特許第5850112号(P5850112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5850112
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20160114BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/36 102
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-177295(P2014-177295)
(22)【出願日】2014年9月1日
(62)【分割の表示】特願2010-526694(P2010-526694)の分割
【原出願日】2009年8月24日
(65)【公開番号】特開2015-13481(P2015-13481A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】特願2008-219671(P2008-219671)
(32)【優先日】2008年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】小黒 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】小池 信行
(72)【発明者】
【氏名】三枝 暢也
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊成
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−089713(JP,A)
【文献】 特開平08−229980(JP,A)
【文献】 特開2008−115314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B29C47/00−47/96
C08J7/04−7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性透明樹脂(A)層、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体及び/又はアクリロニトリル−スチレン共重合体からなる熱可塑性樹脂(B)層、並びにポリカーボネート系樹脂からなる熱可塑性樹脂(C)層を有し、(C)層の片面または両面に(B)層が積層され、その(B)層の表面に(A)層が積層された熱可塑性樹脂積層体であって、
前記熱可塑性透明樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)を含み、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)とのモル比が15:85〜85:15であるビニル共重合樹脂であり、前記熱可塑性透明樹脂(A)層の厚みが10〜500μm、前記熱可塑性樹脂(B)層の厚みが5〜50μm、前記熱可塑性樹脂(C)層の厚みが500〜2000μmである、熱可塑性樹脂積層体。
【化1】
(式中、R1は水素またはメチル基であり、R2は炭素数1〜16のアルキル基である。)
【化2】
(式中、R3は水素またはメチル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキル置換基を有することのあるシクロヘキシル基である。)
【請求項2】
熱可塑性透明樹脂(A)が、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとの共重合樹脂であり、該芳香族ビニルモノマーの芳香環の70%以上が水素化したものであり、前記樹脂のガラス転移温度が110〜140℃の範囲である請求項1に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項3】
一般式(1)のR1及びR2がメチル基である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項4】
一般式(2)のR3が水素であり、R4がシクロヘキシル基である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項5】
片面または両面にハードコート処理、反射防止処理、および防眩処理のいずれか一つ以上を施したものである請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体からなる透明性基板材料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体からなる透明性保護材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂積層体に関し、詳しくは、透明性の基板材料や保護材料に使用され、高温高湿の環境に対する耐候性、耐擦傷性、層間密着性などに優れた熱可塑性樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製透明板は、防音隔壁、カーポート、看板や、OA機器・携帯電子機器の表示部前面板など多岐に応用される。特に、携帯電話端末、携帯電子遊具、PDAといった携帯型のディスプレイデバイスでは、種々の環境下で使用者が持ち歩くという機能性からその前面パネルには高温高湿の環境に対する耐候性、耐擦傷性、層間密着性などの向上がますます求められている。
【0003】
これらの特性を改善する方法として、例えば特許文献1には耐衝撃性の優れたポリカーボネート樹脂層に架橋アクリル酸エステル系重合体を含有するメタクリル樹脂層を積層した積層板が開示されており、特許文献2には脂肪酸エステルなどを含有するメタクリル樹脂層を積層した透明樹脂積層板が開示されている。
しかしながら、メタクリル樹脂層の耐熱性が乏しくて高温環境下で変形を起こしたり、吸水性が高くて湿度変化による反りを起こしたりするなどの問題がある。
なお、透明性などに優れ、光学用部品に使用される樹脂として、特許文献3には(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを重合し水素化した樹脂が開示されているが、その性能が十分とは云えず、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3489972号公報
【特許文献2】特開2006−205478号公報
【特許文献3】特開2006−89713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような状況から、透明性の基板材料や保護材料に使用される、高温高湿の環境に対する耐候性、耐擦傷性、層間密着性などに優れた熱可塑性樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定のビニル共重合樹脂を表層に用いた積層体とすることにより、これらの特性を備えた熱可塑性樹脂積層体が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の熱可塑性樹脂積層体および該熱可塑性樹脂積層体を用いた透明性材料を提供するものである。
【0007】
1.熱可塑性透明樹脂(A)層、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体及び/又はアクリロニトリル−スチレン共重合体からなる熱可塑性樹脂(B)層、並びにポリカーボネート系樹脂からなる熱可塑性樹脂(C)層を有し、(C)層の片面または両面に(B)層が積層され、その(B)層の表面に(A)層が積層された熱可塑性樹脂積層体であって、
前記熱可塑性透明樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)を含み、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)とのモル比が15:85〜85:15であるビニル共重合樹脂であることを特徴とする熱可塑性樹脂積層体。
【0008】
【化1】
(式中、R1は水素またはメチル基であり、R2は炭素数1〜16のアルキル基である。)
【0009】
【化2】
(式中、R3は水素またはメチル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキル置換基を有することのあるシクロヘキシル基である。)
【0010】
2.熱可塑性透明樹脂(A)が、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーを重合した後、芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られたものであり、前記樹脂のガラス転移温度が110〜140℃の範囲である上記1の熱可塑性樹脂積層体。
3.一般式(1)のR1及びR2がメチル基である上記1又は2の熱可塑性樹脂積層体。
4.一般式(2)のR3が水素であり、R4がシクロヘキシル基である上記1又は2の熱可塑性樹脂積層体。
5.片面または両面にハードコート処理、反射防止処理、および防眩処理のいずれか一つ以上を施したものである上記1又は2の熱可塑性樹脂積層体。
6.上記1〜5のいずれかの熱可塑性樹脂積層体からなる透明性基板材料。
7.上記1〜5のいずれかの熱可塑性樹脂積層体からなる透明性保護材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温高湿の環境に対する耐候性、耐擦傷性、層間密着性などに優れた熱可塑性樹脂積層体が提供され、該熱可塑性樹脂積層体は、透明性基板材料、透明性保護材料として光学物品に用いられ、特に携帯電話端末、携帯電子遊具、PDAといった携帯型のディスプレイデバイスなどに好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、熱可塑性透明樹脂(A)層、メタクリル酸メチルとスチレンの共重合体及び/又はアクリロニトリル−スチレン共重合体からなる熱可塑性樹脂(B)層、並びにポリカーボネート系樹脂からなる熱可塑性樹脂(C)層を有し、(C)層の片面または両面に(B)層が積層され、その(B)層の表面に(A)層が積層された熱可塑性樹脂積層体であって、
前記熱可塑性透明樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)を含み、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)とのモル比が15:85〜85:15であるビニル共重合樹脂であることを特徴とするものである。
【0013】
【化3】
(式中、R1は水素またはメチル基であり、R2は炭素数1〜16のアルキル基である。)
【0014】
【化4】
(式中、R3は水素またはメチル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキル置換基を有することにあるシクロヘキシル基である。)
【0015】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位のR2は炭素数1〜16のアルキル基であり、メチル基、エチル基、ブチル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基などを挙げることができる。これらは1種類単独かあるいは2種類以上を併せて使用することができる。これらのうち好ましいのはR2がメチル基および/またはエチル基の(メタ)アクリル酸エステル構成単位であり、さらに好ましいのはR1がメチル基、R2がメチル基のメタクリル酸エステル構成単位である。
【0016】
本発明に用いられる式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位としては、例えば、R3が水素またはメチル基で、R4がシクロヘキシル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するシクロヘキシル基であるものを挙げることができる。これらは1種類単独かあるいは2種類以上を併せて使用することができる。これらのうち好ましいのはR3が水素、R4がシクロヘキシル基の脂肪族ビニル構成単位である。
【0017】
本発明で用いる熱可塑性透明樹脂(A)は、主として一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)とからなる。
本発明における式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)とのモル構成比は、(a)が15:85〜85:15の範囲であり、25:75〜75:25の範囲であることが好ましく、30:70〜70:30の範囲であることがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と脂肪族ビニル構成単位(b)との合計に対する(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)のモル構成比が15%未満であると機械強度が低くなりすぎて脆くなるので実用的ではない。また85%を超えるであると耐熱性が不十分となる場合がある。
【0018】
熱可塑性透明樹脂(A)は、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを共重合した後、芳香環を水素化して得られたものが好適である。なお、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及び/又はアクリル酸を示す。
この際に使用される芳香族ビニルモノマーとしては、具体的にスチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、クロロスチレンなど、およびそれらの誘導体を挙げることができる。これらの中で好ましいのはスチレンである。
【0019】
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキル類などを挙げることができるが、物性のバランスから、メタクリル酸アルキルを単独で用いるか、あるいはメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルを併用することが好ましい。メタアクリル酸アルキルのうち、特に好ましいものはメタアクリル酸メチルまたはメタアクリル酸エチルである。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーの重合には、公知の方法を用いることができるが、例えば、塊状重合法、溶液重合法により製造することができる。
溶液重合法では、モノマー、連鎖移動剤、および重合開始剤を含むモノマー組成物を完全混合槽に連続的に供給し、100〜180℃で連続重合する方法などにより行われる。
【0021】
この際に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、イソ酪酸メチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などを挙げることができる。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを重合した後の水素化反応は適当な溶媒中で行われる。この水素化反応に用いられる溶媒は前記の重合溶媒と同じであっても異なっていても良い。例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、イソ酪酸メチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などを挙げることができる。
【0023】
水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、水素圧力3〜30MPa、反応温度60〜250℃でバッチ式あるいは連続流通式で行うことができる。温度を60℃以上とすることにより反応時間がかかり過ぎることがなく、また250℃以下とすることにより分子鎖の切断やエステル部位の水素化を起すことがない。
【0024】
水素化反応に用いられる触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウムなどの金属またはそれら金属の酸化物あるいは塩あるいは錯体化合物を、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、珪藻土などの多孔性担体に担持した固体触媒が挙げられる。
【0025】
熱可塑性透明樹脂(A)は芳香族ビニルモノマーの芳香環の70%以上が水素化して得られたものであることが好ましい。即ち、熱可塑性透明樹脂(A)における芳香族ビニル構成単位の割合は熱可塑性透明樹脂(A)中30%以下であることが好ましく、30%を越える範囲であると熱可塑性透明樹脂(A)の透明性が低下する場合がある。より好ましくは20%以下の範囲であり、さらに好ましくは10%以下の範囲である。
【0026】
熱可塑性透明樹脂(A)には、透明性を損なわない範囲で他の樹脂をブレンドすることができる。例えば、メタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネートなどを挙げることができる。
【0027】
熱可塑性透明樹脂(A)のガラス転移温度は110〜140℃の範囲であるであることが好ましい。ガラス転移温度が110℃以上であると積層体の耐熱性が不足することがなく、また140℃以下であると熱賦形などの加工性に優れる。本発明におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量測定装置を用い、試料10mg、昇温速度10℃/分で測定し中点法で算出したときの温度である。
【0028】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(B)は、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体及び/又はアクリロニトリル−スチレン共重合体からなる樹脂である。
メタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂としては、例えば新日鉄化学(株)製のMS200、MS300、MS600などを挙げることができ、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂としては、例えば旭化成ケミカルズ(株)製のスタイラックASなどを挙げることができる。
【0029】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(C)はポリカーボネート系樹脂である。この熱可塑性樹脂(C)は樹脂積層体の中心層となるものであり、樹脂積層体の用途により選択されるが、好ましくは一般には優れた耐衝撃性と強度、透明性を有することからポリカーボネート樹脂が使用される。
【0030】
本発明における熱可塑性透明樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)および熱可塑性樹脂(C)には各種添加剤を混合して使用することができる。添加剤としては、例えば、抗酸化剤、紫外線吸収剤、抗着色剤、抗帯電剤、離型剤、滑剤、染料、顔料などを挙げることができる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂積層体の製造方法としては共押出による方法、接着剤を介して貼り合わせる方法などを用いることができる。
共押出の方法は特に限定されず、例えば、フィードブロック方式では、フィードブロックで(C)層の片方あるいは両方に(B)層と、(B)層の上に(A)樹脂層を積層し、Tダイでシート状に押し出した後、成形ロールを通過させながら冷却し所望の積層体を形成する。また、マルチマニホールド方式では、マルチマニホールドダイ内で(C)層の片方あるいは両方に(B)層と、(B)層の上に(A)層を積層し、シート状に押し出した後、成形ロールを通過させながら冷却し所望の積層体を形成する。
また、接着剤を介して貼り合わせる方法も特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、一方の板状成形体にスプレー、刷毛、グラビアロールなどを用いて接着層を塗布し、そこへもう一方の板状成形体を重ねて接着層が硬化するまで圧着し、所望の積層体を形成する。
また、共押出の際に(A)層と(B)層の間、及び/または(B)層と(C)層の間に任意の接着樹脂(D)層を挟むこともできる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂積層体の厚みは0.1〜10.0mmの範囲であることが好ましい。0.1mm以上であることにより、転写不良や厚み精度不良が発生することがなく、また10.0mm以下であることにより、成形後の冷却ムラなどによる厚み精度不良や外観不良が発生することがない。より好ましくは0.3〜5.0mmの範囲であり、さらに好ましくは0.5〜3.0mmの範囲である。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂積層体の熱可塑性透明樹脂(A)層の厚みは10〜500μmの範囲であることが好ましい。10μm未満であると耐擦傷性や耐候性が不足する場合がある。また500μmを超えると耐衝撃性が不足する場合がある。好ましくは30〜100μmの範囲である。
【0034】
熱可塑性樹脂(B)層の厚みは5〜50μmの範囲であることが好ましい。(B)層の厚みを該範囲とすることにより、(A)層の性能を損なうことなく(A)層と(C)層の密着性を向上することができる。
また、熱可塑性樹脂(C)層の厚みは積層体の用途により異なるが、通常500〜2000μm程度である。
【0035】
なお、本発明の熱可塑性樹脂積層体にはその片面または両面にハードコート処理、反射防止処理、および防眩処理のいずれか一つ以上を施すことができる。ハードコート処理、反射防止処理、防眩処理の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、熱硬化性あるいは光硬化性皮膜を塗布する方法、誘電体薄膜を真空蒸着する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂積層体の評価は以下のように行った。
【0037】
<密着性評価>
試験片を10cm×10cmに切り出し、(A)層が外側となるように直径60mmの円筒に押し付け、層間の密着性を評価する。外観に変化のないものを良好とする。
【0038】
<高温高湿曝露試験>
試験片を10cm四方に切り出す。温度85℃、相対湿度85%に設定した恒温恒湿槽の中に、試験片の角を支点として吊り下げ、その状態で72時間保持する。試験片を取り出し、外観変化の有無を評価する。外観変化のないものを良好とする。
【0039】
<鉛筆引っかき硬度試験>
JIS K 5600−5−4に準拠し、表面に対して角度45度、荷重750gで(A)樹脂層の表面に次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、きず跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度として評価する。鉛筆硬度3H以上を良好とする。
【0040】
合成例1〔メタクリル酸メチル−スチレン−ビニルシクロヘキサン共重合樹脂(樹脂A2)の製造〕
モノマー成分としてメタクリル酸メチル60.0188モル%とスチレン39.9791モル%、重合開始剤として0.0021モル%のt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートからなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10L完全混合槽に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽の液面が一定となるよう底部から連続的に抜き出し、脱溶剤装置に導入してペレット状のメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(樹脂A1)を得た。
得られた樹脂A1をイソ酪酸メチルに溶解し、10質量%イソ酪酸メチル溶液を調整した。1000mLオートクレーブ装置に樹脂A1の10質量%イソ酪酸メチル溶液を500重量部、10質量%Pd/C触媒を1重量部仕込み、水素圧10MPa、200℃で15時間保持してスチレン部位を水素化した。スチレン部位の水素化反応率は96%であった。フィルターにより触媒を除去し、脱溶剤装置に導入してペレット状のメタクリル酸メチル−スチレン−ビニルシクロヘキサン共重合樹脂(樹脂A2)を得た。
【0041】
実施例1
軸径25mmの単軸押出機と、軸径35mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結されたTダイとを有する多層押出装置を用いて熱可塑性樹脂積層板を成形した。軸径25mmの単軸押出機にメタクリル酸メチル−スチレン(3:7)共重合樹脂〔新日鐵化学(株)製、商品名:エスチレンMS300〕(樹脂B1)を連続的に導入し、シリンダ温度240℃、吐出速度0.5kg/hの条件で押し出した。また軸径35mmの単軸押出機に合成例1で得たビニル共重合樹脂(樹脂A2)を連続的に導入し、シリンダ温度250℃、吐出速度3kg/hの条件で押し出した。また軸径65mmの単軸押出機に三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のポリカーボネート樹脂ユーピロンE−2000(樹脂C)を連続的に導入し、シリンダ温度270℃、吐出速度50kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは3種3層の分配ピンを備え、温度260℃として樹脂A2と樹脂B1と樹脂Cを導入し積層した。その先に連結された温度270℃のTダイでシート状に押し出し、3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、樹脂A2と樹脂B1と樹脂Cの積層体を得た。このときロールは上流側から温度120℃、130℃、190℃とした。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A2層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B1層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。密着性評価、高温高湿曝露試験、鉛筆引っかき硬度試験の結果は全て良好であった。
【0042】
実施例2
実施例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン(3:7)共重合樹脂(樹脂B1)の代わりにメタクリル酸メチル−スチレン(2:8)共重合樹脂エスチレンMS200〔新日鐵化学(株)製、商品名:エスチレンMS200〕(樹脂B2)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂A2と樹脂B2と樹脂Cの積層体を得た。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A2層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B2層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。密着性評価、高温高湿曝露試験、鉛筆引っかき硬度試験の結果は全て良好であった。
【0043】
実施例3
実施例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン(3:7)共重合樹脂(樹脂B1)の代わりにメタクリル酸メチル−スチレン(6:4)共重合樹脂〔新日鐵化学(株)製、商品名:エスチレンMS600〕(樹脂B3)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂A2と樹脂B3と樹脂Cの積層体を得た。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A2層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B3層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。密着性評価、高温高湿曝露試験、鉛筆引っかき硬度試験の結果は全て良好であった。
【0044】
実施例4
実施例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン(3:7)共重合樹脂(樹脂B1)の代わりにアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂〔旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:スタイラック−AS〕(樹脂B4)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂A2と樹脂B4と樹脂Cの積層体を得た。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A2層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B4層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。密着性評価、高温高湿曝露試験、鉛筆引っかき硬度試験の結果は全て良好であった。
【0045】
比較例1
実施例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン−ビニルシクロヘキサン共重合樹脂(樹脂A2)の代わりにポリメタクリル酸メチル樹脂〔クラレ(株)製、商品名:パラペットHR−1000L〕(樹脂A3)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂A3と樹脂B1と樹脂Cの積層体を得た。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A3層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B1層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。高温高湿曝露試験の結果は不良(反り、白化)であった。
【0046】
比較例2
比較例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(樹脂B1)の代わりにポリメタクリル酸メチル樹脂〔クラレ(株)製、商品名:パラペットHR−1000L〕(樹脂B5)を使用し、シリンダ温度を250℃とした以外は比較例1と同様にして樹脂A3と樹脂B5と樹脂Cの積層体を得た。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A3層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B5層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。高温高湿曝露試験の結果は不良(反り、白化)であった。
【0047】
比較例3
実施例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(樹脂B1)の代わりにポリメタクリル酸メチル樹脂〔クラレ(株)製、商品名:パラペットHR−1000L〕(樹脂B5)を使用し、シリンダ温度250℃とした以外は実施例1と同様にして樹脂A2と樹脂B5と樹脂Cの積層体を得た。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A2層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B5層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。密着性評価の結果は不良(剥離)であった。
【0048】
比較例4
実施例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(樹脂B1)の代わりにポリスチレン樹脂〔PSジャパン(株)製:商品名:PSJポリスチレン〕(樹脂B6)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂A2と樹脂B6と樹脂Cの積層体を得た。得られた積層体の厚みは1.0mm、樹脂A2層の厚みは中央付近で70μm、樹脂B3層の厚みは中央付近で25μmであった。評価結果を第1表に示す。密着性評価の結果は不良(剥離)であった。
【0049】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は高温高湿の環境に対する耐候性、耐擦傷性、層間密着性などに優れるという特徴を有し、透明性基板材料、透明性保護材料などの光学物品として好適に用いられ、特にOA機器・携帯電子機器の表示部前面板として好適に用いられる。