(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5849948
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびこれを用いたプリプレグ及び積層板
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20160114BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20160114BHJP
C08K 3/00 20060101ALI20160114BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20160114BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L65/00
C08K3/00
C08K5/3415
C08J5/24CFC
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-518400(P2012-518400)
(86)(22)【出願日】2011年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2011062496
(87)【国際公開番号】WO2011152402
(87)【国際公開日】20111208
【審査請求日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-126927(P2010-126927)
(32)【優先日】2010年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】十亀 政伸
(72)【発明者】
【氏名】植山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 一
【審査官】
赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−024056(JP,A)
【文献】
特開2007−045984(JP,A)
【文献】
特開2010−007040(JP,A)
【文献】
特開2004−027177(JP,A)
【文献】
特開2010−031263(JP,A)
【文献】
特開2008−050526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08G 59/00− 59/72
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるシアン酸エステル樹脂(A)と、
エポキシ樹脂(B)と、
無機充填材(C)と、
を含んでなり、
前記無機充填材(C)が、
水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品、ベーマイト、水酸化マグネシウムの金属水和物、ホウ酸亜鉛、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、および窒化ケイ素からなる群から選ばれるものであり、前記シアン酸エステル樹脂(A)および前記エポキシ樹脂(B)の合計配合量100質量部に対して、
351〜700質量部含まれてなる、樹脂組成物。
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、nは、1〜50の整数を表す。)
【請求項2】
前記シアン酸エステル樹脂(A)が、シアン酸エステル樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計配合量100質量部に対して、10〜90質量部含まれてなる、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂(B)が、シアン酸エステル樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計配合量100質量部に対して、10〜90質量部含まれてなる、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
マレイミド化合物(D)をさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記マレイミド化合物(D)が、シアン酸エステル樹脂(A)およびマレイミド化合物(D)の合計配合量100質量部に対して、5〜75質量部含まれてなる、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を、基材に含浸または塗布してなるプレプリグ。
【請求項7】
請求項6に記載のプリプレグを硬化して得られる積層板。
【請求項8】
請求項6に記載のプリプレグと金属箔とを積層し硬化してなる、金属箔張り積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、より詳細には、プリント配線板用プリプレグに使用される樹脂組成物、その樹脂組成物を基材に含浸または塗布したプリプレグ、およびそのプリプレグを硬化させて得られる積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機、パーソナルコンピューター等に広く用いられている半導体の高集積化・高機能化・高密度実装化がますます加速しており、それに伴い、プリント配線板に用いられる金属箔張り積層板には、耐熱性や低吸水性などの特性に優れる積層板が要求されている。従来、プリント配線板用の積層板としては、エポキシ樹脂をジシアンジアミドで硬化させるFR−4タイプの積層板が広く使用されていた。しかしながら、このタイプの積層板では、高耐熱性化の要求に対応するには限界があった。
【0003】
耐熱性に優れるプリント配線板用樹脂として、シアン酸エステル樹脂が知られている。近年、半導体プラスチックパッケージ用などの高機能性プリント配線板用の樹脂組成物として、例えば、ビスフェノールA型シアン酸エステル樹脂と他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂とを混合した樹脂組成物が幅広く使用されている。このビスフェノールA型シアン酸エステル樹脂は、電気特性、機械特性、耐薬品性、接着性などに優れた特性を有しているものの、過酷な条件下において吸水性や吸湿耐熱性が不十分とされる場合があった。そのため、更なる特性の向上を目指して、他の構造を有するシアン酸エステル樹脂の開発が進められている。
【0004】
また、半導体の高集積化・高機能化・高密度実装化に伴い、プリント配線板の高放熱性が重視されるようになっている。そのため、高耐熱、低吸水性、かつ高熱伝導性を有する積層板が希求されている。このような積層板用の樹脂組成物として、高耐熱、かつ低吸水性を有する樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この樹脂組成物は熱伝導性が不十分であった。
【0005】
また、無機充填材を添加して熱伝導性を高めた樹脂組成物も提案されている(特許文献2)。しかしながら、無機充填材を添加すると樹脂組成物の吸水率が高くなり、高熱伝導率と低吸水性とを両立させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−45984号公報
【特許文献2】特開平7−202364号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、特定のシアン酸エステル樹脂及びエポキシ樹脂に特定量の無機充填材を配合することにより、優れた耐熱性、熱伝導性および吸水性を有する樹脂組成物が得られるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、優れた耐熱性、熱伝導性および吸水性を有する樹脂組成物を提供することである。
【0009】
また、本発明の別の目的は、上記の樹脂組成物を基材に含浸または塗布してなるプレプリグ、およびそのプリプレグを硬化して得られる積層板を提供することである。
【0010】
本発明による樹脂組成物は、下記式(I)で表されるシアン酸エステル樹脂(A)と、エポキシ樹脂(B)と、無機充填材(C)と、を含んでなり、
前記無機充填材(C)が、前記シアン酸エステル樹脂(A)および前記エポキシ樹脂(B)の合計配合量100質量部に対して、301〜700質量部含まれてなるものである。
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、nは、1〜50の整数を表す。)
【0011】
本発明による樹脂組成物は、上記式(I)で表されるシアン酸エステル樹脂を含むため、その分子構造に起因して反応阻害要因が低減されるため硬化性に優れ、また、本発明による樹脂組成物を用いた積層板や金属箔張り積層板は、優れた耐熱性、熱伝導性および吸水性を有することから、高密度化対応のプリント配線板材料に好適であり、工業的な実用性は極めて高い。
【0012】
本発明による樹脂組成物は、上記式(I)で表されるシアン酸エステル樹脂(A)と、エポキシ樹脂(B)と、無機充填材(C)とを必須成分として含む。以下、本発明による樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0013】
<シアン酸エステル樹脂(A)>
本発明において用いられるシアン酸エステル樹脂(A)は、上記式(I)で表されるポリマーまたはプレポリマーである。このようなシアン酸エステル樹脂(A)は、α−ナフトールやβ−ナフトール等のナフトール類と、p−キシレングリコール、α,α’−ジメトキシ−p−キシレン、1,4−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン等の縮合剤との反応により得られるナフトールアラルキル樹脂を、シアン酸と縮重合させて得られるものであり、その製法は特に限定されず、公知の方法によって製造することができる。例えば、下記式(II)で表されるナフトールアラルキル樹脂とハロゲン化シアンとを不活性有機溶媒中、塩基性化合物の存在下で反応させることにより、上記シアン酸エステル樹脂(A)を製造することができる。また、水を含有する溶液中で、上記ナフトールアラルキル樹脂と塩基性化合物とから塩を形成させ、次いで、この塩とハロゲン化シアンとの2相系界面反応を行うことにより、シアン酸エステル樹脂(A)を製造することもできる。
【0014】
【化2】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、nは、1〜50の整数を表す。)
【0015】
上記式(I)において、置換基Rは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表すが、特に、置換基Rが水素であるα−ナフトールアラルキル型のシアン酸エステル樹脂を好適に使用できる。また、上記式(I)において、nは、1〜50の整数を表すが、nが異なる複数のシアン酸エステル樹脂(A)を、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0016】
上記シアン酸エステル樹脂(A)は、耐熱性、溶剤溶解性および硬化性の観点から、シアン酸エステル樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計配合量100質量部に対して、10〜90質量部含まれていることが好ましく、より好ましくは30〜70質量部である。
【0017】
<エポキシ樹脂(B)>
本発明において用いられるエポキシ樹脂(B)は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に制限なく、公知のものを使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、3官能フェノール型エポキシ樹脂、4官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエステル、ブタジエンなどの2重結合をエポキシ化した化合物、水酸基含有シリコン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物等が挙げられる。これらのなかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂を好適に用いることができる。これらのエポキシ樹脂(B)は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。また、上記したエポキシ樹脂(B)は、モノマー、オリゴマーおよび樹脂のいずれの形態であってもよい。
【0018】
エポキシ樹脂(B)は、耐熱性、熱伝導性および吸水性の観点から、シアン酸エステル樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計配合量100質量部に対して、10〜90質量部含まれていることが好ましく、より好ましくは30〜70質量部である。
【0019】
<無機充填材(C)>
本発明において用いられる無機充填材(C)は、電気配線板用の樹脂組成物に通常用いられる無機充填材であれば特に制限なく用いることができる。例えば、天然シリカ、溶融シリカ、アモルファスシリカ、中空シリカ等のシリカ類、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウム等の金属水和物、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、酸化アルミニウム、クレー、カオリン、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭酸マグネシウム、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、マイカ、ガラス短繊維(EガラスやDガラスなどのガラス微粉末類)、中空ガラスなどが挙げられる。これらのなかでも、熱伝導率の観点から、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウム等の金属水和物、ホウ酸亜鉛、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭酸マグネシウム等を好適に使用することができる。これら無機充填材は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0020】
無機充填材(C)は、分散性の観点から、平均粒子径(D50)が0.1〜20μmであることが好ましい。なお、D50とは、メジアン径を意味し、測定した粉体の粒度分布を2つに分けたときの大きい側と小さい側が等量となる径である。無機充填材のD50値は、一般的には湿式レーザー回折・散乱法により測定される。また、本発明においては、粒度分布や平均粒子径を異なる無機充填材を2種以上適宜組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明による樹脂組成物は、無機充填材(C)が、前記シアン酸エステル樹脂(A)および前記エポキシ樹脂(B)の合計配合量100質量部に対して、301〜700質量部含まれる。上記したシアン酸エステル(A)およびエポキシ樹脂(B)に、このような配合量で無機充填材(C)を添加することにより、熱伝導率が飛躍的に向上するとともに、樹脂組成物の流動性が向上するため、プリプレグ成形時のボイド等の成形不良を低減することができる。より好ましい範囲は、351〜700質量部である。
【0022】
無機充填材(D)は単独で樹脂組成物に添加されてもよいが、シランカップリング剤や湿潤分散剤と併用して添加されてもよい。シランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に使用されているシランカップリング剤であれば特に制限なく使用することができる。例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのビニルシラン系、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系、フェニルシラン系などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記したシランカップリング剤は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0023】
湿潤分散剤としては、塗料用に一般的に使用されている分散安定剤であれば、特に制限なく使用することができる。これら分散安定剤は市販のものを使用してもよく、例えばビッグケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk−110、111、180、161、BYK−W996、W9010、W903等を好適に使用することができる。
【0024】
<マレイミド化合物(D)>
発明による樹脂組成物は、さらにマレイミド化合物(D)を含んでいてもよい。マレイミド化合物(D)としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば特に制限なく使用することができる。例えば、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−マレイミドフェニル)メタン、トリス(4−マレイミドフェニル)メタンなどが挙げられる。これらのマレイミド化合物は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。また、モノマーの形態だけでなく、プレポリマーの形態であってもよく、また、ビスマレイミド化合物とアミン化合物とのプレポリマーの形態であってもよい。これらのなかでも、耐熱性の観点から、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタンを好適に使用することができる。
【0025】
マレイミド化合物(D)は、耐熱性および吸水性の観点から、シアン酸エステル樹脂(A)およびマレイミド化合物(D)の合計配合量100質量部に対して、5〜75質量部含まれていることが好ましく、より好ましくは10〜70質量である。
【0026】
<その他の成分>
本発明による樹脂組成物は、上記した成分以外にも、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。例えば、硬化速度を適宜調節するために、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤としては、シアン酸エステル樹脂(A)やエポキシ樹脂(B)の硬化促進剤として一般に使用されるものであれば、特に制限なく使用することができる。例えば、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル等の有機金属塩類、イミダゾール類及びその誘導体、第3級アミン等が挙げられる。また、上記した硬化促進剤は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。硬化促進剤の添加量は、樹脂の硬化度や樹脂組成物の粘度等の観点から適宜調整でき、通常は、樹脂の総量100質量部に対して0.01〜15質量部程度である。
【0027】
また、本発明による樹脂組成物は、所期の特性が損なわれない範囲において、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、およびそのオリゴマーやエラストマー類などの種々の高分子化合物、他の難燃性の化合物、添加剤などが添加されていてもよい。これらは、一般に使用されているものであれば、特に制限なく使用することができる。例えば、難燃性の化合物としては、リン酸エステル、リン酸メラミンなどのリン化合物、メラミンやベンゾグアナミンなどの窒素含有化合物、オキサジン環含有化合物、シリコン系化合物などが挙げられる。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤等が挙げられ、必要に応じて、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明による樹脂組成物は、必要に応じて、有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤は、樹脂組成物の粘度を下げ、ハンドリング性を向上させると共にガラスクロスとの含浸性を高めるために用いられる。有機溶剤としては、シアン酸エステル樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)の混合物が相溶するものであれば、特に制限なく使用することができる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これら有機溶剤は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
<樹脂組成物の製造方法>
【0029】
本発明による樹脂組成物は、上記したシアン酸エステル樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)および無機充填材(C)を混合することにより得ることができる。混合方法は、特に限定されるものではなく、例えば、シアン酸エステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)とを所定の濃度で上記した有機溶剤に溶解させ、その溶液に、無機充填材(C)を添加し、ディゾルバーやホモミキサーで30〜120分間撹拌することにより、樹脂組成物を製造することができる。
【0030】
<プリプレグおよび積層板>
本発明によるプリプレグは、上記した樹脂組成物を、基材に含浸または塗布したものである。基材としては、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものを使用することができる。例えば、Eガラス、Dガラス、Sガラス、NEガラス、クォーツ等の無機繊維、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールなどの有機繊維が挙げられ、使用用途や性能によって適宜選択できる。また、これら基材は、必要に応じて、単独または2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0031】
基材の形態としては、樹脂組成物を含浸または塗布できるものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマットなどが挙げられる。また、基材の厚みは、通常は0.01〜0.30mm程度であるが、この範囲に限定されるものではない。
【0032】
上記した基材は、樹脂との密着性や吸湿耐熱性の観点から、表面処理が施されていてもよく、例えば、基材の表面をシランカップリング剤などで表面処理することができる。また、基材として織布を用いる場合、織布を物理的に開繊しておいてもよい。
【0033】
また、本発明においては、薄物用途に使用する基材として、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどのフィルムを使用することもできる。これらフィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、0.002〜0.05mm程度が好ましい。また、基材としてフィルムを使用する場合、樹脂との密着性の観点から、基材をプラズマ処理などで表面処理しておくことが好ましい。
【0034】
本発明によるプリプレグは、上記した樹脂組成物を、基材に含浸または塗布することにより製造できる。例えば、上記した樹脂組成物と有機溶剤とからなる樹脂ワニスを基材に含浸または塗布させた後、100〜200℃の乾燥機中で、1〜60分加熱させて樹脂を半硬化させることにより製造する。基材に対する樹脂組成物(無機充填材を含む)の含有量は、プリプレグ全体に対して40〜95質量%の範囲であることが好ましい。
【0035】
上記したプリプレグを積層し、成形(硬化)させることにより積層板を形成することができる。積層板は、上記したプリプレグを1枚または2枚以上を重ね合わせ、所望によりその片面または両面に、銅やアルミニウムなどの金属箔を配置して積層し、成形(硬化)することにより製造する。使用する金属箔としては、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に制限なく使用することができる。また、積層成形には、通常のプリント配線板用積層板および多層板の手法を採用できる。例えば、積層成形の条件としては、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機や真空ラミネーターなどを使用し、温度は100〜300℃、圧力は2〜100kgf/cm
2、加熱時間は0.05〜5時間の範囲が一般的である。また、本発明においては、上記したプリプレグと、別途準備した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることもできる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
α−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂の合成
上記式(II)で表されるα−ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、OH基当量:236g/eq.、新日鐵化学製:nは1〜5のものが含まれる)0.47モル(OH基換算)を、クロロホルム500mlに溶解させ、この溶液にトリエチルアミン0.7モルを添加し、これに0.93モルの塩化シアンのクロロホルム溶液300gを、−10℃で1.5時間かけて滴下し、30分撹拌した後、更に0.1モルのトリエチルアミンとクロロホルム30gの混合溶液を滴下し、30分撹拌して反応を完結させた。生成するトリエチルアミンの塩酸塩を濾別した後、得られた濾液を0.1N塩酸500mlで洗浄した後、水500mlでの洗浄を4回繰り返した。これを硫酸ナトリウムにより乾燥した後、75℃でエバポレートし、更に90℃で減圧脱気することにより、褐色固形の上記式(I)で表されるα−ナフトールアラルキル型のシアン酸エステル樹脂を得た。得られたシアン酸エステル樹脂を赤外吸収スペクトルにより分析したところ、2264cm
−1付近にシアン酸エステル基の吸収を確認した。
【0038】
実施例1
上記で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂50質量部と、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000FH、日本化薬製)50質量部と、シランカップリング剤(Z6040、東レダウコーニング製)3質量部と、湿潤分散剤(BYK−W903、ビッグケミージャパン製)5質量部とを混合し、メチルエチルケトンに溶解させ、酸化アルミニウム(DAW−03、電気化学工業製)490質量部およびオクチル酸マンガン0.1質量部を混合してワニスを調製した。得られたワニスをメチルエチルケトンで希釈し、厚さ0.05mmのEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で7分間加熱乾燥することにより、樹脂含有量82質量%のプリプレグを得た。
【0039】
上記のようにして得られたプリプレグを8枚重ね、その上下に12μm厚の電解銅箔(3EC−III、三井金属鉱業(株)製)を配置し、圧力30kgf/cm
2、温度220℃で120分間の積層成形を行うことにより、厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0040】
実施例2
実施例1で用いたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂40質量部と、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン(BMI−70、ケイアイ化成製)20質量部と、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000FH)40質量部と、シランカップリング剤(Z6040)5質量部と、湿潤分散剤(BYK−W903)3質量部とを混合し、メチルエチルケトンに溶解させ、酸化アルミニウム(DAW−03、電気化学工業製)400質量部、窒化ホウ素(HP−4W、水島合金鉄製)50質量部、2,4,5−トリフェニルイミダゾール(東京化成製)1部、およびオクチル酸マンガン0.05質量部を混合してワニスを調製した。得られたワニスをメチルエチルケトンで希釈し、厚さ0.05mmのEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で8分間加熱乾燥することにより、樹脂含有量81質量%のプリプレグを得た。次いで、得られたプリプレグを用いて、実施例1と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0041】
実施例3
実施例1で用いたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂35質量部と、ビスマレイミドトリアジンレジンBT2670(三菱ガス化学製)5質量部と、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン20質量部と、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000FH)40質量部と、シランカップリング剤(Z6040)2質量部と、湿潤分散剤(BYK−W903)5質量部とを混合し、メチルエチルケトンに溶解させ、ベーマイト(BN100、河合石灰製)310質量部、2,4,5−トリフェニルイミダゾール(東京化成製)1質量部、およびオクチル酸マンガン0.05質量部を混合してワニスを調製した。得られたワニスをメチルエチルケトンで希釈し、厚さ0.05mmのEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で7分間加熱乾燥することにより、樹脂含有量79質量%のプリプレグを得た。次いで、得られたプリプレグを用いて、実施例1と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0042】
実施例4
実施例1で用いたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂60質量部と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(N770、DIC製)20質量部と、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(ESN−475V、新日鐵化学製)20質量部と、湿潤分散剤(BYK−W903)3質量部とを混合し、メチルエチルケトンで溶解させ、酸化マグネシウム(PSF−WZ、神島化学工業製)330質量部、およびオクチル酸マンガン0.1質量部を混合してワニスを調製した。得られたワニスをメチルエチルケトンで希釈し、厚さ0.05mmのEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で8分間加熱乾燥することにより、樹脂含有量80質量%のプリプレグを得た。次いで、得られたプリプレグを用いて、実施例1と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0043】
実施例5
実施例1で用いたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂25質量部と、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン25質量部と、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(ESN−475V)50質量部とを混合し、メチルエチルケトンに溶解させ、酸化アルミニウム(AA−3、住友化学製)460質量部、2,4,5−トリフェニルイミダゾール(東京化成製)1質量部、およびオクチル酸マンガン0.05質量部を混合してワニスを調製した。得られたワニスをメチルエチルケトンで希釈し、厚さ0.05mmのEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で7分間加熱乾燥することにより、樹脂含有量82質量%のプリプレグを得た。次いで、得られたプリプレグを用いて、実施例1と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0044】
比較例1
実施例3において、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂に代えて、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマー(BT2070、三菱ガス化学製)を使用した以外は、実施例3と同様にしてワニスを調製し、実施例3と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0045】
比較例2
実施例1において、酸化アルミニウム(DAW03)の添加量を、490質量部から200質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてワニスを調製した。このワニスを用いて実施例1と同様にして、樹脂含有量79質量%のプリプレグを得た。次いで、得られたプリプレグを用いて、実施例1と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0046】
比較例3
実施例4において、酸化マグネシウム(PSF−WZ)に代えて、シリカ(FB−3SDC、電気化学工業製)を使用した以外は、実施例実4と同様にしてワニスを調製し、実施例4と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0047】
比較例4
実施例4において、酸化マグネシウム(PSF−WZ)に代えて、焼成タルク(BST−200L、日本タルク製)を使用した以外は、実施例実4と同様にしてワニスを調製し、実施例4と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0048】
比較例5
実施例2において、酸化アルミニウム(DAW−03)400質量部および窒化ホウ素(HP−4W)50質量部の使用を、酸化アルミニウム(DAW−03)750質量部に変更した以外は、実施例2と同様にしてワニスを調製し、実施例2と同様にして厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。
【0049】
積層板の評価
上記のようにして得られた各積層板について、下記のようにして、熱伝導率、ガラス転移温度および吸水率を評価した。なお、比較例5の積層板については、ボイドが発生したたため、熱伝導率、ガラス転移温度および吸水率のいずれも評価を行うことができなかった。
1)熱伝導率:キセノンフラッシュアナライザーを用いて、面方向の熱伝導率を算出した。
2)ガラス転移温度:JIS C6481に準拠して、DMA法にて測定した。
3)吸水率:JIS C6481に準拠して、プレシッヤークッカー試験機(平山製作所製、PC−3型)で121℃、2気圧で5時間処理後の吸水率を測定した。
評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0050】
【表1】
【0051】
表1からも明らかなように、実施例1〜5の銅張り積層板は、熱伝導率、耐熱性および吸水率のいずれも優れていた。これに対して、シアン酸エステル樹脂として2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマーを用いた比較例1の銅張り積層板は、吸水率が劣っていた。また、無機充填材として、シリカや焼成タルク等のケイ酸化合物系の無機充填材を含有する比較例3および4の銅張り積層板は、熱伝導率が劣り、吸水率も不十分であった。さらに、無機充填材の配合量が少ない比較例2の銅張り積層板は、熱伝導率が不十分であり、一方、無機充填材の配合量が多い比較例5の銅張り積層板は、ボイドが発生し、実用に耐えないものであった。