン社)を含む20μL反応混合液を調製し、42℃で50分間インキュベートした。このように合成したcDNAライブラリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の鋳型として直接使用した。
【0058】
(3)抗CDH3抗体可変領域をコードする遺伝子のPCR法による増幅
実験に用いたプライマーはすべて北海道システムサイエンスで合成した。
【0059】
A.マウスL鎖V領域をコードする遺伝子をPCR法で増幅するために使用するプライマー5’末端においてFR1部分と相同性を有するDNAプライマーと3’末端においてマウスL鎖内のJ鎖遺伝子と相同性を有する4セットプライマー(i)、あるいは、5’末端においてL鎖シグナル部分(7セットプライマー)と3’末端においてKC部分(KVLアンチセンスプライマー)と相同性を有するプライマーセット(ii)の2種類のプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応により、該cDNAからマウス免疫グロブリンL鎖可変域DNAを単離した。プライマー配列は次のとおりであった。
【0060】
(i)マウスL鎖可変域クローニング4セットセンスプライマー
「Phage Display −A Laboratory Manual−,Barbas Burton Scott Silverman」 PROTOCOL 9.5を参考にSense Primer 17種、Reverse Primer 3種を北海道システムサイエンスで合成した。
【0061】
VKセンス(FR1部分)下記17のプライマーの混合物をVKセンスプライマーとして使用
5’−GAY ATC CAG CTG ACT CAG CC −3’(縮重度2):配列番号5
5’−GAY ATT GTT CTC WCC CAG TC −3’(縮重度4):配列番号6
5’−GAY ATT GTG MTM ACT CAG TC −3’(縮重度8):配列番号7
5’ GAY ATT GTG YTR ACA CAG TC −3’(縮重度8):配列番号8
5’ GAY ATT GTR ATG ACM CAG TC −3’(縮重度8):配列番号9
5’ GAY ATT MAG ATR AMC CAG TC −3’(縮重度16):配列番号10
5’ GAY ATT CAG ATG AYD CAG TC −3’(縮重度12):配列番号11
5’ GAY ATY CAG ATG ACA CAG AC −3’(縮重度4):配列番号12
5’ GAY ATT GTT CTC AWC CAG TC −3’(縮重度4):配列番号13
5’ GAY ATT GWG CTS ACC CAA TC −3’(縮重度8):配列番号14
5’ GAY ATT STR ATG ACC CAR TC −3’(縮重度16):配列番号15
5’ GAY RTT KTG ATG ACC CAR AC −3’(縮重度16):配列番号16
5’ GAY ATT GTG ATG ACB CAG KC −3’(縮重度12):配列番号17
5’ GAY ATT GTG ATA ACY CAG GA −3’(縮重度4):配列番号18
5’ GAY ATT GTG ATG ACC CAG WT −3’(縮重度4):配列番号19
5’ GAY ATT GTG ATG ACA CAA CC −3’(縮重度2):配列番号20
5’ GAY ATT TTG CTG ACT CAG TC −3’(縮重度2):配列番号21
【0062】
Jアンチセンス(4セットプライマー)
J1/J2アンチセンスプライマー(1)
5’−GGS ACC AAR CTG GAA ATM AAA −3’(縮重度:8):配列番号22
J4アンチセンスプライマー(2)
5’−GGG ACA AAG TTG GAA ATA AAA −3’:配列番号23
J5アンチセンスプライマー(3)
5’−GGG ACC AAG CTG GAG CTG AAA −3’:配列番号24
J1/J2,J4,J5アンチセンスプライマー混合物(4)
【0063】
(ii)マウスL鎖可変域クローニング7セットプライマー
VKセンス(シグナルペプチド部分)
このプライマーはノバジェン社のマウスIg−プライマーセット(Novagen;Merck,Cat.No.69831−3)を元に制限酵素部位を除去するように塩基配列を改変した。
Aセットセンスプライマー
5’−ATGRAGWCACAKWCYCAGGTCTTT −3’:配列番号25
Bセットセンスプライマー
5’−ATGGAGACAGACACACTCCTGCTAT −3’:配列番号26
Cセットセンスプライマー
5’−ATGGAGWCAGACACACTSCTGYTATGGGT −3’:配列番号27
Dセットセンスプライマー(下記2種類のプライマーの混合物を使用)
5’−ATGAGGRCCCCTGCTCAGWTTYTTGGIWTCTT −3’:配列番号28
5’−ATGGGCWTCAAGATGRAGTCACAKWYYCWGG −3’:配列番号29
Eセットセンスプライマー(下記3種類のプライマーの混合物を使用)
5’−ATGAGTGTGCYCACTCAGGTCCTGGSGTT −3’:配列番号30
5’−ATGTGGGGAYCGKTTTYAMMCTTTTCAATTG −3’:配列番号31
5’−ATGGAAGCCCCAGCTCAGCTTCTCTTCC −3’:配列番号32
Fセットセンスプライマー(下記4種類のプライマーの混合物を使用)
5’−ATGAGIMMKTCIMTTCAITTCYTGGG −3’:配列番号33
5’−ATGAKGTHCYCIGCTCAGYTYCTIRG −3’:配列番号34
5’−ATGGTRTCCWCASCTCAGTTCCTTG −3’:配列番号35
5’−ATGTATATATGTTTGTTGTCTATTTCT −3’:配列番号36
Gセットセンスプライマー(下記4種類のプライマーの混合物を使用)
5’−ATGAAGTTGCCTGTTAGGCTGTTGGTGCT −3’:配列番号37
5’−ATGGATTTWCARGTGCAGATTWTCAGCTT −3’:配列番号38
5’−ATGGTYCTYATVTCCTTGCTGTTCTGG −3’:配列番号39
5’−ATGGTYCTYATVTTRCTGCTGCTATGG −3’:配列番号40
KVLアンチセンスプライマー
ACTGGATGGTGGGAAGATGGA:配列番号41
【0064】
B.マウスH鎖V領域をコードする遺伝子をPCR法で増幅するために使用するプライマー
5’末端においてマウスH鎖シグナル部分(4セットプライマー)と相同性を有するプライマーと3’末端においてKC部分と相同性を有するプライマー、あるいは、5’末端においてFR1部分と相同性を有する1セットのプライマーと3’末端においてマウスH鎖の定常領域(IGHC)と相同性を有する2種類のプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応により、該cDNAからマウス免疫グロブリンH鎖可変域DNAを単離した。プライマー配列は次のとおりであった。
【0065】
(i)マウスH鎖可変域クローニングプライマー
VHセンス(シグナル部分:4セットプライマー)
このプライマーはCurrent Protocols in Immunology(John Wiley and Sons,Inc.),Unit 2.12 Cloning,Expression,and Modification of Antibody V RegionsのTable 2.12.2を参考にした。
5’− ATG GRA TGS AGC TGK GTM ATS CTC TT −3’(縮重度:32):配列番号42
5’−ATG RAC TTC GGG YTG AGC TKG GTT TT −3’(縮重度:8):配列番号43
5’−ATG GCT GTC TTG GGG CTG CTC TTC T −3’:配列番号44
5’−ATG GRC AGR CTT ACW TYY −3’(縮重度:32):配列番号45
【0066】
(ii)マウスH鎖可変域クローニングプライマー
VHセンス(FR1部分)
このプライマーはTanら、”Superhumanized”Antibodies:Reduction of Immunogenic Potential by Complementarity−Determining Region Grafting with Human Germline Sequences:Application to an Anti−CD281,Journal of Immunology 169(2002)p1119−1125のセンスプライマーの塩基配列を改変してデザインした。
5’−SAG GTS MAR CTK SAG SAG TCW GG −3’(縮重度:256):配列番号46
VHアンチセンス(3,4に共通のアンチセンスプライマー)
マウスIgGすべてのアイソフォームとアニーリングできるように塩基配列を縮重してデザインした。
5’−CAS CCC CAT CDG TCT ATC C −3’(縮重度:6):配列番号47
【0067】
実施例5
キメラ抗CDH3免疫グロブリン発現ベクターの作製
発現プラスミドの作製:DNA Engine(Peltier Thermal Cycler,MJ Research,Bio−Rad)を用いたPCR法により抗CDH3マウスモノクローナル抗体L鎖、H鎖それぞれの可変領域を実施例4に示したプライマーを用いて増幅した。増幅したDNAフラグメントはサブクローニングベクターpGEM(プロメガ社)に組み込んで、このベクターのT7,SP6プロモーターに結合するユニバーサルプライマーを用いて塩基配列を決定した。得られた抗CDH3抗体のL鎖、および、H鎖の可変域塩基配列をIMGT/V−QUEST Search page(http://imgt.cines.fr/IMGT_vquest/vquest?livret=0&Option=mouseIg)で検索し、確かに抗体遺伝子がクローニングできていることを確認した。
次に、クローン化された抗CDH3抗体L鎖のV領域をコードする遺伝子にはヒトCκ領域をコードする遺伝子を、H鎖のV領域をコードする遺伝子にはヒトCκ1領域をコードする遺伝子をそれぞれ接続した遺伝子をデザインして、これらL鎖、H鎖キメラ抗体遺伝子をGenScript社によって全長人工合成した。その際、生産細胞での遺伝子発現が有利になるようにコドン使用頻度の最適化(Kimら、Codon optimization for high−level expression of human erythropoietin(EPO)in mammalian cells,Gene,199,1997,p293−301の方法に従った)を行なった。具体的には、L鎖の場合、効率的な翻訳のために必須のDNA配列(Kozak,M.,J.,At least six nucleotides preceding the AUG initiator codon enhance translation in mammalian cells.J.Mol.Biol.196,p947−950,1987)、マウスIGKVのシグナルペプチド、抗CDH3抗体のL鎖のV領域、ヒトCκ領域の順に遺伝子を並列し、その両端には制限酵素部位(5’側にNheI,3’側にEcoRI)を付加した。キメラH鎖も同様に作製した。これら人工合成遺伝子をNheIとEcoRIで切断し、発現ベクターpCAGGSのNheIとEcoRI部位に組み込み、抗CDH3キメラ抗体L鎖発現ベクターpCAGGS−IGK,H鎖発現ベクターpCAGGS−IGHを得た。
【0068】
実施例6 キメラ抗CDH3免疫グロブリンの安定発現ベクターの作製
遺伝子操作された抗体遺伝子をCHO細胞を用いて高レベルで発現させるために、CMVプロモーター配列に連結し、ポリAシグナルを有したジヒドロフォレートレダクターゼ(dhfr)遺伝子を組み込んだ発現ベクターを作製した。
キメラ抗体の安定発現生産細胞株をつくるために、dhfr遺伝子を組み込んだpCAGGS発現ベクターを作製した。具体的には、一過性の発現ベクターであるpCAGGS−IGH、および、pCAGGS−IGKに、CMVプロモーターとポリAシグナルを有したdhfr遺伝子を組み込むことである。CMVプロモーター、Kozak配列をもつマウスdhfr遺伝子、SV40ポリAシグナルをそれぞれPCR法によって増幅し、これらの遺伝子の混合物をPCR法で接続するとともに両端にHindIII部位を付加して、HindIII−CMVプロモーター−Kozak−dhfr−ポリA−HindIIIという遺伝子フラグメントを得た。このフラグメントをpCAGGS−IGH、あるいは、pCAGGS−IGKのHindIII部位に組み込んでpCAGGS−IGH−CMVp−dhfr−A、および、pCAGGS−IGK−CMVp−dhfr−Aを得た。これらの発現ベクターはキメラ抗体をCAGプロモーターで、dhfr遺伝子をCMVプロモーターで発現させることができ、効率的に遺伝子増幅を利用してキメラ抗体を生産することができる。
【0069】
実施例7 キメラ抗CDH3生産CHO細胞株の樹立
CHO dhfr−細胞(G.Urlaubら、Isolation of Chinese hamster cell mutants deficient in dihydrofolate reductase activity,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77,p4216−4220,1980)を用いて、2種類のプラスミド(アンピシリン耐性遺伝子内のPvuIでプラスミドを切断して環状プラスミドから線状プラスミドにした)すなわち、キメラ抗CDH3L鎖を発現するためのpCAGGS−IGK−CMV−dhfr−Aベクター、および、キメラ抗CDH3H鎖を発現するためのpCAGGS−IGH−CMV−dhfr−Aベクターにより同時形質転換した。エレクトロポレーションはロンザ社製のAmaxaでおこなった。DNA(L鎖、H鎖各プラスミドにつき2μg/試料)を3×10
3細胞の0.1mLのAmaxaエレクトロポレーションCHO用緩衝液に加えてパルスを与えた。
【0070】
エレクトロポレーション処理された細胞を、10%の透析済みFBSを含有し、HT(H,ヒポキサンチン:T,チミジン)を含まないIscove’s Modified Dulbecco培地(IMDM)に加えた。遺伝子導入から3日後、10%透析FBS、2mM L−グルタミン、HTを含まないIMDMに培地を交換して1mg/mLのG418でneo+形質転換細胞の選択をおこない、キメラ抗体産生陽性細胞株クローンを得た。次に、G418で選択されたクローンを用いて遺伝子増幅をおこなった。250nM、1000nMの2ラウンドのメソトレキセート(MTX)中での増幅の後、1リットルの培養上清あたり約50〜100mgのキメラCDH3抗体を生産する細胞株を樹立できた。確立したキメラ抗CDH3抗体安定発現CHO細胞株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例8 精製抗体の取得
培養上清よりprotein Aを用いて抗体の精製を行い、精製抗体を取得した。
【0073】
実施例9 親和性の確認
競合法を用いて、マウス及びキメラ抗CDH3抗体親和性の比較を行った。競合法による抗CDH3抗体の親和性の測定は、CDH3が高発現であると確認されている癌細胞NCI−H358株を用いたフローサイトメトリ(BD社 FACS Calibur)で行った。
【0074】
すなわち、96ウェルプレートに、抗体希釈系列(400μg/mL〜24ng/mL)50μLとAlexa488標識抗体(4μg/mL)50μLを混合した。NCI−H358細胞を2mM EDTA−PBSで処理することにより培養プレートから剥離し、1.5×10
6/mLとなるようFACS溶液(1%BSA PBS)に懸濁し、100μLを抗体混合液の入ったウェルに添加した。添加後室温で60分間反応させ、FACS溶液200μL/ウェル)で2回洗浄した後、フローサイトメトリを実施し、各ウェルの蛍光強度(GEO Mean)を測定した。
Alexa488標識抗体(1μg/mL)のみと反応させた細胞のGEO Mean値と比較して、得られたGEO Mean値よりAlexa488標識抗体の結合阻害率を計算した。50%阻害を示す抗体濃度を算出し、比較を行った。
マウス抗体であるPPMX2016と、そのキメラ抗体であるPPAT−052−27cの親和性評価の結果を
図1に示す。両者の親和性には殆ど差がなかった。
【0075】
実施例10 標識抗体の作製
(1)抗体へのDOTAの結合
抗体を緩衝液(50mMBicine−NaOH、150mM NaCl、pH8.5)に溶解し、抗体濃度を10mg/mLに調整した。一方で、イソチオシアノベンジルDOTA(Macrocyclics社製 B−205))を、DMSOに10mg/mLの濃度になる様に溶解した。抗体とDOTAのモル比が1:1(仕込比1:1)、1:3(仕込比1:3)または1:10(仕込比1:10)となるように混合、撹拌し、25℃で17時間静置した。反応終了後、脱塩カラム(PD−10、GEヘルスケア社製 17−0435−01)でPBSを用いて精製した。使用抗体はPPMX2016、PPMX2025、PPMX2029、PPAT−052−27c、PPAT−052−28cのいずれかである。
【0076】
(2)キレート導入率の確認
キレート滴定法により、抗体のキレート導入率を測定した。予め、修飾抗体のタンパク質濃度を常法により測定し、IgGの分子量から修飾抗体のモル数を算出した。原子吸光分析法により定量された1mg/mLの標準銅溶液100μLに、0.776mgのアルセナゾIII試薬と3mLの金属を含有しない5M酢酸アンモニウム(シグマアルドリッチ社製)溶液を加え、さらに超純水を加えて最終容量を10mLとし暗所にて室温保存しアルセナゾIII溶液とした。DOTAを超純水に溶解しDOTA標準液とした。修飾抗体を超純水に溶解し修飾抗体溶液とした。DOTA標準液又は修飾抗体溶液10μLとアルセナゾIII溶液190μLを混和し37℃で30分間インキュベーションした後に波長630nmにおける吸光度を測定した。DOTA標準液の吸光度から標準曲線を作成し、修飾抗体に結合したDOTAの数を算出しDOTA平均修飾数とした。
【0077】
その結果、DOTA仕込比と実際のDOTA平均修飾数の関係は表2の通りであり、実際に抗体に結合するDOTA数はDOTAの仕込比により決定することを確認した。
【0078】
【表2】
【0079】
(3)
67Ga、
111Inまたは
90Y標識抗体の調製
(i)
67Ga、
111In標識
精製したPPMX2016、PPMX2025、PPMX2029、PPAT−052−27c抗体およびPPAT−052−28c抗体を6mg/mLとなるように緩衝液(0.25M 酢酸アンモニウム−HCl pH5.5)に溶解し、
67GaCl
3溶液(富士フイルムRIファーマ社製)或いは
111InCl
3溶液(MDS Nordion Inc.社製)を加えて45℃、1時間インキュベートした。
(ii)
90Y標識
精製したPPMX2029、PPAT−052−27c抗体を6mg/mLとなるように緩衝液(0.25M 酢酸アンモニウム−HCl pH5.5)に溶解し、
90YCl
3溶液(nuclitec社製)を加えて45℃、1時間インキュベートした。
(iii)標識率の確認
標識反応液の一部をサンプリングし、薄層クロマトグラフィー(PALL社製、61885)を用いて標識率を確認した。展開溶媒を生理食塩水とし、ストリップの上端と下端の放射活性をγ−カウンターを用いて測定し標識率を以下の式により算出した。
【0080】
標識率=(下端のカウント/(上端のカウント+下端のカウント))×100(%)
【0081】
標識率が90%以上のときに後の実験に使用した。標識抗体は、脱塩カラム(PD−10、GEヘルスケア社製 17−0435−01)でPBSを用いて精製した。
【0082】
実施例11 キレート導入率と体内分布の関連の検討
PPMX2016、PPMX2025、PPMX2029について、キレート導入率の差による体内動態の違いを検討した。キレート導入率はDOTA仕込比1:1、1:3、1:10の3通りについて検討を行った。
まず、NCI−H358を10%FBS含有RPMI1640培地中で培養し、ヌードマウス(メス、7週齢、日本クレア)の右腹側部皮下に1×10
7個/マウスとなるように移植し平均腫瘍体積が100〜150mm
3になるまで飼育した。
次に、NCI−H358移植マウスに
67Ga−DOTA−PPMX2016抗体(仕込比1:3、1:10)、
67Ga−DOTA−PPMX2025抗体(仕込比1:3、1:10)、
67Ga−DOTA−PPMX2029抗体(仕込比1:3、1:10)を370kBq/匹となるよう投与した。
投与後96時間が経過した時点で屠殺、解剖を行って組織および腫瘍を摘出し、組織および腫瘍の重量を測定した後にγ−カウンターにより放射活性を測定し以下の式により%ID/gを算出した。
【0083】
%ID/g=(集積RI量/総投与量RI量×100(%))/重量(g)
【0084】
結果を
図2〜
図7に示す。すべての抗体でDOTA仕込比が1:10のときより1:3のときに腫瘍への集積性が向上した。かかる集積性の向上は治療効果の増強をもたらす。さらに、他臓器に放射性物質が滞留することによる副作用を回避することができる。
【0085】
さらに、
67Ga−DOTA−PPMX2025抗体(仕込比1:1、1:3、1:10)を非担癌ヌードマウス(メス、7週齢、日本クレア)に370kBq/匹投与した結果を
図8に示す。仕込比1:10のときには肝臓への集積性が高かったのに対し、1:3および1:1のときには肝臓への集積性が低くなった。これは、肝臓への放射線障害等の副作用が起こりにくいことを意味する。
【0086】
実施例12 抗caldinaキメラ抗体の体内動態検討
キメラ抗体PPAT−052−27c及びPPAT−052−28cについて、体内動態を検討した。
まず、NCI−H1373を10%FBS含有RPMI1640培地中で培養し、ヌードマウス(メス、9週齢、日本クレア)の右腹側部皮下に4×10
6個/マウスとなるように移植し平均体積が100〜150mm
3になるまで飼育した。
次に、NCI−H1373移植マウスに
111In−DOTA−PPAT−052−27c(仕込み比1:3)及び
111In−DOTA−PPAT−052−28c(仕込み比1:3)を370kBq/匹となるよう投与した。
投与後48時間ないし96時間が経過した時間で屠殺、解剖を言って組織及び腫瘍を摘出し、組織及び腫瘍の重量を測定した後にγ−カウンターにより放射活性を測定し、%ID/gを算出した。
結果を
図9〜
図11に示す。PPAT−052−27cにおいては投与後48時間で腫瘍への集積が46%ID/gと高い集積を示した。また、PPAT−052−28cでは、48時間後で41%ID/g、96時間後で52%ID/gと高い集積を示した。
【0087】
実施例13 ゼノグラフト試験
NCI−H358を10%FBS含有RPMI1640培地用いて培養し、ヌードマウス(メス、7週齢、日本クレア)の右腹側部皮下に1×10
7個/マウスとなるように移植した。
NCI−H358移植マウスを6群に分け(n=8)、
90Y−DOTA−PPMX2029抗体(仕込比1:3)を7.4MBq/匹、5.6MBq/匹、3.7MBq/匹、1.9MBq/匹投与した。対照として未標識PPMX2029を80μg/匹、生理的食塩水を100μL/匹を投与した。投与は、いずれの群においても平均腫瘍体積が100〜150mm
3となった時点で行った。
投与後、週2回(3日または4日毎)体重と腫瘍体積の測定を行い、投与後51日目まで観察を行った。
【0088】
試験結果を
図12に示す。
90Y−DOTA−PPMX2029抗体(仕込比1:3)は、放射活性と正比例する抗腫瘍効果を示した。
また、NCI−H1373を10%FBS含有RPMI1640培地用いて培養し、ヌードマウス(メス、7週齢、日本クレア)の右腹側部皮下に5×10
6個/マウスとなるように移植した。
NCI−H1373移植マウスを4群に分け(n=8)、
90Y−DOTA−PPAT−052−27c抗体(仕込比1:3)を5.6MBq/匹、3.7MBq/匹投与した。対照として未標識PPMX2029を60μg/匹、生理的食塩水を100μL/匹を投与した。投与は、いずれの群においても平均腫瘍体積が100〜150mm
3となった時点で行った。
投与後、週2回(3日または4日毎)体重と腫瘍体積の測定を行い、投与後26日目まで観察を行った。
試験結果を
図13に示す。
90Y−DOTA−PPAT−052−27c抗体(仕込比1:3)は、放射活性と正比例する抗腫瘍効果を示した。
【0089】
実施例14 免疫組織化学染色
癌臨床検体でのCDH3タンパク質の発現を確認するため、癌検体組織アレイで免疫染色を行った。
癌細胞組織アレイは、上海芯超生物科技有限公司社(Shanghai Outdo Biotech Co.,Ltd.)製の、膵癌(腺癌)、肺癌(腺癌)、肺癌(扁平上皮癌)および大腸癌(腺癌)を使用した。
各組織アレイスライドを脱パラフィン処理し、10mMTris 1mM EDTA(pH9.0)で95℃40分賦活化を行った。ENVISION+Kit(Dako社)付属のブロッキング試薬にて内在性ペルオキシダーゼの不活性化を行った後、抗CDH3抗体610227(BD BIOSCIENCE社)、およびネガティブコントロールとして抗HBs抗体Hyb−3423と5μg/mLの濃度で4℃一晩反応させた。抗体溶液を洗い流した後に、ENVISION+Kit付属のポリマー二次抗体試薬と室温30分間反応させた。ENVISION+Kit付属の発色試薬にて発色を行い、ヘマトキシリンエオジン溶液にて核染色を行った。
図14に結果を示す。癌細胞は抗CDH3抗体で染色され正常細胞は染色されなかった。