(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態は、酵素を使用しない、または、酵素の使用量を減じた細胞生成物の単離方法を提供する。この方法は、確実で、信頼性が高く、酵素消化を用いる方法よりも毒性が低い。実施形態は、移植資源として有用な機能的完全性を保有する、最適量の所望の細胞を得ることができる方法を提供する。
【0012】
本願明細書において開示される方法の実施形態は、必要な細胞と不要な細胞とが、異なる凍結反応性を有するか、異なる凍結反応性を有するように前処理することが可能である限り、治療及び研究に使用されるいかなる細胞生成物の単離にも使用することができる。このような方法により、凍結した組織を、凍結状態で保存して、輸送して、所望の細胞を虚血性傷害の影響を受けにくい状態で、無傷でエンドユーザーに供給することができる。
【0013】
実施形態において、細胞生成物は、
破壊性凍結が起こりにくい必要な細胞と、
破壊性凍結が起こりやすい不要な細胞とを有する組織の提供により単離される。組織は、先天的に多様な凍結反応性を有していてもよく、その場合、
破壊性凍結の際に一部の細胞が
破壊されるが、残りの細胞は
保護される。例えば、組織が多様な凍結時核形成温度を有する細胞を含んでいてもよく、必要な細胞が、不要な細胞より低い凝固点を有するようにしてもよい。
【0014】
実施形態において、細胞生成物は、必要な細胞で
破壊性凍結が起こりにくく、不要な細胞で
破壊性凍結が起こりやすいように、組織の前処理をする工程を用いて単離される。例えば、必要な細胞に
凍結保護剤(CPA)を注入して、
破壊性凍結が起こりにくくなるようにしてもよく、また、不要な細胞にCPAを含まない溶液を注入することで、より
破壊性凍結を起こしやすくしてもよい。その後、組織が凍結され、バラバラに分散することで、必要な細胞が不要な細胞物質から分離され、細胞生成物を得ることができる。組織を加温し、必要な細胞を不要な細胞から分離することで、必要な細胞を有する細胞生成物を得ることができる。
【0015】
実施形態において、
凍結保護は、必要な細胞を選択的に保存して、不要な細胞を破壊するために用いる。
凍結保護工程は、結合熱及び物質移動を組み合わせた工程であり、一般に非平衡状態で行われる。細胞または組織の単純な凍結を行うと、一般に、細胞または組織は、死んで機能しなくなってしまう。
【0016】
低速冷却の間、細胞外環境で氷が形成され始めるにつれて、水は細胞及び組織から除去される。細胞の外側の水が氷へと変化する状態変化によって、浸透圧の不均衡が生じ、これにより細胞内の水が細胞外領域に浸出し、細胞外で凍結して氷となる。水の減少は、膜内外の水の拡散がごく少量となる温度に到達するまで続く。細胞からの水の減少量は、細胞外の氷形成より後の冷却速度に依存する。低速での冷却は、細胞外間隙への細胞水の浸出を長引かせるため、細胞脱水量をより多くする。過剰に脱水を行うと、液相からの水の除去により生じる中毒域に上昇した電解質濃度への露出、及び過剰な細胞の収縮による膜の傷害、とを含む「溶液効果」として分類される一連の細胞傷害機構が引き起こされ得る。
【0017】
急速な冷却の間、水の膜透過性が温度の低下に伴って急速に減少するため、水浸出の期間は短くなる。水は細胞内に閉じ込められ、細胞質は過冷し始め、水の増量による熱力学的不均衡が生じる。
【0018】
最後に、細胞内の水は、細胞外溶液と熱力学的に平衡となり、細胞内の水が氷に変化する、という状態変化が生じる。細胞内での広範囲の氷の形成は、一様に致命的な細胞傷害につながる。
【0019】
ほとんどの種類の細胞には、最大細胞生存率に至る最適な冷却速度が存在する。これらの冷却速度は、「溶液効果」による細胞傷害に至るような過剰な水分減少を生じることなく、細胞内の氷の形成を防ぐのに十分な細胞の脱水を可能とする。
【0020】
細胞の
凍結保護状態からの加温は、温度が
凍結レベルから溶液の融点まで上がるときに生じる、小さな氷粒からの氷の再結晶化を防止するために、通常は最大限の加温速度で実施される。再加温の間の再結晶化は、細胞に悪影響を及ぼし、細胞の生存率を低くしてしまうが、その傷害のメカニズムは完全には分かっていない。しかしながら、一般的に、細胞を急速に加温して、再結晶化が起こりやすい条件を通過してしまえば、生存度は大きくなる。
【0021】
生物学的材料の凍結融解におけるCPAの使用は公知である。多種多様なCPAが使用されるが、DMSOが最も広く使用されている。このような化学物質は、通常2つの分類に分けられる:(1)低分子量の細胞内CPA、細胞内に浸透する、(2)比較的高分子量の細胞外CPA(342ダルトンのショ糖分子量以上)、細胞内に浸透しない。浸透性CPAを使用した主な保護方法は、細胞内の水分をCPAに置換することである。細胞内の水分の規則的な除去は、致死的な細胞内の氷の形成を防止するためには必須である。
【0022】
凍結組織は、その凍結工程において、細胞外にかなりの氷が形成されるが、良好な細胞生存率を示す。通常の組織病理学方法では、解凍した後の氷を検出することはできないが、凍結置換技術は、組織内の氷の位置を示すことが可能である。これらの技術の使用により、細胞外物質の顕著な歪みや傷害を明らかにできる。凍結による傷害の範囲は、系内の自由な水(free water)の量と、凍結工程におけるその水の結晶化能による。
【0023】
例示の必要上、以下の説明は、特に膵島の分離に関する実施形態を開示する。しかしながら、当業者は、他の実施形態が膵臓細胞に限定されないものと理解するであろう。
【0024】
実施形態において、方法は、
図1A、
図1B及び
図1Cに示すように、膵島組織16が
破壊性凍結を受けにくく、腺房組織18が
破壊性凍結を受けやすいように、膵臓10を前処理する工程を有する。膵臓10は複数条件の潅流によって、膵島組織16が保存され、腺房組織18が最大限に破壊されるよう前処理される。例えば、膵島組織16には、腹腔動脈12及び上腸間膜動脈14を通るような、脈管系を通して、CPAを含む
凍結保護剤溶液が注入される。膵島組織16の十分な平衡化の後、腺房組織18に膵管20を通して水性溶液が注入される。
【0025】
実施形態において、膵臓の前処理は、膵島
組織が膵腺内で平衡化されるよう制御された条件下で行われるのが好ましい。例えば、脈管注入は約2℃〜約35°Cまでの温度で行うことができる。さらに、潅流は、CPAの浸透を伴い、膵島細胞が十分に平衡化される程度に維持されなくてはならないが、腺全体が平衡化されないようにしなくてはならない。潅流は、例えば約20分〜約70分間、例えば約25分〜約35分、また、例えば約30分維持され得る。この工程は、十分なCPAを膵島組織に到達させ、続く膵臓の凍結工程における凍結傷害から膵島組織を保護するために実施される。
【0026】
実施形態において、
凍結保護剤溶液は、生物学的緩衝培地のような水性溶液にCPAを含有させてもよい。CPAは、例えば、DMSO、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ショ糖及びトレハロースからなる群より選択することができる。DMSOはグリセロールより良好なCPAであることが判明しており、約0.5〜3.0モル濃度のCPAが、低冷却速度で凍結される生物学的系の細胞傷害を最小化させる際に、多くの場合、特に効果的である。
【0027】
実施形態において、腺房組織に、水または等張性食塩水のような水性溶液を注入することができる。膵管への水性溶液の逆流的な注入は、上記の膵島組織への脈管注入の終了後、すぐに開始可能である。この工程は、腺房細胞を水性溶液に含浸させ、冷却及び凍結工程時の非
凍結保護性腺房細胞における広範囲の破壊性の氷の形成を促進するために実施される。
【0028】
膵房組織への注入は、凍結時の広範囲の氷形成が促進されるように、膵腺が水性溶液に含浸されるまで、例えば、腺が目にみえて膨張するまで、制御条件下で好適に継続される。例えば、約300〜約400mLの水または等張性食塩水を、圧力制御系で、約100〜約120mmHgの圧力下で、約5から約10分間で注入してもよい。
【0029】
実施形態において、次の方法は、膵臓の凍結工程を有する。膵臓は、凍結するまで零下温度まで冷却される。この工程は、続く
凍結保護性の膵島組織を切り離す膵腺分散工程のために、非保護組織における氷の形成を最大限として、組織破壊を促進するために実施される。
【0030】
実施形態において、膵臓は、約−10℃〜約−200℃、例えば約−40℃〜約−170℃、または約−80℃〜約−130℃の温度まで冷却されて凍結され、膵臓凍結工程は、約1℃/分〜約20℃/分、例えば約6℃/分〜約15℃/分の冷却速度で実施される。実施形態において、冷却速度は、約0.5℃/分〜約5℃/分であってもよい。
【0031】
膵臓加温工程における急速な加温速度と前記の膵臓凍結速度とを組み合わせることで、機能的な膵島組織の復活に最適な条件を提供することができる。
図1Aに示す実施形態において、膵島が2モルのDMSOで完全に、または部分的に平衡化され、後に急速加温された場合、11℃/分の凍結速度では、50%超の膵島機能生存率が示された。さらに、
図1Aは、凍結速度を1℃/分まで下げ、加温速度を速くした場合、生存率が約80%まで増加し得ることを示している。
図1Bは、低速加温は、膵島のCPAでの平衡化が完全であったか部分的であったかにかかわらず、模範的に低速凍結された膵島を害する(約20%生存率)ことを示している。実施形態において、膵臓の加温は、浸透緩衝液のような加温培地の直接浸漬によりなされ得る。
【0032】
熱交換が、低速凍結と高速加温の組み合わせとして最適化される場合、CPAでの平衡化の程度は決定的な問題にはならないと理解される。これは、組織内(in situ)での完全平衡化のための条件が、外分泌性細胞へのCPA浸透を最小限にするために必要な条件に基づいて決定しづらいことから、有益な理解である。
【0033】
実施形態において、膵臓凍結に液体窒素供給系を使用することができる。膵臓の破砕を促進するために、湯浴中に浸漬された圧縮空気熱交換機を搭載した容積加温を、液体窒素凍結と組み合わせて使用することができる。これにより、組織から腺を取り外すことなく、腺を解凍することができる。加温中に腺は破砕される。
【0034】
実施形態において、
凍結保護性の膵島をバラバラに分散した組織から切り離す際において、凍結と破砕が完全には効果的でない場合は、追加的に低用量の消化酵素を、最終的な結合組織の分散を補助するために有利に使用できる。低温条件下で凍結膵臓を瞬時的に剥脱させた方が有益な場合には、プローブを瞬時的に加熱して、プローブの周囲の
膵臓の薄層のみを瞬時的に解凍し、プローブの膵臓への吸着等を減じてもよい。
【0035】
実施形態において、膵臓はバラバラに分散し、破壊された腺房組織から
凍結保護性の膵島組織が切り離される。膵臓が凍結している間、または膵臓が加温されている間に、膵臓はバラバラに分散される。実施形態において、分散は、機械的なストレス、多様な膨張から起こる熱−機械的ストレス、急な温度勾配によって起こる熱−機械的ストレス、及び凍結による体積変化によって起こる熱―機械的ストレス、またはこれらの組み合わせによって生じる。
【0036】
熱−機械的ストレスは、凍結時に収縮するという物質の傾向により生じ、下記の3つの効果によって引き起こされる:上記の凍結時の体積変化、急な温度勾配、構成物質毎の異なる膨張。実際には、上記の効果の2つ以上が一緒に作用している。これらの効果が実施形態の破砕を引き起こすためにどのように作用するかは、下記の通りである。
【0037】
急峻な温度勾配の効果:大部分の物質は、温度の減少と共に収縮する傾向がある(水の状態変化における変則的な挙動は例外である)。温度勾配が生じる時、互いに隣接した物質層は、それぞれ異なる温度で収縮する傾向がある。隣接する層のそれぞれに収縮が起こるとき、機械的な緊張が生じ、これにより物質内にストレスが生じる。温度勾配が凍結した物質の強度を超えるほどのストレスを引き起こすとき、破砕が生じる。
【0038】
熱膨張差の効果:温度が組織全体を通して均一であるが、組織全体において温度の経時変化があるとき、異なる物質は異なる度合いで収縮する傾向があるため、これにより破砕が生じる。
【0039】
実施形態において、前処理後、凍結された膵臓には2つの主要な領域がある:等張性溶液で満たされた領域、及びCPAで満たされた領域である。膵臓の形態学的特性より、多くの小さなCPA領域は、大きな等張性溶液領域中に内包される。さらに、膵島表面や、結合組織と他の腺成分との境のような物質の不連続性により、多様な熱膨張及び熱収縮による構造的な傷害を助長する。固体状態−組織全体が極端に低温化した状態−では、物質の不連続性は、破砕の進行にほとんど影響を及ぼさない。
【0040】
しかしながら、中程度の凍結温度においても、膵島に対する破砕は生じにくい。膵島は、CPAの存在により部分的に粘性物質のような挙動を示すためである。温度の低下により、ガラス化したCPAの粘性は指数的に増加するが、ガラス転移温度より約10℃高い温度までは、どの実際的時間尺度においてもCPAは流体または液体のような挙動を示す。本文中の中程度の凍結温度の範囲とは、純水の凝固点(0℃)を上限、CPAのガラス転移温度(DMSOでは約-123℃)を下限として制限される。例えば、CPAの温度収縮は、純水のそれより3倍高くすることができ、これによりストレスの分配、それによる膵島周辺の破砕パターンを生じやすくすることができる。
【0041】
他の実施形態において、膵臓の分散を、
凍結組織を機械的に破断させることによって行ってもよい。これは、例えば2つの段階を経て実施できる。第1の段階は、例えばハンマーやのみを用いて、
凍結された膵臓を物理的に破断して小片にすることである。第2の段階は、例えば電気的氷圧搾機やブレンダーを用いて、温水または等張性培地に浸漬した凍結組織小片を破砕することである。これは、機械的な組織破砕と同時に、急速加温及び
凍結保護剤の希釈をも実現するものである。
【0042】
実施形態における方法は
、不要な膵臓物質から膵島を切り離す工程を更に有する。膵島組織の分離は、例えば、ろ過、密度勾配分離、組織培養、またはこれらの組み合わせによって行われる。ろ過は、ステンレス鋼メッシュ(茶こし)のようなろ過器具を用いて行われる。分離は、プロテアーゼ阻害剤(例えばPEFABLOC(登録商標))及びデオキシリボヌクレアーゼ(例えばPULMOZYMER(登録商標))を含む培地を用いてろ過された膵臓を洗う工程を包含し、傷害性を有する内因性プロテアーゼ、及び溶解した外分泌組織由来のDNAを取り除く。実施形態において、ろ過された膵臓をジチゾンのような膵島を識別するための指示薬で染色し、顕微鏡下で、完全体の膵島組織の存在の有無を観察する。
【0043】
分離された膵島組織は、腺房組織から完全に切り離すことはできず、また、全ての膵島組織が完全体で存在するわけではない。例えば、膵島組織は、拡散した構造、または遊離した構造を有するため、加温時に膵臓を水溶性培地に直接浸漬することで、浸透ショックの影響を受け得る。実施形態において、このような問題は、膵臓の解凍中または解凍後にCPAを溶出する際に、浸透圧緩衝剤を使用することで回避し得る。実施形態において、浸透圧緩衝技術を利用することにより、膵島組織の構造を保護し、浸透CPAの溶出時に、浸透性の膨張及び溶解を最小限とすることができる。対照的に、腺房細胞はCPA浸透により保護されていないので、浸透圧緩衝は、腺房細胞の同時発生的な破壊及び溶解には影響を与えない。
【0044】
実施形態において、膵島組織をさらに十分に純粋な状態で取り出すために、上記の凍結単離方法が、膵島組織を精製するための軽度の酵素消化と組み合わせて行われる。別の方法として、「精製」手段としての組織培養を使用することができる。凍結単離工程により傷害された余剰の腺房組織は死滅しており、培養液中で分解するからである。
【0045】
以下に実施例を示す。実施例は、実施形態の実行において利用可能な、多様な構成及び条件を例示する。全ての比率は、特に明記しない限り重量比である。開示する内容が、多種の組成物によって実行され得ること、及び上記の開示や下記の要点に従って、異なる使用を包含し得ることは明らかである。例えば、ブタ膵臓は当業者に認識された人間の膵臓のモデルであるので、これらの実施例は人間の膵島を単離することにも適用できるとして、当業者に認識され得る。
【0046】
ブタ膵臓は、少なくとも以下の理由により、有用なモデルである:(1)ブタ膵臓は、限界温度及び質量転移パラメータの適切なモデルを提供する、(2)ブタ膵臓は大きな動物のモデルである、(3)ブタは、将来の臨床異種移植のための最も有用な資源と考えられる、そして、(4)ブタ膵臓は、外科的に2つの独立した潅流可能な葉に分割可能であるため、1つの膵臓を使用して、動物間/組織間多様性の影響を受けずに比較試験を行うことができる。
【実施例】
【0047】
実施例1:ブタ膵臓の全組織の外科的準備と潅流葉の分割
【0048】
組織保存溶液での低温洗浄の後、膵臓十二指腸動脈の上下流を保護するために、膵頭部周辺に十二指腸部分が付いた状態で膵臓をドナーから取り除く。潅流の準備の間、膵臓を氷上で低温に保つ。胆管及び膵管開口部は、前記十二指腸部分の一部として存在する。脾臓側の脾静脈及び脾動脈を、脾臓を剥離する前に結さつする。長さ5〜7cmの大動脈部分を膵臓に付けたままにしておき、後で膵臓全体の潅流を行う際に挿管に使用する。前記大動脈部分は、上腸間膜動脈(SMA)及び腹腔動脈(CT)の開口部を有する。膵臓の胃十二指腸及び肝臓側の辺縁上の露出した動脈の分岐を、細心に識別して結さつする。腺の全体にわたって単一の潅流を可能とし、門脈のみから排液させるようにするためである。全ての早期の膵管分岐を保持するために、膵管の十二指腸側の開口を使用して挿管を行うことで、続く腺消化及び膵島の単離のための組織膨張を良好に実施できる。
【0049】
膵臓全体の潅流のために、SMA及びCT開口部を含む大動脈部分から切り取られた大動脈片にシールリングカニューレ(ORS、Des Plaines社、イリノイ州)を取り付ける。このとき、2つの管の内腔を阻害しないようにする。この挿管により、膵臓と潅流システムとの間に閉ざされた流れのつながりが生じる。大動脈片カニューレはポンプの注入ポートに取り付ける。
【0050】
小葉潅流のために、膵臓を、頭葉及び尾葉に慎重に分割する。膵臓を、腹腔動脈の位置及びSMAの近傍で、SMAが尾葉側に残るように2つに切り分ける。尾葉について、潅流のために腹腔動脈由来の脾動脈に連続的に挿管を行う。ブタドナーの解剖学的形状に基づき必要がある場合、尾部下側の潅流を促進するために、第2のカニューレを上腸間膜動脈に配置してもよい。頭葉(「c」形状)潅流のために、胃十二指腸及び/または肝臓の動脈に、潅流のために連続的に挿管する。頭葉の潅流の間、十二指腸は組織についたままにしておく。潅流の間、門脈は、適切な排水を行うために2つの葉の間で均等に分割する。2つの葉に連続的な挿管に使用される2つのカニューレを、ポンプ注入ポートに直接接続する。
【0051】
以下、ブタ膵島の凍結単離の実行のために、選択できる条件について説明する。
【0052】
膵島の
凍結保護のために広く使用される、2モルのDMSOをCPAとして使用する。CPAの脈管注入時においては、腹腔/SMAを、シールリングカニューレとペリスタポンプを用いて、4℃〜7℃の温度で30分間潅流させる。水の膵管注入時においては、膵臓が目にみえて膨張するまで、注射器を使用して膵管を通して膵臓に水を注射する。凍結工程の間、膵臓は、熱電対を埋め込んだ状態で、−196℃で沸騰する液体窒素の表面より上方に固定されたステンレス鋼トレイの上に置く。ステンレス鋼トレイは、大きな表面積を有し、フィルターを通らなかった大きな腺を冷やすのに必要な熱伝導性を有するものとする。膵臓組織の粉砕時に関して、凍結した組織を直接温かい培地に浸漬することで熱ショックを起こさせ、組織を破断する。または、温かい培地を入れた電動氷粉砕機において、機械的に組織を切断する。この方法によれば、急速な加温と希釈が促進される。
【0053】
上記の条件下で実施される膵島の凍結単離は、冷却速度を11℃/分、凍結膵臓の最終温度を−160℃未満とする。固体状の凍結した腺を、2つの異なる分散及び加温工程に供するため、2つのモードに分ける。第1のモードでは、熱電対を有する凍結片を直接温かい(30℃)組織培養培地に浸漬させる。これにより、12℃/分の加温速度が得られるが、目に見えて顕著な破砕は見られない。したがって、この種の加温は、組織を破砕して微小な膵島含有片とするのに要する広範な熱破砕を奏しにくい、と判断された。
【0054】
分散及び加温の第2のモードは、凍結組織の機械的破断を2段階で行う工程を有する。第1段階では、凍結した膵臓を、ハンマーやノミを用いて物理的に小片に分割する。第2段階では、凍結小片を温かい培地に浸漬し、物理的に粉砕する。
【0055】
上記の結果より、周囲の腺房組織の破壊を促進するとともに、完全な膵島の組織内(in situ)
凍結保護を可能とする、単一の膵臓に適用可能な多様な凍結条件の概念が示された。
【0056】
実施例2:膵臓の
凍結破壊の間、膵島を組織内(in situ)で選択的に保護し、腺を破砕して生存する膵島を切り離すために多条件凍結技術を使用する。特に、最初に生体外(ex vivo)の膵臓を外科的に準備し、血管及び膵管の挿管に供する。動物個体間差を生じないため、また実験に要するブタの数を限定するため、葉を分割する方法を使用する。この方法においては、ブタ膵臓は、下記のように頭部と尾部とで、それぞれ独立した潅流ができるように、外科的に準備される。比較例群(従来の酵素法)及び実施例群(凍結単離)として、それぞれ6サンプルについて試験を行った。
【0057】
膵臓を4℃〜7℃の温度まで冷却し、CPA/ユニゾール混合液で10mmHgの圧力下で30分間潅流させる。独立した膵島が平衡化のための浸透の単位であり、そのため、早期の平衡化(約60分未満)が期待できる。膵臓実質に、膵管のフラッシングにより、圧力制御系で100-120mm Hgの圧力下、5〜10分間、300〜400mlの蒸留水または食塩水を注入する。膵島を保護しつつ、膵臓凍結の効果を奏するように、膵臓をただちに−40℃、または−140℃未満まで、冷却速度1〜10℃/分で冷却して凍結する。凍結組織を機械的に小片に分割し、組織混合機(ミキサー)に導入する(この段階では組織は凍ったままとする)。組織混合機において、ショ糖培地中で組織の解凍及び切断を同時に行う。次に、生成物を茶こしのようなステンレス鋼メッシュを通してろ過する。この段階では、破壊されなかった外分泌組織片の大きなものと、繊維質を取り除く。次に、生成物をPEFABLOC(登録商標)及びPULMOZYME(登録商標)を含む培地で洗浄混合し、傷害性を有する内因性プロテアーゼ、及び溶解した外分泌組織由来のDNAを取り除く。生成物は、膵島を外分泌腺溶解物から精製するために、徐々に精製及び/または培養する。
【0058】
凍結単離の効率は、多凝固点凍結工程により形成された膵島及び膵臓片のサイズ分布に基づいて評価される。これは、膵島を内包した状態で、もしくは完全に分割された状態(膵島は遊離している)及び部分的に分割された状態(膵島は表面に存在している)で、形成された膵臓片をジチゾン染色を用いて評価する工程を有する。この基準による凍結単離技術の相対的な効率は、従前の方法で単離されたブタ膵臓由来の従来のコントロールからのデータとともに、コントロールを用いた従来のコラゲナーゼ(LIBERASE(Roche社)またはServa社もしくはVitaCyte社のコラゲナーゼ)技術を開示することで評価される。
【0059】
実施形態において、単離されて精製された膵島組織を評価する技術は、膵島の定量、膵島生存度、及び、ブドウ糖により促進されるインスリン分泌の分析による機能的な生存度評価を有する。
【0060】
膵島定量:膵島単離及び精製のための手順の後、解剖顕微鏡の接眼レンズの計数グラチクルを用いて膵島の総数を計測し、相当膵島数単位、すなわち「islet equivalent単位」(以下、「IE単位」と記載)に変換した。膵島をジチゾンで染色し、計数し、IE単位に変換した。計数は二重で行い、コンピューター化されたセルカウンター(IMAGEPRO(登録商標)ソフトウェア)を用いた計数値との比較を行った。調製された膵島の精製度を、ジチゾン染色した組織と染色していない組織とを比較することで評価した。
【0061】
膵島生存度:膵島生存度を評価するために、2つの主要な分析を用いる;アクリジンンオレンジ/ヨウ化プロピジウム(AO/PI)に基づく生/死染色またはサイトグリーン/エチジウムブロミド蛍光膜完全性試験、及びalamarBlue(登録商標)に基づく代謝分析である。AO/PI分析では、膵島完全性の半定量的な測定を行う。対照的に、alamarBlue(登録商標)分析は、生体外での細胞非侵襲性の膵島生存度の定量的測定法である。試薬に毒性がないため、試験に使用した膵島は、次の試験にも使用することができる。
【0062】
膵島機能及び構造の生体外評価:組織完全性及び細胞死(ネクローシス)の形態的な評価は、酸化性ストレス試験(グルタチオンレベル)及びエネルギー試験(ATP分析)に加え、HE染色、電子顕微検査、及びアポトーシス(TUNEL分析)を有する。従来の技術を用いて、インシュリン含有量及び促進分泌量の試験を行う。
【0063】
実施例3:この実施例は、凍結単離技術に対する、濃度を減少させたコラゲナーゼを使用した酵素消化工程の相補的な実施を開示する。これは、酵素を全く使用しない膵島の凍結単離によっては、膵島組織を膵臓からきれいに切り離すことができず、実施例においては、軽度の酵素消化と凍結単離との組み合わせによって、より良質の生成物を得ることができたためである。したがって、腺の凍結前に、低用量のコラゲナーゼ(LIBERASE(Roche社)またはServa社もしくはVitaCyte社のコラゲナーゼ)を管潅流液に組み合わせる方法が必要となる。再加温工程における膵島切り離しの効果を測定するため、通常の濃度(1.4mg/mL)の半量(0.7mg/mL)及び1/10量(0.14 mg/mL)を用いた多重試験を行う。膵島収率と、前述した遊離する膵島、表面に位置する膵島、内包された膵島の比率との比較により、試験結果を評価する。下記の表1に示すように、全部で9匹のブタを用いて、各グループについてN=6のグループ内比較試験を行った。
【表1】
【0064】
表1に記載されている実験系によって、膵臓の頭部及び尾部が各グループに等しく分布させて割り当てることができる。膵島の収率及び分離指標の評価は、再加温の直後に行われ、37℃、24時間のインキュベーションの後、再度行われる。
【0065】
コラゲナーゼ消化技術
【0066】
LIBERASE(登録商標)のような消化酵素を含む溶液によって膵臓を膨張させる。LIBERASE(登録商標)(1.4mg/mL)を含む無血清溶液を、膵管から注入する。この点で、膵臓には外部組織は存在しないものとする。次に、膨潤させた膵臓を小片に切り分け、Ricordi槽のような450mLのステンレス鋼槽に置く。Ricordi槽は、7つの中空ステンレス球(Biorep Technologies, Inc., マイアミ州)と500ミクロン孔のスチールメッシュが内部に装填されている。試験系全体を、熱交換器を経由する管を通じて、ハンクス緩衝塩類溶液(HBSS)で満たす。次に、消化温度を35±2℃まで上げる。次に、200mL/分の速度で溶液を再循環させ、消化槽は、振幅1.8cmで毎分300回の速度で振とうさせる。サンプルをジチゾンで染色し、消化工程の進行度合を測定するために、顕微鏡下で観察する。十分な消化が起こったら、消化槽を新しい冷たいHBSSで洗浄し、遠心分離チューブに膵島溶液を回収する。チューブを、ウシ胎児血清または余剰のカルシウム及びマグネシウムの存在下で、4℃、55gで2分間遠心分離して、酵素消化工程を停止させる。上清を取り除き、外分泌系及び内分泌系の両方の組織からなる組織ペレットを冷たいHBSSで洗浄し、次いで分離のために回収する。フィコール/ユーロコリンズ溶液とCOBE(登録商標)2991のような遠心分離を用いた密度勾配遠心分離により、膵島を精製する。COBE(登録商標)2991は、Roche社製品であり、連続密度勾配分離を可能とする。この場合、Cobeの液圧試験を初めに実行する。次にチューブを、バルブを通って、ダイアフラムから鋼鉄加重蓋の後部に至るように、全てのラインに対して配置する。所望のフィコール勾配を、ユーロコリンズ溶液で調製する。膵臓消化ペレットを、第1の勾配溶液(1.108)内で懸濁し、遠心分離機にポンプで送る(200mL/分、3分間)。溶液の導入が終わったら、遠心分離機を脱気する。続いて、遠心分離速度とポンプ速度を設定し(それぞれ1000 rpm、50 mL/分)、回転工程を開始する。所望の速度に到達したら、2つの異なる勾配溶液(1.096と1.037)を引き続きポンプで送りこむ。容積50mLのHBSSが送り込まれた後、液体がロータリーシールに到達するまで、余剰の圧力を抜く。遠心分離機は5分間室温で回転させる。遠心分離分画を取り除き、膵島の純度を(ジチゾンを用いて)検査する。分画を2回洗浄し(1200 rpmで2分間回転)、上清を取り除き、細胞を培地内で再懸濁する。ついで、膵島の収率を定量する。