(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼構造物をはじめとする磁性体構造物の表面(路面)は、曲面もあるが、多くは平坦な面にリブ板が付設されているような凹凸構造である。磁性体構造物の表面を連続走行して撮影点検するには、これらの凹凸や鉛直面、底面を磁力吸着走行可能な磁性体移動車は有効である。しかしながら、入り隅、出隅などの構造体の隅部を通過する際には、磁性吸着力の低下や摩擦係数の低減で、吸着走行が困難となる場合があった。
【0007】
例えば、クローラー等の無限軌道では、路面に対して大きな吸着面積を得ることが可能であり高い吸着力を期待できる。しかし、無限軌道を構成する各履板が剛体の磁石から成ると、例えば先端の突起した構造体表面、すなわちボルトやリベットの端面が整列しているような磁性体構造物の突起部を走行する場合、無限軌道と磁性体構造物との接触が点接触となる。さらに、履板が剛体であるため、接触点の数も限定されて少なくなり、磁性体移動車が突起部を通過するときの磁性体構造物への吸着力が不十分であった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、磁性体構造物の表面形状に因らずに当該表面に連続的に磁力吸着して走行することが可能な、新規かつ改良された磁性体移動車用車輪およびこれを備えた磁性体移動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、磁性体からなる構造物に吸着して走行する磁性体移動車に備えられる磁性体移動車用車輪が提供される。かかる車輪は、複数の磁石からなる磁石群と、中心部に車軸の回転を伝達するホイールが設けられる環状の可撓性部材からなり、磁石群を構成する磁石を少なくとも周方向に沿って配列した状態で保持する磁石保持部と、磁石群を保持した磁石保持部の、構造物との接触面を被覆し、構造物との間に摩擦を生じさせる摩擦部材からなる摩擦部と、からなることを特徴とする。
【0010】
磁石群を構成する磁石は、車輪の車軸に対して平行な幅方向にも複数配列してもよい。
【0011】
さらに、磁石群を構成する磁石は、車輪の径方向を磁極方向として、少なくとも幅方向に隣接する磁石の極性が逆になるように配置され、磁石保持部は、各磁石の間に介在する非磁性弾性体と、非磁性弾性体に埋設されて各磁石の間隔を維持する非磁性剛体球とを備えてもよい。
【0012】
また、磁石保持部は、中心部側に、各磁石の磁力を互いに伝達する環状の可撓性通磁部材を備えてもよい。
【0013】
また、磁石保持部は、各磁石と可撓性通磁部材との間に、各磁石の可撓性通磁部材に対する移動を許容する摺動部を備えてもよい。
【0014】
また、磁石群を構成する磁石は、幅方向に偶数配置されてもよい。
【0015】
また、磁石群を構成する磁石は、少なくとも周方向に8個以上等間隔に配置してもよい。
【0016】
さらに、磁石保持部は、構造物との接触面側に、各磁石がそれぞれ収納される複数の凹部を備えてもよい。
【0017】
摩擦部は、ゴム、シリコン、またはシリコンゲルのうちいずれか1つから形成することができる。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、車両の進行方向に並設された4つ以上の車体節と、隣接する車体節に対して屈曲可能に車体節を支持する3つ以上の支軸と、支軸において車体節を屈曲可能に設けられ、車両の進行方向に対して直交する車軸に設けられた少なくとも3対以上の車輪と、各車輪を駆動する車輪駆動部と、を備え、各車輪は、複数の磁石からなる磁石群と、中心部に車軸の回転を伝達するホイールが設けられる環状の可撓性部材からなり、磁石群を構成する磁石を少なくとも周方向に沿って配列した状態で保持する磁石保持部と、磁石群を保持した磁石保持部の、構造物との接触面を被覆し、構造物との間に摩擦を生じさせる摩擦部材からなる摩擦部と、からなることを特徴とする、磁性体移動車が提供される。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、磁性体構造物の表面形状に因らずに当該表面に連続的に磁力吸着して走行することが可能な磁性体移動車用車輪およびこれを備えた磁性体移動車を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<1.第1の実施形態>
(1−1.磁性体移動車の構成)
まず、
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る磁性体移動車10の概略構成について説明する。なお、
図1は、本実施形態に係る磁性体移動車10を示す概略斜視図である。
図1において、車輪100bについては一部の構成要素を省略して記載している。また、
図1では、
図1紙面上下方向を重力方向とし、xyz座標は磁性体移動車10についての座標である。
図1では、磁性体移動車10のy方向が重力方向と略一致している状態(すなわち、磁性体構造物5の側面走行状態)を示している。
【0023】
本実施形態に係る磁性体移動車10は、複数の磁石からなる磁石群を備えた6つの車輪100a〜100fを有しており、磁性体構造物5に吸着しながら磁性体上を走行する車両である。磁性体移動車10は、
図1に示すように、4つの車体節12a〜12dを連結して構成された車体と、当該車体の側部に、車体節12a〜12dの連結方向(x方向)に配列された3対の車輪100a〜100fとからなる。
【0024】
車体節12a〜12dは、車両の基台を構成する剛体である。
図1に示すように、車体節12a〜12dは、車両が水平面に置かれた状態で各車体節12a〜12dの底面が面一となるように、車両の進行方向(x方向)に並設される。各車体節12a〜12dはy方向に延びる支軸(図示せず。)によって連結されている。支軸の数は車体節の数より1少なく、本実施形態では、3つの支軸が設けられる。支軸は、隣接する車体節12a〜12dを回転可能に支持する。したがって、支軸により連結された車体節12a〜12dは支軸回りに相対的に回転させることができる。これにより、磁性体移動車10は、車体を屈曲させることが可能となる。なお、
図1には示していないが、支軸によって接続された車体節12a〜12dの相対的な回転範囲を規制する回転規制部材を設けてもよい。
【0025】
車輪100a〜100fは、磁性体構造物5に吸着するための磁力を有する弾性体車輪である。各車輪100a〜100fは、
図2に示すように、複数の磁石112からなる磁石群110と、環状の可撓性部材からなり、磁石群110を構成する各磁石112を周方向および幅方向に配列した状態で保持する磁石保持部120と、磁石群112を保持した磁石保持部120の、磁性体構造物5との接触面を被覆し、磁性体構造物5との間に摩擦を生じさせる摩擦部材からなる摩擦部130と、からなる。
【0026】
磁石群110を構成する磁石112は、例えば希土類磁石等からなる永久磁石である。本実施形態に係る磁石112は、すべて同一の大きさ、形状、および特性を有する板状のものとするが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、車輪100の形状や、当該車輪100を備える磁性体移動車10を走行させる路面の状態に応じて、磁石112の大きさや形状、特性の異なるものを用いてもよい。例えば、路面形状と略同様の形状となるように車輪100を変形させたい場合には、磁石112のサイズを小さくして、柔軟性を持たせるようにしてもよい。このとき、磁石の数やその特性を調整して、磁性体構造物5への十分な吸着力を確保できるようにするのがよい。
【0027】
磁石112は、磁石保持部120に形成された複数の凹部122にそれぞれ収納される。また、磁石保持部120は、可撓性部材から形成されている。これにより、各磁石112が磁石112間の立体的な距離を保持しながら磁石保持部120の変形可能な範囲において自在にその位置を変えることができる。言い換えると、磁石保持部120は、各磁石群112を周方向と幅方向とでは相対位置が変化しないように保持するとともに、その弾性から径方向には各磁石112を柔軟に移動可能に保持する。このような磁石保持部120は、例えば、ゴムやシリコン、シリコンゲル等のように、可撓性が高く、温度等による体積変化の小さい材料から形成されるのが望ましい。
【0028】
磁石112が磁石保持部120の凹部122に収納された状態を、
図1の車輪100bに示す。磁石保持部120の凹部122は、磁性体構造物5の路面と対向する側(すなわち、外周面側)に、磁石保持部120の幅方向に沿って設けられた第1の壁部124aと周方向に沿って設けられた第2の壁部124bからなる壁部124により形成された空間である。壁部124の高さ(車輪100の径方向の長さ)は、例えば凹部122に収容される磁石112の高さと略同一に形成される。これにより、磁性体構造物5と接触する車輪100の接触面を滑らかにすることができる。
【0029】
図2に示す磁石保持部120は、20の第1の壁部124aと2つの第2の壁部124bとを備える。したがって、当該磁石保持部120は、車輪100の幅方向に3つ、周方向に20の磁石112を収容することができる。もちろん、車輪100に設ける磁石112の数および配置は
図2に示す例に限定されない。本実施形態に係る車輪100は、車輪100が確実に磁性体構造物5に接触し、かつ車輪100の表面形状を変形できるように磁石112が設けられていればよく、具体的には、車輪の幅方向に少なくとも1つ、周方向に少なくとも8つの磁石112を備えていればよい。
【0030】
ここで、車輪100a〜100fに円環型の磁石を用いた場合を考えると、車輪の回転走行によっても回転中心と走行面の距離は常に一定である。これに対して、本実施形態に係る磁石群110のように分割して多角形化すると、車輪の回転走行時に走行面と車輪中心の幾何学的な距離が変動する。周方向における磁石の分割数をnとすると、変動距離Δhと円形磁石の半径(すなわち、一定となる距離)rとの比率は下記数式1で表される。
【0031】
Δh/r=1−cos(π/n) ・・・(数式1)
【0032】
変動距離Δhは、車体の不必要な上下動と、吸着磁石が入れ替わる際の吸着力変動に比例する。変動比率(Δh/r)を小さくするには分割数nが大きい方がよいが、分割数を大きくし過ぎて磁石112のサイズが小さくなると、磁石間の隙間の割合が増加し、平均的な吸着力低下が懸念される。また、磁石112の半径方向の厚みは半径の約10〜20%程度であることから、磁石の形状が扁平となる(細長くなる)と製作困難や磁力低下を招いてしまう。例えば、数式1で表される変動比率(Δh/r)を0.08以下とすると、分割数nは8以上となる。実際には、磁石の分割数nは20程度とするのがよい。
【0033】
また、本実施形態に係る磁石保持部120は、磁石群110を構成する各磁石112を周方向および幅方向において等間隔に保持している。これにより、磁性体構造物5の路面と接触する箇所によらず、車輪100は安定して磁性体構造物5に吸着することができる。しかし、本発明はかかる例に限定されず、磁石112間の間隔を車輪100の箇所に応じて異なるようにしてもよい。
【0034】
磁石112を保持した磁石保持部120には、その表面を覆うように摩擦部130が設けられる。摩擦部130は、磁性体構造物5の表面と直接的に接触する部分であり、少なくとも磁石保持部120の磁性体構造物5の表面と接触する可能性のある部分に設けられる。
図2に示す摩擦部130は、磁石保持部120全体を覆うように、外周部132および側部134a、134bを有しているが、本発明はかかる例に限定されず、例えば磁性体構造物5との接触する可能性の高い外周部132のみから摩擦部130を構成してもよい。
【0035】
摩擦部130は、車輪100と磁性体構造物5との間に摩擦を生じさせるために設けられる摩擦部材である。摩擦部130は、磁性体構造物5との摩擦係数が高い材料、例えばゴムやシリコン、シリコンゲル等から形成される。摩擦部130と磁性体構造物5との摩擦係数μは、例えば約0.1〜0.9に設定することができる。これにより、磁性体構造物5に対する車輪100の滑りを低減することができ、車輪100の接線力を効率よく発生することができる。したがって、車体の姿勢に拘わらず車輪100が磁性体構造物5からずり落ちるのを防止できる。
【0036】
磁石保持部120と摩擦部130とは同一材質の材料から形成してもよく、異なる材質の材料から形成してもよい。これらの部材を同一材質の材料で形成すれば、磁石保持部120と摩擦部130とを一体形成可能となり、製作を容易にすることができる。一方で、可撓性を重視する磁石保持部120と、摩擦係数かつ耐摩耗性を重視する摩擦部130とでは、要求される性能が異なる。したがって、要求される性能に適した材質の材料を磁石保持部120と摩擦部130とでそれぞれ選択することで、高性能の車輪100を実現することができる。
【0037】
なお、磁石保持部120の中心部126には、車軸の回転を伝達するホイール(図示せず。)が設けられる。ホイールは、車輪100a〜100fの回転中心となり、後述する伝達ギアにより伝達された駆動力で車輪100a〜100fを回転させる車軸(図示せず。)と連結されている。車軸は、車体節12a〜12dを連結する支軸の延設方向(y方向)に突出している。車軸の一端は、各車輪100a〜100fを回転駆動するモータおよび駆動力を伝達する伝達ギアを備える駆動機構であるギアードモータの伝達ギアの最終段に配置される最終ギアと係合している。車軸の他端には、車輪100a〜100fがそれぞれ取り付けられている。
【0038】
このような構成の磁性体移動車10は、当該磁性体移動車10に搭載される、あるいは別個に設けられる制御装置によって各車輪100a〜100fの独立したトルク制御が行われる。これにより、車体を屈曲、または伸展させることができ、磁性体構造物5の入り隅や出隅、鉛直面等も通過することが可能となる。
【0039】
なお、本実施形態に係る磁性体移動車10は、3対6輪以上の車輪100a〜100fを備えるのがよい。車体節12a〜12dの屈曲を利用して磁性体移動車10が入り隅や出隅などの角部を走行する際、角部に接している車輪は接地面積が極端に減少し、吸着磁力も不足する。このため、角部にある1対2輪の車輪が走行面から脱落したとしても、残りの2対4輪の車輪またはそれ以上の車輪の吸着力があれば、脱落した1対2輪の車輪およびこれに付随する車体節の重力を保持することができ、車体全体の落下を未然に防止できる可能性を高めることができる。
【0040】
また、車輪は、前端輪、後端輪、および中間輪に分類できる。このとき、中間輪は1対以上であるが、中間輪近傍には車体節同士を連結する支軸が入るので、中間輪が設けられる位置に配置される車体節は2つ以上となる。すなわち、磁性体移動車10は、車体節と車輪とが下記数式2の関係を満たすように構成される。なお、車輪対数は3以上であるとする。
【0041】
車体節数=2×(車輪対数−1) ・・・(数式2)
【0042】
例えば、本実施形態のように3対6輪の車輪100a〜100fを備える場合、車体節は2×(3−1)=4節となり、5対10輪の車輪を備える場合、車体節は2×(5−1)=8節となる。
【0043】
(1−2.車輪の作用)
本実施形態に係る磁性体移動車10は、通常の平滑な面上での移動性を損なわずに、角部や突起部においても磁性体構造物5に吸着して移動可能とするために、車輪100a〜100fに複数の磁石112を内装している。すなわち、本実施形態に係る車輪100a〜100fは、磁性体構造物5に吸着するための複数の磁石112を、可撓性を有する磁石保持部120により所定の間隔を有して保持している。
【0044】
このような車輪100a〜100fは、接触する磁性体構造物5の路面が入り隅や出隅、さらには平坦な面にリブ板が付設されている凹凸面等の角部であるとき、路面の形状に沿ってその形状を適度に変形させることができる。例えば、路面が凹凸面であるとき、路面の凹凸によって車輪100a〜100fの磁石保持部120が撓む。磁石保持部120の撓みにより、これに保持された各磁石112も磁石保持部120が変形する前の状態から位置や角度が路面の形状に沿って変化する。これにより磁石112は路面との接触面積が大きくなり、路面への吸着力を高めることができ、磁性体構造物5の路面形状に因らずに当該路面に連続的に磁力吸着して走行することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態に係る車輪100a〜100fは、磁性体構造物5との接触面に、路面との間に摩擦を生じさせる摩擦部130が設けられている。これにより、磁性体構造物5に対する車輪100の滑りを低減することができ、車輪100の接線力が十分に確保されて回転トルクを効率よく伝達することができる。したがって、車輪100が磁性体構造物5からずり落ちるのを防止できる。
【0046】
<2.第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、車輪の構成以外については、本実施形態は上記の第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
図3に示すように、車輪200は、複数の磁石212からなる磁石群210と、磁石保持部220と、摩擦部130と、からなる。磁石群210を構成する磁石212は、上記の第1の実施形態と同様の磁石であるが、磁極方向(N極とS極とを結ぶ方向)が車輪200の径方向になり、周方向および幅方向に隣接する磁石212同士の間で極性が逆になるように配置されている。
【0048】
かかる磁石群210の作用について、
図4を参照してさらに説明する。
図4は、車輪200の模式的な幅方向断面図である。図示されているように、上記のような磁石212の配置によって、互いに隣接した磁石212同士の間でN極からS極への磁力線が形成される。この磁力線が磁性体構造物の内部を通過することで、磁石212と磁性体構造物との間に吸着力が作用する。それゆえ、幅方向に配列される磁石212の数は、磁力線が閉じるように偶数であることが望ましい。
図3の例では、幅方向に配列される磁石212は4個であるが、本発明の実施形態はこの例には限られず、幅方向に配列される磁石212の数は例えば2個、6個、8個などであってもよい。
【0049】
幅方向に配列された複数の磁石212のそれぞれから磁力線が形成されていることによって、例えば車輪200が
図4に示すように磁性体構造物5に対して傾いた場合にも、磁性体構造物5の表面から離れた一部の磁石(磁石212aおよび磁石212b)からの磁力線が吸着力に寄与しなくなる一方で、まだ磁性体構造物5の表面に近い残りの磁石(磁石212cおよび磁石212d)からの磁力線によって吸着力を維持することができる。
【0050】
ここで、磁力線は、磁性体構造物5に面する側に形成されるのと同様に、磁石保持部220の中心部126側にも形成される。そこで、本実施形態では、磁石保持部220の一部として、中心部126側に各磁石212の磁力を互いに伝達する円筒状の通磁部材221を設け、この通磁部材221を磁力線が通過するようにすることで、磁石212と磁性体構造物5との間の吸着磁力を強化する。
【0051】
磁石保持部220全体としての可撓性を実現するために、通磁部材221は可撓性を有することが望ましい。従って、通磁部材221には、例えば鉄などの磁性金属の膜で形成されうる。このとき、通磁断面積を確保しつつ可撓性をもたせるために、複数の膜を重ね合わせて配置することが有効である。
【0052】
なお、車輪200の周方向に隣接する磁石212については、互いの磁力線の方向が放射線状に開いているため、磁性体移動車10が平坦面を走行するのであれば、極性を逆にすることによる効果は幅方向に比べて小さい。しかし、磁性体移動車10が凹凸面を走行する場合、例えば進行方向とは直角に延びる凸部に車輪200が乗り上げて撓むと、周方向に隣接する磁石212の磁力線の方向も
図3に示した幅方向の例と同様に略並行になり、隣接する磁石の極性が逆であれば幅方向の場合と同様の効果が得られる。したがって、周方向に隣接する磁石212についても極性が逆になるように配置することが望ましい。幅方向、周方向のいずれもについて、隣接する磁石212の極性が逆になるように配置すると、磁石212の極性の配置はいわゆる千鳥状配置になる。
【0053】
続いて、
図5を参照して、磁石保持部220の構成について、さらに詳細に説明する。図示されているように、磁石保持部220は、通磁部材221に加えて、弾性体223と、剛体球225と、摺動部227とを有する。なお、
図5では、説明のために一部の構成要素を省略して記載している。
【0054】
弾性体223は、周方向に配列された磁石212の間に介在する弾性体223aと、幅方向に配列された磁石212の間に介在する弾性体223bとを含む。弾性体223は、第1の実施形態における壁部124と同様に、各磁石212を周方向と幅方向とでは相対位置が変化しないように保持する。弾性体223a,223bは、例えば磁石212の高さ(車輪200の径方向の長さ)とほぼ同じ高さに形成され、磁性体構造物5と接触する車輪200の接触面を滑らかにしてもよい。
【0055】
ここで、弾性体223は、磁石212と磁性体構造物5との間の吸着力に影響を与えないように非磁性体で形成される。また、弾性体223は、磁石212を保持するために、可撓性が高く、温度等による体積変化の小さい材料から形成されるのが望ましい。弾性体223は、例えばゴムやシリコン、シリコンゲル等で形成される。
【0056】
図示された例では、磁石212と弾性体223bとが共通する矩形の断面形状を有し、幅方向に配列されて直方体状のブロックを形成する。このブロックが、間に弾性体223aを介して周方向に配列される。このとき、弾性体223aは、両側の磁石212および弾性体223bに隙間なく接触してこれらを保持するために、くさび形の断面形状を有することが望ましい。なお、別の例として、磁石212と弾性体223bとが共通するくさび形の断面形状を有し、弾性体223aが矩形の断面形状を有してもよい。
【0057】
剛体球225は、弾性体223に埋設されて、各磁石212の間隔を維持し、弾性体223によって各磁石212の周方向および幅方向の相対位置を保持することを可能にする。例えば
図6に示すように、本実施形態では、隣接する磁石212同士の間で極性が逆になるように磁石212が配置される。それゆえ、隣接する磁石212同士の間には吸着力が働く。この場合、磁石212同士の間に介在するのが弾性体223だけでは、磁石212の吸着力に抗しきれず磁石212同士の周方向または幅方向の間隔が変化してしまう可能性がある。従って、本実施形態では、磁石212同士の吸着力に抗して変形しない剛体球225を埋設することによって、弾性体223を補強する。剛体球225も、磁石212と磁性体構造物5との間の吸着力に影響を与えないように、非磁性体で形成される。剛体球225は、例えば樹脂やセラミック、非磁性体金属等で形成される。
【0058】
図示された例において、剛体球225は、周方向および幅方向について、隣接する磁石212の間に1つずつ配置される。各磁石212は、剛体球225との接触位置を中心にして揺動することが可能であり、従って車輪200の径方向について移動可能である。つまり、剛体球225を設けることによって、弾性体223を補強しつつ、磁石保持部220全体としての可撓性を維持することが可能である。剛体球225は、例えば、磁石212がどちらの方向にも揺動可能なように、磁石212の表面の中央付近に接触することが望ましい。
【0059】
なお、周方向に隣接する磁石212の間に介在する剛体球225については、磁石212の表面中央よりもやや中心部126寄りに接触するように設けられてもよい。これは、各磁石212の磁極間の距離が、磁石保持部220の中心部126側よりも磁性体構造物5に面する側で大きくなり、周方向に隣接する磁石212の間の吸着力が、磁性体構造物5に面する側よりも中心部126側でより強くなるためである。
【0060】
さらに、本実施形態では、磁石保持部220の中心部126側に設けられる通磁部材221と磁石212との間に、摺動部227が設けられる。摺動部227は、磁石212が剛体球225を中心にして揺動するときに、通磁部材221に対して微小に移動することを容易にする。摺動部227は、磁石212との間の摩擦抵抗が低い、例えばテフロン(登録商標)、MCナイロン(登録商標)などの低摺動抵抗の樹脂、表面粗度の小さい平滑な表面の金属、またはステンレスなどの膜で形成されうる。
【0061】
以上で説明した本実施形態に係る車輪200、およびこれを用いた磁性体移動車10では、磁性体構造物5の路面への吸着力をより高めることができ、また車輪200が幅方向に傾いた場合でもある程度の吸着力が確保される。従って、路面形状の凹凸がより激しい場合でも、当該路面に連続的に磁力吸着して走行することが可能である。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば、上記実施形態では、磁性体移動車10は3つの支軸により連結された4つの車体節12a〜12dからなる車体を有しているが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、磁性体移動車10の車体節は4つ以上であってもよく、したがって支軸は3つ以上であってもよい。また、車輪100も3対以上設けることも可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、磁石保持部120の凹部122は摩擦部130が設けられる外周部132に開口するように形成されていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、各磁石112を保持するための壁部124のみからなる磁石保持部であってもよく、各磁石112を露出させずに埋め込まれた状態で保持する磁石保持部であってもよい。