【実施例】
【0054】
実施例1
カルバNAD(
図1A)またはNADをグルコース特異的GlucDHに添加した。これらの処方を、いずれの場合もPokalon foils(Lonza)に塗布し、乾燥後、温かく湿気のある条件下(32℃、相対空気湿度85%)で保管した。その後、反応速度および関数曲線(function curve)を定期的に測定した。平行して、各測定時間でcNAD/NAD分析および酵素の残存活性の測定を行った。
【0055】
第1日目に測定されたNAD(
図2A)およびcNAD(
図2B)に関する反応速度曲線は類似しており、良く似たグルコース依存的上昇を示す。しかしながら、反応速度曲線における顕著な相違が5週間後に明らかとなる。NADに関する反応速度(
図2C)のダイナミックレンジの大きな減少が見られるのに対し、cNADにより安定化された酵素の反応速度は事実上変化しないままである(
図2D)。
【0056】
図3から明らかなように、空試験値(血液試料の適用前の乾燥空試験値)の顕著な変化もまた存在する。NADに関する乾燥空試験値の上昇は蛍光粒子の形成に起因する(Oppenheimer (1982)、前出)。驚くべきことに、これはcNADでは生じない。
【0057】
NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素の異なる安定性もまた、
図4および5の比較から明らかである。5週間後、cNADにより安定化された酵素に関する関数曲線は、なお一連の先の測定値の曲線内(
図5A)に存在するが、一方、NADにより処理した酵素に対する曲線(
図4)は、酵素/補酵素の不適切な量を示す典型的なサインである、より高い濃度での低下が見られる。
図5Bは、24週間の期間にわたるcNADにより安定化されたグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線を示す。これに関連して、酵素の機能は、全期間を通して高いグルコース濃度で僅かに変化するのみであり、24週間後の値は5週間後に得られる値におおよそ相当することが明らかである。
【0058】
補酵素の構造と所定の期間にわたるその安定性との関係は
図6に示される。これによると、グルコース検出試薬中のcNADの残存含量は、24週間保管(32℃および相対空気湿度85%)後なお初期値の約80%であり、一方、NADにより安定化されたグルコース検出試薬中のNADの含有量は、5週間後にはすでに初期値の約35%に低下しており、外挿によれば、約17週間後にはゼロに減少する。
【0059】
32℃および相対空気湿度85%で5週間後の、活性酵素GlucDHの残存活性の測定結果(
図7A)は、全く驚くべきものである。NADにより安定化された酵素はここで極めて低い酵素活性(0.5%)しか示さず、一方、cNADにより安定化された酵素は、70%の残存活性をなお有する(いずれの場合でも、乾燥剤(TM)とともに冷蔵庫(KS)に保管した試料と比較した)。32℃および相対空気湿度85%で24週間後(
図7B)、cNADにより安定化された場合、酵素の残存活性はまだなお約25%である。
【0060】
野生型酵素(バチルス ズブチルス由来)の代わりに突然変異体が使用される場合、GlucDHの残存活性はさらに上昇させることができる。cNADの存在下で32℃および相対空気湿度85%での24週間の保管後、野生型酵素の96位でグルタミン酸 → グリシンおよび170位でグルタミン酸 → リジンというアミノ酸置換を有するGlucDH_E96G_E170K突然変異体(GlucDH−Mut1)の残存活性は、約70%であり、一方、170位でグルタミン酸 → リジンおよび252位でリジン → ロイシンというアミノ酸置換を有するGlucDH_E170K_K252L突然変異体(GlucDH−Mut2)の残存活性は、約50%である(
図8)。
【0061】
液相中でのグルコース脱水素酵素の保管の場合もまた、NADおよびcNADのあいだの相違を明確に示している(
図9Aおよび9B)。50℃で95時間後、天然の補酵素NADの存在下でのグルコース脱水素酵素の残存活性は≫5%であり、一方、人工の補酵素cNADの存在下でのGlucDHの残存活性は75%である(
図9A)。50℃で336時間保管後、NADで安定化された酵素の残存活性はもはや約1%のみであり;cNADの存在下で保管された酵素では残存活性がなお約70%であることが観察される。対応するSDSゲルもまた天然の補酵素NADの存在下でのGlucDHバンドの変化を示す:新しいバンドがより高い分子量に現れ、30kDaバンドにシフトが見られる。
【0062】
概して、酵素をより良好に結合させる協同効果を通してのみではなく、補因子の安定化が同時に酵素の安定化をもたらすということは非常に驚くべき結果である。補因子NADの分解は、酵素GlucDHの安定性に負に作用し、その不活性化の速度を加速さえする。天然のNADを人工の類似体に換えることにより、GlucDHはストレス条件(たとえば高温)下で補因子の存在下ですら保管可能となる。
【0063】
このようなシステムをもってすれば、顕著に改善された安定性の特性を有する血糖テストストリップを製造することが可能であり、そのため乾燥剤なしの提示が可能である。
【0064】
実施例2
cNADまたはNADがアルコール脱水素酵素を含む検出溶液に添加された。これらの混合物を2〜8℃でおよび35℃で保管した。ついでアルコール脱水素酵素(ADH)の安定性を定期的に調べ、酵素の残存活性を測定した。
【0065】
図10は、種々の濃度のcNADの存在下、アルコール脱水素酵素(ADH)によるエタノールの変換の直線性を表すものであり、酵素システムADH/cNADのエタノール測定への実際的な有用性を示している。さらに、アルコール脱水素酵素およびcNADの組み合わせによるエタノールの変換の速度曲線は、変換速度はエタノール濃度の増加にともない増加するという基質の濃度への顕著な依存性があることを示している(
図11)。
【0066】
また一方、液相における保管は、NADまたはcNADの存在下における保管のあいだで違いを示す(
図12)。天然の補酵素NADの存在下でのアルコール脱水素酵素の残存活性は、35℃で65時間後、約6%であり、一方、人工の補酵素cNADの存在下での残存活性は、まだなお約60%である。
【0067】
アルコール脱水素酵素が天然のNADまたはcNADとともに、数ヶ月間にわたって冷蔵庫で2〜8℃で保管された場合、cNADの場合には全ての保管期間にわたる酵素活性の顕著な低下が観察される。一方、2週間の保管後の相違は依然としてわずかであるが、16mMのcNADの存在下で12ヶ月間保管した後のアルコール脱水素酵素の残存活性は、補酵素として16mMのNADを含む対応する溶液と比較して約20%高い。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
使用されたcNADの量に関連した安定性の程度が表2に示されている。したがって、アルコール脱水素酵素の残存活性は、2〜8℃で2週間保管された試料において、cNADの濃度の増加により多少増大され得る。しかしながら、35℃で2週間酵素を保管することを念頭としたストレスモデルにおいては、アルコール脱水素酵素の酵素活性の低下は、cNADの濃度の増加により顕著に促進され、そして、cNADの濃度が15mMである場合には、0.5mMのcNADが存在する酵素溶液と比較して、およそ45%高い残存活性が観察される。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例3
グルコースを測定するために、それぞれがグルコース脱水素酵素、NAD、メディエーターおよび、必要に応じて、光学的指示薬を含む種々のテストシステムが、光学的および電気化学的に測定された。
【0072】
光学的測定については、室温で11週間それぞれ保管され、2,18−リンモリブデン酸をグルコース脱水素酵素、NADおよびメディエーターに加えて含む4つのテストエレメントが、まず種々のグルコース濃度で調べられた。
【0073】
図13から明らかなように、グルコース濃度の増加と共に、使用された全ての4つのメディエーター、すなわち、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩(Med A)、1−メチル−5,6−ジオキソ−5,6−ジヒドロ−1,10−フェナントロリニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med B)、7−メチル−5,6−ジオキソ−5,6−ジヒドロ−1,7−フェナントロリニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med F)および1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med G)に関して、反射率の低下が観察され、したがって、上記メディエーターは原則的に、測光法によるグルコースの測定に適している。
【0074】
800mg/dLの高いグルコース濃度領域で、測定された試料の反射率は、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩または1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートを使用した場合、依然として約20%であり、これは、これら2つのメディエーターが、グルコース脱水素酵素/NAD系を用いる光度測定に特に適していること、そしてしたがって、グルコース脱水素酵素/cNAD系にも適していることを示唆している。グルコース脱水素酵素、NAD、1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートおよび2,18−リンモリブデン酸系であって、0〜800mg/dLの範囲のグルコース濃度を使用するグルコース変換の反応速度が
図14に示されている。
【0075】
図15の模式図は、グルコースの光学的な測定は、中間メディエーターとしてジアホラーゼの(追加)使用でも行われ得ることを示す。
図16は、グルコース脱水素酵素、NAD、ジアホラーゼ、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩および2,18−リンモリブデン酸系(システム1)における反射率の濃度依存的減少を示す。同様に反射率において濃度依存的減少を引き起こすが、グルコース色素酸化還元酵素の低い特異性のために不利な点のある、グルコース色素酸化還元酵素、ピロロキノリンキノン、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩および2,18−リンモリブデン酸系(システム2)が比較として機能した。0〜800mg/dLの範囲のグルコース濃度における、システム1を使用したグルコース変換の反応速度が
図17に示されている。
【0076】
光学測定の代替法として、電気化学的測定法もまた、分析物を測定する目的で使用され得る。ここに、還元されたメディエーターを再酸化するために必要な電流が、グルコース脱水素酵素に加え、補酵素としてNADそしてメディエーターとして1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートを含有するテストエレメント、および、NADの代わりに安定化された補酵素cNADを含む対応するシステムの両方において、グルコース濃度に直線的に依存する(
図18)ことが見出された。
【0077】
したがって、分析物の測定が、脱水素酵素/安定な補酵素系を用いて、ならびに、電気化学的検出および補酵素に非依存性の別の波長での評価によって行われ得ることが証明された。全ての処方はまた、安定化された酵素/補酵素対の使用によりさらに安定化されるであろう。
【0078】
実施例4
周辺光に対する安定性を測定するために、それぞれ、NADまたはカルバNADと併用して、グルコース脱水素酵素(GlucDH)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)およびグルコース脱水素酵素突然変異体2(GlucDH−mut2)から選択される酵素を含む、種々のテストシステムが国際公開第03/097859号に記載の方法にしたがって製造され、続いて血液試料が添加された。具体的には、テストシステムは、酵素および補酵素を含む光重合可能な液体組成物を支持体に塗布し、続いて、12〜15μmの厚さを有する試薬層を得るために組成物を400W、360nmの波長で10秒間光照射適用することにより製造された。検出は、数分間、蛍光法で行われた。
【0079】
図19は、GlucDH/NAD系における測定結果を示す。グラフに示されるように、全ての測定期間にわたって、いかなる蛍光の減少も見られず、これにより、GlucDH/NAD系が300nm以上の領域において吸収を示さないために、試薬層への高エネルギー放射を伴う数分間継続する照射でさえも試薬層を損なうことがないという結論が導かれる。G6PDH/NAD系ならびにカルバNADを含有する系であるGlucDH/カルバNAD、G6PDH/カルバNADおよびGlucDH−mut2/カルバNADが300nm以上の波長領域で吸収を示さない(
図20)という事実を考慮すれば、これら全ての系はまた、周辺光に対する高い安定性を有す(結果は示さず)。
【0080】
実施例5
本明細書に記載される、診断用テストエレメントを製造するために使用され得る具体的な組成物の例が以下に明記される。
【0081】
a)乳酸脱水素酵素の活性を測定するための液体試薬
特に、ジアホラーゼ、カルバNAD、テトラゾリウム塩および乳酸を含む液体試薬が乳酸脱水素酵素の活性を測定するために使用された。25℃で溶液中に保管された検出試薬は、以下の成分を含んでいた:
3U/mL ジアホラーゼ (豚の心臓由来)
2mM カルバNADまたは0.2mM NAD
2mM テトラゾリウム塩 WST−3
50mM 乳酸ナトリウム
0.1M トリシン/HCl、pH 8.8
【0082】
種々の保管時間におけるジアホラーゼの活性の測定により、カルバNADを含む処方の残存活性の顕著な増大が、補酵素としてNADを含む対応する処方と比較して示された。
【0083】
b)血糖測定のためのテストストリップ
特に、グルコース脱水素酵素(GlucDH)、カルバNAD、ジアホラーゼ、ニトロソアニリンおよびリンモリブデン酸を含む組成物が血糖を測定するために使用された。テストストリップは、第一の処方をポリカーボネート箔にドクターブレード(層高 100μm)を使用して塗布し、第一層を乾燥し、第一層に第二の処方を塗布(ドクターブレードギャップ 30μm)し、そして第二層を乾燥することにより得られ、32℃で相対空気湿度30〜70%で保管された。第一層および第二層に使用された処方は、表3に示されている:
【0084】
【表3】
【0085】
ジアホラーゼの活性が種々の保管時間で、テストストリップから酵素を抽出することによって測定され、カルバNADを含む処方の場合に、NADを含む処方と比較して残存活性の顕著な増加が観察された。
【0086】
c)トリグリセリドの測定のためのテストストリップ
特に、グリセロール脱水素酵素、カルバNAD、ジアホラーゼおよびテトラゾリウム塩を含む組成物がトリグリセリドを測定するために使用された。テストストリップは、表4に記載される処方をポリカーボネート箔にドクターブレード(層高 80μm)を使用して塗布し、続いて乾燥することにより得られ、32℃で相対空気湿度30〜70%で保管された。
【0087】
【表4】
【0088】
ジアホラーゼの活性が種々の保管時間で、テストストリップから酵素を抽出することによって測定され、そして、カルバNADを含む処方の場合に、NADを含む処方と比較して残存活性の顕著な増加が観察された。
【0089】
実施例6
グルコース脱水素酵素およびジアホラーゼのカルバNADによる安定化を評価するために、多数のテストストリップが実施例5と同様に製造された。テストストリップの第一および第二層に使用された処方が表5に示されている。
【0090】
【表5】
【0091】
テストストリップは、5℃(KS、冷蔵庫)、25℃(RT)、30℃(GT)、35℃(DT)および45℃(HT)の温度で18週間の期間にわたって保管され、そして、テストストリップ中の酵素活性が、保管の開始(0週)時、6週間後、9週間後、12週間後および18週間後に測定された。結果を表6(グルコース脱水素酵素)および表7(ジアホラーゼ)に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
表7および8に示すように、グルコース脱水素酵素およびジアホラーゼのカルバNAD存在下での18週間にわたる保管により、高い酵素活性が維持されるが、一方、NAD存在下での酵素の分解速度ははるかにより顕著である。
【0095】
実施例7
種々の脱水素酵素の熱安定性に対するNADおよびカルバNADの影響を測定するために、第一工程において酵素(1mg/mL)が個々の測定緩衝液に対して4℃で20時間透析された。続いて3.8mMのNADまたはカルバNADが試料に添加され、そして、試料が4℃で保管された。
【0096】
NADまたはカルバNADの種々の脱水素酵素への結合を測定するために、示差走査熱量測定(DSC)が行われた。熱量測定のスキャンは、20℃および100℃の間の温度および120℃/時間のスキャン速度で行われ、それぞれの試料は三回測定された。
【0097】
正確な操作を確実なものとするため、測定を行う前にDSC装置は洗浄され、MicroCalハンドブックにしたがって較正された。pH2.4の0.1Mグリシン−HCl中のリゾチーム(1 mg/mL)が個々のスキャン工程の前後に対照として二回測定された。測定セル、バルブおよびシリンジは、6回のインジェクション毎に3回、水で洗浄された。データはMicroClas Origin softwareを用いて解析された。
【0098】
pH8.0のトリス緩衝液中のグルコース脱水素酵素突然変異体2は、NADの非存在下で、および、存在下でも同様に、明確な形のピークを与え、融点(T
M)は、NADの非存在下で79.1℃、およびNADの存在下で80.8℃であった。したがって、グルコース脱水素酵素突然変異体2のNADへの結合は、T
Mにおいて1.5℃以上のシフトをもたらした。アルコール脱水素酵素を除いて、酵素がNADまたはカルバNADに接触されたとき、T
Mは他の脱水素酵素の場合、たとえば野生型グルコース脱水素酵素の場合にも増大した。
【0099】
表8は、種々の脱水素酵素のDSC解析によって得られたデータを示しており、いずれの場合においてもDSCのスペクトルで単一のピークが得られるように実験条件は選択された。NADまたはカルバNADの脱水素酵素への結合効果は、いずれの場合も補酵素(リガンド)が存在していない場合のスキャンと比較された。特に明記されていない限り、いずれの場合も、pH8.5の0.1Mトリス緩衝液が測定用緩衝液として使用された。
【0100】
【表8】