(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5850345
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】高速混合反応器およびその使用
(51)【国際特許分類】
B01J 19/18 20060101AFI20160114BHJP
C07C 265/14 20060101ALI20160114BHJP
C07C 263/10 20060101ALI20160114BHJP
C07C 211/50 20060101ALI20160114BHJP
C07C 211/51 20060101ALI20160114BHJP
C07C 209/78 20060101ALI20160114BHJP
B01F 15/02 20060101ALI20160114BHJP
B01F 7/02 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
B01J19/18
C07C265/14
C07C263/10
C07C211/50
C07C211/51
C07C209/78
B01F15/02 A
B01F7/02 D
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-546549(P2013-546549)
(86)(22)【出願日】2010年12月29日
(65)【公表番号】特表2014-509247(P2014-509247A)
(43)【公表日】2014年4月17日
(86)【国際出願番号】CN2010080434
(87)【国際公開番号】WO2012088671
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】513165023
【氏名又は名称】ワンホア ケミカル グループ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】ディン ジァンシェン
(72)【発明者】
【氏名】スン デヂェン
(72)【発明者】
【氏名】ホア ウェイチー
(72)【発明者】
【氏名】ホウ チングル
(72)【発明者】
【氏名】ワン ウェンボ
(72)【発明者】
【氏名】ユー シュエリー
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第02392542(US,A)
【文献】
特開昭63−296830(JP,A)
【文献】
特開昭63−303961(JP,A)
【文献】
特開昭54−162269(JP,A)
【文献】
特開2003−313155(JP,A)
【文献】
特表2002−502838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/18
B01F 7/
B01F 15/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフィードイン流路筐体、反応器筐体、第2のフィードイン流路、羽根車円板を含む中空羽根車フィード分配器、回転シャフト、および第1のフィード分配器を備える急速混合反応器であって、
前記第1のフィードイン流路筐体は、前記反応器筐体に対して同軸に構築され、前記第1のフィードイン流路筐体の端部に据え付けられた前記第1のフィード分配器を介して、前記反応器筐体内部の反応空間と連通しており、前記第1のフィードイン流路筐体および前記第1のフィード分配器は、第1のフィードイン流路としての空間を囲繞し;
前記第2のフィードイン流路、前記中空羽根車フィード分配器、および前記回転シャフトはそれぞれ、反応器の中心軸に沿って順番に互いに接続して固定されており、前記中空羽根車フィード分配器は、前記反応器筐体内に位置し、前記回転シャフトの原動力下で軸回転し;
前記第2のフィードイン流路は、前記中空羽根車フィード分配器内部のフィード流路と接続されており;
前記第1のフィードイン流路筐体には、中に少なくとも1つの第1のフィードイン入口が備わっており、;
少なくとも1つの反応液出口が前記反応器筐体の遠位末端に備わっており;
前記第1のフィード分配器および前記中空羽根車フィード分配器にはそれぞれ、第1のフィードイン噴出孔および第2のフィードイン噴出孔が備わっており、
前記第2のフィードイン流路、前記中空羽根車フィード分配器、および前記回転シャフトが、前記反応器の中心軸に沿ってこの順序で結合されており、
互いに隣接し得る動的シールリングおよび静的シールリングが、前記中空羽根車フィード分配器が前記第2のフィードイン流路と接続されている部位に配置され;
前記動的シールリングは、前記中空羽根車フィード分配器上に配置され、前記静的シールリングは、前記第2のフィードイン流路の前記端部に配置されており、前記静的シールリングの一方の側は、前記中空羽根車フィード分配器上の前記動的シールリングと隣接し、前記静的シールリングの他方の側は、内側から外側に、伸縮継ぎ手およびバネを介して前記第1のフィード分配器に固定されていることを特徴とする、
反応器。
【請求項2】
前記第2のフィードイン噴出孔が、前記中空羽根車フィード分配器の側面上に、もしくは最外側縁部に、または前記中空羽根車フィード分配器の前記羽根車円板に垂直に前記中空羽根車フィード分配器から延在するある特定の流路内に構築されていることを特徴とする、請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
前記中空羽根車フィード分配器内に配置された前記第2のフィードイン噴出孔が、円形、三角形、菱形、台形、多角形、楕円、正方形、長方形、またはこれらの任意の組合せから選択される形状を有することを特徴とする、請求項2に記載の反応器。
【請求項4】
前記第1のフィードイン噴出孔が環状、または均等に分布した複数の開口部であり;
前記第1のフィードイン噴出孔が環状である場合、前記環状の第1のフィードイン噴出孔は、前記第1のフィード分配器に対して同心円状に配置され、同じおよび/または異なる内径を有する複数の弧状スリットを備え、前記複数の弧状スリットは、互いに間隔を置いて離されており、
前記第1のフィードイン噴出孔が、均等に分布した複数の開口部を備える場合、前記開口部は、円形、三角形、菱形、台形、多角形、楕円、正方形、長方形、またはこれらの任意の組合せから選択される形状を有することを特徴とする、請求項1または3に記載の反応器。
【請求項5】
前記中空羽根車フィード分配器の下流に、環状反応流路調節ブロックが前記反応器筐体の内壁上に固定され、内側に突き出していることを特徴とする、請求項4に記載の反応器。
【請求項6】
少なくとも2つの撹拌ブレードを備える少なくとも1つの撹拌パドルが、前記回転シャフト上に、かつこれに垂直に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の反応器。
【請求項7】
少なくとも2つの撹拌ブレードを備える少なくとも1つの撹拌パドルが、前記回転シャフト上に、かつこれに垂直に固定されていることを特徴とする、請求項5に記載の反応器。
【請求項8】
前記撹拌パドルが、前記回転シャフト上に垂直に固定され、前記撹拌パドルおよび前記環状反応流路調節ブロックが、前記反応器の中心軸に垂直な前記同じ断面内に位置していることを特徴とする、請求項7に記載の反応器。
【請求項9】
前記反応器の遠位末端に配置されたモーター用取り付け具をさらに備えることを特徴とする、請求項8に記載の反応器。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の前記反応器を使用することによって、一般式(I)のアミンから、一般式(II)の脂肪族、脂環式、または芳香族イソシアネートを調製するための方法であって、
R(NH2)n (I)
R(NCO)n (II)
式中、Rは、脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素基を表し、n=1、またはn≧2であり、
(a)ホスゲンの溶液を、前記第1のフィードイン入口を介して前記急速混合反応器の前記第1のフィードイン流路中に、次いで前記第1のフィード分配器によって前記反応器筐体中に導入する工程と;
(b)一般式(I)の前記アミンの有機溶液を、第2のフィードイン流路を通じ、かつ回転中空羽根車フィード分配器を介して前記反応器筐体中に導入する工程と;
(c)工程(a)を介して導入されたホスゲンの溶液、および工程(b)を介して導入されたアミンの溶液を、前記反応器筐体内で互いに急速に混合し、反応させ、生成された反応液を、反応液用出口を介して排出する工程と
を含む方法。
【請求項11】
前記ホスゲンの溶液が、純粋なホスゲンの溶解物、または30〜100重量%の濃度のホスゲンの不活性有機溶媒溶液として定義されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アミンの有機溶液が、10〜60重量%の濃度の不活性有機溶媒中の一般式(I)の前記アミンの溶解物として定義されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
式(I)および(II)中の基Rが、脂肪族C2−C50炭化水素基、脂環式C2−C50炭化水素基、または芳香族C6−C50炭化水素基であり;
式(I)および(II)中のnが、2〜4を表すことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
一般式(I)の前記アミンが、トルエンジアミン、ジフェニルメタン−4,4’−ジアミン、ポリメチレンポリフェニレンポリアミン、イソホロンジアミン、ヘキサンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ナフタレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ベンゼンジメチレンジアミン、シクロヘキサンジメチレンジアミン、トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、テトラメチルm−フェニレンジメチレンジアミン、ジメチルビフェニルジアミン、およびメチルシクロヘキセンジアミンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
ホスゲンまたはアミンを溶解させるための不活性溶媒が、同じであっても、異なっていてもよく、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、塩化ビフェニル、テレフタル酸ジアルキル、フタル酸ジエチル、またはこれらの任意の組合せからなる群から独立して選択されることを特徴とする、請求項10から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の前記反応器を使用することによって、アニリンからポリメチレンポリフェニレンポリアミンを調製するための方法であって、
(A)アニリン塩酸塩と循環反応液のストリームとの液体混合物を、前記第1のフィードイン入口を介して前記急速混合反応器の前記第1のフィードイン流路中に、次いで前記第1のフィード分配器によって前記反応器筐体中に導入する工程と;
(B)ホルムアルデヒドの溶液を、前記第2のフィードイン流路を通じ、かつ前記回転中空羽根車フィード分配器を介して前記反応器筐体中に導入する工程と;
(C)アニリン塩酸塩と前記循環反応液の前記液体混合物、および前記ホルムアルデヒドの溶液を、前記反応器筐体内で急速な混合および前縮合にかけ、次いで撹拌しながら反応容器内に前記反応液を移して、前記前縮合を進めることによって縮合液体を得、その後、加熱、分子転位、中和、水洗浄、精製の工程を続けることによって、精製ポリメチレンポリフェニレンポリアミンを得る工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速混合反応器、特に、大容量の生産下で、流体の急速反応を生じさせるように流体を急速に混合することができるダイナミック反応器に関する。また、本発明は、本反応器を使用することによって、ホスゲン化によってイソシアネートを調製するためのプロセス、および本反応器を使用することによって、アニリンおよびホルムアルデヒドからポリメチレンポリフェニレンポリアミンを調製するプロセスを提供する。
【背景技術】
【0002】
化学物質生産の実施において、目的とする反応と並行して、急速に進行する競合する副反応または反応連鎖が存在することが多い。生成物、中間体、および原料の中で起こるこれらの反応は、反応系内の反応進行および成分の濃度分布によって直接影響される。したがって、材料の一次混合は、標的生成物の分布、収率および品質にとって非常に重要であり、全体的な生産プロセスの設計およびエネルギー効率に対して強いインパクトを有する。
例えば、イソシアネート(例えば、MDIまたはTDI)の合成を引用すると、このプロセスは、周囲温度および高温でのホスゲン化から主に構成される。液体ポリアミンおよび液体ホスゲンを不活性溶媒、例えば、クロロベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、クロロ−ナフタレン、1,2,4−トリクロロベンゼンなどの中に溶解させた後、周囲温度での反応は、0〜90℃で起こり、アミドおよびポリアミン塩酸塩、ならびに少量の尿素を主に形成する。主反応は以下の通りである。
RNH
2+COCl
2→RNHCOCl+HCl (1)
RNH
2+HCl→RNH
2・HCl (2)
RNH
2+RNHCOCl→RNCO+RNH
2・HCl (3)
RNH
2+RNCO→RNHCONHR (4)
周囲温度でのホスゲン化の段階において、ポリアミンは、ホスゲンと最初に反応することによって、塩化カルバモイルを生じ、すなわち、反応(1)であり、これは、瞬時に完了へと進む急速な発熱反応であり、同時に、反応(1)から生じるHClは、急速にポリアミンと反応することによって、すなわち、反応(2)によって、ポリアミン塩酸塩を生じる。塩化カルバモイルおよびポリアミン塩酸塩はともに、反応系において不溶性の固体である。ホスゲンとポリアミンの局所的な混合効果が相対的に芳しくない場合、この領域内の過剰なポリアミンは、それぞれ反応(3)および(4)において示したように塩化カルバモイルまたはイソシアネートと反応し、望まれない副生成物として尿素を生じ、これは、反応系において粘性で不溶性である。このプロセスは、複雑な連続競合反応を呈する。主反応は、数ミリ秒以内またはより速くさえ完了する瞬間的反応であり、その生成物は、急速に原料とさらに反応し、反応系において不溶性の副生成物を生じる。したがって、2つの原料の初期混合は、標的生成物の収率および選択性を直接決定する。2つの原料ストリームの初期混合を改善する高速液体混合反応器を設計することは、標的生成物の収率および選択性を増大させ、粘性副生成物を低減するのに非常に重要である。
【0003】
別の例について、ポリメチレンポリフェニレンポリアミンを生成するためのアニリンとホルムアルデヒドとの反応は、塩形成、前縮合(pre−condensation)、および転位を含む反応段階を主に含む。前縮合反応段階において、アニリン塩酸塩と循環液の液体混合物が、20〜90℃の範囲の温度でホルムアルデヒドと急速に接触させられることによって、前縮合反応が実施され、ホルムアルデヒドのより良好な微視的分散が反応の結果にとって有利である。局所領域における過剰なホルムアルデヒドは、巨大分子生成物およびより多くの不純物の形成をもたらす。ホルムアルデヒドが局所的に過剰である場合、蜘蛛の巣状のポリマーが生成され、これらは不溶性であり、装置を詰まらせる傾向があり、したがって運転に影響することとなる。したがって、2つの原料の初期混合は、標的生成物の収率および選択性を直接決定する。2つの原料ストリームの初期混合を改善する高速液体混合反応器を設計することは、標的生成物の収率および選択性を増大させ、粘性副生成物を低減するのに非常に重要である。
交差流混合は、流体の急速混合を実現するための重要な技法であり、これは、複数の開口部を介して一方の流体ストリームを別の流体ストリーム中に噴出させることによる一方法で実現することができる。噴出されたストリームは、開口部によって複数の微細なストリーム(steam)に分割される。他方の流体のメインストリーム中に噴出される際、各微細ストリームは、メインストリームによって急速に包まれ、それによって、流体の2つのストリームの急速混合を実現する。
【0004】
米国特許第5,117,048号では、孔噴出反応器(hole−jetting reactor)(
図1に示したような)が開示され、これは、ネック部分にわたって均等に分布した開口部を介して、一方のストリーム(ポリアミン)をメインストリーム(ホスゲン)中に噴出させて、交差流によって流体の2つのストリームの急速混合を可能にした。この反応器は、主に、材料の初期混合を改善するようにネック部分を設計することによって材料のこれらの2つのストリーム中の乱流強度を増大させた。この反応器設計により、反応物を希釈するための溶媒の量を低減することが可能になった。
米国特許第5,931,579号では、互いに連動するようにローテーターおよびステーターを使用することによって混合を実現する反応器が開示された(
図2を参照)。2つの流体ストリームがローテーターとステーターの間に供給され、混合がローテーターの回転によって推進された。ローテーターの回転により乱流が強まり、流体の2つのストリームの急速混合が実現され、これにより、希釈用溶媒の量が低減した。
【0005】
上記例証は、十分に分布される方法でフィードの2つのストリームを初期混合することが非常に重要であることを示す。ストリームの急速混合は、1つの流体ストリームを高速で別のストリーム中に噴出させる孔噴出型反応器を使用することによって、またはローテーターの撹拌ゾーン中に2つの流体ストリームを供給する撹拌型反応器を使用することによってある程度実現することができる。流体は厚さを有するので、空間および乱流ゾーンは、十分な混合を実現するのに必須である。2つの流体の混合は、流体の流量がより低い場合、相対的により容易である。しかし、大規模生産活動では、より大きいフローチャネルを必要とし、短時間でのフィードの2つのストリームの分布および混合が芳しくなくなり得る。余分な距離が混合効果を実現するのに必要であるが、副反応の可能性が増大する場合がある。上記に論じた2つの型の反応器はともに、高作業負荷下で、能力が限られ、反応効果が低下し、したがって、大容量の生産下でフィードの急速混合反応を実現するのに、より良好な混合効果を有する高速混合装置を開発することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、相対的に大容量の生産下でフィードの2つのストリームを瞬時に急速混合することを可能にし、主反応を高め、副反応を抑制し、その結果、標的生成物(複数可)の収率および品質を改善する新規高速混合反応器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による反応器は、以下の概念、すなわち、流体の第1のストリームが流路を通じて導入され、一方、流体の第2のストリームが、回転羽根車(複数可)を伴った入口を介して流体の第1のストリーム中に均等に噴出されるという概念に基づいて設計されている。流体の第2のストリームは、回転羽根車(複数可)を介して流体の第1のストリーム中に導入されるので、したがって、これらの2つのストリームは、余分な混合空間を必要とすることなく、初期において均等に分散される。さらに、フィード入口を伴った回転羽根車(複数可)は撹拌機能をもたらし、これは、混合空間を必要とすることなく、フィードの2つのストリームの急速混合を可能にする。このような設計によりスケールアップ効果が回避され、その理由は、フィードの一方のストリームが、動的に導入され、入口を流体の他方のストリームに関して均等に分布させることができ、流路空間の影響を排除するためである。これは、大容量の生産下での流体の急速な混合および反応を可能にする。
【0008】
本発明による急速混合反応器の基本構造を以下のように説明する。
急速混合反応器は、第1のフィードイン(feed−in)流路筐体、反応器筐体、第2のフィードイン流路、中空羽根車フィード分配器、回転シャフト、および第1のフィード分配器を備え、ここで、第1のフィードイン流路筐体および反応器筐体は、同軸に構築され、第1のフィードイン流路筐体の端部に構築された第1のフィード分配器を介して互いに接続されており、第2のフィードイン流路、中空羽根車フィード分配器、および回転シャフトはすべて、反応器の中心軸上に整列されており、中空羽根車フィード分配器は、反応器筐体内に配置され、回転シャフトの駆動によって回転し、第2のフィードイン流路は、中空羽根車フィード分配器内部の流路と接続されており、第1のフィードイン流路筐体には、中に少なくとも1つの第1のフィードイン入口が備わっており、反応器筐体には、遠位末端に反応液のための少なくとも1つの出口が備わっており、第1のフィード分配器および中空羽根車フィード分配器にはそれぞれ、第1のフィードイン噴出孔(複数可)および第2のフィードイン噴出孔(複数可)が備わっている。
本発明による急速混合反応器では、好ましくは、第2のフィードイン流路、中空羽根車フィード分配器、および回転シャフトは、急速混合反応器の中心軸に沿ってこの順序で固定されている。さらに好ましくは、互いに密接に隣接する動的シールリングおよび静的シールリングが、中空羽根車フィード分配器が第2のフィードイン流路と接続されている結合部に配置されている。動的シールリングは、中空羽根車フィード分配器上に配置され、静的シールリングは、第2のフィードイン流路の端部に配置されており、ここで、静的シールリングの一方の側は、中空羽根車フィード分配器上の動的シールリングと隣接し、他方の側は、内側から外側に、伸縮継ぎ手およびバネを介して第1のフィード分配器に固定されている。この配置で、中空羽根車フィード分配器が回転しながら、動的シールリングと静的シールリングが互いにしっかりと隣接することができる。
【0009】
本発明の別の好適な実施形態によれば、第2のフィードイン流路は、回転シャフト内部に構築され、中空羽根車フィード分配器と強固に接続および連通されており、その結果、中空羽根車フィード分配器は、回転シャフトによって、反応器筐体内部で回転させられる。
【0010】
本発明による急速混合反応器では、好ましくは、第2のフィードイン噴出孔は、中空羽根車フィード分配器の側面(複数可)上に、または中空羽根車フィード分配器の最外側縁部(複数可)に、または羽根車
円板に垂直に中空羽根車フィード分配器から延在する流路(複数可)内に構築されている。本発明によれば、中空羽根車フィード分配器に備えられている第2のフィードイン噴出孔は、形状、サイズ、および数に関して特に限定されず、ただし、プロセス要求事項を満たすことができる。例えば、噴出孔の形状(すなわち、噴出孔内部の流路の断面形状)は、円形、三角形、菱形、台形、多角形、楕円、正方形、長方形、またはこれらの任意の組合せから選択することができ、好ましくは円形または長方形である。噴出孔の具体的なサイズおよび数は、具体的なプロセス要求事項に従って、かつ日常の計算を通じて当業者によって決定され得る。
本発明による急速混合反応器では、第1のフィード分配器には、第1のフィードイン噴出孔(複数可)が備わっている。好ましくは、第1のフィードイン噴出孔(複数可)は、環状であっても、均等に分布した複数の開口部であってもよい。第1のフィードイン噴出孔(複数可)が環状である場合、好ましくは、環状の第1のフィードイン噴出孔(複数可)は、第1のフィード分配器に対して同心円状に配置され、同じおよび/または異なる内径(複数可)を有する複数の弧状スリットを備え、特に、同じ内径を有する複数の弧状スリットは、互いにある特定の距離内にあり、第1のフィード分配器に対して同心である。
同じ原理(principal)で、異なる内径を有する複数の弧状スリットは、第1のフィード分配器に対して同心円状に配置されていることが好ましい。第1のフィードイン噴出孔(複数可)が均等に分布した複数の開口部を備える場合、好ましくは、開口部の形状は、円形、三角形、菱形、台形、多角形、楕円、正方形、長方形、またはこれらの任意の組合せから選択することができ、好ましくは円形である。本発明によれば、第1のフィードイン噴出孔(複数可)は、サイズおよび数に関して特に限定されない。第1のフィードイン噴出孔の具体的なサイズおよび数は、具体的なプロセス要求事項に従って、かつ日常の計算を通じて当業者によって決定され得る。
【0011】
本発明による急速混合反応器では、中空羽根車フィード分配器の下流に、好ましくは、環状反応流路調節ブロックが反応器筐体の内壁上に据え付けられ、内側に突き出している。この設計は、反応物のための流路をある特定の程度に狭くする目的がある。反応液の流量は、反応流路調節ブロックと回転シャフトの間の距離を調整することによって、10m/秒〜500m/秒、好ましくは30m/秒〜300m/秒の範囲内に制御することができる。反応流路調節ブロックは、別個に構築し、次いで反応器筐体の内壁上に取り付ける、あるいは、反応器筐体と一体的に形成することができる。
本発明による急速混合反応器では、好ましくは、少なくとも2つの撹拌ブレードを備える撹拌パドルの少なくとも1つのステージが回転シャフト上に垂直に備えられていることによって、中空羽根車フィード分配器の下流にある反応物ストリームの瞬時急速混合が改善される。より好ましくは、回転シャフト上に垂直に備えられた撹拌パドルの第1〜第3のステージが存在し、撹拌パドルの各ステージは、2〜20の撹拌ブレードを備える。さらにより好ましくは、撹拌パドルの1つのステージは、回転シャフト上に垂直に備えられ、撹拌パドルおよび反応流路調節ブロックは、反応器の中心軸に垂直な同じ断面内に位置している。
【0012】
本発明による急速混合反応器では、より好ましくは、本発明の反応器は、反応器の遠位末端に配置されたモーター用取り付け具をさらに備え、これは、反応器をモーターに固定するのに使用される。
本発明による急速混合反応器では、反応器用材料は、特に限定されず、当技術分野で一般に使用されるものとすることができ、それだけに限らないが、鋼、ガラス、セラミック、合金、炭化ケイ素、またはエナメル質化鋼(enamelized steel)が含まれる。
【0013】
本発明によれば、上述した急速混合反応器を使用することによって、一般式(I)のアミン(複数可)から一般式(II)の脂肪族、脂環式、または芳香族イソシアネートを調製するためのプロセスも提供され、
R(NH
2)
n (I)
R(NCO)
n (II)
式中、Rは、脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素基を表し、n=1、または≧2であり、
このプロセスは、
(a)ホスゲンの溶液を、第1のフィードイン入口を介して急速混合反応器の第1のフィードイン流路中に、次いで第1のフィード分配器によって反応器筐体中に導入する工程と;
(b)一般式(I)のアミンの有機溶液を、第2のフィードイン流路を通じ、かつ回転中空羽根車フィード分配器によって反応器筐体中に導入する工程と;
(c)工程(a)を介して導入されたホスゲンの溶液、および工程(b)を介して導入されたアミンの溶液を、反応器筐体内で互いに急速に混合し、反応させ、生成された反応液を、反応液出口を介して排出する工程と
を含む。
【0014】
本発明によるイソシアネートを調製するためのプロセスでは、ホスゲンの溶液は、純粋なホスゲン、または30〜100重量%の濃度で不活性有機溶媒中に溶解したホスゲンの溶液であり、アミンの有機溶液は、10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%の濃度での不活性有機溶媒中の一般式(I)のアミンの溶解物である。
本発明によるイソシアネートを調製するためのプロセスでは、式(I)および(II)中の基Rは、C
2−C
50炭化水素基、脂環式C
2−C
50炭化水素基、または芳香族C
6−C
50炭化水素基、好ましくは、脂肪族C
4−C
30炭化水素基、脂環式C
4−C
30炭化水素基、または芳香族C
6−C
30炭化水素基、より好ましくは、脂肪族C
5−C
18炭化水素基、脂環式C
5−C
18炭化水素基、または芳香族C
6−C
20炭化水素基であり、式(I)および(II)中のnは、2〜4を表す。
本発明によるイソシアネートを調製するためのプロセスでは、一般式(I)のアミンは、トルエンジアミン、ジフェニルメタン−4,4’−ジアミン、ポリメチレンポリフェニレンポリアミン、イソホロンジアミン、ヘキサンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ナフタレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ベンゼンジメチレンジアミン、シクロヘキサンジメチレンジアミン、トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、テトラメチルm−フェニレンジメチレンジアミン、ジメチルビフェニルジアミン、およびメチルシクロヘキセンジアミンから選択することができ、好ましくは、トルエンジアミンである。
本発明によるイソシアネートを調製するためのプロセスでは、ホスゲンまたはアミンを溶解させるための不活性溶媒は、同じであっても、異なっていてもよい。不活性(insert)溶媒は、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、塩化ビフェニル、テレフタル酸ジアルキル、フタル酸ジエチル、またはこれらの任意の組合せから独立して選択することができる。
【0015】
加えて、本発明は、上述した反応器を使用することによって、アニリンを用いてポリメチレンポリフェニレンポリアミン(単に「ポリアミン」と呼ばれる)を調製するためのプロセスであって、
(A)アニリン塩酸塩と循環液の液体混合物を、第1のフィードイン入口を介して急速混合反応器の第1のフィードイン流路中に、次いで第1のフィード分配器によって反応器筐体中に導入する工程と;
(B)ホルムアルデヒドの溶液を、第2のフィードイン流路を通じ、かつ回転中空羽根車フィード分配器によって反応器筐体中に導入する工程と;
(C)アニリン塩酸塩と循環液の液体混合物およびホルムアルデヒドの溶液を、反応器筐体内で急速な混合および前縮合にかけ、次いで撹拌機を有する反応容器内に反応混合物を移して、前縮合反応を継続することによって縮合液体を得、その後、加熱、分子転位、中和、水洗浄、精製などの工程を続けることによって、精製ポリアミンを得る工程と
を含むプロセスを提供する。
【0016】
先行技術と比較して、急速混合反応器、および本発明で記載される反応器を使用することによってイソシアネートを調製するためのプロセスは、以下の利点を提供する:
(1)フィードの1つのストリームが回転分配流路によってフィードの別のストリーム中に均等に分布され、それによって2つのストリームの急速混合を実現し;
(2)反応器は、原理上はいずれの制限も伴うことなくスケールアップすることができ、大容量の生産下で、液体の2つのストリームの瞬時急速混合を可能にし、それによって、従来の反応器のスケールアップに関連した流路の拡大された空間のために、混合するための距離および時間の両方が延長されるという欠点を克服し;
(3)混合されたストリームの逆混合の程度は、混合反応ゾーン内で最小限にされ、本発明の反応器は、理想的な「ピストンフロー」反応器に類似し;
(4)本発明の反応器を使用して急速で均質な混合をもたらすことによって、副反応(複数可)は最大限に抑制され、ホスゲン化によってイソシアネートを調製するためのプロセスにおいて使用される溶媒の量および過剰のホスゲンを低減することができ、設備の能力を増大させることができ、生成物の品質を改善することができ、エネルギー消費を低下させることができる。本発明による反応器がアニリンおよびホルムアルデヒドからポリメチレンポリフェニレンポリアミンを調製するのに使用される場合では、前縮合の反応温度を上昇させることができ、生成物の品質を改善することができ、設備は、長期間にわたる安定稼動が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】US5,117,048による孔噴出型反応器の配列の概略図である。
【
図2】US5,931,579による反応器の配列の概略図である。
【
図3】本発明の好適な実施形態による反応器の配列の概略図である。
【
図4】本発明の別の好適な実施形態による反応器の配列の概略図である。
【
図5】
図5a〜5cは、それぞれ、フィードイン噴出孔が本発明による中空羽根車フィード分配器内に配置されたパターンの概略図である。
【
図6】
図6a〜6cは、それぞれ、フィードイン噴出孔が本発明による第1のフィード分配器内に配置されたパターンの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に高速混合反応器、および本発明による反応器を使用することによってイソシアネートを調製するためのプロセスを、図面を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらに決して限定されないと理解されるものとする。
【0019】
図3に示したように、本発明による高速混合反応器は、第1のフィードイン流路筐体1、反応器筐体4、第2のフィードイン流路17、中空羽根車フィード分配器6、回転シャフト10、および第1のフィード分配器3を主に備える。第1のフィードイン流路筐体1は、反応器筐体4に対して同軸に構築され、第1のフィードイン流路筐体1の端部に据え付けられた第1のフィード分配器3を介して、反応器筐体内部の反応空間と連通している。第2のフィードイン流路17、中空羽根車フィード分配器6、および回転シャフト10はそれぞれ、反応器の中心軸に沿って順番に互いに接続して固定されている。中空羽根車フィード分配器6は、反応器筐体4内に位置し、回転シャフト10の原動力下で軸方向に回転する。第2のフィードイン流路17は、中空羽根車フィード分配器6内部のフィード流路12と接続されている。第1のフィードイン流路筐体1には、少なくとも1つの第1のフィードイン入口2が備わっており、第1のフィードイン流路筐体1および第1のフィード分配器3は、第1のフィードイン流路18として画定される空間を囲繞する。反応器筐体4の遠位末端には、少なくとも1つの反応液出口8が備わっている。第1のフィード分配器3には、互いに釣り合った距離を有する複数の第1のフィードイン噴出孔13が備わっており、中空羽根車フィード分配器6には、その羽根車
円板に垂直な複数の流路が備わっている。羽根車
円板に垂直な流路にはすべて、複数の第2のフィードイン噴出孔5が備わっている。
図5cは、羽根車
円板に垂直な流路の局所的な拡大であり、これは、
図3に示したものと異なる程度に噴出孔のパターンを示す。あるいは、本発明による中空羽根車フィード分配器6は、
図5a、5bに示したような、または本発明に適した任意の他のパターンで第2のフィードイン噴出孔とともに設計することができる。
【0020】
図3に示したように、中空羽根車フィード分配器6と第2のフィードイン流路17の間の接合部は、互いにしっかりと隣接する動的シールリング14および静的シールリング19で密閉されている。動的シールリング14は、中空羽根車フィード分配器6上に配置されており、静的シールリング19は、第2のフィードイン流路17の端部に配置されている。静的シールリング19の一方の側は、中空羽根車フィード分配器6上の動的シールリング14としっかりと隣接し、その他方の側は、伸縮継ぎ手16および伸縮継ぎ手16の外側に位置したバネ15を介して、第1のフィード分配器3に固定されている。この設計で、中空羽根車フィード分配器6上の動的シールリング14および第2のフィードイン流路17上の静的シールリング19が、互いにしっかりと隣接することによって結合部を密閉し、回転シャフト10が動作する際に第2のフィードが反応器筐体4の内部に漏れるのを防止する。
【0021】
さらに、
図3に示したように、中空羽根車フィード分配器6の下流に、環状反応流路調節ブロック7が反応器筐体4の内壁上に固定され、内側に突き出している。この設計は、反応混合物の流路をある特定の程度に狭くする目的がある。回転シャフト10には、これに垂直なステージ−I撹拌パドル11が備わっている。撹拌パドル11および反応流路調節ブロック7は、反応器の中心軸に垂直な同じ断面内に位置している。より好ましくは、本発明で記載される反応器は、反応器の遠位末端にモーター接続部9を備え、これは、モーターを反応器に固定するのに役立つ。
【0022】
図6a〜6cに示したように、第1のフィード分配器3内に配置された第1のフィードイン噴出孔13は、環状スリット、または均等に分布した複数の開口部とすることができ、ただし、噴出孔13を通じた下流の反応ゾーンへの第1のフィードの流入は均質である。
【0023】
図3に示した反応器を使用してイソシアネートの調製が実施される場合、最初に、ホスゲン溶液は、第1のフィードイン入口2を最初に通過し、第1のフィードイン流路18を満たす。次いで、ホスゲン溶液は、第1のフィード分配器3内で均等に分布した第1のフィードイン噴出孔13を通じて反応器筐体4に入る。同時に、一般式(I)に対応するポリアミンの有機溶液が第2のフィードイン流路17を通じて導入される。ポリアミン溶液は、回転中空羽根車フィード分配器6内部のフィード流路12を通じて流れ、複数の第2のフィードイン噴出孔5を介してホスゲン溶液のストリーム中に均等に噴出される。それによって、急速な混合および反応を実現することができる。得られた混合物は、送り圧力下で下流に進み、回転シャフト10に垂直な撹拌パドル11によって撹拌された後、反応液出口8を介して次段階の反応器に入る。目的とするイソシアネートは、次段階の反応器内での温度上昇によって形成される。
【0024】
図4は、本発明の別の好適な実施形態による反応器の配列の概略図であり、これは、反応器が、第1のフィードイン流路筐体21、反応器筐体24、第2のフィードイン流路34、中空羽根車フィード分配器26、回転シャフト30、および第1のフィード分配器23を主に備えることを示す。第1のフィードイン流路筐体21は、反応器筐体24に対して同軸に構築され、第1のフィードイン流路筐体の端部に据え付けられた第1のフィード分配器23を介して、反応器筐体内部の反応空間と連通している。第2のフィードイン流路34は、回転シャフト30の内部に位置し、さらに、第2のフィードイン流路34、回転シャフト30、および中空羽根車フィード分配器26は、急速混合反応器の中心軸に沿って順番に互いに接続して固定されている。中空羽根車フィード分配器26は、回転シャフト30の一端部に固定され、その結果、中空羽根車フィード分配器26は、反応器筐体内部の回転シャフト30の原動力下で軸方向に回転することができる。第2のフィードイン流路は、中空羽根車フィード分配器26内部のフィード流路32と接続されている。第1のフィードイン流路筐体には、中に少なくとも1つの第1のフィードイン入口22が備わっており、第1のフィードイン流路筐体21および第1のフィード分配器23は、第1のフィードイン流路35として画定される空間を囲繞する。反応器筐体の遠位末端には、少なくとも1つの反応液出口28が備わっている。第1のフィード分配器23には、互いに釣り合った距離を有する複数の第1のフィードイン噴出孔33が備わっており、中空羽根車フィード分配器26には、その羽根車
円板に垂直な複数の流路が備わっている。羽根車
円板に垂直な流路にはすべて、複数の第2のフィードイン噴出孔25が備わっている。あるいは、本発明による中空羽根車フィード分配器は、
図5a、5b、もしくは5cに示したように配列され、または本発明に適した任意の他のパターンで配列された第2のフィードイン噴出孔とともに設計することができる。
【0025】
さらに、
図4に示したように、中空羽根車フィード分配器26の下流に、環状反応流路調節ブロック27が反応器筐体の内壁上に固定され、内側に突き出している。この設計は、反応混合物の流路をある特定の程度に狭くする目的がある。回転シャフト30には、ステージ−I撹拌パドル31が備わっており、撹拌パドル31および反応流路調節ブロック27は、反応器の中心軸に垂直な同じ断面内に位置している。より好ましくは、この好適な実施形態で記載される反応器は、反応器の遠位末端にモーター接続部29を備え、これは、反応器をモーターに固定するのに役立つ。
やはり、
図4に示した反応器を使用してイソシアネートの調製が実施される場合、最初に、ホスゲン溶液は、第1のフィードイン入口22を通過し、第1のフィードイン流路35を満たす。次いで、ホスゲン溶液は、第1のフィード分配器23上で均等に分布した第1のフィードイン噴出孔33を通じて反応器筐体に入る。同時に、一般式(I)のポリアミンの有機溶液が回転シャフト内部の第2のフィードイン流路34を通じて導入される。ポリアミン溶液は、回転中空羽根車フィード分配器26内部のフィード流路32を通じて流れ、複数の第2のフィードイン噴出孔25を介してホスゲン溶液のストリーム中に均等に噴出される。それによって、急速な混合および反応を実現することができる。得られた混合物は、送り圧力下で下流に進み、回転シャフト30に垂直な撹拌パドル31によって撹拌された後、反応液用出口28を介して次段階の反応器に入る。目的とするイソシアネートは、次段階の反応器内での温度上昇によって形成される。
【0026】
以下に、本発明による急速混合反応器およびその適用を、例としてさらに例示するが、本発明はこれらに決して限定されない。
【0027】
(例1)
図3に示した急速混合反応器を、MDI生産の実験に使用した。急速混合反応器の第1のフィード分配器を、
図6cに示したように設計した。第1のフィード分配器において、20mmの直径を有する複数の円形流路を均等に分布させた。ホスゲン溶液は、6m/秒の出力レートで第1のフィード分配器の円形流路から出た。10mmの直径を有する第2のフィードイン噴出孔を、
図5cに示したパターンで中空羽根車フィード分配器内に配置した。ポリアミン溶液は、16m/秒の出力レートで第2のフィードイン噴出孔から出た。回転シャフトは、1200rpmの回転速度で回転した。この反応器をMDIプラント内で使用して、1年あたり22万トンのMDI生成物の試験負荷下で試験した。クロロベンゼンを溶媒として使用し、33重量%の濃度のアミンのクロロベンゼン溶液を、1時間当たり24トンの割合で供給した。ホスゲン溶液の濃度は80%であった。アミンのクロロベンゼン溶液を回転中空羽根車フィード分配器によって反応器筐体内に噴出させ、第1のフィード分配器によって反応器筐体に入ったホスゲン溶液と急速に反応させた。2つの反応物の質量比は、ホスゲン:アミン=1.7:1であった。その後、反応器の出口で排出された反応混合物を、一連の4つの40m
3のホスゲン化器(phosgenator)に移して、溶液が透明になるまで高温でホスゲン化させた。連続したこれらの4つのホスゲン化器の温度はそれぞれ、90℃、105℃、115℃、および120℃であった。粗生成物溶液をその後蒸留することによって重合したMDI生成物を得、これは、200cpの粘度、および31.62重量%のNCO含量を有していた。
【0028】
(例2)
図3に示した急速混合反応器を、MDI生産の実験に使用した。急速混合反応器の第1のフィード分配器を、
図6bに示したように設計した。第1のフィード分配器において、様々な内径および2mmの径方向幅を有する複数の弧状スリットを均等に分布させた。ホスゲン溶液は、10m/秒の出力レートで弧状スリットから出た。3mm×8mmの矩形孔サイズを有する第2のフィードイン噴出孔を、
図5bに示したパターンで中空羽根車フィード分配器内に配置した。アミン溶液は、22m/秒の出力レートで第2のフィードイン噴出孔から出た。回転シャフトは、1400rpmの回転速度で回転した。この反応器をMDIプラント内で使用して、1年あたり30万トンのMDI生成物の試験負荷下で試験した。クロロベンゼンを溶媒として使用し、33重量%の濃度のアミンのクロロベンゼン溶液を、1時間当たり33トンの割合で供給した。ホスゲン溶液の濃度は75%であった。アミンのクロロベンゼン溶液を第2のフィード分配器によって反応器筐体内に噴出させ、第1のフィード分配器によって反応器筐体に入ったホスゲン溶液と急速に反応させた。2つの反応物の質量比は、ホスゲン:アミン=1.8:1であった。その後、反応器の出口で排出された反応混合物を、一連の4つの40m
3のホスゲン化器に移して、溶液が透明になるまで高温でホスゲン化させた。これらの4つのホスゲン化器の温度はそれぞれ、90℃、105℃、115℃、および120℃であった。粗生成物溶液をその後蒸留することによって重合したMDI生成物を得、これは、200cpの粘度、および31.56重量%のNCO含量を有していた。
【0029】
上述した2つの実施例から、本発明による急速混合反応器は、33重量%もの高い濃度のアミン溶液、および1.7:1という低いホスゲンとアミンの質量比を用いてMDI生産に使用することができ、これは、広く使用されている従来の反応器(15〜22%の範囲のアミン溶液の濃度、および2.4〜4の範囲のホスゲンとアミンの質量比を用いる)に対してはるかに有利であることが分かる。溶媒およびホスゲンの体積の低減により、反応器の効率および全体的な能力が改善されるだけでなく、過剰なホスゲンの縮合および溶媒の蒸留除去(distil−out)のためのエネルギーも低減され、エネルギー消費量が、生成物1キログラム当たり40%低減される。
【0030】
(例3)
図4に示した急速混合反応器を、ポリメチレンポリフェニレンポリアミンの生産の実験に使用した。急速混合反応器の第1のフィード分配器を、
図6bに示したように設計した。第1のフィード分配器において、様々な内径および6mmの径方向幅を有する複数の弧状スリットを均等に分布させた。アニリン塩酸塩と循環液の液体混合物は、5m/秒の出力レートで弧状スリットから出た。3mm×8mmの矩形孔サイズを有する第2のフィードイン噴出孔を、
図5bに示したパターンで中空羽根車フィード分配器内に配置した。ホルムアルデヒド溶液は、20m/秒の出力レートで第2のフィードイン噴出孔から出た。回転シャフトは、2400rpmの回転速度で回転した。この反応器をポリメチレンポリフェニレンポリアミンのプラント内で使用して、1年あたり30万トンのポリアミンの試験負荷下で試験した。ホルムアルデヒド溶液(37重量%の濃度)を、1時間当たり16トンの割合で供給した。ホルムアルデヒド溶液を第2のフィード分配器によって反応器筐体内に噴出させ、第1のフィード分配器によって反応器筐体に入ったアニリン塩酸塩と循環液の液体混合物と急速に反応させた。塩酸(32重量%)と新鮮なアニリンのモル比は、0.36:1であり、ホルムアルデヒドと新鮮なアニリンのモル比は、0.52:1であり、アニリン塩酸塩と循環液の液体混合物の全流量は、220m
3/時間であった。その後、反応器の出口で排出された反応混合物を、撹拌機を有する容器に移して、前縮合反応を65℃の反応温度で継続し、その後、加熱、分子転位、中和、水洗浄、ポリアミン精製などの工程を続けることによって、N−メチル含量が0.12%である精製ポリメチレンポリフェニレンポリアミン生成物を収集し、これは、製品品質の規格を満たした。
【0031】
本発明による急速混合反応器は、前縮合反応温度を40℃から、孔噴出型の反応器が使用される場合、65℃まで上昇させることを可能にする。エネルギー消費量は35%低減し、混合が著しく改善されたので、目詰まりによる1カ月1回の反応器の掃除が排除された。したがって、生産設備全体の稼働率は、著しく増大した。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕第1のフィードイン流路筐体、反応器筐体、第2のフィードイン流路、中空羽根車フィード分配器、回転シャフト、および第1のフィード分配器を備える急速混合反応器であって、
前記第1のフィードイン流路筐体は、前記反応器筐体に対して同軸に構築され、前記第1のフィードイン流路筐体の端部に据え付けられた前記第1のフィード分配器を介して、前記反応器筐体内部の反応空間と連通しており;
前記第2のフィードイン流路、前記中空羽根車フィード分配器、および前記回転シャフトはそれぞれ、反応器の中心軸に沿って順番に互いに接続して固定されており、前記中空羽根車フィード分配器は、前記反応器筐体内に位置し、前記回転シャフトの原動力下で軸方向に回転し;
前記第2のフィードイン流路は、前記中空羽根車フィード分配器内部のフィード流路と接続されており;
前記第1のフィードイン流路筐体には、中に少なくとも1つの第1のフィードイン入口が備わっており、;
前記反応器筐体には、その遠位末端で少なくとも1つの反応液出口が備わっており;
前記第1のフィード分配器および前記中空羽根車フィード分配器にはそれぞれ、第1のフィードイン噴出孔(複数可)および第2のフィードイン噴出孔(複数可)が備わっている、反応器。
〔2〕前記第2のフィードイン流路、前記中空羽根車フィード分配器、および前記回転シャフトが、前記反応器の中心軸に沿ってこの順序で強固に結合されていることを特徴とする、前記〔1〕に記載の反応器。
〔3〕互いにしっかりと隣接し得る動的シールリングおよび静的シールリングが、前記中空羽根車フィード分配器が前記第2のフィードイン流路と接続されている部位に配置され;
前記動的シールリングは、前記中空羽根車フィード分配器上に配置され、前記静的シールリングは、前記第2のフィードイン流路の前記端部に配置されており、前記静的シールリングの一方の側は、前記中空羽根車フィード分配器上の前記動的シールリングと隣接し、他方の側は、内側から外側に、伸縮継ぎ手およびバネを介して前記第1のフィード分配器に固定されていることを特徴とする、前記〔2〕に記載の反応器。
〔4〕前記第2のフィードイン流路が、前記回転シャフト内部に構築され、前記中空羽根車フィード分配器と強固に接続および連通されていることを特徴とする、前記〔1〕に記載の反応器。
〔5〕前記第2のフィードイン噴出孔が、前記中空羽根車フィード分配器の側面(複数可)上に、もしくは最外側縁部(複数可)に、または前記羽根車プレートに垂直に前記中空羽根車フィード分配器から延在するある特定の流路(複数可)内に構築されていることを特徴とする、前記〔1〕から〔4〕までのいずれか1項に記載の反応器。
〔6〕前記中空羽根車フィード分配器内に配置された前記第2のフィードイン噴出孔が、円形、三角形、菱形、台形、多角形、楕円、正方形、長方形、またはこれらの任意の組合せから、好ましくは円形または長方形から選択される形状を有することを特徴とする、前記〔5〕に記載の反応器。
〔7〕前記第1のフィードイン噴出孔が環状、または均等に分布した複数の開口部であり;
前記第1のフィードイン噴出孔が環状である場合、前記環状の第1のフィードイン噴出孔は、前記第1のフィード分配器に対して同心円状に配置された複数の弧状スリットを備え、同じおよび/または異なる内径(複数可)を有し、前記複数の弧状スリットは、互いに間隔を置いて離されており、
前記第1のフィードイン噴出孔が、均等に分布した複数の開口部を備える場合、前記開口部は、円形、三角形、菱形、台形、多角形、楕円、正方形、長方形、またはこれらの任意の組合せから選択される形状、好ましくは円形を有することを特徴とする、前記〔1〕または〔6〕に記載の反応器。
〔8〕前記中空羽根車フィード分配器の下流に、環状反応流路調節ブロックが前記反応器筐体の内壁上に固定され、内側に突き出していることを特徴とする、前記〔7〕に記載の反応器。
〔9〕少なくとも2つの撹拌ブレードを備える少なくとも1つの撹拌パドルが、前記回転シャフト上に、かつこれに垂直に固定されていることを特徴とする、前記〔1〕または〔8〕に記載の反応器。
〔10〕前記撹拌パドルが、前記回転シャフト上に垂直に固定され、前記撹拌パドルおよび前記反応流路調節ブロックが、前記反応器の中心軸に垂直な前記同じ断面内に位置していることを特徴とする、前記〔9〕に記載の反応器。
〔11〕前記反応器の遠位末端に配置されたモーター用取り付け具をさらに備えることを特徴とする、前記〔10〕に記載の反応器。
〔12〕前記〔1〕から〔11〕までのいずれか1項に記載の前記反応器を使用することによって、一般式(I)のアミン(複数可)から、一般式(II)の脂肪族、脂環式、または芳香族イソシアネートを調製するための方法であって、
R(NH2)n (I)
R(NCO)n (II)
式中、Rは、脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素基を表し、n=1、または≧2であり、
(a)ホスゲンの溶液を、前記第1のフィードイン入口を介して前記急速混合反応器の前記第1のフィードイン流路中に、次いで前記第1のフィード分配器によって前記反応器筐体中に導入する工程と;
(b)一般式(I)の前記アミン(複数可)の有機溶液を、第2のフィードイン流路を通じ、かつ回転中空羽根車フィード分配器を介して前記反応器筐体中に導入する工程と; (c)工程(a)を介して導入されたホスゲンの溶液、および工程(b)を介して導入されたアミン(複数可)の溶液を、前記反応器筐体内で互いに急速に混合し、反応させ、生成された反応液を、反応液用出口を介して排出する工程と
を含む方法。
〔13〕前記ホスゲンの溶液が、純粋なホスゲンの溶解物、または30〜100重量%の濃度のホスゲンの不活性有機溶媒溶液として定義されることを特徴とする、前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕アミン(複数可)の有機溶液が、10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%の濃度の不活性有機溶媒中の一般式(I)の前記アミン(複数可)の溶解物として定義されることを特徴とする、前記〔12〕に記載の方法。
〔15〕式(I)および(II)中の基Rが、脂肪族C2−C50炭化水素基、脂環式C2−C50炭化水素基、または芳香族C6−C50炭化水素基、好ましくは、脂肪族C4−C30炭化水素基、脂環式C4−C30炭化水素基、または芳香族C6−C30炭化水素基、より好ましくは、脂肪族C5−C18炭化水素基、脂環式C5−C18炭化水素基、または芳香族C6−C20炭化水素基であり;
式(I)および(II)中のnが、2〜4を表すことを特徴とする、前記〔12〕に記載の方法。
〔16〕一般式(I)の前記アミンが、トルエンジアミン、ジフェニルメタン−4,4’−ジアミン、ポリメチレンポリフェニレンポリアミン、イソホロンジアミン、ヘキサンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ナフタレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ベンゼンジメチレンジアミン、シクロヘキサンジメチレンジアミン、トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、テトラメチルm−フェニレンジメチレンジアミン、ジメチルビフェニルジアミン、およびメチルシクロヘキセンジアミンからなる群から選択され、好ましくは、トルエンジアミンであることを特徴とする、前記〔12〕に記載の方法。
〔17〕ホスゲンまたはアミンを溶解させるための不活性溶媒が、同じであっても、異なっていてもよく、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、塩化ビフェニル、テレフタル酸ジアルキル、フタル酸ジエチル、またはこれらの任意の組合せからなる群から独立して選択されることを特徴とする、前記〔12〕から〔16〕までのいずれか1項に記載の方法。
〔18〕前記〔1〕から〔11〕までのいずれか1項に記載の前記反応器を使用することによって、アニリンからポリメチレンポリフェニレンポリアミンを調製するための方法であって、
(A)アニリン塩酸塩と循環反応液のストリームとの液体混合物を、前記第1のフィードイン入口を介して前記急速混合反応器の前記第1のフィードイン流路中に、次いで前記第1のフィード分配器によって前記反応器筐体中に導入する工程と;
(B)ホルムアルデヒドの溶液を、前記第2のフィードイン流路を通じ、かつ前記回転中空羽根車フィード分配器を介して前記反応器筐体中に導入する工程と;
(C)アニリン塩酸塩と前記循環反応液の前記液体混合物、および前記ホルムアルデヒドの溶液を、前記反応器筐体内で急速な混合および前縮合にかけ、次いで撹拌しながら反応容器内に前記反応液を移して、前記前縮合を進めることによって縮合液体を得、その後、加熱、分子転位、中和、水洗浄、精製の工程を続けることによって、精製ポリメチレンポリフェニレンポリアミンを得る工程と
を含む方法。