特許第5851246号(P5851246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5851246臓器不全の発生リスクが上昇した重篤患者を識別する方法およびその治療のための化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5851246
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】臓器不全の発生リスクが上昇した重篤患者を識別する方法およびその治療のための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20160114BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160114BHJP
   A61K 31/4465 20060101ALI20160114BHJP
   A61K 31/5578 20060101ALI20160114BHJP
   A61K 31/5585 20060101ALI20160114BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20160114BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20160114BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20160114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   A61K39/395 NZNA
   A61K37/02
   A61K31/4465
   A61K31/5578
   A61K31/5585
   A61K31/192
   A61K31/343
   A61P7/04
   A61P43/00 105
【請求項の数】11
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2011-543978(P2011-543978)
(86)(22)【出願日】2009年12月30日
(65)【公表番号】特表2012-514014(P2012-514014A)
(43)【公表日】2012年6月21日
(86)【国際出願番号】DK2009050357
(87)【国際公開番号】WO2010075861
(87)【国際公開日】20100708
【審査請求日】2012年12月21日
(31)【優先権主張番号】PA200801844
(32)【優先日】2008年12月30日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】61/161,487
(32)【優先日】2009年3月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510201735
【氏名又は名称】リグスホスピタル
【氏名又は名称原語表記】RIGSHOSPITALET
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン,ペール
(72)【発明者】
【氏名】オストロウスキー,シス・ライ
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 IQBAL OMER,ANTITHROMBOTIC AGENTS IN THE TREATMENT OF SEVERE SEPSIS,EXPERT OPINION ON EMERGING DRUGS ENGLAND,2002年 5月 1日,V7 N1,P111-139
【文献】 PU Q,BENEFICIAL EFFECT OF GLYCOPROTEIN IIB/IIIA INHIBITOR (AZ-1)ON ENDOTHELIUM IN ESCHERICHIA COLI ENDOTOXIN-INDUCED SHOCK,CRITICAL CARE MEDICINE,米国,WILLIAMS AND WILKINGS COMPANY,2001年 6月 1日,V29 N6,P1181-1188
【文献】 KOZEK-LANGENECKER SIBYLLE A,EFFECT OF PROSTACYCLIN ON PLATELETS,POLYMORPHONUCLEAR CELLS AND HETEROTYPIC CELL AGGREGATION DURING HEMOFILTRATION,CRITICAL CARE MEDICINE,米国,WILLIAMS AND WILKINGS COMPANY,2003年 3月 1日,V31 N3,P864-868
【文献】 IMPERATORE FRANCESCO,USE OF PROSTACYCLIN IN THE TREATMENT OF SEPSIS-INDUCED ORGAN FAILURE,MEDGENMED:MEDSCAPE GENERAL MEDICINE,米国,WEBMD MEDSCAPE HEALTH NETWORK,2003年 7月31日,V5 N3,P15
【文献】 SCHEEREN T,PROSTACYCLIN(PGL2):NEW ASPECTS OF AN OLD SUBSTANCE IN THE TREATMENT OF CRITICALLY ILL PATIENTS,INTENSIVE CARE MEDICINE,1997年 2月,V23 N2,P146-158
【文献】 Therapeutic Research, 2003, Vol.24, No.7, pp.1217-1228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 41/00−45/08
A61K 48/00
A61K 39/00−39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブシキシマブ、エプチフィバチド、およびチロフィバンからなる群から選択される、1つ以上の、GPIIb/IIIa受容体を阻害する能力を有する血小板阻害剤、および、イロプロスト、トレプロスチニル、ベラプロストナトリウム、およびエポプロステノールナトリウムからなる群から選択される、1つ以上の、内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する化合物を含む、出血しているまたは出血のリスクがある、血小板減少症を有する重篤患者における、重度な感染または敗血症による臓器不全の治療および/または防止のための医薬。
【請求項2】
前記血小板阻害剤が、アブシキシマブおよびチロフィバンからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記血小板阻害剤の半減期が3時間未満である、請求項1または2に記載の医薬。
【請求項4】
前記内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、エポプロステノールナトリウムおよびイロプロストからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬。
【請求項5】
前記内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する化合物の半減期が4時間未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬。
【請求項6】
前記血小板阻害剤は半減期が3時間未満であり、前記内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する化合物は半減期が4時間未満である、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬。
【請求項7】
臓器不全が、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬。
【請求項8】
不全になる単数または複数の臓器が、循環器、呼吸器、腎器官、血液系器官、神経系器官、胃腸管系器官、肝器官、筋骨格、心臓、血管、微小血管系、肺、腎臓、骨髄、脳、腸、膵臓、脾臓、肝臓、骨、関節、および筋肉からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれかに記載の医薬。
【請求項9】
ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重篤患者において血小板の数および/または機能を維持するための、請求項1〜8のいずれかに記載の医薬。
【請求項10】
前記血小板阻害剤がエプチフィバチドであり、かつ、前記内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する化合物がイロプロストである、請求項1〜9のいずれかに記載の医薬。
【請求項11】
前記血小板阻害剤、および、前記内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、別個の製剤としてもしくは一つのユニット用量剤形として組み合わされて同時に、または、経時的に、投与される、請求項1〜10のいずれかに記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願において引用された全ての特許文献および非特許文献の全体が、参照によりここに組み込まれる。
【0002】
本発明は、血小板が凝集し血餅(clot)を形成する能力を制限する薬剤の投与、および/または、内皮の恒常性(integrity)を制御(modulating)/維持(preserving)する薬剤、および/または、血栓の溶解度を増加させる薬剤により、内皮を保護し、微小循環中の病理的血栓形成を防止し、および/または循環中の血小板の数および機能を維持し、それによって臓器不全(多臓器不全(MOF)を含む)の発生を最小限にするかまたは防止すること、ひいては重篤(critically ill)患者の死を最小限にするかまたは防止することに関係し得る、化合物の新規な使用に関し、また、細胞ベースの全血粘弾性止血アッセイ(whole blood viscoelastical haemostatic assay)によって臓器不全(多臓器不全(MOF)を含む)の発生および死亡の危険性を有する重篤患者を識別(identifying)する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
血小板は、巨核球の細胞質の無核断片である。血小板は、血管損傷部位において最初の血栓を形成することと凝固タンパク質のアセンブリーのための鋳型を提供することの両方により(後に続くトロンビン生成がフィブリノーゲンからフィブリンへの変換をもたらし、フィブリンがGPIIb/IIIa受容体を介して活性化血小板と相互作用して止血性血餅を形成する[Roberts et al. 2006])、また、血管壁の恒常性を維持することにより[Nachman and Rafii 2008]、止血栓形成において中心的な役割を果たす。
【0004】
生理的条件下では、血小板凝集および止血事象(haemostasis)は血管内皮により抑止されている。内皮は、物理的な障壁を提供すると共に、プロスタサイクリン(PGI2)および一酸化窒素(NO)のような血小板抑制産物を分泌する。これらの化合物は、血小板の接着性、および血小板受容体GPIIb/IIIaの活性化状態を、パラクリン様式により制御し、また、オートクリン機序により内皮を静止状態(quiescent state)にて維持する[Zardi et al 2005]。
【0005】
内皮活性化または損傷(外傷、敗血症のような重病、アテローム性動脈硬化)により、血小板はそれぞれ内皮または内皮下層に接着する。この接着が血小板を活性化し、形態の変化、およびADP(強力な血小板アゴニストである)が放出される放出反応を引き起こす。血小板膜インテグリン受容体GPIIb/IIIaが活性化される。フィブリノーゲンがこの受容体に結合し、血小板を架橋する効果をもたらし、血小板栓(platelet plug)を形成する。血小板活性化の際、血小板膜中のリン脂質(特にホスファチジルコリン)の加水分解によりトロンボキサンA2が形成される。これは重要な血小板アゴニストであり、他の血小板をリクルートして活性化し、それによってさらなる血小板凝集を促進する。血小板がアテローム血栓疾患にも関与する (そこでは血小板が動脈硬化性プラーク上の血栓形成の進行をサポートし最終的には血管の閉塞および細胞死という結果をもたらす(急性心筋梗塞が例である) [De Meyer et al. 2009]) 心血管疾患をはじめとして、血栓形成は多くの臨床的状態において問題となる。
【0006】
集中治療室(ICU)の患者において、また特に敗血症において、炎症により誘発される内皮障害と血小板活性化に起因する病理的な血栓形成は、おそらく病的状態(morbidity)と死亡(mortality)の主な原因の一つである。すなわち、敗血症、大きな外傷、またはその他の重病の患者のほぼ半分において、血小板減少症が見られるか、またはそれが発生する。重篤患者においては、集中治療室(ICU)到着時に血小板減少症を有することがよくあり、それは高い死亡率[Moreau et al. 2009]、長いICU滞在時間、出血事象の頻度増加、輸血の必要性の増加と連関しており、また、原因を問わず、血小板減少症あるいは血小板数低下は、多臓器不全(MOF)[Nguyen and Carcillo 2006]およびICUにおける死亡[Levi and Lowenberg 2008]についての独立した予測因子である。重篤患者における血小板数の低下または減少の病変形成は多因子性であり、例えば出血、敗血症、播種性血管内凝固(DIC)を含む血栓性微小血管症、および免疫誘発性または薬剤誘発性血小板減少症が関与する[Nguyen and Carcillo 2006; Levi and Lowenberg 2008]。
【0007】
血小板減少症および血小板数の減少は、敗血症、播種性血管内凝固(DIC)、ビタミン欠乏症、マクロファージ活性化、薬剤誘発毒性、肝疾患、血液学的障害、大量輸血、免疫媒介血小板減少症、および未同定因子refにおいて見られるのと同じ病態生理学的異常を反映し得る[Moreau et al.2007]。血小板減少症を有する重篤患者における高死亡率は複雑であり、血小板数の減少を伴う進行性臓器不全の発生、血小板減少症随伴性多臓器不全(TAMOF)にも一部関係する。TAMOFは血栓性の微小血管障害症候群であり、播種性血管内凝固(DIC)および二次的血栓性微小血管症(TMA)を含む広範な病態により定義され得る[Nguyen and Carcillo 2006]。
【0008】
TAMOFの共通の特色は、全身における顕著な凝固活性化、線維素溶解と天然抗凝固因子の両方の下方制御により引き起こされる血小板消耗および微小血管血栓形成(血小板が不可欠な役割を果たす)に関連する、血小板数の進行的な減少である[Nguyen and Carcillo. 2006]。TAMOFに関連する状態を非限定的に列挙したリストを、表1に示す。
【0009】
【表1】
【0010】
TAMOF-DICに関連する状態を非限定的に列挙したリストを、表2に示す。
【0011】
【表2】
【0012】
集中治療室における重篤患者に対する標準的な治療は、血小板減少症の有り無しに関わらず、以下のことを焦点とする:
1.患者のその状態の根底にあり原因となっている障害を同定し特異的な治療を行うこと、および
2.不全に備え、重要臓器をサポートすること、例えば、呼吸補助(ventilatory support)、血液透析、血管昇圧処置(vasopressor treatment)、非経口栄養、体液補助(fluid support)、副腎皮質ステロイド、厳密な血糖管理(tight glycemic control)、血液製剤の投与など、一般的に集中治療マネジメントと呼ばれるもの[Bick R. 1996, Bick R. 1998]。
【0013】
当該治療はさらに、酵素的凝固活性化を減少させる薬剤を全身投与することによってプロコアグラント条件を減弱させることを含み得(特に高い死亡率(> 50%)を伴う重度の敗血症を有する重篤患者において)、そのような薬剤としては例えば:
1.ヘパリン(低分子量ヘパリン(LMWH)、未分画ヘパリン(UFH))
2.トロンビン阻害剤
3.抗トロンビン
4.組織因子経路インヒビター(TFPI)
5.活性化プロテインC
等が評価されてきた。
【0014】
Ad 1. ヘパリン
LMWH (フォンダパリヌクスを含む)またはUFHを用いた静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は、深部静脈血栓症(DVT)の率を下げる点で効果的であることがメタアナリシスにより示されているが、この利点は肺塞栓症(PE)の防止を強化するまでには至っていなかった。さらに、LMWHとUFHは同様の出血アウトカム(bleeding outcomes)を有しており、従ってヘパリンを用いたVTE予防は重篤な医療患者および手術患者において、またICUにおいて、標準的な療法である。ICUに搬入された時点で全ての患者はVTEの危険性について評価されることが推奨されており、ほとんどの患者は血栓予防(thromboprophylaxis)(グレード1A)を受ける[Kanaan et al. 2007, Geerts et al. 2008]。
【0015】
Ad 2. トロンビン阻害剤
直接トロンビン阻害剤(DTI)は、トロンビン酵素を直接的に阻害することにより抗凝固剤として働く(血液凝固を遅らせる)。トロンビン分子との相互作用のしかたにより、2種類のDTIがある。二価DTI(ヒルジンおよび類似体(analogs))は活性部位とエキソサイト1の両方に結合し、一価DTIは活性部位のみに結合する。二価:ヒルジン、ビバリルジン、レピルジン、デシルジン; 一価:アルガトロバン、メラガトラン、ダビガトラン(Dabigratan)。
【0016】
Ad 3. 抗トロンビン
コクラン解析(Cochrane analysis)には合計3458人の参加者にかかる20の無作為化治験が含まれた。これらの内13の治験はバイアスの高リスクを有していた。全ての治験を合わせた場合、コントロール群と較べて、AT IIIは全体的死亡率を統計学的に有意には低下させなかった(RR 0.96, 95% CI 0.89〜1.03;治験間で不均一性は無し)。合計32のサブグループおよび感度解析が行われた。バイアスのリスク、異なる集団、およびアジュバント・ヘパリンの役目を考慮した解析で示された差は有意ではなかった。AT IIIは、ごく小数の患者にかかる解析において、生存者中の多臓器不全スコアを低下させた。AT IIIは出血事象を増加させた(RR 1.52, 95% CI 1.30〜1.78)。重篤患者に対してATIII療法を行うことは推奨されていない[Afshari et al. 2008]。
【0017】
Ad 4. TFPI
ティファコジン(tifacogin)(リコンビナント組織因子経路インヒビター)の重度敗血症における有効性および安全性が、1754人の患者にかかり無作為化されコントロールされた治験(OPTIMIST)において評価された。全原因死亡率は、TFPI処置群で34.2%であったのに対し、プラシーボ処置患者では33.9%であった(p =0.88)。ティファコジン投与は、ベースラインINRとは無関係に出血リスクの増加と連関しており、現時点では重度敗血症患者をTFPI治療することの指標は無い[Abraham et al. 2003]。
【0018】
Ad 5. 活性化プロテインC
重度敗血症の患者におけるPROWESS調査は、APC処置患者において死亡率が有意に低下したため、第二次暫定解析で早々に打ち切られた[Bernard et al 2001]。この調査には合計1728人の患者が無作為化され含められたが、その内1690人が解析に適格であった。これらの患者の内、840人が無作為化されリコンビナント・ヒトAPCの投与を24mg/kg/hの用量で96時間受け、850人の患者はプラシーボの投与を受けた。死亡率はAPC群では24.7%であり、それに対してプラシーボ群では30.8%であった(相対的リスク低下19.4パーセント、95%信頼区間6.6-30.5)。当該PROWESS調査の後に実施された、特定の重症敗血症患者群についての一連の治験はネガティブであり、APCの使用については懐疑論が加えられた[Marti-Carvajal et al. 2007]。さらに、ADDRESS調査によれば、敗血症を有しかつ疾患の重症度が比較的低い患者においてはAPCを用いた治療効果が示されないようである[Levi M 2008]。重度の敗血症患者におけるAPCの使用については現在コンセンサスが存在していない。
【0019】
これらのイニシアティブがあるものの、多くの患者はホメオスタシス(homeostasis)を達成せず、出血を続け、免疫不全となり、内皮壁の恒常性を失い(内皮壁が活性化され)、および/または、MOFおよび/またはTAMOFを発症し、死亡する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Abraham et al., JAMA. 2003 Jul 9;290(2):238-47.
【非特許文献2】Afshari et al., Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jul 16;(3):CD005370.
【非特許文献3】Atkinson et al., Blood Cells, Molecules, and Diseases 36 (2006) 217-222
【非特許文献4】Bassus et al., Platelets. 2006 Sep;17(6):378-84.
【非特許文献5】Bernard et al., Crit Care Med. 2001 Nov;29(11):2051-9.
【非特許文献6】Bick R., Semin Thromb Hemost. 1996;22(1):69-88.
【非特許文献7】Bick R., Semin Thromb Hemost. 1998;24(1):3-18.
【非特許文献8】Bihari et al., Intensive Care Med. 1988;15(1):2-7
【非特許文献9】Cines et al., 1998, Blood 91:3527-3561.
【非特許文献10】Colgan et al., Purinergic Signalling (2006) 2: 351-360.
【非特許文献11】De Meyer et al., Cardiovasc Hematol Disord Drug Targets. 2009 Mar;9(1):9-20
【非特許文献12】Di Benedetto et al., Minerva Anestesiol. 2003 Jun;69(6):501-9, 509-15.
【非特許文献13】Fries et al., Anesth Analg. 2006 Feb;102(2):347-51.
【非特許文献14】Ganter et al., Anesth Analg. 2008 May;106(5):1366-75.
【非特許文献15】Geerts et al., Chest. 2008 Jun;133(6 Suppl):381S-453S.
【非特許文献16】Goepfert et al., 2000, Molecular Medicine 6(7): 591-603.
【非特許文献17】Goerge et al. 2008, Blood. 2008 May 15;111(10):4958-64.
【非特許文献18】Kanaan et al., Clin Ther. 2007 Nov;29(11):2395-405.
【非特許文献19】Kang et al., Anesth Analg. 1985 Sep;64(9):888-96.
【非特許文献20】Kawasaki et al., Stroke. 2000 Mar;31(3):591-5.
【非特許文献21】Knezevic et al., Exp Med. 2009 Nov 23;206(12):2761-77
【非特許文献22】Levi M., Curr Opin Hematol. 2008 Sep;15(5):481-6.
【非特許文献23】Levi and Lowenberg, Semin Thromb Hemost 2008; 34(5):417-424.
【非特許文献24】Marsolais et al., Nat Rev Drug Discov. 2009 Apr;8(4):297-307.
【非特許文献25】Marti-Carvajal et al., Cochrane Database Syst Rev. 2007 Jul 18;(3):CD004388. Review. Update in: Cochrane Database Syst Rev. 2008;(1):CD004388.
【非特許文献26】Moreau et al., Chest 2007; 131(6):1735-1741.
【非特許文献27】Nachman and Rafii, N Engl J Med, 2008;359:1261-70.
【非特許文献28】Nguyen and Carcillo, 2006, Critical Care 2006, 10:235.
【非特許文献29】de Oliveira et al., J Thromb Thrombolysis. 2009 Aug 25
【非特許文献30】Rivard et al., 2005, Journal of Thrombosis and Haemostasis, 4: 411-416
【非特許文献31】Roberts et al. 2006 Semin Thromb Hemost. 2006 Apr;32 Suppl 1:32-8
【非特許文献32】Salooja et al., Blood Coagul Fibrinolysis. 2001 Jul;12(5):327-37. Review. Erratum in: Blood Coagul Fibrinolysis 2002 Jan;13(1):75.
【非特許文献33】Schereen et al., Intensive Care Med (1997) 23: 146-158
【非特許文献34】Thompson et al., J. Exp. Med. Volume 200, Number 11, December 6, 2004 1395-1405
【非特許文献35】Tomokiyo et al., Vox Sang. 2003 Nov;85(4):290-9.
【非特許文献36】Velik-Salchner et al., J Thromb Haemost. 2007 May;5(5):1019-25.
【非特許文献37】Xu et al., Nat Med. 2009 Nov;15(11):1318-21.
【非特許文献38】Zardi et al., International Immunopharmacology 5 (2005) 437-459
【非特許文献39】Zardi et al., Prostaglandins & other Lipid Mediators 83 (2007) 1-24
【非特許文献40】Irish Critical Care Trials Group 2008
【非特許文献41】American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference (Bone et al. 1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、重篤(critically ill)患者のための治療の方法に対する必要性が依然として残っている;その方法とは、重篤/重症(acutely ill)の患者において、MOFおよび/またはTAMOFのような臓器不全発症の治療および/または防止をすること、および/または出血を抑止すること、および/または免疫不全を防止すること、および/または内皮の恒常性を保護することを含み得る。さらに、当該方法において使用し得る組成物に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は、驚くべきことに、血小板阻害剤と、少なくとももう一つの化合物(当該もう一つの化合物は、内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、またはTAFIa阻害剤の中から選択される)との組合せを投与することが、臓器不全の治療および/または防止において有益であることを発見した。ここで、臓器不全とは、重症患者における臓器機能の変化として定義される。患者はホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とし得る。またここでいう臓器不全とは、少なくとも1つの臓器、例えば2つ、3つ、4つ、または5つの臓器におけるMOFおよびTAMOFを含む。
【0023】
さらに、血小板か内皮のどちらか一方だけを標的にするのではなく、血小板と内皮の両方を標的とする化合物の組合せにより当該化合物の相乗効果を得ることも、本発明の一側面である。また、複数の治療法を組み合わせることにより、化合物の投与はより低い濃度/用量で済むようになり、想定し得る有害事象のリスクを低下させるという利点も、一側面である。
【0024】
本発明の背景には以下ような理論がある。すなわち、重篤疾患における血小板減少症および/または血小板数低下は、
1.微小血管系において血小板の活性、凝集、および血栓形成が増強された結果であり、従って微小血栓虚血誘発性の臓器不全の危険性上昇についての強力なマーカーであり、および/または、
2. 血小板が放出するメディエーターの、内皮の恒常性および/または活性化状態に対するパラクリン作用が欠如することおよび/または制御不全になることを通じて内皮機能不全を引き起こし、および/または、
3.血小板が先天免疫系および適応免疫系の細胞に対して(またそれ故に炎症応答に対して)固有の(integrated)作用を有することから、免疫不全という結果を引き起こす。
【0025】
従って、多くのICU患者において観察される血小板減少症は、過剰な微小血栓形成、内皮の活性化、機能不全および恒常性喪失、並びに免疫不全(個々の細胞レベルにおける血小板機能損失、および、血小板集団の全般的減少による)に起因する深刻な制御不全のマーカーおよび/または要因(driver)であり、これらは全て、ICU患者において、臓器不全に代表される病態に貢献する。
【0026】
上述したように、血小板減少症それ自体が、血小板媒介性免疫機能の消失を通じて免疫不全をもたらすことを本発明者は提唱する。著しい重複性の存在により、(重篤患者で見られるように)免疫系の他の部分が損なわれると血小板減少症随伴免疫不全(TAID)も悪化し得る。従って、重篤状態におけるTAIDは、血小板数の低下または減少の負の予測的意義(negative predictive value)を部分的に説明するものであり、本願に記述される化合物、それらの組合せ、および医薬組成物の投与は、血小板減少症のこの新規な側面においても有益であり得る。
【0027】
生理的条件下では、血小板凝集および止血は血管内皮により防がれている。内皮は物理的な障壁を提供し、プロスタサイクリン(PGI2)や一酸化窒素(NO)のような血小板阻害性産物を分泌する。これらの化合物は、血小板の接着性、および血小板受容体GPIIb/IIIaの活性化状態を、パラクリン様式により制御し、また、オートクリン機序により内皮を静止状態(quiescent state)にて維持する[Zardi et al 2005]。理論に縛られるわけではないが、付随する血小板凝集と血餅形成の直接的な阻害にかかわらず、正常な循環血小板数の維持はそれ自体単独で、これらのパラクリン機序を通じて出血に対する保護となり得ることが示唆されている[Goerge et al. 2008.]。
【0028】
本発明は、第一の側面において、下に述べる化合物のいずれか1つ以上、例えば1つの化合物、例えば少なくとも2つの化合物、例えば少なくとも3つの化合物を含む医薬組成物に関する。複数の化合物を使用する場合には、それらの化合物を同じ化合物グループの中から選択してもよいが、より好ましくは、異なる化合物グループから選択し得る。従って、一実施態様においては、1つの化合物は血小板阻害剤であり、少なくとも1つの別の化合物は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物またはTAFIa阻害剤である。別の実施態様においては、1つの化合物は内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物であり、少なくとも1つの別の化合物は、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、またはTAFIa阻害剤である。第三の実施態様においては、1つの化合物は線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物であり、少なくとも1つの別の化合物はTAFIa阻害剤である。
【0029】
好ましくは、当該1つ以上の化合物は血小板阻害剤および内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物であり、より好ましくは抗血栓性化合物であり、さらに好ましくはGPIIb/IIIa阻害剤およびPGI2である。
【0030】
本発明のもう一つの側面は、本明細書に記述される医薬組成物を臓器不全の治療および/または防止のために使用することに関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義される。ここでいう臓器不全は、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0031】
本発明の更に別の側面は、本明細書に記述される医薬組成物を臓器不全の防止または治療のために使用することに関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含み、当該臓器は、循環器、呼吸器、腎器官、血液系器官、神経系器官、胃腸管系器官、および肝器官からなる群から選択される。
【0032】
本発明のもう一つの側面は、臓器不全の治療および防止に使用するための、血小板阻害剤、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、およびTAFIa阻害剤からなる群から選択される1つ以上の化合物を含む組成物に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0033】
本発明の別の側面は、臓器不全の治療および防止に使用するための、血小板阻害剤および内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物を含む組成物に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0034】
本発明のもう一つの側面は、臓器不全の治療および防止に使用するための、血小板阻害剤、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、およびTAFIa阻害剤からなる群から選択される1つ以上の化合物を含む組成物に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0035】
本発明のさらに別の側面は、臓器不全の治療および防止に使用するための、血小板阻害剤および内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物を含む組成物に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0036】
本発明のもう一つの側面は、本明細書に記述される、臓器不全の防止または治療のための化合物または組成物に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含み、当該臓器不全は、全身性炎症によるもの、重度な感染によるもの、敗血症によるもの、全身性炎症反応症候群(SIRS)および/または代償性抗炎症性反応症候群CARSによるもの、凝固障害によるもの、外傷および/または火傷によるもの、血液系腫瘍、固形腫瘍および転移性腫瘍のような悪性疾患によるもの、虚血によるもの、心血管血栓塞栓性疾患によるもの、または中毒症によるものである。
【0037】
さらなる一側面において、本発明は、臓器不全の防止または治療のための1つ以上の血小板阻害剤に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0038】
特定の実施態様において、臓器不全は、敗血症によるもの、固形腫瘍、血液系腫瘍および転移性腫瘍のような悪性疾患によるもの、または外傷を伴う全身性炎症反応症候群および代償性抗炎症性反応症候群によるものである。
【0039】
さらなる特定の一実施態様においては、不全になる単数または複数の臓器は、循環器、呼吸器、腎器官、血液系器官、神経系器官、胃腸管系器官、および肝器官からなる群から選択され、例えば心臓、肝臓、肺、腸、腎臓、脾臓、および脳である。
【0040】
さらなる特定の一実施態様においては、本発明は、臓器不全の防止または治療のための、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する1つ以上の化合物に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0041】
本発明のさらなる側面は、多臓器不全を含む臓器不全を治療または防止する方法であって、血小板阻害剤、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、およびTAFIa阻害剤からなる群から選択される1つ以上の化合物を投与することを含む方法に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、MOFおよびTAMOFを含む。
【0042】
本発明の別の側面は、血小板阻害剤、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、およびTAFIa阻害剤からなる群から選択される1つ以上の化合物の、多臓器不全を含む臓器不全の治療または防止のための医薬の製造における使用に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、MOFおよびTAMOFを含む。
【0043】
本発明のもう一つの側面は、多臓器不全を含む臓器不全を治療または防止するための医薬組成物であって、血小板阻害剤、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、およびTAFIa阻害剤からなる群から選択される1つ以上の化合物を有効成分として含む医薬組成物に関し、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、MOFおよびTAMOFを含む。
【0044】
別の特定の実施態様においては、臓器不全は虚血に伴う再灌流傷害によるものである。
【0045】
別の側面において本発明は、臓器不全の防止または治療のための、全血における線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物に関し、ここで臓器不全は、少なくとも1つの臓器、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における微小血栓症として定義される。
【0046】
さらに別の側面において、本発明は、臓器不全の防止または治療のための阻害剤であるトロンビン活性化線溶阻害因子(TAFI)に関し、ここで臓器不全は、少なくとも1つの臓器、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における微小血栓症として定義される。
【0047】
さらなる一側面は、血小板数を維持することによって重篤患者を治療するための、本明細書記載の化合物および/または組成物の組合せの使用に関し、これにより当該患者が免疫不全となるリスクが減少する。
【0048】
従って、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重篤患者において血小板の数および/または機能を維持するために、本願に開示される医薬組成物を使用することもまた、本発明の一側面である。
【0049】
本発明のもう一つの側面は、免疫活性化の目的で本明細書記載の化合物および/または組成物を使用することに関し、当該免疫活性化は直接的および/または間接的である。
【0050】
本発明のさらに別の側面は、重篤なヒトにおいて臓器不全(多臓器不全(MOF)を含む)の可能性を診断、監視、または決定する方法に関し、前記方法は、臓器不全(MOFを含む)を発症する危険性が有意に増加している重篤なヒトを識別することができ、以下の工程を含む:

i) 重篤なヒトからの全血試料(例えばクエン酸化(citrated)全血試料、例えばカオリンで活性化されたクエン酸化全血試料、例えば組織因子で活性化されたクエン酸化全血試料、例えば未変性(native)全血試料、例えばカオリンで活性化された未変性全血試料、例えば組織因子で活性化されたクエン酸化全血試料)において、トロンボエラストグラフィー(TEG)により、R、アングル(Angle)およびMAのうちの少なくとも1つの粘弾性値を、またはトロンボエラストメトリーで同定される同等パラメータを測定をすること、

ii) 前記値を、事前に定められたカットオフ値と比較すること;ここで前記カットオフ値は、カオリンで活性化されたクエン酸化全血試料においてTEGにより測定されたカットオフ値と同等の値、すなわち、
a) 8.0分超、例えば8.5分超のRであり、あるいは、4.0分未満、例えば3.0分未満のRであり、
b) 55°未満、例えば52°未満のアングルであり、あるいは、78°超、例えば80°超のアングルであり、および、
c) 51 mm未満、例えば50 mm未満のMAであり、あるいは、69 mm超、例えば72 mm超のMAであって、

当該カットオフ値より高いあるいは低いR値、および/または当該カットオフ値より高いあるいは低いアングル値、および/または当該カットオフ値より高いあるいは低いMAは、R、アングル、MAのいずれも当該カットオフ値より高くも低くもないヒトと比較して臓器不全を発症する危険性が有意に上昇していることを示す。
【0051】
当該方法は、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、血小板数、およびD-ダイマーで例示される従来の凝固解析よりも早く、臓器不全(MOFを含む)発症の危険性が有意に上昇している重篤患者を識別することおよび30日死亡率を決定することを可能にする。
【0052】
本発明のさらなる側面および特定の実施態様は、以下の記述および添付の請求項から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】TEGアッセイを使用した止血活性の記録。
図2】マルチプレート(MultiPlate)は血小板凝集を連続的に記録する。血小板がマルチプレート・センサー上に付着することによるインピーダンスの上昇は、任意の凝集単位(AU)に変換され、時間軸に対してプロットされる。
図3】ベースラインTEG値と、フローラン注入60分後および120分後に得られた試料との比較。
図4】ベースライン・マルチプレート値と、フローラン注入60分後および120分後に得られた試料との比較。
【発明を実施するための形態】
【0054】
血小板が血餅構築過程に関与する能力を低下/阻害することを目的とする治療介入(例えば血小板阻害剤の投与)は、微小血管系において血栓形成が生じることを妨げるかまたは低下させるゆえに内皮活性化を低下させ、また、循環血小板数を増加させ、維持させ、および/またはその減少を抑えるゆえに内皮恒常性を改善させ、および/または、血小板減少症随伴免疫不全を制限および/または回避させ、従って、MOFを含む臓器不全の発症を制限および/または防止する。
【0055】
さらに、内皮の恒常性を制御/維持することを目的とする医療介入(例えば内皮制御剤の投与により、内皮を静止(quiescent)、非活性、抗凝固状態に維持すること)は、内皮活性化を低下させ内皮恒常性を改善させ、それゆえに微小血管系において血栓形成が生じることを妨げおよび/または低下させ、そのことが循環血小板数を増加および/または維持させ、血小板減少症随伴免疫不全を回避させ、従ってMOFを含む臓器不全の発症を制限および/または防止する。
【0056】
また、線維素溶解を増加させることを目的とする医療介入(例えば線維素溶解促進剤の投与)は、線維素溶解の増強により血餅の安定性を低下させ、それによって微小血管系において血栓形成が生じることを低下させるかまたは妨げ、従って、上述した内皮細胞および免疫機能に対する作用を通じて、MOFを含む臓器不全の発症を制限および/または防止する。
【0057】
加えて、TAFIaの活性を低下させることを目的とする医療介入(例えばTAFIa阻害剤の投与)は、線維素溶解の増強により血餅の安定性を低下させ、それによって微小血管系において血栓形成が生じることを低下させるかまたは妨げ、従って、上述した内皮細胞および免疫機能に対する作用を通じて、MOFを含む臓器不全の発症を制限および/または防止する。
【0058】
最後に、血小板が血餅構築過程に関与する能力を低下/阻害することを目的とする治療介入(血小板阻害剤)、および/または内皮恒常性を制御/維持することを目的とする医療介入(内皮制御剤)、および/または線維素溶解活性を増加させることを目的とする医療介入(線維素溶解促進剤)、および/またはTAFIaの活性を低下させることを目的とする医療介入(TAFIa阻害剤)のあらゆる組合せは、血餅の安定性を低下させ、それによって微小血管系において血栓形成が生じることを低下させるかまたは妨げ、従って、上述した内皮細胞および免疫機能に対する作用を通じて、MOFを含む臓器不全の発症を制限および/または防止する。
【0059】
従って、本発明は、重篤患者、特に臓器不全(MOFを含む。例えばTAMOF)または全身的炎症に関連する状態になったかまたはその発生危険性が上昇した患者のための新規な治療様式のための化合物に関する。
【0060】
臓器不全が差し迫っているか又は顕在している重篤疾患と、血小板活性化および/または消失、内皮活性化および/または制御不全、並びに免疫不全および/または制御不全との間の、前述の連関性を考慮すれば、以下のことを同時に達成する治療介入は、重篤患者において、差し迫ったおよび/または顕在している臓器不全を防止および/または治癒し、および/または、ホメオスタシスを誘導/維持することに使用されるはずである。
1.内皮を静止、非活性、抗凝固状態に維持することにより内皮恒常性を制御および/または保護すること(後述の内皮制御剤);および、
2.血小板が血餅構築過程に関与する能力を減少および/または阻害すること(後述の血小板阻害剤);または、
3.線維素溶解を増強することによって、微小循環中で既に形成した微小血栓を溶解し、もしくは微小血栓形成を防止すること(線維素溶解促進剤);または
4.トロンビン活性化線溶阻害因子(TAFI)aを阻害することにより線維素溶解を増強すること(TAFIa阻害剤)。
これらの患者は、全身性炎症に関連する何らかの状態を有し得る(後述するように、これらの状態は本発明にとって好適である)。
【0061】
さらなる一側面は、患者(subjectまたはpatient)における血小板数および/または血小板機能を保護/維持することに関する。当該患者は重篤患者であり得る。そのような患者は、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とし得る。血小板数を維持することにより、血小板の免疫担当細胞としての適格性が維持され、そのことによって、患者、特に重篤患者に典型的に見られる免疫不全が回避される。血小板数を維持または保護するとは、血小板数を正常レベル内(すなわち、血小板減少症と定義されるレベルよりは高く、血小板増加症を示すレベルよりは低いレベル)に保つことを目的とする行為と理解される。従って、当該レベルは健常者に見られるようなレベルであり得、健常者の正常な血小板数は1 mm3 (またはマイクロリッター) あたり150,000〜450,000の範囲である(150〜450 x 109/L)。しかしながら、これらの上下限は上側および下側における2.5パーセンタイル値により決められたものであり、逸脱するからといって必ずしも何らかの形の疾患の存在を意味するわけではなく、また本願で提示する治療の必要性を軽減するわけでもない。本明細書に開示する化合物またはそれらを含む組合せ/組成物の投与は、必要とする個体において血小板数を維持する効果を有する。従って、当該個体は免疫賦活性の治療を受けていることになる。当該免疫賦活性治療は、血小板の数/機能に関するものであり、間接的な免疫活性化によるものである。
【0062】
従って、本明細書に開示する化合物、その組合せ、およびそれらの化合物を含む組成物が、免疫不全および/または血小板減少症および/または重篤疾患の治療における使用、および/または、(間接的な)免疫賦活性化合物/組成物としての使用のためのものであることは、本発明の一つの目的(object)である。これらの化合物および組成物は、必要とする患者において血小板数を正常レベル内に維持することに用いられ、そのような患者は、免疫不全を患う患者、および/または免疫活性化を必要とする患者、および/または重篤疾患を患う患者を含む。
【0063】
従って、本発明の化合物および組成物は、免疫療法、特に活性化免疫療法(免疫応答を誘導および/または増強することにより状態または疾患を治療することと定義される)のために使用し得る。
【0064】
従って、本発明の一つの目的は、本明細書に開示される医薬組成物を血小板の数および/または機能を保護するために使用することに関する。当該治療を受ける客体は、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重篤患者であり得る。
【0065】
さらなる一側面において、本発明は、ICU到着時にクエン酸化全血粘弾性アッセイ(viscoelastical citrated whole blood assay)、例えばTEG解析を行うことにより、凝固性低下TEG(カオリン活性化クエン酸化全血を使用する場合は、8分を超えるR、例えば8.5分超のR、および/または51 mm未満のMA、例えば50 mm未満のMA、および/または55°未満のアングル、例えば52°未満のアングルというカットオフ値で定義される)を示す患者、または過凝固TEG(4.0分未満のR、例えば3.0分未満のR、80°超のアングル、および69 mm超のMA、例えば72 mm超のMAにより定義される)を示す患者について、臓器不全(MOFを含む。例えばTAMOF)の発生危険性が上昇した重篤患者と診断する方法に関する。
【0066】
定義
【0067】
「抗凝集」という用語は、血小板の凝集能を阻害する化合物および/またはそのバリアント(variants)の投与の後に、血小板が血餅構築過程において相互作用する能力が正常より低くなることを意味するものとする[Kawasaki et al 2007, Fries et al. 2006, Velik-Salchner et al. 2007, Bassus et al. 2006, Tomokiyo et al. 2003]。
【0068】
「抗血栓」という用語もまた、血小板の凝集能を阻害および/または抑制し血小板の血餅形成(血栓形成)能を阻害する化合物および/またはバリアントの投与の後に、血小板が血餅構築過程において相互作用する能力が正常より低くなることを意味するものとする。
【0069】
「抗凝集」および「抗血栓」という用語は互換的に使用され、血小板が血餅構築過程において相互作用しそれにより血栓を形成する能力を低下させる化合物の作用を指す。
【0070】
「内皮恒常性を制御/維持する」という用語は、内皮を静止、非活性、抗凝固状態に保つことを目的とする医薬的処置を意味するものとする。従って、「内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物」とは、内皮を静止、非活性、抗凝固状態に保つことの助けとなり得るあらゆる化合物を指すものとする。
【0071】
「線維素溶解活性」または線維素溶解という用語は、フィブリン血餅(凝固の産物)が分解する過程を意味するものとする。
【0072】
「線維素溶解活性を増強する」という用語は、フィブリン血餅の分解を増強することを目的とする医薬的処置を意味するものとする。
【0073】
本明細書で使用される「凝固性低下」という用語は、TEGで評価した場合に正常リファレンスと比較して、開始フェーズがより遅いこと(Rの増加)、および/またはトロンビン突発(thrombin burst)が抑えられていること(アングルの減少)、および/または血餅強度が低下していること(MAの低下)を反映する。
【0074】
本明細書で使用される「過凝固」という用語は、TEGで評価した場合に、正常リファレンスと比較して、開始フェーズにおける凝固活性が増加していること(Rの減少)、および/またはトロンビン突発が増加していること(アングルの増加)、および/または血餅強度が増加していること(MAの増加)を反映する。
【0075】
「ホメオスタシス」という用語は、身体がその内部環境を生理的に調節して安定性を確保する能力を指す。ホメオスタシスを維持する能力を失うことは死あるいは疾患につながり得る。
【0076】
「臓器不全」という用語は、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化を意味する。本明細書でいうところの臓器不全は、多臓器不全「MOF」および血小板減少症随伴性多臓器不全「TAMOF」を含む。
【0077】
「MOF」(多臓器不全)という用語は、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化を意味する。ここで、MOFはTAMOFを含む。MOFは多臓器機能障害(MODS)としても知られている。
【0078】
本明細書で使用される「TAMOF」(血小板減少症随伴性多臓器不全)という用語は、血小板の病理的な消耗に伴う多臓器不全の発生に関連した、重篤患者に影響を及ぼすあらゆる状態を反映し、当該消耗は、血栓性微小血管症疾患により、あるいは、播種性血管内凝固もしくは血小板の数および/または機能の低下に関連する他の何らかの状態の結果として、微小循環における血栓形成をもたらす。
【0079】
本明細書で使用される「TAID」(血小板減少症随伴免疫不全)という用語は、感染リスクの増加、既存の感染の汎発(dissemination)、および/または非制御下の過剰な炎症をもたらし疾病率と死亡率の増加を伴う、免疫適格性の欠損、および/または非制御下の炎症反応を指す。
【0080】
「重篤」という用語は、本明細書では重症ともいい、患者に集中治療(intensive care therapy)の必要性をもたらすあらゆる状態を含んで意味する。集中治療は以下のものを含み得るがこれらに限定されない:ホメオスタシスの誘導、呼吸補助(例えば機械的呼吸補助)、血液透析、血管昇圧補助、体液補助、非経口栄養、赤血球濃縮製剤、新鮮凍結血漿、濃厚血小板、全血の投与、全身的抗菌および/または抗ウイルスおよび/または抗真菌および/または抗原生動物療法、顆粒球注入、T細胞注入、幹細胞注入、抗凝固療法(活性化プロテインCおよび/または抗トロンビンおよび/またはTFPIおよび/またはヘパリン(低分子量ヘパリンを含む)および/またはトロンビン阻害剤の投与を含むがこれらに限定されない)、副腎皮質ステロイドの投与、厳密な血糖管理。
【0081】
「患者(subject)」とはヒトおよびその他の哺乳類を含み、従って当該方法はヒトの治療と獣医学的アプリケーションの両方に適用でき、特にヒトの治療に適用できる。「哺乳類」という用語はヒト、非ヒト霊長類(ヒヒ、オランウータン、サル等)、マウス、ブタ、ウシ、ヤギ、ネコ、イヌ、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、サル、ヒツジ、およびその他の非ヒト哺乳類を含む。
【0082】
本願で使用される「治療」という用語は、予測される発症の防止と既に起こった臓器不全(MOFを含む)の治療の両方を含むものとする。4つの化合物の類型がこの目的において有益であることが考察される。
【0083】
本明細書で使用される「再灌流傷害」という用語は、一定時間の虚血の後に血液供給が組織に戻った時に引き起こされる組織損傷を指す。血液が酸素および栄養分を欠いていることにより、循環の回復が正常機能の回復ではなく酸化ストレス誘発を介した炎症および酸化傷害をもたらすという状態が生じてしまう。
【0084】
「全身性炎症」という用語は、感染、非感染性抗原、外傷、火傷、臓器/組織の破壊/変性/損傷、虚血、出血、中毒症、および/または悪性病変に対する身体(脈管、免疫系、組織)の非特異的で保存された(conserved)応答に基づく、重症患者における臓器機能の変化を意味する。
【0085】
本明細書でいう「敗血症」とは、全身における炎症状態(全身性炎症反応症候群またはSIRSと呼ばれる)および既知のまたは疑われる感染の存在を示すことを意図する。臓器障害、血圧低下(低血圧症)または少なくとも1つの臓器における血流不足(低灌)をもたらすようになると、敗血症は重度なものとなる(乳酸アシドーシス 、尿産生の低下、または精神状態の変化を引き起こす)。敗血症は、敗血症性ショック、多臓器障害症候群/多臓器不全、および死に至り得る。臓器障害をもたらす原因としては、敗血症誘発性血圧低下(<90 mmHg 、またはベースラインからの40 mmHg以上の減少)および広汎性血管内凝固(diffuse intravascular coagulation)等がある。
【0086】
終末器官(end-organ)障害の例は以下のものを含む:
●肺
○急性肺傷害(ALI) (PaO2/FiO2 < 300)または急性呼吸促迫症候群(ARDS) (PaO2/FiO2 < 200)
●脳
○脳症(encephalopathy)
■症状:
・動揺(agitation)
・混乱
・昏睡
■病因:
・虚血
・出血
・微小血栓
・微小膿瘍
・多病巣性壊死性白質脳症(multifocal necrotizing leukoencephalopathy)
●肝臓
○タンパク質合成機能の崩壊:血餅因子を合成する能力の欠損により進行性凝固障害として顕著に表れる
○代謝機能の崩壊:ビリルビン代謝の停止として表れ、非抱合型血清ビリルビン(間接ビリルビン)レベルの増加をもたらす
●腎臓
○乏尿および無尿
○電解質異常
○容量過負荷(volume overload)
●心臓
○収縮期および拡張期心不全(おそらく筋細胞機能を抑制するサイトカインによる)
○トロポニン漏出として表れる細胞損傷(必ずしも虚血的性質のものではない)
【0087】
本明細書でいう「SIRS」あるいは全身性炎症反応症候群とは、感染プロセスが確認されていない傷害(insult)に対する応答である全身的炎症を意味するものとする。SIRSと共に、感染が疑われるかまたは実証(培養、染色、またはポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)により)されるならば、それは定義により敗血症である。感染の具体的な証拠としては、通常なら無菌性(sterile)の体液(例えば尿または脳脊髄液(CSF))にWBCsがあること、臓器に穴があいたこと(perforated viscus)を示す証拠があること(腹部X線写真またはCTスキャンにおいて遊離した空気が認められること、急性腹膜炎の徴候があること)、肺炎を示す(焦点的な混濁(focal opacification)がある)異常な腹胸部X線写真(CXR)、または点状出血、紫斑もしくは電撃性紫斑病が含まれる。
【0088】
本明細書でいうところの「外傷」とは、急激な身体的傷害(例えば事故、受傷、または衝撃から得たもの)により生じる身体のあらゆる傷またはショックを意味するものとする。
【0089】
実施態様
【0090】
上で述べたように、本発明の主な側面は、内皮を保護し、微小循環における病理的な血栓形成を防止し、血小板の数および機能を維持する治療のための化合物に関し、従って、血小板が凝集して血餅を形成する能力を制限する化合物の投与、および/または内皮の恒常性を制御/維持する薬剤、および/または血栓の溶解率を増加させる薬剤、並びに前述した化合物のいずれか1つ以上を含む医薬組成物により、重篤患者において臓器不全(多臓器不全(MOF)を含む)の発生、ひいては死を、最小限化または防止することにも関係し得る。
【0091】
前記化合物は好ましくは抗血栓性化合物であり、より好ましくは下に記述する1つまたは複数のグループから選択されるものである。
【0092】
抗血栓性化合物
1.血小板阻害剤
2.内皮の恒常性を制御/維持する薬剤
3.線維素溶解促進性化合物
4.TAFIaに対する阻害剤
【0093】
これら4つの異なるグループに属する抗血栓性化合物を下に開示する。重篤患者および全身性炎症の患者における臓器不全(MOF、特にTAMOFを含む)の防止または治療のために、前記4つの種類のうち各種類から複数の化合物が選んで必要とする人に投与し得ることが予想される。特定の実施態様においては、上記異なる種類のうち少なくとも2種類からの少なくとも2つの化合物、または1種類からの1つの化合物が、重篤疾患、全身性炎症、臓器不全(MOF、特にTAMOFを含む)の防止または治療のために必要とする人に投与される。
【0094】
次に、本発明に関係する化合物の名前を列挙する。ここに言及する化合物のいずれかに対応する商品名も本発明に関係する。
【0095】
血小板阻害剤
【0096】
血小板阻害剤は、血小板の活性化(接着、分泌を含む)、凝集、および最終的な血小板-フィブリン血餅形成を妨害する化合物である。結果として、アルファ顆粒、高密度(dense)顆粒、リソソーム顆粒、およびその他の顆粒の分泌を含む血小板活性化が、低下または阻害される。また、負に帯電したホスファチジルセリンの血小板表面への露出が低下または阻害される。さらに、トロンボキサン受容体、ADP受容体、およびPAR受容体による活性化の最後の共通経路であるGPIIb/IIIa受容体の活性化が、妨げられるかまたは制限される。加えて、いくつかの血小板受容体および/または分子の露出が低下または阻害される。
【0097】
血小板表面上の部位をブロックすることにより可逆的または非可逆的に血小板の活性化/凝集を低下させる(より好ましくはそれらを阻害する)、または細胞内での阻害能を有する、あらゆる薬剤が、本発明における血小板阻害剤として使用できる。
【0098】
本発明による血小板阻害剤には、抗血栓剤または抗凝集剤として使用することが意図されるあらゆる薬剤が含まれ得る。血小板表面上の部位をブロックすることにより可逆的または非可逆的に血小板の活性化/凝集を低下させる、より好ましくはそれらを阻害する、または血小板活性化を媒介する経路(pathways)の細胞内での阻害能を有するあらゆる薬剤が、本発明の血小板阻害剤として使用できる。
【0099】
重篤患者および/または全身性炎症の患者における臓器不全(MOFおよびTAMOFを含む)の防止または治療のための血小板阻害剤の例の部分的なリストは以下のものを含む:
【0100】
1.血小板GPIIb/IIIa受容体を阻害する化合物、例えば:アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、オルボフィバン、ゼミロフィバン、ラミフィバン、XJ757、DUP728、XR299、直鎖状のまたは新規環状RGDペプチド類似体、環状ペプチド、当該受容体を阻害するペプチド模倣薬(peptidomimetics)等、およびこれらと他の化合物との混合物。
【0101】
特定の実施態様においては、血小板GPIIb/IIIa受容体を阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体(analog)と共に投与される(下記参照)。
【0102】
2.血小板ADP受容体(P2Y12)を阻害する化合物、例えば:AR-C69931MX、チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル、AZD6140、カングレロール、チカグレロール、および当該受容体を阻害するその他の化合物。
【0103】
特定の実施態様においては、血小板ADP受容体(P2Y12)を阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0104】
3.血小板P2Y1受容体を阻害する化合物、例えば:MRS2500、MRS2298、MRS2496、A2P5P、A3P5P、ATP、2-MeSATP、および2-ClATP。
【0105】
特定の実施態様においては、血小板受容体(P2Y1)を阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0106】
4.血小板COX1および/またはCOX2経路を阻害する化合物、例えば:
a. 以下に例示される、COX1とCOX2を同様に阻害する能力を有するCOX阻害剤:
i. アセチルサリチル酸(アスピリン)、アモキシプリン(Amoxiprin)、ベノリラート(Benorylate/Benorilate)、サリチル酸コリンマグネシウム(Choline magnesium salicylate)、ジフルニサル、エテンザミド、ファイスラミン(Faislamine)、サリチル酸メチル、サリチル酸マグネシウム、サリチル酸サリチラート、およびサリチルアミドからなる群から選択されるサリチレート;
ii. ジクロフェナク、アセクロフェナク、アセメタシン(Acemethacin)、アルクロフェナク、ブロムフェナク、エトドラク、インドメタシン、ナブメトン、オキサメタシン、プログルメタシン、スリンダク、およびトルメチンからなる群から選択されるアリールアルカン酸;
iii. イブプロフェン、アルミノプロフェン、ベノキサプロフェン、カルプロフェン、デクスイブプロフェン、デクスケトプロフェン、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルノキサプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロキサム、インドプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラク、ロキソプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピルプロフェン、スプロフェン、およびチアプロフェン酸からなる群から選択される2-アリールプロピオン酸(プロフェン);
iv. メフェナム酸、フルフェナム酸、メクロフェナム酸、およびトルフェナム酸からなる群から選択されるN-アリールアントラニル酸(フェナム酸);
v. フェニルブタゾン、アンピロン、アザプロパゾン、クロフェゾン、ケブゾン、メタミゾール、モフェブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェナゾン、およびスルフィンピラゾンからなる群から選択されるピラゾリジン誘導体;
vi. ピロキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、およびテノキシカムからなる群から選択されるオキシカム;
b. COX2の阻害に特異的なCOX阻害剤、例えばセレコキシブ、エトリコキシブ、ルミラコキシブ、パレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、ニメスリド、リコフェロン(Licofelone)、およびオメガ-3脂肪酸。
【0107】
特定の実施態様においては、COXを阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0108】
5.トロンボキサン・シンターゼ(TX-シンターゼ)を阻害する化合物、例えばフラボノイドおよびSQ29548、Bay u 3405またはBM 13.177のようなトロンボキサン受容体(TP)アンタゴニスト。
【0109】
特定の実施態様においては、トロンボキサン・シンターゼ(TX-シンターゼ)を阻害する化合物および/またはトロンボキサン受容体(TP)アンタゴニストは、プロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0110】
6.血小板におけるアデノシンの取り込みを阻害する化合物、例えばジピラミドール(dipyramidol)、ペルサンチン、アササンチン(Asasantin)、アグレノックス、および同様の作用機序を有するその他の化合物。
【0111】
特定の実施態様においては、血小板におけるアデノシン取り込みを阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0112】
7.血小板GPIb受容体を阻害する化合物、例えばmAB Ib-23、mAB 6B4、R9アルファ557ペプチド、アウリントリカルボン酸(ATA)、クロタリン(crotalin)、アジキスチン(agkistin)、アルファB-クリスタリンのTrp-Ile-Arg-Arg-Pro-Phe-Phe-Pro-Pheペプチド。
【0113】
特定の実施態様においては、血小板GPIb受容体を阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0114】
8.血小板GPVI受容体を阻害する化合物、例えばEXP3179、トリプラチン(triplatin)-1および-2、JAQ1、mAB 10B12、mAB 1C3、mAb 12G1。
【0115】
特定の実施態様においては、血小板GPVI受容体を阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0116】
9.PAR受容体を阻害する化合物、例えばトロンビン阻害剤、ヘテロ環に基づくペプチド模倣性のPAR-1アンタゴニスト、RWJ-56110およびRWJ-58259、SCH 79797、SCH 203099、ならびに、トランス-シンナモイル-YPGKF-アミド(tc-Y-NH(2))およびパルミトイル-SGRRYGHALR-アミド(P4pal10)のようなPAR4アンタゴニスト、PAR-2アンタゴニストENMD-1068、PAR2モノクローナル抗体SAM-11。
【0117】
特定の実施態様においては、PAR受容体を阻害する化合物はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0118】
10.PDE3ホスホジエステラーゼ阻害剤、例えばcAMP増加に治療的重点をおくシロスタゾール。cAMPの増加はプロテインキナーゼA(PKA)の増加をもたらし、そのことが血小板凝集の阻害に直接関係する。
【0119】
特定の実施態様においては、ホスホジエステラーゼ阻害剤はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0120】
11.NOを放出することができるアスピリンであるニトロアスピリン(NCX4016)。
【0121】
特定の実施態様においては、ニトロアスピリンはプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0122】
12.アルブミンがポリエチレングリコール(PEG)に結合した(conjugated)化合物。
【0123】
特定の実施態様においては、PEG結合アルブミン阻害剤はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0124】
13.ヘモグロビンがポリエチレングリコールに結合した化合物であって、血小板阻害機能に加えて微小血管系の酸素化を改善する機能も有する化合物、例えばMP40X(ヘモスパン(Hemospan)、ポリエチレングリコール‐ヘモグロビン複合体)が挙げられるがこれに限定されない。
【0125】
特定の実施態様においては、PEGと結合したヘモグロビンはプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0126】
14.C型レクチン様受容体2(CLEC-2)の抗体および/または阻害剤[May et al 2009]。
【0127】
特定の実施態様においては、CLEC-2の抗体/阻害剤はプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0128】
15.フルクトース-1,6-二リン酸(FBP)のような高エネルギー解糖系(glycolitic)代謝物[de Oliveira et al]。
【0129】
特定の実施態様においては、FBPはプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体と共に投与される(下記参照)。
【0130】
好ましい一実施態様においては、血小板阻害剤の半減期(half time)は3時間未満であり(例えばエプチフィバチドのように)、好ましくは2.5時間未満であり(例えばチロフィバンのように)、より好ましくは1時間未満である(例えばアブシキシマブのように)。好ましい一実施態様においては、血小板GPIIb/IIIa受容体を阻害する化合物が投与される。最も好ましい化合物の一例はエプチフィバチドである。
【0131】
別の好ましい実施態様においては、血小板阻害剤の半減期は12時間未満であり(例えばチクロピジンのように)、好ましくは8時間未満であり(例えばクロピドグレルのように)、より好ましくは約3〜5分である(例えばカングレロールのように)。もう一つ好ましいことは、ADP受容体阻害が可逆的であることである。チカグレロールは当該受容体を可逆的様式でブロックする化合物の一例であり、この理由によりチカグレロールは好ましい。従って、同等に好ましい一実施態様において、血小板ADP受容体(P2Y12)を阻害する化合物が投与される。
【0132】
本明細書で言及する化合物の半減期(half lives / half times)について:半減期は投与形態および/または用量に依存する。一般的に、静脈内投与が好ましい。
【0133】
内皮の恒常性を制御/維持する化合物
【0134】
生理的条件下において内皮は、血管拡張媒介物と血管収縮媒介物との間のバランスを調節することにより、また接着受容体の発現を調節することにより、正常な血管機能を維持する。内皮制御剤(Endothelial modulators)とは、内皮に作用して非活性静止状態に維持するかまたはその状態を誘導するあらゆる薬剤を包含し、血管の恒常性を至適に維持し確保する。血管恒常性の状態では、内皮はPGI2(プロスタグランジンI2、プロスタサイクリン)産生を通して、またADPase(ADPの分解を触媒する)の生成を通じて、血小板活性化を下方制御し血小板活性化に対抗し、抗炎症的および抗血栓的特性を発揮する。内皮細胞はまた、抗凝固特性を有する表面分子(例えばヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、組織因子経路インヒビター(TFPI)、プロテインS (PS)、およびトロンボモジュリン(TM))を発現することにより、凝固カスケードの活性化を防止することもできる。内皮細胞は、プラスミノーゲン、組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)、および膜付随プラスミノーゲン活性化因子結合部位を発現し、従ってプラスミンの産生を支持(favour)し、また抗凝固活性を増強する内皮プロテインC受容体(EPCR)を発現する。
【0135】
内皮制御剤は、以下に記載する化合物の種類(1〜11)のいずれから選択してもよい:
【0136】
1.PGI2、PGX、プロスタサイクリン(エポプロステノール)、またはそれらのバリアント(variants)等の化合物、例えばベラプロストナトリウム、エポプロステノールナトリウム、イロプロスト、ボセンタンと組み合わされたイロプロスト、クエン酸シルデナフィルと組み合わされたイロプロスト、トレプロスチニル、ペグ化トレプロスチニル、トレプロスチニルジエタノールアミン、およびトレプロスチニルナトリウム。さらなる化合物としては、2-[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ]-N-(メチルスルフォニル)アセトアミド、[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ]酢酸、8-[1,4,5-トリフェニル-1H-イミダゾール-2-イル-オキシ]オクタン酸、イソカルバサイクリン、シカプロスト、[4-[2-(1,1-ジフェニルエチルスルファニル)-エチル]-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[1,4]オキサジン-8-イルオキシ]-酢酸 N-メチル-d-グルカミン、7,8-ジヒドロ-5-(2-(1-フェニル-1-ピリド-3-イル-メチミノキシ)-エチル)-a-ナフチルオキシ酢酸、(5-(2-ジフェニルメチルアミノカルボキシ)-エチル)-a-ナフチルオキシ酢酸、2-[3-[2-(4,5-ジフェニル-2-オキサゾリル)エチル]フェノキシ]酢酸、[3-[4-(4,5-ジフェニル-2-オキサゾリル)-5-オキサゾリル]フェノキシ]酢酸、ボセンタン、17[アルファ], 20-ジメチル-[デルタ]6,6a-6a-カルバPGI1、および15-デオキシ-16[アルファ]-ヒドロキシ-16[ベータ],20-ジメチル-[デルタ]6,6a-6a-カルバPGI1、ペントキシフィリン (1-[5-オキソヘキシル]-3,7-ジメチルキサンチン)がある。
【0137】
プロスタサイクリンの商品名としてはフローラン、リモジュリン(remodulin)、およびヴェンタヴィス(ventavis)が含まれるがこれらに限定されない。
【0138】
2.プロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体(analogue)とエンドセリン受容体アンタゴニストとの組合せは、顎痛、頭痛、および血圧低下のようなプロスタサイクリンの潜在的な副作用を減少させることにより、プロスタサイクリン療法の安全性プロファイルを改善し得る。
【0139】
3.健康な内皮細胞により生成される、内皮の作用を制御/維持する化合物、例えば一酸化窒素(内皮由来弛緩因子でもある)は、血管拡張を誘導し、細胞質cGMPの上昇を通じて内皮の抗接着性および抗炎症性形質(phenotype)を支持する[Cines et al 1998; Zardi et al 2005]。
【0140】
4.CD39およびCD73は、健康な内皮細胞の管腔側に発現される血管膜結合型エクトヌクレオチダーゼである。これらは細胞外プラズマATPおよびADPを加水分解し、それによってヌクレオチド媒介性血小板活性化を阻害する[Atkinson et al 2006; Colgan et al 2006]。血小板阻害に加え、可溶性のCD39およびCD73アゴニストは内皮細胞のアポトーシスおよび活性化を阻害し[Goepfert et al 2000]、低酸素誘導性血管漏出を防止する[Thompson et al 2004]。
【0141】
5.内皮機能の酸化還元調節に関わる化合物、例えばL-アルギニンおよびテトラヒドロビオプテリン、抗酸化物質(アスコルビン酸、グルタチオン、α-トコフェロール、ユビキノール-10、プロブコール)、鉄キレート剤、ならびにポリフェノール。
【0142】
6.内皮機能の酸化還元調節に関わる臨床薬、例えば:HMG-CoA還元酵素阻害剤(フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン)、アンジオテンシン受容体アンタゴニストおよびACE阻害剤(カプトプリル、ゾフェノプリル、エナラプリル、ラミプリル、キナプリル、ペリンドプリル、リシノプリル、ベナゼプリル、フォシノプリル、カソキニン(Casokinins)、ラクトキニン(lactokinins))、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARs)、NADPHオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、PETN、ヘパラン硫酸(PI-88)、ヘパラン硫酸模倣物質(mimetics)、酸化型/非ヘム型sGCの活性化物質(BAY 58-2667)、および抗PECAM/SOD。
【0143】
7.Hou pu(Magnolia officinalisの樹皮)から単離されるビフェニルネオリグナンであるホノキオール。
【0144】
8.スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体に対する制御作用を通して内皮の障壁機能を直接制御する化合物(例えば、FTY720、AA-R、AAL-S、KRP-203、AUY954、CYM-5442、SEW2871、W146、W140、VPC44116、VPC23019、JTE-013)[Marsolais et al 2009]。
【0145】
9.ヒストンに対する/拮抗する、抗体および/またはその他の分子(その阻害能によってヒストン媒介性の内皮損傷および/または微小血栓形成および/またはフィブリン沈着(deposition)を減少させるもの)[Xu et al 2009]。
【0146】
10.天然の抗凝固経路を増強し内皮を保護する化合物、例えば(これらに限定されないが)、プロテインC経路(活性化プロテインC(APC、ドロトレコギンアルファ)、プロテインC、可溶性トロンボモジュリンおよび/またはEPCRおよび/またはプロテインSを模倣する、および/または分解から守る、および/または増強する化合物)、アンチトロンビンIII(ATIII)(またはATIII様化合物および/またはATIIIの機能を増強する化合物)、ならびに組織因子経路インヒビター(TFPI)(またはTFPI化合物および/またはTFPIの機能を増強する化合物)。
【0147】
11.内皮PAR活性化の後にGβγの機能および/またはシグナル伝達を維持および/または促進することにより、炎症性PAR媒介Gα活性化後に開裂した接着結合の再アニーリングを確保する化合物[Knezevic et al 2009]。
【0148】
内皮の機能、活性化状態、および恒常性を制御するための標的となり得る他の様々な部位を下の表3に示す。
【0149】
【表3】
【0150】
アラキドン酸の代謝物であるプロスタサイクリンは、強力な血管拡張性活性および血小板凝固阻害活性を有する天然プロスタグランジンであり、健康な内皮細胞から放出される。プロスタサイクリンは、近隣の血小板および内皮細胞上のGタンパク質共役受容体に関わるパラクリン・シグナル・カスケードを通じてその機能を遂行する。臨床的には、エポプロステノール(プロスタサイクリン類似体)は2つの主要な薬理作用を有する。すなわち(1)肺および全身の動脈血管床の直接的な血管拡張、および(2)血小板凝集の阻害である。エポプロステノールは、通常療法に十分に応答しないNYHAクラスIIIおよびクラスIVの患者における、原発性肺高血圧症および強皮症関連(scleroderma spectrum)の疾患に随伴する肺高血圧症の長期的静脈経由治療に適応(indicated)とされる。プロスタサイクリン類似体の血小板に対する抗凝集作用は、Gαs タンパク質共役受容体(プロスタサイクリン受容体、IP)により媒介され、該受容体はプロスタサイクリン類似体の結合により活性化される。この活性化がアデニリルシクラーゼに対してcAMPを生成するようシグナル伝達し、それを受けてプロテインキナーゼAが活性化され細胞内の遊離カルシウム濃度を減少させる。cAMPの増加は血小板活性化(分泌および凝集)を直接的に阻害し、トロンビン、ADP、TXA2、PAF、コラーゲン、および5-HTのようなアゴニストによる血小板活性化によりもたらされた細胞質内カルシウム増加に対抗する[Bihari et al, 1988; Schereen et al, 1997; Xing et al 2008]。
【0151】
内皮の恒常性を制御/維持する作用は、プロスタサイクリン類似体が内皮プロスタサイクリン受容体に結合すること、また究極的には細胞質cAMPの増加およびプロテインキナーゼA活性化により媒介される。これが、平滑筋弛緩および血管拡張と共に、微小血管灌流の改善ならびにリソゾーム膜および細胞膜の安定化による「細胞保護(cytoprotection)」(炎症の低下を伴う)をもたらす。その状態では内皮の抗凝固、抗接着、抗アポトーシス、および抗炎症性形質が好まれ、凝固、白血球接着/遊走、および炎症がサポートされる可能性はより低い[Zardi et al 2005; Zardi et al 2007]。
【0152】
好ましい一実施態様において、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物の半減期は4時間未満であり(例えばトレプロスチニルのように)、好ましくは1時間未満であり(例えばベラプロスト((35〜40分)のように)、より好ましくは1/2時間未満であり(例えばイロプロスト(20〜30分)のように)、好ましくは5分未満である(例えばエポプロステノール(0.5〜3分)のように)。
【0153】
線維素溶解促進剤
全血において線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、とも言う。このグループは(t-PA、u-PA)または(rt-PA、ru-PA)のような化合物、例えば:アクチライス(Actilyse)、メタライス(Metalyse)、ラピリシン(Rapilysin)、ストレプターゼ、ウロキナーゼ、ならびにt-PAおよび/またはrt-PA、uPA、r-uPAを含有するその他の化合物を含む。
【0154】
TAFIa阻害剤
トロンビン活性化線溶阻害因子(TAFIa)を阻害する化合物とも言う。この種類に含まれる化合物としては、例えば、CPU-I、AZD9684、MERGETPA、化合物21 (UK-396,082)、および同様の効果を有するその他の化合物が挙げられる。
【0155】
組合せ
上でも述べたように、上記の複数の化合物の組合せを投与することも、本発明において想定される。
【0156】
本発明は、血小板阻害剤、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物、およびTAFIa阻害剤からなる群から選択される1つ以上の化合物を含む医薬組成物に関わる。
【0157】
本発明は、従って、上述した化合物の種類(血小板阻害剤、内皮制御剤、線維素溶解促進剤、TAFIa阻害剤)のいずれかのあらゆる組合せに関わり、例えば1つの化合物、例えば少なくとも2つの化合物、例えば少なくとも3つの化合物に関わる。複数の化合物を使用する場合は、同じ種類の化合物の中から選んでもよく、あるいはより好ましくは当該少なくとも2つの化合物を異なる化合物の種類から選んでもよい。
【0158】
従って、一実施態様においては、1つの化合物が内皮を制御/維持する能力を有する化合物(内皮制御剤)から選択され、少なくとも1つの別の化合物が、血小板を阻害する能力を有する化合物(血小板阻害剤)、線維素溶解を直接的に(線維素溶解促進剤)もしくは間接的に(TAFIa阻害剤)増加させる能力を有する化合物から選択される。
【0159】
別の実施態様においては、1つの化合物が血小板を阻害する能力を有する化合物(血小板阻害剤)から選択され、少なくとも1つの別の化合物が、内皮を制御/維持する能力を有する化合物、または線維素溶解を直接的に(線維素溶解促進剤)もしくは間接的に(TAFIa阻害剤)増加させる能力を有する化合物から選択される。
【0160】
第3の実施態様においては、1つの化合物が線維素溶解を直接的に増強する能力を有する化合物(線維素溶解促進剤)から選択され、少なくとも1つの別の化合物はTAFIa阻害剤である。
【0161】
従って、組合せ治療は1つ以上の抗血栓性化合物、例えば1つ以上の以下のものの、あらゆる組合せによる投与を含み得る:血小板阻害剤(GPIIb/IIIa阻害剤、ADP受容体阻害剤、P2Y1阻害剤、COX1およびCOX2阻害剤、TX-シンターゼ阻害剤、アデノシン取り込み阻害剤、GPIb阻害剤、GPVI阻害剤、PAR受容体阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、ニトロアスピリン、ポリエチレングリコールに結合したアルブミン、MP40X、抗CLEC-2抗体、FBP、もしくはこれらに類似の化合物を含むがこれらに限定されない)、および/または内皮制御剤(PGI2/プロスタサイクリン類似体およびそれらのバリアント、エンドセリン受容体アンタゴニストと組み合わされたプロスタサイクリン/プロスタサイクリン類似体、NO、CD39、CD73、酸化還元調節に関わる化合物、酸化還元調節に関わる臨床薬(HMG-CoA還元酵素阻害剤)、ホノキオール、S1P受容体を制御する化合物、ヒストンに対する/拮抗する抗体および/またはその他の分子、プロテインC経路のような天然抗凝固経路を増強/制御する化合物(APC、PC、PS、sTM、sEPCRを含むがこれらに限定されない)、ATIII経路(ATIII)、TFPI経路(TFPI)、Gβγ刺激剤、および/またはt-PA、u-PA、rt-PA、ru-PAのような線維素溶解促進剤(アクチライス、メタライス、ラピリシン、ストレプターゼ、ウロキナーゼ、ならびにt-PAおよび/またはrt-PA、uPA、r-uPAを含有するその他の化合物)、ならびに、TAFIa阻害剤(CPU-I、AZD9684、MERGETPA、化合物21 (UK-396,082)、および同様の効果を有するその他の化合物を含むがこれらに限定されない)。
【0162】
従って、好ましい実施態様においては、血小板阻害剤が、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、オルボフィバン、ゼミロフィバン、ラミフィバン、XJ757、DUP728、およびXR299からなる群から選択され、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、PGI2、PGX、窒素酸化物、CD39、CD73、およびプロスタサイクリンまたはそのバリアント(例えばベラプロストナトリウム、エポプロステノールナトリウム、イロプロスト、ボセンタンと組み合わされたイロプロスト、クエン酸シルデナフィルと組み合わされたイロプロスト、トレプロスチニル、ペグ化トレプロスチニル、トレプロスチニルジエタノールアミン、およびトレプロスチニルナトリウム)、2-[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ]-N-(メチルスルフォニル)アセトアミド、[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ]酢酸、8-[1,4,5-トリフェニル-1H-イミダゾール-2-イル-オキシ]オクタン酸、イソカルバサイクリン、シカプロスト、[4-[2-(1,1-ジフェニルエチルスルファニル)-エチル]-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[1,4]オキサジン-8-イルオキシ]-酢酸 N-メチル-d-グルカミン、7,8-ジヒドロ-5-(2-(1-フェニル-1-ピリド-3-イル-メチミノキシ)-エチル)-a-ナフチルオキシ酢酸、(5-(2-ジフェニルメチルアミノカルボキシ)-エチル)-a-ナフチルオキシ酢酸、2-[3-[2-(4,5-ジフェニル-2-オキサゾリル)エチル]フェノキシ]酢酸、[3-[4-(4,5-ジフェニル-2-オキサゾリル)-5-オキサゾリル]フェノキシ]酢酸、ボセンタン、17[アルファ],20-ジメチル-[デルタ]6,6a-6a-カルバPGI1、15-デオキシ-16[アルファ]-ヒドロキシ-16[ベータ],20-ジメチル-[デルタ]6,6a-6a-カルバPGI1、およびペントキシフィリン (1-[5-オキソヘキシル]-3,7-ジメチルキサンチン)からなる群から選択される。
【0163】
同等に好ましい別の実施態様においては、血小板阻害剤がAR-C69931MX、チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル、AZD6140、およびカングレロール、チカグレロールからなる群から選択され、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、PGI2、PGX、窒素酸化物、CD39、CD73、およびプロスタサイクリンまたはそのバリアント(例えばベラプロストナトリウム、エポプロステノールナトリウム、イロプロスト、ボセンタンと組み合わされたイロプロスト、クエン酸シルデナフィルと組み合わされたイロプロスト、トレプロスチニル、ペグ化トレプロスチニル、トレプロスチニルジエタノールアミン、およびトレプロスチニルナトリウム)、2-[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ]-N-(メチルスルフォニル)アセトアミド、[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ]酢酸、8-[1,4,5-トリフェニル-1H-イミダゾール-2-イル-オキシ]オクタン酸、イソカルバサイクリン、シカプロスト、[4-[2-(1,1-ジフェニルエチルスルファニル)-エチル]-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[1,4]オキサジン-8-イルオキシ]-酢酸 N-メチル-d-グルカミン、7,8-ジヒドロ-5-(2-(1-フェニル-1-ピリド-3-イル-メチミノキシ)-エチル)-a-ナフチルオキシ酢酸、(5-(2-ジフェニルメチルアミノカルボキシ)-エチル)-a-ナフチルオキシ酢酸、2-[3-[2-(4,5-ジフェニル-2-オキサゾリル)エチル]フェノキシ]酢酸、[3-[4-(4,5-ジフェニル-2-オキサゾリル)-5-オキサゾリル]フェノキシ]酢酸、ボセンタン、17[アルファ],20-ジメチル-[デルタ]6,6a-6a-カルバPGI1、15-デオキシ-16[アルファ]-ヒドロキシ-16[ベータ],20-ジメチル-[デルタ]6,6a-6a-カルバPGI1、およびペントキシフィリン (1-[5-オキソヘキシル]-3,7-ジメチルキサンチン)からなる群から選択される。
【0164】
別の好ましい実施態様においては、血小板阻害剤はGPIIb/IIIa受容体を阻害する能力を有し半減期が3時間未満であり(例えばエプチフィバチドのように)、好ましくは2.5時間未満であり(例えばチロフィバンのように)、より好ましくは1時間未満であり(例えばアブシキシマブのように)、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物は半減期が4時間未満であり(例えばトレプロスチニルのように)、好ましくは1時間未満であり(例えばベラプロスト((35〜40分)のように)、より好ましくは1/2時間未満であり(例えばイロプロスト(20〜30分)のように)、好ましくは5分未満である(例えばエポプロステノール(0.5〜3分)のように)。
【0165】
別の好ましい実施態様においては、血小板阻害剤は血小板ADP受容体P2Y12を阻害する能力を有し半減期が12時間未満であり(例えばチクロピジンのように)、好ましくは8時間未満であり(例えばクロピドグレルのように)、より好ましくは約3〜5分であり(例えばカングレロールのように)、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物は半減期が4時間未満であり(例えばトレプロスチニルのように)、好ましくは1時間未満であり(例えばベラプロスト((35〜40分)のように)、より好ましくは1/2時間未満であり(例えばイロプロスト(20〜30分)のように)、好ましくは5分未満である(例えばエポプロステノール(0.5〜3分)のように)。
【0166】
さらに、当該治療は、上述の1つ以上の抗血栓性化合物と、以下に列挙するものを含むがそれらに限定されない療法との組合せの投与を含み得る:血漿交換もしくは血漿注入、および/またはヘパリン(例えばUFH、LMWH)を用いた抗凝固、および/または抗トロンビン、および/または活性化プロテインC、および/またはTFPI、および/またはクーマディン、および/または直接的もしくは間接的トロンビン阻害剤、および/または直接的もしくは間接的第Xa因子インヒビター。
【0167】
特に、血小板阻害剤と内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物との組合せ(例えばGPIIb/IIIa血小板阻害剤とプロスタサイクリン)が本発明により想定され、任意でさらに他の化合物と組み合わされる。好ましい組合せは、GPIIb/IIIa血小板阻害剤とプロスタサイクリンとがさらにエンドセリン受容体アンタゴニストと組み合わされたものである。
【0168】
さらに、「治療」という用語は、線維素溶解活性化剤(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、またはそれらのバリアント)を、単独で、または以下のものを含むがそれらに限定されない療法とのあらゆる組合せにおいて投与することも含む:抗血栓剤、および/または内皮制御剤(例えばプロスタサイクリン、NO)、および/または血漿交換、血漿注入、および/またはヘパリン(例えばUFH、LMWH)を用いた抗凝固、および/または抗トロンビン、および/または活性化プロテインC、および/またはTFPI、および/またはクーマディン、および/または直接的もしくは間接的トロンビン阻害剤、および/または直接的もしくは間接的第Xa因子インヒビター。
【0169】
本発明の方法において適用される化合物は、少なくとも1つの他の化合物と共に投与してもよい。当該複数の化合物は、別個の製剤としてもしくは一つのユニット用量剤形(unit dosage form)として組み合わされて同時に、または、経時的に、投与し得る。
【0170】
用量
【0171】
本明細書において、「用量」とは、患者に投与されて、血小板の凝集/血餅形成特性の阻害、および/または内皮を静止状態に維持すること、および/または血栓の線維素溶解に対する抵抗性の低下、および/または血小板の数および/もしくは機能の維持という結果をもたらす、あらゆる濃度を意味するものとする。投与することの理由となっている状態との関係において、所望の効果を生じるのに十分な用量を、「有効用量」または「有効量」と呼ぶこととする。
【0172】
当業者には理解されるように、この用途において有効な量は、患者における循環血小板および内皮細胞の数および機能性、ならびに当該血小板および内皮細胞上の受容体の数に依存する。
【0173】
必要用量は、利用される特定の薬剤組成物、投与のルート、および治療を受ける特定の患者によって異なる。理想的には、本方法により治療される患者は、化合物の最大許容用量内において医薬的有効量を受け、それは一般的には薬剤耐性が発生する量以下である。
【0174】
本発明の化合物および/または組成物の投与は、患者に与えられて該化合物の全身的濃度(systemic concentration)をもたらす。投与の方法は、経腸的、例えば経口、舌下、胃、もしくは直腸投与を含み、および/または非経口的、すなわち静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、肺内、直腸内、膣内、もしくは腹腔内投与をも含む。皮下および静脈内の非経口投与が一般的には好ましい。そのような投与のための適当な剤形は従来技術により調製し得る。当該化合物は吸入、すなわち鼻腔内および経口吸入によっても投与し得る。そのような投与のための適当な剤形、例えばエアロゾル処方または定量噴霧式吸入器は、従来技術により調製し得る。
【0175】
本発明による化合物は少なくとも一つの別の化合物と共に投与し得る。当該複数の化合物は、別個の製剤としてもしくは一つのユニット用量剤形として組み合わされて同時に、または、経時的に、投与し得る。
【0176】
通常は、治療される状態または徴候の、重症度または拡散を防ぐまたは和らげることができる用量であるべきである。正確な用量は、治療される状態、投与スケジュール、当該化合物が単独で投与されるのかあるいは別の治療薬と共に投与されるのかということ、当該化合物の血漿中半減期、および患者の健康状態の概況、などの都合に依存する。
【0177】
ここで記載される化合物は一般的に当業者にはよく知られたものであり、それらの使用における適切用量は薬局方、医薬品ハンドブック、および患者情報パンフレット(patient information leaflets)に記載されている。従って、本発明の化合物は、製造会社が推奨する用量において、または当業者(すなわち医療従事者)の間で効率的であると知られている用量において投与し得る。
【0178】
当業者には理解されるように、この用途において有効な量は、疾患または傷害の重症度、並びに患者の体重および全般的な状況に依存する。用量は好ましくは非経口投与ルート、特に静脈内、動脈内、筋肉内、ならびに/または皮下、舌下、経粘膜、肺内および気胞内ルートで投与される。
【0179】
以下に示す用量は、どの非経口投与ルートであるかに関わらず同様の桁におさまると考えられる。
【0180】
ここで開示される化合物についての全ての使用の方法において、一日の非経口用量レジメン(dosage regimen)は総体重キログラム当たり約0.001から約80 mgである。一日の経口用量レジメンは好ましくは総体重キログラム当たり約0.01から約80 mgである。一日の局所(topical)用量レジメンは好ましくは0.1 mgから150 mgを一日1〜4回(好ましくは2回または3回)である。一日の吸入(inhalation)用量レジメンは好ましくは一日当たり約0.01 mg/kgから約1 mg/kgである。ある化合物またはその医薬的に許容される塩の、個々の投与量についての最適な量および間隔は、治療される状態の性質および程度、投与の形態、ルートおよび部位、ならびに治療を受ける特定の患者に応じて決められ、そのような最適な形は従来法により決めることができる、ということも当業者には認識されるであろう。また、最適な治療の過程、すなわち、一定の日数に渡ってある化合物またはその医薬的に許容される塩を投与する一日当たりの回数は、当業者が従来からの治療決定試験を用いて確認することができるということも、当業者には理解されるであろう。
【0181】
本明細書で使用する「ユニット用量剤形」という用語は、ヒトおよび動物患者のための単位用量として適切な、物理的に個別化されたユニットを指し、各々のユニットが、決められた量(所望の効果を生じるのに十分な量に計算される)の化合物を、単独でまたは他の薬剤との組合せで、医薬的に許容される希釈剤、担体、または媒体と共に含有する。本発明のユニット用量剤形の規格は、利用されるその特定の1つまたは複数の化合物に、また意図される効果に依存し、さらには宿主体内での各化合物の薬動力学にも依存する。
【0182】
本明細書で開示する化合物および/または組成物を全身的に投与することは、本発明の1つの目的である。当該化合物を非経口的に投与すること、好ましくは静脈内および/または動脈内投与することも、本発明の1つの目的である。
【0183】
本発明の医薬組成物およびその使用
【0184】
本発明はまた、上で言及した化合物(血小板阻害剤、内皮制御剤、線維素溶解促進剤、TAFIa阻害剤)のあらゆる組合せを含む医薬組成物に関わり、例えば1つの化合物、例えば少なくとも2つの化合物、例えば少なくとも3つの化合物、および1つ以上の医薬的に許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物に関わる。そのような医薬的に許容される担体または賦形剤、および適切な医薬製剤法は、当該技術分野においてよく知られている(例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa (1990)を参照のこと)。好ましい一実施態様において、血小板阻害性/内皮保護性のバリアントは非経口組成物として調製される。そのような非経口的に投与できる組成物を調製する方法も、当業者にとっては既知であるか自明であり、より詳細には例えばRemington's Pharmaceutical Sciences、18th ed.、Mack Publishing Company、Easton、Pa (1990)に記述されている。ここにおいて、「医薬的に許容される」という用語は、投与される患者において不都合な作用を引き起こすことのない担体または賦形剤を意味する。
【0185】
非経口投与のための組成物は、医薬的に許容される担体、好ましくは水性担体と組合わされて、好ましくはそれに溶解されて、本発明の血小板抗凝集剤を含む。水、緩衝された水、例えば0.7%、0.8%、0.9%または1%の生理食塩水、例えば0.2%、0.3%、0.4%または0.5%のグリシン、等、様々な水性担体が使用され得る。通常は、当該組成物は0.9% w/wの塩化ナトリウム水溶液に相当する浸透圧を有することが目標となる。さらに、当業者には知られているように、投与ルートに特異的に依存して、pHはpH 7.4を中心として適当な範囲で調節し得る。当該組成物はよく知られた従来の滅菌法により滅菌できる。結果として得られた水溶液は、使用可能なようにパッケージ化されるか、または無菌環境下で濾過され凍結乾燥され、当該凍結乾燥調製物は投与に先立って滅菌水溶液と組み合わされる。
【0186】
当該組成物は、生理的条件に近似させるために必要な、pH調整剤および緩衝剤、安定化剤、保存剤、非イオン性界面活性剤または洗剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、等の、医薬的に許容される補助的物質を含み得、それらには例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどがある。
【0187】
治療方法における薬剤送達の主要なルートは、下で記述されるように、静脈内、経口、および局所(topical)である。薬剤を標的部位に効果的に送達する、または薬剤を血流に効果的に導入する他の薬剤投与法、例えば皮下注射または吸入も考慮される。
【0188】
本発明の化合物は、非経口的に、すなわち静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、直腸内、膣内、または腹腔内投与により、投与され得る。そのような投与のための適当な剤形は従来技術により調製し得る。当該化合物は吸入、すなわち鼻腔内および経口吸入によっても投与し得る。そのような投与のための適当な剤形、例えばエアロゾル製剤または定量噴霧式吸入器は、従来技術により調製し得る。
【0189】
当該化合物は好ましくは静脈内および/または肺胞内に投与され、連続的なもしくはパルス状の(pulsatile)注入で、またはボーラス注入として、投与され得る。
【0190】
本発明の方法で適用される化合物は、少なくとも一つの別の化合物と共に投与し得る。当該複数の化合物は、別個の製剤としてもしくは一つのユニット用量剤形として組み合わされて同時に、または、経時的に、投与し得る。従って、例えば、1つの化合物を静脈内投与しもう1つ別の化合物を経口投与により組み合わせることも考慮される。
【0191】
臨床適応症(Clinical indications)
【0192】
上述したように、本発明は臓器不全の治療および/または防止に関わり、ここで臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重篤患者における臓器機能の変化として定義される。本明細書において臓器不全とは、少なくとも1つの臓器、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器におけるMOFおよびTAMOFを含む。
【0193】
さらに、本発明の化合物および/または医薬組成物は、全身性炎症(低グレードおよび高グレード)、および/または、血小板および/もしくは内皮の活性化増強および/もしくは機能不全に関連するあらゆる状態および/または疾患の、予防、減少、および/または治療にも適している。
【0194】
【表4】
【0195】
【表5-1】
【0196】
【表5-2】
【0197】
【表5-3】
【0198】
【表5-4】
【0199】
【表5-5】
【0200】
【表5-6】
【0201】
従って、一実施態様において本発明は、上で定義されるところの臓器不全に罹る危険性が上昇している重篤患者を、上で述べた1つ以上の化合物を投与することにより治療する方法に関わり、当該化合物は次に示す種類の1つ以上に属する:
1.血小板阻害剤
2.内皮の恒常性を制御/維持する薬剤
3.線維素溶解促進性化合物
4.TAFIaに対する阻害剤
これらは任意でさらに他の化合物と組み合わされる。
【0202】
臓器不全の危険性が上昇していることは、患者の臨床的様態により、および/または標準的な臨床検査により、判断できる。さらに加えて、後述するように、重篤患者が臓器不全に罹る危険性にあることはTEG/ROTEMにより評価することもできる。特に、例えば重篤患者がTEG/ROTEMにより評価され凝固性低下または過凝固と診断されたら、当該患者は臓器不全に罹る危険性が上昇していると考えられる。
【0203】
患者は様々な疾患および状態によって重篤になり得る。全身性炎症に関連し従って臓器不全の危険性上昇に関連する臨床状態の非包括的なリストを上の表4および5に示す。
【0204】
従って、一実施態様において本発明は、いずれかの血小板受容体および/または血小板活性化を媒介する細胞内経路を阻害する化合物を、単独で、または内皮制御剤および/または線維素溶解促進剤および/またはTAFIa阻害剤と組み合わせて、全身性炎症および/または臓器不全の治療または予防のために、表4および5に記載されるいずれかの障害を有する患者に投与することに関わる。
【0205】
従って、さらに別の実施態様において本発明は、いずれかの血小板受容体および/または血小板活性化を媒介する細胞内経路を通じて血管内皮を制御する化合物を、単独で、または血小板阻害剤および/または線維素溶解促進剤および/またはTAFIa阻害剤と組み合わせて、全身性炎症および/または臓器不全の治療または予防のために、表4および5に記載されるいずれかの障害を有する患者に投与することに関わる。
【0206】
従って、別の実施態様において本発明は、上記いずれかの経路を通じて線維素溶解を増強および/または制御する化合物を、単独で、またはTAFIa阻害剤と組み合わせて、全身性炎症および/または臓器不全の治療または予防のために、表4および5に記載されるいずれかの障害を有する患者に投与することに関わる。
【0207】
従って、本発明の一側面は、単独で、または2つまたは3つまたは4つの化合物の組合せとして投与される、血小板阻害剤、内皮制御剤、線維素溶解促進剤、およびTAFIa阻害剤のうちの1つ以上を含み、切迫した、疑われる、または顕在している臓器不全を防止および/または治療するための医薬組成物に関わり、ここで臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における、臨床的におよび/またはパラクリニカルに疑われる臓器機能不全および/または臓器機能の変化として定義される。臓器不全は、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0208】
特定の実施態様において、臓器不全は、全身性炎症によるもの、重度な感染によるもの、敗血症によるもの、SIRSおよび/またはCARS によるもの、凝固障害によるもの、外傷および/または火傷によるもの、血液系腫瘍、固形腫瘍および転移性腫瘍のような悪性疾患によるもの、虚血によるもの、心血管血栓塞栓性疾患によるもの、または中毒症によるものである。
【0209】
さらなる特定の一実施態様においては、不全になる単数または複数の臓器は、循環器、呼吸器、腎器官、血液系器官、神経系器官、胃腸管系器官、および肝器官ならびに筋骨格からなる群から選択され、例えば心臓、血管、微小血管系、肺、腎臓、骨髄、脳、腸、膵臓、肝臓、骨、関節、および筋肉である。
【0210】
TEGを用いた重篤患者の識別
【0211】
本発明の別の側面は、TEGを使用して重篤患者を識別することに関する。
【0212】
多臓器不全(MOF)の危険性が最も高くなっている重篤患者を識別し、これらの患者を、内皮を保護し、微小循環中の病理的血栓形成を防止し、血小板の数と機能を維持する医療介入によって治療することは、MOF、出血、および免疫不全の発症からこれらの重篤患者を守ることになり得る。重要なことに、血小板減少症の防止および/または循環血小板の数と機能の維持が、MOFおよび免疫不全を回避するためのツールとなり得るという概念はパラダイムシフトであり、生体防御および炎症反応における血小板の新たにわかってきた役割に基づくものである(そこでは血小板が感染の除去に直接的に貢献するとともに、古典的な免疫細胞と協働しまたそれらの機能を調整する)。
【0213】
細胞に基づく止血モデルの導入により、血餅の発生および安定性における血小板の中心的な役割およびトロンビン生成の動態学が強調されてきた。TEGの解析結果がその個体のトロンビン産生能と相関するという発見と共に、この全血解析に再び関心が集まるようになった[Ganter et al. 2008]。TEG法を以下に記述する。
【0214】
クエン酸化全血粘弾性止血アッセイ:トロンボエラストグラフィー(TEG)またはトロンボエラストメトリー(ROTEM)
【0215】
TEGインビトロアッセイは、血餅形成活性および血餅強度の重要なパラメータを決定するのに適している。TEGシステムが患者の止血をモニターするアプローチは、止血プロセスの最終結果が血餅であるという前提に基づいている。血餅の物理的な特性が、その患者が正常に止血するかあるいは出血や血栓症の危険性が高くなるか、ということを決定する(Salooja et al. 2001)。
【0216】
TEG解析機は、回転するカップ中の少量の血液サンプル、および、ねじれワイヤー(torsion wire)により当該血液中に吊るされたピンを使用し、その挙動がモニターされる。血餅形成を速めるためには、ピンをカップに入れる直前に、標準量の凝固活性化物質(例えばカオリン、組織因子)をカップに添加することができる。フィブリンおよび/またはフィブリン‐血小板が結合することによりカップとピンとが連結されてはじめて、回転するカップのトルクが浸されたピンに伝達する。これらの結合の強度および率がピンの動きの大きさに影響し、強い血餅はカップの動きと同じ位相(phase)で直接的にピンを動かすことになる。従ってTEGテクノロジーは、解析機に血液を入れた時点から、最初にフィブリンが形成し、血餅率が強まり、GPIIb/IIIaを介してフィブリン‐血小板が結合するまで、さらには最終的な血餅溶解までを通じて、血小板とタンパク質凝固カスケードとの相互作用を記録する。TEGのRパラメータは、開始段階、反応時間、凝固の始まりから最初のフィブリンバンドが形成するまでを反映する;アングル(α)は、血餅強度の増加、血餅キネティクスを表し、トロンビン産生と相関する。最大振幅(MA)パラメータは、最大血餅強度すなわち血餅の最大弾性モード(elastic modus)を反映する。Ly30はMAに到達した30分後の時点で溶解している血餅の割合を示し、線維素溶解を反映する。
【0217】
血餅の強度および安定度、ならびにその変化の測定法については、相対的血餅強度の増加はTEG(トロンボエラストグラフィー)で計測可能なパラメータであるMAによって、血餅安定度はTEGから導き出されるパラメータである溶解(Lysis)AUCによって、測定することができる。最大振幅(MA)パラメータは、最大血餅強度すなわち血餅の最大弾性モード(elastic modus)を反映する。溶解曲線下の面積、すなわちMAが得られた以降の曲線の下の面積(溶解AUC)は線維素溶解の程度を反映する。ひとつの手順の間、血餅の強度および安定度の両方を測定することもできるし、安定度または強度のどちらかというように一つのパラメータだけを追うこともできる。本発明の目的の一つは、MAで測定される血餅強度を、止血促進性アゴニスト投与前と比較して105%、例えば110%、例えば115%、例えば120%、例えば125%、例えば130%、例えば135%、例えば140%、例えば145%、例えば150%、例えば155%、例えば160%、例えば165%、例えば170%、例えば175%、例えば180%、例えば185%、例えば190%、例えば195%、例えば200%あるいはそれ以上に増加させることである。同様に、血餅の安定度が溶解AUCを増加させることも本発明の目的の一つである。このパラメータはTEG解析によって、例えば組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)を加えた後に測定でき、従って、本発明の目的の一つは、溶解AUCにより測定される血餅安定度を交感神経刺激アゴニストの投与前と比較して105%、例えば110%、例えば115%、例えば120%、例えば125%、例えば130%、例えば135%、例えば140%、例えば145%、例えば150%、例えば155%、例えば160%、例えば165%、例えば170%、例えば175%、例えば180%、例えば185%、例えば190%、例えば195%、例えば200%あるいはそれ以上に増加させることである。
【0218】
TEGシステムは、ユニークな有用さを持つツールとして認められており、例えば肝臓移植[Kang et al 1985]や心血管系手術などの大規模な手術中における止血の管理、さらには産科、外傷、神経外科手術、深部静脈血栓症の管理、ならびに血小板GPIIb/IIIaアンタゴニストの監視および識別[Di Benedetto 2003]などにも広く使用されてきた。血餅強度(MA)を正常化することを目標とする、TEGを基にした輸血療法は、血液製剤の使用の減少、再検査(re-exploration)率の低下、心臓手術中の出血の予測につながってきた。心臓補助装置のモニタリングにも利用されてきた。TEGの臨床的有用性は、この解析が患者のトロンビン産生能力およびその結果としての血餅の物理的特性を同定し定量化すること、さらには線維素溶解の増強を同定すること、に由来する[Rivard et al. 2005]。
【0219】
実施例1のデータは、TEGが、臓器不全(MOFを含む)および死亡の危険性が上昇している患者を従来の凝固解析(ISTH DICスコアのような種々の予後スコアに含まれる)よりも早く識別することを実証している。ICUに搬入された時点で凝固性低下TEGを示す患者は、正常TEGである患者と比較して、有意に上昇したAPACHE IIスコアを有し、より高い最大SOFAスコアを生じ、クレアチニンが増加している、ということも、TEGの結果の臨床的重要性をさらに示している。搬入時においてはTEGには差があったが血小板数には差がなかったことから、止血系において病態生理的意味を有する変化は、ルーチン的な検査パラメータよりもTEGの方により迅速に、またより特異的に、反映される。TEGはクエン酸化全血において行われ、微量のフィブリンが最初に形成される時点を越えてさらに調査する。この技術は、凝固および血餅形成過程の全体についての質およびスピードを記述する。これに対して、通常用いられるルーチン的な検査室試験は遠心分離した血漿画分について行われるため、一方ではタンパク質凝固カスケード他方では血小板およびフィブリンが関わる重要な相互作用を見逃すこととなる。凝固性低下は、患者において重要臓器における微小血栓形成に関与することによる血小板の消耗の増加を反映し、そのことは、ICU搬入の時点で正常TEGを示す患者よりも最大SOFAスコアが高いことにより示される。
【0220】
過凝固は止血系の活性化が上昇し、血小板を過剰活性にし、血栓を発生しやすくさせていることを反映する。
【0221】
クエン酸化全血粘弾性止血アッセイによる、臓器不全(MOFを含む)の発生危険性が上昇した患者の識別
【0222】
従って、一実施態様において本発明は、ICUに到着した時点で、細胞ベースの粘弾性アッセイによって、患者からのクエン酸化全血試料、例えばカオリンで活性化されたクエン酸化全血試料、例えば組織因子で活性化されたクエン酸化全血試料、例えば未変性(native)全血試料、例えばカオリンで活性化された未変性全血試料、例えば組織因子で活性化されたクエン酸化全血試料、を解析することによって、臓器不全(MOFおよびTAMOFを含む)の発生危険性が上昇した重篤患者を識別する方法に関わる。
【0223】
従って、一実施態様において本発明は、トロンボエラストグラフィー(TEG)システムによって患者からのクエン酸化全血試料を解析することによってTAMOF発生の危険性が上昇した重篤患者を識別する方法に関わる。
【0224】
従って、一実施態様において本発明は、トロンボエラストメトリー(ROTEM)システムによって患者からのクエン酸化全血試料を解析することによってTAMOF発生の危険性が上昇した重篤患者を識別する方法に関わる。
【0225】
従って、一実施態様において本発明は、トロンボエラストグラフィー(TEG)および/またはトロンボエラストメトリー(ROTEM)システムによって患者からの全血試料を解析することによって、TAMOF発生の危険性が上昇した凝固性低下の重篤患者を識別する方法に関わる。
【0226】
従って、一実施態様において本発明は、トロンボエラストグラフィー(TEG)および/またはトロンボエラストメトリー(ROTEM)システムによって患者からのクエン酸化全血試料を解析することによって、TAMOF発生の危険性が上昇した過凝固性の重篤患者を識別する方法に関わる。
【0227】
品目
【0228】
従って、一実施態様において本発明は、1つ以上の血小板阻害剤および線維素溶解活性を増強する能力を有する1つ以上の化合物を含む組成物に関わる。
【0229】
従って、一実施態様において本発明は、1つ以上の血小板阻害剤および1つ以上のTAFIa阻害剤を含む組成物に関わる。
【0230】
従って、一実施態様において本発明は、内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する1つ以上の化合物および線維素溶解活性を増強する能力を有する1つ以上の化合物を含む組成物に関わる。
【0231】
従って、一実施態様において本発明は、内皮の恒常性を制御/維持する能力を有する1つ以上の化合物および1つ以上のTAFIa阻害剤を含む組成物に関わる。
【0232】
従って、一実施態様において本発明は、血小板GPIIb/IIIa受容体を阻害する能力を有する血小板阻害剤がトロンボキサン・シンターゼの阻害剤と共に投与される組成物に関わる。
【0233】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤が血小板のCOX1および/またはCOX2経路を阻害する能力を有するもの(例えばサリチレート、アリールアルカン酸、2-アリールプロピオン酸、N-アリールアントラニル酸、ピラゾリジン誘導体、およびオキシカム)である組成物に関わる。
【0234】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤がフラボノイド、アピゲニンのようなトロンボキサン・シンターゼを阻害する能力を有するもの、および、SQ29548、Bay u 3405、BM 13.177のようなTPアンタゴニストである組成物に関わる。
【0235】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤が血小板におけるアデノシン取込みを阻害する能力を有するもの(例えばペルサンチン、アササンチン、アグレノックスのようなジピラミドール)である組成物に関わる。
【0236】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤が血小板GPIb受容体を阻害する能力を有するもの(例えばmAB Ib-23、mAB 6B4、R9アルファ557ペプチド、アウリントリカルボン酸(ATA)、クロタリン、アジキスチン、アルファB-クリスタリンのTrp-Ile-Arg-Arg-Pro-Phe-Phe-Pro-Pheペプチド)である組成物に関わる。
【0237】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤が血小板GPVI受容体を阻害する能力を有するもの(例えばEXP3179、トリプラチン-1および-2、JAQ1、mAB 10B12、mAB 1C3、mAb 12G1)である組成物に関わる。
【0238】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤が血小板PAR受容体を阻害する能力を有するもの(例えばトロンビン阻害剤、ヘテロ環に基づくペプチド模倣性のPAR-1アンタゴニスト、RWJ-56110およびRWJ-58259、SCH 79797、SCH 203099、ならびに、トランス‐シンナモイル‐YPGKF-アミド(tc-Y-NH(2))およびパルミトイル‐SGRRYGHALR-アミド(P4pal10)のようなPAR4アンタゴニスト、PAR-2アンタゴニストENMD-1068、PAR2モノクローナル抗体SAM-11)である組成物に関わる。
【0239】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤がPDE3ホスホジエステラーゼ阻害剤、例えばシロスタゾールである組成物に関わる。
【0240】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤がニトロアスピリン(NCX4016)である組成物に関わる。
【0241】
従って、一実施態様において本発明は、血小板阻害剤がポリエチレングリコールに結合されたアルブミンである組成物に関わる。
【0242】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物がCD39およびCD73からなる群から選択されるものである組成物に関わる。
【0243】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が内皮機能の酸化還元調節に関わる化合物である組成物に関わる。
【0244】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、L-アルギニンおよびテトラヒドロビオプテリン、抗酸化物質(アスコルビン酸、グルタチオン、α-トコフェロール、ユビキノール-10、プロブコール)、鉄キレート剤、ポリフェノールからなる群から選択されるものである組成物に関わる。
【0245】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、HMG-CoA還元酵素阻害剤(フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン)、アンジオテンシン受容体アンタゴニストおよびACE阻害剤(カプトプリル、ゾフェノプリル、エナラプリル、ラミプリル、キナプリル、ペリンドプリル、リシノプリル、ベナゼプリル、フォシノプリル、カソキニン、ラクトキニン)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARs)、NADPHオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、PETN、ヘパラン硫酸(PI-88)、ヘパラン硫酸模倣物質(mimetics)、酸化型/非ヘム型sGCの活性化物質(BAY 58-2667)、および抗PECAM/SODからなる群から選択されるものである組成物に関わる。
【0246】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物がホノキオールである組成物に関わる。
【0247】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体に対する制御作用を通して内皮の障壁機能を直接制御する化合物である組成物に関わる。
【0248】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物がTY720、AA-R、AAL-S、KRP-203、AUY954、CYM-5442、SEW2871、W146、W140、VPC44116、VPC23019、JTE-013からなる群から選択されるものである組成物に関わる。
【0249】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、ヒストンに対する/拮抗する抗体および/またはその他の分子(ヒストン媒介性の内皮損傷および/または微小血栓形成および/またはフィブリン沈着を阻害するもの)である組成物に関わる。
【0250】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、天然の抗凝固経路を増強し内皮を保護する化合物、例えば(これらに限定されないが)、プロテインC経路(活性化プロテインC(APC、ドロトレコギンアルファ)、プロテインC、可溶性トロンボモジュリンおよび/またはEPCRおよび/またはプロテインSを模倣する、および/または分解から守る、および/または増強する化合物)、アンチトロンビンIII(ATIII)(またはATIII様化合物および/またはATIIIの機能を増強する化合物)、ならびに組織因子経路インヒビター(TFPI)(またはTFPI化合物および/またはTFPIの機能を増強する化合物)である組成物に関わる。
【0251】
従って、一実施態様において本発明は、内皮恒常性を制御/維持する能力を有する化合物が、内皮PAR活性化の後にGβγの機能および/またはシグナル伝達を維持および/または促進することにより、炎症性PAR媒介Gα活性化後に開裂した接着結合の再アニーリングを確保する化合物である組成物に関わる。
【0252】
従って、一実施態様において本発明は、線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物が、アルテプラーゼ(Alteplase)、テネクテプラーゼ(Tenecteplase)、レテプラーゼ(Reteplase)、ストレプトキナーゼのような組織プラスミノーゲン活性化因子からなる群から選択されるものである組成物に関わる。
【0253】
従って、一実施態様において本発明は、少なくとも1つの臓器(例えば少なくとも2つの臓器)における微小血栓症として定義され多臓器不全を含む、臓器不全の防止または治療のためのTAF1a阻害剤に関わる。
【0254】
本発明の一実施態様においては、TAF1a阻害剤はCPU-I、AZD9684、MERGETPA、化合物21 (UK-396,082)からなる群から選択される。
【0255】
本発明の一実施態様においては、血小板GPIIb/IIIa受容体を阻害する能力を有する化合物がトロンボキサン・シンターゼの阻害剤と共に投与される。
【0256】
本発明の一実施態様においては、血小板阻害剤は血小板COX1および/またはCOX2経路を阻害する能力を有するもの(例えばサリチレート、アリールアルカン酸、2-アリールプロピオン酸、N-アリールアントラニル酸、ピラゾリジン誘導体、およびオキシカム)である。55-60
【0257】
本発明の一実施態様においては、血小板阻害剤はフラボノイド(例えばアピゲニン)のようなトロンボキサン・シンターゼを阻害する能力を有するもの、および、SQ29548、Bay u 3405、BM 13.177のようなTPアンタゴニストである
【0258】
本発明の一実施態様においては、血小板阻害剤は血小板におけるアデノシン取込みを阻害する能力を有するもの、例えばペルサンチン、アササンチン、アグレノックスのようなジピラミドールである。
【0259】
本発明の一実施態様においては、血小板阻害剤は血小板GPIb受容体を阻害する能力を有するもの、例えばmAB Ib-23、mAB 6B4、R9アルファ557ペプチド、アウリントリカルボン酸(ATA)、クロタリン、アジキスチン、アルファB-クリスタリンのTrp-Ile-Arg-Arg-Pro-Phe-Phe-Pro-Pheペプチドである。
【0260】
本発明の一実施態様においては、血小板阻害剤は血小板GPVI受容体を阻害する能力を有するもの、例えばEXP3179、トリプラチン-1および-2、JAQ1、mAB 10B12、mAB 1C3、mAb 12G1)である。
【0261】
本発明の一実施態様においては、血小板阻害剤は血小板PAR受容体を阻害する能力を有するもの(例えばトロンビン阻害剤、ヘテロ環に基づくペプチド模倣性のPAR-1アンタゴニスト、RWJ-56110およびRWJ-58259、SCH 79797、SCH 203099、ならびに、トランス‐シンナモイル‐YPGKF-アミド(tc-Y-NH(2))およびパルミトイル‐SGRRYGHALR-アミド(P4pal10)のようなPAR4アンタゴニスト、PAR-2アンタゴニストENMD-1068、PAR2モノクローナル抗体SAM-11)である。
【0262】
従って、一実施態様において本発明は、臓器不全の防止または治療のための、全血において線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物に関わり、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義され、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0263】
本発明の一実施態様においては、全血において線維素溶解活性を増強する能力を有する化合物は、アルテプラーゼ、テネクテプラーゼ、レテプラーゼ、ストレプトキナーゼのような組織プラスミノーゲン活性化因子からなる群から選択される。
【0264】
従って、一実施態様において本発明は、多臓器不全を含む臓器不全の防止または治療のためのTAF1a阻害剤に関わり、ここで、臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における臓器機能の変化として定義される。ここでいう臓器不全は、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0265】
本発明の一実施態様においては、TAF1a阻害剤はCPU-I、AZD9684、MERGETPA、化合物21 (UK-396,082)からなる群から選択される。
【0266】
従って、一実施態様において本発明は、悪性疾患(例えば固形腫瘍、血液系腫瘍、転移性腫瘍などがあるがこれらに限定されない)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0267】
従って、一実施態様において本発明は、移植を受けている患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。移植とは、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、腸、またはそれらの任意の組合せのような、実質臓器についてのものを意味する。
【0268】
従って、一実施態様において本発明は、同種異系間(allogenic)または自己(autologous)の造血幹細胞、骨髄、T細胞、B細胞の移植を受けている患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。さらに、同種異系間移植、移植片対宿主疾患、および/または移植片拒絶(宿主対移植片)の合併症の治療もここに含まれる。
【0269】
従って、一実施態様において本発明は、体外循環に際して二次的に起こる、例えば(これらに限定されないが)心肺バイパスを受けている患者、ECMO治療を受けている患者、循環補助装置を受けている患者、非生物的人工心臓弁を受けている患者における、TAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0270】
従って、一実施態様において本発明は、ヒト体内のいずれかの部位に人工血管を有している患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0271】
従って、一実施態様において本発明は、自己免疫疾患(例えばリウマチ性関節炎(若年性および/または成人性)、全身性エリテマトーデス、強皮症、抗リン脂質抗体症候群などがあるがこれらに限定されない)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0272】
従って、一実施態様において本発明は、潰瘍性大腸炎(colitis ulcerosa)またはMbクローン病を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0273】
従って、一実施態様において本発明は、壊死性筋膜炎(necrotisizing fasceitis)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0274】
従って、一実施態様において本発明は、火傷外傷(burn trauma)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0275】
従って、一実施態様において本発明は、放射線に曝された患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0276】
従って、一実施態様において本発明は、分娩合併症(子癇前症、HELLP症候群等を含むがこれらに限定されない)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0277】
一実施態様において、臓器不全は虚血に続いて起こる再灌流傷害によるものである。
【0278】
従って、一実施態様において本発明は、全身性炎症反応症候群を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0279】
従って、一実施態様において本発明は、急性血管閉塞(例えば腸間膜血栓症があるがこれに限定されない)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0280】
従って、一実施態様において本発明は、溶血性尿毒症症候群を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0281】
従って、一実施態様において本発明は、何らかの感染源による全身性感染症(例えば細菌、マイコプラズマ、マイコバクテリア、リケッチア(ricketsiae)、ウイルス、真菌、原虫等による感染があるがこれらに限定されない)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0282】
従って、一実施態様において本発明は、手術後または外傷後におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0283】
従って、一実施態様において本発明は、血管炎(例えばベーチェット病、ビュルガー病、脳血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、クリオグロブリン血症、巨細胞性動脈炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、顕微鏡的多発血管炎、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、リウマチ性血管炎、高安動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症などがあるがこれらに限定されない)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0284】
従って、一実施態様において本発明は、毒素(クモ、ヘビ、サソリ、クラゲ、ハチ(wasp)、ハチ(bee)、ヤドクガエル、ミツバチ、シアノトキシン、例えばガラガラヘビのようなマムシ類(Pit vipers)等があるがこれらに限定されない)を有する患者におけるTAMOFの治療または予防のための化合物に関わる。
【0285】
従って、一実施態様において本発明は、化学療法(シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサロプラチンに例示されるアルキル化剤(L01A);DNAの構成要素となるプリン(アザチオプリン、メルカプトプリン)またはピリミジンになりすます代謝拮抗物質(L01B);ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、ポドフィロトキシンで例示される植物アルカロイドおよびテルペノイド(L01C);タキサン(L01CD)タキソール、ドセタキセル;トポイソメラーゼ阻害剤(L01CBおよびL01XX)トポテカン、イリノテカン、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド;抗腫瘍抗生物質(L01D)ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン;トラスツズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ベバシズマブのようなモノクローナル抗体、などが挙げられるがこれらに限定されない)により治療される患者におけるTAMOFの治療または予防のための方法に関わる。
【0286】
従って、一実施態様において本発明は、照射療法(従来型の外照射(external beam radiotherapy)、バーチャル・シュミレーション、三次元原体照射、強度変調放射線治療、ラジオアイソトープ療法(RIT)などが挙げられるがこれらに限定されない)により治療される患者におけるTAMOFの治療または予防のための方法に関わる。
【0287】
従って、一実施態様において本発明は、単独で、または2つまたは3つまたは4つの化合物の組合せとして投与され、血小板阻害剤、内皮制御剤、線維素溶解促進剤、およびTAFIa阻害剤のうちの1つ以上を含み、切迫した、疑われる、または顕在している臓器不全を防止および/または治療するための医薬組成物として定義される化合物に関わり、ここで臓器不全とは、ホメオスタシスを達成するために医療介入を必要とする重症患者における、臨床的におよび/またはパラクリニカルに疑われる臓器機能不全および/または臓器機能の変化として定義される。臓器不全は、少なくとも1つの臓器における、例えば少なくとも2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの臓器における、MOFおよびTAMOFを含む。
【0288】
従って、一実施態様において本発明は、全身性炎症、重度な感染、敗血症、SIRSおよび/もしくはCARS 、凝固障害、外傷(鈍的(Blunt)外傷、貫通性外傷、多発外傷、神経外傷、軽傷、重傷)および/もしくは火傷/凍傷、血液系腫瘍、固形腫瘍および転移性腫瘍のような悪性疾患、虚血/出血、心血管血栓塞栓性疾患、または中毒症、による臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0289】
従って、一実施態様において本発明は、循環器、呼吸器、腎器官、血液系器官、神経系器官、胃腸管系器官、および肝器官ならびに筋骨格からなる群から選択される臓器(例えば心臓、血管、微小血管系、肺、腎臓、骨髄、脳、腸、膵臓、肝臓、骨、関節、および筋肉)の不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0290】
従って、一実施態様において本発明は、細菌(細胞内、細胞外、マイコバクテリア)、ウイルス、真菌、寄生生物、プリオンで例示される、何らかの微生物により引き起こされる感染疾患による臓器不全の治療または予防のための化合物に関わり、それは循環器、呼吸器、腎器官、血液系器官、神経系器官、胃腸管系器官、肝器官および筋骨格における何らかの微生物による感染を含む(例えば心臓、血管、微小血管系、肺、腎臓、骨髄、脳、腸、膵臓、肝臓、骨、関節、および筋肉における心内膜炎、髄膜炎、脳炎、下痢、肝炎、尿路感染、腹腔内感染、肺炎、咽頭炎、関節感染、皮膚感染および軟部組織感染)。
【0291】
従って、一実施態様において本発明は、動脈硬化症(stherosclerosis)、血栓、塞栓(コレステロール、脂肪、空気、敗血症性、組織、異物、羊水)、外傷、血管閉塞、血管炎、動脈瘤、重度貧血、および/または微小血栓/塞栓/閉塞(切迫したもの、疑われるもの、顕在するもの)による1つ以上の臓器における虚血による、または、何らかの微生物による重症感染症(敗血症、重傷敗血症、敗血症性ショック、臓器不全、MOF、DIC、壊死性筋膜炎を含む) による、臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0292】
従って、一実施態様において本発明は、手術、外傷、および/または火傷による臓器不全(SIRS、代償性抗炎症性反応症候群、ショック、組織低潅流、塩基欠乏(base deficit)、乳酸アシドーシス、MOF、DIC、凝固障害(過凝固、凝固性低下、線溶能亢進)を含む)の治療または予防のための化合物に関わる。
【0293】
従って、一実施態様において本発明は、悪性疾患および化学療法的/免疫抑制的治療、固形腫瘍、血液系悪性腫瘍、転移性腫瘍による臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0294】
従って、一実施態様において本発明は、化学療法(シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサロプラチンに例示されるアルキル化剤(L01A);プリン(アザチオプリン、メルカプトプリン)またはピリミジンになりすます代謝拮抗物質(L01B);ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、ポドフィロトキシンで例示される植物アルカロイドおよびテルペノイド(L01C);タキサン(L01CD)タキソール、ドセタキセル;トポイソメラーゼ阻害剤(L01CBおよびL01XX)トポテカン、イリノテカン、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド;抗腫瘍抗生物質(L01D)ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン)によって引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0295】
従って、一実施態様において本発明は、トラスツズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ベバシズマブのようなモノクローナル抗体により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0296】
従って、一実施態様において本発明は、照射および/または照射療法(従来型の外照射、バーチャル・シュミレーション、三次元原体照射、強度変調放射線治療、ラジオアイソトープ療法(RIT))により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0297】
従って、一実施態様において本発明は、移植(心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、腸、またはそれらの任意の組合せ)、同種異系間または自己の造血幹細胞、骨髄、T細胞、B細胞およびそれらの合併症(例えば移植片対宿主疾患(急性、慢性)、移植片拒絶(宿主対移植片))により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0298】
従って、一実施態様において本発明は、体外循環、血漿交換、白血球除去、透析、腎置換療法、血管プロステーシスおよび/またはアフェレーシス療法、心肺バイパス、ECMO、循環補助装置により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0299】
従って、一実施態様において本発明は、非生物的人工心臓弁、人体のいずれかの箇所における人工血管(生物的、非生物的)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0300】
従って、一実施態様において本発明は、アルコール、レクリエーショナルドラッグ、医原性物(化学療法、過量服用、相互作用、有害事象)、ヘビ/昆虫による咬傷(クモ、ヘビ、サソリ、クラゲ、ハチ(wasp)、ハチ(bee)、ヤドクガエル、ミツバチ)、シアノトキシン、ガラガラヘビのようなマムシ類による中毒により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0301】
従って、一実施態様において本発明は、心血管疾患(狭心症、アテローム性動脈硬化、心筋症、うっ血性心不全、冠動脈疾患、頸動脈疾患、心内膜炎、心臓発作(冠動脈血栓、心筋梗塞)、高血圧症、高コレステロール血症/高脂血症、末梢動脈疾患(Peripheral artery disease)、脳卒中、虚血に伴う再灌流傷害などがあるがこれらに限定されない)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0302】
従って、一実施態様において本発明は、全身性自己免疫疾患(リウマチ性関節炎(若年性および/または成人性)、全身性エリテマトーデス、強皮症、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、混合性結合組織疾患)、シェーグレン症候群、線維筋痛症、サルコイドーシスにより引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0303】
従って、一実施態様において本発明は、血管炎(ベーチェット病、ビュルガー病、脳血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、クリオグロブリン血症、巨細胞性動脈炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、顕微鏡的多発血管炎、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、リウマチ性血管炎、高安動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0304】
従って、一実施態様において本発明は、アレルギー性疾患(アナフィラキシー、喘息、好酸球食道炎(eosinophil esophagitis)、食物アレルギー、じんま疹、虫刺されアレルギー、鼻炎、副鼻腔炎、免疫不全、マスト細胞症を含む)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0305】
従って、一実施態様において本発明は、呼吸器疾患(喘息、気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、感染症(例えばインフルエンザ、肺炎、および結核)、悪性疾患(肺癌)、サルコイドーシス、胸膜炎を含む)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0306】
従って、一実施態様において本発明は、腎疾患(例えば急性/慢性腎臓不全、急性腎炎症候群、アテローム塞栓性腎臓疾患、慢性腎炎、ネフローゼ症候群、末期腎疾患、グッドパスチャー症候群、間質性腎炎、腎臓の癌/障害/感染/損傷/結石、ループス腎炎、糸球体腎炎、膜性腎症、腎芽腫、腎石灰化症、腎性尿崩症、IgA腎症、多発性嚢胞腎疾患、逆流性腎症、腎乳頭壊死、尿細管性アシドーシス)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0307】
従って、一実施態様において本発明は、肝疾患(例えばアルコール性肝疾患、胆管細胞癌、肝炎、肝性脳症、肝不全、肝膿瘍、悪性/良性肝腫瘍、肝硬変、肝凝固障害、グリコーゲン蓄積症、門脈圧亢進症、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0308】
従って、一実施態様において本発明は、副腎障害のような内分泌疾患(副腎不全、アジソン病、ミネラルコルチコイド欠乏、コーン症候群、クッシング症候群、褐色細胞腫、副腎皮質癌)、グルコースホメオスタシス障害(糖尿病、低血糖症、特発性(Idiopathic)低血糖症、インスリノーマ)、代謝性骨疾患、下垂体障害(尿崩症、下垂体機能低下症(または汎下垂体機能低下症)、下垂体腫瘍、高プロラクチン血症、末端肥大症、巨人症、クッシング病、副甲状腺障害(一次/二次/三次副甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症)、月経機能障害または受精能障害(多嚢胞性卵巣症候群)、甲状腺障害(甲状腺腫、甲状腺機能亢進症およびグレーブス-バセドウ病、甲状腺機能低下症、甲状腺炎、甲状腺癌、内分泌腺腫瘍、多発性内分泌腫瘍症、自己免疫性多腺性症候群(Autoimmune polyendocrine syndromes))により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0309】
従って、一実施態様において本発明は、炎症性腸疾患のような胃腸疾患(潰瘍性大腸炎、Mbクローン病)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0310】
従って、一実施態様において本発明は、分娩合併症のような婦人科的(Gynaecologic)/産科的疾患(子癇前症、子癇、HELLP症候群、羊水塞栓症、胎盤早期剥離)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0311】
従って、一実施態様において本発明は、神経性疾患(例えば変性疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病)、脳卒中、神経性外傷(脳、脊髄)、発作性疾患(てんかん)、悪性病変(脳/脊髄腫瘍)、感染(髄膜炎、脳炎))により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0312】
従って、一実施態様において本発明は、悪性(白血病、骨髄異形成症候群)および/または非悪性(血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、再生不良性貧血(aplastic anaemia)、血球貪食性リンパ組織球症)の血液学的疾患により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0313】
従って、一実施態様において本発明は、整形外科的疾患(例えば外傷、手術、骨折、多発性骨髄腫を含む骨、軟骨および軟組織の悪性病変、関節炎(変形性関節症、リウマチ性関節炎)、脳性麻痺、骨壊死、痛風、感染、筋無力症、骨粗鬆症、パジェット病、脊椎炎)により引き起こされる臓器不全の治療または予防のための化合物に関わる。
【0314】
図面の詳細な説明
[図1]トロンボエラストグラフィー(TEG)を使用して止血活性を記録する:TEGは、回転するカップ中に入れられた全血の解析により、凝固の過程における粘弾性変化を記録する。ねじれワイヤー(torsion wire)から該血液中にピンが吊り下げられ、運動に対するピンの抵抗力が記録される。ルーチン的に4つのパラメータが報告される:R (反応時間)は血液がカップに入れられてから血餅が形成し始めるまでの潜伏期間(latency)を表す;角度(アングル)は血餅強度の進行的増加を示す;最大振幅(MA)は最大血餅強度を反映する;溶解(Ly30)は血餅溶解を反映する。
[図2]マルチプレート全血凝集測定法(Multiplate whole blood aggregometry)は血小板機能試験である(Multiplate(登録商標)、Dynabyte Medical社、ドイツ国ミュンヘン)。この試験は複数電極による血小板凝集測定(MEA)に基づくものであり、トロンビン活性化ペプチド(TRAP)、ADP、ASPIおよびコラーゲン(COLlagen)等の選択的血小板アゴニストによる刺激後の全血(WB)における血小板の凝集を測定する。マルチプレート・センサー上への血小板の付着によるインピーダンスの増加が任意凝集単位(AU)に変換され、時間軸に対してプロットされる。マルチプレートはそのようにして、アスピリン、クロピドグレル、およびプロスタサイクリンのような抗血栓薬の血小板凝集に対する作用を解析することを可能とする。
[図3]フローラン注入60分後および120分後に得られたサンプルとベースラインのTEG値の比較。
[図4]フローラン注入60分後および120分後に得られたサンプルとベースラインのマルチプレート値の比較。
【実施例】
【0315】
実施例1
【0316】
重篤患者において、ICU到着時のTEGの結果が30日および90日死亡率を予測するという驚くべきことが発見された。88人のICU医療患者において、APTT、PT、INR、血小板数、Dダイマー、CRPおよびヘモグロビンを含む従来型の試験解析はいずれも、30日後生存者(n=51)と非生存者(n=37)との間でICU入院の時点で差を示さなかった。しかし、入院時点におけるTEGは、3つの止血プロセスの全てが生存者と非生存者の間で有意な差を示した(それぞれ、Rについては6.4 (±2.7)に対して8.07 (±3.0)、p=0.002; アングルについては61.0 (±13.1)に対して51.7 (±18.0)、p=0.01; MAについては57.3 (±13.0)に対して49.4 (±17.8)、p=0.02)。
【0317】
従って、Rの伸長は30日死亡について3.7のオッズ比増加(未補正(unadjusted))を伴い (95% CI 1.3-10.0)、アングルの低下は死亡について3.8のオッズ比増加(未補正)を伴い(95% 1.6-9.5)、MAの低下は30日死亡について2.8のオッズ比増加(未補正)を伴っていた(95% CI 1.2-6.8)。当該88人の医療患者について有意随伴変数(significant associated variables)(年齢およびAPACHE II)を使用した多変量ロジスティック回帰分析を2回繰り返したところ、年齢>65歳(補正OR 1.9; 95% CI 0.7-5)およびAPACHE II>25 (補正OR 4.1; 95% CI 1.6-10.7)についての補正後、R>8分(補正OR 3.8; 95% CI 1.3-11.3)が、死亡についての独立したリスク因子として同定された。HosmerとLemeshowの適合度検定、p=0.85。
【0318】
さらに、MA<50 mmも、年齢>65歳(補正OR 2.5; 95% CI 0.9-7.2)およびAPACHE II>25 (補正OR 3.5; 95% CI 1.3-9.0)について補正した後、死亡についての独立したリスク因子であった(補正OR 3.0; 95% CI 1.1-8.0)。HosmerとLemeshowの適合度検定、p=0.68。従って、これらの患者のICU到着時における凝固性低下TEG結果は治療標的であることを示し得る。
【0319】
さらに、R < 4分、および/またはアングル > 78°、および/またはMA > 69 mmとして定義される過凝固を示す患者は、凝固性低下の患者よりも高い生存率を有していたが(74%に対して54%)、ICU入院時点において正常TEGを示した患者よりは生存率が低かった(74%に対して87%)。このことは、凝固の異常(perturbations)は、過凝固あるいは凝固性低下のいずれの方向であっても、これらの重篤患者における臨床的成果について負の予測的意義を有することを強調するものである。
【0320】
これらのデータは、TEGが、例えばISTH DICスコアのような種々の予後スコアに含まれている従来型の凝固解析よりも早い時点において、臓器不全(MOFを含む)および死亡のリスクが増加している患者を見出すことを実証するものである。ICUに搬入された時点で凝固性低下TEGを示す患者は、正常TEGである患者と比較して、有意に上昇したAPACHE IIスコアを有し、より高い最大SOFAスコアを生じ、クレアチニンが増加している、ということも、TEGの結果の臨床的重要性をさらに示している。搬入時においてはTEGには差があったが血小板数には差がなかったことから、止血系において病態生理的意味を有する変化は、ルーチン的な検査パラメータよりもTEGの方により迅速にかつより特異的に反映される。TEGはクエン酸化全血において行われ、微量のフィブリンが最初に形成される時点を越えてさらに調査する。この技術は、凝固および血餅形成過程の全体についての質およびスピードを記述する。これに対して、通常用いられるルーチン的な検査室試験は遠心分離した血漿画分について行われるため、一方ではタンパク質凝固カスケード他方では血小板およびフィブリンが関わる重要な相互作用を見逃すこととなる。凝固性低下は患者において、重要臓器における微小血栓形成に関与することによる血小板の消耗の増加を反映し、そのことは、ICU搬入の時点で正常TEGを示す患者よりも最大SOFAスコアが高いことにより示される。
【0321】
過凝固は止血系の活性化が増加し、血小板を過剰活性にして血栓を発生しやすくさせていることを反映する。
【0322】
実施例2
【0323】
集中治療室(ICU)に搬入された94人の重篤患者について、フローラン(プロスタサイクリン)の同時処置有りまたは無しで、血液濾過を行った。フローランは血餅形成を防ぐために4-6 ng/kg/分という低用量でフィルター中に投与され、その結果フローランの全身循環への微量な流出があったのみであった。患者は遡及的に調査された。
【0324】
【表6】
【0325】
APACHE IIとはAcute Physiology and Chronic Health Evaluation II(急性生理および慢性健康状態評価II)の略であり、ICUとはIntensive Care Unit(集中治療室)の略である。
【0326】
2つの群(フローラン群と非フローラン群)は搬入時点でAPACHE IIについては同等であった。しかしながら、フローラン群の患者は、非フローラン群の患者と比較して、血液濾過開始時点における血小板数がより低かったこと、重度の血小板減少症の頻度がより高かったこと、DIC診断の頻度がより高かったこと、血液濾過開始時点における最大SOFAスコアおよびSOFAスコアがより高かったこと、で評価されるように、重篤度がより高かった。非フローラン群に対してフローラン群では血液濾過中の輸血必要量が増加していたという知見(特にFFP)は、従って、フローランを抗凝固剤として使用したことによる出血リスクの増加に起因するのではなく、疾患の重症度がより高いことおよびそれに伴う凝固障害に起因し得る。重要なことに、群間の死亡率を比較すると、フローラン群の方が30日(21% に対して 39%、p=0.12)、90日(34% に対して 53%、p=0.10)、および365日(38% に対して 57%、p=0.09)において死亡率がより低い傾向にあった。
【0327】
フローランは、血液濾過を受けている重篤患者における輸血必要量で評価される止血能(haemostatic competence)に対して負の作用を示さず、このことによりプロスタサイクリンが強力な抗血栓剤であるという前提に疑問が呈される。
【0328】
さらに、フィルターからフローラン投与を受ける血液濾過患者において観察された死亡率の有意な低下は、前記微量な全身循環への流出が内皮に影響し、全身性炎症の凝固亢進作用および凝固活性化を制限し、微小血管閉塞および臓器不全を防止していることを示している。
【0329】
実施例3
【0330】
6人の健康なボランティアが、4 ng/kg/分の用量で2時間、フローラン(プロスタサイクリン)の静脈投与を受けた。全血粘弾性アッセイ(トロンボエラストグラフィー[TEG])および全血血小板凝集(マルチプレート)のための血液試料は、フローラン注入前、60分のフローラン注入の後、および120分のフローラン注入の後に採取した。
【0331】
TEGアッセイについては、製造会社の推奨に従って実施し、340 μlを20μlの0.2 M CaCl(カップ中の最終濃度11.1 mM)およびカオリンと37℃で混合して、その後図1で示されているようにして止血活性を記録した。
【0332】
全血インピーダンス凝集測定解析はマルチプレート血小板機能解析機(MultiPlate(登録商標)アナライザー)で行った。各種の血小板アゴニストを使用した解析:ASPIテスト(アラキドン酸による活性化)、COLテスト(コラーゲン受容体を介したコラーゲンによる活性化)、TRAPテスト(TRAP-6による活性化は血小板表面上のトロンビン受容体を刺激する)、およびADPテスト(ADPによる活性化はADP受容体によって血小板活性化を刺激する)。
【0333】
マルチプレートは血小板凝集を連続的に記録する。図2に示されているように、血小板がマルチプレート・センサー上に付着することによるインピーダンスの上昇は、任意の凝集単位(AU)に変換され、時間軸に対してプロットされる。
【0334】
結果:
フローラン注入から60分および120分経過後に得られた試料をベースラインのTEG値と比較したが、試験対象となった6人のボランティアのいずれにおいても、また調べられたいずれのパラメータ(R、アングル、MA)についても、有意な差は観察されなかった(図3を参照のこと)。
【0335】
同様に、6人のボランティアのいずれにおいても、また調査されたいずれのアゴニストについても(ASPI、COL、ADP、TRAP)、フローラン注入から60分および120分経過後に得られた試料をベースラインのマルチプレート値と比較して有意な差は観察されなかった(図4を参照のこと)。
【0336】
結論:
臨床的使用のために推奨されている用量におけるフローランの注入は、TEGで評価される全血止血能に対して負の作用を与えなかった。さらに、全血血小板凝集について、各種の血小板アゴニストの使用はフローラン注入によって負の作用を受けず、そのような投与は止血を弱めるものではないことが示された。
【0337】
実施例4
【0338】
IV注入されるGPIIb/IIIa阻害剤およびPGI2の、出血および血栓症に対する作用を試験するために、12匹のSprague Dawleyラット(オス、250-300 g)を使用してラット内毒血症モデルを作成した。ラットを麻酔し、3つのIVカテーテルを設置した(内毒素注入のために1つ、2つの調査対象薬剤または生理食塩水(プラシーボ)の各々のために1つ)。
【0339】
グループ1 (n=6): 内毒素+薬剤
内毒素(大腸菌株026:B6由来のLPS(Sigma-Aldrich社、カタログNo. 2762)IV注入 (5 mg/kgボーラス)
2つの試験薬剤の組合せを用いた8時間のIV注入
GPIIb/IIIa阻害剤=アブシキシマブ=レオプロ(RheoPro) [1 mg/kgボーラス および0.250μg/kg/分]
PGI2=フローラン[20ng/kg/分]
【0340】
グループ2 (n=6): 内毒素+プラシーボ
内毒素(大腸菌株026:B6由来のLPS(Sigma-Aldrich社、カタログNo. 2762) IV注入 (5 mg/kgボーラス)
生理食塩水(プラシーボ)を用いた8時間のIV注入
【0341】
処置/プラシーボの8時間後、死後血管内フィブリン堆積を避けるためにヘパリンを注入し、該動物を犠牲にした。
【0342】
処置/プラシーボのの解析:
○血小板数、ヘモグロビン、血圧、心拍数
出血および血栓症についての死後組織病理学的解析:
○CNS、心臓、肺、肝臓、腎臓および腸管
【0343】
結果
試験薬剤を投与したラットは、プラシーボ群と比較して、内毒素注入8時間後の血小板数低下がより緩和しており(-39.4% に対して -63.9%)、心拍数の増加もより緩和しており(+4.8% に対して +27.6%)、血圧低下も緩和していた(+0.7% に対して -20.3%)。ヘモグロビンについては群間で差が見られなかったことから、試験薬剤で処置されたラットは出血しなかったことが示されている。死後の組織病理学的解析によれば、プラシーボ群と比較して試験薬剤の投与を受けた群で重要臓器の出血がより増加していたという証拠は見出されなかった。
【0344】
結論
内毒血症のラットにレオプロ(=アブシキシマブ=GPIIb/IIIa阻害剤)とフローラン(プロスタサイクリン)の組合せを注入したところ、プラシーボ投与を受けたラットと比較して、心拍数増加の緩和および血圧低下の緩和で評価されるように、血小板数維持の改善および臨床的増悪の緩和がもたらされた。レオプロは強力な可逆的GPIIb/IIIa血小板阻害剤であり、微小循環における血小板凝集の形成を防止する。それに加えフローランはプロスタサイクリン類似体であり、内皮恒常性を維持しプロコアグラント形質(procoagulant phenotype)の発生を防止し、血小板と内皮細胞との相互作用を制限する。
【0345】
また、ヒトに対して推奨されている用量の2倍の用量のレオプロとヒトにおける最大推奨用量の10倍の用量のフローランの組合せを注入しても、出血の傾向(ヘモグロビン、およびCNS、心臓、肺、肝臓、腎臓および腸管を含む重要臓器の組織病理学的検査で評価される)が増加するという結果はもたらされない。
【0346】
【表7】
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]