特許第5848823号(P5848823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5848823
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20060101AFI20160107BHJP
【FI】
   C02F3/34 101C
   C02F3/34 101B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-519700(P2014-519700)
(86)(22)【出願日】2012年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2012003705
(87)【国際公開番号】WO2013183087
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2014年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 康二
(72)【発明者】
【氏名】猪股 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】安部 崇嗣
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋士
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−007758(JP,A)
【文献】 特表2009−505822(JP,A)
【文献】 特開昭61−249597(JP,A)
【文献】 特開2006−055683(JP,A)
【文献】 特開平03−114597(JP,A)
【文献】 特開平06−285493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥法により対象水を処理する水処理システムであって、
前記対象水と活性汚泥の混合液から窒素を除去するための無酸素槽と、
前記無酸素槽から流出する混合液に曝気を行うための好気槽と、
前記好気槽から流出する混合液の一部を前記無酸素槽に戻す還流路と、
前記好気槽内の混合液中の硝酸性窒素濃度を測定するセンサと、
前記無酸素槽へ有機物を供給する供給手段と、
前記供給手段を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、一定の時間間隔ごとに前記センサの測定値に基づいて前記供給手段による有機物の供給量を変更すべきか否かを判定し、有機物の供給量を変更すべきと判定したときには有機物の供給量が所定量だけ変化するように前記供給手段を操作する、水処理システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記センサの測定値から硝酸性窒素濃度の目標値を差し引いて偏差を算出する偏差算出部と、有機物の供給量を規定する前記供給手段への操作信号を前記偏差に基づいて決定し、前記供給手段へ前記操作信号を出力する供給量演算部と、を有する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記供給量演算部は、前記偏差が許容範囲内にある場合に前記操作信号を直前の値と同じ値に維持し、前記偏差が前記許容範囲外の場合に前記操作信号を直前の値から一定値だけ変化させる、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記センサは、前記混合液中の硝酸性窒素濃度を連続的に測定するものであり、
前記制御装置は、前記センサの測定値から高周波成分をカットするローパスフィルタを有する、請求項1〜3の何れか一項に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記制御装置は、当該制御装置への入力により前記時間間隔を変更できるように構成されている、請求項1〜4の何れか一項に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記無酸素槽へ供給される前記有機物はメタノールである、請求項1〜5の何れか一項に記載の水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性汚泥法により対象水を処理する水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生活排水や下水などの汚濁物質を含む対象水を活性汚泥を用いて生物学的に処理する水処理システムが知られている。このような水処理システムは、一般に、対象水と活性汚泥の混合液から窒素を除去するための無酸素槽と、無酸素槽から流出する混合液に曝気を行うための好気槽とを備えている(例えば、特許文献1参照)。好気槽から流出する混合液の一部は還流路により無酸素槽に戻される。
【0003】
好気槽では、硝化細菌が、対象水中のアンモニア態窒素(NH−N)と、有機態窒素から転換したアンモニア態窒素を、硝酸性窒素(NO−N、具体的には亜硝酸態窒素(NO−N)と硝酸態窒素(NO−N))に酸化する。無酸素槽では、脱窒細菌が、好気槽で生成された亜硝酸態窒素と硝酸態窒素を、亜硝酸呼吸あるいは硝酸呼吸により窒素ガスに還元する。これを脱窒という。脱窒細菌は、亜硝酸呼吸および硝酸呼吸のために有機物を必要とする。
【0004】
ところで、無酸素槽での脱窒において、対象水中の有機物の量が不足することがある。これを防止するために、無酸素槽に有機物を供給することが提案されている。しかし、有機物の供給量が過剰になると、無酸素槽で消費されなかった有機物によって好気槽に流れ込む混合液中の有機物の濃度が高くなる。一方、有機物の供給量が不足すると、還元されなかった硝酸性窒素が好気槽に流れ込む。これらの不具合を防止するために、特許文献1に開示された水処理システムでは、無酸素槽から流出する混合液中の硝酸性窒素濃度を連続的に測定して、無酸素槽への有機物の供給と停止をリアルタイムに切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−154392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水処理システムでは、最終的に得られる処理水中の窒素含有量を所望値以下に抑えることが望ましい。しかしながら、本発明の発明者らは、実証実験により、連続的に測定された硝酸性窒素濃度に基づいてリアルタイムに有機物の供給量を変更したのでは、好気槽におけるアンモニア態窒素の濃度の変動を抑制できないことを突き止めた。それ故に、処理水中の窒素含有量を低く抑えることは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、好気槽におけるアンモニア態窒素の濃度の変動を抑制することができる水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、無酸素槽から流出する混合液中の硝酸性窒素濃度が増加したからといって無酸素槽への有機物の供給量を大きく増大させると、その数時間後に好気槽におけるアンモニア態窒素の濃度が大きく増加することを見出した。本発明は、このような観点からなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明の水処理システムは、活性汚泥法により対象水を処理する水処理システムであって、前記対象水と活性汚泥の混合液から窒素を除去するための無酸素槽と、前記無酸素槽から流出する混合液に曝気を行うための好気槽と、前記好気槽から流出する混合液の一部を前記無酸素槽に戻す還流路と、前記無酸素槽内もしくは前記好気槽内の混合液または前記無酸素槽と前記好気槽の間を流れる混合液中の硝酸性窒素濃度を測定する測定手段と、前記無酸素槽へ有機物を供給する供給手段と、前記供給手段を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、一定の時間間隔ごとに前記測定手段の測定値に基づいて前記供給手段による有機物の供給量を変更すべきか否かを判定し、有機物の供給量を変更すべきと判定したときには有機物の供給量が所定量だけ変化するように前記供給手段を操作する。
【0010】
ここで、「無酸素槽と好気槽の間を流れる混合液」とは、無酸素槽から好気槽に向かって流れる混合液だけでなく、還流路を通じて好気槽から無酸素槽に戻る混合液を含む概念である。
【0011】
上記の構成によれば、無酸素槽に適切な量の有機物が供給されるために、無酸素槽における脱窒が良好に行われる。しかも、有機物の供給量を一定の時間間隔(time interval)ごとに所定量ずつ変化させることにより、好気槽におけるアンモニア態窒素濃度の変動を抑制することができる。
【0012】
前記制御装置は、前記測定手段の測定値から硝酸性窒素濃度の目標値を差し引いて偏差を算出する偏差算出部と、有機物の供給量を規定する前記供給手段への操作信号を前記偏差に基づいて決定し、前記供給手段へ前記操作信号を出力する供給量演算部と、を有してもよい。この構成によれば、好気槽における硝酸性窒素の濃度を目標値に近づけるような制御を行うことができる。
【0013】
前記供給量演算部は、前記偏差が許容範囲内にある場合に前記操作信号を直前の値と同じ値に維持し、前記偏差が前記許容範囲外の場合に前記操作信号を直前の値から一定値だけ変化させてもよい。この構成によれば、操作信号を単純な演算で決定することができる。
【0014】
前記測定手段は、前記混合液中の硝酸性窒素濃度を連続的に測定するものであり、前記制御装置は、前記測定手段の測定値から高周波成分をカットするローパスフィルタを有してもよい。この構成によれば、ローパスフィルタにより測定値が平滑化されるため、制御精度を向上させることができる。
【0015】
前記制御装置は、当該制御装置への入力により前記時間間隔を変更できるように構成されていてもよい。この構成によれば、対象水の水質が変化しても、有機物の供給量を更新する時間間隔の変更により、好気槽におけるアンモニア態窒素の濃度の変動を抑制することができる。
【0016】
前記無酸素槽へ供給される前記有機物はメタノールであってもよい。この構成によれば、安価な材料で脱窒を促進させることができる。
【0017】
前記測定手段は、前記好気槽に設けられていてもよい。この構成によれば、測定手段への汚泥の付着を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、好気槽におけるアンモニア態窒素の濃度の変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る水処理システムの概略構成を示す図
図2図1に示す水処理システムの制御装置を含むブロック図
図3】制御装置の主な構成要素を示す図
図4】硝酸性窒素濃度、偏差および操作信号の継時的変化を示すグラフ
図5】(a)および(b)は、好気槽におけるアンモニア態窒素濃度、好気槽における硝酸性窒素濃度および操作信号の時間的変化を示すグラフであり、(a)は連続制御を行ったときの結果のグラフ、(b)はバッチ処理を行ったときの結果のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0021】
図1に、本発明の一実施形態に係る水処理システム1を示す。この水処理システム1は、膜分離槽25を備えた、膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio-Reactor)を用いて対象水を浄化する再生水製造装置である。ただし、本発明の水処理システムは、必ずしも膜分離活性汚泥法を用いたものである必要はなく、膜分離槽25の代わりに沈殿槽を備えていてもよい。
【0022】
具体的に、水処理システム1は、上流側から順に、原水槽21、嫌気槽22、無酸素槽23、好気槽24、膜分離槽25および濾過水槽27を備えている。嫌気槽22、無酸素槽23、好気槽24は、活性汚泥中の微生物を働かせる一連の生物反応槽を構成する。
【0023】
原水槽21は、水処理システム1に供給される対象水を一時的に貯えるバッファタンクとして機能する。原水槽21は、第1経路31を介して嫌気槽22と接続されている。第1経路31には第1操業ポンプ32が設けられており、第1操業ポンプ32の稼働により、原水槽21から嫌気槽22へ対象水が送り込まれる。
【0024】
嫌気槽22では、送り込まれた対象水が活性汚泥と混合して混合液となる。嫌気槽22は、活性汚泥中の微生物からリンを放出させるための槽である。本実施形態では、嫌気槽22および無酸素槽23が、一つのタンクが二つに仕切られることにより形成されている。混合液は、嫌気槽22から無酸素槽23に流れ込む。
【0025】
無酸素槽23は、混合液から窒素を除去するための槽である。無酸素槽23は、第2経路33を介して好気槽24と接続されている。第2経路33は、無酸素槽23からオーバーフローした混合液を好気槽24へ導く。
【0026】
好気槽24には、混合液に曝気を行う曝気装置5Aが設けられている。曝気装置5Aは、好気槽24内に配置された、混合液中に微細気泡を吹き出す排気部51と、排気部51に空気を供給するブロア52とからなる。曝気装置5Aによる曝気より、混合液が撹拌されるとともに、活性汚泥中の微生物に酸素が送られ、微生物による有機物の分解およびリンの除去などが行われる。好気槽24は、第3経路34を介して膜分離槽25と接続されている。第3経路34は、好気槽24からオーバーフローした混合液を膜分離槽25へ導く。
【0027】
膜分離槽25には、上述した曝気装置5Aと同様の構成の曝気装置5Bが設けられている。この曝気装置5Bによる作用は、好気槽24と同様である。また、膜分離槽25内には、分離膜により混合液から汚泥を分離して濾過水を生成する分離装置26が配置されている。分離装置26は、第4経路35を介して濾過水槽27と接続されている。第4経路35には第2操業ポンプ36が設けられており、第2操業ポンプ36の稼働により、分離装置26から濾過水槽27へ濾過水が送り込まれる。
【0028】
一方、分離装置26で分離された汚泥の一部は、第3操業ポンプ44が設けられた第1還流路43により、嫌気槽22に戻される。余剰の汚泥は、膜分離槽25に接続された排出路37を通じて系外に排出される。また、膜分離槽25内の混合液の一部は、第4操業ポンプ42が設けられた第2還流路(本発明の還流路に相当)41により無酸素槽23に戻される。
【0029】
ここで、活性汚泥中の微生物の働きを詳しく説明する。
【0030】
1)窒素の除去
原水槽21から嫌気槽22に送り込まれる対象水には、アンモニア態窒素と有機態窒素が含まれている。有機態窒素は、嫌気槽22、無酸素槽23、好気槽24および膜分離槽25を通過する間にアンモニア態窒素に転換する。好気槽24および膜分離槽25では、アンモニア態窒素が、硝化細菌により亜硝酸態窒素と硝酸態窒素に酸化される。生成された亜硝酸態窒素および硝酸態窒素は、第2還流路41を通じて混合液の一部と共に無酸素槽23に送られる。無酸素槽23では、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素が、無酸素条件下で有機物を栄養源とする脱窒細菌の亜硝酸呼吸あるいは硝酸呼吸により窒素ガスに還元される。生成された窒素ガスは、無酸素槽22から系外に排出される。
【0031】
2)リンの除去
嫌気槽22では、リン蓄積細菌が、酢酸などの対象水中の有機物を体内に取り込んで、保持していたリン酸(PO)を放出する。好気槽24では、好気条件下でリンを過剰に摂取するリン蓄積細菌が、嫌気槽22で放出した以上のリン酸態のリンを取り込む。
【0032】
さらに、本実施形態の水処理システム1では、無酸素槽23に有機物を供給する構成が採用されている。具体的には、無酸素槽23が、有機物を保持する有機物槽61と供給路62を介して接続されている。供給路62には、投入ポンプ63が設けられている。すなわち、投入ポンプ63は、無酸素槽23へ有機物を供給する本発明の供給手段に相当する。
【0033】
無酸素槽23に供給される有機物としては、特に制限されるものではないが、脱窒細菌が消費し易いという観点から、低分子のアルコールや低分子の有機酸を用いることが望ましい。中でも、メタノールは、安価な材料で脱窒を促進させることができるという点で望ましい。
【0034】
さらに、水処理システム1は、操業ポンプ32,36,42,44、投入ポンプ63および曝気装置5A,5Bを統括的に制御する制御装置7を備えている。図2に示すように、制御装置7には、各種のセンサ81〜83,91〜93が接続されている。
【0035】
具体的に、原水槽21には、対象水中のアンモニア態窒素濃度を測定する第1アンモニア態窒素センサ81と、対象水中の硝酸性窒素濃度を測定する第1硝酸性窒素センサ91が設けられている。また、好気槽24には、好気槽24内の混合液中のアンモニア態窒素濃度を測定する第2アンモニア態窒素センサ82と、混合液中の硝酸性窒素濃度を測定する第2硝酸性窒素センサ(本発明の測定手段に相当)92が設けられている。さらに、濾過水槽25には、濾過水中のアンモニア態窒素濃度を測定する第3アンモニア態窒素センサ83と、濾過水中の硝酸性窒素濃度を測定する第3硝酸性窒素センサ93が設けられている。
【0036】
そして、制御装置7は、それらのセンサ81〜83,91〜93の測定値に基づいて、操業ポンプ32,36,42,44、投入ポンプ63および曝気装置5A,5Bを操作する。なお、硝酸性窒素センサ91〜93としては、硝酸態窒素濃度を測定するセンサを用いることが望ましいが、亜硝酸態窒素濃度を測定するセンサを用いてもよいし、硝酸態窒素濃度と亜硝酸態窒素濃度の双方を測定するセンサを用いてもよい。
【0037】
特に、制御装置7は、第2硝酸性窒素センサ92の測定値に基づいて投入ポンプ63を間欠的に操作し、操作しない間は投入ポンプ63の稼働状態を一定に維持する。具体的に、制御装置7は、一定の時間間隔Tごとに第2硝酸性窒素センサ92の測定値に基づいて投入ポンプ63による有機物の供給量を変更すべきか否かを判定する。有機物の供給量を変更すべきと判定したときには、制御装置7は、有機物の供給量が所定量だけ変化するように投入ポンプ63を操作する。以下、この制御を詳しく説明する。
【0038】
制御装置7には、上記の時間間隔Tが予め格納されている。さらに、制御装置7には、図3に示すように、硝酸性窒素濃度の目標値SVと、後述する偏差(deviation)ΔEの許容範囲を決定する許容上限値THおよび許容下限値THと、後述する操作信号MVを演算するための供給ゲインKmが予め格納されている。
【0039】
時間間隔Tは、無酸素槽23への有機物の供給量を更新する時間である。例えば、対象水が生活排水である場合には、一日における対象水中の成分濃度の変化は日が変わるごとに同じパターンを繰り返すことが多い。そこで、時間間隔Tは、例えば0〜24時間の範囲内で対象水の水質に応じて適切に設定してもよい。
【0040】
本実施形態では、第2硝酸性窒素センサ92として硝酸性窒素濃度を連続的に測定するセンサが用いられている。そのため、制御装置7は、第2硝酸性窒素センサ92の測定値PVから高周波成分をカットするローパスフィルタ71を有している。
【0041】
さらに、制御装置7は、偏差算出部72と供給量演算部73を有している。偏差算出部72は、ローパスフィルタ71を通過した測定値PVから目標値SVを差し引いて偏差ΔEを算出する。供給量演算部73は、時間間隔Tごとに、有機物の供給量を規定する操作信号MVを偏差ΔEに基づいて決定し、投入ポンプ63へ操作信号MVを出力する。
【0042】
本実施形態では、操作信号MVは、投入ポンプ63を稼働させる範囲の上限値を100%、下限値(投入ポンプ63を停止するとき)を0%とする百分率である。すなわち、操作信号MVは、現在の有機物の供給量を表す数値でもある。
【0043】
具体的には、供給量演算部73は、偏差ΔEが許容上限値THと許容下限値THの間の許容範囲内にある場合に操作信号MVを直前の値と同じ値に維持し、偏差ΔEが許容範囲外の場合に操作信号MVを直前の値から一定値(供給ゲインKm)だけ変化させる。供給ゲインKmは、対象水の水質、供給する有機物の濃度、投入ポンプの特性に応じて、適切に設定することができる。
【0044】
例えば、図4に示すように、ある時刻から時間間隔Tがn回過ぎたn回目の更新では、供給量演算部73は、偏差ΔEを許容上限値THおよび許容下限値THと比較する。許容上限値THと許容下限値THは、例えば符号が異なるだけの等しい値である。偏差ΔEが許容上限値THより大ければ、供給量演算部73は、有機物の供給量を増やすべきと判定し、前回出力された操作信号MV(n−1)に供給ゲインKmを足した値を今回の操作信号MV(n)とする。偏差ΔEが許容下限値THより小さければ、供給量演算部73は、有機物の供給量を減らすべきと判定し、前回出力された操作信号MV(n−1)から供給ゲインKmを引いた値を今回の操作信号MV(n)とする。一方、偏差ΔEが許容上限値TH以下であり許容下限値TH以上であれば、供給量演算部73は、有機物の供給量を変更すべきでないと判定し、前回出力された操作信号MV(n−1)を今回の操作信号MV(n)とする。すなわち、供給量演算部73は、偏差算出部72から送られる偏差Δに基づいて、以下の何れかの演算を行う。
【0045】
・ΔE>TH MV(n)=MV(n−1)+Km
・TH≦ΔE≦TH MV(n)=MV(n−1)
・ΔE<TH MV(n)=MV(n−1)−Km
以上説明した本実施形態の水処理システム1では、無酸素槽23に適切な量の有機物が供給されるために、無酸素槽23における脱窒が良好に行われる。しかも、有機物の供給量を一定の時間間隔Tごとに所定量ずつ変化させることにより、好気槽24におけるアンモニア態窒素濃度の変動を抑制することができる。
【0046】
ここで、本実施形態の水処理システム1による効果を確認するために行った実証実験の結果を説明する。図5(a)は、比較のために第2硝酸性窒素センサ92の測定値に基づいて無酸素槽23への有機物の供給量を連続的に変化させた連続制御を行ったときの結果であり、図5(b)は、本実施形態のように無酸素槽23への有機物の供給量を一定の時間間隔Tごとに所定量ずつ変化させたバッチ処理を行ったときの結果である。なお、図5(a)、(b)の左側の縦軸(アンモニア態窒素濃度及び硝酸性窒素濃度を示す軸)は同一のスケールである。また、図5(a)の右側の縦軸(操作信号MV)は、図5(b)の右側の縦軸の5倍のスケールである。また、図5(b)のバッチ処理では、更新の時間間隔Tを6時間と設定した。
【0047】
図5(a)に示すように、連続制御を行った場合は、投入ポンプ63への操作信号MVが0〜100%の間で大きく変動し、好気槽24におけるアンモニア態窒素濃度が大きく変動する。さらには、好気槽24における硝酸性窒素濃度も大きく変動する。その結果、濾過水槽27における処理水中の窒素含有量も大きく変動する。なお、処理水中の窒素含有量は、アンモニア態窒素や硝酸性窒素だけでなく全ての態様の窒素の総量である。
【0048】
これに対し、図5(b)に示すように、バッチ処理を行った場合は、好気槽24におけるアンモニア態窒素濃度がほぼ直線的に推移する。しかも、好気槽24における硝酸性窒素濃度の変動幅も連続制御を行った場合よりも小さくなる。すなわち、本実施形態のようにバッチ処理を行えば、処理水中の窒素含有量を所望値以下に抑えることが可能である。
【0049】
また、本実施形態では、制御装置7が、第2硝酸性窒素センサ92の測定値PVから硝酸性窒素濃度の目標値SVを引いた偏差ΔEを用いて投入ポンプ63への操作信号MVを決定している。この構成によれば、好気槽24における硝酸性窒素の濃度を目標値SVに近づけるような制御を行うことができる。
【0050】
さらに、制御装置7の供給量演算部73は、偏差ΔEが許容範囲外の場合に操作信号を直前の値から一定値だけ変化させる。この構成によれば、操作信号を単純な演算で決定することができる。
【0051】
また、本実施形態では、第2硝酸性窒素センサ92の測定値がローパスフィルタ71を通過して偏差算出部72に送られる。この構成によれば、ローパスフィルタにより測定値が平滑化されるため、制御精度を向上させることができる。
【0052】
ところで、制御装置7は、当該制御装置7への入力により時間間隔Tを変更できるように構成されていてもよい。この構成であれば、対象水の水質が変化しても、有機物の供給量を更新する時間間隔Tの変更により、好気槽24におけるアンモニア態窒素の濃度の変動を抑制することができる。
【0053】
<変形例>
なお、前記実施形態では、第2硝酸性窒素センサ92が好気槽24に設けられていたが、第2硝酸性窒素センサ92は、無酸素槽23内の混合液中の硝酸性窒素濃度を測定するように無酸素槽23に設けられていてもよい。また、第2硝酸性窒素センサ92は、無酸素槽23と好気槽24の間を流れる混合液中の硝酸性窒素濃度を測定するように、第2経路33、第3経路34、膜分離槽25または第2還流路41に設けられていてもよい。ただし、前記実施形態のように第2硝酸性窒素センサ92が好気槽24に設けられていれば、好気槽24内では曝気により激しい対流が生じているために、第2硝酸性窒素センサ92への汚泥の付着を抑制することができる。
【0054】
また、前記実施形態では、第2還流路41の上流端が膜分離槽25につながれているが、第2還流路41は好気槽24から流出する混合液の一部を無酸素槽23に戻すことができればよい。例えば、膜分離槽25の代わりに沈殿槽が設けられている場合は、第2還流路41の上流端は好気槽24につながれていてもよい。
【0055】
さらに、嫌気槽22は必ずしも無酸素槽23と別に設けられている必要はなく、無酸素槽23が嫌気槽22の機能を兼ね備えていてもよい。この場合、第1還流路43を省略し、第2還流路41を通じて汚泥を無酸素槽23に戻してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 水処理システム
23 無酸素槽
24 好気槽
41 還流路
63 供給ポンプ(供給手段)
7 制御装置
71 ローパスフィルタ
72 偏差算出部
73 供給量演算部
81〜83 アンモニア態窒素センサ
91 第1硝酸性窒素センサ
92 第2硝酸性窒素センサ(測定手段)
93 第3硝酸性窒素センサ
図1
図2
図3
図4
図5