特許第5850238号(P5850238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

特許5850238固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置
<>
  • 特許5850238-固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置 図000002
  • 特許5850238-固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置 図000003
  • 特許5850238-固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置 図000004
  • 特許5850238-固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置 図000005
  • 特許5850238-固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置 図000006
  • 特許5850238-固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置 図000007
  • 特許5850238-固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5850238
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0202 20160101AFI20160114BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20160114BHJP
【FI】
   H01M8/02 Y
   H01M8/12
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-17798(P2012-17798)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-157243(P2013-157243A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】宮本 怜奈
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−092446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと固体電解質膜とカソードとを順に積層した単セルの前記アノード側と前記カソード側とにそれぞれ配置され、
前記アノードに対面するアノード面と、前記アノード面に背向するとともに前記カソードに対面するカソード面と、を具備し、
ンターコネクタを厚さ方向に貫通しアノードガスを前記アノードに供給するアノードガス流路に接続するアノードガスマニホールドと、前記インターコネクタを厚さ方向に貫通しカソードガスを前記カソードに供給するカソードガス流路に接続するカソードガスマニホールドと、を有する板状の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法であって、
前記アノードガスマニホールドと前記カソードガスマニホールドとを有するインターコネクタ本体を成形する成形工程と、
前記アノード面を対面させつつ2枚の前記インターコネクタ本体を接着材を用いて接着する接着工程と、
接着した2枚の前記インターコネクタ本体の表面に、導電性セラミック原料と液状媒体とを含むコート原料をコートするコート工程と、
前記コート原料がコートされた前記インターコネクタ本体を加熱する焼成工程と、を具備し、
前記焼成工程における加熱温度は、前記接着材が燃焼する温度よりも高温である固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法。
【請求項2】
前記アノードガスマニホールドの前記アノード面における開口面積は、前記カソードガスマニホールドの前記アノード面における開口面積よりも大きく、
前記接着工程において、前記アノード面における前記カソードガスマニホールドの開口は前記アノード面における前記アノードガスマニホールドの開口に含まれるように接着される請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法。
【請求項3】
前記アノード面は凹面状をなすアノードガス流通面を有し、
前記接着工程において、前記アノードガス流通面における前記アノードガスマニホールドとの連結部を、前記焼成工程における加熱温度で燃焼する充填材で埋める請求項1または請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法。
【請求項4】
アノードと固体電解質膜とカソードとを順に積層した単セルの前記アノード側と前記カソード側とにそれぞれ配置され、
前記アノードに対面するアノード面と、
前記アノード面に背向するとともに前記カソードに対面するカソード面と、を具備する板状の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタであって、
前記インターコネクタを厚さ方向に貫通しアノードガスを前記アノードに供給するアノードガス流路に接続するアノードガスマニホールドと、前記インターコネクタを厚さ方向に貫通しカソードガスを前記カソードに供給するカソードガス流路に接続するカソードガスマニホールドと、を有し、
前記アノードガスマニホールドの前記アノード面における開口面積は、前記カソードガスマニホールドの前記アノード面における開口面積よりも大きく、
前記カソード面と、前記カソードガスマニホールドの内周面と、前記アノード面における前記カソードガスマニホールドの周縁部と、には導電性セラミックからなるコート層が形成され、前記カソードガスマニホールドの周縁部を除く前記アノード面には前記コート層が形成されていない固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ。
【請求項5】
前記導電性セラミックは、少なくともランタン元素、ストロンチウム元素およびマンガン元素を含むランタン酸化物系導電材料と、ガラス系結合材と、で構成されている請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタを具備する固体酸化物形燃料電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池を含む固体酸化物形燃料電池装置に関し、具体的には、板状の単セルと組み合わせて用いられる板状のインターコネクタと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池装置(所謂SOFC)は、一般に、比較的高温下(400〜1000℃)で作動するため、導電性部材であるインターコネクタについても、耐酸化性、耐熱性、耐久性等の向上が強く求められている。さらに近年では、省エネルギの観点から、作動温度を低下させた固体酸化物形燃料電池が開発されつつある。この固体酸化物形燃料電池においては、例えば、銀粉およびガラス粉を含む混合物を材料としてインターコネクタを形成する技術が提案されている。また、クロムを大量に含む耐酸化性に優れた鉄合金からなるインターコネクタも提案されている。
【0003】
インターコネクタは、アノード、電解質膜(固体酸化物)およびカソードからなる単セルを、その厚み方向に挟む位置に設けられる。固体酸化物形燃料電池装置は、一般に、複数の単セルが積層されてなり、隣接する単セル同士の間にはインターコネクタが介在する。したがって、一つの単セルは2つのインターコネクタによって直接または間接的に挟まれ、各インターコネクタは、各々、カソード側の面とアノード側の面とを持つ。
【0004】
特許文献1は、電解質膜をアノードおよびカソードで挟んだ単セルと、単セルを挟んで配置されるインターコネクタと、を有する固体酸化物形燃料電池スタックを開示する。このインターコネクタは、フレーク状の銀粉およびガラス分を含む混合物を材料としている。さらに、引用文献1は、銀粉およびニッケルを含むコンポジット材料からなる中間層を、単セルとインターコネクタとの間に介在させることにより、耐久性を改善する技術も開示する。
【0005】
また、特許文献2には、鉄−クロム合金と結合材とで構成されたインターコネクタが開示されている。鉄−クロム合金は耐酸化性に優れるが、多量のクロムを含む。このためこのインターコネクタからはクロムが蒸発する。蒸発したクロムの一部が、カソードと反応すると、カソードがクロム被毒して劣化するおそれがある。特許文献2においては、結合材が蒸発したクロムを吸着することで、カソードのクロム被毒を抑制するとともに、インターコネクタの性能劣化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−250266号公報
【特許文献2】特開2010−33747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1、2に紹介されている技術では、銀を用いているためにコスト的に好ましくない。また銀の劣化によりインターコネクタの導電性が低下するおそれもある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、銀を用いなくても酸化を抑制し得る固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法は、アノードと固体電解質膜とカソードとを順に積層した単セルの前記アノード側と前記カソード側とにそれぞれ配置され、前記アノードに対面するアノード面と、前記アノード面に背向するとともに前記カソードに対面するカソード面と、を具備し、前記インターコネクタを厚さ方向に貫通しアノードガスを前記アノードに供給するアノードガス流路に接続するアノードガスマニホールドと、前記インターコネクタを厚さ方向に貫通し前記カソードガスを前記カソードに供給するカソードガス流路に接続するカソードガスマニホールドと、を有する板状の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法であって、前記アノードガスマニホールドと前記カソードガスマニホールドとを有するインターコネクタ本体を成形する成形工程と、前記アノード面を対面させつつ2枚の前記インターコネクタ本体を接着材を用いて接着する接着工程と、接着した2枚の前記インターコネクタ本体の表面に、導電性セラミック原料と液状媒体とを含むコート原料をコートするコート工程と、前記コート原料がコートされた前記インターコネクタ本体を加熱する焼成工程と、を具備し、前記焼成工程における加熱温度を、前記接着材が燃焼する温度よりも高温とする方法である。
【0010】
本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法は、下記の(1)および/または(2)を備えるのが好ましい。
(1)前記アノードガスマニホールドの前記アノード面における開口面積は、前記カソードマニホールドの前記アノード面における開口面積よりも大きく、前記接着工程において、前記アノード面における前記カソードガスマニホールドの開口は前記アノード面における前記アノードガスマニホールドの開口に含まれるように接着される。
(2)前記アノード面は凹面状をなすアノードガス流通面を有し、前記接着工程において、前記アノードガス流通面における前記アノードガスマニホールドとの連結部を、前記焼成工程における加熱温度で燃焼する充填材で埋める。
【0011】
本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタは、上述した本発明のインターコネクタの製造方法で製造できる。本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタは、アノードと固体電解質膜とカソードとを順に積層した単セルの前記アノード側と前記カソード側とにそれぞれ配置され、前記アノードに対面するアノード面と、前記アノード面に背向するとともに前記カソードに対面するカソード面と、を具備する板状の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタであって、前記インターコネクタを厚さ方向に貫通しアノードガスを前記アノードに供給するアノードガス流路に接続するアノードガスマニホールドと、前記インターコネクタを厚さ方向に貫通し前記カソードガスを前記カソードに供給するカソードガス流路に接続するカソードガスマニホールドと、を有し、前記アノードガスマニホールドの前記アノード面における開口面積は、前記カソードマニホールドの前記アノード面における開口面積よりも大きく、前記カソード面と、前記カソードガスマニホールドの内周面と、前記アノード面における前記カソードガスマニホールドの周縁部と、には導電性セラミックからなるコート層が形成され、前記カソードガスマニホールドの周縁部を除く前記アノード面には前記コート層が形成されていないものである。
【0012】
本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタは、下記の(3)を備えるのが好ましい。
(3)前記導電性セラミックは、少なくともランタン元素、ストロンチウム元素およびマンガン元素を含むランタン酸化物系導電材料と、ガラス系結合材と、で構成されている。
【0013】
本発明の固体酸化物形燃料電池装置は、上述した本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの何れかを具備する。
【発明の効果】
【0014】
以下、必要に応じて、本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタを、単に本発明のインターコネクタと呼ぶ。また、本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法を、単に本発明の製造方法と呼ぶ。
【0015】
本発明のインターコネクタは、銀を用いなくても酸化を抑制し得る。これは以下の理由による。
【0016】
本発明のインターコネクタにおける表面の一部は、導電性セラミックからなるコート層で覆われている。導電性セラミックは、固体酸化物形燃料電池に使用可能な程度に導電性および耐熱性に優れ、かつ、耐酸化性に優れる材料である。
【0017】
上述したように、各インターコネクタは、各々、カソード側の面(カソード面)とアノード側の面(アノード面)とを持つ。
【0018】
カソード(空気極)は、例えば空気等の酸化性のあるカソードガスに曝されるため、カソード面は酸化劣化するおそれがある。この面を耐酸化性のコート層で覆うことで、インターコネクタの酸化を抑制できる。
【0019】
ところで、インターコネクタの全面にコート層を形成することで不具合が生じる可能性がある。例えば、導電性セラミックは還元膨張する。アノード(燃料極)は水素ガス等の燃料に曝されるため、アノード面に導電性セラミックからなるコート層を形成すると、コート層が還元される可能性がある。コート層が還元膨張すると、コート層とインターコネクタとの膨張率の違いにより、コート層がインターコネクタから剥離する可能性がある。つまり、コート層によるインターコネクタの酸化抑制効果を十分に発揮するためには、各インターコネクタにおけるカソード面をコート層で覆い、かつ、アノード面はコート層で覆わないのが良いと考えられる。
【0020】
さらに、各インターコネクタは、貫通孔状をなしカソードガスの流路となるカソードガスマニホールドを有する。カソードガスマニホールドはアノード面にも開口している。したがって、アノード面におけるカソードガスマニホールドの周縁部もまた、カソードガスで酸化される可能性があるため、コート層で覆うのが良いと考えられる。以下、必要に応じて、アノード面におけるカソードガスマニホールドの周縁部を、周縁コート部と呼ぶ。
【0021】
本発明のインターコネクタは、カソード面および周縁コート部には導電性セラミックからなるコート層を形成し、周縁コート部を除くアノード面にはコート層を形成しないことで、インターコネクタの酸化抑制と、コート層の還元抑制との両立を実現した。また、本発明のインターコネクタは、導電性セラミックからなるコート層により酸化抑制しているため、銀を用いなくて良い。
【0022】
本発明のインターコネクタにおいては、コート層を、必要な領域(つまり、カソード面と周縁コート部)にのみ形成している。コート層を必要な領域にだけ形成する方法としては、例えば、コート層を形成したくない領域をマスクし、コート層を形成し、その後、マスク層を除去する方法が考えられる。しかし、このようなコート方法は煩雑であり、多くの工程を必要とする。本発明の製造方法によると、コート層を形成していないインターコネクタ(インターコネクタ本体)2枚を、コート層をほぼ形成しない領域(つまりアノード面)を対面させつつ接着し、この接着した2枚のインターコネクタ本体の表面にコート層を形成したことで、マスクすることなく必要な領域にコート層を形成した。一方のインターコネクタにおけるアノード面は、接着材および他方のインターコネクタのアノード面によって擬似的にマスクされる。このためアノード面の大部分にはコート層の原料(つまりコート原料)はコートされない。なお、接着材は、コート原料を焼成または焼結してコート層を形成する際に燃焼して消失する。このため二つのインターコネクタは互いに分離する。したがって、この擬似的なマスクはコート層を形成する焼成工程において消失する。したがって、本発明の製造方法によると、インターコネクタをマスクしたり、インターコネクタからマスク材を除去したりする煩雑な工程が不要になる。
【0023】
ところで、上述したように、本発明のインターコネクタにおいては、アノード面の一部である周縁コート部に、コート層を形成する。上記(1)を備える本発明の製造方法によると、カソード面にコート層を形成する際に、周縁コート部にもコート層を形成できる。このため、上記(1)を備える本発明の製造方法によると、上述した本発明のインターコネクタを容易に製造できる。
【0024】
上記(1)を備える本発明の製造方法において、インターコネクタ本体のアノード面(つまりインターコネクタの接着面側)におけるアノードガスマニホールドの開口面積を、アノード面におけるカソードガスマニホールドの開口面積よりも大きくしている。そして、このようなインターコネクタ本体2枚を、カソードガスマニホールドがアノードガスマニホールドに含まれるよう(つまりカソードガスマニホールドがアノードガスマニホールドの内周よりも内側に配置されるように)重ねれば、アノード面における周縁コート部は、アノードガスマニホールドの内側に露出する。このような状態で、2枚のインターコネクタ本体が接着されてなるインターコネクタ複合体にコート原料をコートすることで、アノードガスマニホールドを通じて周縁コート部にコート原料をコートできる。よって、上記(1)を備える本発明の製造方法によると、インターコネクタの酸化抑制と、コート層の還元抑制とを両立する本発明のインターコネクタを容易に製造できる。
【0025】
上記(2)を備える本発明の製造方法によると、凹面状をなすアノードガス流通面におけるアノードガスマニホールドとの連結部(つまりアノードガス流通面におけるアノードガスマニホールドとの境界部分)を充填材で埋めたことで、アノードガスマニホールドからアノードガス流通面に至る空間を遮断し、カソードガスマニホールドに流入したコート原料がアノードガス流通面にコートされないようにできる。つまり、充填材は上述した接着剤と同様に疑似マスクとして機能する。なお、充填材は、接着材と同様にコート層を焼成または焼結する際に燃焼して消失するため、充填材を除去する工程は特に必要ない。よって、上記(2)を備える本発明の製造方法によると、コート層が精度高くコートされた本発明のインターコネクタを容易に製造できる。
【0026】
なお、上記(3)を備える本発明のインターコネクタによると、コート層に優れた導電性と耐酸化性を付与できる。
【0027】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、インターコネクタの酸化劣化に起因する不具合を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態1の固体酸化物形燃料電池装置を模式的に示す説明図である。
図2】実施形態1の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法を模式的に表す説明図であり、具体的には接着工程におけるインターコネクタ本体を表す。
図3】実施形態1の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの製造方法を模式的に表す説明図であり、具体的にはコート工程におけるインターコネクタ本体を表す。
図4】実施形態1の固体酸化物形燃料電池用セパレータの製造方法を模式的に表す説明図であり、具体的には焼成工程後のインターコネクタを表す。
図5】実施形態1の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタをアノード面から見た様子を模式的に表す斜視図である。
図6】アノードガスマニホールドとカソードガスマニホールドとを同径にした場合に得られるインターコネクタを模式的に表す説明図である。
図7】アノードガスマニホールドおよびカソードガスマニホールドの配置を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、具体例を挙げ、本発明の固体酸化物形燃料電池用インターコネクタおよびその製造方法を説明する。
【0030】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1について図1図6を参照して説明する。図1に示す燃料電池装置は平板型の固体酸化物形燃料電池であり、多数のセルを厚さ方向に積層した平板型のセル積層体1と、セル積層体1をこれの厚み方向つまり積層方向において挟む平板型の第1エンドプレート11および第2エンドプレート12と、セル積層体1と第1エンドプレート11と第2エンドプレート12とを締結するボルトを備える締結具13とを有する。図1に示すように、第1エンドプレート11は、アノードガス入口17、アノードガス出口18、カソードガス入口15、およびカソードガス出口16を持つ。実施形態の固体酸化物形燃料電池において、アノードガスは水素ガスであり、カソードガスは空気である。なお、オフガスとは発電反応を経たガスを意味する。つまりカソードガスは空気オフガスであり、アノードガスは水素オフガスである。
【0031】
図1中の要部拡大分解斜視図は、セル積層体1を構成する一つのセル構造の概念を模式的に示す。セル構造は単セル2を含む。単セル2は、平板型をなし、図1中上から下に向けてカソード20(酸化剤極)、固体酸化物形の電解質膜21、アノード22(燃料極)の順に積層されてなる。更にセル構造は、単セル2をこれの厚み方向に挟む位置に設けられた2枚のインターコネクタ3と、一方のインターコネクタ3とアノード22との間に設けられたアノード22用の多孔質集電体4と、他方のインターコネクタ3とカソード20との間に設けられたカソード20用の多孔質集電体5とを持つ。
【0032】
実施形態1のインターコネクタ3は、図4に示すように、鉄−クロム合金等の金属性のインターコネクタ本体30と、インターコネクタ本体30の一部を覆うコート層31とで構成されている。
【0033】
アノード22用の多孔質集電体4は連続的な細孔を持つ導電材料で形成されており、集電性機能と、アノードガスをアノード22に分配させて供給させるガス透過機能を有する。カソード20用の多孔質集電体5は連続的な細孔を持つ導電材料で形成されており、集電性機能と、カソードガスをカソード20に分配させて供給させるガス透過機能を有する。具体的には、カソード20用の多孔質集電体5は、セル使用温度域において導電性を有する導電材料で形成されているメッシュ集電体で形成されている。カソード20用の多孔質集電体5を形成する導電材料としては鉄系合金、クロム系合金、ニッケル系合金が例示される。鉄系合金としては鉄−クロム合金、鉄−クロム−ニッケル合金、鉄−ニッケル合金が挙げられる。これに限定されるものではない。
【0034】
アノード22を形成する材料としては、金属酸化物および安定化ジルコニア系材料が例示される。金属酸化物としては酸化ニッケルが例示できる。カソード20を形成する材料としては、LaおよびSrを含有する酸化物セラミックスが挙げられる。かかるセラミックスとしてはLSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)が例示されるが、これに限定されるものではない。電解質膜21としてはジルコニア系セラミックスが例示される。
【0035】
互いに対向するインターコネクタ3間の外周縁には、絶縁性の第1シール部6(材質:例えばマイカガスケット)が介在しており、シールされている。第1シール部6の略中央部には開口60が設けられ、この開口60には単セル2が取り付けられている。第1シール部6は後述する第2シール部8とともにセル構造を構成する2つのインターコネクタ3の間をシールする。
【0036】
セル構造はカソードガス流路6Aを持つ。カソードガス流路6Aは、インターコネクタ3の厚さ方向に貫通するように形成された2つのカソードガスマニホールド61、64と、カソードガスマニホールド61、64に連絡する凹面状のカソードガス流通面65とを持つ。より詳しくは、一方のカソードガスマニホールド61はカソードガスをカソード20に供給するためのカソードガス流入口である。他方のカソードガスマニホールド64は、発電反応に使用されたカソードガスをカソード20から排出させるカソードガス流出口である。カソードガス流通面65は、カソード20およびカソード20用の集電体5とともに、カソードガス流路6Aの一部を区画形成する。
【0037】
セル構造はアノードガス流路7Aを持つ。アノードガス流路7Aは、インターコネクタ3の厚さ方向に貫通するように形成された2つのアノードガスマニホールド71、74と、アノードガスマニホールド71、74に連絡する凹面状のアノードガス流通面75とを持つ。より詳しくは、一方のアノードガスマニホールド71はアノードガスをアノード22に供給するためのアノードガス流入口である。他方のアノードガスマニホールド74は、発電反応に使用された燃料オフガスであるアノードガスをアノード22から排出させるアノードガス流出口である。アノードガス流通面75は、アノード22およびアノード22用の集電体4とともにアノードガス流路7Aの一部を区画形成する。図5に示すように、アノードガス流通面75には整流リブ38aおよび整流板38bが形成されている。整流リブ38aおよび整流板38bはアノードガスの流通方向を案内する。図示しないが、カソードガス流通面65にも同様の整流リブおよび整流板が設けられている。
【0038】
図1に示すように、インターコネクタ3はアノード22側の面(アノード面36)と、カソード20側の面(カソード面37)とを持つ。実施形態1において、アノードガス流通面75はアノード面36の一部を構成し、カソードガス流通面65はカソード面37の一部を構成している。実施形態1のインターコネクタ3のなかで、カソード面37、カソードガスマニホールドの内周面61x、64x、アノードガスマニホールドの内周面71x、74x、アノード面36におけるカソードガスマニホールドの周縁部(図4、5に示す周縁コート部61y、64y)、および、外周面39には、コート層31が形成されている。
【0039】
カソード20用の多孔質集電体5は、単セル2を挟んでアノード22用の多孔質集電体4の逆側に配置されている。第2シール部8は、第1シール部6とカソード20側のインターコネクタ3との間に介在する。第2シール部8は電気絶縁材料(マイカ等)で形成されている。第2シール部8によって、単セル2およびインターコネクタ3が第1シール部6と共に厚さ方向に積層されるときの、インターコネクタ3と第1シール部6との間におけるシール性を高めることができる。第1シール部6および第2シール部8を2つのインターコネクタ3の間に介在させ、単セル2の外周側をシールしたことで、アノード22とカソード20との間におけるガスリークを抑えることができる。
【0040】
以下、図2図5を基に本発明の製造方法を説明する。
【0041】
(材料)
実施形態1において、インターコネクタ本体30の材料としては、鉄−クロム系合金で形成された耐熱合金(ZMG232L、日立金属株式会社)を用いた。この耐熱合金は、鉄およびクロムを主要成分とするフェライト系ステンレス鋼である。この耐熱合金は、燃料電池(SOFC)の作動温度での良好な導電性、作動温度での長時間にわたる良好な耐酸化性、電解質膜21(ジルコニア系セラミックス)に近い低熱膨張係数を有する。
【0042】
なお、インターコネクタ本体30の材料としては、既知の耐熱金属を用いることができ、耐熱合金を用いるのがより好ましい。具体的には、鉄、鉄合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金のうちの少なくとも1種で形成されているのが好ましい。耐熱合金は、固体酸化物形燃料電池の作動温度での良好な導電性、作動温度での長時間にわたる良好な耐酸化性、電解質膜21(例えばジルコニア系セラミックス)に近い低熱膨張係数を有する合金が好ましい。鉄合金としては、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼等のステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼は、例えば、質量比で、Cr:10〜30%、C:0.001〜0.10%、Ni、Mn、Zr、Laのうちの少なくとも1種:0.0〜2.0%、残部:鉄の組成を有することができる。鉄合金の場合には、質量比でクロムを10〜40%含有する鉄−クロム系合金が例示される。クロムは耐熱性、高温における酸化抑制に有利である。この場合、Cr:15〜30%にすることもできる。ニッケル合金の場合には、質量比でニッケルを10〜80%含有する合金を採用できる。なお、インターコネクタ本体30の材料は、固体酸化物形燃料電池用のインターコネクタ3に、充分な耐熱性および導電性を付与できるものであれば良く、これに限定されるものではない。
【0043】
コート層31の材料(コート原料)としては、導電性セラミック原料と液状媒体との混合物を用いた。導電性セラミック原料は、ランタン酸化物系導電材料とガラス系結合材とからなる。
【0044】
具体的には、ランタン酸化物系導電材料として、LaSr1−XMnO(x=0.1〜1,y=3〜3.1)の組成式を有するものを用いた。より具体的には、LaSr1−XMnO(X=0.8)の組成式を有する粒子状の酸化物導電材料(La0.8Sr0.2MnO)を用いた。このようなランタン酸化物系導電材料は、電子伝導性があり、安価で安定な材料である。高温の酸化雰囲気において安定であり、導電率の低下が抑制される。ガラス系結合材としては、バリウム酸化物(BaO)−ホウ素酸化物(B)−シリコン酸化物(SiO)系のものを用いた。このような結合材とランタン酸化物系導電材料とが混合するコート層31は低温焼成が容易である。更に、固体酸化物形燃料電池の作動温度領域においても、コート層31におけるガラス材料の過剰流動化が抑制されるため、酸化抑制コーティング層の保形性が確保され、ひいては酸化抑制コーティング層による酸素バリヤ性が確保される。
【0045】
また、ガラス系結合材としては、バリウム酸化物(BaO)−ホウ素酸化物(B)−シリコン酸化物(SiO)系のガラス材料(粒子状)を用いた。このガラス材料の基本組成は、質量比で、BaOが54.7%、Bが19.1%、SiOが19.1%、Alが4.9%である(ICP分析)。この結合材の熱膨張係数(50〜350℃)は88〜89[×10−7/℃]、DTA転移点は614〜618℃であり、DTA軟化点は718〜723℃であり、中心粒径(D50)は1.2〜1.3μmであった。このガラス系結合材を用いる場合、固体酸化物形燃料電池の作動温度領域においても、コート層31におけるガラス材料の過剰流動化が抑制される。このためコート層31の保形性が確保され、ひいてはコート層31による酸素バリヤ性が確保され易い。
【0046】
なお、本発明のインターコネクタにおけるコート層31の材料(コート原料)としては、実施形態1の材料に限定されず、既知の導電性セラミック原料を用いることができる。例えば、ランタン元素、ストロンチウム元素およびマンガン元素を含むランタン酸化物系導電材料を用いるのが好ましい。その他、LaCrO系、LaMnO系、LaCoO系、LaFeO系、LaSrNiO系等のペロブスカイト系セラミックスや、Mn系、MnCo系等のスピネル系セラミックス等も使用できる。
【0047】
結合材を構成するガラス系材料としては、実施形態1の材料に限定されず、燃料電池(SOFC)の作動温度における耐熱性、保形性等が要請され、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラスなどが例示される。単セル2の他の構成材に熱膨張係数を対応させること、耐熱性、酸素バリヤ性、燃料電池(SOFC)の作動温度における保形性等を考慮すると、結合材の基本組成は、例えば、質量比で、BaOが40〜70%、Bが10〜30%、SiOが10〜30%とすることができる。DTA転移点(ガラス転移点)は400〜700℃が好ましく、DTA軟化点は600〜750℃程度が好ましい。なお、ランタン酸化物系導電材料は銀等の貴金属を含まず、結合材も貴金属を含まないので、コスト的に有利である。また、ランタン元素、ストロンチウム元素およびマンガン元素を含む酸化物で形成されたランタン酸化物系導電材料は、酸化雰囲気において安定であり、耐酸化性に優れており、酸化に起因する導電性の低下が抑制される。さらに、ランタン酸化物系導電材料はストロンチウムを含むため、インターコネクタ本体30にクロムが含まれる場合にも、クロムをトラップできる。
【0048】
各材料の組成比は、コート層31を100質量%としたときに、コート層31に含まれるランタン酸化物系導電材料は40〜97質量%であり、ガラス系の結合材は3〜60%であるのが好ましい。ガラス系の結合材は、コート層31の導電性を低下させるものの、コート層31の酸素バリヤ性を高める。導電性、酸素バリヤ性、燃料電池(SOFC)の作動温度における保形性等を考慮すると、コート層31を100質量%としたときに、結合材の材質にもよるが、ガラス系の結合材は3〜40質量%含まれるのが好ましく、殊に、6〜14質量%含まれるのが好ましい。但しこれに限定されるものではない。また、酸素バリヤ性、燃料電池(SOFC)の作動温度における保形性等を考慮すると、結合材は、基本組成として、例えば、質量比で、BaOが40〜70%、Bが10〜30%、SiOが10〜30%とすることができる。なお、液状媒体は特に限定されず、エタノール等の有機溶媒を用いても良いし、水等の水系媒体を用いても良い。
【0049】
(インターコネクタの製造方法)
<成形工程>
先ず、インターコネクタ本体30の材料として、鉄−クロム系合金で形成された耐熱合金(ZMG232L;日立金属株式会社)で形成された金属板を準備した。この金属板の一方の面がアノード面36となり、他方の面がカソード面37となる。切削加工により、アノード面36に凹面状のアノードガス流通面75を形成し、カソード面37に凹面状のカソードガス流通面65を形成した。さらに、金属板の厚さ方向に貫通孔を形成した。この貫通孔はアノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64となる。アノード面36におけるアノードガスマニホールド71、74の開口面積は、アノード面36におけるカソードガスマニホールド61、64の開口面積よりも大きい。ここでいう開口面積とは、アノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64のなかでアノード面36に開口している部分の面積であり、インターコネクタ本体30の厚さ方向と略直交する平面上に形成される。なお、アノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64の開口断面積は、インターコネクタ本体30の厚さ方向に一定であっても良いし、一定でなくても良い。何れの場合にも、アノード面36における開口面積が上記の関係になっていれば良い。
【0050】
この工程によって、インターコネクタ本体30を得た。さらに、前処理として、インターコネクタ本体30の表面における油分を洗浄した。
【0051】
<接着工程>
成形工程で得たインターコネクタ本体30を2枚とり、図2に示すように、アノード面36を対面させた。アノードガス流通面75はアノード面36の一部であるため、このとき2枚のインターコネクタ本体30のアノードガス流通面75もまた対面した。さらにこのとき、一方のインターコネクタ本体30のアノードガスマニホールド71と他方のインターコネクタ本体30のカソードガスマニホールド61とが対面し、かつ、一方のインターコネクタ本体30のアノードガスマニホールド74と他方のインターコネクタ本体30のカソードガスマニホールド64とが対面するようにした。上述したように、アノード面36におけるアノードガスマニホールド71、74の開口面積は、アノード面36におけるカソードガスマニホールド61、64の開口面積よりも大きい。このため、図2に示すように、カソードガスマニホールド61がアノードガスマニホールド71の内周よりも内側に配置され、カソードガスマニホールド61はアノードガスマニホールド71に包囲された。また、カソードガスマニホールド64がアノードガスマニホールド74の内周よりも内側に配置され、カソードガスマニホールド64がアノードガスマニホールド74に包囲された。
【0052】
この2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36に接着材90を塗布し、2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36同士を接着した。なおこのとき、アノードガス流通面75におけるアノードガスマニホールド71、74の周縁部(図5中点線に示す位置)を充填材91で埋めた。この周縁部は、アノードガス流通面75のアノードガスマニホールド71、74との連結部に相当する。接着材は、アノード面36におけるアノードガス流通面75以外の部分(一般面36a)に塗布した。さらに、カソードガスマニホールド61、64の周縁部(周縁コート部61Yとなる部分)には塗布しなかった。接着材90は炭素と水素とを含む炭素水素系の接着剤であり、具体的にはアクリル系の接着材90である。実施形態1においては、充填材91として、接着剤90と同じものを用いた。接着材90はそのまま用いても良いし、樹脂や紙等の基材に接着材90が一体化されたテープ状またはシート状のものを用いても良い。接着材90はこれに限らず、後述する焼成工程で燃料し消失するものを用いれば良い。充填材91および基材に関しても同様である。なお、接着材、充填材、および基材はそれぞれ異なる材料からなっても良いし、同じ材料からなっても良い。
【0053】
<コート工程>
接着工程で接着した2枚のインターコネクタ本体30の表面に、導電性セラミック原料と液状媒体とを含むコート原料をコートした。
【0054】
先ず、上述した導電性セラミック原料と液状媒体とを混合して、コート原料を調製した。具体的には、ランタン酸化物系酸化物導電材料(La0.8Sr0.2MnO;平均粒径0.3μm)と、粒子状のガラス系結合材とを、常温において質量比で94:6となるよう秤量し、有機溶剤(エタノール)に分散させた。この場合、コート層31を100%とするとき、質量比で、ガラス材料は6.0%に相当する。そして、コート原料にインターコネクタ本体30を所定時間(約20秒間)浸漬した後に取り出すことにより、このコート原料をインターコネクタ本体30の表面全体にコートした。
【0055】
図3に示すように、2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36は対面した状態で接着されているため、アノード面36の大部分にはコート原料がコートされない。また、カソードガスマニホールド61、64はアノードガスマニホールド71、74の内周よりも内側に配置されている。このため、インターコネクタ本体30をコート原料に浸漬すると、コート原料はアノードガスマニホールド71、74とカソードガスマニホールド61、64とで構成される流路92の内部に侵入する。このためアノードガスマニホールドの内周面71x、74x、および、カソードガスマニホールドの内周面61x、64xもコート原料によってコートされる。そして、このときアノード面36における周縁コート部61y、64yは、流路92内部に露出するため、アノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64と同様にコートされる。なお、図6に示すようにアノードガスマニホールド71、74の孔径D1とカソードガスマニホールド61、64の孔径D2とが同径であり、アノードガスマニホールド71、74の開口面積とカソードガスマニホールド61、64の開口面積とが同じである場合にも、同様の工程でアノードガスマニホールドの内周面71x、74xおよびカソードガスマニホールドの内周面61x、64xをコートすることは可能である。この場合には周縁コート部61y、64yをコートすることはできないが、実施形態1の製造方法と同様に、カソード面37、アノードガスマニホールドの内周面71x、74x、および、カソードガスマニホールドの内周面61x、64xをコート原料によってコートできる。なお、実施形態1の製造方法におけるコート工程によると、アノードガスマニホールドの内周面71x、74xが周縁コート部61y、64yに対する疑似マスクとして機能するため、周縁コート部61y、64yに容易にコート層を形成できる。
【0056】
実施形態1の製造方法においては、アノードガス流通面75における周縁コート部61y、64yよりも外周側部分(図5中点線で示す位置)を、充填材91で埋めた。このため、アノードガスマニホールド71、74に進入したコート原料が、図5中矢印で示すようにアノードガス流通面75に進入しようとしても、充填材91により堰き止められる。このためアノードガス流通面75にはコート原料がコートされない。充填材91は、上述した連結部すなわちアノードガス流通面75におけるアノードガスマニホールド71、74の周縁部の少なくとも一部を埋めれば良く、充填材91で埋めるアノードガス流通面75の領域は、アノードガス流通面75とアノードガスマニホールド71、74との位置関係に応じて適宜設定すれば良い。
【0057】
<焼成工程>
コート工程後、コート原料がコートされたインターコネクタ本体30を大気雰囲気で2時間焼成した。このときの焼成温度(加熱温度)は、800℃であり、接着材90および充填材91が燃焼する温度よりも高温であった。このため、コート工程において接着剤90および充填材91は焼失し、2枚のインターコネクタ3が得られた(図4)。
【0058】
実施形態1のインターコネクタ3によると、インターコネクタ本体30を導電性セラミックからなるコート層31でコートしたことで、インターコネクタ本体30の酸化を抑制できる。特に、カソード面37およびカソードガスマニホールド61、64にコート層31を形成し、アノード面36の大部分にコート層を形成しなかったことで、コート層31の還元膨張に由来するインターコネクタ3の劣化を抑制しつつ、インターコネクタ3の酸化を抑制できる。さらに、アノード面36における周縁コート部61y、64yにもコート層を形成したことで、カソードガスマニホールド61、64から漏出したカソードガスによるアノード面36の酸化劣化を抑制できる。
【0059】
実施形態1の製造方法によると、上述した実施形態1のインターコネクタ3を容易に製造できる。
【0060】
周縁コート部61y、64yを形成する領域の大きさは特に限定しない。インターコネクタ3の酸化とコート層31の還元をともに抑制するためには、アノード面36全体を100面積%としたときの周縁コート部61y、64yの総和が5面積%〜60面積%程度であるのが好ましく、40面積%〜55面積%程度であるのがより好ましい。
【0061】
コート層31は、ランタン酸化物系導電材料とガラス系結合材と液状媒体とを含むコート原料を、インターコネクタ本体30の表面にコーティングすることにより形成できる。このためコート層31を容易に形成できる。コート層31はランタン酸化物系導電材料とガラス系結合材とが混合されたコート原料を焼成して形成されるが、大気雰囲気における低温焼成が可能となり、製造時の過剰酸化が抑制される。
【0062】
実施形態1のように、アノード面36における周縁コート部61y、64y、カソード面37、および、カソードガスマニホールド61、64にコート層31を形成し、アノード面36の大部分にコート層31を形成しないためには、アノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64のアノード面36における位置関係および開口面積が重要である。つまり、アノードガスマニホールド71、74の開口面積をカソードガスマニホールド61、64の開口面積よりも大きくし、上述した接着工程においてアノードガスマニホールド71およびカソードガスマニホールド61を対面させるとともに、アノードガスマニホールド74およびカソードガスマニホールド64を対面させる必要がある。このためには、アノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64を以下のように配置するのが良いと考えられる。以下、図7に示す説明図を基にアノードガスマニホールドおよびカソードガスマニホールドの好ましい位置を説明する。
【0063】
図7(a)〜(c)に模式的に示すように、インターコネクタ本体30は、一つのアノードガスマニホールドと一つのカソードガスマニホールドとを一対とするマニホールド対80を複数対持つ。図7(a)〜(c)に示すインターコネクタ本体30においては、アノードガスマニホールド71とカソードガスマニホールド61とが対をなし、アノードガスマニホールド74とカソードガスマニホールド64とが対をなしている。つまりこのインターコネクタ本体30は2対のマニホールド対80を持つ。
【0064】
(a)、(b)に示すように、インターコネクタ本体30のアノード面36が正方形、長方形、平行四辺形、菱形、真円、楕円等の線対称形状である場合には、アノード面36の対称軸Lに対して、対をなすアノードガスマニホールド71およびカソードガスマニホールド61、アノードガスマニホールド74およびカソードガスマニホールド64が、それぞれ線対称となるのが良い。なお、アノード面36は平面であるのが好ましいが、必ずしも平面でなくても良く、例えば多少湾曲していても良い。なお、対称軸Lはアノード面36の中心をとおる直線であり、アノード面36が正方形または長方形の場合には、何れかの辺と平行である。また、ここで言う「アノードガスマニホールドとカソードガスマニホールドとが線対称」とは、アノード面36におけるアノードガスマニホールド71、74の対称中心Oと、アノード面36におけるカソードガスマニホールド61、64の対称中心Oとが線対称であることを指す。
【0065】
図7(a)、(b)に示すように、アノード面36におけるアノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64がこのような位置関係であれば、接着工程において2枚のインターコネクタ本体30を完全に重ね合わせ、カソードガスマニホールド61がアノードガスマニホールド71に含まれるようにアノードガスマニホールド71とカソードガスマニホールド61とを対面させ、かつ、カソードガスマニホールド64がアノードガスマニホールド74に含まれるようにアノードガスマニホールド74とカソードガスマニホールド64とを対面させることができる。この状態で2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36同士を接着してコート層31を形成することで、アノード面36の大部分にコート層31を形成せずに、カソード面37およびカソードガスマニホールド61、64の内周面にコート層31を形成し、かつ、アノード面36におけるカソードガスマニホールド61、64の周縁部にコート層(周縁コート部61y、64y)を形成することができる。
【0066】
なお、アノードガスマニホールド本体30のアノード面36が真円の場合には、対称軸である直線Lは中心Oをとおる何れかの直線であれば良い。アノード面36が楕円の場合には、対称軸である直線Lは中心Oをとおり楕円の長径または短径に対して平行であれば良い。何れの場合にも、対をなすアノードガスマニホールド71およびカソードガスマニホールド61、アノードガスマニホールド74およびカソードガスマニホールド64がそれぞれ直線Lに対して線対称であれば良い。
【0067】
接着工程において2枚のインターコネクタ本体30を完全に重ねない場合、つまり、周縁コート部61y、64yを除くアノード面36の一部にもコート層31を形成する場合には、図7(c)に示すように、アノード面36は線対称形状でなくても良い。この場合、対称軸である直線Lは、アノード面36上にあれば良い。この場合にも、対をなすアノードガスマニホールド71およびカソードガスマニホールド61、アノードガスマニホールド74およびカソードガスマニホールド64が、それぞれ互いに直線Lに対して線対称となるよう配置すれば、アノード面36の大部分にコート層31を形成せずに、カソード面37およびカソードガスマニホールド61、64の内周面にコート層31を形成し、かつ、アノード面36におけるカソードガスマニホールド61、64の周縁部にコート層(周縁コート部61y、64y)を形成することができる。なお、インターコネクタ本体30の形状、アノード面36の形状、および、アノードガスマニホールド71、74、カソードガスマニホールド61、64の形状、位置、個数に関してはこれに限定されず、必要に応じて適宜設計できる。
【0068】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。例えば実施形態1の製造方法によると、アノードガスマニホールド71、74の内部にはコート層31が形成されるが、本発明のインターコネクタ3においては、必ずしもアノードガスマニホールド71、74の内部にコート層31を形成しなくても良い。
【符号の説明】
【0069】
1はセル積層体、2は単セル、3はインターコネクタ、31はコート層、36はアノード面、37はカソード面、61、64はカソードガスマニホールド、61x、64xはカソードガスマニホールドの内周面、61y、64yは周縁コート部、65はカソードガス流通面、71、74はアノードガスマニホールド、71x、74xはアノードガスマニホールドの内周面、D1はアノードガスマニホールドの孔径、D2はカソードガスマニホールドの孔径、90は接着材、91は充填材を指す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7