(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5850866
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】食用油の処理方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/04 20060101AFI20160114BHJP
C11B 3/04 20060101ALI20160114BHJP
C11B 3/10 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
A23D9/04
C11B3/04
C11B3/10
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-556472(P2012-556472)
(86)(22)【出願日】2011年3月7日
(65)【公表番号】特表2013-521004(P2013-521004A)
(43)【公表日】2013年6月10日
(86)【国際出願番号】EP2011053365
(87)【国際公開番号】WO2011110516
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2014年1月14日
(31)【優先権主張番号】10250435.4
(32)【優先日】2010年3月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512232964
【氏名又は名称】ステパン スペシャルティー プロダクツ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】バウウェル, シーツェ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デル ワール, パトリック
【審査官】
一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−058536(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/075632(WO,A1)
【文献】
特開2008−069184(JP,A)
【文献】
特開2000−342291(JP,A)
【文献】
特開2009−153485(JP,A)
【文献】
食衛誌,1985年,Vol. 26, No. 5,pp. 500-506
【文献】
Journal of Japan Oil Chemists' Society,1966年,Vol. 15, No. 10,pp. 501-509
【文献】
東海女子短期大学紀要,1980年,pp. 77-85
【文献】
富山大学人間発達科学部紀要,2008年,Vol. 3, No. 1,pp. 39-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00− 9/06
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒドを除去するために食用油を処理する方法であって、該食用油をアミノ酸及び吸着剤と接触させることを含み、アミノ酸及び吸着剤が、別々に又は混合物として油に接触させられ、アミノ酸は、油の重量に基づき、0.05〜0.5重量%の量で使用される方法。
【請求項2】
油が経口消費用である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
油が魚油である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
油が、コンジュゲートしたリノール酸の一又は複数のグリセリドを含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
油のアニシジン値(AV)が未処理の油と比較して、低減されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
油のアニシジン値(AV)が処理前の油のAVと比較して、少なくとも50%低減されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸が、リジン、システイン、アルギニン、又はその混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸がリジンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
吸着剤が、油の重量に基づき、1〜5重量%の量で使用されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
吸着剤が、シリカ、漂白土、クレー、又はそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
吸着剤がシリカである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アミノ酸と吸着剤が油に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
アミノ酸と吸着剤が50〜80℃の範囲の温度で油に添加される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アミノ酸が油に添加され、続いて吸着剤が添加される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、食用油の処理方法に関する。特に、本発明は、経口消費用である油からの、好ましくない又は所望されない物質の除去に関する。
【0002】
通常、グリセリドエステルの形態の、多価不飽和脂肪酸(PUFA)を含む食用油は、有益な健康的効果を有していることが示されている。これらの健康的効果には、コレステロールレベルの低減、冠動脈心疾患に対する保護及び血小板凝固の抑制が含まれる。例えば、オメガ-3及びオメガ-6脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)を含む魚油は、その健康への有益性のために、食品及び栄養製品に使用されている。魚油は、米国特許出願公開第2006/0134178号及び米国特許出願公開第2009/0202679号のような文献に記載されている。
【0003】
また、DHAは、例えば米国特許出願公開第2009/0099260号及び米国特許出願公開第2008/0107791号に記載されているような、微生物油として入手可能である。
【0004】
コンジュゲートしたリノール酸(CLA)は、PUFAの他の例であり、18の炭素原子を有するコンジュゲートしたジエン脂肪酸である。CLAには2つの二重結合が存在するため、幾何異性が可能であり、CLA分子又は部分は、多くの異性体の形で存在しうる。CLAのシス9,トランス11(「c9t11」)及びトランス10,シス12(「t10c12」)異性体は、一般的に最も豊富であり、これらの異性体のそれぞれについて有益な薬理学的効果が同定されている。
【0005】
PUFAに伴う一つの問題は、それらが酸化を受ける傾向にあり、その結果、好ましくない味及び/又は臭いを発する可能性があることである。味及び/又は臭いは、アルデヒドが形成されるためでありうる。アルデヒドは、しばしば「揮発性」又は「非揮発性」と分類される。揮発性アルデヒドは標準的なプロセス、例えば脱臭により除去することができる。しかしながら、非揮発性アルデヒドは、比較的沸点が高く、除去するのがより困難である。油において難分解性の問題を引き起こすおそれがあるのがこれら非揮発性アルデヒドであり、通常、比較的高いアニシジン価に反映される。油のアニシジン値(AV)は、アルデヒドなどの二次酸化生成物の含有量を評価するために使用される標準的な測定値である。
【0006】
米国特許出願公開第2006/0110521号は、高濃度のPUFAを有する油組成物に関する。本公報には、油のAVを、アミノ官能化樹脂等の、支持体上のアミンと油を接触させることにより低減させる方法が記載されている。
【0007】
国際公開第2007/075632号には、油のAVを低減可能な活性物質を用いて、油を処理することが開示されている。一例では、活性物質はアミノ酸、例えばリジンでありうる。活性物質は例えば液体として使用することができ、又は固形支持体に結合され、包埋され、又は分散されうる。記載されているプロセスは、油と接触させる前に、活性物質で支持体を前処理しておくことを含む。
【0008】
驚くべきことに、我々は、上述の既知のプロセスよりも、より効率的及び/又はより効果的に、食用油からアルデヒドを除去するための方法を今見いだした。吸着剤とは別個に非支持のアミノ酸を使用することで、予期しない利点があることが見いだされた。
【0009】
本発明によれば、アミノ酸及び吸着剤に油を接触させることを含む、食用油を処理してアルデヒドを除去する方法であって、アミノ酸及び吸着剤が、別々に又は混合物として油と接触させられる方法が提供される。
【0010】
他の態様では、本発明は、食用油から汚染アルデヒドを除去するために、別々に又は混合物として、アミノ酸及び吸着剤を使用することを提供する。
【0011】
他の態様において、本発明でまた提供されるものは、グリセリド中に存在する脂肪酸残基の重量で37〜60%のEPA及びDHAを有する、一又は複数のグリセリドを含有し、DHAに対するEPAの比率が1以上であり、全酸価(Totox)値が15未満の食用油である。
【0012】
本発明のさらなる態様は、グリセリドに存在する脂肪酸残基の重量で少なくとも50%のコンジュゲートしたリノール酸含有量を有する、一又は複数のグリセリドの形態のコンジュゲートしたリノール酸(CLA)を含有し、全酸価値が2未満の食用油である。
【0013】
本発明において、油は、アミノ酸及び吸着剤に接触させられる。これら2つの物質が共同して作用し、油中のアルデヒドレベル、よってそのアニシジン値を低減させる。理論に縛られることを望むものではないが、アミノ酸がアルデヒドと反応し、続いて吸着剤により除去される化合物を形成すると考えられる。
【0014】
アミノ酸と吸着剤は、別々に又は混合物として、油と接触させられる。これは、アミノ酸と吸着剤が別々の段階で(例えば、一方が油に添加され、続いて他方が添加されることによる)、又は混合物として一段階で(例えば、アミノ酸と吸着剤の混合物を油に添加することによる)、油と接触させられることを意味する。混合物なる用語は、例えば相又は粒子を粉砕する必要がなく、物理的に分離可能であるそれぞれの異なった材料の別々の粒子又は相の組み合わせというその通常の意味で使用される。よって、アミノ酸及び吸着剤は、それらが物理的又は化学的に付着するようには互いに前処理はなされていない。例えば、吸着剤は、アミノ酸が吸着体に支持され又はコーティングされるように、アミノ酸で前処理はなされていない。混合物は、好ましくはアミノ酸のバラバラの粒子と吸着剤のバラバラの粒子を含む粉末、又はアミノ酸を含有する液状相に固形の吸着剤が懸濁したもの(例えば、水溶液の形態)である。
【0015】
本発明は、従来技術のプロセスと比較して、より少量のアミノ酸及び/又は吸着剤を使用することができるという利点を有する。付加的又は代替的に、所定量のアミノ酸及び/又は吸着剤が、AVで決定して、アルデヒドの高い除去度合いをもたらす。また、本発明は、前処理又はコーティング工程の必要がなく、よってプロセス全体を簡略化できるという利点を有する。
【0016】
好ましくは、油は経口消費用である。典型的には、油はヒトによって消費されるであろう。
【0017】
油は、食用であり、汚染アルデヒドを含む任意の油でありうる。
【0018】
油は、好ましくはグリセリドを含み、典型的には、油の少なくとも50重量%、例えば油の少なくとも75重量%、少なくとも85重量%、又は少なくとも95重量%の組合せ量で、主要成分としてジ-及びトリ-グリセリドを一般的に含有するであろう。油は、モノグリセリド及び遊離のカルボン酸を、典型的には油の5重量%未満の全体量で含有しうる。
【0019】
グリセリド類は、好ましくは主として脂肪酸残基を含むグリセリドである。ここで使用される「脂肪酸」なる用語は、12〜24の炭素原子と、場合によっては1、2、3又はそれ以上の不飽和炭素-炭素二重結合を有する、飽和及び不飽和、直鎖状鎖のカルボン酸を含む。典型的には、脂肪酸は、グリセリド中に存在する少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%のカルボン酸を構成するであろう。
【0020】
好ましくは、油は、存在する全脂肪酸残基の重量に基づき、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、例えば少なくとも30重量%又は少なくとも40重量%の量で、多価不飽和脂肪酸のグリセリドを含む。
【0021】
好ましくは、油は、存在する全脂肪酸残基の重量に基づき、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、例えば少なくとも25重量%、又は少なくとも35重量%の組合せた量で、EPA及びDHAを含有する。EPA:DHAの比率は、好ましくは1より大きい。
【0022】
好ましくは、油は天然油、例えば動物性油又は植物性油である油である。最も好ましくは、油は海産油、より好ましくは魚油である。魚油は、本発明の特に好ましい油である。
【0023】
代替的(又は付加的な)油は、コンジュゲートしたリノール酸(CLA)の一又は複数のグリセリドを含有する。CLAは:シス,シス;シス,トランス;トランス,シス;トランスを含む、一異性体又は2又はそれ以上の異なる異性体の混合物を含みうる。好ましい異性体は、トランス10,シス12、及びシス9,トランス 11異性体(ここでは、それぞれt10c12及びc9t11と称される)であり、これらの異性体は、比較的純粋な形態、並びに互いの混合物及び/又は他方の異性体との混合物を含む。より好ましくは、コンジュゲートしたリノール酸は、トランス10,シス12、及びシス9,トランス11の異性体を含んでいてもよく、シス9,トランス11異性体に対するトランス10,シス12の重量比、又はその逆は、少なくとも1.2:1、例えば1.3:1、さらに好ましくは少なくとも1.5:1、例えば1.5:1〜100:1、又は1.5:1〜10:1の範囲内、例えばトランス10,シス12: シス9,トランス11異性体の60:40又は80:20混合物でありうる。トランス10,シス12異性体及び/又はシス9,トランス11異性体は、主要な異性体成分であり、すなわち、コンジュゲートしたリノール酸の全量に基づき、少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらに好ましくは少なくとも75重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、又は100重量%の量で存在する。例えば、CLAはc9t11及びt10c12異性体を含み得、t10c12に対するc9t11異性体の重量比は、99:1〜1:99、好ましくは90:10〜10:90、最も好ましくは80:20〜20:80でありうる。CLAは一般的な方法で生成することができる。例えば、CLAは既知の方法、例えばその内容が出典明示によりここに援用される欧州特許出願公開第902082号に記載されているようにして生成することができる。一又は複数の異性体に富むCLA生成物は、その内容が出典明示によりここに援用される国際公開第97/18320号に開示されている。
【0024】
また油はアルデヒド類を含む。これらは、典型的には低レベル、例えば油の2重量%未満又は1重量%未満で存在する。アルデヒドは、典型的にはC12〜C24のアルキル又はアルケニル基を有するアルデヒドである(ここでアルケニル基は一又は複数の炭素-炭素二重結合を有しうる)。
【0025】
本発明の方法では、油のアニシジン値(AV)は、未処理の油と比較して低い。好ましくは、AVは、処理前の油のAVと比較して、少なくとも50%まで低下している。アニシジン値は、AOCS, Cd 18-90, p-Anisidine Value, 1997に従って決定できる。
【0026】
また、本発明の方法は、過酸化物価(PV)を低下させることもできる。PVは、AOCS; Cd 8b-90; Peroxide value; 1997に従って決定できる。
【0027】
本発明で使用されるアミノ酸は、単一のアミノ酸、又は2又はそれ以上のアミノ酸の混合物でありうる。好ましくは、アミノ酸は、油の重量に基づき、0.05〜0.1重量%の量で使用される。アミノ酸がこれらのレベルであることで、AVの低下により決定される、アルデヒドの効果的な除去が得られることが見いだされた。
【0028】
好ましいアミノ酸は自然に生じたアミノ酸である。アミノ酸は、典型的には、食品等級の純度で使用されるであろう。より好ましいアミノ酸は、リジン、システイン、アルギニン、又はその混合物であり、リジンが最も好ましいアミノ酸である。アミノ酸は、遊離のアミノ酸の形態であることが好ましいが、遊離のアミノ基を有するペプチドの形態(例えば、タンパク質加水分解物)であってもよい。また、遊離のアミノ酸とペプチドの混合物が使用されてもよい。
【0029】
アミノ酸は、固体状、例えばパウダー、又は液体、例えば水溶液、スラリー又はエマルションの形態で使用されうる。
【0030】
本発明で使用される吸着剤は、単一の吸着剤、又は2又はそれ以上の吸着剤の混合物であってもよい。吸着剤は、油の重量に基づき、好ましくは1〜5重量%の量で使用される。
【0031】
適切な吸着剤には、シリカ、漂白土、クレー、又は2又はそれ以上のこれらの混合物が含まれる。好ましくは、吸着剤はシリカである。
【0032】
本発明の方法は、アミノ酸及び吸着剤と油を接触させることを含む。好ましくは、アミノ酸と吸着剤が、油に添加される。より好ましくは、アミノ酸と吸着剤は、別々に油に添加される。例えば、まずアミノ酸が油に添加され、続いて吸着剤が添加される。
【0033】
本発明の代替的方法では、アミノ酸と吸着剤が混合され、得られた混合物が油に添加される。
【0034】
本発明の方法では、アミノ酸と吸着剤は、好ましくは20〜90℃、より好ましくは50〜80℃の範囲の温度で油に添加される。
【0035】
本発明の方法は、好ましくは、
(a)油にアミノ酸を添加し;
(b)(a)で形成されたアミノ酸と油の混合物に吸着剤を添加する
工程を含む。
【0036】
好ましくは、(a)の後、アミノ酸と油の混合物を、(b)の前に1〜60分(より好ましくは5〜40分)、場合によっては攪拌しつつ放置する。
【0037】
典型的には、(b)の後に形成された混合物は、1〜60分(より好ましくは5〜40分)放置される。
【0038】
工程(b)の後、混合物を好ましくは乾燥又は濾過する。乾燥は、好ましくは減圧下、より好ましくは250mbar未満、最も好ましくは50〜80℃の範囲の、実質的一定温度で実施される。濾過は、好ましくは5μm未満の孔径を有するフィルターを使用して実施される。
【0039】
工程(b)の後の乾燥に対して付加的に又は代替的に、混合物を工程(a)の後に乾燥させてもよい。乾燥は、好ましくは減圧下、より好ましくは250mbar未満、最も好ましくは50〜80℃の範囲のような、実質的に一定の温度で実施される。
【0040】
よって、最も好ましい本発明の方法は、
(a)(好ましくは50〜80℃の範囲の温度で)油にアミノ酸を添加し;
(b)(a)で形成されたアミノ酸と油の混合物に吸着剤を添加し;そして
(c)(b)で形成された混合物を乾燥し、濾過する
ことを含む。
【0041】
本発明の他の好ましい方法は、
(a)CLAを含むグリセリド(すなわち、グリセリドに結合したもの)又は魚油にアミノ酸を添加し、ここでアミノ酸は、油の重量に基づき、0.05〜1.0重量%の量で使用され;
(b)(a)で形成されたアミノ酸と油の混合物に吸着剤を添加し;そして
(c)(b)で形成された混合物を乾燥する
ことを含む。
【0042】
本発明の方法は、魚油精製のための全体プロセスの一部を形成し得、それは、
−粗魚油を提供し;
−粗魚油を中和し、存在する少なくともある程度の遊離脂肪酸を除去し;
−漂白土で油を処理し;さらに
−漂白油を脱臭する
ことを含み、ここで、本発明の方法は、漂白土で油を処理する工程の前又は後で実施される。
【0043】
魚油を中和し、漂白土で魚油を処理し、魚油を脱臭する技術は、当業者によく知られている。
【0044】
驚くべきことに、本発明により、低い全酸価値を有する油の形成が可能になる。全酸価値は、油の全酸化を定める方法として、当該技術分野でよく知られており、全酸価=(2×PV)+AVとして定義される。
【0045】
例えば、食用油は、グリセリドに存在する脂肪酸残基の少なくとも50重量%のコンジュゲートしたリノール酸(CLA)(すなわち、グリセリドに結合したCLA)含有量を有する、一又は複数のグリセリド(すなわち、モノ-、ジ-及び/又はトリ-グリセリド)の形態でコンジュゲートしたリノール酸(CLA)を含有し、全酸価値が2未満である。好ましくは、CLAの含有量は、グリセリドに存在する脂肪酸残基の重量に基づき、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%である。好ましくは、全酸価値は、1.8未満、又は1.6未満、又は1.4未満、又は1.2未満、又は1.1未満である。例えば、油は、少なくとも75%のCLA含有量と、1.2未満、又は1.1未満の全酸価を有する。
【0046】
他の態様において、食用油は、グリセリドに存在する脂肪酸残基の重量で、37〜60%(好ましくは38%以上60%まで)のEPA及びDHAを有する、一又は複数のグリセリド(すなわち、モノ-、ジ-及び/又はトリ-グリセリド)を含有し、DHAに対するEPAの比率が1以上(好ましくは1.1以上)であり、全酸価値が15未満である食用油である。典型的には、組成物は魚油である。驚くべきことに、14未満、例えば13未満、又は12未満、例えば11未満の全酸価値を得ることが可能であることが見いだされた。例えば、食用油は、グリセリドに存在する脂肪酸残基の重量で、38%以上60%までの全EPA及びDHAを有する、一又は複数のグリセリド(すなわち、モノ-、ジ-及び/又はトリ-グリセリド)を含有し、DHAに対するEPAの比率が1.1以上であり、全酸価値が15未満である。
【0047】
本発明の方法で生成された食用油は、食品、栄養補助食品、又は医薬品に使用することができる。よって、本発明は、本発明の食用油を含有する食品、栄養補助食品、又は医薬品を考慮するものである。栄養補助食品又は医薬品は、腸内又は非経口適用に適したカプセルの形態又は他の形態であってもよい。
【0048】
栄養補助食品(本用語は栄養剤を含む)が特に好ましい。栄養補助食品の例には、ゼラチン、デンプン、加工デンプン、デンプン誘導体、例えばグルコース、スクロース、ラクトース及びフルクトースからなる群から選択されるカプセル化物質を好ましくは含有する軟質ゲル又は硬質カプセルの形態の製品が含まれる。カプセル化物質は、架橋剤又は重合剤、安定剤、酸化防止剤、光感受性充填物(fill)を保護するための光吸収剤、保存料等を含んでいてもよい。好ましくは、栄養補助食品におけるコンジュゲートした脂肪酸の単位用量は、1mg〜1000mg(より好ましくは100mg〜750mg)である。
【0049】
食品は、場合によっては、補完用脂肪とのブレンド物として食用油を含んでいる。混合物は、MCT-油、トウモロコシ油、高オレインべニバナ油、ベニバナ油、魚油、綿実油、菜種油、大豆油、高オレインヒマワリ油、 ヒマワリ油から選択される液状油、前記脂肪又はそのフラクションのエステル交換混合物、パーム核油又はそのフラクション、パーム油又はそのフラクション、ココアバター等価物、ココアバターから好ましくは選択される補完用脂肪を99.7−5重量%、好ましくは98−20重量%、最も好ましくは95−60重量%、本発明の食用油を0.3−95重量%、好ましくは2−80重量%、最も好ましくは5−40重量%含有しうる。
【0050】
食品(本用語は動物飼料を含む)は脂肪相を含有していてよく、ここで脂肪相は本発明の食用油を含有する。適切な食品の例には、マーガリン、脂肪コンティニュアス(脂肪相)又は水コンティニュアス(水相)又はビスコンティニュアス(二相)スプレッド、低脂肪スプレッド、菓子製品、例えばチョコレート又はチョコレートコーティング又はチョコレートフィリング又はベーカリーフィリング、アイスクリーム、アイスクリームコーティング、アイスクリーム包含物、ドレッシング、マヨネーズ、チーズ、クリーム、クリーム代替物、ドライスープ、ソース、飲み物、シリアルバー、ソース、スナックバー、乳製品、ベーカリー製品、臨床栄養食品、及び乳児食又は乳児用処方物からなる群から選択されるものが含まれる。
【0051】
医薬品には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル、カプレット、マルチ微粒子(multiparticulates)、顆粒、ビーズ、ペレット及びマクロ-カプセル化粒子;パウダー、エリキシル、シロップ、懸濁液及び溶液の形態の薬学的組成物が含まれる。薬学的組成物は、好ましくは薬学的に許容可能な希釈剤又は担体を含有する。薬学的組成物は、好ましくは非経口(又は経口)投与に適している。経口投与用組成物は固体状又は液状の形態であってよく、錠剤、パウダー、懸濁液又はシロップの形態をとることができる。場合によっては、組成物は、一又は複数の調味料及び/又は着色料を含有する。このような組成物における使用に適した製薬的に許容可能な担体は、薬学の分野でよく知られている。組成物は一般的に単位用量形態に調製される。好ましい単位用量は1mg〜1000mg(より好ましくは、100mg〜750mg)である。これらの組成物の調製に使用される賦形剤には、当該技術分野で知られている賦形剤を含めることができる。
【0052】
本発明は、次の非限定的実施例を参照して以下に記載される。実施例において、またこの明細書を通して、全てのパーセンテージ、部及び比は、特に示さない限りは、重量基準である。
【実施例】
【0053】
実施例において、アニシジン値(AV)は、AOCS, Cd 18-90, p-Anisidine Value, 1997に従って決定される。過酸化物価(PV)は、AOCS; Cd 8b-90; Peroxide value; 1997に従って決定される。
【0054】
実施例1
シリカとリジンを別々に添加することによる油の処理
この実施例では、AV22.6を有する未精製魚油のAV低減に対してリジンブロス(飼料等級で、50%のL-リジンを含有)(味の素)とトリシルシリカ(Grace)を別々に添加した効果を研究した。
100gの油を70℃まで加熱し、リジンブロスと混合した。20分後、トリシルを添加し、さらに混合した。再度20分後、減圧下(約100mbar)で混合物を30分乾燥させた。終了時にサンプルを取り出し、1μmのミリポアフィルターを通して濾過した。サンプルをAV及びPVについて分析した。結果を表1にまとめる。
*ブロスとして添加、量は純粋なリジンをベースに算出
【0055】
実施例2(比較例)
リジンがプレコートされたシリカの調製
この実施例においては、リジンブロスをシリカにコーティングした。14.25gのリジンブロスを110mlの脱塩水に添加した。この溶液に、100gのトリシルを添加し、40℃で攪拌した。15分後、減圧下70℃で水を除去した。
使用したトリシルは約50%の水分を含んでいる。完全に乾燥させた後、シリカ上にプレコートされたリジンブロスは13%のリジンを含んでいる。
【0056】
実施例3(比較例)
リジンがプレコートされたシリカを使用しての油の処理
プレコートリジン(実施例2に従い生成)を、AV22.6を有する未精製魚油のAV低減に使用した。
100gの油を70℃まで加熱し、プレコートされたリジンと30分混合した。30分後、サンプルを取り出し、1μmのミリポアフィルターを通して濾過した。サンプルをAV及びPVについて分析した。結果を表2にまとめる。
*ブロスとして添加、量は純粋なリジンをベースに算出
【0057】
実施例4(比較例)
リジンでの油の処理
この実験においては、液状のリジンブロスを、未精製魚油のAV低下に使用した。
100gの油を70℃まで加熱し、0.4gのリジンブロスと混合した。30分後、サンプルを取り出し、遠心分離(4500rpmで5分)により油相を分離させた。油相を1μmのミリポアフィルターを通して濾過した。サンプルをAV及びPVについて分析した。結果を表3にまとめる。
この実験で取り出された油は、トリシルシリカを用いた比較実験(実施例1)よりも、かなり暗色であった。
*ブロスとして添加、量は純粋なリジンをベースに算出
【0058】
実施例5
精製魚油の処理
2kgの精製魚油(中和され、漂白され及び脱臭されたもの)を、N
2下、70℃まで加熱した。ついで、その油を以下のa又はbに従って処理した:
a. 0.2%のリジンブロス(味の素)を添加し、100rpmで混合した。これは0.1%のリジンを送達する。20分後、混合物を、減圧下(100mbar)で10分乾燥させた。ついで、1.4%のトリシルと0.5%のハイフロー(Hiflow)フィルターエイドを添加し、また100rpmで20分混合した。その混合物を再び減圧下(100mbar)で30分乾燥させた。最後に、混合物を濾過した。
b. 未処理
処理後、温度を80℃まで上昇させ、サンプルを、1%のトンシル(Tonsil)215FF漂白土、及び0.5%のハイフローフィルターエイドを用い、大気圧で30分、100mbar(100rpm)で15分漂白した。漂白後、サンプルを濾過し、195℃で2時間脱臭した。サンプルをAVについて分析した。結果を表4にまとめる。
【0059】
実施例6
処理された油の味覚試験
訓練された味覚パネルを使用し、ミルクに実施例5で生成された製品が入ったものの味見をした。
4gの油を196gのスキムミルクと50℃で混合し、ウルトラトゥラックス(Ultraturrax)を使用して約2分攪拌した。2分後、混合物を200/50バールで2段階ホモジナイザー(Niro Soavi, type NS1001L2K)を用いてホモジナイズした。
40gのこのエマルションを、味見の約30分前に、160gのスキンミルク(10−15℃)と混合した。訓練されたパネルは、数種の特性について、JARスケール(Just About Right scale)でエマルションのミルクサンプルを評価した。スケールは0−100で付けられ;50は試験サンプルがだいたい丁度適度であり、よって参照サンプル(スキンミルク)と等しいことを示し;100はあまりに特性が多すぎることを示し;0は特性がほとんどないことを示す。
結果を表5にまとめる。
【0060】
実施例7
コンジュゲートしたリノール酸(CLA)の処理
2kgの未精製CLA(Clarinol G80, Lipid Nutrition, Wormerveer, NL)を、N
2下、70℃まで加熱した。ついで、その油を以下のa又はbに従って処理した:
a. 0.4%のリジンブロス(味の素)を添加し、100rpmで混合した。これは0.2%のリジンを送達する。20分後、混合物を、減圧下(100mbar)で10分乾燥させた。ついで、2.8%のトリシル(56g)と0.5%のハイフローフィルターエイド(10g)を添加し、また100rpmで20分混合した。その混合物を再び減圧下(100mbar)で30分乾燥させた。最後に、混合物を濾過した。
b. 未処理
処理後、温度を80℃まで上昇させ、酸化防止剤混合物(0.4%)を添加した。ついで、サンプルを、1%のトンシル(Tonsil)215FF漂白土、0.5%のトリシル、及び0.5%のハイフローフィルターエイドを用い、大気圧で15分間、及び100mbar(100rpm)で15分間、漂白した。漂白後、サンプルを濾過し、135℃で2.5時間脱臭した。サンプルをAV及びPVについて分析した。結果を表6にまとめる。
【0061】
実施例8
処理されたCLAの味覚試験
訓練された味覚パネルを使用し、実施例7で製造された製品の味見をした。
このために、油を約50℃まで加熱し、パネルが味見した。訓練されたパネルは、数種の特性について、JARスケール(Just About Right scale)でサンプルを評価した。スケールは0−100で付けられ;50は試験サンプルがだいたい丁度適度であり、よって参照サンプル(臭みと味のない油)と等しいことを示し;100はあまりに特性が多すぎることを示し;0は特性がほとんどないことを示す。結果を表7にまとめる。
【0062】
実施例9(比較例)
AVに対するシリカ単独の効果
未精製魚油での実験では、トリシルが、油の重量で添加されたシリカ1%当たり、油のAVを約1.2のAV単位だけ油のAVを低下させることが示された。よって、単独で使用されるシリカのAVに対する効果は最小である。