(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
<1.移動車両の構成>
まず、
図1A〜Cを参照して、本発明の一実施形態に係る移動車両の概略構成について説明する。
図1Aは、本実施形態に係る移動車両の構成を示す概略斜視図であり、後述するアームを伸ばした状態を示している。また、
図1Bは、本実施形態に係る移動車両の構成を示す概略斜視図であり、後述するアームを折り畳んだ(縮めた)状態を示している。更に、
図1Cは、
図1Aに示すA−A切断線で切断した際の、本実施形態に係る移動車両の車体の内部の様子を示す概略斜視図である。
【0024】
図1A〜Cを参照すると、本実施形態に係る移動車両10は、車体100、アーム200、構造物保持ユニット300、牽引部材400、車輪部500及び牽引部材巻き取り機構600を備える。ここで、移動車両10は、例えば、遠隔操作又は自動制御によって動作する無人の移動車両である。
【0025】
なお、以下の説明において、車体100からアーム200が延伸している方向を、移動車両10の進行方向とする。また、進行方向のことを「前」と呼ぶこととする。また、「前」を向いた状態における左右方向を、それぞれ、移動車両10の「左」、「右」と呼ぶこととする。また、床面と垂直な方向において、床面に対して移動車両10が存在する方向を「上」、その逆方向を「下」と呼ぶこととする。
【0026】
また、以下の説明においては、
図1A〜Cに示すように、各図面に座標軸を定める。ここで、移動車両10の「前」方向がx軸の正方向であり、移動車両10の「右」から「左」に向かう方向がy軸の正方向であり、移動車両10の「上」方向がz軸の正方向である。
【0027】
以下、移動車両10の各構成部材の構造について説明する。車体100は、シャーシ101及びアーム取付け部102を有する。シャーシ101は、移動車両10の基台を構成する部材であり、例えば、
図1Aに示すように略直方体の形状を有する。シャーシ101の内部には空間が形成されてよく、当該空間には、例えば、牽引部材巻き取り機構600、移動車両10を駆動するためのモータ、当該モータに電力を供給するバッテリ、当該モータの出力を車輪部500に伝達するギアボックス、後述する車輪501a、501b、501c、501dの中心に接続され回転中心となる車軸、移動車両10の駆動を統括的に制御する制御装置等が配設される。ここで、シャーシ101は内部に空間を有していなくてもよく、その場合、上記牽引部材巻き取り機構600、モータ、バッテリ、ギアボックス、車軸、制御装置等は、移動車両10の任意の場所に設置可能である。また、シャーシ101の形状は、略直方体に限定されず、内部の空間にこれらの構成を有することが可能であれば、作業現場における移動性等を考慮して、適宜変更されてよい。ここで、
図1A〜Cにおいては、モータ、バッテリ、ギアボックス、車軸、制御装置については図示を省略している。
【0028】
シャーシ101の上面の略中央には、アーム取付け部102が設けられる。アーム取付け部102は、アーム200の一端が接続される領域であり、例えば略円形の台座であってよい。ここで、アーム取付け部102が設けられる位置は、シャーシ101の上面の略中央に限定されず、シャーシ101の任意の部位であってよい。アーム取付け部102が設けられる位置は、アーム200が延伸される方向等を考慮して、適宜決定することができる。
【0029】
アーム200は、x軸とz軸とで規定される面内において伸縮自在に構成され、その一端が、車体100のアーム取付け部102に接続される。更に、例えばアーム取付け部102がz軸方向を回転軸として回転可能であれば、移動車両10は、車体を移動させなくても、アーム200を任意の方向に伸ばすことができる。
【0030】
アーム200は、例えば、棒状の部材であるアーム部材201a、201b、201c、201d及びアーム関節部202a、202b、202c、202dから構成される。
【0031】
アーム部材201aの一端は、アーム関節部202aを介してアーム取付け部102に接続される。ここで、アーム関節部202aは、回転軸を有するジョイント機構であり、アーム部材201aは、アーム関節部202aを基点としてアーム取付け部102に対して回転可能に接続される。ここで、アーム関節部202aの回転軸は、例えば、
図1A〜Cに示すように、y軸方向であってよい。
【0032】
アーム部材201aの他端には、アーム関節部202bを介してアーム部材201bの一端が接続される。アーム関節部202bの機能は、アーム関節部202aの機能と同様である。従って、アーム部材201bは、アーム関節部202bを基点としてアーム部材201aに対して回転可能に接続される。更に、アーム部材201bの他端には、アーム関節部202cを介してアーム部材201cの一端が接続され、アーム部材201cの他端には、アーム関節部202dを介してアーム部材201dの一端が接続される。
【0033】
つまり、棒状のアーム部材201a、201b、201c、201dは、アーム関節部202a、202b、202c、202dをそれぞれ介して、互いの端同士が回転可能に順に接続される。従って、アーム200は、
図1Aに示すようにアーム部材201a、201b、201c、201dを展開したり、
図1Bに示すようにアーム部材201a、201b、201c、201dを折り畳んだりすることで、伸縮自在に構成される。ここで、アーム関節部202a、202b、202c、202dは、それぞれ自身を中心として、アーム部材201a、201b、201c、201dを回転動作させるためのアクチュエータの機能を有していてもよく、当該アクチュエータを駆動することによって、アーム200の伸縮を実現することができる。また、アーム関節部202a、202b、202c、202dには、その回転範囲を規制する回転規制部材(図示せず。)が更に設けられてもよい。
【0034】
アーム部材201dの先端、すなわち、アーム200の先端部には、構造物保持ユニット300が設けられる。構造物保持ユニット300は、構造物に吸着する又は構造物を把持することで、当該構造物を保持する機能を有する。ここで、構造物保持ユニット300が保持する構造体とは、例えば、配管、壁面、床面等であってよい。構造物保持ユニット300の構造については、
図2A〜Dを参照して、後で詳しく説明する。
【0035】
構造物保持ユニット300と、車体100の内部に設けられる牽引部材巻き取り機構600との間には、牽引部材400が張設される。牽引部材400は、牽引部材巻き取り機構600によって巻き取り可能な可撓性の線状の部材であればよく、その構造や種類は限定されない。例えば、牽引部材400は、ワイヤー、ひも、ロープ、チェーン、リンク等であってもよい。なお、
図1A〜C及びその他の図面においては、牽引部材400の一例として、牽引部材400がロープである場合の実施例について図示しているが、牽引部材400はかかる実施例に限定されず、上述したような他の構造であってもよい。また、牽引部材400は、自車重による引っ張り荷重を支持できる程度の強度を有する素材で形成され、例えば、ケブラー繊維や鋼線等によって形成される。牽引部材400の一端は、構造物保持ユニット300に接続され、他端は、牽引部材巻き取り機構600に接続されてよい。
【0036】
ここで、移動車両10のアーム200を用いた移動方法について説明する。移動車両10は、移動する際に、アーム200の先端部に設けられる構造物保持ユニット300によって構造物を保持することで、自車体を支持することができる。例えば、移動車両10が段差を越えようとする場合、アーム200を伸ばし、構造物保持ユニット300を移動先、つまり段差の上段の床面に吸着させ、アーム200を縮める(折り畳む)ことで、自車体を段差の上に持ち上げることが可能になる。また、例えば、移動車両10が自車の上方に敷設された配管等の構造物に移動しようとする場合、アーム200を伸ばし、構造物保持ユニット300を移動先、つまり配管の表面に吸着させ、アーム200を縮める(折り畳む)ことで、自車体を浮上させて、配管の上まで移動することができる。
【0037】
ここで、移動車両10が、上述したような段差を乗り越えようとする場合又は配管に向かって浮上移動しようとする場合、アーム200だけを利用して移動しようとすると、アーム200を縮めながら(折り畳みながら)自車体を引き上げるためには、自車体の重量及びアーム200自身の重量を引き上げるに足りる、比較的大きな関節トルクが必要となる。また、アーム200の到達可能範囲を広げるためにアーム200の長さを増加させると、アーム200の重量は指数関数的に増加する。
【0038】
一方、本実施形態に係る移動車両10は、アーム200を用いてこれらの移動を行う際に、牽引部材400を利用することができる。つまり、移動車両10は、アーム200を縮めながら(折り畳みながら)、牽引部材巻き取り機構600が牽引部材400を巻き取ることにより、段差を乗り越えたり、浮上移動したりすることができる。牽引部材400を利用することにより、アーム200は、構造物保持ユニット300と牽引部材400とを支持できる駆動力を有すればよいため、牽引部材400を利用しない場合と比較して、アーム200の重量を、例えば数分の一から十数分の一程度に減少することができる。
【0039】
また、後述するように、牽引部材巻き取り機構600が牽引部材400を巻き取る駆動力は、例えば、車輪部500を駆動するためのモータから供給される。従って、本来走行機構が持つ駆動力を牽引部材400の巻き取りに利用することができるため、追加の機構が不要となる。また、牽引部材400を利用した牽引においては、牽引部材400、例えばロープの自重に比して牽引能力が高いため、牽引部材400の重量もより小さく設計することができる。よって、本実施形態に係る移動車両10においては、車重の増加を最小限に抑えることができ、上述した段差の乗り越え移動や浮上移動がより容易になる。
【0040】
ここで、アーム200の駆動力は、移動車両10の使用環境や用途等に応じて、自在に設定可能であってよい。従って、アーム200は、構造物保持ユニット300と牽引部材400とを支持する駆動力以外にも、自車体を牽引するための駆動力を有していてもよい。つまり、アーム200の重量の増加を許容できる範囲で、アーム200と牽引部材400とで、適度に負荷を分散する構造としてもよい。
【0041】
このように、牽引部材400及び牽引部材巻き取り機構600を用いることで、アーム200の駆動力が比較的小さくても、移動車両10の移動が可能になる。なお、上記説明したようなアーム200を用いた移動車両10の移動方法については、<3.アームを用いた浮上移動>及び<4.アームを用いた段差乗り越え移動>で詳しく説明する。
【0042】
ここで、アーム部材201a、201b、201c、201dの素材としては、上述したような移動方法においてアーム200に掛かる負荷に耐え得るだけの、充分な強度を有する素材が用いられる。例えばアーム部材201a、201b、201c、201dは、各種の鋼板で形成されてもよい。また、アーム部材201a、201b、201c、201dは、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、FRP(繊維強化樹脂)及びCFRP(炭素繊維強化樹脂)等で形成されてもよい。
【0043】
また、アーム関節部202a、202b、202c、202dが有するアクチュエータは、上述したようなアーム200の動作を実現できればよく、その種類や構成は限定されない。各種の公知のアクチュエータが利用されてもよいし、本実施形態に係る移動車両10に特化したアクチュエータが利用されてもよい。また、当該アクチュエータが有する駆動力も、牽引部材400の構造や素材、移動車両10の使用環境や用途等に応じて、適宜設定可能である。
【0044】
牽引部材巻き取り機構600は、上述したように、例えばシャーシ101の内部に形成される空間内に配設され、牽引部材400を巻き取るものである。
図1Cを参照すれば、牽引部材巻き取り機構600は、例えば円柱形のドラムを有してもよい。当該ドラムの表面の一部領域には、牽引部材400の一端が固定される。従って、当該ドラムが回転することで、牽引部材400が巻き取られる。ここで、ドラムを回転させる駆動力を得るためにドラム駆動用のモータが更に設けられてもよいが、例えば上述した車輪部500の駆動用モータが、ドラムを回転させる駆動力を供給してもよい。このように、車輪部500の駆動力と牽引部材巻き取り機構600の駆動力とを同一のモータによって供給することで、追加の機構が不要となり、移動車両10の軽量化を図ることができる。
【0045】
車輪部500は、上述した車輪部500の駆動用モータによって駆動され、移動車両10を移動させる機能を果たす。
図1A〜Cを参照すれば、本実施形態に係る車輪部500は、例えば、2対の車輪501a、501b、501c、501dを有する。ここで、車輪501a、501b、501c、501dは、それぞれ、移動車両10の右前輪部、右後輪部、左前輪部、左後輪部を構成している。これら右前輪部、右後輪部、左前輪部、左後輪部は、同一の構造を有するため、以下の説明では、主に左前輪部の構造について説明する。
【0046】
図1A〜Cを参照すれば、本実施形態に係る車輪部500の左前輪部は、車輪501a、小車輪502a、支持部材503a及び第1のベルト504aを有する。ここで、車輪部500の左前輪部は、フラッパーユニットを有してもよい。フラッパーユニットは、例えば、車輪501aの中心と小車輪502aの中心とが、支持部材503aで結合され、更に、車輪501aの周回と小車輪502aの周回とに跨るように第1のベルト504aが設けられることにより構成される。このフラッパーユニットは、移動車両10の転倒防止部材の一例であり、当該フラッパーユニットを有することで、移動車両10の接地面積が増加し、安定性を増すことができる。
【0047】
また、車輪501aの中心には、車軸が接続されており、当該車軸には、上述したモータからの動力を伝達するギアボックスの最終段に配設される最終ギアが係合していてもよい。従って、車輪501aは、当該車軸を回転中心として回転駆動される。ここで、車輪501a、501b、501c、501dの回転駆動は、各々制御されてもよいし、前輪同士(車輪501aと車輪501c)、後輪同士(車輪501bと車輪501d)でそれぞれ車軸を共有し、前輪と後輪とが別々に制御されてもよい。また、前輪又は後輪のいずれかのみが駆動されてもよい。
【0048】
更に、左前輪部の車輪501aの周回と左後輪部の501bの周回とに跨るように、第2のベルト505aが設けられてもよい。すなわち、左前輪部の車輪501aと左後輪部の501bとが、第2のベルト505aで連結され、クローラー構造が構成されていてもよい。クローラー構造を有することで、移動車両10の接地面積が更に増加し、より安定性を増すことができる。
【0049】
以上の説明では、主に、車輪部500の左前輪部の構造について説明したが、左後輪部、右前輪部、右後輪部も同様な構造を有していてよい。すなわち、例えば、左後輪部は、車輪501b、小車輪502b、支持部材503b及び第1のベルト504bを有し、右前輪部は、車輪501c、小車輪502c、支持部材503c及び第1のベルト504cを有し、右後輪部は、車輪501d、小車輪502d、支持部材503d及び第1のベルト504dを有している。また、右前輪部の車輪501cと右後輪部の501dとは、第2のベルト505bで連結されていてもよい。
【0050】
また、上記の説明においては、車輪部500が車輪を4つ有する場合について説明したが、本実施形態はこの例に限定されない。移動車両10が有する車輪の数は、4つでなくてもよく、移動車両10は、例えば6輪車のように、より多くの車輪を有してもよい。また、移動車両10が有する車輪の数は偶数個に限定されず、例えば3輪車のように、奇数個であってもよい。
【0051】
次に、
図2A〜Dを参照して、本実施形態に係る構造物保持ユニット300の概略構成について説明する。
図2Aは、構造物保持ユニット300が構造物に吸着している様子を示す斜視図、
図2Bは、構造物保持ユニット300が構造物に吸着している様子を示す側面図である。また、
図2Cは、構造物保持ユニット300が構造物を把持している様子を示す斜視図、
図2Dは、構造物保持ユニット300が構造物を把持している様子を示す側面図である。また、
図2A〜Dには、アーム200と構造物保持ユニット300との接続状態を示すために、アーム部材201dの一部も図示している。
【0052】
図2A〜Dを参照すれば、本実施形態に係る構造物保持ユニット300は、吸着部301及びフック303a、303bを有する。ここで、吸着部301は、構造物の表面に吸着するための吸着機構の一例であり、フック303a、303bは、構造物を把持するためのフック機構の一例である。構造物保持ユニット300は、吸着部301及びフック303a、303bの少なくともいずれかを有し、構造物に吸着する又は構造物を把持することで、当該構造物を保持する機能を有する。
【0053】
吸着部301は、例えば板状の部材であり、そのz軸負方向に対応する面には吸着面が形成されている。当該吸着面を、構造物の表面、例えば床面や壁面等に接触させることで、吸着部301を構造物に吸着させることができる。ここで、
図2A、Bは、吸着部301の吸着面が、構造物800、例えば配管の表面に吸着している様子を示している。
【0054】
また、吸着部301の一辺には、ヒンジ302が設けられており、吸着部301とアーム部材201dとは、当該ヒンジ302を介して接続される。従って、吸着部301は、ヒンジ302を回転中心として、アーム部材201dに対して回転可能に構成される。このような構成を有することで、アーム部材201dを動かさなくても、吸着面と構造物の表面とが略平行になるように、吸着部301の角度を調整することができる。ここで、例えば、ヒンジ302の回転軸は、y軸方向であってよい。
【0055】
フック303a、303bは、例えば棒状の部材が略L字状に屈曲されて形成される。また、フック303a、303bの一端は、それぞれ、ヒンジ304a、304bを介して、吸着部301と接続される。つまり、フック303a、303bは、それぞれ、ヒンジ304a、305を回転中心として、吸着部301に対して回転可能に構成される。ここで、ヒンジ304a、305の回転軸は、例えば、ヒンジ302の回転軸と略平行であってよい。ヒンジ304a、305の回転軸がヒンジ302の回転軸と略平行である場合、
図2C、Dに示すように、フック303a、303bと、吸着部301の吸着面と対向する面(z軸正方向に対応する面)とで、構造物を挟持することができる。ここで、以下の説明においては、このように、フック303a、303bと、吸着部301とで構造物を挟持することを、フック303a、303bが構造物を把持すると呼ぶこととする。
図2C、Dは、フック303a、303bが、構造物900、例えば配管を把持している様子を示している。
【0056】
また、フック303a、303bは、吸着部301を構造物の表面から引き離す役割も果たす。つまり、吸着部301の吸着面が、構造物の表面に吸着しているときに、フック303a、303bの先端が当該構造物の表面を押圧するようにフック303a、303bを駆動することで、吸着部301を構造物の表面から引き離すことができる。
【0057】
以上、
図2A〜Dを参照して、本実施形態に係る構造物保持ユニット300の概略構成について説明した。ここで、上記の説明においては、構造物保持ユニット300が、吸着機構及びフック機構を両方有する場合について説明したが、本実施形態に係る構造物保持ユニット300は、吸着機構及びフック機構の少なくともいずれかを有してもよい。
【0058】
ここで、吸着部301が有する吸着手段は、例えば、磁力吸着、真空吸着又は化学吸着等であってよい。例えば、吸着部301の吸着機構が磁力吸着である場合、吸着部301の吸着面は電磁石、永久磁石等で構成されてよい。更に、吸着部301の吸着機構が電磁石である場合、電磁石から発生する磁力を制御することで、吸着部301の構造物表面への脱着を制御することが可能になる。
【0059】
また、吸着部301の吸着機構が真空吸着だった場合、移動車両10は、吸着部301の吸着面近傍を負圧状態にするために、エアーポンプ等の機構を更に備えてもよい。
【0060】
また、吸着部301の吸着機構が化学吸着だった場合、吸着部301の吸着面の表面には、例えばゲル状の粘性体の化学物質が塗布されていてもよい。その場合、吸着部301に電流等を印加する機構が更に設けられ、吸着面の温度を制御できるようにしてもよい。吸着部301の吸着面の温度を制御することで、当該化学物質の粘性を調整することができ、吸着部301の構造物表面への脱着を制御することが可能になる。
【0061】
ここで、例えば、上記説明したような、アームを用いた移動においては、段差を乗り越える移動をするか、あるいは、自車体を浮上させる移動をするかに応じて、吸着部301に求められる吸着力は異なる。また、例えば、上述した吸着方法(磁力吸着、真空吸着又は化学吸着等)の違いや、吸着する構造物表面の素材、自車体の重量等によっても、吸着部301に求められる条件は異なる。従って、吸着部301の面積や、吸着力は、特に限定されるものではなく、これらの状況を考慮して、適宜設計されてよい。
【0062】
ここで、上述したように、移動車両10は、移動車両10の駆動を統括的に制御する制御装置(図示せず。)を備える。以下では、当該制御装置の機能及び構成について説明する。
【0063】
制御装置は、例えば、モータの回転数、回転方向等を調整し、車輪部500による移動車両10の移動を制御してもよい。
【0064】
また、制御装置は、例えば、アーム200の動作を制御してもよい。ここで、アーム200の動作とは、例えば、アーム関節部202a、202b、202c、202dを個別に駆動し、アーム部材201a、201b、201c、201dをそれぞれ回転駆動させることで、アーム200を伸縮させる動作であってよい。
【0065】
また、制御装置は、構造物保持ユニット300の動作を制御してもよい。ここで、構造物保持ユニット300の動作とは、例えば、吸着部301が構造物表面に吸着する動作であってよい。制御装置は、吸着部301が構造物表面に吸着する際に、例えば磁力吸着における電流量、真空吸着におけるエアーの吸引量、化学吸着における温度等を調整することで、吸着部301の吸着力の制御をしてもよい。また、構造物保持ユニット300の動作とは、例えば、フック303a、303bが構造物を把持する動作であってよい。制御部は、例えばフック303a、303bを個別に駆動し、構造物を把持することができる。
【0066】
また、移動車両10は、機器補修用の装置や状況確認用の各種センサ等を更に備えてもよく、制御装置がそれらの駆動を制御してもよい。ここで、各種センサとは、例えばカメラ等の映像取得機器を含んでもよく、また、加速度センサ、角速度センサ、GPSセンサ、温度計、湿度計及び気圧計等の公知の測定機器を含んでもよい。また、移動車両10が自動制御によって動作する無人車両である場合、制御装置は、これらの各種センサによって、自車の周囲の構造物等の位置や形状等に関する情報や、自車の現在位置に関する情報等を取得してもよい。更に、制御装置は、各種センサによって取得されたこれらの情報に基づいて、例えば、移動経路やアーム200を用いた移動方法について判断することができる。
【0067】
また、移動車両10が遠隔操作によって動作する無人車両である場合、制御装置は、外部に設けられる通信機器と相互に通信可能な通信部を更に備えてもよい。操作者は、当該通信機器を介して、移動車両10を遠隔操作することができる。ここで、制御装置は、例えば、上述した各種センサによって取得される、自車の周囲の構造物等の位置や形状等に関する情報や、自車の現在位置に関する情報等を、当該通信部を介して、外部の通信機器に送信してもよい。操作者は、これらの情報を参照することで、作業現場の状況を把握しながら、移動車両10を遠隔操作することができる。
【0068】
更に、制御装置は、例えば各種データ格納用の記憶部を有してもよい。記憶部は、例えば、上述した各種センサによって取得される、自車の周囲の構造物等の位置や形状等に関する情報や、自車の現在位置に関する情報等を記憶してもよい。また、記憶部には、例えば、上記説明したような制御装置の機能を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されてもよい。制御装置は、当該コンピュータプログラムに基づいて、各種の制御を行うことができる。ここで、当該コンピュータプログラムは、記憶部に記憶されずに、通信部を介して配信されてもよい。
【0069】
以上、
図1A〜C及び
図2A〜Dを参照して、本実施形態に係る移動車両10の概略構成について説明した。かかる説明によれば、本実施形態に係る移動車両10は、車体100と、伸縮自在のアーム200と、アーム200の先端に設けられる構造物保持ユニット300と、牽引部材400と、牽引部材巻き取り機構600とを備える。そして、移動車両10は、アーム200を伸ばして構造物保持ユニット300によって構造物を保持した状態で、アーム200を縮めながら(折り畳みながら)、牽引部材巻き取り機構600によって牽引部材400を巻き取ることで、車体100を構造物に向かって引き寄せるように移動することができる。従って、構造物の隅部を走行する場合や自車体の車高以上の高さを有する段差を乗り越える場合等においても、より安定的に移動することができ、移動の自由度が向上する。
【0070】
また、本実施形態に係る移動車両10の構造物保持ユニット300は、構造物を保持する際に、当該構造物の表面の素材を問わない。従って、移動の自由度がより向上する。
【0071】
また、本実施形態に係る移動車両10は、自車の上方に設けられた構造物に移動しようとする場合、アーム200の先端に設けられた構造物保持ユニット300によって当該構造物を保持することで、直接当該構造物に移動することができる。従って、壁面等を経由する必要がないため、より効率的に移動することが可能になる。
【0072】
また、本実施形態に係る移動車両10は、アームを用いて移動する際に、アーム200を縮める力と、牽引部材400を巻き取る力とを併用する。従って、アーム200の駆動力が比較的小さくても、移動車両10の移動がより容易に可能となる。
【0073】
また、車輪部500の駆動力と牽引部材巻き取り機構600の駆動力とを同一の駆動源(例えばモータ)で供給することで、追加の機構が不要になり、車重の軽量化を図ることができる。
【0074】
<2.移動車両の構成の変形例>
次に、
図3A、Bを参照して、本実施形態に係る移動車両の一構成例の変形例として、移動車両が干渉回避機構を更に備える実施例について説明する。
図3A、Bは、本実施形態に係る移動車両の概略構成の変形例を示す側面図である。ここで、
図3A、Bに示す移動車両の構成は、干渉回避機構を備えること以外は、
図1A〜Cに示す移動車両の構成と同様であるため、以下では、主に、相違点である干渉回避機構について説明する。
【0075】
図3A、Bを参照すると、本実施形態に係る移動車両20は、牽引部材400とアーム200との離隔距離を調整する、干渉回避機構700を備える。干渉回避機構700は、牽引部材400とアーム200との離隔距離を調整する機能を有し、例えば牽引部材400をアーム200に沿うように張設することにより、牽引部材400が牽引部材400の下方の物体と接触する(干渉する)ことを防止することができる。
【0076】
干渉回避機構700は、例えば滑車(プーリー)701、干渉回避部材702及び干渉回避部材巻き取り機構703を有する。滑車701は動滑車であり、滑車701には、構造物保持ユニット300と牽引部材巻き取り機構600との間に張られた牽引部材400の一部位が掛止される。また、滑車701と、アーム200の一部位に設けられる干渉回避部材巻き取り機構703との間には、干渉回避部材702が張設される。
【0077】
ここで、干渉回避部材702は、干渉回避部材巻き取り機構703によって巻き取り可能な可撓性の線状の部材であればよく、その構造や種類は限定されない。例えば、干渉回避部材702は、ワイヤー、ひも、ロープ、チェーン、リンク等であってもよい。なお、
図3A、B及びその他の図面においては、干渉回避部材702の一例として、干渉回避部材702がロープである場合の実施例について図示しているが、干渉回避部材702はかかる実施例に限定されず、上述したような他の構造であってもよい。また、干渉回避部材702は、容易には切断されにくい素材で形成され、例えば、牽引部材400と同様、ケブラー繊維や鋼線等によって形成される。また、干渉回避部材巻き取り機構703が設けられる部位は、例えば、
図3A、Bに示すように、アーム関節部202c付近であってよいし、その他の任意の部位であってもよい。
【0078】
干渉回避部材702の一端は、滑車701に接続され、他端は、干渉回避部材巻き取り機構703に接続されている。干渉回避部材巻き取り機構703は、例えば、牽引部材巻き取り機構600と同様、円柱形のドラムを有してもよい。当該ドラムを回転させることで、干渉回避部材702を巻き取ることができる。すなわち、干渉回避部材巻き取り機構703は、滑車701と自身との間に張られる干渉回避部材702の長さを調整する機能を果たす。干渉回避部材702の長さを適宜調整することで、干渉回避機構700は、張られた牽引部材400の一部位を、滑車701を介して持ち上げることができる。
【0079】
干渉回避機構700を備えることで、アームを伸ばしたときに、牽引部材400と障害物とが接触する(干渉する)ことを防止することができる。具体的には、例えば、アーム200を伸ばして構造物保持ユニット300で構造物を保持しようとするとき、車体100と対象とする構造物との間に障害物が存在する場合を想定する。その場合、例えば
図3Aに示すように、アーム200を略逆U字形状に伸ばすことで、アーム200は障害物を回避することができる。しかし、干渉回避機構700がない場合、すなわち、牽引部材400が、構造物保持ユニット300と車体100の内部に設けられる牽引部材巻き取り機構600との間に、一直線に最短距離で張られている場合には、牽引部材400が障害物に接触してしまう可能性がある。牽引部材400が障害物に接触した状態でアーム200を縮めると、牽引部材400と障害物とが互いに擦れ合い、障害物の形状によっては、牽引部材400が損傷することも考えられる。
【0080】
本実施形態に係る干渉回避機構700は、このような牽引部材400と障害物との接触、干渉を回避する機能を果たす。例えば、
図3Aに示すように、干渉回避部材702の長さを調整し、牽引部材400とアーム200との離隔距離を調整することで、牽引部材400が、アーム200の形状に沿うように延設されるため、牽引部材400と障害物との干渉が回避される。
【0081】
また、干渉回避機構700は、上述したように、干渉回避部材巻き取り機構703によって、干渉回避部材702の長さを調整することができる。ここで、干渉回避部材702の長さは、アーム200を伸縮させた際のアーム形状や、避けようとする障害物の形状に応じて、適宜調整されてよい。例えば、
図3Bに示すように、アーム200を略M字状に伸ばす場合には、
図3Aに示すアーム形状が略逆U字状の場合と比べて、干渉回避部材702の長さが、より短く調整されてよい。このように、干渉回避機構700によって、牽引部材400と障害物との接触や干渉が防止されるので、アーム200の動作の自由度がより向上する。
【0082】
ここで、干渉回避部材巻き取り機構703は、例えばアーム200に沿って配設されるケーブル(図示せず。)等によって車体100の内部に設けられる制御装置と接続され、その駆動が制御されてよい。
【0083】
以上
図3A、Bを参照して説明したように、本変形例に係る移動車両20は、車体100と、伸縮自在のアーム200と、アーム200の先端に設けられる構造物保持ユニット300と、牽引部材400と牽引部材巻き取り機構600と、干渉回避機構700とを備える。従って、移動車両20は、アーム200を伸ばしたときに、牽引部材400と障害物とが接触する(干渉する)ことを回避することができる。従って、牽引部材400と障害物とが互いに擦れあって牽引部材400が損傷することを回避することができるため、アーム200をより自由に動作させることができる。従って、移動車両20の移動の自由度を向上させることができる。
【0084】
ここで、干渉回避機構700は、干渉回避部材巻き取り機構703を有さなくてもよい。干渉回避機構700が、干渉回避部材巻き取り機構703を有さない場合、干渉回避部材702は、滑車701と、アーム200の一部位、例えばアーム関節部202cとの間に一定の長さで張設されてよい。その場合、例えば、移動車両10の使用方法や作業現場の状況等に応じて、予め干渉回避部材702の長さが適切に設計されることで、牽引部材400と障害物とが接触する(干渉する)ことを回避することができる。
【0085】
また、上記の説明では、干渉回避機構700が、滑車701、干渉回避部材702及び干渉回避部材巻き取り機構703をそれぞれひとつずつ有する場合について説明したが、本実施形態はかかる実施例に限定されない。干渉回避機構700は、滑車701、干渉回避部材702及び干渉回避部材巻き取り機構703をそれぞれ複数有してもよい。その場合、例えば、複数の滑車701が設けられる位置は、牽引部材400上の互いに異なる複数の部位であってもよく、また、干渉回避部材702の一端が接続される位置は、アーム200の互いに異なる複数の部位であってもよい。つまり、牽引部材400の互いに異なる複数の部位が滑車701によって支持されることにより、牽引部材400とアーム200との離隔距離が調整されてもよい。複数の干渉回避部材702の長さを個別に制御することで、牽引部材400とアーム200との離隔距離をより詳細に調整することが可能となる。
【0086】
更に、上記の説明では、干渉回避機構700が、滑車701を用いて牽引部材400を支持する場合について説明したが、本実施形態はかかる実施例に限定されない。牽引部材400を掛止する部材(掛止部材)は滑車でなくてもよく、例えばリングや中空の管等であってもよい。
【0087】
<3.アームを用いた浮上移動>
ここからは、アームを利用した移動車両の移動方法について説明する。本実施形態に係る移動車両は、アームの構造物保持ユニットで自車の上方に存在する構造物を保持し、アームを縮めることで、自車体を構造物まで引き上げることができる。つまり、本実施形態に係る移動車両は、自車の上方に存在する構造物まで浮上移動することができる。以下では、
図4A〜E及び
図5A〜Fを用いて、このような、本実施形態に係る移動車両のアームを用いた浮上移動について説明する。
【0088】
ここで、以下の説明においては、
図1A〜Cに示す移動車両10の移動方法について説明するが、
図3A、Bに示す移動車両20においても同様の移動が可能である。また、移動車両10、20の構成については、<1.移動車両の構成>及び<2.移動車両の構成の変形例>で説明しているため、ここでは説明を省略する。
【0089】
また、以下の説明に用いる
図4A〜E及び
図5A〜Fにおいては、移動車両から構造物に向かう方向を鉛直方向とし、z軸で示している。ここで、構造物から移動車両に向かう方向(z軸の負の方向)が重力方向である。
【0090】
[3.1.アームの吸着部を用いた浮上移動]
まず、
図4A〜Eを参照して、アームの吸着部を用いた浮上移動方法について説明する。
図4A〜Eは、本実施形態に係る移動車両のアームの吸着部を用いた浮上移動方法を説明するための説明図である。
【0091】
まず、移動車両10は、
図4Aに示すように、対象とする構造物800の下方の位置まで移動する。移動車両10の車輪部500はフラッパーユニットを有してもよいため、移動車両10は、例えば
図4Aに示すように、左後輪部及び右後輪部のみを接地させるように自車体を起こしてもよい。ここで、構造物800は、例えば工場内に敷設されている配管であってよい。
【0092】
次に、移動車両10は、
図4Bに示すように、アーム200を構造物800に向かって伸ばし、構造物保持ユニット300の吸着部301を構造物800の表面に吸着させる。吸着部301が構造物800の表面に吸着したら、移動車両10は、アーム200を縮めるとともに、牽引部材巻き取り機構600によって牽引部材400を巻き取る。アーム200を縮める力と、牽引部材400を巻き取る力とにより、移動車両10は構造物800に向かって、すなわち、z軸の正の方向に浮上し、
図4Cに示すように、構造物800まで移動することができる。
【0093】
移動車両10は、
図4Dに示すように、構造物800の表面に車輪部500が接地するまで、アーム200を更に縮めるとともに、牽引部材巻き取り機構600によって牽引部材400を更に巻き取る。構造物800の表面に車輪部500が接地したら、移動車両10は、車輪部500を駆動させ、
図4Eに示すように、構造物800上の比較的安定な場所まで移動することができる。ここで、車輪部500の接地部と構造物800の表面とが十分な摩擦力を有するように、第1のベルト504a、504b、504c、504d及び第2のベルト505a、505bの材質は適宜選択されてよい。
【0094】
[3.2.アームのフックを用いた浮上移動]
次に、
図5A〜Fを参照して、アームのフックを用いた浮上移動方法について説明する。
図5A〜Fは、本実施形態に係る移動車両のアームのフックを用いた浮上移動方法を説明するための説明図である。ここで、アームのフックを用いた浮上移動方法は、[3.1.アームの吸着部を用いた浮上移動]で説明した移動方法と、構造物保持ユニットの構造物の保持方法が異なるだけであるため、以下の説明では、主に相違点についてのみ説明を行う。
【0095】
まず、移動車両10は、
図5Aに示すように、対象とする構造物900の下方の位置まで移動する。移動車両10は、例えば
図5Aに示すように、車輪部500のフラッパーユニットを利用して、左後輪部及び右後輪部のみを接地させるように自車体を起こしてもよい。ここで、構造物900は、例えば工場内に敷設されている配管であってよい。ただし、ここで、構造物900は、
図4A〜Eに示す構造物800と比較して、外径の小さい配管である。
【0096】
次に、移動車両10は、
図5Bに示すように、アーム200を構造物900に向かって伸ばし、構造物保持ユニット300のフック303a、303bによって構造物900を把持する。構造物保持ユニット300が構造物900を把持したら、移動車両10は、アーム200を縮めるとともに、牽引部材巻き取り機構600によって牽引部材400を巻き取る。アーム200を縮める力と、牽引部材400を巻き取る力とにより、移動車両10は構造物900に向かって、すなわち、z軸の正の方向に浮上し、
図5Cに示すように、構造物900まで移動することができる。
【0097】
移動車両10は、アーム200と牽引部材巻き取り機構600とを更に駆動し、例えば
図5Dに示すように、車体100の略中央に構造物900が位置するまで、自車体を引き上げることができる。更に、移動車両10は、例えば
図5Eに示すように、車輪部500を駆動することで、前後輪に設けられたフラッパーユニットによって、構造物900を更に把持することができる。
【0098】
フラッパーユニットによって構造物900を把持することで、移動車両10は、構造物保持ユニット300を構造物900から離しても、自車体を構造物900に安定的に固定することができる。従って、フラッパーユニットによって自車体を構造物900に固定した状態で、構造物900とは異なる別の構造物901に更にアーム200を伸ばすことができる。そして、移動車両10は、構造物保持ユニット300のフック303a、303bによって、別の構造物901を把持することで、別の構造物901に更に移動することができる。
【0099】
以上、
図4A〜Eを参照して説明したように、本実施形態に係る移動車両は、アームの吸着部を構造物の表面に吸着させた状態で、アームを縮め、牽引部材を巻き取ることで、自車体を持ち上げ、当該構造物まで浮上移動することができる。また、
図5A〜Fを参照して説明したように、本実施形態に係る移動車両は、アームのフックで構造物を把持した状態で、アームを縮め、牽引部材を巻き取ることで、自車体を持ち上げ、当該構造物まで浮上移動することができる。従って、例えば壁面等を利用して移動する場合と比較して、目的地までより短時間で移動することが可能になり、より効率的な移動を実現することができる。
【0100】
ここで、例えばアームのみを用いて浮上移動をしようとすると、アームには、自重を支え、持ち上げるだけの関節出力や頑強さが要求される。また、アームが有する特性として、その到達距離に比例して重量が大きくなる一方、車体を引き付ける力は低下してしまう。従って、アームのみを利用して浮上移動をしようとする場合、アームの重量が増加し、結果的に、車両の重量が増加する可能性がある。車両の重量が増加すると、アームで支持しなければならない重量が更に増すことになるため、アームの設計が困難なものになる。これに対して、本実施形態に係る移動車両は、浮上移動する際に、アームと牽引部材とを併用する。すなわち、アームを縮める力と、牽引部材を巻き取る力とにより、移動車両を浮上移動させることができる。従って、アームの駆動力が比較的小さくても、移動車両の浮上移動を行うことが可能になる。また、本実施形態に係る移動車両は、牽引部材を巻き取る駆動力を、車輪部を駆動するモータによって供給することで、牽引部材巻き取り機構の追加の機構を必要としない。従って、より車体の重量を軽減することができ、浮上移動をより容易に行うことができる。
【0101】
また、本実施形態に係る移動車両は、移動した構造物から、更に別の構造物に対して、繰り返し浮上移動を行うことができる。ここで、上記説明した、アームの吸着部を用いた浮上移動と、アームのフックを移動した浮上移動とは、互いに組み合わされてもよい。つまり、本実施形態に係る移動車両は、構造物の大きさや形状によって、構造物保持ユニットの保持方法を使い分けて浮上移動をすることができる。従って、移動の自由度がより向上する。
【0102】
<4.アームを用いた段差乗り越え移動>
以上、本実施形態に係るアームを用いた浮上移動方法について説明した。次に、アームを用いて段差を乗り越える移動方法について説明する。
【0103】
以下では、
図6A〜Dを参照して、本実施形態に係る、アームを用いた段差乗り越え移動方法について説明する。
図6A〜Dは、本実施形態に係る移動車両のアームを用いた段差乗り越え移動方法を説明するための説明図である。ここで、以下の説明においては、
図3A、Bに示す移動車両20の移動方法について説明するが、
図1A〜Cに示す移動車両10においても同様の移動が可能である。移動車両10、20の構成については、<1.移動車両の構成>及び<2.移動車両の構成の変形例>で説明しているため、ここでは説明を省略する。また、説明を簡単にするため、
図6A〜Dにおいては、移動車両20の構造や動作はポンチ絵で示す。更に、
図6A〜Dにおいては、アーム200の構成も簡略化し、アーム200がアーム部材2本から構成される場合について示す。
【0104】
まず、移動車両10は、
図6Aに示すように、段差の下段に位置している。段差を乗り越えようとする場合、まず、移動車両10は、
図6Bに示すように、アームを段差の上段の方向に伸ばし、構造物保持ユニット300の吸着部301を、上段の床面に吸着させる。ここで、干渉回避機構700によって、牽引部材400が段差に接触しないように、牽引部材400がアーム200に沿って延設されてもよい。
【0105】
吸着部301が上段の床面に吸着した状態で、移動車両20は、車輪部500を段差の方向に回転駆動させながら、アーム200を縮めるとともに、牽引部材巻き取り機構600によって牽引部材400を巻き取る。車輪部500の駆動力、アーム200を縮める力及び牽引部材400を巻き取る力により、移動車両20は、
図6Cに示すように、段差の上段の方向に移動する。車輪部500、アーム200及び牽引部材巻き取り機構600を更に駆動することで、移動車両20は、
図6Dに示すように、段差の上段に移動することができる。
【0106】
以上、
図6A〜Dを参照して、本実施形態に係る移動車両のアームを用いた段差乗り越え移動方法について説明した。一般的に、移動車両にとっては、例えば、段差の高さが自車体の高さよりも大きい場合には、車輪部の駆動力だけでは段差を乗り越えることが困難であることが多い。また、浮上移動と同様、アームのみを用いて段差乗り越え移動をしようとすると、アームには比較的大きな駆動力が要求されるため、アーム自身の重量増加に加えて、アームを駆動するためのモータやバッテリ等も大型化する可能性があり、車両全体の重量が増加してしまう可能性がある。車両の重量が増加すると、アームで支持しなければならない重量が更に増すことになるため、アームの設計が困難なものになる。これに対して、本実施形態に係る移動車両は、段差乗り越え移動をする際に、アームを縮める力と、牽引部材を巻き取る力とを併用する。従って、アームの駆動力が比較的小さくても、段差乗り越え移動を行うことが可能となる。よって、車両の重量増加を抑えながら、移動の自由度をより向上させることができる。
【0107】
<5.まとめ>
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る移動車両においては、以下の効果を得ることができる。
【0108】
本発明の一実施形態に係る移動車両は、アームを伸ばして構造物保持ユニットによって構造物を保持した状態で、アームを縮めながら(折り畳みながら)、牽引部材巻き取り機構によって牽引部材を巻き取ることで、移動車両を構造物に向かって引き寄せるように移動することができる。従って、構造物の隅部を走行する場合や自車体の車高以上の高さを有する段差を乗り越える場合等においても、より安定的に移動することができ、移動の自由度が向上する。
【0109】
また、本実施形態に係る移動車両の構造物保持ユニットは、構造物を保持する際に、当該構造物の表面の材質を問わない。従って、移動の自由度がより向上する。
【0110】
また、本実施形態に係る移動車両は、例えば自車の上方に設けられた構造物に移動しようとする場合、アームの先端に設けられた構造物保持ユニットによって当該構造物を保持することで、直接当該構造物に移動することができる。従って、壁面等を経由する必要がないため、より効率的に移動することが可能になる。
【0111】
また、本実施形態に係る移動車両は、アームを用いて移動する際に、アームを縮める力と、牽引部材を巻き取る力とを併用する。従って、アームの駆動力が比較的小さくても、移動車両の移動がより容易に可能となる。
【0112】
また、本実施形態に係る移動車両においては、車輪部の駆動力と牽引部材巻き取り機構の駆動力とを同一の駆動源(例えばモータ)で供給することで、追加の機構が不要になり、車重の軽量化を図ることができる。
【0113】
また、本実施形態に係る移動車両は、上述した構成に加えて、更に干渉回避機構を備えてもよい。干渉回避機構を備えることで、アームを伸ばしたときに、牽引部材と障害物とが接触する(干渉する)ことを回避することができる。従って、牽引部材と障害物とが摺動して、牽引部材が損傷することを防止することができるため、アームをより自由に動作させることができる。従って、移動車両の移動の自由度を向上させることができる。
【0114】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0115】
例えば、上記実施形態では、移動車両がアームを1本のみ備える実施例について説明したが、本発明はかかる実施例に限定されない。例えば、移動車両はアームを複数本備えてもよく、これらのアームによって交互に構造物を保持しながら移動することで、より自由度の高い移動を実現することができる。
【0116】
また、例えば、上記実施形態では、アームが、複数のアーム部材が複数のアーム関節部によって接続されて構成される場合について説明したが、本発明はかかる実施例に限定されない。本発明に係るアームは伸縮自在な構造であればどのような構成を有してもよい。例えば、本発明に係るアームは、互いに径の異なる複数の管状の部材が、順に入れ子状に内挿された構造を有し、各部材が互いにスライドすることで、その伸縮が実現されてもよい。
【0117】
また、例えば、上記実施形態では、車輪部がフラッパーユニットを有する実施例について説明したが、本発明はかかる実施例に限定されない。当該フラッパーユニットは、移動車両の転倒防止部材の一例であり、転倒防止部材は他の構造であってもよい。例えば、移動車両は上述のようにアームを複数本備え、構造物を保持しているアームとは異なるアームで床面を支持することで、安定性を得てもよい。
【0118】
また、本発明に係る移動車両は、上記説明した構成に限定されず、あらゆる種類の車両であってもよい。例えば、本発明に係る移動車両は、車輪部が磁力を有する車輪を備え、磁性体表面上を走行することが可能な磁性体移動車であってもよい。