(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記噛み合いクラッチの一対の回転部材のうち、一方の回転部材の回転速度が他方の回転部材の回転速度に対して所定の割合以上となったとき、前記トルクカップリングによるトルク伝達量を前記第1のトルク値から前記第2のトルク値に切り替える、
請求項1に記載の四輪駆動車。
前記制御装置は、前記トルクカップリングによるトルク伝達量を前記第2のトルク値として前記プロペラシャフトの回転を加速した後、前記トルクカップリングによるトルク伝達量を前記第2のトルク値よりもさらに低減した第3のトルク値とし、前記第3のトルク値にて前記噛み合いクラッチにおける前記一対の回転部材の差動回転が所定値以下となったとき、前記一対の回転部材を係合させる
請求項1又は2に記載の四輪駆動車。
前記制御装置は、前記噛み合いクラッチの一対の回転部材のうち、一方の回転部材の回転部材の回転速度が他方の回転部材の回転速度に対して第1の所定の割合以上となったとき、前記トルクカップリングによるトルク伝達量を前記第1のトルク値から前記第2のトルク値に切り替え、前記一方の回転部材の回転速度が他方の回転部材の回転速度に対して前記第1の所定の割合よりも高い第2の所定の割合以上となったとき、前記トルクカップリングによるトルク伝達量を前記第2のトルク値から前記第3のトルク値に切り替える、
請求項3に記載の四輪駆動車。
走行用のトルクを発生する駆動源と、前記駆動源のトルクが常時伝達される左右一対の主駆動輪と、走行状態に応じて前記駆動源のトルクが伝達される左右一対の補助駆動輪と、前記駆動源側のトルクを前記補助駆動輪側に伝達するプロペラシャフトと、前記プロペラシャフトと前記駆動源との間に設けられた第1の断続装置と、前記プロペラシャフトと前記補助駆動輪との間に設けられた第2の断続装置とを備えた四輪駆動車に搭載された制御装置であり、
一対の回転部材の係合によりトルクを伝達する、前記第1及び第2の断続装置の一方としての噛み合いクラッチ、及びトルク伝達量を調節可能な前記第1及び第2の断続装置の他方としてのトルクカップリングを制御し、
前記第1及び第2の断続装置によるトルク伝達を共に遮断した二輪駆動状態から、前記プロペラシャフトを介して前記補助駆動輪側に前記駆動源のトルクを伝達する四輪駆動状態に移行する際、前記トルクカップリングによるトルク伝達量を第1のトルク値として前記プロペラシャフトの回転を加速した後、前記トルクカップリングによるトルク伝達量を前記第1のトルク値よりも低減した第2のトルク値として前記プロペラシャフトの回転をさらに加速し、前記噛み合いクラッチにおける前記一対の回転部材の差動回転が所定値以下となったとき、前記一対の回転部材を係合させる
四輪駆動車の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図1に示すように、四輪駆動車100は、四輪駆動車100の走行用のトルクを発生する駆動源としてのエンジン102と、エンジン102のトルクが常時伝達される左右一対の主駆動輪としての左右前輪104a,104bと、走行状態に応じてエンジン102のトルクが伝達される左右一対の補助駆動輪としての左右後輪105a,105bとを備えている。
【0017】
また、四輪駆動車100は、駆動力伝達系101として、エンジン102側のトルクを左右後輪105a,105b側に伝達するプロペラシャフト2と、プロペラシャフト2とエンジン102との間に設けられた第1の断続装置としての噛み合いクラッチ3と、プロペラシャフト2と左後輪105aとの間に設けられた第2の断続装置としてのトルクカップリング4とを有している。またさらに、四輪駆動車100は、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4を制御する制御装置としてのECU5を備えている。
【0018】
左右前輪104a,104bには、エンジン102のトルクが、トランスミッション103、フロントディファレンシャル106、及び左右の前輪側ドライブシャフト108a,108bを介して伝達される。フロントディファレンシャル106は、左右の前輪側ドライブシャフト108a,108bにそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ109、一対のサイドギヤ109にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ110、一対のピニオンギヤ110を支持するピニオンギヤシャフト111a、及びこれら一対のサイドギヤ109と一対のピニオンギヤ110とピニオンギヤ支持部材111aとを収容するフロントデフケース111を有している。
【0019】
プロペラシャフト2には、エンジン102のトルクが、トランスミッション103、フロントディファレンシャル106のフロントデフケース111、噛み合いクラッチ3、及び前輪側の歯車機構6を介して伝達される。プロペラシャフト2に伝達されたエンジン102のトルクは、さらに後輪側の歯車機構7、リヤディファレンシャル107、トルクカップリング4、及び後輪側の左右のドライブシャフト112a,112bを介して左右後輪105a,105bに伝達される。
【0020】
リヤディファレンシャル107は、左右のドライブシャフト112a,112bにそれぞれ連結された一対のサイドギヤ113、一対のサイドギヤ113にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ114、一対のピニオンギヤ114を支持するピニオンギヤシャフト115、及びこれら一対のサイドギヤ113と一対のピニオンギヤ114とピニオンギヤシャフト115とを収容するリヤデフケース116を有している。一対のサイドギヤ113のうち左側のサイドギヤ113には、サイドギヤシャフト14が相対回転不能に連結されている。また、一対のサイドギヤ113のうち右側のサイドギヤ113には、右後輪側ドライブシャフト112bが相対回転不能に連結されている。
【0021】
プロペラシャフト2は、トルク伝達上流側(エンジン102側)の一端にピニオンギヤ6aが連結され、トルク伝達下流側(後輪105a,105b側)の一端にピニオンギヤ7aが連結されている。ピニオンギヤ6aは、噛み合いクラッチ3の出力部材としてのリングギヤ6bと噛合している。また、ピニオンギヤ7aは、リヤデフケース116に固定されたリングギヤ7bと噛合している。ピニオンギヤ6a及びリングギヤ6bは、前輪側の歯車機構6を構成し、ピニオンギヤ7a及びリングギヤ7bは、後輪側の歯車機構7を構成する。
【0022】
ECU5には、左右前輪104a,104bの回転速度を検出するための回転速センサ15a,15b、及びプロペラシャフト2の回転速度を検出するための回転速センサ16が接続されている。回転速センサ15a,15b及び回転速センサ16は、例えば左右前輪104a,104b及びプロペラシャフト2と共に回転する磁性体の周方向に沿って形成された複数の凹凸に対向配置されたホールICからなり、左右前輪104a,104b及びプロペラシャフト2の回転速度に応じた周期でパルス信号を出力する。これにより、ECU5は、左右前輪104a,104bの回転速度、及びプロペラシャフト2の回転速度を検出可能である。また、ECU5は、左右前輪104a,104bの回転速度に基づいて、これらの両回転速度を平均することにより、フロントデフケース111の回転速度を検出可能である。
【0023】
(噛み合いクラッチ3の構成)
図2(a)は、噛み合いクラッチ3の概略の構成例を示す断面図である。噛み合いクラッチ3は、フロントデフケース111の軸方向の端部に固定された第1回転部材31と、第1回転部材31に対して同軸上で相対回転可能な第2回転部材32とを有している。第2回転部材32は、円筒状の本体部320と、本体部320に対して軸方向移動可能なスリーブ部33とからなる。
【0024】
第1回転部材31は、前輪側ドライブシャフト108bを挿通させる環状であり、例えばボルト締めによってフロントデフケース111の端部に固定され、フロントデフケース111と一体に回転する。第1回転部材31の外周には、複数のスプライン歯31aが形成されている。
【0025】
第2回転部材32の本体部320は、その中心部を前輪側ドライブシャフト108bが貫通している。第1回転部材31に対向する本体部320の一端部321は、外側に拡径した環状であり、その外周面には、複数のスプライン歯321aが形成されている。本体部320の他端部322の外周面には、リングギヤ6bが例えばボルト締めにより相対回転不能に固定されている。第1回転部材31及び第2回転部材32の本体部320は、図略の軸受によって車体に対してそれぞれ独立して回転可能かつ軸方向移動不能に支持されている。
【0026】
スリーブ部33は筒状であり、その内周面には複数のスプライン歯33aが形成されている。複数のスプライン歯33aは、本体部320の複数のスプライン歯321aと常時スプライン係合している。これによりスリーブ部33は、本体部320に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。また、スリーブ部33の複数のスプライン歯33aは、スリーブ部33部が前輪側ドライブシャフト108bの回転軸線Oに沿って軸方向移動することにより、第1回転部材31の複数のスプライン歯31aと係合可能である。ここで、係合とは、互いに噛み合うことをいう。
【0027】
また、スリーブ部33の外周側には環状の溝33bが形成され、この溝33bにフォーク34が摺動可能に嵌合されている。フォーク34は、ECU5によって制御される図略のアクチュエータによって、スリーブ部33と共に回転軸線Oに平行な矢印Aの方向及びその逆方向に進退移動可能である。
【0028】
図2(b)は、第1回転部材31の複数のスプライン歯31a及び第2回転部材32の本体部320複数のスプライン歯321aと、スリーブ部33の複数のスプライン歯33aとの係合状態の一例を示す概略図である。この図に示す状態では、第2回転部材32の本体部320複数のスプライン歯321aとスリーブ部33の複数のスプライン歯33aとが係合しているが、第1回転部材31の複数のスプライン歯31aとスリーブ部33の複数のスプライン歯33aとは係合していない。従って、噛み合いクラッチ3は、第1回転部材31と第2回転部材32との相対回転が可能な解放状態であり、フロントデフケース111とプロペラシャフト2との間のトルク伝達が遮断されている。
【0029】
また、この状態からフォーク34及びスリーブ部33が矢印Aの方向に移動すると、スリーブ部33のスプライン歯33aが第1回転部材31のスプライン歯31aの間に入り込み、スプライン歯31aとスプライン歯33aとが係合する。この係合状態では、スリーブ部33の複数のスプライン歯33aが、第1回転部材31の複数のスプライン歯31a及び第2回転部材32の本体部320複数のスプライン歯321aに共に係合するので、第1回転部材31と第2回転部材32との相対回転が不能となる。従って、フロントデフケース111とプロペラシャフト2とがトルク伝達可能に連結される。
【0030】
フォーク34を矢印A方向に移動させ、第1回転部材31と第2回転部材32の本体部320とをスリーブ部33によって連結する際には、第1回転部材31の回転と第2回転部材32の回転とが同期している必要がある。ECU5は、回転センサ15a,15bの検出値に基づいて第1回転部材31の回転速度を演算し、また回転センサ16によって検出したプロペラシャフト2の回転速度に基づいて第2回転部材32の回転速度を演算し、両回転速度の差が所定値以下である場合、すなわち第1回転部材31の回転と第2回転部材32の回転とが実質的に同期した場合に、フォーク34を矢印A方向に移動させ、スリーブ部33を第1回転部材31に係合させる。
【0031】
(トルクカップリング4の構成)
図3は、トルクカップリング4及びその周辺部の概略の構成例を示す概略構成図である。トルクカップリング4は、
図3に示すように、多板クラッチ41,電磁クラッチ42,カム機構43、インナシャフト44、及びこれらを収容するハウジング40を有し、リヤディファレンシャル107,及び歯車機構7と共にディファレンシャルキャリア12に収容されている。
【0032】
ディファレンシャルキャリア12内の空間は、隔壁121によって第1及び第2の空間12a,12bに液密に分離されている。歯車機構7及びリヤディファレンシャル107が配置される第1の空間12aには、ギヤの潤滑に適した図略のデフオイルが所定の充填率で充填されている。また、トルクカップリング4が収容される第2の空間12bには、後述するインナクラッチプレート411及びアウタクラッチプレート412の潤滑に適した図略の潤滑油が所定の充填率で充填されている。
【0033】
サイドギヤシャフト14は、リヤディファレンシャル107の一方のサイドギヤ113に一端が連結された軸部141と、軸部141の他端に設けられたフランジ部142とを一体に有し、軸部141が隔壁121に挿通されている。トルクカップリング4は、サイドギヤシャフト14と左後輪側ドライブシャフト112aとの間のトルク伝達量を調節可能である。
【0034】
トルクカップリング4のハウジング40は、互いに相対回転不能に結合された第1ハウジング部材401と第2ハウジング部材402とからなる。第1ハウジング部材401は円筒状であり、第2ハウジング部材402は、第1ハウジング部材401の一方端部を塞ぐように配置されている。ハウジング40は、第1ハウジング部材401がサイドギヤシャフト14と相対回転不能に連結されている。
【0035】
多板クラッチ41は、ハウジング40の第1ハウジング部材401と円筒状のインナシャフト44との間に配置され、インナシャフト44の外周面に相対回転不能にスプライン係合するインナクラッチプレート411と、第1ハウジング部材401の内周面に相対回転不能にスプライン係合するアウタクラッチプレート412とからなる。インナシャフト44は、左後輪側ドライブシャフト112aにスプライン嵌合によって相対回転不能に連結されている。
【0036】
電磁クラッチ42は、環状のコイル421及びアーマチャカム422を有し、ハウジング40の回転軸線上に配置されている。電磁クラッチ42は、コイル421による電磁力の発生によってアーマチャカム422をコイル421側に移動させ、第2ハウジング部材402にアーマチャカム422を摩擦摺動させるように構成されている。
【0037】
カム機構43は、カム部材としてのアーマチャカム422を含み、このアーマチャカム422にハウジング40の回転軸線に沿って並列するメインカム431、及びこのメインカム431とアーマチャカム422との間に介在する球状のカムフォロア432を有している。そして、カム機構43は、コイル421への通電によってアーマチャカム422がハウジング40からの回転力を受け、多板クラッチ41のクラッチ力となる押圧力に変換するように構成されている。コイル422への通電量が多くなるとアーマチャカム422と第2ハウジング部材402との摩擦力が増大し、メインカム431がより強く多板クラッチ41を押圧する。すなわち、トルクカップリング4は、コイル421への通電量に応じて多板クラッチ43の押圧力を可変に制御することができ、ひいてはサイドギヤシャフト14と左後輪側ドライブシャフト112aとの間のトルク伝達量を調節可能である。
【0038】
トルクカップリング4によるトルク伝達量が十分に大きく、サイドギヤシャフト14と左後輪側ドライブシャフト112aとが一体に回転する場合には、左後輪側ドライブシャフト112aとプロペラシャフト2とが、歯車機構7,リヤディファレンシャル107、サイドギヤシャフト14、及びトルクカップリング4を介してトルク伝達可能に連結されると共に、右後輪側ドライブシャフト112bとプロペラシャフト2とが、歯車機構7及びリヤディファレンシャル107を介してトルク伝達可能に連結される。
【0039】
一方、トルクカップリング4による伝達トルクが遮断されてサイドギヤシャフト14と左後輪側ドライブシャフト112aとの連結が解除されると、左後輪側ドライブシャフト112aにプロペラシャフト2からのトルクが伝達されなくなり、これに伴って右後輪側ドライブシャフト112bにもプロペラシャフト2からのトルクが伝達されなくなる。なお、右後輪側ドライブシャフト112bにもトルクが伝達されなくなるのは、一方のサイドギヤが空転すると他方のサイドギヤにもトルクが伝達されないという一般的なディファレンシャル装置の特性によるものである。
【0040】
(ECU5による制御)
ECU5は、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4を動作させるための電流を出力し、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4を制御する。また、ECU5は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車内通信網を介して、四輪駆動車100の車速や、エンジン102の出力トルク、及び操舵角等の走行状態に関する各種情報を取得可能である。
【0041】
そして、ECU5は、取得した走行状態の情報に基づいて後輪105a,105bに伝達すべき指令トルクを演算し、この指令トルクに応じたトルクが後輪105a,105bに伝達されるよう、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4を制御する。
【0042】
例えば、前輪104a,104bと後輪105a,105bとの回転速度差が大きくなった場合には、後輪105a,105bに伝達するトルクを大きくするように噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4を制御する。これにより、例えば前輪104a,104bにスリップが発生した場合に四輪駆動傾向の走行状態とし、前輪104a,104bのスリップを抑制する。また、ECU5は、エンジン102の出力トルクの増大に応じて後輪105a,105bに伝達するトルクが大きくなるように噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4を制御する。これにより、前輪104a,104bに過大なトルクが伝達されることによるスリップを未然に防止する。
【0043】
また、ECU5は、例えば四輪駆動車100が一定の速度で直進する定常走行時に、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4によるトルク伝達を共に遮断し、プロペラシャフト2の回転を停止させた二輪駆動状態とする。これにより、リングギヤ7bがデフオイルを撹拌することによる回転抵抗や、プロペラシャフト2や歯車機構6,7を軸支する各軸受による回転抵抗が抑制され、四輪駆動車100の燃費(単位容量の燃料あたりの走行距離)が向上する。
【0044】
また、ECU5は、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4によるトルク伝達を共に遮断した二輪駆動状態から、プロペラシャフト2を介して後輪105a,105b側にエンジン102のトルクを伝達する四輪駆動状態に移行する際、トルクカップリング4によるトルク伝達量を第1のトルク値T
1としてプロペラシャフト2の回転を加速した後、トルクカップリング4によるトルク伝達量を第1のトルク値T
1よりも低減した第2のトルク値T
2とする。
【0045】
また、ECU5は、トルクカップリング4によるトルク伝達量を第2のトルク値T
2としてプロペラシャフト2の回転を加速した後、トルクカップリング4によるトルク伝達量を第2のトルク値T
2よりもさらに低減した第3のトルク値T
3とし、第3のトルク値T
3にて噛み合いクラッチ3における第1回転部材31と第2回転部材32との差動回転が所定値以下となったとき、第2回転部材32のスリーブ部33を第1回転部材31を係合させる。
【0046】
ここで、ECU5は、第2回転部材32の回転速度が第1回転部材31の回転速度に対して第1の所定の割合以上となったとき、トルクカップリング4によるトルク伝達量を第1のトルク値T
1から第2のトルク値T
2に切り替え、第2回転部材32の回転速度が第1回転部材31の回転速度に対して第1の所定の割合よりも高い第2の所定の割合以上となったとき、トルクカップリング4によるトルク伝達量を第2のトルク値T
2から第3のトルク値T
3に切り替える。
【0047】
次に、ECU5の構成及び処理内容について、より詳細に説明する。
図4は、ECU5が実行する処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートでは、ECU5が実行する処理のうち、二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際の処理の具体例を示している。ECU5は、このフローチャートに示す処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0048】
ECU5は、ステップS1で、二輪駆動状態から四輪駆動状態への切り替えを実行するか否かを判定する。この判定は、例えば運転者によるスイッチ操作や、走行状態の情報に基づいて行われる。
【0049】
二輪駆動状態から四輪駆動状態への切り替えを実行する場合(ステップS1:Yes)、ECU5は、回転速センサ15a,15bによって検出した左右前輪104a,104bの回転速度に基づいてフロントデフケース111の回転速度を演算し、演算したフロントデフケース111の回転速度に基づいて、目標回転速度S
1を演算する(ステップS2)。この目標回転速度S
1は、フロントデフケース111の回転速度をそのまま用いてもよく、あるいはフロントデフケース111の回転速度に所定の定数を乗じた値としてもよい。また、目標回転速度S
1は、ステップS1の判定結果がNoからYesとなった後の最初のステップS2の処理で演算した値を記憶し、四輪駆動状態への切り替えが完了するまで同じ値を用いてもよい。
【0050】
次に、ECU5は、回転速センサ16によって検出したプロペラシャフト2の回転速度に基づいて第2回転部材32の回転速度S
2を演算し、この回転速度S
2を目標回転速度S
1で除した値(回転速度S
2/目標回転速度S
1)が、予め定められた第1の所定値R
1未満であるか否かを判定する(ステップS3)。第1の所定値R
1は、例えば0.8とすることができる。この場合、回転速度S
2が目標回転速度S
1の80%未満であれば、ステップS3の判定の結果がYesとなる。なお、第2回転部材32の回転速度S
2の演算は、プロペラシャフト2の回転速度を歯車機構6のギヤ比で除することにより行うことができる。
【0051】
(回転速度S
2/目標回転速度S
1)の値が第1の所定値R
1未満である場合(ステップS3:Yes)、ECU5は、トルクカップリング4によるトルク伝達量の指令値である指令トルクTを第1のトルク値T
1とする(ステップS4)。この第1のトルク値T
1は、後輪105a,105bの回転力によって歯車機構7の側からプロペラシャフト2を回転させることができ、かつ第1回転部材31の回転と第2回転部材32の回転とが同期するまでそのトルク値を維持した場合に、プロペラシャフト2のライブピニオン6a側の端部で振動が発生し得るトルク値である。
【0052】
一方、(回転速度S
2/目標回転速度S
1)の値が第1の所定値R
1以上である場合(ステップS3:No)、ECU5は、指令トルクTを第2のトルク値T
2とする(ステップS5)。第2のトルク値T
2は、第1のトルク値T
1よりも小さな値である。この処理の後、ECU5は、第2回転部材32の回転速度S
2を目標回転速度S
1で除した値(回転速度S
2/目標回転速度S
1)が、予め定められた第2の所定値R
2以上であるか否かを判定する(ステップS6)。第2の所定値R
2は、第1の所定値R
1よりも高い値であり、例えば0.9とすることができる。この場合、回転速度S
2が目標回転速度S
1の90%以上であれば、ステップS6の判定の結果がYesとなる。
【0053】
ステップS6の判定の結果がYesである場合、ECU5は、指令トルクTを第3のトルク値T
3とする(ステップS7)。第3のトルク値T
3は、第2のトルク値T
2よりも小さな値である。また、ステップS6の判定の結果がNoである場合には、指令トルクTは、ステップS5で定められた第2のトルク値T
2のままである。
【0054】
次に、ECU5は、第2回転部材32の回転速度S
2を目標回転速度S
1で除した値(回転速度S
2/目標回転速度S
1)が、予め定められた第3の所定値R
3以上であるか否かを判定する(ステップS8)。第3の所定値R
3は、第2の所定値R
2よりもさらに高い値であり、フロントデフケース111(第1回転部材31)の回転と第2回転部材32の回転とが実質的に同期したと判断できる値である。第3の所定値R
3は、例えば0.98とすることができる。
【0055】
ステップS8の判定結果がYesである場合、ECU5は、第2回転部材32のスリーブ部33を第1回転部材側に軸方向移動させ(
図2参照)、噛み合いクラッチ3を係合状態とする(ステップS9)。これにより、四輪駆動車100が、プロペラシャフト2を介してエンジン102のトルクを後輪105a,105b側に伝達する四輪駆動状態となる。
【0056】
一方、ステップS8の判定結果がNoである場合、ECU5は、ステップS3〜S7の処理によって定められた指令トルクTに基づいて、この指令トルクTに応じたトルク伝達量となるように、トルクカップリング4を制御する(ステップS10)。より具体的には、指令トルクTに応じた電流を電磁クラッチ42のコイル421(
図3参照)に供給する。
【0057】
図5は、ステップS4,S5,S6における第1〜第3のトルク値T
1〜T
3を求めるためのマップの一例である。
図5に示すように、第1〜第3のトルク値T
1〜T
3は、車速の増大に伴って値が大きくなるように、マップが設定されている。このマップは、何れの車速においても、第1のトルク値T
1よりも第2のトルク値T
2が小さく設定され、第2のトルク値T
2よりも第3のトルク値T
3が小さく設定されている(第1のトルク値T
1>第2のトルク値T
2>第3のトルク値T
3)。
【0058】
また、第1〜第3のトルク値T
1〜T
3は、駆動力伝達系101の温度に応じて変更してもよい。この場合、駆動力伝達系101の温度が低いほど、第1〜第3のトルク値T
1〜T
3を高くするとよい。駆動力伝達系101の温度としては、例えば温度センサによって検出したディファレンシャルキャリア12内の温度を用いることができる。これにより、駆動力伝達系101の温度が低く、ディファレンシャルキャリア12内のデフオイルの粘性が高い場合には、第1〜第3のトルク値T
1〜T
3を高くすることで、デフオイルの粘性の影響を抑制したより適正なトルクでプロペラシャフト2の回転を加速することができる。
【0059】
図6(a),(b)は、指令トルクT及び第2回転部材32の回転速度S
2の時間的な変化の例を示すグラフであり、横軸に時間、左縦軸に指令トルクT、右縦軸に回転速度S
2を示している。(a)は、上記説明した
図5のフローチャートの処理を行った場合のグラフであり、(b)は、比較例として、指令トルクTを第2のトルク値T
2及び第3のトルク値T
3に変化させず、第1の指令トルクT
1のままとした場合のグラフである。
【0060】
図6(a)に示すように、二輪駆動状態から時刻t
0で指令トルクTを第1の指令トルクT
1とし、時刻t
1で指令トルクTを第2の指令トルクT
2とし、その後さらに時刻t
2で指令トルクTを第3の指令トルクT
3とすることにより、回転速度S
2が振動することなく、時刻t
3で目標回転速度S
1に収束している。
【0061】
一方、時刻t
0で指令トルクTを第1の指令トルクT
1とし、その後、回転速度S
2が目標回転速度S
1に収束するまで指令トルクTを第1の指令トルクT
1に維持した場合には、
図6(b)に示すように、回転速度S
2が目標回転速度S
1付近で振動し、時刻t
4(>時刻t
3)で目標回転速度S
1に収束する。この場合、不快な振動や異音が運転者や同乗者に伝わり、回転速度S
2が目標回転速度S
1に収束するまでの時間も長く掛かることとなる。
【0062】
(第1の実施の形態の効果)
上記説明した第1の実施の形態によれば、二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際のプロペラシャフト2の振動を抑制しながら、第1回転部材31の回転と第2回転部材32の回転の同期を短時間で行わせることができ、二輪駆動状態から四輪駆動状態への移行を速やかに行わせることが可能となる。
【0063】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図7を参照して説明する。
図7は、本発明の第2の形態に係る四輪駆動車100の概略の構成例を示す概略構成図である。
図7において、第1の実施の形態について説明した構成要素と共通する機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0064】
本実施の形態に係る四輪駆動車100は、トルクカップリング4が配置された位置が、第1の実施の形態と異なる。本実施の形態に係るトルクカップリング4は、プロペラシャフト2とリヤディファレンシャル107との間に設けられている。より具体的には、トルクカップリング4のハウジング40(
図3参照)がプロペラシャフト2の一端に相対回転不能に連結され、トルクカップリング4のインナシャフト44が、ピニオンシャフト70の一端に相対回転不能に連結されている。ピニオンシャフト70の他端には、ピニオンギヤ7aが連結されている。ECU5の制御内容は、第1の実施の形態について説明したものと同様である。本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0065】
[他の実施の形態]
以上、本発明の四輪駆動車、及び四輪駆動車の制御装置を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0066】
例えば、第1及び第2の実施の形態では、指令トルクTを第1〜第3のトルク値T
1〜T
3の3段階に変化させるようにした場合について説明したが、これに限らず、第1及び第2のトルク値T
1,T
2の2段階に変化させるようにしてもよい。この場合でも、指令トルクTが一定の場合に比較して、プロペラシャフト2の振動を抑制しながら、第1回転部材31の回転と第2回転部材32の回転の同期を速やかに行わせることができる。
【0067】
また、第1〜第3のトルク値T
1〜T
3の3段階よりも、さらに多段階に指令トルクTを変化させてもよい。例えば、制御周期ごとに指令トルクTを徐々に変化させてもよい。このような場合でも、指令トルクTが順次低減されるように制御することで、第1及び第2の実施の形態と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0068】
また、第1及び第2の実施の形態では、プロペラシャフト2のエンジン102側に噛み合いクラッチ3を配置し、プロペラシャフト2の後輪105a,105b側にトルクカップリング4を配置したが、これに限らず、プロペラシャフト2のエンジン102側にトルクカップリング4を配置し、プロペラシャフト2の後輪105a,105b側に噛み合いクラッチ3を配置してもよい。すなわち、噛み合いクラッチ3とトルクカップリング4の配置位置を入れ替えてもよい。
【0069】
また、第1及び第2の実施の形態では、前輪104a,104bを主駆動輪とし、後輪105a,105bを補助駆動輪とした場合について説明したが、これに限らず、前輪104a,104bを補助駆動輪とし、後輪105a,105bを主駆動輪とする四輪駆動車にも本発明を適用することが可能である。つまり、例えば前述の特許文献1に記載されたように、エンジンのトルクをトランスファにて前輪側及び後輪側に分配し、左右一対の後輪には、後輪側プロペラシャフトを介して常時トルクを伝達し、左右一対の前輪には、前輪側プロペラシャフトを介して走行状態に応じてトルクを伝達してもよい。この場合、前輪側プロペラシャフトとエンジンとの間、及び前輪側プロペラシャフトと後輪との間の何れか一方に噛み合いクラッチ3を設け、何れか他方にトルクカップリング4を設け、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4をECU5によって制御する。
【0070】
また、第1及び第2の実施の形態では、噛み合いクラッチ3にシンクロメッシュ機構を設けていなかったが、噛み合いクラッチ3にシンクロメッシュ機構を設けて同期を容易にしてもよい。