(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または2に記載の構造体において、前記吸湿性液体は配送され、重力によって前記多孔質またはフィラメント状の材料を流れることを可能にされることを特徴とする構造体。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の構造体において、前記吸湿性溶液から水を分離するのに必要とされるエネルギは、太陽放射線から得られることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体において、前記加熱シートまたは層からの熱損失は、断熱するが、最小限だけ光を吸収する1つまたは複数の層によって低減されることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体において、前記加熱シートまたは層は、木材、発泡ポリスチレン、または他の断熱材料、あるいはそれらの組み合わせでできた断熱フレームによって、0.1mm〜50mmの間隔で支持された透明材料シートで断熱されることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体において、水分子の通過を可能にするが、前記吸湿性液体の通過を妨げる前記材料層は、疎水性または超疎水性材料の薄膜であることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体において、水分子の通過を可能にするが、前記吸湿性液体の通過を妨げる前記材料層は、再生セルロースまたはその誘導体でできていることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体において、水分子の通過を可能にするが、水和液体の通過を妨げる前記材料層は、適切な支持材料で補強された多孔質PTFE薄膜であることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体において、前記加熱シートまたは層、および前記冷却シートまたは層は、前記加熱シートまたは層の加熱面での前記水和溶液の流れと、前記冷却シートまたは層の冷却面での凝縮水の取り出しとを容易にするチャネルまたは溝を設けられ、一方、両方の液体は、水分子の通過を可能にするが、前記吸湿性液体の通過を妨げる材料層によって分離されることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体において、前記回収された水は、入射した太陽放射線の大部分を反射し、それにより、周囲空間の余分な加熱を減少させる植物の栽培によって、地球上の温室効果を軽減するために使用されることを特徴とする構造体。
請求項1に記載の構造体を使用する植物の栽培方法であって、前記回収された水で栽培された植物が、太陽放射線スペクトルの光合成に関連した部分のみの通過を可能にし、同時に、他の部分を反射するフィルムによって遮蔽され、それにより、植物の温度を下げ、結果として、蒸散に対する植物の水の不足を軽減し、最終的に、植物の水の所要量を減らし、成長を促進し、収量を高くすることを特徴とする方法。
【技術分野】
【0001】
高品質の飲料水の供給は、世界中で著しく不足している。公式な見積もりによれば、地球上で約15億の人たちが十分な品質の飲料水を飲んでいない。汚染水を飲んだせいで8秒ごとに1人の子供が死んでいる。
【0002】
特に乾燥地帯に住む人類に飲料水を提供することが緊急に必要である。不十分な雨水を補うために、様々な技術が導入されてきた。沿岸地域では、水は、多段蒸溜または逆浸透によって海水から高いコストで得られる。
【0003】
産業規模で水を製造するには、基幹設備および運用、さらにはエネルギへの高い投資が必要である。これらのシステムは、海水または汽水が全く入手できない内陸部で使用することができない。大量生産でできた水は、パイプシステムによって配送されなければならず、パイプシステムは、水自体の製造よりも最大で10倍費用がかかる。さらに、水は、エンドユーザに届くまで、配管の破断または他の不具合によって汚染されることがあるし、または部分的に失われることさえある。システムは、点在して人が居住する内陸地域の大部分に適さない。
【0004】
したがって、代替の簡便で低価格の人類用上水源を見つけることが緊急に必要である。農業で使用するために水を供給することが同じく緊急に必要である。
【0005】
空気の湿気は、非常に有望な上水源となる可能性がある。この可能性は、どれほど大量の水が水蒸気の形態で薄い空気中に含まれているかを人々が認識していないため、ほとんど知られていない。通常の条件下で、立方kmの空気は、長さ1000m、幅15m、深さ1mの川を構成するのに十分な水を含んでいる。この水量(15,000,000リットル)は、500万人分の1日の飲料水供給量に等しい。地球上に無限の供給量の湿り空気がある。サハラ砂漠などの乾燥した地域においてでさえ、相対湿度(RH)30%の平均湿度があり、各立方キロメートルの空気は、長さ1000m、幅3m、深さ1mの川に等しい。空気の湿気は、海洋からの風によって絶えず更新され、したがって、尽きることがない。空気は、我々の地球のすべての川に収容されるよりも10倍多い水を含み、地球上の無限の上水源である。すべての大陸の水は、もとは空気の湿気が降水したものである。
【0006】
空気から水を得るために多くの試みがなされてきた。蒸気の形態の水は、液体の形態よりも遙かに高いエネルギ含量を有し、その凝縮は、強い発熱を伴うプロセスである。空気からの水の回収は、冷却、空気圧縮、個体吸着剤への吸着、液体吸収剤への吸収、および文献に提示された他の多くの方法によって施行された。
【0007】
液体または固体の乾燥材料を使用する方法が、例えば、米国特許第2,138,689号明細書、米国特許第2,462,952号明細書、米国特許第4,146,372号明細書、米国特許第4,185,969号明細書、米国特許第4,219,341号明細書、米国特許第4,285,702号明細書、米国特許第4,304,577号明細書、米国特許第4,342,569号明細書、米国特許第4,345,917号明細書、米国特許第4,374,655号明細書、米国特許第6,588,225号明細書、米国特許第20050103615号明細書、仏国特許第2,813,087号明細書、国際公開第09966136号パンフレット、国際公開第106649号パンフレットに記載されている。
【0008】
水を脱離させるために、多くの場合、太陽熱が使用される。水の蒸発熱は550kcal/kgであり、他のエネルギ源の使用は法外な費用がかかる。
【0009】
多くの発明者が、この方法でエネルギを回収しようとしている。しかし、これは、さらなる設備を必要とし、コストを増加させる。水不足の地域では、太陽エネルギは、コストをかけずに十分に入手可能であり、一方で、融資が利用できないという単なる事実が見過ごされている。
【0010】
試行した方法のどれも、貧困層の人たちにとって有意な規模での上水の製造に成功しなかった。主な理由は、すべての試行した方法が、高価であり、複雑であり、基幹施設およびエネルギへの大規模な投資を必要とし、生産性が低いからである。特に貧困国のエンドユーザは、高価な飲料水を買うだけの余裕がない。
【0011】
人類は、空気から上水を収集する適切な方法を必要としている。そのような方法は、単純かつ信頼性が高くなければならない。方法は、高価な配管システムを必要とすることなく、村に適した、または家族に適することさえある、分散化した小単位で機能すべきである。方法は、どのような化石エネルギも必要とすべきでない。方法は、教育を受けていない人たちによってでさえ容易に保守点検され、容易に入手可能な材料で所定の場所に構築されるべきであり、さらに、方法は、手違い、または事故の場合でさえ、決して環境を汚染してはならない。方法は、システムの使用における重大な誤用の場合でさえ、ユーザを危険にさらしてはならない。方法は、初等教育だけを受けた人たちにとって容易に理解可能でなければならない。方法は、水を使用する場所で、またはその場所に近接して運用され、そのような態様で、過剰な配管および基幹施設にコストがかかることの必要性を排除しなければならない。
【0012】
驚くべきことに、我々は、本明細書に開示するそのような方法および構造体を発明することに成功した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
空気から水を収集する手段および方法
高温高湿地帯では、空気中の水分量は、立方メートル当たりmlの数分の1から30mlを超えるまで条件によって変わる。水を抽出する最も効率的な方法は、水蒸気を吸湿性液体に吸収することである。そのような方法は自然に行われ、高価な構造体および大規模な投資を必要とする大量の空気の活発な移動を全く必要としない。液体吸収体は、大きな水拘束能力を有し、容易に移送することができる。液体吸収体は、水蒸気を選択的に吸収し、他の空気汚染物および汚染物質を吸収しない。
【0015】
いずれの吸水性液体も、吸湿性液体に属すると考えられる。吸湿性液体は、任意の液体物質または固体物質の水溶液とすることができる。そのような物質には、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カルシウム、酢酸カリウムなどの無機塩がある。有機物質、特に、エチレングリコール、グリセロールなどの2個の水酸基、3個の水酸基を有するアルコールも適している。しかし、他の多くの吸湿性物質が同様に機能することから、この列挙は本発明の範囲を限定しない。
【0016】
グリセリンの名前でも知られるグリセロールが特に好ましい。その化学名は、プロパン−1,2,3−トリオールである。グリセロールは、水に対して高い親和性を有する天然物である。
【0017】
その大きな利点は、グリセロールは毒性がなく、実際に食べることができることである。グリセロールは、とうもろこしからのバイオ燃料製造の廃棄物として大量に調達することができる。したがって、その価格は非常に安い。
【0018】
最適な条件下で、グリセロールは、それ自体の重量を超える水を拘束することができる。水蒸気の吸収および脱離の速度は速い。その作用範囲におけるグリセロール溶液の高い浸透圧により、何ヶ月も周囲環境にさらした後でさえ、微生物による生分解が全く起こらない。驚くべきことに、この甘味溶液は昆虫を引きつけない。グリセロールの他の大きな利点は、流出した、または事故があった場合に、グリセロールは、次の降雨までのみ地表に残ることである。この場合に、グリセロールは、希釈された形態で、土壌中の微生物によって分解される。流出したグリセロールは汚染物質ではなくて、土壌中に存在する微生物のための歓迎される栄養素であり、エネルギおよび炭素源である。グリセロールは、最終的に二酸化炭素および水に生分解される。したがって、グリセロールは、非常に大規模であっても環境に危険を全く及ぼすことなく使用することができる。
【0019】
これは、流出した後に土壌中に残り、植物が成長できない、頻繁に提案される塩化リチウムおよび他の無機塩には当てはまらず、降雨の後、塩化リチウムおよび他の無機塩は、危険な汚染物質として地下水に永久的に残る。
【0020】
コストがかかり、複雑な空気塊の移動の必要性をなくすために、容易に利用可能な表面で、単に空気を適切な吸水剤と接触させるのが好ましい。空気接触は、任意の態様で強制されることはなく、空気対流および風などの空気塊の自然の循環だけが使用される。
【0021】
使い勝手のよい空気接触面は広くすることができ、かつ容易に利用できる。そのような接触面の例として、家の壁、屋根の一部、丘の傾斜部、浅い池の水面などを挙げることができる。太陽熱が吸水効率を低下させるのを防止するために、表面は、可能なら、日陰にあるか、または簡便に覆いをされるべきである。吸水が夜間に行われる場合、覆いは必要ない。
【0022】
夜間の吸収は、空気の相対湿度が100%に達することができ、冷えた表面に自然結露ができる非常に乾燥した地域に特に適し、サハラ砂漠にさえ適する。グリセロールの水和溶液が、例えば、大型容器、タンク、コンクリート池、土中にあり、簡便なプラスチックシートで内張りされた池または溝に簡便に貯蔵できる場合、水の抽出は、有利にも、日中に取りかかることができる。水の収集を2つの段階にそのように分離することは、特定の使用地域によっては大きな利点をもたらす。
【0023】
グリセロールおよび塩化リチウムの水収集力を示して比較するために、以下の実験を行った。
【0024】
4グラムの50%グリセロールまたは20%塩化リチウム(2つの濃度は、それぞれの吸水物質の半飽和に相当する)を、面が25cm x 25cm、厚さが0.4mmのシート状の木綿布に薄く広げ、60℃の静止空気恒温器内に置いた。重量の変動を経時的に追った。
図1に示す結果は、グリセロールからの方が、水が速く放出されることを示している。グリセロールはLiClよりも水に対する親和性が低いので、これは驚くことではない。
【0025】
次いで、空気が静止し、相対湿度RHが66%の室内において、20.1℃で上記の乾燥したシートをつり下げた。重量の増加を記録した。得られた結果を
図2に示す。吸水の初期速度は両方の場合で同様である。LiClの方が、多量の水を吸収している。LiClの方が幾分高い容量を有する。ただし、高濃度において、LiClは高い粘度を有し、この状態では実用的な設備で使用することができないことを指摘しておく。
【0026】
吸水速度は、風を受けるよりも静止空気中の方が遙かに遅い。風は吸水性を大幅に高める。風によって運ばれる水量は大量である。
【0027】
標準的な条件下において、0.5m/秒の軽度な空気移動で、約2m x 1mの開いたドアを24時間にわたって通過する水蒸気の量は、水の体積約1300lに等しい。
【0028】
LiClおよび吸湿性塩は、非常に腐食性があり、これは、長い期間で設備を強く腐食させる。他方で、グリセロールは腐食性がなく、その水拘束能力によって実際に腐食を少なくする。
【0029】
図3に示すような調達しやすい吸収装置は、一般的な折り畳み式物干しから作ることができ、物干しは幅広く入手可能であり、100米ドル未満の価格で得ることができるし、または容易に自作することもできる。単一層を使用した120m
2の吸収面、または二層を使用した240m
2の吸収面を、60mの綱を用いて、綿または他の任意の適切な材料でできた一般的な布で構築することができる。
【0030】
図3は、単純な吸収装置の例を示している。幾分高い位置に置かれた容器1内の濃縮グリセロール(約92%〜99%)は、物干し4の綱3に沿って固定されたチューブ2を経由して流れる。
図4は、より詳細な図を示しており、チューブ5が、布8で形成された管状開口6を貫通している。チューブ5は、グリセロールが織物上に落下することができるように、有用な離間距離で切り取られるか、または穴をあけられている。シリコーンまたはゴムのチューブに作られた小さい切れ込みが、グリセロール溶液用の感圧開口チャネルを形成する。織物は、縫合、ピン、クランプ、または他の手段7によって所定の位置に固定されている。織物8を幅が約5cm〜10cm、長さが2mまたは4mの帯状に切るのが好ましい。そのように帯状にすることで、風によって生じる、構造体に作用する力が効率的に弱まる。帯状体は、グリセリン取り出しチューブを囲んで固定され、1つまたは複数の層をなしてつり下げられる。下側端部は、ロープ、ワイヤ、または同様の材料によって底部、または中央ポールに固定される。
【0031】
これは、風の中で織物帯状体が余分に動くのを防止する。水を多量に含むグリセリン溶液は、大型プラスチックシートで簡単に収集することができる。シート9の土台は、
図3に示すように、物干し吸収器の下の土を除去することで作ることができる。あるいは、土台は、別の材料から構築することができる。簡便な土台は、その地域で見つけることができる石または同様の安価な材料からも作ることができる。水和グリセロール用の永久収容容器は、コンクリート製の壁および底面で作ることができる。表面は、コンクリート構造体への液体の浸入を防止し、ひいては、構造体を保護し、グリセロールの損失を軽減し、洗浄および保守点検を容易にするために、保護層を施すべきである。
【0032】
満足のいく吸収装置を得るために、これらの要素を修正する多くの明白な方法がある。
【0033】
行った小規模な実験を基にして、単一の布層を使用した120m
2の吸収面を有する、そのように非常に単純な装置の場合でさえ、十分な空気循環のもとで、24時間で約250lの水を収集でき、二重布層版では、約500lの水を収集できると算出された。これは、100人〜200人のコミュニティの飲料水需要を担うことができる。
【0034】
綱は他の多くの方法でも固定することができる。例えば、綱は、壁、家屋、木、木製または金属製ポール、岩などの間で固定することができる。液体を収集する度に、適切な防水内張りによって溝を設けなければならない。
【0035】
現地の状況に適合し、当業者が容易に思いつく多くの異なる手段により、遙かに大きい水収集構造体を作製することができる。
【0036】
グリセロールへの吸水段階は、極度に単純な装置を用いて非常な低コストで行うことができるのは明白である。特別な専門教育を受けていない人たちが、装置を容易に構築することができる。
【0037】
主要なコスト要因は、おそらく吸収織物であろう。新品の簡便な木綿布または樹脂製織物を平方メートル当たり数米ドルのコストで調達することができる。もっとも、帯状の織物が必要なだけなので、適合した中古の、またはリサイクルの織物で作製することができ、これは、ほんのわずかなコストしかかからない。
【0038】
綱、チューブ、内張り用のプラスチックシートは、どこでも入手できる典型的な低価格物資である。永久吸収構造体は、鋼またはステンレス鋼のネットで作製することができる。
【0039】
多くの異なる内張り材料を使用することができる。内張り材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PVC、ポリカーボネート、ポリアミド、PTFEおよび同様のフッ素化材料、含浸が簡便な織物または不織物、含浸紙などのシートとすることができる。薄い金属シートも明らかに使用可能である。内張りシートの材料は重要ではない。内張りシートの材料は、単に、必要な機械的安定性を有し、水−グリセロール溶液の損失を防止する漏れない面を提供すべきである。水和グリセロールの封じ込めが他の手段によって達成される場合、内張りは全く必要ない。
【0040】
第2のコスト要因は、グリセロールの値段であり、グリセロールの値段は、現状では、99%の純物質に対してkg当たり約1米ドルである。しかし、純粋な分離グリセロールは必要なく、50%〜80%の粗製製品は、値段がほとんどゼロである。工場で得られる数トンの量のグリセロールは、米国において、1000l当たり0〜70米ドルで提供されている。その結果、値段は、使用する地域への輸送コストで基本的に決まる。グリセロールは、例えば、石けん製造などのいくつかの化学プロセスの副産物であり、地域の供給源から頻繁に入手することができる。
【0041】
大量のグリセロールが食品製造(ペストリー、砂糖菓子、飲料)で使用されている。グリセロールはまた、多くの化粧品で良好な水和剤として一般的に使用され、したがって、幅広く入手可能である。
【0042】
グリセロールに吸水する大きな利点は、その高い選択性である。冷凍凝縮システムでは、芳香物質、微生物、塵、および他の汚染物質などの大部分の空気汚染物は、すべて水と一緒に凝縮される。本明細書に開示したシステムでは、水分子に対するその高い選択性およびその親水特性により、グリセロールは、空気を汚染する疎水性分子の吸収を最小限にする。グリセロールの水に対する高い選択性により、回収した水が高い純度を有することが保証される。
【0043】
冷凍凝縮システムでは、水質は、その地域のスモッグの凝縮物と同様であり、したがって、そのような水は、さらに浄化されなければならない。
【0044】
水和グリセロール溶液からの水の回収
空気から水を抽出する公知の発明は、大量のエネルギと複雑な装置とを必要とする、かなり複雑で高価な構造体である。本発明による技術は、非常に単純で、かつ低コストである。本発明は、現地で入手可能な材料から構築することができ、本発明を稼働させ、保守点検するのに特別な構成物および知識を何ら必要としない。
【0045】
主要な構成要素は、
図5に示すサンドイッチ構造体であり、このサンドイッチ構造体は、例えば、アルミニウム、銅、鋼、ステンレス鋼などの金属の薄層である熱伝導性材料の加熱シート10によって形成され、このシート10には、太陽エネルギを熱に効率的に変換する光吸収層11が少なくとも片側に設けられている。そのような光吸収層は、例えば、市場で入手可能な、多くのスプレーまたはカラーの配合に供給される黒色炭素ワニスの層で作ることができる。クロムブラック層は、その非常に高い光吸収作用で知られている。クロムブラック層は、光放射が非常に少ない良好な光吸収層である。アルミニウムおよび銅の両方で利用可能な、TiNOX(登録商標)などの光吸収金属の最新の複合層が、Almeco−Tinox GmbH,Munich,Germanyによって製造されている。
【0046】
幅広く入手可能な黒色の、好ましくは、光沢のないワニスをスプレーすることで、より安価で十分満足のいく光吸収層を簡単に得ることができる。厚さが0.05mm〜約1mmの非常に薄い金属シートが好ましい。薄いシートは、高い熱伝達率および安いコストという利点を有する。もっとも、薄いシートは機械的に安定しないので、好ましいシート厚は0.1mm〜0.5mmである。非金属材料のシートも使用することができる。薄い層において、幾分低下した熱伝導性が、熱伝達に対する主要な障害になることはない。
【0047】
サンドイッチ構造の下側には、水および/または水蒸気に対して透過性であるが、グリセロールに対して完全に不透過性の材料層12がある。ここで、材料層12は、グリセロールバリアとも呼ばれる。セロファン薄膜の場合のグリセロールの完全な排除、および水に対するその良好な透過性が科学文献に記載されている(
Biswas et al.(2000)「Dehydration of Glycerol−Water Mixtures Using Pervaporation: Influence of Process Parameters」,Separation Science and Technology,35:9,1391−1408)。
【0048】
そのような材料の1つには、例えば、厚さが約2μm〜200μmのセロファン薄層がある。厚さが5μm〜25μmのシートが好ましい。層が薄いほど良好であるが、そのようなセロファンバリア薄膜の機械的安定性に関して注意しなければならない。安定性を高めるために、グリセロールの通過を阻止する必要がない別の材料13によって薄膜を支持することができる。主だった適切な材料には、様々な織布および不織布、フェルト、開放気孔のあるポリウレタンシートの薄層などの様々なポリマーからできた多孔質薄膜がある。適切な支持材料には、多くの製造業者から市販されている安定化ガラス繊維層、フィルタ、薄いマットもある。
【0049】
セロファンのほかに、同様にグリセロールの通過を阻止するが、水分子を通過させる他の薄膜を使用することができるのは明らかである。例として、アセチル化セルロースなどのセルロース誘導体がある(例えば、三酢酸セルロース)。ポリアミドなどの逆浸透性の効率的な薄膜材料として公知の他の材料も有効であり得る。
【0050】
この目的のための適切な薄膜には、例えば、Donaldson Filter Components Ltd,Englandによって製造されている、1.5μm薄膜のTetratex(登録商標)6538または1μm薄膜のTetratex(登録商標)6536などの、ポリエステル基材上のePTFE層がある。
【0051】
さらに、処理によって疎水性にされた、または超疎水性にされることさえある様々な布地で構成される選択層も容易に作製される。布地、衣類、靴、皮革用などの多くのタイプの防水スプレーが容易に入手可能である。GORE−TEX(登録商標)、Sympatex(登録商標)などの適切な布地が、衣類用にいくつかの会社によって大規模に製造されている。
【0052】
グリセロール遮断層の不可欠な特性とは、グリセロール遮断層により、液相は材料の疎水性構造体に流入できないが、蒸気の形態の水は、グリセロール遮断層を自由に通過できることである。
【0053】
あるいは、当業者には公知の適切な方法により、もとは非疎水性の材料の表面を化学修飾することで、その材料を疎水性にすることが可能である。一例として、(Zimmermannらによる米国特許出願第2007/0264437A1号明細書)に記載されているように、メチルトリクロロシランおよび他の置換活性シランで処理することによる、フィラメントまたは繊維の形態の様々な材料の永久疎水化が挙げられる。
【0054】
さらに別の実現可能なものは、米国特許出願第2002/0189455A1号明細書に記載されているように、重合化した置換または非置換パラキシレン(Parylene(登録商標)としても公知)によって、多孔質分離層の表面をコーティングすることである。そのようなコーティングは、耐久性があり、安価であり、さらに疎水性でもあり疎油性でもある。このコーティングは、大規模に製造することができる。
【0055】
大きな産業規模で製造される疎水性のナノ構造シリカの層も適している。一例には、Degussaのfumed AEROSIL(登録商標)R974がある。成形された層では、fumed AEROSILR974は、水蒸気に対する高い透過度を示しながら、優れた断熱性および液体バリア特性を有する。
【0056】
水和液体からの水の分離を可能にする他の任意の層が、説明したシステムで有効であることからして、本明細書で提示した本発明は、薄膜の選択および修飾に関する上記の例に限定されない。
【0057】
グリセロール遮断層は断熱材の役割も果たす。拡散熱損失が防止されると、より高い温度の水和グリセロール溶液を得ることができる。これにより、蒸発および水の産出速度が速くなる。
【0058】
水和グリセロールの溶液14は、加熱層とグリセロール遮断層との間を流れる。流れのあるチャネルを形成することなく、利用可能な空間全体を通して流れを一定にするために、中間空間がフィラメント状または多孔質の材料15で満たされている。大きな空隙容量を有するベロアタイプのかなり厚い布地、または他の粗い織布を用いて良好な分散特性が得られる。
【0059】
ガラスまたは樹脂フィラメントでできた不織フェルトが使い勝手がよい。基本的に、液体の比較的自由な流れおよび強力な毛管作用を可能にする任意の材料が適している。この場合、傷を覆うために医療で使用される綿などと同様な品質の親水性綿などの強力な親水性の材料が好ましい。合成繊維でできた多数の布地を親水性にすることができる。これは、サンドイッチ構造体の両側およびその間での溶液の一様な拡散を推進する。
【0060】
グリセロール遮断層は、冷却器面17と直接接触するか、または断熱支持層16を介して間接的に接触するかのいずれかである。
【0061】
冷却器面17は、ひだ状の薄い金属シートによって形成されるのが好ましく、飽和水蒸気は、この金属シート上で凝縮され、重力またはポンプ作用によって、適切なパイプまたはチューブ18を通って純水容器に流れ出る。様々な金属および非金属さえも冷却器面として機能することができる。冷却器面は、グリセロール遮断層と接触し、気密性であることが必須であり、そうでない場合、水蒸気は環境に漏出することがあり、システムの生産性が低下する。次いで、凝縮水は凝縮器からコンテナ容器に流入する。水容器は、サンドイッチ構造体の下に(例えば、土中に埋められて)低い高さで配置されるのが好ましい。流出水の柱は、その静水圧によって凝縮器内の圧力を下げる。これは、グリセロール遮断層を通る水蒸気の流れを増加させ、水の沸点を若干下げ、それにより、所与の温度での平衡時の水蒸気の濃度を高める。他方で、容器が土中に埋められた場合、得られた水は貯蔵中に低温に保たれる。
【0062】
サンドイッチ構造体の圧力を下げることで、外気がサンドイッチ構造体を締めつけることが可能になり、したがって、他の機械手段なしですべての層同士が保持し合う。グリセロール遮断薄膜の他方の側の水和グリセロールの流れは、水和グリセロールの流入を制限することで、幾分低下した圧力のもとで一様に保たれるべきである。これは、モジュールの破裂と、グリセリン遮断層に作用する過度の圧力の形成とを防止する。
【0063】
冷却器17は、様々な形態の構造体で作ることができる。
図5に示す冷却器は、多数の可能な形態のうちの1つに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0064】
冷却は、自然環境において、周囲空気または風19との接触を通じて行われる。外側冷却器面の温度は、必然的に加熱面の温度よりも低くなり、したがって、水の凝縮が効率的に行われる。大抵の場合、風によって冷却器のまわりを空気が十分に移動し、風がない場合でさえ、自然の熱対流によって、凝縮熱が十分に除去される。冷却器側は、常に、説明したサンドイッチ構造体の上部部分の陰にある。このやり方は、冷却空気を強制循環させる他の方向と比べて非常に経済的である。
【0065】
図5に示すように、1つまたは複数の断熱層を設けることで、加熱側の温度を上げることは有益である。
【0066】
空気の対流および循環を抑制した少なくとも1つまたは複数のコンパートメントを設けることで断熱効果が得られる。最も単純な形態では、そのようなコンパートメントは、透明材料のシート21で上側を覆われたフレーム20で構成される。そのような材料は、ガラスシート、または透明樹脂シートもしくはフィルムとすることができる。ガラスは機械的に安定しており、耐久性がより高い材料であるが、容易に破損し、かなり高価である。ガラスの代わりに使用できる多数のタイプの透明樹脂フィルムがある。材料は、太陽放射線に対して許容可能な安定性を有し、可能な限り透明でなければならない。
【0067】
適切なフィルム材料には、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)等のフッ素化材料などがある。どの材料が最も適切であるかは、地域の特有の状況による。さらに、ガラス層が表にあり、合成フィルムが第2の断熱層にある組み合わせも適用可能である。この場合に、ガラスは、より良好な機械的保護を提供し、必要ならば、容易な洗浄を可能にし、一方、プラスチックフィルムはコストが安い。
【0068】
見いださなければならない何らかの妥協点がある。各断熱層は、断熱の効率を高めるが、それと同時に、太陽放射線22の収量を少なくする。最も有益な解は、多くの場合、1つだけから3つまでの断熱層である。システムは、全く断熱なしでも機能するが、水の収量が少なくなると理解できる。コストおよび利益分析は、最終決定の前に行われなければならない。
【0069】
本明細書に開示した構造体および方法の説明したすべての要素は、必要な機械的安定性をもたらすフレーム23内に都合よく配置することができる。一方、他の問題解決策も予見され得る。
【0070】
例えば、ソーラパネルからの電力、または他の供給源からのエネルギなど、他のエネルギ源が入手可能な場合、それらのエネルギ源を使用することもできる。この場合に、
図6に示すように、適切な出力の加熱渦巻線24が、加熱シートの上に固定されるか、または加熱面に組み込まれることさえある。熱損失を防止するために、このヒータは、適切な断熱層25によって断熱される。
【0071】
代替案として、熱はまた、太陽または他の熱源によって生成された高温水によって供給することもできる。例えば、高温水は、屋根、山腹、石、砂丘などに置かれた黒い二重層マットで非常に安価に生成することができる。太陽にさらした黒いプラスチックフィルムの2つの層間で100℃を超える温度を得ることができる。したがって、これは、水和グリセロールから水を回収するための、歓迎される安価で豊富なエネルギ源であり得る。
【0072】
本明細書に開示する本発明の1つの可能な構成の概略図を
図7に見ることができる。
【0073】
約95%のグリセロールを含む濃縮グリセリン溶液26が入った容器が、どこか高い位置(例えば、屋根の上)に置かれている。グリセロールは、例えば、クランプまたは弁27によって調整された制御流量で、
図4でも説明した布地シート28上を流れることができる。
【0074】
流れている間、グリセロールは、風または空気対流29で運ばれた空気の湿気から水分を吸収し、容器30に落下する。水和したグリセロールは、重力またはポンプ輸送により容器から、前に説明した水分離構造体31に流入する。グリセロール溶液は、例えば、太陽32によって、80℃またはさらにそれを超えることができる温度まで加熱される。これは、水和グリセロール溶液に含まれる水を蒸発させる。蒸気はグリセロール遮断層33を通過し、凝縮器34の低温面で凝縮する。凝縮水は、凝縮器から純水収集容器35に流入する。
【0075】
濃縮グリセロール溶液は、水分離モジュール31から流れ、容器36内に収集される。次いで、濃縮グリセロール溶液は、手動またはポンプのいずれかで容器26に戻される。
【0076】
安価な労働力がある場合、システムに対してさらに増設を行う必要は全くない。しかし、すべての流れは、人間の目配りが必要でなくなるように、ポンプ、弁を使用して高度に自動化および制御できるのは明らかである。システムは、太陽放射線検出器、温度および湿度計、ならびに風速計と共に、マイクロプロセッサおよび簡便なプログラムを使用して、非常に効率的に自動で調整することができ、その出力を最適化することができる。これにより、稼働および保守点検コストが増えるが、人の労働時間が節減される。
【0077】
コンパクトに一体化した水回収モジュール
図5に示す本発明に基づいた、さらに可能な実施形態を
図8および
図9に提示した水回収カセット構造体により実現することができる。
【0078】
サンドイッチ要素は、長手方向の、好ましくは正弦波状の溝37が形成された2つの金属シート(例えば、厚さが約0.1mm〜0.5mmのアルミニウムシート)で形成されている。溝の内径は広範に選択することができる。この例では、溝は1.5mmの内径を有する。そのような溝付きプレートの最終寸法は、例えば、50cm x 50cmとすることができる。
【0079】
溝は、対向する歯形が機械加工された2つの円筒体間を金属シートに通過させることで容易に作製することができる。歯形は、円筒体軸に対して平行に延びる。簡便な歯形は、通常、ギヤまたは歯付きホイールの一連の製造時に機械加工され、当業者には公知である。
【0080】
提示した本発明の範囲内で様々な形状(例えば、放物線または三角形)および形態の歯形を利用できるのは当然である。平坦な金属シートを使用し、モジュールの内側に他の手段でチャネルを形成することも可能である。
【0081】
起伏のある表面は、水和グリセロールの流れ、および凝縮水の流れに対する抵抗を最小化するので特に適している。そのような構造体はまた、最初にまたは脱水プロセス中に気泡が形成された場合に、気泡を効率的に除去する。
【0082】
起伏のある面は、特に、太陽光線が小傾角のときに、その反射を制限することで太陽放射線の吸収を簡便に高める。伝熱面も大きくなり、熱伝達も平坦な構造体よりも高くなる。起伏はまた、溝の方向に表面の機械的安定性をかなり高め、したがって、同じシート剛性を得るのに少ない材料で済ますことができる。
【0083】
図8に示し、さらに、
図9に詳細に示すように、溝付きシートには、溝付きシートの両端39で接着されたグリセロール遮断薄膜38が取り付けられている。溝付きシートの端部は管状40に形成され、封止されている(41)。
【0084】
各溝付きシート42の最初および最後の溝も、組み立てられた構造体内の水和グリセロールおよび凝縮水両方の漏出を防止するために接着されている。
【0085】
適切な直径のシリコーンチューブ(図示せず)が、下側溝付きシートの両方の管の端部40に接着され、一方の側から流入する水和グリセロール溶液用の入り口と、他方の側から流出する濃縮グリセロール用の出口とを形成する。
【0086】
反対側の使用しない管開口43も、例えば、シリコーン接着剤で封止することができる。金属構造体に対して良好な接着性を有する任意のタイプの接着剤を使用することができる。窓、水槽、衛生設備などのガラスシートの封止に使用されるものなど、一般的なシリコン接着剤が好ましい。
【0087】
グリセロールの入力および出力用に2つだけの開口が必要とされ、凝縮水用の出力開口が1つ必要とされる。しかし、シリコンチューブをすべての管状構造体に接着し、それらをクランプすることも可能である。その場合に、シリコンチューブは、例えば、必要に応じて、モジュールを洗浄または浄化するために使用することができる。
【0088】
グリセロール含有溶液は、溝付き金属薄片からなる上側シートによって形成され、下側溝付きシートの溝に対して垂直に向けられた溝を流れ、上側シートは、下側溝付きシートの丸い管状縁部に封止して固定される。2つの溝付き金属シートで形成され、グリセロール遮断薄膜によって分離された両方のコンパートメントが通じておらず、さらに、外側空間に対して閉じられるように封止が行われる。
【0089】
互いに対して垂直な溝を有する2つの溝付きシートの説明した構成は、2つの開いたチャネルセットを形成し、かかるサンドイッチ構造体の機械的な安定性を大きく高める。太陽によって照射される上側の黒い溝付きプレートの面のすぐ下をグリセロール溶液が流れ、グリセロール遮断薄膜の下の下側空間にある、上側溝付きプレートの溝に対して垂直な溝を凝縮水が流れる。凝縮水は、丸い形状の管44に接着された出口管(図示せず)から構造体を出る。
【0090】
好ましい実施形態では、モジュールは、
図5のものと同様な断熱要素が固定されたフレームによって取り付けられる。当業者は、取り付けを行うことの多数の異なる実現可能性に気づくであろう。説明したサンドイッチ構造体を、断熱層を有するフレームに組み込むことで、システムが機械的に強化される。他方で、これはまた、説明した構造体の個別の使用を容易にする。
【0091】
多数のそのように機械的に補強されたカセットを
図10に提示したものと同様な金属構築物に置くことができる。この例では、48個のモジュールが互いに隣り合って配置されている。これは、大きな水産出能力をもたらす。
【0092】
前に説明したように、サンドイッチシステムは、周囲環境の空気圧よりも若干低い圧力下で作動されるべきである。これは、必然的にサンドイッチの両側を互いに押すので、補助支持構造体が全く必要とされない。入力および出力チャネル間の高さ設定による静水圧の違いによって、都合のよい圧力差を容易に得ることができる。これは、当業者には明らかであり、公知である。
【0093】
実験室条件下での未最適化モジュールに関する生産性
面1平方メートル当たりの、太陽によって供給されるエネルギに基づくと、10時間当たりの産出される最大水量は、約14.4lのはずである。実際には、この数値はさらに小さい。人工的な実験室条件下で、最適化されていないシステムにおいて10時間の間に得られた水の収量は7.8lであった。特に、システムが静止しており、太陽の軌跡に追従しない場合、予測収量はさらに少ない。太陽追従システムは利用可能であるが、乾燥地帯では、地表のコストが一般的に非常に安いので、太陽の軌跡に追従しないことによる太陽エネルギの損失を補償するために、水産出パネル面を増やすのがより経済的である。
【0094】
本明細書に提示した構造体によって、使用するその場所で空気から収集される飲料水
本発明による構造体により、空気から飲料水を収集することで、いくつかの主要な問題が同時に解決される。
−本発明による構造体は、他の給水法が利用できない地域でさえ、飲料水を提供する。これは、以前は居住することができなかった新たな地域への出入りを可能にする。
−本発明による構造体は、世界の多数の農村住民のために、高品質の飲料水に対する現地の需要を担う。その結果として、本発明による構造体は、汚染水を飲むことが原因の高い死亡率を低減する。
−本発明による構造体は、グリセロールの水和および蒸溜プロセスという高度な2つの水選択ステップの組み合わせにより、最高の水質を提供する。これは、化学的汚染、機械的汚染、および細菌汚染を効率的になくす。
−本発明による構造体は、貧困国では法外に高価であり、清浄に維持することが困難であり、費用のかかる保守および修理を必要とする長距離給水配管を必要としない。
−本発明による構造体は費用がかからず、複雑でない保守点検を必要とするだけである。
−本発明による構造体は、利用者および環境に対して無害である。
【0095】
システムが破損しない限り、システムは、原理的に、他の方法で得られない品質の非汚染水を供給するはずである。システムの不具合および漏れは、水出力ホースに付着した、純水と混合されたグリセロールの甘味によって容易に認識される。そのような場合でさえ、飲料水は利用者にとって危険ではない。そのような水の中でその後に微生物が成長する危険性は、開けたボトルの中の他の甘味飲料と同様である。
【0096】
本明細書に開示したシステムによって産出される飲料水が溶解塩を含まないことは、利用者にとって不利益ではなく、その理由は、これらの微量栄養素は、通常、食物でかなり過剰に供給されるからである。これは、「Guidelines for Drinking−water Quality」Vol.1,3rd ed.,2004 of the World Health Organizationでも確かめられている。
【0097】
本明細書に提示した構造体によって空気から抽出された水の農業利用
本発明によるシステムは非常に単純であり、清浄な無塩水を低コストで提供するので、農業での水源として使用することもできる。開示したパネル1平方メートル当たり水5lの平均生産性で計算すると、1825mm/m
2の年間降水量に相当する。これは、地球上の非常に雨の多い地域の降水量に相当する。年間降水量が500mm未満の地域で多くの農作物が成長することができる。したがって、本発明による水産出パネル1平方メートルごとに、数平方メートルの農地に水を引くことができる。対応する地域の降水に加えて、空気から抽出した水が供給される場合、パネル1平方メートル当たりの可耕地の地表はさらにいっそう増える。
【0098】
通常、植物は、代謝のために、供給された水の3%未満を使用する。大部分の水、実際的にはすべての地表水は空中に蒸発し、植物用にはあまり使用されない。
【0099】
したがって、地表または土の表面の近くではなくて、可能ならば、地表下約30cm未満に灌漑するべきである。そこでは、植物の根にとって水が入手可能であり、水が蒸発によって直接大気中に失われることがない。
【0100】
植物は、蒸散のために多量の水を使用する。植物は、強い太陽放射線にさらされ、それにもかかわらず、植物の葉は、生理学的に許容可能な温度に保たれなければならない。植物は、それらの葉の過度の加熱を防止するために水を使用する。植物は、それらの葉にある気孔を通じて水を蒸発させる。水は、約550kcal/lのその巨大な蒸発熱により、並外れた冷却効果をもたらし、葉の温度を許容可能な範囲に保つ。
【0101】
生体は、適切な温度範囲でのみ生き延びることができる。例えば、我々の身体温度が43℃を超えた場合、我々は死ぬであろう。植物の最大許容温度の方が高いが、同じ一般原理が当てはまる。特定の温度より上では、生細胞内のタンパク質および他の不可欠な成分が変性し、細胞が死ぬ。そのような致命的な過熱の持続時間は、数分間だけ続くことができて、不可逆的な結果を伴う。植物が生き延びる場合、冷却水が、途切れることなく、少なくともある程度利用可能でなければならない。
【0102】
十分な降雨があるが、降雨が非常に不定期的に分散するためにやせた莫大な地表がある。乾燥期の間、植物はそれらの温度を制御することができずに枯死する。植物は干上がり、草木は姿を消す。
【0103】
少量の水および栄養素さえ危機的な期間中に入手できるならば、状況を根本的に変えることができる。これは、植物が生き延びることを可能にする。
【0104】
このような趣旨で、空気から得られた水は、例えば、ポリエチレンなどの簡便な材料でできた低コストの貫入チューブからなるシステムによって、約50cmの深さで土壌中に配送することができる。また、主要な利点は、一般的な灌漑水内の塩および不純物がそのようなチューブを詰まらせるのとは対照的に、空気から抽出した水は、塩および他の不純物がないので、本明細書に開示した方法を使用する場合に詰まりは全く起こらないことである。
【0105】
空気から得たそのような水による灌漑システムの最適な構成には、例えば、ストライプ状の水供給パネルの後にストライプ状の灌漑される農地が続くものがある。そのような構成は、長い配管の必要性をなくし、パネルの下側の空気冷却を可能にする。
【0106】
給水面は、パネルに近接して、またはパネルの下に置くこともできる。容易に作ることができ、当業者に公知である、選択すべき様々なオプションがある。1つの重要な利点は、単純性と、発明したシステムおよび構造体を構築および保守点検する技術的容易さとにより、地域の住民は、このシステムおよび構造体を理解し、これを導入するのに何ら問題を抱えることがないことである。脱水されたグリセロールの移送は、手動でか、または太陽電池、風力発電機、もしくは他の電力源が利用可能な場合にポンプによってかのいずれかで行うことができる。種々様々な容量および圧送性能の多くの適切なポンプが市場で入手可能である。
【0107】
灌漑された地表で、例えば、オリーブの木、蔓植物、または他の栽培物を育てることが可能になる。これは、おそらく多年生牧草を除いて今の時点で何も育つことができない広大な地表が耕作可能になることを意味する。
【0108】
本明細書に開示した発明による連続的な給水の補助に加えて、植物の蒸発散を制限するために他の適切な対策をとることができる。例えば、遮光することで、蒸散により冷却するための植物の水需要をさらに強力に減ずることができる。太陽熱を抑えるために栽培物の上に置かれた帯状またはバンド状の金属薄片により、栽培物を遮光するなどの可能な対策は、今日では低価格で実現可能であり、当業者には公知である。
【0109】
本発明により一時的な雨不足を緩和する、本明細書で提案した可能な方法の大規模な使用により、広大な未使用の地表面が緑の農地に変わる。以上のように、この方法は、今日の水不足を解決するだけでなく、将来的にさらなる動物栄養および人間栄養を提供する能力を有する。
【0110】
開示した方法の主要な利点は、空気から産出した水が、塩をわずかな量さえ含まず、したがって、灌漑水からの蓄積された塩が最終的に土壌を不毛にする危険がないことである。
【0111】
開示した方法の別の非常にプラスの特徴は、給水が日常的に途切れないことである。これは、植物がドラフト(draught)の期間も生き延びるのに確実に寄与し、したがって、地表をプラスの方向に変える。結果として、地球の広大な領域が居住可能になる。
【0112】
本明細書に提示した構造体および手順を用いて収集した水の無土壌栽培を目的とした使用
本明細書で説明した構造体および方法によって得られた水の将来的な最大の利益は、無土壌栽培にあると予測される。無土壌栽培は、旧来の栽培には全く適さない環境で植物を育てる最新の方法を意味する。無土壌栽培は、水耕法としても公知である。無土壌栽培では、植物は、溶解した栄養塩類を含む水が制御された形で加えられた、かなり小さい閉じた容器内に根が置かれた状態で成長する。植物は、水および栄養素による制限を受けず、したがって、旧来の農地の農作物よりも遙かに速く成長し、遙かに高い収量をもたらす。
【0113】
Hortscience,vol.32(6),October 1997でMerle H.Jensenで言及されているように、容積が1l弱の容器で成長した1本のトマトの木は、6ヶ月の期間にわたって高品質のトマト12.8kgを産した。当業者は、様々なタイプの無土壌栽培があると分かっている。この論題の概説は、インターネット、http://en.wikipedia.org/wiki/Hydroponicsで入手可能である。そこに載せられた情報は、その全体を本明細書に援用される。
【0114】
無土壌栽培の2つの主要なメリットは、農作物の収量が非常に高いことと、無土壌栽培は、地中で行う農業またはガーデニングが不可能な地域で使用できることとである。無土壌栽培は、同じ量の食物を生産するのに通常の農地で必要とされる水量のわずか5%しか必要としない。さらに、必要とされる栄養素は約25%に低減される。したがって、無土壌栽培は、雨不足の地域に対して万全である。
【0115】
さらに、乾燥地帯は通常、中央ヨーロッパまたは北アメリカと比較して、2倍を超える量の光合成関連の太陽放射線を受ける。したがって、乾燥地帯は、無土壌栽培にさらにいっそう適している。
【0116】
他の水源が今日まで全く得られなかった地域での、本発明による空気からの純水の産出は、地球のやせた乾燥地帯での食物生産に対する全く新しい大きな展望を開く。その結果として、本明細書に開示した発明は、飲料水の不足をなくすのに寄与するだけでなく、新たな予期しない食物源を開拓することもできる。広大な地表が、増加する世界の人口にとって居住可能になり得る。
【0117】
一般的な植物であるが、特に、本明細書に開示した構造体による灌漑手段を用いて、無土壌条件で栽培される植物の生長条件の主な改善は、特定のフィルタにより植物を遮蔽することで達成することができ、特定のフィルタは、太陽放射線スペクトルのうちの植物の成長および光合成に不可欠である部分のみの透過を可能にする。これは、スペクトルの赤色部分だけがそのようなフィルタ層を通過し、他の波長の放射線は反射されることを意味する。
【0118】
そのようなフィルタにより、植物がその温度を調整するのに必要な蒸散に必要とされる水分量が劇的に減少する。他方で、光合成は妨げられず、成長速度が最大になる。間違いなく、これは、農作物の収量を上げるのにプラスである。収穫量が一桁増加することが無土壌栽培で(例えば、トマトの生産で)すでに確認されている。選択的な遮蔽により、同じ量の水をより多くの植物に使用できるので、収穫をさらにいっそう改善することができる。
【0119】
今日の技術は、様々な材料から薄いフィルムを大量に、かつ非常に低コストで製造することを可能にする。上記の最適な特性を有するように合成されたフィルムを製造することが可能である。フィルムの製造を実現する方法は当業者には公知である。分野の概説は、インターネット、http://en.wikipedia.org/wiki/Filter(optics)で手に入れることができる。このページの内容は、その全体を本明細書に含めるものとする。
【0120】
適切な光特性を有するフィルタの製造に関する他の重要な実現可能なことは、適切な反射特性を有するダイクロイック層でフィルムの表面を形成することである。ダイクロイック層は、いわゆるクールビームランプの製造に広く使用されている。異なる材料のサブミクロン層を施すことで、スペクトルの一部の部分が反射し、一部が、基本的に妨害を受けることなく通過するように回折が生じる。ダイクロイック層は、プレゼントなどの装飾的な包装に使用されるカラフルな樹脂フィルムから公知である。
【0121】
ダイクロイック層の製造は当業者に公知である。ダイクロイックフィルタの分野の概説情報は、インターネットページ、http://en.wikipedia.org/wiki/Dichroic filterで得ることができる。このページの内容は、その全体を本明細書に含めるものとする。
【0122】
特に大気中のCO
2濃度の上昇により引き起こされる温室効果問題を軽減するための提示した構造体および方法の使用
空気から簡単に、かつ非常に低コストで清浄水を提供する、本明細書に提示した方法および構造体の大規模な使用により、大気中の二酸化炭素濃度の上昇に起因する温室効果に対する予期せぬ問題解決策をもたらすことができる。
【0123】
植物が葉緑素の吸収スペクトルの領域で、太陽光を選択的に吸収するのは公知の事実である。植物は、太陽スペクトルの不可視赤外部の放射線をあまり吸収しない。スペクトルのこの部分は、地球表面に達する太陽エネルギの約半分に相当する。これは、赤外線カメラでとった草木の写真で容易に分かる。草木は雪白に見え、これは、太陽スペクトルの赤外部分がほぼ全反射していることを示す。植物は、緑色の光の大部分も反射し、我々の目には同様に緑に見える青および黄の光の一部も反射する。
【0124】
この特性のために、植物は、太陽放射線の大部分を排除し、それ以外の場合、太陽放射線は地表面で熱に変わる。その結果として環境の温度が上昇することで地下水が蒸発し、地下水より上の空気が加熱される。したがって、降雨量が減少し、その地域はより乾燥するようになり、結局は、これ以上の植物の成長に適さなくなる。最終的に、そのような地域が砂漠化されることがある。
【0125】
地球の上昇した温度に対処するために、一部の科学者および政治家は、大気中の二酸化炭素濃度を下げてほしいと思っている。そのような作業は困難かつ費用がかかる。CO
2は、我々の生命に欠かすことのできない糖類、脂肪、タンパク質内の、簡潔に言えば、すべての生体分子内のすべての炭素原子を提供するので、二酸化炭素は、我々のすべての食物の唯一無二の炭素源であることは公知である。
【0126】
本特許出願で説明した新規の構造体およびそれの使用方法により、水が入手できない、または量が限定される地域で、初めて、水を得ることが可能になる。
【0127】
過剰な太陽放射線の生体反射器として機能し、同時に、土壌の湿気が蒸発するのを防止する遮蔽物として機能する植物を育てるために、その水を利用することができる。さらに、蒸散および葉の冷却のために植物が使用する水分により、局所的に温度が下がる。連鎖効果でそのような地域の上の空気もより冷たくなり、水で飽和する可能性がより高くなる。これにより、降雨がより頻繁になる。これはさらに、正のフィードバックでその地域の植物または農作物の成長を促進する。
【0128】
この方法が、降雨不足の分岐点に近い地域で実施された場合、比較的少ないが一定の水供給が、負の気候変動を一変させ、地域を再度緑化することができる。乾燥地帯との境界にあるそのような地域が多数ある。今からそのような方法を開始すべきである。
【0129】
結末は、至る所で温度が下がることになる。同時に、大きな地表が農作物を産するために使用され、何百万の居住者に栄養素および生活空間を提供することができる。
【0130】
本発明の様々な実施形態が例として説明されたが、当業者が修正および改造を想起することは明らかである。しかし、当然のことながら、そのような修正形態および改造形態は本発明の趣旨および範囲内である。