【実施例】
【0016】
発明者らは、水分を多く含むバイオマス燃料の燃焼特性を調査して、微粉炭焚きボイラ火炉において、水分を多く含むバイオマス燃料を微粉炭とともに混焼するための指針を得ることとした。
【0017】
燃焼特性の調査に使用した試験装置を
図1に示す。
1は反応管であるアルミナチューブで、このアルミナチューブ1の高さ方向の上端から、燃料フィーダ2に接続された燃料ノズル3がアルミナチューブ1と同心状に挿入されている。この燃料ノズル3の先端開口の上部外周にはメッシュ材4が設置され、このメッシュ材4の上方に配管5が導入され、この配管5を介してガスボンベ6a〜6c内のO
2ガス、N
2ガス、空気を適宜混合し、ヒータ7で予熱した後、燃料ノズル3の外周部に供給するようになっている。
【0018】
また、アルミナチューブ1の外周部には電気炉8が設けられ、この電気炉8で加熱されたアルミナチューブ1内の所要高さ位置の温度を熱電対9で検出し、この検出温度に基づき、温度コントローラ10によりアルミナチューブ1内の加熱温度を制御する。
【0019】
一方、アルミナチューブ1の高さ方向の下端からは、水冷プローブ11が同心状に挿入されており、この水冷プローブ11の昇降により、その先端位置を任意に変更できるようになっている。この水冷プローブ11の基端には固形粒子を回収するフィルター12を先端に、吸引ファン13を基端に備えた吸引管14が設置されており、この吸引管14の途中に設置されたガス分析装置15で吸引ガスの成分を分析するようになっている。
【0020】
そして、試験は、熱電対9で検出し、PC16に取り込んだ温度データに基づき、温度コントローラ10を使用して、電気炉8によりアルミナチューブ1の内部を試験条件の温度まで上昇させた。
【0021】
その後、燃料ノズル3を介してバイオマス燃料を上部より投入し、上部より落下してくるバイオマス燃料の燃焼粒子を水冷プローブ11によりサンプリングする。その際、粒子のサンプリング位置を変えることで、炉内滞留時間毎のバイオマス燃料の燃焼率を把握する。
【0022】
試験には、バイオマス燃料としてコーヒー粕を使用した。乾式燃料試験に使用したコーヒー粕の水分は6質量%、湿式燃料試験に使用したコーヒー粕の水分は60質量%であった。
【0023】
図2は
図1に示した試験装置を用いて行った乾式燃料試験と湿式燃料試験から得られたバイオマス燃料の燃焼率を比較して示した図である。
【0024】
図2より、湿式燃料試験の場合はバイオマス燃料に含まれる水分の蒸発時間が長くなるため、乾式燃料試験と同程度の燃焼率を得るためには、乾式燃料試験よりも長い滞留時間を必要とすることが分かった。この水分の蒸発に必要な時間は、粒子径と炉内温度に依存すると考えられる。
【0025】
すなわち、炉内温度が1000℃の場合における試験結果を示した
図2(a)より、バイオマス燃料であるコーヒー粕の粒子径が74μmの場合は、乾式燃料試験も湿式燃料試験も滞留時間と燃焼率の関係はほぼ同様であり、ほとんど蒸発時間を考慮する必要がないことが分かった(○印と●印)。一方、コーヒー粕の粒子径が428μmの場合は、滞留時間を0.5秒程度考慮する必要があることが分かった(□印と■印)。
【0026】
また、炉内温度が1000℃と1200℃の場合における試験結果を示した
図2(b)より、炉内温度が1200℃の場合は、湿式燃料試験でもより短い蒸発時間で乾式と同程度の燃焼率が得られることが分かった(□印と■印)。
【0027】
以上より、バイオマス燃料の粒子径が減少するにつれて、また炉内温度が上昇するにつれて粒子中の水分が蒸発するのに要する時間が減少する傾向があり、少なくとも1200℃の炉内温度を有するボイラ火炉内であれば、より短い蒸発時間で乾式と同程度の燃焼率を得られることが分かった。
【0028】
次に、炉内温度が1200℃の場合に、バイオマス燃料であるコーヒー粕が燃焼を完了するのに要する滞留時間を
図3に示した。
【0029】
乾燥状態のコーヒー粕の場合は、
図3中に細線で示す曲線に沿って粒子径が大きくなるにつれて、燃焼完了に要する滞留時間は長くなり、粒子径が2mm程度の場合は0.6秒程度の滞留時間が必要となることが分かった。
【0030】
一方、未乾燥(湿式)状態のコーヒー粕の場合は、前述したように約0.5秒程度の着火遅れがあるので、
図3中に実線で示す曲線に沿って粒子径が大きくなるにつれて、燃焼完了に要する滞留時間は長くなり、粒子径が2mm程度の場合は1.2秒程度の滞留時間が必要となることが分かった。
【0031】
以上の結果を踏まえて、発明者らは、粒子径が2mmのバイオマス燃料であるコーヒー粕を前提として、1.2秒程度の滞留時間を得るために、どのような条件が必要であるかについて検討した。検討対象とした微粉炭焚きボイラ火炉を
図4に示す。
【0032】
この
図4に示した微粉炭焚きボイラ火炉21へのコーヒー粕の吹き込み位置は、ボイラ耐圧部を改造することなく吹き込むことができる二次燃焼空気ポート(OAP)22、上段バーナ23、中段バーナ24、下段バーナ25の、高さ方向に異なる4箇所とした。なお、
図4中の23a,24a,25aは、上段バーナ23、中段バーナ24、下段バーナ25への微粉炭と空気の吹き込み経路を示す。
【0033】
図4には、標準的な操業状態の際のボイラ火炉内の空塔速度を示した。
図4に示したように、ボイラ火炉の底部側から上部になるにつれて、通過ガス量が多くなってガス温度が上昇することなどから、空塔速度が大きくなることが分かる。
【0034】
図4の結果より、微粉炭焚きボイラ火炉内に吹き込んだコーヒー粕は、ボイラ火炉内を落下しながら燃焼するため、コーヒー粕の吹き込み位置をボイラ火炉の上部とすれば燃焼を完了させることができることが分かる。
【0035】
水分が60質量%、粒子径が2mmのコーヒー粕を前記の各吹き込み位置から吹き込んだ場合の落下挙動を
図5に、前記4つの位置から粒子径が2mmのコーヒー粕を吹き込んだ場合の評価を下記表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
次に、下段バーナ〜中段バーナ、中段バーナ〜OAP、OAPより上部の各領域におけるガス流速が
図4に示した空塔速度と同程度の2m/sec、5m/sec、8m/secの場合における粒子の浮遊、落下挙動を、水分が60質量%で、粒子径が1mm、2mm、3mmの場合について調査した。その結果を
図6に示す。
【0038】
下段バーナよりボイラ火炉の底部までの領域におけるガス流速は、
図4より2m/sec以下であると考えられるので、先の調査結果より判明している、水分が60質量%、粒子径が2mmのバイオマス燃料の場合、燃焼が完了する1.2秒程度の滞留時間で5m以上の落下距離になることは
図6より明らかである。まして、粒子径が3mmの場合は更に落下距離は大きくなる。
【0039】
従って、ボイラ火炉の底部から4m(
図4参照)の位置に設置された下段バーナから、水分が60質量%で粒子径が3mmのバイオマス燃料を吹き込んだ場合や、粒子径が2mmより小さくても、水分の含有量が60質量%より多い場合は、ボイラ火炉内で燃焼が完了しないことになる。
【0040】
一方、下段バーナ〜ボイラ火炉の底部までの領域におけるガス流速は、
図4より2m/sec以下であると考えられるものの、その値は測定できない。
【0041】
そこで、発明者らは、前記
図2〜
図6の結果から、以下のように考えた。
水分が60質量%で粒子径が3mmのバイオマス燃料を吹き込む場合は、その吹き込み位置から下段バーナまでの移動距離である鉛直方向の高さが5m以上あれば、下段バーナよりボイラ火炉の底部までの間におけるガス流速がどのような値であっても、バイオマスの粒子の滞留時間を1.2秒程度は確保することができる。
【0042】
仮に水分が80質量%と増加しても、水分含有量が60質量%のときに確保すべき滞留時間(1.2秒程度)の80/60であり、1.6秒程度である。
【0043】
従って、空塔速度が4.1m/secの下段バーナから鉛直方向に5m高い位置から吹き込んだ場合は、下段バーナに至った際には約1.2secが経過しているので(
図6(b)参照)、下段バーナからボイラ火炉の底部に至るまでの時間が0.4sec以上であれば燃焼は完了することになる。
【0044】
ガス流速が2m/secの場合の0.4sec間における移動距離は、
図6(a)を見れば1mにも満たないので、下段バーナからボイラ火炉の底部までの距離が4mであるボイラ火炉の場合、水分が80質量%で、粒子径が3mmのバイオマス燃料であっても、下段バーナからボイラ火炉の底部に落下するまでに燃焼が完了すると考えられる。
【0045】
なお、本発明では水分含有量の多いミリメータオーダーの粒径を有するバイオマス燃料の混焼を対象としているので、水分の含有量は40質量%を超え、3mm以下の粒子の積算粒度分布が80%以上のものを対象とすることとした。
【0046】
本発明は、発明者らの上記知見に基づいてなされたものであり、
高さ方向に多段のバーナが設けられた微粉炭焚きボイラ火炉に、前記多段のバーナから微粉炭とバイオマス燃料を空気と共に供給して混焼させるに際し、
粒子径が3mm以下であって、かつ、40質量%を超え、80質量%以内の水分を含み、積算粒度分布が80%以上の大粒子のバイオマス燃料については、最下段のバーナから鉛直方向で5m以上高い位置に配置されるバーナから供給することを特徴とする微粉炭とバイオマス燃料の混焼方法である。
【0047】
そして、上記の本発明方法は、
図4に示すように、高さ方向に設けられた、例えば3段のバーナ23〜25から微粉炭とバイオマス燃料を空気と共に供給して混焼させる微粉炭焚きボイラ火炉21に、
粒子径が3mm以下であって、かつ、40質量%を超え、80質量%以内の水分を含み、積算粒度分布が80%以上の大粒子のバイオマス燃料については、下段バーナ25から鉛直方向で5m以上高い位置に配置される上段バーナ23へ供給する系統26を設けた本発明のバイオマス燃料混焼用の微粉炭焚きボイラ火炉を用いて実施することができる。