(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記調整段階が、第1方向測定段階の後に、上記防振アクチュエータの可動部を上記第1の方向に移動可能な範囲の略中央に移動させる段階を、さらに有し、上記第2の方向は上記第1の方向に略直交する方向であり、上記記憶段階において、上記可動部初期位置が、上記第1の方向における移動可能な範囲の略中央且つ上記第2の方向における移動可能な範囲の略中央に決定される請求項1記載のレンズユニットの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、係止時における可動部の「緩み」を減少させると、非像振れ防止制御状態から像振れ防止制御に移行する際に、ファインダーに形成される画像が大きく乱れてしまう場合があるという新たな問題を、本願発明者は見出した。即ち、像振れ防止制御の開始時においては、可動部が係止機構により係止された状態で可動部に駆動力が作用され、可動部は所定の初期位置に移動するように制御される。ここで、可動部が移動される初期位置が、係止状態にある可動部の可動範囲内(係止状態における「緩み」の範囲内)である場合には、可動部は正常に初期位置に移動され、円滑に像振れ防止制御に移行することができる。
【0007】
しかしながら、初期位置が、係止状態にある可動部の可動範囲から外れている場合には、可動部が係止機構と機械的に接触する位置まで移動された後も、可動部は依然として初期位置まで到達することができず、可動部には初期位置まで移動させるべく制御力が作用し続ける。従って、この状態においては、可動部は、制御力により係止機構の当接部に押し付けられた状態で保持される。可動部が係止機構の当接部に押し付けられた状態において係止が解除されると、係止機構の当接部が可動部から突然離れるので、可動部は制御力により初期位置を通り過ぎて大きく移動されてしまう。即ち、初期位置へ到達させるために制御力が加えられていた可動部は、係止機構による係止が解除されることにより、目標としていた初期位置を大きくオーバーシュートして通り越してしまう。このため、像振れ防止制御の開始時において、ファインダーに形成される画像が大きく乱れることになる。
【0008】
このような問題は、非像振れ防止制御時における画質を改善するために、係止状態における可動部の「緩み」を小さく設計した場合において、特に発生しやすくなる。即ち、係止状態にある可動部の可動範囲は、種々の機械的な寸法精度等の影響を受ける。一方、可動部を移動させる初期位置は、電気的に位置が制御されるものであり、初期位置の位置決め精度は、制御に使用される位置センサ、増幅器等のばらつきの影響を受ける。このため、係止状態における可動部の「緩み」を小さく設計した場合には、制御により位置決めされる初期位置を、係止状態における可動部の可動範囲の中に、確実に収めることが困難になる。本発明は、このような新たに生じた技術課題を解決するためになされたものである。
【0009】
このように、本発明は、係止状態における「緩み」を小さく設計した場合においても、円滑に像振れ防止制御に移行することができる防振アクチュエータ、及びそれを備えたレンズユニット、カメラ、及びそれらの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、像振れ防止用レンズを移動させることにより像振れ防止制御を実行する、係止機構を備えた防振アクチュエータであって、固定部と、像振れ防止用レンズが取り付けられた可動部と、この可動部を、固定部に対して移動可能に支持する可動部支持手段と、固定部と可動部の間に駆動力を作用させ、固定部に対して可動部を駆動する駆動手段と、像振れ防止制御時においては可動部と干渉せず、非像振れ防止制御時においては、可動部が移動し得る範囲を所定の係止時可動範囲内に制限することにより、可動部を機械的に係止する可動部係止機構と、像振れ防止制御の開始時において可動部を移動させる可動部初期位置が記憶されている記憶部と、像振れ防止制御の開始時において、駆動手段を制御して、可動部を可動部初期位置に移動させると共に、可動部係止機構による係止を解除する制御部と、を有し、記憶部は、予め調整を行うことにより決定された、係止時可動範囲内における可動部の所定の位置を、可動部初期位置として記憶していることを特徴としている。
【0011】
このように構成された本発明においては、像振れ防止用レンズが取り付けられた可動部が、可動部支持手段により固定部に対して移動可能に支持される。駆動手段は、固定部と可動部の間に駆動力を作用させ、固定部に対して可動部を駆動する。可動部係止機構は、像振れ防止制御時においては可動部と干渉せず、非像振れ防止制御時においては、可動部が移動し得る範囲を所定の係止時可動範囲内に制限することにより、可動部を機械的に係止する。制御部は、像振れ防止制御の開始時において、駆動手段を制御して、記憶部に記憶されている可動部初期位置に可動部を移動させると共に、可動部係止機構による係止を解除する。記憶部に記憶されている可動部初期位置は、予め調整を行うことにより、係止時可動範囲内における所定の位置として決定されている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、像振れ防止制御の開始時において、可動部は、予め調整を行うことにより決定された係止時可動範囲内の可動部初期位置に移動される。このため、像振れ防止制御の開始時において、係止状態では可動部を移動させることができない位置を目標位置として、可動部が制御されるのを防止することができ、これに伴う不具合を回避することができる。これにより、本発明によれば、係止状態における「緩み」を小さく設計した場合においても、円滑に像振れ防止制御に移行することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、可動部係止機構は、可動部と当接することにより可動部が移動し得る範囲を係止時可動範囲内に制限する複数の当接部を有し、可動部初期位置は、可動部と、各当接部が接触しない位置に決定されている。
【0014】
このように構成された本発明によれば、可動部初期位置が、可動部と可動部係止機構の当接部が接触しない位置に決定されているので、係止状態において可動部初期位置に移動された可動部と、当接部との間で力を及ぼし合うことがなく、係止状態が解除された際に、制御力により可動部が大きく移動されるのを防止することができる。
【0015】
また、本発明は、レンズユニットであって、レンズ鏡筒と、このレンズ鏡筒の内部に配置された撮像用レンズと、本発明の防振アクチュエータと、を有することを特徴としている。
【0016】
さらに、本発明は、カメラであって、カメラ本体と、このカメラ本体に取り付けられた本発明のレンズユニットと、を有することを特徴としている。
【0017】
また、本発明は、像振れ防止制御を実行する防振アクチュエータを備えたレンズユニットの製造方法であって、撮像用レンズ及び防振アクチュエータをレンズ鏡筒の内部に配置する段階と、防振アクチュエータの可動部係止機構を、係止状態にする係止段階と、防振アクチュエータを調整する調整段階と、を有し、この調整段階が、防振アクチュエータの可動部を、係止状態において第1の方向に駆動し、可動部が第1の方向に移動可能な範囲を測定する第1方向測定段階と、防振アクチュエータの可動部を、係止状態において、第1の方向とは異なる第2の方向に駆動し、可動部が第2の方向に移動可能な範囲を測定する第2方向測定段階と、防振アクチュエータが像振れ防止制御を開始する際の、可動部の可動部初期位置を、第1の方向における移動可能な範囲内且つ第2の方向における移動可能な範囲内に決定し、記憶部に記憶させる記憶段階と、を備えることを特徴とするレンズユニットの製造方法。
【0018】
このように構成された本発明においては、撮像用レンズ及び防振アクチュエータがレンズ鏡筒の内部に配置され、レンズユニットが組み立てられる。次いで、防振アクチュエータの可動部係止機構が係止状態にされ、この状態において、防振アクチュエータの調整が行われる。防振アクチュエータの調整においては、まず、可動部が第1の方向に駆動され、可動部が第1の方向に移動可能な範囲が測定され、次いで、第1の方向とは異なる第2の方向に可動部が駆動され、第2の方向に移動可能な範囲が測定される。さらに、可動部初期位置が、第1の方向における移動可能な範囲内且つ第2の方向における移動可能な範囲内に決定され、この可動部初期位置が記憶部に記憶される。
【0019】
このように構成された本発明によれば、可動部初期位置が第1、第2の方向における移動可能な範囲内に決定されので、係止状態において可動部が移動することができない位置に可動部初期位置が設定されることがない。このため、像振れ防止制御の開始時において、係止状態では可動部を移動させることができない位置を目標位置として、可動部が制御されるのを防止することができ、これに伴う不具合を回避することができる。これにより、本発明によれば、係止状態における「緩み」を小さく設計した場合においても、円滑に像振れ防止制御に移行することができるレンズユニットを製造することができる。また、このように構成された本発明によれば、可動部係止機構の種々の部品の寸法精度、位置決め精度等の影響を受ける可動部の係止時可動範囲を、レンズユニットが組み立てられた状態で測定することができるので、正確に可動部初期位置を決定することができる。
【0020】
本発明において、好ましくは、調整段階が、第1方向測定段階の後に、防振アクチュエータの可動部を第1の方向に移動可能な範囲の略中央に移動させる段階を、さらに有し、第2の方向は第1の方向に略直交する方向であり、記憶段階において、可動部初期位置が、第1の方向における移動可能な範囲の略中央且つ第2の方向における移動可能な範囲の略中央に決定される。
【0021】
このように構成された本発明によれば、可動部初期位置が、第1、第2の方向における移動可能な範囲の略中央に決定されるので、可動部初期位置を、可動部が可動部係止機構に最も接触しにくい位置に決定することができる。これにより、経年変化等により係止時可動範囲が変化した場合においても、可動部と可動部係止機構の接触を確実に防止することができる。
【0022】
本発明において、好ましくは、調整段階が、可動部が並進移動のみ可能な状態に制御された状態で実行される。
このように構成された本発明においては、調整段階において、可動部の回転が規制されているので、係止時可動範囲の測定時において、可動部が常に同じ姿勢で可動部係止機構に当接し、係止時可動範囲を正確に測定することができる。
【0023】
また、本発明は、像振れ防止用レンズを移動させることにより像振れ防止制御を実行する、係止機構を備えた防振アクチュエータの製造方法であって、固定部、像振れ防止用レンズが取り付けられた可動部、及びこの可動部を係止する可動部係止機構を組み付ける段階と、可動部係止機構を、係止状態にする係止段階と、可動部を、係止状態において第1の方向に駆動し、可動部が第1の方向に移動可能な範囲を測定する第1方向測定段階と、可動部を、係止状態において、第1の方向とは異なる第2の方向に駆動し、可動部が第2の方向に移動可能な範囲を測定する第2方向測定段階と、防振アクチュエータが像振れ防止制御を開始する際の、可動部の可動部初期位置を、第1の方向における移動可能な範囲内且つ第2の方向における移動可能な範囲内に決定し、記憶部に記憶させる記憶段階と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明の防振アクチュエータ、及びそれを備えたレンズユニット、カメラ、及びそれらの製造方法によれば、係止状態における「緩み」を小さく設計した場合においても、円滑に像振れ防止制御に移行することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
まず、
図1乃至
図7を参照して、本発明の第1実施形態によるカメラを説明する。
図1は本発明の第1実施形態によるカメラの断面図である。
図1に示すように、本実施形態のカメラ1は、レンズユニット2と、カメラ本体4と、を有する。レンズユニット2は、レンズ鏡筒6と、このレンズ鏡筒の中に配置された複数の撮像用レンズ8と、像振れ防止用レンズ16を所定の平面内で移動させる防振アクチュエータ10と、レンズ鏡筒6の振動を検出する振動検出手段であるジャイロ34と、を有する。
【0027】
本発明の第1実施形態のカメラ1は、ジャイロ34によって振動を検出し、検出された振動に基づいて防振アクチュエータ10を作動させて像振れ防止用レンズ16を移動させ、カメラ本体4内の撮像素子Cに合焦される画像を安定化させている。本実施形態においては、ジャイロ34として、圧電振動ジャイロを使用している。なお、本実施形態においては、像振れ防止用レンズ16は、1枚のレンズによって構成されているが、画像を安定させるためのレンズは、複数枚のレンズ群であっても良い。本明細書において、像振れ防止用レンズとは、画像を安定させるための1枚のレンズ及びレンズ群を含むものとする。
【0028】
レンズユニット2は、カメラ本体4に取り付けられ、入射した光を撮像素子Cに結像させるように構成されている。
概ね円筒形のレンズ鏡筒6は、内部に複数の撮像用レンズ8を保持しており、一部の撮像用レンズ8を移動させることによりピント調整を可能としている。
【0029】
次に、
図2乃至
図7を参照して、防振アクチュエータ10を説明する。
図2は、本発明の第1実施形態のカメラに備えられた防振アクチュエータの側面断面図である。
図3は防振アクチュエータ10の可動部を示す正面図であり、
図4は防振アクチュエータ10の可動部を取り外して示す固定部の正面図である。なお、
図2は、防振アクチュエータ10を
図3のII−II線に沿って破断した状態を示す断面図である。
図5は防振アクチュエータ10の分解斜視図である。
図6は可動部の係止用アームと、これを駆動するアーム駆動板を示す斜視図である。
図7は防振アクチュエータ10の係止機構を模式的に示す図である。
【0030】
図2乃至
図5に示すように、防振アクチュエータ10は、レンズ鏡筒6内に固定された固定部である固定板12と、この固定板12に対して並進移動及び回転移動可能に支持された可動部である移動枠14と、この移動枠14を支持する可動部支持手段である3つのスチールボール18と、を有する。さらに、防振アクチュエータ10は、固定板12に取り付けられた第1駆動用コイル20a、第2駆動用コイル20b、及び第3駆動用コイル20cと、移動枠14の、各駆動用コイル20a、20b、20cに夫々対応する位置に取り付けられた第1駆動用磁石22a、第2駆動用磁石22b、及び第3駆動用磁石22cと、各駆動用コイル20a、20b、20cの内側に夫々配置された第1、第2、第3位置検出素子である第1磁気センサ24a、第2磁気センサ24b、第3磁気センサ24cと、を有する。
【0031】
また、防振アクチュエータ10は、各駆動用磁石の磁力によって移動枠14を固定板12に吸着させるために、固定板12の裏側に取り付けられた吸着用ヨーク26を有する。なお、第1駆動用コイル20a、第2駆動用コイル20b、第3駆動用コイル20c、及びこれらに対応する位置に夫々取り付けられた第1駆動用磁石22a、第2駆動用磁石22b、第3駆動用磁石22cは、移動枠14を固定板12に対して駆動する第1、第2、第3駆動手段を夫々構成する。
【0032】
さらに、
図1に示すように、防振アクチュエータ10は、ジャイロ34によって検出された振動と、第1、第2、第3磁気センサ24a、24b、24cによって検出された移動枠14の位置情報に基づいて、第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cに流す電流を制御する制御部であるコントローラ36を有する。また、防振アクチュエータ10は、像振れ防止制御の開始時に移動枠14を移動させる可動部初期位置を記憶させるための記憶部36aを有する。
【0033】
防振アクチュエータ10は、移動枠14を、レンズ鏡筒6に固定された固定板12に対して撮像素子面Cに平行な平面内で並進移動させ、これにより移動枠14に取り付けられた像振れ防止用レンズ16を移動させてレンズ鏡筒6が振動しても撮像素子面Cに結像される像が乱れることがないように駆動される。
【0034】
図2及び
図4に示すように、固定板12は概ねドーナツ板状の形状を有し、その上に第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cが配置されている。
図4に示すように、これら3つの駆動用コイルは、その中心が、レンズユニット2の光軸を中心とする円周上にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、第1駆動用コイル20aは光軸の鉛直下方に配置され、第2駆動用コイル20bは光軸に対して水平方向に配置され、駆動用コイル20cは、第1駆動用コイル20a及び第2駆動用コイル20bから夫々中心角135゜隔てた位置に配置されている。従って、第1駆動用コイル20aと第2駆動用コイル20bの間は中心角90゜、第2駆動用コイル20bと第3駆動用コイル20cの間は中心角135゜、駆動用コイル20cと20aの間は中心角135゜隔てられていることになる。
【0035】
第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cは、夫々、その巻線が角の丸い矩形状に巻かれている。第1、第2駆動用コイル20a、20bは、概ね矩形状であり、その長辺を横切る中心線が、Y軸、X軸と夫々一致するように配置されている。即ち、第1、第2駆動用コイル20a、20bは、像振れ防止用レンズの光軸Aを中心とする円の接線方向の長さが、半径方向の長さよりも長く、その長辺が接線方向に向けられている。また、第3駆動用コイル20cは、第1、第2駆動用コイルよりも小型の概ね長方形状であり、その短辺を横切る中心線が、光軸Aを中心とする円の半径方向に向くように配置されている。
【0036】
図2及び
図3に示すように、移動枠14は概ねドーナツ板状の形状を有し、中央の開口には、像振れ防止用レンズ16が取り付けられている。また、移動枠14の中央開口の周囲には、像振れ防止用レンズ16を取り囲むように、円筒状の周囲壁部14aが形成されている。この周囲壁部14aの外周面の4箇所には、周囲壁部14aを切り欠くことにより形成された係止用当接面14bが形成されている。係止用当接面14bは、周囲壁部14aの外周面に等間隔に凹部を形成することにより構成された平面である。係止用当接面14bの詳細については後述する。
【0037】
また、移動枠14上の円周の、第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cに対応する位置には、第1、第2、第3駆動用磁石22a、22b、22cが夫々配置されている。第1、第2駆動用磁石22a、22bは、概ね長方形状であり、その長辺を横切る中心線が、Y軸、X軸と夫々一致するように配置されている。また、第1、第2駆動用磁石22a、22bは、その短辺を横切る中心線が着磁境界線Cとなるように着磁されている。第3駆動用コイル20cは、第1、第2駆動用磁石よりも小型の概ね長方形状であり、その長辺を横切る中心線が、円周の半径方向と一致するように配置されている。また、第3駆動用磁石22cは、その長辺を横切る中心線が着磁境界線Cとなるように着磁されている。即ち、第1、第2駆動用磁石22a、22bは着磁境界線Cが光軸Aを中心とする円の接線方向に向くように、第3駆動用磁石22cは着磁境界線Cが円の半径方向に向くように夫々配置されている。
【0038】
図2に示すように、第1駆動用磁石22aの着磁境界線Cは、長方形の第1駆動用磁石22aの各短辺の中点を通るように位置すると共に、第1駆動用磁石22aの厚さ方向にも極性が変化している。本実施形態においては、
図2における左下の角がS極、右下がN極、左上がN極、右上がS極になっている。また、第2駆動用磁石22bも同様に着磁されており、移動枠14への取り付け方向が90゜回転されている(
図3)。なお、本明細書において、着磁境界線Cとは、駆動用磁石の両端を夫々S極、N極としたとき、その中間のS極からN極に極性が変化する点を連ねた線を言うものとする。
【0039】
このように着磁されていることにより、第1、第2駆動用磁石22a、22bは、主に長方形の第1、第2駆動用コイル20a、20bの長辺の部分に磁気を及ぼす。これにより、第1駆動用コイル20aに電流が流れると、第1駆動用磁石22aとの間にY軸に沿った鉛直方向の駆動力が発生し、第2駆動用コイル20bに電流が流れると、第2駆動用磁石22bとの間にX軸に沿った水平方向の駆動力が発生する。
【0040】
即ち、第1駆動用コイル20a及び第1駆動用磁石22aにより構成される第1駆動手段による駆動力の作用線は、像振れ防止用レンズ16の概ね半径方向に向けられ、第2駆動用コイル20b及び第2駆動用磁石22bにより構成される第2駆動手段による駆動力の作用線は、第1駆動手段による駆動力の作用線とほぼ直交すると共に、像振れ防止用レンズ16の概ね半径方向に向けられる。
【0041】
一方、
図3に示すように、第3駆動用磁石22cは、着磁境界線Cが光軸Aを中心とする円の半径方向に向くように配置されている。第3駆動用コイル20cの半径方向に向けられた部分に第3駆動用磁石22cの磁気が及ぼされると、第3駆動用コイル20cに電流が流れたとき駆動力が発生する。この駆動力は、第3駆動用磁石22cとの間に光軸Aを中心とする円の接線方向に作用する。第3駆動手段を構成する第3駆動用コイル20c及び第3駆動用磁石22cは、第1、第2駆動用コイル及び第1、第2駆動用磁石よりも小型に構成されているため、駆動用コイルに同一の電流が流れた場合に第3駆動手段が発生する駆動力は、第1、第2駆動手段が発生する駆動力よりも小さくなる。
【0042】
また、本実施形態においては、防振アクチュエータ10の可動部分(移動枠14、像振れ防止用レンズ16、及び各駆動用磁石)の重心はほぼ光軸A上に位置するため、光軸Aを中心とする円の半径方向に向けられた第1駆動手段の駆動力により、移動枠14は鉛直方向にほぼ正確に並進移動される。同様に、第2駆動手段の駆動力により、移動枠14は水平方向にほぼ正確に並進移動される。第3駆動手段は、移動枠14の並進移動に伴って生じる僅かな回転移動を抑制するように設けられているため、第3駆動手段が発生する必要のある駆動力は、第1、第2駆動手段よりも小さなものである。
【0043】
図2及び
図4に示すように、各駆動用コイルの内側には、第1磁気センサ24a、第2磁気センサ24b、第3磁気センサ24cが夫々配置されている。第1、第2、第3磁気センサ24a、24b、24cは、第1、第2、第3駆動手段が発生する駆動力の作用線に平行な方向の、固定板12に対する移動枠14の位置を測定するように構成されている。また、各磁気センサは、移動枠14が中立位置にあるとき、その感度中心点Sが、各駆動用磁石22の磁気的中立軸線C上に位置するように配置されている。本実施形態においては、磁気センサとしてホール素子を使用している。
【0044】
磁気センサからの出力信号は、磁気センサの感度中心点Sが駆動用磁石の着磁境界線C上に位置する場合には0であり、駆動用磁石が移動し、磁気センサ感度中心点Sが駆動用磁石の着磁境界線C上から外れると、磁気センサの出力信号が変化する。駆動用磁石の移動量が微小である、防振アクチュエータ10の通常の作動中においては、駆動用磁石の着磁境界線Cに直交する方向の移動距離にほぼ比例した信号が出力される。
【0045】
このため、第1磁気センサ24aは移動枠14のY軸方向の並進移動量にほぼ比例した信号を出力し、第2磁気センサ24bは移動枠14のX軸方向の並進移動量にほぼ比例した信号を出力する。また、第3磁気センサ24cは移動枠14の移動の、回転移動成分を多く含む信号を出力する。これら第1、第2、第3磁気センサ24a、24b、24cによって検出された信号に基づいて、移動枠14が固定枠12に対して並進移動及び回転移動した位置を特定することができる。
【0046】
図2及び
図4に示すように、3つのスチールボール18は、固定枠12と移動枠14の間に挟持され、光軸Aを中心とする円の円周上に夫々、中心角120゜の間隔を隔てて配置されている。固定枠12には、各スチールボール18に対応する位置に凹部30が形成されている。また、移動枠14には、各スチールボール18に対応する位置に凹部31が形成されている。各スチールボール18は、これらの凹部30、31の中に配置され、脱落が防止される。また、後述するように、移動枠14は駆動用磁石により固定板12に吸着されるので、各スチールボール18は固定板12と移動枠14の間に挟持される。これにより、移動枠14は固定板12に平行な平面上に支持され、各スチールボール18が挟持されながら転がることによって、移動枠14の固定板12に対する任意の方向の並進運動及び回転運動が許容される。
【0047】
図2に示すように、吸着用ヨーク26は概ね長方形板状であり、固定板12の、各駆動用コイルの裏側に夫々取り付けられている。各駆動用磁石がこれらの各吸着用ヨーク26に及ぼす磁力により、移動枠14は固定板12に吸着される。
【0048】
次に、
図5乃至
図7を参照して、防振アクチュエータ10の可動部係止機構を説明する。
図5乃至
図7に示すように、防振アクチュエータ10の可動部係止機構は、アーム支持板40と、このアーム支持板40に回動可能に取り付けられた4本の係止用アーム42と、これらの係止用アーム42を駆動するためのアーム駆動板44と、このアーム駆動板44を回転駆動するための駆動モータ46と、この駆動モータ46を支持するためのモータ支持板48と、を有する。
【0049】
アーム支持板40は、レンズ鏡筒6内に固定されたドーナツ板状の部材である。アーム支持板40は、その中央の開口部を通して、移動枠14の周囲壁部14aが突出するように配置されている。また、アーム支持板40には、光軸Aを中心とする円周上に配置された4つのアーム軸受40aが形成されている。これらのアーム軸受40aが、各係止用アーム42のアーム軸42aを回動可能に受け入れることにより、4本の係止用アーム42はアーム支持板40によって回動可能に支持される。
【0050】
係止用アーム42は、アーム支持板40と平行に延びる細長いアーム本体部42bと、このアーム本体部42bの一方の端部からアーム支持板40に向けて延びるアーム軸42aと、アーム本体部42bのもう一方の端部から、アーム軸42aとは反対の方向に延びるカムフォロワ突起42cと、アーム本体部42bの中間部に形成された可動部係止機構の当接部であるアーム当接部42dと、を有する。
【0051】
アーム軸42aは、アーム本体部42bの一方の端部から、アーム支持板40に向けて光軸A方向に延びる円柱状の部分であり、アーム支持板40のアーム軸受40aに回動可能に受け入れられる。これにより、係止用アーム42は、アーム支持板40と平行な平面内(光軸Aと直交する平面内)で、アーム軸受40aを中心に回動可能に支持される。一方、アーム支持板40の中央開口部からは、像振れ防止用レンズ16を取り囲むように形成された移動枠14の周囲壁部14aが突出しているので、4つの係止用アーム42は、像振れ防止用レンズ16及び周囲壁部14aの周囲に配置されることになる。
【0052】
カムフォロワ突起42cは、アーム本体部42bの、アーム軸42aとは反対側の端部に形成され、アーム本体部42bから、光軸A方向に、アーム軸42aとは反対の方向に延びる円柱状の部分である。なお、カムフォロワ突起42cはアーム駆動板44に設けられたカム溝44aに受け入れられ、カムフォロワ突起42cがカム溝44aに沿って移動されることにより、係止用アーム42が回動される。
【0053】
アーム当接部42dは、アーム本体部42bの、中間部分に形成されている。
図7に示すように、アーム当接部42dは、アーム支持板40と平行な平面内で、光軸Aを中心とする円の半径方向内方に突出している。アーム当接部42dは、移動枠14の係止状態において、移動枠14に設けられている係止用当接面14bと当接することにより、移動枠14が移動し得る範囲を所定の係止時可動範囲内に制限するように構成されている。厳密には、移動枠14は、各アーム当接部42dによって「緩み」をもって係止されているので、各係止用アーム42が
図7に示すように係止位置に移動された状態にあっても、係止時可動範囲内において、微少距離移動することができる。
【0054】
図6に示すように、アーム駆動板44は、アーム支持板40と平行に配置されたドーナツ板状の部材である。また、アーム駆動板44は、レンズ鏡筒6内で光軸Aを中心に回動可能に支持されている。アーム駆動板44の、アーム支持板40と対向する面には、4本のカム溝44aが形成されている。各カム溝44aは、各係止用アーム42のカムフォロワ突起42cを受け入れるように構成されている。
【0055】
各カム溝44aは、光軸Aを中心とする円の概ね円周方向に延びる細長い溝であり、各カム溝44aの一方の端部は光軸Aを中心とする円の半径方向内方に位置し、他方の端部は半径方向外方に位置している。このため、各カム溝44aが各カムフォロワ突起42cを受け入れた状態でアーム駆動板44が回動されることにより、各係止用アーム42はアーム軸42aを中心に回動される。即ち、カムフォロワ突起42cがカム溝44aの半径方向内方に位置する部分に受け入れられている時は、カムフォロワ突起42c及びアーム当接部42dは半径方向内方に位置し、移動枠14は係止状態となる。また、アーム駆動板44が回動され、カムフォロワ突起42cがカム溝44aの半径方向外方に位置する部分に受け入れられた状態になると、カムフォロワ突起42c及びアーム当接部42dは半径方向外方に移動され、移動枠14の係止が解除される。
【0056】
さらに、アーム駆動板44外周の一部には、鋸歯状の歯44bが形成されている。この歯44bが駆動モータ46の出力軸に取り付けられた歯車46aと噛み合うことにより、アーム駆動板44は駆動モータ46により回転駆動される。
【0057】
モータ支持板48は、レンズ鏡筒6内に固定されたドーナツ板状の部材であり、駆動モータ46の出力軸に取り付けられた歯車46aが、アーム駆動板44に設けられた歯44bと噛み合うように、駆動モータ46を所定の位置に支持している。
【0058】
次に、
図8乃至
図16を参照して、本発明の第1実施形態による防振アクチュエータ10の製造方法、及びそれを備えたレンズユニット2の製造方法を説明する。
図8は、本実施形態によるレンズユニット2の製造手順を示すフローチャートである。
図9乃至
図16は、本実施形態によるレンズユニット2の調整手順を説明するための図であり、像振れ防止用レンズ16の位置を模式的に示している。
【0059】
まず、
図8のステップS1においては、防振アクチュエータ10が組み立てられる。即ち、第1、第2、第3駆動用コイル、第1、第2、第3磁気センサ等が取り付けられた固定板12に、第1、第2、第3駆動用磁石等が取り付けられた移動枠14を組み付ける。この際、固定板10と移動枠14の間に挟持されるように、これらの部材の間に3つのスチールボール18を配置する。次に、アーム支持板40とアーム駆動板44の間に4本の係止用アーム42を配置し、更に、駆動モータ46が取り付けられたモータ支持板48を取り付けることにより、可動部係止機構を組み立てる。組み立てられた可動部係止機構を、固定板12に取り付けることにより、防振アクチュエータ10が組み立てられる。
ステップS2においては、撮像用レンズ8、防振アクチュエータ10等をレンズ鏡筒6の内部に配置することにより、レンズユニット2が組み立てられる。
【0060】
次に、ステップS3乃至S11においては、防振アクチュエータ10が調整される。
まず、ステップS3においては、防振アクチュエータ10の移動枠14が重力により移動されないように、組み立てられたレンズユニット2を水平に配置する。この状態においては、可動部係止機構による係止が行われていないため、
図9に示すように、移動枠14は、その可動端まで移動することができ、移動枠14に取り付けられた像振れ防止用レンズ16は、概ね図中の破線で示す範囲で移動することができる。一方、
図10に示すように、係止状態においては、移動枠14は各係止用アーム42により係止されるが、この状態においても若干の「緩み」(ガタ)があり、像振れ防止用レンズ16は、概ね
図10に破線で示す係止時可動範囲R内で移動することができる。なお、
図10においては、係止時可動範囲Rは説明のために大きく描かれており、実際には、係止時可動範囲R内での移動量は最大でも数十μmのオーダーである。
【0061】
次に、ステップS4においては、移動枠14を、並進移動のみ可能な状態に制御する。具体的には、Y軸方向、X軸方向(
図4)の駆動力を夫々発生させるための第1駆動用コイル20a、第2駆動用コイル20bには通電せず、第1磁気センサ24aにより第1駆動用磁石22aのY軸方向の位置を検出し、第2磁気センサ24bにより第2駆動用磁石22bのX軸方向の位置を検出する状態とする。ここで、第1、第2磁気センサによって夫々検出された位置を夫々y、xとする。この状態において、第3磁気センサ24cによって検出される第3駆動用磁石22cのV軸方向(
図4)の変位vが、
となるように、第3駆動用コイル20cに電流を流し、第3駆動用コイル20cと第3駆動用磁石22cの間に駆動力を発生させる。
【0062】
これにより、移動枠14は、光軸Aの周りの回転が規制され、並進運動のみ可能な状態となる。即ち、移動枠14が並進移動されている状態においては、X軸方向、Y軸方向、V軸方向の変位には、常に数式(1)の関係が成り立っている。従って、検出された変位x、yに対して、変位vを数式(1)の関係を満たすように制御することにより、移動枠14の回転が規制され、移動枠14は並進移動のみが許容される。移動枠14をこのように制御することにより、
図11に示すように回転されていた移動枠14が、
図12に示すように移動枠14の回転角が0に規制され、移動枠14は、この回転位置を保持したまま並進移動可能な状態にされる。
【0063】
ステップS5においては、ステップS4における制御を維持したまま、可動部係止機構を係止状態にする。即ち、各係止用アーム42を半径方向内方に移動させる。これにより、非係止状態において係止時可動範囲Rの外に位置していた移動枠14は、何れかの係止用アーム42に押され、移動枠14は回転位置を維持しながら、係止時可動範囲R内に並進移動される。この状態においては、
図13に示すように、像振れ防止用レンズ16は係止時可動範囲Rの端部に位置する。以後の防振アクチュエータ10の調整は、可動部係止機構を係止状態にしたままで行われる。
【0064】
次に、ステップS6においては、ステップS4における制御を維持したまま、第2駆動用コイル20bに微弱な電流が流される。この電流は、各磁気センサによって検出された位置をフィードバックすることにより決定されるものではなく、予め設定された一定の電流である。この電流により、
図14に示すように、移動枠14は回転位置を維持したまま第1の方向であるX軸方向に並進移動され、移動枠14の係止用当接面14bが係止用アーム42のアーム当接部42dに当接した状態で停止する。第2磁気センサ24bは、この状態における第2駆動用磁石22bのX軸方向の位置x1を測定し、この位置x1は記憶部36aに記憶される。
【0065】
次に、第2駆動用コイル20bには、逆方向の微弱な電流が流される。この電流により、移動枠14はX軸方向に、反対方向に並進移動され、移動枠14は、当接していた係止用アーム42とは反対側の係止用アーム42に当接した状態で停止する。第2磁気センサ24bは、この状態における第2駆動用磁石22bのX軸方向の位置x2を測定し、この位置x2は記憶部36aに記憶される。このように、ステップS6においては、移動枠14がX軸方向に移動可能な範囲が測定される。
【0066】
ステップS7においては、位置x1と位置x2の中央の位置x0が、コントローラ36により計算され、計算された位置x0は記憶部36aに記憶される。
次に、ステップS8においては、まず、移動枠14の回転位置を規制すると同時に、移動枠14のX軸方向の位置を、ステップS7において計算された位置x0に規制する。即ち、第3駆動用コイル20cに対しては、第3磁気センサ24cによって検出されるV軸方向の位置が、数式(1)で計算される変位vとなるように電流が制御され、第2駆動用コイル20bに対しては、第2磁気センサ24bによって検出されるX軸方向の位置が位置x0となるように電流が制御される。上記のように、この位置x0は移動枠14のX軸方向の可動範囲の中央の位置である。これにより、移動枠14は、X軸方向の位置が可動範囲の中央の位置x0に固定された状態で、並進移動されるようになる。
【0067】
さらに、ステップS8において、第1駆動用コイル20aに微弱な電流が流される。この電流は、各磁気センサによって検出された位置をフィードバックすることにより決定されるものではなく、予め設定された一定の電流である。この電流により、
図15に示すように、移動枠14は回転位置及びX軸方向の位置x0を維持したまま、X軸方向と直交する第2の方向であるY軸方向に並進移動され、移動枠14の係止用当接面14bが係止用アーム42のアーム当接部42dに当接した状態で停止する。第1磁気センサ24aは、この状態における第1駆動用磁石22aのY軸方向の位置y1を測定し、この位置y1は記憶部36aに記憶される。
【0068】
次に、第1駆動用コイル20aには、逆方向の微弱な電流が流される。この電流により、移動枠14はY軸方向に、反対方向に並進移動され、移動枠14は、当接していた係止用アーム42とは反対側の係止用アーム42に当接した状態で停止する。第1磁気センサ24aは、この状態における第1駆動用磁石22aのY軸方向の位置y2を測定し、この位置y2は記憶部36aに記憶される。このように、ステップS8においては、移動枠14がY軸方向に移動可能な範囲が測定される。
【0069】
ステップS9においては、位置y1と位置y2の中央の位置y0が、コントローラ36により計算され、計算された位置y0は記憶部36aに記憶される。
次に、ステップS10においては、移動枠14の回転位置を規制すると同時に、移動枠14のY軸方向の位置を、ステップS9において計算された位置y0に規制する。なお、ステップS10においては、移動枠14のX軸方向の位置に対する制御は解除される。さらに、ステップS10においては、ステップS6と同様に、第2駆動用コイル20bに微弱な電流が流される。上記のように、位置y0は移動枠14のY軸方向の可動範囲の中央の位置である。これにより、移動枠14は回転位置及びY軸方向の可動範囲の中央の位置y0を維持したままX軸方向に並進移動され、移動枠14の係止用当接面14bが係止用アーム42のアーム当接部42dに当接した状態で停止する。第2磁気センサ24bは、この状態における第2駆動用磁石22bのX軸方向の位置x1を新たに測定し、この位置x1は記憶部36aに記憶される。
【0070】
さらに、第2駆動用コイル20bには逆方向の微弱な電流が流され、移動枠14はX軸方向に、反対方向に並進移動され、移動枠14は、反対側の係止用アーム42に当接した状態で停止する。第2磁気センサ24bは、この状態における第2駆動用磁石22bのX軸方向の位置x2を新たに測定し、この位置x2は記憶部36aに記憶される。このように、ステップS10においては、移動枠14がX軸方向に移動可能な範囲が再び測定される。
【0071】
ステップS11においては、新たに測定された位置x1と位置x2の中央の位置x0が、コントローラ36により新たに計算され、計算された位置x0は記憶部36aに記憶される。このようにして計算された位置x0、及びステップS9において計算された位置y0は、記憶部36aの電気消去可能プログラマブル読出し専用メモリー(EEPROM)に、可動部初期位置として記憶され、レンズユニット2の実使用時における制御に利用される。このように、可動部初期位置は、X軸方向における移動可能な範囲内且つY軸方向における移動可能な範囲内の位置に決定される。また、このようにして求められた位置(x0、y0)は、
図16に示すように、数十μmのオーダーの移動のみ許容される係止時可動範囲R内におけるほぼ中心に位置する。移動枠14は、この可動部初期位置である位置(x0、y0)に移動されると、係止状態においても、各係止用アーム42のアーム当接部42dと、移動枠14の各係止用当接面14bとの間には、微少な隙間が存在する状態となる。
【0072】
なお、防振アクチュエータ10の調整において、ステップS8乃至S11の工程を複数回繰り返し、最終的に計算された位置(x0、y0)を可動部初期位置とすることもできる。或いは、ステップS10及びS11の工程を省略することもできる。
【0073】
また、上述した実施形態においては、X軸方向、Y軸方向の可動範囲夫々の中央の位置(x0、y0)を可動部初期位置としていたが、各方向の可能範囲内であれば、任意の位置に可動部初期位置を設定することができる。各方向の可能範囲内に可動部初期位置を設定することにより、移動枠14が可動部初期位置に移動された際の、移動枠14と係止用アーム42(可動部係止機構の当接部)との接触を回避することができる。
【0074】
次に、
図1を参照して、本発明の第1実施形態によるカメラ1の作用を説明する。まず、カメラ1の手ブレ防止機能の起動スイッチ(図示せず)をONにすることにより、レンズユニット2に備えられた防振アクチュエータ10が作動される。レンズユニット2に取り付けられたジャイロ34は、所定周波数帯域の振動を時々刻々検出し、コントローラ36に内蔵された演算回路(図示せず)に出力する。ジャイロ34は角速度の信号を演算回路に出力し、演算回路は、入力された角速度信号を時間で積分して、振れ角度を算出し、これに所定の修正信号を加えてレンズ位置指令信号を生成する。演算回路によって時系列で出力されるレンズ位置指令信号によって指令される位置に追従するように像振れ防止用レンズ16を移動させることにより、カメラ本体4のフィルム面Fに合焦される像が安定化される。
【0075】
コントローラ36は、各磁気センサの検出信号と、各方向のレンズ位置指令信号の差に応じた電流を各駆動用コイルに流す。各駆動用コイルに電流が流れると電流に比例した磁界が発生する。この磁界により第1、第2、第3駆動用磁石22a、22b、22cに対応して配置された第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cは夫々駆動力を受け、移動枠14が移動される。移動枠14が駆動力によって移動され、各駆動用コイルがレンズ位置指令信号により指定された位置に到達すると、駆動力は0になる。また、外乱、又は、レンズ位置指令信号の変化等により、移動枠14がレンズ位置指令信号により指定された位置から外れると、再び各駆動用コイルに電流が流され、移動枠14はレンズ位置指令信号により指定された位置に戻される。
【0076】
以上の作用が時々刻々繰り返されることにより、移動枠14に取り付けられた像振れ防止用レンズ16が、レンズ位置指令信号に追従するように移動される。これにより、カメラ本体4の撮像素子面Cに合焦される像が安定化される。
【0077】
次に、カメラ1の手ブレ防止機能の起動スイッチ(図示せず)がOFFにされると、コントローラ36は移動枠14を可動部係止位置に位置決めし、係止する。即ち、コントローラ36は、駆動モータ46に信号を送り、歯車46aを回転させる。歯車46aが回転されると、アーム駆動板44が
図6における時計回りに回転される。アーム駆動板44が時計回りに回転されると、カム溝44aの半径方向外方の部分に受け入れられていたカムフォロワ突起42cが、カム溝44aの半径方向内方の部分に受け入れられるようになり、これにより係止用アーム42がアーム係止位置に回動され、カムフォロワ突起42c及びアーム当接部42dが半径方向内方に移動される。
図7に示すように、アーム当接部42dが半径方向内方に移動されると、像振れ防止用レンズ16(移動枠14)が移動し得る範囲が、係止時可動範囲Rに制限され、移動枠14が係止される。
【0078】
ここで、移動枠14が係止された状態においては、各駆動用コイルに対する通電が停止される。また、移動枠14は係止時可動範囲R内で僅かに移動することができるものの、像振れ防止用レンズ16の光軸は他の撮像用レンズ8の光軸と概ね一致した状態となる。
【0079】
次に、カメラ1の手ブレ防止機能の起動スイッチ(図示せず)がONにされると、コントローラ36は各駆動用コイルに電流を流し、移動枠14を記憶部36aに記憶されている可動部初期位置(x0、y0)に移動させる。上記のように、この可動部初期位置(x0、y0)は、レンズユニット2の製造時において予め調整され、記憶部36aに記憶させておいた位置である。この可動部初期位置(x0、y0)に移動枠14が移動されると、非常に狭い係止時可動範囲Rの中で、移動枠14は何れの係止用アーム42とも接触しない状態となる。
【0080】
次いで、コントローラ36は駆動モータ46に信号を送り、歯車46aを回転させ、アーム駆動板44を
図6における反時計回りに回転させる。アーム駆動板44が反時計回りに回転されると、カム溝44aの半径方向内方の部分に受け入れられていたカムフォロワ突起42cが、カム溝44aの半径方向外方の部分に受け入れられるようになり、これにより係止用アーム42が回動され、カムフォロワ突起42c及びアーム当接部42dが半径方向外方に移動される。アーム当接部42dが半径方向外方に移動されると、各アーム当接部42dは対向する係止用当接面14bから離れ、移動枠14の係止が解除される。即ち、移動枠14は非係止状態となる。
【0081】
この際、各駆動用コイルには通電されており、移動枠14は可動部初期位置(x0、y0)に位置するように制御されているので、係止が解除された際に移動枠14が重力により落下することはない。また、係止状態が解除される直前において、移動枠14は、何れの係止用アーム42とも接触しない状態に制御されているので、係止が解除された際に、駆動力により移動枠14が大きく移動されることはなく、円滑に像振れ防止制御に移行することができる。即ち、係止状態が解除される直前に、移動枠14が何れかの係止用アーム42と接触する位置に制御されている場合には、移動枠14は、駆動力により係止用アーム42のアーム当接部42dに押し付けられた状態となっている。この状態において、係止が解除されると、移動枠14に作用する駆動力と拮抗していたアーム当接部42dからの反力が急に作用しなくなるので、移動枠14は目標としていた位置を通り過ぎて大きく移動され、ファインダーに形成される像が大きく乱れてしまう。本実施形態のカメラによれば、このような不具合を回避することができる。
【0082】
なお、係止状態において移動枠14が移動することができる係止時可動範囲Rは非常に狭い領域であり、この係止時可動範囲Rは可動部係止機構を構成する各部品の寸法精度等の影響を受ける。一方、像振れ防止制御の開始時において移動枠14を移動させる初期位置の位置決め精度は、各駆動用磁石、各磁気センサ等の寸法精度、位置精度、個体差等の影響を受ける。従って、本実施形態によるレンズユニット2の製造方法のような、製造時における調整を行っていない場合には、係止状態において移動枠14が各係止用アーム42と接触しない位置に移動枠14を位置決めすることは極めて困難である。このような位置決めは、非像振れ防止制御時における画質を向上させるために、係止時可動範囲Rが狭く設計されている場合には特に困難になる。
【0083】
さらに、本実施形態のレンズユニット2においては、可動部初期位置(x0、y0)が係止時可動範囲Rの略中央に調整されているので、経年変化等により、係止時可動範囲Rが変化した場合においても、移動枠14と各係止用アーム42の接触を確実に防止することができる。
【0084】
本発明の第1実施形態の防振アクチュエータ10によれば、像振れ防止制御の開始時において、移動枠14は、予め調整を行うことにより決定された係止時可動範囲R内の可動部初期位置(x0、y0)に移動される(
図16)。このため、像振れ防止制御の開始時において、係止状態では移動枠14を移動させることができない位置を目標位置として、移動枠14が制御されるのを防止することができ、これに伴う不具合を回避することができる。これにより、本実施形態の防振アクチュエータ10によれば、係止状態における「緩み」を小さく設計した場合においても、円滑に像振れ防止制御に移行することができる。
【0085】
また、本実施形態の防振アクチュエータ10によれば、可動部初期位置(x0、y0)が、移動枠14と係止用アーム42のアーム当接部42d(可動部係止機構の当接部)が接触しない位置に決定されているので、係止状態において可動部初期位置(x0、y0)に移動された移動枠14と、アーム当接部42dとの間で力を及ぼし合うことがなく、係止状態が解除された際に、制御力により移動枠14の位置が大きくオーバーシュートして行き過ぎるのを防止することができる。
【0086】
本発明の第1実施形態によるレンズユニットの製造方法によれば、可動部初期位置が、実際に測定されたX軸、Y軸方向における移動可能な範囲内(x1〜x2、y1〜y2)に決定されので、係止状態において移動枠14が移動することができない位置に可動部初期位置(x0、y0)が設定されることがない。このため、像振れ防止制御の開始時において、係止状態では移動枠14を移動させることができない位置を目標位置として、移動枠14が制御されるのを防止することができ、これに伴う不具合を回避することができる。また、本実施形態の製造方法によれば、可動部係止機構の種々の部品(アーム支持板40、係止用アーム42、アーム駆動板44)の寸法精度、位置決め精度等の影響を受ける可動部の係止時可動範囲Rを、レンズユニット2が組み立てられた状態で測定することができるので、正確に可動部初期位置を決定することができる。
【0087】
本実施形態のレンズユニットの製造方法によれば、可動部初期位置が、X軸、Y軸方向における移動可能な範囲(x1〜x2、y1〜y2)の中央(x0、y0)に決定されるので、可動部初期位置を、移動枠14が係止用アーム42(可動部係止機構)に最も接触しにくい位置に決定することができる。これにより、経年変化等により係止時可動範囲Rが変化した場合においても、移動枠14と係止用アーム42の接触を確実に防止することができる。
【0088】
また、本実施形態のレンズユニットの製造方法によれば、調整段階において、可動部の回転が規制されている(
図8、ステップS4)ので、係止時可動範囲Rの測定時(
図8、ステップS6、S8、S10)において、移動枠14が常に同じ姿勢で係止用アーム42のアーム当接部42dに当接し、係止時可動範囲を正確に測定することができる。
【0089】
次に、
図17乃至
図19を参照して、本発明の第2実施形態によるカメラを説明する。本実施形態によるカメラは、内蔵されている防振アクチュエータの構成、特に、可動部係止機構の構成が上述した第1実施形態とは異なっている。従って、ここでは、本実施形態の、第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。
【0090】
図17は、本発明の第2実施形態によるカメラに内蔵されている防振アクチュエータの可動部を示す正面図である。
図18は、防振アクチュエータの可動部の係止が解除された状態を示す図である。
図19は、防振アクチュエータの可動部の係止状態を示す図である。
【0091】
図17に示すように、本実施形態における防振アクチュエータの可動部である移動枠114には、その中央部に像振れ防止用レンズ116が取り付けられている。また、移動枠114には、像振れ防止用レンズ116の周囲に、3つの駆動用コイル120a、120b、120cが取り付けられている。本実施形態においては、移動枠114に3つの駆動用コイルが取り付けられる一方、これらに夫々向かい合う3つの駆動用磁石(図示せず)は固定板(図示せず)側に取り付けられている。このように、駆動用コイルと駆動用磁石の取り付けが反対になったことを除き、各駆動用コイル及び駆動用磁石の構成、配置、機能は第1実施形態と同様である。また、各駆動用コイル120a、120b、120cの内側には、第1磁気センサ124a、第2磁気センサ124b、第3磁気センサ124cが夫々配置されている。これらの磁気センサにより、固定板(図示せず)に対する移動枠114の位置が検出される。
【0092】
さらに、移動枠114には、像振れ防止用レンズ116を取り囲むように、円筒状の周囲壁部114aが形成されている。この周囲壁部114aの外周面には、半径方向外方に突出するように4つの突起114bが設けられている。これらの突起114bは、周囲壁部114aの外周面に等間隔に設けられ、それらの先端部が係止用当接面として機能する。
【0093】
図18に示すように、周囲壁部114aの外側には、周囲壁部114aを取り囲むように、係止用リング144が配置されている。この係止用リング144は、概ねドーナツ板状の部材であり、レンズ鏡筒(図示せず)の内部に、光軸を中心に回動可能に配置されている。この係止用リング144の外縁の一部には、歯144aが形成されている。また、この歯144aは、駆動モータ(図示せず)によって駆動される歯車146と係合されている。駆動モータを作動させることにより、係止用リング144は、
図18に示す係止解除位置から、
図19に示す係止位置へ回動される。これらの係止用リング144、歯車146、及び駆動モータ(図示せず)は、可動部係止機構を構成する。
【0094】
さらに、係止用リング144の中央には、概ね円形の開口部144bが設けられており、この開口部144bの中に移動枠114の周囲壁部114aが挿入されている。また、開口部144bには、周囲壁部114aに設けられた4つの突起114bと向かい合う位置に、凹部144cが夫々設けられている。これらの凹部144cが設けられていることにより、係止用リング144が係止解除位置にある場合(像振れ防止制御時)には、係止用リング144が移動枠114と干渉することはない。
【0095】
図19に示すように、駆動モータ(図示せず)が作動され、係止用リング144が係止位置に回動されると、係止用リング144の各凹部144cは夫々移動され、移動枠114の各突起114bと向かい合わない状態になる。これにより、各突起114bと開口部144bの縁部は近接するようになり、移動枠114の移動し得る範囲が所定の係止時可動範囲内に制限され、移動枠114が係止される。
図19に示す係止状態において、移動枠114の各突起114bと向かい合う係止用リング144の内周面の部分は、夫々、可動部係止機構の当接部144dとして機能する。
【0096】
また、本実施形態のレンズユニットの製造工程は、
図8に示した第1実施形態におけるフローチャートと同様である。なお、本実施形態においては、
図8のステップS5において、駆動モータ(図示せず)が作動され、係止用リング144が
図18に示す係止解除位置から、
図19に示す係止位置に回動されることにより、移動枠114が係止状態にされる。この際、移動枠114に対しては、その回転を規制する制御(
図8のステップS4)が行われているため、移動枠114が係止用リング144と共に回動されてしまうことはない。
【0097】
また、本実施形態においては、
図8のステップS6乃至S11における調整手順も第1実施形態と全く同様である。即ち、これらのステップでは、
図19に示す係止状態において、移動枠114をX軸方向、Y軸方向に夫々移動させ、係止時可動範囲のほぼ中心である可動部初期位置(x0、y0)を計算し、その値が記憶部(図示せず)に記憶される。
本発明の第2実施形態の防振アクチュエータによれば、少ない部品点数で可動部係止機構を構成することができる。
【0098】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態では、本発明をデジタルカメラに適用していたが、本発明は、フィルムカメラ、ビデオカメラ等、静止画又は動画撮像用の任意のカメラに適用することができる。また、本発明を、これらのカメラのカメラ本体と共に使用されるレンズユニットに適用することもできる。
【0099】
また、上述した実施形態においては、移動枠14は、X軸方向、Y軸方向の駆動力を発生させるための第1、第2駆動用コイル、及び光軸を中心とする円の接線方向の駆動力を発生させるための第3駆動用コイルにより駆動されていたが、駆動手段の配置は、適宜変更することができる。例えば、光軸を中心とする円の接線方向の駆動力を発生させるための3つの駆動用コイルを等間隔に配置したタイプの駆動手段や、円の半径方向の駆動力を発生させるための3つの駆動用コイルを等間隔に配置したタイプの駆動手段を備えた防振アクチュエータに、本発明を適用することもできる。