特許第5849669号(P5849669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5849669
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】ケミカルループ燃焼システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/20 20060101AFI20160114BHJP
   F24J 1/00 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   C01B31/20 A
   F24J1/00 301
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-269038(P2011-269038)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-119507(P2013-119507A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 俊之
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 仏国特許出願公開第02846710(FR,A1)
【文献】 特開昭49−077238(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/044942(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と反応することで酸化物を形成し、酸素がなく原料ガスが存在する場においては酸化物を還元して酸素を放出しCO主体ガスを生成させる酸素キャリヤを用いたケミカルループ燃焼システムであって、
筒形を有して軸線方向にガスが流通する流通口を備えた充填材と、空気と原料ガスを区画して前記充填材の流通口に流通させる空気流路及び原料ガス流路を形成するための仕切壁とを備え、
前記充填材と前記仕切壁の一方を前記充填材の軸中心を中心に回転可能に支持し、且つ、前記充填材に酸素キャリヤを担持し、
前記仕切壁は、空気流路と原料ガス流路の流路断面積を変更できるよう可変に構成したことを特徴とするケミカルループ燃焼システム。
【請求項2】
前記酸素キャリヤは、金属であることを特徴とする請求項に記載のケミカルループ燃焼システム。
【請求項3】
前記仕切壁は回転が固定され、前記充填材が回転することを特徴とする請求項1又は2に記載のケミカルループ燃焼システム。
【請求項4】
前記充填材は回転が固定され、前記仕切壁が回転することを特徴とする請求項1又は2に記載のケミカルループ燃焼システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルループ燃焼システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粒子を酸素キャリヤとして用いて酸化・還元反応を行うことにより、純酸素を使用することなく高い濃度のCO(二酸化炭素)を回収することができるケミカルループ燃焼方式が注目されている。
【0003】
酸素燃焼方式を用いれば、高い濃度のCOを回収できることが知られているが、酸素燃焼方式の場合には、高価な酸素分離装置を備える必要があるため経済的な負担が大きいという問題がある。
【0004】
これに対し、前記ケミカルループ燃焼方式によれば、空気燃焼を用いてCOの濃度を有効に高めて回収することができるため、COの回収・貯留(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)に有効な手法として種々の研究が進められている(例えば、特許文献1、2等参照)。
【0005】
特許文献1では、酸化反応器と還元反応器の間を移送系装置を用いて酸素キャリヤとしての金属粒子を移送するようにしており、又、特許文献2では、反応器(Reactor)と再生器(Regenerator)を有し、流動層方式によって反応器と再生器の間に酸素キャリヤとしての金属粒子を循環移送するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−179773号公報
【特許文献2】米国特許第6572761号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1においては、酸化反応器及び還元反応器間に移送系装置を用いて金属粒子を移送しているために、金属粒子の移送作業に多大な動力が必要になると共に、作業が非能率的であるという問題がある。
【0008】
又、特許文献2においては、反応器と再生器との間を流動層方式によって金属粒子を循環移送する構成であるため、反応器及び再生器の内部や循環流路が適切な対応策をとらない場合は金属粒子によって摩耗する問題があり、このために、比較的短期間でのメンテナンスが必要であり、又、金属粒子は粉化によりロスが生じるために常に補給する必要がある。更に、金属粒子を安定的に循環させるためには、流動層の速度などを適切に制御する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、移送系装置による金属粒子の輸送や流動層による金属粒子の移送を省略することができるケミカルループ燃焼システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸素と反応することで酸化物を形成し、酸素がなく原料ガスが存在する場においては酸化物を還元して酸素を放出しCO主体ガスを生成させる酸素キャリヤを用いたケミカルループ燃焼システムであって、
筒形を有して軸線方向にガスが流通する流通口を備えた充填材と、空気と原料ガスを区画して前記充填材の流通口に流通させる空気流路及び原料ガス流路を形成するための仕切壁とを備え、
前記充填材と前記仕切壁の一方を前記充填材の軸中心を中心に回転可能に支持し、且つ、前記充填材に酸素キャリヤを担持し、
前記仕切壁は、空気流路と原料ガス流路の流路断面積を変更できるよう可変に構成したことを特徴とするケミカルループ燃焼システム、に係るものである。
【0012】
又、上記ケミカルループ燃焼システムにおいて、前記酸素キャリヤは、金属とすることができる。
【0013】
又、上記ケミカルループ燃焼システムにおいて、前記仕切壁は回転が固定され、前記充填材が回転してもよい。
【0014】
又、上記ケミカルループ燃焼システムにおいて、前記充填材は回転が固定され、前記仕切壁が回転してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来のような金属粒子の輸送を行うことなしに、酸素キャリヤによる酸化反応と還元反応を連続して効果的に行えるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は本発明のケミカルループ燃焼システムの基本的構成の一例を示す概略側面図、(b)は(a)の充填材に酸素キャリヤを担持させた状態を示す断面図である。
図2】本発明のケミカルループ燃焼システムの具体例を示す第1の実施例の斜視図である。
図3】(a)は図2のシステムにおいて空気流路と原料ガス流路の流路断面積を変更するようにした本発明の第2の実施例を示す平面図、(b)は(a)とは異なる本発明の第3の実施例を示す平面図である。
図4】(a)は本発明のケミカルループ燃焼システムの具体例を示す第4の実施例の側面図、(b)は(a)をIVB−IVB方向から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0018】
図1(a)は本発明のケミカルループ燃焼システムの基本的構成の一例を示すもので、図中、1は、筒形を有してその軸中心Oを中心に回転する充填材2を内蔵した反応器であり、前記充填材2には軸線方向にガスが流通できる升目或いはハニカム等からなる多数の流通口3が形成されている。そして、前記充填材2には酸素キャリヤを担持している。
【0019】
酸素キャリヤとしては、Fe、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn等、若しくはこれらの混合物からなる金属を用いることができ、図1(b)に示す如く、前記充填材2における流通口3の壁面に、前記金属による金属粒子4(Me)を焼付け等の手法によって一体に固定している。ここで、酸素キャリヤとは、還元(燃料と反応して酸素が減少する作用)と酸化(空気と反応して酸素が増加する作用)を繰り返すことによって酸素を運ぶ働きを示すものを言う。
【0020】
前記充填材2の外周を包囲する外壁5の内部における前記充填材2のガス流動方向前後(図1(a)では上下)には、酸化ガスとしての空気6を流通口3に流通させる空気流路7と、還元ガスとしての原料ガス8(炭化水素(C)等)を流通口3に流通させる原料ガス流路9とを左右に区画して形成するための仕切壁10を設けている。図1(a)中、Aは充填材2の酸化域、Bは充填材2の還元域、12,14はボイラ等の熱交換器である。
【0021】
次に、図1に示す本発明の基本構成における作動を説明する。
【0022】
前記空気流路7から充填材2の酸化域Aに空気6が供給されると、還元域Bで還元されて移動してきた金属粒子4(Me)と空気6との酸化反応(2Me+O→2MeO)により、窒素(N)と酸素(O)の燃焼排ガス11が排出される。この時、高温の燃焼排ガス11と熱交換するボイラ等の熱交換器12によって排熱を回収することができる。
【0023】
又、前記原料ガス流路9から充填材2の還元域Bに原料ガス8が供給されると、酸化域Aで酸化されて移動してきた金属粒子(MeO)と原料ガス8の炭化水素(C)により酸素(O)を放出する還元反応(C+MeO→CO+HO+Me)が行われて、CO主体ガス13が生成される。このCO主体ガス13は、二酸化炭素(CO)の濃度が95%以上の高濃度COガスとして取り出される。この時、高温のCO主体ガス13と熱交換するボイラ等の熱交換器14によって排熱を回収することができる。
【0024】
上記したように、空気6が存在する場である酸化域Aにおいては還元した金属粒子(Me)は酸素(O)と反応して金属酸化物(2MeO)となり、又、酸素がなく炭化水素(C)が存在する場である還元域Bにおいては金属酸化物(2MeO)は酸素(O)を放出し還元された金属粒子(Me)となってCO主体ガス13を導出するようになるので、前記充填材2を回転させることにより、酸化域Aでの酸化反応と還元域Bでの還元反応が連続して行われ、空気6を用いた燃焼によってCO主体ガス13を効果的に生成することができる。
【0025】
従って、本発明によれば、従来のように、酸化反応器及び還元反応器間に金属粒子を移送するための作業を省略することができ、又、反応器と再生器との間に金属粒子を流動層方式によって循環移送させる際の摩耗の問題、金属粒子の粉化の問題及び金属粒子を循環するために必要な難しい制御の問題を解消することができる。
【0026】
図2は本発明のケミカルループ燃焼システムの具体例を示す第1の実施例の斜視図であり、図2の反応器1は、円筒状の外壁5の内部に、筒形を有する所要長さの充填材2が回転軸15により回転可能に支持されている。図2では充填材2を回転軸15により吊り下げて支持した場合を示しているが、下部に備えた回転軸15によって充填材2を支持するようにしてもよい。図2の充填材2は升目状の流通口3を有する場合を示している。
【0027】
前記外壁5内部における前記充填材2の上下位置には、外壁5内部を左右に区画する仕切壁10が設けてあり、前記回転軸15部分に設けられる上部の仕切壁10には回転軸15の外部に嵌合した嵌合部16が形成されている。
【0028】
前記仕切壁10の右側部には、上部の空気供給口17と下部の排気ガス流出口18に連通した空気流路7が形成されており、又、前記仕切壁10の左側部には、下部の原料ガス供給口19と上部のCO主体ガス流出口20に連通した原料ガス流路9が形成されている。
【0029】
図2の実施例では、回転軸15によって充填材2を回転することにより、仕切壁10で区画された充填材2の酸化域Aと還元域Bが順次変化して、空気流路7における酸化反応と原料ガス流路9における還元反応が連続して行われる。
【0030】
図3(a)は図2のシステムにおいて空気流路7と原料ガス流路9の流路断面積を変更するようにした本発明の第2の実施例を示す平面図であり、図2に示したように、充填材2の上下に設けられる仕切壁10を、半径方向一側(図3(a)では下側)の壁部は夫々外壁5に固定した固定壁10aとし、又、半径方向他側(図3(a)では上側)の壁部は嵌合部16に継手21を介して回動可能に取り付けた可動壁10bとしている。そして、上下の可動壁10bを継手21を中心に同時に矢印方向Xへ回動させることで、前記空気流路7と原料ガス流路9の流路断面積を変更できるようにしている。図中22は前記可動壁10bに固定したレバーであり、該レバー22は外壁5を貫通して外部に延長され且つ外壁5に設けた開口23に沿って周方向に回動できるようになっており、24は前記レバー22が移動する範囲に設けた開口23をシールするためのシール板である。
【0031】
図3(a)の実施例によれば、レバー22によって上下の可動壁10bを矢印方向Xへ同時に回動させることにより、前記空気流路7と原料ガス流路9の流路断面積を容易に変更することができる。
【0032】
図3(b)は図3(a)とは異なる本発明の第3の実施例を示す平面図であり、図3(b)では、前記充填材2の上下に該充填材2よりも大きな矩形の空間を有する矩形室25が形成してあり、前記充填材2の上下の端部に位置する外壁5と前記矩形室25の内側とに間に生じる隙間を閉塞板26によって閉塞している。そして、上下の前記矩形室25の内部に、該矩形室25の内部を左右に区画する仕切壁27を設けることにより空気流路7と原料ガス流路9を形成している。この時、前記仕切壁27における前記回転軸15の部分には、前記回転軸15を避ける湾曲部28が形成されている。そして、上下に設けた前記仕切壁27は図示しない任意の駆動手段によって左右方向Yへ同時に移動できるようにしている。
【0033】
図3(b)の実施例によれば、上下の仕切壁27を左右方向Yへ同時に移動させることにより、前記空気流路7と原料ガス流路9の流路断面積を容易に変更することができる。
【0034】
ケミカルループ燃焼システムにおいては、酸化反応の反応時間に対して還元反応の反応時間が長いことが知られているので、図3(a)、図3(b)に示した構成によって、前記原料ガス流路9に対して空気流路7の流路断面積が大きくなるように変更すると、酸化反応と還元反応の両方が充填材2の内部で同程度に進行或いは完了するように調節することができる。
【0035】
図4は本発明のケミカルループ燃焼システムの第4の実施例を示すもので、この実施例では、固定された充填材2の上下に、図4(b)に示すように、軸中心Oから左右に所要の角度で広がる2枚の半径方向仕切壁29a,29bと外周壁30とによって左右対称に形成された入口フード31と出口フード32が軸33により連結され図示しない駆動装置によって回転駆動されるようになっている。そして、前記入口フード31には回転継手34を介して空気供給口17が接続され、出口フード32には回転継手34を介して排気ガス流出口18が接続されて空気流路7を形成している。そして、前記入口フード31及び出口フード32による空気流路7の外部は原料ガス流路9となっていて、該原料ガス流路9には下部の原料ガス供給口19と上部のCO主体ガス流出口20が接続されている。図4(b)の充填材2は放射状に区画された流通口3を有する場合を示している。
【0036】
図4の実施例では、入口フード31と出口フード32を回転させて半径方向仕切壁29a,29bの位置を変化させることにより、酸化域Aでの酸化反応と還元域Bでの還元反応が連続して行われ、空気6を用いた燃焼によってCO主体ガス13を効果的に生成することができる。
【0037】
図4の実施例においても、図4(b)の半径方向仕切壁29a,29bの挟み角αを変更可能な構成とすることにより、空気流路7と原料ガス流路9の流路断面積を変えることができる。
【0038】
上記実施例においては、空気6と原料ガス8を対向流とした場合について例示したが、空気6と原料ガス8が同一方向へ流動する平行流としてもよい。
【0039】
尚、本発明のケミカルループ燃焼システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
2 充填材
3 流通口
4 金属粒子(酸素キャリヤ)
6 空気
7 空気流路(酸化域A)
8 原料ガス
9 原料ガス流路(還元域B)
10 仕切壁
10b 可動壁
13 CO主体ガス
27 仕切壁
29a,29b 半径方向仕切壁(仕切壁)
O 軸中心
図1
図2
図3
図4