(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ロック制御手段(18,2018,4018)は、前記主ロック孔(162,2162)への前記主ロック部材の嵌入を解除する方向に前記可動部材(181,2181)を付勢する復原力(Fr)を与える制御弾性部材(182,2182)を、有し、
形状記憶材料からなる前記感温体(185)は、温度上昇に応じて前記拡張状態に形状復原し、
前記ラッチ開口部(186)は、前記復原力の方向に対して交差する内面(186a)を、形成し、
前記ラッチ部材は、前記拡張状態の前記感温体によって押圧されることにより、前記ラッチ開口部を係止する一方、前記復原力の分力(Frd)を前記内面から受けることにより、前記感温体を前記収縮状態に押圧しつつ前記ラッチ開口部から離脱することを特徴とする請求項3に記載のバルブタイミング調整装置。
前記主ロック位相及び前記副ロック位相間の前記回転位相において、前記ハウジングロータに対して前記ベーンロータを進角側へ付勢する進角弾性部材(19)を、備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0021】
(第一実施形態)
図1に示す本発明の第一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関に搭載される。尚、本実施形態において内燃機関の停止及び始動は、エンジンスイッチSWのオフ指令及びオン指令に応じるだけでなく、アイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令及び再始動指令にも応じて、実現される。
【0022】
(基本構成)
まず、バルブタイミング調整装置1の基本構成につき、説明する。バルブタイミング調整装置1は、「作動液の圧力」として作動油の圧力を利用する液圧式であり、機関トルクの伝達によりカム軸2が開閉する「動弁」として吸気弁9(後に詳述する
図10参照)のバルブタイミングを調整する。
図1〜4に示すようにバルブタイミング調整装置1は、内燃機関にてクランク軸(図示しない)から出力される機関トルクをカム軸2へ伝達する伝達系に設置の回転駆動部10と、当該駆動部10を駆動するために作動油の入出を制御する制御部40とを、備えている。
【0023】
(回転駆動部)
回転駆動部10において金属製のハウジングロータ11は、リアプレート13とフロントプレート15とをシューリング12の軸方向両端部にそれぞれ締結してなる。リアプレート13は、シューリング12側へ向かって開口するロック孔162,172を、円筒孔状に形成している。
【0024】
シューリング12は、円筒状のハウジング本体120、複数のシュー121,122,123及びスプロケット124を有している。
図2に示すように各シュー121,122,123は、ハウジング本体120のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から、径方向内側へ突出している。回転方向において隣り合うシュー121,122,123の間には、それぞれ収容室20が形成されている。スプロケット124は、タイミングチェーン(図示しない)を介してクランク軸と連繋する。かかる連繋により内燃機関の回転中は、機関トルクがクランク軸からスプロケット124へと伝達されることで、ハウジングロータ11がクランク軸と連動して一定方向(
図2の時計方向)に回転する。
【0025】
図1,2に示すように金属製のベーンロータ14は、ハウジングロータ11内に同軸上に収容されており、軸方向両端部をそれぞれリアプレート13とフロントプレート15とに摺動させる。ベーンロータ14は、円筒状の回転軸140及び複数のベーン141,142,143を有している。回転軸140は、カム軸2に対して同軸上に固定されている。かかる固定によりベーンロータ14は、カム軸2と連動してハウジングロータ11と同一方向(
図2の時計方向)に回転可能しつつ、ハウジングロータ11に対して相対回転可能となっている。
【0026】
図2に示すように各ベーン141,142,143は、回転軸140のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出し、それぞれ対応する収容室20に収容されている。各ベーン141,142,143は、対応する収容室20を回転方向に分割することで、作動油が入出する進角室22,23,24及び遅角室26,27,28を、ハウジングロータ11内に区画している。具体的には、シュー121及びベーン141の間には進角室22が形成され、シュー122及びベーン142の間には進角室23が形成され、シュー123及びベーン143の間には進角室24が形成されている。また一方、シュー122及びベーン141の間には遅角室26が形成され、シュー123及びベーン142の間には遅角室27が形成され、シュー121及びベーン143の間には遅角室28が形成されている。
【0027】
図1,2に示すようにベーン141は、回転軸140に対して偏心する円筒状の金属製主ロック部材160を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン141は、作動油の入出する円環空間状の主ロック解除室161を、主ロック部材160の周りに形成している。
図1,5に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161からの作動油排出により、円筒孔状の主ロック孔162へと嵌入する。かかる嵌入により主ロック部材160は、ハウジングロータ11に対するベーンロータ14の回転位相(以下、単に「回転位相」という)を、
図2の主ロック位相Pmにロックする。また一方、
図6〜8に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161に導入された作動油の圧力を受けること等により、主ロック孔162から脱出する。かかる脱出により主ロック部材160は、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入を解除、即ち主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除する。尚、主ロック部材160の往復方向の移動位置のうち、
図5の如く主ロック部材160が主ロック孔162へ嵌入する位置Liを、嵌入位置Liといいい、
図6〜8の如く主ロック部材160が主ロック孔162から脱出する位置Leを、脱出位置Leという。
【0028】
図3,4に示すようにベーン142は、回転軸140に対して偏心する円筒状の金属製副ロック部材170を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン142は、作動油の入出する円環空間状の副ロック解除室171を、副ロック部材170の周りに形成している。
図4,7に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171からの作動油排出により、円筒孔状の副ロック孔172へと嵌入する。かかる嵌入により副ロック部材170は、回転位相を
図3の副ロック位相Psにロックする。また一方、
図5,6,8に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171に導入された作動油の圧力を受けることで、副ロック孔172から脱出する。かかる脱出により副ロック部材170は、副ロック位相Psにおける回転位相のロックを解除する。
【0029】
以上の回転駆動部10では、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に対して入出される作動油の圧力を、ベーンロータ14がハウジングロータ11内にて受ける。このとき、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、進角室22,23,24への作動油導入且つ遅角室26,27,28からの作動油排出が生じることで、回転位相が進角側へ変化する(例えば、
図2から
図3への変化)。その結果、バルブタイミングが進角調整される。また一方、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、遅角室26,27,28への作動油導入且つ進角室22,23,24からの作動油排出が生じることで、回転位相が遅角側へ変化する(例えば、
図3から
図2への変化)。その結果、バルブタイミングが遅角調整される。さらに、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められることで、回転位相の変化が抑制されて、バルブタイミングが略一定に保持される。
【0030】
(制御部)
図1,5〜8に示す制御部40において、主進角通路41は、回転軸140に形成されて進角室22,23,24と連通している。主遅角通路45は、回転軸140に形成されて遅角室26,27,28と連通している。ロック解除通路49は、回転軸140に形成されてロック解除室161,171の双方と連通している。
【0031】
回転軸140に形成される主供給通路50は、供給源としてのポンプ4に搬送通路3を介して連通している。ここでポンプ4は、内燃機関の運転中に機関トルクを受けて駆動されるメカポンプであり、当該運転中は、ドレンパン5から吸入した作動油を継続して吐出する。また、カム軸2及びその軸受を貫通する搬送通路3は、カム軸2の回転に拘らずに常にポンプ4の吐出口と連通可能となっている。これらのことから、内燃機関がクランキングにより始動して完爆するのに伴って、主供給通路50への作動油の供給が開始される一方、内燃機関が停止するのに伴って当該供給が停止する。
【0032】
副供給通路52は、回転軸140に形成されて主供給通路50から分岐している。副供給通路52は、ポンプ4から供給される作動油を、主供給通路50を通じて受ける。ドレン回収通路54は、回転駆動部10及びカム軸2の外部に設けられている。ドレン回収通路54は、ドレン回収部としてのドレンパン5と共に大気に開放され、当該ドレンパン5へ作動油を排出可能となっている。
【0033】
図1,2に示すように制御弁60は、リニアソレノイド62が発生する駆動力と、付勢部材64が当該駆動力と反対向きに発生する復原力とを利用するスプール弁であり、スリーブ66内のスプール68を軸方向に往復移動させる。スプール68が
図5〜7のロック領域Rlへ移動したときには、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28に導入されると共に、進角室22,23,24及びロック解除室161,171の作動油がドレンパン5に排出される。スプール68が
図8の遅角領域Rrへ移動したときには、進角室22,23,24の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28及びロック解除室161,171に導入される。スプール68が
図8の進角領域Raへ移動したときには、遅角室26,27,28の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が進角室22,23,24及びロック解除室161,171に導入される。スプール68が
図8の保持領域Rhへ移動したときには、、ポンプ4からの作動油がロック解除室161,171に導入されつつ、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められる。
【0034】
制御回路80は、
図1に示すリニアソレノイド62やエンジンスイッチSW、内燃機関の各種電装品等と電気接続されるマイクロコンピュータであり、アイドルストップシステムISSを構成している。制御回路80は、リニアソレノイド62への通電及びアイドルストップを含む内燃機関の運転を、コンピュータプログラムに従い制御する。
【0035】
(主ロック機構)
次に、
図1に示すように、主ロック要素160,161,162の組に主弾性部材163を組み合わせてなる「主ロック手段」としての主ロック機構16につき、詳細に説明する。
【0036】
図11に示すように主弾性部材163は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン141内に収容されている。主弾性部材163は、ベーン141にてリアプレート13とは反対側のスプリング受部141aと、主ロック部材160のスプリング受部160aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の主弾性部材163は、主ロック部材160をリアプレート13側へ付勢するように、復原力を発生する。したがって、
図5,6に示す主ロック位相Pmにおいて主弾性部材163の復原力は、主ロック孔162側、即ち主ロック部材160の嵌入位置Li側へ向かって作用する。また、こうした主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック解除室161からの圧力作用によって主ロック部材160を駆動する力は、主ロック位相Pmでは、主ロック孔162とは反対側、即ち主ロック部材160の脱出位置Le側へ向かって作用する。
【0037】
以上の構成下、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入により実現される主ロック位相Pmは、
図2,9に示す如き最遅角位相に予設定されている。そして、特に本実施形態の主ロック位相Pmは、
図10に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0038】
(ロック制御機構)
次に、
図1に示すように、主ロック部材160側に組み付けられる「ロック制御手段」としてのロック制御機構18につき、詳細に説明する。
【0039】
図5,11に示すようにロック制御機構18は、可動部材181、制御弾性部材182、リテーナ部材183、ラッチ部材184及び感温体185を有している。
【0040】
図11に示すように金属製の可動部材181は、有底円筒状に形成され、主ロック部材160の外周側に同軸上に配置されている。可動部材181の外周面には、周方向に連続する円環溝状に、ラッチ開口部186が開口している。本実施形態では、断面台形のラッチ開口部186にてリアプレート13側の内面186aは、可動部材181の軸方向に対して交差(傾斜)する平面状に、形成されている。以下、内面186aを特に、ラッチ内面186aという。
【0041】
図11に示すように、可動部材181においてリアプレート13とは反対側の底端部181aは、主ロック部材160に外嵌されている。かかる外嵌状態の可動部材181は、軸方向に往復移動可能且つ主ロック部材160に対して相対移動可能となっている。可動部材181は、主ロック部材160の鍔部160cとの間に主ロック解除室161を形成しており、当該解除室161からの圧力作用によりリアプレート13側へ駆動される。
【0042】
図5〜8に示すように可動部材181は、リアプレート13側の第一位置L1と、それとは反対側の第二位置L2とに往復移動する。
図5,11に示す主ロック位相Pmにおいて第一位置L1の可動部材181は、主ロック部材160のフランジ状係止部160bを底端部181aにより係止することで、当該部材160を主ロック孔162への嵌入位置Liに位置決めする。また一方、
図6,7に示すように、主ロック位相Pm及び他の回転位相において第二位置L2の可動部材181は、係止部160bを底端部181aにより係止することで、主ロック部材160を主ロック孔162からの脱出位置Leに位置決めする。さらに
図8に示すように、主ロック位相Pm及び他の回転位相において可動部材181は、第一位置L1への移動状態で、底端部181aからの係止部160bの離間を伴う脱出位置Leへの移動を、主ロック部材160に対して許容する。
【0043】
図11に示すように制御弾性部材182は、金属製のコイルスプリングであり、可動部材181の内周側且つ主ロック部材160の外周側に同軸上に配置されている。制御弾性部材182は、ベーン141にてリアプレート13側のスプリング受部141bと、可動部材181の底端部181aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の制御弾性部材182は、可動部材181をリアプレート13とは反対側、即ち
図6,7の第二位置L2側へ向かって付勢するように、復原力Frを発生する。また、こうした制御弾性部材182の復原力Frに抗して、主ロック解除室161からの圧力作用によって可動部材181を駆動する力は、
図5,8,11の第一位置L1側へと向かって作用する。
【0044】
ここで、
図11に示すように制御弾性部材182の復原力Frは、可動部材181の軸方向に沿って作用することから、ラッチ内面186aに対して交差する方向の付勢力となる。また、制御弾性部材182の復原力Frについては、主ロック部材160を係止した状態の可動部材181が位置L1,L2間を移動する際に、主弾性部材163の復原力以上の大きさとなるように、予設定される。
【0045】
金属製のリテーナ部材183は、一対のリテーナ部183a,183bをそれぞれ有底円筒状に形成している。各リテーナ部183a,183bにおいて、開口部同士は相反側に向けられ、底部同士が同軸上に接続されている。リテーナ部材183は、ベーン141にて有底円筒孔状の収容孔141c内に同軸上に嵌挿され、軸方向に往復移動可能となっている。かかる嵌挿状態では、付勢側リテーナ部183bよりもラッチ側リテーナ部183aが収容孔141cの開口部側に位置している。ここで、本実施形態において収容孔141cの軸方向は、可動部材181の径方向と実質一致している。
【0046】
金属製のラッチ部材184は、球状に形成され、収容孔141c内に同軸上に挿入されている。ラッチ部材184は、ラッチ側リテーナ部183aの内周側に一体移動可能に嵌合挿されている。収容孔141c内のラッチ部材184は、
図5,8,11に示すように、第一位置L1の可動部材181におけるラッチ開口部186内にも進入することで、当該開口部186を係止して可動部材181をラッチする。また一方、
図6,7に示すようにラッチ部材184は、第二位置L2側に移動する可動部材181の外周面によりラッチ開口部186外へと押圧されることで、当該開口部186から離脱して可動部材181のラッチを外す。ここで、
図12に示すようにラッチ部材184の可動範囲Xは、可動部材181をラッチする位置から、当該ラッチを外す位置までの範囲となる。
【0047】
図11に示す感温体185は、温度上昇に応じて形状復原する形状記憶材料、例えばニッケル−チタン(Ni−Ti)系合金等により、コイルスプリング状に形成されて弾性を有している。感温体185は、収容孔141c内に同軸上に収容されて付勢側リテーナ部183bの内周側に嵌挿されることで、収容孔141c及びリテーナ部183bの各底部間において軸方向に介装されている。かかる介装状態の感温体185は、リテーナ部材183と共にラッチ部材184を可動部材181側へと付勢するように、復原力Ftを発生する。
【0048】
図12〜14に示すように感温体185は、設定温度Ts以上のエンジン温度Tでは、可動範囲X内のラッチ部材184に作用させる復原力Ftを、設定値Fts以上に増大させる一方、設定温度Ts未満のエンジン温度Tでは、当該力Ftを値Fts未満に減少させる。ここで設定値Ftsについては、復原力Ftによってラッチ部材184が
図13,14(a)の如く第一位置L1の可動部材181におけるラッチ内面186aに押圧された状態で、ラッチ部材184が当該内面186aから軸方向(即ち、可動部材181の径方向)に受ける分力Frdの大きさと実質一致するように、予設定される。したがって、本実施形態では、制御弾性部材182から可動部材181に作用して分力Frdを生む復原力Frの調整により、設定値Ftsが例えば3N等に、また当該値Ftsに対応する設定温度Tsが例えば40〜60℃の範囲内の温度等に、予設定される。
【0049】
以上の如きロック制御機構18では、エンジン温度Tに応じて主ロック部材160の状態を制御する。具体的には、エンジン温度Tが設定温度Ts以上になると、感温体185からラッチ部材184へ作用する復原力Ftは、設定値Fts以上に増大する。故に、復原力Frの分力Frdがラッチ内面186aからラッチ部材184に作用する
図13の状態では、復原力Ftが当該分力Frdに打ち勝つ。その結果として感温体185は、
図5,8,11,13の如き拡張状態Seへと変化して、ラッチ部材184をラッチ開口部186内に押圧することで、第一位置L1に可動部材181をラッチする。また、こうして第一位置L1にラッチされた可動部材181は、
図5に示す主ロック位相Pmでは、底端部181aにより主ロック部材160を嵌入位置Liにて係止可能となる。かかる係止により、主ロック部材160の主ロック孔162への嵌入が許容、即ち回転位相のロックが許容される。
【0050】
また一方、エンジン温度Tが設定温度Ts未満になると、感温体185からラッチ部材184へ作用する復原力Ftは、設定値Fts未満に減少する。故に、復原力Frの分力Frdがラッチ内面186aからラッチ部材184に作用する
図14(a)の状態では、当該分力Frdが復原力Ftに打ち勝つ。その結果として可動部材181は、ラッチ部材184を押圧しつつ、第二位置L2側に移動する。このとき、
図6,7,14(b)の如くラッチ部材184は、感温体185を押圧して収縮状態Scへと変化させながら、自身の全体をラッチ開口部186外へと離脱させる。故に、こうしてラッチ開口部186
から離脱するラッチ部材184は、可動部材181のラッチを外した状態となる。また、ラッチの外れた可動部材181は、
図6に示す主ロック位相Pmでは、底端部181aにより主ロック部材160を脱出位置Le側に押圧しつつ、第二位置L2へと到達可能となる。かかる到達により、主ロック部材160の主ロック孔162への嵌入が解除、即ち回転位相のロックが解除される。
【0051】
(副ロック機構)
次に、
図4に示すように、副ロック要素170,171,172の組に副弾性部材173及び制限溝174を組み合わせてなる「副ロック手段」としての副ロック機構17につき、詳細に説明する。
【0052】
図5に示すように副弾性部材173は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン142内に収容されている。副弾性部材173は、ベーン142にてリアプレート13とは反対側のスプリング受部142aと、副ロック部材170のスプリング受部170aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態により副弾性部材173は、副ロック部材170をリアプレート13側へ付勢するように、復原力を発生する。したがって、
図7,8に示す副ロック位相Psにおいて副弾性部材173の復原力は、副ロック孔172側へ向かって作用する。また、こうした副弾性部材173の復原力に抗して、副ロック解除室171からの圧力作用によって副ロック部材170を駆動する力は、副ロック位相Psでは、副ロック孔172と反対側へ向かって作用する。
【0053】
図5に示すように制限溝174は、リアプレート13において回転方向に延伸する有底長孔状に、形成されている。この制限溝174の中途部の溝底には、副ロック孔172が開口している。かかる開口構造により、副ロック孔172の回転方向両側にて副ロック部材170が制限溝174に進入するときには、副ロック位相Psを挟む所定の回転位相領域に、回転位相が制限される。また、回転位相が副ロック位相Psに到達することで、制限溝174内の副ロック部材170が副ロック孔172へと嵌入するときには、
図7の副ロック位相Psにて回転位相ロックが実現される。
【0054】
以上の構成下、副ロック孔172への副ロック部材170の嵌入により実現される副ロック位相Psは、
図3,9に示す如く主ロック位相Pmよりも進角した中間位相に、予設定されている。そして、特に本実施形態の副ロック位相Psは、
図10に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミング乃至はその近傍のタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0055】
(ベーンロータへの変動トルク作用)
次に、カム軸2からベーンロータ14に作用する変動トルクにつき、説明する。
【0056】
内燃機関の運転中は、カム軸2が開閉駆動する吸気弁9からのスプリング反力等に起因して、変動トルクがベーンロータ14に作用する。
図15に例示するように変動トルクは、ハウジングロータ11に対する進角側へ作用する負トルクと、ハウジングロータ11に対する遅角側へ作用する正トルクとの間にて、交番変動する。本実施形態の変動トルクについては、カム軸2及びその軸受間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクが負トルクのピークトルクよりも大きくなっており、それらの平均トルクが正トルク側(遅角側)に偏っている。
【0057】
(ベーンロータの付勢構造)
次に、ベーンロータ14を副ロック位相Psへ向かって付勢するための付勢構造につき、説明する。
【0058】
図1に示す回転駆動部10において各ロータ11,14には、それぞれ係止ピン110,146が設けられている。第一係止ピン110は、フロントプレート15においてシューリング12とは軸方向反対側へ突出する円柱状に、形成されている。第二係止ピン146は、回転軸140においてフロントプレート15と実質平行のアームプレート147から軸方向の当該プレート15側へと突出する円柱状に、形成されている。これら各係止ピン110,146は、ロータ11,14の回転中心線から実質同一距離だけ偏心した箇所に、軸方向では互いにずれて配置されている。
【0059】
フロントプレート15及びアームプレート147の間には、進角弾性部材19が配置されている。進角弾性部材19は、実質同一平面上にて金属素線を巻いた渦巻きスプリングであり、その渦巻き中心がロータ11,14の回転中心線と心合わせされている。進角弾性部材19の内周側端部は、回転軸140の外周部に巻装されている。進角弾性部材19の外周側端部は、U字状に屈曲されて係止部190を形成している。係止部190は、係止ピン110,146のうち回転位相に応じたピンにより、係止可能となっている。
【0060】
以上の構成下、副ロック位相Psよりも遅角側、即ちロック位相Ps,Pmの間に回転位相が変化した状態では、進角弾性部材19の係止部190が第一係止ピン110に係止される。このとき、係止部190から第二係止ピン146が離脱するので、進角弾性部材19がねじり弾性変形して発生する復原力は、ハウジングロータ11に対する進角側の回転トルクとしてベーンロータ14に作用する。即ちベーンロータ14は、進角側の副ロック位相Psへ向かって付勢される。ここで、ロック位相Ps,Pmの間にて進角弾性部材19の復原力は、遅角側に偏った変動トルク(
図15参照)の平均値よりも大きくなるように、予設定されている。また一方、副ロック位相Psよりも進角側に回転位相が変化した状態では、係止部190が第二係止ピン146に係止される。このとき、係止部190から第一係止ピン110が離脱するので、進角弾性部材19によるベーンロータ14の付勢作用は制限される。
【0061】
(作動)
次に、第一実施形態の作動を詳細に説明する。
【0062】
(1) 通常運転
始動により完爆した後における内燃機関の通常運転中は、
図16,17に示すように、ポンプ4からの作動油供給が内燃機関の回転速度に応じた高い圧力にて継続される。その結果、各ロック解除室161,171に導入される作動油の圧力作用により、各ロック部材160,170がそれぞれロック孔162,172からの脱出位置Leに移動することで、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックの解除状態が維持される(
図8)。かかる状態下、スプール68の移動位置を領域Rr,Ra,Rhのいずれかに変更することで、バルブタイミングが適宜調整される。
【0063】
尚、主ロック位相Pmでのロック解除状態は、可動部材181の移動位置に拘らず、主ロック解除室161から主ロック部材160への圧力作用により維持される。但し、かかる状態下、可動部材181は、通常運転中に主ロック解除室161の作動油から高い圧力を受けるため、制御弾性部材182の発する復原力Frに抗して移動することで、第一位置L1に定位する(
図8)。故に、通常運転によってエンジン温度Tが設定温度Ts以上となることで、可動部材181が第一位置L1にラッチされる。
【0064】
(2) 停止・始動
エンジンスイッチSWのオフ指令又はアイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令といった停止指令に応じて、
図16,17に示すように通常運転中の内燃機関が停止するときには、燃料カットによって内燃機関を慣性回転状態とする前に、スプール68をロック領域Rlに移動させる。このときポンプ4からの作動油供給は、内燃機関の回転速度に応じた高い圧力で継続される。故に、遅角室26,27,28の作動油圧力により回転位相が最遅角位相としての主ロック位相Pmへ変化する。
【0065】
こうした主ロック位相Pmへの変化後、内燃機関を慣性回転状態とすると、ポンプ4からの作動油の供給圧力は、
図16,17に示すように、当該慣性回転の速度に応じて漸次減少する。その結果、内燃機関が主ロック位相Pmでの停止状態となる。
【0066】
内燃機関の停止中、
図16の如くエンジン温度Tが設定温度Ts以上となる間の温間停止状態では、復原力Ftが設定値Fts以上となるため、感温体185が拡張状態Seに変化して、可動部材181が第一位置L1にラッチされる。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160は、主ロック孔162への嵌入位置Liに移動した状態となる(
図5)。またこのとき、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(
図5)。このような移動及び接触の結果、回転位相が主ロック位相Pmにロックされる。
【0067】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts以上で開始される温間始動時には、
図16に示すように可動部材181が第一位置L1にラッチされたままとなる。またこのとき、スプール68の移動位置はロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給は実質止まった状態となる。これらのことから、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160は、主ロック孔162への嵌入位置Liを維持する(
図5)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(
図5)。このような嵌入維持及び接触の結果、回転位相が主ロック位相Pmにロックされた状態で、内燃機関が完爆する。
【0068】
以上に対し、内燃機関の停止中に
図17の如くエンジン温度Tが設定温度Ts未満になった後の冷間停止状態では、復原力Ftが設定値Fts未満となるため、可動部材181の第二位置L2側への移動に応じた感温体185の収縮状態Scへの変化によって、可動部材181のラッチが外れる。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック孔162からの脱出位置Leに移動する(
図6)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(
図6)。このような移動及び接触の結果、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除された状態となる。
【0069】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts未満で開始される冷間始動時には、
図17に示すように可動部材181が第二位置L2に移動したままとなる。これは、スプール68の移動位置がロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給が実質止まった状態となることによる。こうしたことから、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック孔162からの脱出位置Leを維持する(
図6)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触することになる(
図6)。
【0070】
このようにして各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除されている冷間始動時のベーンロータ14は、負トルクの作用によってハウジングロータ11に対する進角側へと相対回転することで、主ロック位相Pmから回転位相を進角させる。その結果、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、まず、制限溝174へと進入する。これにより、正トルク作用時のベーンロータ14がハウジングロータ11に対する遅角側へと相対回転しても、主ロック位相Pmへの回転位相の戻りは、
図17の如く制限されることになる。
【0071】
さらにこの後、負トルクの作用により回転位相がさらに進角して副ロック位相Psまで変化すると、副ロック解除室171の圧力消失状態で副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172へ嵌入する(
図7)。またこのとき、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック孔162からの脱出位置Leを維持する(
図7)。これら嵌入及び脱出維持の結果、
図17に示すように回転位相が副ロック位相Psにロックされた状態で、内燃機関が完爆する。
【0072】
(作用効果)
以上説明した第一実施形態によると、停止した内燃機関にてエンジン温度Tが設定温度Ts以上となる間の温間停止状態では、感温体185が拡張状態Seへと変化する。これにより可動部材181は、主ロック部材160を位置決めするための第一位置L1にラッチされるので、主ロック孔162への当該部材160の嵌入が主ロック位相Pmにおいて許容される。即ち、主ロック位相Pmでの回転位相ロックが許容される。ここで、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じる主ロック位相Pmでは、内燃機関の次の始動時に、下死点到達後のピストン8のリフトアップに応じて気筒7内ガスが吸気系に押出されることで、実圧縮比が低下する(デコンプレッション効果)。故に、設定温度Ts以上での温間停止後となる温間始動時、例えばアイドルストップシステムISSによる再始動が
図18の如く頻繁に繰り返される場合でも、可動部材181を第一位置L1に定位させて主ロック位相Pmでの回転位相ロックを維持することで、始動不具合の発生を抑制できるのである。
【0073】
これに対し、停止した内燃機関にてエンジン温度Tが設定温度Ts未満になった後の冷間停止状態では、感温体185が収縮状態Scへと変化する。これによりラッチの外れる可動部材181は、主ロック部材160を位置決めするための第二位置L2に移動するので、主ロック孔162への当該部材160の嵌入が主ロック位相Pmにおいて解除される。即ち、主ロック位相Pmでの回転位相ロックが解除されるので、内燃機関の次の始動時には、カム軸2からの変動トルク作用のうち負トルク作用によって、ベーンロータ14がハウジングロータ11に対する進角側へと相対回転する。その結果、主ロック位相Pmよりも進角した副ロック位相Psにまで回転位相が変化すると、副ロック部材170が副ロック孔172に嵌入して回転位相が副ロック位相Psにロックされることで、吸気弁9を閉じるタイミングが可及的に早くなる。これにより、気筒7内ガスの押出し量が減少して、当該ガスの温度が実圧縮比と共に上昇するので、設定温度Ts未満での冷間停止後となる冷間始動時、例えば極低温環境下での車両の長時間放置後の始動時やアイドルストップシステムISSにより一時停止したまま運転終了する場合の再始動時等にあっても、着火性を向上させて始動性を確保できるのである。
【0074】
以上の如き第一実施形態によれば、エンジン温度Tに適した始動を実現することが、可能となる。
【0075】
ここで、特に第一実施形態によると、温間停止状態の主ロック位相Pmでは、ラッチ開口部186をラッチ部材184が係止することで、主ロック位相Pmにて回転位相ロックを許容するラッチを、確実に実現し得る。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmでは、ラッチ部材184
のラッチ開口部186
からの離脱により、主ロック位相Pmにて回転位相ロックを解除するラッチ外しを、確実に実現し得る。以上によれば、温間停止後の温間始動時と冷間停止後の冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えを、正確に実現可能となるのである。
【0076】
さらに第一実施形態によると、温間停止状態の主ロック位相Pmでは、形状記憶材料からなる感温体185は、温度上昇に応じて拡張状態Seに形状復原することで、ラッチ部材184を押圧してラッチ開口部186に係止させる。その結果、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを許容する第一位置L1に、可動部材181がラッチされることになる。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmにおいてラッチ部材184は、復原力Frの方向に対して交差するラッチ開口部186の内面186aから同力Frの分力Frdを受けることで、感温体185を収縮状態Scに押圧しつつ、ラッチ開口部186からは離脱する。その結果、ラッチ開口部186
からの離脱によりラッチを外される可動部材181は、復原力Frを受けることで、主ロック部材160の主ロック孔162への嵌入を解除する第二位置L2、即ち主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除する第二位置L2に移動する。以上によれば、温間停止後の温間始動時と冷間停止後の冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えにつき、その正確性を高めることができるのである。
【0077】
加えて第一実施形態によると、主ロック位相Pm及び副ロック位相Ps間の回転位相においてベーンロータ14は、ハウジングロータ11に対する進角側へ進角弾性部材19によって付勢される。故に、内燃機関の冷間始動時に進角弾性部材19の付勢作用を受けるベーンロータ14は、変動トルクの作用も相俟って、ハウジングロータ11に対する回転位相を副ロック位相Psまで素早く変化させ得る。これによれば、冷間始動時の内燃機関において変動トルクを発生させるクランキングの開始から、副ロック位相Psにて回転位相をロックするまでに要する時間を、短縮できるので、特に冷間停止後の冷間始動性につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0078】
(第二実施形態)
図19に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。
【0079】
(ロック制御機構)
「ロック制御手段」としてのロック制御機構2018は、主ロック孔2162側に組み付けられる。このロック制御機構2018では、第一実施形態とは異なる可動部材2181及び制御弾性部材2182が、設けられている。
【0080】
金属製の可動部材2181は、二段円柱状に形成されており、二段円筒孔状の主ロック孔2162内に同軸上に収容されている。可動部材2181は、大径可動部2181aよりも小径可動部2181bをベーンロータ14側に位置させている。大径可動部2181aの外周面には、第一実施形態と同様にラッチ内面186aを有するラッチ開口部186が、開口している。大径可動部2181aは、主ロック孔2162のうちベーンロータ14側の大径孔部2162a内に嵌挿され、小径可動部2181bは、同大径孔部2162a内に遊挿されている。このような嵌挿及び遊挿状態の可動部材2181は、
図20〜23に示すように、閉塞位置Lcと開放位置Loとに往復移動可能となっている。
【0081】
図21,22に示すように可動部材2181は、閉塞位置Lcへと移動することで、大径孔部2162aのベーンロータ14側の開口部2162cを実質閉塞する。かかる閉塞により、
図21に示す主ロック位相Pmでは、主ロック部材160が脱出位置Leにて可動部材2181と接触することで、当該部材160の主ロック孔2162への嵌入が解除される。このとき本実施形態では、開口部2162cに設けられるストッパ部2162dにより、大径可動部2181aが係止されるようになっている。
【0082】
また一方で、
図19,20,23に示すように可動部材2181は、閉塞位置Lcよりもベーンロータ14から離間した開放位置Loに移動することで、開口部2162cを開放する。かかる開放により、
図20に示す主ロック位相Pmでは、嵌入位置Liへの移動による主ロック部材160の主ロック孔2162への嵌入が許容される。このとき本実施形態では、大径孔部2162aにて開口部2162cとは反対側に設けられるストッパ部2162eにより、大径可動部2181aが係止されるようになっている。
【0083】
図19に示すように制御弾性部材2182は、金属製のコイルスプリングであり、主ロック孔2162のうちベーンロータ14とは反対側の小径孔部2162b内に収容されている。制御弾性部材2182は、リアプレート2013に設けられるリテーナ部2130と、大径孔部2162a内に配置される大径可動部2181aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の制御弾性部材2182は、可動部材2181をベーンロータ14側、即ち
図21,22の閉塞位置Lc側へと付勢するように、復原力Frを発生する。また、こうした制御弾性部材2182の復原力Frに抗して、進角室22又は遅角室26からの圧力作用によって可動部材2181を駆動する力は、
図19,20,23の開放位置Lo側へ向かって作用する。
【0084】
ここで、
図19に示すように制御弾性部材2182の復原力Frは、可動部材2181の軸方向に沿って作用することから、ラッチ内面186aに対して交差する方向の付勢力となる。また、制御弾性部材2182の復原力Frについては、主ロック部材160と接触した状態の可動部材2181が位置Lo,Lc間を移動する際に、主弾性部材163の復原力以上の大きさとなるように、予設定される。
【0085】
さて、第二実施形態のロック制御機構2018では、第一実施形態に準じて要素183,184,185を収容する収容孔141cが、リアプレート2013に形成されている。かかる構成下、収容孔141cの軸方向は、可動部材2181の径方向と実質一致している。したがって、
図19,20,23に示すように収容孔141c内のラッチ部材184は、開放位置Loにおける可動部材2181のラッチ開口部186内にも進入することで、当該開口部186を係止して可動部材2181をラッチする。また一方、
図21,22に示すようにラッチ部材184は、閉塞位置Lc側に移動する可動部材2181のうち大径可動部2181aの外周面によりラッチ開口部186外へと押圧されることで、当該開口部186から離脱して可動部材2181のラッチを外す。さらに、感温体185の設定温度Tsについては、
図19に示す復原力Ftによりラッチ部材184が開放位置Loの可動部材2181におけるラッチ内面186aに押圧された状態で、ラッチ部材184が当該内面186aから軸方向(即ち、可動部材2181の径方向)に受ける分力Frd(図示しない)の大きさと実質一致するように、予設定される。
【0086】
以上の如きロック制御機構2018では、第一実施形態と同様に、エンジン温度Tが設定温度Ts以上になると、復原力Ftが設定値Fts以上に増大して、復原力Frの分力Frdに打ち勝つ。その結果として感温体185は、
図19,20,23の如き拡張状態Seへと変化して、ラッチ部材184をラッチ開口部186内に押圧することで、開放位置Loに可動部材2181をラッチする。また、こうして可動部材2181が開放位置Loにラッチされることで、主ロック孔2162が開放されることから、
図20に示す主ロック位相Pmでは、主ロック部材160を嵌入位置Liに誘導可能となる。かかる誘導により、主ロック部材160の主ロック孔2162への嵌入が許容、即ち回転位相のロックが許容される。
【0087】
また一方、第一実施形態と同様に、エンジン温度Tが設定温度Ts未満になると、設定値Fts未満に減少する復原力Ftに対して、復原力Frの分力Frdが打ち勝つ。その結果として可動部材2181は、ラッチ部材184を押圧しつつ、閉塞位置Lc側に移動する。このとき、
図21,22の如くラッチ部材184は、感温体185を押圧して収縮状態Scへと変化させながら、自身の全体をラッチ開口部186外に離脱させる。故に、こうしてラッチ開口部186
から離脱するラッチ部材184は、可動部材2181のラッチを外した状態となる。また、ラッチの外れた可動部材2181が閉塞位置Lcに到達することで、主ロック孔2162が閉塞されることから、
図21に示す主ロック位相Pmでは、主ロック部材160を脱出位置Leに誘導可能となる。かかる誘導により、主ロック部材160の主ロック孔2162への嵌入が解除、即ち回転位相のロックが解除される。
【0088】
(作動)
ここまで説明した構成の第二実施形態では、第一実施形態とは一部異なる作動が通常運転、停止及び始動に関して実現される。そこで、以下では、第二実施形態に特有な通常運転、停止及び始動に関する作動を、詳細に説明する。
【0089】
まず、
図24,25に示す内燃機関の通常運転中、主ロック位相Pmでのロック解除状態は、可動部材2181の移動位置に拘らず、主ロック解除室161から主ロック部材160への圧力作用により維持される。但し、かかる状態下、可動部材2181は、通常運転中に進角室22又は遅角室26の作動油から高い圧力を受けるため、制御弾性部材2182の発する復原力Frに抗して開放位置Loに定位する(
図23)。故に、通常運転によってエンジン温度Tが設定温度Ts以上となることで、可動部材2181が開放位置Loにラッチされる。通常運転中のその他の作動は、第一実施形態と同様である。
【0090】
次に、
図24,25に示す内燃機関の停止時には、第一実施形態と同様の原理によって回転位相が主ロック位相Pmまで変化した後、内燃機関が停止状態となる。この停止中、
図24の如くエンジン温度Tが設定温度Ts以上となる間の温間停止状態では、復原力Ftが設定値Fts以上となるため、感温体185が拡張状態Seに変化して、可動部材2181が開放位置Loにラッチされたままとなる。その結果、主ロック部材160が主ロック孔2162への嵌入位置Liに移動する(
図20)ことで、回転位相が主ロック位相Pmにロックされる。またこの後、
図24の如き設定温度Ts以上での温間始動時には、可動部材2181が開放位置Loにラッチされたままとなる以外は第一実施形態と同様の原理により、回転位相が主ロック位相Pmにロックされた状態で、内燃機関が完爆する。
【0091】
以上に対し、内燃機関の停止中に
図25の如くエンジン温度Tが設定温度Ts未満となった後の冷間停止状態では、復原力Ftが設定値Fts未満となるため、可動部材2181の閉塞位置Lc側への移動に応じた感温体185の収縮状態Scへの変化により、可動部材2181のラッチが外れる。その結果、主ロック部材160が主ロック孔2162からの脱出位置Leに移動する(
図21)ことで、主ロック位相Pmでの回転位相ロックが解除される。またこの後、
図25の如き設定温度Ts未満での冷間始動時には、可動部材2181が閉塞位置Lcに移動したままとなる以外は第一実施形態と同様の原理により、回転位相が副ロック位相Psに変化してからロックされた状態(
図22)で、内燃機関が完爆する。
【0092】
(作用効果)
以上説明した第二実施形態では、第一実施形態で説明した作用効果において「可動部材181」、「第一位置L1」、「第二位置L2」及び「主ロック孔162」をそれぞれ、「可動部材2181」、「開放位置Lo」、「閉塞位置Lc」及び「主ロック孔2162」に読み替えた内容を、奏することができるのである。
【0093】
(第三実施形態)
図26に示すように、本発明の第三実施形態は第二実施形態の変形例である。
【0094】
(ロック制御機構)
「ロック制御手段」として、主ロック機構16の主ロック孔2162側に組み付けられるロック制御機構3018では、要素183,184,185が設けられず、第二実施形態とは異なる感温体3185が「ラッチ部材」としても機能する。
【0095】
具体的に感温体3185は、部分円環状のバイメタルから構成されている。感温体3185は、主ロック孔3162内に収容されて、可動部材3181の外周側をC状に囲んでいる。ここで本実施形態では、主ロック孔3162のうち大径孔部2162aの内周面には、周方向に連続する円環溝状に、ラッチ溝部3162fが開口している。また、可動部材3181のうち大径可動部2181aの外周面には、断面矩形にて周方向に連続する円環溝状に、ラッチ開口部3186が開口している。
【0096】
図26,28,30に示すように感温体3185は、熱膨張率の高低が異なる高膨張層3185a及び低膨張層3185bを、有している。ここで低膨張層3185bは、高膨張層3185aよりも線膨張係数が低く、且つ高膨張層3185aの外周側に積層されている。かかる積層構造により感温体3185は、設定温度Ts以上に上昇したエンジン温度Tでは、
図26,27,28の如く拡張した拡張状態Seへと変化することで、拡径する。故に、開放位置Loへの可動部材3181の移動状態では、
図26,27の如く感温体3185がラッチ溝部3162f内及びラッチ開口部3186内の双方に嵌入する。その結果、ラッチ溝部3162fに係止される感温体3185がラッチ開口部3186をさらに係止することで、開放位置Loに可動部材3181がラッチされる。また、こうして可動部材3181が開放位置Loにラッチされることで、主ロック孔3162が開放されることから、
図27に示す主ロック位相Pmでは、主ロック部材160を嵌入位置Liに誘導可能となる。かかる誘導により、主ロック部材160の主ロック孔3162への嵌入が許容、即ち回転位相のロックが許容される。
【0097】
また一方で感温体3185は、設定温度Ts未満に低下したエンジン温度Tでは、
図29,30の如く収縮した収縮状態Scへと変化することで、縮径する。故に、開放位置Loへの可動部材3181の移動状態から感温体3185は、
図29の如くラッチ溝部3162f外に離脱して、自身の全体をラッチ開口部3186内に収容させる。こうしてラッチ開口部3186
内に収容される感温体3185は、可動部材3181のラッチを外した状態となるので、制御弾性部材2182から復原力Fr(
図26参照)を受ける当該可動部材3181は、
図29の如く閉塞位置Lc側へと移動する。また、可動部材3181が閉塞位置Lcに到達することで、主ロック孔3162が閉塞されることから、
図29に示す主ロック位相Pmでは、主ロック部材160を脱出位置Leに誘導可能となる。かかる誘導により、主ロック部材160の主ロック孔3162への嵌入が解除、即ち回転位相のロックが解除される。
【0098】
(作動)
ここまで説明した構成の第三実施形態では、第二実施形態で説明した作動において「感温体185」、「可動部材2181」及び「主ロック孔2162」をそれぞれ、「感温体3185」、「可動部材3181」及び「主ロック孔3162」に読み替えた内容が、実現される。
【0099】
(作用効果)
以上説明した第三実施形態に特有の作用効果に説明する。
【0100】
第三実施形態によると、温間停止状態の主ロック位相Pmでは、バイメタルからなる感温体3185が温度上昇に応じて拡張状態Seに変化することで、当該感温体3185がラッチ開口部3186を係止する。その結果、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを許容する開放位置Loに、可動部材3181がラッチされる。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmでは、感温体3185が温度低下に応じて収縮状態Scに変化することで、当該感温体3185がラッチ開口部3186
内に収容される。その結果、ラッチ開口部3186
内への収容によりラッチを外される可動部材3181は、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除する閉塞位置Lcへ移動する。以上によれば、温間停止後の温間始動時と冷間停止後の冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えにつき、その正確性を高めることができるのである。
【0101】
(第四実施形態)
図31〜33に示すように、本発明の第四実施形態は第一実施形態の変形例である。
【0102】
(主ロック機構)
「主ロック手段」としての主ロック機構4016では、ベーンロータ14のうち回転軸140に対して偏心した箇所のベーン141に、円筒孔状の支持孔4144が形成されている。
図34に示すように支持孔4144には、所定サイズδaの径方向隙間4145を介して、主ロック部材4160の鍔部160cが同軸上に嵌入されている。かかる嵌入により円筒状の主ロック部材4160は、支持孔4144に摺動支持されることで、軸方向の嵌入位置Liと脱出位置Leとに往復移動可能となっている(
図31〜33参照)。それと共に、支持孔4144内において主ロック部材4160は、
図35,36に示すように、隙間4145のサイズδaに応じた角度θaまで傾き可能となっている。即ち、主ロック部材4160の最大傾きは、角度θa分の傾きとなるように調整されている。尚、本実施形態の主ロック部材4160には、係止部160bが設けられていない。
【0103】
(ロック制御機構)
「ロック制御手段」として、
図31〜33の如く主ロック部材4160側に組み付けられるロック制御機構4018は、可動部材181、リング部材4187、制御弾性部材182、リテーナ部材183、ラッチ部材184及び感温体185を有している。
【0104】
可動部材181は、筒部4181cから底端部181aを内フランジ状に突出させた有底円筒状に、形成されている。
図34に示すように、可動部材181のうち筒部4181cは、所定サイズδbの径方向隙間4146を介して、支持孔4144に同軸上に嵌入されている。可動部材181のうち底端部181aは、所定サイズδcの径方向隙間4147を介して主ロック部材4160に同軸上に外嵌されている。これらの嵌入及び外嵌により可動部材181は、支持孔4144に摺動支持されることで、軸方向の第一位置L1と第二位置L2とに往復移動可能となっている(
図31〜33参照)。それと共に、支持孔4144内において可動部材181は、
図35に示すように、隙間4146のサイズδbに応じた角度θbまで傾き可能となっている。即ち、可動部材181の最大傾きは、角度θb分の傾きとなるように調整されている。
【0105】
ここで、主ロック位相Pmにおいて可動部材181は、
図31の如く第一位置L1にラッチされることで、主ロック部材160の鍔部160cを底端部181aから離間ささせた状態で、当該部材160を主ロック孔162への嵌入位置Liに位置決めする。また一方、主ロック位相Pm及び他の回転位相において可動部材181は、
図33の如く第一位置L1にラッチされることで、底端部181aから鍔部160cをさらに離間させる脱出位置Leへの移動を、主ロック部材160に対して許容する。さらに、主ロック位相Pm及び他の回転位相において可動部材181は、
図32の如く第二位置L2に移動して、鍔部160cを底端部181aにより係止させることで、主ロック部材160を主ロック孔162からの脱出位置Leに位置決めする。
【0106】
さて、こうした可動部材181に対して主ロック部材4160は、
図35,36に示す隙間4147によって底端部181aと実質接触することなく、角度θaまで傾き可能となっている。即ち、「許容隙間」としての隙間4147のサイズδcは、支持孔4144内における主ロック部材4160の角度θa分の最大傾きを許容するサイズに、調整されている。かかる調整により隙間4147は、隙間4145,4146のサイズδa,δbよりも大きなサイズδcに形成されることで、主ロック部材4160周囲の主ロック解除室161から当該隙間4147への作動油流入を許容している。
【0107】
図31〜33に示すように金属製のリング部材4187は、筒部4187aから鍔部4187bを外フランジ状に突出させたハット形の円筒状に形成され、支持孔4144に同軸上に遊挿されている。
図34に示すように、リング部材4187のうち筒部4187aは、所定サイズδdの径方向隙間4148を介して、主ロック部材4160に同軸上に外嵌されている。リング部材4187のうち鍔部4187bは、所定サイズδeの径方向隙間4149を介して、筒部4181cの内周側に同軸上に遊挿されている。これら外嵌及び遊挿によりリング部材4187は、主ロック部材4160に摺動支持されることで、支持孔4144内のうち可動部材181の内周側を軸方向に往復移動可能となっている。
【0108】
このようなロック制御機構4018にて要素4187,160間の隙間4148は、「シール隙間」として、軸方向に隙間4147を挟んで主ロック解除室161とは反対側に位置している。それと共に隙間4148は、
図34,37に示すように、隙間4147のサイズδcよりも小さなサイズδdに形成されている。ここで特に本実施形態では、
図35に示す如く鍔部4187bが底端部181aに面接触したまま、可動部材181が最大傾きの主ロック部材4160に対して逆側へと最大傾き可能となるように、サイズδdがサイズδcよりも小さい範囲で調整されている。即ちサイズδcよりも小さい範囲のうち、主ロック部材4160に対するリング部材4187の相対傾き角度θdが角度θa,θbの総和以上となるように、サイズδdが調整されている。かかる調整により隙間4148は、要素181a,4187bの面接触の界面4189と共同して、隙間4147からの作動油の通過(即ち、
図37のサイズδdにおける漏れ)を規制することで、主ロック解除室161内及び隙間4147内の作動油に対してシール機能を発揮している。
【0109】
さらに
図34に示すように、ロック制御機構4018にて要素4187,181間の隙間4149は、「遊挿隙間」として、隙間4145,4146,4147,4148のいずれのサイズδa,δb,δc,δdよりも大きなサイズδeに、形成されている。ここで特に本実施形態では、最大傾きの主ロック部材4160に対してリング部材4187の相対傾きが
図36に示す最大となっても、隙間4149によって鍔部4187bが筒部4181cと実質接触しないように、サイズδeが調整されている。即ち、支持孔4144内においてリング部材4187の最大傾き角度θeが角度θa,θdの和と一致するように、サイズδeが調整されている。かかる調整により隙間4149は、支持孔4144内における主ロック部材4160の最大傾き状態下、同孔4144内におけるリング部材4187の最大傾きを許容している。
【0110】
図31〜33に示す如きコイルスプリングである制御弾性部材182は、鍔部4187bとスプリング受部141bとの間において、軸方向に挟持されている。それと共に制御弾性部材182は、「ガイド部」としての筒部4187aにより、内周側から軸方向にガイドされている。こうした挟持及びガイド状態の制御弾性部材182は、鍔部4187bを底端部181a側へ付勢するように、復原力Frを発生する。この復原力Frを受けるリング部材4187は、可動部材181に対して第一位置L1側から接触することで、当該可動部材181を第二位置L2側へ向かって押圧する。ここで特に本実施形態では、リング部材4187は、押圧対象の可動部材181に対して周方向の全域にて面接触する。かかる接触によりリング部材4187は、主ロック解除室161内及び隙間4147内の作動油に対するシール機能、上述の如き界面4189にて発揮する。また、かかる面接触のリング部材4187を介して可動部材181は、復原力Frにより第二位置L2側へ付勢されることで、主ロック孔162への主ロック部材4160の嵌入を解除する方向に、駆動可能となっている。
【0111】
尚、ロック制御機構4018において要素183,184,185に関する構成については、
図31〜33に示すように、第一実施形態と実質同一構成である。
【0112】
(作動・作用効果)
以上説明した構成の第四実施形態では、第一実施形態と同様な作動の実現により、第一実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0113】
さらに第四実施形態では、内燃機関の始動後となる通常運転中、第一実施形態と同様に、主ロック解除室161への導入作動油の圧力作用を受ける可動部材181は第一位置L1に移動するが、主ロック部材4160は、当該圧力作用を受けて脱出位置Leに移動する(
図33参照)。その結果、主ロック孔162への主ロック部材4160の嵌入が解除される、即ち回転位相ロックが解除されるので、回転位相に応じた自由なバルブタイミング調整が可能となる。またこのとき、エンジン温度Tが通常運転により設定温度Ts以上となることで、第一実施形態と同様に、可動部材181が第一位置L1にラッチされる。故に、かかるラッチ状態にて内燃機関が停止すると、主ロック解除室161への導入作動油の圧力消失により、主ロック部材4160が主弾性部材163により付勢されて嵌入位置Liへと移動するので、回転位相が主ロック位相Pmにロックされる。また、この後、エンジン温度Tが設定温度Ts未満になると、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除されることになる。
【0114】
ここで、第四実施形態において可動部材181が同軸上に外嵌される主ロック部材4160は、同じ支持孔4144に摺動支持される可動部材181に対して傾いて、さらに接触すると、往復移動の阻害を受ける懸念がある。そこで第四実施形態において、可動部材181と主ロック部材4160との間に介される隙間4147は、主ロック部材4160の傾きを許容するサイズδcに形成されるが、この場合、主ロック解除室161から隙間4147への作動油流入が許容されることにもなる。その結果、通常運転中の主ロック部材4160に作用する作動油圧力が減少することで、当該主ロック部材4160が誤って主ロック孔162に嵌入してしまうと、意図しない回転位相ロックを招くことが懸念される。
【0115】
しかし、第四実施形態によると、軸方向に隙間4147を挟んで主ロック解除室161との反対側では、主ロック部材4160とそれに同軸上に外嵌されたリング部材4187との間に、隙間4147よりも小さなサイズδdの隙間4148が介される。かかる隙間に4148よれば、隙間4147からの作動油通過を規制するシール機能を発揮できる。それと共に第四実施形態によると、可動部材181を第二位置L2側へ向かって押圧するためにリング部材4187は、制御弾性部材182から復原力Frを受けることで、可動部材181に第一位置L1側から接触する。故に、かかる接触の界面4189においても、隙間4148と共同して、隙間4147からの作動油通過を規制するシール機能を発揮できる。したがって、主ロック解除室161からの作動油流入が許容されるサイズδcの隙間4147にあっても、通常運転中の主ロック部材4160に作用する作動油圧力の減少を、それらのシール機能により抑止して、意図しない回転位相ロックを回避することが可能となる。
【0116】
さらに第四実施形態によると、支持孔4144内にて遊挿状態のリング部材4187が外嵌される主ロック部材4160は、当該リング部材4187と共に傾くことができる。故にリング部材4187は、リング部材4187によっても、往復移動の阻害を受け難くなる。しかも第四実施形態によると、リング部材4187は、移動する主ロック部材4160から荷重を受けて傾いたとしても、当該移動後には、制御弾性部材182の復原力Frにより可動部材181と接触して、シール機能を確保できる。したがって、意図しない回転位相ロックの回避効果を、確固たる効果として発揮可能となる。
【0117】
加えて、第四実施形態の主ロック部材4160は、可動部材181との間の隙間4147により、支持孔4144内での最大傾きでさえ許容されることになる。これによれば、主ロック部材4160が可動部材181と接触して往復移動の阻害を受ける事態を、主ロック部材4160の傾き角度によらず抑止できる。それと共に第四実施形態では、主ロック部材4160が最大傾き状態となったときの支持孔4144内にて、可動部材181の内周側に同軸上に遊挿されるリング部材4187の最大傾きも、当該可動部材181との間の隙間4149により許容されることになる。これによれば、リング部材4187が主ロック部材4160と可動部材181との間に挟み込まれて主ロック部材4160の往復移動が阻害される事態を、主ロック部材4160の傾き角度によらず抑止できる。
【0118】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0119】
具体的には、第一〜第四実施形態に関する変形例1として、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングに吸気弁9を閉じる回転位相となる限りにおいて、最遅角位相よりも進角側の主ロック位相Pmを採用してもよい。また、第一〜第四実施形態に関する変形例2として、ロック部材160,4160,170をハウジングロータ11に支持させる一方、ロック孔162,2162,3162,172をベーンロータ14に形成してもよい。この場合、第四実施形態では、ロック部材4160,170に合わせて、支持孔4144をハウジングロータ11に形成する。
【0120】
第一〜第四実施形態に関する変形例3としては、コイルスプリング以外の種類の金属製スプリングの他、例えばゴム製部材等を、弾性部材163,173,182,2182に採用してもよい。またさらに、第一〜第四実施形態に関する変形例4として、内燃機関の完爆に伴って又は任意の時に作動油の供給を開始可能な電動ポンプを、ポンプ4に採用してもよい。
【0121】
第一〜第四実施形態に関する変形例5としては、進角弾性部材19を設けない構成を、採用してもよく、この場合、スプール68のロック領域Rlへの移動と内燃機関の慣性回転とを実行する順番を、逆にする。また、第一、第二及び第四実施形態に関する変形例6としては、制御弾性部材182の復原力Frの方向に対して交差する限りで、例えば部分球面状等に湾曲したラッチ内面186aを、採用してもよい。さらに、第一〜第四実施形態に関する変形例7として、エンジンスイッチSWのオフ指令又はアイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令に応じて内燃機関が停止するときに、回転位相を副ロック位相Psにロックさせた後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令に応じて内燃機関が始動するときに、当該位相Psでの回転位相ロックをそのまま実現させてもよい。
【0122】
第一実施形態に関する変形例8としては、第三実施形態のロック制御機構3018に準ずる構成を、主ロック部材160側において採用してもよい。また、第二及び第三実施形態に関する変形例9として、副ロック機構17に要素170,171,173を設けず、主ロック部材160により「副ロック部材」の機能を果たしてもよい。
【0123】
第四実施形態に関する変形例10としては、
図38に示すように、制御弾性部材182を外周側から軸方向にガイドするガイド部4187cを、リング部材4187に設けてもよい。また、第四実施形態に関する変形例11として、主ロック部材4160の傾きの一部、例えば最大傾きを除く一部の傾きのみを、「許容隙間」としての隙間4147により許容してもよい。さらに、第四実施形態に関する変形例12として、リング部材4187の傾きの一部、例えば最大傾きを除く一部の傾きのみを、「遊挿隙間」としての隙間4149により許容してもよい。