(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1ないし
図3において、1は絶縁トルクレンチで、この絶縁トルクレンチ1は、例えば車両等の製造や修理の際に使用され、ナットやボルト等の被締付ねじaを予め設定された設定締付トルク値で締め付けるための絶縁工具である。
【0014】
絶縁トルクレンチ1は、水平方向長手状の円筒状をなす断面円形状の管状の金属製の本体部材2と、この本体部材2の先端部に固設的に設けられた上下方向の金属製の支軸部材3と、この支軸部材3にてこの支軸部材3を中心として回動可能に支持された金属製の先端部材(回動部材)4と、この先端部材4の先端部にて上下方向軸線Xを中心として回転可能に保持された金属製の回転部材5とを備えている。
【0015】
なお、回転部材5は、先端部材4に対して一方向のみに回転可能であり、他方向への回転が回転規制手段(図示せず)によって規制されるようになっている。また、この回転規制手段の回転規制方向は切り換え可能となっている。さらに、
図2に示されるように、絶縁トルクレンチ1の使用時には、回転部材5の下端部に、被締付ねじaの大きさに応じたソケットbが脱着可能に装着される。
【0016】
本体部材2は、先端面開口8および基端面開口9を有する両端面開口状の細長円筒状に形成されている。本体部材2の基端部の外周面には、作業者(締付作業者)によって把持される筒状のゴム製或いは樹脂製の絶縁グリップ部材11が取り付けられている。
【0017】
本体部材2の先端部の上下には軸用孔部12,13が形成され、この軸用孔部12,13に丸軸状の支軸部材3が嵌合挿通されている。支軸部材3の上端部3aは、本体部材2の上側の軸用孔部12から上方に向かって突出し、金属製の軸カバー部材14にて覆われている。この上端部3aの外面と軸カバー部材14の内面との間には、空間部18が存在する。また、支軸部材3の抜止用の下端部3bは、本体部材2の下側の軸用孔部13から下方に向かって突出し、金属製の軸カバー部材15にて覆われている。この下端部3bの外面と軸カバー部材15の内面との間には、空間部19が存在する。
【0018】
なお、本体部材2の先端部の内周面には金属製の筒状部材21が嵌着され、この筒状部材21の軸用孔部22に支軸部材3が嵌合挿通されている。この筒状部材21の内周面と先端部材4の外周面との間には、所定寸法の隙間23がある。
【0019】
先端部材4は、本体部材2内に位置する長手状部24と、この長手状部24の先端に一体に設けられ本体部材2の先端面開口8から突出して本体部材2外に位置する筒状の保持部25とを有している。そして、先端部材4の先端部である保持部25によって、回転部材5が上下方向軸線Xを中心として回転可能に保持されている。また、長手状部24の先端近傍には軸用孔部26が形成され、この軸用孔部26に支軸部材3が嵌合挿通され、先端部材4が本体部材2に対して支軸部材3を中心として回動可能となっている。
【0020】
回転部材5は、先端部材4の保持部25にて上下方向軸線Xを中心として回転可能に保持された被保持部27と、この被保持部27の下端に一体に設けられた中間軸部28と、この中間軸部28の下端に一体に設けられた角柱状の角軸部29とを有している。そして、絶縁トルクレンチ1の使用時には、回転部材5の角軸部29をソケットbの角孔部b1に嵌入し、このソケットbのねじ嵌合孔b2と被締付ねじaとを互いに嵌合させる(
図2参照)。
【0021】
また、絶縁トルクレンチ1は、本体部材2の外周面を覆う細長円筒状の絶縁本体カバー部材31と、先端部材4の保持部25の外面全体を覆うとともに回転部材5の中間軸部28の外周面を覆う筒状の絶縁先端カバー部材32と、絶縁本体カバー部材31の外周面と絶縁先端カバー部材32の外周面とに跨るように設けられた弾性変形可能な筒状の絶縁カバー弾性部材33とを備えている。すなわち例えば絶縁本体カバー部材31の先端部と絶縁先端カバー部材32の基端部とが互いに近接し、これら互いに近接する両端部間にわたって絶縁カバー弾性部材33が取り付けられている。
【0022】
なお、絶縁本体カバー部材31および絶縁先端カバー部材32は、いずれも例えば比較的硬質な樹脂材料(例えばポリプロピレン等)やゴム材料にてそれぞれ一体に形成されている。絶縁カバー弾性部材33は、カバー部材31,32よりも柔軟性のある軟質の樹脂材料やゴム材料にて一体に形成されている。この絶縁カバー弾性部材33は、先端部材4の本体部材2に対する回動の際に、数ミリ程度、僅かに弾性変形する。
【0023】
絶縁本体カバー部材31は、本体部材2の基端部以外の外周面に取り付けられている。絶縁本体カバー部材31の先端部の上下には孔部36,37が形成され、上側の孔部36には円板状の軸カバー部材14が嵌着され、下側の孔部37には円板状の軸カバー部材15が嵌着されている。これら上下の軸カバー部材14,15の外面は、絶縁カバー弾性部材33にて覆われている。
【0024】
そして、軸カバー部材14,15および支軸部材3は、絶縁カバー弾性部材33の軸方向中央部の内方に配設されている。なお、絶縁カバー弾性部材33の軸方向端縁と金属製の軸カバー部材14,15との間は所定距離以上離れており、作業者が絶縁カバー弾性部材33の軸方向端縁に触れていても感電しないようになっている。
【0025】
絶縁先端カバー部材32は、先端部材4の保持部25の外面に取り付けられている。絶縁先端カバー部材32は、絶縁本体カバー部材31の先端面と若干の間隙40を介して近接対向する円板状の板状部41と、この板状部41に一体に設けられた上下方向の筒状部42とを有している。
【0026】
筒状部42は、上端面開口43および下端面開口44を有する両端面開口状の円筒状に形成されている。この筒状部42は上側筒状部分42aと下側筒状部分42bとにて構成され、この上側筒状部分42aが先端部材4の保持部25の外面に取り付けられている。下側筒状部分42bと回転部材5の中間軸部28との間には空間部47が存在する。また、筒状部42の上端部の凹溝部46にはゴム製或いは樹脂製の蓋部材45が取り付けられ、この蓋部材45にて上端面開口43が閉じられている。回転部材5の角軸部29は、筒状部42の下端面開口44から下方に向かって突出している。
【0027】
絶縁カバー弾性部材33は、両カバー部材31,32の各外周面に跨って取り付けられている。絶縁カバー弾性部材33は、水平方向に軸方向を有する両端面開口状の円筒状に形成されている。絶縁カバー弾性部材33は、絶縁本体カバー部材31の被取付部51の外周面に取り付けられた本体側取付部52を軸方向一端側に有し、かつ、絶縁先端カバー部材32の被取付部53の外周面に取り付けられた先端側取付部54を軸方向他端側に有している。
【0028】
なお、絶縁本体カバー部材31の被取付部51は、絶縁本体カバー部材31の絶縁先端カバー部材32側の端部である先端部にて構成されている。絶縁先端カバー部材32の被取付部53は、絶縁先端カバー部材32の絶縁本体カバー部材31側の端部である基端部(板状部41)にて構成されている。
【0029】
そして、絶縁本体カバー部材31の被取付部51は、この被取付部51の外周面に凸環状に形成された1つのフランジ状の本体側嵌合凸部56を有している。絶縁カバー弾性部材33の本体側取付部52は、この本体側取付部52の内周面に凹環状に形成され本体側嵌合凸部56と嵌合する1つの凹溝状の本体側嵌合凹部57を有している。つまり、本体側嵌合凸部56と本体側嵌合凹部57との嵌合のみによって、本体側取付部52が絶縁本体カバー部材31の被取付部51に取り付けられている。
【0030】
なお、本体側取付部52が本体側嵌合凸部56を有しかつ被取付部51が本体側嵌合凹部57を有するようにしてもよい。
【0031】
また、絶縁先端カバー部材32の被取付部53は、この被取付部53の外周面に凸環状に形成された1つのフランジ状の先端側嵌合凸部58を有している。絶縁カバー弾性部材33の先端側取付部54は、この先端側取付部54の内周面に凹環状に形成され先端側嵌合凸部58と嵌合する1つの凹溝状の先端側嵌合凹部59を有している。つまり、先端側嵌合凸部58と先端側嵌合凹部59との嵌合のみによって、先端側取付部54が絶縁先端カバー部材32の被取付部53に取り付けられている。
【0032】
なお、先端側取付部54が先端側嵌合凸部58を有しかつ被取付部53が先端側嵌合凹部59を有するようにしてもよい。
【0033】
本体側嵌合凹部57は、断面4角形状の凹溝状のもので、絶縁カバー弾性部材33の内周面の軸方向一端近傍に形成されている。先端側嵌合凹部59は、断面4角形状の凹溝状のもので、絶縁カバー弾性部材33の内周面の軸方向他端近傍に形成されている。絶縁カバー弾性部材33の内周面の軸方向中央部には、軸カバー部材14,15と対向する環状凹部60が形成されている。
【0034】
また、絶縁カバー弾性部材33の外周面が波形状に形成されている。つまり、絶縁カバー弾性部材33の外周面の軸方向中央部が、軸方向に沿って進む波状面61にて構成されている。
【0035】
また一方、管状の本体部材2内には、被締付ねじaに対する締付トルクが設定締付トルク値未満では先端部材4の本体部材2に対する回動を規制し、かつ、その締付トルクが設定締付トルク値に達すると先端部材4の本体部材2に対する回動を許容して作業者に設定締付トルク値に達したことを知らせる締付トルク設定手段(図示せず)が配設されている。
【0036】
この締付トルク設定手段は、例えば実公昭59−38994号公報等に記載された周知のもので、コイル状の圧縮ばねおよびばね受け体等にて構成されている。なお、設定締付トルク値は、本体部材2に回動可能に設けられた筒状の操作部材63の回動操作により調整可能となっている。
【0037】
次に、上記絶縁トルクレンチ1の作用等を説明する。
【0038】
例えばハイブリッドや電気自動車等の車両の製造等において、絶縁トルクレンチ1を使用する際には、作業者は、まず、締め付け対象である被締付ねじaの大きさに応じたソケットbを、回転部材5の角軸部29に装着する。
【0039】
次いで、作業者は、被締付ねじaとソケットbのねじ嵌合孔b2とを互いに嵌合させた後、例えば一方の手で絶縁グリップ部材11を把持しかつ他方の手で絶縁カバー弾性部材33を把持した状態で、本体部材2の回動操作を繰り返し行うことにより、回転部材5を先端部材4に対して被締付ねじaとともに一方向である締め付け方向に回転させる。
【0040】
このとき、作業者の手が触れる部分は、鉄等の金属材料からなるトルクレンチ本体部分を覆う絶縁材料(絶縁グリップ部材11、絶縁本体カバー部材31、絶縁先端カバー部材32および絶縁カバー弾性部材33)からなる被覆部分であるから、電路付近での締め付け作業であっても、誤って感電する危険性がない。
【0041】
こうして、被締付ねじaが安全に締め付けられるが、この被締付ねじaに対する締付トルク(先端部材4に作用するトルク)が予め設定された設定締付トルク値に達すると、締付トルク設定手段の圧縮ばねの付勢力に抗して先端部材4が本体部材2に対して支軸部材3を中心として少しだけ回動し、またこの先端部材4の回動に伴って絶縁カバー弾性部材33が僅かに弾性変形する。
【0042】
その結果、先端部材4の打撃部が本体部材2の内周面の一部を打撃して報知音が発生し、この発生した報知音によって作業者は被締付ねじaへの締付トルクが設定締付トルク値に達したことを知ることとなる。
【0043】
そして、このような絶縁トルクレンチ1によれば、本体部材2を覆う絶縁本体カバー部材31と、先端部材4を覆う絶縁先端カバー部材32と、これら絶縁本体カバー部材31と絶縁先端カバー部材32とに跨るように設けられた弾性変形可能な絶縁カバー弾性部材33とを備えるため、電路付近での締め付け作業であっても感電の危険性がなく、被締付ねじaを設定締付トルク値に達するまで安全に締め付けることができる。
【0044】
また、絶縁カバー弾性部材33の本体側取付部52および絶縁本体カバー部材31の被取付部51のいずれか一方が本体側嵌合凸部56を有しかつそのいずれか他方が本体側嵌合凸部56と嵌合する本体側嵌合凹部57を有し、また、絶縁カバー弾性部材33の先端側取付部54および絶縁先端カバー部材32の被取付部53のいずれか一方が先端側嵌合凸部58を有しかつそのいずれか他方が先端側嵌合凸部58と嵌合する先端側嵌合凹部59を有するため、被締付ねじaを締め付けている際に絶縁カバー弾性部材33がずれて外れる不具合を防止でき、被締付ねじaの締め付け作業をより一層安全に行うことができる。
【0045】
さらに、絶縁カバー弾性部材33の外周面が波形状に形成されているため、絶縁カバー弾性部材33を円滑に弾性変形させることができ、しかも、作業者が絶縁カバー弾性部材33の外周面を把持した際に手が滑りにくく、締め付け作業を更により一層安全に行うことができる。
【0046】
なお、絶縁トルクレンチ1は、本体側嵌合凸部56と本体側嵌合凹部57との嵌合のみによって本体側取付部52が被取付部51に取り付けられ、先端側嵌合凸部58と先端側嵌合凹部59との嵌合のみによって先端側取付部54が被取付部53に取り付けられた構成には限定されず、例えばその嵌合に加えて接触剤等が用いられて、絶縁カバー弾性部材33が両カバー部材31,32に跨って固定的に設けられた構成等でもよい。
【0047】
また、例えば複数の本体側嵌合凸部56と複数の本体側嵌合凹部57とが互いに嵌合し、複数の先端側嵌合凸部58と複数の先端側嵌合凹部59とが互いに嵌合する構成等でもよい。
【0048】
さらに、回転部材5が先端部材4に回転可能に設けられた構成には限定されず、例えば先端部材がレンチ部を有し、この先端部材のレンチ部で被締付ねじaを締め付ける構成等でもよい。