特許第5850215号(P5850215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5850215
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20160114BHJP
【FI】
   B25F5/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-60833(P2011-60833)
(22)【出願日】2011年3月18日
(65)【公開番号】特開2012-196723(P2012-196723A)
(43)【公開日】2012年10月18日
【審査請求日】2013年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094983
【弁理士】
【氏名又は名称】北澤 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095946
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100099829
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 朗子
(74)【代理人】
【識別番号】100135356
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 和隆
(72)【発明者】
【氏名】小泉 俊彰
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−113251(JP,A)
【文献】 特開平09−047085(JP,A)
【文献】 特開平07−308871(JP,A)
【文献】 特開2006−055980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 1/00− 5/02
B23B 35/00−49/06
B24B 3/00− 3/60
B25B 21/00−21/02
B25D 1/00−17/32
H02P 5/00
H02P 7/00
H02M 7/42−7/98
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
商用電源からの交流電力を直流電力に整流する整流回路と、
前記モータに駆動電圧を印加するインバータ回路と、
前記整流回路と前記インバータ回路との間に設けられ、前記直流電力から脈動波形を有する電圧を生成して前記インバータ回路に印加する平滑コンデンサと、
前記モータを流れるモータ電流の電流値を検出する電流検出部と、
前記電流値が第1の電流値よりも大きい場合に前記駆動電圧を低下させるように前記インバータ回路を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電流値が前記第1の電流値より大きな第2の電流値より大きい場合に前記駆動電圧の印加を停止させるように前記インバータ回路を制御し、
前記電流検出部は、前記モータ電流のピーク値を検出し、
前記制御部は、前記ピーク値が前記第1の電流値よりも大きい場合に前記駆動電圧を低下させるとともに、その後に前記ピーク値が前記第1の電流値以下となった場合に前記駆動電圧を増加させるように、前記インバータ回路を制御することを特徴とする電動工具。
【請求項2】
モータと、
商用電源からの交流電力を直流電力に整流する整流回路と、
前記モータに駆動電圧を印加するインバータ回路と、
前記整流回路と前記インバータ回路との間に設けられ、前記直流電力から脈動波形を有する電圧を生成して前記インバータ回路に印加する平滑コンデンサと、
前記モータを流れるモータ電流の電流値を検出する電流検出部と、
前記電流値が第1の電流値よりも大きい場合に前記駆動電圧を低下させるように前記インバータ回路を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電流値が前記第1の電流値より大きな第2の電流値より大きい場合に前記駆動電圧の印加を停止させるように前記インバータ回路を制御し、
前記制御部は、前記駆動電圧が印加されて前記モータを駆動しているときに前記電流値のピーク値が前記第1の電流値より大きくなると前記駆動電圧を低下させ、その後に前記ピーク値が前記第1の電流値以下まで低下すると前記駆動電圧を増加させて前記モータを駆動することを特徴とする電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータ回路でモータを制御することによりモータに接続された先端工具を動作させる電動工具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4487836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、一般に用いられるモータは、大きな電流が流れた場合には、モータの巻線の被覆が劣化して、モータの性能が低下する場合があった。上記のインバータ回路は、大きな電流が流れた場合には、回路を構成する電気部品の性能が低下する場合があった。このような場合には、電気部品の性能が低下することにより、電動工具の性能が低下する場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、モータに大きな電流が流れにくくすることのできる電動工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動工具は、モータと、前記モータに駆動電圧を供給する電圧供給部と、前記モータに流れる電流の電流値を検出する電流検出部と、前記電流値が第1の電流値よりも大きい場合に前記駆動電圧を低下させるように前記電圧供給部を制御する制御部と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、モータに大きな電流が流れにくくなる。このため、大きな電流によって、電気部品やモータの巻線の被覆の性能が低下しにくくなる。電気部品やモータの巻線の性能が低下することが少なくでき、電動工具の性能が低下することを少なくすることができる。
【0008】
また、前記制御部は、前記電流値が前記第1の電流値より大きな第2の電流値より大きい場合に前記駆動電圧の供給を停止させるように前記電圧供給部を制御することを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、大きな電流が流れた際に、モータへと更に大きな電流が流れなくなる。このため、更に大きな電流によって、電気部品やモータの巻線の被覆の性能が低下することが更に少なくなる。
【0010】
また、前記電圧供給部は、前記モータに脈動波形の駆動電圧を供給し、前記電流検出部は、前記脈動波形の駆動電圧により生じる脈動波形の電流のピーク値を検出し、前記制御部は、前記ピーク値が前記第1の電流値よりも大きい場合に前記駆動電圧を低下させるように前記電圧供給部を制御することを特徴としている。
【0011】
このような構成によれば、交流電源を用いたことによる脈動波形の駆動電圧がモータに供給される場合であっても、モータへと大きな電流が流れにくくなる。このため、大きな電流によって、電気部品やモータの巻線の被覆の性能が低下しにくくなる。
【0012】
また、前記電圧供給部は、インバータ回路から構成されていることを特徴としている。
【0013】
このような構成によれば、インバータ回路に大きな電流が流れにくくなる。このため、大きな電流によって、インバータ回路の電気部品の性能が低下しにくくなる。
【0014】
また、本発明の別の観点による電動工具は、モータと、前記モータに目標値の駆動電圧を供給する電圧供給部と、前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、前記回転数に応じて前記目標値を変更する制御部と、を備えたことを特徴としている。
【0015】
このような構成によれば、回転数を検出し、この回転数によって駆動電圧を制御するので、モータに大きな電流が流れにくくなる。このため、大きな電流によって、インバータ回路の電気部品の性能が低下しにくくなる。すなわち、モータの回転数が低下すれば、モータに流れる電流が大きくなったものと推測して、モータの回転数が低下した場合には、駆動電圧を小さくするように制御することができるようになる。
【0016】
また、本発明の別の観点による電動工具は、交流電源に接続可能な電源コードと、前記交流電源によって回転駆動されるブラシレスモータと、前記ブラシレスモータによって駆動される先端工具と、前記ブラシレスモータに流れる電流を検出する電流検出部と、を有する電動工具であって、前記電流が所定値よりも大きい場合に、前記ブラシレスモータの起動電圧を低下させる制御部を設けたことを特徴としている。
【0017】
このような構成によれば、モータに流れる電流が所定値よりも大きい場合には駆動電圧を低下させるので、大きな電流がモータに流れにくくなる。
【0018】
また、前記電流が所定値を越えた際には徐々に駆動電圧を低下させるように前記電圧供給部を制御する制御部を設けることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、モータを駆動する駆動電圧が急変しないので、作業している人が工具を使用している際に、違和感を感じにくい、使いやすい電動工具とすることができる。
【0020】
また、前記駆動電圧の低下にはパルス幅変調信号を用いており、前記パルス幅変調信号のデューティは、所定値よりも大きい場合には100%よりも小さく、所定値よりも小さい場合には100%であることが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、モータに流れる電流が所定値よりも大きい場合には駆動電圧を低下させるので、大きな電流がモータに流れにくくなる。また、モータを駆動する駆動電圧が急変しないので、作業している人が工具を使用している際に、違和感を感じにくい、使いやすい電動工具とすることができる。
【0022】
また、本発明の別の観点による電動工具は、第1の周波数を有する交流電源に接続可能な電源コードと、前記交流電源によって回転駆動されるブラシレスモータと、前記ブラシレスモータによって駆動される先端工具と、前記ブラシレスモータに流れる電流を検出する電流検出部と、を有し、前記ブラシレスモータに流れる電流が前記第1の周波数で脈動する電動工具であって、前記脈動のピークを抑える手段を有することが好ましい。
【0023】
また、前記脈動のピークを抑える手段は、パルス幅変調信号を用いていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電動工具によれば、モータに大きな電流が流れることを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の実施の形態による電動工具の回路図
図2】従来の負荷と電流の関係を示す図
図3】第1の実施の形態による電圧制御の説明図
図4】第1の実施の形態による電圧制御のフローチャート
図5】第2の実施の形態による目標デューティとモータの回転数との関係を示す図
図6】第2の実施の形態による電圧制御の説明図
図7】第2の実施の形態による電圧制御のフローチャート
図8】第3の実施の形態による電動工具の回路図
図9】交流電源を用いて第1の実施の形態を実施した場合の説明図
図10】第3の実施の形態による電圧制御の説明図
図11】第3の実施の形態による電圧制御のフローチャート
図12】変形例による電圧制御の説明図
図13】変形例による電圧制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の第1の実施の形態を図1図4を参照して説明する。
【0027】
図1は、第1の形態による電動工具1の回路図である。図1に示すように、電動工具1は、トリガスイッチ3と、制御回路電圧供給回路4と、モータ5と、回転子位置検出素子6と、制御回路7と、インバータ回路8と、を備えており、トリガスイッチ3が操作されると、電池パック2の電圧がインバータ回路8を介してモータ5に供給されるものである。また、トリガスイッチ3が操作されると、制御回路電圧供給回路4により電池パック2の電圧が昇圧され、制御回路用駆動電圧として制御回路7に供給される。
【0028】
モータ5は、3相のブラシレスDCモータであり、複数組(本実施の形態では2組)のN極とS極を含む永久磁石からなるロータ5Aと、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wからなるステータ5Bと、を備えている。モータ5(ロータ5A)は、電流が流れる固定子巻線U、V、Wが順次切り替わることにより回転する。固定子巻線U、V、Wの切り替えについては後述する。
【0029】
回転子位置検出素子6は、ロータ5Aの永久磁石に対向する位置に、ロータ5Aの周方向に所定の間隔毎(例えば角度60°毎)に配置されており、回転子(ロータ6A)の回転位置に応じた信号を出力する。
【0030】
制御回路7は、モータ電流検出回路71と、電池電圧検出回路72と、制御回路電圧検出回路73と、スイッチ操作検出回路74と、印加電圧設定回路75と、回転子位置検出回路76と、モータ回転数検出回路77と、演算部78と、制御信号出力回路79と、を備えている。
【0031】
モータ電流検出回路71は、モータ5に供給される電流を検出し、演算部78に出力する。電池電圧検出回路72は、電池パック2の電池電圧を検出し、演算部78に出力する。制御回路電圧検出回路73は、制御回路電圧供給回路4から供給された制御回路用駆動電圧を検出し、演算部78に出力する。スイッチ操作検出回路74は、トリガスイッチ3の操作の有無を検出し、演算部78に出力する。印加電圧設定回路75は、トリガスイッチ3の操作量を検出し、演算部78に出力する。
【0032】
回転子位置検出回路76は、回転子位置検出素子6からの信号に基づき回転子(ロータ6A)の回転位置を検出し、モータ回転数検出回路77及び演算部78に出力する。モータ回転数検出回路77は、回転子位置検出回路76からの信号に基づき回転子(ロータ6A)の回転数を検出し、演算部78へ出力する。
【0033】
演算部78は、回転子位置検出回路76とモータ回転数検出回路77からの信号に基づき、切替信号H1−H6を生成し、制御信号出力回路79に出力する。また、演算部78は、印加電圧設定回路75からの信号に基づき、切替信号H4−H6をパルス幅変調信号(PWM信号)として調整し、制御信号出力回路79に出力する。切替信号H1−H6は、制御信号出力回路79を介してインバータ回路8に出力される。なお、切替信号H1−H3をPWM信号として調整する構成であってもよい。
【0034】
インバータ回路8は、スイッチング素子Q1−Q6から構成されている。各スイッチング素子Q1−Q6のゲートは、制御信号出力回路79に接続され、各スイッチング素子Q1−Q6のドレイン又はソースは、ステータ5Bの固定子巻線U、V、Wに接続されている。
【0035】
各スイッチング素子Q1−Q6は、制御信号出力回路79から入力される切替信号H1−H6に基づきスイッチング動作を行い、インバータ回路8に印加される電池パック2の直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
【0036】
詳細には、スイッチング素子Q1−Q6には切替信号H1−H6がそれぞれ入力され、これにより、通電される固定子巻線U、V、W、すなわち、ロータ5Aの回転方向が制御される。また、その際、PWM信号でもあるH4−H6によって、固定子巻線U、V、Wへの電力供給量が制御される。
【0037】
以上の構成により、電動工具1は、トリガスイッチ3の操作量に応じた駆動電圧をモータ5に供給することが可能となる。
【0038】
ところで、モータ5は、過電流が流れた場合に故障する虞がある。例えば、図2に示すように、電流は負荷に比例するため、モータ5に所定以上の負荷がかかった場合には、モータ5を破損させる大きさの電流がモータ5に流れることとなってしまう。
【0039】
そこで、本実施の形態による電動工具1では、図3に示すように、過電流閾値Ithよりも小さな目標電流値Itを設定し、モータ電流検出回路71によって検出された電流の電流値が目標電流値Itよりも大きくなった場合にスイッチング素子Q4−Q6に出力されるPWM信号H4−H6のPWMデューティを減少させる電圧制御を行う。これにより、モータ5に流れる電流も目標電流値Itより小さくなるため、モータ5に過電流が流れることを予防することが可能となる。また、過電流によりモータ5を停止させる可能性が低くなるため、電動工具1による円滑な作業が確保される。更に、過電流に弱いインバータ回路8も保護することが可能となる。
【0040】
ここで、図4を用いて、演算部78により行われる上記電圧制御について詳細に説明する。図4は、本実施の形態による電圧制御のフローチャートである。本フローチャートは、トリガスイッチ3がオンされた時に始まる。
【0041】
まず、演算部78は、モータ5に流れている電流の電流値Iをモータ電流検出回路71より取得し(S101)、電流値Iが過電流閾値Ithよりも大きいか否かを判断する(S102)。
【0042】
電流値Iが過電流閾値Ithより大きかった場合には(S102:YES)、PWM信号H4、H5、H6の目標デューティDtを0%に設定することでモータ5への電力の供給を停止させる(S103)。これにより、モータ5に過電流が流れることが防止されている。
【0043】
一方、電流値Iが過電流閾値Ith以下であった場合には(S102:NO)、続いて、電流値Iが目標電流値Itよりも大きいか否かを判断する(S104)。
【0044】
電流値Iが目標電流値It以下であった場合には(S104:NO)、電流値Iを目標電流値Itまで増加させるための目標デューティDtを設定(上昇)した上で(S105)、S101に戻る。
【0045】
詳細には、Dt=(It−I)×P+D・・・式(1)(Pはフィードバックゲイン、Dは現在のデューティ)により、目標デューティDtを設定し、目標デューティDtに向けてデューティをDa%だけ増加させる。このように、デューティをDa%ずつ増加させることにより、モータ5に過大な突入電流が流れることを防止することができる。
【0046】
一方、電流値Iが目標電流値Itより大きかった場合には(S104:YES)、目標電流値Itを低下させることにより目標デューティDtを低下させた上で(105)、S101に戻る。
【0047】
このように、本実施の形態による電動工具1では、モータ5に流れる電流の電流値Iが目標電流値Itよりも大きい場合に目標デューティDtを低下させる。これにより、モータに流れる電流も目標電流値Itより小さくなるため、モータ5に過電流が流れることを予防することが可能となる。また、過電流によりモータ5を停止させる可能性が低くなるため、電動工具1による円滑な作業が確保される。更に、過電流に弱いインバータ回路8も保護することが可能となる。
【0048】
続いて、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0049】
モータ5の回転数が低い場合と高い場合に同一の電圧を供給すると、低い場合の方がモータ5に大きな電流が流れることとなる。一方、目標デューティの変更は、電流に反映されるまでに多少の時間がかかる。従って、モータ5の回転数が低い場合には、第1の実施の形態による制御を行ったとしても、制御が追従できずに、モータ5に過電流が流れてしまう虞がある。
【0050】
そこで、本実施の形態では、図5に示すように、モータ5の回転数に応じて目標デューティDtを変更する。詳細には、モータ5の回転数が低い間は、目標デューティDtも小さな値に設定することによりモータ5に大きな電圧が供給されないような目標デューティDtを設定する。これにより、図6に示すように、モータ5の回転数が低い間はモータ5に大きな電流が流れることが防止されるので、モータ5に過電流が流れることを適切に予防することが可能となる。
【0051】
次に、図7を用いて本実施の形態による電圧制御について説明する。図7は、本実施の形態による電圧制御のフローチャートである。本フローチャートは、トリガスイッチ3がオンされた時に始まる。なお、S201−S203までのステップは図4におけるS101−S103と同一であるため、説明を省略する。
【0052】
電流値Iが過電流閾値Ith以下であった場合には(S202:NO)、モータ回転数検出回路77よりモータ5の回転数Nを取得し(S204)、回転数Nに基づき、目標電流値Itと、電流値Iを目標電流値Itまで増加させて目標電流値Itで制限させるための目標デューティDtと、を設定した上で(S205)、S201に戻る。本実施の形態では、図5に示すように、回転数が0rpmから所定rpmまでは、目標デューティDtを100%まで比例関係で増加させ、所定rpm以降は100%に固定するものとする。
【0053】
このように、本実施の形態による電動工具1では、モータ5の回転数に応じて目標デューティDtを変更する。これにより、モータ5の回転数が低い間はモータ5に大きな電圧が供給することが防止されるので、モータ5に過電流が流れることを適切に予防することが可能となる。
【0054】
続いて、本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0055】
第1の実施の形態では、電池パック2からの直流電力を直接インバータ回路8に供給したが、商用電源からの交流電力を直流電力に整流・平滑した上でインバータ回路8に供給する構成も考えられる。このような構成として、例えば、図8に示すように、商用電源20とインバータ回路8との間に、ノーマルモードフィルタ21と、整流回路22と、平滑コンデンサ23と、を備え、制御回路7にAC入力電圧検出回路24を備えたものが考えられる。
【0056】
図8に示す構成においては、コスト抑制等の理由により、平滑コンデンサ23として小容量のものを用いる場合がある。小容量のコンデンサを使用する理由は、大容量の平滑コンデンサを使用すると、力率が悪化しその対策として力率を改善する力率改善回路を付加する必要があるからである。力率改善回路を設けるためには、大きなスペースが必要となり、電動工具が大きくなってしまうものである。
【0057】
ここでいう小容量のコンデンサとは、例えば47μF以下の容量を持つコンデンサである。特に10μF以下である場合には、駆動電圧の脈動が起きやすくなってしまうものである。なお、本発明の実施例においては、0.47μFのコンデンサを採用している。この小容量のコンデンサを用いると、電源電圧のリプルが大きくなってしまう。例えば、リプルが70%以上であると、大きな脈動が起きているといえる。なお、リプルは、工具の入力電源の電圧の最大値をV*として、電圧の変化量をdVとした時に、(dV/V*)×100%であらわされる。
【0058】
平滑コンデンサ23として小容量のものを用いる場合には、平滑コンデンサ23によって交流電力が完全に平滑されず、第1の周波数の脈動波形を有する電力がインバータ回路8に供給されることとなる。そして、このような構成において第1の実施の形態による制御を行うと、図9に示すように、電流値Iが目標電流値Itより大きくなってから制御が追従してきた時点で電流値Iが下がり始め、目標電流値It以下まで低下した時に再びデューティを増加させることとなる。
【0059】
しかしながら、この場合に電流値Iが目標電流値It以下まで低下したのは負荷が低減したためではなく、交流電圧が低下したことによるものである。従って、交流のサイクル毎に目標電流値Itを超える電流がモータ5に流れることとなり、モータ5に不要な発熱等を生じさせることとなる。
【0060】
そこで、本実施の形態では、脈動電流のピーク値Ipが目標電流値Itよりも大きい場合にデューティを減少させる。詳細には、図10に示すように、脈動電流のピーク値Ipが目標電流値Itよりも大きい場合にデューティを減少させ、次回のピーク値Ip検出まで減少させたデューティを維持させる。そして、ピーク値Ipが目標電流値It以下となった場合に段階的にデューティを回復させていく。これにより、交流のサイクル毎に目標電流値Itを超える電流がモータ5に流れることがなくなるため、モータ5に不要な発熱等を生じさせることを防止することが可能となる。
【0061】
ここで、図11を用いて、本実施の形態による電圧制御について詳細に説明する。図11は、本実施の形態による電圧制御のフローチャートである。本フローチャートは、トリガスイッチ3がオンされた時に始まる。なお、S301−S303までのステップは図4におけるS101−S103と同一であるため、説明を省略する。
【0062】
一方、電流値I(t)が過電流閾値Ith以下であった場合には(S302:NO)、続いて、電流値I(t)が記憶されている電流値I(t−1)より小さくなったか否かを判断する(S304)。
【0063】
電流値I(t)が電流値I(t−1)より以上であった場合には(S302:NO)、電流値I(t)を電流値I(t−1)として記憶した上で(S305)、S301に戻る。
【0064】
一方、電流値I(t)が電流値I(t−1)より小さくなっていた場合には(S302:YES)、電流値I(t−1)をピーク値Ipとして決定する(S306)。なお、本実施の形態では、実際のピーク値と十分に近似した値を検出することができるようなサンプリング期間で電流値I(t)を検出するものとする。
【0065】
続いて、ピーク値Ipが目標電流値Itよりも大きいか否かを判断する(S307)。
【0066】
ピーク値Ipが目標電流値It以下であった場合には(S307:NO)、ピーク値Ipを目標電流値Itまで増加させて目標電流値Itで制限させるための目標デューティDtを設定した上で(S308)、S301に戻る。
【0067】
一方、ピーク値Ipが目標電流値Itより大きかった場合には(S307:YES)、目標電流値Itを低下させるために目標デューティDtを低下させた上で(309)、S301に戻る。
【0068】
このように、本実施の形態による電動工具1では、脈動電流のピーク値Ipが目標電流値Itよりも大きい場合にデューティを低下させるので、交流のサイクル毎に目標電流値Itを超える電流がモータ5に流れることがなくなるため、モータ5に不要な発熱等を生じさせることを防止することが可能となる。
【0069】
尚、本発明の電動工具は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0070】
例えば、第1の実施の形態と第2の実施の形態とを同時に行ってもよい。詳細には、モータ5の回転数に応じて目標デューティDtを変更し、電流値Iが目標電流値Itよりも大きい場合に目標デューティDtを低下させることにより、モータ5に流れる電流を減少させてもよい。
【0071】
この場合、図12に示すように、モータ5の回転数が低い間はモータ5に大きな電圧が供給されないような目標デューティDtを設定し、モータ5の回転数が所定以上となった後はデューティを100%固定する。そしてデューティを100%に固定した後は、電流値Iが目標電流値Itよりも大きくなった場合に目標デューティDtを低下させることとなる。
【0072】
ここで、図13を用いて、変形例による電圧制御について詳細に説明する。図13は、変形例による電圧制御のフローチャートである。本フローチャートは、トリガスイッチ3がオンされた時に始まる。
【0073】
まず、演算部78は、モータ5に流れている電流の電流値Iをモータ電流検出回路71より取得し(S401)、電流値Iが過電流閾値Ithよりも大きいか否かを判断する(S402)。
【0074】
電流値Iが過電流閾値Ithより大きかった場合には(S402:YES)、PWM信号H4、H5、H6の目標デューティDtを0%に設定することでモータ5への電力の供給を停止させる(S403)。
【0075】
一方、電流値Iが過電流閾値Ith以下であった場合には(S402:NO)、続いて、モータ回転数検出回路77よりモータ5の回転数Nを取得し(S404)、回転数Nに基づき目標電流値It及び電流値Iを目標電流値Itまで増加させるための目標デューティDtを設定する(S405)。
【0076】
続いて、電流値IがS405で設定された目標電流値Itよりも大きいか否かを判断する(S406)。
【0077】
電流値Iが目標電流値It以下であった場合には(S406:NO)、電流値Iを目標電流値Itまで増加させて目標電流値Itで制限させるための目標デューティDtを設定した上で(S407)、S401に戻る。
【0078】
一方、電流値Iが目標電流値Itより大きかった場合には(S406:YES)、目標電流値Itを低下させるために目標デューティDtを低下させた上で(408)、S401に戻る。
【0079】
このように、第1の実施の形態と第2の実施の形態とを同時に行うことで、モータ5に過電流が流れることをより効果的に予防することが可能となる。
【0080】
また、第1の実施の形態では、電流値Iが目標電流値Itより大きい場合に一定の低下率で電圧を低下させたが、電流値Iの大きさに応じて低下率を変更してもよい。
【0081】
また、上記実施の形態では、電流値Iが過電流閾値Ithより大きくなった場合にモータ5への電圧の供給を停止させたが、電流値Iが所定時間以上に亘って目標電流値Itより大きく過電流閾値Ith以下の場合にモータ5への電圧の供給を停止させてもよい。この場合、モータ5やインバータ回路8の過電流に対する弱さに応じて上記所定時間を変更してもよい。
【0082】
また、例えば、電動工具1がドライバである場合の締結終了時のロック検出を行ってもよい。この場合、例えば、(1)回転数Nが所定値以下の場合、(2)回転数Nが所定値以下、かつ、電流値Iが所定値以上の場合、(3)所定値以上の電流値Iが所定時間以上継続した場合、ロック検出を行うことが考えられる。
【符号の説明】
【0083】
1 電動工具
2 電池パック
5 モータ
7 制御回路
8 インバータ回路
20 商用電源
71 モータ電流検出回路
77 モータ回転数検出回路
78 演算部
図1
図2
図3
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図5
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図10
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図13