(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位とジカルボン酸単位とからなるポリアミド(X)と、アルカリ化合物(A)とを含むマスターバッチであって、マスターバッチ中に含まれるアルカリ化合物(A)の平均粒子径が50μm以下であり、かつ、マスターバッチの断面5ミリ平方メートル中に粒子径80μmを超える粒子の含有数が1.5個以下であり、かつ、マスターバッチ1gあたりに含まれるアルカリ金属原子のモル濃度及びアルカリ土類金属原子のモル濃度にそれぞれ価数を乗じた値の和(m)が60μmol/g以上1710μmol/g以下であることを特徴とするマスターバッチ。
前記ポリアミド(X)が、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と、アジピン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位とからなるポリアミドである、請求項1又は2に記載のマスターバッチ。
前記ポリアミド(X)が、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と、アジピン酸単位70〜99モル%及びイソフタル酸単位1〜30モル%とを含むジカルボン酸単位とからなるポリアミドである、請求項1又は2に記載のマスターバッチ。
前記ポリアミド(X)が、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と、セバシン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位とからなるポリアミドである、請求項1又は2に記載のマスターバッチ。
原料アルカリ化合物(A)の平均粒子径が150μm以下であり、かつ原料アルカリ化合物(A)中に粒子径300μm以上となる粒子の含まれる割合が5%以下である、請求項9又は10に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<マスターバッチ>
本発明のマスターバッチは、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位とジカルボン酸単位とからなるポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)とを含み、マスターバッチ中に含まれるアルカリ化合物(A)の平均粒子径が50μm以下であり、かつ、マスターバッチの断面5ミリ平方メートル中の粒子径80μmを超える粒子の含有数が1.5個以下であり、かつ、マスターバッチ1gあたりに含まれるアルカリ金属原子のモル濃度及びアルカリ土類金属原子のモル濃度にそれぞれ価数を乗じた値の和(m)が60μmol/g以上1710μmol/g以下であることを特徴とする。
【0015】
アルカリ化合物は、前記のように、ポリアミドの重合時に添加されるリン系化合物の中和剤として使用されている。しかしながら、リン系化合物とのバランスの観点から、ポリアミドの重合時における使用量は制限されている。この点につき、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ポリアミドの重合後、成形加工時にアルカリ化合物(A)を添加してアルカリ化合物を高濃度化することで、成形加工時におけるゲルの生成を抑制することができ、ポリアミドの溶融滞留状態が長期間続いても、生成するゲル量が少なく、得られた成形品においてもゲル混入の少ない良好なものとなることを見出した。
【0016】
一方で、アルカリ化合物を直接、成形加工時にポリアミドと混練するとポリアミドへのアルカリ化合物の分散性の悪さによって、成形品に未溶融体として析出してしまうなどの問題点があった。そこで、本発明者は、さらに、特定の粒度分布を有するアルカリ化合物(A)を含むマスターバッチを利用することで、ポリアミド中へのアルカリ化合物の十分な分散と溶解を可能とし、高濃度のアルカリ化合物存在下でもマスターバッチ製造時、あるいは成形加工時いずれの場合のフィルター目詰まりが無く、また成形品の白化やブツの発生も無い外観に優れたものとなることを見出した。本発明は、このような知見に基づきなされるに至ったものである。
【0017】
<ポリアミド(X)>
ポリアミド(X)を構成するジアミン単位は、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含み、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む。ジアミン単位中のメタキシリレンジアミン単位が70モル%以上であることで、ポリアミド(X)は優れたガスバリア性を発現することができる。
メタキシリレンジアミン単位以外のジアミン単位を構成しうる化合物としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
ポリアミド(X)を構成するジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、キシリレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明で好ましく利用できるポリアミド(X)として、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と、アジピン酸単位を70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むジカルボン酸単位とからなるポリアミドを例示できる。ジカルボン酸単位中にアジピン酸単位が70モル%以上含まれると、ガスバリア性の低下や結晶性の過度の低下を避けることができる。アジピン酸単位以外のジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、炭素数4〜20のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸のうち1種以上が好ましく使用される。
【0020】
また、本発明で好ましく利用できるポリアミド(X)として、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と、アジピン酸単位70〜99モル%及びイソフタル酸単位1〜30モル%を含むジカルボン酸単位とからなるポリアミドを例示することもできる。ジカルボン酸単位としてイソフタル酸単位を加えることで融点が低下し、成形加工温度を下げることができるため、ポリアミド樹脂組成物の成形中における熱履歴を減らし、ゲルの生成を抑制することができる。
【0021】
また、本発明で好ましく利用できるポリアミド(X)として、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と、セバシン酸単位を70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むジカルボン酸単位とからなるポリアミドを例示することもできる。ジカルボン酸単位中にセバシン酸単位が70モル%以上含まれると、ガスバリア性の低下や結晶性の過度の低下を避けることができるほか、融点が低く成形加工温度を下げることができ、ゲルの生成を抑制することができる。セバシン酸単位以外のジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、炭素数4〜20のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸のうち1種以上が好ましく使用される。
【0022】
前記のジアミン及びジカルボン酸以外にも、ポリアミド(X)を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類;p−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸も共重合成分として使用できる。
【0023】
ポリアミド(X)の数平均分子量は、好ましくは10000〜50000、より好ましくは15000〜45000、更に好ましくは20000〜40000であり、ポリアミド樹脂組成物の用途や成形方法により適宜選択される。製造時にある程度の流動性が求められる場合、例えばフィルム等の用途の場合には、ポリアミド(X)の数平均分子量は20000〜30000程度が好ましい。製造時に溶融強度が必要とされる場合、例えばシート等の用途の場合には、ポリアミド(X)の数平均分子量は30000〜40000程度が好ましい。
【0024】
ポリアミド(X)の数平均分子量については、下式(4)から算出される。
数平均分子量=2×1000000/([COOH]+[NH
2])・・・・(4)
(式中、[COOH]はポリアミド(X)中の末端カルボキシル基濃度(μmol/g)を表し、[NH
2]はポリアミド(X)中の末端アミノ基濃度(μmol/g)を表す。)
本発明では、末端アミノ基濃度は、ポリアミドをフェノール/エタノール混合溶液に溶解したものを希塩酸水溶液で中和滴定して算出した値を用い、末端カルボキシル基濃度は、ポリアミドをベンジルアルコールに溶解したものを水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定して算出した値を用いる。
【0025】
<アルカリ化合物(A)>
本発明のマスターバッチは、成形加工時に生じるゲル化を防止する観点からアルカリ化合物(A)を含有する。
本発明に用いられるアルカリ化合物(A)の好ましい具体例としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、水素化物、アルコキシド、炭酸塩、炭酸水素塩又はカルボン酸塩が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の好ましい具体例としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
【0026】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物としては、例えば水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等が挙げられる。
アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドとしては、炭素数1〜4のアルコキシドが好ましく、例えばナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、マグネシウムメトキシド、カルシウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムエトキシド、マグネシウムエトキシド、カルシウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシド、リチウム−t−ブトキシド、マグネシウム−t−ブトキシド、カルシウム−t−ブトキシド等が挙げられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び炭酸水素塩としては、例えば炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム等が挙げられ、さらにこれらの無水塩が望ましい。
【0027】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩としては、炭素数1〜10のカルボン酸塩が好ましく、無水塩が好ましい。カルボン酸の具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エイコ酸、ベヘン酸、モンタン酸、トリアコンタン酸などの直鎖飽和脂肪酸;12−ヒドロキシステアリン酸などの脂肪酸誘導体;シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、メバロン酸等のヒドロキシ酸;安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ピロメット酸、トリメリット酸、キシリレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0028】
本発明に用いられるアルカリ化合物(A)は、上記のうち1種類でもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、ポリアミド(X)中への分散性の観点及びゲル化抑制効果の観点から、炭素数10以下のカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましく、経済性及びゲル化抑制効果の観点から、酢酸ナトリウムがより好ましい。
【0029】
本発明に用いられるアルカリ化合物(A)は、ポリアミド樹脂組成物に均一に分散されるため、細かな粉体であることが望ましく、また凝集物や過度に粒度の大きいものが極力少ないことが望ましい。
このような観点から、本発明のマスターバッチ中に添加する前の、原料となるアルカリ化合物(A)(以下、原料アルカリ化合物(A)と呼ぶ)の平均粒子径は、150μm以下が好ましく、より好ましくは120μm以下である。なお、原料アルカリ化合物の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により、体積分布を測定し、それを算術計算により求めた平均粒子径で表す値である。
さらには、原料アルカリ化合物(A)中に、粒子径300μm以上となる粒子の含まれる割合が5%以下であることが望ましい。粒子径300μm以上となる粒子の含まれる割合が5%以下である場合、成形品中のアルカリ化合物(A)の析出を抑えることが出来る。
本発明における原料アルカリ化合物(A)としては、市販のものを用いることができる。例えば、市販の酢酸ナトリウムは、平均粒子径が100μm〜1mm程度であり、粒子径300μm以上となる粒子の含まれる割合は1%以下〜100%である。市販のアルカリ化合物は、必要に応じて粉砕処理して、平均粒子径及び粒度分布を上記の好ましい範囲となるように調整したものを、原料アルカリ化合物(A)として用いることができる。または、市販のアルカリ化合物の平均粒子径及び粒度分布が上記の好ましい範囲にあるものは、そのまま利用することもできる。
前記で例示した市販の酢酸ナトリウム等のアルカリ化合物を粉砕処理する場合の粉砕方法としては、例えば、ピンミル、ハンマーミル、ブレードミル、ボールミル、高圧粉砕ミル、ジェットミル等を使用する方法が可能であるが、目的の平均粒子径及び粒度分布を達成することができれば、公知の方法をいずれも適応することができる。
【0030】
本発明のマスターバッチは、原料アルカリ化合物(A)とポリアミドとを混練することにより得られる。得られたマスターバッチ中に存在するアルカリ化合物(A)の粒子は、マスターバッチ断面を走査型顕微鏡(SEM)によってサイズを測定することが可能である。
マスターバッチ中に存在するアルカリ化合物(A)を観察するために、マスターバッチ断面を露出させる方法としては、マスターバッチをエポキシ樹脂等の樹脂に包埋したのち、乾式研磨、湿式研磨により断面を露出させる方法がある。またミクロトーム及びダイヤモンドナイフを用いて、マスターバッチの断面を露出させることもできる。
【0031】
本発明においてマスターバッチ中に含まれるアルカリ化合物(A)の平均粒子径は、前記の断面を露出させたマスターバッチを走査型顕微鏡(SEM)により観察し、同一平面内にアルカリ化合物(A)1000個以上を含む範囲を選択して二値化処理後、さらに同範囲内の5ミリ平方メートルとなる領域を選択し、該領域に存在する各々の粒子像の面積比率での平均粒子径を算出し、この値をマスターバッチ中に含まれるアルカリ化合物(A)の平均粒子径として算出した。
上記算出方法により算出されるマスターバッチ内に含まれるアルカリ化合物(A)の平均粒子径が50μm以下であることが好ましく、45μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。マスターバッチ中の中に含まれるアルカリ化合物(A)の平均粒子径を上記範囲とした場合、ポリアミド樹脂組成物の成形加工時の樹脂圧上昇を抑えて生産性を大きく上げることが可能となり、また成形加工品中のブツの発生が無く外観良好となることや、延伸などの二次加工性も向上する。アルカリ化合物(A)の平均粒子径の下限は、特に制限はないが、実用的に調製が出来る0.1μm以上である。
【0032】
さらに、本発明のマスターバッチにおいては、前記の平均粒子径を算出したマスターバッチ断面の5ミリ平方メートルとなる領域内において、粒子径が80μmを超える粒子の含有数が1.5個以下であることが好ましく、0.5個以下が好ましく、0.4個以下がさらに好ましく、0.3個以下であることが特に好ましく、0.1個以下が最も好ましい。マスターバッチの断面5ミリ平方メートル中に粒子径が80μmを越える粒子の含有数を上記範囲とすることで、成形時の樹脂圧上昇や成形品中のブツ発生を効果的に抑えることが出来る。
なお、ここで言う粒子径とは、アルカリ化合物(A)の長径(最も長い部分)を測定し、これを粒子径とした。さらにマスターバッチの断面5ミリ平方メートル中に粒子径80μmを超える粒子の含有数とは、マスターバッチの断面5ミリ平方メートル中に粒子径が80μmを超える粒子数を別ペレット毎にカウントして、その平均含有数を指す。なお、測定に供するペレットの個数に制限は無いが、例えば5個以上のペレットを用いて測定する方法が好ましい。
【0033】
本発明のマスターバッチ1gあたりに含まれるアルカリ金属原子のモル濃度及びアルカリ土類金属原子のモル濃度にそれぞれ価数を乗じた値の和(以下、「アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度」という)mは、マスターバッチを利用した成形加工時に生じる析出物を防止する観点から、60〜1710μmol/gであり、好ましくは90〜1450μmol/g、より好ましくは120〜1220μmol/g、さらに好ましくは240〜860μmol/gである。マスターバッチ中のアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度が60μmol/g未満の場合、成形加工時においてポリアミドに対するマスターバッチの配合量が大きくなり、溶融粘度が低下する等の成形加工性を損なうことがある。また、アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度が1710μmol/gより多い場合、マスターバッチ自体の溶融粘度低下を招く可能性があり、マスターバッチの製造が困難になる恐れがある他、ポリアミドへのマスターバッチの分散むらが生じて、アルカリ化合物(A)がポリアミド樹脂組成物に局所的に存在する状態となって十分なゲル抑制効果が得られない可能性がある。
【0034】
また、本発明においては、マスターバッチに使用する原料ポリアミド(X)について、一定の水分量を含むポリアミド(X)と原料アルカリ化合物(A)を溶融混合したマスターバッチを利用することで、成形加工品へのアルカリ化合物(A)の十分な分散と溶解を可能とし、安定した成形性と共に、成形品は白化やブツの発生も無い外観に優れたものを得ることが可能となる。
【0035】
また、本発明においては、原料ポリアミド(X)に含まれる水分量としては0.1〜0.8質量%であることが望ましい。原料ポリアミド(X)に対する水分が0.1質量%以上であれば、アルカリ化合物(A)のポリアミド(X)への溶解・分散が十分なものとなり、成形時の樹脂圧上昇や成形品中のブツ発生が抑制される。水分が0.8質量%以下であれば、成形機に原料アルカリ化合物(A)と原料ポリアミド(X)を供する際に、多量の蒸気が発生するなどの、アルカリ化合物(A)の供給が不安定となる現象が抑制される。
【0036】
また、本発明のマスターバッチには、目的を損なわない範囲で、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン66,6、ポリエステル、ポリオレフィン、フェノキシ樹脂等の他樹脂を一種もしくは複数ブレンドできる。また、ガラス繊維、炭素繊維などの無機充填剤;ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、モンモリロナイト、有機化クレイなどの板状無機充填剤;各種エラストマー類などの耐衝撃性改質材;結晶核剤;脂肪酸アミド系、脂肪酸アマイド系化合物等の滑剤;銅化合物、有機もしくは無機ハロゲン系化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系、硫黄系化合物、リン系化合物等の酸化防止剤;着色防止剤;ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤;離型剤、可塑剤、着色剤、難燃剤などの添加剤;酸素捕捉能を付与する化合物であるコバルト金属、ベンゾキノン類、アントラキノン類、ナフトキノン類を含む化合物等の添加剤を添加することができる。
【0037】
本発明のマスターバッチの形状は、ペレット状、粉末状、フレーク状のいずれかであることが好ましいが、ペレット状のものが取り扱い性に優れることから特に好ましい。
【0038】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明のマスターバッチを使用して得られるポリアミド樹脂組成物は、以下の工程(a)〜(c)を含む方法により製造することができる。
工程(a):アルカリ金属化合物(C)及びリン原子含有化合物(B)の存在下で、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンとジカルボン酸とを重縮合してポリアミド(X)を得る工程。
工程(b):前記工程(a)で得られたポリアミド(X)に原料アルカリ化合物(A)を添加してマスターバッチを得る工程。
工程(c):前記工程(a)で得られたポリアミド(X)に、前記工程(b)で得られたマスターバッチを添加してポリアミド樹脂組成物を得る工程。
【0039】
<工程(a)>
工程(a)は、アルカリ金属化合物(C)及びリン原子含有化合物(B)の存在下で、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンとジカルボン酸とを重縮合してポリアミド(X)を得る工程である。リン原子含有化合物(B)の存在下でポリアミド(X)を重縮合することで、溶融成形時の加工安定性を高め、ポリアミド(X)の着色を防止することができる。また、アルカリ金属化合物(C)を共存させることで、リン原子含有化合物(B)による過度の重合を抑制することができる。
【0040】
リン原子含有化合物(B)の好ましい具体例としては、次亜リン酸化合物(ホスフィン酸化合物又は亜ホスホン酸化合物ともいう)や亜リン酸化合物(ホスホン酸化合物ともいう)等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。リン原子含有化合物(B)は金属塩であってもよく、アルカリ金属塩であってもよい。
【0041】
次亜リン酸化合物の具体例としては、次亜リン酸;次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム等の次亜リン酸金属塩;次亜リン酸エチル、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸エチル等の次亜リン酸化合物;フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム等のフェニル亜ホスホン酸金属塩等が挙げられる。
亜リン酸化合物の具体例としては、亜リン酸、ピロ亜リン酸;亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム等の亜リン酸金属塩;亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジエチル等の亜リン酸化合物;エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム等のフェニルホスホン酸金属塩等が挙げられる。
【0042】
リン原子含有化合物(B)は、上記のうち1種類でもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、ポリアミド(X)の重合反応を促進する効果の観点及び着色防止効果の観点から、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム等の次亜リン酸金属塩が好ましく、次亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0043】
また、ポリアミド(X)の重縮合は、リン原子含有化合物(B)及びアルカリ金属化合物(C)の存在下で行われることが好ましい。重縮合中のポリアミド(X)の着色を防止するためにはリン原子含有化合物(B)を十分な量存在させる必要があるが、リン原子含有化合物(B)の使用量が多すぎるとアミド化反応速度が促進されすぎてポリアミド(X)のゲル化を招くおそれがある。そのため、アミド化反応速度を調整する観点から、アルカリ金属化合物(C)を共存させることが好ましい。
【0044】
アルカリ金属化合物(C)としては特に限定されないが、好ましい具体例としてアルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩を挙げることができる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムを挙げることができ、アルカリ金属酢酸塩としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウムを挙げることができる。
【0045】
ポリアミド(X)を重縮合する際にアルカリ金属化合物(C)を使用する場合、アルカリ金属化合物(C)の使用量は、ゲルの生成を抑制する観点から、アルカリ金属化合物(C)のモル数をリン原子含有化合物(B)のモル数で除した値が、好ましくは0.5〜1、より好ましくは0.55〜0.95、更に好ましくは0.6〜0.9となる範囲が好ましい。
【0046】
ポリアミド(X)の製造方法は、リン原子含有化合物(B)及びアルカリ金属化合物(C)の存在下であれば特に限定されるものではなく、任意の方法、重合条件により行うことができる。例えば、ジアミン成分(例えばメタキシリレンジアミン)とジカルボン酸成分(例えばアジピン酸)とからなるナイロン塩を水の存在下に加圧状態で昇温し、加えた水及び縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法によりポリアミド(X)を製造することができる。
また、ジアミン成分(例えばメタキシリレンジアミン)を溶融状態のジカルボン酸成分(例えばアジピン酸)に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によってもポリアミド(X)を製造することができる。この場合、反応系を均一な液状状態で保つために、ジアミン成分をジカルボン酸成分に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
ポリアミド(X)の重縮合時に、分子量調節剤として少量のモノアミン、モノカルボン酸を加えてもよい。
【0047】
また、ポリアミド(X)は、溶融重合法により製造された後に、固相重合を行うことによって重縮合を行ってもよい。固相重合は特に限定されず、任意の方法、重合条件により行うことができる。
【0048】
<工程(b)>
工程(b)は、前記工程(a)で得られたポリアミド(X)に原料アルカリ化合物(A)を添加し、ポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)とを含むマスターバッチを得る工程である。
【0049】
本発明では、ポリアミド(X)と原料アルカリ化合物(A)とを押出機により溶融混練することでマスターバッチを得る。ポリアミド(X)に対してアルカリ化合物を直接添加して成形加工に供した場合においてもゲル化抑制効果は得られるが、アルカリ化合物はポリアミド(X)への分散性・溶解性が低いことによって、成形時にフィルター目詰まりから樹脂圧が異常に上昇したり、あるいは成形品にアルカリ化合物の未溶融体が析出してしまうことがある。そこで、本発明では、ポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)とを含むマスターバッチを使用することで、ポリアミドの成形加工性が安定する。
【0050】
本発明では、ポリアミド(X)と原料アルカリ化合物(A)とを溶融混練してマスターバッチを得るが、押出機としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、プラネタリ押出機、単軸もしくは二軸押出機等、任意の押出機を用いることができる。これらの中でも、混練能力及び生産性の観点から、単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0051】
押出機にポリアミド(X)あるいは原料アルカリ化合物(A)を供給する手段としては特に限定されないが、ベルトフィーダー、スクリューフィーダー、振動フィーダー等を用いることができる。ポリアミド(X)及び原料アルカリ化合物(A)は、それぞれ単独のフィーダーを用いて供給してもよく、ドライブレンドして供給してもよい。
【0052】
ドライブレンドでは、ドライブレンド後のポリアミド(X)と原料アルカリ化合物(A)との分離を防止するために、粘性のある液体を展着剤としてポリアミド(X)に付着させた後、原料アルカリ化合物(A)を添加、混合してもよい。展着剤としては特に限定されず、界面活性剤等を用いることができる。
【0053】
押出機によってポリアミド(X)と原料アルカリ化合物(A)を溶融混練する際、オリゴマー、水分、アルカリ化合物(A)の分解物等が発生する可能性がある為、混練機のバレル部位に少なくとも一箇所以上の減圧ベント機構を設けることが望ましい。減圧ベント機構を設けることにより、マスターバッチの経時劣化を防ぎ、かつ工程(c)での食い込み不良や発泡などのトラブルの防止、さらには成形品物性などを向上させることが可能となる。また、押出機のダイス部位には、混入した異物の除去の為にフィルター部位を設けることが望ましく、フィルターの目開きとしては、160μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0054】
工程(b)において、ポリアミド(X)100質量部に対する原料アルカリ化合物(A)の配合比は、粘度低下を抑制する観点、ゲルの生成及び着色を抑制する観点から、好ましくはポリアミド(X)100質量部に対して14〜0.5質量部、より好ましくは10〜1質量部、更に好ましくは7〜2質量部である。
【0055】
また、工程(b)において、ポリアミド(X)に水分が含まれていることにより、マスターバッチへのアルカリ化合物(A)の溶解性が向上し、均一な分散が可能となる。特にポリアミド(X)に含まれる水分量としては0.1〜0.8質量%であることが望ましい。水分量が0.1質量%より少ない場合、アルカリ化合物(A)のポリアミド(X)への溶解・分散が不十分となり、成形時の樹脂圧上昇や成形品中のブツ発生が起こる可能性がある。水分量が0.8質量%より多い場合、工程(b)において、多量の蒸気が発生し、蒸気によって投入口のアルカリ化合物(A)がシャーベット状となることがあり、アルカリ化合物(A)の供給量が不安定となる可能性がある。
【0056】
<工程(c)>
工程(c)は、前記工程(a)で得られたポリアミド(X)に、前記工程(b)で得られたマスターバッチを添加し、ポリアミド樹脂組成物を得る工程である。
ポリアミド(X)をそのまま成形加工して得られる成形品は、成形開始直後は性状及び外観に優れるが、長時間の成形加工作業とともにゲル状物質の混入が増加し、製品の品質が不安定となる場合がある。特に、フィルム等の場合には、ゲルにより破断が生じ、装置を停止せざるを得なくなるため生産効率が悪化する。これは、溶融混練部からダイス間において、ポリアミドが局所的に滞留し続けることによって過剰加熱されてゲル化し、生成したゲルが流れ出すために起こると推測される。これに対し、本発明では、成形加工時に生じるゲル化を防止するために、ポリアミド(X)に対して、アルカリ化合物(A)を含むマスターバッチを添加する。
【0057】
本発明者は、ゲルクロマトグラフィーによる分子量測定から、ポリアミドを加圧、低酸素下、かつ溶融状態にて加熱し続けると、ポリアミドは低分子量化及び高分子量化の二極化が進行し、このうち特に高分子量成分が多いほどゲルの生成量が多くなることを見出した。更に、ポリアミドに対してアルカリ化合物(A)を添加することで、高分子量成分が少なくなることをも見出した。この理由としては、アルカリ化合物(A)の添加により、特にポリアミド樹脂組成物の成形中に起こるアミド化の進行を遅延させ、結果的に高分子量化を抑制し、並びにゲル化を抑制するものと推測される。
【0058】
工程(c)において、マスターバッチとポリアミド(X)との配合比(マスターバッチ/ポリアミド(X))は、安定した成形性、外観良好な成形品、さらにゲル生成抑制の観点から、好ましくは0.5〜20質量部/99.5〜80質量部、より好ましくは0.7〜12質量部/99.3〜88質量部、更に好ましくは1〜6質量部/99〜94質量部である。なお、ここで述べるマスターバッチ/ポリアミド(X)の配合比は、マスターバッチ及びポリアミド(X)の合計100質量部における配合比を意味する。マスターバッチ/ポリアミド(X)の配合比が20質量部/80質量部を超える場合、熱履歴を持つマスターバッチ由来のポリアミドの混合割合が増えることにより黄色化したり粘度の低下によって成形が困難になる可能性がある。また、マスターバッチに多量に水分が含まれると、場合によっては、結晶化速度が速まって成形品が白化するなどの外観を損ねる場合や、延伸などの二次加工性を損ねる恐れがある。一方、マスターバッチ/ポリアミド(X)の配合比が0.5質量部/99.5質量部以上であれば、成形加工時に、ゲルの生成を抑制することができる。
【0059】
本発明のポリアミド樹脂組成物1gあたりに含まれるリン原子のモル濃度Pは、溶融成形時の加工安定性を高める観点及びポリアミドの着色を防止する観点から、0.03μmol/g以上0.32μmol/g未満であり、好ましくは0.06〜0.26μmol/g、より好ましくは0.1〜0.2μmol/gである。Pが0.03μmol/g未満の場合、重合中にポリアミドが着色し易く、またゲルが発生する傾向がある。また、Pが高すぎると、ポリアミドの着色の改善が見られるが、ポリアミドのゲル化反応が促進したり、成形加工時にリン原子含有化合物(B)の熱変性物に起因すると考えられるフィルター目詰まりにより樹脂圧が上昇したりすることがある。
【0060】
本発明のポリアミド樹脂組成物1gあたりに含まれるアルカリ金属原子のモル濃度及びアルカリ土類金属原子のモル濃度にそれぞれ価数を乗じた値の和(以下、「アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度」という)Mは、成形加工時に生じるゲル化を防止する観点から、2.2〜26.1μmol/gであり、好ましくは4.3〜19.5μmol/g、より好ましくは6.5〜13.0μmol/gである。Mを2.2μmol/g以上とすることで、ポリアミドの熱による高分子量化が遅延し、ゲルの生成を抑制することができると推測される。一方、Mが26.1μmol/gを超える場合、粘度低下により成形不良を起こすことがあるほか、場合によっては着色や白化、未溶融のアルカリ化合物(A)が析出することがある。
なお、上述のとおり、リン原子含有化合物(B)としてアルカリ金属塩が用いられる場合があり、また、後述するように、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造時においては、ポリアミドの重縮合の際に必要に応じてアルカリ金属化合物(C)が添加され、ポリアミドの重縮合後にマスターバッチが添加される。したがって、Mは、ポリアミド樹脂組成物1gあたりに含まれるすべてのアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子のモル濃度にそれぞれ価数を乗じた値の和である。
【0061】
また、本発明において、本発明のポリアミド樹脂組成物1gあたりに含まれるアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度Mを、本発明のポリアミド樹脂組成物1gあたりに含まれるリン原子のモル濃度Pで除した値(M/P)は、成形加工時に生じるゲル化を防止する観点、溶融成形時の加工安定性を高める観点及びポリアミドの着色を防止する観点から、5を超え200以下であり、好ましくは20〜150、より好ましくは35〜100である。M/Pが5以下の場合、アミド化反応をマスターバッチの添加により抑制する効果が不足することがあり、場合によってはポリアミド中のゲルが多くなることがある。また、M/Pが200を超える場合、粘度低下により成形不良を起こすことがあるほか、場合によっては着色や白化、未溶解のアルカリ化合物(A)が析出することがある。
【0062】
前記のように、工程(b)で得られるマスターバッチに含まれるアルカリ化合物(A)の例として、工程(a)においてポリアミド(X)を製造する際に添加可能なアルカリ金属化合物(C)と同じ化合物も例示される。しかし、アルカリ金属化合物(C)を溶融重合時に過剰に添加すると、リン原子含有化合物(B)のアミド化反応促進効果を抑制しすぎて重縮合の進行が遅くなり、場合によってはポリアミド製造時の熱履歴が増加してポリアミドのゲルが多くなることがある。そのため、ポリアミド(X)をモノマーから溶融重合する際に添加するアルカリ金属化合物(C)を増量させることでは、成形加工の際にゲル生成を防止する役割を果たすことができない。これに対して、本発明では、工程(c)において、ポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)とを含むマスターバッチを、ポリアミド(X)に添加することで、成形加工時におけるゲル生成を効果的に防止することができる。
【0063】
以上の方法によって製造される本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドの溶融重合時においてゲルの生成を抑制することができ、更に、得られた樹脂組成物の成形加工時においてもゲルの生成を抑制することができ、安定かつ長時間の生産を可能とする。
【0064】
本発明では、ポリアミド樹脂組成物のゲル生成の抑制効果を、成形時にポリアミドが曝される状態を想定し、高圧化、溶融状態にて一定時間かつ一定温度で加熱したポリアミドのゲル分率を比較することで評価する。加圧かつ加熱した樹脂をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に24時間浸漬すると、ゲル化していない樹脂は完全に溶解するのに対し、ゲル化した樹脂は膨潤状態の不溶成分として残る。該不溶成分からゲル分率を算出する。本発明においてゲル分率とは、上記不溶成分をメンブレンフィルターにて減圧濾過後、乾燥して得られる残渣重量に対し、HFIP浸漬前に予め秤量した樹脂重量を分母として除して百分率で求めた値をいう。
【0065】
本発明のポリアミド樹脂組成物のゲル分率は、ポリアミドの重合後にマスターバッチを添加せずに製造したポリアミド樹脂組成物のゲル分率よりも小さい。このことは、本発明のポリアミド樹脂組成物の成形加工時においてゲルの生成が抑制されていることを表す。本発明のポリアミド樹脂組成物のゲル分率は、ポリアミド樹脂組成物を、成形加工の際のポリアミド樹脂の樹脂温度となる270〜290℃にて所定時間滞留させた場合に、アルカリ化合物(A)を添加せずに製造したポリアミド樹脂組成物を同一条件で滞留させた場合のゲル分率の好ましくは50%以下、より好ましくは33%以下、更に好ましくは20%以下である。滞留時間としては、例えば、24、36又は72時間とすることができる。
【0066】
本発明のポリアミド樹脂組成物が良好な外観や物性を有していることの指標として、ポリアミド樹脂組成物をフィルム化し、フィッシュアイ検査機にてカウントしたフィッシュアイの平均発生量にて評価することができる。ポリアミド樹脂組成物中のフィッシュアイの発生原因は、例えば、成形機内にて生じたゲルの流出や、アルカリ化合物(A)の未溶解物等の析出等が考えられる。本発明では、50μm厚のポリアミドフィルム1m
2換算当たりにおいて、円相当径が20μm以上の異物カウント数が900個以下であることが好ましく、より好ましくは700個以下、更に好ましくは600個以下である。900個を超えると、目視でもフィルム表面にブツの存在が確認され外観を損ねるほか、同成形品をさらに延伸加工を行う際には破断が生じる可能性もあるため望ましくない。
【0067】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン66,6、ポリエステル、ポリオレフィン、フェノキシ樹脂等の他樹脂を一種もしくは複数ブレンドできる。また、ガラス繊維、炭素繊維などの無機充填剤;ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、モンモリロナイト、有機化クレイなどの板状無機充填剤;各種エラストマー類などの耐衝撃性改質材;結晶核剤;脂肪酸アミド系、脂肪酸アマイド系化合物等の滑剤;銅化合物、有機もしくは無機ハロゲン系化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系、硫黄系化合物、リン系化合物等の酸化防止剤;着色防止剤;ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤;離型剤、可塑剤、着色剤、難燃剤などの添加剤;酸素捕捉能を付与する化合物であるコバルト金属、ベンゾキノン類、アントラキノン類、ナフトキノン類を含む化合物等の添加剤を添加することができる。
【0068】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ガスバリア性や透明性に優れ、かつ安定した溶融特性を有する。本発明のポリアミド樹脂組成物は、該樹脂組成物を少なくとも一部に利用して成形品とすることで、シート、フィルム、射出成形ボトル、ブローボトル、射出成形カップ等、種々の形状に加工することができ、好ましくは包装材料、包装容器、繊維材料に用いることができる。
【0069】
成形品の製造方法については特に限定されず、任意の方法で製造することができ、例えば押出成形や射出成形により製造することができる。また、押出成形や射出成形により得られた成形品を、更に一軸延伸又は二軸延伸や延伸ブロー等により成形加工してもよい。
具体的には、Tダイを備えた押出法や、インフレーションフィルム法等によりフィルムやシートに加工でき、さらに得られた原反フィルムを延伸加工することにより、延伸フィルム、熱収縮フィルムを得ることができる。また、射出成形法により射出成形カップ、ブロー成形法によりブローボトルとすることができ、また射出成形によりプリフォームを製造した後、さらにブロー成形によりボトルとすることができる。
また、押出ラミネートや共押出等の方法により、他の樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、PETや金属箔、紙等との多層構造のフィルム、シートに加工することもできる。加工したフィルムやシートは、ラップ、あるいは各種形状のパウチ、容器の蓋材、ボトル、カップ、トレイ、チューブ等の包装容器に利用できる。また、多層射出成形法等によりPET等との多層構造のプリフォームやボトルに加工することもできる。
【0070】
本発明のポリアミド樹脂組成物を利用して得られた包装容器は、ガスバリア性に優れ、かつ透明性に優れたものである。該包装容器には、例えば、炭酸飲料、ジュース、水、牛乳、日本酒、ウイスキー、焼酎、コーヒー、茶、ゼリー飲料、健康飲料等の液体飲料、調味液、ソース、醤油、ドレッシング、液体だし、マヨネーズ、味噌、すり下ろし香辛料等の調味料、ジャム、クリーム、チョコレートペースト等のペースト状食品、液体スープ、煮物、漬物、シチュー等の液体加工食品に代表される液体系食品やそば、うどん、ラーメン等の生麺及びゆで麺、精米、調湿米、無洗米等の調理前の米類や調理された炊飯米、五目飯、赤飯、米粥等の加工米製品類等に代表される高水分食品;粉末スープ、だしの素等の粉末調味料、乾燥野菜、コーヒー豆、コーヒー粉、お茶、穀物を原料としたお菓子等に代表される低水分食品;その他農薬や殺虫剤等の固体状や溶液状の化学薬品、液体及びペースト状の医薬品、化粧水、化粧クリーム、化粧乳液、整髪料、染毛剤、シャンプー、石鹸、洗剤等、種々の物品を収納することができる。
【0071】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ガソリンバリア材料として自動車、バイクなどのガソリンタンク、ホース用材料とすることもできる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、モノフィラメント等の繊維材料とすることもできる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
製造例1(原料アルカリ化合物(A)の調製)
原料アルカリ化合物(A)は、市販の酢酸ナトリウムをそのまま使用、あるいは市販の酢酸ナトリウムを以下の方法により粉砕処理して得た。
(粉砕方法例1)
酢酸ナトリウム(無水)(大東化学(株)製、平均粒子径277μm、300μm以上含有率45%)を、奈良機械製作所(株)製自由粉砕機M−4にて、粉砕回転数5400rpm、スクリーンメッシュ径0.5mmの条件で粉砕し、平均粒子径117μm、粒子径300μm以上となる粒子の 含有率1%未満の粉砕酢酸ナトリウムを得た。
(粉砕方法例2)
酢酸ナトリウム(無水)(大東化学(株)製、平均粒子径316μm、300μm以上含有率70%)を、奈良機械製作所(株)製サンプルミルSAM−Tにて、粉砕回転数11000rpm、スクリーンメッシュ径0.7mmの条件で粉砕し、平均粒子径144μm、粒子径300μm以上となる粒子の含有率4%の粉砕酢酸ナトリウムを得た。
(粉砕方法例3)
粉砕方法例2において、スクリーンメッシュ径1.5mmとした以外は同様の条件で粉砕し、平均粒子径175μm、粒子径300μm以上となる粒子の含有率3%の粉砕酢酸ナトリウムを得た。
(粉砕方法例4)
酢酸ナトリウム(無水)(米山化学工業(株)製、平均粒子径325μm、300μm以上含有率50%)を、ホソカワミクロン(株)製パルベライザーACM−10にて、分級回転数3880rpm、粉砕回転数6800rpm、風量10m
3/minの条件で粉砕し、平均粒子径7μm、粒子径300μm以上となる粒子の含有率1%未満の粉砕酢酸ナトリウムを得た。
得られた原料アルカリ化合物(A)の平均粒子径は、原料アルカリ化合物(A)をクロロホルム中に分散させた後、レーザー回折散乱法粒度測定装置(LA−910;堀場製作所製)により、体積分布を測定し、それを算術平均径として算出した。また、粒子径300μm以上となる粒子の体積比率を百分率として測定した。あるいは、原料アルカリ化合物(A)の平均粒子径が100μm以下の場合には、原料アルカリ化合物(A)を溶媒に分散せず、レーザー回折散乱法粒度測定装置(MASTERSIZER2000;Malvern Instruments Ltd製)により、体積分布を測定し、それを算術平均径として算出した。また、粒子径300μm以上となる粒子の体積比率を百分率として測定した。結果を表2に示す。
【0074】
製造例2(ポリアミドの溶融重合)
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロート及び窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したアジピン酸15000g(102.6mol)、さらに次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaH
2PO
2・H
2O)432.5mg(4.083mmol、ポリアミド中のリン原子濃度として5ppm)および酢酸ナトリウム207.7mg(2.53mmol、次亜リン酸ナトリウム一水和物に対するモル数比として0.62)になるよう入れ、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら170℃まで加熱した。これにメタキシリレンジアミン13895g(102.0mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を260℃として40分反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、約24kgのポリアミド(X1a)を得た。
【0075】
製造例3(ポリアミドの乾燥)
製造例2で得られたポリアミド(X1a)について、真空乾燥機にて0.1Torr(13.33Pa)以下、140℃の状態で2時間乾燥してポリアミド(X1b)を得た。結果を表1に示す。
【0076】
製造例4(ポリアミドの調湿)
製造例2で得られたポリアミド(X1a)を40℃、90%RHの状態で24時間保持してポリアミド(X1c)を得た。結果を表1に示す。
【0077】
製造例5(ポリアミドの固相重合)
窒素ガス導入管、真空ライン、真空ポンプ、内温測定用の熱電対を設けたジャケット付きのタンブルドライヤーに、製造例2で得られたポリアミド(X1a)を仕込み、一定速度で回転させつつ、タンブルドライヤー内部を純度が99容量%以上の窒素ガスで十分に置換した後、同窒素ガス気流下でタンブルドライヤーを加熱し、約150分かけてペレット温度を150℃に昇温した。ペレット温度が150℃に達した時点で系内の圧力を1torr(133.3Pa)以下に減圧した。さらに昇温を続け、約70分かけてペレット温度を200℃まで昇温した後、200℃で30〜45分保持した。次いで、系内に純度が99容量%以上の窒素ガスを導入して、タンブルドライヤーを回転させたまま冷却してポリアミド(X1d)を得た。得られたポリアミド(X1d)の性状を表1に示す。
【0078】
製造例6
(ポリアミドの溶融重合)
次亜リン酸ナトリウム一水和物の添加量を173.1mg(1.633mmol、ポリアミド中のリン原子濃度として2ppm)に、酢酸ナトリウムの添加量を82.6mg(1.007mmol、次亜リン酸ナトリウム一水和物に対するモル数比として0.62)に代えた以外は、製造例2と同様の方法で、約24kgのポリアミドを得た。
(ポリアミドの固相重合)
続けて、前記溶融重合で得られたポリアミドを用いた以外は製造例5と同様の方法でポリアミドの固相重合を行い、ポリアミド(X2d)を得た。得られたポリアミド(X2d)の性状を表1に示す。
【0079】
製造例7
(ポリアミドの溶融重合)
次亜リン酸ナトリウム一水和物の添加量を86.5mg(0.816mmol、ポリアミド中のリン原子濃度として1ppm)に、酢酸ナトリウムの添加量を41.3mg(0.503mmol、次亜リン酸ナトリウム一水和物に対するモル数比として0.62)に代えた以外は、製造例2と同様の方法で、約24kgのポリアミドを得た。
(ポリアミド固相重合)
続けて、前記溶融重合で得られたポリアミドを用いた以外は製造例5と同様の方法でポリアミドの固相重合を行い、ポリアミド(X3d)を得た。得られたポリアミド(X3d)の性状を表1に示す。
【0080】
製造例8
(ポリアミドの溶融重合)
次亜リン酸ナトリウム一水和物の添加量を778.7mg(7.343mmol、ポリアミド中のリン原子濃度として9.5ppm)に、酢酸ナトリウムの添加量を371.6mg(4.53mmol、次亜リン酸ナトリウム一水和物に対するモル数比として0.62)に代えた以外は、製造例2と同様の方法で、約24kgのポリアミドを得た。
(ポリアミドの固相重合)
続けて、前記溶融重合で得られたポリアミドを用いた以外は製造例5と同様の方法でポリアミドの固相重合を行い、ポリアミド(X4d)を得た。得られたポリアミド(X4d)の性状を表1に示す。
【0081】
<ポリアミドのリン原子濃度p
0並びにアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度m
0>
マスターバッチの原料となるポリアミド1gあたりに含まれるアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度m
0及びリン原子のモル濃度p
0は、ポリアミド樹脂を硝酸中、マイクロウェーブにて分解処理した後、原子吸光分析装置(商品名:AA−6650、(株)島津製作所製)及びICP発光分析装置(商品名:ICPE−9000、(株)島津製作所製)を用いて定量した。なお、測定値は重量分率(ppm)として得られるため、原子量及び価数を用いてp
0及びm
0を算出した。結果を表1に示す。
【0082】
<ポリアミドの水分率>
ポリアミドの水分率は、カールフィッシャー型水分測定装置(型式;AQ−2000、平沼産業(株)製)を用いて、窒素気流下にて235℃・30分加熱時のポリアミド(X1a)〜(X1c)の水分率を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例1〜11及び比較例1〜3)
(マスターバッチの製造)
二軸押出機(型式:TEM37BS、東芝機械(株)製、口径:37mmφ)に100メッシュのフィルターを設けたストランドダイを取り付けた押出機を使用して、酢酸ナトリウム並びに上記のポリアミド(X1a)〜(X1b)のいずれかを、それぞれ表2に示した配合量で、別フィーダーにて供給してストランド状とした。次いで、水冷槽で冷却した後、ペレタイザーを使用してペレット状とした。その後、ペレットを真空乾燥機にて0.1Torr以下、140℃の状態で8時間乾燥してマスターバッチ1〜11を得た。
得られたマスターバッチ中のアルカリ化合物(A)の平均粒子径、マスターバッチの断面5ミリ平方メートル中の粒子径80μmを超える粒子の含有数を表2に示した。
【0084】
<マスターバッチ1gあたりに含まれるリン原子のモル濃度p、アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度m>
マスターバッチ1gあたりに含まれるリン原子のモル濃度p、アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度mは、マスターバッチを硝酸中、マイクロウェーブにて分解処理した後、原子吸光分析装置(商品名:AA−6650、(株)島津製作所製)及びICP発光分析装置(商品名:ICPE−9000、(株)島津製作所製)を用いて定量した。なお、測定値は重量分率(ppm)として得られるため、原子量及び価数を用いてp及びmを算出した。結果を表2に示した。
<ポリアミド樹脂組成物1gあたりに含まれるアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度M及びリン原子のモル濃度P>
前記で算出したマスターバッチ1gあたりに含まれるp及びmと同様の方法にて、ポリアミド樹脂組成物1gあたりに含まれるアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の総モル濃度M及びリン原子のモル濃度Pを算出した。結果を表3に示した。
【0085】
<マスターバッチ内のアルカリ化合物(A)の観察>
マスターバッチを樹脂包埋し、ダイアモンドカッターにより断面を露出させたのち、試料台に貼り付けたカーボンテープ上に固定して、減圧雰囲気下で白金/パラジウムを蒸着した。続いて、白金/パラジウム蒸着したマスターバッチを、反射電子像観察を用いて空間図とし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて150倍で写真撮影した。同一平面内にアルカリ化合物(A)1000個以上を含む範囲を選択して二値化処理後、さらに同範囲内で5ミリ平方メートルとなる領域を選択し、該領域中に存在する各々の粒子像の面積比率での平均粒子径を算出し、この値をマスターバッチ中に含まれるアルカリ化合物(A)の平均粒子径として算出した。
また、前記の平均粒子径を算出した5ミリ平方メートル領域内で長径80μmを超える粒子像数をカウントし、これをペレット別に5回同様の測定を行って、測定1回当たりの平均値を、「マスターバッチの断面5ミリ平方メートル中に粒子径80μmを超える粒子の含有数」とした。測定結果を表2に示す。
【0086】
(実施例1〜11および比較例1〜3)
(ポリアミド樹脂組成物のフィルムの製造)
得られたマスターバッチ1〜9および11を用いて、ポリアミド(X1d)〜(X4d)100質量部に対して表3に記載の配合量で混合した後、25mmφ単軸押出機(型式:PTM25、(株)プラスチック工学研究所製)、600メッシュのフィルターを設けたヘッド、Tダイからなるフィルム押出機、冷却ロール、フィッシュアイ検査機(型式:GX70W、マミヤオーピー(株)製)、巻き取り機等を備えた引き取り装置を使用して、フィルムの製造を行った。押出機からポリアミド樹脂組成物を3kg/hの吐出速度に保持しつつフィルム状に押し出し、引き取り速度を調節して幅15cm、厚み50μmのフィルムとした。
【0087】
(フィルムの評価)
以下の方法でフィルムの評価を行った。結果を表4に示す。
<フィッシュアイ数>
前記フィルムをフィッシュアイ検査機のカメラと光源の間を通過させ、巻き取り機にて巻き取りつつ、押し出しを開始してから1時間経過した時点で、幅10cm、長さ50mのフィルムのフィッシュアイ数(円相当径が20μm以上)をカウントし、1m
2当たりのフィッシュアイ数を算出した。フィッシュアイ数は少ないほど好ましい。
【0088】
<押出機ヘッドの樹脂圧力>
また、フィッシュアイ数のカウント終了後、巻き取り速度を調節して、幅15cm、厚み250μmのフィルムとした後、押し出しを継続し、押出し開始直後、3時間後及び6時間後における押出機ヘッドの樹脂圧力をそれぞれ測定し、その変化の有無を測定した。押出機ヘッドの樹脂圧力の変化量が少ないことが好ましい。
【0089】
<フィルムの外観>
得られたフィルムの外観を目視で観察した。フィルムの着色やゲル等の異物が観測されないことが好ましい。
【0090】
<ポリアミド樹脂組成物の相対粘度>
ポリアミド樹脂組成物のフィルム1gを精秤し、96質量%硫酸100mlに20〜30℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96質量%硫酸そのものの落下時間(t
0)も同様に測定した。t及びt
0から次式により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t
0【0091】
<ゲル分率>
[滞留サンプルの作製]
上記の250μm厚みフィルムを直径30mmの円形に切り取り、これを4枚作製した。該円形フィルムを同心円状に重ね、孔径30mmにくり抜いた孔を持つ1mm厚の100×100mmポリテトラフルオロエチレンシートの孔部に、前記の同心円状に重ねた円形フィルムをはめ込み、さらに該シートを、1mm厚の100×100mmポリテトラフルオロエチレンシート2枚の間に挟み込んだ。
次いで、中央部に深さ3mmの120mm×120mmの溝を持つ15mm厚×150mm×150mm金属板に、上述のフィルムを挟み込んだポリテトラフルオロエチレンシートを溝の中央に配置し、さらに15mm厚×150mm×150mm金属板にて上から蓋をした後、金属板同士をボルトで固定した。
続けて、予め加温した熱プレス機により50kg/cm
2以上にて該金属板を挟んだ状態で、270℃にて72時間、290℃にて24時間、又は290℃にて36時間のそれぞれの条件で加熱を行った。各時間経過後に該金属板を取り出して急冷し、室温まで十分に冷却されてから滞留サンプルを取り出した。
【0092】
[ゲル分率の算出]
次いで、上記の滞留サンプルを60℃にて30分恒温乾燥機にて乾燥させた後、乾燥したサンプルを直ちに100mg秤量した。秤量した滞留サンプルを10mlの純度99%以上のヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に24時間浸漬後、予め秤量した300μm孔径のポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルターを通し減圧濾過した。メンブレンフィルターに残った残渣を2mlのHFIPにて3回洗浄した後、残渣の付着したフィルターを60℃にて30分恒温乾燥機にて乾燥した。
乾燥させた残渣及びフィルターの総重量を秤量し、予め秤量したメンブレンフィルター重量との差から、滞留サンプルのHFIP不溶成分量(ゲル量)を算出した。ゲル分率はHFIP浸漬前の滞留サンプルに対するHFIP不溶成分の質量%として求めた。
同様の操作を滞留サンプルの作製から同一条件にて3回行い、得られたゲル分率のそれぞれの条件における平均値を求めた。
【0093】
(比較例4)
(ポリアミド樹脂組成物のフィルムの製造)
実施例1のマスターバッチに代えて、原料アルカリ化合物として平均粒子径が80μmの酢酸ナトリウムを直接ポリアミドに、ポリアミド100質量部に対し0.1%となるようドライブレンドした後、実施例1と同様の装置を使用して、実施例1と同様の条件でフィルムの製造を行った。
フィルムの評価、押出機ヘッドの樹脂圧力、フィルムの外観、ゲル分率の測定結果を表4に示した。
【0094】
(比較例5)
(ポリアミド樹脂組成物のフィルムの製造)
実施例1のマスターバッチを添加せず、ポリアミド(X1d)のみを用い、実施例1と同様の装置を使用して、実施例1と同様の条件でフィルムの製造を行った。
フィルムの評価、押出機ヘッドの樹脂圧力、フィルムの外観、ゲル分率の測定結果を表4に示した。
【0095】
(比較例6及び7)
(ポリアミド樹脂組成物のフィルムの製造)
実施例1のマスターバッチに代えて、原料アルカリ化合物としてステアリン酸カルシウムを直接ポリアミドと、ポリアミド100質量部に対して表3に記載の配合量でドライブレンドした後、実施例1と同様の装置を使用して、実施例1と同様の条件でフィルムの製造を行った。
フィルムの評価、押出機ヘッドの樹脂圧力、フィルムの外観、ゲル分率の測定結果を表4に示した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
マスターバッチを添加しなかった比較例5では、当初はフィルムのフィッシュアイ数も少なかったが、ゲル分率が高く、滞留によって過剰の熱履歴がかかるとゲルが生成していた。
これに対し、マスターバッチを添加した実施例1〜11では、フィルム中のフィッシュアイ数が少なく、ゲル分率も低く、成形加工時においてもゲルの生成が少なかった。
一方、マスターバッチ中のアルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子の総モル濃度が低い比較例1では、フィルムが黄色くなったほか、白化が生じて外観が著しく悪化した。またマスターバッチ中のアルカリ化合物(A)の粒子径80μm以上を超える粒子の含有数が多い比較例2、およびアルカリ化合物(A)の平均粒子径が大きい比較例3では、各マスターバッチを使用して成形加工を実施した際、時間経過に伴って樹脂圧の上昇が確認されたほか、フィルム上にもブツの発生が確認された。また、比較例4においてマスターバッチを利用せず、原料アルカリ化合物として平均粒子径が80μmの酢酸ナトリウムを直接ポリアミドにドライブレンドした場合にも、ブツの発生が見られた。比較例6においてマスターバッチを利用せず、原料アルカリ化合物として少量のステアリン酸カルシウムを直接ポリアミドにドライブレンドした場合には、当初はフィルムのフィッシュアイ数も少なかったが、ゲル分率が高く、滞留によって過剰の熱履歴がかかるとゲルが生成していた。比較例7において、比較例6よりステアリン酸カルシウムの添加量を多くした場合には、フィルムに白化が生じて外観が著しく悪化したため、フィルムのフィッシュアイ数が測定できなかった。
さらにマスターバッチ10を成形する際は、ポリアミド(X)に対して原料アルカリ化合物(A)を過剰に含むために、樹脂の溶融粘度が低くなり、ペレタイザーによるペレット化が困難であり、以後の成形加工に適さないものであった。